説明

ドラムブレーキ装置

【課題】干渉音の発生を防ぐことができ、かつ、メンテナンス性に優れたドラムブレーキ装置を提供する。
【解決手段】ドラムブレーキ装置10は、ブレーキドラム11内にアンカー15を配置するように立設させたバックプレート13と、ブレーキドラム11内に配置され、アンカーピン部の外周に上端部18,19が支持された左右のブレーキシュー16,17と、左右のブレーキシュー16,17を拡開してブレーキドラム11の内周面11aに押圧する拡開機構25とを備える。このドラムブレーキ装置10は、左右のブレーキシュー16,17の上端部18,19が、アンカー15に対してブレーキドラム11の径方向に移動することを規制する規制部70を設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はドラムブレーキ装置に係り、特に、一対のブレーキシューをアンカーに支持したドラムブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドラムブレーキ装置は、車体にバックプレートを取り付け、このバックプレートに一対のブレーキシューを対向配置し、対向配置したブレーキシューを拡開し、拡開したブレーキシューをブレーキドラムの内周面に押圧することでブレーキドラムを制動するものである(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平11−182593号公報
【0003】
特許文献1のドラムブレーキ装置は、ブレーキドラム内にアンカーを配置し、このアンカーの両側にそれぞれブレーキシューを配置する。そして、一対のブレーキシューの一端部を第1ばね部材のばね力でアンカーにそれぞれ当接する。
この場合、一対のブレーキシューのうち、一方のブレーキシューの一端部はアンカーの一方の側面に当接し、他方のブレーキシューの一端部はアンカーの他方の側面に当接する。
【0004】
このドラムブレーキ装置には、一対のブレーキシューのうち、一方のブレーキシューに操作アームが設けられ、この操作アームにブレーキケーブルが設けられている。
ブレーキケーブルで操作アームを操作することで、一対のブレーキシューの一端部をアンカーからそれぞれ離す。一対のブレーキシューの一端部をアンカーから離すことで、ブレーキドラムの内周に押圧してブレーキドラムを制動する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このドラムブレーキ装置は、一方のブレーキシューの一端部がアンカーの一方の側面に当接し、他方のブレーキシューの一端部がアンカーの他方の側面に当接している。
この構造において、例えば、操作アーム、ブレーキケーブルまたはブレーキケーブルを操作する操作部材の戻り不良の場合や、これらの遊びやたるみを必要以上に小さくしてしまった場合、ブレーキの引き摺りは生じないまでも、各ブレーキシューの一端部とアンカーとの間にそれぞれ隙間が生じることが考えられる。
【0006】
これら一対のブレーキシューの一端部とアンカーとの間にそれぞれ隙間が生じると、走行による振動で、一対のブレーキシューの一端部がブレーキドラムの径方向に振れる。
このため、一対のブレーキシューの一端部がそれぞれアンカーに当たり、干渉音が発生する虞がある。
【0007】
干渉音の発生を抑える方法として、例えば、ブレーキシューの一端部とアンカーとの間にグリースなどの緩衝剤を介在させる。
しかし、グリースなどの緩衝剤を介在させる方法では、各ブレーキシューの一端部とアンカーとの間にグリースなどの緩衝剤を常時介在させておくために、グリースなどの緩衝剤を定期的に供給する必要がある。
このため、グリースなどの緩衝剤を供給する手間がかかり、メンテナンス性の観点から改良の余地が残されていた。
【0008】
本発明は、干渉音の発生を防ぐことができ、かつ、メンテナンス性に優れたドラムブレーキ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、筒状に形成されたブレーキドラムと、このブレーキドラム内にアンカーを配置するようにアンカーを立設させたバックプレートと、前記ブレーキドラムの内周面に沿って配置され、前記アンカーに各一端部が支持された一対のブレーキシューと、前記一対のブレーキシューを拡開して前記ブレーキドラムの内周面に押圧する拡開機構と、を備えたドラムブレーキ装置において、前記一対のブレーキシューの一端部が、前記アンカーに対して前記ブレーキドラムの径方向に移動することを規制する規制部を設けたことを特徴とする。
【0010】
一対のブレーキシューの拡開状態において、一対のブレーキシューの一端部がブレーキドラムの径方向に移動することを規制部で規制する。
よって、一対のブレーキシューの一端部を規制部で所定位置に保持することができる。
これにより、走行による振動が発生した際に、一対のブレーキシューの一端部がブレーキドラムの径方向に振れることを抑えて、一対のブレーキシューの一端部がアンカーに干渉することを防ぐことができる。
【0011】
さらに、ブレーキシューの一端部の移動を規制部で規制することで、ブレーキシューの一端部とアンカーとの間にグリースなどの緩衝剤を介在させる必要はない。
これにより、ブレーキシューの一端とアンカーとの間にグリースなどの緩衝剤を定期的に供給する手間を省くことができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、前記規制部は、前記一対のブレーキシューの一端部にそれぞれ設けられ、前記アンカーの外周のうち、前記ブレーキドラムの軸線に臨む部位と、ブレーキドラムの内周面に臨む部位とに接触する規制プレートであって、この規制プレートは、一対のブレーキシューのうち、一方のブレーキシューの一端部において、前記ブレーキドラムの軸線方向一側に設けられ、他方のブレーキシューの一端部において、前記ブレーキドラムの軸線方向他側に設けられたことを特徴とする。
【0013】
一対のブレーキシューの一端部に規制部として規制プレートを設けた。この規制プレートは、一方のブレーキシューにおいてブレーキドラムの軸線方向一側に設けられるとともに、他方のブレーキシューにおいてブレーキドラムの軸線方向他側に設けられる。
それぞれの規制プレートを互い違いに設けることで、規制プレート同士の干渉を防ぐ。
【0014】
規制プレート同士の干渉を防ぐことで、それぞれの規制プレートを、アンカー側に十分に延ばすことができる。
よって、それぞれの規制プレートをアンカーに接触させることが可能になり、一対のブレーキシューを所定位置に保持することができる。
これにより、走行による振動が発生した際に、一対のブレーキシューの一端部がブレーキドラムの径方向に振れることを抑えて、一対のブレーキシューの一端部がアンカーに干渉することを防ぐことができる。
【0015】
さらに、規制部として規制プレートを用いることで、規制部の構成を簡素にすることができる。規制部の簡素化を図ることでコストアップを抑えることができる。
【0016】
請求項3に係る発明は、前記規制部は、前記一対のブレーキシューのそれぞれの一端部に架け渡された弾性部材を備え、この弾性部材を、前記アンカーの外周のうち、前記ブレーキドラムの内周面に臨む部位と、ブレーキドラムの軸線に臨む部位とにそれぞれ接触させ、この弾性部材を前記ブレーキドラムの径方向に弾性変形させて一対のブレーキシューを拡開可能としたことを特徴とする。
【0017】
規制部として弾性部材を一対のブレーキシューの一端部に架け渡した。架け渡した弾性部材をアンカーの外周に接触させた。
よって、架け渡した弾性部材で一対のブレーキシューを所定位置に保持することができる。
これにより、走行による振動が発生した際に、一対のブレーキシューの一端部がブレーキドラムの径方向に振れることを抑えて、一対のブレーキシューの一端部がアンカーに干渉することを防ぐことができる。
【0018】
さらに、架け渡した弾性部材をブレーキドラムの径方向に弾性変形させることで、それぞれの一端部を、ブレーキシューを拡開する方向に移動可能とした。よって、一端部を移動することで、それぞれのブレーキシューを拡開することができる。
これにより、ブレーキシューでブレーキドラムを制動することができる。
【0019】
加えて、規制部として弾性部材を用いることで、規制部の構成を簡素にすることができる。規制部の簡素化を図ることでコストアップを抑えることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るドラムブレーキ装置によれば、一対のブレーキシューの一端がアンカーに干渉することを防ぐことで、干渉音が発生することを防止できるという利点がある。
さらに、本発明に係るドラムブレーキ装置によれば、ブレーキシューの一端とアンカーとの間にグリースなどを定期的に供給する手間を省くことで、メンテナンス性を高めることができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
図1は本発明に係る第1実施の形態のドラムブレーキ装置を示す正面図である。
ドラムブレーキ装置10は、リヤアクスル(図示せず)にブレーキドラム11を設け、ブレーキドラム11の開口12にバックプレート13を臨ませ、このバックプレート13にアンカー15を立設し、立設したアンカー15をブレーキドラム11内の上方に配置し、ブレーキドラム11の内周面11aに沿って左右のブレーキシュー(一対のブレーキシュー)16,17を配置し、左右のブレーキシュー16,17の上端部(一端部)18,19をそれぞれアンカー15に支持し、左右のブレーキシュー16,17の下端部(他端部)21,22をそれぞれフローティングサポート24で支持し、左右のブレーキシュー16,17を拡開機構25で拡開してブレーキドラム11の内周面11aに押圧するように構成したパーキングブレーキである。
【0022】
ブレーキドラム11は、筒状に形成され、リヤアクスルと一体に矢印A−B方向に回転する部材である。
【0023】
バックプレート13は、中央に開口13aが形成され、開口13aの周囲にアンカー15および一対の取付孔27,27がそれぞれ略等間隔に設けられている。
アンカー15のねじ部28(図2参照)と、取付孔27,27から差し込んだボルト(図示せず)とを用いてバックプレート13を車体側に取り付ける。
なお、本実施の形態では、バックプレート13の外形13bを、便宜上、ブレーキドラム11の外形11bより一回り大きな円形状に形成した例について説明するが、バックプレート13の外形13bは用途に合わせて適宜変更が可能である。
【0024】
アンカー15は、バックプレート13に立設され、ブレーキドラム11の上端11c近傍に、ブレーキドラム11の軸線26と平行に配置された部材である。
アンカー15の先端部にストッパプレート29がバックプレート13と平行に設けられている。
ストッパプレート29は、略逆三角形状に形成された板材である。
【0025】
アンカー15の左側に左ブレーキシュー(一方のブレーキシュー)16が配置され、アンカー15の右側に右ブレーキシュー(他方のブレーキシュー)17が配置されている。
左ブレーキシュー16は、湾曲状に形成された左ウエブ31と、左ウエブ31の外縁に設けられた左リム32と、左リム32の背面に設けられた左ライニング33とを備える。
【0026】
左ウエブ31は、上下端にそれぞれ左上端部18および左下端部21を備え、中央部36が保持ピン34および保持板ばね35でバックプレート13に支持されている。
すなわち、左ウエブ31は、バックプレート13と平行に配置され、かつ、保持ピン34が、左ウエブ31に設けられている挿通孔(不図示)を緩やかに挿通され、保持板ばね35によりバックプレート13に付勢されている。
よって、左ブレーキシュー16の揺動時において、左ウエブ31は、保持ピン34と干渉しないように、ブレーキドラム11の軸線26方向に保持板ばね35でガイドされながらバックプレート13に支持される。
【0027】
左ウエブ31の左上端部18をアンカー15に当接することで、左上端部18をアンカー15から離すことができるように支持する。
左ウエブ31の左下端部21をフローティングサポート24の左支持部24aに当接することで、左下端部21を左支持部24aで支持する。
【0028】
右ブレーキシュー17は、湾曲状に形成された右ウエブ37と、右ウエブ37の外縁に設けられた右リム38と、右リム38の背面に設けられた右ライニング39とを備える。
右ウエブ37は、上下端にそれぞれ右上端部19および右下端部22を備え、中央部44が保持ピン45および保持板ばね46でバックプレート13に支持されている。
【0029】
すなわち、右ウエブ37は、バックプレート13と平行に配置され、かつ、保持ピン45が、右ウエブ37に設けられている挿通孔(不図示)を緩やかに挿通され、保持板ばね46によりバックプレート13に付勢されている。
よって、右ブレーキシュー17の揺動時において、右ウエブ37は、保持ピン45と干渉しないように、ブレーキドラム11の軸線26方向に保持板ばね46でガイドされながらバックプレート13に支持される。
【0030】
右ウエブ37の右上端部19をアンカー15に当接することで、右上端部19をアンカー15から離すことができるように支持する。
右ウエブ37の右下端部22をフローティングサポート24の右支持部24bに当接することで、右下端部22を右支持部24bで支持する。
【0031】
左ウエブ31の左上端部18近傍と、右ウエブ37の右上端部19近傍とを上リターンスプリング48で連結する。
上リターンスプリング48のばね力で、左上端部18をアンカー15に当接するとともに、右上端部19をアンカー15に当接した状態に保持する。
【0032】
左ウエブ31の左下端部21近傍と、右ウエブ37の右下端部22近傍とを下リターンスプリング49で連結する。
下リターンスプリング49のばね力で、左ウエブ31の左下端部21をフローティングサポート24の左支持部24aに当接するとともに、右ウエブ37の右下端部22をフローティングサポート24の右支持部24bに当接した状態に保持する。
【0033】
拡開機構25は、左ウエブ31とバックプレート13との間に操作アーム51を配置し、操作アーム51の上端部に支持ピン52を立設し、支持ピン52を左ウエブ31の支持孔53に差し込む。支持ピン52を支持孔53で回転自在に支持する。
操作アーム51の下端部51aにブレーキケーブル54を連結する。このブレーキケーブル54は、運転室内のパーキングブレーキレバー(図示せず)に連結されている。
【0034】
さらに、拡開機構25は、左ウエブ31の左上端部18近傍に左凹部56を形成するとともに、右ウエブ37の右上端部19近傍に右凹部57を形成し、左右の凹部56,57間に連結部材58を介在する。
連結部材58の左端部58aを保持スプリング61を介して左上端部18近傍の部位31aに連結する。
保持スプリング61で連結部材58を操作アーム51側に付勢する。
【0035】
運転室内のパーキングブレーキレバーを操作することで、ブレーキケーブル54を矢印Cの如く引っ張る。
ブレーキケーブル54を矢印Cの如く引っ張ることで、左右のブレーキシュー16,17を拡開してブレーキドラム11の内周面11aに押圧する。
なお、左右のブレーキシュー16,17を拡開する動作については後述する。
【0036】
図2は第1実施の形態に係るドラムブレーキ装置の要部を示す分解斜視図である。
バックプレート13の上部13cにベース63を2本のボルト64,64で取り付ける。ベース63は中央に取付孔65(図4参照)が形成されている。取付孔65にはセレーションが形成されている。この取付孔65は、バックプレート13の取付孔66(図4参照)に対して同軸上に配置されている。
ベース63の取付孔65にアンカー15のセレーション部67が圧入されている。セレーション部67を圧入することで、アンカー15は、ベース63を介してバックプレート13に取り付けられる。
【0037】
このアンカー15は、セレーション部67が略中央に形成され、セレーション部67の手前側にフランジ部68が形成され、フランジ部68から手前側に向けてアンカーピン部69が突出され、アンカーピン部69の端部69aにストッパプレート29が設けられている。
また、アンカー15は、セレーション部67の奥側にねじ部28が設けられている。
【0038】
アンカーピン部69の左側に左ウエブ31の左上端部18を配置する。この左上端部18は、端縁に湾曲凹部76が形成されている。左側の湾曲凹部76は、アンカーピン部69の外周69bのうち、左側面に当接可能に湾曲状に形成されている。
アンカーピン部69の右側に右ウエブ37の右上端部19を配置する。この右上端部19は、端縁に湾曲凹部77が形成されている。右側の湾曲凹部77は、アンカーピン部69の外周69bのうち、右側面に当接可能に湾曲状に形成されている。
【0039】
左右の上端部18,19に、規制部70が設けられている。
規制部70は、左上端部18に備えた左上下の規制プレート71,72と、右上端部19に備えた右上下の規制プレート73,74とからなる。
【0040】
左上下の規制プレート71,72は、左上端部18において、手前側の側面18aに設けられている。
ここで、手前側の側面18aとは、左上端部18において、ブレーキドラム11の軸線26方向一側をいう。
【0041】
左上規制プレート71は、左上端部18の上辺18b側に左上基部71aを溶接で固定し、左上基部71aからアンカーピン部69の上側に接触するように左上延出部71bを延ばしたものである。
左上延出部71bは、アンカーピン部69の外周69bのうち、ブレーキドラム11の内周面11a(図1参照)に臨む部位(上部位)69cに接触する。
【0042】
左下規制プレート72は、左上端部18の下辺18c側に左下基部72aを溶接で固定し、左下基部72aからアンカーピン部69の下側に接触するように左下延出部72bを延ばしたものである。
左下延出部72bは、アンカーピン部69の外周69bのうち、ブレーキドラム11の軸線26(図1参照)に臨む部位(下部位)69dに接触する。下部位69dは図3(b)に示す。
【0043】
右上下の規制プレート73,74は、右上端部19において、奥側の側面19a(図4も参照)に設けられている。
右上規制プレート73は、左上規制プレート71と同じ部材である。右下規制プレート74は、左下規制プレート72と同じ部材である。
ここで、奥側の側面19aとは、右上端部19において、ブレーキドラム11の軸線26方向他側をいう。
【0044】
右上規制プレート73は、右上端部19の上辺19b側に右上基部73aを溶接で固定し、右上基部73aからアンカーピン部69の上側に接触するように右上延出部73bを延ばしたものである。
右上延出部73bは、アンカーピン部69の外周69bのうち、ブレーキドラム11の内周面11a(図1参照)に臨む部位(上部位)69cに接触する。
【0045】
右下規制プレート74は、右上端部19の下辺19c側に右下基部74aを溶接で固定し、右下基部74aからアンカーピン部69の下側に接触するように右下延出部74bを延ばしたものである。
右下延出部74bは、アンカーピン部69の外周69bのうち、ブレーキドラム11の軸線26に臨む部位(下部位)69dに接触する。
【0046】
左上下の規制プレート71,72や、右上下の規制プレート73,74は、それぞれ簡単な形状の部材である。
これらの規制プレート71〜74は、例えば、平板を切断するだけで形成することが可能である。
よって、規制部70として左上下の規制プレート71,72や、右上下の規制プレート73,74を用いることで、規制部70の構成を簡素にすることができる。
【0047】
図3(a)は第1実施の形態に係るドラムブレーキ装置の要部を示す斜視図、図3(b)は第1実施の形態に係るドラムブレーキ装置の要部を示す正面図である。
左ウエブ31の湾曲凹部76をアンカーピン部69の左側面に当接して、左ブレーキシュー16をブレーキ解放位置に配置する。
この状態で、左上規制プレート71の左上延出部71bが、アンカーピン部の上部位69cに接触する。
さらに、左下規制プレート72の左下延出部72bが、アンカーピン部の下部位69dに接触する。
これにより、左上下の延出部71b,72bで左ウエブ31の左上端部18を所定位置に保持する。
【0048】
右ウエブ37の湾曲凹部77をアンカーピン部69の右側面に当接して、右ブレーキシュー17をブレーキ解放位置に配置する。
この状態で、右上規制プレート73の右上延出部73bが、アンカーピン部69の上部位69cに接触する。
さらに、右下規制プレート74の右下延出部74bが、アンカーピン部の下部位69dに接触する。
これにより、右上下の延出部73b,74bで右ウエブ37の右上端部19を所定位置に保持する。
【0049】
図4は第1実施の形態に係るドラムブレーキ装置の要部を示す平面図である。
左ウエブ31の左上端部18に、手前側の側面18a、すなわちブレーキドラム11(図1参照)の軸線26方向一側に左上下の規制プレート71,72を設けた。左下規制プレート72は図3に示す。
右ウエブ37の右上端部19に、奥側の側面19a、すなわちブレーキドラム11の軸線26方向他側に右上下の規制プレート73,74を設けた。右下規制プレート74は図3(b)に示す。
【0050】
ここで、左ウエブ31の左上端部18をアンカーピン部69で支持するとともに、右ウエブ37の右上端部19をアンカーピン部69で支持した状態において、左上端部18および右上端部19は対向配置される。
左ウエブ31および右ウエブ37は、それぞれ板厚Tで形成されている。
【0051】
よって、左ウエブ31に設けた左上下の規制プレート71,72と、右ウエブ37に設けた右上下の規制プレート73,74とが互い違いに設けられる。
これにより、左上下の規制プレート71,72が、右上下の規制プレート73,74に干渉することを防ぐ。
【0052】
左上規制プレート71の左上延出部71bおよび左下規制プレート72の左下延出部72bをアンカーピン部69側に十分に延ばすことができる。左下延出部72bは図3(b)に示す。
さらに、右上規制プレート73の右上延出部73bおよび右下規制プレート74の右下延出部74bをアンカーピン部69側に十分に延ばすことができる。右下延出部74bは図3(b)に示す。
【0053】
延出部71b〜74bをアンカーピン部69側に十分に延ばすことで、左上下の延出部71b,72bや、右上下の延出部73b,74bをアンカーピン部69の外周69bに接触させた状態を保つことができる。
【0054】
つぎに、第1実施の形態のドラムブレーキ装置10の作用を図1および図5〜図7に基づいて説明する。
まず、ドラムブレーキ装置10の左右のブレーキシュー16,17を拡開する例を図1および図5〜図6に基づいて説明する。
【0055】
図1において、ブレーキケーブル54を矢印Cの如く引っ張ることで、操作アーム51を支持ピン52を軸にして矢印Dの如くスイング移動する。
操作アーム51をスイング移動することで、操作アーム51で連結部材58を矢印Eの如く移動する。連結部材58を移動することで、連結部材58で右ウエブ37の右凹部57を押圧する。
【0056】
図5(a),(b)は第1実施の形態に係るドラムブレーキ装置の右ブレーキシューを拡開する例を説明する図である。
(a)において、右ウエブ37を連結部材58(図1参照)で押圧することで、右ウエブ37の右上端部19が矢印Fの如く移動する。
【0057】
(b)において、右上端部19の湾曲凹部77がアンカーピン部69の右側面から離れる。
この状態において、右上規制プレート73の右上延出部73bを、アンカーピン部69の上部位69cに接触させた状態を保つ。
さらに、右下規制プレート74の右下延出部74bを、アンカーピン部69の下部位69dに接触させた状態を保つ。
【0058】
図1に戻って、右ブレーキシュー17が拡開して、右ライニング39でブレーキドラム11の内周面11aを押圧する。
この状態で、ブレーキケーブル54を矢印C方向へ継続して引っ張る。操作アーム51が連結部材58と当接しているので、操作アーム51は連結部材58との当接部を軸にして反時計回り方向にスイング移動する。
よって、操作アーム51の上端部とともに支持ピン52が矢印Gの如くブレーキドラム11の内周面11a側に移動する。
【0059】
図6(a),(b)は第1実施の形態に係るドラムブレーキ装置の左ブレーキシューを拡開する例を説明する図である。
(a)において、支持ピン52(図1参照)が移動することで、左ウエブ31の左上端部18が矢印Hの如く移動する。
【0060】
(b)において、左上端部18の湾曲凹部76がアンカーピン部69の左側面から離れる。これにより、左右の上端部18,19がアンカーピン部69から離れて、左右のブレーキシュー16,17が拡開する。
この状態において、左上規制プレート71の左上延出部71bを、アンカーピン部69の上部位69cに接触させた状態を保つ。
さらに、左下規制プレート72の左下延出部72bを、アンカーピン部69の下部位69dに接触させた状態を保つ。
【0061】
再度図1に戻って、左ブレーキシュー16が拡開して、左ライニング33でブレーキドラム11の内周面11aを押圧する。
このように、左右のブレーキシュー16,17でブレーキドラム11の内周面11aを押圧することで、ブレーキドラム11を左右のブレーキシュー16,17で制動する。
【0062】
つぎに、ドラムブレーキ装置10の干渉音の発生を抑える例を図7に基づいて説明する。
図7(a),(b)は第1実施の形態に係るドラムブレーキ装置の干渉音を抑える例について説明する図である。(a)は従来技術のドラムブレーキ装置を比較例として示し、(b)は第1実施の形態のドラムブレーキ装置を実施例として示す。
(a)において、左ブレーキシュー200に備えた上端部201の湾曲凹部201aが、アンカーピン部203の外周203aのうち、左側面に当接している。
右ブレーキシュー205に備えた上端部206の湾曲凹部206aが、アンカーピン部203の外周203aうち、右側面に当接している。
【0063】
この構造において、例えば、ドラムブレーキ装置の操作アーム、ブレーキケーブルまたはブレーキケーブルを操作する操作部材の戻り不良の場合や、これらの遊びやたるみを必要以上に小さくしてしまった場合、左側の湾曲凹部201aとアンカーピン部203の左側面との間や、右側の湾曲凹部206aとアンカーピン部203の右側面との間に隙間が生じることが考えられる。
【0064】
このように、左側の湾曲凹部201aとアンカーピン部203との間や、右側の湾曲凹部206aとアンカーピン部203との間に隙間が生じると、走行による振動で、左右側の上端部201,206がブレーキドラムの径方向(矢印方向)に振れる。
このため、左右側の上端部201,206がそれぞれアンカーピン部203に当たり、干渉音が発生する虞がある。
【0065】
干渉音の発生を抑えるために、例えば、左側の湾曲凹部201aとアンカーピン部203の左側面との間にグリースなどの緩衝剤を介在させる。
同様に、右側の湾曲凹部206aとアンカーピン部203の右側面との間にグリースなどの緩衝剤を介在させる。
【0066】
左側の湾曲凹部201aとアンカーピン部203の左側面との間や、右側の湾曲凹部206aとアンカーピン部203の右側面との間に、グリースなどの緩衝剤を常時介在させておく必要がある。
グリースなどの緩衝剤を常時介在させておくためには、グリースなどの緩衝剤を定期的に供給する必要があり、緩衝剤の供給に手間がかかる。
【0067】
(b)において、左ブレーキシュー16に備えた左上端部18の湾曲凹部76が、アンカーピン部69の外周69bのうち、左側面に当接している。
右ブレーキシュー17に備えた右上端部19の湾曲凹部77が、アンカーピン部69の外周69bのうち、右側面に当接している。
【0068】
この構造において、例えば、図1に示すドラムブレーキ装置10の操作アーム51、ブレーキケーブル54またはブレーキケーブルを操作する操作部材(図示せず)の戻り不良の場合や、これらの遊びやたるみを必要以上に小さくしてしまった場合、左側の湾曲凹部76とアンカーピン部69の左側面との間や、右側の湾曲凹部77とアンカーピン部69の右側面との間に隙間が生じることが考えられる。
【0069】
ここで、左ブレーキシュー16をブレーキ解放位置に配置した状態で、左上規制プレート71の左上延出部71bが、アンカーピン部の上部位69cに接触している。
さらに、左ブレーキシュー16をブレーキ解放位置に配置した状態で、左下規制プレート72の左下延出部72bが、アンカーピン部の下部位69dに接触している。
【0070】
同様に、右ブレーキシュー17をブレーキ解放位置に配置した状態で、右上規制プレート73の右上延出部73bが、アンカーピン部69の上部位69cに接触している。
さらに、右ブレーキシュー17をブレーキ解放位置に配置した状態で、右下規制プレート74の右下延出部74bが、アンカーピン部の下部位69dに接触している。
【0071】
左上下の延出部71b,72bで左上端部18を所定位置に保持するとともに、右上下の延出部73b,74bで右上端部19を所定位置に保持する。
よって、走行による振動が発生した際に、左上端部18および右上端部19が、アンカーピン部69に対してブレーキドラム11の径方向(直線80方向)に振れる(移動する)ことを規制する。
ここで、ブレーキドラム11の径方向とは、図1に示すように、ブレーキドラム11の軸線26からアンカーピン15の中心に向けて延びる直線80の方向をいう。
【0072】
左上端部18および右上端部19のブレーキドラム11の径方向(直線80方向)への振れを規制することで、左上端部18および右上端部19が、アンカーピン部69に干渉することを防いで、干渉音の発生を抑えることができる。
【0073】
さらに、左上下の延出部71b,72bで左上端部18の振れを防ぐことで、この左上端部18とアンカーピン部69との間にグリースなどの緩衝剤を介在させる必要はない。
同様に、右上下の延出部73b,74bで右上端部19の振れを防ぐことで、この右上端部19とアンカーピン部69との間にグリースなどの緩衝剤を介在させる必要はない。
これにより、左上端部18,19とアンカーピン部69との間にグリースなどの緩衝剤を定期的に供給する手間を省くことができる。
【0074】
つぎに、第2実施の形態のドラムブレーキ装置を図8〜図10に基づいて説明する。
なお、第2実施の形態において、第1実施の形態のドラムブレーキ装置10と同一類似部材については同じ符号を付して説明を省略する。
図8は第2実施の形態に係るドラムブレーキ装置の要部を示す分解斜視図である。
第2実施の形態のドラムブレーキ装置90は、第1実施の形態の規制部70を規制部91に代えたもので、その他の構成は第1実施の形態のドラムブレーキ装置10と同様である。
【0075】
規制部91は、左上端部18から左上下の支持ピン92,93を突出し、右上端部19から右上下の支持ピン94,95を突出し、左上支持ピン92および右上支持ピン94に上弾性部材(弾性部材)97を架け渡し、上弾性部材97の中央部位97aをアンカーピン部69の上部位69cに接触させ、左下支持ピン93および右下支持ピン95に下弾性部材(弾性部材)98を架け渡し、下弾性部材98の中央部位98aをアンカーピン部69の下部位69d(図9参照)に接触させたものである。
以下、規制部91について具体的に説明する。
【0076】
左上端部18の上辺18b近傍に左上取付孔101を形成するとともに、この左上取付孔101をブレーキドラムの軸線26と平行に配置する。
左上取付孔101に左上支持ピン92の基部92aを圧入することで、左上支持ピン92を左上端部18の奥側の側面(ブレーキドラムの軸線方向他側)18dからブレーキドラムの軸線26と平行にバックプレート13に向けて突出する。
【0077】
左上端部18の下辺18c近傍に左下取付孔102を形成するとともに、この左下取付孔102をブレーキドラムの軸線26と平行に配置する。
左下取付孔102に左下支持ピン93の基部93aを圧入することで、左下支持ピン93を左上端部18の奥側の側面(ブレーキドラムの軸線方向他側)18dからブレーキドラムの軸線26と平行にバックプレート13に向けて突出する。
【0078】
右上端部19の上辺19b近傍に右上取付孔103を形成するとともに、この右上取付孔103をブレーキドラムの軸線26と平行に配置する。
右上取付孔103に右上支持ピン94の基部94aを圧入することで、右上支持ピン94を右上端部19の奥側の側面(ブレーキドラムの軸線方向他側)19aからブレーキドラムの軸線26と平行にバックプレート13に向けて突出する。
【0079】
右上端部19の下辺19c近傍に右下取付孔104を形成するとともに、この右下取付孔104をブレーキドラムの軸線26と平行に配置する。
右下取付孔104に右下支持ピン95の基部95aを圧入することで、右下支持ピン95を右上端部19の奥側の側面(ブレーキドラムの軸線方向他側)19aからブレーキドラムの軸線26と平行にバックプレート13に向けて突出する。
【0080】
上弾性部材97は、一例として、弾性変形可能な板ばねで形成された部材である。
この上弾性部材97は、中央部位97aの裏面が上向きに凹んだ湾曲状に形成され、中央部位97aから左側に左側部位97bが上り勾配で延出され、中央部位97aから右側に右側部位97cが上り勾配で延出されることで波形に形成されている。
【0081】
中央部位97aは、アンカーピン部69の上部位69cに沿って、中央部位97aの裏面が接触するように湾曲状に形成されている。
中央部位97aと左側部位97bとの境界表面97dが下向きに凹んだ湾曲状に形成されている。
中央部位97aと右側部位97cとの境界表面97eが下向きに凹んだ湾曲状に形成されている。
【0082】
下弾性部材98は、一例として、弾性変形可能な板ばねで形成された部材である。
この下弾性部材98は、中央部位98aの裏面が下向きに凹んだ湾曲状に形成され、中央部位98aから左側に左側部位98bが下り勾配で延出され、中央部位98aから右側に右側部位98cが下り勾配で延出されることで波形に形成されている。
【0083】
中央部位98aは、アンカーピン部69の下部位69d(図9参照)に沿って、中央部位98aの裏面が接触するように湾曲状に形成されている。
中央部位98aと左側部位98bとの境界表面98dが上向きに凹んだ湾曲状に形成されている。
中央部位98aと右側部位98cとの境界表面98eが上向きに凹んだ湾曲状に形成されている。
【0084】
図9(a)は第2実施の形態に係るドラムブレーキ装置の要部を示す斜視図、図9(b)は第2実施の形態に係るドラムブレーキ装置の要部を示す正面図である。
左ウエブ31の湾曲凹部76をアンカーピン部69の左側面に当接して、左ブレーキシュー16をブレーキ解放位置に配置する。
また、右ウエブ37の湾曲凹部77をアンカーピン部69の右側面に当接して、右ブレーキシュー17をブレーキ解放位置に配置する。
【0085】
上弾性部材97は、左境界表面97dを左上支持ピン92に接触するとともに、右境界表面97eを右上支持ピン94に接触し、かつ、中央部位97aの裏面をアンカーピン部69の上部位69cに接触する。
すなわち、上弾性部材97は、左ブレーキシュー16の左上端部18と右ブレーキシュー17の右上端部19とにそれぞれ架け渡され、中央部位97aの裏面がアンカーピン部69の上部位69cに接触されている。
この上弾性部材97は、左右のブレーキシュー16,17を拡開する際に、ブレーキドラム11(図1参照)の径方向(直線80方向)に弾性変形可能な部材である。
【0086】
さらに、下弾性部材98は、左側の境界表面98dを左下支持ピン93に接触するとともに、右側の境界表面98eを右下支持ピン95に接触し、かつ、中央部位98aの裏面をアンカーピン部69の下部位69dに接触する。
すなわち、下弾性部材98は、左ブレーキシュー16の左上端部18と右ブレーキシュー17の右上端部19とにそれぞれ架け渡され、中央部位98aの裏面がアンカーピン部69の下部位69dに接触されている。
この下弾性部材98は、左右のブレーキシュー16,17を拡開する際に、ブレーキドラム11(図1参照)の径方向(直線80方向)に弾性変形可能な部材である。
【0087】
規制部91は、走行による振動が発生した際に、上弾性部材97および左上支持ピン92で、左上端部18がブレーキドラムの径方向(直線80方向)下側に移動することを防ぐ。
また、走行による振動が発生した際に、下弾性部材98および左下支持ピン93で、左上端部18がブレーキドラムの径方向(直線80方向)上側に移動することを防ぐ。
これにより、走行による振動が発生した際に、上下の弾性部材97,98で左上端部18を所定位置に保持する。
【0088】
さらに、規制部91は、走行による振動が発生した際に、上弾性部材97および右上支持ピン94で、右上端部19がブレーキドラムの径方向(直線80方向)下側に移動することを防ぐ。
また、走行による振動が発生した際に、下弾性部材98および右下支持ピン95で、右上端部19がブレーキドラムの径方向(直線80方向)上側に移動することを防ぐ。
これにより、走行による振動が発生した際に、上下の弾性部材97,98で右上端部19を所定位置に保持する。
【0089】
加えて、上下の弾性部材97,98や、支持ピン92〜95は、それぞれ簡単な形状の部材である。
よって、規制部91として上下の弾性部材97,98や、支持ピン92〜95を用いることで、規制部91の構成を簡素にすることができる。
【0090】
図10は第2実施の形態に係るドラムブレーキ装置の要部を示す平面図である。
左上端部18の奥側の側面18dから左上支持ピン92をバックプレート13に向けて突出し、右上端部19の奥側の側面19aから右上支持ピン94をバックプレート13に向けて突出する。
左上支持ピン92および右上支持ピン94に上弾性部材97を架け渡す。これにより、上弾性部材97を、左上端部18とベース63との間の空間や右上端部19とベース63との間の空間に配置する。
【0091】
同様に、左上端部18の奥側の側面18dから左下支持ピン93(図2参照)をバックプレート13に向けて突出し、右上端部19の奥側の側面19aから右下支持ピン95(図2参照)をバックプレート13に向けて突出する。
左下支持ピン93および右下支持ピン95に下弾性部材98を架け渡す。これにより、下弾性部材98を、左上端部18とベース63との間の空間や右上端部19とベース63との間の空間に配置する。
【0092】
なお、上下の弾性部材97,98を、左上端部18とストッパプレート29との間の空間や右上端部19とストッパプレート29との間の空間に配置することも可能である。
すなわち、左上端部18の手前側の側面18aから左上下の支持ピン92,93をストッパプレート29に向けて突出する。
右上端部19の手前側の側面19dから右上下の支持ピン94,95をストッパプレート29に向けて突出する。
【0093】
左上支持ピン92および右上支持ピン94に上弾性部材97を架け渡して、上弾性部材97を左上端部18とストッパプレート29との間の空間や右上端部19とストッパプレート29との間の空間に配置する。
左下支持ピン93および右下支持ピン95に下弾性部材98を架け渡して、下弾性部材98を左上端部18とストッパプレート29との間の空間や右上端部19とストッパプレート29との間の空間に配置する。
ここで、右上端部19の手前側の側面19dとは、右上端部19において、ブレーキドラム11(図1参照)の軸線26方向一側をいう。
【0094】
つぎに、第2実施の形態のドラムブレーキ装置90の作用を図1および図11〜図14に基づいて説明する。
まず、ドラムブレーキ装置90の左右のブレーキシュー16,17を拡開する例を図1および図11〜図13に基づいて説明する。
【0095】
図1において、ブレーキケーブル54を矢印Cの如く引っ張ることで、操作アーム51を支持ピン52を軸にして矢印Dの如くスイング移動する。
操作アーム51をスイング移動することで、操作アーム51で連結部材58を矢印Eの如く移動する。連結部材58を移動することで、連結部材58で右ウエブ37の右凹部57を押圧する。
【0096】
図11(a),(b)は第2実施の形態に係るドラムブレーキ装置の右ブレーキシューを拡開する例を説明する図である。
(a)において、右ウエブ37を連結部材58(図1参照)で押圧することで、右上端部19が矢印Iの如く移動する。
【0097】
この際、右上端部19と一体に右上支持ピン94が矢印Iの如く移動して、上弾性部材97の右側部位97cが矢印Jの如く弾性変形する。
さらに、右上端部19と一体に右下支持ピン95が矢印Iの如く移動して、下弾性部材98の右側部位98cが矢印Kの如く弾性変形する。
【0098】
(b)において、右上端部19の湾曲凹部77がアンカーピン部69の右側面から離れる。
この状態において、上弾性部材97の右側部位97cを右上支持ピン94に接触させた状態に保つ。
さらに、下弾性部材98の右側部位98cを右下支持ピン95に接触させた状態に保つ。
【0099】
図1に戻って、右ブレーキシュー17が拡開して、右ライニング39でブレーキドラム11の内周面11aを押圧する。
この状態で、ブレーキケーブル54を矢印C方向へ継続して引っ張る。操作アーム51が連結部材58と当接しているので、操作アーム51は連結部材58との当接部を軸にして反時計回り方向にスイング移動する。
よって、操作アーム51の上端部とともに支持ピン52が矢印Gの如くブレーキドラム11の内周面11a側に移動する。
【0100】
図12(a),(b)は第2実施の形態に係るドラムブレーキ装置の左ブレーキシューを拡開する例を説明する図である。
(a)において、支持ピン52(図1参照)が移動することで、左上端部18が矢印Lの如く移動する。
【0101】
この際、左上端部18と一体に左上支持ピン92が矢印Lの如く移動して、上弾性部材97の左側部位97bが矢印Mの如く弾性変形する。
さらに、左上端部18と一体に左下支持ピン93が矢印Lの如く移動して、下弾性部材98の左側部位98bが矢印Nの如く弾性変形する。
【0102】
(b)において、左上端部18の湾曲凹部76がアンカーピン部69の左側面から離れる。
このように、上下の弾性部材をブレーキドラムの径方向(直線80方向)に弾性変形させることで、左右の上端部18,19を、左右のブレーキシュー16,17を拡開する方向に移動可能とした。
よって、左右の上端部18,19を移動して、左右のブレーキシュー16,17を拡開する。
【0103】
左右のブレーキシュー16,17を拡開した状態において、左上支持ピン92に上弾性部材97の左側部位97bを接触させた状態に保つ。
さらに、左下支持ピン93に下弾性部材98の左側部位98bを接触させた状態に保つ。
【0104】
再度図1に戻って、左ブレーキシュー16が拡開して、左ライニング33でブレーキドラム11の内周面11aを押圧する。
このように、左右のブレーキシュー16,17でブレーキドラム11の内周面11aを押圧することで、ブレーキドラム11を左右のブレーキシュー16,17で制動する。
【0105】
一方、ブレーキドラム11の制動を解除する際には、運転室内のパーキングブレーキレバーをブレーキ解除位置に戻す。
ブレーキケーブル54の引張力を解除して、左右のブレーキシュー16,17を上下のリターンスプリング48,49でブレーキ解除位置に復帰させる。
【0106】
図13は第2実施の形態に係るドラムブレーキ装置のブレーキシューを復帰する例を説明する図である。
左ブレーキシュー16をブレーキ解除位置に復帰する際に、上弾性部材97の左側部位97bが矢印Oの如く弾性復帰するとともに、下弾性部材98の左側部位98bが矢印Pの如く弾性復帰する。
これにより、左上支持ピン92および左下支持ピン93を介して左上端部18を矢印Q方向に移動する。
【0107】
右ブレーキシュー17をブレーキ解除位置に復帰する際に、上弾性部材97の右側部位97cが矢印Rの如く弾性復帰するとともに、下弾性部材98の右側部位98cが矢印Sの如く弾性復帰する。
これにより、右上支持ピン94および右下支持ピン95を介して右上端部19を矢印T方向に移動する。
【0108】
このように、上下の弾性部材97,98の弾性復帰を利用することで、左右のブレーキシュー16,17をブレーキ解除位置に一層確実に戻すことができる。
【0109】
つぎに、ドラムブレーキ装置90の干渉音の発生を抑える例を図14に基づいて説明する。
図14は第2実施の形態に係るドラムブレーキ装置の干渉音を抑える例について説明する図である。
左ブレーキシュー16に備えた左上端部18の湾曲凹部76が、アンカーピン部69の外周69bのうち、左側面に当接している。
右ブレーキシュー17に備えた右上端部19の湾曲凹部77が、アンカーピン部69の外周69bのうち、右側面に当接している。
【0110】
この構造において、例えば、図1に示すドラムブレーキ装置10の操作アーム51、ブレーキケーブル54またはブレーキケーブルを操作する操作部材(図示せず)の戻り不良の場合や、これらの遊びやたるみを必要以上に小さくしてしまった場合、左側の湾曲凹部76とアンカーピン部69の左側面との間や、右側の湾曲凹部77とアンカーピン部69の右側面との間に隙間が生じることが考えられる。
【0111】
ここで、左右のブレーキシュー16,17をブレーキ解放位置に配置した状態で、上弾性部材97の左境界表面97dが左上支持ピン92に接触するとともに、右境界表面97eが右上支持ピン94に接触している。
さらに、上弾性部材97の中央部位97aの裏面がアンカーピン部69の上部位69cに接触している。
【0112】
同様に、左右のブレーキシュー16,17をブレーキ解放位置に配置した状態で、下弾性部材98の左境界表面98dが左下支持ピン93に接触するとともに、右境界表面98eが右下支持ピン95に接触している。
さらに、下弾性部材98の中央部位98aの裏面がアンカーピン部69の下部位69dに接触している。
【0113】
これにより、上下の弾性部材97,98で左上端部18を所定位置に保持するとともに、上下の弾性部材97,98で右上端部19を所定位置に保持する。
よって、走行による振動が発生した際に、左上端部18および右上端部19が、アンカーピン部69に対してブレーキドラムの径方向(直線80方向)に振れる(移動する)ことを規制する。
したがって、左上端部18および右上端部19が、アンカーピン部69に干渉することを防いで、干渉音の発生を抑えることができる。
【0114】
さらに、上下の弾性部材97,98および支持ピン92〜95で左右の上端部18,19の振れを防ぐことで、左上端部18とアンカーピン部69との間や、右上端部19とアンカーピン部69との間にグリースなどの緩衝剤を介在させる必要がない。
これにより、左右の上端部18,19とアンカーピン部69との間にグリースなどの緩衝剤を定期的に供給する手間を省くことができる。
【0115】
なお、前記第1、第2の実施の形態では、ドラムブレーキ装置10,90をパーキングブレーキとして用いた例について説明したが、これに限らないで、サービスブレーキとして用いた場合にも同様の効果を得ることができる。
なお、ドラムブレーキ装置10,90をサービスブレーキとして用いる場合は、通常、油圧シリンダ(図示せず)を用いて左右のブレーキシュー16,17を拡開する。
ドラムブレーキ装置10,90をサービスブレーキとして用いた場合、ブレーキドラム11の回転を考慮して、左右のブレーキシュー16,17をリーディング作動で拡開する。
【0116】
また、前記第1、2の実施の形態では、一対のブレーキシューを左右のブレーキシュー16,17とした例について説明したが、これに限らないで、例えば、一対のブレーキシューを上下のブレーキシューとすることも可能である。
【0117】
さらに、前記第1、2の実施の形態では、一対のブレーキシューのそれぞれの一端部を上端部として説明したが、これに限らないで、例えば、一対のブレーキシューの下端部とすることも可能である。
【0118】
また、前記第1実施の形態では、左上端部18に左上下の規制プレート71,72を溶接で取り付け、右上端部19に右上下の規制プレート73,74を溶接で取り付けた例について説明したが、これに限らないで、規制プレート71〜74をボルト、リベットなどの締結部材を用いて取り付けることも可能であり、規制プレート71〜74の取付方法は問わない。
【0119】
さらに、前記第2実施の形態では、上下の弾性部材97,98を支持ピン92〜95を介して左右の上端部18,19に架け渡した例について説明したが、これに限らないで、ボルト、リベットなどを用いることも可能であり、上下の弾性部材97,98を左右の上端部18,19に架け渡す方法は問わない。
【0120】
また、前記第1実施の形態では、左上規制プレート71および左下規制プレート72を二部材で構成したが、これに限らないで、左上規制プレート71および左下規制プレート72を一部材で構成することも可能である。
同様に、右上規制プレート73および右下規制プレート74を二部材で構成したが、これに限らないで、右上規制プレート73および右下規制プレート74を一部材で構成することも可能である。
また、各規制プレート71〜74が左ウエブ31や右ウエブ37から一体に形成(突出)され、突出させた部位が、ブレーキドラムの軸線方向一側側と他側側とに互い違いに折り曲げられる構造であってもよい。
【0121】
さらに、前記第2実施の形態では、上下の弾性部材97,98を二部材で構成したが、これに限らないで、上下の弾性部材97,98を一部材で構成することも可能である。
【0122】
また、前記第2実施の形態では、上下の弾性部材97,98を、弾性変形可能な板ばねで形成した例について説明したが、これに限らないで、上下の弾性部材97,98を、弾性変形可能なピンで形成することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明は一対のブレーキシューをアンカーに支持したドラムブレーキ装置への適用に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】本発明に係る第1実施の形態のドラムブレーキ装置を示す正面図である。
【図2】第1実施の形態に係るドラムブレーキ装置の要部を示す分解斜視図である。
【図3】図3(a)は第1実施の形態に係るドラムブレーキ装置の要部を示す斜視図、図3(b)は第1実施の形態に係るドラムブレーキ装置の要部を示す正面図である。
【図4】第1実施の形態に係るドラムブレーキ装置の要部を示す平面図である。
【図5】第1実施の形態に係るドラムブレーキ装置の右ブレーキシューを拡開する例を説明する図である。
【図6】第1実施の形態に係るドラムブレーキ装置の左ブレーキシューを拡開する例を説明する図である。
【図7】第1実施の形態に係るドラムブレーキ装置の干渉音を抑える例について説明する図である。
【図8】第2実施の形態に係るドラムブレーキ装置の要部を示す分解斜視図である。
【図9】図9(a)は第2実施の形態に係るドラムブレーキ装置の要部を示す斜視図、図9(b)は第2実施の形態に係るドラムブレーキ装置の要部を示す正面図である。
【図10】第2実施の形態に係るドラムブレーキ装置の要部を示す平面図である。
【図11】第2実施の形態に係るドラムブレーキ装置の右ブレーキシューを拡開する例を説明する図である。
【図12】第2実施の形態に係るドラムブレーキ装置の左ブレーキシューを拡開する例を説明する図である。
【図13】第2実施の形態に係るドラムブレーキ装置のブレーキシューを復帰する例を説明する図である。
【図14】第2実施の形態に係るドラムブレーキ装置の干渉音を抑える例について説明する図である。
【符号の説明】
【0125】
10,90…ドラムブレーキ装置、11…ブレーキドラム、11a…内周面、13…バックプレート、15…アンカー、16,17…左右のブレーキシュー(一対のブレーキシュー)、18…左上端部(一端部)、19…右上端部(一端部)、18a…手前側の側面(ブレーキドラムの軸線方向一側)、19a…奥側の側面(ブレーキドラムの軸線方向他側)、25…拡開機構、26…軸線、69…アンカーピン部、69b…外周、69c…上部位(ブレーキドラムの軸線に臨む部位)、69d…下部位(ブレーキドラムの内周面に臨む部位)、70,91…規制部、71…左上規制プレート(規制プレート)、72…左下規制プレート(規制プレート)、73…右上規制プレート(規制プレート)、74…右下規制プレート(規制プレート)、92…左上支持ピン、93…左下支持ピン、94…右上支持ピン、95…右下支持ピン、97…上弾性部材(弾性部材)、98…下弾性部材(弾性部材)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状に形成されたブレーキドラムと、
このブレーキドラム内にアンカーを配置するようにアンカーを立設させたバックプレートと、
前記ブレーキドラムの内周面に沿って配置され、前記アンカーに各一端部が支持された一対のブレーキシューと、
前記一対のブレーキシューを拡開して前記ブレーキドラムの内周面に押圧する拡開機構と、
を備えたドラムブレーキ装置において、
前記一対のブレーキシューの一端部が、前記アンカーに対して前記ブレーキドラムの径方向に移動することを規制する規制部を設けたことを特徴とするドラムブレーキ装置。
【請求項2】
前記規制部は、前記一対のブレーキシューの一端部にそれぞれ設けられ、前記アンカーの外周のうち、前記ブレーキドラムの軸線に臨む部位と、ブレーキドラムの内周面に臨む部位とに接触する規制プレートであって、
この規制プレートは、一対のブレーキシューのうち、一方のブレーキシューの一端部において、前記ブレーキドラムの軸線方向一側に設けられ、
他方のブレーキシューの一端部において、前記ブレーキドラムの軸線方向他側に設けられたことを特徴とする請求項1記載のドラムブレーキ装置。
【請求項3】
前記規制部は、前記一対のブレーキシューのそれぞれの一端部に架け渡された弾性部材を備え、
この弾性部材を、前記アンカーの外周のうち、前記ブレーキドラムの内周面に臨む部位と、ブレーキドラムの軸線に臨む部位とにそれぞれ接触させ、
この弾性部材を前記ブレーキドラムの径方向に弾性変形させて一対のブレーキシューを拡開可能としたことを特徴とする請求項1記載のドラムブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−64334(P2007−64334A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−250309(P2005−250309)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】