説明

ディスク基板の成形方法及び成形金型装置

【課題】 離型不良を低減して、離型不良によるディスク状記録媒体の信号異常不良を低減するディスク基板の成形方法及び成形金型装置を提供する。
【解決手段】 ディスク状記録媒体のディスク基板2を成形する一組の固定側金型3及び可動側金型4と、可動側金型4に設けられ、ディスク基板2の外周端面2aを成形するとともに、固定側金型3に対する可動側金型4の移動方向と平行に進退可能に設けられる外周リング部材6とを備える成形金型装置1を用いてディスク基板を成形するに際し、固定側金型3及び可動側金型4の型開時に外周リング部材6を可動側金型4に対して後退方向に移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスク状記録媒体のディスク基板の成形方法及びこのディスク基板を射出成形する成形金型装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスク等のディスク状記録媒体を構成するディスク基板は、例えば特許文献1に記載されたような成形金型装置を用いた射出成形によって成形されている。
【0003】
この成形金型装置は、ディスク基板を成形するキャビティ部を有する一組の固定側金型及び可動側金型と、ディスク基板の外周端面を成形するための外周リング部材とを備えている。また、この成形金型装置は、ディスク基板に所定の凹凸パターンを転写するスタンパと、固定側金型に対して可動側金型を近接離間させる方向に駆動する駆動部とを備えている。
【0004】
固定側金型には、スタンパが取り付けられる固定側ミラーが形成されている。可動側金型には、ディスク基板の主面を成形する可動側ミラー(以下、「成形面」ともいう。)が形成されている。また、可動側金型には、可動側ミラーの外周部に、外周リング部材が、固定側金型に対して可動側金型が近接離間する方向と略平行に、キャビティ部側に対して移動可能に設けられている。
【0005】
スタンパは、中心穴を有する円盤状に形成されており、固定側金型の固定側ミラーに当接されて、真空吸引によって内外周それぞれ固定されている。
【0006】
この外周リング部材は、略環状に形成されており、内周側に、ディスク基板の外周端面を成形する成形面が設けられている。外周リング部材は、例えば、バネ等の弾性体や、空気圧、油圧等を用いた移動手段によって移動される。
【0007】
この成形金型装置には、固定側金型に対して可動側金型が型締めされた際に、可動側金型の成形面と固定側金型のスタンパの主面と、外周リング部材の成形面とによって、樹脂材料が充填されるキャビティ部が構成される。成形金型装置は、型締めされた際、外周リング部材が固定側金型に近接する方向に所定の押圧力で移動されている。型締めされた成形金型装置には、樹脂材料が射出される。
【0008】
樹脂材料の射出が完了して所定時間だけ冷却した後に、成形金型装置は、型開きが開始されて、成形されたディスク基板がスタンパから離型されて可動側金型の成形面とともに移動される。そして、成形金型装置は、成形されたディスク基板が可動側金型の成形面からエアーを供給する等の手段により離型されて排出されて、一連の成形工程が終了する。
【0009】
近年、光ディスクとしてBD(Blu-Ray Disc(登録商標))等の高密度記録光ディスクが用いられるようになっているが、かかるBD−ROMの信号異常不良の原因の一つとして、スタンパからの離型不良がある。これは、スタンパからの離型にムラがあることにより発生する不良である。BDのように信号を記録しているピットと呼ばれる窪みの深さが浅いメディアの場合は特にスタンパから外れ易いため、この種の不良が発生する可能性が高い。また、BDは、情報密度の点からも、CDやDVDと比較して信号エラーに対する影響が大きく、生産効率低下を招く大きな問題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−86505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、離型不良を低減して、離型不良によるディスク状記録媒体の信号異常不良を低減するディスク基板の成形方法及び成形金型装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的を達成するため、本発明に係るディスク基板の成形方法は、ディスク状記録媒体のディスク基板を成形する一組の固定側金型及び可動側金型と、上記可動側金型に設けられ、上記ディスク基板の外周端面を成形するとともに、上記固定側金型に対する上記可動側金型の移動方向と平行に進退可能に設けられる外周リング部材とを備える成形金型装置を用いてディスク基板を成形するに際し、上記固定側金型及び上記可動側金型の型開時に上記外周リング部材を上記可動側金型に対して後退方向に移動させる。
【0013】
また、本発明に係る成形金型装置は、ディスク状記録媒体のディスク基板を成形する一組の固定側金型及び可動側金型と、上記可動側金型に設けられ、上記ディスク基板の外周端面を成形するとともに、上記固定側金型に対する上記可動側金型の移動方向と平行に進退可能に設けられる外周リング部材と、上記外周リング部材を進退させる駆動部と、上記駆動部による上記外周リング部材の進退を制御する制御部とを備え、上記制御部は、上記固定側金型及び上記可動側金型の型開時に上記外周リング部材を上記可動側金型に対して後退方向に移動させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、成形されたディスク基板のスタンパからの離型不良を低減して、離型不良によるディスク状記録媒体の信号異常や不良を低減できる。本発明は、ディスク状記録媒体の品質向上を実現して歩留まりを向上し、スタンパの良品率を上げることを実現する。本発明は、スタンパの交換回数を低減することができ、スタンパの交換による稼働停止が低減し生産性向上を実現する。よって、本発明は、コスト低減を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】成形金型装置の断面図である。
【図2】成形金型装置に樹脂を供給する射出成形機の概略を示す図である。
【図3】成形金型装置のイジェクトやエアブローを説明するための断面図である。
【図4】成形金型装置を構成する外周リング部材のピストンリングと可動側金型との前進方向及び後退方向の隙間を示す断面図である。
【図5】成形金型装置に形成されるキャビティ部を形成する各成形面の詳細を示す断面図である。
【図6】成形金型装置を構成する外周リング部材の動きを説明するための図であり、型閉時の状態である基準状態を示す模式的な断面図である。
【図7】成形金型装置を構成する外周リング部材の動きを説明するための図であり、基準状態に対して前進した状態を示す模式的な断面図である。
【図8】成形金型装置を構成する外周リング部材の動きを説明するための図であり、基準状態に対して後退した状態を示す模式的な断面図である。
【図9】外周リング部材の動作制御タイミングチャートを成形工程とともに示す図である。(A)は、成形工程を示し、(B)は、前進保持の場合の動作制御タイミングチャートを示し、(C)は、中立保持の場合の動作制御タイミングチャートを示し、(D)は、後退動作の場合の動作制御タイミングチャートを示す図である。
【図10】外周リング部材の動作について3パターンの比較テストを行った際の外周リング部材の挙動を示す図である。(A)は、前進保持の場合を示し、(B)は、中立保持の場合を示し、(C)は、後退動作の場合のリング部材の挙動を示す図である。
【図11】外周リング部材の動作について3パターンの比較テストを行った際の信号異常マッピングを示す図である。(A)は、前進保持の場合を示し、(B)は、中立保持の場合を示し、(C)は、後退動作の場合の信号異常マッピングを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、発明を実施するための最良の形態を以下の順で説明する。
1.成形金型装置の構成
2.成形金型装置を用いたディスク基板の成形方法について
〔1.成形金型装置の構成〕
以下、本発明を適用した成形金型装置及び成形方法について、図面を参照して説明する。この成形金型装置1は、ディスク状記録媒体のディスク基板2を射出成形する装置である。
【0017】
この成形金型装置により成形されるディスク基板は、例えば、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)や、使用波長が405nm程度でカバー層厚さが0.1mm程度とされるBD(Blu-ray Disc(登録商標))等のディスク状記録媒体に用いられる。尚、このディスク状記録媒体には、光磁気ディスクが含まれるものとする。また、以下では、成形金型装置1は、BD−ROMのディスク基板を成形するものとして説明する。
【0018】
図1に示すように、成形金型装置1は、ディスク基板2を成形するキャビティ部5を有する一組の固定側金型3及び可動側金型4と、これら固定側金型3及び可動側金型4が各々取り付けられる固定側取付型板7及び可動側取付型板8とを備える。可動側金型4は、固定側金型3に対して近接離間されるよう移動される。キャビティ部5は、円盤形状であり、温度調節器等により一定温度に保たれている。
【0019】
また、成形金型装置1は、ディスク基板2に所定の凹凸パターンを転写するためのスタンパ10を備えており、内外周部の真空吸引により固定側金型3に固定されている。スタンパ10は、信号が記録された原盤のスタンパである。
【0020】
さらに、成形金型装置1は、ディスク基板2の外周端面2aを成形する外周リング部材6を備えている。すなわち、この外周リング部材6は、キャビティ部5の外形を形取る部品である。また、この外周リング部材6は、成形されたディスク基板2の外周端部にオーバーパック(樹脂が所望の形状よりはみ出した不良)やバリといった不良を防止するために、摺動機構(駆動機構)をもたせてスタンパ10とのクリアランスを一定にするという機能も有している。
【0021】
また、成形金型装置1は、図1に示すように、固定側金型3に対して可動側金型4をガイドするための固定側インターロックリング11及び可動側インターロックリング12を備えている。固定側インターロックリング11は、固定側金型3に固定され、可動側インターロックリング12は、可動側金型4に固定される。固定側インターロックリング11及び可動側インタ−ロックリング12は、可動側金型4をガイドする機能を有するとともに、キャビティ部5の大きさを調整する調整用スペーサとしての機能も有する。
【0022】
また、成形金型装置1は、成形したディスク基板2を固定側金型3及び可動側金型4から離型するための固定側エア吹出口13及び可動側エア吹出口14を有している。この固定側エア吹出口13及び可動側エア吹出口14は、それぞれ固定側金型3及び可動側金型4の内周部に設けられる固定側入子15、可動側入子16に形成されている。
【0023】
また、成形金型装置1は、ディスク基板2を排出するためのイジェクトスリーブ17を備えている。また、成形金型装置1は、ディスク基板2の中心穴近傍のゲートを切断するパンチ部材18と、このパンチ部材18によって切断された中心穴部分を排出するためのイジェクトピン19とを備えている。
【0024】
固定側金型3は、図1に示すように、スタンパ10が取り付けられる固定側ミラー21が設けられている。可動側金型4は、固定側金型3に対向して配置されており、固定側金型3に対して矢印a1方向及びa2方向に移動可能に設けられている。可動側金型4は、ディスク基板2の主面を成形する可動側ミラー22(以下、「成形面22」ともいう。)が設けられている。また、固定側金型3及び可動側金型4には、キャビティ部5を冷却するための冷却水等が流通する温度調節通路23がそれぞれ設けられている。
【0025】
固定側取付型板7及び固定側金型3の中央には、図2に示す射出成形機51の加熱筒52によって射出された溶融樹脂材料が流入するスプールブッシュ24が設けられている。樹脂材料53としては、例えばポリカーボネート等が用いられる。射出成形機51には、原料であるペレット状のポリカーボネートを必要時間乾燥機にて脱水したものが供給される。供給されたポリカーボネートは、射出成形機51で加熱溶融されスクリュー機構等により一定量軽量された後に、射出成形機51に取り付けられた成形金型装置1の金型内に高速で充填される。可動側取付型板8及び可動側金型4の中央には、図3に示すように上述のイジェクトスリーブ17が移動可能に設けられている。
【0026】
スタンパ10は、中心穴を有する円盤状に形成されており、キャビティ部5に臨む面に、例えばプリグルーブ及びプリフォーマットピット等の所定の凹凸パターンが設けられている。スタンパ10は、固定側金型3の固定側ミラー21に当接されて、真空吸引により固定側ミラー21側に押圧されて固定されている。
【0027】
外周リング部材6は、図1、図4〜図6に示すように、略環状に形成されており、可動側金型4の成形面22の外周側に位置して配設されている。外周リング部材6は、可動側金型4に、固定側金型3に対する可動側金型4の移動方向と平行に前進する矢印a1方向及び後退するa2方向に進退可能に設けられている。外周リング部材6の一端部は、シャフト25を介して駆動力を伝達するためのピストンリング26が構成されている。
【0028】
外周リング部材6及びピストンリング26は、図1及び図4に示すように、矢印a1方向及びa2方向に対する移動量を調整するための可動側金型4に移動可能に支持されている。尚、図4及び図6は、外周リング部材6が後述の中立位置となるような基準状態を示し、この状態に対してa1方向に0.4mm前進可能であり、また、この状態に対してa2方向に0.05mm後退可能となるような隙間T1及び隙間T2が形成されている。
【0029】
図7は、外周リング部材6が0.4mm前進した状態を示し、図8は、外周リング部材6が0.05mm後退した状態を示す。この基準状態は、外周リング部材6が前進方向に力が付与されている場合に、固定側金型3及び可動側金型4が型閉が完了して、固定側及び可動側インターロックリング11,12が当接している状態を意味するものとする。また、外周リング部材6及び可動側金型4は、外周リング部材6の前進量が例えば0.4mmとなるように基準状態で所定の隙間T1が形成されるよう構成される。同様に、外周リング部材6及び可動側金型4は、外周リング部材6の後退量が例えば0.05mmとなるように所定の隙間T2が形成されるよう構成される。この隙間T2は、0.03mm〜0.1mmとされている。
【0030】
また、外周リング部材6を前進方向a1及び後退方向a2に駆動するために、可動側金型4に、前進エア供給部27と、後退エア供給部28と、エア通路29とが設けられている。成形金型装置1には、この前進エア供給部27及び後退エア供給部28を駆動制御する制御部30が設けられている。外周リング部材6は、制御部30により前進方向及び後退方向に対する付勢力及び位置が制御される。前進エア供給部27、後退エア供給部28及びエア通路29は、エアの圧力により外周リング部材6を進退方向に駆動させる駆動部として機能する。
【0031】
そして、外周リング部材6には、図5に示すように、スタンパ10に近接する部位の内周側に、ディスク基板2の外周端面2aを成形するための成形面31が形成されている。したがって、成形金型装置1には、キャビティ部5が、固定側金型3のスタンパ10の主面、可動側金型4の成形面22及び外周リング部材6の成形面31によって構成されている。キャビティ部5は、固定側インターロックリング11及び可動側インターロックリング12の厚さによって大きさが適宜微調整される。このキャビティ部5は、可動側金型4の成形面22とスタンパ10の主面との間隔が1.1mm弱に設定されている。
【0032】
外周リング部材6の成形面31には、図5に示すように、成形されるディスク基板2の主面に直交する垂直面32と、ディスク基板2の厚さ方向に対して傾斜された傾斜面33とが形成されている。傾斜面33は、後述のように外周リング部材6が前進した際に、ディスク基板2と係合することで、力を受けるディスク押し部として機能する。ディスク押し部としての傾斜面33は、後述の排気用間隙35にバリが発生した場合に外周リング部材6が前進したときに、このバリを押してディスク基板2に悪影響が生じることを防止する。すなわち、傾斜面33は、外周リング部材6が前進方向a1に付勢されたときにディスク基板2に係合する係合部として機能し、また係合することで、ディスク基板を前進方向に押すディスク押し部として機能する。外周リング部材6に設けられ、係合部及びディスク押し部として機能する傾斜面33は、このバリを折ってしまうことを防止する。
【0033】
そして、外周リング部材6は、型閉動作の型締め直前においては、前進エア供給部27からエアが供給されることにより前進動作され、図7に示すような基準位置より0.4mm前進した状態とされる。その後、外周リング部材6は、可動側金型4と固定側金型3とが型締めされた際には、図6に示すような基準位置に移動され、このときのキャビティ部5の隙間が1.1mm弱である。
【0034】
成形金型装置1において、外周リング部材6は、型開瞬間において、基準位置より後退方向に駆動される点に特徴を有する。換言すると、外周リング部材6は、制御部30に制御されることにより、型開直前において、後退方向にエアによる付勢力が発生するようにされている。より具体的には、後述の図9に示すタイミングチャートを用いて説明するように冷却工程において、制御部30により制御された後退エア供給部28からエアが供給され、ピストンリング26及びこれに一体とされた外周リング部材6が後退方向に付勢力が付与された状態となっている。かかる外周リング部材6は、型開と同時に後退され図8に示すような基準位置より0.05mm後退した状態とされる。かかる成形金型装置1は、型開の際のスタンパ10からディスク基板2を離型する際の離型不良を低減することができる。これは、外周リング部材6が前進保持や中立の状態の場合には、外周リング部材6がふらつきばたついてしまい、離型したディスク基板2に離型痕等の傷がついてしまうのに対し、後退方向に付勢されている場合は、このような現象が発生しないからである。このように、外周リング部材6を型開前に後退方向に付勢することは、外周リング部材6を可動側金型4の固定面に押し付け制止させることができる。
【0035】
この外周リング部材6の型開と同時に後退するときの後退量は、0.03mm〜0.1mm程度が適切である。これは、0.03mm未満である場合には、型締力による弾性変形により隙間がなくなり、外周リング部材6及びこれに一体とされたシャフト25,ピストンリング26に型締力相当の圧縮力が負荷されるからである。また、0.1mmより大きい場合には、次のディスク基板2を成形する際の前進動作により蓄積した樹脂ガスがキャビティー内へ混入する可能性があるからである。また、0.1mmより大きい場合には摺動量が増えることから、0.1mmより小さい場合に比べてかじりや焼き付けが発生するおそれがある。例えば、1.17mmの場合には樹脂ガス混入による問題が発生する場合があった。そして、外周リング部材6の後退量を上述の量に規制するため、可動側金型4に形成される隙間T2が0.03〜0.1mmとされる。
【0036】
また、外周リング部材6は、型締め時に、スタンパ10の主面に対向する対向面とスタンパ10の主面との間に、キャビティ部5内に発生するガスを排気するための排気用間隙35が確保されるように形成されている。この排気用間隙35は、35μm程度とされ、溶融状態の樹脂材料が流入することを抑制して、成形されたディスク基板2の外周にバリが生じることを抑制している。
【0037】
次に、ディスク基板2の中心穴を形成するための部位について述べる。イジェクトスリーブ17は、図1に示すように、略円筒状に形成されており、一端が、ディスク基板2の内周側に臨まされて、矢印a1方向及びa2方向に移動可能に設けられている。パンチ部材18は、略円筒状に形成されており、一端がキャビティ部5に対応する位置に臨まされて、イジェクトスリーブ17の内周部に矢印a1方向a2方向に移動可能に設けられている。イジェクトピン19は、棒状に形成されており、パンチ部材18の内周部に矢印a1方向及びa2方向に移動可能に設けられている。
【0038】
〔2.成形金型装置を用いたディスク基板の成形方法について〕
以上のように構成された成形金型装置1について、型締め時及び型開き時の外周リング部材6の動作及びディスク基板2の成形方法について説明する。
【0039】
まず、成形金型装置1は、型開き時に、外周リング部材6の成形面31が、可動側金型4の成形面22に対して矢印a1方向に前進されて、成形されるディスク基板2の厚さより大とされる最大突出量となるように突出されている。
【0040】
そして、成形金型装置1は、固定側金型3に対して可動側金型4が矢印a1方向に移動されて型締めされる。型締めされるとき、外周リング部材6の成形面31は、固定側金型3に対して可動側金型4が矢印a1方向に移動されることにより、固定側金型3に当接されるため、スタンパ10に対して相対的に矢印a2方向に後退されて、成形されるディスク基板2の厚さに等しい所定の突出量を以て突出される。
【0041】
成形金型装置1は、外周リング部材6の成形面31と、スタンパ10の主面及び可動側金型4の成形面22とからなるキャビティ部5内に、溶融樹脂材料が充填される。この溶融樹脂材料は、図2に示す射出成形機51によってスプールブッシュ24を介して充填される。
【0042】
成形金型装置1は、キャビティ部5内に溶融樹脂材料の充填が完了した後、パンチ部材18が矢印a1方向に移動されることによりディスク基板2の中心穴近傍のゲートが切断されて、所定の冷却時間を経た後に型開される。
【0043】
成形金型装置1は、型開き時に、図5に示すように、固定側金型3に対して可動側金型4が矢印a2方向に移動されるとともに、外周リング部材6が、可動側金型4の成形面22に対して矢印a2方向に後退されることとなる。型開き時に、ディスク基板2は、固定側金型3に対して可動側金型4と一体的に矢印a2方向に移動される。すなわち、型開きの際に、ディスク基板2は、固定側金型3のスタンパ10から離型される。
【0044】
成形金型装置1は、可動側エアー吹出口からエアーを吹き出すことにより、可動側金型4の成形面22に対してディスク基板2の主面が良好に離型される。
【0045】
そして、成形金型装置1は、イジェクトピン19及びイジェクトスリーブ17が矢印a1方向にそれぞれ移動されることにより、可動側金型4からディスク基板2が排出される。排出されたディスク基板2は、例えばディスク基板2を吸着する吸着部材を有する保持手段によって保持されて取り出され、次行程に搬送される。
【0046】
上述した成形金型装置1を用いて成形されたディスク基板2は、例えば反射膜成膜後に外観検査した結果、固定側金型3に保持されたスタンパ10によって成形された主面の内周部及び中周部に、離型模様が発生することがなかった。したがって、このディスク基板2を用いたディスク状記録媒体は、主面に離型模様が生じることが防止されて、ディスク状記録媒体の品質を良好にすることができる。
【0047】
以上で説明した成形金型装置を用いた成形方法においては、図9(A)に示すように、型閉、射出、保圧、冷却、型開、取出の工程でディスク基板2の成形が行われる。本発明を適用したディスク基板の成形方法では、図9(A)で示す成形工程に対して、図9(D)に示すタイミングで外周リング部材6を制御する点に特徴を有する。
【0048】
すなわち、本発明を適用したディスク基板の成形方法では、固定側金型3及び可動側金型4内へ樹脂が射出され、保圧後の冷却工程の、例えば0.1秒後において外周リング部材6を後退方向に付勢する点に特徴を有する。具体的には、後退エア供給部28等の駆動部のエア圧力により外周リング部材6を後退方向に付勢する。これにより固定側金型3及び可動側金型4の型開時に外周リング部材6を可動側金型4に対して後退方向a2に移動させることとなる。
【0049】
本発明を適用したディスク基板の成形方法によれば、型開時に外周リング部材6を可動側金型4の固定面に押し付け制止させることができ、外周リング部材6のふらつきやばたつきを防止できる。かかるディスク基板の成形方法は、成形されたディスク基板2のスタンパ10からの離型不良を低減して、離型不良によるディスク状記録媒体の信号異常や不良を低減できる。この成形方法は、ディスク状記録媒体の品質向上を実現して歩留まりを向上し、スタンパの良品率を上げることを実現する。また、この成形方法は、スタンパの交換回数を低減することができ、スタンパの交換による稼働停止が低減し生産性向上を実現し、これにより、コスト低減を実現する。
【0050】
次に、本発明を適用したディスク基板の成形方法の耐RSER不良の優位性を検証したテストについて図10及び図11を用いて説明する。具体的には、型開き時の外周リング部材6の動作を(1)前進保持、(2)中立保持、(3)後退動作の3パターンにおいて比較テストを行った。図10は、型開瞬間の外周リング部材6の挙動を複数箇所で測定した結果を示し、図11は、得られたディスク基板2の信号異常をRSERのマッピングで示したものである。図11中E1,E2でハッチングされた部分(E1>E2とする)が信号エラーを示す部分である。また、図11中特にErで示す線状の部分が特に高い信号エラーであり、所謂離型不良箇所である。この離型不良箇所は、RSERが2×10−4を超えた部分である。
【0051】
(1)の前進保持は、従来よく取られていた方式であり、図9(B)で示すような付与力を外周リング部材6に付与するように制御部30により制御したものであり、図10(A)や図11(A)に示すような結果が得られた。(2)の中立保持は、(1)及び(3)と比較するためエアー圧力調整による中立状態の方式であり、図9(C)で示すような付与力を外周リング部材6に付与するように制御部30により制御したものである。この場合に、図10(B)や図11(B)に示すような結果が得られた。
【0052】
(3)の後退動作は、本発明を適用した方式であり、後退且つ短ストローク動作をし、後退側の固定面である可動側金型4に押し付ける方式である。ここで、固定面への押しつけは、上述の構成と同様に外周リング部材の後方にシャフト25を介して配置されたピストンリング26の後退側を可動側金型4に押し付けることにより行った。具体的には、図9(D)で示すような付与力を外周リング部材6に付与するように制御部30により制御したものである。また、後退量としては、0.03〜0.1mmが適切範囲とされるが、金型組み立て公差・型締めによる弾性変形量を考慮して0.05mmとした。この場合に、図10(C)及び図11(C)に示すような結果が得られた。
【0053】
図10及び図11に示すように、(3)の後退動作の場合には、(1)や(2)の場合に比べて離型不良模様が全く消えている。このことから、本発明を適用した成形方法によれば、外周リング部材6を固定面である可動側金型へ押し付ける構成により、外周リング部材6の位置を安定して保つことにより、離型不良が解消されたといえる。尚、(2)の中立保持の方式の場合にも、従来の(1)の場合に比べ改善方向であるが、不十分であり、(3)の後退動作の方式が最良の外周リング動作であるといえる。
【0054】
上述したように、本発明を適用した成形金型装置1は、一対の固定側金型3及び可動側金型4と、外周リング部材6と、駆動部としての前進エア供給部27及び後退エア供給部28と、制御部30とを備える点に特徴を有する。そして、制御部30は、固定側金型3及び可動側金型4内へ樹脂が射出され、保圧された後の冷却工程において、駆動部により外周リング部材6をエアの圧力により後退方向に付勢する。これにより、制御部30は、固定側金型3及び可動側金型4の型開時に外周リング部材6を可動側金型4に対して後退方向a2に移動させる。
【0055】
本発明を適用した成形金型装置1やこれを用いたディスク基板の成形方法によれば、型開時に外周リング部材6を可動側金型4の固定面に押し付け制止させることができ、外周リング部材6のふらつきやばたつきを防止できる。かかる成形金型装置1等は、成形されたディスク基板2のスタンパ10からの離型不良を低減して、離型不良によるディスク状記録媒体の信号異常や不良を低減できる。この成形金型装置1等は、ディスク状記録媒体の品質向上を実現して歩留まりを向上し、スタンパの良品率を上げることを実現する。また、この成形方法は、スタンパの交換回数を低減することができ、スタンパの交換による稼働停止が低減し生産性向上を実現し、これによりコスト低減を実現する。
【0056】
この成形金型装置1やこれを用いたディスク基板の成形方法において、上述した型開時の後退動作の構成は、外周リング部材6の傾斜面33が設けられる場合は特に有効である。すなわち、この傾斜面33は、外周リング部材6の成形面に、外周リング部材6を前進方向に付勢したときにディスク基板2に係合して前進方向a1にディスク基板2を押す係合部として機能するものである。この傾斜面33は、上述したように外周リング部材6を前進方向に付勢したときに、ディスク基板の外周端部に発生するバリを折ることを防止するものである。成形金型装置1において、このディスク押し部としての傾斜面33を有する場合には、型開時のふらつき等の可能性が高くなるが、上述の後退動作の構成を有する場合には、成形されたディスク基板2のスタンパ10からの離型不良を低減できる。
【符号の説明】
【0057】
1 成形金型装置、2 ディスク基板、3 固定側金型、4 可動側金型、5 キャビティ部、6 外周リング部材、7 固定側取付型板、8 可動側取付型板、10 スタンパ、11 固定側インターロックリング、12 可動側インターロックリング、13 固定側エアー吹出口、14 可動側エアー吹出口、15 固定側入子、16 可動側入子、17 イジェクトスリーブ、18 パンチ部材、19 イジェクトピン、21 固定側ミラー、22 可動側ミラー、23 温度調整通路、24 スプールブッシュ、25 シャフト、26 ピストンリング、27 前進エア供給部、28 後退エア供給部、30 制御部、31 成形面、32 垂直面、33 傾斜面、35 排気用間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスク状記録媒体のディスク基板を成形する一組の固定側金型及び可動側金型と、
上記可動側金型に設けられ、上記ディスク基板の外周端面を成形するとともに、上記固定側金型に対する上記可動側金型の移動方向と平行に進退可能に設けられる外周リング部材とを備える成形金型装置を用いてディスク基板を成形するに際し、
上記固定側金型及び上記可動側金型の型開時に上記外周リング部材を上記可動側金型に対して後退方向に移動させるディスク基板の成形方法。
【請求項2】
上記固定側金型及び上記可動側金型内へ樹脂が射出され、保圧された後の冷却工程において、上記外周リング部材を後退方向に付勢することで、上記型開時に上記外周リング部材の後退方向に移動させる請求項1記載のディスク基板の成形方法。
【請求項3】
上記外周リング部材の上記型開時の後退方向への移動量が0.03〜1.0mmの範囲内である請求項1又は請求項2記載のディスク基板の成形方法。
【請求項4】
上記外周リング部材の成形面には、上記外周リング部材を前進方向に付勢したときに上記ディスク基板に係合して前進方向にディスク基板を押す係合部が設けられる請求項1記載のディスク基板の成形方法。
【請求項5】
ディスク状記録媒体のディスク基板を成形する一組の固定側金型及び可動側金型と、
上記可動側金型に設けられ、上記ディスク基板の外周端面を成形するとともに、上記固定側金型に対する上記可動側金型の移動方向と平行に進退可能に設けられる外周リング部材と、
上記外周リング部材を進退させる駆動部と、
上記駆動部による上記外周リング部材の進退を制御する制御部とを備え、
上記制御部は、上記固定側金型及び上記可動側金型の型開時に上記外周リング部材を上記可動側金型に対して後退方向に移動させる成形金型装置。
【請求項6】
上記駆動部は、エアの圧力により上記外周リング部材を前進方向及び後退方向に駆動させ、
上記制御部は、上記固定側金型及び上記可動側金型内へ樹脂が射出され、保圧された後の冷却工程において、上記外周リング部材をエアの圧力により後退方向に付勢することで、上記型開時に上記外周リング部材の後退方向に移動させる請求項5記載の成形金型装置。
【請求項7】
上記外周リング部材の上記型開時の後退方向への移動量が0.03〜1.0mmの範囲内となるように、上記可動側金型及び上記外周リング部材の隙間が形成されている請求項5又は請求項6記載の成形金型装置。
【請求項8】
上記外周リング部材の成形面には、上記外周リング部材を前進方向に付勢したときに上記ディスク基板に係合して前進方向にディスク基板を押す係合部が設けられる請求項5記載の成形金型装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−161901(P2011−161901A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30501(P2010−30501)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【出願人】(594064529)株式会社ソニーDADC (88)
【Fターム(参考)】