説明

トール様受容体3拮抗薬としての超小型RNA

黄斑変性症、又はTLR3の活性化に関係する他の疾患若しくは障害の治療又は予防のための方法及び組成物が提供される。22個のヌクレオチド以下の長さを有する二本鎖RNAの投与は、TLR3に結合するが活性化しない該RNAの能力により、黄斑変性症、又はTLR3の活性化に関係する他の疾患若しくは障害を治療又は予防する。長さが22個のヌクレオチド以下の全ての二本鎖RNA(標的及び非標的の両方)はTLR3に結合し得るが、活性化し得なく、それによって、上記状態を治療又は予防する。また、標的遺伝子をノックダウンするために十分な標的siRNAの量、及び標的siRNAがTLR3を活性化することを防止する22個のヌクレオチド以下の二本鎖RNAの量を投与することを含む、所望のsiRNA標的ノックダウンの特異性を増加させる方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超小型RNAのトール様受容体−3(toll-like receptor-3; TLR3)拮抗薬として作用する能力に関する。
【背景技術】
【0002】
黄斑は、中心視野に関与する網膜の一部である。加齢性黄斑変性症(age-related macular degeneration)は、黄斑における組織が退化すると生じる慢性眼疾患である。黄斑変性症は、中心視野に影響を及ぼすが、周辺視野には影響を及ぼさない。黄斑変性症は、60歳以上の人々において、重度の視力低下の主要原因である。
【0003】
加齢性黄斑変性症には、萎縮型(dry)及び滲出型(wet)の二つのタイプがある。萎縮型黄斑変性症(dry macular degeneration)は、最も一般的なタイプの黄斑変性症であり、黄斑の細胞が徐々に壊れ始めると生じる。「ドルーゼン(drusen)」と呼ばれる黄色の沈着物が、網膜の下の網膜色素上皮(retinal pigmented epithelium;RPE)と、網膜を支持するブルッフ膜(Brush's membrane)との間に形成される。ドルーゼン沈着物は、RPEにおける障害のある細胞代謝に関係する残屑である。最終的には、中心視野の喪失に至るドルーゼン沈着物に関係する黄斑領域の変性がある。
【0004】
滲出型黄斑変性症(wet macular degeneration)は、異常血管が黄斑の背後に生育した場合に生じる。これらの血管は脆く、体液及び血液が漏れ得、黄斑の散乱に至り、急速かつ重大な損傷の可能性をもたらす。ブルッフ膜は、通常、ドルーゼン沈着物の近傍で損傷する。ここで、新生血管の成長、或いは新血管形成が生じる。短期間、時々数日以内、中心視野が歪んだり、又は完全に喪失したりすることがある。滲出型黄斑変性症は、加齢性黄斑変性症の症例の約10パーセントを占めるが、法的盲の症例の約90パーセントを計上する。
【発明の概要】
【0005】
一の形態では、本発明は、黄斑変性症を治療又は予防する方法に関する。当該方法は、網膜又は脈絡膜の細胞を、トール様受容体3(TLR3)に結合するが、TLR3の活性を活性化しない22個のヌクレオチド以下の長さの二本鎖RNAのTLR3拮抗有効量にさらすことを含む。
【0006】
さらに別の形態では、本発明は、TLR3の活性化に関係する疾患又は障害を治療又は予防する方法に関する。当該方法は、治療又は予防の必要がある被検体を、トール様受容体3(TLR3)に結合するが、TLR3の活性を活性化しない22個のヌクレオチド以下の長さの二本鎖RNAのTLR3拮抗有効量にさらすことを含む。
【0007】
別の形態では、本発明は、黄斑変性症の治療又は予防のための組成物に関する。当該組成物は、TLR3に結合するが、TLR3の活性を活性化しない22個のヌクレオチド以下の長さの配列非特異的又は配列特異的な二本鎖RNAを含む。
【0008】
さらに別の形態では、本発明は、所望のsiRNA標的ノックダウンの特異性を増加させる方法に関する。当該方法は、標的遺伝子をノックダウンするのに十分な標的siRNAの量、及び前記標的siRNAがTLR3を活性化することを防止する22個のヌクレオチド以下の二本鎖RNAの量を投与することを含む。
【0009】
さらに別の形態では、本発明は、TLR3に拮抗する化合物をスクリーニングする方法に関する。当該方法は、TLR3又はその結合断片を試験化合物と接触させること、及びTLR3又はその結合断片と前記試験化合物との間において複合体が形成されるかどうか決定することを含む。
【0010】
本発明の他の系、方法、特徴及び利点は、以下の図および詳細な説明を検討すれば、当業者に明白であり、又は明白になるだろう。全てのこのような追加の系、方法、特徴及び利点は、この説明内、本発明の範囲内に含まれ、以下のクレームによって保護されるものと意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ヒト網膜色素上皮細胞の生存に対するポリ(I:C)及びポリ(dI:dC)の作用を示す図である。
【図2】野生型及びTlr3-/-マウスからの網膜色素上皮細胞の生存に対するポリ(I:C)の硝子体内投与の作用を示す図である。
【図3】野生型及びTlr3-/-マウスからの網膜色素上皮細胞における活性化カスパーゼ−3発現に対するポリ(I:C)の硝子体内投与の作用を示す図である。
【図4】Tlr3+/+及びTlr3-/-マウスにおける脈絡膜血管新生(choroidal neovascularization;CNV)に対するポリ(I:C)、ポリ(I:C12U)及びポリ(dI:dC)の硝子体内投与の作用を示す図である。
【図5】野生型マウスにおけるCNVに対する9〜23個のヌクレオチド・バージョンのsiRNA−Lucの作用を示す図である。
【図6】野生型マウスにおけるCNVを抑制する、23ntのsiRNA−Lucの能力に対する21nt siRNA−Luc及び21nt dsDNAの作用を示す図である。
【図7】ポリ(I:C)誘導細胞障害性からヒト網膜色素上皮細胞を救う、2'O−メチル−21−nt siRNA-Luc-コレステロール、2'O−メチル−18−nt siRNA-Luc-コレステロール、及び2'O−メチル−15−nt siRNA-Lucc-コレステロールの能力を示す図である。
【図8】モノクローナル抗長鎖dsRNA Ab(J2)を用いた免疫組織化学を示し、GAを伴った84歳の患者のドナーの目において、ドルーゼンにおける青色の反応産物(矢印)、RPE、ブルッフ膜、及び脈絡毛細管枝(一括して、アスタリスク)を示している(a)。アイソタイプ・コントロールAbは、同一の目の他の領域において何ら特異的な免疫染色を示さなかった(b)。J2では、AMDに罹患していない78歳の患者の網膜又は脈絡膜は染色されなかった(c)。これら画像は、グループ当たり5〜7の目の代表である。
【図9】図9は、カラーの眼底写真であり、TLR3を特異的に活性化する二本鎖RNAであるアンプリジェン(Ampligen、登録商標)(ポリI:C12U;2μg)を硝子体内に投与すると、野生型C57B1/6Jマウス(左パネル)では網膜変性が誘導されるが、TLR3-/-マウス(右パネル)では網膜変性は誘導されないことを示している。これら写真は、アンプリジェン(Ampligen、登録商標)注射の10日後に撮影した。
【図10】図10は、カラーの眼底写真であり、中和抗TLR3抗体(イーバイオサイエンス(eBioscience);12μg)を併用投与した場合、野生型マウスにおけるアンプリジェン(Ampligen、登録商標)(ポリI:C12U;2μg)の硝子体内投与は網膜変性を生じさせないことを示している(左パネル)。さらに、アイソタイプ・コントロール抗体(IgG;ジャクソン・イミュノリサーチ(Jackson immunoresearch);12μg)は、アンプリジェン(Ampligen、登録商標)の作用をブロックしないことが示された(右パネル)。これら写真は、アンプリジェン(Ampligen、登録商標)及び抗体注射の10日後に撮影した。
【図11】図11は、カラーの眼底写真であり、野生型マウスにおけるアンプリジェン(Ampligen、登録商標)(ポリI:C12U;2μg)の硝子体内投与によって誘導される網膜変性(左パネル)は、コレステロール(chol)に結合した平滑末端の二本鎖5-nt-dsRNAを併用投与した場合には生じない(右パネル)ことを示している。これら写真は、アンプリジェン(Ampligen、登録商標)及び5-nt-dsRNA注射の10日後に撮影した。
【図12】図12は、カラーの眼底写真であり、野生型マウスにおけるアンプリジェン(Ampligen、登録商標)(ポリI:C12U;2μg)の硝子体内投与によって誘導される網膜変性(左パネル)は、コレステロール(chol)に結合した平滑末端の二本鎖7-nt-dsRNA(4μg)を併用投与した場合には生じない(右パネル)ことを示している。これら写真は、アンプリジェン(Ampligen、登録商標)及び7-nt-dsRNA注射の10日後に撮影した。
【図13】図12は、カラーの眼底写真であり、野生型マウスにおけるアンプリジェン(Ampligen、登録商標)(ポリI:C12U;2μg)の硝子体内投与によって誘導される網膜変性(左パネル)は、各鎖に2-ntのオーバーハングを有し、各鎖に14塩基対を含む、コレステロール(chol)結合二本鎖16-nt-dsRNA(8μg)を併用投与した場合には生じない(右パネル)ことを示している。これら写真は、アンプリジェン(Ampligen、登録商標)及び16-nt-dsRNA注射の10日後に撮影した。
【図14】図14は、透過型電子顕微鏡写真であり、野生型マウスにおけるアンプリジェン(Ampligen、登録商標)(ポリI:C12U;2μg)の硝子体内投与(左パネル)は、野生型マウスにおいて視細胞外節(photoreceptor outer segment;POS)損傷(赤矢印;上左)及び網膜色素上皮(retinal pigmented epithelia;PRE)細胞の変性に至る。16-nt-dsRNA-chol(8μg)の併用投与は、POS及びRPEの解剖学的構造を保護する。これら写真は、薬物投与の2週間後に撮影した。
【図15】図15は、暗所網膜電図(scotopic electroretinograms (ERG))であり、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)と比較して、a-波の振幅は、野生型マウスにおけるアンプリジェン(Ampligen、登録商標)(ポリI:C12U;2μg)の硝子体内投与によって減衰することを示している。16-nt-dsRNA-chol(8μg)の併用投与は、ERGのa-波の振幅の減衰を止めた。
【図16】図16は、二本鎖RNAが哺乳細胞による内部移行のための細胞透過要素を必要とすることを示す。マウス内皮細胞培養を、フルオレセイン結合dsRNA(Fl−dsRNA)に暴露し、続いて、時間経過共焦点顕微鏡により観察した(左パネル、ノマルスキー、右パネル、緑色チャンネル)。Fl−dsRNAを、細胞透過要素であるコレステロールと結合した場合(Fl-dsRNA Chol)、強いLEC細胞内移行が観察された。
【発明を実施するための形態】
【0012】
トール様受容体(toll-like receptors;TLRs)は、微生物保存構造を認識することによる、先天性免疫に関与する1型膜貫通蛋白質(type I transmembrane proteins)である。トール様受容体は、適応免疫応答を活性化するのを促進し、先天性免疫応答及び後天性免疫応答を結びつける。10のTLR(TLR1〜10と命名されている)がヒトにおいて同定されており、各TLRは異なる微生物関連分子のパターンに特異的である。驚くべきことに、本発明者らは、22個のヌクレオチド(nt)又はそれより短い長さの二本鎖RNAがトール様受容体−3(TLR3)に結合するが、活性化しないこと、及び、とりわけ、黄斑変性症の地図状萎縮(geographic atrophy)を阻害できることを発見した。
【0013】
一の形態では、萎縮型黄斑変性症(dry macular degeneration)の地図状萎縮(geographic atrophy)等の黄斑変性症の地図状萎縮を含む、黄斑変性症の治療又は予防のための方法及び組成物が提供される。例えば、TLR3の拮抗剤の投与は、萎縮型黄斑変性症の地図状萎縮等の黄斑変性症の地図状萎縮を阻害する。地図状萎縮は、脈絡膜萎縮症、及び網膜萎縮を含む。黄斑変性症の治療及び/又は予防のためのTLR3の活性を阻害する組成物及び方法が提供される。
【0014】
TLR3に結合するが、TLR3を活性化しない二本鎖RNAであって、22個のヌクレオチド又はそれより短い長さのあらゆる二本鎖RNAが、本発明において使用されてもよい。TLR3に対する天然の作動薬は、ウイルス二本鎖RNAを含む。TLR3のあらゆる天然の作動薬を、その長さを22個のヌクレオチド以下に短縮することによって、拮抗剤に変換することができる。このような短縮した二本鎖RNAは、TLR3に結合するが、TLR3活性を活性化しない。好ましくは、二本鎖RNAの長さは、5〜22ヌクレオチドである。好ましくは、二本鎖RNAの長さは、5〜15ヌクレオチドである。より好ましくは、その長さは、7〜11ヌクレオチドである。
【0015】
また、他のリガンドも、TLR3活性を拮抗するために用いることもできる。このようなリガンドは、22個のヌクレオチド以下の長さを有する配列特異的(又は標的とされた)及び配列非特異的(又は標的とされていない)二本鎖RNAを含む。二本鎖RNAは、その長さが22個のヌクレオチド以下である限り、siRNA、又はあらゆる他の二本鎖RNAであることができる。平滑末端又はオーバーハングのいずれからなっていても、二本鎖RNAを含むコンストラクトは効果があるが、もし、オーバーハングが用いられた場合、オーバーハングを含むヌクレオチドが、22以下の総ヌクレオチドの部分として考慮される。
【0016】
このように、22個のヌクレオチド又はそれより短い長さの二本鎖RNAは、その分子の大部分が二本鎖RNA構造を有する限り、いくらかの一本鎖部分を含むそれらのRNAを含む。このような二本鎖RNAは、二本鎖中心分を有し、かつdT残基のオーバーラップ等の1、2、3又はそれ以上のヌクレオチドの3’オーバーラップをセンス鎖又はアンチセンス鎖又はその両方に有するRNAを含む。全ての一本鎖領域及び二本鎖領域の長さが、二本鎖RNAの全体の長さを決定するために合計される。例えば、16個のヌクレオチドの中心二本鎖RNA構造、及びセンス鎖及びアンチセンス鎖の両方にdTdTの3’オーバーラップを有する二本鎖RNAは、20個のヌクレオチドの全体の長さを有する。塩基対を有しない1以上の内部ヌクレオチドを有する二本鎖RNAもまた意図される。二本鎖RNAは、また、22個のヌクレオチド以下の平滑末端二本鎖RNA等の一本鎖領域を全く有さないそれらのRNAを含む。
【0017】
本発明に用いるsiRNAは、RNA干渉の分野における標準的な方法により設計される。細胞へのsiRNAの導入は、発現ベクターを用いたトランスフェクション、合成dsRNAを用いたトランスフェクション、又はあらゆる他の適切な方法により行ってよい。発現ベクターを用いたトランスフェクションが好ましい。あるいは、細胞外部を本発明のsiRNAを含有する組成物に暴露することができる。
【0018】
本発明によるsiRNAを運搬するために用いることができる発現ベクターは、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、及びレンチウイルスベクターを含む。発現ベクターは、標的遺伝子の一部をコードする配列、あるいは特定の遺伝子に特異的な又は意味の無い配列であろうとなかろうとあらゆる他の配列を含む。トランフフェクトされたホストにおける転写されると、RNA配列が、自己相補的な塩基の存在によりヘアピン構造を形成するように、遺伝子配列は設計される。細胞内処理は、siRNAのデュプレックスの形成に至るループを除去する。二本鎖RNA配列は23個のヌクレオチド未満でなければならず、好ましくは、dsRNA配列は15〜22ヌクレオチドの長さであり、より好ましくは、dsRNA配列は21ヌクレオチドの長さ、又は18ヌクレオチドの長さ、又は17ヌクレオチドの長さ、又は16ヌクレオチドの長さ、又は15ヌクレオチドの長さである。
【0019】
発現ベクターは、標的遺伝子配列の合成を増強するために1以上のプロモーター領域を含んでもよい。用いることができるプロモーターは、CMVプロモーター、SV40プロモーター、マウスU6遺伝子のプロモーター、及びヒトH1遺伝子のプロモーターを含む。
【0020】
発現ベクターを用いたトランスフェクションを容易にするために、1以上の選択マーカーを含んでもよい。選択マーカーは、発現ベクター内に含まれてもよいし、又は、別の遺伝要素に導入してもよい。例えば、細菌のハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子を選択マーカーとして用いてもよく、ハイグロマイシンの存在下で細胞が成育し、前記遺伝子でトランスフェクトした細胞を選択できる。
【0021】
TLR3活性に対する拮抗作用を与えるために、細胞を、22個のヌクレオチド以下の長さの合成dsRNAに暴露することもできる。合成dsRNAは、23個のヌクレオチド未満の長さである。好ましくは、合成dsRNAは、15〜22ヌクレオチドの長さである。より好ましくは、dsRNAは20、21又は22ヌクレオチドの長さであり、2ヌクレオチドの3’オーバーハングを含んでもよい。他の実施形態では、合成dsRNAは、9、15、16、17又は18ヌクレオチドの長さであってもよく、2ヌクレオチドの3’オーバーハングを含んでもよい。該3’オーバーハングは、好ましくはTT残基である。合成dsRNAは、修飾を受けていない(naked)dsRNA、1以上の2−O’−メチル基を含むdsRNA、又はセンス鎖若しくはアンチセンス鎖の3’末端に結合したコレステロールを含有するdsRNAであってもよい。コレステロールは、RNAが細胞に入るのを補助するので、二本鎖RNAは、コレステロールに結合してもよい。図16に示される通り、二本鎖RNAは、哺乳細胞に侵入するために細胞透過要素を必要とする。コレステロールとの結合は、RNAの効果的な内部移行を可能とする。
【0022】
合成dsRNAは、インジェクション(注入)により、陽イオン性脂質等の化学物質と複合化することにより、遺伝子銃の使用により、或いはあらゆる他の適切な方法により細胞に導入することができる。或いは、細胞外部を本発明の合成dsRNAを含有する組成物に暴露することができる。二本鎖RNAは、これらに限定されないが、リポソーム、ナノ粒子、安定核酸脂質粒子(stable nucleic acid lipid particles(SNALPs))及びデンドリマーを含む、薬学的に許容される担体に封入してもよい。これらの担体の作成に関係する手順は、当該分野において良く知られており、当業者は、従来技術を用いて、本発明の二本鎖RNAと共に用いるための単体を容易に作成することができる。
【0023】
二本鎖RNAは、例えば、2’O−Me又はリン酸結合を用いて、RNA分解酵素による分解を回避するのを助けるために修飾されてもよい。
【0024】
哺乳類のTLR3の少なくとも一つの機能的特徴の拮抗作用を通した、本発明による哺乳類のTLR3の調節は、地図状萎縮を阻害する等の黄斑変性症を治療又は予防する効果的かつ選択的な手法を提供する。本明細書に記載され同定されているもの等の1以上のTLR3の拮抗剤が、治療目的のため、地図状萎縮を阻害すると言った、黄斑変性症を治療又は予防するために使用され得る。TLR3拮抗剤は、これらに限定されないが、TLR3抗体、溶解性TLR3、及びTLR3小型分子拮抗剤を含んでもよい。
【0025】
このように、本発明は、該治療を必要としている固体において、地図状萎縮を阻害する等、黄斑変性症を治療又は予防する方法であって、該治療を必要としている固体に、TLR3機能に拮抗する化合物を投与することを含む方法を提供する。このような固体は、萎縮型黄斑変性症を含む、加齢性黄斑変性症を罹患するものを含む。
【0026】
また、ここに記載される二本鎖DNAは、TLR3拮抗剤の投与が有効であろう、あらゆる疾患又は障害を治療又は予防するために用いることができる。該疾患又は障害は、TLR3及びIRF−3経路の活性化による膵ベータ細胞アポトーシスを伴う糖尿病などの糖尿病;TLR3シグナリングによって制御された肝臓の免疫特権状態を伴うもの等の肝疾患;TLR3による軸索成長の負の調節を伴うもの等の神経変性疾患;TLR3を介した脳へのウェスト・ナイル・ウイルス(West Nile virus)の侵入の媒介によるウェスト・ナイル・ウイルス感染、又はRSV誘導ケモカイン発現におけるTLR3の関与による呼吸器合胞体ウイルス(respiratory syncytial virus (RSV))感染、又は樹状細胞においてTLR3を活性化するためのdsRNAを用いるその能力による蠕虫寄生生物である住血吸虫属の感染等のウイルス及び蠕虫の感染;及び妊娠耐性のTLR3調節による、胎芽喪失、即ち、自然流産の予防を含む。
【0027】
本発明の方法は、ヒト、サル、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウマ、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、ハムスター、及びウマを含む、あらゆる哺乳類種において用いることができる。ヒトが好ましい。
【0028】
本発明の方法によれば、1以上の化合物を、単独で、又は他の薬物との組合せで、適切なルートによってホストに投与することができる。化合物の有効量が投与される。有効量は、TLR3機能の拮抗作用に十分な量のように、投与の条件下において、所望の治療効果を得るために十分な量であり、それによって、黄斑変性症又は他の適用可能な疾患若しくは障害を治療、或いは予防する。
【0029】
様々な投与ルートが考えられ、これらに必ずしも限定されないが、治療される疾患又は状態に応じて、経口、食料、局所、非経口(例えば、静脈注射、動脈注射、筋肉注射、皮下注射)、吸入(例えば、気管支内、鼻腔内又は経口吸入、点鼻薬)、及び眼内注射の投与ルートを含む。眼内注射ルートは、眼周囲(結膜下/経強膜)、硝子体内、網膜下及び前房内の注射方法を含む。
【0030】
投与される化合物の処方は、選択される投与ルートに応じて変化する(例えば、溶液、乳剤、カプセル)。投与される化合物を含む適切な組成物は、生理的に許容される賦形剤(ビヒクル)又は担体(キャリアー)において調製することができる。溶液又は乳剤のために、適切な担体は、例えば、生理食塩水及び緩衝化媒体を含む、水性溶液又はアルコール/水性溶液、乳剤、又は懸濁液を含む。非経口用担体は、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース(Ringer's dextrose)、デキストロース、及び塩化ナトリウム、乳酸加リンゲル又は固定油を含み得る。静脈内用賦形剤は、様々な添加物、保存料、又は液体、栄養素、又は電解質補給剤を含みえる(レミングトンの薬学、第16版、マック、イーディー、1980(Remington's Pharmaceutical Science, 16th Edition, Mack, Ed. 1980)を一般に参照)。吸入のためには、化合物は可溶化し、投与のための適切な容器(例えば、霧吹き(アトマイザー)、噴霧器(ネブライザー)、又は加圧エアロゾルディスペンサー(pressurized aerosol dispenser))に導入される。他の例としては、化合物は、持続放出装置を介して、又は、硝子体液中に、房水中に、強膜上に、強膜中に、脈絡膜上腔中に、若しくは網膜下腔中に注入される組成物を介して、投与されてもよい。
【0031】
別の実施形態では、本発明は、所望のsiRNA標的ノックダウン、すなわち、TLR3ではない標的遺伝子の特異性を増加するための方法を提供する。該方法は、標的遺伝子をノックダウンするために十分な標的siRNAの量、及び標的siRNAがTLR3を活性化することを防止する22個のヌクレオチド以下の二本鎖RNAの量を投与することを含む。
【0032】
別の実施形態では、本発明は、TLR3と相互作用する化合物をスクリーニングするための方法を提供する。本発明は、様々な薬剤スクリーニング技術のいずれにおいても、TLR3ポリペプチド又はその結合断片を用いることによる化合物のスクリーニングに有用である。このような試験において利用されるTLR3ポリペプチド又は断片は、溶液において遊離していてもよいし、固形担体に取り付けてもよいし、細胞表面に生じさせてもよいし、或いは細胞内に位置させてもよい。薬剤スクリーニングの一つの方法は、ポリペプチド又は断片を発現する組換え核酸を安定に形質転換した真核又は原核宿主細胞を利用する。薬剤は、競合結合アッセイにおいて、このような形質転換細胞に対して、スクリーニングされる。生存又は固定した形のいずれにおいても、このような細胞を、標準結合アッセイに用いることができる。例えば、TLR3と、試験される化学物質との間で複合体の形成を測定してもよい。或いは、試験される化学物質によって生じる、TLR3と、単球などのその標的細胞との間での複合体の形成における減少を調べてもよい。
【0033】
このように、本発明は、黄斑変性症又は他の適用疾患若しくは障害に作用することができる薬剤又は他のいかなる化学物質をスクリーニングする方法を提供する。これらの方法は、TLR3ポリペプチド又はその断片と上記化学物質を接触させること、及び、当該分野でよく知られる方法によって、(i)化学物質とTLR3ポリペプチド又は断片との間での複合体の存在の有無、或いは(ii)TLR3ポリペプチド又は断片と細胞との間での複合体の存在の有無をアッセイすること、を含む。このような競合結合アッセイにおいて、TLR3ポリペプチド又は断片は、通常は標識される。適切なインキュベーションの後、遊離TLR3ポリペプチド又は断片は、結合形態で存在するものから分離され、遊離しているか、或いは複合体を形成していない標識物の量は、TLR3に結合する特定の化学物質の能力、又は、TLR3及び化学物質の複合体を阻害する特定の薬剤の能力の尺度である。
【0034】
薬剤スクリーニングの他の方法は、TLR3ポリペプチドに対する適切な結合親和性を有する化合物のハイスループット・スクリーニングを提供し、参照することにより本明細書に援用される、1984年9月13日に発行された欧州特許出願84/03564に、詳細に記載されている。簡単に説明すると、プラスチックのピン又はその他の表面等の固形担体上で多数の異なる小さなペプチド試験化合物を合成する。ペプチド試験化合物は、TLR3ポリペプチドと反応させ、洗浄する。次いで、当該分野で周知の方法によって、結合したTLR3ポリペプチドを検出する。また、上述の薬剤スクリーニング技術において使用するために、精製したTLR3をプレート上に直接塗布することもできる。加えて、ペプチドを補足するために、非中和抗体を用いることが可能であり、固形担体にそれを固定する。
【0035】
本発明は、また、競合薬剤スクリーニング・アッセイの使用を意図しており、該アッセイでは、TLR3に結合することが可能である中和抗体が、TLR3ポリペプチド又はその断片に結合するための試験化合物と特異的に競合する。このように、TLR3と1以上の抗原決定基を共有するいかなるペプチドの存在を検出するために、抗体を使用することができる。
【0036】
本発明は、薬剤又は化学物質の地図状萎縮(geographic atrophy)を阻害する能力等、網膜色素上皮細胞(retinal pigmented epithelial cells)における細胞死の阻害等のバイオアッセイにおいて、薬剤又はその他のあらゆる化学物質をモニターする、薬剤スクリーニング・アッセイの使用も意図している。このような薬剤スクリーニング・アッセイは、上述の様々な結合アッセイと組合せて用いてもよい。すなわち、薬剤又は他の化学物質は、最初に、TLR3に結合するそれらの能力について試験してもよく、TLR3に対して結合親和性を有するそれら化合物は、次いで、薬剤又は化学物質の地図状萎縮(geographic atrophy)を阻害する能力等のバイオアッセイにおいて試験される。或いは、バイオアッセイは、22個のヌクレオチドより大きい長さを有する二本鎖RNA等のTLR3の作用を刺激する化合物を用いて又は用いず、薬剤又は化学物質を用いて行ってもよい。薬剤又は化学物質により地図状萎縮(geographic atrophy)が阻害されるが、TLR3の作用を刺激する化合物の存在下においては薬剤又は化学物質による地図状萎縮(geographic atrophy)の阻害が無くなるか或いは減少することは、TLR3と相互作用することにより地図状萎縮(geographic atrophy)を阻害する薬剤又は化学物質の指標となるであろう。TLR3の遺伝子をノックアウトした細胞に対して、野生型細胞における地図状萎縮(geographic atrophy)を比較することによる、類似したスクリーニング・アッセイを行うことができ、薬剤又は化学物質に暴露することによる野生型細胞における地図状萎縮(geographic atrophy)の阻害、及びノックオウト細胞において阻害が無いことは、TLR3と相互作用することによって地図状萎縮(geographic atrophy)を阻害する薬剤又は化学物質の指標となる。
【0037】
上述の薬剤スクリーニング・アッセイは、黄斑変性症を治療又は予防するために有用な薬剤を同定するためだけでなく、TLR3拮抗薬を用いた治療に応答する他のあらゆる疾患又は障害を治療又は予防するために有用な薬剤を同定するために用いることができる。
【実施例】
【0038】
実施例1
(イン・ビトロのヒトRPE細胞生存アッセイ)
硝子体液及び神経感覚網膜を取除き、次いで、ハンクス平衡塩溶液(Hanks' balanced salt solution (HBSS))(アーバイン・サイエンティフィック、サンタ・アナ、カリフォルニア;Irvine Scientific, Santa Ana, CA)で2%ディスパーゼ(Dispase) (ギブコ、マディソン、ウィスコンシン;GIBCO, Madison, WI)に、25分、37℃でインキュベートし、次いで、70μm及び40μmのナイロンメッシュ・フィルター(ファルコン・プラスチックス、オックスナード、カリフォルニア;Falcon Plastics, Oxnard, CA)に通すことにより、初代ヒト網膜色素上皮(RPE) 細胞を、アドバンスト・バイオサイエンス・リソース・インク(Advanced Bioscience Resources Inc.) (アラメダ、カリフォルニア;Alameda, CA)から入手した眼球から単離した。1500rpm、5分間、遠心した後、フィルターに残存する断片を穏やかに解離し、ラミニン−コート6ウェル・プレート (フィッシャー・サイエンティフィック、タスチン、カリフォルニア;Fisher Scientific, Tustin, CA)に播種した。RPE細胞は、37℃、95%大気及び5%CO2で、ウシ胎仔血清(FBS;初代培養には25%、及びその後10%) (オメガ・サイエンティフィック、ターザナ、カリフォルニア;Omega Scientific, Tarzana, CA)、100μg/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、及び2mM L−グルタミン(オメガ・サイエンティフィック)を含む、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM,アーバイン・サイエンティフィック、サンタ・アナ、カリフォルニア;Irvine Scientific, Santa Ana, CA)で培養した。コンフルエンス時には、細胞を、0.05%トリプシン/0.02%EDTA(アーバイン・サイエンティフィック、サンタ・アナ、カリフォルニア;Irvine Scientific, Santa Ana, CA)を用いて剥離し、遠心により回収して、広げた。RPE細胞培養の純度は、免疫組織学的サイトケラチン陽性、及び混入するCD11b+マクロファージ又はvWF+内皮細胞の存在によって確認し、95%を超えていた。最初に、完全なコンフルエンスを達成するように、10%FBS(ギブコ;Gibco)を添加した高グルコースDMEM(ギブコ;Gibco)で細胞を培養し、次いで、オーバーナイトの血清飢餓状態により、細胞を細胞周期状態について同期化した。細胞を、ウェル当たり10,000個の細胞の密度(60〜70%コンフルエンス)で、96ウェル・プレートに継代し、続いて、2%FBSを含む高グルコースDMEMにおいて、IFN-α/β(1000 U/mL, ピービーエル・インターフェロン・ソース;PBL Interferon Source)を用いて、24時間刺激を行った。次いで、培養物を、リン酸緩衝生理食塩水に調製したポリ(I:C) (インビトロジェン;Invivogen)又はポリ(dI:dC) (シグマ−アルドリッチ;Sigma-Aldrich)を用いて処理した。48時間の時点で、BrdU ELISA (ケミコン;Chemicon)を用い、製造元の指示に従って、細胞生存率を測定した。スペクトラマックス・プレート・リーダー(SpectraMax plate reader)(モレキュラー・ディバイス;Molecular Devices)上で、450nmで、ソフトマックス・プロv4.3(Softmax Pro v4.3)を用いて、96ウェル・プレートの光学密度を分析した。マン・ホイットニーのU検定(Mann Whitney U test)(ウインドウズ用SPSS 15.0)を用いて、細胞数における差異を比較した。
【0039】
(イン・ビトロのヒトRPEアポトーシス・アッセイ)
培養物は、24時間、IFN-α/βを用いて感作し、2%FBS(ギブコ;Gibco)を含有する高グルコースDMEM(ギブコ;Gibco)において、PBS又はポリ(I:C) (5 μg/mL) のいずれかを用いて処理した。処理の24時間後、0.05%トリプシン-EDTA(ギブコ;Gibco)を用いて細胞を回収し、PBSで洗浄して、106 細胞/mLで、アネキシンV染色バッファー(ビーディー・バイオサイエンシーズ;BD Biosciences)に再懸濁した。次いで、15分間、25℃で、5μLのFITC結合アネキシン−V(ビーディー・バイオサイエンシーズ;BD Biosciences)及び5μLのヨウ化プロピジウム(PI; ビーディー・バイオサイエンシーズ;BD Biosciences)と共に、100μLのアリコートをインキュベートした。細胞を直ちに分析し、セルクエスト・プロ(Cellquest Pro)(ビーディー・バイオサイエンシーズ;BD Biosciences)を用いて、アネキシンV+/PI-細胞を計算した。
【0040】
(イン・ビボのマウスRPEアッセイ)
ポリ(I:C) (2μg)の硝子体内注射の48時間後のC57BL6/J 野生型又はTlr3-/-22マウス (ザ・ジャクソン・ラボラトリー;The Jackson Laboratory)のRPE/脈絡膜(コロイド)から、コラゲナーゼD(20 U/l; ロッシュ・ダイアグノスティックス;Roche Diagnostics)を用いてインキュベートすることにより、細胞懸濁液を単離した。氷上で、15分間、Fc ブロック(10 μg/ml; ビーディー・バイオサイエンシーズ;BD Biosciences)を用いて処理した後、CD147+CD31- RPE細胞を同定するために、106個の細胞を、FITC結合抗マウスCD147抗体(10μg/ml, イーバイオサイエンシーズ(eBiosciences)、クローンRL73)及びAPC結合抗マウスCD31抗体(20μg/ml; ビーディー・バイオサイエンシーズ(BD Biosciences)、クローンMEC13.3)と共に、インキュベートした。細胞生存率のために、細胞は、FACSCaliburフロウ・サイトメーター(ビーディー・バイオサイエンシーズ;BD Biosciences)上で、最低限の10,000開口イベント(10,000 gated events)で分析し、CD147+CD31-フラクションを、セルクエスト・プロ(Cellquest Pro、ビーディー・バイオサイエンシーズ;BD Biosciences)を用いて計算した。細胞内活性化カスパーゼ−3染色のために、CD147+CD31-細胞を、固定及び透過処理(ロイコパーム(Leucoperm)、セロテック(Serotec))に供試し、続いて、10%正常ウサギ血清の存在下で、PE結合ウサギ抗活性化カスパーゼ-3抗体(PE-conjugated rabbit anti-activated caspase-3 antibody)(20μl/106 細胞、ビーディー・バイオサイエンシーズ(BD Biosciences)、クローンC92-605)と共にインキュベートした。セルクエスト・プロ(Cellquest Pro)を用いて、FACSCaliburフロウ・サイトメーター上で、最低限の10,000開口イベント(10,000 gated events)で細胞を分析した。マン・ホイットニーのU検定(Mann Whitney U test )を用いて、CD147+CD31-細胞又は活性化カスパーゼ−3+細胞における差異を比較した。
【0041】
(CNV)
以前に記載されている通り、脈絡膜血管新生(CNV)を誘導するために、各6〜8週才の雄マウスの両目(容量分析のためには目当たり4スポット;他の全ての分析のためには目/16スポット)に対して、レーザー光凝固術(532nm, 200mW, 100ms, 75μm) (オキュライトGL(OcuLight GL)、イリデックス・コーポレーション(IRIDEX Corporation))を行った。過去に報告された通り、0.5% FITC結合グリフォニア・シンプリシフォリア・イソレクチンB4(FITC-conjugated Griffonia simplicifolia Isolectin B4)(ベクター・ラボラトリーズ;Vector Laboratories)若しくは0.5% FITC結合ラット抗マウスCD31(FITC-conjugated rat anti-mouse CD31)(ビーディー・バイオサイエンシーズ;BD Biosciences)を用いて、又は5 mg/ml FITC-デキストラン(200万平均重量;シグマ-アルドリッチ; Sigma-Aldrich)を用いた心かん流によって、共焦点レーザー顕微鏡(TCP SP、レイカ(Leica))により、CNV体積を測定した。レクチン、CD31、及びデキストラン染色により得られた体積中の対の相関は、高い相関関係にあった(r2 > 0.90)。以前に記載された通り、繰返しの測定分析を用いた階層的ロジスティック回帰によって、レーザー障害当たりのCNV体積を比較した。結果は、平均±標準誤差(S.E.M.)として示されている。0.05を超えなかったタイプ1エラー(Type-I error)を有意であるとみなした。
【0042】
(薬剤処理)
siRNAを、siRNAバッファー(pH7.5のHEPESバッファーにおいて20mM KCl、0.2mM MgCl2; ダーマコン(Dharmacon))又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS; シグマ-アルドリッチ(Sigma-Aldrich))に調製した。siRNAは、ポリI:C (インビトロジェン;Invivogen), ポリdI:dC (インビトロジェン;Invivogen)又はポリ I:C12U (アンプリジェン(Ampligen); バイオクローンズ(Bioclones))であった。33−ゲージ・エクスマイア・マイクロシリンジ(伊藤製作所;Ito corporation)を用いて、siRNAを、1μlの全容量で、硝子体腔に注射した。
【0043】
(siRNA)
全てのsiRNAは、ダーマコン(Dharmacon)から購入した。siRNAのセンスおよびアンチセンス鎖は、製造元の指示に従いアニールし、無菌のsiRNAバッファー(ダーマコン社;Dharmacon, Inc.)又はヌクレアーゼ・フリーPBSのいずれかに調製した。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
実施例2
マウスは、拡張眼底検査(1%トロピカミド(アルコン;Alcon))によって評価した。デジタル・イメージング・システム(ソニー)を用いて、TRC−50IXカメラ(トプコン(Topcon))で、網膜写真を取得した。
【0047】
マウスは、オーバーナイトで暗順応させ、次いで、麻酔をかけた(ケタミン50mg/kg、キシラジン10mg/Kg)。非電気的加熱パッドを用いて、体温を37℃に維持し、1%トロピカミドを用いて、瞳孔を拡張させた。両目を、カラーバースト・ガンズフェルド・スティミュレーター(ColorBurst Ganzfeld stimulator)(ダイアグノシス;Diagnosys)内に配置した。プラチナの針からなる参照電極を両耳から等距離にある頭皮に配置し、接地極を横腹の皮下に配置した。市販の微小電極(ダイアグノシス(Diagnosys))から構成される銀線のループ電極を角膜尖部のそれぞれに配置した。次いで、適切な伝導性を確保するために、メチルセルロースを適用した。完全に自動化されたフラッシュ強度のシリーズをプログラムするために、エスピオン・ソフトウェア(Espion software)(ダイアグノシス)を用い、そのフラッシュ強度のシリーズからレチナール応答を記録した。白色のフラッシュ強度のシリーズを、-5.0、-3.8、-2.6、-1.4、-0.2、1.0 log cd・s/m2の増加インクリメントにおいて配信した。刺激間隔は、最低の5sから最高の90sまで増加させた。各記録に対する平均化の数は、最初の工程では18回で、最後の工程では二回まで減少させた。a−波及びb−波を、それぞれ、最小のピーク電圧及び最大のピーク電圧として表した。データは、マン・ホイットニーのU検定(Mann Whitney U testを用いて分析した。
【0048】
凍結ヒト網膜切片は、−80℃で保存した。IHCの処理前に、切片を、15分間、室温で乾燥し、次いで4%パラホルムアミドで固定した。次いで、リン酸緩衝食塩水(PBS)、pH7.4でリンスし、PBSで希釈した10%正常ヤギ血清及び0.5%トリトンX−100で、1時間、ブロッキングした。dsRNA(J2)に対する一次抗体は、イングリッシュ・アンド・サイエンティフィック・コンサルティング、ハンガリー(English & Scientific Consulting, Hungary)から取得した。IgG2aをコントロールとして使用した。全ての抗体は、PBSで希釈した1%正常ヤギ血清及び0.05%トリトンX−100で希釈した。一次抗体及びアイソタイプ・コントロール抗体を、冷室で、オーバーナイトでインキュベートした。ビオチン化ヤギ抗マウス二次抗体(ベクター・ラボラトリーズ;Vector Laboratories)を用いて、従来の免疫組織化学を行い、続いて、ストレプトアピジン-AP(ザイメド;Zymed)で処理した。dsRNAの比色検出のために、我々は、アルカリ・ホスフェート・サブストレート・キットIII(Alkaline Phosphate Substrate Kit III)(ベクター・ブルー;Vector Blue)を用いた。基質(サブストレート)は、青色の反応産物を産生する。スライドを、脱イオン水で洗浄し、風乾し、ベクタマウント(ベクター・ラボラトリーズ;Vector Laboratories)に搭載した。
【0049】
使用したdsRNA配列は以下を含む:
【0050】
5-nt-dsRNA-chol: (平滑;Blunt)
センス: CUAAG-3' コレステロール
アンチセンス: CUUAG
【0051】
7-nt-dsRNA-chol: (平滑;Blunt)
センス: CUAAGGG-3' コレステロール
アンチセンス: CCCUUAG
【0052】
16-nt-dsRNA-chol: (オーバーハングを有する)
センス: UAAGGCUAUGAAGAdTdT-3' コレステロール
アンチセンス: UCUUCAUAGCCUUAdTdT
【0053】
図8に見られるように、ビヒクル(リン酸緩衝整理食塩水)、又はTLR3を活性化しないポリ(dI:dC)と比較して、TLR3リガンドのポリ(I:C)は、容量依存的に(0.5-5 μg/ml)、初代ヒト網膜色素上皮細胞(hRPECs)の生存を減少させた。* P < 0.01; n=4。典型的なTLR3リガンドであるポリイノシン:ポリシチジル酸(ポリ(I:C))、すなわち、TLR3を活性化する合成長鎖dsRNAは、TLR3の活性化の知られている細胞障害作用と合致するように、用量依存的に、初代ヒトRPE細胞における細胞死を誘導した。その一方、TLR3を活性化しない、ポリデオキシイノシン:ポリデオキシシチジル酸(poly (dI:dC))は、RPE細胞の生存率を減少させなかった。図8に見られるように、ポリ(I:C) (2 μg)の硝子体内投与は、野生型マウスよりも、Tlr3-/-マウスにおいて、RPE細胞の顕著に少ない細胞死(PRE/コロイド層においてCD147+CD31-細胞の画分として定義された生存率)を誘導した(48.6±0.4% vs 78.1±2.0%; マン・ホイットニーのU検定により* P = 0.03; n=4)。図10は、野生型マウス及びTlr3-/-マウスからの網膜色素上皮細胞における活性化カスパーゼ−3発現に対するポリ(I:C)の硝子体内投与の作用を示す。ポリ(I:C) (2 μg)の硝子体内投与は、Tlr3-/-マウスよりも、野生型マウスにおいて、RPE細胞のより大きい画分で活性化カスパーゼ−3を誘導した(5.2±0.6% vs 3.3±0.1%; * P = 0.03; n=4)。コントロール(ベースライン)の条件下、異なる遺伝子型のマウスの間では、活性化カスパーゼ−3発現RPE細胞の画分において顕著な差異は無かった(P = 0.76; n=4-6)。
【0054】
イン・ビボにおけるRPE細胞に対するTLR3活性化の影響について、野生型マウス又はTlr3-/-マウスの硝子体液にポリ(I:C)を投与することによって検討した。ポリ(I:C)投与は、Tlr3-/-マウスと比較して、野生型マウスにおいてRPE細胞数の61±4% (P=0.03)というより大きな減少に至った(図2)。同様に、ポリ(I:C)投与後に、Tlr3-/-マウスと比較して、野生型マウスにおいてPRE細胞のアポトーシス(カスパーゼ−3活性化として定義)の60±18% (P=0.03)というより大きい誘導があった(図1)。総じて、これらイン・ビトロ及びイン・ビボのデータは、加齢性黄斑変性症での地図状萎縮(geographic atrophy)の病原性における誘発事象と考えられる、PRE細胞の細胞死を誘発するTLR3の活性化の能力を証明している。
【0055】
図11に見られるように、2μgのポリイノシン:ポリシチジル酸(I:C)、及びポリ(I:C12U)(アンプリジェン(登録商標)(Ampligen(R))、毎13番目のヌクレオシドにおいて、統計的に、シトシンがウリジンに置換されている。;I:C12U)は、Tlr3+/+マウスではCNVを抑制したが、Tlr3(/(マウスでは抑制しなかった。また、ポリデオキシイノシン:ポリデオキシシチジル酸(dI:dC;2μg)は抑制しなかった。ビヒクル(PBS); n=5-9、 * P < 0.05; NS、有意ではない。ポリ(I:C)は、TLR3、及びMDA5等の他のdsRNAセンサーを活性化する。ポリ(I:C12U)は、TLR3のみを活性化し、他のdsRNAセンサーを活性化しない。このように、ポリ(I:C)及びポリ(I:C12U)は、TLR3+/+マウスにおいてCNVを同等に抑制し、TLR3-/-マウスではCNVを抑制しないことから、上記結果は、ポリ(I:C)はTLR3を介してCNVを抑制することを証明している。
【0056】
図12に見られるように、siRNA-Lucの23-ntバージョンは、野生型マウスにおいてCNVを抑制した。しかし、より短い短縮バージョンは抑制しなかった。n=8-11、ビヒクル(バッファー)と比較して* P<0.05。23-nt siRNA-Lucの1μgに相当する等モル量。これらのデータは、23-ntより短いsiRNAデュプレックスはTLR3を活性化しないことを証明している。図13は、野生型マウスにおいてCNVを抑制する23-nt siRNA-Lucの能力に対する、21-nt siRNA-Luc及び21-nt dsDNAの作用を示している。21-nt siRNA-Luc (1-2.5μg)は、野生型マウスにおいてCNVを抑制する23-nt siRNA-Luc (0.25μg)の能力を拮抗するが、21-nt dsDNA (2.5μg)は拮抗しない。試薬は、硝子体内に注入した。n=7-11、 * P<0.05、NS、有意ではない。21-nt超のsiRNA-Lucは、容量依存的に、23-nt siRNA-LucによるCNV抑制を防止した。これは、より短いsiRNAは、TLR3モノマーの不活性なコンペティターとして機能し、かつTLR3に結合して活性化するより長いsiRNAの能力を阻害したことを示唆している。この競合の特異性は、21-nt siRNA-LucのdsDNAアナログが23-nt siRNA-LucによるCNV抑制を阻害できないことによって証明された。
【0057】
図16は、ポリ(I:C)誘導細胞障害性からヒト網膜色素上皮細胞を救出する2'O-メチル-21-nt siRNA-Luc-コレステロール、2'O-メチル-18-nt siRNA-Luc-コレステロール、及び2'O-メチル-15-nt siRNA-Luc-コレステロールの能力を示している。(PBS−リン酸緩衝生理食塩水と比較した)初代ヒト網膜色素上皮細胞のポリ(I:C)(1μg/ml)誘導細胞障害性は、血清安定2'O-メチル-21-nt siRNA-Luc-コレステロール (0.5μg/ml)によって救出された(31%救出)。ポリ(I:C)誘導細胞障害性のより顕著な救出が2'O-メチル-18-nt siRNA-Luc-コレステロールによって誘導され(81%救出)、また、さらにより顕著な救出が2'O-メチル-15-nt siRNA-Luc-コレステロールによって誘導された(134%救出)。21-nt siRNA-Lucのみで誘導された細胞障害性は無かった。n=4。これらの発見は、如何にして23-ntより短いsiRNAデュプレックスがTLR3拮抗剤として作用するかの一例を示している。
【0058】
本開示において引用された全ての文献は、各文献が、個々に、全体として参照により組み込まれたいたかのうように、同程度に参照により組み込まれる。
【0059】
本発明を、詳細に、かつ特定の実施形態について説明したが、本発明の精神と範囲とから逸脱することなく、様々な変形及び変更が為さられ得ることは当業者に明白である。そのような全ての変形及び変更は、本開示及び本発明の範囲内に含まれるものと意図され、以下の請求項によって保護される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トール様受容体3(TLR3)に結合するが、TLR3の活性を活性化しない22個のヌクレオチド以下の長さの二本鎖RNAのTLR3拮抗有効量に、網膜細胞又は脈絡膜細胞を暴露することを含む、黄斑変性症を治療又は予防する方法。
【請求項2】
黄斑変性症の地図状萎縮を阻害することによって、黄斑変性症が治療又は予防される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
黄斑変性症が、萎縮型黄斑変性症である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記二本鎖RNAが、修飾を受けていない二本鎖RNA、又は一以上の2’位にO−メチル基を有する二本鎖RNAである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記二本鎖RNAが、5〜22個のヌクレオチドを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記二本鎖RNAが、7〜11個のヌクレオチドを有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記二本鎖RNAが、センス鎖及びアンチセンス鎖に、2個のヌクレオチドの3’オーバーハングを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記二本鎖RNAが、コレステロールに結合している、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記二本鎖RNAが、薬学的に許容される担体に封入されている、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記担体が、リポソーム、SNALPS、ナノ粒子、及びデンドリマーからなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記二本鎖RNAが、RNA分解酵素による分解を防止するために修飾されている、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記二本鎖RNAが、2’O-Meで修飾されている、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記二本鎖RNAが、配列非特異的な二本鎖RNAである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記二本鎖RNAが、配列特異的な二本鎖RNAである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記網膜細胞が、網膜色素上皮細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記脈絡膜細胞が、脈絡膜内皮細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記二本鎖RNAに網膜細胞又は脈絡膜細胞を暴露することが、哺乳動物において行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
化合物が哺乳動物に眼内投与される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
持続放出装置を介して、又は、硝子体液中に、房水中に、強膜上に、強膜中に、脈絡膜上腔中に、若しくは網膜下腔中に注入される組成物を介して、前記二本鎖RNAが投与される、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
トール様受容体3(TLR3)に結合するが、TLR3の活性を活性化しない22個のヌクレオチド以下の長さの二本鎖RNAのTLR3拮抗有効量に、治療又は予防を必要とする被検体を暴露することを含む、TLR3の活性化に関係する疾患又は障害を治療又は予防する方法。
【請求項21】
前記疾患又は障害が、糖尿病、肝疾患、神経変性疾患、ウイルス感染、蠕虫感染、及び自然流産の予防からなる群から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
TLR3に結合するが、TLR3の活性を活性化しない22個のヌクレオチド以下の長さの配列非特異的又は配列特異的な二本鎖RNAを含む、黄斑変性症の治療又は予防のための組成物。
【請求項23】
標的遺伝子をノックダウンするために十分な標的siRNAの量、及び標的siRNAがTLR3を活性化することを防止する22個のヌクレオチド以下の二本鎖RNAの量を投与することを含む、所望のsiRNA標的ノックダウンの特異性を増加させる方法。
【請求項24】
TLR3又はその結合断片を試験化合物と接触させること、及び
TLR3又はその結合断片と試験化合物との間で、複合体が形成させるかどうかを決定すること
を含む、TLR3に拮抗する化合物をスクリーニングする方法。
【請求項25】
TLR3と相互作用するものとして同定された試験化合物について、TLR3作動薬とTLR3との結合を阻害する能力をアッセイする、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
TLR3と相互作用するものとして同定された試験化合物について、TLR3作動薬によるTLR3の活性化を阻害する能力をアッセイする、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
TLR3と相互作用するものとして同定された試験化合物について、網膜色素上皮細胞の細胞死を阻害する能力をアッセイする、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
トール様受容体3(TLR3)に結合するが、TLR3の活性を活性化しないTLR3拮抗剤に、網膜細胞又は脈絡膜細胞を暴露することを含む、網膜変性を治療又は予防する方法。
【請求項29】
TLR3拮抗剤に、網膜細胞又は脈絡膜細胞を暴露することを含む、網膜変性を治療又は予防する方法。
【請求項30】
前記TLR3拮抗剤が、TLR3抗体、溶解性TLR3、及びTLR3低分子拮抗剤からなる群から選択される、請求項29に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2011−518116(P2011−518116A)
【公表日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−547646(P2010−547646)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【国際出願番号】PCT/US2009/001106
【国際公開番号】WO2009/105260
【国際公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ウィンドウズ
【出願人】(507365086)ユニバーシティ オブ ケンタッキー リサーチ ファウンデーション (3)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF KENTUCKY RESEARCH FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】A144  ASTeCC Building, Lexington, Kentucky 40506−0286, U.S.A.
【Fターム(参考)】