説明

トンネル覆工コンクリート打設方法及び打設構造

【課題】材料や施工に多くの無駄を生じることなく、簡易な構成でトンネル冠部の覆工コンクリートを効率良く効果的に締固めることのできるトンネル覆工コンクリート打設方法を提供する。
【解決手段】覆工空間23にコンクリートを充填打設すると共に、棒状バイブレータ20を振動させながらバイブレータケーブル19を牽引して、当該バイブレータケーブル19が最も外径の小さな第1中空パイプ17aに棒状バイブレータ20を飛び出させたまま係止された状態から、第1中空パイプ17aを、次に外径の大きな第2中空パイプ17bに、第1中空パイプ17aが第2中空パイプ17bに係止されるまで挿入し、さらにバイブレータケーブル19を牽引して、第1中空パイプ17aが挿入された第2中空パイプ17bを、次に外径の大きな第3中空パイプ17cに、第2中空パイプ17bが第3中空パイプ17cに係止されるまで挿入する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル覆工用型枠を用いて覆工コンクリートを形成するトンネル覆工コンクリート打設方法、及び該覆工コンクリート打設方法に用いるトンネル覆工コンクリート打設構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば山岳トンネル工法等のトンネル工法において、掘削したトンネルの内周面の地山を覆って構築されるトンネル覆工コンクリートを形成するための方法として、トンネル覆工用型枠(コンクリート覆工用型枠)を用いる工法が一般的に採用されている。トンネル覆工用型枠50は、図9(a),(b)に示すように、例えば馬蹄形等のアーチ形状部分52を含む形状のトンネル53の内周面54に沿って、トンネル53の側壁部55から上部に亘って設置されるものであり、設置されたトンネル覆工用型枠50と、トンネル53の内周面54の吹き付けコンクリート56によって覆われる地山との間の空間部61に、好ましくは無筋コンクリートを打設して硬化させることにより、トンネル底部のインバート部51のコンクリートと連続させるようにして、覆工コンクリートが形成されることになる。
【0003】
また、トンネル覆工用型枠50としては、例えばパラセントルと呼ばれる組立式のトンネル覆工用型枠の他、スライドセントルと呼ばれる移動式のトンネル覆工用型枠が知られており、トンネル53の掘削作業の進行に伴なって、例えば10m程度の所定のスパン毎にトンネル覆工用型枠50を据え付け直しながら、トンネル53の掘進方向の後方から前方に向かって、トンネル覆工用型枠50を用いてトンネル53の側部及び上部の覆工コンクリートを順次打設形成して行くことになる。
【0004】
そして、トンネル覆工用型枠50を用いてトンネルの側部及び上部の覆工コンクリートを打設するには、例えば図10(a)〜(d)に示すように、設置したトンネル覆工用型枠50に設けられた検査窓56からコンクリートを打設可能な高さ領域として、例えばトンネル53の側壁部55からアーチ形状部分52の肩部までの領域に対しては、検査窓56を介してコンクリート57を供給すると共に、バイブレータ58を検査窓56から挿入し、供給されたコンクリート57を締固めながらコンクリート57を打設する。しかる後に、検査窓56からコンクリート57を供給しながらバイブレータ58によって締固めることが困難な高さ領域として、トンネル53の冠部(クラウン部)59(図9参照)の領域に対しては、トンネル覆工用型枠50の天端部に設けた吹き上げ口としてのコンクリート打設孔60から、コンクリートを吹き上げ方式で打ち込み、締固めを行うことなく冠部59のコンクリート57を形成するパターンが採用されている。
【0005】
より具体的には、所定位置にトンネル覆工用型枠50を設置した後に、例えば側壁部55の下部より、下段の検査窓56を介してコンクリート57を流し込みながらバイブレータ58を用いて締固める工程(図10(a)参照)と、さらに側壁部55の上部のアーチ形状部分52に向かって、中段の検査窓56を介してコンクリート57を流し込みながらバイブレータ58を用いて締固める工程(図10(b)参照)と、さらにアーチ形状部分52の冠部59の手前まで、上段の検査窓56及び必要に応じてコンクリート打設孔60を介してコンクリート57を流し込みながら、バイブレータ58を用いて締固める工程(図10(c)参照)と、冠部59の既設覆工コンクリート62側の部分からコンクリート打設孔60を介して順次コンクリート57を流し込み、締固めを行うことなく妻型枠63までコンクリートを充填する工程(図10(d)参照)とにより、覆工コンクリートが打設されることになる。
【0006】
上述のような従来のトンネル覆工用型枠50を用いた覆工コンクリートの打設方法では、トンネル冠部(クラウン部)59に打設されたコンクリート57の締固めを行うことができないことから、当該冠部59における覆工コンクリートの品質上の信頼性が低くなり、特に既設覆工コンクリート62の付近では、エア溜まりや空洞が発生しやすくなる。また、吹き上げ口としてのコンクリート打設孔60から集中してトンネル覆工用型枠50と地山との間の空間61にコンクリート57が打設されるので、コンクリート57がコンクリート打設孔60から周囲に流れる際の軌跡が縞模様として覆工コンクリートの表面に残りやすくなり、仕上りが悪くなる。
【0007】
これに対して、トンネル冠部に打設されたコンクリートの締固めを行うことができるようにする技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の覆工コンクリート打設方法では、山岳トンネル工法とは異なるシールド工法によってトンネルを築造する際に、セグメントとセントルとの間の空隙のクラウン部に、トンネル軸方向の略全長に亘って延伸する、断面L型のアングルを凹向きに吊り下げ固定してなるガイドレールと、ガイドレールに沿って動く棒状バイブレータとを設置しておき、既設側からクラウン部の空隙にコンクリートを棒状バイブレータで締固めつつ打設し、コンクリートの充填に伴って、棒状バイブレータをガイドレールに沿って既設側から妻板側に向けて移動させるようにしたものである。また、特許文献1の覆工コンクリート打設方法では、ガイドレールは例えば二次覆工コンクリートの段取筋を兼ねて設けられるようになっている。
【特許文献1】特開2002−30893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のトンネルのクラウン部にコンクリートを打設する方法では、棒状バイブレータをトンネル軸方向に案内するL型のアングルからなるガイドレールを、コンクリート中に残置される埋殺し部材として、コンクリートの打設箇所におけるトンネルの軸方向の略全長に亘って予め設けておく必要があるため、段取筋等を設置することなく好ましくは無筋コンクリートを用いて覆工コンクリートが形成されるトンネル覆工用型枠による山岳トンネル等においては、その材料や施工に多くの無駄を生じることになる。
【0009】
また、特許文献1に記載の打設方法では、例えばクラウン部の空隙にコンクリートを供給するコンクリート打設孔の位置を取り替えつつ、棒状バイブレータを移動させながら新たに打設されたコンクリートをその都度締固めて行く場合には、コンクリート中に埋入されるバイブレータケーブルの長さがそれ程長くなく、バイブレータケーブルを牽引しつつ棒状バイブレータを移動させることが容易である。しかしながら、例えばコンクリートの打設箇所におけるクラウン部の空隙の全体にコンクリートを先行して充填打設した後に、既設覆工コンクリートの近傍部分に配置した棒状バイブレータを、当該打設箇所の略全長に亘ってコンクリート中に埋入されたバイブレータケーブルを介して、妻板側に牽引しながら移動させてコンクリートを締固めて行く場合には、バイブレータケーブルとコンクリートとの間に大きな摩擦力(付着力)を生じて、牽引時の引抜抵抗が過大となり、棒状バイブレータを移動できなくなったり、バイブレータケーブルに破断や損傷を生じるおそれがある。
【0010】
本発明は、このような従来の課題に着目してなされたものであり、材料や施工に多くの無駄を生じることなく、簡易な構成で、トンネル覆工用型枠を用いて形成される特にトンネル冠部の覆工コンクリートを効率良く効果的に締固めることができると共に、覆工空間の全長に亘ってコンクリートを充填打設した後に棒状バイブレータによってコンクリートを締固める場合でも、バイブレータケーブルを妻型枠側に牽引する際の引抜抵抗を効果的に抑制して、棒状バイブレータをスムーズに移動させることのできるトンネル覆工コンクリート打設方法及びトンネル覆工コンクリート打設構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、トンネル覆工用型枠を用いて覆工コンクリートを形成するトンネル覆工コンクリート打設方法において、既に形成された既設覆工コンクリートの端面と妻型枠とによって挟まれる、前記トンネル覆工用型枠の外周面とトンネル内周の覆工面との間の覆工空間に、外径の異なる複数の中空パイプからなり、外径の小さな方の中空パイプを外径の大きな方の中空パイプに順次スライド可能に挿入して全体の長さを伸縮可能とした多段中空パイプを、外径の小さな方の中空パイプを前記既設覆工コンクリート側に配設してトンネルの軸方向に伸ばした状態で取り付けると共に、棒状バイブレータを多段中空パイプの前記既設覆工コンクリート側の端部から飛び出させて配設し、且つ該棒状バイブレータの後端部分に後続するバイブレータケーブルを、前記多段中空パイプに内挿して前記妻型枠側に延設させ、当該妻型枠を貫通させて配設することにより前記妻型枠の外側から牽引可能とし、前記覆工空間にコンクリートを充填打設すると共に、前記棒状バイブレータを振動させながら前記バイブレータケーブルを牽引して、当該バイブレータケーブルが最も外径の小さな第1中空パイプに前記棒状バイブレータを飛び出させたまま係止された状態から、前記第1中空パイプを、次に外径の大きな第2中空パイプに、当該第1中空パイプが前記第2中空パイプに係止されるまで挿入し、さらに前記バイブレータケーブルを牽引して、前記第1中空パイプが挿入された前記第2中空パイプを、次に外径の大きな第3中空パイプに、当該第2中空パイプが前記第3中空パイプに係止されるまで挿入する工程を含み、前記覆工空間に充填打設されたコンクリートを、外径の小さな方の中空パイプを外径の大きな方の中空パイプに順次挿入して多段中空パイプを収縮させながら、前記既設覆工コンクリート側の部分から前記妻型枠側に向けて締固めてゆくトンネル覆工コンクリート打設方法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0012】
また、本発明のトンネル覆工コンクリート打設方法によれば、前記バイブレータケーブルは、前記棒状バイブレータを前記多段中空パイプの前記既設覆工コンクリート側の端部から直線状に飛び出させた状態で、前記第1中空パイプの前記第2中空パイプ側の基端部において前記第1中空パイプに係止されることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明のトンネル覆工コンクリート打設方法によれば、前記覆工空間は、トンネル冠部の覆工空間であることが好ましい。
【0014】
そして、本発明は、上記トンネル覆工コンクリート打設方法に用いるトンネル覆工コンクリート打設構造であって、既に形成された既設覆工コンクリートの端面と妻型枠とによって挟まれる、前記トンネル覆工用型枠の外周面とトンネル内周の覆工面との間の覆工空間に、外径の異なる複数の中空パイプからなり、外径の小さな方の中空パイプを外径の大きな方の中空パイプに順次スライド可能に挿入して全体の長さを伸縮可能とした多段中空パイプを、外径の小さな方の中空パイプを前記既設覆工コンクリート側に配設してトンネルの軸方向に伸ばした状態で取り付けると共に、棒状バイブレータを多段中空パイプの前記既設覆工コンクリート側の端部から飛び出させて配設し、且つ該棒状バイブレータの後端部分に後続するバイブレータケーブルを、前記多段中空パイプに内挿して前記妻型枠側に延設させ、当該妻型枠を貫通させて配設することにより前記妻型枠の外側から牽引可能としたトンネル覆工コンクリート打設構造を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のトンネル覆工コンクリート打設方法又はトンネル覆工コンクリート打設構造によれば、 材料や施工に多くの無駄を生じることなく、簡易な構成で、トンネル覆工用型枠を用いて形成される特にトンネル冠部の覆工コンクリートを効率良く効果的に締固めることができると共に、覆工空間の全長に亘ってコンクリートを充填打設した後に棒状バイブレータによってコンクリートを締固める場合でも、バイブレータケーブルを妻型枠側に牽引する際の引抜抵抗を効果的に抑制して、棒状バイブレータをスムーズに移動させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の好ましい一実施形態に係るトンネル覆工コンクリート打設方法は、図1(a)〜(c)に示すように、例えば山岳トンネル工法において、コンクリート覆工用型枠としてのトンネル覆工用型枠10を用いてトンネル12の側部及び上部の覆工コンクリート11を打設形成してゆく際に、特にトンネル12の冠部(クラウン部)13の覆工コンクリート11aを、これより下方の例えばトンネル12の側壁部及びアーチ形状部分の覆工コンクリート11を打設した後に、充分に締固めながら打設してゆくための方法として採用されたものである。
【0017】
ここで、本実施形態では、トンネル覆工用型枠10は、従来技術として公知の例えばスライド移動式のセントルであり、トンネル12の掘削作業の進行に伴なって、例えば10m程度の所定のスパン毎にトンネル12の掘進方向Xの後方から前方に向かって据え付け直しながら、トンネル12の側部及び上部の覆工コンクリート11を順次打設形成してゆくことを可能にするものである。また、本実施形態では、側壁部及びアーチ形状部分の覆工コンクリート11は、例えば従来の工法と同様の方法により、設置したトンネル覆工用型枠10に設けられた検査窓14を介してコンクリートが供給されると共に、振動締固め装置としての棒状バイブレータ14aを検査窓14から挿入して供給されたコンクリートを締固めることによって、当該側壁部及びアーチ形状部分の覆工コンクリート11が、トンネル冠部13の覆工コンクリート11aに先行して打設されることになる。
【0018】
本実施形態のトンネル覆工コンクリート打設方法は、トンネル覆工用型枠10を用いてトンネル12の冠部13の覆工コンクリート11aを形成するためのコンクリート打設方法であって、図1及び図2に示すように、コンクリートの打設作業に先立って、まず、既に形成された既設覆工コンクリート15の端面15aと妻型枠16とによって挟まれる、トンネル覆工用型枠10の外周面とトンネル内周の覆工面22との間の覆工空間23に、外径の異なる複数(本実施形態では3本)の中空パイプ17a,17b,17cからなり、外径の小さな方の中空パイプ17a,17bを外径の大きな方の中空パイプ17b,17cに順次スライド可能に挿入して全体の長さを伸縮可能とした多段中空パイプ18(図2参照)を、外径の小さな方の中空パイプ17a,17bを既設覆工コンクリート15側に配設してトンネル12の軸方向Xに伸ばした状態で取り付けると共に、棒状バイブレータ20を多段中空パイプ18の既設覆工コンクリート15側の端部から飛び出させて配設し、且つ棒状バイブレータ20の後端部分に後続するバイブレータケーブル19を、多段中空パイプ18に内挿して妻型枠16側に延設させ、当該妻型枠16を貫通させて配設することにより妻型枠16の外側から牽引可能として、トンネル覆工コンクリート打設するための打設構造を、例えばトンネル覆工用型枠10の組み立て作業時に設置しておく。
【0019】
そして、本実施形態では、上述のトンネル覆工コンクリート打設構造がトンネル12の冠部13に設置された状態で、覆工空間23にコンクリートを充填打設すると共に(図1(c)参照)、図3〜図6に示すように、棒状バイブレータ20を振動させながらバイブレータケーブル19を牽引して、当該バイブレータケーブル19が最も外径の小さな第1中空パイプ17aに棒状バイブレータ20を飛び出させたまま係止された状態から(図3参照)、第1中空パイプ17aを、次に外径の大きな第2中空パイプ17bに、当該第1中空パイプ17aが第2中空パイプ17bに係止されるまで挿入する(図5参照)。しかる後に、さらにバイブレータケーブル19を牽引して、第1中空パイプ17aが挿入された第2中空パイプ17bを、次に外径の大きな第3中空パイプ17cに、当該第2中空パイプ17bが第3中空パイプ17cに係止されるまで挿入する(図6参照)。このようにして、覆工空間23に充填打設されたコンクリート11aを、外径の小さな方の中空パイプ17a,17bを外径の大きな方の中空パイプ17b,17cに順次挿入して多段中空パイプ18を収縮させながら、既設覆工コンクリート15側の部分から妻型枠16側に向けて締固めてゆくことにより、トンネル12の冠部13の覆工コンクリート11aが形成されることになる。
【0020】
多段中空パイプ18は、いわゆるテレスコピック構造を備えることにより、長さを伸縮可能なロッド状部材であり、本実施形態では、例えば鋼製パイプからなる第1中空パイプ17aと、第2中空パイプ17bと、第3中空パイプ17cとによって構成される。第1中空パイプ17aは、最も外径の小さな中空パイプであり、例えば5.6cmの外径を備えると共に、3.0mの長さを有している。また、第1中空パイプ17aは、バイブレータケーブル19を挿通可能な内径を備えると共に、その第2中空パイプ17b側の基端部分に、内径を縮径させてバイブレータケーブル19に設けた係止突起26を当接係止させる係止スリーブ21aが装着固定されている(図4参照)。
【0021】
第2中空パイプ17bは、第1中空パイプ17aの次に外径の大きな中空パイプであり、例えば6.6cmの外径を備えると共に、3.0mの長さを有している。また、第2中空パイプ17bは、第1中空パイプ17aを挿通可能な内径を備えると共に、その第3中空パイプ17c側の基端部分に、内径を縮径させて第1中空パイプ17aの端部を当接係止させる係止スリーブ21bが装着固定されている(図2参照)。
【0022】
第3中空パイプ17bは、最も外径の大きな中空パイプであり、例えば7.6cmの外径を備えると共に、3.0mの長さを有している。また、第3中空パイプ17bは、第2中空パイプ17aを挿通可能な内径を備えると共に、その妻型枠16側の基端部分に、内径を縮径させて第2中空パイプ17bの端部を当接係止させる係止スリーブ21cが装着固定されている(図2参照)。
【0023】
なお、これらの中空パイプ17a,17b,17cには、その先端部内周面に沿って、これらに挿通される第1中空パイプ17a、第2中空パイプ17b、又はバイブレータケーブル19の外周面との間の隙間をシールする、例えばシールリング(図示せず。)が適宜の位置に設けられている。また、これらの中空パイプ17a,17b,17cの基端部外周面や、先端部内周面には、多段中空パイプ18を伸張させた際に、外径の小さな方の中空パイプ17a,17bが外径の大きな方の中空パイプ17b,17cから脱落するのを防止する、例えばストッパー突起(図示せず。)が適宜の位置に設けられている。
【0024】
多段中空パイプ18の既設覆工コンクリート15側の端部から飛び出して配設される棒状バイブレータ20は、例えば電磁式振動体やモータの回転力によって振動する振動体等を内部に備える、コンクリート用の締固め装置として汎用されている公知の装置であり、当該棒状バイブレータ20の後端部分に接続される、導体等が収容されたフレキシブルな動力供給ホースからなるバイブレータケーブル19と一体として構成される。
【0025】
バイブレータケーブル19は、図7に示すように、例えば8mmの太さのワイヤー19aを、内径9.2mm、外径12mmのポリアミドチューブ19bで覆うと共に、ポリアミドチューブ19bの外周面に、導体19cと介在紐19dとを6本づつ周方向に交互に配置し、さらにこれらを外径が21.8mmのシース(外皮)19eで覆った後に、油圧ホース19fで被覆して形成される、外径が例えば37.2mmの公知のケーブル部材であり、覆工空間23に充填打設されたコンクート11a中に埋入される当該バイブレータケーブル19や中空パイプ17a,17b,17cを、コンクート11との摩擦力(付着力)に抗して、棒状バイブレータ20と共に妻型枠16側に牽引するのに十分な引張り強度を備えている。
【0026】
また、バイブレータケーブル19には、棒状バイブレータ20との接続部分から第1中空パイプ17aの長さに相当する例えば3.0m程度離れた位置に、外周面から外側に突出して、係止突起26が、例えばバイブレータケーブル19をかしめることによって設けられている(図2、図4参照)。バイブレータケーブル19を牽引して、この係止突起26を、第1中空パイプ17aの基端部分に設けた係止スリーブ21aに当接係止させることにより、図3に示すように、棒状バイブレータ20が、多段中空パイプ18の既設覆工コンクリート15側の端部から直線状に飛び出した状態で、位置決めされることになる。
【0027】
なお、バイブレータケーブル19は、第1中空パイプ17aの先端部分で多段中空パイプ18に係止して、棒状バイブレータ20を多段中空パイプ18と直線状に位置決めすることも可能であるが、上述のように、バイブレータケーブル19を第1中空パイプ17aの基端部分で当該第1中空パイプ17aに係止することにより、バイブレータケーブル19の牽引によって第1中空パイプ17aを妻型枠16側に移動させる際に、第1中空パイプ17aには先端側からの圧縮力は負荷されなくなるので、より合理的に、安定した状態で第1中空パイプ17aを移動させることが可能になる。
【0028】
本実施形態では、図1(b)に示す、トンネル12の側壁部及びアーチ形状部分の覆工コンクリート11を打設形成した後の、多段中空パイプ18によるトンネル覆工コンクリート打設構造が設置されたトンネル12の冠部(クラウン部)13の覆工空間23に対して、例えば図1(c)示すように、コンクリートポンプをコンクリート打設孔24に接続して、当該コンクリート打設孔24からコンクリートを充填打設する。
【0029】
なお、本実施形態では、図1(a)に示す、トンネル12の側壁部及びアーチ形状部分の覆工コンクリート11を打設する工程においては、多段中空パイプ18の既設覆工コンクリート側15の端部から飛び出して配設された棒状バイブレータ20を、トンネル覆工用型枠10に取り付けた滑車27(図2参照)を介して下方に誘導すると共に、バイブレータケーブル19を送り出して、側壁部やアーチ形状部分に吊り下げて配設し、側壁部やアーチ形状部分に打設されたコンクリートの上昇に伴って、バイブレータケーブル19を牽引しつつ棒状バイブレータ20を上方に移動して行くことにより、トンネル12の側壁部及びアーチ形状部分の覆工コンクリート11の締固め作業に用いることもできる。また、トンネル12の側壁部及びアーチ形状部分の覆工コンクリート11を打設し終わったら、例えばトンネル覆工用型枠10の天端部分に設けた検査窓からの作業によって滑車27を取り外すと共に、バイブレータケーブル19を牽引して、図3に示すように、棒状バイブレータ20を多段中空パイプ18の先端に直線状に連設するように配置する。
【0030】
トンネル12の冠部13の覆工空間23にコンクリートを充填打設したら、図1(c)に示すように、コンクリート打設孔24やその他の打設口から必要に応じてコンクリートを追加打設しつつ、棒状バイブレータ20を震動させながら、例えばコード巻取り装置25の牽引力によってバイブレータケーブル21を牽引することにより、棒状バイブレータ20を妻型枠16側に移動させる。
【0031】
ここで、多段中空パイプ18を構成する中空パイプ17a,17b,17cは、略同じ長さでコンクリート中に埋入されており、既設覆工コンクリート15側の先端部分に配設された第1中空パイプ17aは、他の中空パイプ17b,17cよりも外径が小さく、コンクリートとの付着力も小さくなっていることから、バイブレータケーブル19の牽引により、図5に示すように、外径の大きな2本の中空パイプ17b,17cに先行して、当該第1中空パイプ17aのみが、これの端部が第2中空パイプ17bの基端部分の係止スリーブ21bに当接するまで第2中空パイプ17bに挿入されてゆく。
【0032】
第1中空パイプ17aが第2中空パイプ17bに挿入されたら、さらにバイブレータケーブル19を牽引して、第3中空パイプ17cよりも外径が小さく、コンクリートとの付着力も小さい第2中空パイプ17bのみを、図6に示すように、これの端部が第3中空パイプ17cの基端部分の係止スリーブ21cに当接するまで第3中空パイプ17cに挿入してゆく。
【0033】
しかる後に、第2中空パイプ17b及び第1中空パイプ17aが内側に重ねて挿入された第3中空パイプ17cを、例えば妻型枠16への固定状態を解除し、妻型枠16に設けられた引抜き孔16aを介して、バイブレータケーブル19の牽引により棒状バイブレータ20と共に覆工空間23から撤去することにより、トンネル覆工用型枠10が設置された当該スパンにおける覆工コンクリート11の打設作業が終了する。
【0034】
そして、本実施形態によれば、材料や施工に多くの無駄を生じることなく、簡易な構成で、トンネル覆工用型枠10を用いて形成される特にトンネル12の冠部13の覆工コンクリート11aを効率良く効果的に締固めることができると共に、覆工空間23の全長に亘ってコンクリートを充填打設した後に棒状バイブレータ20によってコンクリートを締固める場合でも、バイブレータケーブル19を妻型枠16側に牽引する際の引抜抵抗を効果的に抑制して、棒状バイブレータ20をスムーズに移動させることが可能になる。
【0035】
すなわち、本実施形態では、外径の異なる第1中空パイプ17a、第2中空パイプ17b、及び第3中空パイプ17cからなる、先端に棒状バイブレータ20を飛び出させて配置した多段中空パイプ18を覆工空間23に配置し、覆工空間23にコンクリートを充填打設した後に、バイブレータケーブル21の牽引によって、既設覆工コンクリート15側の外径の小さな第1中空パイプ17aや第2中空パイプ17bを、順次第2中空パイプ17bや第3中空パイプ17cに挿入しながら棒状バイブレータ20を妻型枠16側に移動してコンクリートの締固めを行うので、特に多段中空パイプ18が覆工空間23から撤去した後に再利用可能なことから、棒状バイブレータを案内するL型のアングル等のガイドレールを、トンネル覆工用型枠によるスパンの略全長に亘って予め設置しておく方法と比較して、簡易な方法によって材料や施工に多くの無駄を生じることなく、効率良く覆工コンクリート11aを締固めてゆくことが可能になる。これによって、十分な締固めがなされた、品質が良く表面の仕上りが良好な覆工コンクリート11aを容易に得ることが可能になる。
【0036】
また、本実施形態によれば、多段中空パイプ18を3分割する第1中空パイプ17a、第2中空パイプ17b、及び第3中空パイプ17cを、バイブレータケーブル21の牽引によって各々妻型枠16側に移動させながら先端の棒状バイブレータ20によってコンクリートの締固めを行うので、各中空パイプ17a,17b,17cを移動させる際の、バイブレータケーブル21の牽引による引抜抵抗が、分割することなく既設覆工コンクリート15に近接する部分まで連続してコンクリート中に埋入した中空パイプやバイブレータケーブルを1度に引抜く場合と比較して、例えば1/3程度の引抜抵抗となるので、覆工空間23の全長に亘ってコンクリートを充填打設した後に棒状バイブレータ20を移動させつつコンクリートを締固める際の引抜抵抗を効果的に軽減して、棒状バイブレータ20をスムーズに移動させることが可能になる。
【0037】
ここで、コンクリートと中空パイプとの付着力をfkgf/cm2とした場合、引抜抵抗力を(各パイプの外周面積)×(付着力)とすると、外径5.6cm、長さ3.0mの第1中空パイプ17aの最大引抜抵抗力は52.8fkgf/cm2、外径6.6cm、長さ3.0mの第2中空パイプ17bの最大引抜抵抗力は62.2fkgf/cm2、外径7.6cm、長さ3.0mの第3中空パイプ17cの最大引抜抵抗力は71.6fkgf/cm2となる。これに対して、一般の外径5.6cm、長さ9.0mの中空パイプ17aの全体を妻型枠からコンクリート中に埋入した際の最大引抜抵抗力は158.46fkgf/cm2となる。このことから、第1中空パイプ17a、第2中空パイプ17b、及び第3中空パイプ17cに3分割して多段中空パイプ18を構成することにより、バイブレータケーブル21の牽引による引抜抵抗が大幅に軽減されることになり、本実施形態によって、棒状バイブレータ20をコンクリート中でスムーズに移動できるようになることが確認される。
【0038】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、本発明は、山岳トンネル以外のその他のトンネルにおける覆工コンクリートを形成するべく採用することもできる。また、トンネル覆工用型枠の外周面との間に覆工空間を形成するトンネルの内周面は、吹き付けコンクリートによって覆われる地山の他、1次覆工を行った後のトンネル内周面による、2次覆工を行うための覆工面であっても良い。さらに、本発明によって締固められる覆工コンクリートは、トンネル冠部の覆工コンクリートである必要は必ずしもなく、例えばトンネルの側壁部や肩部、アーチ形状部分等に多段中空パイプを配置して、本発明を適用することもできる。さらにまた、多段中空パイプは、3本の中空パイプからなる多段中空パイプである必要は必ずしもなく、4本以上の中空パイプからなる多段中空パイプであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】(a)〜(c)は、本発明の好ましい一実施形態に係るトンネル覆工コンクリート打設方法を含む覆工コンクリートの打設作業の作業手順を説明する、一部を断面図として示す略示側面図である。
【図2】本発明の好ましい一実施形態に係るトンネル覆工コンクリート打設方法の一作業工程を説明する略示断面図である。
【図3】本発明の好ましい一実施形態に係るトンネル覆工コンクリート打設方法の一作業工程を説明する略示断面図である。
【図4】図3のA部拡大断面図である。
【図5】本発明の好ましい一実施形態に係るトンネル覆工コンクリート打設方法の一作業工程を説明する略示断面図である。
【図6】本発明の好ましい一実施形態に係るトンネル覆工コンクリート打設方法の一作業工程を説明する略示断面図である。
【図7】バイブレータケーブルの拡大断面図である。
【図8】本発明の好ましい一実施形態に係るトンネル覆工コンクリート打設方法において用いる多段中空パイプと一般の中空パイプの最大引抜抵抗力を比較して示すチャートである。
【図9】(a)はコンクリート覆工用型枠をトンネルの内周面に沿って設置した状態を説明するトンネル軸方向から見た断面図、(b)は同側面図である。
【図10】(a)〜(d)は、従来のトンネル覆工コンクリート打設方法の作業手順を説明する、一部を断面図として示す側面図である。
【符号の説明】
【0040】
10 トンネル覆工用型枠
11 覆工コンクリート
11a 冠部の覆工コンクリート
12 トンネル
13 トンネルの冠部
15 既設覆工コンクリート
15a 既設覆工コンクリートの端面
16 妻型枠
17a 第1中空パイプ
17b 第2中空パイプ
17c 第3中空パイプ
18 多段中空パイプ
19 バイブレータケーブル
20 棒状バイブレータ
21a,21b,21c 係止スリーブ
22 覆工面
23 覆工空間
24 コンクリート打設孔
25 コード巻取り装置
26 係止突起
X トンネルの軸方向(掘進方向)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル覆工用型枠を用いて覆工コンクリートを形成するトンネル覆工コンクリート打設方法において、
既に形成された既設覆工コンクリートの端面と妻型枠とによって挟まれる、前記トンネル覆工用型枠の外周面とトンネル内周の覆工面との間の覆工空間に、外径の異なる複数の中空パイプからなり、外径の小さな方の中空パイプを外径の大きな方の中空パイプに順次スライド可能に挿入して全体の長さを伸縮可能とした多段中空パイプを、外径の小さな方の中空パイプを前記既設覆工コンクリート側に配設してトンネルの軸方向に伸ばした状態で取り付けると共に、棒状バイブレータを多段中空パイプの前記既設覆工コンクリート側の端部から飛び出させて配設し、且つ該棒状バイブレータの後端部分に後続するバイブレータケーブルを、前記多段中空パイプに内挿して前記妻型枠側に延設させ、当該妻型枠を貫通させて配設することにより前記妻型枠の外側から牽引可能とし、
前記覆工空間にコンクリートを充填打設すると共に、前記棒状バイブレータを振動させながら前記バイブレータケーブルを牽引して、当該バイブレータケーブルが最も外径の小さな第1中空パイプに前記棒状バイブレータを飛び出させたまま係止された状態から、前記第1中空パイプを、次に外径の大きな第2中空パイプに、当該第1中空パイプが前記第2中空パイプに係止されるまで挿入し、
さらに前記バイブレータケーブルを牽引して、前記第1中空パイプが挿入された前記第2中空パイプを、次に外径の大きな第3中空パイプに、当該第2中空パイプが前記第3中空パイプに係止されるまで挿入する工程を含み、
前記覆工空間に充填打設されたコンクリートを、外径の小さな方の中空パイプを外径の大きな方の中空パイプに順次挿入して多段中空パイプを収縮させながら、前記既設覆工コンクリート側の部分から前記妻型枠側に向けて締固めてゆくトンネル覆工コンクリート打設方法。
【請求項2】
前記バイブレータケーブルは、前記棒状バイブレータを前記多段中空パイプの前記既設覆工コンクリート側の端部から直線状に飛び出させた状態で、前記第1中空パイプの前記第2中空パイプ側の基端部において前記第1中空パイプに係止される請求項1に記載のトンネル覆工コンクリート打設方法。
【請求項3】
前記覆工空間は、トンネル冠部の覆工空間である請求項1又は2に記載のトンネル覆工コンクリート打設方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のトンネル覆工コンクリート打設方法に用いるトンネル覆工コンクリート打設構造であって、
既に形成された既設覆工コンクリートの端面と妻型枠とによって挟まれる、前記トンネル覆工用型枠の外周面とトンネル内周の覆工面との間の覆工空間に、外径の異なる複数の中空パイプからなり、外径の小さな方の中空パイプを外径の大きな方の中空パイプに順次スライド可能に挿入して全体の長さを伸縮可能とした多段中空パイプを、外径の小さな方の中空パイプを前記既設覆工コンクリート側に配設してトンネルの軸方向に伸ばした状態で取り付けると共に、棒状バイブレータを多段中空パイプの前記既設覆工コンクリート側の端部から飛び出させて配設し、且つ該棒状バイブレータの後端部分に後続するバイブレータケーブルを、前記多段中空パイプに内挿して前記妻型枠側に延設させ、当該妻型枠を貫通させて配設することにより前記妻型枠の外側から牽引可能としたトンネル覆工コンクリート打設構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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