トラクタ
【課題】二つの出力モードを有するエンジンにおいて、標準モードではトルク対応を主体とし、低燃費モードでは回転数を抑制して燃費低減を可能とする。
【解決手段】負荷が作用するとエンジン回転数が変動する第1ドループ制御と、負荷が作用すると前記第1ドループ制御よりもエンジン回転が低下し易い第2ドループ制御を設定し、前記標準モードに切り替えたときにおいては、装着した作業機を駆動するPTO駆動が入り状態ではエンジン回転数を維持するアイソクロナス制御で制御し、PTO駆動が切り状態では第1ドループ制御に自動的にガバナモードを変更する構成とし、前記低燃費モードに切り替えたときにおいては、PTO駆動が入り状態では第1ドループ制御で制御し、PTO駆動が切り状態では第2ドループ制御に自動的にガバナモードを変更するように構成したことを特徴とするトラクタの構成とする。
【解決手段】負荷が作用するとエンジン回転数が変動する第1ドループ制御と、負荷が作用すると前記第1ドループ制御よりもエンジン回転が低下し易い第2ドループ制御を設定し、前記標準モードに切り替えたときにおいては、装着した作業機を駆動するPTO駆動が入り状態ではエンジン回転数を維持するアイソクロナス制御で制御し、PTO駆動が切り状態では第1ドループ制御に自動的にガバナモードを変更する構成とし、前記低燃費モードに切り替えたときにおいては、PTO駆動が入り状態では第1ドループ制御で制御し、PTO駆動が切り状態では第2ドループ制御に自動的にガバナモードを変更するように構成したことを特徴とするトラクタの構成とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トラクタに関し、特にエンジンの出力モード切替装置に関し、出力モードの切り替えに伴うPTO駆動の入りと切りによるガバナモードの変更を行うもの等の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
作業機械のエンジン制御装置は、等燃費曲線を表した燃料マップを用いてエンジンの燃費効率を考慮しながらエンジンを制御するものであるが、この燃料マップは単位時間当りのエンジン回転数とエンジントルクによる正味燃料消費量を示しているものである。
【0003】
従来の燃料マップは、高トルクで燃費効率が最良となるように作られており、燃料消費量低減モード制御によってポンプトルク配分を低下させたり、又はエンジン回転数を低下させると燃費効率が悪くなる恐れがある。
【0004】
一方、エンジン出力トルクカーブとポンプ吸収トルクカーブとを制御し、両者のマッチング点を、燃料マップにおいて燃料消費率が最小となる燃費最小点に近づける制御装置が開示されている。(例えば、特許文献1参照)
しかし、このような制御装置は、単一の燃料マップを持つ単一のエンジン出力トルクカーブの一部を変形させるように制御しているが、エンジンそのものは低燃費モード仕様に変更されておらず、この点で燃費向上を図れる余地がある。
【0005】
このため、スタンダードモードのエンジン出力トルクカーブを、燃料消費量低減モードのエンジン出力トルクカーブに切り替えると共に、これに伴って燃料マップを切り替えることにより、エンジンを確実に低燃費モード仕様に切り替えて燃費向上を図れるものが開示されている。(例えば、特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−232835号公報
【特許文献2】特開2007−231848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の如く、標準モード(スタンダードモード)と低燃費モード(燃料消費量低減モード)の二つの出力モードを有するものにおいて、特にトラクタでは、出力モードが低燃費モードの場合、PTO駆動を入りにしたときはエンジン回転数上昇のレスポンスが敏感となって急加減速を生じ易く、燃費の低減を阻害するものとなっていた。
【0008】
そこで本発明は、二つの出力モードを有するものにおいて、標準モードではPTO駆動の入りと切りによるトルク対応を主体とし、低燃費モードではPTOの駆動入りと切りによるエンジン回転数の急加減速を抑制して燃費低減を可能にしようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、標準モード(S)と低燃費モード(F)による二つの出力モードを有するエンジンを手動により切り替えるモード切替スイッチを設けたトラクタにおいて、負荷が作用するとエンジン回転数が変動する第1ドループ制御(a)と、負荷が作用すると前記第1ドループ制御(a)よりもエンジン回転が低下し易い第2ドループ制御(b)を設定し、
前記標準モード(S)に切り替えたときにおいては、装着した作業機を駆動するPTO駆動が入り状態ではエンジン回転数を維持するアイソクロナス制御(h)で制御し、PTO駆動が切り状態では第1ドループ制御(a)に自動的にガバナモードを変更する構成とし、
前記低燃費モード(F)に切り替えたときにおいては、PTO駆動が入り状態では第1ドループ制御(a)で制御し、PTO駆動が切り状態では第2ドループ制御(b)に自動的にガバナモードを変更するように構成したことを特徴とするトラクタとする。
【0010】
このような構成により、モード切替スイッチを標準モード(S)に切り替えたときは、PTO駆動が入り状態ではアイソクロナス制御(h)に変更し、PTO駆動が切り状態ではドループ制御(a)に変更して作業を行わせることにより、負荷に対する回転変動の少ない作業の実施が可能となる。モード切替スイッチを低燃費モード(F)に切り替えたときは、PTO駆動が入り状態ではドループ制御(a)に変更して作業を行わせることにより、エンジン回転数の変動が適度なアクセルマップを設定することが可能になると共に、PTO駆動が切り状態ではドループ制御(b)に変更して作業を行わせることにより、ドループ制御の傾きを緩やかにすることで、アクセル開度に対するエンジン回転数上昇のレスポンスを鈍感にして急加減速を防止することができる。
【0011】
請求項2の発明は、PTO駆動が入り状態のときにおいて、標準モード(S)によるアイソクロナス制御(h)から低燃費モード(F)に切り替えた際に、負荷率が所定値以上では第3ドループ制御(c)に自動的にガバナモードを変更させると共に、負荷率が所定値以下ではアイソクロナス制御(h)に自動的にガバナモードを変更させることを特徴とした請求項1記載のトラクタとする。
【0012】
このような構成により、PTO駆動が入り状態のとき、モード切替スイッチを標準モード(S)に切り替え、アイソクロナス制御(h)による中低負荷の作業において、常に目標のエンジン回転数で作業を行わせることが可能になると共に、負荷が増加し始めると標準モード(S)から低燃費モード(F)に切り替え、負荷率が所定値以上ではドループ制御(c)に変更して、負荷の増大に伴い発生するエンジン回転数の低下による急激な負荷率の増加を防止することができ、負荷率が所定値以下のときは再びアイソクロナス制御(h)への変更を行わせる。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明では、上記作用の如く、標準モード(S)にてPTO駆動が入り状態ではアイソクロナス制御(h)とし、PTO駆動が切り状態ではドループ制御(a)とすることにより、負荷に対する回転変動の少ない作業の実施が可能となる。また、低燃費モード(F)にてPTO駆動が入り状態ではドループ制御(a)とすることにより、エンジン回転数の変動が適度なアクセルマップによって作業を実施することで、オペレータが負荷変動を把握し易くできると共に、PTO駆動が切り状態ではドループ制御(b)とすることにより、アクセル開度に対するエンジン回転数上昇のレスポンスを鈍感にして急加減速を防止し、燃費を向上させることができる。このように、標準モード(S)に対する低燃費モード(F)の差別化を図ることができる。
【0014】
請求項2の発明では、上記作用の如く、PTO駆動が入り状態のとき、標準モード(S)に切り替え、アイソクロナス制御(h)による中低負荷の作業において、常に目標のエンジン回転数で作業を行わせることが可能になることにより、オペレータが負荷状態を把握する必要が少なくなる。負荷が増加し始めると低燃費モード(F)に切り替え、負荷率が所定値以上ではドループ制御(c)として、負荷の増大に伴いエンジン回転数が低下することで急激な負荷率増加の防止とオペレータによる負荷状態の把握が容易となり、負荷率が所定値以下となったときは再びアイソクロナス制御(h)とすることで、負荷率の切替り境界に差を設けることによって、切替り境界付近で作業をした場合に発生し易い制御変更による不安定現象を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】コモンレールによる蓄圧式燃料噴射ディーゼルエンジンを示すシステム図。
【図2】三種類の制御モードによるエンジン回転数と出力トルクの関係を示す線図。
【図3】標準モードと低燃費モードの二つの出力カーブによるアクセルマップにおいて、アイソクロナス制御ラインとドループ制御aラインとドループの傾きが緩いドループ制御bラインの状態を示す線図。
【図4】標準モードと低燃費モードの二つの出力カーブの切り替えにおいて、PTOのON,OFF状態により、ガバナモードをアイソクロナス制御からドループ制御aに、ドループ制御aからドループ制御bに各々自動的に変更させる状態を示す表図。
【図5】標準モードと低燃費モードの二つの出力カーブによるアクセルマップにおいて、PTOがON状態のときに標準モードではアイソクロナス制御を行い、負荷が増加し始めると低燃費モードに切り替え負荷の増大によりドループ制御cに変更させる状態を示す線図。
【図6】PTOがON状態において、標準モードではアイソクロナス制御を行い、負荷が増加し始めると低燃費モードに切り替え、負荷率60%以上でドループ制御cに変更し、負荷率が40%以下では再びアイソクロナス制御に変更する手順を示すフローチャート。
【図7】標準モードと低燃費モードの二つの出力カーブによるアクセルマップにおいて、低燃費モード時のガバナモードをドループ制御dとするガバナラインを、エンジン回転数が低く且つ全負荷に近い領域での傾きを二段的に大きくした状態を示す線図。
【図8】標準モードで作業を行っている場合に、エンジン負荷率とエンジン回転数の数値によって低出力の低燃費モードへの切り替えを禁止させる手順を示すフローチャート。
【図9】標準モードと低燃費モードとを自律的に選択切り替えするために、ECUに設定したデーターベースとしての作業情報の内容を示した表図。
【図10】コモンレール式電子制御エンジンにおいて、エンジンが定格点付近で運転されている場合、アクセル開度をゼロに戻したときのエンジンの慣性と摩擦により回転数が低下するオーバラン状態時に、DPFの差圧を検知する時間当りの降下率を示す線図。
【図11】コモンレール式電子制御エンジンにおいて、オーバラン状態時におけるDPFの差圧を検知する際に、エンジン回転数及びエンジン負荷率に判定閾値を設定している状態を示す線図。
【図12】(a)エンジンのDPFケースからDPFを取外した状態を示す斜視図。(b)昼間に太陽光発電により発電した電力を蓄電池に蓄電を行い、夜間に蓄電池から電気炉に電流を流し、電気炉内の発熱によりDPFの再生処理を実施する状態を示す作用図。
【図13】夜間に乾燥機のバーナーからの熱風を利用し、籾や麦の乾燥と同時にDPFの再生処理を実施する状態を示す作用図。
【図14】熱線式ヒーターによって再生処理を行うDPFを夜間等作業を行わないときに、200v電源系にDPFケースに装着したままで通電を行い、加熱による再生処理を実施する状態を示す作用図。
【図15】(a)トラクタにおいて、DPFの再生時には左右のハザードランプを左右交互か左右同時に点滅させる状態を示す正面図。(b)トラクタにおいて、DPFの再生時には左右のハザードランプを左右交互か左右同時に点滅させる状態を示す側面図。
【図16】(a)トラクタにおいて、エンジン上側の左右側面に各々円筒状のDPFを車体の進行方向に沿う適宜長さ延長した状態を示す正面図。(b)エンジン上側の左右側面に各々円筒状のDPFを適宜長さ延長し、排出ガスを前方下側に排出させるマフラーを配設した状態を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
標準モードSと低燃費モードFによる二つの出力モードを手動により切り替えるモード切替スイッチを設けたトラクタにおいて、通常のドループ制御によるアクセルマップを使ったドループ制御aと、ドループの傾きが緩いアクセルマップを使ったドループ制御bとを設定する。
【0017】
標準モードSに切り替えたときは、PTOがON状態ではアイソクロナス制御hに、OFF状態ではドループ制御aに各々自動的にガバナモードを変更させると共に、低燃費モードFに切り替えたときは、PTOがON状態ではドループ制御aに、OFF状態ではドループ制御bに各々自動的にガバナモードを変更させる。
【0018】
また、標準モードSと低燃費モードFによる二つの出力モードを手動により切り替えるモード切替スイッチを設けたトラクタにおいて、PTOがON状態のとき、標準モードSによるアイソクロナス制御hから低燃費モードFに切り替えた際に、負荷率が所定値(略60%程度)以上ではドループ制御cに自動的に変更させると共に、負荷率が所定値(略40%程度)以下ではアイソクロナス制御hに自動的に変更させる。
【0019】
以下に、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。
コモンレール式ディーゼルエンジンEついて、図1のシステム図によりその概要を示す如く、コモンレール式(蓄圧式燃料噴射方式)とは、各気筒への燃料噴射を要求圧力に調整して供給するコモンレール1(蓄圧室)を介して行うものである。
【0020】
燃料タンク3内の燃料は吸入通路により燃料フィルタ7を介して該エンジンEで駆動される高圧ポンプ4に吸入され、この高圧ポンプ4によって加圧された高圧燃料は吐出通路8によりコモンレール1に導かれ蓄えられる。
【0021】
該コモンレール1内の高圧燃料は各高圧燃料供給通路9により気筒5の数分インジェクター6に供給され、ECU100からの指令に基づき、各気筒5毎にインジェクター6が開弁作動して、高圧燃料が該エンジンEの各燃焼室内に噴射供給され、各インジェクター6での余剰燃料(リターン燃料)は各燃料戻し管10により共通の燃料戻し通路10aへ導かれ、この燃料戻し通路10aによって燃料タンク3へ戻される。
【0022】
また、コモンレール1内の燃料圧力(コモンレール圧)を制御するため高圧ポンプ4に圧力制御弁11が設けられており、この圧力制御弁11はECU100からのデューティ信号によって、高圧ポンプ4から燃料タンク3への余剰燃料の燃料戻し通路10aの流路面積を調整するものであり、これによりコモンレール1側への燃料吐出量を調整してコモンレール圧を制御することができる。
【0023】
具体的には、エンジン運転条件に応じて目標コモンレール圧を設定し、レール圧センサ2により検出されるコモンレール圧が目標コモンレール圧と一致するよう、圧力制御弁11を介してコモンレール圧をフィードバック制御する。
【0024】
農作業機に搭載したコモンレール式ディーゼルエンジンEのECU100は、図2に示す如く、回転数と出力トルクの関係において、回転数の変動で出力も変動するドループ制御と、負荷が変動しても回転数が一定で出力を負荷に応じて変更するアイソクロナス制御と、アイソクロナス制御が負荷限界近くになると回転数を上昇させ出力を上げる重負荷制御とによる三種類の制御モードを設定している。
【0025】
ドループ制御は走行モード(A)として、農作業を行わず移動走行する場合に使用するものであり、例えば、ブレーキを掛けて走行速度を減速したり停止したりすると、この走行負荷の増大に伴ってエンジン回転数が低下するため走行速度の減速や停止を安全に行うことができる。
【0026】
アイソクロナス制御は通常作業モード(B)として、通常の農作業を行う場合に使用するものであり、例えば、トラクターであれば耕耘作業時に耕地が固く耕耘刃に抵抗が掛かるとき、コンバインであれば収穫作業時に収穫物が多く負荷が増大したときでも、出力が変動して回転数を維持するものでオペレータが楽に操縦できる。
【0027】
重負荷制御は重作業モード(C)として、特に、負荷限界近くで農作業を行う場合に使用するものであり、例えば、トラクターで耕耘作業を行っている際に、特に、固い耕地に遭遇してもエンジン出力が通常の限界を越えて増大するので作業を中断するようなことがない。
【0028】
従来、ディーゼルエンジンでは、メイン噴射に先立って少量の燃料をパルス的に噴射するパイロット噴射を行うことにより、着火遅れを短縮してディーゼルエンジン特有の、所謂ノック音を低減することが知られている。
【0029】
このパイロット噴射は、メイン噴射の前に1回乃至2回に固定して行われるものであったが、前記コモンレール1のシステムを用いることで、エンジンの状況に応じてパイロット噴射の状態を変化させ、騒音の低減や不完全燃焼による白煙又は黒煙の発生を抑制できる。
【0030】
図3の線図及び図4の表図に示す如く、標準モードSと低燃費モードFによるアクセルマップを有するエンジンの、二つの出力モードを手動により切り替えるモード切替スイッチをトラクタに設けている。モード切替スイッチを標準モードSに切り替えたときは、PTOがON状態のときはガバナモードをアイソクロナス制御hに自動的に変更させ、中低負荷の作業において常に目標のエンジン回転数で作業を行わせることが可能となる。PTOがOFF状態のときはガバナモードをドループ制御aに自動的に変更させることにより、負荷に対する回転変動の少ない作業の実施を可能にすることができる。
【0031】
モード切替スイッチを低燃費モードFに切り替えたときは、PTOがON状態のときはガバナモードをドループ制御aに自動的に変更させ、エンジン回転数の変動が適度なアクセルマップによって作業を実施することで、オペレータが負荷変動を把握し易くできると共に、PTOがOFF状態のときはガバナモードをドループの傾きが緩いアクセルマップを使ったドループ制御bに自動的に変更させることにより、アクセル開度に対するエンジン回転数上昇のレスポンスを鈍感にして急加減速を防止し、燃費の向上を図ることができる。
【0032】
また、図5の線図及び図6のフローチャートに示す如く、標準モードSと低燃費モードFによるアクセルマップを有するエンジンの、二つの出力モードを手動により切り替えるモード切替スイッチをトラクタに設け、PTOがON状態のとき、モード切替スイッチを標準モードSに切り替え、ガバナモードがアイソクロナス制御hによる中低負荷の作業において、常に目標のエンジン回転数で作業を行わせることが可能になることにより、オペレータが負荷状態を把握する必要が少なくなる。
【0033】
そして、負荷が増加し始めると標準モードSから低燃費モードFに切り替え、負荷率が60%以上のときはガバナモードをドループ制御cに変更して、負荷の増大に伴い発生するエンジン回転数の低下による急激な負荷率の増加を防止することが可能となり、オペレータに負荷状態を把握させ易くすることができる。負荷率が40%以下となったときは再びガバナモードをアイソクロナス制御hに変更することにより、負荷率の切替り境界に差を設けることで、切替り境界付近で作業を行った場合に、常に変化している負荷率のため連続して発生する制御変更による不安定現象を防止することができる。
【0034】
また、エンジンにおいて、低回転域では、高回転域とは異なり絶対的な出力が低いため、低燃費モードに切り替えた際の出力ダウンの影響が出易く、低燃費モードにより低回転域で作業を行う場合、負荷が増大したときに急激なエンジン回転数の低下を起こさないよう注意を行う必要がある。
【0035】
このため、図7の線図に示す如く、標準モードSと低燃費モードFの二つの出力モードのアクセルマップによるエンジンを有するトラクタにおいて、低燃費モードFに切り替えてガバナモードをドループ制御dに変更するときは、低燃費モードF用のアクセルマップによるドループ制御dのガバナラインを、エンジン回転数が低く(アクセル開度が50%以下)全負荷に近い領域での傾きを二段的に大きくすることにより、この傾きが大きいガバナラインによる一定のエンジン回転数では、少しの負荷率の増加に対してエンジン回転数が減少するため、PTOの回転数や車速が低下することにより負荷が大きく減少する。
このように、最大出力ポイントが低回転となる出力カーブとなるため、エンジン回転数がある一定以上は低下し難くなり、突然の回転ドロップを心配する必要がないようになる。
【0036】
また、定格回転数付近を使用する作業では、低燃費モードに切り替えたとき出力不足により回転数が低下してしまっても、回転数域が高いためオペレータは標準モードに戻す余裕があるが、収穫作業において低回転を使用するような場合、低燃費モードに切り替えて出力が足りなかったときは一気にエンジン停止を起してしまう恐れがあり、停止してしまうと油圧を発生させることかできなくなるため危険であった。
【0037】
このため、図8のフローチャートに示す如く、標準モードSと低燃費モードFの二つの出力モードによるエンジンを有するトラクタにおいて、標準モードSで作業を行っている場合に、エンジン負荷率の確認を行い、負荷率が80%以上のときで、エンジン回転数の確認を行い、回転数が1600r/m以下のときは低燃費モードFへの切り替えを禁止し、オペレータにも禁止の告知を行わせる。
【0038】
このように、エンジン負荷率とエンジン回転数の数値によって低出力の低燃費モードFへの切り替えを禁止させることにより、エンジン停止を起してしまう恐れのある低回転を使った作業を安全に行うことができる。
【0039】
また、低燃費モードを採用したエンジンを有するトラクタにおいて、この低燃費モードの切り替えはオペレータの手動操作になっており、選択にはオペレータの経験を必要とするものであった。
【0040】
このため、エンジン特性を標準出力の標準モードSと燃費重視の低燃費モードFとに切り替え可能なトラクタ用エンジンにおいて、図9の表図に示す如く、作業機の種類,車速,PTOの速度等の作業情報を、自動検出可能なモード選択データベースDとしてECUに設定し、この自動検出した作業情報を元に想定されるエンジン負荷率を予測し、この負荷率の予測により自律的に標準モードSと低燃費モードFとを選択切り替えすることにより、自律的に最適の出力モードを選択することができる。
【0041】
また、エンジンの排気ガス後処理装置としてのDPFの再生実施において、DPF前後の差圧を再生実施の開始条件として設定する場合があるが、この差圧の設定では、アクセル開度を上げての作業運転中にはエンジン負荷によって回転数や負荷率は常に変動しDPFの前後差圧も変動しており、同じPMの堆積状態でも高速域での全負荷では差圧は高くなり、低速域では通過するガス量が少なく差圧は低くなることから、運転状態による影響が大きく一概に差圧だけではPM堆積量を推定することは困難であり、正確な再生実施の開始条件としての判断ができ難いものであった。
【0042】
このため、コモンレール式電子制御エンジンにおいて、図10の線図に示す如く、アクセル開度及びエンジン回転数の信号を監視する機能と、DPFの前後差圧を検知する機能とを有し、エンジンのオーバラン状態、即ち定格点付近で運転されている場合にアクセル開度をゼロに戻すと、エンジン制御としては燃料噴射量はゼロとなり、エンジンの慣性と摩擦により回転数が低下するという挙動となるが、この挙動はエンジンの特性や搭載条件によって確定されるものであり、それまでの運転状態に関係なく安定した挙動となるため、その挙動条件下で時間当り(Δt)の降下率(Δp)によってDPFの差圧を検知すれば、絶対的なPM堆積量の評価が可能となり、DPF再生の実施可否判定に有効に利用できる。
【0043】
また、前記の如く、エンジンの安定した挙動条件下で時間当り(Δt)の降下率(Δp)によってDPFの差圧を検知する際に、図11の線図に示す如く、判定実施の条件としてDPFの差圧の変化が顕著となるよう、オーバラン突入直前の運転条件として、一定のエンジン回転数及びエンジン負荷率に各々設けた判定閾値を上回っていることの確認が行われたときは、絶対的なPM堆積量の評価確度が一段と向上し、DPF再生の実施可否判定がより一層有効に利用できる。
【0044】
また、DPFの再生処理を実施するには、エンジンの排気ガス温度を上げる必要があり、温度を上げるために燃料の消費が大きく燃費が悪化していた。
このため、図12(a),(b)に示す如く、昼間に太陽光発電15により発電した電力を蓄電池16に蓄電を行い、夜間にDPF17をエンジンのDPFケース18から取外して電気炉19に装填し、昼間蓄電した蓄電池16から電流を流し、電気炉19内の発熱によりDPF17のPMを燃焼させて再生処理の実施を行わせるものである。このように、太陽光発電15によって蓄電された電力を利用してDPF17の再生処理を実施することにより、効率が良く環境にも優しいDPF再生が可能となる。
【0045】
また、前記の如き、太陽光発電15による蓄電池16に代えて、図13に示す如く、夜間にDPF17を籾や麦の乾燥を行う乾燥機29のバーナー20からの熱風を利用し、籾や麦の乾燥と同時にDPF17のPMを燃焼させて再生処理の実施を行わせるものである。このように、乾燥機29のバーナー20を利用してDPF17の再生処理を実施することにより、効率の良いDPF再生が可能となる。
【0046】
また、DPF17の再生処理を実施するときに、前記の如くDPF17をエンジンのDPFケース18から取外して再生を行うものではなく、図14に示す如く、熱線式ヒーター21によってDPF17の再生処理を行うものであり、夜間等作業を行わないときに、該ヒーター21によるDPF17を、200v電源系にDPFケース18に装着したままの状態で接続して通電を行い、加熱による再生処理の実施を行わせるものである。
【0047】
このように、本機を使用しない夜間を利用して、エンジンのDPFケース18に装着した状態でDPF17の再生処理が可能になると共に、農機用の安価なDPFシステムとして使用することができる。なお、DPF17の詰まりの判定は、ECU22により差圧センサ23によるDPF17の差圧モニターにて検知させる。
【0048】
また、DPFの再生処理を行っているとき、オペレータに対しては運転席のランプやモニター等にて表示する機能は備えているが、車両周囲の作業者等に対して表示させるものはなかった。
【0049】
このため、コモンレール式電子制御エンジンにおいて、従来のエンジンであれば、その作業形態によって負荷条件が想定でき、本体及び周囲が高温であることは容易に推定できたが、DPFの再生時には、例えエンジン負荷が低くても周囲や排気温度が高温状態となるため、火傷や火災等による不慮の事故発生が懸念される。特に車外にいるオペレータや周辺の作業者に知らしめることが安全面から必要であり、図15(a),(b)に示す如く、トラクタ24におけるDPFの再生時には、左右のハザードランプ25を左右交互か左右同時に点滅させることで、車外に出たオペレータや周囲の作業者に知らしめることができ、安全面から十分に有効である。
【0050】
また、図16(a),(b)に示す如く、トラクタ26に搭載したエンジン27において、このエンジン27上側の左右側面に、各々円筒状のDPF28を車体の進行方向に沿う状態で適宜長さ延設し、排出ガスを前方下側に排出させるようマフラー28aを配設することにより、次期排出ガス規制に対し、先行したDPF28の配置やマフラー28aの配置とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
機体に装着した作業機を駆動する車両にも利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
S 標準モード
F 低燃費モード
a ドループ制御
b ドループ制御
c ドループ制御
h アイソクロナス制御
【技術分野】
【0001】
この発明は、トラクタに関し、特にエンジンの出力モード切替装置に関し、出力モードの切り替えに伴うPTO駆動の入りと切りによるガバナモードの変更を行うもの等の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
作業機械のエンジン制御装置は、等燃費曲線を表した燃料マップを用いてエンジンの燃費効率を考慮しながらエンジンを制御するものであるが、この燃料マップは単位時間当りのエンジン回転数とエンジントルクによる正味燃料消費量を示しているものである。
【0003】
従来の燃料マップは、高トルクで燃費効率が最良となるように作られており、燃料消費量低減モード制御によってポンプトルク配分を低下させたり、又はエンジン回転数を低下させると燃費効率が悪くなる恐れがある。
【0004】
一方、エンジン出力トルクカーブとポンプ吸収トルクカーブとを制御し、両者のマッチング点を、燃料マップにおいて燃料消費率が最小となる燃費最小点に近づける制御装置が開示されている。(例えば、特許文献1参照)
しかし、このような制御装置は、単一の燃料マップを持つ単一のエンジン出力トルクカーブの一部を変形させるように制御しているが、エンジンそのものは低燃費モード仕様に変更されておらず、この点で燃費向上を図れる余地がある。
【0005】
このため、スタンダードモードのエンジン出力トルクカーブを、燃料消費量低減モードのエンジン出力トルクカーブに切り替えると共に、これに伴って燃料マップを切り替えることにより、エンジンを確実に低燃費モード仕様に切り替えて燃費向上を図れるものが開示されている。(例えば、特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−232835号公報
【特許文献2】特開2007−231848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の如く、標準モード(スタンダードモード)と低燃費モード(燃料消費量低減モード)の二つの出力モードを有するものにおいて、特にトラクタでは、出力モードが低燃費モードの場合、PTO駆動を入りにしたときはエンジン回転数上昇のレスポンスが敏感となって急加減速を生じ易く、燃費の低減を阻害するものとなっていた。
【0008】
そこで本発明は、二つの出力モードを有するものにおいて、標準モードではPTO駆動の入りと切りによるトルク対応を主体とし、低燃費モードではPTOの駆動入りと切りによるエンジン回転数の急加減速を抑制して燃費低減を可能にしようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、標準モード(S)と低燃費モード(F)による二つの出力モードを有するエンジンを手動により切り替えるモード切替スイッチを設けたトラクタにおいて、負荷が作用するとエンジン回転数が変動する第1ドループ制御(a)と、負荷が作用すると前記第1ドループ制御(a)よりもエンジン回転が低下し易い第2ドループ制御(b)を設定し、
前記標準モード(S)に切り替えたときにおいては、装着した作業機を駆動するPTO駆動が入り状態ではエンジン回転数を維持するアイソクロナス制御(h)で制御し、PTO駆動が切り状態では第1ドループ制御(a)に自動的にガバナモードを変更する構成とし、
前記低燃費モード(F)に切り替えたときにおいては、PTO駆動が入り状態では第1ドループ制御(a)で制御し、PTO駆動が切り状態では第2ドループ制御(b)に自動的にガバナモードを変更するように構成したことを特徴とするトラクタとする。
【0010】
このような構成により、モード切替スイッチを標準モード(S)に切り替えたときは、PTO駆動が入り状態ではアイソクロナス制御(h)に変更し、PTO駆動が切り状態ではドループ制御(a)に変更して作業を行わせることにより、負荷に対する回転変動の少ない作業の実施が可能となる。モード切替スイッチを低燃費モード(F)に切り替えたときは、PTO駆動が入り状態ではドループ制御(a)に変更して作業を行わせることにより、エンジン回転数の変動が適度なアクセルマップを設定することが可能になると共に、PTO駆動が切り状態ではドループ制御(b)に変更して作業を行わせることにより、ドループ制御の傾きを緩やかにすることで、アクセル開度に対するエンジン回転数上昇のレスポンスを鈍感にして急加減速を防止することができる。
【0011】
請求項2の発明は、PTO駆動が入り状態のときにおいて、標準モード(S)によるアイソクロナス制御(h)から低燃費モード(F)に切り替えた際に、負荷率が所定値以上では第3ドループ制御(c)に自動的にガバナモードを変更させると共に、負荷率が所定値以下ではアイソクロナス制御(h)に自動的にガバナモードを変更させることを特徴とした請求項1記載のトラクタとする。
【0012】
このような構成により、PTO駆動が入り状態のとき、モード切替スイッチを標準モード(S)に切り替え、アイソクロナス制御(h)による中低負荷の作業において、常に目標のエンジン回転数で作業を行わせることが可能になると共に、負荷が増加し始めると標準モード(S)から低燃費モード(F)に切り替え、負荷率が所定値以上ではドループ制御(c)に変更して、負荷の増大に伴い発生するエンジン回転数の低下による急激な負荷率の増加を防止することができ、負荷率が所定値以下のときは再びアイソクロナス制御(h)への変更を行わせる。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明では、上記作用の如く、標準モード(S)にてPTO駆動が入り状態ではアイソクロナス制御(h)とし、PTO駆動が切り状態ではドループ制御(a)とすることにより、負荷に対する回転変動の少ない作業の実施が可能となる。また、低燃費モード(F)にてPTO駆動が入り状態ではドループ制御(a)とすることにより、エンジン回転数の変動が適度なアクセルマップによって作業を実施することで、オペレータが負荷変動を把握し易くできると共に、PTO駆動が切り状態ではドループ制御(b)とすることにより、アクセル開度に対するエンジン回転数上昇のレスポンスを鈍感にして急加減速を防止し、燃費を向上させることができる。このように、標準モード(S)に対する低燃費モード(F)の差別化を図ることができる。
【0014】
請求項2の発明では、上記作用の如く、PTO駆動が入り状態のとき、標準モード(S)に切り替え、アイソクロナス制御(h)による中低負荷の作業において、常に目標のエンジン回転数で作業を行わせることが可能になることにより、オペレータが負荷状態を把握する必要が少なくなる。負荷が増加し始めると低燃費モード(F)に切り替え、負荷率が所定値以上ではドループ制御(c)として、負荷の増大に伴いエンジン回転数が低下することで急激な負荷率増加の防止とオペレータによる負荷状態の把握が容易となり、負荷率が所定値以下となったときは再びアイソクロナス制御(h)とすることで、負荷率の切替り境界に差を設けることによって、切替り境界付近で作業をした場合に発生し易い制御変更による不安定現象を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】コモンレールによる蓄圧式燃料噴射ディーゼルエンジンを示すシステム図。
【図2】三種類の制御モードによるエンジン回転数と出力トルクの関係を示す線図。
【図3】標準モードと低燃費モードの二つの出力カーブによるアクセルマップにおいて、アイソクロナス制御ラインとドループ制御aラインとドループの傾きが緩いドループ制御bラインの状態を示す線図。
【図4】標準モードと低燃費モードの二つの出力カーブの切り替えにおいて、PTOのON,OFF状態により、ガバナモードをアイソクロナス制御からドループ制御aに、ドループ制御aからドループ制御bに各々自動的に変更させる状態を示す表図。
【図5】標準モードと低燃費モードの二つの出力カーブによるアクセルマップにおいて、PTOがON状態のときに標準モードではアイソクロナス制御を行い、負荷が増加し始めると低燃費モードに切り替え負荷の増大によりドループ制御cに変更させる状態を示す線図。
【図6】PTOがON状態において、標準モードではアイソクロナス制御を行い、負荷が増加し始めると低燃費モードに切り替え、負荷率60%以上でドループ制御cに変更し、負荷率が40%以下では再びアイソクロナス制御に変更する手順を示すフローチャート。
【図7】標準モードと低燃費モードの二つの出力カーブによるアクセルマップにおいて、低燃費モード時のガバナモードをドループ制御dとするガバナラインを、エンジン回転数が低く且つ全負荷に近い領域での傾きを二段的に大きくした状態を示す線図。
【図8】標準モードで作業を行っている場合に、エンジン負荷率とエンジン回転数の数値によって低出力の低燃費モードへの切り替えを禁止させる手順を示すフローチャート。
【図9】標準モードと低燃費モードとを自律的に選択切り替えするために、ECUに設定したデーターベースとしての作業情報の内容を示した表図。
【図10】コモンレール式電子制御エンジンにおいて、エンジンが定格点付近で運転されている場合、アクセル開度をゼロに戻したときのエンジンの慣性と摩擦により回転数が低下するオーバラン状態時に、DPFの差圧を検知する時間当りの降下率を示す線図。
【図11】コモンレール式電子制御エンジンにおいて、オーバラン状態時におけるDPFの差圧を検知する際に、エンジン回転数及びエンジン負荷率に判定閾値を設定している状態を示す線図。
【図12】(a)エンジンのDPFケースからDPFを取外した状態を示す斜視図。(b)昼間に太陽光発電により発電した電力を蓄電池に蓄電を行い、夜間に蓄電池から電気炉に電流を流し、電気炉内の発熱によりDPFの再生処理を実施する状態を示す作用図。
【図13】夜間に乾燥機のバーナーからの熱風を利用し、籾や麦の乾燥と同時にDPFの再生処理を実施する状態を示す作用図。
【図14】熱線式ヒーターによって再生処理を行うDPFを夜間等作業を行わないときに、200v電源系にDPFケースに装着したままで通電を行い、加熱による再生処理を実施する状態を示す作用図。
【図15】(a)トラクタにおいて、DPFの再生時には左右のハザードランプを左右交互か左右同時に点滅させる状態を示す正面図。(b)トラクタにおいて、DPFの再生時には左右のハザードランプを左右交互か左右同時に点滅させる状態を示す側面図。
【図16】(a)トラクタにおいて、エンジン上側の左右側面に各々円筒状のDPFを車体の進行方向に沿う適宜長さ延長した状態を示す正面図。(b)エンジン上側の左右側面に各々円筒状のDPFを適宜長さ延長し、排出ガスを前方下側に排出させるマフラーを配設した状態を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
標準モードSと低燃費モードFによる二つの出力モードを手動により切り替えるモード切替スイッチを設けたトラクタにおいて、通常のドループ制御によるアクセルマップを使ったドループ制御aと、ドループの傾きが緩いアクセルマップを使ったドループ制御bとを設定する。
【0017】
標準モードSに切り替えたときは、PTOがON状態ではアイソクロナス制御hに、OFF状態ではドループ制御aに各々自動的にガバナモードを変更させると共に、低燃費モードFに切り替えたときは、PTOがON状態ではドループ制御aに、OFF状態ではドループ制御bに各々自動的にガバナモードを変更させる。
【0018】
また、標準モードSと低燃費モードFによる二つの出力モードを手動により切り替えるモード切替スイッチを設けたトラクタにおいて、PTOがON状態のとき、標準モードSによるアイソクロナス制御hから低燃費モードFに切り替えた際に、負荷率が所定値(略60%程度)以上ではドループ制御cに自動的に変更させると共に、負荷率が所定値(略40%程度)以下ではアイソクロナス制御hに自動的に変更させる。
【0019】
以下に、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。
コモンレール式ディーゼルエンジンEついて、図1のシステム図によりその概要を示す如く、コモンレール式(蓄圧式燃料噴射方式)とは、各気筒への燃料噴射を要求圧力に調整して供給するコモンレール1(蓄圧室)を介して行うものである。
【0020】
燃料タンク3内の燃料は吸入通路により燃料フィルタ7を介して該エンジンEで駆動される高圧ポンプ4に吸入され、この高圧ポンプ4によって加圧された高圧燃料は吐出通路8によりコモンレール1に導かれ蓄えられる。
【0021】
該コモンレール1内の高圧燃料は各高圧燃料供給通路9により気筒5の数分インジェクター6に供給され、ECU100からの指令に基づき、各気筒5毎にインジェクター6が開弁作動して、高圧燃料が該エンジンEの各燃焼室内に噴射供給され、各インジェクター6での余剰燃料(リターン燃料)は各燃料戻し管10により共通の燃料戻し通路10aへ導かれ、この燃料戻し通路10aによって燃料タンク3へ戻される。
【0022】
また、コモンレール1内の燃料圧力(コモンレール圧)を制御するため高圧ポンプ4に圧力制御弁11が設けられており、この圧力制御弁11はECU100からのデューティ信号によって、高圧ポンプ4から燃料タンク3への余剰燃料の燃料戻し通路10aの流路面積を調整するものであり、これによりコモンレール1側への燃料吐出量を調整してコモンレール圧を制御することができる。
【0023】
具体的には、エンジン運転条件に応じて目標コモンレール圧を設定し、レール圧センサ2により検出されるコモンレール圧が目標コモンレール圧と一致するよう、圧力制御弁11を介してコモンレール圧をフィードバック制御する。
【0024】
農作業機に搭載したコモンレール式ディーゼルエンジンEのECU100は、図2に示す如く、回転数と出力トルクの関係において、回転数の変動で出力も変動するドループ制御と、負荷が変動しても回転数が一定で出力を負荷に応じて変更するアイソクロナス制御と、アイソクロナス制御が負荷限界近くになると回転数を上昇させ出力を上げる重負荷制御とによる三種類の制御モードを設定している。
【0025】
ドループ制御は走行モード(A)として、農作業を行わず移動走行する場合に使用するものであり、例えば、ブレーキを掛けて走行速度を減速したり停止したりすると、この走行負荷の増大に伴ってエンジン回転数が低下するため走行速度の減速や停止を安全に行うことができる。
【0026】
アイソクロナス制御は通常作業モード(B)として、通常の農作業を行う場合に使用するものであり、例えば、トラクターであれば耕耘作業時に耕地が固く耕耘刃に抵抗が掛かるとき、コンバインであれば収穫作業時に収穫物が多く負荷が増大したときでも、出力が変動して回転数を維持するものでオペレータが楽に操縦できる。
【0027】
重負荷制御は重作業モード(C)として、特に、負荷限界近くで農作業を行う場合に使用するものであり、例えば、トラクターで耕耘作業を行っている際に、特に、固い耕地に遭遇してもエンジン出力が通常の限界を越えて増大するので作業を中断するようなことがない。
【0028】
従来、ディーゼルエンジンでは、メイン噴射に先立って少量の燃料をパルス的に噴射するパイロット噴射を行うことにより、着火遅れを短縮してディーゼルエンジン特有の、所謂ノック音を低減することが知られている。
【0029】
このパイロット噴射は、メイン噴射の前に1回乃至2回に固定して行われるものであったが、前記コモンレール1のシステムを用いることで、エンジンの状況に応じてパイロット噴射の状態を変化させ、騒音の低減や不完全燃焼による白煙又は黒煙の発生を抑制できる。
【0030】
図3の線図及び図4の表図に示す如く、標準モードSと低燃費モードFによるアクセルマップを有するエンジンの、二つの出力モードを手動により切り替えるモード切替スイッチをトラクタに設けている。モード切替スイッチを標準モードSに切り替えたときは、PTOがON状態のときはガバナモードをアイソクロナス制御hに自動的に変更させ、中低負荷の作業において常に目標のエンジン回転数で作業を行わせることが可能となる。PTOがOFF状態のときはガバナモードをドループ制御aに自動的に変更させることにより、負荷に対する回転変動の少ない作業の実施を可能にすることができる。
【0031】
モード切替スイッチを低燃費モードFに切り替えたときは、PTOがON状態のときはガバナモードをドループ制御aに自動的に変更させ、エンジン回転数の変動が適度なアクセルマップによって作業を実施することで、オペレータが負荷変動を把握し易くできると共に、PTOがOFF状態のときはガバナモードをドループの傾きが緩いアクセルマップを使ったドループ制御bに自動的に変更させることにより、アクセル開度に対するエンジン回転数上昇のレスポンスを鈍感にして急加減速を防止し、燃費の向上を図ることができる。
【0032】
また、図5の線図及び図6のフローチャートに示す如く、標準モードSと低燃費モードFによるアクセルマップを有するエンジンの、二つの出力モードを手動により切り替えるモード切替スイッチをトラクタに設け、PTOがON状態のとき、モード切替スイッチを標準モードSに切り替え、ガバナモードがアイソクロナス制御hによる中低負荷の作業において、常に目標のエンジン回転数で作業を行わせることが可能になることにより、オペレータが負荷状態を把握する必要が少なくなる。
【0033】
そして、負荷が増加し始めると標準モードSから低燃費モードFに切り替え、負荷率が60%以上のときはガバナモードをドループ制御cに変更して、負荷の増大に伴い発生するエンジン回転数の低下による急激な負荷率の増加を防止することが可能となり、オペレータに負荷状態を把握させ易くすることができる。負荷率が40%以下となったときは再びガバナモードをアイソクロナス制御hに変更することにより、負荷率の切替り境界に差を設けることで、切替り境界付近で作業を行った場合に、常に変化している負荷率のため連続して発生する制御変更による不安定現象を防止することができる。
【0034】
また、エンジンにおいて、低回転域では、高回転域とは異なり絶対的な出力が低いため、低燃費モードに切り替えた際の出力ダウンの影響が出易く、低燃費モードにより低回転域で作業を行う場合、負荷が増大したときに急激なエンジン回転数の低下を起こさないよう注意を行う必要がある。
【0035】
このため、図7の線図に示す如く、標準モードSと低燃費モードFの二つの出力モードのアクセルマップによるエンジンを有するトラクタにおいて、低燃費モードFに切り替えてガバナモードをドループ制御dに変更するときは、低燃費モードF用のアクセルマップによるドループ制御dのガバナラインを、エンジン回転数が低く(アクセル開度が50%以下)全負荷に近い領域での傾きを二段的に大きくすることにより、この傾きが大きいガバナラインによる一定のエンジン回転数では、少しの負荷率の増加に対してエンジン回転数が減少するため、PTOの回転数や車速が低下することにより負荷が大きく減少する。
このように、最大出力ポイントが低回転となる出力カーブとなるため、エンジン回転数がある一定以上は低下し難くなり、突然の回転ドロップを心配する必要がないようになる。
【0036】
また、定格回転数付近を使用する作業では、低燃費モードに切り替えたとき出力不足により回転数が低下してしまっても、回転数域が高いためオペレータは標準モードに戻す余裕があるが、収穫作業において低回転を使用するような場合、低燃費モードに切り替えて出力が足りなかったときは一気にエンジン停止を起してしまう恐れがあり、停止してしまうと油圧を発生させることかできなくなるため危険であった。
【0037】
このため、図8のフローチャートに示す如く、標準モードSと低燃費モードFの二つの出力モードによるエンジンを有するトラクタにおいて、標準モードSで作業を行っている場合に、エンジン負荷率の確認を行い、負荷率が80%以上のときで、エンジン回転数の確認を行い、回転数が1600r/m以下のときは低燃費モードFへの切り替えを禁止し、オペレータにも禁止の告知を行わせる。
【0038】
このように、エンジン負荷率とエンジン回転数の数値によって低出力の低燃費モードFへの切り替えを禁止させることにより、エンジン停止を起してしまう恐れのある低回転を使った作業を安全に行うことができる。
【0039】
また、低燃費モードを採用したエンジンを有するトラクタにおいて、この低燃費モードの切り替えはオペレータの手動操作になっており、選択にはオペレータの経験を必要とするものであった。
【0040】
このため、エンジン特性を標準出力の標準モードSと燃費重視の低燃費モードFとに切り替え可能なトラクタ用エンジンにおいて、図9の表図に示す如く、作業機の種類,車速,PTOの速度等の作業情報を、自動検出可能なモード選択データベースDとしてECUに設定し、この自動検出した作業情報を元に想定されるエンジン負荷率を予測し、この負荷率の予測により自律的に標準モードSと低燃費モードFとを選択切り替えすることにより、自律的に最適の出力モードを選択することができる。
【0041】
また、エンジンの排気ガス後処理装置としてのDPFの再生実施において、DPF前後の差圧を再生実施の開始条件として設定する場合があるが、この差圧の設定では、アクセル開度を上げての作業運転中にはエンジン負荷によって回転数や負荷率は常に変動しDPFの前後差圧も変動しており、同じPMの堆積状態でも高速域での全負荷では差圧は高くなり、低速域では通過するガス量が少なく差圧は低くなることから、運転状態による影響が大きく一概に差圧だけではPM堆積量を推定することは困難であり、正確な再生実施の開始条件としての判断ができ難いものであった。
【0042】
このため、コモンレール式電子制御エンジンにおいて、図10の線図に示す如く、アクセル開度及びエンジン回転数の信号を監視する機能と、DPFの前後差圧を検知する機能とを有し、エンジンのオーバラン状態、即ち定格点付近で運転されている場合にアクセル開度をゼロに戻すと、エンジン制御としては燃料噴射量はゼロとなり、エンジンの慣性と摩擦により回転数が低下するという挙動となるが、この挙動はエンジンの特性や搭載条件によって確定されるものであり、それまでの運転状態に関係なく安定した挙動となるため、その挙動条件下で時間当り(Δt)の降下率(Δp)によってDPFの差圧を検知すれば、絶対的なPM堆積量の評価が可能となり、DPF再生の実施可否判定に有効に利用できる。
【0043】
また、前記の如く、エンジンの安定した挙動条件下で時間当り(Δt)の降下率(Δp)によってDPFの差圧を検知する際に、図11の線図に示す如く、判定実施の条件としてDPFの差圧の変化が顕著となるよう、オーバラン突入直前の運転条件として、一定のエンジン回転数及びエンジン負荷率に各々設けた判定閾値を上回っていることの確認が行われたときは、絶対的なPM堆積量の評価確度が一段と向上し、DPF再生の実施可否判定がより一層有効に利用できる。
【0044】
また、DPFの再生処理を実施するには、エンジンの排気ガス温度を上げる必要があり、温度を上げるために燃料の消費が大きく燃費が悪化していた。
このため、図12(a),(b)に示す如く、昼間に太陽光発電15により発電した電力を蓄電池16に蓄電を行い、夜間にDPF17をエンジンのDPFケース18から取外して電気炉19に装填し、昼間蓄電した蓄電池16から電流を流し、電気炉19内の発熱によりDPF17のPMを燃焼させて再生処理の実施を行わせるものである。このように、太陽光発電15によって蓄電された電力を利用してDPF17の再生処理を実施することにより、効率が良く環境にも優しいDPF再生が可能となる。
【0045】
また、前記の如き、太陽光発電15による蓄電池16に代えて、図13に示す如く、夜間にDPF17を籾や麦の乾燥を行う乾燥機29のバーナー20からの熱風を利用し、籾や麦の乾燥と同時にDPF17のPMを燃焼させて再生処理の実施を行わせるものである。このように、乾燥機29のバーナー20を利用してDPF17の再生処理を実施することにより、効率の良いDPF再生が可能となる。
【0046】
また、DPF17の再生処理を実施するときに、前記の如くDPF17をエンジンのDPFケース18から取外して再生を行うものではなく、図14に示す如く、熱線式ヒーター21によってDPF17の再生処理を行うものであり、夜間等作業を行わないときに、該ヒーター21によるDPF17を、200v電源系にDPFケース18に装着したままの状態で接続して通電を行い、加熱による再生処理の実施を行わせるものである。
【0047】
このように、本機を使用しない夜間を利用して、エンジンのDPFケース18に装着した状態でDPF17の再生処理が可能になると共に、農機用の安価なDPFシステムとして使用することができる。なお、DPF17の詰まりの判定は、ECU22により差圧センサ23によるDPF17の差圧モニターにて検知させる。
【0048】
また、DPFの再生処理を行っているとき、オペレータに対しては運転席のランプやモニター等にて表示する機能は備えているが、車両周囲の作業者等に対して表示させるものはなかった。
【0049】
このため、コモンレール式電子制御エンジンにおいて、従来のエンジンであれば、その作業形態によって負荷条件が想定でき、本体及び周囲が高温であることは容易に推定できたが、DPFの再生時には、例えエンジン負荷が低くても周囲や排気温度が高温状態となるため、火傷や火災等による不慮の事故発生が懸念される。特に車外にいるオペレータや周辺の作業者に知らしめることが安全面から必要であり、図15(a),(b)に示す如く、トラクタ24におけるDPFの再生時には、左右のハザードランプ25を左右交互か左右同時に点滅させることで、車外に出たオペレータや周囲の作業者に知らしめることができ、安全面から十分に有効である。
【0050】
また、図16(a),(b)に示す如く、トラクタ26に搭載したエンジン27において、このエンジン27上側の左右側面に、各々円筒状のDPF28を車体の進行方向に沿う状態で適宜長さ延設し、排出ガスを前方下側に排出させるようマフラー28aを配設することにより、次期排出ガス規制に対し、先行したDPF28の配置やマフラー28aの配置とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
機体に装着した作業機を駆動する車両にも利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
S 標準モード
F 低燃費モード
a ドループ制御
b ドループ制御
c ドループ制御
h アイソクロナス制御
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標準モード(S)と低燃費モード(F)による二つの出力モードを有するエンジンを手動により切り替えるモード切替スイッチを設けたトラクタにおいて、負荷が作用するとエンジン回転数が変動する第1ドループ制御(a)と、負荷が作用すると前記第1ドループ制御(a)よりもエンジン回転が低下し易い第2ドループ制御(b)を設定し、
前記標準モード(S)に切り替えたときにおいては、装着した作業機を駆動するPTO駆動が入り状態ではエンジン回転数を維持するアイソクロナス制御(h)で制御し、PTO駆動が切り状態では第1ドループ制御(a)に自動的にガバナモードを変更する構成とし、
前記低燃費モード(F)に切り替えたときにおいては、PTO駆動が入り状態では第1ドループ制御(a)で制御し、PTO駆動が切り状態では第2ドループ制御(b)に自動的にガバナモードを変更するように構成したことを特徴とするトラクタ。
【請求項2】
PTO駆動が入り状態のときにおいて、標準モード(S)によるアイソクロナス制御(h)から低燃費モード(F)に切り替えた際に、負荷率が所定値以上では第3ドループ制御(c)に自動的にガバナモードを変更させると共に、負荷率が所定値以下ではアイソクロナス制御(h)に自動的にガバナモードを変更させることを特徴とした請求項1記載のトラクタ。
【請求項1】
標準モード(S)と低燃費モード(F)による二つの出力モードを有するエンジンを手動により切り替えるモード切替スイッチを設けたトラクタにおいて、負荷が作用するとエンジン回転数が変動する第1ドループ制御(a)と、負荷が作用すると前記第1ドループ制御(a)よりもエンジン回転が低下し易い第2ドループ制御(b)を設定し、
前記標準モード(S)に切り替えたときにおいては、装着した作業機を駆動するPTO駆動が入り状態ではエンジン回転数を維持するアイソクロナス制御(h)で制御し、PTO駆動が切り状態では第1ドループ制御(a)に自動的にガバナモードを変更する構成とし、
前記低燃費モード(F)に切り替えたときにおいては、PTO駆動が入り状態では第1ドループ制御(a)で制御し、PTO駆動が切り状態では第2ドループ制御(b)に自動的にガバナモードを変更するように構成したことを特徴とするトラクタ。
【請求項2】
PTO駆動が入り状態のときにおいて、標準モード(S)によるアイソクロナス制御(h)から低燃費モード(F)に切り替えた際に、負荷率が所定値以上では第3ドループ制御(c)に自動的にガバナモードを変更させると共に、負荷率が所定値以下ではアイソクロナス制御(h)に自動的にガバナモードを変更させることを特徴とした請求項1記載のトラクタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−97573(P2012−97573A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243246(P2010−243246)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】
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