説明

トンネル覆工のひび割れ検査装置

【課題】トンネル覆工に発生するひび割れの進展の有無を高精度で検査するとともにその検査周期を短縮することでトンネル覆工のコンクリート剥落に対する安全性向上を図る。
【解決手段】トンネル覆工の内壁全周を平面的に連続して撮影した撮影画像からひび割れを抽出するとともに、連続撮影した撮影画像の間で位置合わせを行うとともに画像相関を行ってひび割れの相違点を抽出し、その抽出した相違点に基づいてトンネル覆工の内壁のひび割れの進展の有無を検査する。このことにより、トンネル覆工に発生するひび割れの進展の有無を高精度で検査するとともに、その検査周期を短縮することができる。トンネル覆工のコンクリート剥落に対する安全性を向上させることができる。営業時間帯に撮影ができることから、この点でも検査周期が短縮され、安全性が高まる。トンネル覆工のひび割れ抽出を行うための専用車両を用意する必要がなく既存の車輌を使うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトンネル覆工に発生するひび割れの進展の有無を高精度で検査するとともに、その検査周期を短縮する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のトンネル撮影車は、軌陸車(道路上・軌道上を共に走行できる保守用車)にCCDラインセンサカメラ4台を搭載した車両であり、トンネル内を走行しながら10km/h程度でトンネル覆工の内壁全周を平面的に連続して撮影する。周方向1mm×進行方向1mm間隔で走査することにより、1mm/画素以上の分解能でひび割れを検出する。各カメラで撮影された画像データの合成は、各カメラで撮影した画像の位置点合わせを手動で行った後に自動で処理される。合成された画像には、画面上でトンネル壁面の状態やひび割れなどの変状を手作業によるペンタッチ方式で書き込んでいる。
【特許文献1】特開2007−26255号公報
【特許文献2】特開平07−067101号公報
【特許文献3】特開平02−236787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上述のようなトンネル撮影車によるひび割れ検出手法においては、次のような問題があった。
(イ)10km/h程度の速度でトンネル壁面を撮影することから、営業時間帯以外で撮影するため、撮影による検査周期が2年に1回程度であり、ひび割れなどの変状を発見するのが遅れるおそれがある。
【0004】
(ロ)各カメラで撮影した画像データの合成を手動で行っているために、作業員による作業に膨大な労力および時間を要するという問題があった。
(ハ)撮影した画像からひび割れなどの変状を手動で抽出し、作業員による作業に膨大な労力および時間を要するという問題点があった。なお、変状箇所の進展有無の確認を手動で行うためにも、作業員による作業に膨大な労力および時間を要するという問題があった。
【0005】
なお、このような問題を解決するために、次の特許文献1〜3のように画像処理を用いてトンネル覆工に発生するひび割れの進展の有無を検査する手法がある。
例えば、特許文献1に例示するように、トンネル壁面など、撮影時期の異なる2枚の画像からクラックなどの変状点の進展状況を画像処理技術により抽出する方法も考えられる。具体的には、このような抽出方法は、被測定面の第1回目の実画像データに基づき画像のエッジを抽出する工程と、同一被測定面における所定時間経過後の第2回目の実画像データに基づき画像のエッジを抽出する工程と、第2回目のエッジ画像における特定画素と、この特定画素に対応した第1回目のエッジ画像における画素及びこの画素の周辺画素との差分を求め、この差分の最も小さな値を差分値として出力する差分処理工程と、この差分処理工程で求めた差分を進展した変状点として出力する工程とからなる。なお、変状点以外の直線分は、ハフ変換により抽出して削除する。
【0006】
しかし、このような特許文献1に記載のひび割れの抽出手法においては、被測定面の実画像データを撮影する時期が異なるために画質が異なり、2つの実画像データから抽出した差分値にノイズが含まれ、出力される変状点の進展が不正確であるという問題があって好ましくない。
【0007】
また、特許文献2に例示するように、撮像した機器の画像情報を用いて視覚的な状態変化を伴う機器の異常を精度良く検出する方法も考えられる。具体的には、このような抽出方法は、監視対象領域の撮像画像のエッジ部をエッジ抽出部で抽出し、このエッジ部をマスク画像とする。次に、該撮像画像と該撮像画像撮影時から時間をおいて撮像した前記監視対象領域の撮像画像との差画像を演算部で求めると共に、該差画像を論理演算部により前記マスク画像でマスクする。この結果得られる差画像を、論理演算部により2値化しきい値で2値化し、2値化画像を求め、異常判定部は、2値化画像の面積の大きさから異常の有無を判定する。
【0008】
しかし、このような特許文献2に記載のひび割れの抽出手法においては、同様にマスク画像と撮影画像とで画質が異なり場合があり、抽出した差分値にノイズが含まれ、出力される変状点の進展が不正確であるという問題があって好ましくない。
【0009】
また、特許文献3に例示するように、監視対象物を所定の時間間隔で撮像した撮影画像の差分値を各画素ごとに累積加算し、その得られた累積加算画像から背景を構成する輪郭線を除去するとともに、輪郭線除去後の累積加算画像を、監視対象物の移動方向とこの移動方向に垂直な方向とに投影して各方向毎に所定のしきい値を用いて状態変化画素を抽出する方法も考えられる。
【0010】
しかし、このような特許文献3に記載のひび割れの抽出手法においては、撮影画像を撮影する時期が異なるために画質が異なり、2つの撮影画像から抽出した差分値にノイズが含まれ、抽出される状態変化画素が不正確であるという問題があって好ましくない。
【0011】
本発明は、このような不具合に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、トンネル覆工に発生するひび割れの進展の有無を高精度で検査するとともに、その検査周期を短縮することによってトンネル覆工のコンクリート剥落に対する安全性向上を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するためになされた請求項1に係るトンネル覆工のひび割れ検査装置は、トンネル覆工の内壁に発生するひび割れの進展の有無を検査するトンネル覆工のひび割れ検査装置であって、前記内壁全周を平面的に連続して撮影する撮影手段と、前記撮影画像によって撮影した撮影画像を記憶する記憶手段と、前記記憶手段が記憶する撮影画像からひび割れを抽出するとともに、前記記憶手段が記憶する連続撮影した撮影画像の間または前記記憶手段が記憶する撮影画像と前記内壁のひび割れの進展状況を判断する際に基準とするための基準画像の間の少なくとも何れか一方で位置合わせを行うとともに画像相関を行ってひび割れの相違点を抽出し、その抽出した相違点に基づいて前記内壁のひび割れの進展の有無を検査する画像処理手段と、を備えることを特徴とする。
【0013】
このように構成された本発明のトンネル覆工のひび割れ検査装置によれば、トンネル覆工に発生するひび割れの進展の有無を高精度で検査するとともに、その検査周期を短縮することができる。したがって、トンネル覆工のコンクリート剥落に対する安全性を向上させることができる。また、営業時間帯に撮影ができることから、この点でも検査周期が短縮され、安全性が高まる。また、トンネル覆工のひび割れ抽出を行うための専用車両を用意する必要がなく、既存の車輌を使うことができる。
【0014】
なお、請求項2のように、画像処理手段が、撮影画像からひび割れを抽出する際には、撮影画像からトンネル覆工の内壁に規則的に配置されている物体の画像を抽出し、その抽出した画像を撮影画像から削除することが考えられる。このように構成すれば、ひび割れの進展の有無を検査する精度をより高めることができる。
【0015】
また、請求項3のように、画像処理手段が、一般的なひび割れの形状を記憶しており、その記憶するひび割れの形状と比較することで撮影画像からひび割れを抽出することが考えられる。このように構成すれば、ひび割れの進展の有無を検査する精度をより高めることができる。
【0016】
なおこの場合、請求項4のように、画像処理手段が、一般的なひび割れの形状を追加登録可能であることが考えられる。このように構成すれば、ひび割れの進展の有無を検査する精度をより高めることができる。
【0017】
また、請求項5のように、画像処理手段が、抽出されたひび割れを強調する処理を行うことが考えられる。このように抽出したひび割れを強調することで、ひび割れ部分の境界がより明確になり、ひび割れの進展を検査しやすくすることができる。
【0018】
さらに、請求項6のように、撮影画像からひび割れが抽出された場合には画像処理手段が上述の画像相関を行い、一方、前記撮影画像からひび割れが抽出されなかった場合には画像処理手段が上述の画像相関を行わないようにすることが考えられる。このようにすれば、余分な処理を実行しないことで、画像処理手段の処理負担を軽減することができ、画像処理全体の処理時間を短縮することができる。
【0019】
ところで、上述のように相違点の抽出結果からひび割れの進展の有無を検査する際には、2回の抽出結果を用いることでも効果を挙げることができるが、このように2枚の画像でひび割れ進展の有無を検査すると、撮影画像が場合によって進展しているように見えたり、逆に縮んだりしているように見える可能性がある。そこで、画像処理手段が、3回以上の抽出結果に基づく内壁の相違点の進展の傾向からひび割れの進展の有無を検査することが考えられる。このようにすれば、例えば、2枚の画像でひび割れ進展の有無を検査する場合のように、撮影画像が場合によって進展しているように見えたり、逆に縮んだりしているように見えたりする可能性が少なくなり、ひび割れの進展の有無を検査する精度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明の実施形態を図面とともに説明する。
[第一実施形態]
図1はトンネル覆工のひび割れ検査装置1の概略構成図である。
【0021】
[トンネル覆工のひび割れ検査装置1の構成の説明]
図1に示すように、トンネル覆工のひび割れ検査装置1は鉄道車両に搭載され、トンネル覆工の内壁に発生するひび割れを抽出する装置である。
【0022】
具体的には、このトンネル覆工のひび割れ検査装置1は、カメラ10、カメラ電源20、制御装置30、ハードディスク(HDD)40、メタルハライド照明50、ライトガイド60、を備えている。カメラ10およびHDD40は制御装置30と接続されている。
【0023】
カメラ10は、CCDなどの撮影素子を有し、当該トンネル覆工のひび割れ検査装置1が搭載された車両からトンネル覆工の内壁全周を連続して撮影し、その撮影画像を制御装置30に送信する。なお、トンネル覆工内を走行する車両の側窓とトンネル覆工の内壁とが接近しているため、カメラ10には魚眼レンズを採用している。そのため、画角中央に比べて端部の分解能の低下傾向が顕著であるが、画角端部でも線路直角方向に1.5mm/画素の分解能が得られる設定としている。なお、事前に車窓から各トンネル覆工の内壁面までの距離を計測した結果、絞りを本実施形態ではF4に絞ることで、トンネル覆工の内壁面までの距離が全トンネルで被写界深度内に収まることが確認できたため、レンズのフォーカスは固定としている。
【0024】
また、カメラ10は、撮影時の列車速度の相違により線路方向に撮影画像が歪むことを防止するために、車両の車軸に取り付けたロータリーエンコーダパルスにより駆動される。なお、このロータリーエンコーダパルスは車両が1.5mm移動する毎に1パルスを発生する。また、カメラ10の最大ラインレートは68kHzとなっており、車両が270km/hで走行する際にも、1.5mmピッチのスキャンが可能である。
【0025】
カメラ電源20はカメラ10に電力を供給する。本実施形態では、カメラ電源20は、直流12Vの電力をカメラ10に供給する。
制御装置30は、グラバーボード31、マザーボード32、SCSI Raidカード33、を備えている。なお、各構成については公知技術に従っているのでここではその詳細な説明は省略する。
【0026】
また、制御装置30は、図示しない周知のCPU、ROM、RAM、入出力回路であるI/Oおよびこれらの構成を接続するバスライン、入力操作からの信号の処理を行なう信号処理回路、外部の表示部を制御するための信号出力回路等を備えている。CPUは、ROMおよびRAMに記憶された制御プログラムおよびデータにより制御を行なう。ROMは、プログラム格納領域とデータ記憶領域とを有している。プログラム格納領域には制御プログラムが格納され、データ記憶領域には制御プログラムの動作に必要なデータが格納されている。また、制御プログラムは、RAM上にてワークメモリを作業領域とする形で動作する。
【0027】
また、制御装置30は、後述するひび割れ検査処理を実行することにより、カメラ10から受け取った撮影画像を分析して画像処理を実行する。
HDD40は、不揮発性メモリで構成され、各種データを記憶するのに利用される。なお、HDD40には、高速処理を可能とするために、Raid0方式でデータが記憶される。
【0028】
メタルハライド照明50は、カメラ10の撮影における照明手段であり、その照射光はライトガイド60によって導かれる。
なお、カメラ10は撮影手段に該当する。また、制御装置30は画像処理手段に該当する。また、HDD40は記憶手段に該当する。
【0029】
[ひび割れ検査処理の説明]
次に、トンネル覆工のひび割れ検査装置1の制御装置30が実行するひび割れ検査処理を、図2のフローチャートを参照して説明する。
【0030】
まず、ステップ(以下S)1では、画像の位置合わせを行う。具体的には、今回の撮影画像と前回撮影画像または基準撮影画像との間において、切り出した画像の領域ごとを濃淡度の比較により一番差の少なくなるところ探す手法で画像の位置を合わせる。
【0031】
まず、図3(a)に例示するように、各画像を正方形の升目(ピクセル)の集合体となるよう分割する。そして、画像の左上のピクセルを原点とし、縦のピクセルを上からy=0,1,2…とし、横のピクセルを上からx=0,1,2…とする。
【0032】
そして、画像全体の濃淡度の平均値を算出する。例えば、一枚目の画像の濃淡度の平均値は数値「2」となり、例えば、二枚目の画像の濃淡度の平均値は数値「7」となる(図3(a)参照)。
【0033】
続いて、画像の各ピクセルの濃淡度から画像全体の濃淡度の平均値を除算する(図3(b)参照)。このことにより、撮影時の明るさの偏りが取り除かれる。
続いて、二枚の画像において、同じ特徴を持つ部位を探索して特定する。すなわち、上述の明るさの偏りが無くなった同条件の二枚の画像の濃淡を比較するために、一枚目の画像の濃淡度から二枚目の画像の同じ位置の濃淡度を除算する。なお、図3(c)に、(y=1、x=1)の位置のピクセルを中心に計算した場合を示す。そして、計算した各ピクセルの濃淡度を自乗して足し合わせた値を、その位置の値とする。図3(c)の例では次の式(A)のような計算となる。
【0034】
【数1】

なお、比較するピクセルが存在しない場合には、仮に値「0」として計算を行う(図3(d)および図3(e)参照)。この図3(e)の例では次の式(B)のような計算となる。
【0035】
【数2】

以上のように全ピクセルについて値を計算する(図3(f)参照)。
【0036】
なお、同じ特徴を持つ部位を探索するために一枚目の画像の各ピクセルに、二枚目の画像の中心部(x=1、y=1)を順に移動させ、二枚目の画像と重なるピクセル部分のみを比較すると、その結果、濃淡度の差が最も小さいピクセルを中心にしたときが、最も近い特徴を持つと特定することができる。この場合、ピクセルをx方向にもy方向にも一画素ずつずらして比較を行った結果、一枚目の画像の(x=1、y=1)を中心とした場合が二枚目の画像と最も近い特徴を持つと特定する(図4(a)および図4(b)参照)。そして、ずれ量(dx、dy)とするとき、次の式(C)において変数Wを最小値とするずれ量(dx、dy)を算出する(図4(c)参照)。
【0037】
【数3】

続くS2では、特徴抽出アルゴリズムにより、撮影画像中に存在する形状・大きさ等の特徴のある箇所をパターンマッチング手法により抽出して削除する。この際、ケーブルの輝度が緩やかに変化することに着目して、ケーブルやパネルの継目、照明などのトンネル内で規則的に配置されている物体を排除する。そして、細くて長いものを「ひび割れらしきもの」と推定して残す。
【0038】
以下に、特徴抽出アルゴリズムについて例を挙げて説明する。垂直線および水平線に着目してコンクリートパネルの継目を抽出し(図5(a)参照)、垂直線および水平線を消去する(図5(b)参照)。また、図5(c)に例示するようなケーブルについては、ケーブルの上側の境界、下側の境界または中心線の何れかが強く光ることに着目して画像の微分値の極めて大きな箇所を抽出し(図5(d)参照)、その抽出した箇所を膨張させる(図5(e)参照)。そして、その膨張させた領域を消去する。また、図6(a)に例示するような金具については、金具が部分的に強く光ることに着目して強く光る部分を抽出し(図6(b)参照)、その抽出した部分を膨張させる(図6(c)参照)。そして、その膨張させた領域を消去する。また、図7(a)に例示するようなコケや汚れについては、コケや汚れが付着した部分が広範囲で照度が暗くなることに着目して水平方向の平均輝度より閾値分だけ暗い箇所を抽出し(図7(b)参照)、その抽出した部分を収縮させた後に膨張させて一定面積以上の領域を抽出する(図7(c)参照)。そして、その抽出した部分を膨張させる(図7(d)参照)。そして、その膨張させた領域を消去する。
【0039】
続くS3では、デジタルフィルタ処理を実行する。具体的には、ケーブルや、等間隔で発生するコンクリートの打設による施工継目、照明などのトンネル内で規則的に配置されている物体をデジタルフィルタにより排除する。そして、細くて長いものを「ひび割れらしきもの」と推定して残す。
【0040】
以下に、デジタルフィルタ処理について例を挙げて説明する。図8(a)に例示するような画像から、次の式(D)で示されるような二次元FIRフィルタを用いて、繰り返しパターンおよびノイズを画像から消去する(図8(b)参照)。
【0041】
【数4】

なお、S2の特徴抽出アルゴリズムおよびS3のデジタルフィルタが互いに補完し合うことで、規則的に配置されている物体をより効果的に排除するとともに、「ひび割れらしきもの」をより効果的に推定する。
【0042】
続くS4では、ニューラルネットワークやサポートベクターマシーンという人口知能による学習機能を用いてひび割れ箇所を抽出する。ここでは、一般的なひび割れの形状を記憶しておき、画像中の「ひび割れらしきもの」と比較して「ひび割れ」を抽出する。なお、このひび割れの形状のパターンについては追加登録することができる。ここで、S4の学習機能で撮影画像からひび割れが抽出されない場合には、以後のステップを実行せずに本処理を終了する。一方、S4の学習機能で撮影画像からひび割れが抽出された場合には、S5に移行する。
【0043】
S5では、線分強調フィルタ処理を実行する。具体的には、この線分強調フィルタ処理では、図9(a)に例示するような画像中のある範囲の太さを有する線分だけを強調するにより、S4で抽出したひび割れを強調する(図9(b)参照)。
【0044】
続くS6では、画像相関を実行する。具体的には、いわゆるドットマッチングを行い、今回の撮影画像(図10(a)参照)と前回撮影画像または基準撮影画像(図10(b)参照)との間で画像相関を図り、基準画像もしくは前後画像の画像相関により位置ずれ補正を行うとともに相違点を抽出して相互相関関数で計算する(図10(c)参照)。この際、相違点を強調するとともに、全体的な画像の明暗を無視してひび割れの輪郭などを合わせるようにする。
【0045】
なお、S6の代わりに2値化処理(S11)を実行してもよい。2値化により必要な情報以外を削除することができる。
続くS7では、膨張処理を実行するにより、ひび割れの切れ目を繋ぐ。
【0046】
続くS8では、収縮処理を実行することにより、ひび割れの切れ目を繋ぐ。
続くS9では、ベクトル化処理を実行することにより、ひび割れの面積、長さ、曲率、フラクタル次元などを数値化する。
【0047】
続くS10では、数値化したものをグラフ化し、進展したひび割れを読み取る。本実施形態では、3回以上の抽出結果を用いてひび割れの進展具合を判断する。これは次のような理由による。すなわち、なお、2回の抽出結果を用いてひび割れの進展具合の傾向からひび割れ進展の有無を確認しても効果を挙げることができるが、このように2枚の画像でひび割れ進展の有無を検査すると、撮影画像が場合によって進展しているように見えたり、逆に縮んだりしているように見える可能性がある。そこで、本実施形態では、3回以上の抽出結果に基づく相違点の進展具合の傾向からひび割れ進展の有無を確認する(図11参照)。なお、図11(a)はひび割れが進展しているケースを示し、図11(b)はひび割れが進展していないケースを示す。また、4回以上の抽出結果を用いてひび割れの進展具合の傾向からひび割れ進展の有無を確認してもよい。なお、グラフを図示しない表示装置に表示させてもよい。
【0048】
そして、本処理を終了する。
[試験結果について]
図12は、予めトンネル覆工の内壁に貼付した6枚の解像度チャートの撮影画像から、横軸を縞模様の間隔とし、縦軸に縞模様の白黒部分の輝度差とした表である。撮影画像に存在するひび割れを自動抽出するためには、25以上の輝度差が必要であることが別途判明していることから、輝度差25に対応する解像度チャートの分解能については、2.5mm〜3.0mmまでの間であることが判る。なお、同図には他に比べて輝度差が大きいデータが含まれるが、これは反射率が高い解像度チャート用紙によるものである。この結果は、更に照度を挙げることにより解像度が向上する可能性を示唆したものと考えられる。
【0049】
また、今後、ひび割れ自動抽出後の画像を重ね合わせることにより、ひび割れの進展を抽出できるか否かを検討するにあたり、車両の振動が影響するか否かを判断するため、以下の検討を行った。図13は、撮影画像に含まれるケーブル等で列車進行方向の直線状被写体に対して車両の振動によって生じる進行方向に直交する成分の座標を取り、フーリエ変換を行った結果を示す。縦軸は振動の強度を表し、横軸は振動周期を表す。同図により、車両の振動の影響は30mmよりも長い長周期側に集中していることがわかる。なお、長周期の振動については、画像解析の段階で比較的処理しやすいことが別途判明しており、列車振動の撮影画像への影響が軽減される。
【0050】
[第一実施形態の効果]
(1)このように第一実施形態のトンネル覆工のひび割れ検査装置1によれば、撮影画像からひび割れを抽出するとともに、連続撮影した撮影画像の間で位置合わせを行うとともに画像相関を行ってひび割れの相違点を抽出し、その抽出した相違点に基づいてトンネル覆工の内壁のひび割れの進展の有無を検査する。このことにより、トンネル覆工に発生するひび割れの進展の有無を高精度で検査するとともに、その検査周期を短縮することができる。したがって、トンネル覆工のコンクリート剥落に対する安全性を向上させることができる。また、営業時間帯に撮影ができることから、この点でも検査周期が短縮され、安全性が高まる。また、トンネル覆工のひび割れ抽出を行うための専用車両を用意する必要がなく、既存の車輌を使うことができる。
【0051】
(2)また、第一実施形態のトンネル覆工のひび割れ検査装置1によれば、特徴抽出アルゴリズムにより、撮影画像中に存在する形状・大きさ等の特徴のある箇所をパターンマッチング手法により抽出して削除するとともに(S2)、ケーブルや、等間隔で発生するコンクリートの打設による施工継目、照明などのトンネル内で規則的に配置されている物体をデジタルフィルタにより排除する(S3)。このことにより、ひび割れの進展の有無を検査する精度をより高めることができる。
【0052】
(3)また、第一実施形態のトンネル覆工のひび割れ検査装置1によれば、ニューラルネットワークやサポートベクターマシーンという人口知能による学習機能を用いてひび割れ箇所を抽出する(S4)。具体的には、一般的なひび割れの形状を記憶しておき、画像中の「ひび割れらしきもの」と比較して「ひび割れ」を抽出する。このことにより、ひび割れの進展の有無を検査する精度をより高めることができる。
【0053】
(4)また、第一実施形態のトンネル覆工のひび割れ検査装置1によれば、上述の人口知能による学習機能に用いられるひび割れの形状のパターンについては追加登録可能であるので、ひび割れの進展の有無を検査する精度をより高めることができる。
【0054】
(5)また、第一実施形態のトンネル覆工のひび割れ検査装置1によれば、線分強調フィルタ処理により、抽出されたひび割れを強調する処理を行う(S5)。このように抽出したひび割れを強調することで、ひび割れ部分の境界がより明確になり、ひび割れの進展を検査しやすくすることができる。
【0055】
(6)また、第一実施形態のトンネル覆工のひび割れ検査装置1によれば、S4の学習機能で撮影画像からひび割れが抽出されない場合には、以後のステップを実行せずに本処理を終了し、一方、S4の学習機能で撮影画像からひび割れが抽出された場合にはS5に移行して線分強調フィルタ処理を実行する。このことにより、余分な処理を実行しないことで、画像処理手段の処理負担を軽減することができ、画像処理全体の処理時間を短縮することができる。
【0056】
(6)また、第一実施形態のトンネル覆工のひび割れ検査装置1によれば、S10の処理において、3回以上の抽出結果に基づく相違点の進展具合の傾向からひび割れ進展の有無を確認する。このことにより、例えば、2枚の画像でひび割れ進展の有無を検査する場合のように、撮影画像が場合によって進展しているように見えたり、逆に縮んだりしているように見えたりする可能性が少なくなり、ひび割れの進展の有無を検査する精度を高めることができる。
【0057】
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、以下のような様々な態様にて実施することが可能である。
【0058】
(1)上記実施形態では、ひび割れ検査処理において、画像位置合わせ処理(S1)、特徴抽出アルゴリズム処理(S2)、デジタルフィルタ処理(S3)、学習機能(S4)、線分強調フィルタ処理(S5)、および画像相関処理(S6、または2値化処理(S11))、をこの順に実行するが、これには限られず、図14に例示するように、これら各処理を他の順序で実行するようにしてもよい。一例を挙げると、図14(a)に例示するように、特徴抽出アルゴリズム処理、デジタルフィルタ処理、学習機能、線分強調フィルタ処理、画像位置合わせ処理、画像相関処理、2値化処理の順に実行するといった具合である。他にも様々な順序が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】トンネル覆工のひび割れ検査装置の概略構成図である。
【図2】ひび割れ検査処理を説明するフローチャートである。
【図3】画像の位置合わせを説明する説明図(1)である。
【図4】画像の位置合わせを説明する説明図(2)である。
【図5】特徴抽出アルゴリズムを説明する説明図(1)である。
【図6】特徴抽出アルゴリズムを説明する説明図(2)である。
【図7】特徴抽出アルゴリズムを説明する説明図(3)である。
【図8】デジタルフィルタ処理を説明する説明図である。
【図9】線分強調処理を説明する説明図である。
【図10】画像相関処理を説明する説明図である。
【図11】ひび割れの進展具合を示す表であり、(a)はひび割れが進展しているケースを示し、(b)はひび割れが進展していないケースを示す。
【図12】予めトンネル覆工の内壁に貼付した6枚の解像度チャートの撮影画像から、横軸を縞模様の間隔とし、縦軸に縞模様の白黒部分の輝度差とした表である。
【図13】撮影画像に含まれるケーブル等で列車進行方向の直線状被写体に対して車両の振動によって生じる進行方向に直交する成分の座標を取り、フーリエ変換を行った結果を示す。
【図14】ひび割れ検査処理の他の実施形態を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0060】
1…トンネル覆工のひび割れ検査装置、10…カメラ、20…カメラ電源、30…制御装置、31…グラバーボード、32…マザーボード、33…Raidカード、40…HDD、50…メタルハライド照明、60…ライトガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル覆工の内壁に発生するひび割れの進展の有無を検査するトンネル覆工のひび割れ検査装置であって、
前記内壁全周を平面的に連続して撮影する撮影手段と、
前記撮影画像によって撮影した撮影画像を記憶する記憶手段と、
前記記憶手段が記憶する撮影画像からひび割れを抽出するとともに、前記記憶手段が記憶する連続撮影した撮影画像の間または前記記憶手段が記憶する撮影画像と前記内壁のひび割れの進展状況を判断する際に基準とするための基準画像の間の少なくとも何れか一方で位置合わせを行うとともに画像相関を行ってひび割れの相違点を抽出し、その抽出した相違点に基づいて前記内壁のひび割れの進展の有無を検査する画像処理手段と、
を備えることを特徴とするトンネル覆工のひび割れ検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載のトンネル覆工のひび割れ検査装置において、
前記画像処理手段は、前記撮影画像からひび割れを抽出する際には、前記撮影画像から前記トンネル覆工の内壁に規則的に配置されている物体の画像を抽出し、その抽出した画像を前記撮影画像から削除することを特徴とするトンネル覆工のひび割れ検査装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のトンネル覆工のひび割れ検査装置において、
前記画像処理手段は、一般的なひび割れの形状を記憶しており、その記憶するひび割れの形状と比較することで前記撮影画像からひび割れを抽出することを特徴とするトンネル覆工のひび割れ検査装置。
【請求項4】
請求項3に記載のトンネル覆工のひび割れ検査装置において、
前記画像処理手段は、一般的なひび割れの形状を追加登録可能であることを特徴とするトンネル覆工のひび割れ検査装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載のトンネル覆工のひび割れ検査装置において、
前記画像処理手段は、前記抽出されたひび割れを強調する処理を行うことを特徴とするトンネル覆工のひび割れ検査装置。
【請求項6】
請求項3〜請求項5の何れかに記載のトンネル覆工のひび割れ検査装置において、
前記画像処理手段は、前記撮影画像からひび割れが抽出された場合には前記画像相関を行い、一方、前記撮影画像からひび割れが抽出されなかった場合には前記画像相関を行わないことを特徴とするトンネル覆工のひび割れ検査装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2009−133085(P2009−133085A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−308902(P2007−308902)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【出願人】(597028081)株式会社メガトレード (27)
【Fターム(参考)】