説明

ディップコーティング装置、およびディップコーティング方法

【課題】非フッ素樹脂塗料からなる均一な被覆層を同時に形成できるディップコーティング装置、およびそのようなディップコーティング方法を提供する。
【解決手段】複数のヘッドレストステーに対して、非フッ素樹脂塗料を同時塗装するディップコーティング装置等であって、複数のヘッドレストステーを配列した状態で、所定空間内を移動させる移動装置と、非フッ素樹脂塗料が収容され、複数のヘッドレストステーに対して、同時にディップコーティングする浸漬槽と、非フッ素樹脂塗料がディップコーティングされた複数のヘッドレストステーを加熱乾燥し、所定厚さの塗膜を備えたヘッドレストステーとする加熱炉と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディップコーティング装置、およびディップコーティング方法に関する。特に、複数のヘッドレストステーに対して、均一な厚さの塗膜が同時形成可能なディップコーティング装置、およびディップコーティング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の座席等に備えられるヘッドレストにおいて、当該ヘッドレストの主要構成部の一つであるヘッドレストステーに対するさび止めや装飾、あるいは、ヘッドレストの所定位置を決定するストッパーに対するすべり性や耐久性等を考慮して、金属メッキ処理を含む製造方法が提案されている(特許文献1参照)。
より具体的には、図6(a)〜(e)に示すように、直線状の金属パイプ101を所定長さに切断し、切断された金属パイプ101の端面102aを面取りし、金属パイプ101の外周面にノッチ105を形成し、さらに、ニッケルクロムメッキ処理等を行い、金属パイプ101の表面に金属メッキ層104を形成し、その後、略コ字に曲げ加工してなるヘッドレストステー115の製造方法である。
【0003】
また、ヘッドレストの部品本体であるヘッドレストステーに対して、4フッ化エチレン樹脂を被覆してなるヘッドレストが提案されている(特許文献2参照)。
より具体的には、図7に示すように、ディップコーティング槽155の内部に収容された4フッ化エチレン樹脂溶液154の中に、ヘッドレストステーの両脚151b,151cを浸漬させて、その軸周面に、摩擦係数が低い4フッ化エチレン樹脂層を形成してなるヘッドレスト150である。
【0004】
また、被コーティング基材に対して、所定量の塗料をディップコーティングするために、被コーティング基材支持部に、塗料槽の液面までの距離を検知する液非接触式変位センサを備えてなるディップコーティング装置が提案されている(特許文献3参照)
より具体的には、図8に示すように、ポールネジ202に沿って、原点リミットスイッチ207と、下限オーバーランリミットスイッチ208と、の間を、ポールネジナット203を介して、被コーティング基材Aを昇降可能に支持する被コーティング基材支持部204と、該被コーティング基材支持部204を昇降自在に駆動させる駆動部201と、被コーティング基材Aに塗料をディップする塗料槽212を備えたディップコーティング装置200において、塗料槽212の液面までの距離を検知する非接触式変位センサ209を被コーティング基材支持部204に設け、該非接触式変位センサ209からの検知信号に基づき、駆動部201の駆動を制御する駆動部制御手段としての非接触式変位センサーアンフ゜210およびシーケンサー211を設けたディップコーティング装置200である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−304869号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2005−287738号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平9−248507号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されたヘッドレストステーの製造方法は、所定金属のメッキ装置が必須であって、製造コストが高くなったり、製造時間が長くかかったり、さらには、被覆金属材料として、クロムやニッケルクロム等を使用しなければならないという環境上の問題も見られた。
【0007】
また、特許文献2に開示されたヘッドレストステーにおいて、4フッ化エチレン樹脂を樹脂コーティングしているものの、ヘッドレストステーに対する密着性に乏しいばかりか、耐久性についても不十分なものであった。
しかも、4フッ化エチレン樹脂を主成分とした場合、コーティング溶液の粘度が高くなりやすく、例えば、500,000mPa・sec(測定温度25℃)以上となり、均一な厚さの塗膜形成が困難であるという問題も見られた。
【0008】
さらに、特許文献3に開示されたディップコーティング装置は、複数の被コーティング基材を同時にディップコーティングする場合、液面がゆらいでしまい、非接触式変位センサが精度良く機能しないという問題が見られた。
よって、開示されたディップコーティング装置では、所定膜厚の塗装を安定的に得ることが困難であるという問題が見られた。
【0009】
そこで、本発明の発明者は鋭意検討した結果、ディップコーティング装置等において、コーティング溶液として、非フッ素樹脂塗料を用いるとともに、所定のヘッドレストステーの移動装置と、所定の浸漬槽と、所定の加熱炉と、を備えることによって、上述した問題を解決できることを見出し、本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明によれば、複数のヘッドレストステーに対して、均一な厚さの塗膜を同時形成することができるディップコーティング装置、およびそのようなディップコーティング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、複数のヘッドレストステーに対して、非フッ素樹脂塗料を同時塗装するディップコーティング装置であって、複数のヘッドレストステーを配列した状態で、所定空間内を移動させる移動装置と、非フッ素樹脂塗料が収容され、前記複数のヘッドレストステーに対して、同時にディップコーティングする浸漬槽と、非フッ素樹脂塗料がディップコーティングされた複数のヘッドレストステーを加熱乾燥し、所定厚さの塗膜を備えたヘッドレストステーとする加熱炉と、を備えることを特徴とするディップコーティング装置が提供され、上述した問題点を解決することができる。
【0011】
すなわち、このようにディップコーティング装置を構成するとともに、所定の非フッ素樹脂塗料を用いることにより、複数のヘッドレストステーに対して、密着性や耐久性に優れるとともに、均一な厚さの塗膜を同時形成することができる。
また、従来の金属メッキ被覆等と比較して、極めて安価であって、環境性も良好であり、しかも、外観性に優れた塗膜を、複数のヘッドレストステーに対して、迅速に形成することができる。
【0012】
また、本発明のディップコーティング装置を構成するにあたり、移動装置が、複数の吊り具を備えており、当該複数の吊り具に、複数のヘッドレストステーをそれぞれ保持した状態で、浸漬槽に収容された非フッ素樹脂塗料中を、所定速度で移動させることが好ましい。
このように構成することにより、非フッ素樹脂塗料中に、鉄との間の反応性金属塩を含む場合には、ディップコーティングしながら、複数のヘッドレストステーの表面において確実に反応させることができ、また、鉄との間の反応性金属塩を含まない場合であっても、十分かつ確実に、複数のヘッドレストステーに対して、ディップコーティングすることができる。
【0013】
また、本発明のディップコーティング装置を構成するにあたり、浸漬槽の側方または周囲に、非フッ素樹脂塗料の液面を所定位置に維持するための補助浸漬槽が設けてあり、補助浸漬槽が側方に設けてある場合には、浸漬槽と、補助浸漬槽との間に、非フッ素樹脂塗料が連通するための接続流路を設けることにより、また、補助浸漬槽が浸漬槽を取り囲むように、その周囲に設けてある場合には、浸漬槽または補助浸漬槽を上下動させて、補助浸漬槽から浸漬槽に流入させた非フッ素樹脂塗料の一部を、補助浸漬槽に溢れさせることにより、浸漬槽に収容した非フッ素樹脂塗料の液面を所定位置に維持することが好ましい。
このように構成することにより、非フッ素樹脂塗料の液管理が容易かつ安定化されることから、非フッ素樹脂塗料の粘度変化等に起因した塗布量変化を均一化することができ、ひいては、複数のヘッドレストステーであっても、より均一な厚さの塗膜を同時形成することができる。
【0014】
また、本発明のディップコーティング装置を構成するにあたり、移動装置が、非フッ素樹脂塗料をディップコーティングした後に、吊り具を介して、複数のヘッドレストステーをそれぞれ回転または振動させるか、あるいは、非フッ素樹脂塗料の液面に接触させることにより、余分な非フッ素樹脂塗料を除去することが好ましい。
すなわち、移動装置が、複数のヘッドレストステーを回転させるための回転装置、複数のヘッドレストステーを振動させるための振動装置、さらには、非フッ素樹脂塗料の液面に接触させるための所定の液面接触装置を設けて、余分な非フッ素樹脂塗料を除去することが好ましい。
このように回転装置、振動装置、あるいは液面接触装置等を設けて構成することにより、非フッ素樹脂塗料の粘度変化等に起因した塗布量変化を均一化することができ、ひいては、複数のヘッドレストステーであっても、より均一な厚さの塗膜を同時形成することができる。
【0015】
また、本発明の別の態様は、複数のヘッドレストステーに対して、非フッ素樹脂塗料を同時塗装するディップコーティング方法であって、複数のヘッドレストステーを所定状態に配列する準備工程と、複数のヘッドレストステーを、非フッ素樹脂塗料が収容された浸漬槽に同時浸漬させて、ディップコーティングする工程と、非フッ素樹脂塗料がディップコーティングされた複数のヘッドレストを加熱乾燥し、所定厚さの塗膜を備えたヘッドレストステーとする工程と、を備えることを特徴とするディップコーティング方法である。
【0016】
すなわち、所定の非フッ素樹脂塗料を用いるとともに、このようにディップコーティング方法を実施することにより、複数のヘッドレストステーに対して、密着性や耐久性に優れるとともに、均一な厚さの塗膜を同時形成することができる。
そして、従来の金属メッキ被覆等と比較して、極めて安価であって、環境性も良好であり、しかも、外観性に優れた塗膜を、複数のヘッドレストステーに対して、迅速に形成することができる。
【0017】
また、本発明のディップコーティング方法を実施するにあたり、非フッ素樹脂塗料として、熱可塑性成分として、ポリエステル樹脂およびフェノキシ樹脂、あるいは、いずれか一方を含むとともに、鉄との間の反応性金属塩をさらに含んでなる塗料を用いることが好ましい。
このような熱可塑性成分および反応性金属塩を含む、所定の非フッ素樹脂塗料を用いることにより、所定の金属置換反応や無電解メッキ反応等が生じ、ヘッドレストステーに対する塗膜の密着性や耐久性が良好となるばかりか、非フッ素樹脂塗料の良好な液安定性が得られ、結果として、複数のヘッドレストステーであっても、より均一な厚さの塗膜を同時形成することができる。
【0018】
また、本発明のディップコーティング方法を実施するにあたり、ヘッドレストステーを非フッ素樹脂塗料中に、少なくとも1分間以上保持することが好ましい。
このように所定時間、ディップコーティングを実施することにより、非フッ素樹脂塗料が、鉄との間の反応性金属塩をさらに含むような場合であっても、密着性や耐久性に優れた塗膜が確実に得られるとともに、複数のヘッドレストステーに対して、より均一な厚さの塗膜を同時形成することができる。
すなわち、非フッ素樹脂塗料が、鉄との間の反応性金属塩等を含む場合、単に、非フッ素樹脂塗料をディップコーティングして、付着させただけでは、十分な反応が生じない場合があるためである。
【0019】
また、本発明のディップコーティング方法を実施するにあたり、ヘッドレストステーの脱脂を行うための脱脂工程を設けることが好ましい。
このように脱脂工程を含んでディップコーティング方法を実施することにより、ヘッドレストステーに対する塗膜の密着性や耐久性がさらに良好となるばかりか、複数のヘッドレストステーであっても、優れた密着性を有し、かつ、より均一な厚さを有する塗膜を同時形成することができる。
すなわち、ヘッドレストステーを製造する過程で、表面に油成分や汚染物質が付着する場合があるが、そのような場合であっても、脱脂工程によって、清浄表面とすることができ、良好な特性を有する塗膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明のディップコーティング装置の一例を説明するために供する図である。
【図2】図2は、ヘッドレストステーおよびそれを含むヘッドレストを説明するために供する図である。
【図3】図3(a)〜(b)は、浸漬槽および補助浸漬槽の具体例を説明するために供する図である。
【図4】図4は、別の浸漬槽の具体例を説明するために供する図である。
【図5】図5は、本発明のディップコーティング方法を説明するために供する工程図である。
【図6】図6(a)〜(e)は、従来のヘッドレストステーの製造方法を説明するために供する図である。
【図7】図7(a)〜(b)は、従来の別のヘッドレストステーの製造方法を説明するために供する図である。
【図8】図8は、従来のディップコーティング装置を説明するために供する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、図1に例示するように、複数のヘッドレストステー20に対して、非フッ素樹脂塗料24aを同時塗装するディップコーティング装置10であって、複数のヘッドレストステー20を配列した状態で、所定空間内を移動させる移動装置12と、非フッ素樹脂塗料24aが収容され、複数のヘッドレストステー20に対して、同時にディップコーティングする浸漬槽24と、非フッ素樹脂塗料24aがディップコーティングされた複数のヘッドレストステー20を加熱乾燥し、所定厚さの塗膜を備えたヘッドレストステーとする加熱炉26と、を備えることを特徴とするディップコーティング装置10である。
以下、図面を適宜参照しつつ、第1の実施形態としてのディップコーティング装置および、そのコーティング対象としてのヘッドレストステーについて、具体的に説明する。
【0022】
1.被処理物
被処理物(コーティング対象)としてのヘッドレストステーの態様については特に制限されるものではないが、例えば、図2に示されるようなヘッドレストステー20が好ましく挙げられる。
すなわち、ヘッドレストステー20は、基本的に、鉄パイプ等から構成されており、両脚部20a,20bと、それらをつなぐ水平部20cと、さらに、これらの接合部において、応力集中するのを防止するための湾曲部20dと、を含んで構成されている。
したがって、ヘッドレストステー20は、所定の機械的強度を有するとともに、適度なフレキシブル性を発揮することができる。
【0023】
また、かかるヘッドレストステー20における両脚部20a,20bが、自動車等の座席70に設けてある大小の挿入孔66、68に挿入されて、スライドしながら上下方向に移動可能な構成としてある。
そして、ヘッドレストステー20における両脚部20a,20bのいずれか一方に、複数のノッチ60が設けてあり、それらノッチ60のいずれかと、ストッパー62の内部に収容した金具(図示せず)と、が係合することにより、ヘッドレスト50が任意位置に止まることになる。
一方、ヘッドレスト50の更なる位置決め等のために移動可能とすべく、ストッパー62には、ノッチ60と、ストッパーの内部の金具との係合を解除するための解除ノブ64が設けてある。
【0024】
また、ヘッドレストステー20の周囲には、溶着接合部54を介して、内部に空洞部を有するキャビティ52が一体的に設けてあり、所定のクッション性や取扱性を得ることができる。
すなわち、図2に示すキャビティ52は、一例であるが、おむすび型であって、前面部および背面部の二つ割りに構成されてあり、ヘッドレストステー20を包み込むように包囲しており、かつ、溶着接合部54を介して、ヘッドレストステー20に対して、強固に固着されている。
【0025】
また、キャビティ52の周囲には、クッション材等を含む被覆物53が設けてあり、それにより、クッション性や軽量性、さらには機械的強度等に優れたヘッドレスト50が構成され、自動車の座席70の所定位置に設けてある。
すなわち、このような構成のヘッドレスト50において、本願発明の非フッ素樹脂塗料からなる塗膜を備えたヘッドレストステー20は、良好な耐久性やすべり性等を発揮することができる。
【0026】
なお、上述したストッパー62の内部に収容した金具(図示せず)につき、表面に、ポリアミド樹脂等からなる樹脂コーティングを施すことも好ましい。
この理由は、本願発明の非フッ素樹脂塗料からなる塗膜との間の、摩擦係数が小さくなって、ヘッドレストの移動が円滑になるとともに、本願発明の非フッ素樹脂塗料からなる塗膜の耐久性をさらに向上させることができるためである。
【0027】
2.移動手段
また、複数のヘッドレストステーの移動装置が、複数の吊り具の少なくとも一つに、複数のヘッドレストステーを吊り下げた状態で、所定速度で移動させるためのコンベヤ装置やワイヤ等であることが好ましい。
すなわち、図1に、矢印A1、A2、A3およびA4で示されるように、移動装置12が、複数の吊り具18を備えており、当該複数の吊り具18に、複数のヘッドレストステー20をそれぞれ保持した状態で、所定速度で移動させることが好ましい。
この理由は、このように構成することにより、簡易構造の移動装置であっても、複数のヘッドレストステーを効率的に移動することができるためである。
なお、複数の吊り具18は、複数のヘッドレストステーの塗布性や加熱乾燥性等を考慮して、移動装置12において、直線状一列や直線状二列以上に配置されていても良く、あるいは、ジグザグ状やS字状等に配置されていても良い。
【0028】
また、複数の吊り具の構成についても特に制限されるものでないが、ヘッドレストステーの水平部の一箇所または複数個所で係合して、安定的に保持できるように、フック状物、輪状物(リング)、紐状物、クリップ、面ファスナー、粘着部材等が挙げられる
例えば、図1に示すように、吊り具18の先端部18aがフック状物であれば、ヘッドレストステーの大きさや形態によらず、容易かつ迅速に架けたり、取り外したりすることができ、ヘッドレストステーの準備工程や回収工程の自動化が容易である。
また、吊り具がリング状物であれば、ヘッドレストステーの一部を通過させることにより、容易かつ迅速に架けたり、外したりすることができ、しかも、ヘッドレストステーがはずれにくくなる。
【0029】
また、吊り具が紐状物であれば、ヘッドレストステーの大きさや形態によらず、ヘッドレストステーの一部に縛り付けることにより、強固に保持することができる。
また、吊り具がクリップを備えていれば、ヘッドレストステーの一部を挟み込むだけで、迅速かつ強固に保持することができ、とり外しについても容易である。
さらに、吊り具が面ファスナーや粘着部材であれば、ヘッドレストステーの大きさや形態によらず、強固に保持することができる。
【0030】
また、図1に例示するように、所定の長尺物14に、複数のヘッドレストステー20を保持した状態で、所定速度で移動させるための複数の吊り具18が備えられているとともに、当該長尺物14が、所定の長尺物支持具16を介して、コンベヤ装置12に対して取り外し自由に構成されていることが好ましい。
すなわち、直接的には、複数のヘッドレストステー20を保持した状態の長尺物14を、矢印A1、A2、A3およびA4で示されるように、コンベヤ装置12で移動することが好ましい。
この理由は、所定の長尺物を介して複数のヘッドレストステーを移動させることにより、吊り具に対する複数のヘッドレストステーの取り外しが容易になるばかりか、さらに、ディップコーティング装置の係外で蒸着工程等を実施する場合であっても、長尺物単位で、簡単かつ迅速に移動することができるためである。
【0031】
また、図示しないものの、移動装置が、吊り具を介して、複数のヘッドレストステーを回転させる回転装置、複数のヘッドレストステーを振動させる振動装置、あるいは、複数のヘッドレストステーの先端部を非フッ素樹脂塗料の液面に接触させて、余分な塗料を落下させやすくする液面接触装置を有することが好ましい。
すなわち、後述する浸漬槽において、非フッ素樹脂塗料をディップコーティングした後に、移動装置が、吊り具を介して、複数のヘッドレストステーをそれぞれ回転または振動させるか、あるいは、非フッ素樹脂塗料の液面に接触させて、余分な塗料を落下除去することが好ましい。
したがって、このように余分な非フッ素樹脂塗料を除去することにより、非フッ素樹脂塗料の均一塗装がさらに確実になって、複数のヘッドレストステーであっても、より均一な厚さの塗膜を形成することができる。
【0032】
3.浸漬槽
(1)構成1
浸漬槽としては、非フッ素樹脂塗料が収容され、複数のヘッドレストステーに対して、同時にディップコーティングできる構成であれば特に制限されるものではないが、一例として、図1に、矢印B2で示されるように、上下方向に浸漬槽24が移動する態様とすることができる。
すなわち、図3(a)に示されるように、浸漬槽24は、非フッ素樹脂塗料24aを収容するための主浴槽24dと、非フッ素樹脂塗料24aを所定温度に維持するための温度制御装置24cと、非フッ素樹脂塗料24aを撹拌するための撹拌装置24bと、各種センサ24e(温度センサ、pHセンサ、液面センサ、濃度センサ等)と、を備えていることが好ましい。
【0033】
但し、浸漬槽が上下方向に移動する態様のみならず、複数のヘッドレストステーの移動装置が上下方向に移動する態様であっても、あるいは、浸漬槽および複数のヘッドレストステーの移動装置の両方が、上下方向に移動する態様とすることもできる。
例えば、複数のヘッドレストステーの移動装置が、浸漬槽の上空において、上下方向に移動する態様であれば、比較的重量がある浸漬槽を上下方向に移動させる必要がないことから、全体として、軽量化、簡易化することができる。
また、浸漬槽および複数のヘッドレストステーの移動装置の両方が、上下方向に移動する態様とすることによって、浸漬槽に対して、適切位置に、迅速かつ精度良く、制御することができる。
【0034】
なお、温度制御装置24cや撹拌装置24bとしては、公知の態様とすることができるが、例えば、サーモスタット付きヒーター、攪拌翼、超音波振動装置等が挙げられる。
その他、図示しないものの、浸漬槽は、非フッ素樹脂塗料24aの汚染物を除去するためのフィルターや、浸漬槽の上下方向等の移動装置をさらに備えていることが好ましい。
【0035】
また、浸漬槽として、図3(a)に示すように、非フッ素樹脂塗料の液面を所定位置に維持するための補助浸漬槽24hを側方に有するとともに、主浸漬槽24dおよび補助浸漬槽24hをつないで連通させ、非フッ素樹脂塗料が自由に行き来するための接続流路24fと、必要に応じて、当該接続流路24fを遮断するバルブ24gと、を備えることが好ましい。
この理由は、このように構成することにより、主浸漬槽の液面位置が、補助浸漬槽の液面位置と一致するため、補助浸漬槽の非フッ素樹脂塗料の液面等を管理することによって、主浸漬槽における非フッ素樹脂塗料の液面等の管理が容易となるためである。
したがって、主浸漬槽における非フッ素樹脂塗料の液量、濃度、液温度等の管理についても容易になって、複数のヘッドレストステーであっても、より均一な厚さの塗膜を形成することができる。
【0036】
また、浸漬槽として、図3(b)に示すように、浸漬槽(主浸漬槽)24d´の周囲を取り囲むように、主浸漬槽24d´よりも大きな補助浸漬槽24h´が設けてある場合には、主浸漬槽24d´および補助浸漬槽24h´、あるいはいずれか一方を、矢印C1に示すように、上下動させて、補助浸漬槽24h´に収容してある非フッ素樹脂塗料24aの一部を、主浸漬槽24d´に流入させることができる。
すなわち、矢印C1に示すように、主浸漬槽24d´を下降させて、補助浸漬槽24h´の中に、主浸漬槽24d´を浸漬させることにより、補助浸漬槽24h´に収容してある非フッ素樹脂塗料24aの液面が上昇する。
それに伴い、矢印C2に示すように、主浸漬槽24d´の底部に設けてある逆止弁24j´が開いて、開口部24k´から補助浸漬槽24h´の非フッ素樹脂塗料24aの一部を、主浸漬槽24d´の内部に、流入させることができる。
【0037】
その際、主浸漬槽24d´の所定位置には、非フッ素樹脂塗料の流出口24m´が設けてあり、所定量以上の非フッ素樹脂塗料24aが流入した場合には、非フッ素樹脂塗料の流出口24m´から、非フッ素樹脂塗料24aを補助浸漬槽24h´に戻す態様としてある。
したがって、浸漬槽24d´および補助浸漬槽24h´、あるいはいずれか一方を上下動させるだけで、浸漬槽24d´における非フッ素樹脂塗料24aの全部または一部と、所定濃度等に管理された新規な非フッ素樹脂塗料と、を置換することができる。
よって、浸漬槽中の非フッ素樹脂塗料の液管理が容易かつ安定化されることから、非フッ素樹脂塗料の粘度変化等に起因した塗布量変化を均一化することができ、ひいては、複数のヘッドレストステーであっても、より均一な厚さの塗膜を同時形成することができる。
【0038】
また、浸漬槽を複数準備して、より具体的には、少なくとも第1の浸漬槽と、第2の浸漬槽と、を準備して、非フッ素樹脂塗料の状態に応じて、あるいは、メンテナンスを考慮して、いずれかの浸漬槽を選択して使用することも好ましい。
すなわち、第1の浸漬槽における非フッ素樹脂塗料の濃度やpH等が所定範囲外の値となった場合には、所定移動装置のルートを切り替えて、濃度やpH等が所定範囲内に管理された第2の浸漬槽における非フッ素樹脂塗料を用いることが好ましい。
【0039】
さらに、浸漬槽を複数準備して、第1の浸漬槽のメンテナンスのために、第2の浸漬槽を準備して、それを一時的に使用することも好ましい。
すなわち、基本的に、第1の浸漬槽を、非フッ素樹脂塗料のディップコーティングに使用し、当該第1の浸漬槽をメンテナンスする際には、所定移動装置のルートを切り替えて、一時的に、第2の浸漬槽を使用することが好ましい。
その場合、第2の浸漬槽におけるディップコーティングは、一時的であるため、第2の浸漬槽の容量や設備を、第1の浸漬槽の容量等よりも少なくしたりすることも可能である。
【0040】
(2)構成2
また、浸漬槽として、図4に示すように、矢印A5で示される進行方向に沿って、相当長さ(L)を有する浸漬槽24´を準備し、当該浸漬槽24´の中を、複数のヘッドレストステー20を移動させながら、非フッ素樹脂塗料24aをディップコーティングすることが好ましい。
この理由は、非フッ素樹脂塗料が鉄との間の反応性金属塩を含む場合であっても、このような浸漬槽であれば、ヘッドレストステー表面において、十分に、反応させることができるためである。
したがって、ヘッドレストステーを移動させながら、ヘッドレストステー表面において、反応性金属塩等を反応させることから、単に、ディップコーティングする場合と比較して、より短時間、かつ均一に反応させることができる。
【0041】
一方で、非フッ素樹脂塗料が、鉄との間の反応性金属塩を含まない場合であっても、このように浸漬槽を構成することによって、十分かつ確実に、複数のヘッドレストステーに対して、ディップコーティングすることができる。
いずれにしても、このような浸漬槽を用いることにより、密着性や耐久性に優れた塗膜を、効率的かつ安定的に形成することができる。
【0042】
なお、かかる浸漬槽の長さ(L)は、ヘッドレストステーの移動時間や、非フッ素樹脂塗料中の保持時間等を考慮して定めることができるが、通常、1〜50mの範囲内の値とすることが好ましく、3〜30mの範囲内の値とすることがより好ましく、5〜20mの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0043】
(3)非フッ素樹脂塗料
また、浸漬槽に収容する非フッ素樹脂塗料が、必須成分として、非フッ素樹脂からなる熱可塑性成分(高分子成分、オリゴマー成分を含む。)100重量部に対して、熱可塑性成分等の硬化成分(熱硬化成分や光硬化成分)を1〜50重量部、鉄との間の反応性金属塩を0.1〜30重量部の範囲で含むことが好ましい。
この理由は、このように非フッ素樹脂塗料を配合組成することにより、ヘッドレストステーに対して、均一に塗布したり、優れた密着性が得られたり、さらには良好な耐久性が得られたりするためである。
したがって、浸漬槽に収容する非フッ素樹脂塗料は、非フッ素樹脂100重量部に対して、硬化成分を5〜30重量部、鉄との間の反応性金属塩を0.5〜20重量部の範囲で含むことがより好ましく、硬化成分を10〜20重量部、鉄との間の反応性金属塩を1〜10重量部の範囲で含むことがさらに好ましい。
【0044】
そして、任意成分であるものの、例えば、非フッ素樹脂からなる熱可塑成分100重量部に対して、着色剤を0.1〜10重量部、界面活性剤を0.1〜30重量部、粘度調整剤を0.1〜30重量部、酸化防止剤を0.1〜10重量部、防錆剤を0.1〜30重量部、希釈剤を0.1〜50重量部、溶媒を30〜150重量部の範囲で、それぞれ含むことが好ましい。
但し、浸漬槽に収容する非フッ素樹脂塗料に、途膜の平滑性やすべり性を調節するために、少量のフッ素樹脂、例えば、非フッ素樹脂からなる熱可塑成分100重量部に対して、1重量部未満、より好ましくは、0.01〜0.5重量部の範囲で、配合することは可能である。
【0045】
ここで、熱可塑成分としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、オキセタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、フェノール系樹脂、シリコーン系樹脂、フェノキシ樹脂等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
【0046】
特に、非フッ素樹脂塗料の粘度を所定範囲内の値にするとともに、ヘッドレストステーに対する優れた密着性を発揮することから、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いてポリスチレン換算分子量として得られる平均重量分子量が8,000〜120,000であるポリエステル系樹脂およびフェノキシ樹脂であることが好ましい。
また、ポリエステル系樹脂やフェノキシ樹脂が水酸基を有する場合には、かかる水酸基価を1〜500mgKOH/gの範囲内の値とすることが好ましい。
【0047】
しかも、より低粘度となるとともに、優れた密着性や耐久性を示すことから、熱可塑成分の形態として、上述したポリエステル系樹脂および/またはフェノキシ樹脂と、シリコーン化合物を含む水性エマルションであることがより好ましい。
この理由は、シリコーン化合物が、所定のポリエステル系樹脂やフェノキシ樹脂と反応しつつ加水分解縮合することにより、塗膜の耐久性や耐水性、平面すべり性等を、効果的に向上させることができるためである。
【0048】
また、硬化成分は、上述したシリコーン化合物、ポリエステル系樹脂、あるいはフェノキシ樹脂等を含む熱可塑成分の硬化(三次元架橋反応)のために配合されるが、例えば、イソシアネート化合物、カルボキシル化合物、エポキシ化合物等を含むことが好ましい。
この理由は、熱可塑成分を硬化させることにより、高強度かつ密着性に優れた塗膜が得られるためである。
【0049】
また、鉄との間の反応性金属塩は、形成される塗膜の密着性を向上させたり、着色性を付与したり、あるいは防錆性を付与したりするために配合されるが、例えば、タンニン酸バナジウム、タンニン酸モリブデン、3,4,5−トリヒドロキシベンゼンカルボン酸および3,4,5−トリヒドロキシベンゼンカルボン酸エステル等のフェノール性水酸基含有化合物等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
この理由は、フェノール性水酸基含有化合物等は、鉄と反応して鉄塩となり、錯化合物を生成し、塗膜における酸素の透過を低減させることができ、優れた防錆性や密着性を発揮することができるためである。
なお、フェノール性水酸基含有化合物は、熱可塑成分がシリコーン化合物の場合、その加水分解縮合反応における酸触媒としての機能も発揮できるという利点も有している。
【0050】
また、非フッ素樹脂塗料として、JIS Z 8803に準拠して測定される溶液粘度が10〜10,000mPa・sec(測定温度:25℃)の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、このような粘度を有する非フッ素樹脂塗料であれば、ヘッドレストステーに対して、均一に付着させることができるためである。
すなわち、非フッ素樹脂塗料の粘度が、10mPa・sec未満の値になると、表面張力の関係で、全体として、均一な厚さの塗膜を形成することが困難となる場合があるためである。
一方、非フッ素樹脂塗料の粘度が、10000mPa・secを超えた値になると、余分な被覆処理液を遠心力により除去することが困難となる場合があるためである。
したがって、非フッ素樹脂塗料の粘度を、50〜5000mPa・secの範囲内の値とするのがより好ましく、100〜1000mPa・secの範囲内の値とするのがさらに好ましい。
【0051】
4.加熱炉
(1)構成
加熱炉の構成についても、非フッ素樹脂塗料が塗布されたヘッドレストステーを所定温度に加熱乾燥できる構成であれば、特に制限されるものではなく、適宜変更することができる。
したがって、好適な加熱炉として、加熱空気循環オーブン、電気加熱炉、ガス加熱炉、赤外線加熱炉、レーザー加熱炉等が挙げられる。
そして、これら加熱炉の一態様であるが、図1に示すように、上下方向に設けた、複数の熱風吹出部26aから、所定流速および所定温度の熱風26bを集中的に吹付け、非フッ素樹脂塗料が塗布されたヘッドレストステーを加熱乾燥することが好ましい。
【0052】
(2)塗膜特性
また、加熱炉の加熱乾燥を経て得られる塗膜の厚さについても特に制限されるものでないが、通常、5〜300μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる塗膜の厚さがこのような範囲内の値であれば、塗膜の密着性や耐久性と、乾燥性(硬化性)との間で、良好なバランスが得られるためである。
したがって、塗膜の厚さを10〜200μmの範囲内の値とすることがより好ましく、20〜80μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0053】
なお、塗膜の密着性の目安に関して、JIS D 0202に準拠して測定される碁盤目試験において、剥離個数が10個以下/100碁盤目であることが好ましく、5個以下/100碁盤目であることがより好ましく、1個以下/100碁盤目であることがさらに好ましい。
【0054】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、図5に例示されるように、複数のヘッドレストステーに対して、非フッ素樹脂塗料を同時塗装するディップコーティング方法であって、複数のヘッドレストステーを所定状態に配列する準備工程(S1)と、複数のヘッドレストステーを、非フッ素樹脂塗料が収容された浸漬槽に同時浸漬させて、ディップコーティングする工程(S3)と、非フッ素樹脂塗料がディップコーティングされた複数のヘッドレストを加熱乾燥し、所定厚さの塗膜を備えたヘッドレストステーとする工程(S4)と、を備えることを特徴とするディップコーティング方法である。
以下、図5を参照しつつ、第1の実施形態と異なる点を中心に、第2の実施形態であるディップコーティング方法について、具体的に説明する。
【0055】
1.準備工程(S1)
準備工程は、ディップコーティングする被着体としての複数のヘッドレストステーを準備し、移動手段に備えてある吊り具等に保持して、所定状態に配列する工程である。
すなわち、ディップコーティングや加熱乾燥を効率的に行えるように、複数のヘッドレストステーを、直線状一列、直線状複数列、ジグザグ状一列、ジグザグ状複数列等に配列するものである。
そして、移動手段として、フック状物等の吊り具を用いるのであれば、ヘッドレストステーの大きさや形態によらず、容易かつ迅速に架けて、所定状態に配列することができる。
【0056】
2.脱脂工程(S2)
また、脱脂工程は、任意工程ではあるものの、浸漬工程の前段に脱脂槽を設けて、ヘッドレストステーの表面を清浄化する工程である。
すなわち、酸洗浄工程、アルカリ洗浄工程、さらには中和工程等を含む脱脂工程、あるいは、ハロゲン化物による脱脂工程を設けて、ヘッドレストステーの表面に付着した油脂や汚染物を予め除去することが好ましい。
この理由は、このように実施することにより、ヘッドレストステーに対する塗膜の密着性が良好となるばかりか、複数のヘッドレストステーであっても、より均一な厚さの塗膜を形成することができるためである。
【0057】
また、脱脂液として、トリクロロエタン、トリクロロメタン、ジクロロエタン、ジクロロメタン等のハロゲン化物であれば、優れた油脂除去性が得られるとともに、乾燥性が良好であることから、好適に用いることができる。
なお、ハロゲン化物は揮発しやすいという特性があるため、脱脂槽の上方あるいは出口に、冷却装置を設けて、揮発したハロゲン化物を凝縮させて、還流することが好ましい。
【0058】
3.浸漬工程(S3)
また、浸漬工程は、複数のヘッドレストステーを、非フッ素樹脂塗料が収容された浸漬槽に同時浸漬(浸漬槽を移動させて、複数のヘッドレストステーを、非フッ素樹脂塗料中に浸漬する態様を含む。)させて、ディップコーティングする工程である。
すなわち、浸漬工程において、非フッ素樹脂塗料の攪拌装置が設けられている浸漬槽に、所定温度、所定pH、および所定濃度に維持されている非フッ素樹脂塗料が収容された状態で、複数のヘッドレストステーを一括して浸漬させ、ディップコーティングすることが好ましい。
この理由は、このように実施することにより、非フッ素樹脂塗料の液管理が容易になって、複数のヘッドレストステーであっても、より均一な厚さの塗膜を形成することができるためである。
【0059】
また、浸漬工程において、ヘッドレストステーを非フッ素樹脂塗料中に、少なくとも1分間以上保持することが好ましい。
この理由は、このように実施することにより、非フッ素樹脂塗料が、鉄との間の反応性金属塩をさらに含むような場合であっても、密着性や耐久性に優れた塗膜が確実に得られるとともに、複数のヘッドレストステーに対して、より均一な厚さの塗膜を同時形成することができるためである。
但し、過度に浸漬時間が長くなると、生産効率が過度に低下するとともに、形成される塗膜の耐久性が逆に低下する場合がある。
したがって、浸漬工程において、ヘッドレストステーを非フッ素樹脂塗料中に浸漬しておく保持時間を2〜30分の範囲内の値とすることがより好ましく、5〜15分の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0060】
4.加熱乾燥工程(S4)
さらに、加熱乾燥工程は、非フッ素樹脂塗料がディップコーティングされた複数のヘッドレストを所定条件で加熱乾燥し、所定厚さの塗膜を備えたヘッドレストステーとする工程である。
そして、加熱温度についても特に制限されるものではなく、非フッ素樹脂塗料の種類や移動速度等に応じて適宜変更することができるが、通常、加熱温度を80〜200℃の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、このような範囲内の加熱温度であれば、密着性に優れるとともに、均一な厚さを有する塗膜を効率的に形成することができるためである。
したがって、加熱温度を100〜180℃の範囲内の値とすることがより好ましく、120〜160℃の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、加熱時間についても、非フッ素樹脂塗料の種類や移動速度等に応じて適宜変更することができるが、通常、1〜120分の範囲内の値とすることが好ましく、10〜60分の範囲内の値とすることがより好ましく、20〜40分の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0061】
5.ヘッドレストステー回収工程(S5)
ヘッドレストステー回収工程は、所定の塗膜を備えたヘッドレストステーを効率的に回収し、次工程のヘッドレストの製造工程(図示せず)に供するための工程である。
そして、移動手段として、例えば、フック状物等の吊り具を用いているのであれば、ヘッドレストステーの大きさや形態によらず、容易かつ迅速に取り外すことができ、結果として、次工程のヘッドレストの製造工程に迅速に供することができる。
【0062】
6.吊り具回収工程(S6)
吊り具回収工程は、所定の塗膜を備えたヘッドレストステーを回収した後の移動手段の一部としての吊り具を、ディップコーティングに再び供するために、効率的に回収する工程である。
すなわち、所定の回収工程により、移動手段に備えられた吊り具を効率的に回収することにより、準備工程等において再び用いることができる。
【0063】
なお、吊り具の回収方法についても、特に制限されるものでなく、移動手段から、吊り具をはずして回収した後、準備工程にそのまま戻しても良いし、あるいは、はずした吊り具を一旦洗浄した後、準備工程に戻しても良い。
さらには、コンベヤ装置等の移動手段が、ループを描いて準備工程に戻っている場合には、かかる移動手段から、吊り具をはずすことなく、そのまま次のディップコーティングに戻して、使用することができる。
【0064】
7.その他
(1)移動工程
移動工程は、複数のヘッドレストステーを配列した状態で、ディップコーティング装置における所定空間内を移動させる工程である。
ここで、所定空間とは、複数のヘッドレストステーを配列とする準備工程から、次工程である脱脂工程までの空間、また、脱脂工程から、次工程である浸漬工程までの空間、さらに、浸漬工程から、次工程である加熱処理工程までの空間等を意味する。
すなわち、図1に示すように、準備工程(S1)と、脱脂工程(S2)との間、脱脂工程(S2)と、浸漬工程(S3)との間、および、浸漬工程(S3)と、加熱乾燥工程(S4)との間を、それぞれ所定のベルトコンベア12が、複数のヘッドレストステーを移動できるように構成されているが、これら複数のヘッドレストステーが移動する空間のことを意味している。
【0065】
また、図示しないものの、脱脂工程において、複数のヘッドレストステーを配列した状態で、水平方向に移動しながら、脱脂等する場合には、かかる脱脂槽もまた、所定空間の一つとなる。
同様に、図示しないものの、浸漬工程において、複数のヘッドレストステーを配列した状態で、水平方向に、あるいは水平方向/垂直方向の組み合わせ移動しながら、ディップコーティング等する場合には、かかる浸漬槽もまた、所定空間の一つとなる。
さらに、加熱処理工程において、複数のヘッドレストステーを配列した状態で、水平方向に移動しながら、あるいは水平方向/垂直方向の組み合わせ移動しながら、加熱処理等する場合には、かかる加熱炉もまた、所定空間の一つとなる。
【0066】
また、移動工程における複数のヘッドレストステーの移動速度についても、特に制限されるものではないが、例えば、5〜100m/分の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、このような範囲内の移動速度であれば、密着性に優れるとともに、均一な厚さを有する塗膜を効率的に形成することができるためである。
したがって、複数のヘッドレストステーの移動装置を適宜調整し、移動速度を10〜60m/分の範囲内の値とすることがより好ましく、20〜40m/分の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0067】
(2)水洗工程
また、浸漬工程の前段や、上述した脱脂工程の前後、あるいはいずれか一方の時に、複数のヘッドレストステーの水洗工程を設けることが好ましい。
この理由は、このように水洗工程を実施することにより、ヘッドレストステーに対する塗膜の密着性が良好となるばかりか、複数のヘッドレストステーであっても、より均一な厚さの塗膜を形成することができるためである。
【実施例】
【0068】
[実施例1]
1.ヘッドレストステーのディップコーティング
(1)準備工程
図1に示すディップコーティング装置を準備し、長尺物に取り付けたフック状の吊り具の先端に、図2に示すような直径12mmの鉄製パイプからなる概コの字状のヘッドレストステー20を、直線2列の配列として、合計14個を吊り下げた。
【0069】
(2)脱脂工程
次いで、図1に示すディップコーティング装置10におけるコンベア装置12により、20m/分の速度で、矢印A1の方向に移動させ、脱脂槽の上方で停止させた。
その状態で、図1に示すように、コンベア装置12の長尺物保持具16を矢印B1の方向に下降させ、脱脂液(トリクロロエタン、温度40℃)中に、約1分浸漬させるとともに、所定の超音波振動を付与して、ヘッドレストステー20の表面を清浄化した。
その後、コンベア装置12の長尺物保持具16を矢印B1の方向に上昇させ、さらに、矢印A2の方向に移動させて、複数のヘッドレストステー20を浸漬槽24の上方で停止させた。
【0070】
(3)浸漬工程
次いで、図1に示すように、コンベア装置12の長尺物保持具16を矢印B2の方向に下降させ、非フッ素樹脂塗料24aとして、下記配合組成の塗料(温度:25℃)が収容してある撹拌状態の浸漬槽24に対して、複数のヘッドレストステー20を浸漬させ、同時にディップコ−ティングした。
1)シリコーン化合物(エチルシリケート):100重量部
2)水分散性ポリエステル樹脂(水酸基価:5.8mgKOH/g、酸価:1.7mgKOH/g):56重量部
3)フェノール性水酸基含有化合物(タンニン酸バナジウム):1.2重量部
4)架橋剤(チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)):0.8重量部
5)イソプロパノール:7.5重量部
6)水:164重量部
なお、フェノール性水酸基含有化合物が、十分に反応するように、非フッ素樹脂塗料中に、3分間浸漬した。
また後、コンベア装置12の長尺物保持具16を矢印B2の方向に上昇させ、さらに、矢印A3の方向に移動させて、複数のヘッドレストステー20を加熱炉26に導いた。
【0071】
(4)加熱乾燥工程
次いで、図1に示す乾燥炉26を用いて、矢印A4方向に所定速度で、非フッ素樹脂塗料を塗布した複数のヘッドレストステー20を移動させながら、130℃、30分間加熱して、厚さ5μmの塗膜を加熱乾燥して、塗膜付きのヘッドレストステー20として、回収した。
【0072】
2.ヘッドレストステーの評価
(1)耐久性
得られた塗膜付きのヘッドレストステーから、図2に示すヘッドレスト50を構成した後、上下方向のスライド動作を往復1000回繰り返し、以下の基準で、耐久性を評価した。
◎:塗膜に、外観上の変化が全く見られない。
○:塗膜に、外観上の変化がほとんど見られない。
△:塗膜に、外観上の変化が少々見られる。
×:塗膜に、剥離等の外観上変化が顕著に見られる。
【0073】
(2)密着性
得られた塗膜付きのヘッドレストステーに対して、JIS D 0202に準拠して測定される碁盤目試験を行い、下記基準で、密着性を評価した。
◎:剥離個数が1個以下/100碁盤目である。
○:剥離個数が2〜5個/100碁盤目である。
△:剥離個数が6〜10個/100碁盤目である。
×:剥離個数が11個以上/100碁盤目である。
【0074】
(3)膜厚の均一性
また、得られた塗膜付きのヘッドレストステーにおいて、塗膜厚さの均一性を評価した。
すなわち、形成された塗膜における厚さを10か所で測定し、そのばらつきから、下記基準に沿って膜厚の均一性を評価した。得られた結果を表1に示す。
◎:膜厚のばらつき(最大または最小値)が、平均膜厚の5%未満である。
○:膜厚のばらつき(最大または最小値)が、平均膜厚の5%〜10%未満である。
△:膜厚のばらつき(最大または最小値)が、平均膜厚の10%〜20%未満である。
×:膜厚のばらつき(最大または最小値)が、平均膜厚の20%以上である。
【0075】
(4)塗料の保存安定性
また、得られた塗料の保存安定性を評価した。
すなわち、得られた塗料を、25℃、50%RHの暗室に保存して、沈殿物の発生を目視にて確認し、下記基準に沿って評価した。得られた結果を表1に示す。
◎:保存開始から1ヶ月経過しても、沈殿物が確認されない。
○:保存開始から3週間経過した時点で、沈殿物が確認されない。
△:保存開始から2週間経過した時点で、沈殿物が確認されない。
×:保存開始から2週間経過した時点で、沈殿物が確認された。
【0076】
[実施例2]
実施例1における水分散性ポリエステル樹脂単独の代わりに、水分散性フェノキシ樹脂(水酸基価:250mgKOH/g、酸価:47mgKOH/g))を単独で用いるとともに、架橋剤をブロックイソシアネートに変更したほかは、実施例1と同様にして、塗膜付きのヘッドレストステーを製造し、塗膜の耐久性等を評価した。
【0077】
[実施例3]
実施例1における水分散性ポリエステル樹脂単独の代わりに、水分散性ポリエステル樹脂(水酸基価:5.8mgKOH/g、酸価:1.7mgKOH/g)と、水分散性フェノキシ樹脂(水酸基価:250mgKOH/g、酸価:47mgKOH/g)の混合物(重量比=90/10)を用いたほかは、実施例1と同様にして、塗膜付きのヘッドレストステーを製造し、塗膜の耐久性等を評価した。
【0078】
[比較例1]
実施例1における塗料のかわりに、市販の4フッ化エチレン樹脂塗料を用いたほかは、同様にして、塗膜付きのヘッドレストステーを製造し、塗膜の耐久性等を評価した。
【0079】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のディップコーティング装置やディップコーティング方法によれば、コーティング溶液として、非フッ素樹脂塗料を用いるとともに、所定のヘッドレストステーの移動装置と、所定の浸漬槽と、所定の乾燥装置と、を備えることによって、複数のヘッドレストステーに対して、均一な厚さの塗膜を同時形成することができるようになった。
しかも、本発明のディップコーティング装置やディップコーティング方法によって形成される有機塗膜は、従来の金属メッキ被覆等と比較して、極めて安価であって、環境性も良好であり、しかも、外観性に優れた塗膜を、複数のヘッドレストステーに対して、迅速に形成することができるようになった。
【0081】
よって、本発明のディップコーティング装置やディップコーティング方法であれば、ヘッドレストに含まれるヘッドレストステーの塗装のみならず、各種金属製品、樹脂製品、セラミック製品(ガラス製品を含む)、電気製品、自動車関連製品等において、表面保護膜や防錆塗膜を形成するのに、好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0082】
10:ディップコーティング装置、12:移動装置(コンベヤ装置)、14:長尺物、16:長尺物保持具、18:吊り具、18a:先端部、20:ヘッドレストステー、20a,20b:両脚部、20c:水平部、20d:湾曲部、22:脱脂槽、22a:脱脂液、24:浸漬槽、24a:非フッ素樹脂塗料、24b:攪拌装置、24c:温度調整装置、24d:主浸漬槽、24e:各種センサ(液面センサ等)、24f:接続流路、24g:バルブ、24h、24h´:補助浸漬槽、24i:各種センサ(液面センサ等)、24j´:逆止弁、24k´:開口部、24m´:流出口、26:加熱炉、26a:熱風吹出部、26b:熱風、50:ヘッドレスト、52:キャビティ、53:被覆物、54:溶着接合部、60:ノッチ、62:ストッパー、64:金具、66:大の挿入孔、68:小の挿入孔、70:座席

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のヘッドレストステーに対して、非フッ素樹脂塗料を同時塗装するディップコーティング装置であって、
前記複数のヘッドレストステーを配列した状態で、所定空間内を移動させる移動装置と、
前記非フッ素樹脂塗料が収容され、前記複数のヘッドレストステーに対して、同時にディップコーティングする浸漬槽と、
前記非フッ素樹脂塗料がディップコーティングされた複数のヘッドレストステーを加熱乾燥させ、所定厚さの塗膜を備えたヘッドレストステーとする加熱炉と、
を備えることを特徴とするディップコーティング装置。
【請求項2】
前記移動装置が、複数の吊り具を備えており、当該複数の吊り具に、前記複数のヘッドレストステーをそれぞれ保持した状態で、前記浸漬槽に収容された非フッ素樹脂塗料中を、所定速度で移動させることを特徴とする請求項1に記載のディップコーティング装置。
【請求項3】
前記浸漬槽の側方または周囲に、前記非フッ素樹脂塗料の液面を所定位置に維持するための補助浸漬槽が設けてあり、
前記補助浸漬槽が側方に設けてある場合には、前記浸漬槽と、前記補助浸漬槽との間に、前記非フッ素樹脂塗料が連通するための接続流路を設けることにより、
また、前記補助浸漬槽が周囲に設けてある場合には、前記浸漬槽または前記補助浸漬槽を上下動させて、前記補助浸漬槽から前記浸漬槽に流入させた前記非フッ素樹脂塗料の一部を、前記補助浸漬槽に溢れさせることにより、
前記浸漬槽に収容した前記非フッ素樹脂塗料の液面を所定位置に維持すること、
を特徴とする請求項1または2に記載のディップコーティング装置。
【請求項4】
前記移動装置が、前記非フッ素樹脂塗料をディップコーティングした後に、前記吊り具を介して、前記複数のヘッドレストステーをそれぞれ回転または振動させるか、あるいは、前記非フッ素樹脂塗料の液面に接触させることにより、余分な非フッ素樹脂塗料を除去することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のディップコーティング装置。
【請求項5】
複数のヘッドレストステーに対して、非フッ素樹脂塗料を同時塗装するディップコーティング方法であって、
前記複数のヘッドレストステーを所定状態に配列する準備工程と、
前記複数のヘッドレストステーを、前記非フッ素樹脂塗料が収容された浸漬槽に同時浸漬させて、ディップコーティングする工程と、
前記非フッ素樹脂塗料がディップコーティングされた複数のヘッドレストを加熱乾燥し、所定厚さの塗膜を備えたヘッドレストステーとする工程と、
を備えることを特徴とするディップコーティング方法。
【請求項6】
前記非フッ素樹脂塗料として、熱可塑性成分として、ポリエステル樹脂およびフェノキシ樹脂、あるいは、いずれか一方を含むとともに、鉄との間の反応性金属塩をさらに含んでなる塗料を用いることを特徴とする請求項5に記載のディップコーティング方法。
【請求項7】
前記ディップコーティングする工程において、前記ヘッドレストステーを、前記非フッ素樹脂塗料中に、少なくとも1分間以上、保持することを特徴とする請求項5または6に記載のディップコーティング方法。
【請求項8】
前記ディップコーティングする工程の前段に、前記ヘッドレストステーを脱脂するための脱脂工程を設けることを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載のディップコーティング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−40266(P2012−40266A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185726(P2010−185726)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000150512)株式会社仲田コーティング (40)
【Fターム(参考)】