ディファレンシャル装置
【課題】部品点数の増大及び大型化を抑制し差動制限力を増大させることのできるディファレンシャル装置を提供する。
【解決手段】ディファレンシャル装置1は、一対のサイドギヤ21,22と、一対のサイドギヤ21,22に回転軸線O2を直交させて噛み合い、回転軸線O2に沿った貫通孔310,320を有する一対のピニオンギヤ31,32と、ピニオンギヤ31,32の貫通孔310,320の内面に接触してピニオンギヤ31,32を回転可能に支持する支持部材4とを備え、ピニオンギヤ31,32は、貫通孔310,320の内面における支持部材4との接触面が第1の接触領域、及び前記第1の接触領域よりも大径に形成された第2の接触領域を有し、前記第2の接触領域は、前記第1の接触領域との間に前記支持部材に接触しない非接触領域を挟んで、前記第1の接触領域よりも一対のサイドギヤ21,22の回転軸線O1に対する径方向の外側に形成される。
【解決手段】ディファレンシャル装置1は、一対のサイドギヤ21,22と、一対のサイドギヤ21,22に回転軸線O2を直交させて噛み合い、回転軸線O2に沿った貫通孔310,320を有する一対のピニオンギヤ31,32と、ピニオンギヤ31,32の貫通孔310,320の内面に接触してピニオンギヤ31,32を回転可能に支持する支持部材4とを備え、ピニオンギヤ31,32は、貫通孔310,320の内面における支持部材4との接触面が第1の接触領域、及び前記第1の接触領域よりも大径に形成された第2の接触領域を有し、前記第2の接触領域は、前記第1の接触領域との間に前記支持部材に接触しない非接触領域を挟んで、前記第1の接触領域よりも一対のサイドギヤ21,22の回転軸線O1に対する径方向の外側に形成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディファレンシャル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の駆動源の駆動力を一対の出力軸に、これら出力軸間の差動を制限して配分するディファレンシャル装置が知られている。
【0003】
特許文献1に記載のディファレンシャル装置は、駆動源の駆動力を一対の出力部材に差動を許容して伝達する差動機構と、この差動機構の差動回転を制限する差動制限機構とを備えている。
【0004】
差動機構は、駆動源の駆動力により回転するデフケースと、デフケースと一体的に回転するピニオンシャフトと、ピニオンシャフトに回転可能に支承された複数のピニオンギヤと、これら複数のピニオンギヤに噛み合う一対のサイドギヤとを備えている。
【0005】
差動制限機構は、ピニオンギヤとデフケースとの間に設けられた一対のカムリングと、このカムリングとデフケースの内壁との間に配置された多板クラッチとを備えている。この多板クラッチは、デフケースの内周にスプライン連結された外側摩擦板と、サイドギヤの外周にスプライン連結された内側摩擦板とを交互に配置して構成されている。
【0006】
カムリングには、複数のピニオンギヤにそれぞれ対応し、周方向の中央部に向かって傾斜する傾斜面を有する複数の溝が形成されている。この複数の溝には、ピニオンシャフトの端部が支持されている。そして、ピニオンギヤが回転駆動されると、ピニオンシャフトの端部が傾斜面に当接してカムスラスト力を発生させ、このカムスラスト力によってカムリングが多板クラッチを押圧する。この多板クラッチの押圧により発生する摩擦力は、サイドギヤのデフケースに対する回転を制限する差動制限力となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−189149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載のディファレンシャル装置では、デフケースのピニオンギヤの外周部にカムリング及び多板クラッチが配置されているので、デフケースの径方向寸法が大きくなる。また、差動制限機構として、一対のカムリング、及び一対のカムリングにそれぞれ対応して設けられた多板クラッチを有するので、部品点数が多くなる。
【0009】
そこで、本発明は、部品点数の増大及び大型化を抑制しながら差動制限力を増大させることのできるディファレンシャル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を解決するため、(1)〜(6)に記載のディファレンシャル装置を提供する。
【0011】
(1)車両の駆動源の駆動力を伝達する一対の駆動軸にそれぞれ相対回転不能に連結される一対のサイドギヤと、前記一対のサイドギヤに回転軸線を直交させて噛み合い、回転軸線に沿った貫通孔を有する複数のピニオンギヤと、前記ピニオンギヤの前記貫通孔の内面に接触して前記ピニオンギヤを回転可能に支持する支持部材と、を備え、前記ピニオンギヤは、前記貫通孔の内面における前記支持部材との接触面が第1の接触領域、及び前記第1の接触領域よりも大径に形成された第2の接触領域を有し、前記第2の接触領域は、前記第1の接触領域との間に前記支持部材に接触しない非接触領域を挟んで、前記第1の接触領域よりも前記一対のサイドギヤの回転軸線に対する径方向の外側に形成されている、ディファレンシャル装置。
【0012】
このディファレンシャル装置によれば、貫通孔における支持部材との接触面が、サイドギヤの回転軸線に対する径方向の外側の領域で大径に形成されているので、この外側の領域における支持部材との摩擦力の作用点とピニオンギヤの回転軸線との距離(モーメントアーム)が長くなり、貫通孔がその全長に亘って同径に形成された場合と比較して、差動制限力が大きくなる。また、非接触領域を挟む第1及び第2の接触領域でピニオンギヤが支持されるので、ピニオンギヤの姿勢が安定する。
【0013】
(2)前記非接触領域は、前記ピニオンギヤの回転軸線方向における前記ピニオンギヤと前記サイドギヤとの噛み合い中心点に対応する位置を含む範囲に形成されている、上記(1)に記載のディファレンシャル装置。
【0014】
このディファレンシャル装置によれば、ピニオンギヤとサイドギヤとの噛み合い中心点における荷重が第1の接触領域及び第2の接触領域に適切に分担される。
【0015】
(3)前記ピニオンギヤは、前記ピニオンギヤと前記サイドギヤとの間の駆動力伝達荷重の分担割合が、前記第1の接触領域よりも前記第2の接触領域で高い、上記(2)に記載のディファレンシャル装置。
【0016】
このディファレンシャル装置によれば、支持部材との摩擦力の作用点とピニオンギヤの回転軸線との距離が第1の接触領域よりも長い第2の接触領域でより多くの駆動力伝達荷重を分担するので、第2の接触領域における駆動力伝達荷重の分担割合が第1の接触領域よりも小さい場合、あるいは第1の接触領域と第2の接触領域における駆動力伝達荷重の分担割合が等しい場合に比較して、差動制限力が大きくなる。
【0017】
(4)前記支持部材は、前記サイドギヤの回転軸線に対する周方向の端部が前記ピニオンギヤの前記第2の接触領域に接触しないように切欠き形成されている、上記(1)〜(3)の何れかに記載のディファレンシャル装置。
【0018】
このディファレンシャル装置によれば、支持部材がサイドギヤの回転軸線方向の両端部付近ではピニオンギヤと接触しないので、支持部材からピニオンギヤへ駆動力を伝達する接触面のサイドギヤの回転方向に対する角度が浅くなり、支持部材が上記切欠きを有しない場合に比較して、差動制限力が大きくなる。
【0019】
(5)前記支持部材は、前記サイドギヤの回転軸線に対する周方向の両端部が前記ピニオンギヤの前記第2の接触領域に接触しないように非対称に切欠き形成されている、上記(1)〜(4)の何れかに記載のディファレンシャル装置。
【0020】
このディファレンシャル装置によれば、支持部材とピニオンギヤとの間で伝達される駆動力又は制動力に対する差動制限力の大きさの割合を、車両の加速時よりも減速時に大きくすることが可能となる。
【0021】
(6)前記支持部材は、前記ピニオンギヤの前記第1の接触領域に接触する軸状の第1部材と、前記第1部材に対して回り止めされ、前記第1部材に外嵌されて前記ピニオンギヤの前記第2の接触領域に接触する環状の第2部材とを有する、上記(1)〜(5)の何れかに記載のディファレンシャル装置。
【0022】
このディファレンシャル装置によれば、第1部材と第2部材とを別個に成形することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、部品点数の増大及び大型化を抑制しながら差動制限力を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るディファレンシャル装置が搭載された車両100の概略の構成を示す模式図。
【図2】ディファレンシャル装置の断面図。
【図3】第1のピニオンギヤ及びその周辺部を示す図2のA−A線断面図。
【図4】第1のピニオンギヤの形状を詳細に示す断面図。
【図5】第1のピニオンギヤの回転軸線に沿った第1のピニオンギヤ及びその周辺部を示す断面図。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る第1のピニオンギヤ及びその周辺部を、ピニオンシャフトから第1のピニオンギヤへの駆動力のベクトル図と共に示す説明図。
【図7】本発明の第3の実施の形態に係る第1のピニオンギヤ及びその周辺部を示す断面図。
【図8】本発明の第4の実施の形態に係るディファレンシャル装置の断面図。
【図9】本発明の第5の実施の形態に係るディファレンシャル装置の断面図。
【図10】本発明の第6の実施の形態に係るディファレンシャル装置の断面図。
【図11】本発明の第6の実施の形態に係る第1のピニオンギヤ及びその周辺部を示す図10のB−B線断面図。
【図12】本発明の第7の実施の形態に係る第1のピニオンギヤ及びその周辺部を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態について、図1〜図5を参照して説明する。
【0026】
図1に示すように、車両100は、駆動系を構成する装置として、駆動源としてのエンジン10と、エンジン10の出力を変速するトランスミッション11と、トランスミッション11の出力を一対の駆動軸としてのドライブシャフト121,122に配分するディファレンシャル装置1とを備えている。
【0027】
ドライブシャフト121は右前輪131に連結され、ドライブシャフト122は左前輪132に連結されている。ドライブシャフト121,122は、エンジン10の駆動力を右前輪131及び左前輪132に伝達する。また、ディファレンシャル装置1の外周にはリングギヤ10が固定され、リングギヤ10はトランスミッション11の出力軸に設けられた出力ギヤ110と噛み合っている。エンジン10,トランスミッション11,及びディファレンシャル装置1は車体101に支持されている。
【0028】
図2に示すように、ディファレンシャル装置1は、ドライブシャフト121,122(図1に示す)に相対回転不能にそれぞれ連結された第1及び第2のサイドギヤ21,22と、第1及び第2のサイドギヤ21,22に共に噛み合う第1及び第2のピニオンギヤ31,32と、第1及び第2のピニオンギヤ31,32を挿通する軸状のピニオンシャフト40と、このピニオンシャフト40に外嵌された環状のフリクションリング41,42と、ピニオンシャフト40と一体回転し、第1及び第2のサイドギヤ21,22及び第1及び第2のピニオンギヤ31,32を収容するデフケース50とを備えている。
【0029】
第1及び第2のサイドギヤ21,22及び第1及び第2のピニオンギヤ31,32は、第1及び第2のサイドギヤ21,22の回転軸線O1とピニオンギヤ31,32の回転軸線O2とを直交させてデフケース50内に支持されている。デフケース50内には、第1及び第2のサイドギヤ21,22及び第1及び第2のピニオンギヤ31,32の回転を円滑にし、この回転に伴う摩耗を抑制するための潤滑油が供給される。
【0030】
ピニオンシャフト40及びフリクションリング41,42は、第1及び第2のピニオンギヤ31,32を回転可能に支持する支持部材4を構成する。つまり、支持部材4は、第1部材としてのピニオンシャフト40と、第2部材としてのフリクションリング41,42とを有する。ピニオンシャフト40は、軸方向の一端部及び他端部がデフケース50に形成された保持孔50aに保持されている。ピニオンシャフト40は、ピニオンシャフト40の一端部をその径方向に貫通するピン51によってデフケース50に対して回り止め及び抜け止めされている。
【0031】
フリクションリング41,42は、環状に形成され、デフケース50の保持孔50aの内側の位置に、一方の軸方向端面をデフケース50の内面に対向させて配置されている。フリクションリング41とフリクションリング42とは、同形状に形成されている。
【0032】
図3に示すように、フリクションリング41の外周面には、第1及び第2のサイドギヤ21,22の回転軸線O1に垂直かつピニオンシャフト40の中心軸に平行な2つの平面41aに沿って切欠き形成された2つの切欠き部411が形成されている。フリクションリング41の外周面のうち、2つの切欠き部411を除く部分は、円弧面41bとして形成されている。
【0033】
また、フリクションリング41は、ピニオンシャフト40を挿通させる挿通孔410を有している。挿通孔410の内面は、2つの平面410aと、これら2つの平面410aの間にそれぞれ形成された円弧状の2つの円弧面410bとからなる。2つの平面410aは、2つの平面41aに平行で、かつ互いに向かい合うように形成されている。
【0034】
ピニオンシャフト40は、フリクションリング41の挿通孔410に挿通される部分の断面形状が、挿通孔410に対応した形状に形成されている。すなわち、ピニオンシャフト40の外面は、挿通孔410の2つの平面410aにそれぞれ対向する2つの平面40aと、挿通孔410の2つの円弧面410bにそれぞれ対向する2つの円弧面40bとによって構成されている。平面40a及び円弧面40bは、フリクションリング41及び第1のピニオンギヤ31に挿通された部分の全体に亘って形成されている。つまり、本実施の形態では、フリクションリング41の挿通孔410の内面及びピニオンシャフト40の外面の断面形状が共に非円形に形成されていることにより、フリクションリング41がピニオンシャフト40に対して回転不能とされている。
【0035】
図2に示すように、デフケース50は、支持部材4に回転可能に支持された第1及び第2のピニオンギヤ31,32、及び第1及び第2のサイドギヤ21,22を収容している。デフケース50は、リングギヤ10(図1に示す)が固定されるフランジ部500と、第1及び第2のピニオンギヤ31,32及び第1及び第2のサイドギヤ21,22を収容する収容部501と、ドライブシャフト121,122を挿通させる円筒部502,503と、を一体に有している。
【0036】
収容部501の第1及び第2のピニオンギヤ31,32の背面側(回転軸線O1に対する径方向外側)には、フリクションリング41,42の背面41d,42dに接触し、回転軸線O2方向へのフリクションリング41,42の移動を規制する背面支持部501a,501bが形成されている。本実施の形態では、背面支持部501a,501bが球面状に形成され、同じく球面状に形成されたフリクションリング41,42の背面41d,42dに接触し、第1及び第2のピニオンギヤ31,32には接触しないように形成されている。
【0037】
また、デフケース50の一方の保持孔50aに直交して形成された貫通孔50bには、ピン51が圧入されている。円筒部502,503の内周面502a,503aには、ドライブシャフト121,122との摺動を円滑にする潤滑油を供給するための螺旋溝が形成されている。また、円筒部502,503の外周面502b,503bには、デフケース50を車体に対して回転可能に支持する図略のベアリングが嵌合される。
【0038】
第1及び第2のサイドギヤ21,22は、傘歯車からなり、その背面がデフケース50の内面に平板状のワッシャ52,53を介して対向している。第1及び第2のサイドギヤ21,22の中心部には、ドライブシャフト121,122を連結するためのスプライン嵌合部21a,22aが形成されている。
【0039】
第1及び第2のピニオンギヤ31,32は、第1及び第2のサイドギヤ21,22よりも小径に形成された傘歯車からなり、支持部材4に回転可能に支持されている。なお、本実施の形態では、ディファレンシャル装置1が一対のピニオンギヤを有する場合について説明するが、複数対のピニオンギヤ(例えば4つ)を有していてもよい。この場合には、支持部材4を十字状に構成して、各ピニオンギヤを支持することができる。
【0040】
第1及び第2のサイドギヤ21,22とデフケース50とは、同軸上に配置され、回転軸線O1を共有している。第1及び第2のピニオンギヤ31,32の回転軸線O2は、回転軸線O1と直交している。すなわち、第1及び第2のピニオンギヤ31,32は、第1及び第2のサイドギヤ21,22に回転軸線を直交させて噛み合っている。
【0041】
第1のピニオンギヤ31と第2のピニオンギヤ32とは、同形状に形成されている。第1のピニオンギヤ31には、回転軸線O2に沿って第1のピニオンギヤ31を貫通する貫通孔310が形成されている。また、第2のピニオンギヤ32には、回転軸線O2に沿って第2のピニオンギヤ32を貫通する貫通孔320が形成されている。そして、支持部材4は、第1のピニオンギヤ31の貫通孔310及び第2のピニオンギヤ32の貫通孔320の内面に接触して第1及び第2のピニオンギヤ31,32を回転可能に支持している。
【0042】
図4に示すように、第1のピニオンギヤ31は本体部31aとギヤ部31bとからなる。ギヤ部31bは、本体部31aの外周部に本体部31aと一体に形成され、第1及び第2のサイドギヤ21,22に噛み合う複数のギヤ歯314が放射状に形成されている。
【0043】
貫通孔310は、本体部31aの中心部に形成され、デフケース50に収容された状態における回転軸線O1(図2に示す)に対して遠い側から順に、大径部311,中径部312,小径部313を有している。小径部313及び中径部312の内径は、ギヤ部31bの最小径d0よりも小さく、大径部311の内径は、ギヤ部31bの最小径d0よりも大きく形成されている。
【0044】
小径部313の内面313aは、ピニオンシャフト40の円弧面40b(図3に示す)に接触する第1の接触領域である。大径部311の内面311aは、フリクションリング41の円弧面41b(図3に示す)に接触する第2の接触領域である。中径部312の内面312aは、ピニオンシャフト40及びフリクションリング41の何れにも接触しない非接触領域である。すなわち、大径部311の内面311aは、小径部313の内面313aとの間に、非接触領域である中径部312の内面312aを挟んで、小径部313の内面313aよりもデフケース50の回転軸線O1に対する径方向の外側に形成されている。また、内面311a、内面312a、及び内面313aは、回転軸線O2に対して平行となるように形成されている。
【0045】
大径部311の内面311a及び小径部313の内面313aは、支持部材4(ピニオンシャフト40及びフリクションリング41,42)と接触する接触面310aである。つまり、この接触面310aは、デフケース50の回転軸線O1に対する径方向の内側の領域(内面313a)よりも外側の領域(内面311a)で大径に形成されている。
【0046】
図2に示すように、第1のピニオンギヤ31の大径部311には、フリクションリング41が収容されている。フリクションリング41の外周面は、大径部311の内面311aに対向し、第1のピニオンギヤ31がデフケース50内で自転(回転軸線O2を回転軸とする回転)すると、大径部311の内面311aがフリクションリング41の円弧面41bと摺動する。また、第2のピニオンギヤ32においても、その大径部321にフリクションリング42が収容され、第2のピニオンギヤ32が自転すると、大径部321の内面321aがフリクションリング42の外周に形成された円弧面と摺動する。
【0047】
図5に示すように、第1のピニオンギヤ31の小径部313における内面313aとピニオンシャフト40の円弧面40b(図3に示す)との接触領域の回転軸線O2に沿った方向の中心位置をp1、第1のピニオンギヤ31の大径部311における内面311aとフリクションリング41の外周における円弧面41b(図3に示す)との接触領域の回転軸線O2に沿った方向の中心位置をp2、第1のピニオンギヤ31のギヤ歯314と第1のサイドギヤ21のギヤ歯211との噛み合い中心(第1のピニオンギヤ31から第1のサイドギヤ21への駆動力伝達時に最も荷重が大きくなる点)をp3とすると、p2とp3との回転軸線O2方向の距離l2は、p1とp3との回転軸線O2方向の距離l1よりも小さい(l2<l1)。
【0048】
つまり、第2の接触領域の中心位置とギヤ歯314及びギヤ歯211の噛み合い中心との回転軸線O2方向の距離は、第1の接触領域の中心位置とギヤ歯314及びギヤ歯211の噛み合い中心との回転軸線O2方向の距離よりも短いので、第1のピニオンギヤ31と第1のサイドギヤ21との駆動力伝達荷重の分担割合は、第1の接触領域よりも第2の接触領域で高い。
【0049】
また、p2の回転軸線O2からの距離r2は、p1の回転軸線O2からの距離r1よりも長い。これにより、第1のピニオンギヤ31の第1の接触領域におけるピニオンシャフト40との間の摩擦力と、第1のピニオンギヤ31の第2の接触領域におけるフリクションリング41との間の摩擦力とが同じであると仮定した場合、第1のピニオンギヤ31の自転を抑制する力(差動制限力)の寄与度は、距離r2と距離r1との比に応じて、第2の接触領域における差動制限力の方が大きくなる。
【0050】
つまり、より差動制限力を大きく発生させることのできる第2の接触領域における駆動力伝達荷重の分担割合を、第1の接触領域における駆動力伝達荷重の分担割合よりも大きくしているので、例えば第1のピニオンギヤ31の貫通孔310の径をその全長に亘って同径(小径部313の径)とした場合に比較して、差動制限力を大きくすることができる。
【0051】
また、貫通孔310の非接触領域である内面312aは、回転軸線O2方向における噛み合い中心p3に対応する位置を含む範囲に形成されている。換言すれば、噛み合い中心p3は内面312aの外周側に位置している。これにより、駆動力伝達荷重は、貫通孔310の内面311a又は内面313aの一方ではなく、貫通孔310の両端部にあたる内面311a及び内面313aの双方に作用するので、第1のピニオンギヤ31の自転時の姿勢が安定する。
【0052】
なお、図5では説明のために、回転軸線O1及び回転軸線O2を含む断面においてp1,p2,p3を示しているが、第1のピニオンギヤ31とピニオンシャフト40及びフリクションリング41との間では、回転軸線O1の周方向に駆動力の伝達が行われるので、実際に駆動力伝達荷重が発生する位置は、内面311a,313aの周方向に沿った図5の紙面の手前又は奥側である。
【0053】
[第2の実施の形態]
次に、図6を参照して本発明の第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態では、フリクションリング41の回転軸線O1(サイドギヤ21,22の回転軸線)に対する周方向の両側に一対の切欠き部412が形成された構成が第1の実施の形態と異なる。また、図示は省略しているが、フリクションリング42も同様に形成されている。この他の構成は第1の実施の形態と共通である。なお、以下の実施の形態において、第1の実施の形態について説明したものと機能が共通する構成要素については、共通する符号を付して、その重複した説明を省略する。
【0054】
図6に示すように、本実施の形態では、フリクションリング41に、回転軸線O1に平行かつピニオンシャフト40の中心軸に平行な2つの平面41cに沿って切欠き形成された2つの切欠き部412が形成されている。2つの平面41cは、互いに平行で、ピニオンシャフト40を挟むように回転軸線O1の周方向に離間して形成されている。
【0055】
図6では、ピニオンシャフト40がデフケース50から受けた駆動力をフリクションリング41を介して第1のピニオンギヤ31へ伝達する際の荷重をベクトルで示している。この図では、ピニオンシャフト40からフリクションリング41への荷重の作用点をp0とし、その荷重の向き及び大きさをベクトルv1で示している。
【0056】
ピニオンシャフト40からフリクションリング41へ伝達された駆動力は、切欠き部412(平面41c)の両端部付近における2つの作用点p11,p12から第1のピニオンギヤ31へ伝達される。
【0057】
作用点p12における荷重の向き及び大きさは、作用点p11における荷重の向き及び大きさと対称であるので、作用点p11における荷重を例にとって説明すると、作用点p11におけるベクトルv1に平行な方向の荷重の大きさは、ベクトルv11により示されるように、作用点p0における荷重の大きさの1/2である。このベクトルv11により示される荷重は、第1のピニオンギヤ31の内面311aの法線方向の荷重(ベクトルv21)の分力であるので、内面311aに垂直な方向には、ベクトルv1に平行な方向の荷重よりも大きな荷重が作用する。
【0058】
また、作用点p12についても同様に、ベクトルv1に平行な方向に、ベクトルv12に示される、作用点p0における荷重の大きさの1/2の荷重が作用する。そして、作用点p12における内面311aに垂直な方向には、ベクトルv1に平行な方向の荷重よりも大きな荷重(ベクトルv22に示す)が作用する。作用点p11及び作用点p12におけるベクトルv1に平行な方向の荷重の合計は、作用点p0におけるベクトルv1方向の荷重に相当する。
【0059】
換言すれば、ピニオンシャフト40から第1のピニオンギヤ31への駆動力伝達時に第1のピニオンギヤ31の内面311aの法線方向に作用する荷重(ベクトルv21,v22)は、第1のピニオンギヤ31の公転方向に平行な荷重(ベクトルv11,v12)及び第1のピニオンギヤ31の公転方向に垂直な荷重(ベクトルv31,v32)に分解され、2つの作用点p11,p12おける第1のピニオンギヤ31の公転方向に平行な荷重の合力がピニオンシャフト40からフリクションリング41への荷重(ベクトルv1)に相当する。
【0060】
これにより、フリクションリング41に切欠き部412が形成されていない場合に比較して、フリクションリング41と第1のピニオンギヤ31との間の摩擦力が大きくなる。よって、ディファレンシャル装置1の差動制限力が増大する。
【0061】
[第3の実施の形態]
次に、図7を参照して本発明の第3の実施の形態について説明する。第3の実施の形態では、フリクションリング41の回転軸線O1(サイドギヤ21,22の回転軸線)に平行な方向の両端に一対の切欠き411が形成され、かつ回転軸線O1の周方向の両端に一対の切欠き部412が形成されている。また、図示は省略しているが、フリクションリング42も同様に形成されている。この他の構成は第1及び第2の実施の形態と共通である。
【0062】
本実施の形態によれば、第2の実施の形態について述べた作用及び効果に加え、第1のピニオンギヤ31と摺動するフリクションリング41の円弧面41bに、一対の切欠き411からも潤滑油が供給され、より適切にフリクションリング41と第1のピニオンギヤ31との潤滑を行うことができる。
【0063】
[第4の実施の形態]
次に、図8を参照して本発明の第4の実施の形態について説明する。第1の実施の形態(図2参照)では、背面支持部501a,501bが、第1及び第2のピニオンギヤ31,32に接触しないように形成されていたが、本実施の形態では、背面支持部501a,501bが、球面状のワッシャ54,55を介してフリクションリング41,42の背面41d,42dと、第1及び第2のピニオンギヤ31,32の背面311b,321bとを支持し、ワッシャ54,55が第1及び第2のピニオンギヤ31,32の背面311b,321bと摺動するように形成されていている。球面状のワッシャ54,55は、デフケース50に対して回転しないように回り止めされている。これにより、第1及び第2のピニオンギヤ31,32の回転時に背面311b,321bとワッシャ54,55との間で摩擦力が発生し、第1の実施の形態に比較して、ディファレンシャル装置1の差動制限力がさらに増大する。
【0064】
[第5の実施の形態]
次に、図9を参照して本発明の第5の実施の形態について説明する。第1の実施の形態(図2参照)では、第1及び第2のサイドギヤ21,22とデフケース50の内面との間に平板状のワッシャ52,53が配置されていたが、本実施の形態では、平板状のワッシャ52,53に替えて、回転軸線O2に近づく方向の中心部側に向かって内径が徐々に大きくなるテーパ状の環状支持部材61,62が配置されている。環状支持部材61,62は、デフケース50に対して回転不能に収容されている。
【0065】
第1及び第2のサイドギヤ21,22は、第1及び第2のピニオンギヤ31,32との噛み合い反力によって環状支持部材61,62に向かって押し付けられる。これにより、第1及び第2のサイドギヤ21、22の環状支持部材61,62との接触面の回転軸線O1に対する角度が第1の実施の形態の場合(第1及び第2のピニオンギヤ31,32の噛み合い反力を平板状のワッシャ52,53で受ける場合)よりも浅くなり、これに応じて第1及び第2のサイドギヤ21、22が環状支持部材61,62から受ける摩擦力が大きくなり、第1の実施の形態に比較して、ディファレンシャル装置1の差動制限力がさらに増大する。
【0066】
[第6の実施の形態]
次に、図10及び図11を参照して本発明の第6の実施の形態について説明する。第1の実施の形態(図3参照)では、フリクションリング41の挿通孔410の内面及びピニオンシャフト40の外面の断面形状が共に非円形に形成されていることにより、フリクションリング41がピニオンシャフト40に対して回転不能とされていたが、本実施の形態では、フリクションリング41,42とピニオンシャフト40との間に挿入された円柱状のピン71,72により、フリクションリング41,42とピニオンシャフト40とが回転不能とされている。
【0067】
図11に示すように、ピン71が挿入された挿入孔710は、フリクションリング41の内周面に形成された断面半円状の凹部710aと、ピニオンシャフト40の外周面に形成された断面半円状の凹部710bとの結合により、形成されている。この挿入孔710は、ピニオンシャフト40の延伸方向に平行に延びるように形成されている。ピン71は、その一端がデフケース50の保持孔50bに圧入されたピン51に当接して抜け止めされている。
【0068】
ピン72が挿入された挿入孔720は、フリクションリング42の内周面に形成された断面半円状の凹部720aと、ピニオンシャフト40の外周面に形成された断面半円状の凹部720bとの結合により形成されている。ピン72は、デフケース50の保持孔50cに圧入されたピン56に当接して抜け止めされている。
【0069】
本実施の形態によれば、第1の実施の形態に比較して、ピニオンシャフト40に対してフリクションリング41,42を回り止めするための構成が容易となり、製造コストを低減することができる。
【0070】
[第7の実施の形態]
次に、図12を参照して本発明の第7の実施の形態について説明する。第7の実施の形態では、フリクションリング41の回転軸線O1(サイドギヤ21,22の回転軸線)に対する周方向の一端に切欠き部413が形成され、他端に切欠き部414が形成されている。すなわち、フリクションリング41は、回転軸線O1に対する周方向の両端部が第1のピニオンギヤ31の大径部311の内面311aに接触しないように、非対称に切欠き形成されている。また、図示は省略しているが、フリクションリング42も同様に形成されている。この他の構成は第1及び第2の実施の形態と共通である。
【0071】
本実施の形態では、切欠き部414の切欠き量が、切欠き部413の切欠き量よりも大きく形成されている。より具体的には、切欠き部413は回転軸線O1に平行かつピニオンシャフト40の中心軸に平行な平面41c1に沿って切欠き形成され、切欠き部414は平面41c1に平行で、かつ平面41c1よりも回転軸線O1方向の幅が大きい平面41c2に沿って切欠き形成されている。
【0072】
図12では、車両の前進時における加速時及び減速時に、ピニオンシャフト40がデフケース50から受けた駆動力をフリクションリング41を介して第1のピニオンギヤ31へ伝達する際の荷重をベクトルで示している。この図では、ピニオンシャフト40からフリクションリング41への加速時における荷重の作用点をp0とし、その荷重の向き及び大きさをベクトルv1で示している。また、ピニオンシャフト40からフリクションリング41への減速時における荷重の作用点をp2とし、その荷重の向き及び大きさをベクトルv2で示している。
【0073】
加速時においてピニオンシャフト40からフリクションリング41へ伝達された駆動力は、切欠き部413(平面41c1)の両端部付近における2つの作用点p11,p12から第1のピニオンギヤ31へ伝達される。
【0074】
一方、減速時においてピニオンシャフト40からフリクションリング41へ伝達された制動力は、切欠き部414(平面41c2)の両端部付近における2つの作用点p23,p24から第1のピニオンギヤ31へ伝達される。
【0075】
作用点p24における荷重の向き及び大きさは、作用点p23における荷重の向き及び大きさと対称であるので、作用点p23における荷重を例にとって説明すると、作用点p23におけるベクトルv2に平行な方向の荷重の大きさは、ベクトルv13により示されるように、作用点p2における荷重の大きさの1/2である。このベクトルv13により示される荷重は、第1のピニオンギヤ31の内面311aの法線方向の荷重(ベクトルv23)の分力であるので、内面311aに垂直な方向には、ベクトルv2に平行な方向の荷重よりも大きな荷重が作用する。
【0076】
また、作用点p24についても同様に、ベクトルv2に平行な方向に、ベクトルv14に示される、作用点p2における荷重の大きさの1/2の荷重が作用する。そして、作用点p24における内面311aに垂直な方向には、ベクトルv2に平行な方向の荷重よりも大きな荷重(ベクトルv24に示す)が作用する。作用点p23及び作用点p24におけるベクトルv2に平行な方向の荷重の合計は、作用点p2におけるベクトルv2方向の荷重に相当する。
【0077】
本実施の形態では、切欠き部414が、切欠き部413よりも大きく形成されているので、作用点p23及び作用点p24と作用点p2との回転軸線O1方向の距離が、作用点p11及び作用点p12と作用点p0との回転軸線O1方向の距離よりも大きくなり、ベクトルv23,v24の長さがベクトルv21,v22がよりも長くなる。つまり、フリクションリング41と第1のピニオンギヤ31との間で伝達される駆動力又は制動力に対する差動制限力の大きさの割合が、車両の加速時よりも減速時に大きくなる。
【0078】
これにより、例えば図6に示す第2の実施の形態のように、2つの切欠き部412(本実施の形態に係る切欠き部413と同形状)が対称な形状に形成された場合に比較して、減速時における差動制限力を大きくすることができ、車両の挙動を安定させることができる。つまり、一般的に減速時においてフリクションリング41と第1のピニオンギヤ31との間で伝達される制動力は、加速時における駆動力よりも小さいので、減速時における差動制限力が不足する傾向にあるが、本実施の形態のように切欠き部を非対称とすることで、減速時における差動制限力を補うことが可能となる。
【符号の説明】
【0079】
1…ディファレンシャル装置
21…第1のサイドギヤ
22…第2のサイドギヤ
31…第1のピニオンギヤ
32…第2のピニオンギヤ
4…支持部材
40…ピニオンシャフト
41,42…フリクションリング
50…デフケース
100…車両
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディファレンシャル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の駆動源の駆動力を一対の出力軸に、これら出力軸間の差動を制限して配分するディファレンシャル装置が知られている。
【0003】
特許文献1に記載のディファレンシャル装置は、駆動源の駆動力を一対の出力部材に差動を許容して伝達する差動機構と、この差動機構の差動回転を制限する差動制限機構とを備えている。
【0004】
差動機構は、駆動源の駆動力により回転するデフケースと、デフケースと一体的に回転するピニオンシャフトと、ピニオンシャフトに回転可能に支承された複数のピニオンギヤと、これら複数のピニオンギヤに噛み合う一対のサイドギヤとを備えている。
【0005】
差動制限機構は、ピニオンギヤとデフケースとの間に設けられた一対のカムリングと、このカムリングとデフケースの内壁との間に配置された多板クラッチとを備えている。この多板クラッチは、デフケースの内周にスプライン連結された外側摩擦板と、サイドギヤの外周にスプライン連結された内側摩擦板とを交互に配置して構成されている。
【0006】
カムリングには、複数のピニオンギヤにそれぞれ対応し、周方向の中央部に向かって傾斜する傾斜面を有する複数の溝が形成されている。この複数の溝には、ピニオンシャフトの端部が支持されている。そして、ピニオンギヤが回転駆動されると、ピニオンシャフトの端部が傾斜面に当接してカムスラスト力を発生させ、このカムスラスト力によってカムリングが多板クラッチを押圧する。この多板クラッチの押圧により発生する摩擦力は、サイドギヤのデフケースに対する回転を制限する差動制限力となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−189149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載のディファレンシャル装置では、デフケースのピニオンギヤの外周部にカムリング及び多板クラッチが配置されているので、デフケースの径方向寸法が大きくなる。また、差動制限機構として、一対のカムリング、及び一対のカムリングにそれぞれ対応して設けられた多板クラッチを有するので、部品点数が多くなる。
【0009】
そこで、本発明は、部品点数の増大及び大型化を抑制しながら差動制限力を増大させることのできるディファレンシャル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を解決するため、(1)〜(6)に記載のディファレンシャル装置を提供する。
【0011】
(1)車両の駆動源の駆動力を伝達する一対の駆動軸にそれぞれ相対回転不能に連結される一対のサイドギヤと、前記一対のサイドギヤに回転軸線を直交させて噛み合い、回転軸線に沿った貫通孔を有する複数のピニオンギヤと、前記ピニオンギヤの前記貫通孔の内面に接触して前記ピニオンギヤを回転可能に支持する支持部材と、を備え、前記ピニオンギヤは、前記貫通孔の内面における前記支持部材との接触面が第1の接触領域、及び前記第1の接触領域よりも大径に形成された第2の接触領域を有し、前記第2の接触領域は、前記第1の接触領域との間に前記支持部材に接触しない非接触領域を挟んで、前記第1の接触領域よりも前記一対のサイドギヤの回転軸線に対する径方向の外側に形成されている、ディファレンシャル装置。
【0012】
このディファレンシャル装置によれば、貫通孔における支持部材との接触面が、サイドギヤの回転軸線に対する径方向の外側の領域で大径に形成されているので、この外側の領域における支持部材との摩擦力の作用点とピニオンギヤの回転軸線との距離(モーメントアーム)が長くなり、貫通孔がその全長に亘って同径に形成された場合と比較して、差動制限力が大きくなる。また、非接触領域を挟む第1及び第2の接触領域でピニオンギヤが支持されるので、ピニオンギヤの姿勢が安定する。
【0013】
(2)前記非接触領域は、前記ピニオンギヤの回転軸線方向における前記ピニオンギヤと前記サイドギヤとの噛み合い中心点に対応する位置を含む範囲に形成されている、上記(1)に記載のディファレンシャル装置。
【0014】
このディファレンシャル装置によれば、ピニオンギヤとサイドギヤとの噛み合い中心点における荷重が第1の接触領域及び第2の接触領域に適切に分担される。
【0015】
(3)前記ピニオンギヤは、前記ピニオンギヤと前記サイドギヤとの間の駆動力伝達荷重の分担割合が、前記第1の接触領域よりも前記第2の接触領域で高い、上記(2)に記載のディファレンシャル装置。
【0016】
このディファレンシャル装置によれば、支持部材との摩擦力の作用点とピニオンギヤの回転軸線との距離が第1の接触領域よりも長い第2の接触領域でより多くの駆動力伝達荷重を分担するので、第2の接触領域における駆動力伝達荷重の分担割合が第1の接触領域よりも小さい場合、あるいは第1の接触領域と第2の接触領域における駆動力伝達荷重の分担割合が等しい場合に比較して、差動制限力が大きくなる。
【0017】
(4)前記支持部材は、前記サイドギヤの回転軸線に対する周方向の端部が前記ピニオンギヤの前記第2の接触領域に接触しないように切欠き形成されている、上記(1)〜(3)の何れかに記載のディファレンシャル装置。
【0018】
このディファレンシャル装置によれば、支持部材がサイドギヤの回転軸線方向の両端部付近ではピニオンギヤと接触しないので、支持部材からピニオンギヤへ駆動力を伝達する接触面のサイドギヤの回転方向に対する角度が浅くなり、支持部材が上記切欠きを有しない場合に比較して、差動制限力が大きくなる。
【0019】
(5)前記支持部材は、前記サイドギヤの回転軸線に対する周方向の両端部が前記ピニオンギヤの前記第2の接触領域に接触しないように非対称に切欠き形成されている、上記(1)〜(4)の何れかに記載のディファレンシャル装置。
【0020】
このディファレンシャル装置によれば、支持部材とピニオンギヤとの間で伝達される駆動力又は制動力に対する差動制限力の大きさの割合を、車両の加速時よりも減速時に大きくすることが可能となる。
【0021】
(6)前記支持部材は、前記ピニオンギヤの前記第1の接触領域に接触する軸状の第1部材と、前記第1部材に対して回り止めされ、前記第1部材に外嵌されて前記ピニオンギヤの前記第2の接触領域に接触する環状の第2部材とを有する、上記(1)〜(5)の何れかに記載のディファレンシャル装置。
【0022】
このディファレンシャル装置によれば、第1部材と第2部材とを別個に成形することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、部品点数の増大及び大型化を抑制しながら差動制限力を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るディファレンシャル装置が搭載された車両100の概略の構成を示す模式図。
【図2】ディファレンシャル装置の断面図。
【図3】第1のピニオンギヤ及びその周辺部を示す図2のA−A線断面図。
【図4】第1のピニオンギヤの形状を詳細に示す断面図。
【図5】第1のピニオンギヤの回転軸線に沿った第1のピニオンギヤ及びその周辺部を示す断面図。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る第1のピニオンギヤ及びその周辺部を、ピニオンシャフトから第1のピニオンギヤへの駆動力のベクトル図と共に示す説明図。
【図7】本発明の第3の実施の形態に係る第1のピニオンギヤ及びその周辺部を示す断面図。
【図8】本発明の第4の実施の形態に係るディファレンシャル装置の断面図。
【図9】本発明の第5の実施の形態に係るディファレンシャル装置の断面図。
【図10】本発明の第6の実施の形態に係るディファレンシャル装置の断面図。
【図11】本発明の第6の実施の形態に係る第1のピニオンギヤ及びその周辺部を示す図10のB−B線断面図。
【図12】本発明の第7の実施の形態に係る第1のピニオンギヤ及びその周辺部を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態について、図1〜図5を参照して説明する。
【0026】
図1に示すように、車両100は、駆動系を構成する装置として、駆動源としてのエンジン10と、エンジン10の出力を変速するトランスミッション11と、トランスミッション11の出力を一対の駆動軸としてのドライブシャフト121,122に配分するディファレンシャル装置1とを備えている。
【0027】
ドライブシャフト121は右前輪131に連結され、ドライブシャフト122は左前輪132に連結されている。ドライブシャフト121,122は、エンジン10の駆動力を右前輪131及び左前輪132に伝達する。また、ディファレンシャル装置1の外周にはリングギヤ10が固定され、リングギヤ10はトランスミッション11の出力軸に設けられた出力ギヤ110と噛み合っている。エンジン10,トランスミッション11,及びディファレンシャル装置1は車体101に支持されている。
【0028】
図2に示すように、ディファレンシャル装置1は、ドライブシャフト121,122(図1に示す)に相対回転不能にそれぞれ連結された第1及び第2のサイドギヤ21,22と、第1及び第2のサイドギヤ21,22に共に噛み合う第1及び第2のピニオンギヤ31,32と、第1及び第2のピニオンギヤ31,32を挿通する軸状のピニオンシャフト40と、このピニオンシャフト40に外嵌された環状のフリクションリング41,42と、ピニオンシャフト40と一体回転し、第1及び第2のサイドギヤ21,22及び第1及び第2のピニオンギヤ31,32を収容するデフケース50とを備えている。
【0029】
第1及び第2のサイドギヤ21,22及び第1及び第2のピニオンギヤ31,32は、第1及び第2のサイドギヤ21,22の回転軸線O1とピニオンギヤ31,32の回転軸線O2とを直交させてデフケース50内に支持されている。デフケース50内には、第1及び第2のサイドギヤ21,22及び第1及び第2のピニオンギヤ31,32の回転を円滑にし、この回転に伴う摩耗を抑制するための潤滑油が供給される。
【0030】
ピニオンシャフト40及びフリクションリング41,42は、第1及び第2のピニオンギヤ31,32を回転可能に支持する支持部材4を構成する。つまり、支持部材4は、第1部材としてのピニオンシャフト40と、第2部材としてのフリクションリング41,42とを有する。ピニオンシャフト40は、軸方向の一端部及び他端部がデフケース50に形成された保持孔50aに保持されている。ピニオンシャフト40は、ピニオンシャフト40の一端部をその径方向に貫通するピン51によってデフケース50に対して回り止め及び抜け止めされている。
【0031】
フリクションリング41,42は、環状に形成され、デフケース50の保持孔50aの内側の位置に、一方の軸方向端面をデフケース50の内面に対向させて配置されている。フリクションリング41とフリクションリング42とは、同形状に形成されている。
【0032】
図3に示すように、フリクションリング41の外周面には、第1及び第2のサイドギヤ21,22の回転軸線O1に垂直かつピニオンシャフト40の中心軸に平行な2つの平面41aに沿って切欠き形成された2つの切欠き部411が形成されている。フリクションリング41の外周面のうち、2つの切欠き部411を除く部分は、円弧面41bとして形成されている。
【0033】
また、フリクションリング41は、ピニオンシャフト40を挿通させる挿通孔410を有している。挿通孔410の内面は、2つの平面410aと、これら2つの平面410aの間にそれぞれ形成された円弧状の2つの円弧面410bとからなる。2つの平面410aは、2つの平面41aに平行で、かつ互いに向かい合うように形成されている。
【0034】
ピニオンシャフト40は、フリクションリング41の挿通孔410に挿通される部分の断面形状が、挿通孔410に対応した形状に形成されている。すなわち、ピニオンシャフト40の外面は、挿通孔410の2つの平面410aにそれぞれ対向する2つの平面40aと、挿通孔410の2つの円弧面410bにそれぞれ対向する2つの円弧面40bとによって構成されている。平面40a及び円弧面40bは、フリクションリング41及び第1のピニオンギヤ31に挿通された部分の全体に亘って形成されている。つまり、本実施の形態では、フリクションリング41の挿通孔410の内面及びピニオンシャフト40の外面の断面形状が共に非円形に形成されていることにより、フリクションリング41がピニオンシャフト40に対して回転不能とされている。
【0035】
図2に示すように、デフケース50は、支持部材4に回転可能に支持された第1及び第2のピニオンギヤ31,32、及び第1及び第2のサイドギヤ21,22を収容している。デフケース50は、リングギヤ10(図1に示す)が固定されるフランジ部500と、第1及び第2のピニオンギヤ31,32及び第1及び第2のサイドギヤ21,22を収容する収容部501と、ドライブシャフト121,122を挿通させる円筒部502,503と、を一体に有している。
【0036】
収容部501の第1及び第2のピニオンギヤ31,32の背面側(回転軸線O1に対する径方向外側)には、フリクションリング41,42の背面41d,42dに接触し、回転軸線O2方向へのフリクションリング41,42の移動を規制する背面支持部501a,501bが形成されている。本実施の形態では、背面支持部501a,501bが球面状に形成され、同じく球面状に形成されたフリクションリング41,42の背面41d,42dに接触し、第1及び第2のピニオンギヤ31,32には接触しないように形成されている。
【0037】
また、デフケース50の一方の保持孔50aに直交して形成された貫通孔50bには、ピン51が圧入されている。円筒部502,503の内周面502a,503aには、ドライブシャフト121,122との摺動を円滑にする潤滑油を供給するための螺旋溝が形成されている。また、円筒部502,503の外周面502b,503bには、デフケース50を車体に対して回転可能に支持する図略のベアリングが嵌合される。
【0038】
第1及び第2のサイドギヤ21,22は、傘歯車からなり、その背面がデフケース50の内面に平板状のワッシャ52,53を介して対向している。第1及び第2のサイドギヤ21,22の中心部には、ドライブシャフト121,122を連結するためのスプライン嵌合部21a,22aが形成されている。
【0039】
第1及び第2のピニオンギヤ31,32は、第1及び第2のサイドギヤ21,22よりも小径に形成された傘歯車からなり、支持部材4に回転可能に支持されている。なお、本実施の形態では、ディファレンシャル装置1が一対のピニオンギヤを有する場合について説明するが、複数対のピニオンギヤ(例えば4つ)を有していてもよい。この場合には、支持部材4を十字状に構成して、各ピニオンギヤを支持することができる。
【0040】
第1及び第2のサイドギヤ21,22とデフケース50とは、同軸上に配置され、回転軸線O1を共有している。第1及び第2のピニオンギヤ31,32の回転軸線O2は、回転軸線O1と直交している。すなわち、第1及び第2のピニオンギヤ31,32は、第1及び第2のサイドギヤ21,22に回転軸線を直交させて噛み合っている。
【0041】
第1のピニオンギヤ31と第2のピニオンギヤ32とは、同形状に形成されている。第1のピニオンギヤ31には、回転軸線O2に沿って第1のピニオンギヤ31を貫通する貫通孔310が形成されている。また、第2のピニオンギヤ32には、回転軸線O2に沿って第2のピニオンギヤ32を貫通する貫通孔320が形成されている。そして、支持部材4は、第1のピニオンギヤ31の貫通孔310及び第2のピニオンギヤ32の貫通孔320の内面に接触して第1及び第2のピニオンギヤ31,32を回転可能に支持している。
【0042】
図4に示すように、第1のピニオンギヤ31は本体部31aとギヤ部31bとからなる。ギヤ部31bは、本体部31aの外周部に本体部31aと一体に形成され、第1及び第2のサイドギヤ21,22に噛み合う複数のギヤ歯314が放射状に形成されている。
【0043】
貫通孔310は、本体部31aの中心部に形成され、デフケース50に収容された状態における回転軸線O1(図2に示す)に対して遠い側から順に、大径部311,中径部312,小径部313を有している。小径部313及び中径部312の内径は、ギヤ部31bの最小径d0よりも小さく、大径部311の内径は、ギヤ部31bの最小径d0よりも大きく形成されている。
【0044】
小径部313の内面313aは、ピニオンシャフト40の円弧面40b(図3に示す)に接触する第1の接触領域である。大径部311の内面311aは、フリクションリング41の円弧面41b(図3に示す)に接触する第2の接触領域である。中径部312の内面312aは、ピニオンシャフト40及びフリクションリング41の何れにも接触しない非接触領域である。すなわち、大径部311の内面311aは、小径部313の内面313aとの間に、非接触領域である中径部312の内面312aを挟んで、小径部313の内面313aよりもデフケース50の回転軸線O1に対する径方向の外側に形成されている。また、内面311a、内面312a、及び内面313aは、回転軸線O2に対して平行となるように形成されている。
【0045】
大径部311の内面311a及び小径部313の内面313aは、支持部材4(ピニオンシャフト40及びフリクションリング41,42)と接触する接触面310aである。つまり、この接触面310aは、デフケース50の回転軸線O1に対する径方向の内側の領域(内面313a)よりも外側の領域(内面311a)で大径に形成されている。
【0046】
図2に示すように、第1のピニオンギヤ31の大径部311には、フリクションリング41が収容されている。フリクションリング41の外周面は、大径部311の内面311aに対向し、第1のピニオンギヤ31がデフケース50内で自転(回転軸線O2を回転軸とする回転)すると、大径部311の内面311aがフリクションリング41の円弧面41bと摺動する。また、第2のピニオンギヤ32においても、その大径部321にフリクションリング42が収容され、第2のピニオンギヤ32が自転すると、大径部321の内面321aがフリクションリング42の外周に形成された円弧面と摺動する。
【0047】
図5に示すように、第1のピニオンギヤ31の小径部313における内面313aとピニオンシャフト40の円弧面40b(図3に示す)との接触領域の回転軸線O2に沿った方向の中心位置をp1、第1のピニオンギヤ31の大径部311における内面311aとフリクションリング41の外周における円弧面41b(図3に示す)との接触領域の回転軸線O2に沿った方向の中心位置をp2、第1のピニオンギヤ31のギヤ歯314と第1のサイドギヤ21のギヤ歯211との噛み合い中心(第1のピニオンギヤ31から第1のサイドギヤ21への駆動力伝達時に最も荷重が大きくなる点)をp3とすると、p2とp3との回転軸線O2方向の距離l2は、p1とp3との回転軸線O2方向の距離l1よりも小さい(l2<l1)。
【0048】
つまり、第2の接触領域の中心位置とギヤ歯314及びギヤ歯211の噛み合い中心との回転軸線O2方向の距離は、第1の接触領域の中心位置とギヤ歯314及びギヤ歯211の噛み合い中心との回転軸線O2方向の距離よりも短いので、第1のピニオンギヤ31と第1のサイドギヤ21との駆動力伝達荷重の分担割合は、第1の接触領域よりも第2の接触領域で高い。
【0049】
また、p2の回転軸線O2からの距離r2は、p1の回転軸線O2からの距離r1よりも長い。これにより、第1のピニオンギヤ31の第1の接触領域におけるピニオンシャフト40との間の摩擦力と、第1のピニオンギヤ31の第2の接触領域におけるフリクションリング41との間の摩擦力とが同じであると仮定した場合、第1のピニオンギヤ31の自転を抑制する力(差動制限力)の寄与度は、距離r2と距離r1との比に応じて、第2の接触領域における差動制限力の方が大きくなる。
【0050】
つまり、より差動制限力を大きく発生させることのできる第2の接触領域における駆動力伝達荷重の分担割合を、第1の接触領域における駆動力伝達荷重の分担割合よりも大きくしているので、例えば第1のピニオンギヤ31の貫通孔310の径をその全長に亘って同径(小径部313の径)とした場合に比較して、差動制限力を大きくすることができる。
【0051】
また、貫通孔310の非接触領域である内面312aは、回転軸線O2方向における噛み合い中心p3に対応する位置を含む範囲に形成されている。換言すれば、噛み合い中心p3は内面312aの外周側に位置している。これにより、駆動力伝達荷重は、貫通孔310の内面311a又は内面313aの一方ではなく、貫通孔310の両端部にあたる内面311a及び内面313aの双方に作用するので、第1のピニオンギヤ31の自転時の姿勢が安定する。
【0052】
なお、図5では説明のために、回転軸線O1及び回転軸線O2を含む断面においてp1,p2,p3を示しているが、第1のピニオンギヤ31とピニオンシャフト40及びフリクションリング41との間では、回転軸線O1の周方向に駆動力の伝達が行われるので、実際に駆動力伝達荷重が発生する位置は、内面311a,313aの周方向に沿った図5の紙面の手前又は奥側である。
【0053】
[第2の実施の形態]
次に、図6を参照して本発明の第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態では、フリクションリング41の回転軸線O1(サイドギヤ21,22の回転軸線)に対する周方向の両側に一対の切欠き部412が形成された構成が第1の実施の形態と異なる。また、図示は省略しているが、フリクションリング42も同様に形成されている。この他の構成は第1の実施の形態と共通である。なお、以下の実施の形態において、第1の実施の形態について説明したものと機能が共通する構成要素については、共通する符号を付して、その重複した説明を省略する。
【0054】
図6に示すように、本実施の形態では、フリクションリング41に、回転軸線O1に平行かつピニオンシャフト40の中心軸に平行な2つの平面41cに沿って切欠き形成された2つの切欠き部412が形成されている。2つの平面41cは、互いに平行で、ピニオンシャフト40を挟むように回転軸線O1の周方向に離間して形成されている。
【0055】
図6では、ピニオンシャフト40がデフケース50から受けた駆動力をフリクションリング41を介して第1のピニオンギヤ31へ伝達する際の荷重をベクトルで示している。この図では、ピニオンシャフト40からフリクションリング41への荷重の作用点をp0とし、その荷重の向き及び大きさをベクトルv1で示している。
【0056】
ピニオンシャフト40からフリクションリング41へ伝達された駆動力は、切欠き部412(平面41c)の両端部付近における2つの作用点p11,p12から第1のピニオンギヤ31へ伝達される。
【0057】
作用点p12における荷重の向き及び大きさは、作用点p11における荷重の向き及び大きさと対称であるので、作用点p11における荷重を例にとって説明すると、作用点p11におけるベクトルv1に平行な方向の荷重の大きさは、ベクトルv11により示されるように、作用点p0における荷重の大きさの1/2である。このベクトルv11により示される荷重は、第1のピニオンギヤ31の内面311aの法線方向の荷重(ベクトルv21)の分力であるので、内面311aに垂直な方向には、ベクトルv1に平行な方向の荷重よりも大きな荷重が作用する。
【0058】
また、作用点p12についても同様に、ベクトルv1に平行な方向に、ベクトルv12に示される、作用点p0における荷重の大きさの1/2の荷重が作用する。そして、作用点p12における内面311aに垂直な方向には、ベクトルv1に平行な方向の荷重よりも大きな荷重(ベクトルv22に示す)が作用する。作用点p11及び作用点p12におけるベクトルv1に平行な方向の荷重の合計は、作用点p0におけるベクトルv1方向の荷重に相当する。
【0059】
換言すれば、ピニオンシャフト40から第1のピニオンギヤ31への駆動力伝達時に第1のピニオンギヤ31の内面311aの法線方向に作用する荷重(ベクトルv21,v22)は、第1のピニオンギヤ31の公転方向に平行な荷重(ベクトルv11,v12)及び第1のピニオンギヤ31の公転方向に垂直な荷重(ベクトルv31,v32)に分解され、2つの作用点p11,p12おける第1のピニオンギヤ31の公転方向に平行な荷重の合力がピニオンシャフト40からフリクションリング41への荷重(ベクトルv1)に相当する。
【0060】
これにより、フリクションリング41に切欠き部412が形成されていない場合に比較して、フリクションリング41と第1のピニオンギヤ31との間の摩擦力が大きくなる。よって、ディファレンシャル装置1の差動制限力が増大する。
【0061】
[第3の実施の形態]
次に、図7を参照して本発明の第3の実施の形態について説明する。第3の実施の形態では、フリクションリング41の回転軸線O1(サイドギヤ21,22の回転軸線)に平行な方向の両端に一対の切欠き411が形成され、かつ回転軸線O1の周方向の両端に一対の切欠き部412が形成されている。また、図示は省略しているが、フリクションリング42も同様に形成されている。この他の構成は第1及び第2の実施の形態と共通である。
【0062】
本実施の形態によれば、第2の実施の形態について述べた作用及び効果に加え、第1のピニオンギヤ31と摺動するフリクションリング41の円弧面41bに、一対の切欠き411からも潤滑油が供給され、より適切にフリクションリング41と第1のピニオンギヤ31との潤滑を行うことができる。
【0063】
[第4の実施の形態]
次に、図8を参照して本発明の第4の実施の形態について説明する。第1の実施の形態(図2参照)では、背面支持部501a,501bが、第1及び第2のピニオンギヤ31,32に接触しないように形成されていたが、本実施の形態では、背面支持部501a,501bが、球面状のワッシャ54,55を介してフリクションリング41,42の背面41d,42dと、第1及び第2のピニオンギヤ31,32の背面311b,321bとを支持し、ワッシャ54,55が第1及び第2のピニオンギヤ31,32の背面311b,321bと摺動するように形成されていている。球面状のワッシャ54,55は、デフケース50に対して回転しないように回り止めされている。これにより、第1及び第2のピニオンギヤ31,32の回転時に背面311b,321bとワッシャ54,55との間で摩擦力が発生し、第1の実施の形態に比較して、ディファレンシャル装置1の差動制限力がさらに増大する。
【0064】
[第5の実施の形態]
次に、図9を参照して本発明の第5の実施の形態について説明する。第1の実施の形態(図2参照)では、第1及び第2のサイドギヤ21,22とデフケース50の内面との間に平板状のワッシャ52,53が配置されていたが、本実施の形態では、平板状のワッシャ52,53に替えて、回転軸線O2に近づく方向の中心部側に向かって内径が徐々に大きくなるテーパ状の環状支持部材61,62が配置されている。環状支持部材61,62は、デフケース50に対して回転不能に収容されている。
【0065】
第1及び第2のサイドギヤ21,22は、第1及び第2のピニオンギヤ31,32との噛み合い反力によって環状支持部材61,62に向かって押し付けられる。これにより、第1及び第2のサイドギヤ21、22の環状支持部材61,62との接触面の回転軸線O1に対する角度が第1の実施の形態の場合(第1及び第2のピニオンギヤ31,32の噛み合い反力を平板状のワッシャ52,53で受ける場合)よりも浅くなり、これに応じて第1及び第2のサイドギヤ21、22が環状支持部材61,62から受ける摩擦力が大きくなり、第1の実施の形態に比較して、ディファレンシャル装置1の差動制限力がさらに増大する。
【0066】
[第6の実施の形態]
次に、図10及び図11を参照して本発明の第6の実施の形態について説明する。第1の実施の形態(図3参照)では、フリクションリング41の挿通孔410の内面及びピニオンシャフト40の外面の断面形状が共に非円形に形成されていることにより、フリクションリング41がピニオンシャフト40に対して回転不能とされていたが、本実施の形態では、フリクションリング41,42とピニオンシャフト40との間に挿入された円柱状のピン71,72により、フリクションリング41,42とピニオンシャフト40とが回転不能とされている。
【0067】
図11に示すように、ピン71が挿入された挿入孔710は、フリクションリング41の内周面に形成された断面半円状の凹部710aと、ピニオンシャフト40の外周面に形成された断面半円状の凹部710bとの結合により、形成されている。この挿入孔710は、ピニオンシャフト40の延伸方向に平行に延びるように形成されている。ピン71は、その一端がデフケース50の保持孔50bに圧入されたピン51に当接して抜け止めされている。
【0068】
ピン72が挿入された挿入孔720は、フリクションリング42の内周面に形成された断面半円状の凹部720aと、ピニオンシャフト40の外周面に形成された断面半円状の凹部720bとの結合により形成されている。ピン72は、デフケース50の保持孔50cに圧入されたピン56に当接して抜け止めされている。
【0069】
本実施の形態によれば、第1の実施の形態に比較して、ピニオンシャフト40に対してフリクションリング41,42を回り止めするための構成が容易となり、製造コストを低減することができる。
【0070】
[第7の実施の形態]
次に、図12を参照して本発明の第7の実施の形態について説明する。第7の実施の形態では、フリクションリング41の回転軸線O1(サイドギヤ21,22の回転軸線)に対する周方向の一端に切欠き部413が形成され、他端に切欠き部414が形成されている。すなわち、フリクションリング41は、回転軸線O1に対する周方向の両端部が第1のピニオンギヤ31の大径部311の内面311aに接触しないように、非対称に切欠き形成されている。また、図示は省略しているが、フリクションリング42も同様に形成されている。この他の構成は第1及び第2の実施の形態と共通である。
【0071】
本実施の形態では、切欠き部414の切欠き量が、切欠き部413の切欠き量よりも大きく形成されている。より具体的には、切欠き部413は回転軸線O1に平行かつピニオンシャフト40の中心軸に平行な平面41c1に沿って切欠き形成され、切欠き部414は平面41c1に平行で、かつ平面41c1よりも回転軸線O1方向の幅が大きい平面41c2に沿って切欠き形成されている。
【0072】
図12では、車両の前進時における加速時及び減速時に、ピニオンシャフト40がデフケース50から受けた駆動力をフリクションリング41を介して第1のピニオンギヤ31へ伝達する際の荷重をベクトルで示している。この図では、ピニオンシャフト40からフリクションリング41への加速時における荷重の作用点をp0とし、その荷重の向き及び大きさをベクトルv1で示している。また、ピニオンシャフト40からフリクションリング41への減速時における荷重の作用点をp2とし、その荷重の向き及び大きさをベクトルv2で示している。
【0073】
加速時においてピニオンシャフト40からフリクションリング41へ伝達された駆動力は、切欠き部413(平面41c1)の両端部付近における2つの作用点p11,p12から第1のピニオンギヤ31へ伝達される。
【0074】
一方、減速時においてピニオンシャフト40からフリクションリング41へ伝達された制動力は、切欠き部414(平面41c2)の両端部付近における2つの作用点p23,p24から第1のピニオンギヤ31へ伝達される。
【0075】
作用点p24における荷重の向き及び大きさは、作用点p23における荷重の向き及び大きさと対称であるので、作用点p23における荷重を例にとって説明すると、作用点p23におけるベクトルv2に平行な方向の荷重の大きさは、ベクトルv13により示されるように、作用点p2における荷重の大きさの1/2である。このベクトルv13により示される荷重は、第1のピニオンギヤ31の内面311aの法線方向の荷重(ベクトルv23)の分力であるので、内面311aに垂直な方向には、ベクトルv2に平行な方向の荷重よりも大きな荷重が作用する。
【0076】
また、作用点p24についても同様に、ベクトルv2に平行な方向に、ベクトルv14に示される、作用点p2における荷重の大きさの1/2の荷重が作用する。そして、作用点p24における内面311aに垂直な方向には、ベクトルv2に平行な方向の荷重よりも大きな荷重(ベクトルv24に示す)が作用する。作用点p23及び作用点p24におけるベクトルv2に平行な方向の荷重の合計は、作用点p2におけるベクトルv2方向の荷重に相当する。
【0077】
本実施の形態では、切欠き部414が、切欠き部413よりも大きく形成されているので、作用点p23及び作用点p24と作用点p2との回転軸線O1方向の距離が、作用点p11及び作用点p12と作用点p0との回転軸線O1方向の距離よりも大きくなり、ベクトルv23,v24の長さがベクトルv21,v22がよりも長くなる。つまり、フリクションリング41と第1のピニオンギヤ31との間で伝達される駆動力又は制動力に対する差動制限力の大きさの割合が、車両の加速時よりも減速時に大きくなる。
【0078】
これにより、例えば図6に示す第2の実施の形態のように、2つの切欠き部412(本実施の形態に係る切欠き部413と同形状)が対称な形状に形成された場合に比較して、減速時における差動制限力を大きくすることができ、車両の挙動を安定させることができる。つまり、一般的に減速時においてフリクションリング41と第1のピニオンギヤ31との間で伝達される制動力は、加速時における駆動力よりも小さいので、減速時における差動制限力が不足する傾向にあるが、本実施の形態のように切欠き部を非対称とすることで、減速時における差動制限力を補うことが可能となる。
【符号の説明】
【0079】
1…ディファレンシャル装置
21…第1のサイドギヤ
22…第2のサイドギヤ
31…第1のピニオンギヤ
32…第2のピニオンギヤ
4…支持部材
40…ピニオンシャフト
41,42…フリクションリング
50…デフケース
100…車両
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動源の駆動力を伝達する一対の駆動軸にそれぞれ相対回転不能に連結される一対のサイドギヤと、
前記一対のサイドギヤに回転軸線を直交させて噛み合い、回転軸線に沿った貫通孔を有する複数のピニオンギヤと、
前記ピニオンギヤの前記貫通孔の内面に接触して前記ピニオンギヤを回転可能に支持する支持部材と、を備え、
前記ピニオンギヤは、前記貫通孔の内面における前記支持部材との接触面が第1の接触領域、及び前記第1の接触領域よりも大径に形成された第2の接触領域を有し、
前記第2の接触領域は、前記第1の接触領域との間に前記支持部材に接触しない非接触領域を挟んで、前記第1の接触領域よりも前記一対のサイドギヤの回転軸線に対する径方向の外側に形成されているディファレンシャル装置。
【請求項2】
前記非接触領域は、前記ピニオンギヤの回転軸線方向における前記ピニオンギヤと前記サイドギヤとの噛み合い中心点に対応する位置を含む範囲に形成されている、
請求項1に記載のディファレンシャル装置。
【請求項3】
前記ピニオンギヤは、前記ピニオンギヤと前記サイドギヤとの間の駆動力伝達荷重の分担割合が、前記第1の接触領域よりも前記第2の接触領域で高い、
請求項2に記載のディファレンシャル装置。
【請求項4】
前記支持部材は、前記サイドギヤの回転軸線に対する周方向の端部が前記ピニオンギヤの前記第2の接触領域に接触しないように切欠き形成されている、
請求項1乃至3の何れか1項に記載のディファレンシャル装置。
【請求項5】
前記支持部材は、前記サイドギヤの回転軸線に対する周方向の両端部が前記ピニオンギヤの前記第2の接触領域に接触しないように非対称に切欠き形成されている、
請求項1乃至4の何れか1項に記載のディファレンシャル装置。
【請求項6】
前記支持部材は、前記ピニオンギヤの前記第1の接触領域に接触する軸状の第1部材と、前記第1部材に対して回り止めされ、前記第1部材に外嵌されて前記ピニオンギヤの前記第2の接触領域に接触する環状の第2部材とを有する、
請求項1乃至5の何れか1項に記載のディファレンシャル装置。
【請求項1】
車両の駆動源の駆動力を伝達する一対の駆動軸にそれぞれ相対回転不能に連結される一対のサイドギヤと、
前記一対のサイドギヤに回転軸線を直交させて噛み合い、回転軸線に沿った貫通孔を有する複数のピニオンギヤと、
前記ピニオンギヤの前記貫通孔の内面に接触して前記ピニオンギヤを回転可能に支持する支持部材と、を備え、
前記ピニオンギヤは、前記貫通孔の内面における前記支持部材との接触面が第1の接触領域、及び前記第1の接触領域よりも大径に形成された第2の接触領域を有し、
前記第2の接触領域は、前記第1の接触領域との間に前記支持部材に接触しない非接触領域を挟んで、前記第1の接触領域よりも前記一対のサイドギヤの回転軸線に対する径方向の外側に形成されているディファレンシャル装置。
【請求項2】
前記非接触領域は、前記ピニオンギヤの回転軸線方向における前記ピニオンギヤと前記サイドギヤとの噛み合い中心点に対応する位置を含む範囲に形成されている、
請求項1に記載のディファレンシャル装置。
【請求項3】
前記ピニオンギヤは、前記ピニオンギヤと前記サイドギヤとの間の駆動力伝達荷重の分担割合が、前記第1の接触領域よりも前記第2の接触領域で高い、
請求項2に記載のディファレンシャル装置。
【請求項4】
前記支持部材は、前記サイドギヤの回転軸線に対する周方向の端部が前記ピニオンギヤの前記第2の接触領域に接触しないように切欠き形成されている、
請求項1乃至3の何れか1項に記載のディファレンシャル装置。
【請求項5】
前記支持部材は、前記サイドギヤの回転軸線に対する周方向の両端部が前記ピニオンギヤの前記第2の接触領域に接触しないように非対称に切欠き形成されている、
請求項1乃至4の何れか1項に記載のディファレンシャル装置。
【請求項6】
前記支持部材は、前記ピニオンギヤの前記第1の接触領域に接触する軸状の第1部材と、前記第1部材に対して回り止めされ、前記第1部材に外嵌されて前記ピニオンギヤの前記第2の接触領域に接触する環状の第2部材とを有する、
請求項1乃至5の何れか1項に記載のディファレンシャル装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−19454(P2013−19454A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152577(P2011−152577)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(711007781)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(711007781)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]