説明

ナノ構造体およびその製造方法

【課題】コア・シェル型の半導体ナノワイヤが積層されて高効率のデバイスを製造することのできるナノ構造体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】基板の上にこの基板と垂直にコア・シェル型の半導体ナノワイヤを形成し、この半導体ナノワイヤを絶縁体で覆うと共に、この絶縁体をエッチングにより除去して半導体ナノワイヤの上部を露出させたナノ構造体を製造する。このナノ構造体を用いれば、半導体ナノワイヤの露出した上部にトンネル接合部を形成し、このトンネル接合部に新たな半導体ナノワイヤを積層することによりショートすることを抑制した高効率のデバイスを製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ構造体およびその製造方法に関し、特に基板にコア・シェル型の半導体ナノワイヤが形成されたナノ構造体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球規模での環境意識の高まりとともに、太陽電池や発光ダイオードなどのエネルギー資源の節約に役立つデバイスが急速に普及してきている。なかでも、そのエネルギー効率の高さから、直接遷移型の化合物半導体を用いたデバイスの開発が積極的になされている。
【0003】
たとえば、太陽電池のなかでも、バンドギャップの異なる複数のダイオード(セル)を重ね合わせた多接合型太陽電池は、太陽光の広い波長帯の光をセルごとに分割して吸収するので、より高い変換効率を達成することができると期待され、積極的な開発がなされている。このような多接合型太陽電池の一つとして、GaInPセル、GaInAsセル、Geセルという三つのセルを接合した3接合型太陽電池において、41%という極めて高い変換効率が得られたことも報告されている(たとえば、非特許文献1参照)。
【0004】
また、コア・シェル型の半導体ナノワイヤを用いた太陽電池も報告されている(たとえば、非特許文献2参照)。このコア・シェル型の半導体ナノワイヤを用いた太陽電池では、光の吸収領域は軸方向に長くでき、かつ、動径方向に少数キャリアの拡散長以内で再結合の影響が小さくなるように薄い膜を形成できるので、従来のものと比べて吸収効率のさらなる向上が期待できる。また、たとえ積層する半導体ナノワイヤの材料の格子定数に差があるときでも、半導体ナノワイヤ同士が接続されるので、さほどひずみを生じず、電気の損失が少ないという点でも有効である。
【0005】
コア・シェル型の半導体ナノワイヤの製造方法としては、たとえば金属触媒を用いて製造するVLS(Vapor−Liquid−Solid:気相−液相−固相)法などが挙げられる。VLS法による結晶成長方法は、1960年代にAu微粒子とSi半導体を材料として確認されている(たとえば、非特許文献3参照)。AuとSiとが合金化したときにはSiの融点が単体のものと比べて著しく低下し、特に共晶点においてはSiの融点が400℃近くまで低下する。このため、Au微粒子の近辺ではSiが液体となって原料となるSiが効率よく分解され、Siが過飽和状態となってLPE(Liquid Phase Epitaxy:液相エピタキシ)と同様にエピタキシャル成長が起きることを利用している。
【0006】
このVLS法は、シリコンを材料とした半導体ナノワイヤを成長させる場合に限られず、化合物を材料とした化合物半導体ナノワイヤを成長させる場合にも応用できる。また、化合物半導体ナノワイヤを成長させる方法はVLS法以外に、たとえば選択成長法などがある。いずれの方法でも、成長条件を変えることによって軸方向および動径方向へ結晶を成長させ、コア・シェル型の構造をもつ化合物半導体ナノワイヤを製造することができるが、化合物半導体ナノワイヤを複数段にわたって積層しようとする場合には選択成長法は用いることができず、VLS法により化合物半導体ナノワイヤを成長させる必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】W. Guter et al., Appl. Phys. Lett. 94 (2009) 223504.
【非特許文献2】B. M. Kayes et al., J. Appl. Phys. 97 (2005) 114302.
【非特許文献3】R.S. Wagner and W.C. Ellis, APL 4 (1964) 89.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、半導体ナノワイヤ、例えば、コア・シェル型の半導体ナノワイヤ(セル)を積層して多接合型太陽電池や多接合型発光ダイオードなどのデバイスを製造しようとした場合、次のような問題が生じる。すなわち、半導体ナノワイヤ320,340の二つを接合する部分にはキャリア濃度が高いトンネル接合膜330を設ける必要があるが、図11に示すように、トンネル接合膜330が基板310と電気的に接触するとトンネル接合膜330から基板310へリーク電流が流れてしまう。この場合、デバイスを構成するセルのうちそのトンネル接合膜330よりも下層にあるセル、すなわち半導体ナノワイヤ320が機能しなくなってしまい、半導体ナノワイヤを積層した意図が没却されてしまう。
【0009】
そこで、本発明は、積層された半導体ナノワイヤからなるデバイスの製造に適したナノ構造体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るナノ構造体は、基板と、前記基板の上にこの基板と垂直に形成された半導体ナノワイヤと、この半導体ナノワイヤの一部を覆う絶縁体とを備え、前記半導体ナノワイヤの上部は、前記絶縁体に覆われていないことを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明に係るナノ構造体において、前記半導体ナノワイヤは、コア・シェル型の半導体ナノワイヤであるものとしてもよい。
【0012】
さらに、本発明に係るナノ構造体において、前記半導体ナノワイヤは、ダイオードを構成するものとしてもよい。
【0013】
また、本発明に係るナノ構造体において、前記半導体ナノワイヤは、トンネル接合膜を介して直列に接続された複数のダイオードを含むものとしてもよい。この場合、前記複数のダイオードは、互いにバンドギャップの異なる材料からなるものとしてもよい。
【0014】
さらに、本発明に係るナノ構造体において、前記絶縁体は、抵抗率が1.0×108[Ω・m]以上、かつ、屈折率が2.0以下であるものとしてもよい。
【0015】
また、本発明に係るナノ構造体において、前記絶縁体は、シリコン、チタンの酸化物もしくは窒化物の少なくともいずれか1つからなるものとしてもよい
【0016】
本発明に係るナノ構造体の製造方法は、VLS法によって基板の上にこの基板と垂直に半導体ナノワイヤを形成する第1工程と、前記半導体ナノワイヤの上部を除いてその半導体ナノワイヤを絶縁体で覆う第2工程と、を備えることを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明に係るナノ構造体の製造方法において、前記第1工程を前記第2工程とを交互に行うものとしてもよい。
【0018】
さらに、本発明に係るナノ構造体の製造方法において、前記第2工程は、前記半導体ナノワイヤを絶縁体で覆う工程と、前記絶縁体の一部を除去して前記半導体の一部を露出させる工程とを有するものとしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、基板の上にこの基板と垂直に形成された半導体ナノワイヤの上部が露出しているので、この上部にさらに別の半導体ナノワイヤが積層されたナノ構造体を製造することができる。この際、半導体ナノワイヤがその上部を除いて絶縁体によって覆われているので、半導体ナノワイヤが他の部位との間でいたずらにショートしてしまうことを抑制できる。
また、半導体ナノワイヤはその軸方向に積層されるので、たとえ積層する半導体の格子定数に差があるときでも、その界面は高々半導体ナノワイヤの径によって規定される面積となる。したがって、半導体結晶内に生じるひずみを抑えて良好に接続することができる。
さらに、複数の半導体ナノワイヤを積層して、多段構造を有する太陽電池や発光ダイオードなどのデバイスを製造した場合には、絶縁膜によってリーク電流の発生が抑えられるので、複数の波長の光を電気に変換できる太陽電池や、複数の波長の光を放射することのできる発光ダイオードなど高機能のデバイスが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態1に係る太陽電池の一構成例を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る太陽電池のバンド構造を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る太陽電池の一構成を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る太陽電池の製造方法を示す工程図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係る太陽電池の製造方法を示す工程図である。
【図6】本発明の実施の形態1に係る太陽電池の製造方法を示す工程図である。
【図7】本発明の実施の形態1に係る太陽電池の製造方法を示す工程図である。
【図8】本発明の実施の形態1に係る太陽電池を製造する際に第1ダイオードを形成したときに撮影したSEM写真である。
【図9】本発明の実施の形態1に係る太陽電池を製造する際に第1ダイオードおよび第2ダイオードを形成したときに撮影したSEM写真である。
【図10】本発明の実施の形態2に係る発光ダイオードの一構成例を示す断面図である。
【図11】従来の半導体ナノワイヤが積層された太陽電池の一構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係るナノ構造体は、基板上に成長させた第1の半導体ナノワイヤをいったんシリコン絶縁膜で覆ったあと、このシリコン絶縁膜の一部を除去して第1の半導体ナノワイヤの上部を露出させ、露出した第1の半導体ナノワイヤの上部にさらに新たな半導体ナノワイヤ(第2の半導体ナノワイヤ)を成長させることによって得ることができる。半導体ナノワイヤはVLS法を用いて成長させることができる。
以下、本発明の実施の形態1,2として、ナノ構造体をそれぞれ太陽電池および発光素子にそれぞれ用いた場合を例に、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
[実施の形態1]
まず、本発明の実施の形態1に係る太陽電池は、基板上にコア・シェル型の半導体ナノワイヤをその軸線方向に積層した構造を有する。図1は、太陽電池の半導体ナノワイヤの軸線方向の沿った断面図である。
本実施の形態に係る太陽電池は、図1に示すように、基板110と、基板110の上に形成された第1の半導体ナノワイヤ120と、このトンネル接合膜130を介して第1の半導体ナノワイヤに接続された、第2の半導体ナノワイヤ140と、これらを覆うシリコン樹脂膜114(絶縁体に相当)と、透明電極150と,電極160と、外部負荷170とを備えている。
このうち、第1の半導体ナノワイヤ120および第2の半導体ナノワイヤ140は、後述するように、いずれもコア・シェル型の半導体ナノワイヤであり、それぞれ第1ダイオード120および第2ダイオード140を形成している。
なお、第2の半導体ナノワイヤ140の上部には、Au微粒子112が配置されている。このAu微粒子112は、Auからなる直径約20nm程度の微粒子であり、VLS法によって半導体ナノワイヤ120,140およびトンネル接合膜130を形成した際に用いられたものである。
【0023】
ここで、基板110は、p−InP半導体からなる基板であり、その表面は(111)B方向を向いている。
第1の半導体ナノワイヤ(第1ダイオード)120は、コア・シェル型のナノワイヤであり、その中心から外側に向かって順に、p−InP層120a,i−InAsP層120b,n−InP層120cを有する、pin構造のダイオードである。
第2の半導体ナノワイヤ(第2ダイオード)140も、同様に、コア・シェル型のナノワイヤであり、その中心から外側に向かって順に、p−GaP層140a,i−GaAsP層140b,n−GaP層140cを有する、pin構造をもつダイオードである。
トンネル接合膜130は、比較的不純物の濃度の高いn+−InP層130aおよびp+−GaP層130bから構成されており、第1ダイオード120のn−InP層120cと第2ダイオード140のp−GaP層140aとを電気的に接続する役割を果たしている。
シリコン樹脂膜114は、シリコン樹脂からなり、その絶縁作用により、各構成部品、例えば、トンネル接合膜130が基板110等と導通することを抑えている。また、シリコン樹脂膜114は、光学的に透明であることから、外部から到達した光は、シリコン樹脂膜114によって遮断されることなく、第1ダイオード120および第2ダイオード140に到達することができる。
透明電極150は、ITO(酸化インジウム・スズ)膜からなり、太陽電池の陰極として、外部負荷170と接続される。
電極160は、基板110とオーミック接続する金属からなり、太陽電池の陽極として、外部負荷170と接続される。
【0024】
図2は、上述した本実施の形態に係る太陽電池のバンド構造を示す図である。図2に示すように、InP系の材料からなる第1ダイオード120は、比較的長い波長の光を電気に変換することができる一方、GaP系の材料からなる第2ダイオード140は、比較的短い波長の光を電気に変換することができる。さらには、シリコン樹脂膜114によって、リーク電流の発生が抑えられるので、これら複数のダイオードが1つの太陽電池の構成要素として機能する。したがって、太陽電池全体としての変換効率は、これら2つのダイオードを有することによって向上する。
【0025】
以上の説明においては、直列に接続された複数の半導体ナノワイヤ(ダイオード)からなる1本の太陽電池セルを中心に説明したが、本発明に係るナノ構造体を利用した太陽電池としては、図3に示すように、基板上に複数の太陽電池セル116を並べて太陽電池セルアレイの形態としてもよいことは言うまでもない。
【0026】
次に、本実施の形態に係るナノ構造体の製造方法について、図4〜図7を参照して説明する。
【0027】
まず、図4(a)に示すように、基板110の上にAu微粒子112を形成する。具体的な方法としては、たとえばAuの蒸着とアニールによって自己形成させる方法や、電子ビーム描画を用いてパターニングする方法、Au微粒子112を含む溶液を塗布する方法などがあげられる。
【0028】
次いで、図4(b)に示すように、Au微粒子112の下にp−InP層120aを形成する。これは、よく知られているVLS法を用いて行なうことができ、たとえば、基板110を有機金属気相成長法(MOVPE)装置内に設置し、380℃でTMIn(トリメチルインジウム)を1×10-5 mol/min、PH3(フォスフィン)を6×10-4 mol/min、DEZn(ジエチルジンク)を1×10-6 mol/minの割合で5分間導入してp−InPナノワイヤを成長させることができる。
【0029】
続いて、図4(c)に示すように、半導体ナノワイヤである柱状のp−InP層120aの一部および少なくともその近傍の基板110の表面を覆うシリコン樹脂膜114aを形成する。このとき、p−InP層120aの上部を含む部分をシリコン樹脂膜114aから露出させておく。これは、たとえば、MOVPE装置から取り出した基板110にシリコン樹脂を塗布してp−InP層120aを埋め込み、200℃に加熱して固化した後、アセトンなどの有機溶剤を用いて、またはエッチングによりシリコン樹脂の表面部分を除去し、p−InP層120aの上部を露出させることにより実現できる。
【0030】
次いで、図5(d)に示すように、シリコン樹脂膜114aから露出したp−InP層120aをコアとして、i−InAsP層120bおよびn−InP層120cを形成し、pin型の第1ダイオード120を完成させる。
具体的には、基板110を、再びMOVPE装置内に設置し、温度を430℃に設定し、TMInを1×10-5mol/min、PH3を5×10-4mol/min、AsH3を1×10-4mol/minの割合で導入したまま5分待つことによってi−InAsP層120bを形成することができる。その後、TMInを1×10-5mol/min、PH3を6×10-4mol/min、Si26(ジシラン)を1×10-6mol/minの割合で導入したまま5分待つことによってn−InP層120cを動径方向に成長させることができる。
図8は、このようにして形成した第1ダイオード120のSEM写真である。図8から、第1ダイオード120が基板110に対して垂直に形成される様子がみてとれる。
なお、以上のようにして形成されたpin型の第1ダイオード120においては、p−InP層120aは、基板110と接続されている一方、i−InAsP層120bおよびn−InP層120cは、シリコン樹脂膜114aによって、基板110から絶縁されている。
【0031】
続いて、図5(e)に示すように、第1ダイオード120を覆うシリコン樹脂膜114bを形成する。このとき、第1ダイオード120の上部は、シリコン樹脂膜114bから露出させておく。これは、上述したように、シリコン樹脂の塗布と有機溶剤またはエッチングによる除去を組み合わせればよい。
【0032】
次いで、図5(f)に示すように、第1ダイオード120の上部に、n+−InP層130aおよびp+−GaP層130bからなるトンネル接合膜130を形成する。たとえば、MOVPE装置内に設置し、550℃でTMInを1×10-5mol/min、PH3を6×10-4mol/min、Si26を1×10-4mol/minの割合でを導入して20秒待つことによってn+−InP層130aを形成する。その後、TMGaを1×10-5mol/min、PH3を6×10-4mol/min、DEZnを1×10-4mol/minの割合で導入して20秒待つことによってp+−GaP層130bを形成することができる。
このようにして形成されたトンネル接合膜130は、シリコン樹脂膜114a,114bによって基板110から絶縁されている。
【0033】
続いて、図6(g)に示すように、トンネル接合膜130の上にp−GaP層140aを形成する。たとえば、基板110をMOVPE装置内に設置し、490℃でTMGaを1×10-5mol/min、とPH3を6×10-4mol/min、DEZnを1×10-6mol/minの割合で導入して5分待つことによってp−GaP層140aを形成することができる。
【0034】
次いで、図6(h)に示すように、トンネル接合膜130およびp−GaP層140aの一部(根本部分)を覆うシリコン樹脂膜114cを形成する。このときp−GaP層140aの上部を含む部分をシリコン樹脂膜114cから露出させておく。これは、上述したように、シリコン樹脂の塗布と有機溶剤またはエッチングによる除去を組み合わせればよい。
【0035】
続いて、図7(i)に示すように、シリコン樹脂膜114cから露出したp−GaP層140aをコアとして、i−GaAsP層140bおよびn−GaP層140cを形成し、pin型の第2ダイオード140を完成させる。
具体的には、基板110を再びMOVPE装置内に設置し、温度を530度に設定して、TMGaを1×10-5mol/min、PH3を5×10-4mol/min、AsH3を1×10-4mol/minの割合でを導入して5分待つことによってi−GaAsP層140bを形成することができる。その後、TMGaを1×10-5mol/min、PH3を6×10-4mol/min、Si26を1×10-6mol/minを導入して5分待つことによってn−GaP層140cを動径方向に成長させることができる。
図9は、このようにして形成した第1ダイオード120および第2ダイオード140のSEM写真である。図9から、第1ダイオード120および第2ダイオード140が積層されて形成される様子がみてとれる。
なお、以上のようにして形成されたpin型の第2ダイオード140においては、p−GaP層140aはトンネル接合膜130と接続されている一方、i−GaAsP層140bおよびn−GaP層140cは、シリコン樹脂膜114a、114b、114cによって、基板110、第1ダイオード120、トンネル接合膜130から絶縁されている。
また、シリコン樹脂膜114a、114b、114cは、2.0より小さい屈折率を有することにより、光はダイオードを形成する半導体ナノワイヤまで到達することができる。
【0036】
最後に、図7(j)に示すように、透明電極150および電極160を形成して、太陽電池が得られる。これらの電極間には外部負荷170が接続される。
【0037】
以上説明したように、本実施の形態に係る太陽電池によれば、第1ダイオード120の上部にトンネル接合膜130を介して第2ダイオード140を積層した構造をとることにより、比較的長い波長の光を第1ダイオード120で電気に変換するとともに、比較的短い波長の光を第2ダイオード140で電気に変換することができるので、変換率を向上させることができる。この際、基板110,第1ダイオード120,トンネル接合膜130,および第2ダイオード140の間の随所にシリコン樹脂膜114が形成されているので、いたずらにショートすることを抑制できる。また、第1ダイオード120および第2ダイオード140はいずれもコア・シェル型の半導体ナノワイヤであるため、積層する半導体の格子定数に差があるときでも、半導体ナノワイヤ同士が接続されることにより、さほどひずみを生じることなく良好に接続することができる。
【0038】
なお、上述した本実施の形態では、第1ダイオード120および第2ダイオード140という二つのダイオードを積層した2段接合型の太陽電池として説明したが、3つ以上のダイオードを積層するものとしてもよい。
【0039】
また、上述した本実施の形態では、基板110をそのまま用いたが、エッチング等の方法により基板110のみを除去し、残った部材を導電性膜の付いたガラス基板やPET(ポリエチレンテレフタレート)基板等に貼り付けることも可能である。
【0040】
さらに、上述した本実施の形態では、太陽電池の形態として説明したが、半導体ナノワイヤが基板の上に形成されるとともに、絶縁体によって覆われているナノ構造体の形態としてもよい。
【0041】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2に係る発光ダイオードについて説明する。
本実施の形態に係る発光ダイオードは、コア・シェル型の半導体ナノワイヤからなるダイオードを備えている。図10は、本実施の形態に係る発光ダイオードの半導体ナノワイヤの軸線方向に沿った断面図である。本実施の形態に係る発光ダイオードは、図10に示すように、コア・シェル型の第1の半導体ナノワイヤ(第1ダイオード)220,第2の半導体ナノワイヤ(第2ダイオード)240,および第3の半導体ナノワイヤ(第3ダイオード)260を積層した3接合型の構造となっており、これら3つのダイオードがトンネル接合膜230,250により接合されている。実施の形態1に係る太陽電池では外部負荷170が接続されていたのに対し、本実施の形態に係る発光ダイオードでは電源290が接続されている点が大きく異なっている。
第1ダイオード220,第2ダイオード240,および第3ダイオード260の組成を違えることにより、電源290から電流を供給したときに、これら三つのダイオードから互いに波長の異なる光を発光させることができる。
【0042】
次に、本実施の形態に係る発光ダイオードの製造方法の一例を説明する。
まず、p−InP(111)Bの基板210上にAu微粒子212を塗布し、その後基板210をMOVPE装置内に設置し、380℃でTMInを1×10-5mol/min、PH3を6×10-4mol/min、DEZnを1×10-6mol/minの割合で導入してp−InP層220aを5分間成長させる。
【0043】
次いで、基板210を取り出し、プラズマスパッタリング装置でシリコン酸化膜214aを形成してp−InP層220aを埋め込み、反応性イオンエッチング装置でフッ素イオンによりp−InP層220aの上部を露出させる。
【0044】
再度、基板210をMOVPE装置内に設置して温度を430℃に設定し、TMIn 1×10-5をmol/min、PH3を6×10-4mol/minの割合で導入して5分待つことによってi−InP層220b、続いて、TMInを1×10-5mol/min、PH3を3×10-4mol/min、AsH3を3×10-4mol/minの割合で1分、TMInを1×10-5 mol/min、PH3を6×10-4mol/minの割合で5分導入して第1の活性層のInP/InAsP/InP層220bを成長し、さらにTMInを1×10-5mol/min、PH3 を6×10-4mol/min、Si26を1×10-6mol/minの割合で導入してn−InP層220cを5分動径方向に成長して第1ダイオード220を作製した。
この第1ダイオード220においては、p−InP層220aは基板210と接続されている一方、i−InAsP層220bおよびn−InP層220cは基板210からシリコン酸化膜214aにより絶縁されている。
【0045】
次に、基板220を取り出し、プラズマスパッタリング装置でシリコン酸化膜214bを蒸着して第1ダイオード220を埋め込み、反応性イオンエッチング装置でフッ素イオンにより第1ダイオード220の上部を露出させる。
【0046】
続いて、MOVPE装置内で550℃でTMInを1×10-5mol/minとPH3 を6×10-4mol/min、Si26を1×10-4mol/minの割合で導入して20秒待ち、TMGaを1×10-5mol/min、PH3を6×10-4mol/min、DEZnを1×10-4mol/minの割合で導入して20秒成長させることによりn+/p+のトンネル接合膜230を形成する。
【0047】
引き続き同様の手順を繰り返すことで第2ダイオード240とトンネル接合膜250、第3ダイオード260を形成する。ここで、第2の活性層であるi−InAsP層240bの原料供給量は、TMInを1×10-5mol/min、PH3を4×10-4mol/min、AsH3を2×10-4mol/min、第3の活性層であるi−InAsP層260bでは、TMInを1×10-5mol/min、PH3を5×10-4mol/min、AsH3を1×10-4mol/minとすればよい。
【0048】
最後に、表面をITO(酸化インジウム・スズ)膜で覆って透明電極270を作製し、電極280との間に電源290を設けることによって、本実施の形態に係る3接合型の発光ダイオードが得られる。第1の活性層であるi−InAsP層220b、第2の活性層であるi−InAsP層240b、第3の活性層であるi−InAsP層260bの組成をそれぞれ違えているため、それぞれの発光ピーク波長は異なる。したがって全体の発光は波長帯が1.1〜1.7mmと幅の広い特性を示す。ここでは材料としてInAsP系を用いたが、III族をAl、Ga、In、V族をN、P、As、Sb等に変えたIII−V族化合物やII−VI族化合物等であってもよい。シリコン酸化膜214a〜eが2.0より小さい屈折率を有することにより、ダイオードから放射される光はシリコン酸化膜214を透過できる。
【0049】
なお、上述した実施の形態1,2では、それぞれ絶縁体としてシリコン樹脂膜114,シリコン酸化膜214を用いるものとして説明したが、絶縁作用をもつとともに、光を透過させるものであれば、たとえばチタンを含んだ酸化物や窒化物などを用いてもよい。この場合、抵抗率が1.0×108[Ω・m]以上、かつ、屈折率が2.0以下であるものを用いるのが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、太陽電池や発光ダイオードの製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
110…基板、112…Au微粒子、114,114a〜c…シリコン樹脂膜、116…太陽電池セル、120…第1ダイオード(第1の半導体ナノワイヤ)、120a…p−InP層、120b…i−InAsP層、120c…n−InP層、130…トンネル接合膜、130a…n+−InP層、130b…p+−GaP層、140…第2ダイオード(第2の半導体ナノワイヤ)、140a…p−GaP層、140b…i−GaAsP層、140c…n−GaP層、150…透明電極、160…電極、170…外部負荷、210…基板、212…Au微粒子、214,214a〜e…シリコン酸化膜、220…第1ダイオード、220a…p−InP層、220b…i−InAsP層、220c…n−InP層、230…トンネル接合膜、230a…n+−InP層、230b…p+−InP層、240…第2ダイオード、240a…p−InP層、240b…i−InAsP層、240c…n−InP層、250…トンネル接合膜、260…第3ダイオード、260a…p−InP層、260b…i−InAsP層、260c…n−InP層、270…透明電極、280…電極、290…電源、310…基板、320,340…ナノワイヤ、330…トンネル結合膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の上にこの基板と垂直に形成された半導体ナノワイヤと、
この半導体ナノワイヤの一部を覆う絶縁体と
を備え、
前記半導体ナノワイヤの頭頂部は、前記絶縁体に覆われていない
ことを特徴とするナノ構造体。
【請求項2】
請求項1に記載されたナノ構造体において、
前記半導体ナノワイヤは、コア・シェル型の半導体ナノワイヤである
ことを特徴とするナノ構造体。
【請求項3】
請求項2に記載されたナノ構造体において、
前記半導体ナノワイヤは、ダイオードを構成する
ことを特徴とするナノ構造体。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載されたナノ構造体において、
前記半導体ナノワイヤは、トンネル接合膜を介して直列に接続された複数のダイオードを含む
ことを特徴とするナノ構造体。
【請求項5】
請求項4に記載されたナノ構造体において、
前記複数のダイオードは、互いにバンドギャップの異なる材料からなること
を特徴とするナノ構造体。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載されたナノ構造体において、
前記絶縁体は、抵抗率が1.0×108[Ω・m]以上、かつ、屈折率が2.0以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のナノ構造体。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載されたナノ構造体において、
前記絶縁体は、シリコン、チタンの酸化物もしくは窒化物の少なくともいずれか1つからなる
ことを特徴とする請求項1または2に記載のナノ構造体。
【請求項8】
VLS法によって基板の上にこの基板と垂直に半導体ナノワイヤを形成する第1工程と、
前記半導体ナノワイヤの頭頂部を除いてその半導体ナノワイヤを絶縁体で覆う第2工程と、
を備えることを特徴とするナノ構造体の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載されたナノ構造体の製造方法において、
前記第1工程を前記第2工程とを交互に行うこと
を特徴とするナノ構造体の製造方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載されたナノ構造体の製造方法において、
前記第2工程は、
前記半導体ナノワイヤを絶縁体で覆う工程と、
前記絶縁体の一部を除去して前記半導体の一部を露出させる工程と
を有することを特徴とするナノ構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−224749(P2011−224749A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98644(P2010−98644)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】