説明

データ並列配信方法とシステムおよびプログラム

【課題】HDTVやUHDV等の超高画質の動画ストリーミングのネットワーク配信サービスの実現を可能とする。
【解決手段】データ並列配信方法において、ネットワークトポロジ設計装置101によりネットワークを構成する各ノードの接続関係を示すトポロジ情報を生成し(ステップS1001)、サーバ配置設計装置102により、このトポロジ情報を参照して各ノード間の平均ホップ長を算出し、算出した平均ホップ長が小さいノードを優先して、データを並列配信するサーバ機能を設置し(ステップS1002)、データの配信要求があれば、サーバ選択装置104により、ホップ長の最も短い最近接のサーバノードと共に、この最近接サーバのホップ数に予め定められたホップ数を加えたホップ長以内のサーバノードも加えて選択する(ステップS1003)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネットワークを介して動画ストリーミング等のデータを配信する技術に係り、特に、一つの配信要求に対して、要求されたデータが保存されている複数のサーバから、当該データを並列にダウンロードするデータ並列配信形態において、平均リンク負荷の増加を抑えながらリンク負荷の偏りを効果的に低減するのに好適な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、Youtube等の動画ストリーミングサービスをインターネット上で利用するユーザ数の数が急増している。高品質な動画ストリーミング配信に対する要求は強く、近い将来、約25Mbpsのビットレートを有するHDTV(high definition TV)の視聴がインターネット上でも可能になると思われる。
【0003】
さらに、NHKによって、より品質を向上させたUHDV(Ultra High Definition Video)が提案されている。このUHDVの画像の非圧縮時のビットレートは24Gbpsであり、圧縮後も180から600Mbpsの高いレートを有する。
【0004】
このようなHDTVやUHDVの高い画像品質での動画ストリーミングサービスは、インターネットにおける重要なサービスの一つになると思われるが、これらのサービスによって生成されるトラヒックフローの伝送レートは非常に高く、サーバやリンクの輻輳を招く要因となることが予想される。そのためこれらサービスの提供に際しては、サーバやリンクの負荷を分散させることを検討する必要がある。
【0005】
サーバの負荷分散を図る効率的な技術として、例えば非特許文献1等に記載のCDN(Contents Delivery Network)が広く知られている。このCDNは、ネットワーク上に複数のサーバを用意し、ユーザの各配信要求に対して1つのサーバを選択する。その結果、複数のサーバ間で負荷が分散される。
【0006】
しかし、このCDNは、各配信要求に対して常に1つのサーバのみを選択するため、HDTVやUHDVのストリーミング配信によって生成されるフローがネットワークに与える影響を緩和することはできない。
【0007】
これらフローの転送レートを抑えるためには、1人のユーザに対する1本のストリーミングセッションに対して、複数のサーバを用いる必要がある。例えば、2つのサーバを1本の配信セッションに用いることにより、このセッションによって生成される各フローの転送レートを半分に抑えることができる。
【0008】
また、HDTVやUHDVの動画ストリーミングサービスによって生じる高レートフローのネットワークに与える影響を、並列配信によって低減させることが可能となる。
【0009】
このような並列配信技術は、例えば、P2Pファイル共有サービスとして有名なBitTorrentにおいても用いている。
【0010】
しかし、このBitTorrentでは、各ユーザは、他のユーザやオリジナルサーバからデータをダウンロードする間、他のユーザにデータセグメントをアップロードする必要がある。そのため、BitTorrentの性能は、ユーザの行動や上り方向のアクセス回線レートに大きく依存する。
【0011】
また、配信中のユーザの数が増加するほど、コンテンツを提供するサーバが増加することになるため、データをダウンロードするスループットは、ユーザ数の増加に伴い増加する。
【0012】
HDTVやUHDVの動画配信の転送ビットレートは極めて大きいので、大容量の上りアクセスリンクを有する多数のユーザが、これら超高画質の配信サービスを利用することを期待することは困難である。
【0013】
そのため、BitTorrent等のP2Pファイル共有システム上で、HDTVやUHDVの動画ストリーミング配信を提供することは困難である。
【0014】
これらサービスのフローがネットワークに与える影響を緩和するためには、CDN事業者、ISP(Internet Service Provider)、ネットワークキャリアなどが運用する複数のサーバから並列配信を行う必要がある。
【0015】
【非特許文献1】A.Su,D.Choffnes,A.Kuzmanovic, and F.Bustamante,“Drafting Behind Akamai (Travelocity−Based Detouring),” ACM SIGCOMM 2006.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
解決しようとする問題点は、従来の技術では、複数のサーバを用いたデータの並列配信を効率的に行うことができない点である。
【0017】
本発明の目的は、これら従来技術の課題を解決し、HDTVやUHDV等の超高画質の動画ストリーミングのネットワーク配信サービスの実現を可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するため、本発明では、例えば、動画ストリーミング配信において、1つの配信要求に対して、要求された動画コンテンツが保存されている複数のサーバを用いて動画データを並列にダウンロードする配信形態において、配信フローの平均ホップ長が短くなるよう、他のノードへの平均ホップ長が小さいノードに優先的にサーバを配置することを特徴とする。また、各配信要求に対して、ホップ長の最も短い最近接サーバに加えて、そのホップ数からプラスBホップ以内の位置に存在するサーバをも配信サーバとして選択する。また、並列配信の効果を高めるために、他の大部分のノードと接続するスーパーハブノードを複数ネットワーク内に配置し、それらスーパーハブノードにサーバを設置する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、データの並列配信における配信フローの平均ホップ長を抑えつつ、リンク負荷の偏りを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図を用いて本発明を実施するための最良の形態例を説明する。図1は、本発明に係るデータ並列配信システムの構成例を示すブロック図であり、図2は、図1におけるデータ並列配信システムを適用するバックボーンネットワークを構成する各ネットワークの一覧を示す説明図、図3は、図2における各ネットワークの分類例を示す説明図、図4は、本発明を適用するネットワークの第1のトポロジ例を示す説明図、図5は、本発明を適用するStar型ネットワークの特性例を示す説明図、図6は、本発明を適用するH&S型ネットワークの特性例を示す説明図、図7は、本発明を適用するLadder型ネットワークの特性例を示す説明図、図8は、本発明を適用するネットワークの第2のトポロジ例を示す説明図、図9は、本発明の作用結果を示す説明図、図10は、本発明に係るデータ並列配信方法の処理手順例を示すフローチャートである。
【0021】
図1におけるデータ並列配信システムは、ネットワークトポロジ設計装置101、サーバ配置設計装置102、ビデオサーバ103、サーバ選択装置104からなり、それぞれ、CPU(Central Processing Unit)や主メモリ、表示装置、入力装置、外部記憶装置等を具備したコンピュータ構成からなり、光ディスク駆動装置等を介してCD−ROM等の記憶媒体に記録されたプログラムやデータを外部記憶装置内にインストールした後、この外部記憶装置から主メモリに読み込みCPUで処理することにより、本発明に係る処理を実行する。
【0022】
すなわち、動画ストリーミングを配信する際、一つの配信要求に対して、要求された動画コンテンツが保存されている複数のサーバを用いて動画データを並列にダウンロードする配信形態をとり、さらに、配信フローの平均ホップ長が短くなるよう、他のノードへの平均ホップ長が小さいノードに優先的にサーバを配置する。
【0023】
本例では、プログラムされたコンピュータの処理実行手順として、ネットワークトポロジ設計装置101は、並列配信の有効性が向上するようネットワークのトポロジを設計し、サーバ配置設計装置102は、平均リンク負荷が抑えられるようサーバの配置ノードを選択し、サーバ選択装置104は、ユーザ端末105からの動画ストリーミング配信要求を受信すると、平均リンク負荷を抑えながらリンク負荷の偏りが低減するよう配信に用いるサーバ(ビデオサーバ103)を選択する。
【0024】
具体的には、ネットワークにおいてデータの並列配信用サーバ機能を設置するノードを選択する際、ネットワークトポロジ設計装置101は、ネットワークを構成する各ノードの接続関係を示すトポロジ情報を生成し記憶装置に格納する手順を実行し、サーバ配置設計装置102は、トポロジ情報を記憶装置から読み出して参照し、各ノード間の平均ホップ長を算出する手順を実行すると共に、算出した平均ホップ長が小さいノードを優先して、サーバ機能を設置するサーバノードとして選択する手順を実行する。
【0025】
尚、サーバ配置設計装置102は、サーバ機能を設置するサーバノードとして、予め定められた個数だけ選択する。
【0026】
また、サーバ選択装置104は、ユーザ端末105からのデータの配信要求に対して当該データを配信するサーバノードを選択する際に、ホップ長の最も短い最近接のサーバノードを選択する手順を実行すると共に、最近接サーバノードのホップ数に予め定められたホップ数を加えたホップ長以内のサーバノードも加えて選択する手順も実行する。
【0027】
また、サーバ配置設計装置102は、予め定められた割合以上で他のノードと接続されているスーパーハブノードを抽出する手順と、抽出したスーパーハブノードにサーバ機能を設置する手順とを実行する。
【0028】
また、ネットワークトポロジ設計装置101は、トポロジ情報を記憶装置から読み出して参照し、当該ネットワークをスター型(Star)、ハブ&スポーク型(H&S)、ラダー型(Ladder;梯子)のいずれかとして分類する手順を実行し、サーバ配置設計装置102は、Star型およびH&S型に分類したネットワークであれば、当該ネットワークを構成する各ノードの内、最も次数の高いノードを上記サーバノードとして選択する手順を実行する。
【0029】
また、サーバ設置設計装置102は、平均ホップ長が小さく、かつ、当該ネットワークの中心に位置するノードをサーバノードとして選択する。
【0030】
その際、サーバ設置設計装置102は、ネットワークの中心に位置するノードとして、全ノード数Nと、ノードiからノードjへの最短ホップ経路上のホップ数hijとを用いた式「Hi=(N−1)÷(Σj=1,j≠iij)」で定義される中心性を表す尺度Hiが最も大きいノードを選択する。
【0031】
以下、このような構成からなる本例のデータ並列配信システムによる、動画ストリーミング配信における並列配信芸術について、詳細を説明する。
【0032】
まず、図2と図3および図4を用いて、ネットワークトポロジ設計装置101による、ネットワークトポロジの設計技術に関して説明する。
【0033】
本例では、公開されている商用ISPのバックボーンネットワークの実際のトポロジを評価に用いる。実際には「39」のトポロジが公開されているが、本例では、ノード数が20以上ある「23」のトポロジを評価対象とする。
【0034】
図2においては、これら23のネットワークの名称、ノード数N、リンク数M、高次数ノード比率Rh、最大ノード次数Dをまとめている。尚、高次数ノード比率Rhは、ノード次数dが平均次数E(d)を越えているノード数の全ノード数Nに対する比率で定義する。
【0035】
また、図3においては、これらの23個の各ネットワークに対して、高次数ノード比率Rhと最大ノード次数Dの散布状態を示す。そして、本図3に基づき、23のネットワークを、Star型、H&S型、Ladder型の三つのグループに分類する。
【0036】
Star型は、図4(a)に示すように、非常に少数のハブノードが、他のほとんど全てのノードと接続しており、高次数ノード比率Rhが小さく、最大ノード次数Dが大きな特徴がある。ここでは、D≧10かつRh<0.2のネットワークをStar型と定義し、図3に示すように、5つのネットワークがStar型となる。
【0037】
H&S型は、図4(b)に示すように、相互接続された数個のハブノードが存在する。他のノードは、一つ以上のハブノードに接続しているため、本構造はハブ&スポーク型を呼ばれる。航空路線網が本形態となることが知られている。
【0038】
H&S型では、ハブノードを介して少ないホップ数で他のノードに到達することができるため、ノード間のホップ距離(ホップ長)が小さくなる傾向がある。ここでは、D≧10かつRh≧0.2のネットワークをH&S型と定義し、図3に示すように、6つのネットワークが本形状となる。
【0039】
Ladder型では、図4(c)に示すように、ハブノードが存在せず、いくつかのループを組み合わせたトポロジ構造となる。総リンク長を抑えることができる反面、ノード間ホップ距離(ホップ長)が長くなる傾向がある。高速道路網が本形態となることが知られている。
【0040】
ここでは、D<10のネットワークをLadder型と定義し、図3に示すように、12のネットワークが本形態となる。
【0041】
図3において、これら三つのトポロジ例で示されるネットワークは、全て米国に存在するが、ネットワーク種別に応じて大きく形状が異なることが確認できる。
【0042】
インターネットのAS(Autonomous System)内ルーティングプロトコル(OSPF:Open Shortest Path First)は、各ノード間に最小コストの経路を設定するため、各サーバとユーザ間に対してダイクストラの最短ホップ経路が選択されることを想定する。
【0043】
次に、サーバ配置設計装置102による、サーバの配置技術に関して説明する。ここでは、サーバが設置されたノードをサーバノード、サーバが設置されていないノードをユーザノードと表記する。
【0044】
サーバノード数の全ノード数Nに対する比率をsと定義し、サーバノード数をSとする。すなわち、サーバノード数Sは、「s×N」の小数点以下を切り上げした値となる。
【0045】
サーバノードiに収容されているユーザに対しては、サーバノードiに設置されたサーバから、動画データの全体を配信するのが最も効率がよいので、以後の評価では、サーバノードに収容されたユーザは評価対象外とする。
【0046】
ユーザノードに収容されたユーザに対しては、他のノードに設置されたサーバから動画データを転送する必要がある。この際、リンクに加わるトラヒック負荷を最小化するためには、最もユーザからのホップ距離(ホップ長)が近いサーバから動画データを転送するのが望ましい。
【0047】
従って、他のノードへの平均ホップ距離(ホップ長)が小さく、ネットワークの中心に位置するノードにサーバを設置するのが望ましい。
【0048】
ここで、ノードiからノードjへの最短ホップ経路上のホップ数(経由するルータ等の数)をhijとする。さらにHiを、ノードiの中心性を表す尺度として、「Hi=(N−1)÷(Σj=1,j≠iij)」と定義し、そして、中心性を表す尺度Hiが最も大きいS個のノードにサーバを配置する。
【0049】
s=0.1とした場合の、Star型ネットワークであるNW14(MindSpring)と、H&S型ネットワークであるNW3(Allegiance Telecom)のサーバ配置ノードを確認したところ、全てのサーバ(NW14では5つ、NW3では6つ)は、最も次数の高いノードに配置された。
【0050】
Star型ネットワークやH&S型ネットワークでは、ハブノードの中心性(Hi)が高く、上述の条件でサーバを配置すると、ハブノードにサーバが配置される。
【0051】
Ladder型のネットワークであるNW7(CAIS Internet)に対しても、サーバ配置ノードを確認したところ、図4(c)において矢印で示した4つのノードに配置された。
【0052】
このように、Ladder型ネットワークでは、高次数ノードにサーバが配置されるとは限らない。
【0053】
次に、サーバ選択装置104の処理内容として、サーバの選択技術について説明する。
【0054】
平均リンク負荷を最小化するためには、ホップ距離の小さいサーバを選択することが望ましい。
【0055】
従って、従来のCDNにおける単一フロー配信技術においては、各配信要求に対して、ホップ距離の最も近いサーバを一つ選択する。そのようなサーバが複数存在する場合には、シミュレーションの開始時において、それらの中から一つをランダムに選択する。
【0056】
一方、本例のデータ並列配信システムの場合は、ユーザノードiの配信要求に対して、ユーザノードiからのホップ距離が「bi+B」以下のサーバを全て選択する。ただし、「bi」は、ユーザノードiから最もホップ距離の近いサーバノードへのホップ距離、「B」は任意に与えられる整数パラメタである。
【0057】
このように、本例では、最近接ノードに加えて、「B」ホップまでホップ数の長いサーバも選択対象に含める。
【0058】
しかし、この場合、「B」の増加に伴い、一つの動画ストリーミングセッションに用いられるサーバ数が増加して並列度が向上する反面、フローの平均ホップ長が増加する。そのため、平均リンク負荷が増加する。
【0059】
以下、以上の本例のシステムによる処理の評価結果を説明する。
【0060】
転送レートがc(bps)で時間長がT(秒)の単一種の動画コンテンツを考える。「N−S」個の各ユーザノードに対して、発生レートがλのポアソン過程により配信要求を発生させる。リンク負荷をcで正規化し、λは、式「λ=ρ×M÷{H×(N−S)×T}」で定義する。
【0061】
尚、上記式における「ρ」は単一フロー配信における各リンクの平均ふかであり、Mはリンク数である。また、「H」は、最近接サーバへの平均ホップ距離であり、式「H=Σi∈Z{bi÷(N−S)}」で定義される。この式において、「Z」はユーザノード集合である。
【0062】
以後の評価では、ρ=1、T=1200秒とする。
【0063】
選択したサーバに対して最短ホップ経路が複数存在する場合には、各配信要求に対して一つの経路がランダムに選択される。
【0064】
図5(a),(b)においては、5つのStar型ネットワークを対象に、各ストリーミング配信セッションにおける平均フロー数(各配信要求に対して選択されるサーバ数の平均値)を「B」に対して示す。
【0065】
図5(a)では「s=0.1」、図5(b)では「s=0.3」と設定した。ただし、結果を、「0≦B≦Bmax」の範囲で示している(「Bmax」は任意のユーザノードに対して全てのサーバが選択されるBの最小の値)。
【0066】
Star型ネットワークでは、ハブノードと他のノード間のホップ距離が短いため、全てのユーザノードは、2ホップ以内で全てのサーバノードに到達できる。
【0067】
図8(a)において矢印で示すように、NW12(GoodNet)では、3つのハブノードの次数が極めて大きい。これらハブノード(スーパーハブノード)は、他の58%〜69%のノードと接続しており、多数のユーザノードは、2つか3つのスーパーハブノードと接続している。従って、NW12では、各配信セッションの平均並列フロー数が大きい。
【0068】
図5(c),(d)においては、スター型ネットワークを対象に、正規化平均リンク負荷を示す。ただし、この正規化平均リンク負荷は、並列フロー配信システム(PDS: Parallel Download System)における平均リンク負荷を、単一フロー配信システム(SDS:Single Download System)における平均リンク負荷で除したものと定義する。
【0069】
配信要求の発生レートは固定されているため、平均リンク負荷はフローの平均ホップ長に比例する。SDSでは最近接サーバが常に選択されるため、SDSにおける平均リンク負荷は、与えられた網トポロジとサーバ配置位置に対して最小となる。よって正規化平均リンク負荷は常に1以上の値をとる。
【0070】
「B」の増加に伴い、PDSにおけるフローの平均ホップ長が増加するため、平均リンク負荷も増加する。
【0071】
さらに、リンク負荷のCVの正規化値(PDSのリンク負荷のCVをSDSのリンク負荷のCVで除した値)を図5(e),(f)に示す。
【0072】
この値が「1」より小さい場合に、PDSがSDSと比較してリンク負荷のCVが低減することを意味する。
【0073】
NW12を除いた4つのStar型ネットワークでは、少数のハブノードが存在し、他の多くのノードはこれらハブノードの1つと接続している。
【0074】
図5(e)に示すように、s=0.1のとき、サーバはこれら少数のハブノードにのみ設置され、「B」を1以上に設定すると、多くのフローは、ハブノード間に設置されたリンクを経由する結果、PDSにおいてリンク負荷のCVが増加する。
【0075】
それに対してNW12では、多くのノードは2つか3つのスーパーハブノードと接続しており、スーパーハブノード間に設置されたリンクへの負荷の集中が回避される。
【0076】
図6においては、6つのH&S型ネットワークに対する三つの特性について同様に示す。
【0077】
H&S型ネットワークにおいても、多数のノードはサーバノード(ハブノード)に短いホップ距離で到達できるため、「B」を2以下に設定した場合でも配信時の並列フロー数を高めることが可能である。
【0078】
さらに、H&S型ネットワークではハブノードが多数存在し、それらは相互接続している傾向がある。そのため、「B」を1以上に設定した場合でも、ハブノード間の特定のリンクへの負荷集中は回避され、リンク負荷のCVは低減する。
【0079】
総ノード数Nの大きなネットワークほど、「B」を1以上に設定した場合の並列フロー数がより大きくなり、リンク負荷のCVの低減度合いも大きくなる。
【0080】
図7においては、12のLadder型ネットワークに対してこれら三つの特性を同様に示す。
【0081】
Ladder型ネットワークではノード間の平均距離が大きいため、各ストリーミング配信の並列フロー数を十分に高めるためには「B」を大きな値に設定する必要がある。
【0082】
「B」を大きくしたときのLadder型ネットワークのフローの平均ホップ長の増加度合いは大きいため、Ladder型ネットワークの正規化平均リンク負荷はStar型やH&S型のそれに比べて大きい。尚、Ladder型ネットワークにおいても、リンク負荷のCVはPDSにより低減する。
【0083】
以上の説明をまとめると、NW12を除き、Star型ネットワークにおいて少数のサーバのみを設置した場合、PDSを用いるメリットはない。
【0084】
Star型ネットワークにおいて3割程度のノードにサーバを設置した場合や、H&S型やLadder型ネットワークにおいては、PDSを用い、さらに最近接ノード以外にホップ数の長いサーバも配信に用いた場合、リンク負荷のCVは低減する反面、平均リンク負荷が増加する。
【0085】
よって、PDSにおいて最近接サーバ以外のサーバも含めて並列配信を行う明確なメリットは見出せない。
【0086】
ただし、「B=0」に設定し、最近接サーバのみを並列配信に用いる場合には、平均リンク負荷の増加を避けながらリンク負荷のCVを低減させることが可能であり、PDSを用いる明確なメリットが見出せる。
【0087】
しかし、この場合、PDSの効果は各ユーザノードに対して最近接サーバがいくつ存在するかに依存する。このことを確認するため、図9に、「B=0」と設定したときのリンク負荷のCVの正規化値を最近接サーバ数比率ηに対して示す。
【0088】
ただしηは、式「η={Σi∈Zxi(bi)}÷{(N−S)×S}」で定義する。この式における「xi(bi)」は、ユーザノードiにおける最近接サーバ(ノードiからのホップ距離がbiのサーバノード)の数である。
【0089】
これら二つの尺度間には負の相関が確認できる。すなわち、ηが大きなネットワークほどPDSが有効となる。
【0090】
ηに関して、Star型、H&S型、Ladder型といったネットワーク種別による明確な違いは見られない。
【0091】
NW12(GoodNet)はηが大きく、最近接サーバのみを用いて並列配信を行ってもリンク負荷のCVの低減効果が顕著に見られる。これは前述したように、NW12では、多数のユーザノードが2つか3つのスーパーハブノードと接続していることが原因である。
【0092】
NW17(Savvis Communications)とNW19(Sprint)もηが大きいが、リンク負荷のCVの低減効果は限定的である。
【0093】
NW17とNW19では最大ノード次数が各々10と8であり、ハブノードは40%程度以下の他のノードと接続しているのみである。
【0094】
これらネットワークでは、NW12で見られたようなスーパーハブノードが存在せず、リンク負荷のCVの低減効果は限定的となっている。図8(b),(c)に、これら二つのネットワーク(NW17とNW19)を示す。
【0095】
よって、NW17のように、ほとんどのノードを接続するスーパーハブノードが2つ以上存在し、かつ、そのようなスーパーハブノードにサーバが設置された場合には、動画ストリーミングサービスを並列配信で提供することにより平均リンク負荷の増加を避けながらリンク負荷の偏りを大きく低減することが可能となる。
【0096】
次に、図10を用いて、図1におけるデータ並列配信システムによる本発明に係る処理動作例を説明する。
【0097】
まず、ネットワークトポロジ設計装置101により、ネットワークを構成する各ノードの接続関係を示すトポロジ情報を生成し記憶装置に格納する手順を実行する(ステップS1001)。
【0098】
次に、サーバ配置設計装置102により、トポロジ情報を記憶装置から読み出して参照し、各ノード間の平均ホップ長を算出する手順と、算出した平均ホップ長が小さいノードを優先して、データを並列配信するサーバ機能を設置するサーバノードとして選択する手順とを実行する(ステップS1002)。尚、この際、サーバ機能を設置するサーバノードとして、予め定められた個数だけ選択する。
【0099】
そして、サーバ選択装置104により、データの配信要求に対して当該データを配信するサーバノードを選択する際、ホップ長の最も短い最近接のサーバノードを選択する手順と、この最近接サーバのホップ数に予め定められたホップ数を加えたホップ長以内のサーバノードも加えて選択する手順とを実行する(ステップS1003)。
【0100】
以上、図1〜図10を用いて説明したように、本例では、ネットワークにおけるデータの並列配信を行う際、ネットワークトポロジ設計装置101により、ネットワークを構成する各ノードの接続関係を示すトポロジ情報を生成し、サーバ配置設計装置102により、このトポロジ情報を参照して各ノード間の平均ホップ長を算出し、算出した平均ホップ長が小さいノードを優先して、データを並列配信するサーバ機能を設置する。
【0101】
その際、サーバ配置設計装置102は、サーバ機能を設置するサーバノードとして、予め定められた個数だけ選択する。
【0102】
また、サーバ選択装置104において、ユーザ端末105からのネットワークを介してのデータの配信要求に対して当該データを配信するサーバノードを選択する際、ホップ長の最も短い最近接のサーバノードを選択すると共に、この最近接サーバのホップ数に予め定められたホップ数を加えたホップ長以内のサーバノードも加えて選択する。
【0103】
また、サーバ配置設計装置102は、予め定められた割合以上で他のノードと接続されているスーパーハブノードを抽出し、抽出したスーパーハブノードにサーバ機能を設置する。
【0104】
また、ネットワークトポロジ設計装置101は、トポロジ情報を記憶装置から読み出して参照し、当該ネットワークをStar型、H&S型、Ladder型のいずれかとして分類し、サーバ配置設計装置102は、Star型およびH&S型に分類したネットワークであれば、当該ネットワークを構成する各ノードの内、最も次数の高いノードをサーバノードとして選択する。
【0105】
また、サーバ配置設計装置102は、平均ホップ長が小さく、かつ、当該ネットワークの中心に位置するノードをサーバノードとして選択する。
【0106】
また、サーバ配置設計装置102は、ネットワークの中心に位置するノードとして、全ノード数Nと、ノードiからノードjへの最短ホップ経路上のホップ数hijとを用いた式「Hi=(N−1)÷(Σj=1,j≠iij)」で定義される中心性を表す尺度Hiが最も大きいノードを選択する。
【0107】
このことにより、本例によれば、動画ストリーミング配信において、1つの配信要求に対して、要求された動画コンテンツが保存されている複数のサーバを用いて動画データを並列にダウンロードする配信形態において、配信フローの平均ホップ長を抑えつつ、リンク負荷の偏りを低減する効果を得ることができる。これにより、複数のサーバを用いたデータの並列配信を効率的に行うことができ、HDTVやUHDV等の超高画質の動画ストリーミングのネットワーク配信サービスの実現が可能となる。
【0108】
尚、本発明は、図1〜図10を用いて説明した例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。例えば、本例では、本発明に係る処理手順を実行するコンピュータ装置として、ネットワークトポロジ設計装置101、サーバ配置設計装置102、ビデオサーバ103、サーバ選択装置104のそれぞれを個別に設けた構成としているが、各々の機能を1つのコンピュータ装置内に設けた構成としても良い。
【0109】
また、本例のコンピュータ装置の構成としては、キーボードや光ディスクの駆動装置の無いコンピュータ構成としても良い。また、本例では、光ディスクを記録媒体として用いているが、FD(Flexible Disk)等を記録媒体として用いることでも良い。また、プログラムのインストールに関しても、通信装置を介してネットワーク経由でプログラムをダウンロードしてインストールすることでも良い。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明に係るデータ並列配信システムの構成例を示すブロック図である。
【図2】図1におけるデータ並列配信システムを適用するバックボーンネットワークを構成する各ネットワークの一覧を示す説明図である。
【図3】図2における各ネットワークの分類例を示す説明図である。
【図4】本発明を適用するネットワークの第1のトポロジ例を示す説明図である。
【図5】本発明を適用するStar型ネットワークの特性例を示す説明図である。
【図6】本発明を適用するH&S型ネットワークの特性例を示す説明図である。
【図7】本発明を適用するLadder型ネットワークの特性例を示す説明図である。
【図8】本発明を適用するネットワークの第2のトポロジ例を示す説明図である。
【図9】本発明の作用結果を示す説明図である。
【図10】本発明に係るデータ並列配信方法の処理手順例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0111】
101:ネットワークトポロジ設計装置、102:サーバ配置設計装置、103:ビデオサーバ、104:サーバ選択装置、105:ユーザ端末。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プログラムされたコンピュータ処理により、ネットワークにおけるデータの並列配信を行う方法であって、
プログラムされたコンピュータの処理実行手順として、
ネットワークを構成する各ノードの接続関係を示すトポロジ情報を生成し記憶装置に格納する手順と、
上記トポロジ情報を記憶装置から読み出して参照し、各ノード間の平均ホップ長を算出する手順と、
算出した平均ホップ長が小さいノードを優先して、データを並列配信するサーバ機能を設置するサーバノードとして選択する手順と
を含むことを特徴とするデータ並列配信方法。
【請求項2】
請求項1に記載のデータ並列配信方法であって、
プログラムされたコンピュータの処理実行手順として、
上記サーバ機能を設置するサーバノードとして、予め定められた個数だけ選択する手順を含むことを特徴とするデータ並列配信方法。
【請求項3】
請求項1もしくは請求項2のいずれかに記載のデータ並列配信方法であって、
プログラムされたコンピュータの処理実行手順として、
データの配信要求に対して当該データを配信するサーバノードを選択する際に、
ホップ長の最も短い最近接のサーバノードを選択する手順と、
該最近接サーバのホップ数に予め定められたホップ数を加えたホップ長以内のサーバノードも加えて選択する手順と
を含むことを特徴とするデータ並列配信方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のデータ並列配信方法であって、
プログラムされたコンピュータの処理実行手順として、
予め定められた割合以上で他のノードと接続されているスーパーハブノードを抽出する手順と、
抽出したスーパーハブノードに上記サーバ機能を設置する手順と
を含むことを特徴とするデータ並列配信方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のデータ並列配信方法であって、
プログラムされたコンピュータの処理実行手順として、
上記トポロジ情報を記憶装置から読み出して参照し、当該ネットワークをStar型、H&S型、Ladder型のいずれかとして分類する手順と、
Star型およびH&S型に分類したネットワークであれば、当該ネットワークを構成する各ノードの内、最も次数の高いノードを上記サーバノードとして選択する手順と
を含むことを特徴とするデータ並列配信方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載のデータ並列配信方法であって、
プログラムされたコンピュータの処理実行手順として、
上記平均ホップ長が小さく、かつ、当該ネットワークの中心に位置するノードを上記サーバノードとして選択する手順
を含むことを特徴とするデータ並列配信方法。
【請求項7】
請求項6に記載のデータ並列配信方法であって、
プログラムされたコンピュータの処理実行手順として、
上記ネットワークの中心に位置するノードとして、全ノード数Nと、ノードiからノードjへの最短ホップ経路上のホップ数hijとを用いた式「Hi=(N−1)÷(Σj=1,j≠iij)」で定義される中心性を表す尺度Hiが大きなノードから優先的に選択する手順
を含むことを特徴とするデータ並列配信方法。
【請求項8】
コンピュータに、請求項1から請求項7のいずれかに記載のデータ並列配信方法における各手順を実行させるためのプログラム。
【請求項9】
プログラムされたコンピュータ処理により、ネットワークにおけるデータの並列配信を行うシステムであって、
プログラムされたコンピュータ処理実行手段として、
請求項1から請求項7のいずれかに記載のデータ並列配信方法における各手順を実行する手段を具備したことを特徴とするデータ並列配信システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−212881(P2009−212881A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−54321(P2008−54321)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】