説明

トイレの配管やタンクに付着したスケールの除去剤およびそれを用いた除去方法

【課題】 トイレの配管やタンクに付着した強固なスケールを、配管を分解することなく、短時間で簡単容易に、特に航空機などの整備員でも実施可能な、さらには配管、タンクや乗り物自体の金属材質を腐食、水素脆化させることのないスケール除去剤及びスケールの除去方法の提供。
【解決手段】 キレート剤、ケイ酸塩、及び水を必須成分として含有する組成物であって、該組成物がアルカリ性を示すものであることを特徴とするトイレの配管やタンクに付着したスケールの除去剤およびそれを用いた除去方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、航空機、船舶、鉄道車両、バスなどに設置されたトイレに用いられている排水用配管やタンクに付着した各種汚れ、特にスケール汚れを効率的に除去するための除去剤、及び除去方法に関する。
【0002】
【従来技術】航空機、船舶、鉄道車両、バスなどに設置されたトイレで発生した汚物排水をタンクに導く配管、及びタンクには、有機物と無機物が複雑に混じり合った強固な皮膜状スケールが生じやすい。特に配管のエルボー部分やフランジ部分に付着しやすく、管内がスケールにより閉塞する場合もあり定期的な洗浄、除去が欠かせない。
【0003】従来、配管の洗浄、除去方法としては、例えば旅客航空機の場合には、機体から配管を1本ずつ取り外して洗浄実施場所まで運搬し、酸性洗浄剤にて浸漬洗浄、配管内循環洗浄、または高圧水によるスプレー洗浄等が実施されている。
【0004】前述したような洗浄、除去方法では、配管の取り外しや再設置などの煩雑な作業に多くの時間と人手を必要としており、それにも関わらず強固に付着したスケールを完全に洗浄除去することは困難であった。特開平11−285675号公報には、配管を機体に設置したままの状態における洗浄、除去方法が提案されているが、仮配管や循環用ポンプ等を別途設置する必要があり作業の繁雑さは解消されていない。またこの時使用されるスケール除去剤は、酢酸、スルハァミン酸、クエン酸などの有機酸水溶液であり、機体に設置した状態でスケール除去を実施した場合には、酸性除去剤による配管の腐食、航空機材質であるアルミニウム合金の腐食や各種金属材料の水素脆化等の問題があり、航空機等の運行上、重大な事故を引き起こしかねない課題を抱えている。特に除去剤の水素脆性に関しては、機体メーカーより厳しい規格が示されているが、酸性除去剤では水素脆性試験をクリアすることはできない。よって、航空機に配管を設置した状態で、除去を実施する場合においては、酸性でないスケール除去剤が強く望まれている。このような問題は航空機のみならず、船舶、鉄道車両、バスなどトイレが設置されている乗り物等にも不可避の問題である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、前述した問題を解決し、航空機、船舶、鉄道車両、バスなどに設置されたトイレの配管やタンクに付着した強固なスケールを、配管を分解することなく、短時間で簡単容易に、特に航空機などの整備員でも実施可能な、さらには配管、タンクや乗り物自体の金属材質を腐食、水素脆化させることのないスケール除去剤及びスケールの除去方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは前記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、キレート剤、ケイ酸塩、及び水を必須成分として含有するアルカリ性のスケール除去剤が、トイレ配管やタンクのスケールの溶解除去に非常に効果があり、スケール除去剤を接触させるだけでスケールを容易に除去できることを見出した。また配管やタンクの材質、さらにはアルミニウム等の金属類に対しても腐食、劣化等の問題が無いことを見出し本発明に到達した。
【0007】本発明の第1は、キレート剤、ケイ酸塩、及び水を必須成分として含有する組成物であって、該組成物がアルカリ性を示すものであることを特徴とするトイレの配管やタンクに付着したスケールの除去剤に関する。
【0008】本発明の第2は、キレート剤が、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、アスパラギン酸二酢酸およびエチレンジアミンジコハク酸よりなる群から選ばれた少なくとも1種の酸のアルカリ金属塩である請求項1記載のトイレの配管やタンクに付着したスケールの除去剤に関する。
【0009】本発明の第3は、ケイ酸塩が、オルトケイ酸およびメタケイ酸よりなる群から選ばれたケイ酸のナトリウム塩、および/またはカリウム塩である請求項1または2記載のトイレの配管やタンクに付着したスケールの除去剤に関する。
【0010】本発明の第4は、さらに、界面活性剤、スケール防止剤、増粘剤、保湿剤のいずれか一種以上を含有する請求項1〜3記載のトイレの配管やタンクに付着したスケールの除去剤に関する。
【0011】本発明の第5は、pHが8〜12.5の範囲である請求項1〜4記載のトイレの配管やタンクに付着したスケールの除去剤に関する。
【0012】本発明の第6は、航空機、船舶、鉄道車両、バスなどに設置されたトイレ配管および/またはタンクを洗浄する方法において、配管および/またはタンクを取り外すことなく設置したままの状態で、請求項1〜5記載のスケール除去剤を配管および/またはタンク内のスケールに接触せしめスケールを除去することを特徴とするトイレの配管やタンクに付着したスケールの除去方法に関する。
【0013】本発明で用いられるキレート剤としては、アミノポリカルボン酸型キレート剤、オキシカルボン酸型キレート剤または、ホスホン酸型キレート剤などがある。これらの中で、アミノポリカルボン酸型キレート剤のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩が好ましく、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、アスパラギン酸二酢酸、エチレンジアミンジコハク酸のアルカリ金属塩がスケール除去性の面から特に好ましい。オキシカルボン酸型キレート剤の例としては、クエン酸、酒石酸、カルボキシメチルオキシサクシネート、オキシジサクシネート、酒石酸モノサクシネート、酒石酸ジサクシネート、これらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩などがあり、また、ホスホン酸型キレート剤の例としては、ニトリロトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸、これらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩などがある。
【0014】キレート剤の含有量としては、全量に対して0.01〜50重量%、好ましくは0.1〜40重量%、特に好ましくは0.3〜30重量%である。0.01重量%未満ではスケール除去性が不十分であり、50重量%を越えると、製品保存時に不溶物が発生する場合がある。キレート剤は単独で用いても良いし2種類以上を同時に用いても良い。
【0015】本発明で用いられるケイ酸塩としては、オルトケイ酸および、メタケイ酸よりなる群から選ばれたケイ酸のアルカリ金属塩とくに、そのナトリウム塩やカリウム塩が好ましい。ケイ酸塩の含有量としては、全量に対して0.01〜30重量%、好ましくは0.1〜25重量%、特に好ましくは0.2〜20重量%である。0.01重量%未満ではアルミニウムに対する防食性が不十分であり、30重量%を越えると、製品保存時に不溶物が発生する場合がある。ケイ酸塩は単独で用いても良いし2種類以上を同時に用いても良い。
【0016】本発明の洗浄剤に界面活性剤を添加することでスケール除去性が向上するため好ましい。界面活性剤としては、特にノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤が好ましい。ノニオン系界面活性剤としてはポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンフェニルエーテル類、エトキシ化ソルビタンエステル類、エトキシ化グリセリンエステル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、グリセリンエステル類、プロピレングリコールエステル類、脂肪酸アルカノールアミド類、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド類、ポリオキシエチレンアルキルアミン類等を使用することができる。また、アニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩類、アルキルベンゼンスルホン酸塩類、スルホコハク酸塩類、α−オレフィンスルホン酸塩類、アルキルエーテル硫酸塩類、アルキルアミド硫酸塩類、アルキルリン酸塩類等を使用することがでる。
【0017】界面活性剤の添加量は、全量に対して0.01〜10重量%、好ましくは0.05〜8重量%である。界面活性剤は単独で用いても良いし、2種類以上を同時に用いても良い。
【0018】本発明のスケール除去剤はアルカリ性であることが必要であるが、アルミニウムや亜鉛などの両性金属の腐食抑制の面、及びスケール除去性の面からpH範囲は通常7〜12.5、好ましくは8〜12.5、とくに好ましくは9〜12である。pHが7未満ではスケール除去効果が劣るうえ、金属材料の腐食を引き起こすなどの不具合が生ずる。スケール除去剤のpHが12.5を越えた場合には、酸を添加してpHを12.5以下に調製することができる。調製用の酸としては特に限定されないが、リン酸類、ホスホン酸類が好ましい。
【0019】また、本発明のスケール除去剤には、スケール除去剤がスケールに接触する時間を長くするために増粘剤や保湿剤を添加することもできる。増粘剤や保湿剤としては、グリセリン、ポリサッカライドガム、プロピレングリコール、糖類、カルボキシアルキルセルロース等を使用することができる。
【0020】また、洗浄により除去されたスケールが配管やタンク内に再付着することを防止するためにスケール防止剤を添加しても良い。スケール防止剤としては、アクリル酸ヤマレイン酸ノポリマー類、ホスホン酸類等を使用することができる。
【0021】本発明のスケール除去剤を用いてスケールの除去を実施する方法として、スケール除去剤が配管やタンク内のスケールに接触する方法であれば、いずれの方法も用いることができる。特に、本発明のスケール除去剤はアルカリ性であるがケイ酸塩を配合しているため、例えば航空機の機体材質であるアルミニウム合金を腐食することがなく、また酸性でないことから水素脆化を引き起こす心配がない。このため洗浄スケール除去対象配管を機体から取り外すことなく設置したままの状態でスケール除去することが可能となる。例えば旅客航空機や鉄道車両等の場合には、運航、運転後に整備員がスケール除去剤をトイレ配管内に流し入れるだけでもスケール除去に十分効果がある。また、スケール除去を配管内に循環させることのできる配管構造の場合には、スケール除去剤を循環させることで、さらに効果的なスケールの除去が可能となる。スケール除去の際の液温は、とくに限定されないが、操作性を考慮して通常は0〜100℃、好ましくは20〜80℃、とくに好ましくは30〜60℃である。
【0022】
【実施例】以下に本発明を実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(1)配管スケール除去試験(実施例1〜9、及び比較例1〜5)
スケール(スケール厚=約2mm)が固着しているA社旅客航空機のトイレ配管(チタン製)を、表1記載のスケール除去剤(液温25℃、攪拌あり)に浸漬し、スケールが完全に除去されるまでの時間を測定した。その結果を表2に示す。
(2)スケール溶解試験(実施例1〜9、及び比較例1〜5)
B社鉄道車両のトイレ配管内から採取した塊状スケール1gを表1記載のスケール除去剤200gに投入し、40℃で攪拌した。そしてスケールが完全に溶解するまでの時間を測定した。その結果を表2に示す。
(3)金属材質腐食試験(実施例1〜9、及び比較例1〜5)
アルミニウム板(100×50×2mm、JIS H 4000 2024T3)、及び鉄板(100×50×2mm、JIS G 3141)を表1記載のスケール除去剤(液温35℃)に168時間浸漬し、浸漬後の腐食状況を目視により観察した。その結果を表2に示す。
A=腐食なしB=腐食はないが、わずかに変色ありC=わずかに腐食あり(腐食面積10%未満)
D=腐食あり(腐食面積10%以上)
【0023】
【表1】


(注1)EDTA−4Na=エチレンジアミン四酢酸四Na塩、DTPA−5Na=ジエチレントリアミン五酢酸五Na塩、NTA−3Na=ニトリロ三酢酸三Na塩ASDA−4Na=アスパラギン酸二酢酸四Na塩、界面活性剤A=ポリオキシエチレンラウリルエーテル界面活性剤B=ナトリウムラウリルサルフェイト界面活性剤C=ポリオキシエチレンアルキルアミン
【0024】
【表2】


【0025】
【発明の効果】本発明のスケール除去剤及びスケール除去方法は、航空機、船舶、鉄道車両、バス等の乗り物に設置されたトイレ配管及びタンクに付着した強固なスケールの除去に関し以下のような効果を有する。
(1)スケールの溶解力が大変優れているため、スケール除去剤をスケールに接触させるだけで簡単容易にスケールを除去することが可能である。
(2)配管、タンク、及び乗り物自体に使用されている金属材料を腐食、水素脆化させることがないため、配管やタンクを取り外すことなく設置した状態のままでのスケール除去が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 キレート剤、ケイ酸塩、及び水を必須成分として含有する組成物であって、該組成物がアルカリ性を示すものであることを特徴とするトイレの配管やタンクに付着したスケールの除去剤。
【請求項2】 キレート剤が、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、アスパラギン酸二酢酸およびエチレンジアミンジコハク酸よりなる群から選ばれた少なくとも1種の酸のアルカリ金属塩である請求項1記載のトイレの配管やタンクに付着したスケールの除去剤。
【請求項3】 ケイ酸塩が、オルトケイ酸およびメタケイ酸よりなる群から選ばれたケイ酸のナトリウム塩および/またはカリウム塩である請求項1または2記載のトイレの配管やタンクに付着したスケールの除去剤。
【請求項4】 さらに、界面活性剤、スケール防止剤、増粘剤、保湿剤のいずれか一種以上を含有する請求項1〜3記載のトイレの配管やタンクに付着したスケールの除去剤。
【請求項5】 pHが8〜12.5の範囲である請求項1〜4記載のトイレの配管やタンクに付着したスケールの除去剤。
【請求項6】 航空機、船舶、鉄道車両、バスなどに設置されたトイレ配管および/またはタンクを洗浄する方法において、配管および/またはタンクを取り外すことなく設置したままの状態で、請求項1〜5記載の除去剤を配管および/またはタンク内のスケールに接触せしめスケールを除去することを特徴とするトイレの配管やタンクに付着したスケールの除去方法。

【公開番号】特開2002−201495(P2002−201495A)
【公開日】平成14年7月19日(2002.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−403059(P2000−403059)
【出願日】平成12年12月28日(2000.12.28)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【出願人】(500101438)東栄化成株式会社 (10)
【Fターム(参考)】