説明

ナノ構造材料およびその製造方法

球状の炭素粒子の非連続層によって囲まれた、小さい針状結晶Li1+α38(0.1α0.25)および小さい針状結晶β−Lix25(0.030.667)の凝集体で構成されたナノ構造炭素含有物質。[V25]/[Li]の濃度比が1.15〜1.5で、かつ炭素/(炭素+V25+リチウム前駆物質)の重量比が10〜15%となる量で、炭素、α−V25およびリチウム前駆物質を接触させることにより炭素含有前駆物質ゲルを製造し、当該ゲルを、窒素またはアルゴン雰囲気下で行われる、3〜12時間、80℃〜150℃の温度の第一段階、および10分〜1時間、300℃〜350℃の温度の第二段階を含む熱処理にかけることで得られる。用途は、正電極活性物質である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ構造材料の製造方法、得られたナノ構造材料、およびナノ構造材料の正電極活性物質としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム塩の溶剤溶液を含む電解質によって分離された正電極および負電極を含む電池は周知である。これらの電池の作動は、電極間の電解質中のリチウムイオンの可逆的循環によってもたらされる。一般的に正電極は、活性物質、バインダー、電子伝導性付与物質および任意にイオン伝導性付与化合物を含む複合材料で構成される。電子伝導性を与える化合物は、高電位で電解質の酸化を触媒しないカーボンブラックであってもよい。
【0003】
特に特許文献1において、正電極活性物質としてのリチウム酸化バナジウムLi1+α38(0.1α0.25)の使用が知られている。またリチウム電池の正電極活性物質としてβ−LiX25化合物の使用もまた知られている。しかし、複合電極におけるこれらの使用は、例えばカーボン等の電子伝導性付与物質の添加を必要とする。
【0004】
前記活性物質の製造中、活性物質と炭素との接触およびその結果の複合電極の電子伝導性の改良のために、正電極活性物質に炭素を取り込む様々な試みがされた。
【0005】
非特許文献1には、以下の段階を含むプロセスによるV25・nH2O−炭素ナノ複合材料の製造が記載されている:バナジウム金属と過酸化水素水溶液との反応によるV25・nH2Oコロイド溶液の作製;V25・nH2Oコロイド溶液を安定させるための、水およびアセトンの添加;炭素の添加;得られた混合物から電極を形成するための乾燥。得られた材料は、V25・nH2Oでコーティングされた炭素粒で構成される。しかしながら、優れた電気化学性能の材料は、約1.4程度の非常に高いC/活性物質の重量比によってのみ得られ、その値は、どんな工業利用にも極めて好ましくない。
【0006】
非特許文献2には、以下の段階を含むプロセスによるV25・nH2O−炭素ナノ複合材料の製造が記載されている:H+/Na+イオン交換カラムに、メタバナジン酸ナトリウムNaVO3の溶液を通すことによるバナジン酸の製造;バナジン酸の重縮合によるV25・nH2Oキセロゲルの製造;表面を機能化するための炭素の酸処理;前処理した炭素へのポリエチレングリコールの任意のグラフト;周囲温度でのゲルの乾燥;プロセスを促進する超音波を用いてのコロイド溶液を得るためのキセロゲルの溶解;処理した炭素とコロイド溶液とのマグネチックスターラーによる溶剤が完全に蒸発するまでの混合。このプロセスは約2日間かかり、単調で高価なイオン交換樹脂の使用が必要である。得られた材料は、V25・nH2Oでコーティングされた炭素粒子で構成される。ナノ複合材料からの正電極の製造の間に、10重量%の割合で追加の炭素が加えられる。
【0007】
特許文献2には、薄いグラファイトフィルムが活性物質の表面をコーティングするLiFePO4グラファイト炭素ナノ複合材料の製造が記載されている。このナノ複合材料は、3段階のプロセスによって得ることができる:LiFePO4の合成;グラファイト炭素の前駆物質の炭素含有化合物を用いたLiFePO4粒のコーティング;ポリマーを導電性グラファイト炭素に転化するための、コーティングされた粒のアルゴン中での700℃の高温加熱。また、ナノ複合材料は、LiFePO4反応物質と前駆物質の炭素含有化合物との混合物をアルゴン中での高温加熱する実施の1段階で得ることもできる。この結果は、炭素活性物質接触のより大きな効果のみによる能力および力についての顕著な改善を示す。すべての場合において、複合電極の製造の間に、10重量%の割合で追加の炭素が加えられる。
【0008】
非特許文献3および非特許文献4には、それぞれ、2段階のプロセスによるLiFePO4グラファイト−炭素およびLiV2(PO43グラファイト−炭素のナノ複合材料の製造について記載されている。活性物質の前駆物質は、レゾルシノールホルムアルデヒドの重合から生じる炭素ゲルと混合される。ナノ複合材料を得るためには、窒素中での700℃の5時間の熱処理が必要である。これらのプロセスの結果、活性物質粒は炭素でコーティングされる。レゾルシノールの使用によって、プロセスは高価になる。さらに、複合電極の製造の間、追加の導電性炭素の添加が必要である。
【特許文献1】フランス国特許第2831715号明細書
【特許文献2】欧州特許第104918号明細書
【非特許文献1】Takashi Watanabe et al. [Solid State Ionics, 151, 14, (2002)]
【非特許文献2】Huan Huang et al. [Angew. Chem. Int. Ed., 2001, 40, No.20]
【非特許文献3】Huang H et al., [Electrochem. Solid State Lett., 4 (10), A170-172 (2001)]
【非特許文献4】Huang H et al., [Adv. Mater., 2002, 14, No.21, November 4]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、正電極の活性物質と電子伝導性を与える炭素とを密接に結合させた材料を製造するための簡単で安価なプロセスを提供することである。当該物質の炭素含有量は、電子伝導性を与える化合物を補助的に添加することなく、前記物質が電極材料として用いられ得るのに十分な量である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のプロセスは、炭素含有前駆物質ゲルを製造し、そのゲルを熱処理することから成る。プロセスは以下のように特徴付けられる:
・ [V25]/[Li]の濃度比が1.15〜1.5であり、かつ炭素/(炭素+V25+Li前駆物質)の重量比が10〜15%となる量で、炭素、α−V25およびLi前駆物質を接触させることにより前駆物質ゲルを製造する;
・ 熱処理は、2段階で行われる:第一段階は、3〜12時間かけて80℃〜150℃の温度で、第二段階は、10分〜1時間かけて300℃〜350℃の温度で、窒素またはアルゴン雰囲気下で行われる。
【0011】
熱処理の第1段階は、空気中で行うことができる。一般に、90℃で6時間が適切である。もしも熱処理の第2段階の処理時間が10分未満であれば、最終組成物に残留水分が残る。処理時間を1時間以上にすると、比較的劣る電池性能につながる結晶のサイズの増大をもたらす。
【0012】
熱処理の第2段階で使用される加熱炉にキセロゲルを添加する前に、キセロゲルを製造する熱処理の第1段階を、オーブンで行うことができる。また、加熱炉が、ひとつは第1段階の温度、もう片方は第2段階の温度である少なくとも2つの処理部を有する場合は、第2段階で使用される加熱炉の中で熱処理の第1段階を行うこともできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
最初の実施例では、Li前駆物質はLiOH・H2Oである。窒素雰囲気下で、α−V25およびLiOH・H2Oを炭素の水懸濁液に添加し、約15時間後にゲルが形成される。前駆物質の濃度は、α−V25については0.75mol/l〜3mol/lで、LiOH・H2Oについては0.55mol/l〜2.2mol/lで変えることができる。
【0014】
2番目の実施例では、過酸化水素を10〜50質量%含む水溶液を反応媒体に添加する。そして、ゲルが数分間で形成される。使用できる濃度の制限は、α−V25については0.05mol/l〜2mol/lで、Li前駆物質については0.04mol/l〜1.5mol/lである。
【0015】
2番目の実施例において:
・ リチウム前駆物質は、LiOH・H2O、LiCl、LiNO3または、例えばリチウムアセチルアセトネート、酢酸リチウム、ステアリン酸リチウム、蟻酸リチウム、しゅう酸リチウム、クエン酸リチウム、乳酸リチウム、酒石酸リチウムまたはピルビン酸リチウムから選択されるカルボン酸のリチウム塩から選ぶことができる。
・ α−V25および炭素の水懸濁液を製造し、過酸化水溶液をその中に添加する。過酸化水溶液の添加前または添加後、すなわちゲルが形成される間に、リチウム前駆物質を、α−V25および炭素の水懸濁液に添加することができる。ゲルは、α−V25と過酸化物とが接触した3分後に形成し始めるのが認められる。ゲルは15分間の熟成後に、完全に形成される。
・ 反応媒体中のLi前駆物質およびα−V25のそれぞれの量は、好ましくは0.08mol.l-1<[Li]<0.7mol.l-1;0.1mol.l-1<[V25]<1mol.l-1である。反応物質の過度な高濃度は泡立ちをもたらし、一方、過度な低濃度はゲルではなく、沈澱を生じる。
【0016】
本発明のプロセスで得られた材料は、球状の炭素粒子の非連続層によって囲まれたLi1+α38およびβ−Lix25(0.1α0.25、0.030.667)の小さい針状結晶の凝集体で構成されたナノ構造炭素含有物質であって、
・ 針状結晶Li1+α38および針状結晶β−Lix25の長さ(l)が、40〜100nm、幅(w)が4<l/w<100、厚さ(t)が4<l/t<100であり、
・ 球状の炭素粒子は、直径が約30nm〜40nmであり、連続した立体的なネットワークを形成し、
・ 針を構成する結晶のサイズは、aによれば50と300Åとの間、bによれば100と600Åとの間、およびcによれば75と450Åとの間である。
【0017】
そして、このようにして定義された材料の中では、針状結晶Li1+α38およびβ−Lix25と球状の炭素粒子との間でナノスケールでの緊密なつながりが存在する。
【0018】
異なる方法で、提案する複合材料の構造を開示できる。走査電子顕微鏡法(SEM)で、一般的形態を得ることが可能になる。透過電子顕微鏡(TEM)は、炭素が良好な接触の質で活性物質の粒をコーティングすることを示し、そしてX線回折は、β−Lix25が存在することを示す。
【0019】
リチウム電池用の複合正電極の製造に本発明のナノ構造炭素含有物質が使用できる。
【0020】
特定の実施例では、本発明の正電極は以下を含む複合材料で構成される:
・ 本発明のプロセスで得られたナノ構造炭素含有化合物
・ 機械的強度を与えるバインダー
・ 任意には、イオン伝導性を与える化合物
【0021】
好ましくは、ナノ構造炭素含有化合物の含有量は90〜100重量%である。好ましくは、バインダーの含有量は10重量%未満である。好ましくは、イオン伝導性付与化合物の含有量は5重量%未満である。組織炭素含有化合物とバインダーのみで構成された電極が特に優先される。
【0022】
本発明のナノ構造炭素含有物質の炭素には、還元剤、導電体、およびナノ構造剤(nanostructuring agent)の3つの役割がある。Li1+α38相の一部の化学的還元がβ−Lix25を与えることが可能になるからである。それは、活性物質の粒の表面の接触を改良する。ナノスケールで十分に混合され、炭素粒のネットワークの非常な微細孔の中の元の位置で起こる成長するLi1+α38およびβ−Lix25の2成分の存在によって、同じ時間と温度条件の下で合成したLi1+α38化合物を用いて、これらの3成分の簡単な混和で得た物質との比較において、活性物質のドメインのサイズは減少し、電子導体/活性物質の接触面積は著しく増加する。その結果、電流コレクタから活性物質への電子輸送の効率は改良され、粒の中のリチウムイオンの拡散経路は減少する。
【0023】
バインダーは、非溶媒和ポリマー、溶媒和ポリマーまたは溶媒和ポリマーと非溶媒和ポリマーとの混合物で構成できる。それはさらに、1以上の液状非プロトン性極性化合物を含むことができる。非溶媒和ポリマーは、フッ化ビニリデンホモポリマーおよびコポリマー;エチレン、プロピレンおよびジエンのコポリマー;テトラフルオロエチレンホモポリマーおよびコポリマー;N−ビニルピロリドンホモポリマーおよびコポリマー;アクリロニトリルホモポリマーおよびコポリマー;並びにメタクリロニトリルホモポリマーおよびコポリマーから選択できる。ポリ(フッ化ビニリデン)が特に好ましい。非溶媒和ポリマーはイオン官能基を運ぶことができる。そのようなポリマーの例として挙げることができるのは、そのうちのいくつかがNafion(商品名)という名称で販売されるポリペルフルオロエーテルスルホン酸塩およびポリスチレン・スルホン酸塩である。
【0024】
溶媒和ポリマーは、例えば、ポリ(エチレンオキシド)をベースにネットワーク形成できる、またはできない直鎖、くし形またはブロック構造のポリエーテル;酸化エチレン、酸化プロピレンまたはアリルグリシジル・エーテル単位を含む共重合体;ポリホスファゼン;イソシアネートによって架橋されたポリエチレングリコールをベースにした架橋ネットワーク;酸化エチレンとエピクロルヒドリンとの共重合体;並びに、重縮合および架橋可能官能基の取り込みを可能とする官能基の運搬によって得られたネットワークから選択できる。
【0025】
非プロトン性極性化合物は、直鎖または環状カーボネート類、直鎖または環状エーテル類、直鎖または環状エステル類、直鎖または環状スルホン、スルファミドおよびニトリル類から選択できる。
【0026】
イオン伝導性付与化合物は、リチウム塩であり、有利にはLiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiRFSO3、LiCH3SO3、リチウム・ビスペルフルオロアルキルスルホンイミド類またはリチウム・ビス−またはトリスペルフルオロスルホニルメチド類から選択される。
【0027】
本発明の複合正電極は、ナノ構造炭素含有物質、適切な溶剤中のバインダーおよび任意にリチウム塩を混合し、コレクタとして機能する金属ディスク(例えば、アルミディスク)の上に得られた混合物を広げ、次に、窒素雰囲気下、高温条件下で溶剤を蒸発させることによって製造できる。使用されるバインダーによって、溶剤は選択される。さらに、その成分の混合物の押出しによって正電極は製造できる。
【0028】
リチウム塩の溶剤溶液を含む電解質によって分離された正電極および負電極を含む電池内で、このようにして作られた電極は使用できる。電極間の電解質中のリチウムイオンの可逆的循環によって、この電池は作動する。本発明の内容の1つは、活性物質として本発明のプロセスで製造されたナノ構造炭素含有物質を含む正電極を含むことで特徴付けられる、電解質がリチウム塩の溶剤溶液を含む電池である。本発明のプロセスで得られるナノ構造炭素含有物質を含む正電極が、電池に収まっている場合、このようにして作られた電池は、充電された状態で見られる。
【0029】
本発明の電池では、電解質は少なくとも1つのリチウム塩の溶剤溶液を含む。塩の例として挙げることができるのは、LiClO4,LiAsF6,LiPF6,LiBF4,LiRFSO3,LiCH3SO3,LiN(RFSO22,LiC(RFSO23およびLiCF(RFSO22であり、RFは、1〜8の炭素原子またはフッ素原子を有するペルフルオロアルキル基である。
【0030】
電解質の溶剤は、直鎖または環状の炭酸塩、直鎖または環状のエーテル類、直鎖または環状のエステル類、直鎖または環状のスルホン類、スルホンイミド類およびニトリル類から選択される1以上の非プロトン性極性化合物から構成できる。好ましくは、溶剤は、エチレン・カーボネート、プロピレン・カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートから選択される少なくとも2の炭酸塩で構成される。一般に、非プロトン性極性溶剤の電解質を有する電池は、−20℃〜60℃の温度範囲で作動する。
【0031】
さらに、電解質の溶剤は、溶媒和ポリマーであってもよい。溶媒和ポリマーの例として列挙することができるのは、ポリ(エチレンオキシド)をベースにネットワーク形成できる、またはできない直鎖、くし形またはブロック構造のポリエーテル;酸化エチレン、酸化プロピレンまたはアリルグリシジル・エーテル単位を含む共重合体;ポリホスファゼン;イソシアネートによって架橋されたポリエチレングリコールをベースにした架橋ネットワーク;フランス特許2770034号で開示されるオキシエチレンとエピクロルヒドリンとの共重合体;並びに、重縮合および架橋可能官能基の取り込みを可能とする官能基の運搬によって得られたネットワークである。また、いくつかのブロックが酸化還元の特性を有する官能基をもつブロック共重合体を挙げることができる。一般に、非プロトン性極性溶剤の電解質を有する電池は、60℃〜120℃の温度範囲で作動する。
【0032】
さらに、電解質の溶剤は、前記の非プロトン性極性化合物から選択される液体の非プロトン性極性化合物と溶媒和ポリマーとの混合物であってもよい。低濃度の非プロトン性極性化合物で可塑化した電解質、もしくは高濃度の非プロトン性極性化合物でゲル化した電解質のいずれが必要かによって、液体溶剤を2〜98質量%含むことができる。電解質のポリマー溶剤がイオン官能基を有するとき、リチウム塩は任意である。
【0033】
また、電解質の溶剤は、上記で定義した非プロトン性極性化合物または上記で定義した溶媒和ポリマーと、硫黄、酸素、窒素、およびフッ素から選ばれた少なくとも1のヘテロ原子を含む単位を含む非溶剤の極性ポリマーとの混合物であってもよい。その非溶媒和ポリマーは、アクリロニトリルのホモポリマーおよび共重合体;フルオロビニリデンホモポリマーおよび共重合体;N−ビニルピロリドンホモポリマーおよび共重合体から選択できる。さらに、非溶媒和ポリマーは、イオン置換基を有するポリマーであって、特にポリペルフルオロエーテルスルホン酸塩(例えば上記のNafion(商品名))またはポリスチレン・スルホン酸塩であってもよい。
【0034】
または、別の実施例では、本発明の電池の電解質は、一般に、リシコン(Lisicon)で示される化合物、すなわち、Li4XO4−Li3YO4(X=SiもしくはGeもしくはTi;Y=PもしくはAsもしくはV)、Li4XO4−Li2AO4(X=SiもしくはGeもしくはTi;A=MoもしくはS)、Li4XO4−LiZO2(X=SiもしくはGeもしくはTi;Z=AlもしくはGaもしくはCr)、Li4XO4−Li2BXO4(X=SiもしくはGeもしくはTi;B=CaもしくはZn)、LiO2−GeO2−P25、LiO2−SiO2−P25、LiO2−B23−Li2SO4、LiF−Li2S−P25、Li2O−GeO2−V25またはLiO2−P25−PON固溶体から選択される無機の導電性固体であってもよい。これらの電解質を有するリチウム電池は、−20℃〜100℃のオーダーの非常に広い温度変動範囲の中で作動する。
【0035】
当然、本発明の電池の電解質は、さらに、このタイプの材料に従来使用される添加物、特に可塑剤、フィラー、他の塩等を含むことができる。
【0036】
電池の負電極は、リチウム金属または、β−LiAl、γ−LiAl、Li−Pb(例えば、Li7Pb2)、Li−Cd−Pb、Li−Snの様々なマトリクス、特に酸素含有マトリクスまたは金属マトリクス(例えば、Cu,Ni,FeもしくはFe−C)またはLi−Al−Mnから選択できるリチウム合金で構成できる。
【0037】
さらに、電池の負電極は、バインダーを含む複合材料と低レドックス電位で可逆的にリチウムイオンを挿入できる材料(以下、挿入材料という)とで構成でき、前記の複合材料は準備段階でリチオ化される。挿入材料は、自然または合成の炭素含有物質から選択できる。これらの素含有物質は、例えば、石油コークス、グラファイト、グラファイトウィスカ、炭素繊維、メソカーボンマイクロビーズ、ピッチ・コークスまたはニードルコークスであってもよい。さらに、挿入材料は、例えばLixMoO2、LixWO2、LixFe23、Li4Ti512もしくはLixTiO2等の酸化物、または例えばLi9Mo66およびLiTiS2等の硫化物またはオキシ硫化物から選択できる。また低電位で可逆的にリチウムの格納を可能とする化合物、例えばアモルファスバナジン酸塩(例えば、LixNiVO4)、窒化物(例えば、Li2.6-xCo0.4N、Li2+xFeN2またはLi7+xMnN4)、りん化物(例えば、Li9-xVP4)、ヒ化物(例えば、Li9-xVAs4)や可逆的分解酸化物(例えば、CoO、CuOまたはCu2O)等を使用できる。バインダーは、負電極の作動範囲内で電気化学的に安定した有機的バインダーである。例として挙げることができるのは、ポリ(フッ化ビニリデン)ホモポリマーまたはエチレン/プロピレン/ジエン共重合体である。ポリ(フッ化ビニリデン)が特に好ましい。複合負電極は、非プロトン性極性溶剤中で、バインダー溶液に炭素含有化合物を添加し、コレクタとして機能する銅ディスクの上に得られた混合物を広げ、次に、窒素雰囲気下、高温条件下で溶剤を蒸発させることによって製造できる。
【0038】
固体電解質を含む本発明の電池は、本発明の正電極およびその電流コレクタ、固体電解質、並びに負電極および任意にその電流コレクタの材料で各々構成される連続した層の形態で提供されうる。
【0039】
液体電解質を含む本発明の電池もまた、本発明の正電極およびその電流コレクタ、液体電解質を含浸させたセパレーター、並びに負電極および任意にその電流コレクタを構成する物質で各々構成される連続した層の形態で提供されうる。
【実施例】
【0040】
さらに詳細に、以下の実施例によって本発明を例示する。しかし、これには限定されない。
【0041】
(実施例1)
過酸化物を用いない製造
前駆物質の水性懸濁液を、窒素雰囲気下、50℃で、6.8200g(1.5M)のα−V25および1.2589g(1.2M)のLiOH・H2Oを5.18gの炭素を含む水性懸濁液25ml中に加えることによって作製した。15時間の熟成時間後、ゲル(以下、GCと呼ぶ)が形成された。続いて、GCゲルを、空気中で90℃でオーバーナイトで乾燥し、このようにして得られたキセロゲルをアルゴン雰囲気下で、15分間、350℃で処理した。得られた生成物は、今後、XC−15aと呼ぶ。
【0042】
比較として、先行技術(G.Pistoia et al., J. Electrochem. Soc., 137, 2365 (1990))と、同様のプロセスによって化合物(以下、SC350と呼ぶ)を作製した。この作製プロセスは、サンプルXC−15aの作製プロセスと異なっている。一方は、ゲル作製中の炭素の添加が省略されており、他方は、乾燥段階後、得られたキセロゲルが、80℃/hの温度上昇勾配で、350℃、10時間の熱処理に付されたからである。
【0043】
図1は、本発明の材料XC−15a(顕微鏡写真aおよびb)並びに先行技術の材料SG350(顕微鏡写真c)の顕微鏡写真を示す。
【0044】
SEM顕微鏡写真(a)は、材料XC−15aの一般的な形態を示す。TEM顕微鏡写真(b)は、炭素粒が良好な接触の質をもって、Li1+α38およびβ−Lix25粒をコーティングすることを示す。TEM顕微鏡写真(c)はサンプルSG350に対応する。
【0045】
図2は、左図はX線回折のダイアグラムを示し、右図は3つの結晶写真a、bおよびcが示す本発明のサンプルXC−15aと先行技術のサンプルSG350の結晶のサイズ変化を表すダイアグラムである。サンプルXC−15a中のβ−Lix25の存在は、このフェーズに関連する※で示すピークで実証される。
【0046】
結晶のサイズは、X線回折ダイアグラムのプロフィールの分析で測定された。図2のbのダイアグラムは、本発明の材料XC−15aが、先行技術のサンプルSG350よりも、4〜5倍小さい結晶を示すこと、すなわち、前者は110×180×150Åであり、後者は432×118×773Åであることを表す。
【0047】
(実施例2)
過酸化物を用いない製造
実施例1の製造プロセスを用いた。ただし90℃の乾燥後、得られたキセロゲルは、350℃で15分間処理する代わりに1時間処理した。得られた化合物を以下ではXC−60と呼ぶ。
【0048】
(実施例3)
過酸化物を用いた製造
1gのV25、0.1689gのLiOH・H2Oおよび0.1372gの炭素を15mlの30%の過酸化水素水に添加した。ゲルは数分間で形成された。
【0049】
得られたゲルは、オーバーナイトで、空気中で90℃で乾燥し、そしてアルゴン下で、15分間、350℃の熱処理に付した。
【0050】
X線回折は、Li1+α38およびβ−Lix25フェーズの混在を示した。SEMおよびTEM顕微鏡写真は、炭素粒が良好な接触の質をもって、Li1+α38およびβ−Lix25粒をコーティングすることを示す。
【0051】
(実施例4)
性能の測定
実施例1および実施例2によって各々作製されたXC−15aおよびXC−60の電気化学的性能を、Swagelok研究室で検査した。電池のタイプ:Li/液体電解質(EC+DMC+LiPF6)/(XC)、周囲温度で、2.5時間あたりの処方群あたり1Liに相当する条件で循環させて行った。
【0052】
図3は、それぞれの材料の容量の変化を表す。50サイクル後、以下のことが分かった:
・ サンプルXC−15aは、サンプルSG350よりもサイクル容量を良好に保持する(34%に対し87%);
・ サンプルXC−60は、サンプルSG350よりも初期の容量が低い(300mAh/gに対し260mAh/g)が、サイクル容量の保持は良好である(34%に対する83%)。
【0053】
すべての場合において、本発明のサンプルは先行技術のサンプルSG350に比べて50サイクル後の容量が、はるかに高かった。すなわち、XC−15aは265mAh/g、XC−60は215mAh/gそしてSG350は100mAh/gであった。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の材料XC−15a(aおよびb)並びに先行技術の材料SG350(c)の顕微鏡写真を示す。
【図2】左図はX線回折のダイアグラムを、右図は結晶写真a、bおよびcが示す結晶のサイズ変化を表す。
【図3】それぞれの材料の容量の変化を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素含有前駆物質ゲルの製造および前記ゲルの熱処理を含む、炭素含有物質の製造方法であって、
・ [V25]/[Li]の濃度比が1.15〜1.5、かつ炭素/(炭素+V25+リチウム前駆物質)の重量比が10〜15%となる量で、炭素、α−V25およびリチウム前駆物質を接触させることにより前記炭素含有前駆物質ゲルを製造すること、および
・ 前記熱処理が、窒素またはアルゴン雰囲気下において、3〜12時間、温度80℃〜150℃の第一段階および10分〜1時間、温度300℃〜350℃の第二段階の2段階で行われること
を特徴とする製造方法。
【請求項2】
・ 前記リチウム前駆物質がLiOH・H2Oであり、
・ 窒素雰囲気下で、α−V25およびLiOH・H2Oを炭素の水性懸濁液に添加すること
を特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前駆物質の濃度が、α−V25については0.75mol/l〜3mol/l、LiOH・H2Oについては0.55mol/l〜2.2mol/lであることを特徴とする請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
前記熱処理が、アルゴン雰囲気下または窒素雰囲気下で行われることを特徴とする請求項2記載の製造方法。
【請求項5】
過酸化水素を10〜50質量%含む水溶液を反応媒体に添加することを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項6】
α−V25の濃度が0.05mol/l〜2mol/l、リチウム前駆物質の濃度が0.04mol/l〜1.5mol/lであることを特徴とする請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
前記リチウム前駆物質が、LiOH・H2O、LiCl、LiNO3またはカルボン酸のリチウム塩から選択されることを特徴とする請求項5記載の製造方法。
【請求項8】
前記カルボン酸のリチウム塩が、リチウムアセチルアセトナート、酢酸リチウム、ステアリン酸リチウム、蟻酸リチウム、しゅう酸リチウム、クエン酸リチウム、乳酸リチウム、酒石酸リチウムまたはピルビン酸リチウムから選択されることを特徴とする請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
α−V25および炭素の水懸濁液を製造するステップ、過酸化水溶液をその中に添加するステップを含み、
前記過酸化水溶液の添加前または添加後に、α−V25および炭素の水懸濁液にリチウム前駆物質を添加してもよいこと
を特徴とする請求項5記載の製造方法。
【請求項10】
前記反応媒体中のリチウム前駆物質およびα−V25のそれぞれの量が、0.08mol.l-1<[Li]<0.7mol.l-1および0.1mol.l-1<[V25]<1mol.l-1であること
を特徴とする請求項5記載の製造方法。
【請求項11】
球状の炭素粒子の非連続層によって囲まれた、小さい針状結晶Li1+α38(0.1α0.25)および小さい針状結晶β−Lix25(0.030.667)の凝集体で構成されたナノ構造炭素含有物質であって、
・ 前記針状結晶Li1+α38および前記針状結晶β−Lix25の長さ(l)が、40〜100nm、幅(w)が4<l/w<100、厚さ(t)が4<l/t<100であり、
・ 前記球状の炭素粒子は、直径が約30nm〜40nmであり、連続した三次元ネットワークを形成し、
・ 前記針状結晶を構成する結晶のサイズは、aによれば50と300Åとの間、bによれば100と600Åとの間、およびcによれば75と450Åとの間である
ナノ構造炭素含有物質。
【請求項12】
液体電解質との組み合わせでは−20℃〜60℃で作動し、または固体ポリマー電解質との組み合わせでは60℃〜120℃で作動するリチウム電池用の複合正電極であって、
請求項11記載のナノ構造炭素含有物質を含む複合材料で構成される複合正電極。
【請求項13】
さらに、前記複合材料が、
・ 機械的強度を与えるバインダー
・ 任意のイオン伝導性付与化合物
を含むことを特徴とする請求項12記載の複合正電極。
【請求項14】
・ 前記ナノ構造炭素含有物質の含有量が90〜100重量%、
・ 前記バインダーの含有量が10重量%未満、
・ 前記イオン伝導性付与化合物の含有量が5重量%未満
であることを特徴とする請求項13記載の複合正電極。
【請求項15】
前記イオン伝導性付与化合物を含まないことを特徴とする請求項14記載の複合正電極。
【請求項16】
前記バインダーが非溶媒和ポリマーで構成されることを特徴とする請求項13記載の複合正電極。
【請求項17】
前記バインダーが非溶媒和ポリマーで構成されることを特徴とする請求項13記載の複合正電極。
【請求項18】
前記バインダーが溶媒和ポリマーおよび非溶媒和ポリマーの混合物であることを特徴とする請求項13記載の複合正電極。
【請求項19】
前記バインダーが、さらに非プロトン性極性化合物を含むことを特徴とする請求項16〜18のいずれかの項に記載の複合正電極。
【請求項20】
前記イオン伝導性付与化合物が、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiRFSO3、LiCH3SO3、リチウム・ビスペルフルオロアルキルスルホンイミド類並びにリチウム・ビス−およびトリスペルフルオロスルホニルメチド類から選択されるリチウム塩であることを特徴とする請求項13記載の複合正電極。
【請求項21】
リチウム塩の溶剤溶液を含む電解質によって分離された正電極および負電極を含む電池であって、前記正電極が、請求項12〜20のいずれかの項に記載の複合正電極である電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−516886(P2008−516886A)
【公表日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−537327(P2007−537327)
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【国際出願番号】PCT/FR2005/002581
【国際公開番号】WO2006/045923
【国際公開日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【出願人】(507001612)
【出願人】(506369944)サントル ナスィオナル ド ラ ルシェルシュ スィアンティフィク (45)
【Fターム(参考)】