説明

デンタルバイオフィルムの形成または蓄積に対処するための、少なくとも1つのフッ素塩と組み合わせた水性ブドウ種子抽出物の使用およびその組合せを含んでなる組成物

本発明は、歯の表面上または歯肉上皮組織上でのデンタルバイオフィルムの形成および蓄積を予防および/または低減することを目的とする口腔衛生組成物の製造のための、少なくとも1つのフッ素塩と組み合わせた水性ブドウ種子抽出物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、口腔生態系の平衡を保ちながら、歯の表面または歯肉上皮組織上でのデンタルバイオフィルムの形成および蓄積、ならびに関連口腔歯疾患(associated buccal-dental diseases)を予防および/または低減するための、フッ素塩と組み合わせた水性ブドウ種子抽出物の使用に関する。
【0002】
口腔は実際の生態的ニッチであり、それを通じて唾液、食品、空気および細菌産物が通過し、存在する。
【0003】
口腔内では、細菌は全く異なる生活方法:孤立生物が口腔環境中に浮遊する浮遊状態での生活方法、またはバイオフィルム内で、歯の表面に付着した細菌が群落として生存する生活方法のいずれか、を採り得る。
【0004】
歯および歯周衛生は、細菌集団が宿主と共存しており、その宿主組織において回復困難な損傷が起こらない平衡状態と考えられる。しかしながら、歯のバイオフィルムの群落の組成および代謝活性が乱れたときに病気が発生する可能性がある。
【0005】
歯周組織の病変は、まず、歯肉に現われ、周辺歯肉の炎症である歯肉炎を引き起こす。次に、それらの病変は歯周組織全体に影響を及ぼす歯周炎に発展し、処置しない限り元に戻らなくなる。
【0006】
歯肉炎には異なる種類がある:
−いわゆるコモンプレイスネグリジェンスプラーク(commonplace negligence plaque)の存在と関連する歯肉炎、
−潰瘍壞死性急性歯肉炎、
−原因がプラークと関係のない歯肉炎:
・皮膚疾患と関連する歯肉炎、
・歯肉に限局されるかまたは頬粘膜全体に影響を及ぼす歯肉炎;
・アレルギー性歯肉炎;
・感染性の歯肉炎。
【0007】
デンタルバイオフィルム(または歯垢)は、歯の表面に付着して、歯肉と歯の間隙に存在する不均一な蓄積物であり、好気性細菌または嫌気性細菌を多く含む微生物群落からなり、微生物および唾液起源の高分子の細胞間マトリックスで覆われている。これは複雑な細菌組織であり、その第1の形成段階は、唾液中にある硬組織または軟組織の表面上への糖タンパク質の沈着に相当する。この第1の層は、後天性外因性フィルム(AEF)またはさらに「唾液バイオフィルム」と名付けられている。この層は、二次的に、物理化学的、栄養学的または関連基準に応じて組織化する微生物に侵され、それによって、歯および現在用いられている歯科材料の表面に柔らかい粘着性の黄白色の強固な沈着物が形成される。
【0008】
2つのタイプのプラークに区別され、歯肉に対して相対的に、それらの解剖学的な位置に応じて定義される:歯肉縁上プラークプラークおよび歯肉縁下プラーク。これらのタイプのプラークはいずれも2つの異なる微小環境を形成する。歯肉縁上環境は唾液に浸され、一方、歯肉縁下環境は歯肉溝滲出液に浸されている。歯肉縁上環境はとりわけ好気性であり、一方、歯肉縁下環境はほぼ例外なく嫌気性である。歯肉縁下スペースは行き止まり形状であり、液体により洗い流されることなく、そこには定着した細菌集団を分散させることができる機械力はほとんどない。一方、歯肉縁上部は、唾液によって絶えず洗い流され、口腔に特有の総ての摩損機構(咀嚼、嚥下、発声)に曝され、衛生処置が直接利用可能である。
【0009】
また、歯肉縁上プラークおよび歯肉縁下プラークは、それらの病原潜在能力によっても区別され:歯肉縁上プラークは、齲蝕の病理に特異的に関連し、一方、歯肉縁下プラークは、歯肉および歯周の病理と関連する。歯肉縁上プラーク中に見られる主要な細菌は、Streptococcus mutans、Streptococcus sanguis、Streptococcus mitis、Streptococcus sobrinus、乳酸桿菌属種(Lactobacillus sp.)、およびアクチノミセス属種(Actinomyces sp.)(A. viscosus)である。歯側または上皮側の位置によって、歯肉縁下細菌叢の組成はかなり異なる。Porphorymonas gingivalisおよびFucobacterium nucleatumが存在することが知られており、そしてそれによってそれらの細菌は歯周病理に強く関連している。
【0010】
殺菌性防腐剤は、歯垢を減らすための組成物に用いられることが多い。しかしながら、その殺菌性薬剤は、それらの強力な防腐作用が口腔の自然細菌集団内に不均衡を誘導し得るため、完全に満足できるものではない。実際に、防腐製品は微生物に対して:
−強烈に(:活性の評価は対数低減という概念、多数の微生物の破壊または不活性化に基づいている)、
−急速に(短い接触時間および有機材料と特に接触したほとんどの分子の不活性化を考えることにより)
作用する。
【0011】
さらに、それらの長期使用は耐性株の選択を促す可能性があるため、制限すべきである。
【0012】
そのため、抗付着作用によってバイオフィルムの沈着を制限または抑制することができ、それによって、良好な口腔歯(buccal-dental)衛生の維持を可能にすることができ、副次的効果をもたらさず、口腔生態系の平衡も乱さない薬剤を開発する必要がある。この概念は、細胞増殖または生存力のレベルにおいてではなく、細菌細胞と口腔表面全体:硬表面(例えば歯のエナメル質)、粘膜、との相互作用、ならびに細菌細胞間の相互作用のレベルにおいての作用に基づいている。
【0013】
口腔細菌叢の平衡を重んじるこのような抗バイオフィルム剤をブドウ種子から抽出し得ることを驚くべきことに発見した。
【0014】
ブドウは、ポリフェノールなどの多くの有効成分を含む。ブドウ種子は、強い酸化防止力で知られているオリゴ−プロアントシアニジン(OPC)タイプのポリフェノールをとりわけ含む。
【0015】
ブドウ種子抽出物の適応は、眩しい光による眼のストレスを弱めるための、あるいは外傷後または手術後の腫脹の治癒を促進するための、静脈機能不全および静脈瘤の治療とされている。
【0016】
ブドウ種子のOPCは、皮膚の老化に対処するための抗ラジカル剤として美容術の分野においても用いられている。
【0017】
ブドウ種子抽出物は、驚くべきことに、抗バイオフィルム剤として口腔歯(buccal-dental)衛生の分野においても用い得ることを見出した。
【0018】
本発明者らはさらに、驚くべきことに、ブドウ種子抽出物の抗バイオフィルム作用は、フッ化ナトリウムまたはフルオリノール(3−ピリジルメタノールフッ化水素酸塩)などのフッ素塩によって可能性が与えられることも見出した。
【0019】
本発明の目的は、
−歯の表面上または歯肉上皮組織上でのデンタルバイオフィルムの形成または蓄積を予防すること;
−および/あるいはその定着した表面を低減すること
を目的とする口腔衛生組成物を製造するための、少なくとも1つのフッ素塩と組み合わせた水性ブドウ種子抽出物の使用である。
【0020】
本発明によるフッ素塩は、好ましくは、無機フッ化物、フッ化アミンまたはフッ化第四級アンモニウムである。
【0021】
無機フッ化物は、特に、フッ化カリウム、フッ化ナトリウムおよびフッ化スズ、ならびにそれらの混合物から選択してよい。
【0022】
フッ化アミンは、好ましくは、次式(I):
【化1】

(式中:
R1=H、アルキル;
R2=CH−OH、カルボン酸アルキル、−CO−NH−CH−CH−OH、
【化2】

およびR2は2位または3位にある)
に適合する塩から選択される。
【0023】
本発明による水性ブドウ種子抽出物は、ポリフェノール、特にプロアントシアニジン(OPC)を多く含むという特徴を有する。
【0024】
前記抽出物中のポリフェノールの質量分率は、好ましくは50%より大きく、好ましくは90%より大きい。
【0025】
前記抽出物中のプロアントシアニジンの質量分率は、好ましくは20%〜50%とされる。
【0026】
前記抽出物の質量OPC組成は、好ましくは以下である:
−オリゴマー:
・B1:1%〜4%、好ましくは約2.5%
・B2:5%〜9%、好ましくは約7.5%
・B3:最大3%、好ましくは約1.7%
・B4:1%〜4%、好ましくは約2.6%
−モノマー:
・カテキン:3%〜6%、好ましくは約4.7%
・エピカテキン:12%〜15%、好ましくは約13.3%
・エピカテキン30ガラート:最大2%、好ましくは約0.7%
【0027】
本発明による水性ブドウ種子抽出物は、白または赤ブドウの搾汁かす、好ましくは白ブドウの搾汁かすの、硫化水での水性抽出により得られ得る。この抽出中、メタ重亜硫酸ナトリウム(Na)を水に溶かすことにより、そして酢酸でそのpHを3.8に調整することにより製造した二酸化硫黄水溶液を溶媒として用いてよい。その後、次のステップを行ってよい:
−不溶性懸濁物質を除去するための遠心分離;
−特に、酒石酸、糖、多糖および無機物を除去するための濾過;
−蒸発;
−その後、所望により、硫化水での新たな抽出、続いて遠心分離、濾過、蒸発(濃縮物が液体として回収されるまで);
−瞬間低温殺菌;
−抽出物を粉末の形態とすることが望ましい場合には微粒化。
【0028】
本発明によれば、前記水性ブドウ種子抽出物は、好ましくは、フッ化ナトリウムまたはフルオリノール(R1=Hおよび窒素に対して3位にあるR2=CHOH)と組み合わせられる。前記水性ブドウ種子抽出物は、より好ましくはフルオリノールと組み合わせられる。
【0029】
本発明の目的は、
−歯石の形成またはバイオフィルムの蓄積に関連する口腔歯疾患(bucco-dental diseases)の発生を予防すること;
−および/あるいはその定着した表面を低減すること
を目的とする口腔衛生組成物を製造するための、少なくとも1つのフッ素塩、特に前に述べたもの、と組み合わせた水性ブドウ種子抽出物の使用でもある。
【0030】
実際に、本発明による組成物は、その予防効果に加えて、口腔バイオフィルムを既に有しているヒトにおいてプラーク指数も低減し得る。
【0031】
特に、本発明による組合せは、原因がバイオフィルムの蓄積と関係している齲蝕、歯肉炎または歯周炎などの口腔歯疾患(bucco-dental diseases)の予防を可能にする。
【0032】
前記組成物の抗付着作用は、本発明者によって:
−一方では、ヒドロキシルアパタイトのディスク上で異なる口腔細菌を含む懸濁液から作製した口腔バイオフィルムの実験モデルにおいて;
−もう一方では、グルコシルトランスフェラーゼの酵素反応に対する前記組成物の阻害活性を示すことにより
証明されている。
【0033】
本発明の目的は、前に定義した、水性ブドウ種子抽出物と少なくとも1つのフッ素塩の組合せを含んでなる口腔衛生組成物でもある。
【0034】
例えば、フッ素塩は、無機フッ化物例えばフッ化カリウム、フッ化ナトリウムおよびフッ化スズ、ならびにそれらの混合物から、またはフッ化アミン、例えば、次式(I):
【化3】

(式中:
R1=H、アルキル;
R2=CH−OH、カルボン酸アルキル、−CO−NH−CH−CH−OH、
【化4】

およびR2は2位または3位にある)
に適合するものから選択してよい。
【0035】
本発明による組成物は、好ましくは、水性ブドウ種子抽出物を、フッ化ナトリウムまたはフルオリノール(R1=Hおよび窒素に対して3位にあるR2=CHOH)と組み合わせて含む。前記水性ブドウ種子抽出物は、より好ましくはフルオリノールと組み合わせられる。
【0036】
本発明による組成物は、口内洗浄剤、ゲルもしくは練り歯磨き、歯肉ゲル、チューインガム、サッカブル錠、デンタルフロス、押出カプセル剤、歯ブラシの剛毛、粘着包帯、含浸ウェットティッシュ、義歯および補綴物用糊材または予防研磨ペーストの形態としてよい。
【0037】
本発明による組成物との組合せに関して、クランベリー抽出物(すなわちVaccinium niacrocarpon)などの少なくとも1つの他の抗バイオフィルムも企図し得る。
【0038】
前記組成物は、シリグリコール(siliglycol)および/またはビタミンEおよび/またはビタミンCをさらに含んでよい。
【0039】
前記組成物は、好ましくは、50μg/mL〜10,000μg/mL、有利には200μg/mL〜5,000μg/mL、より有利には1,000μg/mL〜3,000μg/mL、さらに有利には約2,000μg/mLの前記ブドウ種子抽出物を含む。
【0040】
前記組成物は、好ましくは、50ppm〜10,000ppm、より優先的には500ppm〜2,000ppm;さらに優先的には1,000ppm〜1,500ppmのフッ素を含む。
【0041】
有利には、前記組成物は、約1,500ppmのフッ素を含んでなる。
【0042】
好ましくは、本発明による組成物は、1,000μg/mL〜3,000μg/mLの前記水性ブドウ種子抽出物および500ppm〜2,000ppmのフッ素、さらに好ましくは、約2,000μg/mLの前記ブドウ種子抽出物および1,000〜1,500ppmのフッ素を含む。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】予防処置における、実験口腔バイオフィルムモデルでの連鎖球菌およびPorphyromonas gingivalisの増殖に対する、フルオリノールと組み合わせた実施例1のブドウ種子抽出物の効果を示す図である。
【図2】予防処置における、実験口腔バイオフィルムモデルでの連鎖球菌およびPorphyromonas gingivalisの増殖に対する、NaFと組み合わせた実施例1のブドウ種子抽出物の効果を示す図である。
【0044】
次の実施例により本発明を説明する。
【実施例】
【0045】
1)水性ブドウ種子抽出物の製造
"Societe Francaise de Distilleries" (French distillery corporation)により水性ブドウ種子抽出物を準備する。当業者に周知の従来の抽出技術に従って、白ブドウの搾汁かすを硫化水で抽出することにより水性ブドウ種子抽出物を得る。
【0046】
水性ブドウ種子抽出物の特徴は以下である:
・外観:微粉末
・色:黄土色
・味:渋い
・密度:0.35〜0.55g/mL
・湿度:<8%
【0047】
水性ブドウ種子抽出物のHPLC分析では次の組成を示す:
◆オリゴマー:
−B1 : 2.56%
−B2 : 7.51%
−B3 : 1.72%
−B4 : 2.61%
◆モノマー:
−カテキン : 4.69%
−エピカテキン :13.32%
−エピカテキン30ガラート: 0.66%
確認されたOPC総量 :33.0%
【0048】
2)実験口腔バイオフィルムモデルでの予防処置
2.1)手順
a)細菌株および接種材料の製造
用いた細菌株は、
−Streptococcus mutans ATCC 25175
−Streptococcus sobrinus ATCC 33478
−Porphyromonas gingivalis ATCC 33277
である。
【0049】
特定の培地で培養したこれらの異なる細菌を、10mLのユニバーサル培養培地FUM(Fluid Universal Medium, この培地の組成を添付書類1に示す)に接種し、その後、嫌気生活において37℃で24時間インキュベートする。
【0050】
顕微鏡で純粋であることを確認した後、一連の培養物を、独立に、FUMでの希釈によりOD550 1.0±0.05(すなわち1ml当たり約10細胞)に調整する。適当なODに調整した各培養物のアリコート(1mL)を集め、それによって、バイオフィルムを発生させる培地への接種に用いる細菌懸濁液を作製する。
【0051】
b)唾液の製造
健康なボランティアにおいて[正しい情報による同意を得た後]、飲食または歯磨きの少なくとも1時間30分後に、刺激を与えずに唾液を採取する。
【0052】
異なる採取唾液サンプルを混合し、遠心分離し(30分、4℃ 15,000rpm)、その上清を低温殺菌した(30分、65℃)後、再び滅菌チューブで遠心分離する。それによって得た上清を50mLチューブに分配し、−20℃で保存する。唾液サンプルを血液含有ゲロース上に塗布することにより低温殺菌の有効性を確認する。37℃での72時間の培養後にはCFUは観察されない。
【0053】
c)バイオフィルムの予防的処置
バイオフィルムを、オートクレーブ中で125℃に20分間加熱することにより滅菌したヒドロキシルアパタイトディスク上に発生させる。
【0054】
A.第1のステップは、ディスク表面における後天性フィルムの形成である。各ディスクを滅菌ポリスチレン24−ウェル培養皿の1ウェルに入れ、800μLの唾液とともに、穏やかに攪拌しながら室温で4時間インキュベートする。
【0055】
B.次いで、各ウェルから唾液を吸い上げ、唾液800μL+0.15%のグルコースおよび0.15%のサッカロースを含有するFUM 1,000μL+異なる口腔細菌を(それぞれ同量)含む懸濁液200μL:を含む混合物と入れ替える。
【0056】
C.次に、所望の濃度を得るためにウェルに異なる量の試験組合せを加える(各濃度を三連で試験する)。表1および表2参照。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
その後、24−ウェル皿を嫌気生活において37℃で64時間インキュベートする。
【0060】
D.64時間のインキュベーション後のバイオフィルムの分析。付着していない細菌を除去するためにディスクを生理食塩水溶液で洗浄する。次いで、各ディスクを滅菌ペトリ皿に入れ、ディスクの表面を滅菌キューレット(歯周用器具(parodontology instrument))でこそげ取る。こそげ取ったディスクの表面ならびにペトリ皿を生理食塩水で洗い流す。回収した洗液に追加して、最終量1mLとし、細胞懸濁液をボルテックスする。
【0061】
10−2および10−4の濃度が得られるまでこの細胞懸濁液の1:10連続希釈を行い、その後、これらの希釈物50μLを用いた4つの特定のゲロース上に塗布する:ミティス・サリバリウス寒天培地、MRS、ウィルキンス−チャルグレン寒天培地(WCA)および血液ゲロース。その後、これらのゲロースを嫌気生活に37℃で48〜72時間置き、その後、各種について形成されたコロニー数を計数する。
【0062】
両方の細菌種の区別は、顕微鏡観察と同時にゲロース上のコロニーの形態を観察することにより行う。ミティス・サリバリウスゲロースの場合には、連鎖球菌(Streptococci)の数を、WCAゲロースの場合には、ポルフィロモナス属(Porphyromonas)の数を得ることができる。
【0063】
前記分子と細菌バイオフィルムの48〜72時間のインキュベーション後に形成されたコロニーの数を、計数後、式:
【0064】
[計数されたコロニーの数×希釈係数(10〜10)]/接種材料の量(0.05mL)
によって分析バイオフィルム当たりのコロニー形成単位(すなわちCFU/バイオフィルム)で表す。
【0065】
次に、各濃度の試験分子についておよび分析した細菌の各群について得られた3つのCFU/バイオフィルムの結果の平均ならびに標準偏差を評価する。計数した細菌の3つのCFU/バイオフィルム値の平均を取ることによってエクセルを用いてグラフ(対数縦軸)を得る。
【0066】
2.2)結果/結論
実施例1のブドウ種子抽出物だけで、ヒドロキシルアパタイトディスク上に発生したバイオフィルム中の細菌の総数の1log10より大きい大幅な減少がもたらされることが観察される。図1参照。
【0067】
よって、実施例1のブドウ種子抽出物を用いて、バイオフィルムの発生を制限することができる。
【0068】
さらに、ブドウ種子抽出物/フルオリノール組合せの効果には、ブドウ種子抽出物だけの作用と比べて、連鎖球菌およびポルフィロモナス属において3log10より大きい作用があることも観察される。図1参照。
【0069】
フルオリノールは、ブドウ種子抽出物の作用を妨げないだけでなく、驚くべきことに予想外にも、連鎖球菌およびポルフィロモナス属に対するブドウ種子抽出物の効果に可能性をもたせる。
【0070】
また、ブドウ種子抽出物とNaFの組合せの効果により、試験番号1でのブドウ種子抽出物単独と比べて、連鎖球菌およびポルフィロモナス属において細菌数が少なくとも3log10減少することも観察される。図2参照。
【0071】
よって、NaFもまた、連鎖球菌およびポルフィロモナス属に対するブドウ種子抽出物の効果に可能性をもたせる。
【0072】
しかしながら、ポルフィロモナス属に対し、フルオリノールの増強効果はNaFの効果より大きい。
【0073】
3)グルコシルトランスフェラーゼ(GTF)の阻害
3.1)手順
Streptococcus sobrinus ATCC 33478株を、グルコースを多く含む(10g/L終濃度)のBHI(ブレインハートインフュージョン)培地1l中に嫌気生活において37℃で18時間入れる。次いで、この細菌培地を、NaOH 1N溶液を用いてpHを6.5に戻し、それを8,000rpmで4℃で30分間遠心分離する。上清中に存在するグルコシルトランスフェラーゼを硫酸アンモニウムでの沈殿により濃縮する。上清に硫酸アンモニウム(50%w/飽和v)を徐々に加え、攪拌下で30分間4℃に保つ。その後、この混合物を8,000rpm、4℃で30分間遠心分離する。グルコシルトランスフェラーゼを多く含むこのペレットを、次いで、リン酸/カリウムKHPOバッファー(10mM、pH10.5)に溶解し、16時間透析した(MWC 6−8000;幅14.6mm)後、−20℃で凍結する。これは精製GTF溶液である。
【0074】
【化5】

【0075】
グルコシルトランスフェラーゼの酵素活性に対する異なる抽出物の作用を評価するために、2つの測定を行う:フルクトース放出速度をアッセイすることによる初期反応速度(還元糖のアッセイ−DNS試験)および不溶性グルカン合成量(測定は計量操作により行う)。
【0076】
これらの結果を、対照溶液(超純水)に対する阻害率として表す:
−一方は、酵素反応の初期速度(結果についての次の表では「フルクトース」と記す)の阻害率
−もう一方は、37℃での24時間のインキュベーション後にもたらされる不溶性グルカン形成の阻害率(結果についての次の表では「不溶性グルカン」と記す)。
【0077】
次の反応混合物を37℃で溶血チューブに入れる:
グルコシルトランスフェラーゼ Qsp0.1〜0.4U/mL
サッカロース 50g/L
リン酸−カリウムKHPOバッファー 65mM、pH6.5
100mM
窒化ナトリウム 0.1g/L
デキストランT10 2g/L
ポリフェノール 0〜2,000μg/L
【0078】
この反応は、基質(サッカロース)または酵素溶液を加えることにより引き起こし得る(t=0)。
【0079】
各試験抽出物の母溶液は、異なる粉末をミリQ水に溶かすことにより製造する。各試験では、3本の対照チューブを作成し(ミリQ水)、各濃度の抽出物を三連で試験する。
【0080】
還元糖のアッセイ:DNS法
デキストラン粒子が光を回折し、寄生吸収を起こすことから、デキストランは、タンパク質をアッセイするための全比色法に干渉する。そのため、グルコシルトランスフェラーゼの量は、標準条件下でのその活性により測定する。グルコシルトランスフェラーゼ単位は、1分間に1マイクロモルのフルクトースを放出する酵素の量を表す。
【0081】
活性は、標準フルクトース範囲(0〜2.5g/L)に関してジニトロ 3,5−サリチル酸(dinitro 3,5-salicylic acid)を用いる方法(Sumner and Howell, 1935)を利用して還元糖(フルクトース)の初期生産速度を測定することにより決定する。
【0082】
黄色の3,5−ジニトロサリチル酸(DNS)は、高温塩基性媒質中で還元性炭水化物により還元され、橙赤色の複合体:3−アミノ−5−ニトロサリチル酸を形成する。示した方法では、2.5g/Lのフルクトースまで還元力をアッセイし得る。
【0083】
DNS試薬は次のように製造する:150gの酒石酸カリウムナトリウムを250mLの水に溶かし、次いで、100mLの2N NaOHを加え、その後、攪拌しながら、1gの3,5−ジニトロサリチル酸を加える。さらに、ミリQ水を500mLに十分な量で加える。
【0084】
0時間および3時間の時点において、200μLの反応媒質をサンプリングし、200μLのDNSを入れた溶血ガラスチューブにすぐに導入する(反応を停止させる)。そして、生成した還元糖を標準フルクトース範囲(0〜2.5g/L)に対して測定する。同時に、200μLのDNSに200μLのミリQ水を加えることによりブランクを作製する。
【0085】
これらのチューブをアルミニウムで覆い(DNSは感光性を有する)、水浴中で5分間90〜100℃にする。その後、全体を氷中で5分間急冷する。さらに、総てのチューブに2mlのミリQ水を加え、20分間静置した後540nmで吸光度を読み取る。
【0086】
1Uは、標準条件下で1分間に1マイクロモルのフルクトースの形成を触媒する酵素の量であることから、比活性を酵素溶液1mL当たりのU(U/ml)で算出する。
酵素活性(U/ml)=[(速度アッセイ曲線の傾き)/(フルクトース標準曲線の傾き)]/(180x1,000x希釈係数)
【0087】
不溶性グルカン形成量のアッセイ
酵素反応開始の24時間後に可溶性グルカンの量を測定する。この反応を停止させるために、これらのチューブをアルミニウムで覆った後、水浴中で5分間90〜100℃にする。その後、全体を氷中で5分間急冷する。さらに、媒質(2mL)を15,000rpmで、4℃で30分間遠心分離する。
【0088】
次いで、このペレットを超純水で2回洗浄し、65℃で24時間乾燥させた後秤量する。
【0089】
3.2)結果および結論
フルオリノール単独では、0.68%および1.02%の濃度について、それぞれ、初期酵素反応の阻害率10.3%および20.6%となる。さらに、フルオリノールには、これらの濃度のいずれにおいても、不溶性グルカンの合成に対して効果はない。
【0090】
ブドウ種子抽出物単独で0.2%では、初期酵素反応速度について43.9%の阻害および不溶性グルカン(GI)形成について96.4%の阻害が起こる。この0.2%抽出物に0.68%および1.02%フルオリノールを加えることにより、それぞれ、より良い初期反応速度阻害率57.4%および65.7%がもたらされる。
【0091】
この組合せで得られる不溶性グルカン合成阻害率は、それぞれ、96.1%および97.1%である。
【0092】
よって、総合的に見て、フルオリノールは、ブドウ種子抽出物のGTF阻害活性の増強を可能にする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯の表面上または歯肉上皮組織上でのデンタルバイオフィルムの形成および蓄積を予防および/または低減することを目的とする口腔衛生組成物を製造するための、少なくとも1つのフッ素塩と組み合わせての水性ブドウ種子抽出物の使用。
【請求項2】
前記フッ素塩が、次式(I);
【化1】

(式中:
R1=H、アルキル;
R2=CH−OH、カルボン酸アルキル、−CO−NH−CH−CH−OH、
【化2】

およびR2は2位または3位にある)
に適合する塩から選択されるものである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記フッ素塩がフルオリノールである、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記フッ素塩がフッ化ナトリウムである、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記水性ブドウ種子抽出物が、50%より大きい、好ましくは90%より大きい質量分率のポリフェノールを含有するものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記水性ブドウ種子抽出物が、20%〜50%の質量分率のプロアントシアニジンを含有するものである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記口腔衛生組成物が、歯石の形成またはバイオフィルムの蓄積に関連する口腔歯疾患の発生の予防を目的とするものである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記口腔歯疾患が、齲蝕、歯肉炎または歯周炎から選択されるものである、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
水性ブドウ種子抽出物とフッ素塩の組合せを含んでなる、口腔衛生組成物。
【請求項10】
フッ素塩が、次式(I);
【化3】

(式中:
R1=H、アルキル;
R2=CH−OH、カルボン酸アルキル、−CO−NH−CH−CH−OH、
【化4】

およびR2は2位または3位にある)
に適合する塩から選択されるものである、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記フッ素塩がフルオリノールである、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
口内洗浄剤、練り歯磨き、歯肉ゲル、チューインガム、サッカブル錠、デンタルフロス、押出カプセル剤、歯ブラシの剛毛、粘着包帯、含浸ウェットティッシュ、義歯および補綴物用糊材または予防研磨ペーストの形態である、請求項9〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
シリグリコールおよび/またはビタミンEをさらに含有する、請求項9〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
50μg/mL〜10,000μg/mL、好ましくは200μg/mL〜5,000μg/mL、より有利には1,000μg/mL〜3,000μg/mL、さらに有利には約2,000μg/mLの前記ブドウ種子抽出物を含有する、請求項9〜13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
50ppm〜10,000ppm、好ましくは500ppm〜2,000ppmのフッ素を含有する、請求項9〜14のいずれか一項に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−525026(P2010−525026A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504699(P2010−504699)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際出願番号】PCT/EP2008/055032
【国際公開番号】WO2008/132149
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(500033483)ピエール、ファーブル、メディカマン (73)
【Fターム(参考)】