説明

ドライエッチング装置

【課題】保護部材の交換を容易とすることで、ランニングコストを低減することができるとともに、メンテナンスを容易とすることができるドライエッチング装置を提供する。
【解決手段】ドライエッチング装置10は、被処理材12が配置されるとともにプロセスガスが導入される処理空間14を形成する筒状の容器本体17と、処理空間と外部とを連通する、上部開口26a及び下部開口26bを有する中空部26が設けられた容器上端部20と、を有する処理容器16を備える。上部開口は隔壁22により塞がれる。中空部に、隔壁を保護するように板状の保護部材24が収容されている。保護部材の周縁部の下面と当接する板状の当接部材40が容器上端部に取り付けられている。容器上端部は、容器本体に取り付けたときの第1位置と、容器本体から取り外したときの第2位置との間で移動機構により移動される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマを利用してシリコンウエハ等の被処理材をエッチングするドライエッチング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウエハ等の被処理材の表面をエッチングするための装置の1つに、プラズマを利用するドライエッチング装置がある。そのようなドライエッチング装置は、プラズマにより被処理材の表面をエッチングする処理空間を形成する処理容器を備えている。処理容器には開口が設けられており、その開口は、誘電体を含む隔壁で塞がれる。また、上記ドライエッチング装置は、高周波電源と接続された、高周波磁場を生成するコイルを隔壁の外に備える。処理空間には、例えばフッ素系のプロセスガスが導入される。高周波電源からコイルに電力が供給されると、コイルで発生した高周波磁場に捕捉された電子が、隔壁を通じて処理空間のプロセスガスに作用し、これによって、処理空間にプラズマが発生する。
【0003】
このようなドライエッチング装置では、プラズマによって隔壁が次第に削られてしまう。隔壁が削られて薄くなると、やがて真空圧等の負荷に耐えられずに隔壁は損壊してしまう。そこで、隔壁が損壊する前に定期的に新しい隔壁に交換することも考えられる。
【0004】
隔壁の材料としては、ある程度の厚みのある石英の板材等が使用される。そのような材料は比較的高価であるために、隔壁の交換が頻繁であると、ドライエッチング装置のランニングコストが上昇する。このため、従来、隔壁を保護するようにプラズマを遮蔽する保護部材を、隔壁に対して処理容器の内側に配置している。そして、隔壁の代わりに保護部材を交換することで、ドライエッチング装置のランニングコストを抑えるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−209885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
保護部材は隔壁に対して処理容器の内部側に配置されるものである。このため、それを交換するときには、先に隔壁を処理容器から取り外し、その後で保護部材を処理容器から取り外す必要性がある。ところが、隔壁の外側には、さらにプラズマを生成するためのコイルやコイルを覆うためのカバーが配置されることが多い。よって、保護部材を交換するためには、先に、コイルやカバーを取り外すことが必要となる。
【0007】
ところが、コイルは、高周波電源と接続される部材である。また、コイルが剛体のコアを有していないような場合には、比較的に変形しやすい。このため、コイルを処理容器から取り外すときには、配線の損傷や、コイルの変形を生じさせないように細心の注意をはらう必要性が生じる。
【0008】
以上のような理由で、隔壁をプラズマから保護する保護部材を隔壁自体の代わりに定期的に交換する構成では、従来、保護部材の交換が非常に手間の掛かる作業になっている。その結果、保護部材の交換作業が長時間に及ぶ場合がある。そのような場合には、ドライエッチング装置の運転を長時間停止する必要性が生じるために生産性の低下を招くこともある。
【0009】
本発明は、保護部材の交換を容易とすることで、ランニングコストを低減することができるとともに、メンテナンスを容易とすることができるドライエッチング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一局面は、被処理材が配置されるとともにプロセスガスが導入される処理空間を形成する容器本体と、前記処理空間と外部とを連通する、上部開口及び下部開口を有する中空部が設けられた容器上端部と、を有する処理容器、
前記上部開口を塞ぐ隔壁、
前記隔壁を介して前記処理空間に導入され、前記プロセスガスをプラズマ化する高周波磁場を生成する高周波磁場生成部、
前記中空部に、前記隔壁を保護するように収容された板状の保護部材、
前記保護部材の周縁部の下面と当接して、前記保護部材を前記中空部内に支持するように前記容器上端部に着脱自在に取り付けられた板状の当接部材、並びに
前記容器上端部を、前記容器本体に取り付けたときの第1位置と、前記容器本体から取り外したときの第2位置との間で移動させる移動機構、
を備える、ドライエッチング装置に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、移動機構により容器上端部を第1位置から第2位置に移動させた後、当接部材を容器上端部から取り外すだけで、保護部材を交換することができる。このとき、隔壁を支持部から取り外す必要性が生じないので、保護部材の交換に要する時間を大幅に短縮することが可能となる。よって、ドライエッチング装置のメンテナンスに要する時間を大幅に短縮することができる。
【0012】
さらに、本発明の好ましい形態によれば、容器上端部を容器本体に取り付けた状態で、当接部材を容器上端部に締結する締結部材の操作部分が、容器本体の上端面により覆われる。このため、締結部材の操作部分(例えばネジの頭)が処理空間に露出してしまうことが避けられる。その結果、プラズマの作用により締結部材の操作部分から生じる異物が処理空間に混入するのを防止することが可能となる。よって、良好なエッチング処理の実現が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係るドライエッチング装置を正面から見たときの一部断面図である。
【図2】処理容器の開口の周囲の部分の上面図である。
【図3】隔壁及び保護部材を処理容器の開口に取り付けたときの図2のIII-III線による矢視断面図である。
【図4】処理容器の上端部を隔壁及び保護部材とともに回動させたときの図1と同様の一部断面図である。
【図5】図4の状態で、処理容器の上端部を図2とは反対側から見た、上端部の下面図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係るドライエッチング装置を正面から見たときの一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のドライエッチング装置は、被処理材が配置されるとともにプロセスガスが導入される処理空間を形成する容器本体と、処理空間と外部とを連通する、上部開口及び下部開口を有する中空部が設けられた容器上端部と、を有する処理容器を備える。中空部の上部開口は、隔壁により塞がれる。
【0015】
処理空間には、高周波磁場生成部により生成された高周波磁場が隔壁を介して導入される。その高周波磁場により、プロセスガスがプラズマ化される。上記の中空部には、隔壁を例えばプラズマから保護するように板状の保護部材が収容される。容器上端部には、保護部材を中空部内に支持するように、保護部材の周縁部の下面と当接する板状の当接部材が着脱自在に取り付けられる。ドライエッチング装置は、さらに、容器上端部を、容器本体に取り付けたときの第1位置と、容器本体から取り外したときの第2位置との間で移動させる移動機構を備える。
【0016】
以上の構成では、保護部材は、容器上端部の中空部の内部に、隔壁と当接部材とで挟まれた状態で保持される。容器上端部が第2位置にある状態で、当接部材を容器上端部から取り外すと、保護部材を、中空部の下部開口から容易に取り出すことができるようになる。このため、保護部材の交換作業を短時間で済ませることができる。
【0017】
さらに、保護部材を容器上端部から取り外すときに、隔壁を容器上端部から取り外す必要性が生じない。このため、隔壁本体と近接して対向配置されることが多いコイル等の高周波磁場生成部を取り外す必要性も生じない。その結果、保護部材の交換作業が極めて容易となり、その交換作業に要する時間を大幅に短縮することができる。よって、ドライエッチング装置のメンテナンスに要する時間を大幅に短縮することができる。その結果、ドライエッチング装置を不稼働とする時間も短くなり、生産性を向上させることも容易となる。
【0018】
本発明の好ましい形態においては、隔壁が第2位置にあるときに中空部の下部開口が上を向いている。
【0019】
以上の構成によれば、容器上端部を第1位置から第2位置に移動させた後、保護部材を交換するために当接部材を容器上端部から取り外した状態で、中空部の下部開口が上を向いている。このため、中空部の下部開口に取り付けられた当接部材を取り外す作業が容易となる。さらに、中空部の下部開口が上を向いているので、保護部材が中空部の下部開口から抜け出して、落下するのを防止することができる。したがって、作業者の安全性の確保の点からも好ましい。
【0020】
本発明の一形態においては、移動機構は、回転出力軸を有する電動機と、一端が容器上端部に接続され、他端が回転出力軸に接続されたアームと、を含む。このとき、隔壁は、移動機構により、第1位置と第2位置との間で、90〜180°の所定角度だけ回転される。
【0021】
隔壁が第1位置にあるときに中空部の下部開口は例えば真下を向いている(図1参照)。したがって、90〜180°の所定角度だけ隔壁を回転することで、第2位置で中空部の下部開口を上に向けることが可能となる。このように、第1位置と第2位置との間で、隔壁を、上記のような比較的大きな角度回転させることで、保護部材を交換するときの十分な作業スペースを確保することが容易となる。
【0022】
本発明の一形態においては、ドライエッチング装置は、さらに、当接部材を容器上端部に締結する締結部材(例えばネジ)を備えている。そして、容器本体は、容器上端部の下面と当接する上端面を有している。締結部材は、当接部材の容器上端部への締結およびその解除の際に操作される操作部分(例えばネジの頭部)を含む。そして、締結部材は、容器上端部が第2位置にあるときには当接部材の表面で操作部分が露出する一方、容器上端部が第1位置にあるときには、容器本体の上端面により操作部分が覆われる。
【0023】
その結果、容器上端部が第2位置にあるときには当接部材の表面で操作部分が露出しているので、締結部材による部材の締結及びその解除の操作を容易に行うことができる。よって、保護部材の交換作業が非常に容易となる。一方、容器上端部が第1位置にあるときには締結部材の操作部分は容器本体の上端面により覆われる。これにより、プラズマが締結部材の操作部分(例えばネジの頭部)に作用することにより生じる異物が処理空間に混入するのを防止することができる。その結果、良好なエッチング処理の実現が容易となる。締結部材は、ネジに限らず、様々な機構のクリップ等とすることができる。
【0024】
本発明の一形態においては、高周波磁場生成部が、電源と接続されるコイルを含み、コイルが、隔壁の保護部材と対向する側とは反対側の面と対向するように容器上端部に固定される。
【0025】
上述したとおり、処理空間には処理容器の外部から、プロセスガスをプラズマ化するための高周波磁場が隔壁を介して導入される。よって、高周波磁場を、高周波電源等に接続されたコイルで生成する場合には、そのコイルは、隔壁の外側で隔壁と近接する位置に配される。このような構成においては特に、コイル等が配される側とは反対の側から保護部材を取り出すという構成を有する本発明は、保護部材の交換作業を簡単にするという効果をより顕著に発揮する。
【0026】
ここで、本発明は、保護部材が、処理空間に向かってプロセスガスを放出する複数の貫通孔を有する場合にも、容器本体が処理空間に向かってプロセスガスを放出するガス放出部を有する場合にも、好適に適用することができる。
【0027】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0028】
図1に、本発明の一実施形態に係るドライエッチング装置の概略構成を、前方から見た一部断面図により示す。図2に、開口が設けられた処理容器の上部を上面図により示す。図3に、図2のIII-III線による矢視断面図を拡大して示す。
【0029】
図示例のドライエッチング装置10は、プラズマを利用してシリコンウエハ等の被処理材12をエッチングするドライエッチング装置であり、被処理材12をエッチングするための処理空間14を形成する処理容器16を備える。処理空間14には、被処理材12が配置されるとともに、高周波磁場によりプラズマ化されるプロセスガスが導入される。処理空間14は、例えば中心軸が上下方向を向く円柱状または角柱状等の形状を有する。図示例の装置では、処理空間14は、中心軸が上下方向を向く円柱状である。処理容器16の内部には、被処理材12が載置されるステージ18が設けられる。エッチング時の処理空間14は、真空圧で維持される。
【0030】
通常の場合、ステージ18に載置された被処理材12は、処理空間14の中心または重心付近に位置付けられる。また、プロセスガスは、例えばフッ素系のガスである。
【0031】
処理容器16は、上端部(以下、容器上端部という)20が容器本体17から取り外し可能に構成されている。容器本体17は、処理空間14を形成するための筒状部を含む。容器上端部20は平板状部材であり、そのその中央部には処理容器16の内部に電磁波を導入するための開口20aが容器上端部20の厚さ方向に貫通している。この開口20aは、処理容器16の内部に高周波磁場を導入する機能を有している。この開口20aによって形成される空間は、後述する保護部材24を保持するための中空部26となっている。また、容器本体17は、処理容器16の側部(筒状部)16b、底部16c及び回動機構載置部16hを含む。
【0032】
処理容器16の側部16bの適宜位置には、処理容器16に被処理材12を出し入れするための出し入れ口が設けられている。出し入れ口は図示を省略している。処理容器16の底部16cには、図示しない排気ポンプと接続されたガス排気口16dが設けられる。処理容器16の内部の空気及びプロセスガスは、上記排気ポンプによりガス排気口16dから外部に排出される。
【0033】
プロセスガスは、図示しないプロセスガス供給部により外部からドライエッチング装置10に導入される。プロセスガスの導入量は、例えば制御弁を使用して調整される。上記排気ポンプによるガスの排出量、及び上記プロセスガスの導入量は、作業者の入力を受け付け、また所定のソフトウェアプログラムを実行する図示しないコントローラにより制御される。
【0034】
中空部26は、容器上端部20の上面側の上部開口26a及び容器上端部20の下面側の下部開口26bを有している。上部開口26aは、石英等の誘電体を材料とする隔壁22により塞がれる。そして、隔壁22よりも処理容器16の内部側である、中空部26の内部には、プラズマを遮蔽して隔壁22を保護する保護部材24が収容される。隔壁22及び保護部材24はともに円形の板材であり、所定の隙間D(図3参照)を設けて同軸心に重ねて配置される。隔壁22は保護部材24よりも径が大きく、厚みも大きい。
【0035】
隔壁22は、容器上端部20の上面における上部開口26aの周囲の部分(以下、開口端面20bという)に載置されている。このとき、隔壁22の周縁部の下面(以下、周縁部下面22a)は、開口端面20bと当接している。一方、保護部材24は、中空部26の内部に嵌り込んだ状態で、周縁部の下面が、後で説明する当接部材40と当接している。これにより、保護部材24は、中空部26の内部に保持されている。そして、保護部材24と被処理材12とは所定の距離だけ離間されている。
【0036】
保護部材24には、厚み方向に貫通する複数の貫通孔32が形成されている。それらの貫通孔32の一端は処理空間14に向かって開口しており、外部から供給されるプロセスガスは、それらの開口から処理空間14に向かって放出される。複数の貫通孔32の他端は、隔壁22と保護部材24との隙間Dに開口している。このように、隔壁22と保護部材24との隙間Dは、複数の貫通孔32と連通されて、外部から供給されるプロセスガスを各貫通孔32に分配するガス分配空間34を形成している。貫通孔32は、ガス分配空間34の中心から放射状に等間隔で並べて設けたり、ガス分配空間34の全面に一様な分布で設けたり、複数の同心円を描くように並べて設けたりすることができる。
【0037】
容器上端部20の上面には所定数のリテーナ38が取り付け可能となっており、隔壁22は、周縁部下面22aが開口端面20bと当接した状態で、複数のリテーナ38により容器上端部20に固定される。
【0038】
容器上端部20の開口端面20bには、中空部26を囲うように、ガス分配空間34と連通された溝44が環状に形成されている。この溝44が、外部から供給されるプロセスガスの圧力を均一化する機能する。溝44は、中空部26から少なくとも距離L(図2参照)だけ離間して設けられている。
【0039】
溝44は、容器上端部20の内部に形成された導入路45を介して外部のプロセスガス供給源(図示省略)に接続されており、この導入路45を通じて溝44にプロセスガスが導入される。図示例では、導入路45は1つであるが、これに限られず、複数の導入路45を通して溝44にプロセスガスを導入することができる。また、図示例では、導入路45は溝44の底部に開口しているが、これに限られず、溝44の側部に開口させることもできる。
【0040】
さらに、開口端面20bで溝44の外側には、溝44を囲うように窪みが環状に形成されている。その窪みにはOリング36A(第1Oリング)が嵌め込まれている。Oリング36Aが隔壁22の周縁部下面22aと当接することで、溝44よりも外側で、周縁部下面22aと開口端面20bとの隙間がシールされている。その結果、開口20aは、隔壁22により密閉される。
【0041】
中空部26(開口20a)の内径は、保護部材24の外径よりも若干大きく、かつ、容器上端部20の厚みは、保護部材24の厚みよりも大きくされている。それにより、保護部材24の全体を、中空部26の内部に収容することが可能となる。
【0042】
処理容器16の側部16bの上端面(以下、本体上端面という)16fは、容器上端部20の下面と密接するような平面に形成されている。本体上端面16fにも、窪みが環状に形成されており、その窪みにOリング36B(第2Oリング)が嵌め込まれている。Oリング36Bが容器上端部20の下面と当接することで、容器上端部20の下面と本体上端面16fとの隙間がシールされている。
【0043】
中空部26の下部開口26bには、環状で平板状の当接部材40が取り付けられている。中空部26の下部開口26bの周囲には、当接部材40の厚みと等しい段差が環状に設けられている。その段差が設けられた部分は、円柱状である中空部26と同軸心であり、当接部材40が過不足なく嵌り込むような、円環状の凹部を形成している。
【0044】
当接部材40は、容器上端部20に所定数のネジ42により留められている。当接部材40の内周側の部分は、保護部材24の周縁部の下面と全周に亘って当接するように、中空部26の下部開口26bの周縁から中央側に突き出している。一方、上述したとおり、中空部26の上部開口26aは隔壁22の下面により塞がれているので、保護部材24は、中空部26の内部で保持される。
【0045】
当接部材40の上面の保護部材24と当接する部分には、窪みが環状に設けられており、その窪みにはOリング36C(第3Oリング)が嵌め込まれている。Oリング36Cが保護部材24の周縁部の下面と当接することで、保護部材24と当接部材40との隙間がシールされている。
【0046】
さらに、処理容器16は、容器本体17の上端面にある開口16gの近傍で容器本体17の壁部の断面形状が、内径が開口16gに向かって徐々に小さくなるテーパ形状に形成されている。これにより、開口16gの径は、当接部材40の外径よりも小さくなっている。その結果、当接部材40の下面は、外周側から所定幅の部分が本体上端面16fと重なっている。そして、ネジ42が当接部材40を容器上端部20に留める位置は、ネジ42の頭部が本体上端面16fと重なる位置に設定されている。その結果、容器本体17に容器上端部20が取り付けられた状態では、ネジ42の頭部は、処理空間14に露出しておらず、本体上端面16fにより覆われた状態となっている。これにより、ネジ42の頭部にプラズマが作用することで生じる異物が処理空間14に混入するのを防止することができる。
【0047】
以上のように、容器本体17の開口16gの周囲(開口端面)には、ネジ42の頭部を覆う覆い部が形成されている。図示例では、その覆い部は処理容器16の壁部と一体に形成されている。これに限らず、処理容器16の壁部とは別体の部材で覆い部を形成してもよい。また、図示例では、開口16g近傍の壁部の断面形状をテーパ形状として覆い部を形成しているが、これに限られない。開口16gの中央に向かって周囲から方形等の様々な断面形状の壁部や他部材を突出させることで覆い部を形成することもできる。さらに、本発明は、開口16gまで内径が一様であるような容器本体17を使用して、その開口の周囲の部分でネジ42の頭部を覆う場合も包含する。その場合にも、開口の周囲の部分が覆い部を形成する。
【0048】
次に、溝44についてさらに説明する。溝44は、プロセスガスを一時的に滞留させるものであり、これにより、溝44の内部でプロセスガスの圧力が均一化される。溝44とガス分配空間34とは、上述したとおり、少なくとも距離Lだけ隔てられており、溝44とガス分配空間34との間の部分には、流路面積が互いに等しい所定数(図示例では4つ)の連絡路46が等間隔で形成されている。これらの連絡路46により、溝44とガス分配空間34とが連通されている。したがって、溝44、ガス分配空間34及び連絡路46は、全て、隔壁22の1つの面(下面)に接している。
【0049】
このように、ガス分配空間34に、その周囲の一様な分布の隙間である複数の連絡路46を介して、プロセスガスを溝44から供給することで、ガス分配空間34の周縁部でプロセスガスの圧力を均一にすることができる。その結果、貫通孔32からのプロセスガスの放出により、ガス分配空間34の周縁部から中央部に向かって減少する内圧の傾斜を、ガス分配空間34の中心から周縁部を臨むほぼ全ての方向で一様なものにすることができる。これにより、被処理材12に到達するプラズマの密度を均一化することが容易となる。
【0050】
より詳しく説明すると、上記内圧の傾斜により、プロセスガスから生成されるプラズマの密度は、保護部材24の近傍では、処理空間14の中央部で小さく、周縁部で大きくなる。しかしながら、保護部材24と被処理材12との間にはある程度の距離があるために、プラズマが被処理材12に到達するまでに、後述のコイル48の形状による効果で、プラズマが、処理空間14の周縁部から中央部に回り込む。これにより、プラズマが被処理材12に到達する時点では、プラズマの密度は、処理空間14の周縁部から中央部まで均一化される。
【0051】
これに対して、ガス分配空間34の周縁部でプロセスガスの圧力に差異があると、保護部材24の近傍における処理空間14の周縁部のプラズマの密度にも差異が生じる。そのような密度分布の周方向における不均一さは、周方向の長さが径方向の長さの最大で6倍以上である(円周=半径×2×πだからである)ことから、プラズマが被処理材12に到達する時点までに解消されることなく維持されてしまうことが多い。そのような場合には、エッチング処理の程度が処理空間14の周方向において不均一なものとなる。
【0052】
図示例のドライエッチング装置10では、ガス分配空間34の周囲に配した環状の溝44からガス分配空間34にプロセスガスを導入する構成を採用したことで、ガス分配空間34の周縁部でプロセスガスの内圧を均一にすることができる。これにより、被処理材12に到達するプラズマの密度を処理空間14の径方向及び周方向の両方で容易に均一化することができる。よって、被処理材12の全ての部分でエッチング処理の程度を均一にすることができる。なお、図示例では、ガス分配空間34の周囲に複数の連絡路46を設けているが、これに限られず、ガス分配空間34の周囲に全周に亘る隙間を均一に設けて、溝44からガス分配空間34にプロセスガスを導入することもできる。
【0053】
さらに、容器上端部20には、コイル48が、コイル支持部50により固定されている。コイル48は、図示しない高周波電源と接続されており、プロセスガスをプラズマ化するための高周波磁場を生成するICP(誘導結合プラズマ)生成ユニットを構成している。コイル48により生成された高周波磁場は、中空部26を通して処理容器16の内部に形成される。さらに、隔壁22、コイル48、及びコイル支持部50を全て覆うように、カバー51が容器上端部20の上面に取り付けられている。
【0054】
コイル48は、細長い帯状の金属板を螺旋状に形成したものであり、その軸心が隔壁22及び保護部材24の中心軸と一致するように、コイル支持部50によって支持されている。コイル48は、図示例のような一重の螺旋状とすることもできるし、フェルマーの螺旋のような二重の螺旋状とすることもできる。
【0055】
ステージ18には、内部電極52が内蔵されており、この内部電極52も図示しない高周波電源と接続されている。内部電極52に高周波電力を投入することにより、処理空間14にて発生したプラズマをステージ18側へ引き付けるバイアスを付与することができる。なお、ステージ18と内部電極52とを別体とする必要性はなく、ステージ18を内部電極と兼用することもできる。
【0056】
さらに、容器上端部20は、電動機28aを含む回動機構28により回動されることで、容器本体17から取り外される。回動機構28は、電動機28aの出力回転軸28bに取り付けられたアーム28cが、容器上端部20の一端部に連結されている。アーム28cが、電動機28aの回転出力により回動されることで、容器上端部20の処理容器16に対する取り付け及び取り外しが行われる。
【0057】
図4に、容器上端部20が容器本体17から取り外された状態を示す。図5に、図4の状態で容器上端部20を下面側から見た様子を示す。容器上端部20が容器本体17に取り付けられているとき(図1の状態)の容器上端部20の位置を第1位置とし、容器上端部20が容器本体17から取り外されたとき(図4の状態)の容器上端部20の位置を第2位置とする。回動機構28は、容器上端部20を第1位置と第2位置との間で回動させる。第1位置と第2位置との間の回転角度は、中空部26の下部開口26bが上を向くように、例えば90〜180°の所定角度とすることができる。
【0058】
図1の状態では、容器上端部20が第1位置にあり、中空部26の下部開口26bは真下を向いている。そして、ネジ42の頭部は、本体上端面16fにより覆われている。一方、図4の状態では、容器上端部20が第2位置にあり、中空部26の下部開口26bは斜め上を向いている。そして、ネジ42の頭部は、本体上端面16fにより覆われることなく当接部材40の表面に露出している。よって、ネジ42を、ドライバ等を使用して容易に取り外すことができ、当接部材40を容器上端部20から容易に取り外すことができる。
【0059】
当接部材40を容器上端部20から取り外すと、保護部材24を中空部26の下部開口26bから取り出すことができるようになる。使用後の保護部材24を下部開口26bから取り出した後、未使用の保護部材24を下部開口26bから中空部26の内部に挿入する。その後、当接部材40をネジ42により容器上端部20に固定することで保護部材24の交換が終了する。このとき、隔壁22やコイル48を容器上端部20から取り外す必要性がないので、保護部材24の交換を短時間で行うことができる。
【0060】
また、中空部26の下部開口26bは斜め上を向いているので、保護部材24が下部開口26bから抜け落ちて落下するのを防止することができる。その結果、作業者の安全性を確保することもできる。なお、保護部材24を中空部26から取り出しやすいように、保護部材24の外周部に、指等を差し入れることができる切欠を設けることができる。
【0061】
以下、これまでに説明した構成のドライエッチング装置10の動作を説明する。
【0062】
作業者は、上記の被処理材出し入れ口を通してステージ18に未処理の被処理材12をセットする。その後、処理空間14が適切な真空圧となるようにコントローラにより制御しながら、処理空間14にプロセスガスを導入する。
【0063】
高周波電源からコイル48に高周波電力を投入するとともに、別の高周波電源からステージ18の内部電極52に高周波電力を投入する。コイル48に電力が投入されると、コイル48が高周波磁場を生成する。生成された高周波磁場は隔壁22を伝播し、処理空間14に高周波磁場が形成される。高周波磁場に補足された電子の作用によりプロセスガスがイオン化され、隔壁22の近傍にトロイダル状又はドーナツ状のプラズマが発生する。ステージ18の内部電極52への高周波電力の投入により、プラズマが被処理材12へ向けて引き付けられるように下方へ拡散する。隔壁22から被処理材12までは所定の距離だけ離間しているため、この拡散過程でプラズマの密度が均一化される。均一化したプラズマが被処理材12に到達することによって、被処理材12のエッチング処理が開始される。
【0064】
被処理材12のエッチング処理が終了すると、作業者は、被処理材出し入れ口を通して処理済みの被処理材12を処理空間14から取り出し、続けて、未処理の被処理材12をステージ18にセットする。セットされた被処理材12にエッチング処理を行う。エッチング処理が終了すると、作業者は、処理済みの被処理材12を取り出し、以降、同様に未処理の被処理材12のセット、エッチング処理、及び処理済みの被処理材12の取り出しを繰り返す。
【0065】
このように被処理材12のエッチング処理を繰り返す間に、保護部材24は次第に削られる。保護部材24が最低限厚さになると保護部材24を交換する必要があるため、作業者は、保護部材24の厚さを定期的に計測等することによって、保護部材24の交換時期を判断する。保護部材24が最低限厚さになるまで削られたかどうかは、保護部材24のプラズマにより削られ易い部分の上面に最低限厚さと同じ深さの孔を設け、その孔の底が抜けたときに、最低限厚さまで保護部材24が削られたと判断することができる。
【0066】
以上のようにして、保護部材24が最低限厚さになったと判断されると、容器上端部20を容器本体17から取り外した状態(図4の状態)とするように、回動機構28により容器上端部20を90〜180°の所定角度(例えば110°)だけ回転させる。その状態で、作業者は、全てのネジ42を取り外す。そして、当接部材40を容器上端部20から取り外した後、使用後の保護部材24を中空部26の下部開口26bから取り出す。その後、未使用の保護部材24(エッチングを開始する前の保護部材24)を下部開口26bから中空部26の内部に挿入し、当接部材40を容器上端部20に取り付け、ネジ42で当接部材40を容器上端部20に固定する。その後、回動機構28により容器上端部20を回動させて、容器上端部20を容器本体17に取り付ける。
【0067】
以上のような保護部材24の交換手順を採用することで、カバー51、コイル48及び隔壁22等には何らの作業をすることなく、保護部材24だけを交換することが可能となる。よって、保護部材24の交換作業を短時間で終了させることができるとともに、コイル48、その配線、並びに高価な隔壁22等を損傷する危険性を生じさせずに保護部材24を交換することができる。
【0068】
(実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態2を説明する。図6に、本発明の実施の形態2に係るドライエッチング装置の概略構成を一部断面図により示す。図6のドライエッチング装置60は、処理空間14にプロセスガスを導入するプロセスガス導入部が、図1のドライエッチング装置10とは異なっている。
【0069】
ドライエッチング装置60においては、導入路45は、処理容器16の側部16bを貫通するように設けられている。導入路45の先端が、処理空間14に向かって開口しており、その開口から処理空間14に向かってプロセスガスが放出される。ここで、保護部材56は、貫通孔を有しておらず、容器上端部20は、溝(44)を有していない。複数の導入路45を、処理容器16の側部16bを貫通するように設けることで、それらの先端の複数の開口から処理空間14に向かってプロセスガスを放出することもできる。この場合にも、上述した特有の効果を発揮することができる。
【0070】
上記の各実施形態では、隔壁及び保護部材はいずれも誘電体を材料とする平板であるとしたが、これに限定されない。隔壁及び保護部材は、例えば湾曲した形状であってもよい。これによって、種々の高周波磁場生成部に適した形状の隔壁及び保護部材を適用することができる。
【0071】
また、実施形態ではコイル48は一重または二重の螺旋構造であるとしたが、コイル48に代えて、プラズマを利用するドライエッチング装置として通常使用されるコイル及びアンテナ等の任意のものが適用されてよい。またコイル48以外の高周波磁場生成部が適用される場合であっても、本実施形態又は変形例に係る隔壁を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、プラズマを利用して、シリコン等を材料とする基板をエッチングするドライエッチング装置に適用することができる。本発明は、プロセスガスとしてフッ素系のガスを利用するものに好適であり、また、深掘り加工等のために高電力を利用するドライエッチング装置に好適である。
【符号の説明】
【0073】
12・・・被処理材
14・・・処理空間
16・・・処理容器
17・・・容器本体
20・・・容器上端部
22・・・隔壁
24、56・・・保護部材
26・・・中空部
48・・・コイル
52・・・内部電極
32・・・貫通孔
34・・・ガス分配空間
44・・・溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理材が配置されるとともにプロセスガスが導入される処理空間を形成する容器本体と、前記処理空間と外部とを連通する、上部開口及び下部開口を有する中空部が設けられた容器上端部と、を有する処理容器、
前記上部開口を塞ぐ隔壁、
前記隔壁を介して前記処理空間に導入され、前記プロセスガスをプラズマ化する高周波磁場を生成する高周波磁場生成部、
前記中空部に、前記隔壁を保護するように収容された板状の保護部材、
前記保護部材の周縁部の下面と当接して、前記保護部材を前記中空部内に支持するように前記容器上端部に着脱自在に取り付けられた板状の当接部材、並びに
前記容器上端部を、前記容器本体に取り付けたときの第1位置と、前記容器本体から取り外したときの第2位置との間で移動させる移動機構、
を備える、ドライエッチング装置。
【請求項2】
前記隔壁が前記第2位置にあるときに、前記中空部の前記下部開口が上を向いている、請求項1記載のドライエッチング装置。
【請求項3】
前記移動機構が、回転出力軸を有する電動機と、一端が前記容器上端部に接続され、他端が前記回転出力軸に接続されたアームと、を含み、
前記容器上端部は、前記移動機構により、前記第1位置と前記第2位置との間で、90〜180°の所定角度だけ回転される、請求項2記載のドライエッチング装置。
【請求項4】
さらに、前記当接部材を前記容器上端部に締結する締結部材を備え、
前記容器本体が、前記容器上端部の下面と当接する上端面を有し、
前記締結部材は、前記当接部材の前記容器上端部への締結およびその解除の際に操作される操作部分を含むとともに、前記容器上端部が前記第2位置にあるときには前記当接部材の表面で前記操作部分が露出し、前記容器上端部が前記第1位置にあるときには前記上端面により前記操作部分が覆われる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のドライエッチング装置。
【請求項5】
前記高周波磁場生成部が、電源と接続されるコイルを含み、
前記コイルが、前記隔壁の前記保護部材と対向する側とは反対側の面と対向するように前記容器上端部に固定されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載のドライエッチング装置。
【請求項6】
前記保護部材が、前記処理空間に向かって前記プロセスガスを放出する複数の貫通孔を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のドライエッチング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−62359(P2013−62359A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199598(P2011−199598)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】