ドアロック制御システム
【課題】スマートキーまでの距離を高精度に導出できるドアロック制御システムを提供する。
【解決手段】ドアロック制御システム10においては、車両11側の車載アンテナ5からリクエスト信号S1が発信されると、これに応答してユーザ12が携帯するスマートキー3から応答信号S2が返信される。この応答信号S2が車載アンテナ5に受信されると、ドアロック機構9L,9Rが解錠される。応答信号S2には、周波数変調した連続波であるFM−CWが採用される。このため、応答時間を直接的に計時せずとも、FM−CWから得られる周波数情報から応答時間を求めることができるため、スマートキー3までの距離が近くともその距離を高精度に導出できる。
【解決手段】ドアロック制御システム10においては、車両11側の車載アンテナ5からリクエスト信号S1が発信されると、これに応答してユーザ12が携帯するスマートキー3から応答信号S2が返信される。この応答信号S2が車載アンテナ5に受信されると、ドアロック機構9L,9Rが解錠される。応答信号S2には、周波数変調した連続波であるFM−CWが採用される。このため、応答時間を直接的に計時せずとも、FM−CWから得られる周波数情報から応答時間を求めることができるため、スマートキー3までの距離が近くともその距離を高精度に導出できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のドアロックを無線通信を用いて制御するドアロック制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車などの車両のドアの解錠(開錠)及び施錠(閉錠)を無線通信を用いて制御するキーレスエントリーシステムなどのドアロック制御システムが知られている。
【0003】
このようなドアロック制御システムとしては、ユーザが携帯する携帯機器の位置を検出し、それに基づいてドアロックの開閉を制御するものが提案されている。例えば、特許文献1の技術では、携帯機器から送信される電波信号の伝搬時間に基づいて携帯機器までの距離を求め、求められた距離から車内外のいずれに携帯機器が存在するかを判断して、ドアロックの開閉を制御するようになっている。
【0004】
【特許文献1】特開平3−148352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ドアロック制御システムにおいて検出対象となる距離、すなわち、車両側のアンテナからユーザが携帯する携帯機器までの距離は、約5m以内と比較的近距離となる。このことから、アンテナと携帯機器との間の電波信号の伝搬時間は非常に短くなるため、特許文献1の技術のように伝搬時間のみに基づいて携帯機器の距離を正確に導出するには、ナノ秒を認識可能な非常に高い精度の計時性能が必要となる。このような計時性能の実現は困難かつ高価であり、特許文献1の技術をドアロック制御システムに現実的に採用することは難しかった。
【0006】
また、車両側のアンテナで受信される電波信号には、携帯機器から直接的に伝搬する直接波の他に、車内などで反射した反射波も含まれている。したがって、このような直接波と反射波とが重畳された電波信号から、携帯機器の距離を正しく導出することは難しかった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、携帯機器までの距離を簡易かつ高精度に導出できるドアロック制御システムを提供することを第1の目的とする。
【0008】
また、本発明は、携帯機器からの信号が反射波を含む場合であっても、正確に携帯機器の距離を導出できるドアロック制御システムを提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、車両のドアロックを無線通信を用いて制御するドアロック制御システムであって、前記車両に搭載され、リクエスト信号を発信する発信手段と、前記リクエスト信号の受信に応答して、周波数変調した応答信号を発信するユーザが携帯可能な携帯機器と、前記車両に搭載され、前記応答信号を受信する受信手段と、前記応答信号から得られる周波数情報に基づいて、前記携帯機器の距離を導出する導出手段と、前記携帯機器の距離に基づいて前記車両のドアロックを制御する制御手段と、を備えている。
【0010】
また、請求項2の発明は、請求項1に記載のドアロック制御システムにおいて、前記導出手段は、前記周波数情報のうちの前記応答信号の直接波に係る情報を抽出し、前記直接波に係る情報のみに基づいて前記携帯機器の距離を導出する。
【0011】
また、請求項3の発明は、請求項1または2に記載のドアロック制御システムにおいて、前記発信手段は、少なくとも第1方向及び第2方向への発信指向性を有するものであり、前記制御手段は、前記第1方向への前記リクエスト信号に応答して前記携帯機器から返信される前記応答信号に基づいて導出される第1距離と、前記第2方向への前記リクエスト信号に応答して前記携帯機器から返信される前記応答信号に基づいて導出される第2距離とを比較して前記携帯機器の方向を特定し、特定した前記携帯機器の方向に基づいて前記車両のドアロックを制御する。
【0012】
また、請求項4の発明は、請求項1または2に記載のドアロック制御システムにおいて、前記受信手段は、少なくとも第1方向及び第2方向からの受信指向性を有するものであり、前記制御手段は、前記第1方向から受信される前記応答信号に基づいて導出される第1距離と、前記第2方向から受信される前記応答信号に基づいて導出される第2距離とを比較して前記携帯機器の方向を特定し、特定した前記携帯機器の方向に基づいて前記車両のドアロックを制御する。
【発明の効果】
【0013】
請求項1ないし4の発明によれば、周波数変調した応答信号から得られる周波数情報に基づいて携帯機器の距離を導出するため、比較的近距離に存在する携帯機器の距離を高精度に導出することができる。
【0014】
また、特に請求項2の発明によれば、直接波に係る情報を抽出して、その直接波に係る情報のみに基づいて携帯機器の距離を導出するため、応答信号が車内などで反射する場合であっても、その反射波の影響を排除して、正確に携帯機器の距離を導出することができる。
【0015】
また、特に請求項3及び4の発明によれば、携帯機器の方向を特定できるため、各ドアにアンテナを設けることなく、ユーザが存在する側のドアのみのドアロックの制御が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
<1.全体概要>
図1は、本発明の実施の形態に係るドアロック制御システム10の概要を示す図である。このドアロック制御システム10は、車両(図中では自動車)11の左右のドアにそれぞれ設けられたドアロック機構(左ドアロック機構9L及び右ドアロック機構9R)の解錠/施錠を制御するものである。
【0017】
図に示すように、ドアロック制御システム10は、車両11側に搭載される車載装置2と、ユーザ12側に携帯される携帯機器であるスマートキー(インテリジェントキー)3とに大別される。
【0018】
車載装置2は、スマートキー3との間で電波信号の送受信を行う車載アンテナ5と、全体的な制御を担う制御ユニット4とを備えている。車載アンテナ5は、車両11の左右のほぼ中心位置に位置し、かつ、ドア付近との間に電波信号を遮蔽する物体がなるべく存在しない位置(例えば、車内のダッシュボード上など)に配置される。一方、制御ユニット4は、車内のセンターコンソールなどに配置されるが、その配置位置は特に限定されない。
【0019】
このドアロック制御システム10は、スマートキー3を携帯するユーザ12が車両11に近づいたときに、ユーザ12の鍵穴へのキーの差し込み操作を伴うことなく、ドアロック機構9L,9Rを解錠する機能を有している。
【0020】
この解錠動作にあたっては、まず、車載装置2の車載アンテナ5からリクエスト信号S1が発信される。このリクエスト信号S1がスマートキー3に受信されると、これに応答してスマートキー3から応答信号S2が返信される。この応答信号S2が車載アンテナ5で受信されると、この受信に基づいて制御ユニット4によりスマートキー3の存在が認識され、ドアロック機構9L,9Rが解錠される。この解錠の際には、スマートキー3が車両11の左右のいずれに存在しているかが制御ユニット4により判断され、スマートキー3が存在する側(ユーザ側)のみのドアロック機構9L,9Rが解錠されるようになっている。
【0021】
以下では、このような解錠動作を実現するドアロック制御システム10の構成及び処理について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0022】
<2.制御ユニット>
まず、制御ユニット4の構成について説明する。図2は、制御ユニット4の機能的構成を示すブロック図である。図に示すように、制御ユニット4は、その本体部となるCPU41と、リクエスト信号S1の発信に係る処理を行う発信処理回路42と、応答信号S2の受信に係る処理を行う受信処理回路44とを備えている。また、発信処理回路42と受信処理回路44とはそれぞれサーキュレータ43を介して車載アンテナ5に接続されている。
【0023】
発信処理回路42は、リクエスト信号S1を発生するリクエスト信号発生器61を備えている。リクエスト信号S1としては、例えば、2.45GHzの短パルス信号が用いられる。リクエスト信号発生器61で発生されたリクエスト信号S1は、サーキュレータ43を介して車載アンテナ5に伝送され、車載アンテナ5から車外へ向けて発信される。
【0024】
また、車載アンテナ5で受信された応答信号S2は、サーキュレータ43を介して受信処理回路44に入力される。受信処理回路44は、応答信号S2を処理するための回路として、増幅回路62と、ミキサー63と、A/D変換器64と、DSP(Digital Signal Processor)65とを備えている。さらに、受信処理回路44は、応答信号S2と同一の波形パターンを有する信号であるパターン信号S0を発生するパターン信号発生器66を備えている。これらの受信処理回路44の各部の処理により、車載アンテナ5からスマートキー3までの間の距離が導出されることになるが、その詳細については後述する。
【0025】
これらの発信処理回路42及び受信処理回路44は、CPU41に電気的に接続されている。これにより、発信処理回路42及び受信処理回路44は、CPU41の制御下で動作するとともに、DSP65の演算結果はCPU41に入力されるようになっている。また、CPU41は、車載アンテナ5と、左右のドアロック機構9L,9Rとにも電気的に接続される。これにより、ドアロック機構9L,9Rの解錠/施錠はCPU41により制御され、車載アンテナ5もCPU41の制御下で動作する。
【0026】
<3.車載アンテナ>
次に、車載アンテナ5の構成について説明する。車載アンテナ5は、指向性を変更可能なアンテナであり、本実施の形態では電子的に指向性を制御可能なエスパアンテナ(電子制御式アレーアンテナ/Electronically Steerable Passive Array Radiator Antennas)が採用されている。
【0027】
図3は、エスパアンテナとして構成された車載アンテナ5の外観構成を示す図である。図3に示すように、車載アンテナ5は、円柱状のハウジング51と、その一面から垂直に配置される7本の棒状素子52,53とを備えている。これらの棒状素子52,53のうち、中央の一本は励振素子52であり、その周辺の6本はパラサイト素子(非励振素子)53である。パラサイト素子53は、中央の励振素子52の位置を基準として、励振素子52から所定距離だけ離れた円上に60度ごとに配置される。励振素子52はリクエスト信号S1の送信、及び、応答信号S2の受信を担い、一方で、パラサイト素子53は車載アンテナ5の指向性を変更する役割を担うことになる。ここで、車載アンテナ5の指向性とは、リクエスト信号S1の発信指向性、及び、応答信号S2の受信指向性の双方の意を含む。
【0028】
図4は車載アンテナ5の機能的構成を示すブロック図である。図4に示すように、励振素子52には、無線信号の送受信を行うための送受信回路54が接続されている。この送受信回路54はさらに、制御ユニット4のサーキュレータ43に接続される。このような構成によって、リクエスト信号S1の送信、及び、応答信号S2の受信が励振素子52によりなされることになる。
【0029】
一方、6本のパラサイト素子53にはそれぞれ可変容量ダイオード55が接続されている。これらの可変容量ダイオード55のそれぞれに印加する直流バイアス電圧を変更してそのリアクタンス値を調整することにより、車載アンテナ5の指向性が変化される。可変容量ダイオード55への直流バイアス電圧は、ハウジング51内部に配置される指向性制御回路56によって変更される。また、この指向性制御回路56は、制御ユニット4のCPU41に電気的に接続され、CPU41からの信号に基づいて直流バイアス電圧を変更する。このような構成により、車載アンテナ5の指向性は、制御ユニット4のCPU41によって制御されるようになっている。
【0030】
本実施の形態の車載アンテナ5の指向性は、図5に示すように、車両11の左側のドアへの方向8Lと右側のドアへの方向8Rとの2つの方向に変更されるようになっている。車載アンテナ5の指向性が左側方向8Lに向けられたときには、左側のドアの近傍範囲80Lが、車載アンテナ5の電波信号の送受信の主な対象範囲となる。また逆に、指向性が右側方向8Rに向けられたときには、右側のドアの近傍範囲80Rが、車載アンテナ5の電波信号の送受信の主な対象範囲となる。
【0031】
<4.スマートキー>
次に、スマートキー3の構成について説明する。図6は、スマートキー3の機能的構成を示すブロック図である。図に示すように、スマートキー3は、アンテナ31と、リクエスト信号S1を検出する信号検出回路33と、応答信号S2を発生する応答信号発生器34とを備えている。信号検出回路33と応答信号発生器34とは、サーキュレータ32を介してアンテナ31に接続される。
【0032】
アンテナ31は、無指向性のアンテナとして構成され、リクエスト信号S1の受信及び応答信号S2の発信を担う。アンテナ31で受信されたリクエスト信号S1は、サーキュレータ32を介して信号検出回路33に入力される。信号検出回路33は、リクエスト信号S1を検出すると、応答信号S2の発生を指示する指示信号を応答信号発生器34に入力する。応答信号発生器34は、これに応答して応答信号S2を発生する。発生された応答信号S2は、サーキュレータ32を介してアンテナ31に伝送され、アンテナ31から発信される。このような構成により、スマートキー3は、リクエスト信号S1の受信に応答して応答信号S2を返信することになる。
【0033】
<5.距離の導出>
スマートキー3の応答信号発生器34で発生される応答信号S2としては、FM−CW(Frequency Modulated - Continuous Wave)が採用される。本実施の形態のドアロック制御システム10では、このFM−CWを応答信号S2として利用することで、車載アンテナ5からスマートキー3までの距離を正確に導出できるようになっている。以下では、この車載アンテナ5からスマートキー3までの距離(以下、「キー距離」という。)を導出する原理について説明する。
【0034】
FM−CWは、周波数変調した連続波である。図7の上部は、FM−CWの周波数の時系列的な変化を示し、図7の下部は、これと同一時間帯におけるFM−CWの波形の時系列的な変化を示している。図に示すように、FM−CWは、時間の経過に従って周波数が高くなるように周波数変調した信号であり、チャープ信号とも呼ばれる。
【0035】
ドアロック制御システム10では、図8に示すように、車載アンテナ5からリクエスト信号S1が送信され、これに応答してスマートキー3から返信されるFM−CWの応答信号S2が車載アンテナ5で受信される。ここで、リクエスト信号S1が車載アンテナ5から発信されてからスマートキー3に到達するまでの時間をリクエスト時間T1とし、応答信号S2がスマートキー3から発信されてから車載アンテナ5に到達するまでの時間を応答時間T2とすると、これらリクエスト時間T1と応答時間T2とを加算したものが、車載アンテナ5がリクエスト信号S1を発信してから応答信号S2を受信するまでのトータル時間τとなる。このトータル時間τは、キー距離に比例した時間となり、キー距離が遠いほど長くなる。
【0036】
ところで、制御ユニット4では、図7に示す応答信号S2と全く同一の波形パターンを有するFM−CWのパターン信号S0が、リクエスト信号S1の発信と同時にパターン信号発生器66により発生される。以下、このパターン信号S0と、車載アンテナ5によって受信される応答信号S2とに注目する。
【0037】
図9の上部は、パターン信号S0及び応答信号S2の周波数を同一時間軸に示したものである。図9(a)はキー距離が比較的近い場合、図9(b)はキー距離が比較的遠い場合をそれぞれ示している。
【0038】
応答信号S2は、パターン信号S0に対してトータル時間τだけ遅延する。ここで、パターン信号S0と応答信号S2との周波数の差分をとり、この周波数の差をビート周波数とすると、ビート周波数は、図9の下部に示すように、パターン信号S0と応答信号S2とが重なる時間帯においては一定の値となる。つまり、FM−CWではその周波数が時間に対して比例するので、ビート周波数はトータル時間τに比例する一定の値となる。したがって、ビート周波数を求めることで正確なトータル時間τがわかり、さらに、トータル時間τからキー距離が導出できるわけである。
【0039】
このような演算は、制御ユニット4のDSP65及びCPU41によってなされることになる。より具体的には、図2に示すように、車載アンテナ5にて受信された応答信号S2は増幅回路62によって増幅されてミキサー63に入力される。その一方で、リクエスト信号S1の発信と同時にパターン信号発生器66にて発生されたパターン信号S0もミキサー63に入力される。ミキサー63から出力されたアナログ信号は、A/D変換器64にてデジタル信号に変換されてDSP65に入力される。DSP65は、時間領域の情報である入力信号に対して高速フーリエ変換アルゴリズム(FFT)を用いて離散フーリエ変換(DFT)を行い、入力信号を周波数領域の情報に変換する。これにより、図10に示すように、信号の周波数ごとの受信強度を示す周波数情報が得られる。図10に示す周波数情報においてピーク7となる位置の周波数が、ビート周波数に対応する。
【0040】
このようにしてDSP65にて導出された周波数情報はCPU41に入力される。CPU41は、周波数情報のピーク7の位置からビート周波数を取得し、取得したビート周波数に基づいてトータル時間τを求め、さらにトータル時間τからキー距離を導出することになる。
【0041】
以上のように本実施の形態のドアロック制御システム10では、トータル時間τを直接的に計時せず、ビート周波数からトータル時間τを求めている。このため、非常に高い精度の計時性能が無くとも、比較的近距離に存在するスマートキー3までの距離を正確に導出することができることになる。
【0042】
なお、図10に示す周波数情報においては、ピーク7が2つ示されている。これらは、スマートキー3からの応答信号S2の直接波と反射波とに対応するものである。図11に示すように、一回のリクエスト信号S1に応答して返信される応答信号S2には、スマートキー3から直接的に車載アンテナ5に伝搬する直接波S21と、車内で反射されてから車載アンテナ5に伝搬する反射波S22とがある。つまり、直接波S21と反射波S22とが重畳されたものが、応答信号S2として車載アンテナ5に受信されることになる。このため、周波数情報においては、直接波S21と反射波S22とのそれぞれのビート周波数に対応するピーク7が生じることになる。
【0043】
ここで、直接波に係る応答時間T2は比較的短く、一方で、反射波に係る応答時間T2は比較的長い。また、前述したように、ビート周波数は、リクエスト時間T1と応答時間T2とを加算したトータル時間τに比例する。このため、周波数情報において複数のピーク7が生じた場合は、それらのうちで最も周波数が小さいものが直接波に対応することになる。このため、CPU41は、周波数情報に複数のピーク7が存在するときは、それらが示す周波数で最も小さいものを直接波に対応するビート周波数として抽出し、このビート周波数に基づいてキー距離を導出するようになっている。これにより、直接波S21と反射波S22とが重畳された応答信号S2からであっても、正確にキー距離を導出することができるようになっている。
【0044】
<6.解錠動作>
次に、ドアロック制御システム10による解錠動作について説明する。図12は、ドアロック制御システム10の解錠動作の流れを示す図である。この動作の開始時点においては、左右のドアロック機構9L,9Rは双方とも施錠状態となっているものとする。
【0045】
ドアロック機構9L,9Rの施錠状態においては、所定の時間周期で車載アンテナ5からリクエスト信号S1が発信される(ステップST1)。この際、車載アンテナ5の指向性は、リクエスト信号S1を発信するごとに変更される(ステップST3)。したがって、リクエスト信号S1は左側方向8Lと右側方向8Rとに向けて交互に発信されることになる。このようなリクエスト信号S1の発信は、スマートキー3から応答信号S2が返信されるまで繰り返される(ステップST2にてNo)。
【0046】
スマートキー3からの応答信号S2が車載アンテナ5に受信されると(ステップST2にてYes)、DSP65及びCPU41等の上述した演算処理により、受信された応答信号S2に基づいてキー距離が導出される。導出されたキー距離は、第1距離とされる(ステップST4)。
【0047】
続いて、車載アンテナ5の指向性が変更される。つまり、応答信号S2を受信した際の車載アンテナ5の指向性が左側方向8Lであれば右側方向8Rに、右側方向8Rであれば左側方向8Lにそれぞれ変更される(ステップST5)。そして、車載アンテナ5の指向性が変更された状態で、リクエスト信号S1がさらに発信される(ステップST6)。
【0048】
このリクエスト信号S1に応答したスマートキー3からの応答信号S2は車載アンテナ5に受信され(ステップST7)、この応答信号S2に基づいて、キー距離が再び導出される。ここで導出されたキー距離は、第2距離とされる(ステップST8)。つまり、第1距離と第2距離とでは、対応する車載アンテナ5の指向性が互いに相違することになる。
【0049】
ここで、ステップST5における変更前の指向性の方向を第1方向とし、変更後の指向性の方向を第2方向とすると、第1距離は第1方向へのリクエスト信号S1に応答して返信される応答信号S2に基づいて導出される距離であり、第2距離は第2方向へのリクエスト信号S1に応答して返信される応答信号S2に基づいて導出される距離である。また、第1距離は第1方向から受信される応答信号S2に基づいて導出される距離であり、第2距離は第2方向から受信される応答信号S2に基づいて導出される距離であると表現することもできる。スマートキー3は、このような第1距離と第2距離とのうち短い距離に対応する指向性の方向に存在するとみなすことができる。
【0050】
このため、第1距離と第2距離とが取得されると、次に、これらの距離が比較され、短い距離に対応する指向性の方向が、スマートキー3が存在する方向としてCPU41により特定される(ステップST9)。スマートキー3が存在する方向が特定されると、特定した方向のドアロック機構9L,9RがCPU41により解錠されることになる(ステップST10)。
【0051】
このように、ドアロック制御システム10では、車載アンテナ5の指向性を2つの方向へ変化させ、変化の前後において得られる2つの距離を比較することで、スマートキー3が存在する方向を特定する。このため、各ドアにアンテナを設けるなどの複雑な構成を採用することなく、ユーザが存在する側(スマートキー3が存在する側)のみのドアロック機構を解錠することができる。
【0052】
<7.変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、この発明は上記実施の形態に限定されるものではなく様々な変形が可能である。
【0053】
上記実施の形態では、施錠状態において所定の時間周期でリクエスト信号S1が発信されると説明したが、例えば、ユーザによるドアスイッチの押下をトリガとしてリクエスト信号S1が発信されてもよい。
【0054】
また、上記実施の形態では、車載アンテナとしてエスパアンテナを採用していたが、例えば、特定方向への指向性を有するアンテナを回転駆動させるものなど、少なくとも2つの方向への指向性を有するものであればどのようなアンテナを用いてもよい。
【0055】
また、上記実施の形態では、リクエスト信号S1の発信と応答信号S2の受信とを一つの車載アンテナ5で行うようにしていたが、リクエスト信号S1の発信を担う発信用アンテナと、応答信号S2の受信を担う受信用アンテナとを別個に設けてもよい。またこの場合、発信用アンテナと受信用アンテナとのいずれか一方に少なくとも2つの方向への指向性を有するアンテナを採用し、他方に無指向性のアンテナを採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】ドアロック制御システムの概要を示す図である。
【図2】制御ユニットの機能的構成を示すブロック図である。
【図3】車載アンテナの外観構成を示す図である。
【図4】車載アンテナの機能的構成を示すブロック図である。
【図5】車載アンテナの指向性を示す図である。
【図6】スマートキーの機能的構成を示すブロック図である。
【図7】FM−CWの時間に対する周波数の変化を示す図である。
【図8】車載アンテナとスマートキーとの間の電波信号の送受信を示す図である。
【図9】パターン信号及び応答信号の周波数を示す図である。
【図10】応答信号から得られる周波数情報を示す図である。
【図11】応答信号の直接波と反射波とを示す図である。
【図12】ドアロック制御システムの解錠動作の流れを示す図である。
【符号の説明】
【0057】
2 車載装置
3 スマートキー
4 制御ユニット
5 車載アンテナ
10 ドアロック制御システム
11 車両
12 ユーザ
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のドアロックを無線通信を用いて制御するドアロック制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車などの車両のドアの解錠(開錠)及び施錠(閉錠)を無線通信を用いて制御するキーレスエントリーシステムなどのドアロック制御システムが知られている。
【0003】
このようなドアロック制御システムとしては、ユーザが携帯する携帯機器の位置を検出し、それに基づいてドアロックの開閉を制御するものが提案されている。例えば、特許文献1の技術では、携帯機器から送信される電波信号の伝搬時間に基づいて携帯機器までの距離を求め、求められた距離から車内外のいずれに携帯機器が存在するかを判断して、ドアロックの開閉を制御するようになっている。
【0004】
【特許文献1】特開平3−148352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ドアロック制御システムにおいて検出対象となる距離、すなわち、車両側のアンテナからユーザが携帯する携帯機器までの距離は、約5m以内と比較的近距離となる。このことから、アンテナと携帯機器との間の電波信号の伝搬時間は非常に短くなるため、特許文献1の技術のように伝搬時間のみに基づいて携帯機器の距離を正確に導出するには、ナノ秒を認識可能な非常に高い精度の計時性能が必要となる。このような計時性能の実現は困難かつ高価であり、特許文献1の技術をドアロック制御システムに現実的に採用することは難しかった。
【0006】
また、車両側のアンテナで受信される電波信号には、携帯機器から直接的に伝搬する直接波の他に、車内などで反射した反射波も含まれている。したがって、このような直接波と反射波とが重畳された電波信号から、携帯機器の距離を正しく導出することは難しかった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、携帯機器までの距離を簡易かつ高精度に導出できるドアロック制御システムを提供することを第1の目的とする。
【0008】
また、本発明は、携帯機器からの信号が反射波を含む場合であっても、正確に携帯機器の距離を導出できるドアロック制御システムを提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、車両のドアロックを無線通信を用いて制御するドアロック制御システムであって、前記車両に搭載され、リクエスト信号を発信する発信手段と、前記リクエスト信号の受信に応答して、周波数変調した応答信号を発信するユーザが携帯可能な携帯機器と、前記車両に搭載され、前記応答信号を受信する受信手段と、前記応答信号から得られる周波数情報に基づいて、前記携帯機器の距離を導出する導出手段と、前記携帯機器の距離に基づいて前記車両のドアロックを制御する制御手段と、を備えている。
【0010】
また、請求項2の発明は、請求項1に記載のドアロック制御システムにおいて、前記導出手段は、前記周波数情報のうちの前記応答信号の直接波に係る情報を抽出し、前記直接波に係る情報のみに基づいて前記携帯機器の距離を導出する。
【0011】
また、請求項3の発明は、請求項1または2に記載のドアロック制御システムにおいて、前記発信手段は、少なくとも第1方向及び第2方向への発信指向性を有するものであり、前記制御手段は、前記第1方向への前記リクエスト信号に応答して前記携帯機器から返信される前記応答信号に基づいて導出される第1距離と、前記第2方向への前記リクエスト信号に応答して前記携帯機器から返信される前記応答信号に基づいて導出される第2距離とを比較して前記携帯機器の方向を特定し、特定した前記携帯機器の方向に基づいて前記車両のドアロックを制御する。
【0012】
また、請求項4の発明は、請求項1または2に記載のドアロック制御システムにおいて、前記受信手段は、少なくとも第1方向及び第2方向からの受信指向性を有するものであり、前記制御手段は、前記第1方向から受信される前記応答信号に基づいて導出される第1距離と、前記第2方向から受信される前記応答信号に基づいて導出される第2距離とを比較して前記携帯機器の方向を特定し、特定した前記携帯機器の方向に基づいて前記車両のドアロックを制御する。
【発明の効果】
【0013】
請求項1ないし4の発明によれば、周波数変調した応答信号から得られる周波数情報に基づいて携帯機器の距離を導出するため、比較的近距離に存在する携帯機器の距離を高精度に導出することができる。
【0014】
また、特に請求項2の発明によれば、直接波に係る情報を抽出して、その直接波に係る情報のみに基づいて携帯機器の距離を導出するため、応答信号が車内などで反射する場合であっても、その反射波の影響を排除して、正確に携帯機器の距離を導出することができる。
【0015】
また、特に請求項3及び4の発明によれば、携帯機器の方向を特定できるため、各ドアにアンテナを設けることなく、ユーザが存在する側のドアのみのドアロックの制御が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
<1.全体概要>
図1は、本発明の実施の形態に係るドアロック制御システム10の概要を示す図である。このドアロック制御システム10は、車両(図中では自動車)11の左右のドアにそれぞれ設けられたドアロック機構(左ドアロック機構9L及び右ドアロック機構9R)の解錠/施錠を制御するものである。
【0017】
図に示すように、ドアロック制御システム10は、車両11側に搭載される車載装置2と、ユーザ12側に携帯される携帯機器であるスマートキー(インテリジェントキー)3とに大別される。
【0018】
車載装置2は、スマートキー3との間で電波信号の送受信を行う車載アンテナ5と、全体的な制御を担う制御ユニット4とを備えている。車載アンテナ5は、車両11の左右のほぼ中心位置に位置し、かつ、ドア付近との間に電波信号を遮蔽する物体がなるべく存在しない位置(例えば、車内のダッシュボード上など)に配置される。一方、制御ユニット4は、車内のセンターコンソールなどに配置されるが、その配置位置は特に限定されない。
【0019】
このドアロック制御システム10は、スマートキー3を携帯するユーザ12が車両11に近づいたときに、ユーザ12の鍵穴へのキーの差し込み操作を伴うことなく、ドアロック機構9L,9Rを解錠する機能を有している。
【0020】
この解錠動作にあたっては、まず、車載装置2の車載アンテナ5からリクエスト信号S1が発信される。このリクエスト信号S1がスマートキー3に受信されると、これに応答してスマートキー3から応答信号S2が返信される。この応答信号S2が車載アンテナ5で受信されると、この受信に基づいて制御ユニット4によりスマートキー3の存在が認識され、ドアロック機構9L,9Rが解錠される。この解錠の際には、スマートキー3が車両11の左右のいずれに存在しているかが制御ユニット4により判断され、スマートキー3が存在する側(ユーザ側)のみのドアロック機構9L,9Rが解錠されるようになっている。
【0021】
以下では、このような解錠動作を実現するドアロック制御システム10の構成及び処理について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0022】
<2.制御ユニット>
まず、制御ユニット4の構成について説明する。図2は、制御ユニット4の機能的構成を示すブロック図である。図に示すように、制御ユニット4は、その本体部となるCPU41と、リクエスト信号S1の発信に係る処理を行う発信処理回路42と、応答信号S2の受信に係る処理を行う受信処理回路44とを備えている。また、発信処理回路42と受信処理回路44とはそれぞれサーキュレータ43を介して車載アンテナ5に接続されている。
【0023】
発信処理回路42は、リクエスト信号S1を発生するリクエスト信号発生器61を備えている。リクエスト信号S1としては、例えば、2.45GHzの短パルス信号が用いられる。リクエスト信号発生器61で発生されたリクエスト信号S1は、サーキュレータ43を介して車載アンテナ5に伝送され、車載アンテナ5から車外へ向けて発信される。
【0024】
また、車載アンテナ5で受信された応答信号S2は、サーキュレータ43を介して受信処理回路44に入力される。受信処理回路44は、応答信号S2を処理するための回路として、増幅回路62と、ミキサー63と、A/D変換器64と、DSP(Digital Signal Processor)65とを備えている。さらに、受信処理回路44は、応答信号S2と同一の波形パターンを有する信号であるパターン信号S0を発生するパターン信号発生器66を備えている。これらの受信処理回路44の各部の処理により、車載アンテナ5からスマートキー3までの間の距離が導出されることになるが、その詳細については後述する。
【0025】
これらの発信処理回路42及び受信処理回路44は、CPU41に電気的に接続されている。これにより、発信処理回路42及び受信処理回路44は、CPU41の制御下で動作するとともに、DSP65の演算結果はCPU41に入力されるようになっている。また、CPU41は、車載アンテナ5と、左右のドアロック機構9L,9Rとにも電気的に接続される。これにより、ドアロック機構9L,9Rの解錠/施錠はCPU41により制御され、車載アンテナ5もCPU41の制御下で動作する。
【0026】
<3.車載アンテナ>
次に、車載アンテナ5の構成について説明する。車載アンテナ5は、指向性を変更可能なアンテナであり、本実施の形態では電子的に指向性を制御可能なエスパアンテナ(電子制御式アレーアンテナ/Electronically Steerable Passive Array Radiator Antennas)が採用されている。
【0027】
図3は、エスパアンテナとして構成された車載アンテナ5の外観構成を示す図である。図3に示すように、車載アンテナ5は、円柱状のハウジング51と、その一面から垂直に配置される7本の棒状素子52,53とを備えている。これらの棒状素子52,53のうち、中央の一本は励振素子52であり、その周辺の6本はパラサイト素子(非励振素子)53である。パラサイト素子53は、中央の励振素子52の位置を基準として、励振素子52から所定距離だけ離れた円上に60度ごとに配置される。励振素子52はリクエスト信号S1の送信、及び、応答信号S2の受信を担い、一方で、パラサイト素子53は車載アンテナ5の指向性を変更する役割を担うことになる。ここで、車載アンテナ5の指向性とは、リクエスト信号S1の発信指向性、及び、応答信号S2の受信指向性の双方の意を含む。
【0028】
図4は車載アンテナ5の機能的構成を示すブロック図である。図4に示すように、励振素子52には、無線信号の送受信を行うための送受信回路54が接続されている。この送受信回路54はさらに、制御ユニット4のサーキュレータ43に接続される。このような構成によって、リクエスト信号S1の送信、及び、応答信号S2の受信が励振素子52によりなされることになる。
【0029】
一方、6本のパラサイト素子53にはそれぞれ可変容量ダイオード55が接続されている。これらの可変容量ダイオード55のそれぞれに印加する直流バイアス電圧を変更してそのリアクタンス値を調整することにより、車載アンテナ5の指向性が変化される。可変容量ダイオード55への直流バイアス電圧は、ハウジング51内部に配置される指向性制御回路56によって変更される。また、この指向性制御回路56は、制御ユニット4のCPU41に電気的に接続され、CPU41からの信号に基づいて直流バイアス電圧を変更する。このような構成により、車載アンテナ5の指向性は、制御ユニット4のCPU41によって制御されるようになっている。
【0030】
本実施の形態の車載アンテナ5の指向性は、図5に示すように、車両11の左側のドアへの方向8Lと右側のドアへの方向8Rとの2つの方向に変更されるようになっている。車載アンテナ5の指向性が左側方向8Lに向けられたときには、左側のドアの近傍範囲80Lが、車載アンテナ5の電波信号の送受信の主な対象範囲となる。また逆に、指向性が右側方向8Rに向けられたときには、右側のドアの近傍範囲80Rが、車載アンテナ5の電波信号の送受信の主な対象範囲となる。
【0031】
<4.スマートキー>
次に、スマートキー3の構成について説明する。図6は、スマートキー3の機能的構成を示すブロック図である。図に示すように、スマートキー3は、アンテナ31と、リクエスト信号S1を検出する信号検出回路33と、応答信号S2を発生する応答信号発生器34とを備えている。信号検出回路33と応答信号発生器34とは、サーキュレータ32を介してアンテナ31に接続される。
【0032】
アンテナ31は、無指向性のアンテナとして構成され、リクエスト信号S1の受信及び応答信号S2の発信を担う。アンテナ31で受信されたリクエスト信号S1は、サーキュレータ32を介して信号検出回路33に入力される。信号検出回路33は、リクエスト信号S1を検出すると、応答信号S2の発生を指示する指示信号を応答信号発生器34に入力する。応答信号発生器34は、これに応答して応答信号S2を発生する。発生された応答信号S2は、サーキュレータ32を介してアンテナ31に伝送され、アンテナ31から発信される。このような構成により、スマートキー3は、リクエスト信号S1の受信に応答して応答信号S2を返信することになる。
【0033】
<5.距離の導出>
スマートキー3の応答信号発生器34で発生される応答信号S2としては、FM−CW(Frequency Modulated - Continuous Wave)が採用される。本実施の形態のドアロック制御システム10では、このFM−CWを応答信号S2として利用することで、車載アンテナ5からスマートキー3までの距離を正確に導出できるようになっている。以下では、この車載アンテナ5からスマートキー3までの距離(以下、「キー距離」という。)を導出する原理について説明する。
【0034】
FM−CWは、周波数変調した連続波である。図7の上部は、FM−CWの周波数の時系列的な変化を示し、図7の下部は、これと同一時間帯におけるFM−CWの波形の時系列的な変化を示している。図に示すように、FM−CWは、時間の経過に従って周波数が高くなるように周波数変調した信号であり、チャープ信号とも呼ばれる。
【0035】
ドアロック制御システム10では、図8に示すように、車載アンテナ5からリクエスト信号S1が送信され、これに応答してスマートキー3から返信されるFM−CWの応答信号S2が車載アンテナ5で受信される。ここで、リクエスト信号S1が車載アンテナ5から発信されてからスマートキー3に到達するまでの時間をリクエスト時間T1とし、応答信号S2がスマートキー3から発信されてから車載アンテナ5に到達するまでの時間を応答時間T2とすると、これらリクエスト時間T1と応答時間T2とを加算したものが、車載アンテナ5がリクエスト信号S1を発信してから応答信号S2を受信するまでのトータル時間τとなる。このトータル時間τは、キー距離に比例した時間となり、キー距離が遠いほど長くなる。
【0036】
ところで、制御ユニット4では、図7に示す応答信号S2と全く同一の波形パターンを有するFM−CWのパターン信号S0が、リクエスト信号S1の発信と同時にパターン信号発生器66により発生される。以下、このパターン信号S0と、車載アンテナ5によって受信される応答信号S2とに注目する。
【0037】
図9の上部は、パターン信号S0及び応答信号S2の周波数を同一時間軸に示したものである。図9(a)はキー距離が比較的近い場合、図9(b)はキー距離が比較的遠い場合をそれぞれ示している。
【0038】
応答信号S2は、パターン信号S0に対してトータル時間τだけ遅延する。ここで、パターン信号S0と応答信号S2との周波数の差分をとり、この周波数の差をビート周波数とすると、ビート周波数は、図9の下部に示すように、パターン信号S0と応答信号S2とが重なる時間帯においては一定の値となる。つまり、FM−CWではその周波数が時間に対して比例するので、ビート周波数はトータル時間τに比例する一定の値となる。したがって、ビート周波数を求めることで正確なトータル時間τがわかり、さらに、トータル時間τからキー距離が導出できるわけである。
【0039】
このような演算は、制御ユニット4のDSP65及びCPU41によってなされることになる。より具体的には、図2に示すように、車載アンテナ5にて受信された応答信号S2は増幅回路62によって増幅されてミキサー63に入力される。その一方で、リクエスト信号S1の発信と同時にパターン信号発生器66にて発生されたパターン信号S0もミキサー63に入力される。ミキサー63から出力されたアナログ信号は、A/D変換器64にてデジタル信号に変換されてDSP65に入力される。DSP65は、時間領域の情報である入力信号に対して高速フーリエ変換アルゴリズム(FFT)を用いて離散フーリエ変換(DFT)を行い、入力信号を周波数領域の情報に変換する。これにより、図10に示すように、信号の周波数ごとの受信強度を示す周波数情報が得られる。図10に示す周波数情報においてピーク7となる位置の周波数が、ビート周波数に対応する。
【0040】
このようにしてDSP65にて導出された周波数情報はCPU41に入力される。CPU41は、周波数情報のピーク7の位置からビート周波数を取得し、取得したビート周波数に基づいてトータル時間τを求め、さらにトータル時間τからキー距離を導出することになる。
【0041】
以上のように本実施の形態のドアロック制御システム10では、トータル時間τを直接的に計時せず、ビート周波数からトータル時間τを求めている。このため、非常に高い精度の計時性能が無くとも、比較的近距離に存在するスマートキー3までの距離を正確に導出することができることになる。
【0042】
なお、図10に示す周波数情報においては、ピーク7が2つ示されている。これらは、スマートキー3からの応答信号S2の直接波と反射波とに対応するものである。図11に示すように、一回のリクエスト信号S1に応答して返信される応答信号S2には、スマートキー3から直接的に車載アンテナ5に伝搬する直接波S21と、車内で反射されてから車載アンテナ5に伝搬する反射波S22とがある。つまり、直接波S21と反射波S22とが重畳されたものが、応答信号S2として車載アンテナ5に受信されることになる。このため、周波数情報においては、直接波S21と反射波S22とのそれぞれのビート周波数に対応するピーク7が生じることになる。
【0043】
ここで、直接波に係る応答時間T2は比較的短く、一方で、反射波に係る応答時間T2は比較的長い。また、前述したように、ビート周波数は、リクエスト時間T1と応答時間T2とを加算したトータル時間τに比例する。このため、周波数情報において複数のピーク7が生じた場合は、それらのうちで最も周波数が小さいものが直接波に対応することになる。このため、CPU41は、周波数情報に複数のピーク7が存在するときは、それらが示す周波数で最も小さいものを直接波に対応するビート周波数として抽出し、このビート周波数に基づいてキー距離を導出するようになっている。これにより、直接波S21と反射波S22とが重畳された応答信号S2からであっても、正確にキー距離を導出することができるようになっている。
【0044】
<6.解錠動作>
次に、ドアロック制御システム10による解錠動作について説明する。図12は、ドアロック制御システム10の解錠動作の流れを示す図である。この動作の開始時点においては、左右のドアロック機構9L,9Rは双方とも施錠状態となっているものとする。
【0045】
ドアロック機構9L,9Rの施錠状態においては、所定の時間周期で車載アンテナ5からリクエスト信号S1が発信される(ステップST1)。この際、車載アンテナ5の指向性は、リクエスト信号S1を発信するごとに変更される(ステップST3)。したがって、リクエスト信号S1は左側方向8Lと右側方向8Rとに向けて交互に発信されることになる。このようなリクエスト信号S1の発信は、スマートキー3から応答信号S2が返信されるまで繰り返される(ステップST2にてNo)。
【0046】
スマートキー3からの応答信号S2が車載アンテナ5に受信されると(ステップST2にてYes)、DSP65及びCPU41等の上述した演算処理により、受信された応答信号S2に基づいてキー距離が導出される。導出されたキー距離は、第1距離とされる(ステップST4)。
【0047】
続いて、車載アンテナ5の指向性が変更される。つまり、応答信号S2を受信した際の車載アンテナ5の指向性が左側方向8Lであれば右側方向8Rに、右側方向8Rであれば左側方向8Lにそれぞれ変更される(ステップST5)。そして、車載アンテナ5の指向性が変更された状態で、リクエスト信号S1がさらに発信される(ステップST6)。
【0048】
このリクエスト信号S1に応答したスマートキー3からの応答信号S2は車載アンテナ5に受信され(ステップST7)、この応答信号S2に基づいて、キー距離が再び導出される。ここで導出されたキー距離は、第2距離とされる(ステップST8)。つまり、第1距離と第2距離とでは、対応する車載アンテナ5の指向性が互いに相違することになる。
【0049】
ここで、ステップST5における変更前の指向性の方向を第1方向とし、変更後の指向性の方向を第2方向とすると、第1距離は第1方向へのリクエスト信号S1に応答して返信される応答信号S2に基づいて導出される距離であり、第2距離は第2方向へのリクエスト信号S1に応答して返信される応答信号S2に基づいて導出される距離である。また、第1距離は第1方向から受信される応答信号S2に基づいて導出される距離であり、第2距離は第2方向から受信される応答信号S2に基づいて導出される距離であると表現することもできる。スマートキー3は、このような第1距離と第2距離とのうち短い距離に対応する指向性の方向に存在するとみなすことができる。
【0050】
このため、第1距離と第2距離とが取得されると、次に、これらの距離が比較され、短い距離に対応する指向性の方向が、スマートキー3が存在する方向としてCPU41により特定される(ステップST9)。スマートキー3が存在する方向が特定されると、特定した方向のドアロック機構9L,9RがCPU41により解錠されることになる(ステップST10)。
【0051】
このように、ドアロック制御システム10では、車載アンテナ5の指向性を2つの方向へ変化させ、変化の前後において得られる2つの距離を比較することで、スマートキー3が存在する方向を特定する。このため、各ドアにアンテナを設けるなどの複雑な構成を採用することなく、ユーザが存在する側(スマートキー3が存在する側)のみのドアロック機構を解錠することができる。
【0052】
<7.変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、この発明は上記実施の形態に限定されるものではなく様々な変形が可能である。
【0053】
上記実施の形態では、施錠状態において所定の時間周期でリクエスト信号S1が発信されると説明したが、例えば、ユーザによるドアスイッチの押下をトリガとしてリクエスト信号S1が発信されてもよい。
【0054】
また、上記実施の形態では、車載アンテナとしてエスパアンテナを採用していたが、例えば、特定方向への指向性を有するアンテナを回転駆動させるものなど、少なくとも2つの方向への指向性を有するものであればどのようなアンテナを用いてもよい。
【0055】
また、上記実施の形態では、リクエスト信号S1の発信と応答信号S2の受信とを一つの車載アンテナ5で行うようにしていたが、リクエスト信号S1の発信を担う発信用アンテナと、応答信号S2の受信を担う受信用アンテナとを別個に設けてもよい。またこの場合、発信用アンテナと受信用アンテナとのいずれか一方に少なくとも2つの方向への指向性を有するアンテナを採用し、他方に無指向性のアンテナを採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】ドアロック制御システムの概要を示す図である。
【図2】制御ユニットの機能的構成を示すブロック図である。
【図3】車載アンテナの外観構成を示す図である。
【図4】車載アンテナの機能的構成を示すブロック図である。
【図5】車載アンテナの指向性を示す図である。
【図6】スマートキーの機能的構成を示すブロック図である。
【図7】FM−CWの時間に対する周波数の変化を示す図である。
【図8】車載アンテナとスマートキーとの間の電波信号の送受信を示す図である。
【図9】パターン信号及び応答信号の周波数を示す図である。
【図10】応答信号から得られる周波数情報を示す図である。
【図11】応答信号の直接波と反射波とを示す図である。
【図12】ドアロック制御システムの解錠動作の流れを示す図である。
【符号の説明】
【0057】
2 車載装置
3 スマートキー
4 制御ユニット
5 車載アンテナ
10 ドアロック制御システム
11 車両
12 ユーザ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のドアロックを無線通信を用いて制御するドアロック制御システムであって、
前記車両に搭載され、リクエスト信号を発信する発信手段と、
前記リクエスト信号の受信に応答して、周波数変調した応答信号を発信するユーザが携帯可能な携帯機器と、
前記車両に搭載され、前記応答信号を受信する受信手段と、
前記応答信号から得られる周波数情報に基づいて、前記携帯機器の距離を導出する導出手段と、
前記携帯機器の距離に基づいて前記車両のドアロックを制御する制御手段と、
を備えることを特徴とするドアロック制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載のドアロック制御システムにおいて、
前記導出手段は、前記周波数情報のうちの前記応答信号の直接波に係る情報を抽出し、前記直接波に係る情報のみに基づいて前記携帯機器の距離を導出することを特徴とするドアロック制御システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のドアロック制御システムにおいて、
前記発信手段は、少なくとも第1方向及び第2方向への発信指向性を有するものであり、
前記制御手段は、
前記第1方向への前記リクエスト信号に応答して前記携帯機器から返信される前記応答信号に基づいて導出される第1距離と、
前記第2方向への前記リクエスト信号に応答して前記携帯機器から返信される前記応答信号に基づいて導出される第2距離とを比較して前記携帯機器の方向を特定し、
特定した前記携帯機器の方向に基づいて前記車両のドアロックを制御することを特徴とするドアロック制御システム。
【請求項4】
請求項1または2に記載のドアロック制御システムにおいて、
前記受信手段は、少なくとも第1方向及び第2方向からの受信指向性を有するものであり、
前記制御手段は、
前記第1方向から受信される前記応答信号に基づいて導出される第1距離と、
前記第2方向から受信される前記応答信号に基づいて導出される第2距離とを比較して前記携帯機器の方向を特定し、
特定した前記携帯機器の方向に基づいて前記車両のドアロックを制御することを特徴とするドアロック制御システム。
【請求項1】
車両のドアロックを無線通信を用いて制御するドアロック制御システムであって、
前記車両に搭載され、リクエスト信号を発信する発信手段と、
前記リクエスト信号の受信に応答して、周波数変調した応答信号を発信するユーザが携帯可能な携帯機器と、
前記車両に搭載され、前記応答信号を受信する受信手段と、
前記応答信号から得られる周波数情報に基づいて、前記携帯機器の距離を導出する導出手段と、
前記携帯機器の距離に基づいて前記車両のドアロックを制御する制御手段と、
を備えることを特徴とするドアロック制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載のドアロック制御システムにおいて、
前記導出手段は、前記周波数情報のうちの前記応答信号の直接波に係る情報を抽出し、前記直接波に係る情報のみに基づいて前記携帯機器の距離を導出することを特徴とするドアロック制御システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のドアロック制御システムにおいて、
前記発信手段は、少なくとも第1方向及び第2方向への発信指向性を有するものであり、
前記制御手段は、
前記第1方向への前記リクエスト信号に応答して前記携帯機器から返信される前記応答信号に基づいて導出される第1距離と、
前記第2方向への前記リクエスト信号に応答して前記携帯機器から返信される前記応答信号に基づいて導出される第2距離とを比較して前記携帯機器の方向を特定し、
特定した前記携帯機器の方向に基づいて前記車両のドアロックを制御することを特徴とするドアロック制御システム。
【請求項4】
請求項1または2に記載のドアロック制御システムにおいて、
前記受信手段は、少なくとも第1方向及び第2方向からの受信指向性を有するものであり、
前記制御手段は、
前記第1方向から受信される前記応答信号に基づいて導出される第1距離と、
前記第2方向から受信される前記応答信号に基づいて導出される第2距離とを比較して前記携帯機器の方向を特定し、
特定した前記携帯機器の方向に基づいて前記車両のドアロックを制御することを特徴とするドアロック制御システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−104859(P2006−104859A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−295567(P2004−295567)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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