説明

トロイダル型無段変速機

【課題】部品製作、部品管理、組立作業が何れも容易になり、コスト低廉化を図り易く、しかも変速動作を安定させられる構造を実現する。
【解決手段】トラニオン7bを構成する一方の傾転軸8aと駆動ロッド30aとを軸方向に連通する状態で挿通孔38を形成する。この挿通孔38の内側に、一端にキャップ41を、他端にプリセスカム31aを、それぞれ固定した結合ロッド40を、軸方向変位を可能に挿入する。又、プリセスカム31aを、駆動ロッド30aの先端寄り部分に、軸方向変位を可能に且つ円周方向変位を不能に支持する。そして、駆動ロッド30aに係止した止め輪46とプリセスカム31aとの間に配置した圧縮コイルばね45の弾力を利用して、キャップ41の先端面を外輪16aの外周面に弾性的に押し付ける。この様な構成により、外輪16aの軸方向変位を直接測定する事ができる為、前記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば車両(自動車)用の自動変速機、建設機械(建機)用の自動変速機、航空機(固定翼機、回転翼機、飛行船等)等で使用されるジェネレータ(発電機)用の自動変速機、ポンプ等の各種産業機械の運転速度を調節する為の自動変速機として利用する、ハーフトロイダル型のトロイダル型無段変速機の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用変速装置としてハーフトロイダル型のトロイダル型無段変速機を使用する事が、特許文献1〜4等の多くの刊行物に記載されると共に一部で実施されていて周知である。又、トロイダル型無段変速機と遊星歯車機構とを組み合わせて変速比の調整幅を広くする構造も、特許文献5等、やはり多くの刊行物に記載されて従来から広く知られている。図11〜12は、これら各特許文献に記載されて従来から広く知られているトロイダル型無段変速機の第1例を示している。この従来構造の第1例の場合、入力回転軸1の両端寄り部分の周囲に1対の入力ディスク2、2を、それぞれがトロイド曲面である内側面同士を互いに対向させた状態で、前記入力回転軸1と同期した回転を自在に支持している。又、この入力回転軸1の中間部周囲に出力筒3を、この入力回転軸1に対する回転を自在に支持している。又、この出力筒3の外周面には、軸方向中央部に出力歯車4を固設すると共に、軸方向両端部に1対の出力ディスク5、5を、スプライン係合により、前記出力筒3と同期した回転を自在に支持している。又、この状態で、それぞれがトロイド曲面である、前記両出力ディスク5、5の内側面を、前記両入力ディスク2、2の内側面に対向させている。
【0003】
又、前記両入力ディスク2、2と前記両出力ディスク5、5との間に、それぞれの周面を球状凸面とした複数個のパワーローラ6、6を挟持している。これら各パワーローラ6、6は、それぞれトラニオン7、7に回転自在に支持されており、これら各トラニオン7、7は、それぞれ前記各ディスク2、5の中心軸に対し捩れの位置にある傾転軸8、8を中心とする揺動変位自在に支持されている。即ち、前記各トラニオン7、7は、それぞれの軸方向両端部に互いに同心に設けられた1対の傾転軸8、8と、これら各傾転軸8、8同士の間に存在する支持梁部9、9とを備えており、これら各傾転軸8、8が、支持板10、10に対し、ラジアルニードル軸受11、11を介して枢支されている。
【0004】
又、前記各パワーローラ6、6は、前記各トラニオン7、7を構成する支持梁部9、9の内側面に、基半部と先半部とが互いに偏心した支持軸12、12と、複数の転がり軸受とを介して、これら各支持軸12、12の先半部周りの回転、及び、これら各支持軸12、12の基半部を中心とする若干の揺動変位を自在に支持されている。この様な各パワーローラ6、6の外側面と、前記各トラニオン7、7を構成する支持梁部9、9の内側面との間には、それぞれが前記複数の転がり軸受の一部である、スラスト玉軸受13、13と、スラストニードル軸受14、14とを、前記各パワーローラ6、6の側から順番に設けている。このうちのスラスト玉軸受13、13は、前記各パワーローラ6、6に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これら各パワーローラ6、6の回転を許容するものである。前記各スラスト玉軸受13、13は、これら各パワーローラ6、6の外側面に形成された内輪軌道15と、外輪16の内側面に形成された外輪軌道17との間に、複数個の玉18、18を、転動自在に設けて成る。又、前記各スラストニードル軸受14、14は、前記各パワーローラ6、6から前記各スラスト玉軸受13、13を構成する外輪16、16に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これら各外輪16、16及び前記各支持軸12、12の先半部が、これら各支持軸12、12の基半部を中心に揺動する事を許容するものである。
【0005】
上述の様なトロイダル型無段変速機の運転時には、駆動軸19により一方(図11の左方)の入力ディスク2を、押圧装置20を介して回転駆動する。この結果、前記入力回転軸1の両端部に支持された1対の入力ディスク2、2が、互いに近づく方向に押圧されつつ同期して回転する。そして、この回転が、前記各パワーローラ6、6を介して前記両出力ディスク5、5に伝わり、前記出力歯車4から取り出される。前記入力回転軸1とこの出力歯車4との間の変速比を変える場合は、油圧式のアクチュエータ21、21により前記各トラニオン7、7を前記各傾転軸8、8の軸方向に変位させる。この結果、前記各パワーローラ6、6の周面と前記各ディスク2、5の内側面との転がり接触部(トラクション部)に作用する、接線方向の力の向きが変化する(転がり接触部にサイドスリップが発生する)。そして、この力の向きの変化に伴って前記各トラニオン7、7が、自身の傾転軸8、8を中心に揺動し、前記各パワーローラ6、6の周面と前記各ディスク2、5の内側面との接触位置が変化する。これら各パワーローラ6、6の周面を、前記両入力ディスク2、2の内側面の径方向外寄り部分と、前記両出力ディスク5、5の内側面の径方向内寄り部分とに転がり接触させれば、前記入力回転軸1と前記出力歯車4との間の変速比が増速側になる。これに対して、前記各パワーローラ6、6の周面を、前記両入力ディスク2、2の内側面の径方向内寄り部分と、前記両出力ディスク5、5の内側面の径方向外寄り部分とに転がり接触させれば、前記入力回転軸1と前記出力歯車4との間の変速比が減速側になる。
【0006】
この様に変速比を変化させる為の前記各アクチュエータ21、21を構成する為、前記各トラニオン7、7の下方に設けられたアクチュエータボディ22内に、これら各トラニオン7、7と同数のシリンダ23、23を、前記各傾転軸8、8と同心に設けている。そして、これら各シリンダ23、23内に、それぞれピストン24、24を油密に嵌装し、これら各シリンダ23、23内で、これら各ピストン24、24を軸方向両側から挟む位置に、前記各アクチュエータ21、21毎に1対ずつの油圧室25a、25bを設けている。前記変速比を変えるべく、前記各トラニオン7、7を前記各傾転軸8、8の軸方向に変位させる際には、前記各アクチュエータ21、21毎に1対ずつ設けた油圧室25a、25bのうちの一方の油圧室25a(又は25b)に圧油を送り込み、他方の油圧室25b(又は25a)から圧油を排出する。
【0007】
前記各アクチュエータ21、21の油圧室25a、25b内への圧油の給排状態は、これら各アクチュエータ21、21の数に関係なく1個の制御弁26により行い、何れか1個(図12の左側)のトラニオン7の動きを、この制御弁26にフィードバックする様にしている。この制御弁26は、ステッピングモータ27により、軸方向(図12の左右方向)に変位させられるスリーブ28と、このスリーブ28の内径側に軸方向変位を可能に嵌装されたスプール29とを有する。前記何れか1個のトラニオン7の端部に固定された駆動ロッド30の端部には、プリセスカム31を固定している。そして、このプリセスカム31とリンク腕32とを介して、前記駆動ロッド30の動きを前記スプール29に伝達する、フィードバック機構を構成している。
【0008】
変速状態を切り換える際には、前記ステッピングモータ27により前記スリーブ28を、所定量だけ変位させて、前記制御弁26の流路を開く。この結果、前記各油圧室25a、25b内に圧油が所定方向に送り込まれて、前記各アクチュエータ21、21が前記各トラニオン7、7を所定方向に変位させる。即ち、前記圧油の送り込みに伴って、これら各トラニオン7、7が、前記各傾転軸8、8の軸方向に変位しつつ、これら各傾転軸8、8を中心に揺動する。そして、前記何れか1個のトラニオン7の動き(軸方向及び揺動変位)が、前記駆動ロッド30の端部に結合したプリセスカム31とリンク腕32とを介して前記スプール29に伝達され、このスプール29を軸方向に変位させる。この結果、前記トラニオン7が、前述したサイドスリップに基づいて、前記各傾転軸8、8を中心に揺動変位しつつ、軸方向に関して中立位置に向け、戻り方向に変位する。そして、所定量揺動変位した状態で、軸方向位置が中立位置に戻ると共に、前記制御弁26の流路が閉じられ、前記各アクチュエータ21、21の油圧室25a、25b内への圧油の給排が停止される。従って、前記各トラニオン7、7の揺動方向の変位量は、前記ステッピングモータ27によるスリーブ28の変位量に応じただけのものとなる。
【0009】
上述の様なトロイダル型無段変速機の運転時には、動力の伝達に供される各部材、即ち、前記入力、出力各ディスク2、5と前記各パワーローラ6、6とが、前記押圧装置20が発生する押圧力に基づいて弾性変形する。そして、この弾性変形に伴って、前記入力、出力各ディスク2、5が軸方向に変位する。又、前記押圧装置20が発生する押圧力は、前記トロイダル型無段変速機により伝達するトルクが大きくなる程大きくなり、それに伴って前記各部材2、5、6の弾性変形量も多くなる。従って、前記トルクの変動に拘らず、前記入力、出力各ディスク2、5の内側面と前記各パワーローラ6、6の周面との接触状態を適正に維持する為に、前記各トラニオン7、7に対して前記各パワーローラ6、6を、前記各ディスク2、5の軸方向に変位させる機構が必要になる。上述した従来構造の第1例の場合には、前記各パワーローラ6、6を支持した前記各支持軸12、12の先半部を、同じく基半部を中心として揺動変位させる事により、前記各パワーローラ6、6を前記軸方向に変位させる様にしている。
【0010】
上述の様な従来構造の第1例の場合、前記各パワーローラ6、6を前記軸方向に変位させる為の構造が複雑で、部品製作、部品管理、組立作業が何れも面倒になり、コストが嵩む事が避けられない。この様な問題を解決する為の技術として前記特許文献3には、図13〜18に示す様な構造が記載されている。本発明は、この図13〜18に示した従来構造の第2例を改良するものであるから、次に、この従来構造の第2例に就いて説明する。この従来構造の第2例の特徴は、トラニオン7aに対してパワーローラ6aを、入力、出力各ディスク2、5(図11参照)の軸方向の変位を可能に支持する部分の構造にあり、トロイダル型無段変速機全体としての構造及び作用は、前述の図11〜12に示した従来構造の第1例と同様である。
【0011】
前記従来構造の第2例を構成するトラニオン7aは、両端部に互いに同心に設けられた1対の傾転軸8a、8bと、これら両傾転軸8a、8b同士の間に存在し、少なくとも入力、出力各ディスク2、5(図11参照)の径方向(図14、17〜18の上下方向)に関する内側(図14、17〜18の上側)の側面を円筒状凸面33とした、支持梁部34とを備える。前記両傾転軸8a、8bは、それぞれラジアルニードル軸受11a、11aを介して、支持板10、10(図12参照)に、揺動を可能に支持する。
【0012】
又、前記円筒状凸面33の中心軸イは、図14、17に示す様に、前記両傾転軸8a、8bの中心軸ロと平行で、これら両傾転軸8a、8bの中心軸ロよりも、前記各ディスク2、5の径方向に関して外側(図14、17〜18の下側)に存在する。又、前記支持梁部34とパワーローラ6aの外側面との間に設けるスラスト玉軸受13aを構成する外輪16aの外側面に、部分円筒面状の凹部35を、この外側面を径方向に横切る状態で設けている。そして、この凹部35と、前記支持梁部34の円筒状凸面33とを係合させ、前記トラニオン7aに対して前記外輪16aを、前記各ディスク2、5の軸方向に関する揺動変位を可能に支持している。
【0013】
又、前記外輪16aの内側面中央部に支持軸12aを、この外輪16aと一体に固設して、前記パワーローラ6aをこの支持軸12aの周囲に、ラジアルニードル軸受36を介して、回転自在に支持している。このラジアルニードル軸受36は、前記パワーローラ6aの中心孔の内周面に形成した円筒状の外輪軌道と、前記支持軸12aの外周面に形成した円筒状の内輪軌道との間に、複数本のニードルを転動自在に配置して成る。更に、前記トラニオン7aの内側面のうち、前記支持梁部34の両端部と1対の傾転軸8a、8bとの連続部に、互いに対向する1対の段差面37、37を設けている。そして、これら両段差面37、37と、前記スラスト玉軸受13aを構成する外輪16aの外周面とを、当接若しくは近接対向させて、前記パワーローラ6aからこの外輪16aに加わるトラクション力を、何れかの段差面37、37で支承可能としている。
【0014】
上述の様に構成する従来構造の第2例のトロイダル型無段変速機によれば、前記パワーローラ6aを前記各ディスク2、5の軸方向に変位させて、構成各部材の弾性変形量の変化に拘らず、前記パワーローラ6aの周面と前記各ディスク2、5との接触状態を適正に維持できる構造を、簡単で低コストに構成できる。
即ち、トロイダル型無段変速機の運転時に、入力、出力各ディスク2、5、各パワーローラ6a等の弾性変形に基づき、これら各パワーローラ6aをこれら各ディスク2、5の軸方向に変位させる必要が生じると、これら各パワーローラ6aを回転自在に支持している前記スラスト玉軸受13aの外輪16aが、外側面に設けた部分円筒面状の凹部35と支持梁部34の円筒状凸面33との当接面を滑らせつつ、この円筒状凸面33の中心軸イを中心として揺動変位する。この揺動変位に基づき、前記各パワーローラ6aの周面のうちで、前記各ディスク2、5の軸方向片側面と転がり接触する部分が、これら各ディスク2、5の軸方向に変位し、前記接触状態を適正に維持する。
【0015】
前述した通り、前記円筒状凸面33の中心軸イは、変速動作の際に各トラニオン7aの揺動中心となる傾転軸8a、8bの中心軸ロよりも、前記各ディスク2、5の径方向に関して外側に存在する。従って、前記円筒状凸面33の中心軸イを中心とする揺動変位の半径は、前記変速動作の際の揺動半径よりも大きく、前記両入力ディスク2、2と前記両出力ディスク5、5との間の変速比の変動に及ぼす影響は少ない(無視できるか、容易に修正できる範囲に留まる)。
【0016】
図13〜18に示した従来構造の第2例の場合、図11〜12に示した同第1例に比べて、部品製作、部品管理、組立作業が何れも容易になり、コスト低廉化を図り易いが、変速動作を安定させる面からは、改良の余地がある。この理由は、前記各支持梁部34を中心とする前記各外輪16aの揺動変位を円滑に行わせる為、これら各支持梁部34の両端部分に、前記各トラニオン7a毎に1対ずつ設けた、前記各段差面37、37同士の間隔Dを、前記各外輪16aの外径dよりも大きく(D>d)する為である。
【0017】
ハーフトロイダル型のトロイダル型無段変速機の運転時、前記各支持梁部34には、トラクション部から前記各パワーローラ6a、前記各外輪16aを介して、スラスト荷重が加わる。この為、前記各トラニオン7aは、図19に誇張して示す様に、前記各外輪16aを設置した側(内側面側)が凹となる方向に弾性変形し、前記間隔Dは、前記各トラニオン7aが弾性変形していない状態(通常状態)よりも小さくなる。従って、これら各トラニオン7aが弾性変形した状態でも、前記各外輪16aの揺動変位を円滑に行わせる為には、前記間隔Dを、前記各外輪16aの外径dよりも或る程度大きくする必要がある。この結果、これら各外輪16a、及び、これら各外輪16aと同心に支持された前記各パワーローラ6aが、前記間隔Dと前記外径dとの差(D−d)の分だけ、前記各支持梁部34の軸方向(図14、15、17の左右方向、図16、18の表裏方向)に変位可能になる。
【0018】
一方、トロイダル型無段変速機を搭載した車両の運転時、前記各パワーローラ6aには、前記各ディスク2、5から、加速時と減速時(エンジンブレーキの作動時)とで、逆方向の力(トロイダル型無段変速機の技術分野で周知の「2Ft」)が加わる。そして、この力2Ftにより、前記各パワーローラ6aが、前記各外輪16aと共に、前記各支持梁部34の軸方向に変位する。この様なこれら各パワーローラ6aの変位方向は、前述した各アクチュエータ21、21による前記各トラニオン7、7の変位方向と同じである。そして、前記軸方向に関する前記各パワーローラ6aの変位量が0.1mm程度であっても、変速動作が開始される可能性を生じる。
【0019】
この様な原因で開始される変速動作は、運転動作とは直接関連しない変速動作であり、運転者に違和感を与える。特にトロイダル型無段変速機が伝達するトルクが低い状態で、運転者が意図しない変速動作が行われると、運転者に与える違和感は大きくなり、しかも、この様な運転者が意図しない変速動作は、低トルクでの運転時に発生し易くなる。この理由は、トロイダル型無段変速機が伝達するトルクが小さい程、前記各トラニオン7aの弾性変形量が小さくなり、前記各パワーローラ6aの前記各支持梁部34の軸方向に関する変位量が大きくなり易い為である。従って、運転者に違和感を与え易い低トルクでの運転時に、上述した様な変速動作が発生し易くなる。
【0020】
更に、前記各パワーローラ6aが前記各支持梁部34の軸方向に変位する場合、前記各段差面37、37と前記各外輪16aとの間に存在する隙間(間隔Dと外径dとの差)に起因して、前記各パワーローラ6aと前記各トラニオン7aとの前記各支持梁部34の軸方向に関する変位量が不一致になる。この為、プリセスカム31(図12参照)の軸方向に関する変位量が、前記各パワーローラ6aの変位量を正しく反映しなくなる。従って、前述した様な既知のフィードバック機構を利用する事で、前記各トラニオン7aを所定方向に変位させた場合にも、前記各パワーローラ6aの前記軸方向に関する変位を解消する(中立位置に戻す)事ができなくなる可能性がある。この結果、前記各パワーローラ6aの位置を正確に規制できなくなり、所望通りの変速比が得られなくなる(変速比ズレが生じる)可能性がある。
【0021】
上述の様にして生じる問題の発生を抑制する為に、前記間隔Dと前記外径dとの差(D−d)を僅少に(例えば数十μm程度に)抑える事も考えられるが、この場合には、前記各トラニオン7aの弾性変形量が大きくなった状態で、前記各外輪16aの揺動変位を円滑に行わせる事が難しくなる。従って、前記差を僅少に抑える事で、上述した様な問題の発生を抑制する事は難しい。
【0022】
尚、特許文献6には、パワーローラの軸方向位置とトラニオンの揺動角度とを、軸方向位置検出センサと角度検出センサとにより、それぞれ検出する発明が記載されている。この様な特許文献6に記載された発明の様に、軸方向位置検出センサを利用すれば、パワーローラの軸方向変位を直接検出する事が可能である。但し、この様なセンサは高価であり、トロイダル型無段変速機全体のコストが相当に嵩む事が避けられない。又、前記特許文献6は、従来構造の第1例と同様に、パワーローラの各ディスクの軸方向に関する変位を、このパワーローラを支持軸により支持する事で実現する構造を対象とした発明であり、従来構造の第2例の様に、段差面同士の間に配置されるパワーローラに関して、このパワーローラの軸方向変位を直接検出する事は意図していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特開2003−214516号公報
【特許文献2】特開2007−315595号公報
【特許文献3】特開2008−25821号公報
【特許文献4】特開2008−275088号公報
【特許文献5】特開2004−169719号公報
【特許文献6】特開2002−195393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、部品製作、部品管理、組立作業が何れも容易で、コスト低減を図り易く、しかも変速動作を安定させる事ができる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明のトロイダル型無段変速機は、少なくとも1対のディスクと、複数のトラニオンと、これら各トラニオンと同数のパワーローラと、同じく同数組の転がり軸受とを備える。
特に、本発明のトロイダル型無段変速機に於いては、前記各トラニオンの一部で各支持梁部を軸方向両端から挟む位置に設けられた、これら各トラニオン毎に1対ずつの段差面同士の間隔を、各スラスト転がり軸受を構成する外輪の、前記各支持梁部の軸方向に関する直径(外輪の外径)よりも大きくしている。そして、前記各外輪の外周面の一部と前記各段差面とを直接又は他の部材を介して係合させる事で、前記各ディスクの回転に伴って前記各パワーローラに加わるトルクを支承可能としている。
又、前記各外輪のうちの何れかの外輪の、前記各支持梁部の軸方向に関する変位を、この外輪を支持したトラニオン及びこのトラニオンと同期して軸方向に変位する部材の変位量を利用せずに、検出機構により機械的に検出する。
【発明の効果】
【0026】
上述の様に構成する本発明のトロイダル型無段変速機によれば、部品製作、部品管理、組立作業が何れも容易になり、コスト低廉化を図り易く、しかも変速動作を安定させられる構造を実現できる。
このうちの変速動作の安定化は、スラスト転がり軸受を構成する外輪の、支持梁部の軸方向に関する変位を、この外輪を支持したトラニオン及びこのトラニオンと同期して軸方向に変位する部材の変位量を利用せずに、検出する事で図れる。
即ち、本発明の場合には、前述した従来構造の場合の様に、パワーローラの前記支持梁部の軸方向に関する変位をトラニオンの変位量として求めるのではなく、前記パワーローラと共に変位する前記外輪の前記軸方向に関する変位を、検出機構により直接求める。この為、前記トラニオンを構成する両段差面と前記外輪との間の隙間の存在に拘わらず、前記パワーローラの前記軸方向に関する変位を正確に検出できる。従って、フィードバック機構を利用して、前記各パワーローラの位置を中立位置(正規位置)に戻す事ができる。この様に、本発明によれば、これら各パワーローラの位置を正確に規制できる為、所望の変速比が得られなくなる事(変速比ズレ)を防止できる。又、逆方向の変速指令を出す事により、運転者の意図しない変速動作を直ちに解消する事もできる。この結果、本発明によれば、前述した従来構造の第2例と同様に、前記両段差面と前記外輪との間に隙間が設けられ、前記支持梁部を中心としてこの外輪を円滑に揺動変位させられる構造に関して、変速動作を安定させる事が可能になる。
一方、コストの低廉化は、前記従来構造の第2例と同様の理由により、図り易い。又、本発明の場合には、前記各パワーローラの前記軸方向に関する変位を、前記特許文献6に記載した様な、高価な電気的なセンサを使用する事なく、センサに比べて安価な、機械的に構成された検出機構により検出できる。この為、本発明を実施する事によるコストの上昇を十分に抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、図12の左半部に相当する図。
【図2】図1のA部拡大図。
【図3】図1のB−B断面図。
【図4】圧縮コイルばねを省略した状態で示す、図1のC−C断面図。
【図5】本発明の実施の形態の第2例を示す、図1と同様の図。
【図6】図5のD部拡大図。
【図7】本発明の実施の形態の第3例を示す、図1と同様の図。
【図8】図7のE部拡大図。
【図9】同第4例を示す、図1と同様の図。
【図10】図9のF部拡大図。
【図11】従来構造の第1例を示す断面図。
【図12】図11のG−G断面図。
【図13】従来構造の第2例を示す、スラスト玉軸受を介してパワーローラを支持したトラニオンを、各ディスクの径方向外側から見た斜視図。
【図14】同じく、ディスクの周方向から見た状態で示す正面図。
【図15】図14の上方から見た平面図。
【図16】図14の右方から見た側面図。
【図17】図15のH−H断面図。
【図18】図14のI−I断面図。
【図19】パワーローラから加わるスラスト荷重に基づいてトラニオンが弾性変形した状態を誇張して示す、図17と同方向から見た断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[実施の形態の第1例]
図1〜4は、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本例の特徴は、変速動作を安定させるべく、スラスト玉軸受13aを構成する外輪16aの、各トラニオン7bの支持梁部34の軸方向に関する変位を、この外輪16aを支持したトラニオン7b及びこのトラニオン7bと同期して軸方向に変位する部材の変位量を利用せずに、別途、機械的に検出する為の構造にある。その他の部分の構造及び作用は、前述の図13〜18に示した従来構造の第2例と同様であるから、同等部分に関する図示並びに説明は、省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0029】
本例の場合にも、前記各トラニオン7b毎に1対ずつ設けた段差面37a、37a同士の間隔Dを、前記外輪16aの外径dよりも大きくしている。これにより、運転時に前記各支持梁部34に加わるスラスト荷重により、前記各トラニオン7bが、前記図19に誇張して示した様に、内側面側が凹となる方向に弾性変形した場合にも、前記両段差面37a、37a同士の間隔Dが、前記各外輪16aの外径d以下にならない様に規制している。又、運転時に、これら各外輪16aの外周面の一部と前記各段差面37a、37aとを直接係合させる事で、入力側、出力側各ディスク2、5(図11参照)の回転に伴って、各パワーローラ6aに加わるトルクを支承可能としている。
【0030】
本例の構造の場合、何れかのトラニオン7bと、このトラニオン7bに連結された駆動ロッド30aとを、軸方向(図1、2の上下方向)に連通する状態で、挿通孔38を形成している。より具体的には、この挿通孔38を、前記トラニオン7bを構成する両傾転軸8a、8bの中心軸ロを通り、一方の傾転軸8aとこの傾転軸8aにその基端部が連結された前記駆動ロッド30aとを軸方向に連通する状態で形成している。そして、前記挿通孔38の一端を、前記トラニオン7bのうちで、前記スラスト玉軸受13aを構成する外輪16aの外周面の一部と対向する部分であって、前記段差面37aから前記各ディスク2、5の径方向内方に外れた部分に形成された、開口側端面39に開口させている。これに対し、前記挿通孔38の他端を、前記駆動ロッド30aの先端面に開口させている。この様な挿通孔38の内径は、この駆動ロッド30aの強度を十分に確保する為に、この駆動ロッド30aの外径よりも十分に小さくしている。
【0031】
そして、前記挿通孔38の内側に、丸棒状の検出ロッド40を、軸方向に関する変位を可能に挿入している。この検出ロッド40は、例えば線膨張係数が低く、縦弾性係数が高い、ステンレス系合金、チタン系合金等の金属製であり、その全長は前記挿通孔38の全長(開口側端面39から駆動ロッド30aの先端面までの長さ)よりも短く、その直径は前記挿通孔38の内径よりも小さい。又、前記検出ロッド40の一端部で、この挿通孔38の一端側の開口部(開口側端面39)から突出した部分には、有底円筒状の抜け止め用のキャップ41を嵌着している。このキャップ41は、前記挿通孔38の内径寸法よりも大きな外径寸法を有し、その全長は前記開口側端面39から前記段差面37aまでの幅寸法と等しいかこれよりも短い。これに対し、前記検出ロッド40の他端部(駆動ロッド30aの先端寄り部分の内側に位置する部分)には、プリセスカム31aの片面(図1の上面)を突き当てている。
【0032】
前記駆動ロッド30aの先端寄り部分には、円周方向複数個所(図示の例では3個所)にスリット42、42を、この駆動ロッド30の先端面に開口する状態で形成しており、円周方向に隣り合うスリット42、42同士の間部分をそれぞれ係合片43、43としている。そして、これら各係合片43、43を、前記プリセスカム31aに形成された係合孔44、44内に挿通している。これにより、このプリセスカム31aを、前記駆動ロッド30aの先端寄り部分に対して、軸方向に関する相対変位を可能に、且つ、円周方向に関する相対変位を不能に支持している。
【0033】
又、前記駆動ロッド30aの先端部(係合片43、43)のうちで、前記プリセスカム31aよりも先端側に位置する部分の周囲に、圧縮コイルばね45を配置している。そして、前記駆動ロッド30aの先端部外周面に係止した円輪状の止め輪46の片側面と、この片側面に対向する前記プリセスカム31aの端面との間で、前記圧縮コイルばね45を軸方向に弾性的に圧縮している。これにより、前記プリセスカム31aを、軸方向に関して前記パワーローラ6a側(図1、2の上側)に弾性的に押し上げている。この結果、前記キャップ41の先端面を前記外輪16aの外周面に対し、弾性的に押し付けている。この様な構成を有する本例の場合には、前記駆動ロッド30aの先端寄り部分と、前記プリセスカム31aと、前記検出ロッド40と、前記キャップ41と、前記圧縮コイルばね45と、前記止め輪46とが、機械式の軸方向変位検出機構47を構成している。
【0034】
尚、前記圧縮コイルばね45を挟持する状態で設けた、前記止め輪46の片側面と前記プリセスカム31aの端面との間隔は、前記間隔Dと前記外径dとの差よりも十分に大きく設定している。又、前記圧縮コイルばね45の弾力の大きさは、前記外輪16aの外周面に対して前記キャップ41の先端面を当接させた状態を維持でき、且つ、この外輪16aの動きを、リンク腕(レバー)32を介して制御弁26のスプール29(図12参照)に正しく伝達できる限りで小さく設定している。そして、前記圧縮コイルばね45の弾力によって、前記外輪16aを前記軸方向に変位させない様に、且つ、前記外輪16aの動きにより前記制御弁26を正確に開閉できる様にしている。
【0035】
以上の様に構成する本例のトロイダル型無段変速機によれば、部品製作、部品管理、組立作業が何れも容易になり、コスト低廉化を図り易く、しかも変速動作を安定させられる構造を実現できる。
このうちの変速動作の安定化は、前記スラスト転がり軸受13aを構成する外輪16aの、前記各支持梁部34の軸方向に関する変位を、この外輪16aを支持したトラニオン7b及びこのトラニオン7bと同期して軸方向に変位する部材の変位量を利用せずに、検出する事で図れる。即ち、本例の場合には、前記外輪16aが前記支持梁部34の軸方向に変位すると、前記キャップ41を介してその一端部を前記外輪16aの外周面に弾性的に当接させた前記検出ロッド40が、この外輪16aと同期して軸方向に変位する。これにより、この検出ロッド40の他端部に固定された前記プリセスカム31aも、前記外輪16aと同期して軸方向に変位する。そして、この様なこのプリセスカム31aの軸方向に関する変位量は、前記外輪16aの前記軸方向に関する変位量と等しくなる。この様に、本例の場合には、前記パワーローラ6aと共に変位する前記外輪16aの前記軸方向に関する変位を直接求められる。この為、前記トラニオン7bを構成する両段差面37a、37aと前記外輪16aとの間の隙間の存在に拘わらず、前記パワーローラ6aの前記軸方向に関する変位を正確に検出できる。
【0036】
又、前記各パワーローラ6aが前記軸方向に変位する事で、前記各トラニオン7bが前記各傾転軸8a、8bを中心に揺動すると、前記駆動ロッド30bを介して、前記プリセスカム31aを回転させる。従って、前記パワーローラ6aの前記軸方向に関する変位量と前記トラニオン7bの回転方向の変位量との合成値が、スプール29(図11参照)に伝達され、このスプール29を軸方向(図11の左右方向)に変位させる。これにより、制御弁26(図11参照)の流路の開閉が行われる。そして、各アクチュエータ21に圧油が、所定方向に所定量送り込まれて、これら各アクチュエータ21が前記各トラニオン7bを所定方向(図1、2の上下方向)に変位させる。この結果、変速比が所望値になった状態で、前記各パワーローラ6aが、前記各トラニオン7b及び前記各外輪16aを介して、中立位置に戻される。この様に、本例の場合には、前記外輪16aの軸方向変位を直接検出するフィードバック機構を利用して、前記各パワーローラ6aを中立位置(正規位置)に戻す事ができる。従って、これら各パワーローラ6aの位置を正確に規制できる為、所望の変速比が得られなくなる事(変速比ズレ)を防止できる。
以上の様に、本例の場合には、前述した従来構造の第2例と同様に、前記両段差面37a、37aと前記各外輪16aとの間に隙間が設けられ、前記各支持梁部34を中心としてこれら各外輪16aを円滑に揺動変位させられる構造に関して、変速動作を安定させる事が可能になる。
【0037】
又、本例の場合には、前記パワーローラ6bの前記軸方向に関する変位を、前記特許文献6に記載した様な、高価なセンサを使用する事なく、このセンサに比べて安価な、機械的に構成された前記軸方向変位検出機構47により検出できる。この為、本例を実施する事によるコスト上昇を十分に抑えられる。又、前述の図12〜17に示した従来構造の第2例と同様の理由によっても、コストの低廉化を図れる。更に、機械的に構成された軸方向変位検出機構47は、電気的なセンサに比べて故障が生じにくく、変速動作の信頼性を長期間に亙り確保できると共に、センサを使用する場合の様に電力を必要としない為、燃費向上の面からも有利になる。
その他の構成及び作用・効果は、前記従来構造の第2例の場合と同様である。
【0038】
[実施の形態の第2例]
図5〜6は、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合、何れかのトラニオン7cを構成する一方の傾転軸8aと、この傾転軸8aにその基端部が連結された駆動ロッド30bとを、軸方向(図5、6の上下方向)に連通する状態で形成した挿通孔38aの内周面に、雌スプライン部48aを形成している。
【0039】
これに対して、前記挿通孔38aの内側に挿入する検出ロッド40aの外周面には、雄スプライン部48bを形成している。そして、この検出ロッド40aを前記挿通孔38aの内側に挿入し、前記雌スプライン部48aと前記雄スプライン部48bとをスプライン係合させる事で、前記駆動ロッド30bと前記検出ロッド40aとを、回転力の伝達を可能(円周方向に関する相対回転を不能)に、且つ、軸方向に関する相対変位を可能に係合させている。
【0040】
又、前記検出ロッド40aの全長を、前記挿通孔38aの全長よりも長くして、この検出ロッド40aの両端部を、前記トラニオン7cの開口側端面39及び前記駆動ロッド30bの先端面に形成された開口部から、それぞれ突出させている。又、前記検出ロッド40aの一端部で、前記外輪16aの外周面に対向した部分(先端部分)には、外向フランジ状の鍔部49を形成している。これに対し、前記検出ロッド40aの他端部で、前記駆動ロッド30bの先端部から突出した部分には、プリセスカム31bを結合固定している。
【0041】
又、前記検出ロッド40aの一端部のうちで、前記鍔部49と前記開口側端面39との間に存在する部分の周囲には、皿ばね50(図示の例では複数の皿ばねを積層した複合体)を配置している。そして、前記鍔部49の片側面とこの片側面に対向する前記開口側端面39との間で、前記皿ばね50を、軸方向に弾性的に圧縮している。これにより、前記鍔部49(及び検出ロッド40a、プリセスカム31b)を、軸方向に関して前記パワーローラ6a側(図1、2の上側)に弾性的に押し上げている。この結果、前記鍔部49の他側面(先端面)を前記外輪16aの外周面に対し弾性的に押し付けている。この様な構成を有する本例の場合には、前記プリセスカム31bと、前記検出ロッド40a(鍔部49を含む)と、開口側端面39と、前記皿ばね50とが、機械式の軸方向変位検出機構47aを構成している。
【0042】
そして、本例の場合にも、前記外輪16aが支持梁部34の軸方向に変位すると、その一端部(鍔部49の先端面)を前記外輪16aの外周面に弾性的に当接させた前記検出ロッド40aが、この外輪16aと同期して軸方向に変位する。これにより、前記検出ロッド40aの他端部に固定された前記プリセスカム31bも、前記外輪16aと同期して軸方向に変位する。そして、この様なこのプリセスカム31bの軸方向に関する変位量は、前記外輪16aの前記支持梁部34の軸方向に関する変位量と等しくなる。この様に、本例の場合にも、前記パワーローラ6aと共に変位する前記外輪16aの前記軸方向に関する変位を直接求められる。この為、前記トラニオン7cを構成する両段差面37a、37aと前記外輪16aとの間の隙間の存在に拘わらず、前記パワーローラ6aの前記軸方向に関する変位を正確に検出できる。
【0043】
更に、前記各パワーローラ6aが前記軸方向に変位する事で、前記各トラニオン7cが傾転軸8a、8bを中心に揺動すると、前記駆動ロッド30b及び前記検出ロッド40aを介して、前記プリセスカム31bを回転させる。従って、前記パワーローラ6aの前記軸方向に関する変位量と前記トラニオン7cの回転方向の変位量との合成値が、スプール29(図11参照)に伝達され、このスプール29を軸方向(図11の左右方向)に変位させる。この様に、本例の場合にも、フィードバック機構を利用して、前記各パワーローラ6aを中立位置(正規位置)に戻す事ができる。従って、これら各パワーローラ6aの位置を正確に規制できる為、所望の変速比が得られなくなる事(変速比ズレ)を防止できる。
尚、本例を実施する場合、前記挿通孔38aと前記検出ロッド40aとの係合手段としては、これら挿通孔38aと検出ロッド40aとを、回転力の伝達を可能に、且つ、軸方向に関する相対変位を可能に係合させられれば良い。前述した様なスプライン係合に限らずに、キー係合、ボールスプライン係合等の各種方法を採用できる。
その他の構成及び作用・効果に就いては、上述した実施の形態の第1例の場合と同様である。
【0044】
[実施の形態の第3例]
図7〜8は、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の特徴は、外輪16aの外周面と一方の段差面37bとの間にトルク支承部材51を設け、このトルク支承部材51を介して、前記外輪16aの外周面と前記段差面37bとを係合(当接)させる点にある。この為に、本例の場合には、トラニオン7dを構成する両段差面37a、37b同士の間隔D´を、前述した実施の形態の第1例及び第2例の場合よりも大きくしている。具体的には、前記両段差面37a、37bのうちで、軸方向(図7、8の上下方向)に関して駆動ロッド30a側に設けられた段差面37bを、隣接して(各ディスク2、5の径方向内方に)設けられた開口側端面39と同一平面上に位置させる事で、前記間隔D´を拡大している。
【0045】
前記トルク支承部材51は、断面略T(L)字形で、挿入部52と受部53とを備える。このうちの挿入部52は、挿通孔38の一端側の開口部からこの挿通孔38内に挿入されており、検出ロッド40の一端部が突き当てられている。又、前記受部53は、前記外輪16aの外周面と、前記段差面37b及び前記開口側端面39との間部分に配置されている。この様な構成を有する前記トルク支承部材51は、前記検出ロッド40と同様に、ステンレス合金等の金属製としている。本例の場合、駆動ロッド30aの先端寄り部分と、プリセスカム31aと、前記検出ロッド40と、前記トルク支承部材51と、前記圧縮コイルばね45と、前記止め輪46とが、機械式の軸方向変位検出機構47bを構成している。
【0046】
以上の様な構成を有する本例の場合、パワーローラ6aから前記外輪16aに加わるトラクション力のうち、軸方向に関して駆動ロッド30a側(図7、8の下側)に向いたトラクション力を、前記トルク支承部材51の受部53を介して、前記段差面37bで支承できる。又、前記両段差面37a、37b同士の間隔D´を、前記外輪16aの外径dとの関係で、厳密に規制する必要がなくなる為、前記トラニオン7dの加工コストを低減できる。又、前記トルク支承部材51を設ける事で、前記外輪6aの外周面に前記検出ロッド40の先端部を直接(或いはキャップ41を介して)当接させる場合に比べて、前記外輪16aの外周面との接触面積を大きくできる。この為、この外輪16aの支持梁部34の軸方向に関する変位の検出精度の向上を図れる。
尚、本例の場合には、前記トルク支承部材51と前記検出ロッド40とを別部材に構成しているが、前記挿通孔38内への組込作業が可能であれば、これら両部材40、51は一体としても良い。
その他の構成及び作用・効果に就いては、前述した実施の形態の第1例の場合と同様である。
【0047】
[実施の形態の第4例]
図9〜10は、本発明の実施の形態の第4例を示している。本例の場合には、前述した実施の形態の第2例の構造に、上述した実施の形態の第3例の構造(トルク支承部材51)を組み合わせた如き構成を採用している。即ち、本例の場合には、検出ロッド40bの一端部(先端部)に鍔部49(図5、6参照)を設けるのに代えて、この検出ロッド40bの先端部に、トルク支承部材51を結合固定している。
【0048】
又、トラニオン7eのうちで、挿通孔38aの一端側の開口部(段差面37b及び開口側端面39)に保持凹部54を形成している。この保持凹部54の深さ寸法は、この保持凹部54内に収納する皿ばね50a(図示の例では複数の皿ばねを積層した複合体)の自由状態での軸方向寸法よりも小さい。そして、この保持凹部54内に前記皿ばね50aを収納した状態で、前記トルク支承部材51を構成する受部53の片側面と、前記保持凹部54の底面との間で、前記皿ばね50aを、軸方向に弾性的に圧縮している。この様な構成により、前記トルク支承部材51(及び検出ロッド40b、プリセスカム31b)を、軸方向に関してパワーローラ6a側(図9、10の上側)に弾性的に押し上げ、前記受部53の他側面(先端面)を、外輪16aの外周面に対し弾性的に押し付けている。本例の場合、プリセスカム31bと、前記検出ロッド40bと、保持凹部54の底面と、前記皿ばね50aとが、機械式の軸方向変位検出機構47cを構成している。
その他の構成及び作用・効果に就いては、前述した実施の形態の第2例及び第3例の場合と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、トロイダル型無段変速機単独で実施できる他、特許文献5に記載されている様な、遊星歯車機構と組み合わせた無段変速装置として実施する事もできる。
【符号の説明】
【0050】
1 入力回転軸
2 入力ディスク
3 出力筒
4 出力歯車
5 出力ディスク
6、6a パワーローラ
7、7a〜7e トラニオン
8、8a、8b 傾転軸
9 支持梁部
10 支持板
11、11a ラジアルニードル軸受
12、12a 支持軸
13、13a スラスト玉軸受
14 スラストニードル軸受
15 内輪軌道
16、16a 外輪
17 外輪軌道
18 玉
19 駆動軸
20 押圧装置
21 アクチュエータ
22 アクチュエータボディ
23 シリンダ
24 ピストン
25a、25b 油圧室
26 制御弁
27 ステッピングモータ
28 スリーブ
29 スプール
30、30a、30b 駆動ロッド
31、31a、31b プリセスカム
32 リンク腕
33 円筒状凸面
34 支持梁部
35 凹部
36 ラジアルニードル軸受
37 段差面
38、38a、38b 挿通孔
39 端面
40、40a、40b 検出ロッド
41 キャップ
42 スリット
43 係合片
44 係合孔
45 圧縮コイルばね
46 止め輪
47、47a〜47c 軸方向変位検出機構
48 鍔部
49a 雌スプライン部
49b 雄スプライン部
50、50a 皿ばね
51 トルク支承部材
52 挿入部
53 受部
54 保持凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1対のディスクと、複数のトラニオンと、これら各トラニオンと同数のパワーローラと、同じく同数組の転がり軸受とを備え、
このうちの各ディスクは、それぞれが断面円弧形のトロイド曲面である互いの軸方向片側面同士を対向させた状態で、互いに同心に、相対回転を自在に支持されたものであり、
前記各トラニオンは、それぞれの両端部に互いに同心に設けられた1対の傾転軸と、これら両傾転軸同士の間に存在し、少なくとも前記各ディスクの径方向に関する内側の側面を、前記両傾転軸の中心軸と平行でこの傾転軸の中心軸よりも前記各ディスクの径方向に関して外側に存在する中心軸を有する、円筒状凸面とした支持梁部とを備えたもので、前記各ディスクの軸方向側面同士の間位置の円周方向に関して複数箇所に、これら各ディスクの中心軸に対し捩れの位置にある傾転軸を中心とする揺動変位を自在に設けられており、
前記各パワーローラは、前記各トラニオンの内側面に、それぞれスラスト転がり軸受を介して回転自在に支持され、球状凸面としたそれぞれの周面を、前記各ディスクの軸方向片側面にそれぞれ当接させており、
前記各スラスト転がり軸受は、前記各トラニオンの支持梁部と前記各パワーローラの外側面との間に設けられたもので、これら各支持梁部側に設けられた外輪と、これら各外輪の内側面に設けられた外輪軌道と前記各パワーローラの外側面に設けられた内輪軌道との間に転動自在に、それぞれ複数個ずつ設けられた転動体とを備えたものであり、
前記各スラスト転がり軸受の外輪は、これら各外輪の外側面に設けられた凹部と前記各支持梁部の円筒状凸面とを係合させる事により、前記各トラニオンに対し、前記各ディスクの軸方向に関する揺動変位を可能に支持されている
トロイダル型無段変速機に於いて、
前記各トラニオンの一部で前記各支持梁部を軸方向両端から挟む位置に設けられた、これら各トラニオン毎に1対ずつの段差面同士の間隔が、前記各外輪の、前記各支持梁部の軸方向に関する直径よりも大きく、これら各外輪の外周面の一部と前記各段差面とを直接又は他の部材を介して係合させる事で、前記各ディスクの回転に伴って前記各パワーローラに加わるトルクを支承可能としており、前記各外輪のうちの何れかの外輪の、前記各支持梁部の軸方向に関する変位を、この外輪を支持したトラニオン及びこのトラニオンと同期して軸方向に変位する部材の変位量を利用せずに、検出機構により機械的に検出する事を特徴とするトロイダル型無段変速機。
【請求項2】
検出機構が、スラスト転がり軸受を構成する外輪の外周面にその端部を直接又は他の部材を介して弾性的に押し付けられた検出ロッドと、支持梁部の軸方向に関してこの検出ロッドと同期して変位するプリセスカムとを備える、請求項1に記載したトロイダル型無段変速機。
【請求項3】
検出ロッドが、何れかのトラニオンを構成する両傾転軸のうちの一方の傾転軸と、この一方の傾転軸にその基端部が連結された駆動ロッドとを、軸方向に連通する状態で形成された挿通孔の内側に、軸方向に関する変位を自在に挿入されている、請求項2に記載したトロイダル型無段変速機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−24362(P2013−24362A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161617(P2011−161617)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】