説明

デオドラント剤

【課題】体臭、特に腋臭の発生を抑制することができるデオドラント剤を提供する。
【解決手段】下記式(I)で表される化合物を有効成分として含有する、デオドラント剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デオドラント剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年エチケット意識の高まりに伴い、汗や体臭を気にする人が増えている。汗はほぼ全身の各部から分泌されるが、その中でも腋の汗は細菌が繁殖しやすく匂いやすい。そのため、自己や他人の腋臭等の体臭を気にする人が特に増えてきている。
【0003】
これまで体臭を防止するための主たる方法としては、体表の微生物を抑える技術(殺菌剤、抗菌剤等)、汗の分泌を収斂作用で抑える技術(金属酸化物などの収斂剤等)、発生した不快な体臭を消臭する技術及び香りによるマスキング技術(例えば、特許文献1参照)等が報告されている。
しかし、生物学上発汗を完全に止めることは不可能である。また、マスキングでは効果が持続せず隠し切れない臭いも存在する。また、体表の微生物を抑える技術では、体臭の発生原因菌以外の皮膚常在菌をも殺菌することで、皮膚の一次バリア機能を低下させる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−63192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、体臭の発生を抑制することができるデオドラント剤の提供を課題とする。また、本発明は、腋臭の発生を抑制することができる腋臭抑制剤の提供を課題とする。さらに、本発明は、アポクリン臭の発生を抑制することができるアポクリン臭抑制剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑み、本発明者等は鋭意検討を行った。その結果、ユーカリ(Eucalyptus globulus)抽出物より得られた新規没食子酸誘導体がデオドラント効果を有することを見出した。本発明はこの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0007】
本発明は、下記式(I)で表される化合物を有効成分として含有する、デオドラント剤に関する。
また、本発明は、下記式(I)で表される化合物を有効成分として含有する、腋臭抑制剤に関する。
また、本発明は、下記式(I)で表される化合物を有効成分として含有する、アポクリン臭抑制剤に関する。
また、本発明は、ユーカリ(Eucalyptus globulus)を抽出する工程を含む、下記式(I)で表される化合物の製造方法に関する。
さらに、本発明は、下記式(I)で表される化合物に関する。
【0008】
【化1】

【発明の効果】
【0009】
本発明のデオドラント剤によれば、体臭の発生を抑制することができる。また、本発明の腋臭抑制剤によれば、腋臭の発生を抑制することができる。さらに、本発明のアポクリン臭抑制剤によれば、アポクリン臭の発生を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について、その好ましい実施態様に基づき詳細に説明する。
本発明のデオドラント剤、腋臭抑制剤及びアポクリン臭は、下記式(I)で表される化合物を有効成分として含有する。
【0011】
【化2】

【0012】
腋臭の原因臭の1つであるアポクリン臭は、腋の下に分布するアポクリン汗腺由来の分泌物が原因で発生し、複雑かつ強い臭気を有する。アポクリン臭は主に、(1)イオウ様で生臭いニオイ(イオウ様臭)と、(2)動物的でスパイシーなニオイとから構成されている。このうち、イオウ様臭の主要原因成分は、下記式で表される3−メルカプト−3−メチルヘキサン−1−オール(本明細書において、「3M3T」ともいう。)に代表される3−メルカプトアルコール化合物であることが知られている(例えば、日本味と匂学会誌、Vol.10、No.3、p.807-810(2003)、及びChemistry & Biodiversity、1、p.2042-2050(2004)参照)。
【0013】
【化3】

【0014】
前記式(I)で表される化合物は、3M3T消失効果を有する。従って、前記式(I)で表される化合物を有効成分として含有する本発明のアポクリン臭抑制剤は、アポクリン臭抑制効果を有する。
【0015】
ユーカリ(Eucalyptus globulus)には、前記式(I)で表される化合物が含まれる。従って、ユーカリ(Eucalyptus globulus)抽出物より前記式(I)で表される化合物を得ることができる。
【0016】
本発明で用いることができるユーカリ(Eucalyptus globulus)は、フトモモ科(Myrtaceae)に属する植物であり、オーストラリア南東部やタスマニア島に主に分布する植物である。ユーカリの葉から取れる精油は、殺菌作用、抗炎症作用、鎮痛・鎮静作用を有する。また、アロマテラピーにも用いられる。
【0017】
本発明において、ユーカリ(Eucalyptus globulus)の全ての任意の部分が使用可能である。例えば、上記植物の全草、または任意の部位(根、根茎、茎、葉、花、果実、種子、木部等)、およびそれらの組み合わせのいずれか1つまたは複数を使用することができる。
本発明において、ユーカリ(Eucalyptus globulus)抽出物より前記式(I)で表される化合物を得るためには、前記植物の葉、果実、木部を用いるのが好ましい。
【0018】
本発明において用いることができる前記植物の抽出物は、適当な溶媒を用いた常法の抽出方法によって調製することができる。
【0019】
本発明において、前記植物の抽出物の調製に、上記植物をそのまま、又は乾燥粉砕して用いることもできるが、その圧搾物を用いることもでき、また市販品を利用することもできる。上記植物又は圧搾物は、いずれかを単独で、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
抽出に用いる溶媒としては、通常植物成分の抽出に用いられるもの、例えば水、石油エーテル、n−ヘキサン、トルエン、クロロホルム、エーテル、酢酸エチル、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等が挙げられ、特に水、エタノール、プロピレングリコール、ブチレングリコールが好ましい。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。また抽出条件も通常の条件を適用でき、例えば上記植物を0〜100℃で1時間〜30日間浸漬又は加熱還流すればよい。上記植物の抽出物は、そのまま使用できるが、さらに適当な分離手段、例えばゲル濾過、クロマトグラフィー、精密蒸留、活性炭処理等により活性の高い画分を分画して用いることもできる。
【0021】
本発明において、前記式(I)で表される化合物を含有するユーカリ(Eucalyptus globulus)の抽出物をそのままデオドラント剤及びアポクリン臭抑制剤として用いてもよい。または、当該抽出物を希釈、濃縮または凍結乾燥した後、粉末またはペースト状に調製してデオドラント剤及びアポクリン臭抑制剤に用いることもできる。
【0022】
本発明のデオドランド剤及びアポクリン臭抑制剤は、化粧料、外用医薬品又は医薬部外品等の製剤、例えばクリーム、乳液、ローション、パウダー、スプレー、スティック、シート又は湿布等の貼付剤として用いることができる。
【0023】
本発明のデオドランド剤及びアポクリン臭抑制剤において、前記前記式(I)で表される化合物に、例えば酸化チタン、炭酸カルシウム、蒸留水、乳糖、デンプン等の適当な液体または固体の賦形剤または増量剤を加えて用いてもよい。本発明のデオドランド剤及びアポクリン臭抑制剤における前記式(I)で表される化合物の含有量は、0.0001〜10重量%が好ましく、0.001〜1重量%がより好ましい。
【0024】
本発明のデオドランド剤又はアポクリン臭抑制剤を含有する化粧料、外用医薬品又は医薬部外品には、通常用いられる各種成分、例えば化粧料成分として一般的に使用される油分、界面活性剤、アルコール類、キレート剤、pH調整剤、防腐剤、増粘剤、色素類、香料等の他、紫外線吸収剤、保湿剤、皮脂分泌抑制剤、柔軟剤、角質保護剤、薬効剤、酸化防止剤、溶剤等の成分を任意に組み合わせ配合して製剤化することができる。
また、上記の各製剤には、天然又は合成された多孔性金属酸化物の微粒子粉体、アルミニウム、ジルコニウム、亜鉛等の金属を成分とする収斂性化合物、殺菌剤、抗菌剤、抗生物質等を適宜配合することにより、デオドラント効果及びアポクリン臭抑制効果を増強させることができる。
【0025】
本発明のデオドランド剤及びアポクリン臭抑制剤は、足、腋、頭部、陰部等不快臭の発生しやすい箇所に適用することにより、体臭、アポクリン臭の発生を制御することができる。かかる場合の製剤の使用量は、有効成分の含有量により異なるが、例えば液状製剤の場合皮膚面1cm当たり0.001〜1000mgが好ましく、固形状の製剤の場合1cm当たり0.01〜100mgが好ましい
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0027】
実施例1 式(I)で表される化合物の製造
乾燥したユーカリ(Eucalyptus globulus)の葉(中国産、新和物産株式会社製)200gに50%エタノール水溶液2Lを加え、室温で7日間抽出した。抽出液を減圧濃縮、乾燥し、抽出物21gを得た。
この抽出物に水2Lを加え、不溶物をろ別して除いた後、4LのDiaion HP20カラム(商品名、三菱化学社製)にチャージした。カラムを水6Lで洗った後、50%エタノール6Lで溶出し、この50%エタノール溶出液を減圧濃縮、乾燥し、分画物7.8gを得た。
前記分画物を800mLの水に溶解し、酢酸エチル800mLで3回抽出し、酢酸エチル層を濃縮、乾燥し、分画物2.4gを得た。
この分画物を更にシリカゲルカラムクロマトグラフィーで分画し、クロロホルム−メタノール−水(体積比60:20:3)溶出画分0.56gを得た。
この画分を更にクロロホルム−メタノールでグラジェント溶出したシリカゲルカラムクロマトグラフィーで分画し、活性画分0.17gを得た。
この画分をODS逆相分取HPLCで分画し、活性画分48mgを得、これを更に逆相分取HPLC分画することにより、式(I)の化合物8.6mgを得た。同定データを以下に示す。
【0028】
(同定データ)
淡黄色粉末、[α]25−149°(c=0.865、MeOH)
MS m/z:547[M−H]
IR(cm−1) 3386、2967、2948、1660、1054、1033、1012
【0029】
【表1】

【0030】
試験例1 アポクリン臭抑制試験
250mLマイクロバイアルに、1ppm 3M3T生理食塩水溶液10μL、D−PBS80μL、式(I)の化合物の50%エタノール溶液(濃度:1mM又は0.1mM)10μL加え、混合後、50℃で2時間反応させた。また、コントロールとして、化合物1の50%エタノール溶液の代わりに、50%エタノールを加えた。ここに、1,5−IAEDANS(5−((((2−iodoacetyl)amino)ethyl)amino) naphthalene−1−sulfonic acid)のDMF溶液(濃度:250μM)100μLを加え、80℃で1時間反応させたのち、蛍光HPLC法にて3M3Tを定量した。
その結果を表2に示す。
【0031】
【表2】

【0032】
表1の結果から、前記式(I)で表される化合物がアポクリン臭の原因物質である3M3Tに対する消失効果を有することが示された。従って、前記式(I)で表される化合物を有効成分として含有する本発明のデオドラント剤、腋臭抑制剤及びアポクリン臭抑制剤は、腋臭、特にアポクリン臭の発生を抑制することができる。
【0033】
(処方例)
前記式(I)で表される化合物を有効成分として含有する下記に示す組成のエアゾール、化粧水及びローションを常法により各々調製した。
【0034】
1.エアゾールの調製の調製
下記Aの成分を均一に混合して容器に入れ、Bの液化石油ガス(噴射剤)を常法により容器に充填してエアゾールを製造した。
(組成) (配合:質量%)
A 式(I)で表される化合物 1.0
セタノール 1.2
プロピレングリコール 4.0
エタノール 8.0
精製水 残部
B 液化石油ガス(噴射剤) 4.0
【0035】
2.化粧水の調製
下記の組成の化粧水を常法により調製した。
(組成) (配合:質量%)
式(I)で表される化合物 5.0
グリセリン 15.0
ジプロピレングリコール 5.0
精製水 残部
【0036】
3.ローションの調製
下記Aの成分を混合した溶液Aを調製した。これとは別に、下記Bの成分を混合した溶液Bを調製した。溶液Aに溶液Bを添加して均一に撹拌混合し、ローションを得た。
(組成) (配合:質量%)
A ポリオキシエチレン硬化ひまし油 0.8
エタノール 30.0
B 式(I)で表される化合物 1.0
ドデシル硫酸ナトリウム 0.12
ドデシルメチルアミンオキシド 0.18
イソプロピルアルコール 15.0
ベンジルアルコール 15.0
グリセリン 2.0
精製水 残部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される化合物を有効成分として含有する、デオドラント剤。
【化1】

【請求項2】
前記式(I)で表される化合物がユーカリ(Eucalyptus globulus)抽出物より得たことを特徴とする、請求項1記載のデオドラント剤。
【請求項3】
下記式(I)で表される化合物を有効成分として含有する、腋臭抑制剤。
【化2】

【請求項4】
前記式(I)で表される化合物がユーカリ(Eucalyptus globulus)抽出物より得たことを特徴とする、請求項3記載の腋臭抑制剤。
【請求項5】
下記式(I)で表される化合物を有効成分として含有する、アポクリン臭抑制剤。
【化3】

【請求項6】
前記式(I)で表される化合物がユーカリ(Eucalyptus globulus)抽出物より得たことを特徴とする、請求項5記載のアポクリン臭抑制剤。
【請求項7】
ユーカリ(Eucalyptus globulus)を抽出する工程を含む、下記式(I)で表される化合物の製造方法。
【化4】

【請求項8】
下記式(I)で表される化合物。
【化5】


【公開番号】特開2010−248120(P2010−248120A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99025(P2009−99025)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】