説明

ドメイン交換結合分子、その使用方法および製造方法

本明細書において、高親和性ドメイン交換結合分子のランダムまたは合理的設計のための方法およびその使用法を提供する。同様に、そのような複数のドメイン交換結合分子を含むライブラリーも提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
助成金情報
本発明は、米国国立衛生研究所から、助成金番号GM46192号およびAI33292号により助成を受けて行った。米国政府は本発明において一定の権利を保有する可能性がある。
【0002】
発明の分野
本発明は、一般的に免疫学の分野、特に特有の結合特性を有するドメイン交換結合分子に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
糖質は、莢膜多糖類として、または脂質と結合した場合にはリポ多糖類のいずれかとして細菌細胞エンベロープの表面に存在する。これらの表面多糖類は、細菌ビルレンス因子として作用する様々な細菌科の中でも血清群および血清型分類の基礎となり得、感染時に宿主免疫の主要な標的となる。微生物病原体に対する保護免疫応答は、その細胞表面に存在する多糖類に対して産生された抗糖質抗体にしばしば基づいている。多くの細菌多糖類が免疫原性であることから、抗菌ワクチン接種に多糖類を利用する可能性は、ますます科学者の関心が高まりつつある領域である。
【0004】
ウイルス感染に関連した宿主細胞におけるグリコシル化の変化が報告されている(Rayら(1978)、Virology 88:118;Kumarasamyら(1985)、Arch. Biochem. Biphys. 236:593)。腫瘍形成の場合と同様に、サイトメガロウイルスまたはHIVによって誘導される異常なグリコシル化によって、当初の宿主細胞には存在しない新規の抗原が形成される(Andrewsら(1989)、J. Exp. Med. 169:1347;Adachiら(1988)、J. Exp. Med. 167:323)。
【0005】
同様に、免疫に基づく戦略を用いて、癌細胞表面に示された特異的糖質抗原に対して免疫系を動員できることを示唆する証拠が増えつつある。細胞表面糖質抗原の発現レベルはしばしば、腫瘍形成性の形質転換の際に有意に増加し、場合によっては特定の抗原の発現は形質転換状態に主に関連するように思われる。このように、糖質特異的抗体は、特定の型の癌の治療に対する標的化免疫治療アプローチのみならず、免疫において用いられる糖質含有抗原を同定する可能性を提供する。
【0006】
このように、反復単位を含む複雑な抗原、例えば糖質に結合する免疫治療物質を同定する戦略が望ましい。
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
本発明は、表面上に整列した抗原、および典型的に糖質のような反復単位を有する抗原に関して親和性の増加および結合力の増大を有する特有のドメイン交換結合分子の構造を精液中に発見したことに基づく。本発明のドメイン交換結合分子は、特有の構造および結合特徴を有し、これまで得られていない親和性で異なるタイプの抗原に対して結合することができる。
【0008】
本発明は、可変領域および選択的に定常領域を有する重鎖、ならびに二つの通常抗原結合部位および隣接して配置される重鎖可変領域の間の界面によって形成される少なくとも一つの非通常結合部位を含む多価結合表面を含むドメイン交換結合分子を提供する;但し、分子は通常の2G12抗体ではない。特定のドメイン交換結合分子の構造的コンフォメーションに応じて、通常部位、非通常部位、またはそれらの組み合わせを、特定の抗原に結合するために利用してもよい。本発明の分子にはまた、可変領域および定常領域を有する重鎖、ならびに二つの通常抗原結合部位および隣接して配置される重鎖可変領域の間の界面によって形成される少なくとも一つの非通常抗原結合部位を含む多価結合表面を含む、天然に存在しない(例えば、合成)ドメイン交換結合分子が含まれる。
【0009】
一つの局面において、本発明は、糖質のような反復単位またはエピトープに対して親和性を有するドメイン交換結合分子を産生する方法を提供する。本方法によって、無作為に生成される分子のライブラリーを提供することによって、抗体に結合することができるそのような分子が産生される。そのようなライブラリーにおいて、抗体結合部位を、例えば、本明細書に記述の2G12抗体と類似の少なくともVL-VH-VH-VLの枠組みを維持しながら、異なる抗原特異性を有する複数の結合分子を提供するように無作為化してもよい。
【0010】
もう一つの局面において、本発明のドメイン交換結合分子の産生は、例えば、抗HIVまたは抗CD20抗体のような、既存の通常の抗体構造の合理的設計によって行う。
【0011】
一つの態様において、本発明は、ウイルス外皮またはエンベロープ、細菌膜等のように、その表面上に反復単位を含む病原体または物質による感染症または疾患を有する、またはそのリスクを有する被験者を治療する方法を提供する。そのような方法は、例えば、病原体または物質に結合する本発明のドメイン交換結合分子の治療的有効量を被験者に投与して、それによって被験者に受動免疫を提供することによって行うことができる。そのような方法は、被験者が病原体もしくは物質に感染するようになりうる可能性を減少させる予防薬として、または病原体もしくは物質に感染した被験者の治療として有用となりうる。
【0012】
もう一つの態様において、本発明は、通常抗体よりむしろ本発明のドメイン交換結合分子を利用する診断アッセイ法を提供する。そのようなアッセイ法は、通常光対が典型的に利用される任意のイムノアッセイ法となりうるが、本発明の結合分子は、通常抗体と比較して特定の抗原に対する感受性の増加を提供する可能性がある。本発明の結合分子は、イムノアッセイ法の場合と同様に通常抗体と併用して用いることができる。
【0013】
表1は結晶学データの概要を提供する。非リガンド結合Fabおよび二糖Manα1-2Manに結合したFabは軽度の異方性回折を示すが、オリゴ糖Man9GlcNAc2に結合したFab 2G12の結晶は、強い異方法性回折を示す。この特性は、各結晶の全体的な異方性B-値に反映される。しかし、電子密度マップは明らかに解釈可能である。定常ドメインは一般的に、可変ドメインと比較してより高いB値を有する。a 括弧内の数値は、最高の分解能シェルに関する。b 全てのWilson B値は4.0Åからそのデータセットの最高の分解能まで計算する。c PROCHECK(73)を用いて計算した。d γターンに存在するがPROCHECKによってアウトライアーとして示される非対称単位の双方のFab分子の残基L51を含める。PROCHECKによって却下されたと指定された他の残基は、対応する電子密度に良好に適合する。
【0014】
表2はFab 2G12変異体の相対的な見かけの結合親和性を示す。結果を野生型Fab 2G12結合(100%)と比較して示す。VH/VH'界面、一次結合部位、または二次(VH/VH'界面)結合部位で起こる変異を示す。
【0015】
発明の詳細な説明
本発明は、少なくとも一つの非通常結合部位を提供するために免疫グロブリン分子の重鎖可変領域と咬み合うドメイン交換結合分子を精液中で発見したことに基づいている。重鎖VHは、第一のVH領域が反対のVL、ならびに選択的にCH1およびCLと相互作用するように、第二のVH領域と交換(ドメイン交換(スワップ(swap))または交換(exchange))する。この配置は、二つの絡み合った平行に並んだ領域から形成され、二つの通常の抗原結合部位、および第三または第四の結合領域として作用しうるVH-VH界面から形成される少なくとも一つの非通常部位からなる多価結合部位を形成する。VH-VH界面が一つまたは二つの抗原結合部位を提供して、通常の結合部位は抗原に結合しないということが起こりうる。本発明のドメイン交換結合分子の一つの説明的な例には、完全なFab領域を含むVL-VH-VH-VLが含まれる。
【0016】
本発明のそのようなドメイン交換結合分子は、反復単位を有する抗原、例えば糖質を含む、最大の一価結合が他の抗原と同様にしばしばマイクロモル範囲に過ぎない、弱いまたは不良な抗原に関連する親和性を増強した。結合部位のそのような群分けによって、ウイルス外皮、細菌膜、腫瘍細胞、または何らかの人工的なアレイのような表面上に配列された抗原に関してより大きい結合力が得られるであろう。次に、複合結合表面は、抗原の結合に関して新規特性を有する可能性がある。本明細書に記述の2G12抗HIV-1抗体は、ドメイン交換結合分子の例として単に示される。2G12の結晶構造は、この分子が免疫グロブリンのVHおよびエルボー領域における約4個の残基を置換することによって得られたことを示した。しかし、本発明のドメイン交換結合分子には、本明細書に記述のVL-VH-VH-VL分子が得られる構造的コンフォメーションを提供するために、1個という少ないアミノ酸残基が含まれてもよい。
【0017】
以下にはいくつかの関連する定義が含まれる。
【0018】
アミノ酸残基:そのペプチド結合でのポリペプチドの化学的消化(加水分解)によって形成されるアミノ酸。本明細書に記載のアミノ酸残基は、好ましくは「L」異性体である。しかし、望ましい機能的特性がポリペプチドによって保持される限り、「D」異性体の残基を任意のL-アミノ酸残基の代わりに用いることができる。NH2は、ポリペプチドのアミノ末端に存在する遊離のアミノ基を指す。COOHは、ポリペプチドのカルボキシ末端に存在する遊離のカルボキシル基を指す。標準的なポリペプチドの命名法(J. Biol. Chem. 243:3552〜59(1969)に記述され、米国特許法施行規則1.822条(b)(2)項で採択された)に従って、アミノ酸残基の略語を以下に示す。
【0019】
対応表:

【0020】
本明細書おいて式によって示される全てのアミノ酸残基配列は、アミノ末端からカルボキシ末端への通常の方向で左から右の方向を有する。さらに、「アミノ酸残基」という句は、対応表に記載されるアミノ酸、ならびに米国特許法施行規則1.822条(b)(4)項に記載のおよび参照として本明細書に組み入れられるアミノ酸のような改変および非通常アミノ酸が含まれるように広く定義される。さらに、アミノ酸残基配列の開始または末端での破線は、一つもしくは複数のアミノ酸残基のさらなる配列に対するペプチド結合、またはNH2もしくはアセチルのようなアミノ末端基、またはCOOHのようなカルボキシ末端基に対する共有結合を示していることに注意しなければならない。
【0021】
組換え型DNA(rDNA)分子:二つのDNAセグメントを機能的に連結することによって産生されたDNA分子。このように、組換え型DNA分子は、共に天然において通常認められない少なくとも二つのヌクレオチド配列を含むハイブリッドDNA分子である。共通の生物学的起源を有しない、すなわち進化的に異なるrDNAは「異種」であると言われる。
【0022】
ベクター:細胞において自己複製することができ、それに対してDNAセグメント、例えば遺伝子またはポリヌクレオチドが、結合したセグメントの複製を生じるように機能的に連結することができるrDNA分子。一つまたは複数のポリペプチドをコードする遺伝子の発現を誘導することができるベクターは、本明細書において「発現ベクター」と呼ばれる。特に重要なベクターは、逆転写酵素を用いて産生されたmRNAからcDNA(相補的DNA)のクローニングを行うことができる。発現ベクター(またはポリヌクレオチド)は一般的に、プロモーター配列を含むまたはコードするが、プロモーター配列は、コードするポリヌクレオチド、ポリA認識配列、およびリボソーム認識部位、または内部リボソーム認識配列、または組織特異的となりうるエンハンサーのような他の調節エレメントの、構成的、または望ましければ誘導型、組織特異的、もしくは発達段階特異的発現を提供することができる。ベクターはまた、望ましければ原核細胞または真核細胞宿主系における複製にとって必要なエレメントを含んでもよい。そのようなベクターには、バクテリオファージ、バキュロウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、セムリキ森林ウイルスおよびアデノ随伴ウイルスベクターのような、プラスミドベクターおよびウイルスベクターが含まれ、これらは周知であり、購入することが可能であり(Promega、マディソン、ウィスコンシン州;Stratagene、ラホヤ、カリフォルニア州;GIBCO/BRL、ガイサースバーグ、メリーランド州)または当業者が構築することができる(例えば、それぞれが参照として本明細書に組み入れられるMeth. Enzymol. 185、Goeddel編(Academic Press, Inc.、1990);Jolly、Canc. Gene Ther. 1:51〜64、1994;Flotte、J. Bioenerg. Biomemb. 25:37 42、1993;Kirshenbaumら、J. Clin. Invest. 92:381〜387、1993を参照されたい)。
【0023】
単離された:単離されたという用語は、本明細書において天然の状態から「人の手によって」変化したことを指すために用いられる。「単離された」組成物または物質が天然に存在する場合、これはその当初の環境から変化または除去されている、またはその双方である。例えば、生きている動物に本来存在するポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、「単離されていない」が、その天然の状態で共存する材料から分離された同じポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、本明細書において用いられるように、「単離されている」。
【0024】
抗体:抗体という用語はその様々な文法的変化系において、本明細書において免疫グロブリン分子および免疫グロブリン分子の免疫学的活性部分、すなわち抗体結合部位またはパラトープを含む分子を指すために用いられる。例としての抗体分子は、無傷の免疫グロブリン分子、実質的に無傷の免疫グロブリン分子、ならびに当技術分野においてFab、Fab'、F(ab')2およびF(v)として知られているその一部を含む免疫グロブリン分子の一部である。「抗体」という用語には、天然に存在する抗体、ならびに例えば一本鎖抗体、キメラ、二元機能およびヒト化抗体を含む天然に存在しない抗体、ならびにそれらの抗原結合断片が含まれる。そのような天然に存在しない抗体は、固相ペプチド合成を用いて構築することができる、組換えによって産生することができる、または例えば可変重鎖および可変軽鎖からなる組み合わせライブラリーをスクリーニングすることによって得ることができる(参照として本明細書に組み入れられる、Huseら、Science 246:1275〜1281(1989)を参照されたい)。例えばキメラ、ヒト化、CDR移植、一本鎖、および二元機能抗体を作製するこれらおよび他の方法は、当業者に周知である(Winter and Harris、Immunol. Today 14:243〜246、1993;Wardら、Nature 341:544〜546、1989;Harlow and Lane、「Antibodies:A Laboratory Manual」、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1988;Hilyardら、「Protein Engineering:A Practical Approach」(IRL Press 1992);Borrabeck、「Antibody Engineering」、第二版(Oxford University Press 1995);そのそれぞれが参照として本明細書に組み入れられる)。
【0025】
本発明のドメイン交換結合分子には、一本鎖分子と共に、定常領域を含まない分子、例えば二量体ドメインを含むまたは含まないVL-VH-VH-VL分子が含まれる。このように、本発明の最小の構造は、定常領域を含まないVL-VH-VH-VL構造である。
【0026】
抗体結合部位:通常の抗体における抗体結合部位は、抗原に特異的に結合する(免疫反応する)重鎖および軽鎖可変および高度可変領域を含む抗体分子のその構造的部分である。その様々な変化形での免疫反応するという用語は、抗原性決定領域を含む分子と、抗体分子全体またはその一部のような抗体結合部位を含む分子との特異的結合を意味する。後に考察するように、抗体結合部位はまた、本発明のドメイン交換結合分子におけるVH-VH界面によって形成されうる。
【0027】
「HIV誘導疾患」という用語は、HIVによって直接または間接的に引き起こされる任意の疾患を意味する。HIV誘導疾患の例は、後天性免疫不全症候群(AIDS)およびHIV感染症によって引き起こされるAIDSに一般的に関連した多数の任意の病態である。
【0028】
「通常の結合部位」または「領域」という用語は、エピトープまたは抗原に対する結合の特異性を提供するために重鎖および軽鎖の「可変」領域を有する免疫グロブリン分子上の従来のFab領域を指す。標準的な「Y」型の抗体分子は、二つの抗体結合部位を有する二つの領域を含み、本明細書において「通常の」結合部位と呼ばれる。本発明の最小結合分子は、構造に少なくともVL-VH-VH-VLが含まれる限り、無傷のFabを必要としない。
【0029】
「非通常結合部位」もしくは「領域」、または「非通常結合部位」もしくは「領域」は、新規結合部位または領域を形成する従来の免疫グロブリン分子のFabの可変ドメインの交換または交換された重鎖領域を指す。この領域はまた、本明細書においてVH-VH界面とも呼ばれる。本発明のドメイン交換結合分子は、通常および非通常結合部位または領域、およびVL-VH-VH-VLの最小構造を有することを特徴とする。
【0030】
本明細書において用いられるように、「保存的変化」という用語は、一つのアミノ酸残基がもう一つの生物学的に類似の残基によって置換されることを指す。保存的変化の例には、イソロイシン、バリン、ロイシン、もしくはメチオニンのような一つの疎水性残基をもう一つの疎水性残基に置換すること、またはアルギニンをリジンに、グルタミン酸をアスパラギン酸に、もしくはグルタミンをアスパラギンに置換するような、一つの極性残基をもう一つの極性残基に置換すること等が含まれる。「保存的変化」という用語にはまた、置換されたポリペプチドを有する抗体がHIVを中和する限り、非置換親アミノ酸の代わりに置換アミノ酸を用いることが含まれる。同様に、本発明のもう一つの好ましい態様は、上記の重鎖および/または軽鎖ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、およびこれらのポリヌクレオチド配列と相補的であるポリヌクレオチド配列に関する。相補的ポリヌクレオチド配列には、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件で本発明のポリヌクレオチド配列とハイブリダイズする配列が含まれる。
【0031】
本発明は、本明細書に記述の治療法を実践するために有用な治療組成物を企図する。本発明の治療組成物は、活性成分としてその中に溶解または分散された本明細書に記述のドメイン交換結合分子の少なくとも一つの種と共に生理的に認容される担体を含む。
【0032】
本明細書において用いられるように、組成物、担体、希釈剤および試薬を指す場合の「薬学的に許容される」、「生理的に認容される」という用語およびその文法的変化形は互換的に用いられ、その材料が、悪心、めまい、急性の胃蠕動等のような望ましくない生理的作用を生じることなくヒトのような被験者に投与することができることを表している。
【0033】
活性成分を溶解または分散させて含む薬学的組成物の調製は当技術分野で周知である。典型的に、そのような組成物は、液体溶液、懸濁液、水溶液または非水溶液のいずれかとして滅菌注射剤として調製されるが、使用前に液体とするために溶液または懸濁液として適した固体も同様に調製することができる。調製物はまた乳化することができる。
【0034】
活性成分は、薬学的に許容され、活性成分と適合性であって、本明細書に記述の治療法において用いるために適した量である賦形剤と混合することができる。適した賦形剤は例えば、水、生理食塩液、デキストロース、グリセロール、エタノール等およびその混合物である。さらに、望ましければ、組成物は、活性成分の有効性を増強する湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤等のような少量の補助物質を含みうる。
【0035】
本発明の治療組成物には、その成分の薬学的に許容される塩が含まれうる。薬学的に許容される塩には、例えば塩酸もしくは燐酸のような無機酸、または酢酸、酒石酸、マンデル酸等のような有機酸によって形成される酸付加塩(ポリペプチドの遊離のアミノ基によって形成される)が含まれる。遊離のカルボキシル基によって形成される塩も同様に、例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、または水酸化第二鉄のような無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカイン等のような有機塩基に由来しうる。
【0036】
生理的に許容される担体は当技術分野で周知である。液体担体の例は、活性成分および水の他に材料を含まない、または生理的pHで燐酸ナトリウムのような緩衝液、生理食塩液、または燐酸緩衝生理食塩液のような両者を含む滅菌水溶液である。なおさらに、水性担体は、一つより多い緩衝塩のみならず、塩化ナトリウムおよびカリウム、デキストロース、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、および他の溶質を含みうる。
【0037】
液体組成物はまた、水の他、水を除く液相を含みうる。そのようなさらなる液相の例は、グリセリン、綿実油のような植物油、オレイン酸エチルのような有機エステル、および油中水型乳剤である。
【0038】
受動免疫治療法を実践するための代表的な被験者は、AIDS、またはHIV感染症によって引き起こされると考えられる関連疾患を含むHIV誘導疾患の症状を示す任意のヒト、およびHIV感染のリスクを有するヒトである。HIV感染のリスクを有する人には、HIV感染した妊娠した母親の赤ん坊、HIVを含むことがわかっている輸血のレシピエント、HIV汚染針の使用者、既知のHIV感染者との高リスク性的活動および同様のリスク状況に関与した人が含まれる。
【0039】
ヒトのような霊長類の他に、多様な他の哺乳類を本発明の方法に従って治療することができる。例えば、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、モルモット、ラット、または他のウシ、ヒツジ、ウマ、イヌ、ネコ、齧歯類もしくはマウス種が含まれるがこれらに限定されない哺乳類を治療することができる。方法はまた、鳥類(例えば、ニワトリ)のような他の種において実践することができる。
【0040】
ドメイン交換結合分子の用量は、どのように複雑な場合でも個々の医師によって調節することができる。本発明のドメイン交換結合分子の治療的有効量は、典型的に、生理的に認容される組成物において投与した場合に、血漿濃度約0.1μg/ml〜約100 μg/ml、好ましくは約1μg/ml〜約5μg/ml、および通常約5μg/mlが得られるために十分な量のドメイン交換結合分子である。言い換えれば、用量は、毎日、1日または数日間の1回または複数回の投与において約0.1 mg/kg〜約300 mg/kg、好ましくは約0.2 mg/kg〜約200 mg/kg、最も好ましくは約0.5 mg/kg〜約20 mg/kgまで変化しうる。
【0041】
本発明のドメイン交換結合分子は、注射によってまたは時間をかけて徐々に注入することによって非経口投与することができる。このように、本発明のドメイン交換結合分子は、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、腔内、経皮投与することができ、例えば蠕動的手段によって輸送することができる。
【0042】
本発明の治療組成物は通常、静脈内投与する、または例えば単位用量の注射によって投与する。本発明の治療組成物に関して用いる場合の「単位用量」という用語は、各単位が必要な希釈剤、すなわち担体または溶媒に関連して所望の治療効果を生じるように計算された活性材料の規定量を含む、被験者の単位用量として適した物理的に個別の単位を指す。
【0043】
治療組成物は、非毒性の薬学的に許容される媒体または希釈剤を含む投与単位剤形において、任意の適した手段、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、または粉剤の形で経口投与によって;舌下;口腔内;皮下、静脈内、筋肉内、髄腔内、または槽内注射または注入技術のような非経口投与(例えば滅菌注射用水溶液または非水溶液もしくは懸濁液として);吸入スプレーによるような鼻腔内;クリームもしくは軟膏の形のような局所;または坐剤の形のような直腸内投与によって投与してもよい。本発明の化合物は、例えば即時放出または徐々の放出に適した剤形で投与してもよい。即時放出または徐々の放出は、本発明の化合物を含む適した薬学的組成物を用いることによって、または特に徐放性製剤の場合、皮下インプラントもしくは浸透圧ポンプのような装置を用いて行ってもよい。本発明の化合物はまた、リポソームによって投与してもよい。
【0044】
組成物は、投与製剤に適合する方法で、治療的有効量で投与される。投与される量は治療される被験者、被験者の系が活性成分を利用する能力、および望ましい治療効果の程度に依存する。投与に必要な活性成分の正確な量は、医師の判断に委ねられ、個々の患者に対して特異的である。しかし、全身投与の場合の適した用量範囲は本明細書に開示され、投与経路に依存する。適した投与レジメも同様に変更可能であり、典型的に初回投与の後に1時間またはそれより多い間隔でその後の注射または他の投与を反復投与する。または、インビボ治療に関して明記される範囲において血液中の濃度を維持するために十分な持続的静脈内注入が企図される。
【0045】
本発明はまた、本発明のドメイン交換結合分子を含む医薬品または薬学的組成物を調製する方法に関する。医薬品は、抗原、特に糖質のような反復単位を有する抗原に対して高い親和性と高い結合力を有する結合分子を有することが望ましい、感染症または疾患、例えば腫瘍を治療するために有用である。
【0046】
本発明の方法において用いられるドメイン交換結合分子は、例えば、液相において利用できる、または固相に結合させることができるイムノアッセイ法において用いるために適している。さらに、これらのイムノアッセイ法におけるドメイン交換結合分子は、様々な方法で検出可能に標識することができる。本発明のドメイン交換結合分子を利用することができるイムノアッセイ法のタイプの例は、直接または間接法のいずれかの競合的および非競合的イムノアッセイ法である。そのようなイムノアッセイ法の例は、ラジオイムノアッセイ法(RIA)およびサンドイッチ(免疫測定)アッセイ法である。本発明のドメイン交換結合分子を用いる抗原の検出は、生理的試料に対する免疫組織化学アッセイ法を含む、前進、逆、または同時モードのいずれかで行われるイムノアッセイ法を利用して行うことができる。当業者は、過度の実験を行うことなく他のイムノアッセイフォーマットを承知しているであろう、または容易に気付くことができるであろう。
【0047】
「免疫測定アッセイ法」または「サンドイッチイムノアッセイ法」という用語には、同時サンドイッチ、フォワードサンドイッチ、およびリバースサンドイッチイムノアッセイ法が含まれる。これらの用語は当業者によって十分に理解される。当業者はまた、本発明に従うドメイン交換結合分子が、現在既知である、または将来開発される可能性があるアッセイ法の他の変化形および形において有用であることを認識するであろう。これらは、本発明の範囲に含まれると意図される。
【0048】
本明細書において開示されるように、本発明は、特定の局面をハイスループット分析に適合させることができるという長所を提供する。例えば、ドメイン交換結合分子の組み合わせライブラリーは、その表面で典型的に反復単位を含む特定の病原体、物質または分子に結合する分子を同定するためにスクリーニングすることができる。または、本発明の方法をハイスループットフォーマットに適合させるために、生体試料(例えば、試験細胞、または試験細胞の抽出物)を、マイクロチップ、スライドガラス、またはビーズのような固相支持体上で、位置特定可能なアレイとなりうるアレイに整列させることができ、細胞(または抽出物)を本明細書に開示の一つまたは複数のドメイン交換結合分子に連続的または同時に接触させることができる。アレイまたはその他の再現可能なパターンで整列させた試料にアドレス(すなわち、アレイ上の位置)を割付することができ、このように、試料の起源の同定が容易となる。アレイ、特に位置特定可能なアレイに試料を整列させるさらなる長所は、様々な時間で一つまたは複数の試料に試薬を付加または試料から除去するために、または特定の試料に異なる試薬を付加するために自動システムを用いることができる点である。同時に多数の試料を調べる簡便性の他に、そのようなハイスループットアッセイ法は、単一の試料を1試料あたり2回、3回、またはそれ以上調べる手段を提供し、それによって得られた結果の信頼性が増加して、および試験試料と同じ条件で対照試料を試験する手段を提供し、それによって異なるアッセイ法からの結果を比較するための内部標準を提供する。都合のよいことに、アレイ上の位置での細胞または抽出物を、二つまたはそれ以上のドメイン交換結合分子(例えば、さらなる抗体)に接触させることができ、この場合、ドメイン交換結合分子を異なるように標識するか、または区別可能な産物を生じる反応を含み、このように、多重アッセイ法を行う手段を提供する。そのようなアッセイ法によって、感染症もしくは疾患を有するまたはそのリスクを有する被験者を同定するために、その表面に反復単位を含む一つまたは複数、特に2個、3個、4個、5個、10個、15個、20個またはそれ以上の病原体、物質、または分子を調べることができる。
【0049】
当業者に既知の多くの異なる標識および標識法が存在する。本発明において用いることができる標識のタイプの例には、酵素、放射性同位元素、蛍光化合物、コロイド金属、化学発光化合物、燐光化合物、および生体発光化合物が含まれる。当業者は、ドメイン交換結合分子を結合させるために他の適した標識を承知しているであろう、または普通の実験を用いてそのような標識を確認することができるであろう。同様により大きい感度が得られる可能性がある別の技術は、ドメイン交換結合分子を低分子量ハプテンに結合させることからなる。これらのハプテンは第二の反応によって特異的に検出することができる。例えば、アビジンと反応するビオチン、または特異的抗ハプテン抗体と反応しうるジニトロフェニル、プリドキサル、およびフルオレセインのようなハプテンを用いることは一般的である。
【0050】
ドメイン交換結合分子は、異なる多くの担体に結合することができ、生体試料において抗原の存在を検出するために用いられる。周知の担体の例には、ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、デキストラン、ナイロン、アミラーゼ、天然および改変セルロース、ポリアクリルアミド、アガロースおよびマグネタイトが含まれる。担体の性質は本発明の目的にとって可溶性または不溶性のいずれかとなりうる。当業者は、ドメイン交換結合分子を結合させるために他の適した担体を承知しているであろう、または普通の実験を用いて確認することができるであろう。
【0051】
生体試料は、任意の体液、例えば血液、尿、唾液、粘液、胃液、培養細胞、生検、または他の組織調製物(例えば、腫瘍細胞)から得てもよい。
【0052】
アッセイ法を行う場合、特定の「遮断剤」または「遮断物質」をインキュベーション培地に含めることが望ましい場合がある(通常、標識された可溶性抗体と共に加える)。「遮断剤」または「遮断物質」は、実験試料中に存在する非特異的タンパク質、プロテアーゼ、または抗免疫グロブリンに対する抗異好性免疫グロブリンが、固相支持体上の抗体または放射性標識指標抗体にクロスリンクまたはこれを破壊して、擬陽性または擬陰性結果を生じることがないように添加される。したがって、「遮断剤」または「遮断物質」の選択は、本発明に記述されるアッセイ法の特異性を実質的に増大させる可能性がある。
【0053】
アッセイ法において用いられる抗体と同じクラスまたはサブクラス(アイソタイプ)の多くの無関係な(すなわち、非特異的)抗体(例えば、IgG1、IgG2a、IgM等)を、「遮断剤」または「遮断物質」として用いることができることが判明している。「遮断剤」の濃度(通常、1〜100μg/ml)は、適度の感度を維持しながら、標本における相互に存在する交叉反応性タンパク質によって如何なる望ましくない干渉も阻害するために重要であるかも知れない。
【0054】
抗原をインビボで検出するためにドメイン交換結合分子を用いる場合、検出可能に標識したドメイン交換結合分子を診断的に有効な用量で投与する。「診断的に有効な」という用語は、検出可能に標識されたドメイン交換結合分子の量が、ドメイン交換結合分子が特異的である抗原を有する部位の検出を可能にするために十分な量で投与されることを意味する。投与される検出可能に標識したドメイン交換結合分子の濃度は、バックグラウンドと比較して抗原を有するそれらの細胞に対する結合が検出可能であるように十分でなければならない。さらに、検出可能に標識したドメイン交換結合分子は、最善の標的対バックグラウンドシグナル比を生じるために、循環系から迅速に消失されなければならないことが望ましい。
【0055】
原則的に、インビボ診断のために検出可能に標識したドメイン交換結合分子の用量は、個体の年齢、性別、および疾患の程度のような要因に応じて変化するであろう。ドメイン交換結合分子の用量は、約0.001 mg/m2〜約500 mg/m2、好ましくは0.1 mg/m2〜約200 mg/m2、最も好ましくは約0.1 mg/m2〜約10 mg/m2まで変化しうる。そのような用量は、例えば複数回注射を行うか否か、腫瘍の負荷、および当業者に既知の他の要因に応じて変更してもよい。
【0056】
インビボ診断造影に関して、利用できる検出機器のタイプは、所定の放射性同位元素を選択する際に主要な要因である。選択した放射性同位元素は、所定のタイプの機器に関して検出可能であるタイプの崩壊を有しなければならない。インビボ診断のために放射性同位元素を選択する場合のさらにもう一つの重要な要因は、放射性同位元素が標的による最大の取り込み時間でなお検出可能であるように半減期が十分に長くなければならないが、宿主に関して有害な放射線が最小限となるように十分に短くなければならない点である。理想的には、インビボ造影のために用いられる放射性同位元素は粒子の放出を欠損するが、140〜250 keV範囲で多数の光子を産生し、これを通常のγカメラによって容易に検出してもよい。
【0057】
インビボ診断の場合、放射性同位元素を、中間官能基を用いて直接または間接的に免疫グロブリンに結合させてもよい。金属イオンとして存在する放射性同位元素を免疫グロブリンに結合するためにしばしば用いられる中間官能基は、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)およびエチレンジアミン四酢酸(EDTA)および類似の分子のような二元機能キレート剤である。本発明のドメイン交換結合分子に結合することができる金属イオンの典型的な例は、111In、97Ru、67Ga、68Ga、72As、89Zr、および201Tlである。
【0058】
本発明の方法において有用なドメイン交換結合分子はまた、インビボ診断、磁気共鳴画像(MRI)または電子スピン共鳴(ESR)の目的のために常磁性同位元素によって標識することができる。一般的に、診断画像を可視化するための如何なる通常の方法も利用することができる。通常、γおよびポジトロン放出放射性同位元素が、MRIのカメラ撮像および常磁性同位元素のために用いられる。そのような技術において特に有用な元素には、157Gd、55Mn、162Dy、52Cr、および56Feが含まれる。
【0059】
本発明はまた、本明細書に記述の診断法に従って試料中の抗原、例えば病原体、細菌、ウイルス、腫瘍の有無をアッセイするための診断系、好ましくはキットの形の診断システムについて記述する。診断システムには、少なくとも一つのアッセイを行うために十分な量の本発明の少なくとも一つのドメイン交換結合分子が単独または従来の抗体と共に、異なる包装試薬として含まれる。
【0060】
「使用説明書」には典型的に、混合される試薬と試料の相対的な量、試薬/試料混合のための期間の維持、温度、緩衝剤条件等のような試薬濃度または少なくとも一つのアッセイ法パラメータを記述する有形の表現が含まれる。
【0061】
疾患が確立されて、治療プロトコールが開始されると、患者における発現レベルが正常な患者において認められる値に近似し始めるか否かを評価するために、ハイブリダイゼーションアッセイ法を定期的に繰り返してもよい。連続アッセイ法から得られた結果を用いて、数日から数ヶ月間にわたって治療効果を示してもよい。
【0062】
癌の場合、個体からの生検組織において抗原または類似の分子が比較的大量に存在すれば、疾患の発症の素因を示す可能性があり、または実際の臨床症状の出現前に疾患を検出する手段を提供する可能性がある。このタイプのより明確な診断によって、医療従事者はより早期に予防手段または積極的な治療を用いることができ、それによって癌の発症またはさらなる進行を予防することができる。
【0063】
本発明は、新規ドメイン交換結合分子を産生する方法について記述する。方法は一般的に、多様な起源から産生されうる抗体分子の組み合わせライブラリーを用いることに基づき、これには天然のライブラリー、改変ライブラリー、および特異的免疫応答を示すヒトドナーから直接産生されたライブラリーが含まれる。組み合わせライブラリーの他に、抗体を産生する標準的な方法を利用して本発明のドメイン交換結合分子の鋳型を提供することができる。産生されると、当業者に既知の変異誘発技術を利用して、例えば対象抗原との結合試験と共に結晶構造決定または配列決定によって、抗原に対する高親和性結合を提供する変異をスクリーニングすることができる。
【0064】
特に、本発明のドメイン交換結合分子は、三つの重要な特徴を有することが望ましい。第一に、VH-VH界面を安定化させて、これに好都合となるために存在するアミノ酸残基が存在することが重要である。例として、本明細書において説明する2G12抗体において、重鎖の残基113位のプロリンは、VH-VHドメイン交換を促進するために重要であるように思われるが、重鎖の84位のバリンは、得られたVH-VH界面を安定化するために重要であるように思われる。さらに、2G12において、重鎖の19位でのイソロイシン、重鎖の57位でのアルギニン、および重鎖の77位でのフェニルアラニンも同様に、VH-VH界面の安定化に関与しているように思われる。
【0065】
第二に、標準的なボール&ソケット結合部から隣接するFabに伸展する重鎖可変領域(VH)と重鎖定常領域(CH)の間のリンカー領域は、例えばドメイン交換を提供し、VH-VH界面の下の分子を「ねじれ」させる。
【0066】
第三に、VHおよびVLドメインの間の界面は典型的に、安定化を促進するために通常の抗体において保存されている。特に、GlnL38およびGlnH39は典型的に保存される(それぞれ、94%および97%)。これらの残基が変化または存在しない場合、それらはVHおよびVL界面を弱めるが、これは本発明のドメイン交換結合分子にとって望ましい。
【0067】
本明細書の教示および2G12によって提供される説明的な実施例を考慮すると、当業者は、本発明において記述の他のドメイン交換結合分子、特に上記の三つの特徴を有し、図12に示される分子を産生できると考えられる。三つ全ての特徴が望ましいが、三つより少なくても、本発明のドメイン交換結合分子を産生するために十分である可能性があると理解すべきである。
【0068】
組み合わせライブラリーの作製および操作法は、文献に広く記述されており、本発明の特有の態様を作製および使用するために必要な特徴を除き、本明細書において詳細に論評しない。しかし、方法は一般的に、ライブラリーの抗体種をクローニングおよび発現するために、糸状ファージ(ファージミド)表面発現ベクター系を用いることを含む。組み合わせライブラリーを産生するために様々なファージミドクローニングシステムが他の研究者によって記述されている。例えば、その参考文献が参照として本明細書に組み入れられる、以下に記述されるファージミド上での組み合わせ抗体ライブラリーの調製を参照されたい:Kangら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:4363〜4366(1991);Barbasら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:7978〜7982(1991);Zebedeeら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:3175〜3179(1992);Kangら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:11120〜11123(1991);Barbasら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:4457〜4461(1992);およびGramら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:3576〜3580(1992)。
【0069】
通常のヒトモノクローナル抗体を産生する方法は一般的に、(1)ライブラリー源としてヒト免疫グロブリン遺伝子を用いてクローニングベクターにおいて異なるH鎖およびL鎖コード遺伝子ライブラリーを調製すること;(2)ヘテロ二量体抗体分子を発現および構築することができる単一の二シストロン発現ベクターにH鎖およびL鎖コード遺伝子ライブラリーを結合させる段階;(3)糸状ファージ粒子の表面上で構築されたヘテロ二量体抗体分子を発現させる段階、(4)予め選択した抗原に対するファージ粒子の選別のような免疫アフィニティ技術を用いて表面発現ファージ粒子を単離して、それによって特定のH鎖およびL鎖コード遺伝子および予め選択した抗原と免疫反応する抗体分子を含むファージミドの一つまたは複数の種を単離する段階、を含む。
【0070】
例えば、重鎖(H)および軽鎖(L)免疫グロブリン分子コード遺伝子は、構築された免疫グロブリン分子において新しいHL対を作製するために無作為に混合(シャッフル)することができる。さらに、H鎖およびL鎖コード遺伝子のいずれかまたは双方を、免疫グロブリンポリペプチドの可変領域の相補性決定領域(CDR)において変異誘発して、その後望ましい免疫反応および中和能に関してスクリーニングすることができる。
【0071】
同様に、本発明のドメイン交換結合分子は、VH-VH界面が分子の枠組みを提供して、抗体結合部位(例えば、HCDR3)が様々な抗原特異性および親和性を有する複数のドメイン交換結合分子を産生するように無作為化される、組み合わせライブラリー技術によって産生することができる。CDRの一つまたは複数のループがライブラリーにおいて無作為化されるか否かは選択的である。ライブラリーは典型的にファージにおいて発現されるが、酵母、リボソームディスプレイ、または当業者に公知の他のシステムも同様に、本発明の方法において有用である。ライブラリーは、例えば対象抗原、ガングリオシドアレイ、または他の反復単位もしくは腫瘍細胞によってスクリーニングする。ライブラリーを選別した後に、対象抗原との結合に関して新規ドメイン交換結合分子を選択する。
【0072】
本発明の結合分子のさらなる特徴付けとして、分子のH鎖またはL鎖コード遺伝子のヌクレオチドおよび対応するアミノ酸残基配列を、核酸シークエンシングによって決定する。一次アミノ酸残基配列情報は、結合分子のエピトープ反応性に関する本質的な情報を提供する。
【0073】
本明細書において用いられるように、「ベクター」という用語は、それに対して機能的に結合しているもう一つの核酸を異なる遺伝子環境の間に輸送することができる核酸分子を指す。好ましいベクターは、それに対して機能的に結合するDNAセグメントに存在する構造的遺伝子産物の自律的複製および発現を行うことができるベクターである。したがって、ベクターは、好ましくはレプリコンおよび先に記述した選択マーカーを含む。
【0074】
本明細書においてDNA配列またはセグメントに関して用いられるように、「機能的に結合する」という句は、配列またはセグメントが、好ましくは通常のホスホジエステル結合によって一本鎖または二本鎖であるDNAの一つの鎖に共有結合していることを意味する。転写単位または本発明のカセットを機能的に結合させるベクターの選択は、当技術分野において周知であるように、望ましい機能的特性、例えばベクターの複製およびタンパク質発現、ならびに形質転換される宿主細胞に直接依存し、これらは組換え型DNA分子を構築するために当技術分野において固有の制限である。
【0075】
細胞表面糖質抗原の発現レベルはしばしば、発癌形質転換時に有意に増加し、場合によっては特定の抗原の発現は、形質転換状態に主に関連するように思われる。このように、糖質に基づく抗原は、特定の型の癌および転移の治療に対する標的化免疫治療アプローチの可能性を提供する。糖質抗原に基づく有効な癌ワクチンの開発は、極めて難題の仕事でありるが、そのような努力の成功に向けての障害が存在する可能性がある。それらの第一は、天然の糖質抗原が示す可能性がある固有の低い免疫原性に関連する。有効な活性免疫応答を開始するために、「自己抗原」に対するこの免疫寛容を、克服しなければならない。糖質に基づく癌ワクチンの開発にとって途中で取り組まなければならないもう一つの要因は、天然起源からのその単離が極めて難しい作業であって、典型的にごく少量の材料が得られるに過ぎない点である。糖質に基づくワクチン構築物を用いた癌制御に対する免疫学的アプローチを実現することは、明らかに重要な仕事であり、糖質抗原に対する天然に獲得された、能動的に誘導された、または受動的に投与された抗体は、循環中の腫瘍細胞および微小転移を軽減することができるという考え方を支持するかなりの証拠があることから、この種の努力は十分に正当化されるように思われる。このように、もう一つの態様において、本発明は、本発明の方法によって設計される抗体を被験者に投与することを含む、被験者における癌および転移を治療する方法を提供する。そのような抗体は、例えば糖質抗原および反復モチーフに対してより高い親和性を示す。
【0076】
以下の実施例は、本発明を説明するためのものであって、制限することを意図しない。
【0077】
実施例1:材料および方法
Man9GlcNAc2オリゴ糖の調製は、ヒドラジン分解によって行った。大豆アグルチニンをSigma(L-1395、Glycine Maxからのレクチン)から購入した。糖タンパク質100 mgを0.1%トリフルオロ酢酸に溶解して、これに対して透析し、凍結乾燥して48時間低温乾燥した。試料をアルゴン下で無水ヒドラジン5 mlに溶解して、10℃/時間の速度で加熱し85℃で12時間維持した。過剰量のヒドラジンを真空下での蒸発によって除去した後、トルエン5 mlの付加および蒸発を5回繰り返した。放出されたグリカンを氷中で重炭酸ナトリウム飽和溶液9 mlによって溶解した後、無水酢酸1.1 mlを軽く攪拌しながら添加することによって再N-アセチル化を行い、無水酢酸1.1 mlをさらに10分後に加えて、混合物を室温で50分間インキュベートした。アセチル化試料を54番濾紙(Whatman)によって濾過して、濾液中のナトリウム塩をDowex AG50W-X12(H+)カラム(2 cm×15 cm、200〜400メッシュ、Bio-Rad)によって除去し、グリカンを水300 mlによって5回溶出した。溶出液を全て凍結乾燥して水15 ml、エタノール15 ml、およびn-ブタノール60 mlに連続的に溶解した。ペプチドを、ブタノール:エタノール:水(4:1:1、v/v/v)によって平衡化したセルロースカラム(1.5×25 cm)によって除去して、カラム容積の6倍量の溶液によって洗浄し、無水エタノールの1カラム容積によって洗浄した。グリカンを水によって3 mlの分画20個に溶出した。糖質陽性分画は、フェノール-硫酸法(74)によって同定した。Lis and Sharon(23)によって報告されたように、グリカン構造は、2-アミノベンズアミド(24、25)による蛍光標識およびMALDI-TOF質量分析によって、Man9であると確認された。
【0078】
実施例2:結晶構造の決定
結晶構造の決定は下記のように実施した。ヒトモノクローナル抗体2G12(IgG1、κ)をチャイニーズハムスター卵巣細胞における組換え型発現によって産生した。Fab断片を免疫グロブリンのパパインによる消化によって産生した後、プロテインAおよびプロテインGカラム上での精製を行い、濃度〜30 mg/mlに濃縮した。1.05 M硫酸アンモニウム、18%PEG 6000、および0.1 Mリンゴ酸イミダゾール、pH 6.0のウェル溶液(1 ml)によるシッティングドロップ(sitting drop)拡散蒸着法によって、非リガンド結合Fab 2G12結晶を成長させた。Fab 2G12をManα1-2Manと5:1(糖質:Fab)のモル比で混合した。Fab 2G12+Manα1-2Man結晶を2 M 燐酸Na/K、pH 7.0から成長させた。Man9GlcNAc2も同様にFab 2G12と5:1(糖質:Fab)のモル比で混合して、25%PEG 400、0.2 Mリンゴ酸イミダゾールpH 7.0のウェル溶液から結晶を成長させた。全ての場合において、タンパク質1 μlを等量のリザーバー溶液と混合した。全ての結晶に関して、データをStanford Synchotron Radiation Laboratory(SSRL)ビームライン11-1で100 Kで回収した。非リガンドFab 2G12結晶は、20%エチレングリコールを含むリザーバー溶液に急に沈めることによって凍結保護し、Fab2G12+Manα1-2Manは、25%グリセロールによって同様に凍結保護した。Fab2G12+Man9GlcNAc2結晶は抗凍結剤を必要としなかった。非リガンド結合Fab 2G12データおよびManα1-2Man複合体は、斜方晶系空間群P212121において減少し、単位格子の大きさはそれぞれa=76.8Å、b=94.2Å、c=171.1Å、およびa=81.7Å、b=94.0Å、c=169.2Åであった。Fab2G12+Man9GlcNAc2データは、斜方晶系空間群I222において減少し、単位格子の大きさはそれぞれa=135.8Å、b=145.7Å、c=148.6Åであった。データは全て、指標をつけて(indexing)まとめて(integrating)、全ての知見に関して>-3.0σを用いてHKL2000(26)によって評価(scaling)した。
【0079】
非リガンド結合Fab 2G12に関するマシューズ計数(Vm)(27)を3.16Å3/ダルトンとして、非対称単位あたりFab分子2個として推定した。非リガンド結合Fab 2G12の場合、回転機能は、個々の可変ドメインおよび定常ドメインに分離される本発明者らの無傷のFab分子125個のライブラリーに対してAMoRe(28)によって行った。最も強い回転(rotation)およびすべり(translation)の解は、Fab 1fvdの可変および定常ドメインから認められた(29)。個々の四つのドメイン(非対称単位におけるFab分子のそれぞれからの可変および定常領域)の位置の精密化によって、全相関係数57.2%およびR値40.8%が得られた。Fab 1fvdモデルを正確な配列に「変異」させて、TOM/FRODO(30)を用いて再構築して、TLS精密化(28)を用いてCNSバージョン1.1(31)およびREFMACによって精密化した。精密化およびモデル構築は、全ての測定データを用いて行った(F>0.0σ)。非結晶学的対称性に関する強い拘束を最初にモデル構築に適用して、徐々に弱めた。モデル構築のための電子密度マップには2Fo-Fc、Fo-Fcが含まれ、アニールした複合体には2Fo-Fcマップが含まれない。5%の反射からなるRfree試験セットを、精密化の際に維持した。
【0080】
非リガンド結合Fab 2G12の最終的な精密化構造を、Fab 2G12+Manα1-2Manの分子置換の解として用いた。AMoReとの分子置換によって、相関係数64.2%およびR値35.8%が得られた。次に、構造を構築して、非リガンドFab 2G12の場合と同様に精密化した。1.75Å〜1.6Åからのデータは許容されるI/σ(〜2.0)を有するが、それらはかなり不完全(〜40%)であり、モデル構築の際には含めたが最終的な統計学から除外した。
【0081】
Fab 2G12Manα1-2Manの1.75Å構造を、AMoReにおいてFab 2G12+Man9GlcNAc2の分子置換プローブとして用いた(相関係数61.8%およびR値42.2%)。最初に、理想的なねじれ角および頻繁に認められる回転異性体(32)を有するMan9GlcNAc2のモデルを用いてMan9GlcNAc2を構築して、次にこれを電子密度に適合するように調節した。
【0082】
Sc係数(33)および埋もれた分子表面計算を、プログラムSC(34)およびMS(35)を用いて、1.7Åプローブ半径および標準的なファンデルワールス半径を用いて行った(36)。Sc係数は、オリゴマータンパク質構造において認められる構造に典型的な密にパッキングされた界面を表す(0.70〜0.76(33)の範囲であるSc係数を有する)。このVH/VH'界面は三つ全ての独立した結晶構造において認められることから、本明細書に記述の全ての測定および分析は、Manα1-2Manと複合体を形成したFab 2G12の最高の分解構造(1.75Å)を利用するであろう。
【0083】
Fab 2G12および対照Fab(Fan NC-1)の流体力学分子量を、An-60 Tiローターおよび光電子スキャナ(Beckman Instrument Inc.、パロアルト、カリフォルニア州)を備えた温度制御Beckman XL-I分析的超遠心機を用いて沈降平衡測定によって決定した。タンパク質試料を12 mm Eponセンターピースおよびサファイア光学ウインドウを備えた二セクターセルにローディングした。参照区画に、マッチさせた燐酸緩衝生理食塩液(PBS)溶液(100 μl)をローディングした。ローター速度3000〜20000 rpmを用いて25℃で試料(PBS緩衝液80 μl中にタンパク質100 μg)をモニターし、Originソフトウェア(Microcal Software Inc.、ノーザンプトン、マサチューセッツ州)を用いて非線形二乗アプローチによって適当なモデル(すなわち、一種モデルおよび二種モデル(37、38))を用いて分析した。Fab 2G12およびFab NC-1の沈降平衡プロフィールは、実質的に異なり、Fab NC-1は、Fab単量体に対応する見かけの分子量を有する予想一種モデルに適合するが、Fab 2G12データは、単量体および二量体の混合物に対応する分子量を有する二種モデルに適合した。吸光度に基づいて、単量体と二量体のモル比は、1:2であり、溶液中に二量体の一部として存在するFab 2G12分子の80%に対応する(図10)。Fab 2G12のゲル濾過の場合、Fab 2G12 100 μgをPBS(200 μl)においてSuperdex 200 HR 10/30カラム(ファルマシア)にローディングした。カラムをPBS(カラム容積の2倍量)において平衡化して、タンパク質をPBS中で溶出した(流速0.5 ml/分)。タンパク質をUV吸収によって検出した。
【0084】
2G12 IgGの沈降速度を用いて、2G12 IgG1の沈降係数を決定して、これを他のIgG1(2F5、b6、およびb12)の係数と相関させた。タンパク質(各50 μg)をPBS緩衝液において透析した。データを温度制御Beckman XL-1分析的超遠心機(An60Tiローターおよび光電子スキャナを備えた)において収集した。12 mm Eponセンターピースおよびサファイアウインドウを備えた二セクターセルに、試料400〜420 μlをシリンジによってローディングした。データをローター速度3000〜5000 rpmで連続モードで25℃で、平均1スキャン/ポイントを用いる0.005 cmの段階的大きさで回収して、プログラムSedfit(39)を用いて分析した。
【0085】
競合的酵素結合イムノソルベントアッセイ法(ELISA)を行って、2G12上の異なる糖質の相対的阻害定数を決定した。Gp120JR-FLを最初に、マイクロタイタープレートのウェル(平底、Costerタイプ3690;Corning Inc.)に捕獲した。その後、Man9GlcNAc2、Manα1-2Man、マンノース、および他の単糖および二糖の連続希釈液を、2G 12(1 μg/ml)の存在下でウェルに加えた。その後の遮断、洗浄、および検出段階は(13)に記述した通りに実施した。
【0086】
Fab 2G12変異誘発および結合アッセイ法:Quickchange変異誘発キット(商標)(Stratagene)を用いて点突然変異を作製した。生成した変異は全て、DNAシークエンシングによって確認した。単一のコロニーを選択して、SB培地およびカルベニシリン上に播種した。37℃で6時間後、培養物を30℃に入れて、1 mM IPTGを用いて発現を一晩誘導した。細胞を遠心(5000×g、5分)して、凍結融解破断サイクルによって沈降物からタンパク質を抽出した。粗Fab上清についてELISAを行い、gp120JR-FLに対する野生型および変異体Fab 2G12の相対的結合親和性を決定した。Fab 2G12を捕獲するために、マイクロタイターウェルプレート1組をgp120JR-FLによってコーティングした。ブロッキング、洗浄、および検出段階は(13)に記述されたとおりに行った。Fabの発現を正常にするために、非結合ヤギ抗ヒトF(ab')2-抗体(PBSにおいて1 μg/ml、Pierce)を用いて、上清から変異体Fab 2G12を捕獲した。ブロッキングおよび洗浄の後、プレートをヤギ抗ヒト-F(ab')2-AP(0.6 μg/ml、Pierce)によってプロービングした。見かけの親和性は50%最大結合での抗体濃度として計算した:親和性の変化は、{(野生型Fab 2G12の見かけの親和性)/(変異体Fab 2G12の見かけの親和性)}×100%として表記した。
【0087】
Fab 2G12の結晶構造:結晶構造は、非リガンド結合Fab 2G12に関して分解能2.2Åで、オリゴ糖Man9GlcNAc2に結合したFabに関して3.0Åで、および二糖Manα1-2Manに結合したFabに関して1.75Åで決定した(表1)。各結晶における非対称単位は二つのFab分子を含み、これはその通常でないオリゴマー配列のために、この場合非常に重要であることが判明する。二つの独立したFab分子は、そのVHドメインの三次元交換(40)によってからみあい(図1A、B)、タンパク質データバンクにこれまで寄託された250個を超えるFab構造において認められなかった構造を形成する。VHドメインのこのような交換によって、二つのFabの密にパッキングされた二量体構築が作製される。可変(VH、VL)および定常領域(CH1、CL)はそれぞれ、他のFab分子における対応するドメインと構造的に類似であるが、2G12における可変領域は、VHドメイン交換に適合させるために、典型的なFabにおけるその通常の構造から定常領域に関してねじれている(図8)。このVHドメイン交換二量体は、定常ドメインに対する可変ドメインの柔軟性において重要な役割を果たすと考えられているVHとCH1の間の高度に保存されたボール&ソケット接合部(41)を欠損するが、保存されたボール&ソケット残基はなおも存在する(図9)。
【0088】
二量体内のVHドメインは、二つのFabが、そのそれぞれの結合部位が同じ方向に面して、約35Å離れるように並んで配置されるように、178.5°の非結晶二倍対称軸によって関連する。Fab 2G12構造の分析から、主に体細胞変異の結果として、ドメイン交換を促進するように思われる三つの要因が判明した:VH/VL界面(閉鎖界面)の虚弱化、VHとCH1ドメインとを接続するエルボー領域(ヒンジループ)の通常でない配列および構造、および都合のよいVH/VH'界面の作製(開口界面)。「閉鎖界面」は、単量体とドメイン交換オリゴマーの双方に存在する交換ドメインと主要なドメインの間の界面を指す。「ヒンジループ」は、交換ドメインと主要なドメインとを結びつけるポリペプチド鎖のセグメントであり、単量体およびドメイン交換オリゴマーにおいて異なるコンフォメーションをとる。「開口界面」は、ドメイン交換オリゴマーに限って存在し、単量体には存在しない。これらの三つの要因の相互作用(閉鎖界面の脱安定化、ヒンジループのコンフォメーションシフト、およびエネルギー的に都合のよい開口表面)が、ドメイン交換を促進しうる(40)。このように、これまでにドメイン交換を促進して、二量体構築の安定化にとって単量体より都合がよいと示されている重要な要因は全て、本明細書において認められている(40)。
【0089】
2G12におけるVH/VL界面は、αβTCRにおいても同様に保存されているVHとVLドメインの間の非常に保存された相互作用が存在しないために乱れている(42)。GlnL38およびGlnH39(94%および97%保存)は通常、複合部位の基底部で互いに水素結合するが、2G12ではH39位はまれに認められるアルギニン残基(0.7%)であり、相互作用するにはGlnL38から離れすぎている(ほぼ4Å)。残基発生の測定は全て、Kabat配列データベース(43)を用いて行う。
【0090】
Fab 2G12を他のFab構造と比較すると、VHおよびCH1の間の結合が通常ではなく、VHドメインが残基ProH113周辺の軸となってドメインの交換を促進するようになっていることが示される(図1D)。H113でのエルボー領域(またはヒンジループ)におけるプロリン残基は比較的まれであり、既知の配列の1.8%に起こるに過ぎず、セリンが断然頻度の高い残基である(95.2%)。このFab構造は、この位置でのプロリンに関して先に記述された構造を表す。プロリン残基は、多くの他のドメイン交換またはオリゴマー形成タンパク質においてヒンジループを結合するためにしばしば認められており((40、44)において論評)、プロリン残基がペプチド骨格に対して与える特有のΦ拘束は、ドメイン交換を促進するように思われる。ヒンジループの新しいコンフォメーションは、同様にこの位置では一般的に認められないProH113とValH84の間の疎水性相互作用によってドメイン交換構造において安定化されるように思われる(アラニンはこの位置で最も一般的な残基である(58%))。ValH84は、既知の抗体配列の5%に起こるに過ぎず、時に他の抗体においてProH113と同時に認められる(31)。
【0091】
新しく形成されたVH/VH'界面は、水素結合が全体で10個の広範な水素結合および塩架橋ネットワーク(図1C)(33)と共に、ファンデルワールス相互作用136個(46)から示されるように、極めて相補的である(Sc係数0.73)。親水性界面残基の中で、ArgH57のみが一般的ではない(1.4%)。さらに、πスタッキング相互作用は、残基TyrH79およびTyrH79'の間で起こる。’で示した残基は、それらがドメイン交換Fab二量体の第二のFab分子に対応することを示す。この界面の底部において、広範な疎水性小片がIleH19、IleH19'、PheH77、PheH77'、TyrH79'、およびTyrH79の合流点から形成される。IleH19およびPheH77は、VH配列におけるこれらの位置ではまれな存在であり(それぞれ、0.11%および0.19%)、体細胞変異から生じる。分子表面の全体で1,245Å2がこのVH/VH'界面で埋もれており、このことは、本明細書において分子表面の1,690Å2が埋もれている抗体における標準的なVH/VL界面と比較して有意である。
【0092】
実施例3:溶液中での2G12のオリゴマー状態
これらの結晶学知見により、本発明者らは、2G12 Fab二量体が溶液中に存在するのか、または単なる結晶のアーチファクトであるか否かを調べようとした。本発明者らは、沈降平衡分析的超遠心およびゲル濾過によってFabオリゴマー状態を調べた(図2A)(上記を参照されたい)。
【0093】
ゲル濾過実験において(図2A〜Bを参照されたい)。Fab 2G12は、分子量〜100 kDでカラムから溶出するが、対照Fab(b12)は〜50 kDaで溶出する。分子量から、Fab 2G12が溶液中ではほぼ完全に二量体として存在するが、Fab b12は予想された単量体として存在することが示唆される。パパイン消化物の完全性およびFab単量体の分子量は、SDS-PAGEによって確認した(データは示していない)。さらに、2G12 IgG1のs20,w値(7.39)は、s20,wの値が6.50〜6.89である他のIgG1分子より有意に高かった。IgG1分子に関してこれまでに公表されたs20,wは、約6.6(70、71)である。このように、2G12はそのFabのドメイン交換二量体から生じるであろうIgG1の伸長した構造と一致してアウトライアーである。
【0094】
双方の実験において、Fab 2G12は、溶液中でほとんど(80〜100%)が二量体として存在する。本発明者らは次に、FabがIgGのFc断片から離れた場合に限ってドメイン交換することができる可能性を除外するために、無傷のIgG1 2G12のコンフォメーションを調べた。これまでの試験から、いくつかのタンパク質の切断によって、天然の無傷のタンパク質には起こらない、または起こりえない人工的なドメイン交換、例えばTrkA、TrkBおよびTrkCのドメイン5が起こりうることが示された(47)。同様に、操作されたFv断片におけるドメイン交換は、例えばリンカー結合が短いために天然のVH/VL対形成が乱れている二抗体(48)および三抗体(49)の場合のように、VHとVLの間のリンカー領域の長さの変動を通して同定されている。2G12の沈降係数(s20,w)は通常、他のIgG1およびこれまでに公表された値と比較して異常なほど高く(図2B)、典型的な抗体分子のY形状またはT形状とは反対により圧縮された直線形状と一致する。さらに、SOS gp140に結合した2G12(共有結合によって拘束されたgp120/gp41分子)に関する最近の陰性染色電子顕微鏡研究から、他の抗HIV-1抗体に関して認められる正常なY型またはT型の形状と比較して、通常でない伸長した直線形状(50)の抗体の明確な像が得られた。したがって、これらのデータは、Fab断片として無傷のIgG1、またはIgG1がgp120と複合体を形成した場合に2G12におけるFabのドメイン交換と全て一致する。
【0095】
実施例4:2G12の糖質特異性および結合部位
これまでのデータは、2G12が、gp120(13、14)に共有結合したMan9GlcNAc2部分(図3A)を認識することが示されている。結合の特異性を調べるために、本発明者らは、Fab 2G12をMan9GlcNAc2と共結晶化した。共結晶は、非常に異方性であり、中等度の分解能(3Å)で回折するに過ぎないが、Man9GlcNAc2の電子密度は通常、タンパク質表面から遠くに離れていると(予想される)B値の増加にもかかわらず、糖質リガンドに関して著しく十分に定義されている(図3B)。Man9GlcNAc2の二つの分岐点(糖3および4';図3A)は明らかに見えて、それによって電子密度が曖昧に解釈される。本発明者らのこれまでの研究により、二糖Manα1-2Manも同様に2G12に結合できることが示された(13)。したがって、本発明者らは、2G12をこの二糖と共結晶させた。複合体のこの高分解能構造(1.75Å)において、Manα1-2Manの密度は極めて十分に定義され、そのコンフォメーションは、この特定の二糖の好ましい範囲内である(図4A)(51)。これらのMan9GlcNAc2およびManα1-2Manとの二つの独立した2G12結晶構造から得られた意外な結論は、2G12ドメイン交換二量体が糖質のために多数の異なる結合部位を含むことである:2個は通常の抗体結合部位に対応し、2個〜新規部位は、ドメイン交換において産生されたVH/VH'界面内に存在する(図3C)。
【0096】
一次結合部位:Man9GlcNAc2複合体において、2G12は、D1アームにおいて四つの糖(3、4、C、およびD1)と接触し、接触の大部分(85%)は、末端のManα1-2Man二糖において起こる(図3A、図3B、図3C)。二糖複合体において、Manα1-2Manは、約35Å離れている二つの通常の結合部位ポケットのみを占有し、これがこの特定のマンノース結合に関する高親和性部位を表すことを示唆している。抗原結合ポケットにおける二糖との2G12接触残基(図4B)は、L93-94(CDR L3)、H31-33(CDR H1)、H52a(CDR H2)およびH95-H100D(CDR H3)である。Fab 2G12からの分子表面の全体で226Å2およびManα1-2Manの分子表面の220Å2が、複合体形成の際に埋もれて、全体で水素結合12個およびファンデルワールス相互作用48個が各抗原結合部位において存在する(図4C)。
【0097】
競合試験から、Manα1-2Manの相互作用のみでは、2G12がMan9GlcNAc2に結合する場合に認められる親和性の大きい増加を説明できないことが確認されている(図5)。図5に示すように、Man9GlcNAc2は、マンノースと比較してMab 2G12のgp120JR-FLに対する結合を200倍より大きく阻害し、二糖であるManα1-2Manと比較して50倍より大きく阻害する。フルクトースは、マンノースより良好な阻害剤である。一次結合部位に結合したフルクトースの構造は、マンノースの酸素原子4個の位置を模倣することができ、同様にマンノースと比較しておそらくさらなる水素結合相互作用を行うことができる。他の単純な糖またはマンノース二糖と他の結合は、gp120に対する2G12の結合を阻害しない。
【0098】
さらなる抗体が一次結合部位において糖3および4と接触して、Manα1-2Manと比較しておそらくMan9GlcNAc2とのさらに好ましい相互作用を提供する。Man9GlcNAc2およびManα1-2Man複合体において異なる方向を向くAspH100Bは、Man9GlcNAc2の分岐糖3と水素結合するが、TyrL94はマンノース4に水素結合する。2G12-Man9GlcNAc2複合体では埋もれた表面積はより大きく、Fabに関する分子表面の350〜450Å2から、二つの抗原結合部位におけるMan9GlcNAc2の330〜450Å2の範囲である。
【0099】
Man9GlcNAc2のD1アームの先端でのManα1-2Manに関する2G12の一次結合部位の特異性は、いくつかの構造的要因の組み合わせに起因する。第一に、一次結合部位は、末端の糖残基を適合させることができるのみである深部ポケットを形成する。第二に2G12は、2G12と糖残基との水素結合の非常に相補的な幾何学のために、一次結合部位においてManα1-2Manに選択的に結合することができる。最後に、特異性は、マンノース3およびマンノース4糖とのさらなる特異的相互作用のために、Man9GlcNAc2のD1アームの先端でManα1-2Man部分との相互作用のために微調整される。
【0100】
二次結合部位:Fab 2G12のVH/VH'三次元ドメイン交換は、これまでに他の如何なる抗体構造においても認められていない完全に新規の結合表面を作製した。結晶における対称性に関連するMan9GlcNAc2残基のD2アームは、VH/VH'界面のこの複合表面と相互作用して、さらに二つの結合部位を提供する(図3C)。VH/VH'界面の相互作用は主に、D2アームの中心のマンノースAとの間で起こるが、D2および4'糖とも接触が起こる。さらに、糖質鎖は、浅い結合部位の表面に平行して存在し、一次結合部位の場合のように深部ポケットにおいて突き合わせて結合していない。したがって、二次結合部位が、一次結合部位において高度に特異的なD1アーム相互作用と比較して、D2に関して特異的であるか否かは不明である。この構造において、同じMan9GlcNAc2の対応するD1アームは、結晶学的に関連するFab 2G12分子の高親和性一次結合部位において認められる。このように、二次結合部位はまた、D1またはD3アームと相互作用しうるが、これらの相互作用は結晶のパッキングのために本明細書において認められない可能性がある。
【0101】
非対称単位における二つの独立したMan9GlcNAc2部分は、VH/VH'界面との相互作用がわずかに異なるが、Fab 2G12からの分子表面は全体で280〜310Å2およびMan9GlcNAc2の分子表面の250〜290Å2が複合体形成の際に埋もれる。水素結合8〜9個、およびファンデルワールス接触22〜26個が、各VH/VH'界面結合部位において形成される。これらの二次結合部位相互作用は、結晶格子における四つのFab糖質複合体の近傍から形成されるが、これらのさらなる結合部位は、ドメイン交換Fabの特有の集合体から生じ、おそらく、gp120の表面上のオリゴマンノース糖の密なアレイと抗体との高親和性相互作用に匹敵する。
【0102】
実施例5:2G12の変異誘発
gp120に対する2G12の結合におけるドメイン交換および多価相互作用の役割を調べるために、Fab2G12の変異誘発を行った。2G12においてドメイン交換と共にリガンド結合において役割を果たすことが疑われる残基をアラニン残基によって置換して、gp120JR-FLとの結合に関してアッセイした(図6;表2)。生殖系列の残基または体細胞変異の関与がまれである状況において、最も近い生殖系列遺伝子によってコードされる残基への逆変異を導入した。一次結合部位を構成する残基の多くをアラニン置換すると、gp120JR-FLに対する2G12の結合は消失した。しかし、VH/VH'界面に存在する残基に及ぼすアラニン置換の効果はより顕著であった。これらの置換はほぼ全てがgp120JR-FLに対する結合を減少させた。重要なことに、ProH113のアラニンまたはセリン置換によってgp120JR-FLに対する2G12の結合は完全に消失した。ProH113と相互作用するValH84をアラニン置換しても同様に、結合の実質的な減少を認めた。さらに、二次結合部位においてMan9GlcNAc2のD2アームの結合に関与する残基の多くをアラニン置換すると、gp120結合は減少し、特有のVH/VH'界面がgp120に対する2G12の多価結合において役割を有する証明をさらに提供した。
【0103】
実施例6:2G12ドメイン交換二量体の生物学的重要性
本発明者らは、抗体2G12のVHドメインが、二つの通常の結合部位と新規ホモ二量体VH/VH'界面からなる広範な多価結合表面を形成するように、その二つの隣接するFab断片の間で交換することを説明するために、決定的な生化学的、生物物理学的および結晶学的証拠を示した。2G12 VH/VH'界面は、多くの保存された生殖系列コード残基から構成されるが、三つの一般的でない変異(IleH19、ArgH57、およびPheH77)がこの新規相互作用の安定化を促進するように思われる。H113位のプロリンはまた、このVH/VH'ドメイン交換を促進するように思われ、エルボー領域におけるヒンジペプチドの通常でない伸長したコンフォメーションは、ProH113とValH84の間の疎水性相互作用によって安定化されるように思われる。Kabat抗体配列データベースの分析では、おそらくそれらが独立した体細胞変異事象から発生するために、IleH19、ArgH57、PheH77、およびProH113を正確に組み合わせた他の重鎖配列は得られなかった(45)。しかし、変異の他の組み合わせは、ドメイン交換および都合のよいVH/VH'相互作用を促進できるということを確かに想像することができるであろう。
【0104】
抗体によるHIV-1上の糖質の認識は、一連の問題を提起する。2G12の新規構造は、洗練された分子的解決策を示す。とりわけ、HIV-1上の糖質に対する抗体反応は、寛容メカニズムによって除外されるように思われるであろう。しかし、gp120の「サイレント」表面上に認められるオリゴマンノースの密な集団は、他の如何なる哺乳類糖タンパク質に関しても記述されておらず(52)、したがって、個々のオリゴマンノース部分の近位性および空間に依存する抗体反応を誘発することができるように思われる。第二に、糖質の密な集団を認識することは、通常のY型またはT型のIgG分子にとって問題が多い。幾何学的拘束から、単一の抗体結合部位が、一つのオリゴマンノース鎖からの糖質残基に限って結合できることが示唆されている。二つのオリゴマンノース鎖の認識はまた、二価抗体結合に限って得ることができる。IgG分子は、下記のgp120に関して示唆されたように(図7)、その先端から35Å離れた二つのオリゴマンノース鎖を二価で認識することが考えられうるが、これには二つのFabアームがほぼ平行な方向を向く必要があり、これはエネルギー的に好ましくないであろう。対照的に、2G12ドメイン交換構造は、約35Å離れた二つのオリゴマンノース鎖を認識するために十分に適している。この絡み合った配置において、通常の抗体のように、Fabアームに対する二価結合のために支払われるエントロピーの代価はなく、実際にこれまでの研究から、2G12がgp120に対して低いエントロピーで結合することが示されている(53)。さらに、VH/VH'界面は、それに対してさらなるオリゴマンノース鎖が相互作用でき、糖質の密な集団に対して2G12の生産的結合を促進しうるさらなる抗原結合領域として作用しうる完全に新規表面を提供する。最後に、先に述べたように、タンパク質-糖質相互作用は弱いことで有名であり、抗糖質抗体は典型的に、マイクロモル範囲より低い比較的低い親和性を有する(21)。2G12のオリゴマー構造によって、gp120上の糖質アレイの幾何学的空間にマッチする相互作用部位との多価認識のために実質的に連続的な表面を提供することによって、より高い親和性(nM)が得られうる。
【0105】
他のレクチンとの比較:2G12の結合に関して提案される様式は、レクチンオリゴマーにおける結合部位の適当な幾何学的配列を、病原体上の糖質エピトープの空間に適合させることによって、結合力を最適にすることができる、血清マンノース結合タンパク質(MBP)のような動物レクチンによる多価認識に関して提案されたメカニズムの一つを暗示する。さらに、2G12に関して、マンノース結合タンパク質の特異性は、単一の高親和性部位を通しての認識とは反対に多価相互作用を通して得られる((20、54)において論評)。
【0106】
DC-SIGN(樹状細胞特異的細胞内接着分子-3をつかむ非インテグリン)、C-型レクチンも同様に、HIVのエンベロープ上の糖質に結合し、CD4+ T細胞のウイルス感染を促進する(55)。DC-SIGNは、末端のマンノースとは対称的に高マンノースオリゴ糖の内部コア特徴に結合するという点において、2G12とは異なる(56)。興味深いことに、HIV-1は、相互作用を通して増加した結合力によってDC-SIGNに対する結合を増強するために部分的にオリゴマンノース集団を進化させた可能性があり(57)、2G12は自身の特有の多価認識にこれを利用する。
【0107】
2G12はまた、gp120の表面上の糖質に結合することによってHIV-1を中和するシアノバクテリアレクチンであるシアノビリンと比較することができる(58〜60)。シアノビリンの結晶構造は、Man9GlcNAc2のD1アームの末端でManα1-2Manと結合することができることを示している(61)。同時に、シアノビリンはまた、gp120と相互作用しうる四つの結合部位を有するドメイン交換二量体(62)として存在しうる(63)。しかし、シアノビリンに対するこれまでの研究から、高親和性結合が2G12の場合と同様にオリゴマンノース部分の配置よりむしろ唯一のオリゴマンノースとの相互作用によって得られることが提唱されている(13、64)。
【0108】
HIV-1の2G12認識:Man9GlcNAc2との複合体およびgp120コア構造における2G12の結晶構造から、本発明者らは、2G12がgp120にどのように結合するかを近似することができる。gp120同等物は、CD4およびFab 17bと複合体を形成したHIV-1のHxB2株からコアgp120の2.2Å結晶構造を表す(65)。モデルとなるV3ループは(18)に記述されるとおりである。V4ループはMark Wormaldによってモデルが形成された(未公表データ)。タンパク質表面に共有結合した場合のMan9GlcNAc2の全体的な三次元コンフォメーションは通常、高度に保存されている(51)。したがって、本発明者らは、2G12複合体におけるMan9GlcNAc2残基を、gp120のコア上のその対応する位置に重ね合わせることができる。これまでの変異誘発試験から、gp120における295位、332位、392位でのN-結合グリカンが2G12の結合にとって最も重要であることが示された(13)。グリコシル化モデルにおいて、Fab 2G12二量体は、332位および392位のN-結合グリカンでgp120に結合する可能性が最も高い(図7)。Fab 2G12二量体の一次結合部位におけるMan9GlcNAc2部分の末端のN-アセチルグルコサミン残基は〜16Å離れているが、gp120上の332位および392位のアスパラギン残基も同様に〜15Å離れている(しかし、その回転異性体に応じて14〜20Åまで変化しうる)。295位のグリカンも同様に、それが332位のグリカンの近位に存在することから、このモデルから重要であるように思われ、このようにこれが存在しなければ、グリカン332位の柔軟性が増加してコンフォメーションが乱されるであろう。興味深いことに、このモデルはまた、2G12 Fab二量体のVH/VH'界面に対して近位の339位にN-結合グリカンを配置する。このグリカンは、2G12の結合にとって295位、332位、または392位でのグリカンほど重要ではないが、これはVH/VH'界面でおそらくより低い親和性の二次結合部位と相互作用できるであろう。しかし、2G12結合に関与するオリゴマンノース鎖において何らかの混乱が存在しうる。2G12はそれらが適当な幾何学的空間をとる限り、gp120の表面上のオリゴマンノース鎖のいくつかの組み合わせに結合しうる可能性がある。
【0109】
Man9GlcNAc2およびManα1-2Manと複合体を形成したFab 2G12の構造はまた、革新的HIV-1ワクチン設計にとっての刺激的な鋳型である。例えば、多価糖質に基づく免疫原のワクチンとしての設計は、癌細胞のターゲティングのために提唱されている(66)。抗体2G12に対するオリゴマンノース糖の結合の特有の集団を模倣するように設計された免疫原は現在、2G12様の免疫応答の誘発能に関して試験することができる。VHドメイン交換Fab二量体は、抗体にとって完全に予想外の四価集合体を表し、免疫系が微生物による浸潤に反応しうる方法のさらにもう一つの典型を表す。2G12構造はさらに、病原体および腫瘍細胞上で認められる可能性がある糖質のみならず、天然に存在するまたは合成となりうる他の集団のような、分子集団に対する高親和性抗体を操作するための足場を提供する。
【0110】
参考文献




【0111】
【表1】

【0112】
【表2】

【0113】
本発明は、上記の実施例を参照して記述してきたが、改変および変更が本発明の趣旨および範囲に含まれると理解されるであろう。したがって、本発明は特許請求の範囲に限って制限される。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】抗体2G12の新規構造およびFab VH/VH'ドメイン交換を促進する構造的要因を示す。図面は、プログラムBobscript(67)、Molscript(68)、およびRaster3D(69)を用いて作製した。図1Aは、VHがVLとのその正常な相互作用から明らかに分離していることを示す、結晶中のFab 2G12の単量体を示す。軽鎖および重鎖を青色および赤色でそれぞれ示す。単量体は結晶には存在しないが、ドメイン交換二量体の場合に限って存在する。図1Bは、それらが結晶において集合する場合のような、二つのドメイン交換Fab分子の構造を示す。軽鎖はいずれも青色で示し、Fab1およびFab2からの重鎖をそれぞれ、赤色および紫色で示す。二つの通常結合部位の間の距離を示す。図1Cは、重鎖可変ドメイン間の新規VH/VH'界面のボール&スティック表示の拡大図を示す。起こりうる水素結合を黒の破線で示す。図1Dは、定常領域重鎖と可変領域重鎖ドメインとの間のエルボー領域を示し、ドメイン交換を図示する。VH'とCH1との間のリンカー領域をボール&スティックで示し、対応する2Fo-Fc電子密度の輪郭を1.5σで示す。
【図2】溶液中での2G12のドメイン交換二量体の生物物理学的証拠を示す。図2Aは、パパイン消化物からのFab 2G12およびb12のゲル濾過を示す。保持時間をx軸に示し、y軸にUV吸収によって測定したタンパク質濃度を示す。図2Bは、他のIgG1分子(b6、b12、および2F5、全て抗HIV-1抗体)と比較したIgG1 2G12の沈降計数を示す。x軸はs20,w値の範囲を示し、y軸はその点でのタンパク質の相対濃度(UV吸収によって測定)である。
【図3】Fab 2G12二量体とMan9GlcNAc2との相互作用を示す。図面は、プログラムBobscript、Molscript、およびRaster3Dを用いて作製した。図3Aは、Man9GlcNAc2の化学構造を示す。赤色の糖は、一次結合部位(通常の結合ポケット)でFab 2G12と接触するが、青色の糖は二次結合部位(通常でないVH/VH'界面)でFab 2G12と接触する。図3Bは、Fab 2G12の一次結合部位に結合したMan9GlcNAc2のボール&スティック表示であり、対応する2Fo-Fc電子密度の輪郭を1.6σで示す。図3Cは、二つの直交座標においてMan9GlcNAc2に結合したFab 2G12二量体の全体構造を図示する。全体で四つのMan9GlcNAc2部分が各Fab二量体に結合する。Man9GlcNAc2部分(図3Aに対応する)の赤色の糖は、一次結合部位において結合するが、Man9GlcNAc2部分の青色の糖は、二次VH/VH'界面で結合する。
【図4】二糖Manα1-2Manとの抗体結合部位相互作用を示す。図面はプログラムBobscript、Molscript、Raster3D、およびGRASP(72)を用いて作製した。図4Aは、Manα1-2Manの2Fo-Fc電子密度を示し、1.7σで輪郭を示して、CDRループを標識する。図4Bは、Manα1-2Manの一次結合部位でのFab 2G12の分子表面を示す。CDRのL3、H1、H2、およびH3からの分子表面をそれぞれ、藍色、緑色、青色、および紫色で示す。図4Cは、Manα1-2Manの水素結合距離内のFab原子を示す結合部位のボール&スティック表示である(破線)。Fab重鎖および軽鎖をそれぞれ、紫色および藍色で示す。
【図5】HIV-1 gp120に対する2G12結合の阻害結果を示し、マンノースのIC50値と比較した異なる糖質のIC50値を示す。
【図6】Fab 2G12のアラニンスキャン変異誘発を示し、Fab 2G12変異体の相対的な見かけの結合親和性を構造に示す。結果をgp120JR-FLの野生型Fab 2G12結合(100%)と比較して示す。黒色の残基は、その位置でのアラニン置換が、p120JR-FLに関する2G12の見かけの結合親和性に対して有意な作用(野生型と比較して50%〜200%)を示さなかったことを示しているが、赤色(標識)の残基は、その位置でのアラニン置換によってgp120JR-FLに関する2G12の見かけの結合親和性が有意に減少した(>2倍)ことを示している。図面は、プログラムMolscriptおよびRaster3Dを用いて作製した。
【図7】gp120と相互作用する2G12のドメイン交換Fab二量体のモデルを示す。既に2G12結合に関与しているgp120上のグリコシル化部位5個の集団(13)を、赤色で示して標識する(295位、332位、339位、386位および392位のアスパラギン)。青色(一次結合部位2個とVH/VH'界面上で1個)で示される異なる三つのMan9GlcNAc2部分は、Asn残基または2G12の結合糖質のいずれかの如何なる主要な再配列もなく容易に適合させることができる。このモデルにおいて、一次結合部位での糖質はgp120におけるAsn 332およびAsn392に由来するが、VH/VH'界面に存在する糖質はAsn 339から生じると考えられる。一次結合部位と相互作用するMan9GlcNAc2部分は、2G12-Man9GlcNAc2結晶構造における部分とは変化しておらず、gp120上のAsn 332およびAsn 392に容易に結合することができる。VH/VH'界面の糖質に関して、二つの遠位N-アセチルグルコサミン環のみがこの相互作用をモデルとするように調節される。一次および二次結合部位を占めるこれらの密にパッキングされた糖質の他の組み合わせまたは順列も可能である。図面は、プログラムMolscriptおよびRaster3Dを用いて作製した。
【図8】Fab 2G12の可変ドメインおよび定常ドメインの間のねじれの立体的な図を示す。Fab 2G12を青色で示し、「典型的な」Fab(Fab 1dba、PDBコードDB3)を灰色で示す。軽鎖を左に示し、重鎖を右に示す。Fab 2G12の軽鎖定常ドメインの残基114〜200個をFab分子172個のライブラリーと共に整列させた。可変ドメインと定常ドメインとの関係を示すために、Fab 2G12における残基L107とFabのライブラリーの位置を示す(黄色の点)。重鎖における対応する位置、残基H113を全ての分子(藍色の点)のライブラリーおよび2G12(赤色の点)に関してプロットした。Fab分子のライブラリーは全て、その可変および定常ドメインの類似の配列を有するが(「固定の」黄色の点と比較して藍色の点が密に集合していることによって示されるように)、Fab 2G12可変ドメインは、その定常ドメインと比較して非常にねじれている(赤色の点)。図面は、プログラムMolscriptを用いて作製し、Raster3Dによって描写した。
【図9】VHおよびCH1ドメイン間の失われたボール&スティック相互作用を示す。軽鎖を藍色で示し、Fab二量体における二つの重鎖を赤色および紫色で示す。PheH146は通常、「ボール」となり、残基LeuH11、ThrH110およびSerH112によって形成される「ソケット」に適合する。図面は、プログラムMolscriptを用いて作製し、Raster3Dによって描写した。
【図10】Fab 2G12およびNC-1の沈降平衡の結果を示す。図10Aは、対照Fab NC-1を示し、これは一つの種の単量体として作用する。図10BはFab 2G12を示し、二つの種が適合する。これらの種は、Fab単量体および二量体の分子量に対応する(それぞれ、45.7 kDおよび95.7 kDである)。
【図11】Man9GlcNAc2残基に結合したFab 2G12二量体の相互作用の立体図である。赤色の糖は、一次結合部位(通常の結合ポケット)で2G12と接触するが、青色の糖は、二次結合部位(通常でないVH/VH'界面)でFab 2G12と相互作用する。図面は、プログラムMolscriptを用いて作製し、Raster3Dによって描写した。
【図12】同様に本発明の結合分子を含む他のVL-VH-VH-VLに適用可能であるドメイン交換における2G12 Fabの構造的特徴を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変領域および定常領域を有する重鎖、ならびに二つの通常抗原結合部位および隣接して配置される重鎖可変領域の間の界面によって形成された少なくとも一つの非通常結合部位を含む多価結合表面を含む、単離されたドメイン交換結合分子であって、2G12抗体ではない分子。
【請求項2】
抗体である、請求項1記載のドメイン交換結合分子。
【請求項3】
糖質に対して親和性を有する、請求項1記載のドメイン交換結合分子。
【請求項4】
HIVに結合する、請求項1記載のドメイン交換結合分子。
【請求項5】
CD20に結合する、請求項1記載のドメイン交換結合分子。
【請求項6】
可変領域および定常領域を有する重鎖、ならびに二つの通常抗原結合部位および隣接して配置される重鎖可変領域の間の界面によって形成された少なくとも一つの非通常結合部位を含む多価結合表面を含む、天然に存在しないドメイン交換結合分子。
【請求項7】
抗体である、請求項6記載の天然に存在しないドメイン交換結合分子。
【請求項8】
糖質に対して親和性を有する、請求項6記載の天然に存在しないドメイン交換結合分子。
【請求項9】
HIVに結合する、請求項6記載の天然に存在しないドメイン交換結合分子。
【請求項10】
CD20に結合する、請求項6記載の天然に存在しないドメイン交換結合分子。
【請求項11】
ライブラリーの各メンバーが、可変領域および定常領域を有する重鎖、ならびに二つの通常抗原結合部位および隣接して配置される重鎖可変領域の間の界面によって形成された少なくとも一つの非通常結合部位を含む多価結合表面を含む、複数のドメイン交換結合分子を含むライブラリー。
【請求項12】
ドメイン交換結合分子が抗体である、請求項11記載のライブラリー。
【請求項13】
Fab領域である、請求項1または6記載のドメイン交換結合分子。
【請求項14】
以下の段階を含む、被験者における感染症または疾患を検出する方法:
(a)感染症または疾患を有することが疑われる被験者からの試料を、試料中の分子をドメイン交換結合分子に結合させるために適当な条件で十分な時間、請求項1または6記載のドメイン交換結合分子に接触させる段階;および
(b)ドメイン交換結合分子が分子に結合すれば、被験者に感染症または疾患が存在することが示される、分子が結合したドメイン交換結合分子を検出する段階。
【請求項15】
感染症または疾患がHIV誘導疾患である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
分子がHIV分子である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
感染症または疾患が腫瘍細胞である、請求項14記載の方法。
【請求項18】
感染症または疾患が転移である、請求項14記載の方法。
【請求項19】
ドメイン交換結合分子が担体に結合している、請求項14記載の方法。
【請求項20】
接触する段階が遮断剤の存在下で行われる、請求項14記載の方法。
【請求項21】
接触する段階が、ドメイン交換結合分子に対して親和性を有する検出可能に標識された抗体の存在下で行われる、請求項14記載の方法。
【請求項22】
ドメイン交換結合分子がハプテンにカップリングされている、請求項14記載の方法。
【請求項23】
ドメイン交換結合分子が、酵素、放射性同位元素、蛍光化合物、コロイド金属、化学発光化合物、燐光化合物、生物発光化合物、またはその組み合わせのいずれか一つによって標識される、請求項14記載の方法。
【請求項24】
請求項1または6記載のドメイン交換結合分子を含む薬学的組成物。
【請求項25】
ドメイン交換結合分子が糖質に対して親和性を有する、請求項24記載の薬学的組成物。
【請求項26】
ドメイン交換結合分子がHIVに結合する、請求項24記載の薬学的組成物。
【請求項27】
ドメイン交換結合分子がCD20に結合する、請求項24記載の薬学的組成物。
【請求項28】
薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項24記載の薬学的組成物。
【請求項29】
請求項1または6記載の少なくとも一つのドメイン交換結合分子を含む、試料中の抗原の有無を決定するためのキット。
【請求項30】
ドメイン交換結合分子の他に、個別包装された試薬として抗体をさらに含む、請求項29記載のキット。
【請求項31】
請求項1または6記載のドメイン交換結合分子の治療的有効量を被験者に投与して、それによって被験者に対して受動免疫を提供する、感染症または疾患を有するまたはそれらのリスクを有する被験者を治療する方法。
【請求項32】
感染症または疾患がその表面上に反復単位を有する病原体または物質によって引き起こされる、請求項31記載の方法。
【請求項33】
ドメイン交換結合分子が抗体である、請求項31記載の方法。
【請求項34】
ドメイン交換結合分子が糖質に対して親和性を有する、請求項31記載の方法。
【請求項35】
ドメイン交換結合分子がHIVに結合する、請求項31記載の方法。
【請求項36】
ドメイン交換結合分子がCD20に結合する、請求項31記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2007−515394(P2007−515394A)
【公表日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−532514(P2006−532514)
【出願日】平成16年4月30日(2004.4.30)
【国際出願番号】PCT/US2004/013349
【国際公開番号】WO2004/101738
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(399038620)ザ スクリプス リサーチ インスティチュート (51)
【Fターム(参考)】