説明

トリアゾール変性ポリマーを用いた燃料電池電極およびそれを含む膜電極複合体

【課題】無加湿かつ高温で運転可能な燃料電池電極の触媒層及びこのような燃料電池電極を含む膜電極複合体を提供する。
【解決手段】電解質膜10に対向して形成される燃料電極20の触媒層24は、白金、白金合金、炭素または電気伝導性材料の組み合わせからなる触媒、触媒層内のプロトン移動に作用するリン酸および少なくとも一つのトリアゾール変性ポリマーからなるバインダー、さらにはオルガノシロキサン架橋剤を有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、プロトン電解質膜燃料電池(PEMFC)における膜電極複合体に用いる電極に関するものであり、特に、高温で(例えば、120℃以上)で動作するトリアゾールポリマーおよびリン酸を含む触媒層を有する電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
新しいエネルギー源として、電気化学反応を用いて電気を発生する燃料電池が魅力的なエネルギー代替として注目されている。燃料電池は、低公害、高燃料エネルギー、高変換効率、低ノイズおよび低振動である。プロトン電解質膜燃料電池(PEMFCs)は多くの産業、例えば、自動車産業などで、特に有望な燃料電池の様式として期待されており、PEMFCの新規および改良された材料および構成の開発が進められている。
【0003】
特に、120℃以上での高温で、低湿度または無加湿で運転可能なPEMFCsは、多くの利点、例えば、アノードの多量の一酸化炭素に対する被毒耐性向上、無加湿での運転、高温(例えば120℃)とすることによる電極反応速度の向上、カソードにおけるフラッディングの防止、温度管理の容易等を提供することができる。PEMFCsの通常の電極としては、主にナフィオンを用いた電極(例えば、製品ではE-TEK(登録商標)電極)が注目されているが、ナフィオンを用いた電極は、低温PEMFCs(例えば、100℃以下で運転)でしか使用できず、プロトン移動が外部または内部(例えば、自己加湿)湿度に依存している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したようなナフィオンを用いた電極での問題により、無加湿かつ高温で運転可能な代替ポリマーが検討されている。例えば、ポリベンゾイミダゾール(PBI)およびリン酸の混合物は、高温での運転が実現可能な組成物として知られている。PBIおよびリン酸の混合物は、ナフィオンを用いた電極において水が果たす役割(例えば、プロトン移動)を果たすため、加湿が不要となる。しかしながら、目的とするプロトン移動および伝導性とするために、PBI/リン酸混合物は、多量のリン酸(例えば、PBI繰り返しユニットに対して3.5〜7.5のリン酸)が必要となり、その結果、膜電極複合体の酸浸出および腐食を生じる。このようなことから、プロトン移動および導電性を最大化し、腐食を最小とすることができるように改良された燃料電池電極の触媒層用の組成物が強く求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(概要)
本発明は、高温かつ無加湿で運転可能な燃料電池電極の触媒層、およびこのような燃料電池電極を含む膜電極複合体に関するものである。一つの態様として、燃料電池電極を提供する。燃料電池電極は触媒層およびガス拡散層を含むものである。触媒層は、少なくとも一つの触媒、リン酸、および、少なくとも一つのトリアゾール変性ポリマーを含むバインダーを有するものである。
【0006】
他の態様として、触媒層の形成方法を提供する。この方法は、トリアゾール変性ポリマーを準備し、トリアゾール変性ポリマーを触媒と混合し、そしてリン酸をトリアゾール変性ポリマーおよび触媒の混合物に添加し、膜電極複合体の触媒層に用いられる触媒インクを形成する。
【0007】
さらに他の態様として、小区画構造を有する触媒層を提供する。触媒層は、炭素担体を含む複数の触媒、リン酸および上記複数の触媒表面上に吸着したオルガノシロキサン架橋剤を含む触媒を有するものである。吸着はバインダーに含まれるオルガノシロキサン架橋剤と複数の触媒の炭素担体との架橋をリン酸が触媒することによりなされる。バインダーの複数の触媒への吸着は小区画構造を有する触媒層を形成する。
【0008】
本発明により提供されるこれらおよび他の特徴は、図面と併せて以下の詳細な説明を参照することにより、より詳細に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
以下の本発明についての詳細な説明は、添付の図面を参照することでより理解できる。
【0010】
【図1】図1は、本発明の膜電極複合体の構成の一例を示す概略図である。
【図2】図2は、本発明の燃料電池電極の触媒層における反応メカニズムを示す概略図である。
【図3】図3(a)〜図3(e)は、本発明の燃料電池電極の製造方法の一例を示す概略図である。
【図4】図4(a)〜図4(c)は本発明の膜電極複合体の製造方法の一例を示す概略図である。
【図5】図5(a)〜図5(c)は本発明における膜表面に触媒インクを塗工する方法の一例を示す概略図である。
【図6】図6は、ナフィオンを用いた電極と本発明のトリアゾール変性ポリマーを含む触媒層を有する電極とのMEA特性を比較したグラフである。
【図7】図7(a)は、本発明におけるドーパントとしてリン酸を添加することにより形成される触媒層の微小構造を示す概略図である。図7(b)は、本発明における触媒としてリン酸を添加することにより形成された触媒層の微小構造を示す概略図である。
【図8】図8(a)および(b)は、2μmおよび200nmの倍率の走査電子顕微鏡(SEM)画像であり、それぞれ、本発明におけるドーパントとしてリン酸を添加することにより形成された触媒層の微小構造の画像ある。
【図9】図9(a)および(b)は、2μmおよび200nmの倍率の走査電子顕微鏡(SEM)画像であり、それぞれ、本発明における触媒としてリン酸を添加することにより形成される触媒層の微小構造の画像ある。
【図10】図10は、本発明におけるリン酸をドープした触媒層を有する電極と、リン酸を触媒として作用させた触媒層を有する電極とのMEA特性を比較したグラフである。
【0011】
図面に記載されている実施態様は例示であり、クレームに定義される発明を限定するものではない。さらに図面の個々の特徴および発明は詳細な説明を参照することにより明確になり理解することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(詳細な説明)
本発明は、概して、プロトン電解質膜燃料電池(PEMFC)における膜電極複合体に関するものであり、特に、高温で(例えば、120℃以上)で動作することを可能とするトリアゾールポリマーバインダーを含む触媒層を有する膜電極複合体に関するものである。
【0013】
図1に示すように、膜電極複合体1は、電解質膜10、および上記電解質膜10上に対向するように形成される一対の燃料電池電極20(例えば、ガス拡散電極)を有することができる。既に知られているように、一対の電極20は膜電極複合体1のアノードおよびカソードである。それぞれの電極20(例えば、アノードまたはカソード)は触媒層24およびガス拡散層22を有するものである。図4(b)および4(c)に示すように、各電極20の触媒層24は電解質膜10表面に対向するように形成されている。図4(a)に示すように、電極膜10と同じ組成の電解質プライマー層10Aを、電極20と電解質膜10の密着性を向上するために電極上に形成することができる。
【0014】
触媒層24は、少なくとも一つの触媒、リン酸、およびバインダーを含むことができる。触媒としては、多くの適切な組成物、例えば、白金、白金合金、炭素または電気伝導性材料、およびそれらを組み合わせたものを含むことができる。一つの態様として、触媒は、白金および炭素の混合物、例えば、炭素担体上に20〜60重量%の白金を担持したもの含むことができる。また、他の態様として、白金を約0.2〜約4mg/cmの範囲内で添加することができる。白金触媒としては、ビーエーエスエフ燃料電池(BASF Fuel Cell)で製造されているE-TEK(登録商標)ブランドの白金等、商業的に入手できるものを使用することができ、炭素担体としてはカボット社(Cabot Corp)で製造されているカーボンブラック(VULCAN(登録商標)XC72)を用いることができる。また、他の触媒組成物(例えば、ロジウムまたはパラジウム)を含むことができる。
【0015】
さらに、触媒層は、リン酸を含むことができる。リン酸は、触媒層内のプロトン移動および伝導性を向上させるように作用することができる(後述するバインダーと同様に)。一つの態様としては、図2に示すように、リン酸を、触媒層の形成中に触媒として添加することができる。また、他の態様としては、リン酸を、触媒層の形成後にドーパントとして添加することができる。好ましい態様としては、リン酸を、約5mg/cm〜約100mg/cmの範囲内、約10mg/cm〜約20mg/cmの範囲内、または、当業者に良く知られた適切な量含有することができる。より詳細には、後述するように、リン酸を触媒として添加することにより、触媒層の形態および最終特性を改良することができる。なお、ここではリン酸の使用に注目しているが、他の酸または酸/塩基の組み合わせも、触媒として用いることができることを理解すべきである。
【0016】
本発明におけるバインダーとしては、電解質膜の表面に触媒が接触することを確実なものとすることができるように少なくとも一つのトリアゾール変性ポリマーを有するものとすることができる。ここで、「トリアゾール変性ポリマー」とは、トリアゾールが置換されたまたはグラフトされたポリマーを含むポリマー組成物を意味するものである。トリアゾール変性ポリマーは、様々な構成を含むことができる(例えば、ポリシロキサン)。ポリシロキサンは、特にフレキシブルな構造を有することにより、酸素透過性等の触媒層に対する多くの有益な効果を奏すると考えられている。トリアゾール変性ポリシロキサンの好適な例としては、下記に示すような、1,2,3−トリアゾールおよび1,2,4−トリアゾールを挙げることができる。
【0017】
【化1】

【0018】
1,2,3−トリアゾールおよび1,2,4−トリアゾールは、トリアゾール基間の分子内プロトン移動(グロットゥス機構(Grotthuss mechanism))により優れたプロトン伝導性を示し、燃料電池の運転条件下で十分な電気化学的安定性を示す。トリアゾールがプロトンを伝導するので、触媒層は、加湿が不要となり(例えば、触媒層が無水となる。)、その結果、水の沸点以上の温度で運転することができる。
【0019】
より好ましいバインダーとして、さらに、TEOS(テトラエチルオルトシリケート)または他のオルガノシロキサン架橋剤を含むことができる。さらに、触媒層は、PVDF(ポリビニルジフロリド)をさらなる接着因子として用いることができる。また、バインダーの他の構成(例えば、トリアゾール変性ポリマーおよびオルガノシロキサン架橋剤)が、PVDFが有する機能(すなわち、触媒層24を電解質膜10に接着させる機能)(例えば、図5(c))を有することにより、バインダーにPVDFを含まないものとすることもできる。さらに、バインダーは、溶媒(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、またはこれらの組み合わせ)を含むことができる。
【0020】
トリアゾール変性ポリマー(例えば、トリアゾールグラフトポリシロキサン)およびリン酸を用いる触媒層は、他の無水・高温の膜電極複合体(例えば、PBIを用いた無水高温膜電極複合体)よりも優れた特性を示す。例えば、PBIは、剛直な骨格とトリアゾールよりも高いガラス転移温度を有する熱可塑性ポリマーである。剛直な骨格を有することにより、PBI電極複合体はプロトン移動性が低いものとなる。また、高いガラス転移温度により、PBI電極複合体の酸素透過性が低いものとなる。PBI電極複合体では、高濃度のリン酸(例えば、PBI繰り返しユニット当り、3.5〜7.5のリン酸)によりこの低いプロトン移動性を補っている。一方、PBI電極複合体と比較すると、トリアゾールは、PBI組成物のベンズイミダゾールよりもpKaが低い強力な酸であり、このため、トリアゾールは、トリアゾール基間の分子内プロトン移動(グルットゥス機構)によるプロトン伝導の点で非常に効率的である。1,2,3−トリアゾールおよび1,2,4−トリアゾールのpKa値がそれぞれ1.2および2.19であるのに対して、ベンズイミダゾールはpKaが約5.6である。この低いpKa値により、トリアゾールはイミダゾールに比べて、優れたプロトン移動性を示すのである。このようなことより、本発明の触媒層では、所望の伝導性を有するものとした場合であっても、リン酸の含有量の少ないものとすることができる(トリアゾール当りリン酸を3.0)。低リン酸濃度であることにより、トリアゾール変性ポリマーは、膜電極複合体内における酸浸出および腐食を低減することができる。さらに、PBI電極複合体と異なり、トリアゾール変性ポリシロキサンは、柔軟なトリアゾール鎖および柔軟なポリシロキサン骨格を有するものである。また、トリアゾール変性ポリシロキサンは、熱可塑性ポリマーではないため、PBIと比較し低ガラス転移温度である。このような柔軟な骨格および低ガラス転移温度により、トリアゾール変性ポリシロキサンは、優れた酸素透過性を示し、触媒層の機能を向上させることができる。
【0021】
既に説明した図1における膜電極複合体1に含まれる燃料電池電極20のガス拡散層22としてはカーボンクロス、カーボンペーパーおよびそれらの組み合わせを含む微小孔層とすることができる。触媒層24と同様に、電解質膜10を、高温および無加湿の条件での運転を可能とするためにトリアゾール変性ポリシロキサンおよびリン酸を含むものとすることができる。さらに、電解質膜10はePTFE、TEOS等のオルガノシロキサン架橋剤、またはそれらの組み合わせを含むことができる。触媒層24および電解質膜10にポリシロキサンおよびオルガノシロキサン前駆体材料が含まれることにより、電極および膜の間の界面がケイ素―炭素の化学結合(Si−O)により強力に密着するものとすることができる。
【0022】
図2に示すように、触媒層(すなわち、ゾルからのその場重合(in situ重合)の製造方法を提供する。図に示すように、この製造方法では、有機溶媒(例えば、アルコール溶媒)に溶解したトリアゾール変性ポリマーを含むバインダー溶液(例えば、バインダーポリマーゾル)を用意するものとすることができる。バインダー溶液としては、メタノール/アルコール溶媒に溶解したオルガノシロキサン架橋剤およびトリアゾールグラフトポリシロキサンを有するものとすることができ、さらに極性有機溶媒に溶解したPVDFを含むものまたは含まないものとすることができる。それと同時に、リン酸を、図2に示すように触媒としてバインダー溶液に添加したり、その場重合により触媒層を形成した後にリン酸を触媒層にドープすることができる。
【0023】
さらに、触媒層の微小構造よび特性は加工ステップの順番に影響を受ける。例えば、触媒層をリン酸を添加する前に形成した場合(例えば、リン酸をドーパントとして用いた場合)、バインダー内のオルガノシロキサン架橋剤およびトリアゾール変性ポリマーのゾルゲル反応(すなわち、加水分解、縮合、および重縮合)が、少なくとも部分的に阻害される。これは、コロイド粒子および濃縮されたシリカ種が容易に架橋できないからである。ゾルゲル反応が部分的に阻害されることにより、触媒層の微小構造は図7(a)に示すような層形状となり、バインダー200は主として炭素担体100上の白金触媒110の周囲に存在することになる。なお、このような層構造は、図8(a)および(b)のSEM画像により確認することができる。
【0024】
一方、図2に示すように触媒層の形成中にリン酸が触媒として添加される場合、リン酸触媒はコロイド粒子および濃縮シリカ種が架橋することを促進し、この結果、加水分解、縮合および重縮合反応を補助する。その結果、バインダー110は触媒(例えば、炭素担体上の白金)中に分散され、これにより、図7(b)に示すように触媒層の微小構造は微小区画構造となる。触媒の添加により、バインダーは触媒粒子表面(例えば、白金/炭素)に吸着される。縮合、重縮合およびゲル化反応がリン酸触媒により促進され、その結果、コロイダルオルガノシリコン化合物バインダーおよび炭素塊との間の凝集力を生じ、図7(b)に示すような微小区画構造を形成する。このような微小区画構造は、図9(a)および(b)のSEM画像により確認することができる。図7(b)の微小構造は図7(a)の微小構造よりも、より大量輸送、高触媒利用性を示し、これにより高性能なものとすることができる。
【0025】
上述のように燃料電池電極20は触媒層24およびガス拡散層22を含むものとすることができる。燃料電池電極20は、触媒層またはインク24をガス拡散層22上に塗工することにより形成することができる。上述のように、触媒インク24は少なくとも一つの触媒、リン酸、および少なくとも一つのトリアゾール変性ポリマーを含むバインダーを含むものである。さらに、既に述べたように、微小孔ガス拡散層22はカーボンペーパーまたはカーボンクロスを含むものである。燃料電池電極20の形成には、図3(a)および(e)に示すように触媒インク24は少なくともガス拡散層22の表面に塗工される。上記インクの塗工は、キャスト、ブラッシング、スプレー、またはこれらを組み合わせた方法を用いることができる。インクを塗工する際には、まずガス拡散層22をホットプレート等の加熱装置を用いて約25℃〜約100℃に加熱することが好ましい。インクの塗工後、電極20を乾燥することができる(例えば、約60℃〜約130℃の範囲内の温度で数時間)。
【0026】
さらに、図3(a)〜3(e)に示すように、燃料電池電極20は型30を用いて形成することができる。この態様では、インク24を厚いポリテトラフロオロエチレンシート上の型30内にキャスティングすることにより塗工することができる。これにより、図3(b)に示すようにポリテトラフロオロエチレンシート上に上記インク24からなる層を形成することができる。ここで、シート状にキャスティングした後、インク24内の溶媒の一部を蒸発することが好ましい。図3(c)および(d)に示すように、ガス拡散層22はインク24の表面上に配置され、次いで、12〜24時間空気中で乾燥することができる。乾燥後、ポリテトラフルオロエチレンシート32および型30は除去され、図3(e)に示すように、電極20を形成することができる。
【0027】
電極20を形成した上で、電極20を電解質膜10と接着することにより膜電極複合体1を形成する。図4(a)に示す態様において、電解質膜10と同じ組成の電解質プライマー層10Aを燃料電池電極20の表面上にコートし、電解質層10Aを電解質膜10と加熱プレスするものとすることができる。または、図4(b)に示すように、図4(a)に示されるような中間電解質層10Aを用いない方法で、膜電極複合体1を形成することができる。具体的には、図4(b)に示すように、触媒層24を直接電解質膜10に加熱プレスすることができる。なお、様々なプロセス条件があるが、燃料電池電極20と電解質膜10との加熱プレスの条件としては、例えば、約200℃の温度で行うものとすることができる。
【0028】
図4(c)に示す他の態様では、その前のステップで触媒層24をガス拡散層22に接着させ電極20を形成することなく、触媒層24を電解質膜10の両側にコートすることができる。コーティングは、スプレーや、転写印刷、またはキャスティングなどにより行うことができる。図5(a)〜5(c)に示すように、型30を用いてキャスティング法により電解質膜20上に塗布することができる。触媒層24は、1または2以上の電解質膜10の上の型30内にインク24として塗布することができる。そして、図5(b)に示すように、インクが層を形成した後、型30を図5(c)に示すように除去する。
【0029】
本発明の上記の実施態様は、さらに以下の実施例により説明される。
【実施例】
【0030】
実施例1 燃料電池電極の準備
0.01gの1,2,4−トリアゾールグラフトポリシロキサンと、TEOSおよびSi−C8架橋剤(1:1の重量比)とを5mlのメタノール/エタノール(1:1重量比)中に溶解した。電極に添加されるバインダーは約0.125mg/cmとなるようにした。それと同時に、5%PVDFのNMP溶媒溶液を調製した。次いで、1〜1.5mg/cmの添加量となるように0.2gPt/C(60%Pt(E−TEK)を担持したXC−72炭素担体)触媒を準備し、上記PVDF溶液、ポリシロキサンおよび架橋剤溶液と混合した。そして、混合した組成物を2時間攪拌し、次いで、30分間超音波浴中で分散した。このようにして、触媒インクを調製した。触媒インク5gをガス拡散層(E−TEX、100cm)上に直接キャストした。次いで、インクを室温で一晩、空気中で十分に乾燥した。そして、60℃4時間、そして130℃30分熱処理を行った。その後、触媒層が形成された後、リン酸水溶液を、酸の添加量が10mg/cmとなるように電極表面上に滴下した。このようにして燃料電池電極を準備した。
【0031】
実施例2 膜電極複合体の準備
実施例1で作製した燃料電池電極を、ePTFE、1,2,4−トリアゾールグラフトポリシロキサン、TEOSおよびSi−C8架橋剤を含む組成物を有する膜に200℃、4psiの圧力で5分間ホットプレスし、MEAを形成した。
【0032】
実施例3 ナフィオン(登録商標)を用いた電極との比較
図6に示すように、実施例1で作製した電極と変性ナフィオン(登録商標)をいた電極との特性を比較した。変性ナフィオン(登録商標)を用いた電極は、白金(Pt)を0.5mg/cm含むものであり、リン酸ドーパント(PA酸水溶液により、20mg/cmの酸添加量となるように添加)により変性され、次いで、110℃で30分乾燥した。ナフィオン(登録商標)を用いた電極と実施例1で作製した電極を有する燃料電池との比較は、以下の条件で行った。一つの電池のトルク(single cell torque)を4N・mとし、120℃、周囲圧力(ambient pressure)下で水素および酸素を10ml/分の流速で供給する条件下で運転した。図6に示すように、トリアゾール変性電極を有する燃料電池は、ナフィオン(登録商標)を用いた電極を有する燃料電池より優れた性能を示した。具体的には、トリアゾールを用いた電極を有する燃料電池のピーク出力が少なくとも約0.22Wcm-2であるのに対して、ナフィオン(登録商標)を用いた電極を有する燃料電池は、ピーク出力が約0.1Wcm-2である。つまり、本発明の電極を有する燃料電池は、ナフィオン(登録商標)を用いた電極を有する燃料電池よりピーク出力の点で少なくとも100%向上することを示すことができた。
【0033】
実施例4 リン酸ドーパントにより触媒層を形成した燃料電池電極の準備
0.01gの1,2,4−トリアゾールグラフトポリシロキサンと、TEOSおよびSi−C8架橋剤(1:1重量比)とをメタノール/エタノール(1:1重量比)中に溶解した。それと同時に、0.2gPt/C(40%Pt(E−TEK))触媒をPtの添加量が1.0mg/cmとなるように上記溶液と混合し、2時間攪拌し、30分間超音波浴中で分散した。このようにして、触媒インクを調製した。触媒インク5gをガス拡散層(E−TEX、100cm)上に直接キャストした。その後、インクを室温で一晩、空気中で十分に乾燥した。次いで、60℃4時間、そして130℃30分熱処理して触媒層を形成した。触媒層が形成された後、リン酸水溶液を、酸の添加量が20mg/cmとなるように電極表面上に滴下した。このようにして燃料電池電極を形成した。
【0034】
実施例5 リン酸触媒を用いて形成された触媒層を有する燃料電池電極の準備
0.01gの1,2,4−トリアゾールグラフトポリシロキサンと、TEOSおよびSi−C8架橋剤(1:1重量比)とをメタノール/エタノール(1:1重量比)中に溶解した。それと同時に、Ptの添加量が1.5mg/cmとなるように、0.2gPt/C(40%Pt(E−TEK))触媒、および100mgリン酸(20mg/cmの酸添加量と同量)を上記溶液と混合し、2時間攪拌し、30分間超音波浴中で分散した。このようにして、触媒インクを調製した。触媒インク5gをガス拡散層(E−TEX、100cm)上に直接キャストした。次いで、インクを室温で一晩、空気中で十分に乾燥した。そして、60℃6時間、そして130℃6時間熱処理して触媒層を形成した。このようにして燃料電池電極を準備した。
【0035】
実施例6 リン酸ドープ電極(実施例4)とリン酸触媒電極(実施例5)との比較
触媒層の形成前に、リン酸を触媒として用いたときに得られる優れた特性を確認するために、以下の実験を実施した。それぞれの電極を燃料電池に組み込んで、以下の条件下で評価した。一つの電池のトルクを4N・mとし、120℃、周囲環境下、水素および酸素を10ml/分の流速で供給する条件下で運転した。図10によると、触媒リン酸電極は、ピーク出力が少なくとも約0.22W/cmとなり、リン酸をドープした電極のピーク出力である約0.05W/cmより極めて高いものとなった。
【0036】
本発明を記述および定義するために、「十分に」および「約」の語句は、もともと量の比較、値、測定または他の表現による不確実性の度合いを表現するものとして用いられるものである。これらの語句は、本明細書において、問題となっている対象の基本的機能に変化をもたらすことなく定量的表現を記載事項から変えることができる程度を表わすのにも用いられる。
【0037】
詳細な説明に記載された発明およびそれに関する具体的な実施態様を参照することにより、添付のクレームに記載された発明によらず、多数の改良や態様が可能であることは明らかである。さらに、本発明のいくつかの態様は好ましいものまたは特に利点があるものであるが、本発明はこれらの好ましい態様に限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒層およびガス拡散層を有する燃料電池電極であって、前記触媒層が、少なくとも一つの触媒、リン酸および少なくとも一つのトリアゾール変性ポリマーを含むバインダーを有することを特徴とする燃料電池電極。
【請求項2】
触媒層が白金、白金合金、炭素またはそれらの混合物を含むものであることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池電極。
【請求項3】
トリアゾール変性ポリマーが1,2,3−トリアゾールグラフトポリシロキサンまたは1,2,4−トリアゾールグラフトポリシロキサンであることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池電極。
【請求項4】
バインダーがさらにTEOS(テトラエチルオルトシリケート)を含むことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池電極。
【請求項5】
バインダーがさらにオルガノシロキサン架橋剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池電極。
【請求項6】
リン酸が約5mg/cm〜約100mg/cmの範囲内で添加されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池電極。
【請求項7】
電解質膜、および一対の請求項1記載の燃料電池電極を有することを特徴とする膜電極複合体。
【請求項8】
請求項7記載の膜電極複合体を有するプロトン電解質膜燃料電池であって、120℃以上の温度で、かつ、加湿なしで運転するものであることを特徴とするプロトン電解質膜燃料電池。
【請求項9】
燃料電池電極が120℃および周囲圧力下で、ピーク出力が少なくとも約0.22Wcmである請求項1記載の膜電極複合体。
【請求項10】
トリアゾール変性ポリマーを準備し、
トリアゾール変性ポリマーを触媒と混合し、そして
リン酸をトリアゾール変性ポリマーおよび触媒の混合物に添加し、触媒層を形成することを特徴とする触媒層の製造方法。
【請求項11】
触媒層がインクの形態であることを特徴とする請求項10記載の触媒層の製造方法。
【請求項12】
さらにトリアゾール変性ポリマー、触媒およびリン酸の混合物を攪拌することを特徴とする請求項10記載の触媒層の製造方法。
【請求項13】
さらにトリアゾール変性ポリマー、触媒およびリン酸の混合物を超音波浴に運搬することを特徴とする請求項10記載の触媒層の製造方法。
【請求項14】
触媒層が白金、白金合金、炭素およびそれらの混合物を含むことを特徴とする請求項10の触媒層の製造方法。
【請求項15】
炭素担体を含む複数の触媒、リン酸、およびバインダーを含み、微小区画構造を有することを特徴とする触媒層。
【請求項16】
バインダーがトリアゾール変性ポリマーを有することを特徴とする請求項15記載の触媒層。
【請求項17】
ガス拡散層および請求項15記載の触媒層を有することを特徴とする燃料電池電極。
【請求項18】
電解質膜および一対の請求項17記載の燃料電池電極を含むことを特徴とする膜電極複合体。
【請求項19】
出力が、少なくともリン酸をドープした触媒層を含む膜電極複合体の出力の2倍であることを特徴とする請求項18記載の膜電極複合体。
【請求項20】
複数の触媒が炭素担体上に担持された白金を含むことを特徴とする請求項17記載の触媒層。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−50098(P2010−50098A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−191460(P2009−191460)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(508108718)トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイテッド (4)
【出願人】(505477235)ジョージア テック リサーチ コーポレイション (12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】