説明

ドーム状屋根構造

【課題】単一曲面内に多数の接合点の集中を緩和し、また、容易に接合作業を行うことができることによって施工時間を短縮し得るドーム状の屋根構造を提供すること
【解決手段】第一の仮想曲面上に配置した第一の主材と、第二の仮想曲面上に配置した第二の主材とを備え、上記第一の主材と第二の主材を補剛材により適宜位置で接合してなることを特徴とするドーム状屋根構造を要旨としている。第一の主材と第二の主材は、異なる仮想曲面上に配置されることから、補剛材と接合点は単一曲面上に集中することはなく、三次元に補剛材を配置することができる。また、第一または第二仮想曲面に対して、有角的に補剛材が接合することとなるから、高力ボルトを用いたフランジ継手による接合ではなく、例えば、ガセット・プレートを利用して接合することも可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の屋根構造に関し、特に、ドーム状屋根構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドーム状の屋根構造としては、トラス構造(特許文献1)およびラチス構造(特許文献2)があり、トラス構造のドーム屋根は、屋根全体を構成するために、外周からトラスを構築しつつ組み立てる必要があるため、現在では、ラチス構造のドーム屋根が主流となっている。
【0003】
そこで、前掲の特許文献2に開示される技術は、水平ラチス材と斜めラチス材が、ジョイント部材を介して一体に接合される構成であり、ジョイント部材には、接合すべき水平ラチス材または斜めラチス材に向けて延出するブラケットが備えられ、このブラケットとラチス材のそれぞれの上下にはフランジが設けられ、このフランジをボルトで接合する構成であった。
【0004】
上記のような構成にあっては、使用するボルトの数が非常に多いことから、その接合には溶接が使用されることがあった。しかしながら、ラチス部材の接合点における溶接は、技術的に難しさを伴うものであるため、ラチス部材を肉厚管により構成するように改良されていた(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−148901号公報
【特許文献2】特開平9−268693号公報
【特許文献3】特開平10−299078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記に示したラチス構造のドーム屋根は、いずれもラチス材を単層に交差してなる構成であるため、単一曲面内に多数の接合点が集中することとなっていた。また、接合作業は、溶接による接合方法を採用する場合、溶接設備として溶接用電源工事をはじめ足場、防風設備の仮設工事や溶接装置、ガス供給設備の揚重作業など多岐にわたる工事計画への配慮が必要であり、施工前検査、施工中検査、施工後検査を行わなければならない。他方、高力ボルトを用いたフランジ継手による接合方法を採用した場合では、接合部が露出しているため見栄えが悪い問題やボルト締めの工程や検査を行わなければならない。そのため、施工時間が長期化するものとなっていた。
【0007】
本発明は、上記諸点にかんがみてなされたものであって、その目的とするところは、単一曲面内に多数の接合点の集中を緩和し、また、容易に接合作業を行うことができることによって施工時間を短縮し得るドーム状の屋根構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明は、第一の仮想曲面上に配置した第一の主材と、第二の仮想曲面上に配置した第二の主材とを備え、上記第一の主材と第二の主材を補剛材により適宜位置で接合してなることを特徴とするドーム状屋根構造を要旨としている。
【0009】
上記構成によれば、第一の主材と第二の主材は、異なる仮想曲面上に配置されることから、補剛材と接合点は単一曲面上に集中することはなく、三次元に補剛材を配置することができる。また、第一または第二仮想曲面に対して、有角的に補剛材が接合することとなるから、高力ボルトを用いたフランジ継手による接合ではなく、例えば、ガセット・プレートを利用して接合することも可能となる。
【0010】
上記発明において、第一の仮想曲面と第二の仮想曲面の間隔は、均等な距離を有して上下方向に積層されている構成とすることができる。
【0011】
上記構成によれば、第一の仮想曲面に配置される第一の主材と、第二の仮想曲面に配置される第二の主材とは、均等な距離を有して配置されることとなるから、補剛材を規則的に配置することができる。このような規則的な補剛材の配置によって、各部材の組み立てが容易となる。
【0012】
また、上記各発明において、第一の主材と第二の主材は、ともに弓状に湾曲してなり、双方の主材の弦方向が相互に直交するように配置する構成とすることができる。
【0013】
上記のような構成すれば、第一の主材と第二の主材とが交差する点の周辺において補剛材を配置することができる。このような補剛材の配置によって、それぞれの交差位置における両主材の結合状態を均等なものにすることができる。
【0014】
そして、上記各発明における補剛材は、一つの接合位置に対して複数を接合するように構成することができる。
【0015】
上記構成では、第一の主材および第二の主材の双方において、一つの接合位置から複数の補剛材が対向する他方の主材に接合されることとなり、構成される屋根全体が強固に一体化されることとなる。
【0016】
上記各発明における主材と補剛材は、予め主材に溶接されたガセット・プレートに対し補剛材を高力ボルトでピン接合してなる構成とすることができる。
【0017】
上記のような構成によれば、高力ボルトを用いたフランジ継手による接合のように多数のボルトを使用する必要はなく、溶接による接合の必要もなくなるものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ドーム状の屋根を構成する第一の主材と第二の主材との間には、適宜な距離を有しており、その中間に補剛材を配置する構成であるから、当該補剛材は、主材が配置される単一の仮想曲面上でのみ懸架されるものではなく、両仮想曲面に対して有角的に配置されることとなり、その接合位置において補剛材が単一曲面上に集中することはない。
【0019】
また、補剛材は、異なる仮想曲面上に配置される主材間に設けられることから、高力ボルトを用いたフランジ継手による接合または溶接による接合を不要にし、ガセット・プレート等による簡易な接合方法を採用することができる。特に、当該ガセット・プレートを使用して接合する場合は、接合点ごとに高力ボルトで固定することによって接合することが可能となるので、施工時間を短縮することが可能となる。さらに、このような接合方法を採用する場合には、接合部が露出しないという効果をも奏することとなる。

【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態を示す説明図である。(A)は平面図、(B)は正面図、(C)は側面図である。
【図2】主材と補剛材の関係を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施形態における各部材の位置関係を示す分解図である。
【図4】本発明の実施形態の平面を拡大した説明図である。
【図5】本発明の実施形態について有限要素法解析を行った結果を示す図である。
【図6】本発明の実施形態について材料効率を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態であるドーム状の屋根構造を概略的に示している。(A)は平面図であり、(B)は正面図、(C)は側面図である。この図に示すように、第一の主材1は第一の仮想曲面上(球面上)に配置され、第二の主材2は第二の仮想曲面上(球面上)に配置されており、両仮想曲面(球面)は上下に分かれて積層されている。
【0022】
この両仮想曲面(球面)は、積層された状態において、両者の間隔は、位置にかかわらず同じ距離が保持されている。なお、この仮想曲面は、球面に限定されるものではなく、両仮想曲面の間隔が均等となるように積層されるものに限定されるものではないが、代表的かつ簡易な曲面として球面を例示している。
【0023】
上記二種類の主材1,2は、球面の弧に沿って配置され、また、隣接する主材の間隔が均一となるように配置されている。また、このように配置された主材1,2の弦方向は、相互に直交するように各主材1,2の長手方向の向きが調整されている。なお、正確には弦が交わらない場合もあるから、平面視において一方の主材1の弦方向をX方向とするとき、他方の主材2の弦方向をY方向とするという意味である。
【0024】
このように配置された二種類の主材1,2(二種類の仮想曲面)の中間に補剛材3が懸架されている。図2および図3に示すように、第一の主材1の接合部4に4本の補剛材3が接合され、第二の主材2の接合部5にも4本の補剛材3が接合されている。これらの補剛材3は、それぞれの仮想曲面(球面)に接合部4,5で接する平面に対して有角的に接合されており、両端の一方は第一の主材1に、他方は第二の主材2に接合されている。
【0025】
このような補剛材3を曲面(球面)の法線方向から観察する場合、図4に示すように、平面視において第一の主材1と第二の主材2が交差する位置11,12,13には、接合されておらず、当該交差する点の中間21,22において接合されている。つまり、このような交差によって形成される直交格子(平面視正方形)の四辺の中点間に、補剛材3が正面視または側面視において斜め方向に配置されるのである。この補剛材3は規則的に配置されることから、上記の斜め方向の角度も規則性を有して配置されることとなる。
【0026】
このように、第一および第二の主材1,2は、高さが異なる(一定の距離を有している)ことから、平面視において交差するものの直接的に交わることはない。これに対して、補剛材3の両端は第一または第二の主材1,2に接合され、これら全体が一体化されるのである。ここで、第一または第二の主材1,2と補剛材3の両端は、溶接または高力ボルトを用いたフランジ継手による接合方法を採用するものではなく、予め第一および第二の主材1,2に溶接されたガセット・プレートと補剛材3を高力ボルトにてピン接合するのである。第一および第二の主材1,2において、補剛材3との接合位置は、設計の段階で特定されることから、当該位置に予めガセット・プレートを溶接することができる。そして、このガセット・プレートを利用して補剛材3を高力ボルトによって接合するのである。
【0027】
上記のような構成によれば、補剛材3は、直交格子ドームの面内剛性を補うものと想定して設置され、また、第一および第二の主材1,2に対しては基本的にはドームの面外方向に変位する並列アーチ構造の特性を有するような効果を奏することができる。さらに、第一および第二の主材1,2は境界(主材の両端)における支持点から支持点まで、各部材間の接合は直接表には現れず、比較的接合部の少ない構造となる。
【0028】
また、予め主材1,2に溶接されたガセット・プレートを使用して接合することによって、接合作業が簡便になり、施行効率が向上するものである。なお、図3において図示されているように、第一の主材1で構成される曲面、および、第二の主材2で構成される曲面は、相互に独立した状態で設けられることから、例えば地震等により、いずれか一方が破損等した場合であっても、中間に配置される補剛材によって形状が保持されることとなり、屋根構造全体が崩壊することはなく、補修についても屋根構造を維持しつつ補修個所のみを修繕することができるという効果をも有するものである。
【0029】
以上、本発明の好適な実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で種々の変形または変更が可能であり、このような変形例または変更例も本発明の範囲内に含まれるものであることは、いうまでもない。
【0030】
例えば、上記実施形態では、各部材1,2,3について詳細を特に定めて説明していないが、例えば、鋼管を使用することができる。そして、その形状については、円形断面、楕円形断面、多角形断面等の各種断面形状で構成することができる。さらに、上記ドーム状屋根構造を使用する建築物については、木造、鉄筋コンクリート造等の各種建築物に適用し得るものである。
【0031】
また、仮想曲面については、球面を例示して説明したが、この仮想曲面はこれに限定されるものではなく、各種の所望形状を想定して主材1,2を配置することができる。そして、主材1,2については、球面に沿った状態で弧状に配置する状態を例示したが、仮称曲面上に配置する構成であれば、波状に形成した場合またはその他の幾何学的な形状に形成したものを配置することができる。
【0032】
以下に本発明で提案するドーム構造の耐荷力および材料効率の解析結果について説明する。
【0033】
解析に使用するドーム構造は、上述した実施形態と同様の構造を有し、仮想曲面は球面としたドーム(以下、モデルドームという)である。
【0034】
まず、このモデルドームに対して、等分布状の雪荷重を想定した有限要素法解析を行った。比較例は、従来の単層直交格子ドームである。なお、従来の単層直交格子ドームは、日本建築学会構造系論文集第522号の第79頁〜第86頁に掲載されている「パーツ方式によるハイブリッド単層ラチスシェル及び対座屈荷重設計法の提案」において記述される単層直交格子ドームの構造を参考にし、補剛材を主材の中間でピン接合により取り付けるように変更したものである。荷重条件として単位面積当たりの固定重量を1.0kN/mとし、36mについて合計36kN/mの負荷を与えた。解析の結果を図5に示す。ただし、図中の横軸は変位(mm)、縦軸は荷重係数である。
【0035】
この解析結果からも明らかなとおり、本発明で提案するモデルドームの最大荷重係数は9.08であるのに対し、従来の単層直交格子ドームの最大荷重係数は7.88であるから、本発明で提案するモデルドームは、従来の単層直交格子ドームに比べ約2割程度高い耐荷力を示した。
【0036】
また、モデルドームについての材料効率も解析した。材料効率は、鋼材重量に対する耐力時の全体荷重の比(耐力時の全体荷重/鋼材重量)によって解析することができる。図6はその解析結果を示す。なお、比較対象のドーム状屋根は上述の単層直交格子ドームと同じ構成である。
【0037】
この結果から明らかなとおり、解析したドーム状の屋根構造は、従来の単層直交格子ドームに比べ約25%程度高い材料効率を示した。なお、材料効率について精密に検討した場合には、従来の単層直交格子ドームは、部材そのものの重量に較べて接合部の重量の割合が比較的大きくなるため、本発明で提案する直交格子ドームの材料効率は上述で述べたものより増大すると考えられる。

【符号の説明】
【0038】
1 第一の主材
2 第二の主材
3 補剛材
4,5 接合部
11,12,13 主材が交差する点
21,22 中間点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の仮想曲面上に配置した第一の主材と、第二の仮想曲面上に配置した第二の主材とを備え、上記第一の主材と第二の主材を補剛材により適宜位置で接合してなることを特徴とするドーム状屋根構造。
【請求項2】
前記第一の仮想曲面と前記第二の仮想曲面の間隔は、均等な距離を有して上下方向に積層されていることを特徴とする請求項1に記載のドーム状屋根構造。
【請求項3】
前記第一の主材と前記第二の主材は、ともに弓状に湾曲してなり、双方の主材の弦方向が相互に直交するように配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載のドーム状屋根構造。
【請求項4】
前記補剛材は、一つの接合位置に対して複数が接合された補剛材であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のドーム状屋根構造。
【請求項5】
前記主材と前記補剛材は、予め主材に溶接されたガセット・プレートに対し補剛材を高力ボルトでピン接合してなることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のドーム状屋根構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−179201(P2011−179201A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43410(P2010−43410)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【Fターム(参考)】