説明

トーンホイールの着磁方法及び着磁装置

【課題】回転方式の利点を活かし、固定治具が爪式チャック手段であっても、着磁品質の低下を来たさないトーンホイールの着磁方法及び着磁装置を提供する。
【解決手段】円環状被着磁体4を、円筒部分3a及びこれに直交する部分3bの2部分からなる磁性体製補強環3の1方の部分に貼着し、該補強環3をその円筒部分3aをして非磁性体製爪式チャック手段からなる固定治具2に装着し、上記着磁ヨーク5の1方の端部51が上記円環状被着磁体4の表面に近接し、上記着磁ヨークの他方の端部52が上記円環状被着磁体の外周縁部よりも外方に位置した状態で、補強環3の他方の部分に近接させ、上記固定治具2を軸回転させながら、着磁ヨーク5の1方の端部51、円環状被着磁体4、磁性体製補強環3及び着磁ヨーク5の他方の端部52間で磁束aの交番閉回路を形成することにより、円環状被着磁体4に、その周方向に沿ってS極及びN極を交互に着磁形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用車輪等の回転数を検出する為の磁気エンコーダを構成するトーンホイールの着磁方法及び着磁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用車輪には、その回転数を検出する為の磁気エンコーダが装備されることがある。この磁気エンコーダとしては、車輪の回転側部材、例えば、車輪軸受システムにおけるシールリングのスリンガに貼着されるト−ンホイールと、車体側に固定されト−ンホイールの表面に近接される磁気センサとより構成されるものが挙げられる。ト−ンホイールとしては、ゴム材に磁性粉末を混練し、スリンガの形状に沿うよう円環状に成形し、更に、その円周方向に沿ってS極、N極を交互に着磁形成したものが採用される。
【0003】
上記トーンホイールの着磁方法としては、被着磁体を固定しこれに多数の着磁部を備えた着磁ヨークで一括着磁する固定式の方法と、被着磁体を回転させながら、一対の着磁部を作用させて着磁する回転式の方法とがあるが、量産性或いは着磁精度に優れることから、後者の回転式着磁方法の方が多用されている。特許文献1〜3は、上記のようなトーンホイール(これを、磁気エンコーダと言う場合もある)の回転式着磁方法及び装置の例を開示するものである。
【0004】
特許文献1〜3に開示された着磁方法及び装置は、環状磁性部材の表裏に着磁ヨークの対向端部を対面するよう配置し、環状磁性部材を回転させながら着磁するものや、車輪軸受装置をスピンドルに設置し、軸受装置に取付けられた磁気エンコーダに着磁ヨークの一端を、軸受装置の回転側部材(ハブ輪)に他端を対峙させ、スピンドルを回転させながら着磁するもの、更には、磁性体の回転部材(固定治具)に磁気エンコーダを設置し、着磁ヨークの一端を磁気エンコーダに、他端を回転部材に対峙させ、回転部材を回転させながら着磁するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−164213号公報
【特許文献2】特開2002−318239号公報
【特許文献3】特開2003−344098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
而して、環状磁性部材の表裏に着磁ヨークの対向端部で挟み込むようにして着磁を行う場合、着磁ヨークの上下方向或いは左右方向の高度な位置決精度が求められ、また、着磁ヨークと環状磁性部材との間に隙間が存在する為、回転する着磁面の振れにヨークが正しく追随できないと言う問題点もあった。また、ハブ輪を含む車輪軸受装置に磁気エンコーダを組み込んだ上で着磁を行う場合は、装置が大掛かりとなり、しかも、汎用の軸受の製造や軸受部品の製造システムには適用し難いものであった。更に、磁性体の回転固定治具に磁気エンコーダを設置し、この固定治具に着磁ヨークの他端を対峙させて着磁を行う場合、磁性体の固定治具が磁束の閉回路の一部を構成することになるが、固定治具として爪方式のチャック手段(固定治具として最も一般的)を用いる場合、爪間の隙間が不可避である為、この隙間部分で着磁の磁力の変動が生じ、着磁品質の低下の原因となることが懸念されるところである。
【0007】
本発明は、上記のような実情に鑑みなされたもので、回転方式の利点を活かし、固定治具が爪式チャック手段であっても、着磁品質の低下を来たさないトーンホイールの着磁方法及び着磁装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明に係るトーンホイールの着磁方法は、円環状被着磁体を、円筒部分及びこの1端に連成された部分の2部分からなる磁性体製補強環の1方の部分に貼着し、該補強環をその円筒部分をして非磁性体製爪式チャック手段からなる固定治具に装着し、着磁ヨークの1方の端部が上記円環状被着磁体の表面に近接し、上記着磁ヨークの他方の端部が上記円環状被着磁体の外周縁部よりも外方に位置した状態で、上記固定治具を軸回転させながら、着磁ヨークの1方の端部、円環状被着磁体、磁性体製補強環及び着磁ヨークの他方の端部間で磁束の交番閉回路を形成することにより、円環状被着磁体に、その周方向に沿ってS極及びN極を交互に着磁形成することを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明に係るトーンホイールの着磁方法は、円環状被着磁体を、円筒部分及びこの1端に連成された部分の2部分からなる磁性体製補強環の1方の部分に貼着し、該補強環をその円筒部分をして非磁性体製爪式チャック手段からなる固定治具に装着し、着磁ヨークの1方の端部が上記円環状被着磁体の表面に近接し、上記着磁ヨークの他方の端部が上記円環状被着磁体の内周縁部よりも内方に位置した状態で、上記固定治具を軸回転させながら、着磁ヨークの1方の端部、円環状被着磁体、磁性体製補強環及び着磁ヨークの他方の端部間で磁束の交番閉回路を形成することにより、円環状被着磁体に、その周方向に沿ってS極及びN極を交互に着磁形成することを特徴とする。
【0010】
請求項5及び請求項6の発明は、トーンホイールの着磁装置に係るもので、非磁性体製爪式チャック手段からなる軸回転可能な固定治具と、少なくとも2つの着磁端部を備えた着磁ヨークとよりなり、円環状被着磁体を、円筒部及びこの1端に連成された部分の2部分からなる磁性体製補強環の1方の部分に貼着し、該補強環をその円筒部分をして上記固定治具に装着し、上記着磁ヨークの1方の端部が上記円環状被着磁体の表面に近接し、上記着磁ヨークの他方の端部が上記円環状被着磁体の外周縁部よりも外方に位置した状態で(請求項5)、又は上記円環状被着磁体の内周縁部よりも内方に位置した状態で(請求項6)、上記固定治具を軸回転させながら、着磁ヨークの1方の端部、円環状被着磁体、磁性体製補強環及び着磁ヨークの他方の端部間で磁束の交番閉回路を形成することにより、円環状被着磁体に、その周方向に沿ってS極及びN極を交互に着磁形成するようにしたことを特徴とする。
【0011】
上記トーンホイールの着磁方法及び着磁装置において、請求項3及び7の発明のように、上記爪式チャック手段を、円周方向に配列した複数のチャック爪を径方向に変位させることによって上記補強環の円筒部分を把持固定するものとすることができる。また、請求項4及び8の発明のように、上記磁性体製補強環と着磁ヨークの他方の端部との間に、着磁に先立ち磁性体製補強環に貼着された円環状被着磁体を所定位置に位置決めする為のリング状位置決め台を介在させ、上記磁束の交番閉回路を、着磁ヨークの1方の端部、円環状被着磁体、磁性体製補強環、位置決め台及び着磁ヨークの他方の端部間で形成させるようにすることもできる。
【発明の効果】
【0012】
請求項1、2、或いは4及び5、6或いは8の発明に係るトーンホイールの着磁方法及び着磁装置によれば、円環状被着磁体の表面に着磁ヨークの1方の端部を近接させた状態で、上記固定治具を軸回転させながら着磁を行うから、着磁ヨークの1方の端部、円環状被着磁体、磁性体製補強環及び着磁ヨークの他方の端部間或いは着磁ヨークの1方の端部、円環状被着磁体、磁性体製補強環、位置決め台及び着磁ヨークの他方の端部間で磁束の閉回路が形成され、固定治具がこの閉回路に関与することがない。しかも、固定治具は非磁性体からなるから、固定治具に磁束がリークして閉回路が乱れるようなことがなく、固定治具が爪式チャック手段からなるにも拘わらず、爪間の隙間が原因の着磁欠け(磁力の変動)等が生じることがなく、着磁が的確且つ精度よくなされる。また、円環状被着磁体は補強環を介して回転する固定治具に固定されるから、円環状被着磁体自体の回転に伴う振れが小さく、着磁ヨークの追随性にも優れる。更に、固定治具は円環状被着磁体を貼着した補強環を把持固定するものであるから、ハブ輪を固定する場合のものに比べ、要する回転動力や装置全体の規模を小さくすることができ、汎用軸受や軸受部品の製造システムへの適用も可能である。
【0013】
請求項3及び7の発明のように、上記爪式チャック手段を、円周方向に配列した複数のチャック爪を径方向に変位させることによって上記補強環の円筒部分を把持固定するものとすれば、通常のチャック装置をそのまま適用でき、簡易な装置で安定的に補強環を把持固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の着磁装置の概略構成を示す部分切欠正面図である。
【図2】同要部の斜視図である。
【図3】図1のX部の拡大図である。
【図4】他の実施例の図3と同様図である。
【図5】他の実施例の図3と同様図である。
【図6】他の実施例の図3と同様図である。
【図7】他の実施例の図3と同様図である。
【図8】他の実施例の図3と同様図である。
【図9】他の実施例の図3と同様図である。
【図10】位置決め台を採用した実施例の図3と同様図である。
【図11】位置決め台を採用した他の実施例の図3と同様図である。
【図12】位置決め台を採用した他の実施例の図3と同様図である。
【図13】図10〜図12の例の変形例を示す要部の一部切欠斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の最良の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1は本発明の着磁装置の概略構成を示す部分切欠正面図、図2は同要部の斜視図、図3は図1のX部の拡大図、図4〜図9は他の実施例の図3と同様図、図10〜図12は位置決め台を採用した例の図3と同様図、図13は図10〜図12の例の変形例を示す要部の斜視図である。
【実施例1】
【0016】
図1乃至図3に示す着磁装置Aにおいて、回転スピンドル装置1上に、固定治具2が軸線L回りに回転可能に装備されており、1aはスピンドル装置1の回転駆動用モータである。固定治具2は、爪式チャック手段からなり、基台2a上に3分割の非磁性体製扇形(120°)チャック爪2b…を径方向に移動可能に備え、図はチャック爪2b…を遠心方向に移動させることにより、円筒状部材(ワーク)の内筒部に緊合させてワークを把持固定させる例を示している。尚、図では省略したが、チャック爪2b…を径方向に移動調整させる為の自動若しくは手動の操作手段が、基台2aに付設されていることは言うまでもない。また、チャック爪2b…は、ワークの大きさに応じて各種準備し、基台2aに対し不図示の取付治具により適宜着脱交換可能とすることもできる。
【0017】
補強環3は、ステンレス鋼等の磁性体金属を板金加工したものであり、円筒部分3aとその一端に連成された外向鍔部分3b(円筒部分及びこの1端に連成された部分の2部分)からなる。上記円環状被着磁体4は、FKM、NBR、H−NBR、EPDM、CR、ACM、AEM、VMQ及びFVMQ等のゴム材からなり、これらゴム基材にフェライト等の磁性粉末を混練し、上記外向鍔部分3bの外面及び外周縁部に加硫接着等により貼着一体とされている。この円環状被着磁体4を貼着一体とした補強環3がワークとされ、補強環3の円筒部分3aをして、前記固定治具2に把持固定される。
【0018】
着磁ヨーク5は、略C字状の開環鉄心5aにコイル5bを巻回し、コイル5bに電流を流すことによって開環端部51、52から磁界を発生させんとするものであり、上記固定治具2の近傍に配設される。着磁ヨーク5の背後には、上記開環端部52をばねにより上記円筒部分3aの外周面に軽く押し当てる為の押圧手段5cが設置されている。
【0019】
上記着磁装置Aによる着磁の要領について説明する。先ず、磁性体金属を板金加工して得た補強環3に対し、その外向鍔部分3bの外面(平坦面)及び外周縁部に、上記のように事前調製されたゴム材を加硫接着等により貼着一体として円環状被着磁体4を形成する。次いで、固定治具2のチャック爪2b…により、円環状被着磁体4を貼着一体とした補強環3を円筒部分3aをして把持固定する。そして、着磁ヨーク5の開環端部52(他方の端部)を押圧手段5cにより円筒部分3aの外周面に軽く押し当てるようにし且つもう一方の開環端部51(1方の端部)を円環状被着磁体4の表面に近接させるようにして着磁ヨーク5を固定治具2の近傍に配置する。
【0020】
斯くして、回転スピンドル装置1のモータ1aを駆動し、固定治具2を軸線Lの回りに軸回転させながら、着磁ヨーク5のコイル5bに電流を印加する。この電流の印加は、その印加方向が所定の短いインタバルで正逆交互に繰り返すようプログラムされた制御シーケンスに基づきなされる。その結果、開環端部51−円環状被着磁体4−補強環3−開環端部52−開環端部51に沿って、磁束線aの閉回路が形成される。この閉回路の磁束線aの方向は、上記電流の交番印加に基づき、図3の矢示線のように、短いインタバルで交互に向きが変化する。この間、円環状被着磁体4は、軸線Lの周りに回転を継続するから、含有された磁性粉末が励磁される結果、周方向にS極、N極が交互に繰り返す状態で着磁される。
【0021】
そして、固定治具2が非磁性体からなるから、上記磁束線aは固定治具2にリークせず、上記閉回路における磁束線aの密度が一定に維持され、円環状被着磁体4に形成される着磁パターンは周方向に亘って一定となり、これにより、着磁品質の優れたトーンホイールが得られる。しかも、固定治具2が爪式チャック手段からなるにも拘わらず、チャック爪間の隙間が着磁に影響しないので、汎用性の高い爪式チャック手段を固定治具として採用でき、着磁装置の設計自由度が広くなる。また、着磁ヨーク5の位置決めは、開環端部52を押圧手段5cにより円筒部分3aの外周面に軽く押し当てるようにしてなされるから、精度よく簡易になされる。
【実施例2】
【0022】
図4に示す例は、補強環3が円筒部分3aとその一端に連成された内向鍔部分3c(円筒部分及びこの1端に連成された部分の2部分)からなり、円環状被着磁体4が円筒部分3aの外周面に貼着一体とされた場合の着磁の要領について示すものである。本例において、補強環3が円筒部分3aをして固定治具2に把持固定される点は上記実施例と同じであるが、この把持固定状態では、内向鍔部分3cが固定治具2の上面に位置する。そして、着磁ヨーク5の上部に押圧手段5cが設置され、開環端部52(他方の端部)をこの押圧手段5cをして内向鍔部分3cの上面に押し付けるよう且つ開環端部51(1方の端部)を円環状被着磁体4が貼着一体とされた円筒部分3aの外周面に近接するよう着磁ヨーク5が配置される。
【0023】
上記のように事前準備がなされた上で、上記同様に固定治具2を軸線Lの回りに回転させながら、コイル5bに交番電流を印加させると、図のように、開環端部51−円環状被着磁体4−補強環3−開環端部52−開環端部51に沿って、磁束線aの閉回路が形成される。そして、円環状被着磁体4には、周方向にS極、N極が交互に繰り返す着磁パターンが形成される。この場合も、固定治具2が非磁性体からなるから、上記磁束線aは固定治具2にリークせず、上記閉回路における磁束線aの密度が一定に維持され、円環状被着磁体4に形成される着磁パターンは周方向に亘って一定となり、これにより、着磁品質の優れたトーンホイールが得られる。しかも、固定治具2が爪式チャック手段からなるにも拘わらず、チャック爪間の隙間が着磁に影響しないので、汎用性の高い爪式チャック手段を固定治具として採用でき、着磁装置の設計自由度が大きくなることも上記と同様である。その他の構成・効果は上記と同様であるので、共通部分に同一の符号を付しその説明を割愛する。尚、実施例1及び2における押圧手段5cを設けず、着磁ヨーク5の開環端部52を補強環3に近接させるようにしてもよい。
【実施例3】
【0024】
図5に示す例は、補強環3が肉厚の円筒部分3aとその厚み部分に相当する端面部分3d(円筒部分及びこの1端に連成された部分の2部分)からなり、円環状被着磁体4が円筒部分3aの外周面に貼着一体とされた場合の着磁の要領について示すものである。着磁ヨーク5は、E字形の鉄心5aの3箇所にコイル5bを巻回してなり、2個の端部52(他方の端部)を補強環3の上下の端面部分3dに当接又は近接させ、残る端部51(1方の端部)を円環状被着磁体4が貼着一体とされた円筒部分3aの外周面に近接するようにして配置される。
【0025】
そして、上記同様に固定治具2を軸線Lの回りに回転させながら、コイル5bに交番電流を印加させると、図のように、開環端部51−円環状被着磁体4−補強環3−開環端部52−開環端部51に沿って、磁束線aの閉回路が形成される。この場合、開環端部51から磁束路が2方に別れ、図のように2系統の磁束線aの閉回路が形成されることになるが、円環状被着磁体4には、上記同様周方向にS極、N極が交互に繰り返す着磁パターンが形成される。
【0026】
上記同様固定治具2が非磁性体からなるから、上記磁束線aは固定治具2にリークせず、上記閉回路における磁束線aの密度が一定に維持され、円環状被着磁体4に形成される着磁パターンは周方向に亘って一定となり、これにより、着磁品質の優れたトーンホイールが得られる。しかも、固定治具2が爪式チャック手段からなるにも拘わらず、チャック爪間の隙間が着磁に影響しないので、汎用性の高い爪式チャック手段を固定治具として採用でき、着磁装置の設計自由度が広がることも上記と同様である。その他の構成・効果は上記と同様であるので、共通部分に同一の符号を付しその説明を割愛する。
【実施例4】
【0027】
図6に示す例は、補強環3が円筒部分3aとその1端を屈曲して折り畳むよう板金加工された平面円環部分3e(円筒部分及びこの1端に連成された部分の2部分)からなり、円環状被着磁体4が平面円環部分3eの上面に貼着一体とされた場合の着磁の要領について示すものである。本例において、補強環3が円筒部分3aをして固定治具2に把持固定される点は上記実施例と同じであるが、円筒部分3aの背後には、固定治具2の小径部による空間部2cが存在する。そして、C字状の開環着磁ヨーク5の開環端部51(1方の端部)が円環状被着磁体4に近接され、開環端部52(他方の端部)は補強環3から離れた位置になるよう、着磁ヨーク5が配置される。この離れた位置とは、図のように平面円環部分3eの上面に貼着された円環状被着磁体4の外周縁部bよりも外方位置であり且つ円環状被着磁体4の表面位置cより補強環3側の位置を意味する。この場合、開環端部52(他方の端部)が円環状被着磁体4の裏面位置dより補強環3側にある方がより好ましく、これにより円環状被着磁体4を貫通する磁気閉回路をより効率よく形成でき、磁気特性に優れたトーンホイールが得られる。
【0028】
この例においても、上記同様に固定治具2を軸線Lの回りに回転させながら、コイル5bに交番電流を印加させることにより、図のように、開環端部51−円環状被着磁体4−補強環3−開環端部52−開環端部51に沿って、磁束線aの閉回路が形成される。この場合、開環端部52が補強環3から離れているが、着磁ヨーク5、補強環3及び円環状被着磁体4以外は非磁性体であるから、他に磁束線の閉回路を形成する部位がなく、図のような磁束線aの閉回路によって上記同様に着磁がなされる。また、円筒部分3aの背後には空間部2cが形成されているから、磁束線の固定治具2への指向性が弱まり、上記磁束線aの閉回路の形成に有効となる。その他の構成・効果は上記と同様であるので、共通部分に同一の符号を付しその説明を割愛する。尚、この例の場合、補強環3は非磁性体であっても、図のような磁束線aの閉回路が形成される。
【実施例5】
【0029】
図7は、実施例1と同様形状の補強環3及びこの外向鍔部分3bに貼着された円環状被着磁体4での着磁方法の変形例を示すものであり、上記同様、開環端部51−円環状被着磁体4−補強環3−開環端部52−開環端部51に沿って、磁束線aの閉回路が形成される。この場合、実施例4と同様、開環端部52が補強環3から離れているが、着磁ヨーク5、補強環3及び円環状被着磁体4以外は非磁性体であるから、他に磁束線の閉回路を形成する部位がなく、図のような磁束線aの閉回路によって上記同様に着磁がなされる。尚、開環端部52の位置と、円環状被着磁体4の外周縁部b、円環状被着磁体4の表面位置c及び円環状被着磁体4の裏面位置dとの位置関係は実施例4の場合と同様であることが望ましい。
【実施例6】
【0030】
図8は、補強環3が、実施例2と同様、円筒部分3aとその一端に連成された内向鍔部分3c(円筒部分及びこの1端に連成された部分の2部分)からなり、円環状被着磁体4が内向鍔部分3cの外面(平坦面)に貼着一体とされた場合の着磁の要領について示すものである。この例でも、着磁の際、開環端部51−円環状被着磁体4−補強環3−開環端部52−開環端部51に沿って、磁束線aの閉回路が形成される。
【実施例7】
【0031】
図9に示す例は、補強環3が、実施例1と同様、円筒部分3aとその一端に連成された外向鍔部分3b(円筒部分及びこの1端に連成された部分の2部分)からなるが、円筒部分3aの外周部分をして固定治具2に把持固定される点で異なる。即ち、固定治具2のチャック爪2bは、求心方向への移動により円筒部分3aを外側より把持する。円環状被着磁体4は外向鍔部分3bの外面(平坦面)に貼着一体とされる。この例でも、開環端部51−円環状被着磁体4−補強環3−開環端部52−開環端部51に沿って、磁束線aの閉回路が形成される。
【0032】
尚、実施例5〜7の例におけるその他の構成・効果は上記と同様であるの、共通部分に同一の符号を付しそれらの説明を割愛する。
【実施例8】
【0033】
図10は、実施例4の例において、磁性体製補強環3と着磁ヨーク5の他方の端部52との間に、着磁に先立ち磁性体製補強環3に貼着された円環状被着磁体4を所定位置に位置決めする為のリング状位置決め台6を介在させた例を示すものである。位置決め台6は、位置決め基台60上に圧縮スプリング6aを介して上向き付勢状態で固定治具2の周りに配設される。この位置決め台6は、円環状被着磁体4を所定位置に位置決めする為のものであり、着磁の前工程において、この位置決め台6上に円環状被着磁体4が貼着された磁性体製補強環3を図のように載置し、上方より位置決基準板(不図示)を圧縮スプリング6aの弾力に抗して円環状被着磁体4の上面に押付け、所定の位置に維持する。この状態で固定治具2のチャック爪2b…を作用させて、円筒部分3aをして補強環3を固定治具2に把持固定させる。その後、位置決基準板を退避させ、固定治具2を回転させながら着磁ヨーク5により上記同様に着磁がなされる。
【0034】
位置決め台6は、上記位置決め工程が完了した後は、別の位置に退避させるよう構成することが望ましいが、装置構成が複雑となるため、通常固定治具2の周りにこれと一体関係で或いは別個に配置され、磁性体製補強環3と着磁ヨーク5の他方の端部52との間に介在することになる。従って、固定治具2を回転させ着磁ヨーク5により着磁する際、図のように、着磁ヨークの1方の端部51−円環状被着磁体4−磁性体製補強環3−位置決め台6−着磁ヨークの他方の端部52間で磁束の交番閉回路aが形成される。位置決め台6は磁性体の方が磁気閉回路の形成が効率的になされるが、図のような位置関係に置かれる場合は、非磁性体であっても、磁気閉回路の形成効率は左程低下しない。即ち、磁性体製補強環3と着磁ヨークの他方の端部52との間に磁性体の位置決め台6が介在される場合は、この部分では位置決め台6の形状に沿った実線のように上記交番閉回路aが形成されるが、位置決め台6が非磁性体の場合は、この部分では磁性体製補強環3と着磁ヨークの他方の端部52との最短距離を結ぶよう図の2点鎖線a’のような経路を経て、結果として、着磁ヨークの1方の端部51−円環状被着磁体4−磁性体製補強環3−位置決め台6−着磁ヨークの他方の端部52間で磁束の交番閉回路aが形成される。また、固定治具2と一体関係の場合は固定治具2と共に回転するが、別個に設置される場合は固定治具2の回転中も静止状態とされる。尚、開環端部52の位置と、円環状被着磁体4の外周縁部b、円環状被着磁体4の表面位置c及び円環状被着磁体4の裏面位置dとの位置関係は実施例4の場合と同様であることが望ましい。また、その他の構成は上記と同様であるので、共通部分に同一の符号を付し、その説明を割愛する。
【実施例9】
【0035】
図11は、実施例5の例において、磁性体製補強環3と着磁ヨーク5の他方の端部52との間に、着磁に先立ち磁性体製補強環3に貼着された円環状被着磁体4を所定位置に位置決めする為のリング状位置決め台6を介在させた例を示すものである。この場合も、位置決め台6が磁性体或いは非磁性体に拘わらず、着磁の際、着磁ヨークの1方の端部51−円環状被着磁体4−磁性体製補強環3−位置決め台6−着磁ヨークの他方の端部52間で磁束の交番閉回路a(上記同様、位置決め台6が非磁性体の場合は2点鎖線a’のような経路を経て)が形成される。その他の構成は、実施例8と同様であるので、その効果も同様である。従って、共通部分に同一の符号を付しここではその説明を割愛する。
【実施例10】
【0036】
図12は、補強環3が、円筒部分3aとその一端に連成された内向鍔部分3c(円筒部分及びこの1端に連成された部分の2部分)からなり、円環状被着磁体4を内向鍔部分3cの外面(平坦面)に貼着一体とし、実施例7のように、円筒部分3aの外周をチャック爪2b…により把持する例において、磁性体製補強環3と着磁ヨーク5の他方の端部52との間に、着磁に先立ち磁性体製補強環3に貼着された円環状被着磁体4を所定位置に位置決めする為のリング状位置決め台6を介在させた例を示すものである。この場合、位置決め台6はチャック爪2b…の内側で、固定治具2の基台2a上に圧縮スプリング6aを介して上向き付勢状態で配置され、固定治具2と共に軸線L周りに回転する。この例においても、位置決め台6が磁性体或いは非磁性体に拘わらず、着磁の際、着磁ヨークの1方の端部51−円環状被着磁体4−磁性体製補強環3−位置決め台6−着磁ヨークの他方の端部52間で磁束の交番閉回路a(上記同様、位置決め台6が非磁性体の場合は2点鎖線a’のような経路を経て)が形成される。その他の構成は、実施例8と同様であるので、その効果も同様である。従って、共通部分に同一の符号を付しここではその説明を割愛する。
【実施例11】
【0037】
図13は、上記磁性体製補強環3と着磁ヨーク5の他方の端部52との間にリング状位置決め台6を介在させる場合の変形例を示すものであり、位置決め台6が磁性体からなり、固定(非回転)状態で設置される場合に、位置決め台6における着磁ヨーク5の配設位置に対応する部分6bの両側に切込による空隙部6c、6cを設け、この空隙部6c、6cに挟まれた衝立状部分6bを磁性体製補強環3と着磁ヨーク5の他方の端部52との間に介在されるリング状位置決め台6の部分としている。従って、着磁の際は、着磁ヨークの1方の端部51−円環状被着磁体4−磁性体製補強環3−位置決め台6の部分6b−着磁ヨークの他方の端部52間で磁束の交番閉回路が形成される。この場合、空隙部6c、6cにより磁束のリークが抑えられ、幅狭の位置決め台6の部分6bを磁束路とすることにより、磁束密度が大となり、効率的な磁気閉回路の形成ができる。
【0038】
尚、この例の補強環3は、円筒部分3aとその一端に連成された外向鍔部分3b(円筒部分及びこの1端に連成された部分の2部分)からなり、円環状被着磁体4を外向鍔部分3bの外面(平坦面)に貼着一体とされ、位置決め台6による位置決めパターン及び固定治具2による把持固定パターンは、実施例9と類似するが、その他の形状の補強環3、円環状被着磁体4、位置決め台6による位置決めパターン及び固定治具2による把持固定パターンのものにも本例を適用させることができる。
【0039】
上記によって着磁されたトーンホイールを、補強環3をスリンガとして軸受システムにおける回転側部材に嵌着することにより、軸受の組合わせシールリングを組立てることができる。そして、固定側にはこのトーンホイールに対面させて磁気センサを設置すれば、これらにより回転数検出用の磁気エンコーダが簡易に構成される。上記のように、トーンホイールに形成された着磁パターンはその周方向に亘って均質で着磁精度の高いものであるから、この磁気エンコーダは、自動車の車輪回転数検出用としての適性は極めて大である。
【0040】
尚、固定治具2をなす爪式チャック手段の機構は、図例のものに限定されず、汎用されている他のこの種チャック手段を充当し得ることは言うまでもない。また、回転スピンドル装置1のモータ1aに加減速機を付加し、固定治具2の回転速度を可変とすることにより、S極、N極の形成間隔を変えたり、或いは着磁電源をS極用、N極用の個別に設けるか、着磁電源出力を制御することにより、着磁ヨーク5の出力とも関連付けて着磁強度を目的用途に応じて任意に変え得るようになすことも可能である。この場合、スピンドル装置1に設けたエンコーダ(不図示)の信号により、所望の角度変位毎に着磁電流の方向を切替え(逆にし)着磁を行って行くようにする。このように所望の角度を変えることで、着磁されるS極、N極の間隔を任意に変えることができる。更に、補強環3を構成する円筒部分及びこの1端に連成された部分の2部分としては図例のものに限定されず、円筒部分及びこの1端に連成された部分の関係にあれば他の形状も採用可能である。
【符号の説明】
【0041】
2 固定治具
2b チャック爪
3 磁性体製補強環
3a 円筒部分
3b 外向鍔部分(円筒部分の1端に連成された部分)
3c 内向鍔部分(円筒部分の1端に連成された部分)
3d 端面部分(円筒部分の1端に連成された部分)
3e 平面円環部分(円筒部分の1端に連成された部分)
4 円環状被着磁体
5 着磁ヨーク
51 開環端部(着磁ヨークの1方の端部)
52 開環端部(着磁ヨークの他方の端部)
6 位置決め台
A 着磁装置
a 磁束(線)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環状被着磁体を、円筒部分及びこの1端に連成された部分の2部分からなる磁性体製補強環の1方の部分に貼着し、該補強環をその円筒部分をして非磁性体製爪式チャック手段からなる固定治具に装着し、着磁ヨークの1方の端部が上記円環状被着磁体の表面に近接し、上記着磁ヨークの他方の端部が上記円環状被着磁体の外周縁部よりも外方に位置した状態で、上記固定治具を軸回転させながら、着磁ヨークの1方の端部、円環状被着磁体、磁性体製補強環及び着磁ヨークの他方の端部間で磁束の交番閉回路を形成することにより、円環状被着磁体に、その周方向に沿ってS極及びN極を交互に着磁形成することを特徴とするトーンホイールの着磁方法。
【請求項2】
円環状被着磁体を、円筒部分及びこの1端に連成された部分の2部分からなる磁性体製補強環の1方の部分に貼着し、該補強環をその円筒部分をして非磁性体製爪式チャック手段からなる固定治具に装着し、着磁ヨークの1方の端部が前記円環状被着磁体の表面に近接し、前記着磁ヨークの他方の端部が前記円環状被着磁体の内周縁部よりも内方に位置した状態で、上記固定治具を軸回転させながら、着磁ヨークの1方の端部、円環状被着磁体、磁性体製補強環及び着磁ヨークの他方の端部間で磁束の交番閉回路を形成することにより、円環状被着磁体に、その周方向に沿ってS極及びN極を交互に着磁形成することを特徴とするトーンホイールの着磁方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のトーンホイールの着磁方法において、
上記爪式チャック手段が、円周方向に配列した複数のチャック爪を径方向に変位させることによって上記補強環の円筒部分を把持固定するものであることを特徴とするトーンホイールの着磁方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれに記載のトーンホイールの着磁方法において、
上記磁性体製補強環と着磁ヨークの他方の端部との間に、着磁に先立ち磁性体製補強環に貼着された円環状被着磁体を所定位置に位置決めする為のリング状位置決め台を介在させ、上記磁束の交番閉回路を、着磁ヨークの1方の端部、円環状被着磁体、磁性体製補強環、位置決め台及び着磁ヨークの他方の端部間で形成させるようにしたことを特徴とするトーンホイールの着磁方法。
【請求項5】
非磁性体製爪式チャック手段からなる軸回転可能な固定治具と、少なくとも2つの着磁端部を備えた着磁ヨークとよりなり、円環状被着磁体を、円筒部及びこの1端に連成された部分の2部分からなる磁性体製補強環の1方の部分に貼着し、該補強環をその円筒部分をして上記固定治具に装着し、上記着磁ヨークの1方の端部が上記円環状被着磁体の表面に近接し、上記着磁ヨークの他方の端部が上記円環状被着磁体の外周縁部よりも外方に位置した状態で、上記固定治具を軸回転させながら、着磁ヨークの1方の端部、円環状被着磁体、磁性体製補強環及び着磁ヨークの他方の端部間で磁束の交番閉回路を形成することにより、円環状被着磁体に、その周方向に沿ってS極及びN極を交互に着磁形成するようにしたことを特徴とするトーンホイールの着磁装置。
【請求項6】
非磁性体製爪式チャック手段からなる軸回転可能な固定治具と、少なくとも2つの着磁端部を備えた着磁ヨークとよりなり、円環状被着磁体を、円筒部及びこの1端に連成された部分の2部分からなる磁性体製補強環の1方の部分に貼着し、該補強環をその円筒部分をして上記固定治具に装着し、着磁ヨークの1方の端部が上記円環状被着磁体の表面に近接し、上記着磁ヨークの他方の端部が上記円環状被着磁体の内周縁部よりも内方に位置した状態で、上記固定治具を軸回転させながら、着磁ヨークの1方の端部、円環状被着磁体、磁性体製補強環及び着磁ヨークの他方の端部間で磁束の交番閉回路を形成することにより、円環状被着磁体に、その周方向に沿ってS極及びN極を交互に着磁形成するようにしたことを特徴とするトーンホイールの着磁装置。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のトーンホイールの着磁装置において、
上記爪式チャック手段が、円周方向に配列した複数のチャック爪を径方向に変位させることによって上記補強環の円筒部分を把持固定するものであることを特徴とするトーンホイールの着磁装置。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれかに記載のトーンホイールの着磁装置において、
上記磁性体製補強環と着磁ヨークの他方の端部との間に、着磁に先立ち磁性体製補強環に貼着された円環状被着磁体を所定位置に位置決めする為のリング状位置決め台を介在させ、上記磁束の交番閉回路を、着磁ヨークの1方の端部、円環状被着磁体、磁性体製補強環、位置決め台及び着磁ヨークの他方の端部間で形成させるようにしたことを特徴とするトーンホイールの着磁装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−139091(P2011−139091A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48653(P2011−48653)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【分割の表示】特願2004−306609(P2004−306609)の分割
【原出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【Fターム(参考)】