説明

トリグリセリド代謝の局所的な調節

本発明は、皮膚の脂質関門中のトリグリセリド濃度を増大させるのに有効な組成物を局所塗布する方法に関するもので、その組成物は、単独の脂肪酸成分としてのパルミトレイン酸またはその誘導体の有効量を薬学的または化粧品的に許容される担体との組み合せで含む。そのような組成物は、乾燥皮膚ならびに皮膚の脂質関門が不完全であるあるいは損傷を受けている状態を治療または予防するのに有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物を局所塗布(適用)することによって、トリグリセリドの産生を増大させる方法に関する。より詳細には、本発明は、パルミトレイン酸を局所塗布することによってトリグリセリド産生を増大させて皮膚の脂質関門(Lipid barrier)および挫創状態(acne condition)を改善することに関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、典型的には三つの異なる層、すなわち角質層、表皮、および真皮に分けられる。一番外側の層である角質層は角化細胞からできており、脂質で満たされた細胞間隙で囲まれている。角質層は、皮膚の下部層へ様々な物質が侵入してくることに対する実質的な物理障壁をつくっている。しかしながら、他の皮膚層に物質が移送されるのを防いでいることに加えてこの障壁は、皮膚から水分が喪失するのを防ぐ上でも助けとなっている。この二つの機能は、主として角質層中に脂質が存在していることに因るものである。
【0003】
この大切な障壁(すなわち脂質関門)をつくっている皮表脂質には、二つの分泌源がある。脂腺と表皮である。脂質は多様な化合物群であり、トリグリセリド、ジグリセリド、セラミド、遊離脂肪酸、蝋エステル、コレステロール、コレステロールエステル、およびスクアレンを選択的に含む。しかしながら、脂質は、主としてセラミド、コレステロール、および遊離脂肪酸からできている。皮表脂質の量と組成は身体の場所によって異なり、皮膚の一定面積中の脂腺の数とある程度関係していると考えられている。加えて、脂質の組成は、表皮の深さの違いにより変化する。表皮下部では、スフィンゴ脂質、遊離ステロール、硫酸コレステロール、遊離脂肪酸の量が少ない。表皮は、これらの脂質を、顆粒層付近のレベルで大量に生産している。
【0004】
皮膚の表面にある脂質物質のおよそ三分の一は遊離脂肪酸と結合脂肪酸である。この脂肪酸の大半は、典型的にはC18より長くない直鎖一塩基性の酸である。皮膚上の脂肪酸は、微生物の作用、すなわち脂質分解性生物の代謝活性によるトリグリセリドの分解に起因して存在していると考えられている。皮膚の健康にとって脂肪酸は栄養素として重要であり、不飽和脂肪酸は特に殺真菌特性および殺細菌特性を持っていることが知られている。
【0005】
脂質関門はまたその成分の一つとしてトリグリセリドを含むので、脂質関門の防御特性を維持するためにはその分解を防ぐことが重要である。脂質関門は、強い洗剤または石鹸に曝すことによって容易に失われる。皮表脂質の状態は、トリグリセリドレベルが低いことによっても影響される。皮膚脂質関門の特性は大きく変化し、それは様々な異なる因子によることは明らかである。それゆえ、脂質関門は、その防御的機能を最適に果たすのに、常に適切な状態であるとは限らない。加えて、病気に罹っている皮膚は、多くの場合、脂質関門障害を患っている。脂質関門障害は、角質層の脂質組成および健康な皮膚組織の変化に起因していると推測される。
【0006】
化粧品組成物には、多くの場合、損傷した脂質関門を補うために、例えば尿素やプロピレングリコールのような水分の喪失を防ぐ吸湿性の湿潤剤や皮膚軟化剤(例えばオレイルアルコールやカプリル/カプリントリグリセリド)のような活性成分が組み込まれている。一部の化粧品成分においては皮膚密閉性のスキン・コンディショナーであることがあり、これは「人工」関門をつくるために用いられるものであり、そのような化合物は、多くの場合、一種のコーティングとして皮膚表面にそのまま残る脂質であり、様々な水添された油、蝋、バターを含んでいる。これらの製品の多くは、皮膚からの水分の喪失を抑えるための効果的な手段を与えるが、効果を維持するためには何度も塗布し直さなければならず、一般には、角質層の天然に生じる成分を構成することはなく、潜在的に、皮膚に不自然な感触やグリースのような感触を引き起こす。加えて、乾燥皮膚が関連している病態の症状を治療するのに、様々な薬学的に活性な成分または化粧品として活性のある成分がしばしば用いられる。しかしながら、多くのケースにおいて、特に医薬品薬剤により、治療そのものが、治療を受けている皮膚の部分に望ましくない副作用を引き起こし、最終的に脂質関門の実際の修復に至らないこともある。
【0007】
角質層中の生物学的な活性は、脂肪酸および関連化合物によるものであると長い間考えられてきたが、角質層中の遊離脂肪酸に関しては、十分には理解されておらず、また文献もほとんどない。角質層、特にC18およびC24が優位を占めている足裏角質層における長鎖脂肪酸の重要性は、過去に報告されている。ヒトの角質層中の脂肪酸に関する定量的な分析データは、正常な足裏角質層中の脂肪酸の更なる理解に貢献した。Nicollier, M., et al., “Free Fatty Acids and Fatty Acids of Triacylglycerols in Normal and Hyperkeratotic Human Stratum Corneum [正常なヒト角質層および過角化症のヒト角質層中のトリグリセロールの遊離脂肪酸および脂肪酸],” J. Invest. Derm., vol. 87, pp. 68〜71 (1986) を参照されたい。
【0008】
別の研究において、ミリスチン酸含有ミリストレイン酸/パルミトレイン酸混合物食餌は、特にブタ被験体中のコレステロールレベルを増大させることができることが示唆された。Smith et al., “A Diet Containing Myristoleic Plus Palmitoleic Acids Elevates Plasma Cholesterol in Young Growing Swine [ミリストレイン酸+パルミトレイン酸含有の食餌は若年成長期ブタの血漿コレステロールを高める],” Lipids, vol. 31, pp. 849-858 (1996) を参照されたい。
【0009】
上記脂肪酸混合物へのミリスチン酸の添加は高い血漿ミリスチン酸レベルをもたらし、血漿ミリストレイン酸および血漿パルミトレイン酸のレベルはこの脂肪酸混合物で強化された食餌で増大した。食餌をパルミチン酸とリノレイン酸で強化した場合も同じような効果が見出された。しかしながら、ステアリン酸は、食餌によって影響されないことが見出された。ステアリン酸で強化された食餌は、しかしながら、高レベルの血漿リノレイン酸をもたらすと信じられていた。この研究では、コレステロール濃度は上がっても、血漿トリグリセリドは、食餌の脂肪酸によって影響されないことが注目された。
【0010】
なおもう1つの研究では、動物の皮膚にベニハナ油(リノレイン酸)を塗布すると、血漿トリグリセリドのリノレイン酸含量を増大させることが見出された。Bohles et al., “Reversal of Experimental Essential Fatty Acid Deficiency by Cutaneous Administration of Safflower Oil [ベニハナ油の経皮投与による実験的必須脂肪酸不足の逆転],” American Journal of Clinical Nutrition, vol. 29, pp. 398-401 (1976) 。
【0011】
さらに、脂肪酸とパルミトレイン酸の混合物が含まれている油を含有する化粧品製品用脂質組成物が米国特許第5,653,966号明細書に開示されている。しかしながら、パルミトレイン酸を、単独の脂肪酸成分として、直接皮膚に塗布すると、皮膚脂質関門中のトリグリセリド濃度を増大する効果があることは、これまで認識されていない。脂肪酸のグリセリルエステルとしての油脂中で天然に生じる脂肪酸は、脂肪酸の混合物を含有している。脂肪酸はグリセリンとエステル化してモノ-、ジ-、およびトリ-グリセリドを生じる。
【0012】
しかしながら、驚くべきことに、パルミトレイン酸を有効な量で皮膚に局所塗布すると、天然に生じる角質層脂質成分の一つであるトリグリセリドの濃度を増大させることができるとともにその結果として角質層の防御特性自体も高めることができることが見出された。
【特許文献1】米国特許第5,653,966号
【非特許文献1】Nicollier, M., et al., “Free Fatty Acids and Fatty Acids of Triacylglycerols in Normal and Hyperkeratotic Human Stratum Corneum,” J. Invest. Derm., vol. 87, pp. 68〜71 (1986)
【非特許文献2】Smith et al., “A Diet Containing Myristoleic Plus Palmitoleic Acids Elevates Plasma Cholesterol in Young Growing Swine,” Lipids, vol. 31, pp. 849-858 (1996)
【非特許文献3】Bohles et al., “Reversal of Experimental Essential Fatty Acid Deficiency by Cutaneous Administration of Safflower Oil,” American Journal of Clinical Nutrition, vol. 29, pp. 398-401 (1976)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、皮膚調整剤または強い局所用活性薬剤を毎日塗布することに対する有効な代替策を提供するものである。つまり、皮膚自体の脂質関門の機能を高めることによって作用し、その結果、乾燥皮膚や挫創状態のような不完全脂質関門の望ましくないその他の結果を防ぐ、より自然な手段となる温和なタイプの化粧品または医薬品組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、単独の脂肪酸成分としてのパルミトレイン酸を皮膚のトリグリセリドレベルを増大させるのに有効な量で含む局所用組成物を塗布する方法に関する。このパルミトレイン酸は、化粧品的または薬学的に許容される担体と組み合せられる。
【0015】
本発明はまた、パルミトレイン酸の有効量を皮膚に塗布することを含む、皮膚の脂質関門におけるトリグリセリドの産生を刺激する方法にも関する。
【0016】
脂質関門は、皮膚の質と水分を維持する上で重要な要素であるので、パルミトレイン酸を局所塗布することは、皮膚全体の状態の改善、また一般的な様々な乾燥皮膚状態ならびに天然の脂質関門が損傷あるいは欠失している例えば挫創状態のような特定の皮膚状態を予防または治療する上で有効である。
【0017】
この局所用組成物は、パルミトレイン酸単独の脂肪酸成分を化粧品的または薬学的に許容される担体中に含む。パルミトレイン酸は、組成物中の単独の脂肪酸であり、例えば油、脂、蝋中の混合物の一部ではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
ある単一の小分子量脂肪酸を皮膚に局所塗布すると、皮膚表面における身体によるトリグリセリド産生を真似た方式でのトリグリセリド産生を刺激することができる。この特定の脂肪酸がパルミトレイン酸であり、ヘキサデセン酸(16:1)としても知られている。
【0019】
トリグリセリドは皮膚によって天然に産生され、保湿化と関門防御(barrier protection)をする。“Free Fatty Acids and Fatty Acids of Triacylglycerols in Normal and Hyperkeratotic Human Stratum Corneum [正常なヒトの角質層と過角化症のヒトの角質層中のトリグリセロールの遊離脂肪酸および脂肪酸]”, Nicollier, Monique, Ph.D., et al., Soc. Inv. Derm., vol. 87, no. 1, pp. 68〜71 (1986) には、正常なヒトの角質層には、約0.7パーセントのパルミトレイン酸とシス-9-パルミトレイン酸(C16:1)が含まれていることが報告されている。また、角質層中にはパルミチン酸とオレイン酸が約9.2パーセントと約11.9パーセントで存在していることも報告されている。このように、身体の角質層中には、これらの酸が、パルミトレイン酸よりも多く存在している。パルミトレイン酸で見られるトリグリセリドの増加が、オレイン酸で見られる増加よりも大きいという本発明の発見は、特に驚くべきことである。これに比較して、オレイン酸は、同じ治療プログラムで単独で用いた場合、ほとんど効果がない。
【0020】
この活性に鑑みて、本発明において、パルミトレイン酸が、脂質関門のトリグリセリド濃度を増大させることにより化粧品組成物および/または局所的に送達される医薬品組成物の非常に有用な成分となることが見出された。
【0021】
本明細書および特許請求の範囲を通じて、用語「パルミトレイン酸」が使用され、この用語には、パルミトレイン酸の遊離脂肪酸形態も包含されることは理解されるであろう。パルミトレイン酸の形態としては、限定するものではないが、2-ヘキサデセン酸、3-ヘキサデセン酸、6-ヘキサデセン酸、9-ヘキサデセン酸、10-ヘキサデセン酸、および11-ヘキサデセン酸が挙げられる。パルミトレイン酸は、不飽和の長鎖遊離脂肪酸であり、驚くべきことに、皮膚の脂質関門中でトリグリセリドを形成するのに即利用可能である。パルミトレイン酸は、ヒト、動物、および植物の脂および蝋中に天然に存在する複雑な脂肪酸混合物の一成分である。特に、6-ヘキサデセン酸および10-ヘキサデセン酸は、脂肪組織中に存在していると報告されている。
【0022】
本発明においては、この脂肪酸成分は、実質的に純粋、すなわち少なくとも70%純粋、好ましくは少なくとも80%純粋、より好ましくは少なくとも90%純粋である単独のパルミトレイン酸である。パルミトレイン酸は、例えばシグマ・アルドリッチ[Sigma-Aldrich](ミズリー州、セントルイス)から商業的に入手可能である。
【0023】
トウモロコシ油も、他の植物油、例えばパーム種油、ココナッツ油、ダイズ油、ヒマワリ油、ベニハナ油、カカオ脂などと同じように、混合トリグリセリドの供給源 (source)となる。したがって、皮膚中でトリグリセリドの増大を達成するために、パルミトレイン酸は、このような種類の油から分離される。天然に存在する油、蝋、および脂中のトリグリセリド混合物が、パルミトレイン酸が単独で持っている、皮膚上でトリグリセリド産生を刺激する効果を持っていることはこれまで知られていない。パルミトレイン酸を単独で含有する本発明物が、そのような効果を持っていることを見出すのは思いもよらないことである。
【0024】
「トリグリセリドを増大させるのに効果的な量」とは、本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、同一の箇所での処理されていない皮膚と比較して、トリグリセリドの産生または代謝を少なくとも5パーセント、好ましくは10パーセント、より好ましくは20パーセント増大させることができる量を意味する。約200〜500パーセントの高いパーセントの結果でさえ、達成可能である。
【0025】
一方、パルミトレイン酸の有効性は、表皮同等物へのその効果によって表され、脂質関門を強化するその能力によって評価される。本発明では、パルミトレイン酸の量は、それが、処理の少なくとも5日後、好ましくは3日後、より好ましくは1日後で脂質関門の強さを増強する場合、有効であると判断される。
【0026】
単独の脂肪酸としてパルミトレイン酸を含有する本発明の組成物を配合する上において、パルミトレイン酸は、組成物の約0.001〜50.0重量パーセント、好ましくは約0.005〜10.0重量パーセント、より好ましくは約0.01〜約1.0重量パーセントの、トリグリセリドを増大させるのに有効な量で組み込まれる。
【0027】
一例として、局所塗布は、およそ1日おきに1回〜1日およそ1〜3回、好ましくはおよそ1日1回〜1日およそ2回、最も好ましくは1日およそ1回または2回が勧められる。しかしながら、本発明の組成物の塗布は長期に亘ってもよい。「長期」塗布とは、本明細書では、局所塗布の期間がユーザーの生涯、好ましくは少なくとも1ヶ月の期間、より好ましくはおよそ3ヶ月〜およそ20年、より好ましくはおよそ6ヶ月〜およそ10年、なおより好ましくはおよそ1年〜およそ5年に亘り、それによって結果的に脂質関門中のトリグリセリド濃度の増大が達成されることを意味する。例えば、本発明の組成物がリップ製品の形態にある場合、塗布は毎日定期的にできる。トリグリセリドを増大させる効果は最大およそ1日間持続する。
【0028】
この組成物の塗布の方法と頻度は、組成物の形態によって変わる。塗布方法に関しては、この組成物は、一般に、皮膚中のトリグリセリドを増大させるのに塗布される同じタイプおよび形態の他の組成物を、例えばクリームやローションとして塗布するであろうと同じようにして皮膚に塗布されるものである。頻度に関しては、既往の乾燥皮膚の状態や、不完全もしくは損傷関門または脂肪酸欠乏症が関与している他の状態の治療には、この組成物は必要に応じて、例えば状態が改善するまで塗布することができる。後述の、他の活性薬剤との組み合せで用いる場合、塗布頻度は、他の活性薬剤を局所塗布するその通常の塗布方式によって決まる。脂質関門中のトリグリセリドレベルに関係している個人の生物学的プロフィールによって、用いる治療プログラムが変わり得ることは、当業者に認識されることであろう。
【0029】
局所塗布用に、パルミトレイン酸を、各種の化粧品的および/または薬学的に許容される担体と配合してもよい。「薬学的および/または化粧品的に許容される担体」とは医薬品用途か化粧品用途用の賦形剤に該当し、活性成分を意図する標的まで送達し、ヒトに害を引き起こさない賦形剤を意味する。本明細書で使用される「医薬品」および「化粧品」には、ヒトおよび動物の双方の医薬品および化粧品が包含される。有用な担体としては、例えば、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタン-1,3-ジオール、あるいは細胞培養培地が挙げられる。化粧品組成物および医薬品組成物を配合するための方法と成分はよく知られており、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences [レミングトンの薬学], Eighteenth Edition, A.R. Gennaro, Ed., Mack Publishing Co., Easton, Pennsylvania, 1990 に載っている。担体の形態は、送達の方式に対して適切なものであればどのようなものであってもよく、例えば溶液、コロイド分散液、乳液(水中油型または油中水型)、懸濁液、クリーム、ローション、ジェル、フォーム、ムース、スプレーなどであってよい。
【0030】
本配合物には、担体と遊離脂肪酸成分に加えて、担体、および/または配合の意図される使途、に応じて選ばれる他の成分が含まれていてもよい。追加成分としては、限定するものではないが、水溶性着色剤(例えばFD&C青色#1);油溶性着色剤(例えばD&C緑色#6);水溶性日焼け止め剤(例えばEusolex 232);油溶性日焼け止め剤(例えばオクチルメトキシシンナメート);粒子状日焼け止め剤(例えば酸化亜鉛);抗酸化剤(例えばBHT);キレート剤(例えばEDTA二ナトリウム);乳液安定化剤(例えばカルボマー);防腐剤(例えばメチルパラベン);芳香剤(例えばピネン);香味剤(例えばソルビトール);湿潤剤(例えばグリセリン);防水剤(例えばPVP/エイコセンコポリマー);水溶性膜形成剤(例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース);油溶性膜形成剤(例えば水素化C-9レジン);カチオン性ポリマー(例えばポリクアテルニウム10);アニオン性ポリマー(例えばキサンタンガム);ビタミン剤(例えばトコフェロール);などが挙げられる。
【0031】
本発明組成物の治療的な使途/化粧的な使途、すなわち皮膚や唇の正常な脂質関門が危険な状態にある、あるいは不完全である、あるいは損傷を受けている状態の治療や予防は無数にある。例えば、パルミトレイン酸組成物は、一般的な乾燥皮膚の状態、あるいは洗剤、石鹸、温水への定期的な曝露;厳しい気候条件例えば冷気、風、および/または太陽への季節的な曝露;強い化学物質や他の乾燥性または損傷性薬剤への職業的な曝露;から生じるような特定的な乾燥皮膚の状態、あるいは湿疹様皮膚炎、乾癬、魚鱗癬、乾燥症などの病的な状態の予防または治療に用いることができる。乾燥皮膚には一般に老化(本質的な老化と見た目の老化の両方)が関係していることもよく知られており、パルミトレイン酸組成物は、老化皮膚のさらなる損傷の予防に、あるいは既に存在する損傷の治療および/または修復に用いることができる。本組成物は、角質層が非常に厚いが脂質関門が少ない足の裏および手の掌に生じる不完全な皮膚関門の治療にも用いることができる。加えて、不完全皮膚関門は、多くの場合、火傷、負傷、疱疹、うっ血性潰瘍、床擦れなどにも関連して起こるもので、そのような損傷も、本発明の組成物を塗布することにより効果を期待できる。
【0032】
以上のとおり、トリグリセリド増大性配合物の様々な使途が示されたことで、配合物には、担体、および/または配合の意図される使途、に応じて選ばれる他の成分が含まれていてもよいことがわかる。
【0033】
追加的な成分の例としては、限定するものではないが、水溶性着色剤(例えばFD&C青色#1);油溶性着色剤(例えばD&C緑色#6);水溶性日焼け止め剤(例えばEusolex 232);油溶性日焼け止め剤(例えばオクチルメトキシシンナメート);粒子状日焼け止め剤(例えば酸化亜鉛);抗酸化剤(例えばBHT);キレート剤(例えばEDTA二ナトリウム);乳液安定化剤(例えばカルボマー);防腐剤(例えばメチルパラベン);芳香剤(例えばピネン);皮膚軟化剤(例えばワセリン);香味剤(例えばソルビトール);湿潤剤(例えばグリセリン);防水剤(例えばPVP/エイコセンコポリマー);水溶性膜形成剤(例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース);油溶性膜形成剤(例えば水素化C-9レジン);カチオン性ポリマー(例えばポリクアテルニウム10);アニオン性ポリマー(例えばキサンタンガム);などが挙げられる。
【0034】
本組成物はまた、皮膚の治療(化粧的および医薬的の両方)に使用される、あるいは日常的に局所塗布される他の活性薬剤と有利に組み合せることができる。パルミトレイン酸と有効に組み合せることができるそのような活性薬剤の例としては、限定するものではないが、老人性斑点、角化症、皺を改善または根治する薬剤、痛覚消失剤(analgesics)、感覚消失剤(anesthetics)、抗挫創剤(anti-acne agents)、抗菌剤、抗酵母菌剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤、抗ふけ剤、抗皮膚炎剤、抗掻痒剤、抗嘔吐剤、抗乗り物酔い剤、抗炎症剤、抗過角化症剤(antihyperkeratolytic agents)、抗乾燥皮膚剤、抗発汗剤(antiperspirants)、乾癬治療剤、抗脂漏症剤、毛髪調整剤およびヘアートリートメント、老化防止剤、皺防止剤、抗喘息剤および気管支拡張剤、抗ヒスタミン剤、皮膚軽減感付与剤、脱色剤、傷治癒剤、ビタミン剤、コルチコステロイド剤、日焼け用薬剤、ホルモン剤などが挙げられる。有用な活性薬剤のより具体的な例としては、レチノイド、局所用心臓血管作動薬、クロトリマゾール、ケトコナゾール、ミコノゾール、グリセオフルビン、ヒドロキシジン、ジフェンヒドラミン、パラモキシン、リドカイン、プロカイン、メピバカイン、モノベンゾン(monobenzone)、エリスロマイシン、テトラサイクリン、クリンダマイシン、メクロシリン、ヒドロキノン、ミノサイクリン、ナプロキセン、イブプロフェン、テオフィリン、クロモリン、アルブテロール、レチノイン酸、13-シスレチノイン酸、ヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾン21-アセテート、ヒドロコルチゾン17-バレレート、ヒドロコルチゾン17-ブチレート、ベータメタゾンバレレート、ベータメタゾンジプロプリオネート、DHEAおよびその誘導体、トリアムシノロンアセトニド、フルオシノニド、クロベタゾール、プロプリオネート、ベンゾイルペルオキシド、クロタミトン、プロプラノロール、プロメタジン、ビタミンAパルミテート、ビタミンEアセテート、ならびにこれらの混合物が挙げられる。配合に用いられる活性薬剤の量は、その通常の用量から容易に決まるものである。
【0035】
本発明の配合物は、化粧品用途および医薬品用途のいずれにも用いることができる。例えば、配合物は、リップスティックやリップグロス(lip gloss)のような化粧品の形態をとることができ、この場合トリグリセリド増大性組成物は、潜在的には治療的効果と保全有効効果の両方を持っている。加えて、配合物は完全に治療的であってもよく、例えば疾患、慢性もしくは急性の病態、あるいは環境による外傷による損傷のため脂質関門の修復または強化が必要とされている唇への塗布に使用されることが意図されていてもよい。そのような配合物の適用が有効である病態の例としては、限定するものではないが、潰瘍、風疹、ヘルペスウイルス感染症、ひどいひび割れ、あるいは火傷が挙げられる。本発明のリップ製品の塗布方法および/または治療処方は、同じようなタイプの製品、すなわちリップスティック、リップクリーム(lip balm)、軟膏などの通常の用法に沿ったものである。本発明の配合物のさらなる使途は、当業者には容易に明らかであろう。
【0036】
唇の部分に使用されまた塗布される本発明の組成物にとっては、その基剤は、唇および粘膜周辺で使用されるのに適切なものであればどのようなタイプのものであってもよい。賦形剤は、クリーム、スティック、ジェルなどの形態をとることができる。しかしながら、特に好ましい基剤の形態は、ワックス様基剤、より典型的には唇への塗布が意図されている大抵の製品に通例である無水のワックス様基剤である。そのようなワックスを基剤とした製品を配合する方法は、当技術分野ではよく知られている。簡潔には、典型的なワックス様基剤は、本成分を分散する上で助けとなる1種以上のワックス、1種以上の油、および1種以上の界面活性剤を含む。本明細書で使用される「ワックス」には、伝統的な意味でのワックス、すなわち主に高級脂肪酸とアルコールのエステル、遊離の高級脂肪酸およびアルコール、および飽和炭化水素を含有している植物性ワックス、動物性ワックス、または鉱物性ワックスだけでなく、シリコーンワックスのようなワックス様、すなわち硬くて、もろくて、どちらかと言えばグリース状でない感触を与える合成の樹脂状製品も含まれる。ワックス基剤として使用される好適なワックスの例としては、限定するものではないが、カルナバ・ワックス、カンデリラ蝋、蜜蝋、合成ワックス、シェラック・ワックス、鯨蝋、ラノリン・ワックス、地蝋(ozokerite)、糠蝋(bran wax)、セレシン蝋、シロヤマモモ蝋(bayberry wax)、石蝋(paraffin)、米蝋(rice wax)、ホホバ蝋などが挙げられる。
【0037】
本発明で使用される「油」には、天然に生じる植物油、動物油、および鉱物油だけでなく、脂肪酸エステル(fatty esters)、脂肪アルコール、およびシリコーン・オイルのような油様皮膚軟化剤も包含される。
【0038】
界面活性剤については、このタイプの製品中で日常的に用いられるものであればどのようなものでもよい。化粧品基剤を配合する上で有用な成分の例は、例えばInternational Cosmetic Ingredient Handbook, CTFA, 1996 に載っている(該内容は、参照により、本明細書に組み込まれる)。
【実施例】
【0039】
本発明は、以下の非限定的実施例を参照することにより、さらに理解される。
【0040】
実施例:パルミトレイン酸活性とオレイン酸活性の比較
MatTekから入手した一組の生きている皮膚サンプル(表皮同等物)を、パルミトレイン酸が約0.1パーセントのサンプルおよびオレイン酸が約0.1パーセントのサンプルで試験した。培地をトランスウェル・メンブレインからその空気/液体界面で調製し、三日間培養した。インキュベーション期間の終了時点で、それぞれの皮膚四角片をホモジネートし、そのトリグリセリドをクロロホルム/メタノール(2:1)中に抽出した。これをそのあとHPTLC分析した。
【0041】
HPTLCの結果は、トリグリセリドが、時間および用量の函数として増大することを示した。パルミトレイン酸で処理した表皮同等物が、塗布の1日後でトリグリセリド濃度の増大を示したのは驚異である。この比較試験により、パルミトレイン酸で処理した生きた皮膚モデルで、時間および用量に依存したトリグリセリド産生の増大が確認された。オレイン酸の正味強度は859であった。これに比較して、パルミトレイン酸の正味強度は1324および1212で、平均1268の正味強度であった。これは、本発明の組成物を用いた場合トリグリセリド産生が約400%増大することを示すもので、トリグリセリドの増大は、パルミトレイン酸がオレイン酸より強い活性を持っていることによるものであることを実証するものである。このデータによれば、パルミトレイン酸はオレイン酸よりも、より激しくトリグリセリド産生を増大させる。これらの結果は、単独の脂肪酸としてパルミトレイン酸を含む処理が、驚くべきことにトリグリセリド濃度を増大させ、トリグリセリド代謝の局所的調節に効果があることを示すものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルミトレイン酸単独からなる脂肪酸成分を化粧品的または薬学的に許容される担体中に含む、表皮表面上のトリグリセリドレベルを増大させるための局所用化粧品または医薬品組成物。
【請求項2】
前記パルミトレイン酸が、パーム油、米糠油、胡麻油、アボカド油、マカダミア油、アプリコット核油、およびオリーブ油からなる群から選択される油から抽出されたものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
トリグリセリドを増大させるのに有効な量のパルミトレイン酸を化粧品的または薬学的に許容される担体中に含む組成物を、局所適用するステップを含む、皮膚上のトリグリセリド濃度を増大させる方法。
【請求項4】
前記パルミトレイン酸の有効量が、組成物の約0.001〜約50重量パーセントである請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記パルミトレイン酸の有効量が、組成物の約0.005〜約10.0重量パーセントである請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記パルミトレイン酸の有効量が、組成物の約0.01〜約1.0重量パーセントである請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記組成物が、さらに追加的な化粧品および/または薬学的に局所作用性薬剤を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
請求項1に記載の組成物を皮膚に適用することによって皮膚中のトリグリセリド合成を増大させることを含む、皮膚または唇の状態を改善する方法。
【請求項9】
請求項1に記載の組成物を皮膚に適用して脂質合成を増大させることを含む、乾燥皮膚または挫創状態の治療または予防方法。
【請求項10】
請求項1に記載の組成物を適用することを含む、皮膚の脂質関門を強化する方法。
【請求項11】
パルミトレイン酸単独であり且つトリグリセリドを増大させるのに有効な量で存在する脂肪酸成分を許容される担体中に含む化粧品または医薬品組成物。

【公表番号】特表2007−535544(P2007−535544A)
【公表日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−510919(P2007−510919)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【国際出願番号】PCT/US2005/014402
【国際公開番号】WO2005/111223
【国際公開日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(598173764)カラー アクセス,インコーポレイティド (14)
【Fターム(参考)】