説明

ナットホルダー、継手部構造及びコンクリート構造物

【課題】ナットホルダーを横や斜めにした状態でもナットがナットホルダーから落下することがなく、作業性を向上させることができるナットホルダー、継手部構造及びコンクリート構造物を提供する。
【解決手段】本発明のナットホルダー1は、本体10の内部に、ナットを非回転かつ遊嵌状に収容する第一収容領域11と、第一領域11に隣接しナットに締結された締結ボルトの先端部を収容する第二収容領域12と、第二収容領域12に隣接しナットに挿通された仮締ボルトの先端部と螺合する第三収容領域13と、本体10の外面に形成され本体10の周囲を覆う部材に係止される突出部14と、第一収容領域11の内面に形成された突起15と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルトと螺合するナットを収容するナットホルダー、継手部構造及びコンクリート構造物に関し、特に、ナットホルダー内にナットを一時的に係止できるようにしたナットホルダー、継手部構造及びコンクリート構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
ナットホルダーを使用した継手部構造は、例えば、シールドトンネルのセグメントに採用されている。かかるセグメントは、トンネルを形成する環状の筒を周方向に複数に分割した形状をなしており、全体を鉄筋コンクリートにより構成したRCセグメントや外表面及び外周面を鋼板で覆って内部をコンクリートで充填した合成セグメント等、種々のタイプのものが存在している。
【0003】
前記セグメントは、トンネルの敷設方向及び周方向に分割されているため、トンネルを構築するためには各セグメント同士を結合しなければならない。このセグメント同士の結合に際し、締結ボルトとナットを使用する場合に、予めナットをセグメントに収容しておくことがある。このナットをコンクリートに固定して配置した場合には、ナットの位置が固定されてしまうため、他方のセグメントに配置されるボルトの位置や角度も固定されてしまい、セグメント同士の継手部構造に組立誤差や製作誤差が生じ、ボルトとナットの締結が困難になってしまうという問題がある。かかる問題に対応するため、ナット側の継手板にナットを固着せずに収容するナットホルダーが提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2000−65028号公報
【特許文献2】特開2006−132257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1及び特許文献2に記載されたナットホルダーは、いずれもナットを挿入する開口部を有し、ナットホルダーの収容部にナットを挿入してから締結ボルトの挿通孔を有する板材で開口部を塞ぐように構成されている。このとき、ナットは開口部から収容部に挿入されるのみで何ら拘束されていないため、ナットホルダーの開口部を上にした状態で板材により開口部を塞ぐ場合には、ナットが開口部から落下することはないが、継手部構造によっては、ナットホルダーを横や斜めにした状態で板材に接触させなければならない場合もあり、ナットホルダーからナットが落下し易く、作業性が悪いという問題があった。
【0006】
本発明は、上述の課題に鑑み創案された発明であり、ナットホルダーを横や斜めにした状態でもナットがナットホルダーから落下することがなく、作業性を向上させることができるナットホルダー、継手部構造及びコンクリート構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、本体の内部に、ナットを非回転かつ遊嵌状に収容する第一収容領域と、該第一領域に隣接し前記ナットに締結された締結ボルトの先端部を収容する第二収容領域と、該第二収容領域に隣接し前記ナットに挿通された仮締ボルトの先端部と螺合する第三収容領域と、前記第一収容領域の内面に形成された突起と、を有し、前記突起は、前記ナットの一端部と接触し、前記ナットの他端部の角部を前記第一収容領域の内面に接触させて前記ナットを係止させる、ことを特徴とするナットホルダーが提供される。
【0008】
前記ナットホルダーは、前記第一収容領域の内側面に前記ナットの側面と接触可能な凸部が形成されていてもよいし、前記第三収容領域には前記仮締ボルトと同等以上の強度を有する素材により構成された仮締用ナットが前記仮締ボルトの挿入方向と反対側から挿入されていてもよいし、前記本体の外面には前記本体の周囲を覆う部材に係止される突出部が形成されていてもよい。
【0009】
また、本発明によれば、被締結部材を締結ボルトとナットにより締結する継手部構造であって、前記締結ボルトを挿通可能なボルト挿通孔が形成されたプレートと、該プレートの背面にシール部材を介して配置され前記ナットを収容したナットホルダーと、該ナットホルダーの周囲に充填されたコンクリートと、を有し、前記ナットホルダーは、本体の内部に、ナットを非回転かつ遊嵌状に収容する第一収容領域と、該第一領域に隣接し前記ナットに締結された締結ボルトの先端部を収容する第二収容領域と、該第二収容領域に隣接し前記ナットに挿通された仮締ボルトの先端部と螺合する第三収容領域と、前記第一収容領域の内面に形成された突起と、を有し、前記突起は、前記ナットの一端部と接触し、前記ナットの他端部の角部を前記第一収容領域の内面に接触させて前記ナットを係止させるように構成されている、ことを特徴とする継手部構造が提供される。
【0010】
前記ナットホルダーは、前記第一収容領域の内側面に前記ナットの側面と接触可能な凸部が形成されていてもよいし、前記第三収容領域には前記仮締ボルトと同等以上の強度を有する素材により構成された仮締用ナットが前記仮締ボルトの挿入方向と反対側から挿入されていてもよいし、前記本体の外面には前記本体の周囲を覆う部材に係止される突出部が形成されていてもよい。
【0011】
さらに、本発明によれば、締結ボルトとナットにより締結されるコンクリート構造物であって、前記締結ボルトを挿通可能なボルト挿通孔が形成されたプレートと、該プレートの挿通孔の背面にシール部材を介して配置され前記ナットを収容したナットホルダーと、該ナットホルダーの周囲に充填されたコンクリートと、を有し、前記ナットホルダーは、本体の内部に、ナットを非回転かつ遊嵌状に収容する第一収容領域と、該第一領域に隣接し前記ナットに締結された締結ボルトの先端部を収容する第二収容領域と、該第二収容領域に隣接し前記ナットに挿通された仮締ボルトの先端部と螺合する第三収容領域と、前記第一収容領域の内面に形成された突起と、を有し、前記突起は、前記ナットの一端部と接触し、前記ナットの他端部の角部を前記第一収容領域の内面に接触させて前記ナットを係止させるように構成されている、ことを特徴とするコンクリート構造物が提供される。
【0012】
前記ナットホルダーは、前記第一収容領域の内側面に前記ナットの側面と接触可能な凸部が形成されていてもよいし、前記第三収容領域には前記仮締ボルトと同等以上の強度を有する素材により構成された仮締用ナットが前記仮締ボルトの挿入方向と反対側から挿入されていてもよいし、前記本体の外面には前記本体の周囲を覆う部材に係止される突出部が形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
上述した本発明のナットホルダー、継手部構造及びコンクリート構造物によれば、ナットの角部を収容部の内面に接触させてナットを係止させる突起をナットホルダーに形成したことにより、ナットの角部をナットホルダーの内面にかじらせることができ、ナットを一時的に係止させることができる。したがって、ナットホルダーを横や斜めにした状態でもナットがナットホルダーから落下することがなく、作業性を向上させることができる。なお、このようにナットを係止させた場合であっても、ナットホルダーの仮留め工程において係止状態を解除させることができ、本締め工程では従来のナットホルダーと同様に機能させることができる。
【0014】
また、ナットホルダーの内側面に凸部を形成することにより、ナットの側面部との摩擦抵抗を大きくすることができ、よりナットを落下させ難くすることができる。また、仮締ボルトと同等以上の強度を有する素材により構成された仮締用ナットを使用することにより、雌ネジ部の損傷を抑制して確実に仮締ボルトをナットホルダーに締結することができ、仮留め工程の作業性を向上させることができる。さらに、本体の外面に突出部を形成することにより、ナットホルダーをコンクリート等の周囲を覆う部材に係止させることができ、ナットホルダーの変形や共回りを抑制することができ、仮留め工程及び本締め工程の作業性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図1〜図6を用いて説明する。ここで、図1は、本発明に係るナットホルダーの第一実施形態を示す図であり、(A)は断面図、(B)は図1(A)におけるB矢視図、(C)は図1(A)におけるC矢視図である。
【0016】
図1(A)〜(C)に示すナットホルダー1は、本体10の内部に、ナットを非回転かつ遊嵌状に収容する第一収容領域11と、第一領域11に隣接しナットに締結された締結ボルトの先端部を収容する第二収容領域12と、第二収容領域12に隣接しナットに挿通された仮締ボルトの先端部と螺合する第三収容領域13と、本体10の外面に形成され本体10の周囲を覆う部材に係止される突出部14と、第一収容領域11の内面に形成された突起15と、を有する。
【0017】
前記本体10は、ナットホルダー1の押付面を形成するフランジ部10aと、第一収容領域11の外壁をなす第一外壁部10bと、第二収容領域12及び第三収容領域13の外壁をなす第二外壁部10cと、を有する。フランジ部10a、第一外壁部10b及び第二外壁部10cは、順に外径が小さくなるように形成されている。フランジ部10a、第一外壁部10b及び第二外壁部10cの外径は、本体10に要求される強度とコストとの関係により決定されるものであり、図示した形状に限られるものではなく、同じ外径の筒状であってもよいし、第三収容領域13の外壁をなす部分を第二外壁部10cよりも外径を小さく形成するようにしてもよい。また、ここでは第一外壁部10bを第一収容領域11の形状に合わせて六角形状に形成しているが筒状であってもよい。かかる本体部10は、樹脂製であってもよいし、金属製であってもよい。特に、本体部10を樹脂製とした場合にはコストダウンを図ることができる。また、図1(C)に示すように、フランジ部10aの表面にはナットホルダー取り付け時の水密性を担保する環状のシール部材16が設けられている。なお、本体部10を金属製として溶接により取り付ける場合にはシール部材16は不要である。
【0018】
前記第一収容領域11は、ナットを収容する空間である。かかる第一収容領域11は、ナットを遊嵌することができるように、ナットよりも大きく形成されており、ナットを収容したときの幅方向及び奥行き方向に隙間ができるようになっている。また、第一収容領域11の一面はナットを挿入する開口部11aを形成している。さらに、ナットを非回転に拘束するために、第一収容領域11の内側面11bはナットと同じ形状(ここでは六角形状)に形成される。このように、ナットを非回転かつ遊嵌状に収容することにより、本締め工程における締結ボルトの螺合時に組立誤差や製作誤差を吸収することができるとともに、ナットの共回りを防止することができる。
【0019】
前記第二収容領域12は、締結ボルトが斜めに挿入された場合であっても締結ボルトとナットを螺合できるようにするための空間である。締結ボルトはナットを貫通して締結されるため、締結ボルトが斜めに挿入されたときに第二収容領域12がなかったり狭かったりした場合には、締結ボルトがナットホルダー1の内面と接触してしまい、締結ボルトとナットを螺合できなくなってしまう。したがって、第二収容領域12の大きさは、締結ボルト及びナットの大きさや第一収容領域11に形成されるナットとの隙間等の条件により設定される。
【0020】
前記第三収容領域13は、ナットホルダー1の取り付け時に仮留めするための空間である。後述するように、ナットホルダー1は継手部構造を構成するプレートに仮留めされた状態でコンクリートにより固定される。したがって、ナットホルダー1の取り付け時には、ナットホルダー1をプレートに押し付けておく必要がある。そこで、本締ボルトよりも径の小さい仮締ボルトをプレート越しにナットホルダー1内に挿入し、ナットと螺合させずに貫通させて第三収容領域13の内面に形成された雌ネジ部13aに螺合させて締め付けることによって、ナットホルダー1をプレートに押し付けるようにしている。
【0021】
前記突出部14は、本体部10の外面に放射状に配設された平板状のリブである。かかる突出部14を設けることにより、ナットホルダー1をコンクリート等の周囲を覆う部材に係止させることができ、仮締ボルトや締結ボルトの締結時における回転力に対して抗力を増大させることができ、ナットホルダー1の変形や共回りを抑制することができる。ここでは、3箇所に突出部14を配設しているが、ボルトの回転力に対して均等に抗力を発生させることができるように配設されていれば、2箇所でもよいし、4箇所以上でもよい。また、突出部14は、本体10と一体に成形されていることが好ましいが、後付けするようにしてもよい。なお、ここでは、突出部14の幅をフランジ部10aの外径に合わせ、突出部14の高さを本体10の高さに合わせているが、かかる形状に限定されるものではなく、フランジ部10aの外径よりも小さくても大きくてもよいし、本体10の高さよりも低くても高くてもよい。
【0022】
前記突起15は、ナットの一端部と接触し、ナットの他端部の角部を第一収容領域11の内面に接触させてナットを係止させる部材である。図1(A)に示すように、突起15は、第一収容領域11の内側面11bと段差部11cとにより構成される隅部に沿って均等に点在するように配置されている。例えば、図示したように、剪頭円錐を縦に分割した形状の突起15を各内側面11bの略中央部の6箇所に配置される。ここで、図2は、突起15の作用を示す図であり、(A)はナット係止前の状態、(B)はナット係止後の状態を示している。
【0023】
図2(A)に示すように、突起15の径方向及び軸方向の長さをそれぞれR,Dとし、ナット21を第一収容領域11の開口部11aに合わせて同軸に配置したときに形成されるナット21と第一収容領域11の径方向及び軸方向の隙間をそれぞれΔr,Δdとする。突起15は、ナット21の先端角部21aと接触しなければならないため、R>Δr、D>Δdの条件を満たすように傾斜面15aが形成される。傾斜面15aは、図示したテーパ面に限定されるものではなく、凹曲面や凸曲面でもあってもよい。
【0024】
図2(B)に示すように、第一収容領域11にナット21を奥まで挿入し、ナット21の先端角部21aを突起15に押し付けながら、ナット21を傾斜させて後端角部21bを第一収容領域11の内側面11bに押し付ける。ナット21の後端角部21bは角張っているため、第一収容領域11の内側面11bに押し付けることによって、ナット21の後端角部21bで第一収容領域11の内側面11bをかじらせることができ、ナット21を第一収容領域11内で係止させることができる。突起15の塑性変形や弾性変形を利用してナット21を係止することも考えられるが、ナット21の表面には潤滑剤が塗布されており、ナット21の表面の摩擦抵抗のみではナット21を係止することが困難である。そこで、本発明では、ナット21の角張った先端角部21a及び後端角部21bを利用して第一収容領域11内にナット21を係止させるようにしている。したがって、ナットホルダー1を横や斜めにした状態でもナット21がナットホルダー1から落下し難くすることができ、ナットホルダー1の取り付け作業等の作業性を向上させることができる。
【0025】
次に、上述したナットホルダー1を使用した継手部構造を形成するための手順について説明する。ここで、図3は、本発明のナットホルダーを使用した継手部構造を形成するための手順を示す図であり、(A)はナット挿入工程、(B)は仮留め工程、(C)は固着工程を示している。
【0026】
図3(A)に示すように、ナット挿入工程では、ナットホルダー1の第一収容領域11にナット21を挿入し、突起15を利用してナット21を係止させる。したがって、図3(B)に示すように、ナットホルダー1を取り付けるプレート31が略垂直に配置されている場合であっても、ナットホルダー1の取扱い時にナット21が落下することがなく、作業性に優れる。
【0027】
図3(B)に示すように、仮留め工程では、継手部構造を構成するプレート31にナットホルダー1を配置し、仮締ボルト32を螺合させてナットホルダー1を仮留めしている。プレート31は、例えば、鋼板であり、締結ボルトが挿通されるボルト挿通孔31aが形成されている。そして、ナットホルダー1は、ボルト挿通孔31aと略同軸となるようにプレート31の背面に配置される。仮締ボルト32は、プレート31の表面からボルト挿通孔31aに挿通され、先端の雄ネジ部がナットホルダー1の第三収容領域13に形成された雌ネジ部13aに螺合される。また、仮締ボルト32は、ボルト挿通孔31aと嵌合する拡径部32aを有し、ボルト挿通孔31aに拡径部32aを嵌合させることにより位置決めされる。一方、ナット21は、上述したようにナットホルダー1内に傾斜されて係止されているため、仮締ボルト32を挿通又は螺合させる段階で仮締ボルト32と接触し、係止状態が解除される。仮締ボルト32の先端部を意識的にナット21と接触させて、ナット21の係止状態を解除させるようにしてもよい。したがって、図3(B)に示すように、仮締ボルト32を締め付けて、ナットホルダー1をプレート31の背面に押し付けた状態において、ナット21はナットホルダー1の第一収容領域11内で遊嵌状に配置されていることになる。なお、ナットホルダー1の内部はシール部材16により水密にシールされるが、シール部材16はプレート31側に配置されていてもよい。
【0028】
図3(C)に示すように、固着工程では、プレート31の背面及びナットホルダー1の周囲にコンクリート33を充填し、ナットホルダー1を固定する。そして、コンクリート33が完全に固まったら仮締ボルト32をナットホルダー1から取り外す。かかる手順により、締結ボルトを挿通可能なボルト挿通孔31aが形成されたプレート31と、プレート31の背面にシール部材16を介して配置されナット21を収容した本発明のナットホルダー1と、ナットホルダー1の周囲に充填されたコンクリート33と、を有する継手部構造が形成される。
【0029】
次に、上述した継手部構造を有する被締結部材を締結ボルトで締結する手順について説明する。ここで、図4は、本発明の継手部構造を有する被締結部材を用いて被締結部材同士を締結する手順を示す図であり、(A)は位置決め工程、(B)は本締め工程を示している。
【0030】
図4(A)に示すように、被締結部材の一方には、ボルト締結孔31aを有するプレート31の背面にナット21が収容されたナットホルダー1が配置されてコンクリート33により固定されている。また、被締結部材の他方には、ボルト締結孔41aを有するプレート41の背面に締結ボルト42を挿入しナット21に螺合させるためのボルト締結用空間43が形成されている。そして、位置決め工程では、ボルト締結孔31a,41a同士が略同軸状に配置されるようにプレート31,41同士を重ね合わせることにより被締結部材同士を位置決めしている。
【0031】
図4(B)に示すように、本締め工程では、他方の被締結部材のボルト締結用空間43側から締結ボルト42をボルト締結孔31a,41aに挿入し、ナット21に螺合させる。ナット21は、ナットホルダー1の第一収容領域11内で遊嵌状に配置されているため、被締結部材に組立誤差や製作誤差があったとしても、ナット21とナットホルダー1の第一収容領域11との隙間によりこれらの誤差を吸収することができる。また、ナットホルダー1には締結ボルト42の先端部を収容する第二収容領域12が形成されているため、締結ボルト42が斜めにナット21に挿入されても支障なく締結ボルト42とナット21とを螺合させることができる。最終的に締結ボルト42を締め付けることによって、ナット21はプレート31側に引き寄せられ、締結ボルト42とナット21によりプレート31,41を挟持し、被締結部材同士が締結される。また、ナット21は、ナットホルダー1の第一収容領域11に非回転に収容されるとともに、ナットホルダー1の突出部14がコンクリート33に埋め込まれているため、締結ボルト42の回転力に対して十分な抗力を発揮し、強固に締め付けることができる。
【0032】
続いて、本発明に係るナットホルダー1の他の実施形態について説明する。ここで、図5は、本発明に係るナットホルダーの他の実施形態を示す図であり、(A)は第二実施形態、(B)は第三実施形態、(C)は第四実施形態、(D)は第五実施形態、(E)は第六実施形態、(F)は第七実施形態を示している。なお、図1に示した第一実施形態のナットホルダー1と同じ構成部品については同じ符号を付し、重複した説明を省略する。
【0033】
図5(A)に示す第二実施形態のナットホルダー1は、突起15を第一収容領域の内側面11bにのみ配置したものである。突起15は、上述したように傾斜面15aでナット21の先端角部21aを保持するものであるため、必ずしも第一収容領域11の段差部11cまで配置されている必要はなく、第二実施形態に示したように、突起15を第一収容領域11の内側面11bにのみ配置するようにしても第一実施形態と同様の効果を発揮させることができる。
【0034】
図5(B)に示す第三実施形態のナットホルダー1は、突起15を第一収容領域11の内側面11bに沿って全周に配置したものである。このように突起15を配置しても第一実施形態と同様の効果を発揮させることができる。
【0035】
図5(C)に示す第四実施形態のナットホルダー1は、突起15の傾斜面15aの角度を各配置位置に応じて変化させたものである。このように傾斜面15aの角度を変化させることにより、ナット21を突起15に押し付けたときにナット21を傾斜させる方向を一義的に設定することができ、容易にナット21の後端角部21bを第一収容領域11の内側面11bに係止させることができる。
【0036】
図5(D)に示す第五実施形態のナットホルダー1は、第一収容領域11の内側面11bにナット21の側面と接触可能な凸部51を形成したものである。凸部51は、ナット21が落下しようとする方向の摩擦抵抗力を向上させるためのものであるため、図示したように、内側面11bの周方向に沿って線状に形成されることが好ましい。かかる凸部51の高さは、ナット21を第一収容領域11内に係止させた状態でナット21の側面と接触するように設定される。また、突起15に近い側の凸部51の高さを、突起15から遠い側の凸部51の高さよりも高く形成するようにしてもよい。また、凸部51の表面は、図示したように、曲面状に形成してもよいし、傾斜面状や尖頭状に形成してもよい。
【0037】
図5(E)に示す第六実施形態のナットホルダー1は、第三収容領域13に仮締ボルト32と同等以上の強度を有する素材(例えば、金属製)により構成された仮締用ナット52が仮締ボルト32の挿入方向と反対側から挿入されたものである。具体的には、第三収容領域13の第二収容領域12と反対側から仮締用ナット52を挿入することができる中空部13bを形成するとともに、第三収容領域13の内側面の一部に仮締用ナット52のストッパーとなる段差部13cを形成し、この中空部13bに仮締用ナット52を挿入した後、本体10の頭部を蓋部材53で水密に塞ぐようにする。蓋部材53は、例えば、接着剤により本体10の頭部に接続される。かかる仮締用ナット52を第三収容領域13に配置することにより、仮締用ナット52を強固に締め付けた場合であっても、雌ネジ部の損傷を抑制して確実に仮締ボルト32をナットホルダー1に締結することができ、仮留め工程の作業性を向上させることができ、特に、樹脂製のナットホルダー1に適した実施形態である。
【0038】
図5(F)に示す第七実施形態のナットホルダー1は、図5(D)に示した第五実施形態と図5(E)に示した第六実施形態を組み合わせたものである。すなわち、第一収容領域11の内側面11bにナット21の側面と接触可能な凸部51を形成するとともに、第三収容領域13に仮締ボルト32と同等以上の強度を有する素材(例えば、金属製)により構成された仮締用ナット52が仮締ボルト32の挿入方向と反対側から挿入されたものである。かかる構成により、上述した第一実施形態の効果に加えて、第五実施形態及び第六実施形態の効果も発揮させることができ、優れたナットホルダー1を構成することができる。なお、各実施形態の組み合わせは第七実施形態に示したものに限られず、第一実施形態〜第六実施形態の各実施形態を用途等に応じて任意に組み合わせることができる。
【0039】
最後に、本発明に係るコンクリート構造物について説明する。ここで、図6は、本発明に係るコンクリート構造物を示す外観図であり、(A)は合成セグメント、(B)はRCセグメントである。なお、各図に示したナットホルダー1の構造は、図1〜図5に示したとおりであり、同じ構成部品については同じ符号を付して説明する。
【0040】
図6(A)及び(B)に示したコンクリート構造物61は、締結ボルト42とナット21により締結されるコンクリート構造物61であって、締結ボルト42を挿通可能なボルト挿通孔31aが形成されたプレート31と、プレート31のボルト挿通孔31aの背面にシール部材16を介して配置されナット21を収容した本発明のナットホルダー1と、ナットホルダー1の周囲に充填されたコンクリート33と、を有する。かかるコンクリート構造物61は、例えば、図6(A)及び(B)に示したシールドトンネルのセグメントである。
【0041】
図6(A)に示したコンクリート構造物61は、いわゆる合成セグメントであり、外表面をスキンプレートで覆うとともに外周面をプレート31で覆って内部をコンクリート33で充填したものである。スキンプレート及びプレート31は、一般的に鋼板により形成される。また、図示しないが、コンクリート33の内部にはスキンプレート及びプレート31に接続された鋼板リブが配設されている。かかる合成セグメントは、複数の合成セグメントをトンネルの敷設方向及び周方向に組み付けてトンネルを構築する必要がある。一般に、周方向に組み付ける部分をセグメント間継手61aと称し、敷設方向に組み付ける部分をリング間継手61bと称する。そして、ある合成セグメントのセグメント間継手61a及びリング間継手61bは、図6(A)に示したように本発明のナットホルダー1を使用した継手部構造に構成され、この合成セグメントと周方向及び敷設方向に隣接する合成セグメントには締結ボルト42を挿入するボルト締結用空間43が形成されている。
【0042】
図6(B)に示したコンクリート構造物61は、いわゆるRCセグメントであり、略全体がコンクリート33により構成されている。このコンクリート33は、内部に鉄筋が配設された鉄筋コンクリート(Reinforced Concrete)である。そして、セグメント間継手61a及びリング間継手61bを構成する部分にプレート31が配置され、その背面に本発明のナットホルダー1が固定されている。
【0043】
上述したコンクリート構造物61では、本発明のナットホルダー1を使用しているため、ナットホルダー1を横や斜めにした状態でもナット21がナットホルダー1から落下することがなく、作業性を向上させることができる。なお、図6(A)及び(B)に示した合成セグメント及びRCセグメントは、コンクリート構造物61の一例であり、本発明のコンクリート構造物は、締結ボルトとナットにより締結されるコンクリート構造物であれば、他の型式のセグメントであってもよいし、その他のコンクリート製の建築物等であってもよいことは勿論である。
【0044】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係るナットホルダーの第一実施形態を示す図であり、(A)は断面図、(B)は図1(A)におけるB矢視図、(C)は図1(A)におけるC矢視図である。
【図2】突起の作用を示す図であり、(A)はナット係止前の状態、(B)はナット係止後の状態を示している。
【図3】本発明のナットホルダーを使用した継手部構造を形成するための手順を示す図であり、(A)はナット挿入工程、(B)は仮留め工程、(C)は固着工程を示している。
【図4】本発明の継手部構造を有する被締結部材を用いて被締結部材同士を締結する手順を示す図であり、(A)は位置決め工程、(B)は本締め工程を示している。
【図5】本発明に係るナットホルダーの他の実施形態を示す図であり、(A)は第二実施形態、(B)は第三実施形態、(C)は第四実施形態、(D)は第五実施形態、(E)は第六実施形態、(F)は第七実施形態を示している。
【図6】本発明に係るコンクリート構造物を示す外観図であり、(A)は合成セグメント、(B)はRCセグメントである。
【符号の説明】
【0046】
1 ナットホルダー
10 本体
10a フランジ部
10b 第一外壁部
10c 第二外壁部
11 第一収容領域
11a 開口部
11b 内側面
11c 段差部
12 第二収容領域
13 第三収容領域
13a 雌ネジ部
13b 中空部
13c 段差部
14 突出部
15 突起
15a 傾斜面
16 シール部材
21 ナット
21a 先端角部
21b 後端角部
31,41 プレート
31a,41a 締結ボルト挿通孔
32 仮締ボルト
32a 拡径部
33 コンクリート
42 締結ボルト
43 ボルト締結用空間
51 凸部
52 仮締用ナット
53 蓋部材
61 コンクリート構造物
61a セグメント間継手
61b リング間継手


【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体の内部に、ナットを非回転かつ遊嵌状に収容する第一収容領域と、該第一領域に隣接し前記ナットに締結された締結ボルトの先端部を収容する第二収容領域と、該第二収容領域に隣接し前記ナットに挿通された仮締ボルトの先端部と螺合する第三収容領域と、前記第一収容領域の内面に形成された突起と、を有し、
前記突起は、前記ナットの一端部と接触し、前記ナットの他端部の角部を前記第一収容領域の内面に接触させて前記ナットを係止させる、ことを特徴とするナットホルダー。
【請求項2】
前記第一収容領域の内側面に前記ナットの側面と接触可能な凸部を形成した、ことを特徴とする請求項1に記載のナットホルダー。
【請求項3】
前記第三収容領域には前記仮締ボルトと同等以上の強度を有する素材により構成された仮締用ナットが前記仮締ボルトの挿入方向と反対側から挿入されている、ことを特徴とする請求項1に記載のナットホルダー。
【請求項4】
前記本体の外面には前記本体の周囲を覆う部材に係止される突出部が形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載のナットホルダー。
【請求項5】
被締結部材を締結ボルトとナットにより締結する継手部構造であって、前記締結ボルトを挿通可能なボルト挿通孔が形成されたプレートと、該プレートの背面にシール部材を介して配置され前記ナットを収容したナットホルダーと、該ナットホルダーの周囲に充填されたコンクリートと、を有し、前記ナットホルダーは、請求項1〜請求項4のいずれかに記載されたナットホルダーである、ことを特徴とする継手部構造。
【請求項6】
締結ボルトとナットにより締結されるコンクリート構造物であって、前記締結ボルトを挿通可能なボルト挿通孔が形成されたプレートと、該プレートの挿通孔の背面にシール部材を介して配置され前記ナットを収容したナットホルダーと、該ナットホルダーの周囲に充填されたコンクリートと、を有し、前記ナットホルダーは、請求項1〜請求項4のいずれかに記載されたナットホルダーである、ことを特徴とするコンクリート構造物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−243531(P2009−243531A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88823(P2008−88823)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000198307)石川島建材工業株式会社 (139)
【Fターム(参考)】