説明

トンネル掘削機切削用の横矢板及びそれを使用した土留め壁

【課題】 トンネル掘削機のカッタビットによって切削させることで容易に土留め壁を通過させることができるトンネル掘削機切削用の横矢板を提供する。
【解決手段】 地中に間隔を置いて打設された支持柱(切削用支持柱12、H型鋼13)の側面が露出されるように掘削をおこなった際にその支持柱間に架設される切削用横矢板11である。
そして、切削用横矢板11はトンネル掘削機4のカッタビットによって切削可能な材料で形成され、連結手段(ボルト部18、溶接部20)によって前記支持柱(12,13)に固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掘削された地山を土留め壁で支持させることによって構築される立坑からトンネル掘削機を発進または到達させる際に使用されるトンネル掘削機切削用の横矢板及びそれを使用した土留め壁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地山8を掘削して土留め壁1を構築する際に、図7に示すように予め地中に間隔を置いて打設された親杭としてのH型鋼3,3の側面を掘削によって露出させ、そのH型鋼3,3間に角型鋼管2,・・・を積層させて土留めをおこなっている。
【0003】
一方、図8に示すように地山8を掘削してトンネルを構築するトンネル掘削機4は、土留め壁1に囲まれて構築された立坑5の中から発進させる。
【0004】
この土留め壁1は多段に架け渡された切梁6,6によって支保されており、立坑5の底面に構築された底版コンクリート9上には反力桁7a及び反力材7bが設置される。
【0005】
そして、トンネル掘削機4が通過する土留め壁1の撤去部1aのH型鋼3と角型鋼管2を撤去して地山8を露出させ、反力材7bから反力をとってトンネル掘削機4を地中に押し出す。
【0006】
なお、特許文献1には、鉛直方向に連続する長尺の鋼矢板を地中に打設して土留め壁を構築し、トンネル掘削機4が通過する部分には鋼矢板の前面に硬質ウレタン樹脂等の切削し易い材料によって成形された壁材を配置し、トンネル掘削機4を通過させる際には鋼矢板を引き抜いて壁材のみを切削して通過させる鋼矢板立坑のシールド掘進用土留め施工方法が開示されている。
【特許文献1】特開2003−214086号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、撤去部1aのH型鋼3と角型鋼管2を撤去する際には、撤去部1a背面の地山8が広範囲にわたって露出され、一時的に不安定な状態が発生することになる。
【0008】
また、H型鋼3、角型鋼管2、鋼矢板などを撤去する作業は、トンネル掘削機4の掘進とは別に行わなければならず工期や工費が増加する原因となる上に、これらの部材が土圧によって変形していると容易に撤去できないこともある。
【0009】
そこで、本発明は、トンネル掘削機のカッタビットによって切削させることで容易に土留め壁を通過させることができるトンネル掘削機切削用の横矢板及びそれを使用した土留め壁を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、地中に間隔を置いて打設された支持柱の側面が露出されるように掘削をおこなった際に該支持柱間に架設される横矢板であって、該横矢板はトンネル掘削機のカッタビットによって切削可能な材料で形成され、連結手段によって前記支持柱に固定されるトンネル掘削機切削用の横矢板であることを特徴とする。
【0011】
ここで、前記横矢板は、プラスチック発泡体を無機繊維で補強した板状、多角柱状又は円柱状の複合材とすることができる。
【0012】
さらに、前記横矢板の端部は中央部に比べて薄く成形することができる。
【0013】
そして、前記連結手段としてボルトを使用する際に挿通させる前記横矢板の端部には、該ボルトを定着させる補強部を設けることができる。
【0014】
また、前記複合材は、硬質ウレタン樹脂からなるプラスチック発泡体をガラス長繊維で補強して形成することができる。
【0015】
さらに、上記したいずれかのトンネル掘削機切削用の横矢板を壁材の一部または全部に使用して土留め壁を構築することができる。
【発明の効果】
【0016】
このように構成された本発明は、横矢板が連結手段によって支持柱に固定されており、トンネル掘削機のカッタビットによって切削可能な材料で形成された横矢板を、直接トンネル掘削機で切削させることができる。
【0017】
このため、前記横矢板によって構築された土留め壁を、トンネル掘削機が容易に通過することができる。
【0018】
また、プラスチック発泡体を無機繊維で補強した複合材、特に硬質ウレタン樹脂からなるプラスチック発泡体をガラス長繊維で補強して形成された材料を使用することで、曲げ強度及び圧縮強度に優れた軽量の切削可能な横矢板を比較的安価に製作することができる。
【0019】
また、発生する曲げ応力が中央部に比べて小さくなる端部を中央部に比べて薄くすることで、材料費を節約できる上に、連結手段として例えばボルトを使用する場合はボルトの長さを短くすることができる。
【0020】
ボルトの長さが短ければ、切削可能な材料でボルトが形成されていなくともトンネル掘削機の動作に支障を与えることがない。
【0021】
また、ボルトを定着させる前記横矢板の端部に補強部を設けて強化することで、ボルトの締め付け力を分散させ、横矢板の損傷を防ぐことが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の最良の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0023】
図1に、本実施の形態のトンネル掘削機切削用の横矢板としての切削用横矢板11,・・・を配置した土留め壁10を立坑内からみた正面図を示した。
【0024】
この土留め壁10は、トンネル掘削機4が通過する切削外形4a内側に掛かる範囲に切削用横矢板11,・・・が配置され、それ以外の部分は角型鋼管などの一般矢板部15で構成される。
【0025】
この切削用横矢板11及び一般矢板部15は、地中に間隔を置いて打設された支持柱によって支持される。この支持柱は、図1に示すように切削外形4a内側に掛かって切削される部分は切削用支持柱12で構成され、それ以外の切削されない部分はH型鋼13で構成される。
【0026】
上述した切削用横矢板11及び切削用支持柱12は、トンネル掘削機4のカッタビットによって切削可能な材料で形成される部分であって、例えばプラスチック発泡体を無機繊維で補強した複合材によって形成される。
【0027】
この複合材には、例えば硬質ウレタン樹脂からなるプラスチック発泡体を無機繊維としてのガラス長繊維で補強した材料が使用される。このような材料としては、例えばエスロンネオランバーFFU(積水化学工業株式会社製)を挙げることができる。
【0028】
この切削用横矢板11は、例えば図3に示すように板状に成型した長さの異なる二枚の前記複合材を、エポキシ樹脂系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、アクリル樹脂系接着剤などの樹脂系接着剤によって接合して成形する。
【0029】
このように長さの異なる板材を重ねることで、切削用横矢板11の端部11aを薄くし、中央部11bを厚くすることが容易にできる。
【0030】
また、切削用支持柱12は、前記板状の複合材を前記樹脂系接着剤で貼り合わせて図1及び図2(図1のA−A線断面図)に示すような角柱状に成形して、その長手方向の両端部にはH型鋼13と接続させるための継手部14,14を設ける。
【0031】
この切削用支持柱12とH型鋼13によって構成される支持柱の周囲には、地盤とセメントを撹拌混合したソイルセメント部16が、図2に示すように連続する円柱状に形成される。
【0032】
また、前記支持柱間の地山8は、掘削後に切削用横矢板11又は一般矢板部15が配置されるまでの間、露出されることになるので、セメント系ジェット撹拌などの地盤改良工法によって地盤改良部17を構築し、一時的に自立できるようにしておく。
【0033】
図3には、図1の左側部分に示されているような切削用横矢板11の両端を切削用支持柱12,12に固定したときの断面図(図3(a))と、掘削側(図3(a)のB−B矢視方向)から見た正面図(図3(b))を示した。
【0034】
ここでは、連結手段としてボルト部18を使用し、そのボルト部18の一端を定着させる切削用横矢板11の端部11aの掘削側の面には、補強部としての補強層19が設けられている。
【0035】
補強層19としては、例えばポリエステル樹脂またはエポキシ樹脂等の樹脂をマットまたはクロス等の繊維材料で補強したFRP材が使用でき、この繊維材料としては、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維などが使用される。
【0036】
また、このボルト部18の具体的構成の一例について図4に示した。
【0037】
ここでは、切削用支持柱12に予めネジ溝を刻設したボルト孔18bを設け、そのボルト孔18bに前記FRP材製のボルト18aを螺入して切削用横矢板11の端部11aを切削用支持柱12に固定している。
【0038】
この他のボルト部18の具体的構成として、図5に、切削用支持柱12に設けた孔に接着剤18eを注入して、前記FRP材を棒状に成形した寸切りボルト18cの一端を接着剤18eで固定し、他端にナット18dを螺入して端部11aを切削用支持柱12に固定する構成を示した。
【0039】
また図6には、図1の右側部分に示されているような切削用横矢板11の一端を切削用支持柱12に固定し、他端をH型鋼13に固定したときの断面図(図6(a))と、掘削側(図6(a)のC−C矢視方向)から見た正面図(図6(b))を示した。
【0040】
ここでは、切削用支持柱12と切削用横矢板11の固定には前記したボルト部18を使用し、H型鋼13への固定には連結手段として溶接部20を設けている。
【0041】
この溶接部20は、例えば図6(a)に示すように切削用横矢板11の端部表面に前記樹脂系接着剤で鉄板20aを貼り付けておき、H型鋼13のフランジプレートと鉄板20aの隙間に鉄角材20bを介在させ、鉄角材20bとフランジプレートの間、鉄板20aと鉄角材20bの間を溶接することによって形成される。
【0042】
次に、土留め壁10の構築方法について説明する。
【0043】
まず、セメントミルクを注入しながら地盤を円柱状に撹拌したソイルセメント部16,・・・を、図2に示すように地中に間隔を置いて所定の数だけ構築する。そして、ソイルセメントが硬化する前に、H型鋼13と切削用支持柱12が継手部14を介して接続された支持柱及びH型鋼13をソイルセメント部16,・・・に挿入する。
【0044】
また、掘削面として掘削側に露出される地山8には、セメントミルクをジェット噴射して地山8を改良する地盤改良工法によって、図2に示すような円柱状の地盤改良部17,・・・を構築する。
【0045】
そして、H型鋼13の側面が露出されるような掘削を背面側の地盤が安定して自立できる程度の深さまでおこない、H型鋼13,13間に一般矢板部15を架け渡して土留めをおこなう。この掘削と一般矢板部15の配置による土留めは、トンネル掘削機4を発進させる深さに至る直前まで繰り返す。
【0046】
一方、トンネル掘削機4によって切削される切削外形4a内側に掛かる範囲には切削用横矢板11を設置する。この際も、切削用支持柱12又はH型鋼13の側面が露出されるような掘削を背面側の地盤が安定して自立できる程度の深さまでおこない、切削用横矢板11を架け渡してボルト部18又は溶接部20によって切削用支持柱12又はH型鋼13に固定することで土留めをおこなう。
【0047】
この切削用横矢板11は、図1に示すように所定の深さに至るまで積層させて、切削外形4aから外れた位置から再び一般矢板部15を配置する。
【0048】
次に、本実施の形態の切削用横矢板11の作用について説明する。
【0049】
このように切削用横矢板11によって土留め壁10を構築しておけば、土留め壁10を撤去することなく、直接、トンネル掘削機4を通過させることができるので、安全かつ容易にトンネル掘削機4を立坑から発進させたり、立坑に到達させたりすることができる。
【0050】
特に、硬質ウレタン樹脂からなるプラスチック発泡体をガラス長繊維で補強して形成された材料を使用することで、曲げ強度及び圧縮強度に優れた軽量の切削可能な横矢板を比較的安価に製作することができる。
【0051】
さらに、構造的に支点近辺になるため作用する曲げモーメントが中央部11bに比べて小さくなる端部11aを中央部11bに比べて薄くすることで、材料費を合理的に節約することができる。
【0052】
また、本実施の形態のように連結手段としてボルト部18を使用する場合は、端部11aが薄くなった分だけボルトの長さを短くすることができるので材料費を低減できる。
【0053】
さらに、ボルト部18を安価に入手可能な鋼製ボルトで構成した場合でも、鋼製ボルトの長さが短ければトンネル掘削機4に取り込まれた鋼製ボルトを排土装置の礫取出し口(図示せず)から取り除くことができるので、トンネル掘削機4の通過及びその後の掘進に支障が出ることがない。
【0054】
また、ボルト部18を定着させる端部11aの表面を補強層19で被覆して強化することで、ボルト部18の締め付け力を分散させ、切削用横矢板11の端部11aの損傷を防ぐことが出来る。
【0055】
さらに、切削用横矢板11の端部11aが切削用支柱12又はH型鋼13に強固に連結されていれば、トンネル掘削機4によって切削した際にも切削用横矢板11の残留すべき部分が外れてしまって充分に破砕されることなく掘削土砂内に混入するような事態の発生を防ぐことができる。
【0056】
以上、図面を参照して、本発明の最良の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0057】
例えば、前記実施の形態では、切削用横矢板11を切削用支柱12,12間又は切削用支柱12とH型鋼13との間に架設した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、H型鋼13,13間に架設して切削用横矢板11だけを切削させてもよい。
【0058】
また、前記実施の形態では切削用横矢板11の厚さを端部11aと中央部11bで変化させるために二枚の板状複合材を貼り合わせて使用したが、これに限定されるものではなく、端部11aの厚さが中央部11bの厚さに比べて薄くなるように一体成型することもできる。
【0059】
さらに、前記実施の形態では板状の切削用横矢板11を使用したが、これに限定されるものではなく、四角柱、六角柱などの多角柱状や円柱状に成形したものを使用することもできる。
【0060】
また、前記実施の形態では補強部として補強層19を設けたが、これに限定されるものではなく、ボルト18a,18cを挿入する孔の周りを補強して補強部とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の最良の実施の形態の切削用横矢板を架設した土留め壁の構成を説明する正面図である。
【図2】切削用横矢板を架設した土留め壁の構成を説明する図1のA−A線断面図である。
【図3】(a)は両端を切削用支持柱に固定した切削用横矢板の構成を説明する断面図、(b)は(a)のB−B矢視図である。
【図4】切削用横矢板の端部と切削用支持柱の連結手段の具体的構成を説明する拡大断面図である。
【図5】切削用横矢板の端部と切削用支持柱の連結手段の他の具体的構成を説明する拡大断面図である。
【図6】(a)は端部を切削用支持柱とH型鋼に固定した切削用横矢板の構成を説明する断面図、(b)は(a)のC−C矢視図である。
【図7】従来の角型鋼管によって構築する土留め壁を説明する斜視図である。
【図8】従来のトンネル掘削機が発進する立坑を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0062】
10 土留め壁
11 切削用横矢板(横矢板)
11a 端部
11b 中央部
12 切削用支持柱(支持柱)
13 H型鋼(支持柱)
18 ボルト部(連結手段)
18a ボルト
18c 寸切りボルト(ボルト)
18d ナット
19 補強層(補強部)
20 溶接部(連結手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に間隔を置いて打設された支持柱の側面が露出されるように掘削をおこなった際に該支持柱間に架設される横矢板であって、該横矢板はトンネル掘削機のカッタビットによって切削可能な材料で形成され、連結手段によって前記支持柱に固定されることを特徴とするトンネル掘削機切削用の横矢板。
【請求項2】
前記横矢板は、プラスチック発泡体を無機繊維で補強した板状又は柱状の複合材であることを特徴とする請求項1に記載のトンネル掘削機切削用の横矢板。
【請求項3】
前記横矢板の端部は中央部に比べて薄く成形されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のトンネル掘削機切削用の横矢板。
【請求項4】
前記連結手段としてボルトを使用する際に挿通させる前記横矢板の端部には、該ボルトを定着させる補強部が設けられたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のトンネル掘削機切削用の横矢板。
【請求項5】
前記複合材は、硬質ウレタン樹脂からなるプラスチック発泡体をガラス長繊維で補強して形成されたことを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載のトンネル掘削機切削用の横矢板。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のトンネル掘削機切削用の横矢板を壁材の一部または全部に使用したことを特徴とする土留め壁。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−249745(P2006−249745A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−66454(P2005−66454)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(000148346)株式会社錢高組 (67)
【Fターム(参考)】