説明

トンネル拡幅方法

【課題】 拡幅領域の周囲の掘削と、拡幅領域の周囲の補強とを同時に行うことにより、施工効率を向上させることができ、さらに、施工コストを低減することができるとともに、地盤の崩落を確実に防ぐことができるトンネル拡幅方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 一定の曲率で湾曲しているケーシング10(掘削軸)と、ケーシング10の先端部に取り付けられている駆動装置20と、駆動装置20によって回転するカッタ30と、固化材注入手段とを備えている掘削手段1を用いたトンネル拡幅方法であって、カッタ30をトンネルTから地盤内に挿入し、固化材注入手段によって注入された固化材と掘削土砂とをカッタによって撹拌しながら、掘削手段1を掘進させて拡幅領域Kの周囲に曲線穴Aを掘削し、曲線穴A内の掘削土砂を固化させた後に、拡幅領域Kを掘削して取り除くことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルを拡幅するためのトンネル拡幅方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シールド工法によって同一断面に掘削されたトンネルに非常駐車帯を設けるために、トンネルの側部を部分的に拡幅する方法としては、円弧状の凍結管の先端部にカッタを取り付けて掘削手段を構成し、この掘削手段をトンネルの壁面から地盤内に掘進させて、トンネルの拡幅領域の周囲に凍結管を配置し、凍結管内に冷媒を供給して、凍結管周辺の地盤を凍結させた後に、トンネル内から拡幅領域の地盤を掘削して取り除くことにより、トンネルを部分的に拡幅するトンネル拡幅方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このトンネル拡幅方法では、凍結管周辺の地盤を凍結させることにより、拡幅領域の周囲の地盤強度を高めることができるため、拡幅領域を掘削したときの地盤の崩落を防ぐことができる。
【特許文献1】特開2005−030147号公報(段落0003、図8(b))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記した従来のトンネル拡幅方法では、掘削手段を掘進させて拡幅領域の周囲に凍結管を配置した後に、凍結管内に冷媒を循環させて地盤を凍結させているため、施工期間が長くなってしまうという問題がある。
また、凍結管内に冷媒を循環させるための冷却装置が必要になるため、施工コストが高くなってしまうという問題がある。
さらに、凍結管内の冷媒を均一な温度に保つことが困難であるため、拡幅領域の周囲の地盤強度を均一に高めることができないという問題がある。
【0005】
そこで、本発明では、前記した問題を解決し、拡幅領域の周囲の掘削と、拡幅領域の周囲の補強とを同時に行うことにより、施工効率を向上させることができ、さらに、施工コストを低減することができるとともに、地盤の崩落を確実に防ぐことができるトンネル拡幅方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、一定の曲率で湾曲している掘削軸と、掘削軸の先端部に取り付けられている駆動装置と、駆動装置によって回転するカッタと、掘削土砂に固化材を注入する固化材注入手段とを備えている掘削手段を用いてトンネルを拡幅するトンネル拡幅方法であって、カッタをトンネルの壁面から地盤内に挿入し、カッタを回転させて、掘削軸を地盤内に順次に挿入することにより、固化材注入手段によって注入された固化材と掘削土砂とをカッタによって撹拌しながら、掘削手段を地盤内に掘進させる段階と、地盤内に掘進させた掘削手段によって、トンネルの拡幅領域の周囲に曲線穴を掘削して、曲線穴内の掘削土砂を固化させた後に、トンネル内から拡幅領域の地盤を掘削して取り除く段階とから構成されていることを特徴としている。
【0007】
このように、掘削手段をトンネルの壁面から地盤内に掘進させ、掘削土砂と固化材とを撹拌しながら、トンネルの拡幅領域の周囲に曲線穴を掘削して、曲線穴内の掘削土砂を固化させることにより、拡幅領域の周囲に曲線穴を掘削しながら、拡幅領域の周囲の地盤強度を高めることができるため、施工効率を向上させることができる。
【0008】
また、トンネルの掘削時に拡幅領域も同時に掘削することができる特殊な構造のシールドマシンを用いることなく、一般的な地盤掘削装置に用いられているカッタ、駆動装置および固化材注入手段を利用してトンネルを拡幅することができ、さらに、地盤を凍結させる従来の方法のように、冷却装置を用いる必要もないため、施工コストを低減することができる。
【0009】
また、掘削手段は、曲線穴内の掘削土砂に固化材を注入しながら掘進しており、曲線穴内全域を均一に固化させて、拡幅領域の周囲の地盤強度を均一に高めることができるため、拡幅領域を掘削したときの地盤の崩落を確実に防ぐことができる。
【0010】
また、カッタを回転させる駆動装置が掘削軸の先端部に取り付けられており、駆動装置の出力がカッタに対して効果的に伝達されるため、カッタの掘削効率を向上させることができる。
【0011】
前記したトンネル拡幅方法において、駆動装置の出力部は、掘削軸に外嵌されており、出力部が掘削軸周りに回転するように構成することができる。
【0012】
このように、駆動装置の出力部を掘削軸周りに回転させることにより、出力部が安定して回転することになるため、カッタの掘削効率を向上させることができる。
なお、出力部が掘削軸周りに回転する外周駆動型の駆動装置としては、例えば、ラジアルピストンモータやアキシャルピストンモータ等の油圧モータを用いることができる。
【0013】
前記したトンネル拡幅方法において、掘削軸は中空管であり、掘削軸内には、駆動装置を駆動させるための駆動ケーブルおよび固化材注入手段に固化材を供給するための固化材供給管が内挿されているように構成することができる。
【0014】
このように、掘削軸内に駆動ケーブルや固化材供給管を内挿することにより、駆動ケーブルや固化材供給管を容易に配管することができるとともに、掘削時に駆動ケーブルや固化材供給管の損傷を防ぐことができる。
また、駆動ケーブルや固化材供給管の他に、掘削土砂の一部を排土するための排土管を掘削軸内に内挿してもよい。
【0015】
前記したトンネル拡幅方法において、カッタは、拡径および縮径自在に構成することができる。
【0016】
ここで、掘削手段をトンネルの壁面から地盤内に挿入するときに、壁面にセグメントが取り付けられている場合には、セグメントに形成した貫通穴から掘削手段を地盤内に挿入することになる。このとき、トンネルの強度を考慮すると、貫通穴の開口面積を狭く形成することが望ましいが、貫通穴の開口面積に伴って掘削手段のカッタも小型化する必要があり、曲線穴の径が小さくなってしまうため、固化させる掘削土砂が少なくなり、掘削領域の周囲の地盤強度を十分に高めることができなくなってしまう。
【0017】
そこで、カッタを拡径および縮径自在に構成することにより、セグメントの貫通穴を通過するときにはカッタを縮径させ、貫通穴の通過後にカッタを拡径して曲線穴を掘削することができるため、貫通穴によるトンネルの強度低下を低減することができるとともに、大きな径の曲線穴を掘削して、その曲線穴内の掘削土砂を固化させることにより、掘削領域の周囲の地盤強度を十分に高めることができる。
【0018】
前記したトンネル拡幅方法において、地盤内に掘進させた掘削手段をトンネル内に貫入させ、トンネル内で掘削手段からカッタ、駆動装置および固化材注入手段を取り外し、曲線穴内に掘削軸を残置させるように構成することができる。
【0019】
このように、地盤内に掘進させた掘削手段をトンネル内に貫入させることにより、トンネル内でカッタ、駆動装置および固化注入手段を掘削軸から容易に取り外して回収することができる。
そして、カッタ、駆動装置および固化注入手段を取り外した掘削軸は、芯材として曲線穴内に残すことにより、拡幅領域の周囲を補強することができる。
【0020】
前記したトンネル拡幅方法において、曲線穴を掘削した後に、掘削手段を曲線穴内からトンネル内に回収し、曲線穴内には芯材を挿入するように構成することができる。
【0021】
このように、曲線穴を掘削した後に、掘削手段を曲線穴内からトンネル内に回収し、曲線穴内には芯材を挿入することにより、掘削軸よりも太い芯材を曲線穴に挿入することができるため、拡幅領域の周囲を確実に補強することができる。
【0022】
また、曲線穴の掘削後に、掘削軸からカッタや駆動装置を取り外して、掘削軸を曲線穴内に残す必要がなくなるため、地盤内に掘進させた掘削手段をトンネル内に貫入させる必要がなくなる。これにより、掘削手段をトンネル内に貫入させるための貫通穴をトンネルのセグメントに形成する必要がなくなるため、トンネルの強度低下を低減することができる。また、掘削手段をセグメントの貫通穴に向かって精度良く掘進させる必要がなくなるため、施工管理を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のトンネル拡幅方法によれば、掘削土砂に固化材を注入しながら、トンネルの拡幅領域の周囲に曲線穴を掘削して、曲線穴内の掘削土砂を固化させることにより、拡幅領域の周囲に曲線穴を掘削しながら、拡幅領域の周囲の地盤強度を高めることができるため、施工効率を向上させることができる。
また、一般的な地盤掘削装置に用いられている各種装置を利用することができるため、施工コストを低減することができる。
さらに、掘削土砂に固化材を注入しながら掘進しており、曲線穴内全域を均一に固化させて、拡幅領域の周囲の地盤強度を高めることができるため、拡幅領域を掘削したときの地盤の崩落を確実に防ぐことができる。
また、駆動装置の出力がカッタに対して効果的に伝達されるため、カッタの掘削効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
まず、本実施形態のトンネル拡幅方法に用いられる掘削手段について説明した後に、その掘削手段を用いたトンネル拡幅方法について説明する。
なお、以下の説明において、「前後方向」とは掘削手段の掘進方向に対応している。
【0025】
[掘削手段の構成]
図1は、本実施形態のトンネル拡幅方法に用いられる掘削手段を示した図で、(a)は側面図、(b)はカッタを拡径した状態の側断面図、(c)はカッタを縮径した状態の側断面図である。
掘削手段1は、図1(a)に示すように、一定の曲率で湾曲しているケーシング10(特許請求の範囲における「掘削軸」)と、ケーシング10の先端部11に取り付けられている駆動装置20と、駆動装置20によって回転するカッタ30と、掘削土砂に固化材を注入する固化材注入手段(図示せず)と、掘削土砂の一部を排土する排土手段(図示せず)とを備えている。
【0026】
ケーシング10は、一定の曲率で補強対象のトンネルの軸線と平行な水平軸周りに湾曲している中空管であり、その基端部を継ぎ足すことにより、順次に延長することができるように構成されている。なお、ケーシング10の先端部11には、駆動装置20の取付部が直線状に形成されている。
【0027】
駆動装置20は、図1(b)に示すように、出力部21の中央部に形成された貫通穴22内にケーシング10の先端部11が内挿されることにより、出力部21がケーシング10に外嵌されており、出力部21がケーシング10の先端部11の軸周りに回転するように構成された外周駆動型のモータである。この駆動装置20としては、ラジアルピストンモータやアキシャルピストンモータ等の油圧モータを用いることができる。
【0028】
また、駆動装置20を駆動させるための駆動油を供給および排出する駆動ケーブル(図示せず)は、ケーシング10内に内挿されており、駆動装置20に接続された駆動ケーブルはケーシング10内を通過して、外部の油圧ポンプ(図示せず)に接続されている。
【0029】
カッタ30は、図1(b)に示すように、駆動装置20の前方に配置されたカッタ本体31が、駆動装置20の出力部21の回転に伴って、出力部21と同じ軸周りに回転することにより、カッタ本体31の前面に設けられた掘削面の各ビット32・・・によって、地盤を掘削するように構成されている。
【0030】
カッタ本体31は、2枚の板状部材33,33から構成されており、各板状部材33,33は長手方向がカッタ30の幅方向に配置されている。また、各板状部材33,33の内端部が出力部21の中心軸線上で連結されており、各板状部材33,33は外端部が内端部よりも後方に配置されるように傾斜している。
【0031】
さらに、各板状部材33,33は、連結部34において回動自在に連結されており、図1(b)の状態から連結部34を中心として折り畳むことにより、カッタ本体31を図1(c)の状態に縮径することができる。当然に、図1(c)の状態から連結部34を中心として各板状部材33,33を広げることにより、カッタ本体31を図1(b)の状態に拡径することもできる。
そして、カッタ本体31を拡径した場合には、駆動装置20の外径よりも大きくなり、カッタ本体31を縮径した場合には、駆動装置20の外径と略同じ大きさとなる。
【0032】
ここで、カッタ本体31を拡径および縮径させる構成について説明する。
カッタ30は、図1(b)に示すように、カッタ本体31の後方でケーシング10の先端部11内に内挿されているシリンダ35を備えている。
このシリンダ35は、伸縮ロッド35aが出力部21の中心軸線上で、本体部35bに対して前後方向に移動するように構成されており、シリンダ35の伸縮ロッド35aの先端部は、各板状部材33,33の連結部34に接続されている。
また、シリンダ35は、本体部35bの外周面と、ケーシング10の先端部11の内周面との間に介設されたベアリング36によって、出力部21と同じ軸周りに回転するように構成されている。
さらに、シリンダ35の本体部35bの外周面には、棒状部材である2本のリンク部材37,37の一端が回動自在に取り付けられており、各リンク部材37,37の他端は、各板状部材33,33の後面において長手方向の略中央部に回動自在に取り付けられている。
【0033】
図1(b)に示すように、カッタ本体31を拡径させた状態で、シリンダ35の伸縮ロッド35aを伸長させた場合には、連結部34は前方に押し出されることになるが、各板状部材33,33の長手方向の略中央部は、各リンク部材37,37によって前後方向の移動が規制されており、中心軸線に向かって引き込まれるため、図1(c)に示すように、各板状部材33,33が折り畳まれた状態となり、カッタ本体31が縮径することになる。
また、縮径させたカッタ本体31を拡径させる場合には、前記した縮径させる場合とは逆に、シリンダ35の伸縮ロッド35aを縮退させることにより、連結部34が後方に引き込まれるとともに、各リンク部材37,37によって前後方向の移動が規制された各板状部材33,33が外側に押し出されるため、図1(b)に示すように、各板状部材33,33が広がった状態となり、カッタ本体31が拡径することになる。
【0034】
また、図1(b)に示すように、駆動装置20の出力部21の中央部に形成された貫通穴22の前端部には、カッタ本体31を拡径させたときに、各リンク部材37,37が入り込む位置に切り欠き溝23,23が形成されており、この切り欠き溝23,23によって各リンク部材37,37が出力部21に係止された状態になる。
そして、各リンク部材37,37を出力部21に係止させた状態で出力部21を回転させると、各リンク部材37,37が出力部21の回転に伴って回転することになり、カッタ本体31が出力部21と同じ軸周りに回転することになる。
【0035】
固化材注入手段(図示せず)は、カッタ30によって掘削され、ケーシング10の周囲に残置される掘削土砂に固化材を注入する装置であり、外部に設置された固化材の貯留タンク(図示せず)から供給された固化材を、ケーシング10内に内挿された固化材供給管(図示せず)を通じて、駆動装置20の出力部21に形成された貫通穴22の前端開口部から排出するように構成されている。
なお、本実施形態では、掘削土砂を固化させるための固化材としてセメントミルクを用いている。
また、固化材を排出する位置は限定されるものではなく、例えば、カッタ本体31の掘削面から排出したり、駆動装置20の後方でケーシング10から排出したりしてもよい。
【0036】
排土手段(図示せず)は、カッタ30によって掘削された掘削土砂の一部を掘削穴から外部に排土するための装置であり、駆動装置20の出力部21に形成された貫通穴22の前端開口部から取り込まれた掘削土砂を、ケーシング10内に内挿された排土管(図示せず)を通じて、掘削穴から外部に排土するように構成されている。
【0037】
前記した構成の掘削手段1では、カッタ30のカッタ本体31を地盤内に挿入し、駆動装置20によってカッタ30を回転させて、ケーシング10を地盤内に順次に挿入することにより、地盤内を掘進させて曲線穴を掘削することができる。また、地盤内を掘進しながら、固化材注入手段によって掘削土砂に固化材を注入し、掘削土砂と固化材とをカッタ30によって撹拌するとともに、排土手段によって掘削土砂の一部を排土することができる。
【0038】
[トンネル拡幅方法]
次に、前記した掘削手段1を用いてトンネルを拡幅するトンネル拡幅方法について説明する。
図2は、本実施形態のトンネル拡幅方法において、セグメントに入口穴および出口穴を形成した状態を示した図で、(a)は正面断面図、(b)はセグメントの内壁面を示した図である。図3は、本実施形態のトンネル拡幅方法を示した図で、(a)は掘削手段を地盤内で掘進させている態様の正面断面図、(b)は地盤内に曲線穴を掘削した後の正面断面図である。図4は、本実施形態のトンネル拡幅方法を示した図で、(a)は曲線穴を掘削した後のセグメントの内壁面を示した図、(b)は拡幅領域を掘削して取り除いた後の正面断面図である。
【0039】
本実施形態では、図2(a)に示すように、シールド工法によって同一断面に掘削されたトンネルTに非常駐車帯を設けるために、トンネルTの側部を部分的に拡幅する場合について説明する。
以下の説明において、トンネルTが拡幅される空間を拡幅領域Kとして示す。なお、トンネルTの壁面には、あらかじめ一次覆工としてセグメントSが取り付けられている。
【0040】
まず、図2(a)および(b)に示すように、セグメントSにおいて拡幅領域K側の側部に、上下に所定間隔を離して入口穴S1および出口穴S2を貫通させる。
上側の入口穴S1は、掘削手段1を挿入するための貫通穴であり、下側の出口穴S2は、地盤内に掘進させた掘削手段1をトンネルT内に貫入させるための貫通穴であるため、入口穴S1と出口穴S2との上下方向の間隔は、ケーシング10を地盤内に配置したときの両端部の間隔に対応させて設定する(図3(b)参照)。
また、入口穴S1および出口穴S2は、トンネルTの延長方向における拡幅領域Kの幅に対応させて、トンネルTの延長方向に所定間隔で並設する。
なお、入口穴S1および出口穴S2からの土砂や地下水の流入を防ぐため、各入口穴S1・・・および各出口穴S2・・・に蓋体Fを嵌め込んで塞いでいる。
【0041】
続いて、図3(a)に示すように、掘削手段1をトンネルT内に設置し、蓋体Fを取り外した入口穴S1にカッタ30を通過させて、カッタ30を地盤内に挿入する。
このとき、トンネルT内には、掘削手段1を支持するための支持架台2が設置されており、ケーシング10は、支持架台2に取り付けられたガイド部材3に案内されて、軸方向に移動可能となっている。
【0042】
また、カッタ30を入口穴S1に通過させるときには、図1(c)に示すように、カッタ本体31を縮径させた状態で通過させる。
このように、入口穴S1は、縮径させたカッタ本体31が通過可能な大きさに形成されていればよく、入口穴S1の開口面積を狭くすることができるため、トンネルTの強度低下を低減することができる。
【0043】
カッタ30を入口穴S1に通過させ、図3(a)に示すように、カッタ本体31を拡径させた後に、駆動装置20を起動させてカッタ30を回転させて、ケーシング10を地盤内に順次に挿入することにより、掘削手段1を地盤内に掘進させる。
また、掘削手段1を掘進させながら、固化材注入手段(図示せず)から掘削土砂に固化材を注入し、掘削土砂と固化材とをカッタ30によって撹拌するとともに、排土手段(図示せず)によって掘削土砂の一部を排土する。
【0044】
なお、ケーシング10は、支持架台2に設けられた油圧ジャッキ4によって押し出されることにより、地盤内に挿入されることになる。
また、入口穴S1には、パッカーPを嵌め込むことにより、入口穴S1とケーシング10との隙間からの土砂や地下水の流入を防ぐことができる。
【0045】
本実施形態の掘削手段1では、図1(a)に示すように、カッタ30を回転させる駆動装置20がケーシング10の先端部11に取り付けられており、駆動装置20の出力がカッタ30に対して効果的に伝達される。さらに、駆動装置20の出力部21は、ケーシング10の先端部11に外嵌されており、出力部21がケーシング10の軸周りに安定して回転することになる。このように、本実施形態の掘削手段1では、カッタ30の掘削効率を向上させることができる。
また、駆動ケーブル、固化材供給管および排土管の配管類(図示せず)は、ケーシング10内に内挿されているため、掘削時に配管類の損傷を防ぐことができる。
さらに、カッタ本体31の外径よりもケーシング10の外径が小さくなっており、掘削土砂の大部分はケーシング10の周囲に残置させることができるため、排土手段による排土量が非常に少なくなっている。
【0046】
そして、図3(a)に示すように、地盤内に掘進させた掘削手段1によって、トンネルTの拡幅領域Kの周囲に、ケーシング10の外径よりも大きい内径の曲線穴Aを掘削する。この曲線穴A内の掘削土砂には固化材が注入されており、カッタ30によって撹拌されているため、所定時間が経過した後に、曲線穴A内の掘削土砂が固化し、ケーシング10の周囲が地盤改良されることにより、地盤強度が高まることになる。
【0047】
このように、拡幅領域Kの周囲に曲線穴Aを掘削しながら、拡幅領域Kの周囲の地盤強度を高めることができるため、施工効率が向上している。
また、掘削手段1は、掘削土砂に固化材を注入し、掘削土砂と固化材とを撹拌しながら掘進しているため、曲線穴A内全域の掘削土砂を均一に固化させることができる。
さらに、カッタ30は、入口穴S1を通過後にカッタ本体31を拡径させることにより、大きな径の曲線穴Aを掘削することができ、固化させる掘削土砂の量も増えるため、拡幅領域Kの周囲の地盤強度を十分に高めることができる。
【0048】
続いて、図3(b)に示すように、地盤内に掘進させた掘削手段1をセグメントSに形成した出口穴S2からトンネルT内に貫入させる。そして、トンネルT内でカッタ30および駆動装置20をケーシング10から取り外して回収するとともに、駆動ケーブル、固化材供給管および排土管の配管類(図示せず)をケーシング10の基端部側から引き抜いて回収する。このとき、カッタ30および駆動装置20をトンネルT内で取り外すことができるため、取り外し作業を容易に行うことができる。
【0049】
このように、ケーシング10からカッタ30、駆動装置20および配管類を回収し、地盤内にケーシング10を残すことにより、ケーシング10を曲線穴Aの芯材として利用することができ、拡幅領域Kの周囲を補強することができる。
【0050】
なお、カッタ30を出口穴S2に通過させるときには、カッタ本体31を縮径させた状態で通過させる(図1(b)参照)。すなわち、入口穴S1と同様に、出口穴S2もカッタ本体31を縮径させた状態のカッタ30が通過可能な大きさに形成されていればよく、出口穴S2の開口面積を狭くすることができるため、トンネルTの強度低下を低減することができる。
また、出口穴S2には、入口穴S1と同様に、パッカーPを嵌め込むことにより、出口穴S2とケーシング10との隙間からの土砂や地下水の流入を防ぐことができる。
【0051】
そして、前記した曲線穴Aの掘削と同様にして、図4(a)に示すように、各入口穴S1および各出口穴S2を利用して、曲線穴Aを順次に掘削し、拡幅領域K(図3(b)参照)の周囲の地盤強度を高める。
なお、順次に掘削する曲線穴Aは、隣り合う曲線穴Aが重複するように掘削することにより、拡幅領域Kを囲む壁状の地盤改良体が形成されることになる。
【0052】
その後、図4(b)に示すように、拡幅領域Kに対応する部位のセグメントSを取り外し、トンネルT内から拡幅領域Kの地盤を掘削して取り除く。
このとき、曲線穴A内全域の掘削土砂を均一に固化させて、拡幅領域Kの周囲の地盤強度を高めているため、地盤の崩落を確実に防ぐことができる。
【0053】
最後に、セグメントSの内壁面および拡幅領域Kの内壁面に二次覆工としてコンクリートCを打設して、トンネルTの拡幅を完了する。
【0054】
前記した構成のトンネル拡幅方法では、トンネルTの掘削時に拡幅領域Kも同時に掘削することができる特殊な構造のシールドマシンを用いることなく、一般的な地盤掘削装置に用いられているカッタ30、駆動装置20、固化材注入手段および排土手段を利用してトンネルTを拡幅することができ、さらに、地盤を凍結させる従来の方法のように冷却装置を用いる必要もないため、施工コストを低減することができる。
【0055】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態には限定されない。図5は、他の実施形態におけるトンネル拡幅方法を示した図で、(a)はH形鋼の芯材を曲線穴に挿入した状態の正面断面図、(b)はH形鋼の芯材を曲線穴に挿入した状態のセグメントの内壁面を示した図である。
【0056】
例えば、本実施形態では、図3(b)に示すように、掘削手段1(図3(a)参照)のケーシング10を曲線穴Aの芯材として利用しているが、図5に示すように、地盤内に掘進させた掘削手段1をトンネルT内に貫入させることなく、曲線穴Aを地盤内に掘削した後に、掘削手段1全体を入口穴S1から引き抜いて回収し、曲線穴A内にはH形鋼の芯材Hを挿入するように構成してもよい。
【0057】
この構成では、ケーシング10(図3(b)参照)よりも太い芯材を曲線穴Aに挿入することができるため、拡幅領域Kの周囲を確実に補強することができる。
また、セグメントSに出口穴を形成する必要がなくなるため、トンネルTの強度低下を低減することができるとともに、掘削手段1(図1(a)参照)を出口穴に向けて精度良く掘進させる必要がなくなるため、施工管理を容易に行うことができる。
【0058】
また、本実施形態では、図4(a)に示すように、並設された入口穴S1および出口穴S2を利用して、順次に曲線穴Aを掘削しているが、複数の掘削手段1(図1(a)参照)をトンネルTの延長方向に並設し、同時に複数の曲線穴Aを掘削するように構成してもよい。この構成では、掘削手段1をトンネルT内で移設する必要がなくなるため、施工効率を向上させることができる。
【0059】
また、本実施形態では、図2(b)に示すように、セグメントSに入口穴S1および出口穴S2を貫通させているが、セグメントSにおいて入口穴S1および出口穴S2に対応する部位を、掘削手段1のカッタ30(図3(a)参照)によって掘削可能な材質や厚みで形成し、掘削手段1によって入口穴S1および出口穴S2に対応する部位を削孔するように構成してもよい。この構成では、あらかじめセグメントSに貫通穴を形成する必要がなくなるため、トンネルTの強度低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本実施形態のトンネル拡幅方法に用いられる掘削手段を示した図で、(a)は側面図、(b)はカッタを拡径した状態の側断面図、(c)はカッタを縮径した状態の側断面図である。
【図2】本実施形態のトンネル拡幅方法において、セグメントに入口穴および出口穴を形成した状態を示した図で、(a)は正面断面図、(b)はセグメントの内壁面を示した図である。
【図3】本実施形態のトンネル拡幅方法を示した図で、(a)は掘削手段を地盤内で掘進させている態様の正面断面図、(b)は地盤内に曲線穴を掘削した後の正面断面図である。
【図4】本実施形態のトンネル拡幅方法を示した図で、(a)は曲線穴を掘削した後のセグメントの内壁面を示した図、(b)は拡幅領域を掘削して取り除いた後の正面断面図である。
【図5】他の実施形態におけるトンネル拡幅方法を示した図で、(a)はH形鋼の芯材を曲線穴に挿入した状態の正面断面図、(b)はH形鋼の芯材を曲線穴に挿入した状態のセグメントの内壁面を示した図である。
【符号の説明】
【0061】
1 掘削手段
10 ケーシング
20 駆動装置
21 出力部
30 カッタ
31 カッタ本体
A 曲線穴
K 拡幅領域
T トンネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定の曲率で湾曲している掘削軸と、
前記掘削軸の先端部に取り付けられている駆動装置と、
前記駆動装置によって回転するカッタと、
掘削土砂に固化材を注入する固化材注入手段と、を備えている掘削手段を用いてトンネルを拡幅するトンネル拡幅方法であって、
前記カッタを前記トンネルの壁面から地盤内に挿入し、前記カッタを回転させて、前記掘削軸を地盤内に順次に挿入することにより、前記固化材注入手段によって注入された前記固化材と掘削土砂とを前記カッタによって撹拌しながら、前記掘削手段を地盤内に掘進させる段階と、
地盤内に掘進させた前記掘削手段によって、前記トンネルの拡幅領域の周囲に曲線穴を掘削して、前記曲線穴内の掘削土砂を固化させた後に、前記トンネル内から前記拡幅領域の地盤を掘削して取り除く段階と、から構成されていることを特徴とするトンネル拡幅方法。
【請求項2】
前記駆動装置の出力部は、前記掘削軸に外嵌されており、前記出力部が前記掘削軸周りに回転するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のトンネル拡幅方法。
【請求項3】
前記掘削軸は中空管であり、
前記掘削軸内には、前記駆動装置を駆動させるための駆動ケーブルおよび前記固化材注入手段に固化材を供給するための固化材供給管が内挿されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のトンネル拡幅方法。
【請求項4】
前記カッタは、拡径および縮径自在であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のトンネル拡幅方法。
【請求項5】
地盤内に掘進させた前記掘削手段を前記トンネル内に貫入させ、前記トンネル内で前記掘削手段から前記カッタ、前記駆動装置および前記固化材注入手段を取り外し、前記曲線穴内に前記掘削軸を残置させることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のトンネル拡幅方法。
【請求項6】
前記曲線穴を掘削した後に、前記掘削手段を前記曲線穴内から前記トンネル内に回収し、前記曲線穴内には芯材を挿入することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のトンネル拡幅方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−2560(P2007−2560A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−184827(P2005−184827)
【出願日】平成17年6月24日(2005.6.24)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】