説明

データ伝送装置及びデータ伝送方法

【課題】多重化構成の伝送路に同時に障害が発生した場合であっても、データを適正に伝送することができるデータ伝送装置及びデータ伝送方法を提供する。
【解決手段】マスタ装置1と複数の制御装置2a〜2fとを、2重化された伝送路系A及びBによって接続する。マスタ装置1は、伝送路系A及びBに同一の伝送データを同時に送出する。このとき、制御装置2a〜2fは、一方の伝送路系からデータ受信してから所定の監視時間以内に、もう一方の伝送路系からデータ受信できたか否かを監視し、データ受信できなった場合、データ受信できなかった系統の伝送路に受信データを送出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の装置間のデータ伝送に関し、特に、高信頼性が要求される交通、電力分野へ適用される装置の間で冗長化されたデータの送受信を行うデータ伝送装置及びデータ伝送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、伝送データの信頼性を向上させる技術として、例えば特許文献1に記載の技術がある。この技術は、サーバ/クライアント型のシステムにおいて伝送パケットに欠落が生じた場合、サーバ側伝送装置はクライアント側伝送装置からの再送要求に応じてパケットを再送するというものである。ここでは、2重化した早系と遅系で構成される2系統でデータ伝送を行っている。
【0003】
また、2重化された伝送路による伝送システムとして、例えば特許文献2に記載の技術がある。この技術は、冗長化された伝送路を切替えて伝送を行うことにより、伝送路の利用効率を上げるものである。ここでは、伝送路の故障検出時の動作については詳細には記述されていないが、異常発生時には再送処理を行い、それでも異常な場合には伝送路異常と判定して伝送路を切替えるものと推定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−147579号公報
【特許文献2】特開2004−32354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の2重化された伝送路による伝送システムのように、一方の伝送路に障害が発生した場合に伝送路を切替える構成とすると、伝送路上の1箇所の障害のみにしか対応できない。すなわち、同時に双方の伝送路に障害が発生した場合にはデータの伝送が停止してしまう。また、伝送されるデータにエラー発生した場合、再送処理によりデータ回復するので、正確な定周期毎にデータを抜けなく伝送することが困難である。
そこで、本発明は、多重化構成の伝送路に同時に障害が発生した場合であっても、データを適正に伝送することができるデータ伝送装置及びデータ伝送方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に係るデータ伝送装置は、マスタ装置と複数の制御装置とが、隣接する装置間を結ぶ双方向通信可能で且つ複数系統に多重化された伝送路によって接続され、それぞれの系統毎に前記伝送路を介して伝送データの授受を行うデータ伝送装置であって、前記マスタ装置は、自身に接続された全ての系統の伝送路に対して、同一の伝送データを同時又は略同時に送出するように構成されており、前記制御装置は、全ての系統から前記伝送データを受信したか否かを監視する監視手段と、前記監視手段で前記伝送データを受信できない異常系統が存在すると判断したとき、正常系統から受信した前記伝送データを、前記異常系統の伝送路に対して双方向に送出するデータ送出手段と、を備えることを特徴としている。
【0007】
このように、全ての系統からデータ受信したか否かを監視することで、正しくデータ受信できない系統が存在すると判断した場合には、その系統の伝送路の上流に障害が発生していると判断することができる。そして、障害が発生している伝送路に対しては、正常な系統から受信したデータを送出するので、伝送路に接続されたすべての制御装置でデータが抜けることなく正常に受信することができる。したがって、複数系統の伝送路に同時に障害が発生した場合であっても、データ伝送が停止することなく、信頼性を向上させることができる。
さらに、伝送路に障害が発生していると判断した制御装置から異常系統に対して正常なデータを送出することができるので、マスタ装置からの煩雑な再送処理を不要とすることができる。その結果、データ遅れを抑制することができる。
【0008】
また、請求項2に係るデータ伝送装置は、請求項1に係る発明において、前記監視手段は、何れか1つの系統から前記伝送データを受信してから所定の監視時間が経過するまでの間に、残りの系統から前記伝送データを受信したか否かを監視するものであって、前記監視時間は、前記制御装置毎に異なる時間に設定されていることを特徴としている。
これにより、例えば、上流側の制御装置の監視時間を下流側と比較して短く設定すれば、上流側の制御装置で先に監視時間がアップして正常なデータを送出することになる。したがって、障害発生箇所より下流側の制御装置に、伝送路の正常状態と同じ順番でデータ伝送を行うことができる。一方、例えば、下流側の制御装置の監視時間を上流側と比較して短く設定すれば、下流側の制御装置で先に監視時間がアップして正常なデータが送出することになる。したがって、障害発生箇所より下流側の制御装置におけるデータ遅れを抑制することができる。
【0009】
さらに、請求項3に係るデータ伝送装置は、請求項2に係る発明において、前記監視時間は、上記系統における上流側に配置した制御装置であるほど、短い時間に設定されていることを特徴としている。
これにより、障害発生箇所の直後の制御装置で真っ先に監視時間がアップして、正常なデータを送出することができる。したがって、障害発生箇所に近い制御装置におけるデータ遅れを抑制することができる。
【0010】
また、請求項4に係るデータ伝送装置は、請求項3に係る発明において、前記制御装置は、前記マスタ装置との間のクロックの差分と、前記マスタ装置から自制御装置に伝送データが到達するまでの時間である伝播遅延時間とに基づいて、自制御装置のクロック値を補正する同期手段を備え、前記監視時間は、前記伝播遅延時間に基づいて設定されていることを特徴としている。
このように、標準的なクロック同期化方法で用いる伝播遅延時間に基づいて監視時間を設定するので、比較的簡易な構成で、伝送路の上流側に配置された制御装置であるほど監視時間が短くなるように設定することができる。
【0011】
さらに、請求項5に係るデータ伝送方法は、マスタ装置と複数の制御装置とが、隣接する装置間を結ぶ双方向通信可能で且つ複数系統に多重化された伝送路によって接続され、それぞれの系統毎に前記伝送路を介して伝送データの授受を行うデータ伝送方法であって、前記マスタ装置は、自身に接続された全ての系統の伝送路に対して、同一の伝送データを同時又は略同時に送出し、前記制御装置は、全ての系統から前記伝送データを受信したか否かを監視し、前記伝送データを受信できない異常系統が存在すると判断したとき、正常系統から受信した前記伝送データを、前記異常系統の伝送路に対して双方向に送出することを特徴としている。
これにより、多重化構成の伝送路に同時に障害が発生した場合であっても、伝送路に接続された全ての制御装置でデータが抜けることなく正しく受信することができるデータ伝送方法とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、各制御装置において全系統からデータ受信したか否かを監視することで、各伝送路上の障害の有無を検出することができる。そして、障害発生を検出した場合には、障害発生した箇所から下流側の伝送路上に、正常系統から受信したデータを送出するので、複数系統の伝送路に同時に障害が発生した場合にも対応することができる。したがって、高信頼な伝送システムを構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態を示すシステム構成図である。
【図2】制御装置2の内部構成を示す図である。
【図3】CPU21で実行するデータ監視処理手順を示すフローチャートである。
【図4】伝送路系Aに障害が発生した場合のデータ伝送の流れを説明する図である。
【図5】伝送路系A及びBに障害が発生した場合のデータ伝送の流れを説明する図である。
【図6】第2の実施形態における制御装置2の内部構成を示す図である。
【図7】マスタ装置と制御装置との間のクロック同期化方法を示す図である。
【図8】第2の実施形態において伝送路系Aに障害が発生した場合のデータ伝送の流れを説明する図である。
【図9】第2の実施形態において伝送路系A及びBに障害が発生した場合のデータ伝送の流れを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(第1の実施形態)
(構成)
図1は本発明の一実施形態を示すシステム構成図である。
図中、符号1はマスタ装置、符号2a〜2fは制御装置である。この図1に示すように、マスタ装置1と複数(ここでは6台)の制御装置2a〜2fとが、2重化された伝送路系A,Bを介してリング状に接続されている。
マスタ装置1は、各制御装置2a〜2fに対する指令を含む伝送データを、伝送路系A及び伝送路系Bに同時に送出する。マスタ装置1から送出した伝送データは、制御装置2a→制御装置2b→制御装置2c→…と順々に伝えられ、最終的にマスタ装置1に戻される。
【0015】
この動作は、伝送路系A,Bそれぞれに対して同様に行う。そのため、制御装置2a〜2fは、それぞれの伝送路系から同じ伝送データを2回受信することになる。
なお、制御装置2a〜2fはそれぞれ同様の構成を有するため、以下の説明では、制御装置2a〜2fを総括して説明する場合には、単に制御装置2と略記する。
【0016】
図2は、制御装置2の内部構成を示す図である。
制御装置2は、CPU21、双方向メモリ22、伝送コントローラ23、3ポートスイッチ24、監視タイマ25及び監視タイマ値設定部26により構成されている。ここで、双方向メモリ22、伝送コントローラ23及び3ポートスイッチ24は、各伝送路系A,Bに対応して2つずつ設けられている。そして、各制御装置2の3ポートスイッチ24A,24Bが、それぞれ冗長化された伝送路系A,Bで構成されたネットワークで接続されている。
【0017】
すなわち、制御装置2は双方向通信可能な4つの通信ポートを有し、このうち2つの通信ポートを1組として2系統の通信系統にそれぞれ接続したネットワーク構成となっている。
CPU21は、伝送路系A及びBの双方から正常にデータ受信しているか否かを監視し、何れか一方の系からデータ受信してから所定の監視時間内に、もう一方の系からデータ受信していないと判定した場合には、データ受信していない方の系に対して、正常な系から受信した受信データを送出するデータ監視処理を行う。
【0018】
ここで、CPU21は、双方向メモリ22A及び22Bに対するデータの読み出し及び書き込みが可能となっており、双方向メモリ22A及び22B内のデータを読み出し、監視することで伝送路系A及びBからデータ受信しているか否かを判定可能となっている。また、双方向メモリ22A,22Bにデータを書き込むことで、データを書き込んだ双方向メモリに対応する系に対して、書き込みデータを送出することが可能となっている。なお、このデータ監視処理については後で詳述する。
【0019】
3ポートスイッチ24Aは3つのポートを有し、そのうちの2つのポートは伝送路系Aに接続され、残りの1つのポートは伝送コントローラ23Aに接続されている。
3ポートスイッチ24Aは、伝送路系Aに接続した一方のポートに伝送路系Aを介してデータが入力されると、当該データを、伝送路系Aに接続した他方のポートから送出すると共に、伝送コントローラ23Aへ出力する。
伝送コントローラ23Aは、3ポートスイッチ24Aを介して入力されたデータのエラーチェックを行うと共に、そのデータが自分宛てであるか否かを確認する。そして、データにエラーがない場合には、双方向メモリ22Aへそのデータを書き込む。
【0020】
また、伝送コントローラ23Aは、CPU21が伝送路へ送信するデータを双方向メモリ22Aへ書き込むと、双方向メモリ22Aに書き込まれたデータを順番に読み出し、3ポートスイッチ24Aへ送る。すると3ポートスイッチ24Aは、伝送コントローラ23Aからの送信データを上記ネットワークに接続された2つのポートから出力する。つまり、伝送路の双方向にデータを送出する。
なお、伝送路系Bに対応する双方向メモリ22B、伝送コントローラ23B及び3ポートスイッチ24Bの構成については、上述した伝送路系Aに対応する双方向メモリ22A、伝送コントローラ23A及び3ポートスイッチ24Aと同様であるため、説明を省略する。
【0021】
監視タイマ値設定部26は、制御装置2に割り振られた32ビット長の識別番号の下8ビットに、例えば20μsを乗算することで、自制御装置の監視タイマ値(監視時間)を決定する。この場合であると、20μsから5120μsの間で20μs間隔の監視時間がそれぞれの制御装置2に割り振られることになる。この監視タイマ値は監視タイマ25により監視される。
【0022】
次に、CPU21で実行するデータ監視処理について説明する。
図3は、CPU21で実行するデータ監視処理手順を示すフローチャートである。
先ずステップS1で、CPU21は、伝送路系A,Bの何れか一方の系からデータ受信したか否かを判定する。
上述したように、伝送路を介したデータが3ポートスイッチ24に入力されると、その受信データは伝送コントローラ23へ入力される。そして、伝送コントローラ23は入力された受信データのエラーチェックを行った後、その受信データを双方向メモリ22へ書き込む。したがって、ここでは、双方向メモリ22A及び22B内のデータを確認し、何れか一方に受信データが書き込まれているか否かを判定することで、伝送路系A,Bの何れか一方の系からデータ受信したか否かを判定する。
【0023】
そして、双方向メモリ22A及び22Bに受信データが書き込まれていない場合には、何れの系からもデータ受信していないと判断し、何れかの系からデータ受信するまで待機する。一方、何れかの系からデータ受信したと判断した場合には、ステップS2に移行する。
ステップS2では、CPU21は、監視タイマ25に対して指令信号を出力し、監視タイマをスタートさせる。
【0024】
次に、ステップS3では、CPU21は、前記ステップS1でデータ受信をしていないと判断した方の系からデータ受信したか否かを判定する。そして、データ受信したと判定した場合には、伝送路系A及びBの両方から正常にデータ受信しており、各伝送路は正常であると判断してそのままデータ監視処理を終了する。
一方、データ受信をしていない場合にはステップS4に移行し、監視タイマ25の監視タイマ値が監視タイマ値設定部26で設定した監視時間に達したか否かを判定する。そして、監視タイマ設定値に達していない場合には前記ステップS3に移行する。すなわち、一方の系からデータ受信してから、監視時間が経過するまでの期間は、もう一方の系からのデータ受信を待つものとする。
【0025】
そして、監視タイマ値が監視タイマ設定値に達すると、データ受信していない方の系は、伝送路の上流で障害が発生している異常系統であると判断して、ステップS4からステップS5に移行する。
ステップS5では、CPU21は、伝送路系A,Bのうちデータ受信が可能な正常系統から受信した受信データを、異常系統の双方向メモリ22に書き込む。これにより、当該受信データが異常系統の伝送路に対して双方向に送出される。
【0026】
このように、各制御装置2では、一方の系統からデータが正しく受信されてから所定の監視時間が経過するまでの間に、他方の系統からデータが正しく受信されない場合には、その系統の伝送路に障害が発生したものと判断する。そして、正しく受信できたデータを障害発生の系統の伝送路に送出する。
なお、図3において、ステップS1〜S4が監視手段に対応し、ステップS5がデータ送出手段に対応している。
【0027】
(動作)
次に、本実施形態の動作について説明する。
今、図4に示すように、制御装置2aと制御装置2bとの間の伝送路系Aにおいて、障害αが発生しているものとする。
この状態で、マスタ装置1が伝送路系A及びBに所定の伝送データを送出すると、この伝送データは、先ず伝送路系Aを介して制御装置2aの3ポートスイッチ24Aに入力される。すると、3ポートスイッチ24Aは、入力した伝送データを伝送コントローラ23Aに出力すると共に、伝送路系Aに接続されたもう一方のポートから送出する。伝送コントローラ23Aは、入力した伝送データのエラーチェックを行った後、その伝送データを双方向メモリ22Aに書き込む。
【0028】
このとき、CPU21は、図3に示すデータ監視処理により、伝送路系Aからデータを受信したと判定し(ステップS1でYes)、監視タイマをスタートする(ステップS2)。
マスタ装置1から送出された伝送データは、伝送路系Aを介して制御装置2aの3ポートスイッチ24Aに入力されるのと同時又は略同時に、伝送路系Bを介して制御装置2aの3ポートスイッチ24Bにも入力される。すると、3ポートスイッチ24Bは、入力した伝送データを伝送コントローラ23Bに出力すると共に、伝送路系Bに接続されたもう一方のポートから送出する。伝送コントローラ23Bは、入力した伝送データのエラーチェックを行った後、その伝送データを双方向メモリ22Bに書き込む。
【0029】
すなわち、CPU21は、伝送路系Aからデータ受信したと判定した後、監視タイマ値設定部26で設定した監視時間が経過するまでの間に、伝送路系Bを介して制御装置2aがデータ受信したと判定する(ステップS3でYes)。これにより、制御装置2aのCPU21は、マスタ装置1から制御装置2aまでの区間の各伝送路は正常であると判断する。
【0030】
この例では、伝送路系Bには障害が発生していないため、制御装置2aの3ポートスイッチ24Bから送出された伝送データは、制御装置2bの3ポートスイッチ24B→制御装置2cの3ポートスイッチ24B→…→制御装置2fの3ポートスイッチ24Bの順に伝送され、最後にマスタ装置1に戻される正常ルートを通る。
ところが、伝送路系Aには障害αが発生しているため、制御装置2aの3ポートスイッチ24Aから送出された伝送データは、制御装置2bの3ポートスイッチ24Aに伝送されない。すなわち、この状態では、伝送路系Aの伝送データは制御装置2b以降に到達しなくなる。
【0031】
そのため、制御装置2b以降のCPU21でデータ監視処理を実行すると、伝送路系Bからデータ受信した後、監視タイマ値設定部26で設定した監視時間が経過しても、伝送路系Aからデータ受信せず、監視時間がアップすることになる(ステップS4でYes)。
ここで、制御装置2b〜2fの監視時間のうち、最も短いものが制御装置2cの監視時間であるものとする。この場合、制御装置2b〜2fのうち、制御装置2cのCPU21で初めに監視時間がアップする。したがって、制御装置2cのCPU21は、伝送路系Bから受信した伝送データを伝送路系Aに送出するべく、当該伝送データを双方向メモリ22Aに書き込む(ステップS5)。
【0032】
これにより、伝送路系Bから受信した伝送データは、制御装置2cの3ポートスイッチ24Aから伝送路系Aに対して双方向へ送出される。つまり、制御装置2cから、伝送路系Aを介して制御装置2b及び2dに上記伝送データが伝送される。伝送路系Aには障害α以外の障害は発生していないため、制御装置2dに伝送された伝送データは、その後、制御装置2e→制御装置2fの順に正しく伝送される。
このように、伝送路系Aに障害αが発生している場合であっても、制御装置2b以降のすべての制御装置で伝送路系A,Bからのデータ受信を行うことができる。
【0033】
このとき、各制御装置2で伝送路系A及びBから正常にデータ受信しているか否かを監視することで、各伝送路上の障害を容易に検出することができる。
また、制御装置2cで伝送路系Aに障害αが発生していることを検出すると、その制御装置2cから伝送路系Aに対して双方向に受信データを送出するので、マスタ装置1から障害αより下流の制御装置2b〜2fにデータを再送するという煩雑な処理が不要となる。したがって、比較的簡易な構成でデータ遅れのない伝送処理を行うことができる。
【0034】
さらに、上述した例では、上流側の制御装置2bの監視時間よりも下流側の制御装置2cの監視時間を短く設定するので、制御装置2bより制御装置2cの方が早く伝送路系Aの障害αを検出し、制御装置2cから受信データの送出を行うことができる。そのため、上流側の制御装置2bから受信データの送出を行う場合と比較して、下流側に設けられた制御装置2d〜2fにおけるデータ遅れを改善することができる。
なお、ここでは伝送路系Aに障害αのみが発生している場合について説明したが、1つの伝送路系に複数の障害が発生している場合にも対応可能である。
【0035】
次に、伝送路系A及びBの双方で障害が発生した場合について説明する。
図5は、制御装置2aと制御装置2bとの間の伝送路系Aに障害α、制御装置2dと制御装置2eとの間の伝送路系Bに障害βが発生している場合のデータ伝送の流れを示す図である。
伝送路系Aの障害αについては前述した図4の状態と同様であるため、伝送路系Aを介したデータ伝送の流れは、図4の動作と同様となる。つまり、伝送路系Bから受信した伝送データを制御装置2cから伝送路系Aに対して双方向に送出することで、制御装置2b以降の制御装置に対する伝送路系Aを介したデータ伝送を行う。
【0036】
一方、伝送路系Bについては、マスタ装置1から送出された伝送データは、制御装置2dまでは正常に伝送されるが、障害βにより制御装置2dから制御装置2eへのデータ伝送は行われない。すなわち、この状態では、伝送路系Bの伝送データは制御装置2e及び2fに到達しなくなる。
このとき、制御装置2e,2fの監視時間のうち、制御装置2eの監視時間の方が短いものとする。この場合、制御装置2e,2fのうち、制御装置2eのCPU21で先に、伝送路系Aからデータ受信をしてから上記監視時間が経過しても伝送路系Bからのデータ受信が無いと判断する(ステップS4でYes)。したがって、制御装置2eのCPU21は、伝送路系Aから受信した伝送データを伝送路系Bに送出するべく、当該伝送データを双方向メモリ22Bに書き込む(ステップS5)。
【0037】
これにより、伝送路系Aから受信した伝送データは、制御装置2eの3ポートスイッチ24Bから伝送路系Bに対して双方向へ送出される。つまり、制御装置2eから、伝送路系Bを介して制御装置2fに上記伝送データが伝送される。
このように、伝送路系A,Bにそれぞれ障害が発生している場合であっても、すべての制御装置で伝送路系A,Bからのデータ受信を行うことができる。
【0038】
(効果)
このように、上記実施形態では、各制御装置に2系統の伝送路から正常にデータ受信しているか否かを監視する監視手段を設ける。そして、一方の系統から正しくデータ受信できない場合には、その系統の伝送路の上流に障害が発生したものと判断し、正しく受信できたデータを障害が発生している系統の伝送路に送出する。これにより、2系統の伝送路に同時に障害が発生した場合であっても、伝送路に接続されたすべての制御装置で適正にデータを受信することができる。
【0039】
また、各制御装置において障害伝送路の迂回処理を取ることにより、マスタ装置からの煩雑な再送処理を不要とすることができる。したがって、比較的簡易な構成でデータ遅れのない伝送処理を行うことができる。
さらに、各制御装置において受信データの送出処理を行う場合には、障害伝送路に対して双方向に受信データを送出するので、データを抜けなく伝送することができる。
【0040】
さらにまた、各制御装置に割り当てる監視時間をそれぞれ異なる時間に設定するので、例えば、下流側の制御装置の監視時間を上流側と比較して短く設定すれば、下流側の制御装置で先に監視時間がアップして正常なデータが送出されるので、データ遅れを改善することができる。
以上のように、高信頼な伝送システムを構成することができるので、特に、高信頼性が要求される交通や電力分野へ適用される装置間でデータ伝送を行うシステムに対して好適である。
【0041】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。
この第2の実施形態は、制御装置から異常系統の伝送路に受信データを送出する際、障害が発生した箇所の直後の制御装置から当該受信データを送出するようにしたものである。
(構成)
図6は、第2の実施形態における制御装置2の内部構成を示す図である。
第2の実施形態の制御装置2は、前述した第1の実施形態の制御装置2において、制御装置クロック27と制御装置遅延クロック28とを追加したことを除いては、図2に示す制御装置2と同様の構成を有する。したがって、図2と同一構成を有する部分には図2と同一符号を付し、構成の異なる部分を中心に説明する。
制御装置クロック27は、通信システム全体(マスタ装置1及びすべての制御装置2a〜2f)で同期した時刻情報を保持している。
【0042】
また、制御装置遅延クロック28は、マスタ装置1から送出された伝送データが自制御装置2に到達するまでの時間(伝播遅延時間)を保持している。この伝播遅延時間は、制御装置毎に異なるものとなっており、マスタ装置1からの接続順位を示す指標として使用することができる。
そして、監視タイマ値設定部26は、制御装置遅延クロック28の値を用いて自制御装置の監視タイマ値を決定する。ここでは、例えば、制御装置遅延クロック28の値に20μsを乗算して得られる値を監視タイマ値とする。
【0043】
次に、制御装置クロック27及び制御装置遅延クロック28で保持する値の設定方法について説明する。
図7は、マスタ装置1と制御装置2との間のクロック同期化方法を示す図である。このクロック同期化方法は、IEEE1588で規格化されている標準的な方法である。
マスタ装置1は、制御装置2に対して定期的にSyncデータを送出する。このSyncデータには、マスタ装置1のクロック値が含まれている。Syncデータを受け取った制御装置2は、マスタ装置1のクロック値と自身のクロック値との差分を計算する。
【0044】
ここで、マスタ装置1のクロック値は1000であり、制御装置2が伝播遅延も含めてその情報を受け取った時点での自クロック値は502であるため、差分は498となる。
次に、マスタ装置1は制御装置2に対してFollow_Upデータを送出する。このFollow_Upデータを受け取った制御装置2は、上記差分をもとに自クロック値を補正する。その結果、制御装置2のクロック値は1005(=507+498)となる。
このときの制御装置2のクロック値は、マスタ装置1のクロック値に対して伝播遅延分の2だけずれた値となる。この遅延量を補正するため、制御装置2はマスタ装置1に対してDelay_Requestデータを送信する。
【0045】
Delay_Requestデータを受け取ったマスタ装置1は、遅れなくDelay_Responseデータを制御装置2に対して返送する。このDelay_Responseデータを受け取った制御装置2は、Delay_Requestデータの送信からDelay_Responseデータの受信までの時間を計測し、その2分の1をマスタ装置1と制御装置2との間の伝播遅延時間として制御装置遅延クロック28に設定する。つまり、この例では、制御装置遅延クロック28に“2”が設定される。
その後、制御装置2は、マスタ装置1からのSyncデータ及びFollow_Upデータの受信時に、マスタ装置1から送信されたマスタ装置1のクロック値から、この制御装置遅延クロック28の値“2”を減算して得られる値を、制御装置クロック27に設定する。
【0046】
以上の動作により、制御装置クロック27には、マスタ装置1・制御装置2間の伝播遅延量が補正された正確なクロック値が設定される。このように、制御装置2は、マスタ装置1のクロック値と自身のクロック値との差分と、マスタ装置1と制御装置2との間の伝播遅延時間とに基づいて、自身のクロック値を補正する。
また、以上の動作により、制御装置遅延クロック28には、マスタ装置1と制御装置2間の伝播遅延量が設定される。この値は上流側の制御装置2ほど小さい値となる。
なお、図6において、制御装置クロック27及び制御装置遅延クロック28が同期手段に対応している。
【0047】
(動作)
次に、本実施形態の動作について説明する。
今、図8に示すように、制御装置2aと制御装置2bとの間の伝送路系Aにおいて、障害αが発生しているものとする。
この状態で、マスタ装置1が伝送路系A及びBに所定の伝送データを送出すると、この伝送データは、伝送路系Aを介して制御装置2aの3ポートスイッチ24Aに入力されると共に、伝送路系Bを介して制御装置2aの3ポートスイッチ24Bに入力される。
このとき、伝送路系Bには障害が発生していないため、制御装置2aの3ポートスイッチ24Bから送出された伝送データは、制御装置2bの3ポートスイッチ24B→制御装置2cの3ポートスイッチ24B→…→制御装置2fの3ポートスイッチ24Bの順に伝送され、最後にマスタ装置1に戻される正常ルートを通る。
【0048】
ところが、伝送路系Aでは障害αが発生しているため、制御装置2aの3ポートスイッチ24Aから送出された伝送データは、制御装置2bの3ポートスイッチ24Aに伝送されない。すなわち、この状態では、伝送路系Aの伝送データは制御装置2b以降に到達しなくなる。
そのため、制御装置2b以降のCPU21でデータ監視処理を実行すると、伝送路系Bからデータ受信した後、監視タイマ値設定部26で設定した監視時間が経過しても、伝送路系Aからデータ受信せず、監視時間がアップすることになる(ステップS4でYes)。
【0049】
このとき、制御装置2b〜2fでは、制御装置2bの監視時間が最も短く設定されている。そのため、制御装置2b〜2fのうち、制御装置2bのCPU21で真っ先に、伝送路系Bからデータ受信をしてから上記監視時間が経過しても伝送路系Aからのデータ受信が無いと判断する。したがって、制御装置2bのCPU21は、伝送路系Bから受信した伝送データを伝送路系Aに送出するべく、当該伝送データを双方向メモリ22Aに書き込む(ステップS5)。
【0050】
これにより、伝送路系Bから受信した伝送データは、制御装置2bの3ポートスイッチ24Aから伝送路系Aに対して双方向へ送出される。つまり、制御装置2bから、伝送路系Aを介して制御装置2cに上記伝送データが伝送される。伝送路系Aには障害α以外の障害は発生していないため、制御装置2cに伝送された伝送データは、その後、制御装置2d→制御装置2e→制御装置2fの順に正しく伝送される。
このように、上流側に位置する制御装置であるほど監視時間を短く設定するので、障害発生箇所の直後の制御装置2bで伝送路系Aの障害αを検出し、当該制御装置2bから受信データの送出を行うことができる。
【0051】
ところで、上流側に対して下流側に位置する制御装置の監視時間を短く設定すると、障害発生箇所より離れた制御装置で伝送路系の障害を検出し、受信データの送出を行うことになる。この場合、障害発生箇所に近い制御装置には、障害を検出した制御装置から折り返された受信データが到達することになる。そのため、上流側ほどマスタ装置からの接続順位を高く設定している場合、障害発生箇所に近い制御装置のデータ遅延が大きくなってしまい、好ましくない。
これに対して、本実施形態では、障害発生箇所の直後の制御装置で障害を検出し、受信データの送出を行うことができるので、上記データ遅延を抑制することができる。
【0052】
次に、伝送路系A及びBの双方で障害が発生した場合について説明する。
図9は、制御装置2aと制御装置2bとの間の伝送路系Aに障害α、制御装置2dと制御装置2eとの間の伝送路系Bに障害βが発生している場合のデータ伝送の流れを示す図である。
伝送路系Aの障害αについては前述した図8の状態と同様であるため、伝送路系Aを介したデータ伝送の流れは、図8の動作と同様となる。つまり、伝送路系Bから受信した伝送データを制御装置2bから伝送路系Aに対して双方向に送出することで、制御装置2b以降の制御装置に対する伝送路系Aを介したデータ伝送を行う。
【0053】
一方、伝送路系Bについては、マスタ装置1から送出された伝送データは、制御装置2dまでは正常に伝送されるが、障害βにより制御装置2dから制御装置2eへのデータ伝送は行われない。すなわち、この状態では、伝送路系Bの伝送データは制御装置2e及び2fに到達しなくなる。
制御装置2e,2fでは、上流側に位置する制御装置2eの監視時間の方が短く設定されている。そのため、制御装置2e,2fのうち、制御装置2eのCPU21で先に、伝送路系Aからデータ受信をしてから上記監視時間が経過しても伝送路系Bからのデータ受信が無いと判断する(ステップS4でYes)。したがって、制御装置2eのCPU21は、伝送路系Aから受信した伝送データを伝送路系Bに送出するべく、当該伝送データを双方向メモリ22Bに書き込む(ステップS5)。
【0054】
これにより、伝送路系Aから受信した伝送データは、制御装置2eの3ポートスイッチ24Bから伝送路系Bに対して双方向へ送出される。つまり、制御装置2eから、伝送路系Bを介して制御装置2fに上記伝送データが伝送される。
このように、伝送路系A,Bにそれぞれ障害が発生している場合であっても、すべての制御装置で伝送路系A,Bからのデータ受信を行うことができる。
【0055】
(効果)
このように、本実施形態では、各制御装置に割り当てる監視時間を、上流側に配置された制御装置であるほど短く設定するので、障害発生箇所の直後の制御装置が伝送データの中継を行うことができる。これにより、障害発生箇所に近い制御装置のデータ遅延量を最小化することができる。
また、制御装置は、マスタ装置との間のクロックの差分と伝播遅延時間とに基づいて、自身のクロック値を補正するものとし、上記監視時間を、伝播遅延時間に基づいて設定する。このように、標準的なクロック同期化方法で用いる伝播遅延時間に基づいて監視時間を設定するので、比較的簡易な構成で、上流側に配置された制御装置であるほど監視時間が短くなるように設定することができる。さらに、ネットワークのデータ伝送速度等を考慮した適正な監視時間を設定することができる。
(変形例)
なお、上記実施形態においては、2系統の伝送路によりネットワークを構成する場合について説明したが、3系統以上の伝送路によりネットワークを構成することもできる。
【符号の説明】
【0056】
1…マスタ装置、2a〜2f…制御装置、21…CPU、22A,22B…双方向メモリ、23A,23B…伝送コントローラ、24A,24B…3ポートスイッチ、25…監視タイマ、26…監視タイマ値設定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタ装置と複数の制御装置とが、隣接する装置間を結ぶ双方向通信可能で且つ複数系統に多重化された伝送路によって接続され、それぞれの系統毎に前記伝送路を介して伝送データの授受を行うデータ伝送装置であって、
前記マスタ装置は、自身に接続された全ての系統の伝送路に対して、同一の伝送データを同時又は略同時に送出するように構成されており、
前記制御装置は、全ての系統から前記伝送データを受信したか否かを監視する監視手段と、前記監視手段で前記伝送データを受信できない異常系統が存在すると判断したとき、正常系統から受信した前記伝送データを、前記異常系統の伝送路に対して双方向に送出するデータ送出手段と、を備えることを特徴とするデータ伝送装置。
【請求項2】
前記監視手段は、何れか1つの系統から前記伝送データを受信してから所定の監視時間が経過するまでの間に、残りの系統から前記伝送データを受信したか否かを監視するものであって、
前記監視時間は、前記制御装置毎に異なる時間に設定されていることを特徴とする請求項1に記載のデータ伝送装置。
【請求項3】
前記監視時間は、上記系統における上流側に配置した制御装置であるほど、短い時間に設定されていることを特徴とする請求項2に記載のデータ伝送装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記マスタ装置との間のクロックの差分と、前記マスタ装置から自制御装置に伝送データが到達するまでの時間である伝播遅延時間とに基づいて、自制御装置のクロック値を補正する同期手段を備え、
前記監視時間は、前記伝播遅延時間に基づいて設定されていることを特徴とする請求項3に記載のデータ伝送装置。
【請求項5】
マスタ装置と複数の制御装置とが、隣接する装置間を結ぶ双方向通信可能で且つ複数系統に多重化された伝送路によって接続され、それぞれの系統毎に前記伝送路を介して伝送データの授受を行うデータ伝送方法であって、
前記マスタ装置は、自身に接続された全ての系統の伝送路に対して、同一の伝送データを同時又は略同時に送出し、
前記制御装置は、全ての系統から前記伝送データを受信したか否かを監視し、前記伝送データを受信できない異常系統が存在すると判断したとき、正常系統から受信した前記伝送データを、前記異常系統の伝送路に対して双方向に送出することを特徴とするデータ伝送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−120184(P2011−120184A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286167(P2009−286167)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】