説明

ドア建付け方法及びヒンジ締結構造

【課題】作業者による手作業での建付けに頼ることなく誰にでも簡単且つ短時間でドアを車体に対して建付け可能とする。
【解決手段】ボルト42とナット43が固定されたボルトプレート44をフロントドア7のヒンジ取付け部40の一面40bに設け、ヒンジ取付け部に形成した貫通孔41A、41Bを通して各ボルトを他面40a側へ突出させ、他面側からヒンジ取付け部に貫通する孔部53を通してボルトプレートのナット43にロックボルト45を螺合してボルトプレートをフロントドアに仮止めし、ボルトの先端をボディー1に固定したヒンジ8に設けたボルト取付け孔52に挿入し締結ナット54で締結する。そして、複数の貫通孔のうち1箇所の貫通孔41Aを基準孔とし、それ以外を逃がし孔として、基準孔に貫通するボルト42を中心軸とし、ドアサッシュ部を固定基準としてフロントドアを建付けた後、ロックボルトを本締めしてボルトプレートを固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドア建付け方法及びヒンジ締結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車用ドアを車体(車体パネル)にヒンジを使用して取り付ける際に、車体側又はドア側或いはその両方の部品に加工精度等から生じる歪みがあると、そのまま両者を組み付けてしまうと、ドアと車体との間に所定基準値以上の隙間が生じ、シール性能を損ねる可能性がある。これまでは、ドアと車体との建付けは、作業者が手作業で両者の傾きを調整して建付けを行っていた(例えば、特許文献1等に記載)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2738177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、車体に対するドアの建付けを作業者が手作業で行っているため、その調整作業に要する工数が増大する他、作業者個人の能力に依存することになる。特に、車体側に固定されるヒンジの上下傾き精度は、このヒンジと離れた部位であるドアのサッシュ部における傾きに大きく影響し、前記ヒンジからの距離の数倍となってドアが傾くことになる。そのため、サッシュ部での建付け修正工数が特に多くなる。
【0005】
そこで、本発明は、作業者による手作業での建付けに頼ることなく誰にでも簡単且つ短時間でドアを車体に対して建付けることのできるドア建付け方法及びヒンジ締結構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のドア建付け方法では、ドアの高さ方向におけるドア上部をこれと対応する被取付け部の対応部位に固定し、その固定した部位を第1建付け基準部位とし、また、ドアのヒンジとの複数箇所の連結部のうち1箇所を第2建付け基準部位として、この第2建付け基準部位を中心として前記ドアを、前記被取付け部に対して傾動させて該被取付け部に対して建付けるようにする。
【0007】
本発明のヒンジ締結装置では、ボルトプレートに固定された各ボルトをこれに対応するドアのヒンジ取付け部に形成した貫通孔を通してドア側ヒンジ部のボルト取付け孔に挿入させると共に、前記貫通孔のうち基準孔となる貫通孔及びこれに対応するボルト取付け孔にボルトの基端側に形成したロケート部をそれぞれ嵌合させる一方で、逃がし孔となる貫通孔には遊嵌状態で通しこれに対応するボルト取付け孔にはロケート部を嵌合させ、各ボルト取付け孔より突出したぞれぞれのねじ部に締結ナットを締め付けて前記ドアを前記被取付け部に対して開閉自在に取り付け、前記ボルトプレートと前記ドアとの相対位置を出した後に、ロックボルトを本締めして前記ボルトプレートをドアに固定する構造。
【発明の効果】
【0008】
本発明のドア建付け方法によれば、ドア上部の被取付け部に対する固定部位を第1建付け基準部位とし、ドアのヒンジとの複数箇所の連結部のうち1箇所を第2建付け基準部位として、この第2建付け基準部位を中心としてドアを被取付け部に対して傾動させれば、前記ヒンジ部と前記ドアの連結部のうちの1箇所を中心として前記被取付け部に対してドアを傾動させることができ、誰にでも簡単にドアを被取付け部に対して建付けることができ、ドアの建付け作業に要する作業工数を大幅に減らすことができる。また、本発明方法によれば、ドアの回転中心から遠いドア上部を第1建付け基準部位とするため、ドア上部が動くことがないことからドアの建付け精度を向上させることができる。
【0009】
本発明のヒンジ締結装置によれば、ドアのヒンジ取付け部に形成される複数の貫通孔のうち一つを基準孔とし、それ以外を基準孔よりも大きな逃がし孔として、基端側にロケート部を形成したボルトを固定したボルトプレートを、ヒンジ取付け部の一面側に設けて、各ボルトを基準孔及び逃がし孔となるそれぞれの貫通孔に通してドア側ヒンジ部に形成したボルト取付け孔に挿入し締結ナットで締め付けてドアを被取付け部に対して開閉自在となし、前記基準孔となる貫通孔及びこれに対応するボルト取付け孔にロケート部をそれぞれ嵌合させると、この基準孔に挿通されたロケート部が中心軸となって、前記逃がし孔に遊嵌されるロケート部との隙間分だけ前記ボルトプレートを前記ドアに対して傾けることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1はボディーにリヤドアを取り付ける一連の工程図である。
【図2】図2はボディーにフロントドアを組み付ける一連の工程図である。
【図3】図3はフロントドア取付け用治具の全体斜視図である。
【図4】図4(A)はフロントドア取付け用治具の正面図、図4(B)はフロントドア取付け用治具の側面図である。
【図5】図5はフロントドア取付け用治具でサッシュ部をクランプする部位の要部拡大図である。
【図6】図6はフロントドア開口部にフロントドア取付け用治具がセットされた状態を示す斜視図である。
【図7】図7は本実施形態のヒンジ締結構造を示し、ヒンジとボルトプレートをフロントドアに取り付ける前の状態を示す斜視図である。
【図8】図8は図7のフロントドアに取り付けたボルトプレートのボルトにヒンジを取り付ける前の状態を示す斜視図である。
【図9】図9は図7のフロントドアにボルトプレートを取り付けた状態を示す図である。
【図10】図10(A)は図9のA−A線断面図、図10(B)は図9のB−B線断面図である。
【図11】図11(A)は図9のE−E線断面図、図11(B)は図9のF−F線断面図である。
【図12】図12は図7のボルトプレートの正面図である。
【図13】図13は基準孔に嵌入するロケート部を中心としてフロントドアが傾動可能となることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。本実施形態は、本発明を自動車車体(車体パネル或いはボディー)にドアを取り付ける例として説明する。
【0012】
「ドアのボディーへの取付け工程説明」
先ず、自動車車体であるボディーにドアを建付ける方法を、図1及び図2のドア取付け工程図を参照して簡単に説明する。また、本実施形態では、本発明をボディーにフロントドアを建付ける例に適用して以下説明するものとする。
【0013】
図1はボディーにリヤドアを取り付ける一連の工程図、図2はボディーにフロントドアを組み付ける一連の工程図である。
【0014】
ボディーにドアを組み付ける順序は、先ず、リヤドアをボディーに取り付けて建付けを行った後、フロントドアをボディーに取り付けて建付けを行う。リヤドアをボディー1に取り付けるには、図1(A)及び図1(B)に示すように、リヤドア開口部2にリヤドア取付け用治具3をセットする。次に、図1(C)及び図1(D)に示すように、リヤドア取付け用治具3の基準面にリヤドア4を突き当てクランプした後、リヤドア4をボディー1に対しヒンジ(図示は省略する)を介して取り付ける。リヤドア4をボディー1に取り付けるに際しては、ボディー1とリヤドア4とのシール部分の隙間が所定値となるようにリヤドア4の傾き調整を行って建付けを行う。リヤドア4の傾き調整に関しては、本実施形態では説明を省略する。
【0015】
次に、図2(A)に示すように、フロントドア開口部5にフロントドア取付け用治具6をセットする。このフロントドア取付け用治具6の詳細については、図面を参照して後述する。そして、図2(B)及び図2(C)に示すように、フロントドア取付け用治具6の基準面にフロントドア7を突き当てクランプした後、フロントドア7をボディー1に固定したヒンジ8を介して取り付ける。フロントドア7をボディー1に取り付けるに際しては、ボディー1とフロントドア7とのシール部分の隙間が所定値となるようにフロントドア7の傾き調整を行って建付けを行う。このフロントドア7の建付け手順については、図面を参照して詳細に後述するものとする。
【0016】
リヤドア4とフロントドア7をボディー1に取り付けた後は、車両全体を塗装し、その後、リヤドア4及びフロントドア7をボディー1から取り外す。そして、これらリヤドア4とフロントドア7にトリム等の内装部品を取り付ける作業を行う。そして、内装部品を取り付けたリヤドア4及びフロントドア7を、再度ボディー1にヒンジ8を介して取り付ける。このドア取付け工程では、本発明によってドアの建付けが再現できるようになっているため、ドアの建付けを行う必要がない。
【0017】
「フロントドア取付け用治具の構造説明」
次に、フロントドア取付け用治具6の構造を説明する。図3はフロントドア取付け用治具の全体斜視図、図4(A)はフロントドア取付け用治具の正面図、図4(B)はフロントドア取付け用治具の側面図、図5はフロントドア取付け用治具でサッシュ部をクランプする部位の要部拡大図、図6はフロントドア開口部にフロントドア取付け用治具がセットされた状態を示す斜視図である。
【0018】
フロントドア取付け用治具6は、車両前後方向(図6の矢印X方向)に平行な2本の横フレーム9、10と、車両高さ方向(図6の矢印Z方向)に平行な縦フレーム11と、車両斜め後方へ傾斜する傾斜フレーム12とで構成される平面視略矩形状の本体部13と、この本体部13からシル部14へと下方へ延びる第1ロケートピン支持アーム15と、傾斜フレーム12からセンターピラー16へと延びる第2ロケートピン支持アーム17と、本体部13の下端側角部から車両前方斜め上方へ向かって延びるドアインナー基準出しアーム18と、本体部13の上端側角部から車両高さ方向へ向かって延びるサッシュ部基準出しアーム19と、を有している。
【0019】
第1ロケートピン支持アーム15には、シル部14に形成されたロケート孔(図示は省略する)に嵌入される第1ロケートピン20が取り付けられている。この第1ロケートピン20は、シル部14のロケート孔に嵌入されることで、前記フロントドア取付け用治具6をボディー1に対して車両前後方向及び車幅方向(図6の矢印Y方向)で位置決め固定させる。
【0020】
第2ロケートピン支持アーム17には、センターピラー16に形成されたドアスイッチ取付け用穴(図示は省略する)に嵌入される第2ロケートピン21が取り付けられている。この第2ロケートピン21は、ドアスイッチ取付け用穴に嵌入されることで、前記フロントドア取付け用治具6をボディー1に対して車両前後方向及び車両高さ方向で位置決め固定させる。
【0021】
ドアインナー基準出しアーム18には、フロントドア7のドア内面に形成された穴(図示は省略する)に嵌入して該フロントドア7をクランプするクランプ部材22と、ドア内面の基準面に面接触してフロントドア7の車幅方向でのドア位置を位置出しするドア位置出し部材23とが設けられている。クランプ部材22は、フロントドア7のドア内面に形成された穴に嵌入することで、前記フロントドア取付け用治具6に対してフロントドア7を固定させる。ドア位置出し部材23は、フロントドア7のドア内面の基準面を面接触させることで、当該フロントドア7の車幅方向でのドア位置を決定する。なお、ドア位置出し部材23に面接触するドア内面の基準面は、フロントドア7をボディー1に建付ける際の第3建付け基準部位となる。
【0022】
サッシュ部基準出しアーム19には、前記フロントドア取付け用治具6をルーフサイドレール24に固定する治具固定用クランプ手段25と、フロントドア7のサッシュ部32をルーフサイドレール24に固定するサッシュ部固定用クランプ手段26とが設けられている。
【0023】
治具固定用クランプ手段25は、サッシュ部基準出しアーム19に固定された本体アーム27に取り付けられるサッシュ部突当てゲージ28と、ルーフサイドレール24のシール面部24Aをこのサッシュ部突当てゲージ28とで挟み込むようにしてクランプする治具固定クランプ部材29と、この治具固定クランプ部材29を前記シール面部24Aに対して接近離反する方向に回動自在とするレバー30と、から構成されている。
【0024】
サッシュ部突当てゲージ28は、フロントドア7がボディー1に取り付けられてルーフサイドレール24のシール面部24Aに取り付けられたゴムシール部材がフロントドア7に押されて圧縮された状態にある時のゴムシール寸法と同じ厚みとされている。このサッシュ部突当てゲージ28は、前記本体アーム27の先端に設けられ、前記シール面部24Aの車両外側面に接して配置される。なお、このサッシュ部突当てゲージ28は、フロントドア取付け用治具6にフロントドア7を位置決め固定する際の第1基準面となる。
【0025】
治具固定クランプ部材29は、シール面部24Aの車両内側面に接するゴム等から形成される。
【0026】
レバー30は、治具固定クランプ部材29を先端に取り付けたL字レバーとして形成されている。このレバー30は、前記本体アーム27に取り付けられたレバー支持アーム31の先端に、支持軸32を中心として回動自在に取り付けられている。かかるレバー30は、前記支持軸32を回転中心としてその先端に取り付けた治具固定クランプ部材29を前記シール面部24Aに押し付ける方向とその逆の反対方向に回動自在とされている。前記レバー30を回動させるには、作業者が手動で動かす。レバー30を動かしてその先端に取り付けた治具固定クランプ部材29をシール面部24Aに押し当てた時には、図示を省略するロック機構が作動してその押し当て状態が保持される。
【0027】
このように構成された治具固定用クランプ手段25では、サッシュ部突当てゲージ28をシール面部24Aの車両外側面に接触させた後、レバー30を押して治具固定クランプ部材29をシール面部24Aの車両内側面に押し当ててロックさせることで、前記フロントドア取付け用治具6をボディー1に固定させることができる。
【0028】
サッシュ部固定用クランプ手段26は、フロントドア7のサッシュ部32(図2及び図5参照)を前記サッシュ部突当てゲージ28に押し当てる押し当て部材33と、この押し当て部材33をサッシュ部32に押し当てる位置とサッシュ部32から離れる非接触位置へと回動させる駆動部34とからなる。
【0029】
押し当て部材33は、平面視略くの字形状とされ、前記本体アーム27に取り付けられた押し当て部材支持アーム35の先端に、支持軸36を中心として回動自在に取り付けられている。
【0030】
駆動部34は、例えば伸縮自在なロッド37を有した駆動シリンダからなる。このロッド37の先端部は、連結ピン38を介して前記した押し当て部材33に連結されている。駆動シリンダ本体は、前記本体アーム27に取り付けられた駆動部支持アーム39に取り付けられている。駆動部34が作動してロッド37が伸縮自在となると、そのロッド37の先端に取り付けられた押し当て部材33が回動自在になる。
【0031】
このように構成されたサッシュ部固定用クランプ手段26では、フロントドア7のサッシュ部32を前記サッシュ部突当てゲージ28に押し当てた状態で駆動部34を作動させて前記押し当て部材33を前記サッシュ部32に押し付けることで、サッシュ部32をルーフサイドレール24に位置決め固定することができる。
【0032】
「ヒンジ締結構造の説明」
次に、フロントドア7をボディー1に対して開閉自在に取り付けるためのヒンジ締結構造について説明する。図7は本実施形態のヒンジ締結構造を示し、ヒンジとボルトプレートをフロントドアに取り付ける前の状態を示す斜視図、図8は図7のフロントドアに取り付けたボルトプレートのボルトにヒンジを取り付ける前の状態を示す斜視図、図9は図7のフロントドアにボルトプレートを取り付けた状態を示す図、図10(A)は図9のA−A線断面図、図10(B)は図9のB−B線断面図、図11(A)は図9のE−E線断面図、図11(B)は図9のF−F線断面図、図12は図7のボルトプレートの正面図、図13は基準孔に嵌入するロケート部を中心としてフロントドアが傾動可能となることを示す図である。
【0033】
ヒンジ締結構造は、ヒンジ8と、フロントドア7のヒンジ取付け部40に形成された複数の貫通孔41A、41Bと、複数本のボルト42とナット43が固定されたボルトプレート44と、このボルトプレート44をフロントドア7に仮止め又は本締めして固定させるロックボルト45と、を備えている。
【0034】
ヒンジ8は、被取付け部であるボディー1に固定される固定側ヒンジ部46と、この固定側ヒンジ部46に対して可動自在に連結されるドア側ヒンジ部47とを有している。このヒンジ8は、フロントドア開口部5のフロントピラーアウターロアー5aに対して車両高さ方向で上下2箇所に固定される(図1参照)。
【0035】
固定側ヒンジ部46は、略L字形状をなし、ヒンジ固定用ボルト48によりボディー1に固定される。ドア側ヒンジ部47は、固定側ヒンジ部46に対してヒンジピン49を介して可動自在に連結されている。このドア側ヒンジ部47は、固定側ヒンジ部46と連結されるコ字状をなす連結部47Aと、この連結部47Aの両端から垂直に折り曲げられる固定部47Bと、からなる。連結部47Aは、固定側ヒンジ部46に対してヒンジピン49によって可動自在に連結される。
【0036】
固定部47Bは、前記フロントドア7のヒンジ取付け部40のドア外となる他面40aに取り付けられる。固定部47Bには、ボルトプレート44に固定されたボルト42の先端側に形成されたねじ部50と基端側に形成されたロケート部51が挿入されるボルト取付け孔52が形成されている。このボルト取付け孔52は、ロケート部51の直径とほぼ同一径とされた円形孔として形成されており、前記ロケート部51を嵌入させるタイト孔とされている。各ヒンジ8の全てのボルト取付け孔52は、何れもタイト孔となっている。
【0037】
ヒンジ取付け部40に形成された複数の貫通孔41A、41Bのうち最も車両上部に形成された貫通孔41Aは、前記ボルト42の基端側に形成されたロケート部51の直径とほぼ同一径とされた円形孔として形成されており、前記ロケート部51を嵌入させるタイト孔とされている。この貫通孔41Aは、フロントドア7をボディー1に建付ける時の基準孔として機能する。残りの貫通孔41Bは、全て基準孔よりも大きな逃がし孔とされている。すなわち、最も車両上部に形成された基準孔としての貫通孔41A以外の全ての貫通孔41Bは、ロケート部51ががたつく程度の大きな円形孔として形成されており、前記ロケート部51を遊嵌させるフリー孔とされている。
【0038】
また、ヒンジ取付け部40には、ロックボルト45を挿通させる孔部であるロックボルト取付け孔53が形成されている。ロックボルト取付け孔53は、車両上部に設けられた上下2つの貫通孔41A、41Bの中間位置又は車両下部に設けられた上下2つの貫通孔41B、41Bの中間位置に形成されている。このロックボルト取付け孔53は、前記した基準孔のようにタイト孔ではなく、ロックボルト45の直径よりも大きな円形をなすフリー孔である。
【0039】
ボルトプレート44は、フロントドア7のドア側ヒンジ部47が取り付けられる他面40aとは反対側の一面40b側に設けられ、基端側にロケート部51が形成され且つ先端側にねじ部50が形成された複数本のボルト42と、ナット43とが固定されている。
【0040】
前記ボルトプレート44は、細長く平らな金属プレート板として形成され、ヒンジ取付け部40の一面40bに配置される。このボルトプレート44の長手方向両端近傍部には、それぞれボルト42が固定されている。ボルト42には、その先端側にねじ部50と基端側にロケート部51とが形成されている。このボルト42は、ボルトプレート44に対して固定されている。ボルト42の先端側に形成されたねじ部50は、ドア側ヒンジ部47との締結に使用される締結ナット54にて締結される。前記ナット43は、2つのボルト42の中間に設けられ、ボルトプレート44に溶接して固定されるウエルドナットとされている。
【0041】
「ドア建付け方法の説明」
次に、フロントドア7をボディー1に建付ける建付け方法について説明する。ここでは、ボディー1にヒンジ8を予め取り付けて置き、フロントドア取付け用治具6をフロントドア開口部5にセットした工程(図2(A)の工程)から順を追って説明する。図6には、図2(A)のフロントドア取付け用治具装着工程を拡大して示す。
【0042】
このフロントドア取付け用治具6を利用してフロントドア7をボディー1に取り付ける前に、フロントドア7には、予めボルトプレート44を取り付けてロックボルト45で仮止めして置く。ボルトプレート44は、フロントドア7のヒンジ取付け部40に形成されたそれぞれの貫通孔41A、41Bを通して各ボルト42を一面40b側から他面40a側へ貫通させて挿通させる。そして、このボルトプレート44を、他面40a側からロックボルト取付け孔53を通してウエルドナットとしてボルトプレート44に固定されたナット43に締結して仮止めする。前記ロックボルト45は、ナット43に対してきつく締めることなく、前記ボルトプレート44が前記ヒンジ取付け部40に対して可動できる程度に仮止めする。
【0043】
ボルトプレート44をヒンジ取付け部40に取り付けた状態を図8に示す。この時の車両上部に設けられた一方のボルトプレート44は、車両上側に形成された基準孔として機能する貫通孔41Aにロケート部51が嵌入されているため、車両下側の逃がし孔として形成された貫通孔41Bに遊嵌するロケート部51との隙間分だけ、前記基準孔として機能する貫通孔41Aに嵌入した前記ロケート部51を軸として可動自在となっている。他方のボルトプレート44は、共に貫通孔41Bにロケート部51が遊嵌するため、貫通孔41Bとロケート部51間の隙間分だけ車幅方向及び車両高さ方向へ可動自在となっている。前記フロントドア7とヒンジ8との複数箇所の連結部のうち1箇所である前記基準孔となる部位が第2建付け基準部位となる。
【0044】
ボルトプレート44をヒンジ取付け部40にロックボルト45で仮止めしたフロントドア7をロボットによりボディー1へと搬送したら、ボルトプレート44の各ボルト42を、ボディー1に固定されたヒンジ8のドア側ヒンジ部47に設けられたボルト取付け孔52に挿入し、締結ナット54で締結する。
【0045】
次に、フロントドア開口部5に装着したフロントドア取付け用治具6のサッシュ部突当てゲージ28を第1基準面として、このサッシュ部突当てゲージ28に前記フロントドア7のサッシュ部32を図5に示すように突き当てる。サッシュ部突当てゲージ28にサッシュ部32を突き当てたらサッシュ部固定用クランプ手段26を作動させ、押し当て部材33で前記サッシュ部32をサッシュ部突当てゲージ28に押し付ける。これで、フロントドア7のドア上部がルーフサイドレール24に固定され、その固定されたドア上部の部位が第1建付け基準部位(サッシュ部突当てゲージ28に突き当てられ固定されたサッシュ部32の部位)となる。
【0046】
また、フロントドア7のドア内面に設けた基準面を、前記フロントドア取付け用治具6のドア位置出し部材23に面接触させる。このドア位置出し部材23に面接触されたフロントドア7のドア内面の基準面は、前記した第1基準面よりも下方の位置とされた第3建付け基準部位となる。さらに、フロントドア7のドア内面に形成した穴に、前記フロントドア取付け用治具6のクランプ部材22を嵌入させる。これで、フロントドア7は、車両前後方向及び車幅方向で位置決めされることになる。
【0047】
このように、フロントドア7をボディー1に対して建付けるに際しては、ドア上部の部位を第1建付け基準部位とし、ヒンジ8との複数箇所の連結部のうち1箇所を第2建付け基準部位とし、さらにドア内面の一部を接触させる部位を第3建付け基準部位として、前記第2建付け基準部位を中心として前記フロントドア7を、ボディー1に対して傾動させて当該ボディー1に建付ける。本実施形態では、フロントドア7とヒンジ8との第2建付け基準部位から離れた距離にあるドア上部を第1建付け基準とすると共にセンターピラー近傍のドア内面を第3建付け基準部として、フロントドア7のボディー1に対する傾き精度を高めるようにしている。
【0048】
例えば、フロントドア7とボディー1にそれら部品の加工精度等から生じる歪みがある場合、そのまま両者を組み付けてしまうと、フロントドア7とボディー1との間に所定基準値以上の隙間が生じ、シール性能を損ねることになる。これを回避するために、作業者は、フロントドア7をボディー1の形状に合わせてフロントドア開口部5の周縁部におけるシール部分の隙間が均一となるように押す。
【0049】
この作業者によるボディー1へのフロントドア7の押し込みにより、フロントドア7は、第2建付け基準部位である最も車両上部の貫通孔41Aに嵌入するボルト42のロケート部51を中心軸として傾動する。これにより、ヒンジ取付け部40に仮止めされたボルトプレート44とフロントドア7とが相対的に可動し、これらボルトプレート44とフロントドア7との相対位置が出る。その後、ロックボルト45をこれに対応する前記ボルトプレート44に固定したナット43に固定して本締めする。
【0050】
以上でフロントドア7のボディー1への建付け作業が終了する。その後は、車体全体を塗装し、フロントドア7及びリヤドア4をボディー1から取り外して内装部品を組み付ける。フロントドア7をボディー1から取り外すには、締結ナット54を緩めてヒンジ8とボルトプレート44との締結状態を解除する。取り外したフロントドア7のドア内面にワイヤハーネスやトリム等の内装部品を組み付けた後、再びフロントドア7をヒンジ8にボルト42で締結して取り付ける。フロントドア7の再取り付け時には、ボルトプレート44をロックボルト45で本締めしているため、フロントドア7とボディー1との建付けをすることなく当初の建付け精度を再現することができる。フロントドア7のボディー1への取り付けに際しては、フロントドア取付け用治具6を使用することなく、単にヒンジ8にボルト42を締結するだけで済む。
【0051】
「本実施形態により生じる効果」
本実施形態のドア建付け方法によれば、ドア上部の被取付け部に対する固定部位を第1建付け基準部位とし、ドアのヒンジとの複数箇所の連結部のうち1箇所を第2建付け基準部位として、この第2建付け基準部位を中心としてドアを被取付け部に対して傾動させれば、前記ヒンジと前記ドアの連結部のうちの1箇所を中心として前記被取付け部に対してドアを傾動させることができ、誰にでも簡単にドアを被取付け部に対して建付けることができ、ドアの建付け作業に要する作業工数を大幅に減らすことができる。また、本発明方法によれば、ドアの回転中心から遠いドア上部を第1建付け基準部位としているため、ドア上部が動くことがないことからドアの建付け精度を向上させることができる。
【0052】
また、本実施形態のドア建付け方法によれば、被取付け部の開口にドア建付け用治具を装着し、そのドア建付け用治具に設けた第1基準面にドア上部を押し付けた部位を第1建付け基準部位とし、その第1基準面よりも下方の位置でドア内面の一部を接触させる部位を第3建付け基準部位とすることで、ドアの回転中心となる第2建付け基準部位から離れた距離にある第1建付け基準部位と第3建付け基準部位の3箇所を建付け基準部位としてドアを被取付け部に対して建付けることができ、ドアの建付け精度をより一層高めることが可能となる。
【0053】
また、本実施形態のドア建付け方法によれば、ボルトとナットが固定されたボルトプレートをドアにロックボルトにて仮止めした後、ドアのヒンジ取付け部に形成した貫通孔のうち1箇所を基準孔とし、それ以外を基準孔よりも大きな逃がし孔として、前記基準孔に貫通するボルトを中心軸とし、ドアサッシュ部を固定基準として前記ドアを傾動させて建付けた後、ロックボルトを本締めして前記ボルトプレートを固定するため、本締めされたロックボルトによりドアとボルトプレートとの相対位置関係が決まり、ドアとボディーとの建付けを簡単に行うことができると共に、ボディーからドアを外した後に再びドアをボディーに取り付けてもこれらドアとボディーとの建付け精度を再現することができる。
【0054】
また、本実施形態のドア建付け方法によれば、ドアを自動車車体に建付けた後、ボルトプレートのドアパネルに対する固定状態を維持させた状態で、ヒンジとの締結状態を解除して前記ドアを自動車車体から取り外した後、このドアに内装部品を組み付けた後、再びドアをヒンジにボルトで締結して取り付けてもドアとボディーとの建付け精度を再現させることができる。
【0055】
本実施形態のヒンジ締結構造によれば、ドアのヒンジ取付け部に形成される複数の貫通孔のうち一つを基準孔とし、それ以外を基準孔よりも大きな逃がし孔として、基端側にロケート部を形成したボルトを固定したボルトプレートを、ヒンジ取付け部の一面側に設けて、各ボルトを基準孔及び逃がし孔となるそれぞれの貫通孔に通してドア側ヒンジ部に形成したボルト取付け孔に挿入し締結ボルトで締め付けてドアを被取付け部に対して開閉自在となし、前記基準孔となる貫通孔及びこれに対応するボルト取付け孔にロケート部をそれぞれ嵌合させると、この基準孔に挿通されたロケート部が中心軸となって、前記逃がし孔に遊嵌されるロケート部との隙間分だけ前記ボルトプレートを前記ドアに対して傾けることができる。
【0056】
また、本実施形態のヒンジ締結構造によれば、ロックボルトをボルトプレートに固定したナットに本締めする前の状態では、基準孔となる貫通孔に嵌合するボルトのロケート部を中心として、前記ボルトプレートと前記ドアとが相対的に可動自在となるため、このヒンジ締結構造を使用することで、ドアのボディーへの建付け作業を誰にでも簡単に短時間で行うことができる。
【0057】
以上、上述した実施形態について説明したが、前記実施形態は本発明の一例であり、これら実施形態に本発明が制限されるものではない。前記した実施形態では、自動車車体にドアを建付ける例としたが、被取付け部は自動車に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、ドアを被取付け部にヒンジを介して開閉自在に取り付ける際の建付け技術に利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1…ボディー(自動車車体)
5…フロントドア開口部(被取付け部)
6…フロントドア取付け用治具(ドア建付け用治具)
7…フロントドア(ドア)
8…ヒンジ
23…ドア位置出し部材
24…ルーフサイドレール
25…治具固定用クランプ手段
26…サッシュ部固定用クランプ手段
28…サッシュ部突当てゲージ
29…治具固定クランプ部材
33…押し当て部材
40…ヒンジ取付け部
41A…貫通孔(基準孔、タイト孔)
41B…貫通孔(逃げ孔、フリー孔)
42…ボルト(ボルトプレートに固定されたボルト)
43…ナット(ボルトプレートに固定されたナット)
44…ボルトプレート
45…ロックボルト
46…固定側ヒンジ部(ヒンジ)
47…ドア側ヒンジ部(ヒンジ)
50…ねじ部(ボルトの先端側に形成されたねじ)
51…ロケート部(ねじ部の基端側に形成されたロケート)
53…ロックボルト取付け孔
54…締結ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被取付け部にヒンジを介して開閉自在に取り付けられるドアの前記被取付け部に対する傾きを調整するドア建付け方法において、
前記ドアの高さ方向におけるドア上部をこれと対応する前記被取付け部の対応部位に固定し、その固定したドア上部の部位を第1建付け基準部位とし、
前記ドアの前記ヒンジとの複数箇所の連結部のうち1箇所を第2建付け基準部位として、
前記第2建付け基準部位を中心として前記ドアを、前記被取付け部に対して傾動させて該被取付け部に対して建付ける
ことを特徴とするドア建付け方法。
【請求項2】
請求項1に記載のドア建付け方法であって、
前記ドアを前記被取付け部に建付けるに際して、該被取付け部の開口にドア建付け用治具を装着し、そのドア建付け用治具に設けた第1基準面に前記ドア上部を押し付けた部位を前記第1建付け基準部位とし、前記第1基準面よりも下方の位置でドア内面の一部を接触させる部位を第3建付け基準部位とする
ことを特徴とするドア建付け方法。
【請求項3】
請求項2に記載のドア建付け方法であって、
前記被取付け部を自動車車体とすると共に前記ドアを自動車用ドアとし、前記第1建付け基準部位となる前記ドア上部の部位をサッシュ部とした
ことを特徴とするドア建付け方法。
【請求項4】
請求項3に記載のドア建付け方法であって、
複数本のボルトとナットが固定されたボルトプレートを前記ドアのヒンジ取付け部の一面側に設け、そのヒンジ取付け部に形成した貫通孔を通して各ボルトを他面側へ突出させ、
他面側からヒンジ取付け部に貫通する孔部を通して前記ボルトプレートのナットにロックボルトを螺合させることにより、前記ボルトプレートを前記ドアに仮止めし、
その突出させたボルト先端を前記自動車車体に固定した前記ヒンジに設けたボルト取付け孔に挿入し締結ナットにて締結した後、
前記ヒンジ取付け部に形成した貫通孔のうち1箇所を基準孔とし、それ以外を基準孔よりも大きな逃がし孔として、前記基準孔に貫通するボルトを中心軸とし、前記ドアサッシュ部を固定基準として前記ドアを傾動させて建付けた後、前記ロックボルトを前記ナットに本締めして前記ボルトプレートを固定する
ことを特徴とするドア建付け方法。
【請求項5】
請求項4に記載のドア建付け方法であって、
前記ドアを自動車車体に建付けた後、前記ボルトプレートの前記ドアパネルに対する固定状態を維持させた状態で、前記ヒンジとの締結状態を解除して前記ドアを自動車車体から取り外した後、このドアに内装部品を組み付けた後、再び前記ドアを前記ヒンジにボルトで締結して取り付ける
ことを特徴とするドア建付け方法。
【請求項6】
ドアを被取付け部に対して開閉自在に取り付けるヒンジ締結構造において、
被取付け部に固定される固定側ヒンジ部と、この固定側ヒンジ部に対して可動自在に連結される共にボルト取付け孔を有したドア側ヒンジ部と、からなるヒンジと、
前記ドア側ヒンジ部に取り付けられる前記ドアのヒンジ取付け部に形成され、少なくとも一つを基準孔とし、それ以外を基準孔よりも大きな逃がし孔とした複数の貫通孔と、
前記ドアの前記ドア側ヒンジ部が取り付けられる他面とは反対側の一面側に設けられ、基端側にロケート部が形成され且つ先端側にねじ部が形成された複数本のボルトと、ナットと、が固定されたボルトプレートと、
前記ドアのヒンジ取付け部に貫通する孔部に、このヒンジ取付け部の他面側から一面側へ挿通されて前記ボルトプレートに固定されたナットに螺合して該ボルトプレートを該ドアに固定させるロックボルトと、を備え、
前記ボルトプレートに固定された各ボルトをこれに対応する前記貫通孔を通して前記ドア側ヒンジ部のボルト取付け孔に挿入させると共に、前記貫通孔のうち基準孔となる貫通孔及びこれに対応するボルト取付け孔にロケート部をそれぞれ嵌合させる一方で、逃がし孔となる前記貫通孔には遊嵌状態で通しこれに対応するボルト取付け孔にはロケート部を嵌合させ、各ボルト取付け孔より突出したぞれぞれのねじ部に締結ナットを締め付けて前記ドアを前記被取付け部に対して開閉自在に取り付け、前記ボルトプレートと前記ドアとの相対位置を出した後に、前記ロックボルトをこれに対応する前記ナットに本締めする構造とした
ことを特徴とするヒンジ締結構造。
【請求項7】
請求項6に記載のヒンジ締結構造であって、
前記ロックボルトを前記ナットに本締めする前の状態では、前記基準孔となる貫通孔に嵌合する前記ボルトのロケート部を中心として、前記ボルトプレートと前記ドアとが相対的に可動自在となる
ことを特徴とするヒンジ締結構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−208526(P2010−208526A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57540(P2009−57540)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】