説明

トランスミッション流体中の改善された抗震え性能および高い静止摩擦のための摩擦調節剤

【課題】摩擦調節剤の使用によって、特に、自動トランスミッション中において、高い静止摩擦係数を得、そして摩擦システムの酸化的および機械的ストレスの間、永続的な正の傾きを維持するための新規な摩擦調節剤を開発することを課題とする。
【解決手段】上記課題は、(a)カルボン酸またはその反応性等価体とアミノアルコールとの反応から誘導される摩擦調節剤であって、少なくとも2つのヒドロカルビル基を含む、改変剤;および(b)(a)の種以外の分散剤の流体組成物が、自動トランスミッションに対して良好な摩擦特性を提供することによって解決された。本発明は、トランスミッション流体(自動トランスミッション流体、連続無段トランスミッション流体、二重クラッチトランスミッション流体、および手動トランスミッション流体を含む)ならびに農業用トラクタ流体、エンジン潤滑剤のような流体における使用に適切な組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国仮出願60/395,374号(2002年7月12日)および同60/418,601号(2002年10月15日)からの優先権を主張する。
【0002】
(発明の背景)
本発明は、芳香族トランスミッション流体、牽引流体、連続無段トランスミッション流体(CVT)、二重クラッチ自動トランスミッション流体、農業用トラクタ流体、およびエンジン潤滑剤のような流体のための添加剤の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
自動トランスミッション市場(重量を減少させ、そしてトランスミッション能力を増加させるための欲求によって駆動される迅速な操作の変化が存在する)において、改善されたクラッチ保持能力のための高い静止摩擦係数を示す自動トランスミッション流体についての欲求が存在する。同時に、mu/v(摩擦係数 対 滑動速度)曲線における正の傾き特徴の保持を改善する欲求が存在する。これらの特徴を規定するために使用される市場でのより新しい試験が存在する。静止トルクは、Toyota SAE#2摩擦試験手順のような試験で測定され得、そして正の傾きの保持は、JASO LVFA(Japan Automotive Standards Organization,Low Velocity Friction Apparatus)のような手順によって測定され得、ここで、mu/v曲線の傾きは、酸化的および機械的老化の間に周期的に測定される。
【0004】
この性能を達成するために使用されるあるタイプの摩擦調節剤技術が記載される特許(例えば、米国特許第5,750,476号)が存在する。高い静止摩擦係数および永続的な正の傾きの組み合わせた要件は、しばしば、その特許文献において非常に十分に記載された従来のATF摩擦調節剤技術と矛盾する。一般的に使用される摩擦調節剤の多くは、低い静止摩擦係数を生じ、そして十分な使用であるために十分な永続的な正の傾きではない。正のmu/vまたは抗震え(anti−shudder)特性を保持するため技術を記載するさらなる特許文献としては、US5,858,929号が挙げられる。これらは、金属界面活性剤および摩擦調節剤の組み合わせを使用し得る。
【0005】
米国特許第4,886,612号は、種々の生成物のうちの少なくとも1つを含む潤滑油を開示し、これは、以下の構造の種々のイミダゾリンまたはオキサゾリン:
【0006】
【化1】

であり得、ここで、RおよびRは、それぞれ、CHOCOR、CHOHまたはHを表す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、カルボン酸(またはその反応性等価体)とアミノアルコールとの縮合(例えば、2モルのイソステアリン酸と1モルのトリスヒドロキシメチルアミノメタン(THAM)との縮合)によって調製される摩擦調節剤の使用によって、特に、自動トランスミッション中において、高い静止摩擦係数を得、そして摩擦システムの酸化的および機械的ストレスの間、永続的な正の傾きを維持するための新規な摩擦調節剤を開発するという問題を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要旨)
本発明は、トランスミッション流体(自動トランスミッション流体、連続無段トランスミッション流体、二重クラッチトランスミッション流体、および手動トランスミッション流体を含む)ならびに農業用トラクタ流体、エンジン潤滑剤(ギアおよびベアリングも同様)のような流体における使用に適切な組成物を提供し、これは、以下の成分を含む:
流体組成物であって、以下:
(a)カルボン酸またはその反応性等価体とアミノアルコールとの反応由来の摩擦調節剤であって、ここで、この摩擦調節剤は、少なくとも2つのヒドロカルビル基を含み、各々が、少なくとも6個の炭素原子を含む(例としては、イソステアリン酸または無水アルキルコハク酸とトリス−ヒドロキシメチルアミノメタンとの反応生成物が挙げられる)、摩擦調節剤;ならびに
(b)(a)の種以外の分散剤。
【0009】
本発明は、トランスミッション、トラクタ、エンジン、ギアボックス、またはベアリングのような機械的装置を潤滑させるための方法をさらに提供し、この方法は、この装置に上記組成物を供給する工程;または上記摩擦調節剤を含む組成物を供給する工程を包含する。
【0010】
本発明は、例えば以下を提供する。
(項目1)
流体組成物であって、以下:
(a)カルボン酸またはその反応性等価体とアミノアルコールとの反応から誘導される摩擦調節剤であって、少なくとも2つのヒドロカルビル基を含み、その各々が、少なくとも約6つの炭素原子を含む、摩擦調節剤;ならびに
(b)(a)の種以外の分散剤
を含む、組成物。
(項目2)
項目1に記載の組成物であって、前記アミノアルコールが、トリスヒドロキシメチルアミノメタンである、組成物。
(項目3)
項目1に記載の組成物であって、前記カルボン酸および前記アミノアルコールが、約1.2:1〜3:1のモル比で反応される、組成物。
(項目4)
項目1に記載の組成物であって、前記カルボン酸が、イソステアリン酸である、組成物。
(項目5)
項目1に記載の組成物であって、前記カルボン酸成分が、イソステアリン酸およびオクタデシルコハク酸または酸無水物の混合物を含む、組成物。
(項目6)
項目1に記載の組成物であって、2つのヒドロカルビル基の各々が、少なくとも約8つの炭素原子を含む、組成物。
(項目7)
項目1に記載の組成物であって、前記(b)の分散剤が、カルボン酸分散剤、スクシン
イミド分散剤、アミン分散剤、またはマンニッヒ分散剤である、組成物。
(項目8)
項目1に記載の組成物であって、潤滑粘性の油をさらに含む、組成物。
(項目9)
項目8に記載の組成物であって、成分(a)の量が組成物の約0.2重量%〜約5重量%であり、そして成分(b)の量が組成物の約1重量%〜約4重量%である、組成物。
(項目10)
項目8に記載の組成物であって、粘度調節剤、補足摩擦調節剤、界面活性剤、酸化阻害剤またはリン化合物をさらに含む、組成物。
(項目11)
トランスミッション、トラクター、エンジン、ギアボックス、またはベアリングに潤滑性を与える方法であって、トランスミッション、トラクター、エンジン、ギアボックス、またはベアリングに項目1に記載の組成物を供給する工程を包含する、方法。
(項目12)
トランスミッション、トラクター、エンジン、ギアボックス、またはベアリングに潤滑性を与えるための方法であって、カルボン酸またはその反応性等価体とアミノアルコールとの反応から誘導される摩擦調節剤をトランスミッション、トラクター、エンジン、ギアボックス、またはベアリングに供給する工程を包含し、該摩擦調節剤が、少なくとも2つのヒドロカルビル基を含み、その各々が、少なくとも約6つの炭素原子を含む、方法。

【発明を実施するための形態】
【0011】
(発明の詳細な説明)
種々の好ましい特徴および実施形態は、非限定的な例示として以下に記載される。
【0012】
成分(a)は、少なくとも2つの置換ヒドロカルビル基(例えば、アルキル基)を有する摩擦調節剤である。このタイプの成分の特定の例としては、以下の縮合生成物が挙げられる:イソステアリン酸/トリスヒドロキシメチルアミノメタン(「THAM」)(2:1モル比);イソステアリン酸/2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール(2:1モル比);無水オクタデシルコハク酸/エタノールアミン/イソステアリン酸(1:1:1モル比);およびプロピレンオキシドと組み合わされた上記物質のいずれか(例えば、1:1モル比)。
【0013】
これらの物質は、酸(1)とアミノアルコール(2)との縮合によって導かれる。1つの中心極性基に結合された少なくとも2つのヒドロカルビル基を含む分子を生成することが通常の意図である。生成物についてのかなりの程度の油溶解性を保証するために、2つのヒドロカルビル基は、一緒で、合計少なくとも8個の炭素原子、好ましくは、少なくとも12個または16個の炭素原子を含む。各々のこのようなヒドロカルビル基は、代表的に、個々に、少なくとも6個または8個の炭素原子(例えば、10〜30個、または12〜24個、または14〜20個、または16〜18個の炭素原子)を含む長鎖アルキル基である。特定の実施形態において、縮合生成物の1つまたは2つの成分は、分枝鎖を含む。
【0014】
各タイプの縮合生成物において、有機カルボン酸または等価体(例えば、無水物、酸ハロゲン化物、エステル)(1)は、特定の例において示される通りであり得るか、または天然植物および動物油または合成的に生成された脂肪酸由来の類似のカルボン酸であり得る。これらは、一般的に、8〜30個の炭素原子範囲であり、そして実質的に、直線形の性質である。あるいは、これらは、10〜24個の炭素原子、または12〜22個の炭素原子、または16〜20個の炭素原子を含み得る。例は、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、トールオイル酸、炭化水素の酸化由来の酸、置換コハク酸、アクリレートまたはメタクリレートのアルコールへの添加由来のエーテル−酸、などである。(エーテル−酸の反応生成物は、必要なヒドロカルビル基を含むが、但し、この基は、以下の「ヒドロカルビル」の定義においてさらに記載されるように、エーテル官能基の存在にもかかわらず、実質的に炭化水素の性質を示す)。酸の混合物(例えば、イソステアリン酸およびオクタデシルコハク酸または無水オクタデシルコハク酸)もまた、使用され得、このような混合物は、以下に記載されるアミノアルコール(例えば、エタノールアミン)と反応した場合、有用である。
【0015】
アミン含有物質(2)は、アミノアルコール(すなわち、アミン官能性およびアルコール官能性の両方を含む分子)である。アミン官能性は、好ましくは、少なくとも1つの置換可能な水素を含む窒素原子の形態(すなわち、第1級アミンまたは第2級アミン)である。アミノアルコールの例は、トリス−ヒドロキシメチルアミノメタン、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール、およびエタノールアミンである。他のアミノアルコールはまた、縮合において使用され、これには、3−アミノ−1−プロパノール、2−アミノ−1−プロパノール、1−アミノ−2−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、4−アミノ−1−ブタノール、5−アミノ−1−ペンタノール、2−アミノ−1−ペンタノール、2−アミノ−1,2−プロパンジオール、2−アミノ−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン、N,N’−ビス−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、および1−アミノプロピル−3−ジイソプロパノールアミンが挙げられる。
【0016】
成分(a)に存在する2つのヒドロカルビル基は、一般的に、酸反応物のヒドロカルビル部分から生じる。その場合、2モルの酸が1モルのアミノアルコールと反応し、それによって、2モルのそれぞれが、1つの長鎖ヒドロカルビル基を提供することが一般的に望ましい。この比は、一般的に、1.2:1〜3:1、または1.6:1〜2.5:1、または1.9:1〜2.1:1で変化し得る。任意の反応生成物において、生成物の混合物が存在し得、そして上記比のいずれかでの反応が、開始物質の相対量に一部依存して、統計的または他の比において、約1:1付加物、2:1付加物、3:1付加物などを導き得ることが理解される。生成物が1:1付加物の一部を含むという事実は、この生成物の少なくとも一部は、必要な2つのヒドロカルビル基を含むという条件で、本発明の範囲からのこのような生成物を除去しない。もちろん、2つの異なる酸の種が使用される場合、この比は、約1:1:1などであり得る;但し、全てのこのような酸のモル対全てのアミノアルコールのモルの比は、通常、約2:1である。あるいは、アミノアルコール自体が1つの長鎖ヒドロカルビル基の供給源である場合、約1:1の比は、1分子当たり2つのヒドロカルビル基を提供するのに適切であり得る。このようなバリエーションは、当業者に明らかである。
【0017】
本発明の組成物中の成分(a)の量は、一般的に、最終流体処方物の0.2〜5.0重量%である。好ましくは、成分(a)の量は、最終流体処方物の0.5〜4重量%である。より好ましくは、成分(a)の量は、最終流体処方物の1.0〜2.5重量%である。
【0018】
成分(b)は、分散剤である。(a)の摩擦調節剤のいくらかが、いくつかの分散剤特性を示し得る場合、「(a)の種以外」として、これは、記載される。「カルボン酸分散剤」の例は、以下を含む多くの米国特許に記載される(3,219,666、3,316,177、3,340,281、3,351,552、3,381,022、3,433,744、3,444,170、3,467,668、3,501,405、3,542,680、3,576,743、3,632,511、4,234,435、およびRe26,433)。
【0019】
スクシンイミド分散剤(ある種のカルボン酸分散剤)は、無水ヒドロカルビル置換コハク酸(またはその反応等価体(例えば、酸、酸ハロゲン化物、またはエステル))と上記アミンとの反応によって調製される。ヒドロカルビル置換基は、一般的に、平均して、少なくとも8個、または20個、または30個、または35個から350個まで、または200個まで、または100個までの炭素原子を含む。1つの実施形態において、ヒドロカルビル基は、ポリアルケン由来である。このようなポリアルケンは、少なくとも500の
【0020】
【化2】

(数平均分子量)によって特徴付けられ得る。一般的に、このポリアルケンは、500、または700、または800、または900から5000まで、2500まで、または2000まで、または1500までの
【0021】
【化3】

によって特徴付けられる。別の実施形態において、
【0022】
【化4】

は、500、または700、または800から1200または1300までで変動する。別の実施形態において、多分散性
【0023】
【化5】

は、少なくとも1.5である。
【0024】
ポリアルケンは、2から16個まで、または6個まで、または4個までの炭素原子の重合可能オレフィンモノマーのホモポリマーおよびインターポリマーを含む。オレフィンは、モノオレフィン(例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、および1−オクテン);またはポリオレフィンモノマー(例えば、1,3−ブタジエンおよびイソプレンのようなジオレフィンモノマー)であり得る。1つの実施形態において、インターポリマーは、ホモポリマーである。ポリマーの例は、ポリブテンである。1つの例において、約50%のポリブテンは、イソブチレン由来である。ポリアルケンは、従来の手順によって調製され得る。
【0025】
1つの実施形態において、コハク酸アシル化剤は、ポリアルケンと過剰の無水マレイン酸と反応させて、置換コハク酸アシル化剤を提供することによって調製され、ここで、各等価重量の置換基についてのコハク基の数は、少なくとも1.3、例えば、1.5、または1.7、または1.8である。置換基当たりのコハク基の最大数は、一般的に、4.5、または2.5、または2.1、または2.0を超えない。置換基コハク酸アシル化剤の調製および使用(置換基が、このようなポリオレフィン由来である)は、米国特許第4,234,435号に記載される。
【0026】
置換コハク酸アシル化剤は、アミン(上記アミンおよびアミン蒸留ボトム(still bottom)として公知のヘビーアミン生成物を含む)と反応され得る。アシル化剤と反応するアミンの量は、代表的に、1:2〜1:0.75のCO:Nのモル比を提供するための量である。アミンが第1級アミンである場合、イミドへの完全な縮合が生じ得る。種々の量のアミド生成物(例えば、アミド酸)はまた、存在し得る。反応がアルコールと反応する場合、得られる分散剤は、エステル分散剤である。アミンおよびアルコールの官能性の両方が存在する場合、別分子であるか同じ分子(上記縮合アミン)であるかに関わらず、アミド、エステル、およびおそらくイミド官能性の混合物が存在し得る。これらは、いわゆるエステル−アミド分散剤である。
【0027】
「アミン分散剤」は、比較的高分子量の脂肪族または脂環式ハライドおよびアミン(好ましくは、ポリアルキレンポリアミン)の反応生成物である。この例は、以下の米国特許に記載される:第3,275,554号、同第3,438,757号、同第3,454,555号、および同第3,565,804号。
【0028】
「マンニッヒ分散剤」は、アルキルフェノール(このアルキル基は、少なくとも30個の炭素原子を含む)とアルデヒド(特にホルムアルデヒド)およびアミン(特に、ポリアルキレンポリアミン)との反応生成物である。以下の米国特許に記載される物質は、以下に例示される:3,036,003、3,236,770、3,414,347、3,448,047、3,461,172、3,539,633、3,586,629、3,591,598、3,634,515、3,725,480、3,726,882、および3,980,569。
【0029】
処理後分散剤もまた、本発明の一部である。これらは、一般的に、カルボン酸分散剤、アミン分散剤、またはマンニッヒ分散剤と試薬(例えば、尿素、チオ尿素、二硫化炭素、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、炭化水素置換コハク酸無水物、ニトリル、エポキシド、ホウ素化合物(「ホウ酸化分散剤」を与える)、またはリン化合物)とを反応させることによって得られる。この種の例示的な物質は、以下の米国特許に記載される:3,200,107、3,282,955、3,367,943、3,513,093、3,639,242、3,649,659、3,442,808、3,455,832、3,579,450、3,600,372、3,702,757、および3,708,422。
【0030】
ホウ酸、リン酸、または無水物、および2,5−ジメルカプトチアジアゾール(DMTD)を用いて処理された分散剤もまた含まれる。分散剤の混合物もまた使用され得る。
【0031】
本発明の組成物中の成分(b)の量は、一般的に、1.0〜4.0%である。好ましくは、成分(b)の量は、2.0〜3.0%である。より好ましくは、成分(b)の量は、最終ブレンド流体処方物の2.2%〜2,8%である。
【0032】
トランスミッション流体(特に、自動トランスミッション流体(ATF))中で従来使用される他の成分もまた、代表的に、存在する。
【0033】
このような成分は、潤滑粘性の油である。このような油としては、天然および合成の潤滑油およびその混合物が挙げられる。完全に処方された潤滑剤において、潤滑粘性の油は、一般的に、主要量(すなわち、50重量%より大きい量)で存在する。代表的に、潤滑粘性の油は、組成物の75〜95重量%の量で存在し、しばしば、80重量%より多くの量で存在する。
【0034】
本発明の潤滑剤および機能性流体を作製する際に有用な天然油としては、動物油および植物油、ならびに鉱物潤滑油(例えば、液体石油および溶媒処理されたまたは酸処理された、パラフィン型、ナフテン型または混合パラフィン/ナフテン型の鉱物潤滑油(これは、水素化分解および水素化最終処理(hydrofinishing)プロセスによってさらに精製され得る))が挙げられる。
【0035】
合成潤滑油としては、炭化水素油およびハロ置換炭化水素油(例えば、重合されたおよびインターポリマーのオレフィン(ポリαオレフィンとしても公知));ポリフェニル;アルキル化ジフェニルエーテル;アルキル−またはジアルキルベンゼン;およびアルキル化ジフェニルスルフィド;ならびにその誘導体、アナログ、およびホモログが挙げられる。アルキレンオキシドポリマーならびにそのインターポリマーおよび誘導体(ここで、末端ヒドロキシル基は、エステル化またはエーテル化によって改変され得る)もまた挙げられる。ジカルボン酸と種々のアルコールのエステル、またはC5〜C12モノカルボン酸およびポリオールまたはポリオールエーテルから作製されたエステルもまた挙げられる。他の合成油としては、シリコンベースの油、リン含有酸の液体エステル、およびポリマーテトラヒドロフランが挙げられる。
【0036】
未精製油、精製油および再精製油(天然または合成)は、本発明の潤滑剤に使用され得る。未精製油は、さらなる精製処理なしで、天然または合成供給源から直接得られるものである。精製油は、1つ以上の特性を改善するために、1つ以上の精製工程でさらに処理されている。これらは、例えば、水素化され得、酸化に対して改善された安定性の油を生じる。
【0037】
1つの実施形態において、潤滑粘性の油は、グループIIまたはグループIIIの油、または合成油、またはその混合物である。グループII油およびグループIII油は、API Base Oil Interchangeability Guidelinesによって確立された分類である。グループII油およびグループIII油の両方は、<0.03%の硫黄および>99%の飽和物を含む。グループII油は、80〜120の粘性指数を有し、そしてグループIII油は、>120の粘性指数を有する。ポリαオレフィンは、グループIVとして分類される。この油はまた、Fischer−Tropsch合成由来の油であり得る。
【0038】
好ましい実施形態において、少なくとも50重量%の潤滑粘性の油は、ポリαオレフィン(PAO)である。代表的に、ポリαオレフィンは、4〜30個、または4〜20個、または6〜16個の炭素原子を有するモノマー由来である。有用なPAOの例としては、1−デセン由来のものが挙げられる。これらのPAOは、100℃で1.5〜150mm/s(cSt)の粘度を有し得る。PAOは、代表的に水素化された物質である。
【0039】
本発明の油は、単一粘度範囲または高粘度および低粘度範囲の油の混合物の油を含み得る。好ましい実施形態において、この油は、1または2から8または10までのmm/秒(cSt)の100℃動粘度を示す。全体的な潤滑組成物は、好ましくは、油および他の成分を使用して処方され、その結果、100℃の粘度は、1または1.5から10または15または20までのmm/秒であり、そして−40℃でのBrookfield粘度(ASTM−D−2983)は、20または15Pa−s(20,00cPまたは15,000cP)未満、好ましくは、10Pa−s未満、さらに5以下である。
【0040】
本発明において使用される組成物はまた、種々のさらなる成分を含み得る。頻繁に使用される1つの成分は、粘度調節剤である。粘度調節剤(VM)および分散性粘度調節剤(DVM)は、周知である。VMおよびDVMの例は、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリオレフィン、スチレン−マレイン酸エステルコポリマー、ならびにホモポリマー、コポリマー、およびグラフトコポリマーを含む類似のポリマー性物質である。
【0041】
市販のVM、DVMおよびそれらの化学型の例としては、以下が挙げられる:ポリイソブチレン(例えば、BP Amoco由来のIndopolTMまたはExxonMobil由来のParapolTM);オレフィンコポリマー(例えば、Lubrizol由来のLubrizolTM7060、7065、および7067ならびにUniroyal由来のTrileneTM CP−40およびCP−60);水素化スチレン−ジエンコポリマー(例えば、Shell由来のShellvisTM40および50ならびにLubrizol由来のLZ(登録商標)7341、7351および7441);スチレン/マレイン酸コポリマー(これは、分散性コポリマー(例えば、Lubrizol由来のLZ(登録商標)3702、3715および3703)である);ポリメタクリレート(そのいくらかは、分散特性を有する)(例えば、RohMax由来のAcryloidTMおよびViscoplexTMシリーズのポリメタクリレート、Texaco由来のTLATMシリーズのポリメタクリレートならびにLubrizol由来のLZ7702TMおよびLZ7720TMのポリメタクリレート);オレフィン−グラフト−ポリメタクリレートポリマー(例えば、Rohm GmbH由来のViscoplexTM2−500および2−600);ならびに水素化ポリイソプレンスターポリマー(例えば、Shell由来のShellvisTM200および260)。粘度調節剤の最近の概略は、米国特許第5,157,088号、同第5,256,752号、および同第5,395,539号に見出され得る。VMおよび/またはDVMは、15重量%までのレベルで完全に調合された組成物に組み込まれる。好ましい量は、1〜12%または3〜10%である。
【0042】
本発明で使用される組成物中に使用され得る別の成分は、補足摩擦調節剤である。摩擦調節剤は、当業者に周知である。摩擦調節剤の有用な列挙は、米国特許第4,792,410号に含まれる。米国特許第5,110,488号は、摩擦調節剤として有用である、脂肪酸の金属塩および特に亜鉛塩を開示する。摩擦調節剤の列挙は、以下を含む:
(i)亜リン酸脂肪
(ii)脂肪酸アミド
(iii)脂肪エポキシド
(iv)ホウ酸化脂肪エポキシド
(v)脂肪アミン
(vi)グリセロールエステル
(vii)ホウ酸化グリセロールエステル
(viii)アルコキシル化脂肪アミン
(ix)ホウ酸化アルコキシレート化脂肪アミン
(x)脂肪酸の金属塩
(xi)硫化オレフィン
(xii)脂肪イミダゾリン
(xiii)カルボン酸およびポリアルキレンポリアミンの縮合産物
(xiv)アルキルサリチレートの金属塩
(xv)アルキルリン酸のアミン塩
ならびにこれらの混合物。
【0043】
これらの型の摩擦調節剤の各々の代表は、公知であり、市販されている。例えば、(i)亜リン酸脂肪は、一般に式(RO)PHOである。先述の式に示されるような、好ましい亜リン酸ジアルキルは、式(RO)(HO)PHOの少量の亜リン酸モノアルキルと共に代表的に存在している。これらの構造において、用語「R」は、アルキル基を便利にいう。このアルキルが、実際にはアルケニルであり、従って用語「アルキル」および「アルキル化」は、本明細書中で使用されるように、ホスファイト中の飽和アルキル基以外を含む。ホスファイトは、ホスファイトを実質的に親油性にさせるのに十分なヒドロカルビル基を有する。好ましくは、ヒドロカルビル基は、実質的に非分枝鎖である。多くの適切なホスファイトが、市販されており、米国特許第4,752,416号に記載されるように合成され得る。ホスファイトが、各々のR基において8〜24個の炭素原子を含むことが、好ましい。好ましくは、亜リン酸脂肪は、各々の脂肪ラジカル中に12〜22個の炭素原子を含み、最も好ましくは、16〜20個の炭素原子を含む。1実施形態において、亜リン酸脂肪は、オレイル基から形成され得、従って各々の脂肪ラジカル中に18個の炭素原子を有する。
【0044】
(iv)ホウ酸化脂肪エポキシドは、カナダ特許第1,188,704号から公知である。これらの油状物可溶ホウ素含有組成物は、80℃〜250℃の温度にて、ホウ酸またはホウ素トリオキシドと以下の式:
【0045】
【化6】

を有する少なくとも1つの脂肪エポキシドとを反応させることにより、調製され、ここでR、R、RおよびRの各々は、水素もしくは脂肪族ラジカルであり、またはそれらが結合するエポキシ炭素原子(単数または複数)と一緒になるその任意の2つが、環式ラジカルを形成する。脂肪エポキシドは、好ましくは少なくとも8つの炭素原子を含む。
【0046】
ホウ酸化脂肪エポキシドは、2つの物質の反応に関与するその調製のための方法により特徴付けられ得る。試薬Aは、ホウ素トリオキシドまたはメタホウ酸(HBO)、オルトホウ酸(HBO)およびテトラホウ酸(H)を含むホウ酸の種々の形態のいずれかである。ホウ酸、そして特にオルトホウ酸が、好ましい。試薬Bは、上の式を有する少なくとも1つの脂肪エポキシドであり得る。この式において、R基の各々は、もっともしばしば水素または脂肪族ラジカルであり、少なくとも1つは、少なくとも6個の炭素原子を含むヒドロカルビルまたは脂肪族ラジカルである。試薬Aの試薬Bに対するモル比は、一般に1:0.25〜1:4である。1:1〜1:3の比が好ましく、約1:2が、特に好ましい比である。ホウ酸化脂肪エポキシドは、2つの試薬を単に混合し、これらを80℃〜250℃、好ましくは100℃〜200℃の温度で、反応が起こるのに十分な時間の間加熱することにより、調製され得る。所望される場合、反応は、実質的に不活性な、通常液体有機希釈剤の存在下で引き起こされ得る。反応の間、水は、蒸留により放出され、除かれ得る。
【0047】
(iii)上の「試薬B」に対応する、非ホウ酸化脂肪エポキシドがまた、摩擦調節剤として有用である。
【0048】
ホウ酸化アミンは、一般に、米国特許第4,622,158号から公知である。ホウ酸化アミン摩擦調節剤((ix)ホウ酸化アルコキシル化脂肪アミンを含む)が、対応するアミンと共に、上に記載されるようにホウ素化合物の反応により便利に調製される。アミンは、単純な脂肪アミンまたは三級アミンを含むヒドロキシであり得る。ホウ酸化アミンは、上に記載されるようなホウ素反応物質をアミン反応物質に加え、生じる混合物を撹拌しながら50℃〜300℃で、好ましくは、100℃〜250℃で、または150℃〜230℃で加熱することにより、調製され得る。反応は、副生成物である水が反応混合物から放出されるのが止まり、反応の完了を示すまで続けられる。
【0049】
ホウ酸化アミンを調製する際に有用なアミンの中には、商標「ETHOMEEN」により公知であり、Akzo Nobelから入手可能である、市販のアルコキシル化脂肪族アミンがある。これらのETHOMEENTM物質の代表的な例は、ETHOMEENTM C/12(ビス[2−ヒドロキシエチル]−ココ−アミン);ETHOMEENTM
C/20(ポリオキシエチレン[10]ココアミン);ETHOMEENTM S/12(ビス[2−ヒドロキシエチル]ソイアミン);ETHOMEENTM T/12(ビス[2−ヒドロキシエチル]−タロウアミン);ETHOMEENTM T/15(ポリオキシエチレン−[5]タロウアミン);ETHOMEENTM 0/12(ビス[2−ヒドロキシエチル]オレイル−アミン);ETHOMEENTM 18/12(ビス[2−ヒドロキシエチル]オクダデシルアミン)ETHOMEENTM 18/25(ポリ−オキシエチル−エン[15]オクダデシルアミン)である。脂肪アミンおよびエトキシル化脂肪アミンはまた、米国特許第4,741,848号に記載される。
【0050】
(viii)アルコキシル化脂肪アミンおよび(v)脂肪アミン自体(オレイルアミンのような)は、一般に、本発明において摩擦調節剤として有用である。このようなアミンは、市販されている。
【0051】
グリセロールのホウ酸化脂肪酸および非ホウ酸化脂肪酸の両方は、摩擦調節剤として使用され得る。(vii)グリセロールのホウ酸化脂肪酸エステルは、グリセロールの脂肪酸エステルを反応の水を除きながらホウ酸でホウ酸化することにより調製される。好ましくは、各々のホウ素が反応混合物中に存在する1.5〜2.5のヒドロキシル基と反応するように、十分なホウ素が存在する。反応が、メタノール、ベンゼン、キシレン、トルエンまたは油状物のような任意の適切な有機溶媒の非存在下または存在下で、60℃〜135℃の範囲の温度で行われ得る。
【0052】
(vi)グリセロールの脂肪酸エステル自体が、当該分野で周知の種々の方法により調製され得る。グリセロールモノオレエートおよびグリセロールタロウエートのようなこれらのエステルの多くが、商業的規模で製造される。有用なエステルは、油状物に可溶であり、そして好ましくは、天然産物中に見出され、以下により詳細に記載されるような、C8〜C22の脂肪酸またはその混合物から調製される。グリセロールの脂肪酸モノエステルが好ましいが、モノエステルおよびジエステルの混合物が、使用され得る。例えば、市販のグリセロールモノオレエートは、45重量%〜55重量%のモノエステルおよび55重量%〜45重量%のジエステルの混合物を含み得る。
【0053】
脂肪酸は、上のグリセロールエステルを調製する際に使用され得る;これらはまた、その(x)金属塩、(ii)アミド、および(xii)イミダゾリンを調製する際に使用され得、これらの全てがまた、摩擦調節剤としても使用され得る。好ましい脂肪酸は、6〜24の炭素原子、好ましくは8〜18の炭素原子を含むものである。この酸は、分輝枝または直鎖、飽和または不飽和であり得る。適切な酸としては、2−エチルヘキサン酸、デカン酸、オレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、ラウリン酸およびリノレン酸ならびに天然産物、獣脂、パーム油、オリーブ油、ピーナッツ油、コーン油、および牛脚油由来の酸が挙げられる。特に好ましい酸は、オレイン酸である。好ましい金属塩としては、亜鉛塩およびカルシウム塩が挙げられる。例は、一般式Znオレエートにより表され得るオーバーベース化(overbased)カルシウム塩および塩基性オレイン酸−亜鉛塩複合体である。好ましいアミドは、アンモニアまたはジエチルアミンおよびジエタノールアミンのような一級アミンもしくは二級アミンの縮合により調製されるものである。脂肪イミダゾリンは、酸のジアミンまたはポリエチレンポリアミンのようなポリアミンとの環式縮合産物である。イミダゾリンは、一般に、以下の構造:
【0054】
【化7】

により表される。
【0055】
ここでRは、アルキル基であり、R’は、水素またはヒドロカルビル基もしくは置換ヒドロカルビル基(−(CHCHNH)−基を含む)である。好ましい実施形態において、摩擦調節剤は、C8〜C24の脂肪酸のポリアルキレンポリアミンとの縮合産物であり、特に、イソステアリン酸とテトラエチレンペンタアミンとの産物である。カルボン酸およびポリアルキレンアミン(xiii)との縮合産物は、一般に、イミダゾリンまたはアミドであり得る。
【0056】
硫化オレフィン(xi)は、摩擦改変体として使用される周知の商業的物質である。特に好ましい硫化オレフィンは、米国特許第4,957,651号および同第4,959,168号の詳細な教示に従って調製されるものである。これらに記載されるのは、以下からなる群から選択される2以上の反応物の共に硫化された混合物である:(1)ポリ水酸基アルコールの少なくとも1つの脂肪酸エステル、(2)少なくとも1つの脂肪酸、(3)少なくとも1つのオレフィン、および(4)1水酸基アルコールの少なくとも1つの脂肪酸エステル。
【0057】
反応物(3)、オレフィン構成要素は、少なくとも1つのオレフィンを含む。このオレフィンは、好ましくは、脂肪族オレフィンであり、これは普通4〜40個の炭素原子、好ましくは8〜36個の炭素原子を含む。末端オレフィン、またはα−オレフィン、特に12〜20個の炭素原子を有するものが、好ましい。これらのオレフィンの混合物が、市販されており、このような混合物は、本発明における使用のために企図される。
【0058】
2つ以上の反応物の硫化混合物は、適切な反応物の混合物を硫黄源と反応させることにより調製される。硫化されるべき混合物は、反応物(1)の10〜90重量部または反応物(2)の0.1〜15重量部または反応物(3)の10重量部〜90重量部、しばしば15重量部〜60重量部、よりしばしば25重量部〜35重量部、または反応物(4)の10重量部〜90重量部を含み得る。本発明において、この混合物は、反応物(3)ならびに反応物(1)、(2)および(4)として同定される反応物の群の少なくとも1つの他のメンバーを含む。一般的な硫化反応は、撹拌しながら高められた温度で、そして必要に応じて不活性雰囲気および不活性溶媒の存在下で引き起こされる。本発明のプロセスにおいて有用な硫化剤は、元素の硫黄(これは、好ましい)を、硫化水素、硫黄ハライドプラス硫化ナトリウム、および硫化水素および硫黄または二酸化硫黄の混合物が挙げられる。代表的には、しばしば0.5モル〜3モルの硫黄が、オレフィン結合のモル当たりに使用される。
【0059】
アルキルサリチレートの金属塩(xiv)は、長鎖(例えば、C12〜C16)アルキル置換サリチル酸のカルシウム塩および他の塩を含む。
【0060】
アルキルリン酸のアミン塩(xv)は、以下に記載されるようなアミンを有するリン酸のオレイルエステルおよび他の長鎖エステルの塩を含む。この点で有用なアミンは、商標PrimeneTMの下で売られる三級脂肪族一級アミンである。補足の摩擦調節剤が、構成要素(a)に加えて使用され得る。補足の摩擦調節剤の量は、一般に潤滑組成物の0.1重量%〜1.5重量%、好ましくは0.2%〜1.0%または0.25%〜0.75%である。
【0061】
本発明の組成物はまた、界面活性剤を含み得る。本明細書中で使用される界面活性剤は、有機酸の金属塩である。界面活性剤の有機酸部分は、スルホネート、カルボキシレート、フェネイト、サリチレートである。界面活性剤の金属部分は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属である。好ましい金属は、ナトリウム、カルシウム、カリウム、およびマグネシウムである。代表的に、界面活性剤はオーバーベース化されており、中性の金属塩を形成するのに必要とされるのを超える化学量論的に過剰な金属が存在することを意味する。
【0062】
好ましいオーバーベース化の有機塩は、実質的に親油性の特性を有し、有機物質から形成されるスルホネート塩である。有機スルホネートは、潤滑剤分野および界面活性剤分野で周知の物質である。スルホネート化合物は、平均10〜40個の炭素原子、好ましくは12〜36個の炭素原子、そして好ましくは14〜32個の炭素原子を含むべきである。同様に、フェネイト、サリチレート、およびカルボキシレートは、実質的に親油性の特性を有する。
【0063】
本発明が、炭素原子が芳香族であるかまたはパラフィンの形態のいずれかであることを可能にする一方、アルキル化芳香族が利用されることが、好ましい。ナフタレンに基づく物質が利用され得る一方、最適な芳香族は、ベンゼン部分である。
【0064】
従って、最も好ましい組成物は、オーバーベース化されたモノスルホン化アルキル化ベンゼンであり、好ましくはモノアルキル化ベンゼンである。代表的に、アルキルベンゼンフラクションは、蒸留ボトムソース(still bottom source)から得られ、そしてモノアルキル化またはジアルキル化されている。本発明において、モノアルキル化芳香族化合物は、全体の特性においてジアルキル化芳香族化合物より優れていると考えられる。
【0065】
モノアルキル化芳香族化合物(ベンゼン)の混合物が、本発明においてモノアルキル化塩(ベンゼンスルホネート)を得るために使用されることが、所望される。その組成物の実質的部分がアルキル基の源としてプロピレンポリマーを含む混合物が、塩の溶解性を補助する。一官能基性(例えば、モノ−スルホン化)物質は、分子の架橋を避け、潤滑剤由来の塩の沈殿はより少なくなる。
【0066】
塩が「オーバーベース化される」ことが好ましい。オーバーベース化されることにより、塩のアニオンを中性化するのに必要とされる化学量論量を超える、化学量論的に過剰な金属が存在することを、意味する。オーバーベース化からの過剰な金属は、潤滑剤を構築し得る酸を中性化する効果を有する。第2の利点は、オーバーベース化された塩が、動的摩擦係数を増加することである。代表的に、過剰な金属が、当量の基準で30:1までの比で、好ましくは5:1〜18:1の比で、アニオンを中性化するのに必要な金属を超える、過剰な金属が存在している。
【0067】
この組成物において使用されるオーバーベース化した塩の量は、代表的に、油状物なしの基準で、0.025重量%〜3重量%、好ましくは、0.1重量%〜1.0重量%である。オーバーベース化した塩は、通常、油状物なしの基準で、10〜600のTBN範囲で約50%油状物中で作製される。ホウ酸化および非ホウ酸化のオーバーベース化された界面活性剤が、米国特許第5,403,501号および同第4,792,410号において記載され、これらは、本明細書中で本明細書に関連する開示について参考として援用される。
【0068】
本発明の組成物はまた、少なくとも1つのリンの酸、リンの酸の塩、リンの酸のエステルまたはその誘導体を含み得、これらは、0.002〜1.0重量%の量で硫黄含有アナログを含む。リンの酸、リンの酸の塩、リンの酸のエステルまたはその誘導体は、リン酸、亜リン酸、亜リン酸エステルまたはその塩、ホスファイト酸、リン含有アミド、リン含有カルボン酸またはエステル、リン含有エーテル、およびその混合物を含む。
【0069】
1実施形態において、リンの酸、リンの酸のエステルまたは誘導体は、有機リン酸もしくは無機のリンの酸、リンの酸のエステル、リンの酸の塩またはその誘導体であり得る。このリンの酸としては、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、およびチオリン酸を含み、このチオリン酸は、ジチオリン酸およびモノチオリン酸、チオホスフィン酸、およびチオホスホン酸を含む。リン化合物の1つの群が、以下の式により表されるようなアルキルリン酸モノアルキル一級アミン塩である:
【0070】
【化8】

ここでR、R、Rは、アルキル基またはヒドロカルビル基であるかあるいはRおよびRの1つがHであり得る。この物質は、ジアルキルリン酸エステルおよびモノアルキルリン酸エステルの1:1の混合物であり得る。この型の化合物は、米国特許第5,354,484号に記載される。
【0071】
85%リン酸は、完全に調合された組成物への追加のために好ましい物質であり、組成物の重量に基づいて0.01〜0.3重量%、好ましくは0.03〜0.1重量%のレベルで含まれ得る。
【0072】
他の物質が、前述の必要とされる成分または詳述と不適合性でない限り、これらは、必要に応じて本発明の組成物中に含まれ得る。このような物質としては、抗酸化剤(すなわち、酸化インヒビター)(立体障害性フェノール抗酸化剤を含む)、二級芳香族アミン抗酸化剤、硫化フェノール抗酸化剤、油状物可溶性銅化合物、リン含有抗酸化剤、有機スルフィド、ジスルフィドおよびポリスルフィドを含む。他の任意の成分は、シールを柔軟に保つよう設計されるイソデシルスルホランまたはフタレートエステルのようなシール膨潤(seal swell)組成物を含む。アルキルナフタレン、ポリメタクリレート、酢酸ビニル/フマル酸または酢酸ビニル/マレイン酸のコポリマー、およびスチレン/マレイン酸のコポリマーのような流動点降下剤がまた、許容される。これらの任意の物質は、当業者に公知であり、一般に市販されており、公開された欧州特許出願761,805により詳細に記載されている。腐食インヒビター、色素、流動化剤、臭気マスキング剤、および抗発泡剤がまた、含まれ得る。
【0073】
上の成分は、完全に調合された潤滑剤の形態または潤滑油状物のより少量中の濃縮物の形態であり得る。これらの組成物が、濃縮物中に存在する場合、これらの濃度は、最終混合物中のより希釈な形態での濃度に正比例する。
【実施例】
【0074】
実施例1〜14は、以下の塩基組成物において調製される:
量(%)
100N ベース油状物 60.2
55N−60N ベース油状物 25.8
分散剤(b) 2.4
DMTD処理分散剤 0.6
アルキルジメルカプトチアジアゾール 0.03
モノおよびジアルキルジフェニルアミン 0.6
(アルキル基は、ブチル、ヘプチル、オクチル、ノニルを含み得る)
2−プロパノール、1−(tert−ドデシルチオ)− 0.5
アルキルスルホンシール膨潤剤 0.4
ホウ酸化C14〜C18エポキシド 0.2
成分(a)(以下に規定される通り) 2.5または
下に例示される別の量
ポリメタクリレート流動点降下剤 0.2
ポリメタクリレート粘度調節剤 4
亜リン酸水素ジアルキル抗磨耗剤 0.11
油状物希釈剤 0.26
85%リン酸 0.1
赤色素 0.025
ポリジメチルシロキサン、10%溶液 0.03
上記の組成物の試験を以下のように実施する:
静止摩擦は、μTすなわちSAE番号2試験手順からの安定化された静止係数で表される。試験手順は、日本自動車標準、JASO M−348−95、「自動車トランスミッション流体の摩擦特性についての試験手順」に記載されている。
【0075】
試験により以下の結果が与えられる:
【0076】
【化9】

μTが、「良い参照」と等しいか、それより良好であり、傾き×10が、「良い参照」ATFと比較して可能な限り高いことが好ましい。幾つかの実施形態において、μTは少なくとも0.150であり、平均の傾きは、正(例えば、0.033より大きいか、または少なくとも0.040)である。
【0077】
これらの結果は、JASO LVFAスクリーン試験の傾きが、40時間、正を維持しながら、分散剤(b)と組み合わせた摩擦調節剤(a)が、高いレベルの静止摩擦μTを提供することを示す。これらの結果は、これらの特性を呈する参照油と等価である。
【0078】
(実施例15)
潤滑剤処方物は、以下の成分を合わせることによって調製される(%は重量%である):
0.30% イソステアリン酸およびTHAMの製品(2:1モル比)
0.375% ポリウレタン置換コハク酸無水物およびジエタノールアミン(33%の希釈油を含む)からの分散剤
0.20% ポリウレタン置換コハク酸無水物
1.0% ジアルキル水素ホスファイト
0.5% ホウ酸エステル
1.15% 亜鉛ジアルキルジチオホスフェート(11%の希釈油を含む)
0.2% アルキルホスフェートのアミン塩
3.0% オーバーベースの硫酸カルシウム界面活性剤(52%の希釈油を含む)
200ppm 消泡剤
残り:ベースの油処方物(粘度調節剤を含む)および追加の希釈油
実施例15の処方物をSAE番号2摩擦試験に供し、0.108〜0.109の静止摩擦係数を有することが見出される。1200r.p.m.(μ1200)および0r.p.m.(μ0)での摩擦係数を測定し、μ0/μ1200の値が、1.025であると決定する。それにより、この処方物は、トラクター油圧流体として使用するための良好な摩擦性能を呈する。
【0079】
(実施例16)
エンジン油潤滑剤として使用するのに適切な潤滑剤処方物は、以下の成分を合わせることによって調製される(%は重量%である):
0.2% イソステアリン酸およびTHAMの製品(2:1モル比)
5.1% スクシニミド分散剤(55%の希釈油を含む)
1.53% オーバーベースのアルキルベンゼンスルホン酸カルシウム界面活性剤、TBN 300−400(42%の希釈油を含む)
0.20% 立体障害性フェノールエステル抗酸化剤
0.70% アミン抗酸化剤
0.98% 亜鉛ジアルキルジチオホスフェート(9%の油を含む)
0.1% 硫黄混合オレフィン(5%の油を含む)
90ppm 市販の消泡製品
残り:ベースの油処方物(粘度調節剤を含む)および追加の希釈油
(実施例17および18)
自動車トランスミッション潤滑剤として使用するのに適切な以下の処方物が、調製される(量は、重量部):
【0080】
【化10】

実施例17および18の処方物は、耐振動についてのMerconV(登録商標)低速試験の要求を満たす。MerconV(登録商標)低速試験は、Ford Motor Company自動車のための自動車トランスミッション流体についての受容可能な耐振動要求を規定する。これらの処方物は、摩擦調節剤成分が、アルキルベンゼンスルホン酸カルシウム界面活性剤によって寄与されるように、非常に高い灰分(実施例17)から非常に低い灰分(実施例18)を有する処方物において有効であることを示す。
【0081】
本明細書中で使用される場合、用語「ヒドロカルビル置換基」または「ヒドロカルビル基」は、その通常の意味で使用され、当業者に周知である。特に、これは、分子の残りの部分に直接結合し炭素原子を有し、かつ優勢的に炭化水素の特性を有する基をいう。ヒドロカルビル基の例としては、以下が挙げられる:
炭化水素置換基、すなわち、脂肪族(例えば、アルキルまたはアルケニル)、脂環式(例えば、シクロアルキル、シクロアルケニル)置換基、ならびに芳香族置換芳香族置換基、脂肪族置換芳香族置換基および脂環式置換芳香族置換基、ならびに環式置換基(ここで、この環は、その分子の別の部分で完了する(例えば、2つの置換基が一緒になって環を形成する));
置換された炭化水素置換基、すなわち、非炭化水素基を含む置換基であり、この非炭化水素基は、本発明の文脈において、優勢的に炭化水素置換基を変化させない(例えば、ハロ(特に、クロロおよびフルオロ)、ヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソ、およびスルホキシ);
ヘテロ置換基、すなわち、優勢的に炭化水素の特性を有しながら、本発明の文脈において、環またはそうでなければ炭素原子から構成される鎖中に炭素以外のものを含む置換基。ヘテロ原子としては、硫黄、酸素、窒素が挙げられ、ピリジル、フリル、チエニルおよびイミダゾリルのような置換基が包含される。一般に、2以下の、好ましくは、1以下の非炭化水素置換基が、ヒドロカルビル基中の10個の炭素原子ごとに存在し;代表的に、ヒドロカルビル基中に非炭化水素置換基は存在しない。
【0082】
上記の物質の幾つかは、最終処方物において相互作用し得、その結果、最終処方物の成分は、最初に加えられる成分とは異なることが公知である。例えば、(例えば、界面活性剤の)金属イオンは、他の分子の他の酸性部位に移動し得る。それによって形成される生成物は、本発明の組成物をその意図される用途に使用する際に形成される生成物を含み、簡単には説明できないかもしれない。それにもかかわらず、全てのこのような修飾および反応生成物は、本発明の範囲に含まれる;本発明は、上記の成分を混合することによって調製される組成物を包含する。
【0083】
上で参照された文書の各々は、本明細書中で参考として援用される。実施例またはそうでなければ明示的に示される場合を除いて、物質の量、反応条件、分子量、炭素原子の数などを特定する、本明細書における全ての数量は、語「約」によって修飾されると理解されるべきである。他に示されない限り、本明細書中で参照される各化学物質または組成物は、異性体、副生成物、誘導体を含み得る市販等級の物質、および市販等級に通常存在すると理解される他のこのような物質であると解釈されるべきである。しかし、各々の化学成分の量は、他に示されない限り、市販物質中に従来的に存在し得る任意の溶媒または希釈油を除いて存在する。本明細書中に示される上限および下限の量、範囲、および比率の限界は、独立して合わせられ得る。本明細書中で使用される場合、表現「から本質的になる」は、考慮される組成物の基礎および新規な特性に実質的に影響を与えない物質の包含を可能にする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【公開番号】特開2010−159429(P2010−159429A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96480(P2010−96480)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【分割の表示】特願2004−521805(P2004−521805)の分割
【原出願日】平成15年7月11日(2003.7.11)
【出願人】(591131338)ザ ルブリゾル コーポレイション (203)
【氏名又は名称原語表記】THE LUBRIZOL CORPORATION
【住所又は居所原語表記】29400 Lakeland Boulevard, Wickliffe, Ohio 44092, United States of America
【Fターム(参考)】