説明

トランス

【課題】簡単な構造変更によって、第1導体と第2導体との間の容量結合を減少させることが可能なトランスを提供する。
【解決手段】絶縁材からなる基材6をはさんで、何れもループ状のパターン部11Aを有する第1導体27Aと、パターン部11Bを有する第2導体27Bを上下にそれぞれ形成したコイル基板体24と、コイル基板体24の上下からはさみ込むように配置され、第1導体27Aのパターン部11Aおよび第2導体27Bのパターン部11Bを磁気的に結合させるコア1,2と、からなるトランスにおいて、前記第1導体27Aのパターン部11Aと、第2導体27Bのパターン部11Bとを、異なる径に形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モジュール型電源などにおいて、特にその一部がコイル基板体としてモジュール型電源に組み込まれ、こうしたコイル基板体とコアとにより構成される薄型構造のトランスに関する。
【背景技術】
【0002】
最近の電源用トランスにおいては、薄型化、小型化が求められている。このようなトランスの薄型化、小型化のために、ボビンにワイヤーを巻きつけて構成された巻線型のコイルに代わり、基材をはさんで上下に導体を形成した薄型のコイル基板体が用いられてきている。コイル基板体は、コイルパターン化されたループ状のパターン部を有する第1導体および第2導体を、必要な厚みの絶縁材なる基材の上下両面にそれぞれ形成している。そして、必要に応じてコイル基板体が積層され、第1導体の端末間および第2導体の端末間をそれぞれ接続することで、トランスの一次巻線と二次巻線になる2つの独立したコイルが形成され、薄型化、小型化される(特許文献1参照)。
【0003】
図4は、従来の薄型トランスにおける組み立て分解斜視図の1例である。同図に示すように、薄型トランスは、一乃至複数のコイル基板体4と、これらのコイル基板体4を上下両側からはさんでいるコア1,2とで構成されている。トランス用のコア1,2の中央部には何れも中央脚部3があり、以下で説明するコイル基板体4の中心に設けた挿入孔6に挿入されるようになっている。
【0004】
各コイル基板体4については、必要な厚みdの絶縁材からなる基材5の上下両面に導体7を形成してコイルパターン化しており、中心にはコア1,2の中央脚部3を挿通するための挿入孔6が形成されている。基材5の両面には、銅箔などの導体7がパターン形成される。
【0005】
次に、図5A〜図5Cを参照しながら、コイル基板体4の細部について説明する。ここで、図5Aは図4におけるコイル基板体4の上面(一次巻線)側からみた平面図であり、図5Bは図5Aのコイル基板体4のa−a’断面図であり、図5Cは複数のコイル基板体4を積層する場合の組み立て断面図である。
【0006】
前記導体7は、基材5の一側面である上面に、トランスの一次巻線(入力)としての第1導体7Aを形成し、基材5の他側面である下面に、トランスの二次巻線(出力)としての第2導体7Bが形成される。第1導体7Aは、ループ状のパターン部31Aと、このパターン部31Aの一端と他端からそれぞれ外方に延びる接続部32A,33Aとにより構成され、接続部32A,33Aの先端には、何れも金属体からなるスルーホール34が設けられる。同様に、第2導体7Bは、ループ状のパターン部31Bと、このパターン部31Bの一端と他端からそれぞれ外方に延びる接続部32B,33Bとにより構成され、接続部32B,33Bの先端には、何れも金属体からなるスルーホール34が設けられる。第1導体7Aのパターン部31Aと第2導体7Bのパターン部31Bは、共通するコア1,2で磁気的に結合するために、何れも基材5に設けられた挿入孔6の周囲に各1ターンのコイルとして形成されている。
【0007】
図5Cに示すように、平板状のコイル基板体4は、パターン部31A,31Bのターン数を増やしたり、あるいは導体7の電流容量を増やすために、好ましくは複数枚を上下に積層して設けられる。この場合、例えば一つのコイル基板体4において、第1導体7Aの一方の接続部32Aに設けたスルーホール34と、別なコイル基板体4において、第1導体7Aの他方の接続部33Aに設けたスルーホール34とを半田で接続すれば、2ターンのコイルを形成することができる。また、一つのコイル基板体4において、第1導体7Aの一方の接続部32Aに設けたスルーホール34と、別なコイル基板体4において、第1導体7Aの一方の接続部32Aに設けたスルーホール34とを半田で接続すると共に、一つのコイル基板体4において、第1導体7Aの他方の接続部33Aに設けたスルーホール34と、別なコイル基板体4において、第1導体7Aの他方の接続部33Aに設けたスルーホール34とを半田で接続すれば、ターン数は1のままで、第1導体7Aとしての電流容量を2倍に増やすことができる。
【0008】
さらに、ループ状に形成されたパターン部31A,31Bは、互いに同じ大きさのループ径L3を有し、絶縁材である基材5をはさんで上下重なる位置、すなわち図5Bに示すコイル基板体4の断面からみて、基材5に対して対向する位置に構成される。なお、第1導体7Aの接続部32A,33Aと、第2導体7Bの接続部32B,33Bは、互いが干渉し合わないように、基材5の一側と他側にそれぞれ分かれて配置される。
【特許文献1】特開平11−307367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来例のトランスにおいて、トランスの一次巻線をなす第1導体7Aのパターン部31Aと、二次巻線をなす第2導体7Bのパターン部31Bが交互に積層され、しかもこれらのパターン部31A,31Bが、コイル基板体4の断面からみて基材5をはさんで上下に重なる位置にあるため、対向するパターン部31A,31Bどうしの面積が大きく、第1導体7Aと第2導体7Bとの間に大きな静電容量が生じていた。
【0010】
こうなると、トランスの一次巻線と二次巻線との間の容量結合が増加し、モジュール型電源として、トランスを介して二次側に出力ノイズなどが伝達されてしまう。このように、トランスの特性が悪化することにより、トランス単体のみならず、トランスを組み込んだ例えばモジュール型電源などにも悪影響を及ぼす懸念を生じていた。
【0011】
そこで本発明は、簡単な構造変更によって、第1導体と第2導体との間の容量結合を減少させることが可能なトランスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的は、絶縁材からなる基材をはさんで、何れもループ状のパターン部を有する第1導体と第2導体を上下にそれぞれ形成したコイル基板体と、前記コイル基板体の上下からはさみ込むように配置され、前記第1導体および前記第2導体の各パターン部を磁気的に結合させるコアと、からなるトランスにおいて、前記第1導体のパターン部と、前記第2導体のパターン部を、異なる径に形成することによって解決される。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明では、基材をはさんで上下にそれぞれ配置される第1導体と第2導体に関し、ループ状に形成した第1導体のパターン部と、同じくループ状に形成した第2導体のパターン部の径を、意図的に異なるように配置する。こうすると、第1導体のパターン部と第2導体のパターン部との対向面積が小さくなり、第1導体のパターン部と第2導体のパターン部との間の静電容量は小さくなる。このように、何れもループ状をなす第1導体のパターン部と第2導体のパターン部の径を異ならせるだけの簡単な構造変更によって、第1導体と第2導体との間の容量結合を減少させることが可能になり、例えばこうしたトランスをモジュール電源などに組み込んだ場合に、トランスの一次側から二次側への出力ノイズを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら、本発明における薄型トランスの好ましい実施例を説明する。なお、従来例と共通する箇所には共通する符号を付し、その共通する部分の説明は重複を避けるため極力省略する。
【実施例】
【0015】
図1A〜図1Cは、モジュール電源などに組み込まれる薄型トランスの好ましい実施形態の一つを示すもので、図1Aは、本発明におけるコイル基板体24の上面(一次巻線)側からみた平面図であり、図1Bは、図1Aのコイル基板体24のb−b’断面図であり、図1Cは、複数のコイル基板体24を積層する場合の組み立て断面図を示している。
【0016】
これらの各図に示すように、本実施例における薄型トランスは、閉磁路を形成する2つのE型コア1,2と、一乃至複数のコイル基板体24とにより構成され、コイル基板体24の上下両側からはさみ込むようにE型のコア1,2が配置される。トランス用のコア1,2は鉄あるいはフェライトなどの磁性部材で構成され、その中央部には何れも中央脚部3があり、コイル基板体24の中心に設けた挿入孔6に挿入されるようになっている。
【0017】
前記コイル基板体24は、一様な厚み長dの樹脂などの絶縁材からなる基材5の上下両面に導体27を形成してコイルパターン化しており、その中心にはコア1,2の中央脚部3を挿通するための挿入孔6が形成される。基材5の両面には、銅箔などの導体27がパターン形成される。
【0018】
前記導体27は、基材5の一側面である上面に、トランスの一次巻線(入力)としての第1導体27Aを形成し、基材5の他側面である下面に、トランスの二次巻線(出力)としての第2導体27Bが形成される。第1導体27Aは、ループ状のパターン部11Aと、このパターン部11Aの一端と他端からそれぞれ外方に延びる接続部12A,13Aとにより構成され、接続部12A,13Aの先端には、何れも金属体からなるスルーホール14が設けられる。同様に、第2導体27Bは、ループ状のパターン部11Bと、このパターン部11Bの一端と他端からそれぞれ外方に延びる接続部12B,13Bとにより構成され、接続部12B,13Bの先端には、何れも金属体からなるスルーホール14が設けられる。第1導体27Aのパターン部11Aと第2導体27Bのパターン部11Bは、共通するコア1,2で磁気的に結合するために、何れも基材5に設けられた挿入孔6の周囲に円ループを描くようにパターン化されており、それぞれ1ターンのコイルとして形成される。
【0019】
図1Cに示すように、平板状のコイル基板体24は、パターン部11A,11Bのターン数を増やしたり、あるいは導体27の電流容量を増やすために、好ましくは複数枚を上下に積層して設けられる。この場合、例えば一つのコイル基板体24において、第1導体27Aの一方の接続部12Aに設けたスルーホール14と、別なコイル基板体24において、第1導体27Aの他方の接続部13Aに設けたスルーホール14とを半田で接続すれば、2ターンのコイルを形成することができる。また、一つのコイル基板体24において、第1導体27Aの一方の接続部12Aに設けたスルーホール14と、別なコイル基板体24において、第1導体27Aの一方の接続部32Aに設けたスルーホール14とを半田で接続すると共に、一つのコイル基板体24において、第1導体27Aの他方の接続部13Aに設けたスルーホール14と、別なコイル基板体24において、第1導体27Aの他方の接続部13Aに設けたスルーホール14とを半田で接続すれば、ターン数は1のままで、第1導体27Aとしての電流容量を2倍に増やすことができる。複数のコイル基板体24間でどのようにパターン部11A,11Bどうしを接続するのかは、トランスを組み込むモジュール電源の仕様などに依存し、特に限定はしない。
【0020】
本実施例におけるコイル基板体24の第1導体27Aと第2導体27Bは、絶縁材(基材)6をはさんで上下に位置する関係にあり、第1導体27Aの接続部12A,13Aと、第2導体27Bの接続部12B,13Bは、互いが干渉し合わないように、基材5の一側と他側にそれぞれ分かれて配置される。したがって、コア1,2の中央脚部3が挿入される挿入孔6の位置を合わせるようにして、複数枚のコイル基板体24を重ね合わせ、各コイル基板体24に設けたスルーホール14を半田付け接続することで、コイル基板体24間で第1導体27Aどうしが電気的に繋がると共に、第2導体27Aどうしが電気的に繋がり、それぞれがトランスの一次巻線と二次巻線になる。
【0021】
さらに本実施例で注目すべきことは、コア1,2の中央脚部3が挿入される挿入孔14の中心位置Zに対し、コイル基板体24に設けた第1導体27Aのパターン部11Aと、第2導体27Bのパターン部11Bについて、パターン部11Aよりもパターン部11Bのほうが、挿入孔6の中心位置Zに近くなるように配置されている。ここで、図1Bに示すように、パターン部11Aのループ径をL1とし、パターン部11Bのループ径をL2とすると、パターン部11Bのループ径L2は、パターン部11Aのループ径L1よりも小さくしている(L1>L2)。さらに好ましくは、同じコア1,2の中央脚部3を周回するパターン部11Aとパターン部11Bが上下に重なり合わないように、パターン部11Aよりもパターン部11Bを中心軸Zに向かって一定量ずらして配置する。こうすれば、第1導体27Aのパターン部11Aと第2導体27Bのパターン部11Bの対向面積を、実質的に0にすることができる。ここで、中心軸Zに向けてのパターン部11Bの配置には限界があり、コイル基板体24の挿入孔6の周縁に接しないようにする必要がある。ただし、コア1,2の中央脚部3を通過する磁束に問題が起きないように挿入孔6を小さくすることで、パターン部11Bの配置の幅を広げることができる。
【0022】
ここで、図2および図3に示すように、静電容量について、従来例における第1導体7Aのパターン部31Aと第2導体7Bのパターン部31Bとの間の静電容量をCとし、本実施例における第1導体27Aのパターン部11Aと第2導体27Bのパターン部11Bとの間の静電容量をC’とする。本実施例では、パターン部11A,11B間の対向面積を小さくするために、当該パターン部11A,11Bが所定の角度θを有して斜めに配置される。したがって、導体の配置から比較すると、従来の対向するパターン部31A,31B間の距離をdとし、対向する面積をSとすると、本実施例におけるパターン部11A,11B間の実質的な距離d’は、距離dよりも大きくなり、パターン部11A,11B間の対向する面積S’は、面積Sよりも小さくなる。よって、本実施例における静電容量C’は従来例の静電容量Cよりも小さく、C’<Cであることが言える。
【0023】
このことにより、絶縁材である基材6の上下に導体27を形成した場合のパターン部11A,11B間の静電容量を小さくすることができ、一次巻線と二次巻線間の電磁結合度の低下を防ぎ、ノイズが伝達されにくくし、電力消費を減少させることが可能となる。
【0024】
以上により本実施例においては、絶縁材からなる基材6をはさんで、何れもループ状のパターン部11Aを有する第1導体27Aと、パターン部11Bを有する第2導体27Bを上下にそれぞれ形成したコイル基板体24と、コイル基板体24の上下からはさみ込むように配置され、第1導体27Aのパターン部11Aおよび第2導体27Bのパターン部11Bを磁気的に結合させるコア1,2と、からなるトランスにおいて、前記第1導体27Aのパターン部11Aと、第2導体27Bのパターン部11Bとを、異なる径に形成している。
【0025】
こうすると、基材6をはさんで上下にそれぞれ配置される第1導体27Aと第2導体27Bに関し、ループ状に形成した第1導体27Aのパターン部11Aと、同じくループ状に形成した第2導体27Bのパターン部11Bの径を、意図的に異なるように配置する。こうすると、第1導体27Aのパターン部11Aと第2導体27Bのパターン部11Bとの対向面積が小さくなり、第1導体27Aのパターン部11Aと第2導体27Bのパターン部11Bとの間の静電容量は小さくなる。このように、何れもループ状をなす第1導体27Aのパターン部11Aと第2導体27Bのパターン部11Bの径を異ならせるだけの簡単な構造変更によって、第1導体27Aと第2導体27Bとの間の容量結合を減少させることが可能になり、例えばこうしたトランスをモジュール電源などに組み込んだ場合に、トランスの一次側から二次側への出力ノイズを低減することができる。
【0026】
なお、本実施例は上記各実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。例えば、上記実施例ではパターン部11Aよりもパターン部11Bの径を小さくしていたが、逆にパターン部11Bよりもパターン部11Aの径を小さくしてもよい。また、コア1,2はEE型やEI型に限らず他の構成にしてもよく、中心脚部3は例えば円筒状であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1A】本発明における好ましい実施形態を示すコイル基板体の平面図である。
【図1B】同上、図1Aのコイル基板体のb−b’断面図である。
【図1C】図1Aにおける複数のコイル基板体を積層する場合の組み立て断面図である。
【図2】従来例におけるパターン部間の模式的な構成を示す説明図である。
【図3】本実施例におけるパターン部間の模式的な構成を示す説明図である。
【図4】従来例のトランスを示す組み立て分解斜視図である。
【図5A】図4におけるコイル基板体の平面図である。
【図5B】図5Aのコイル基板体のa−a’断面図である。
【図5C】図5Bにおける複数のコイル基板体を積層する場合の組み立て断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1,2 コア
6 基材
11A パターン部
11B パターン部
24 コイル基板体
27A 第1導体
27B 第2導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁材からなる基材をはさんで、何れもループ状のパターン部を有する第1導体と第2導体を上下にそれぞれ形成したコイル基板体と、
前記コイル基板体の上下からはさみ込むように配置され、前記第1導体および前記第2導体の各パターン部を磁気的に結合させるコアと、からなるトランスにおいて、
前記第1導体のパターン部と、前記第2導体のパターン部を、異なる径に形成したことを特徴とするトランス。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【公開番号】特開2009−27045(P2009−27045A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−190214(P2007−190214)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(390013723)TDKラムダ株式会社 (272)
【Fターム(参考)】