ナノ粒子含有溶液の製造方法および導電性ペースト
【課題】金属ナノ粒子の合成状況を簡便に把握することができるナノ粒子含有溶液の製造方法を提供すること。
【解決手段】溶液中の金属前駆体を還元して金属ナノ粒子を合成し、ナノ粒子含有溶液を製造するにあたり、合成時における反応溶液の紫外−可視吸収スペクトルを経時的に測定し、得られた測定結果を用いて、金属ナノ粒子の合成状況を把握する。好ましくは、上記測定結果から、下記(1)、(2)、(3)および(4)から選択される1つまたは2つ以上の確認を行うと良い。(1)金属ナノ粒子の自由電子由来の吸収による吸光度が増加すること(2)金属イオンに由来する吸収による吸光度が減少すること(3)等吸収点を有しつつ、(1)の吸光度の増加と(2)の吸光度の減少とが生じること(4)等吸収点を有さず、金属ナノ粒子の表面プラズモン吸収を有すること
【解決手段】溶液中の金属前駆体を還元して金属ナノ粒子を合成し、ナノ粒子含有溶液を製造するにあたり、合成時における反応溶液の紫外−可視吸収スペクトルを経時的に測定し、得られた測定結果を用いて、金属ナノ粒子の合成状況を把握する。好ましくは、上記測定結果から、下記(1)、(2)、(3)および(4)から選択される1つまたは2つ以上の確認を行うと良い。(1)金属ナノ粒子の自由電子由来の吸収による吸光度が増加すること(2)金属イオンに由来する吸収による吸光度が減少すること(3)等吸収点を有しつつ、(1)の吸光度の増加と(2)の吸光度の減少とが生じること(4)等吸収点を有さず、金属ナノ粒子の表面プラズモン吸収を有すること
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子含有溶液の製造方法および導電性ペーストに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナノサイズ粒子は、バルクサイズ粒子にはない特性を有しており、ナノサイズ粒子の合成法やその応用に関する研究が数多くなされている。
【0003】
これまで、金属ナノ粒子としては、Au、Ag、Pt、Pd、Cu、Niなどのナノ粒子が合成されており、導電材料、触媒材料、磁性材料、非線形光学材料、着色材料などとしての利用が期待されている。
【0004】
これらの中でも、銅ナノ粒子は、電子回路のナノサイズ配線、非線形光学材料として応用可能である。特に、銅は銀よりも耐イオンマイグレーション性を有し、かつ、安価であるため、配線材料(導電材料)として注目を浴びている。
【0005】
但し、銅は、ナノサイズになると、表面活性が高くなりすぎて溶媒中においても容易に酸化されやすいという特質を有している。そのため、銅ナノ粒子は、貴金属ナノ粒子に比較して、一般にその合成が難しいとされている。
【0006】
このような背景の下、従来、金属ナノ粒子を合成した後、金属ナノ粒子の粒径を確認する方法としては、合成液から金属ナノ粒子を単離してサンプルを作製し、透過型電子顕微鏡(TEM)にて直接観察する方法が主流であった。
【0007】
他にも例えば、特許文献1には、電子顕微鏡観察では金属コロイド液そのものを観察できないため、紫外可視吸光度の測定値で金属コロイド液の粒径分布を規定する点が開示されている。
【0008】
具体的には、この文献では、硝酸銀などの銀塩とクエン酸三ナトリウムやタンニン酸などの還元剤とを含んだ水溶液を数時間撹拌し、銀塩を還元させることによって金属コロイド液を作製した後、この溶液の粒径分布を紫外可視吸光度分析により測定する点が開示されている。
【0009】
そして、上記粒径分布が特定の範囲内にあれば、粒径に広い分布幅を持たせることができるので、上記金属コロイド液中には、粒径の小さな金属コロイド粒子だけでなく、ある程度粒径の大きな金属コロイド粒子も混在させることができる点が記載されている。
【0010】
【特許文献1】特開2005−19028号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前者のTEM観察は、サンプル作製に手間がかかるし、装置自体も非常に高価である。
【0012】
そのため、金属ナノ粒子が合成されているか否か、合成されている場合、どの程度の粒径を有する金属ナノ粒子が生成しているのかなど、実際の生産工程における金属ナノ粒子の合成状況をTEM観察により逐一把握するのは、実質的に不可能であった。
【0013】
また、TEM観察では、合成反応の進み具合を知ることはできない。それ故、これを知るためには、別の分析手法を用いて原料残渣などを調べる必要があった。
【0014】
一方、後者の特許文献1に記載の技術は、作製した金属コロイド液の粒径分布を紫外可視吸光度の測定値で規定することで、高い導電性を発現させようとするものである。この技術を用いても、実際にどの程度の粒径を有する金属ナノ粒子が生成しているかは不明である。そのため、この技術により、金属ナノ粒子の合成状況を把握することは難しい。
【0015】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、金属ナノ粒子の合成状況を簡便に把握することができるナノ粒子含有溶液の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本発明に係るナノ粒子含有溶液の製造方法は、溶液中の金属前駆体を還元して金属ナノ粒子を合成し、ナノ粒子含有溶液を得るにあたり、上記合成時における反応溶液の紫外−可視吸収スペクトルを経時的に測定し、得られた測定結果を用いて、金属ナノ粒子の合成状況を把握する手順を含んでいることを要旨とする。
【0017】
ここで、上記手順は、下記(1)、(2)、(3)および(4)から選択される1つまたは2つ以上の確認を含むことが好ましい。
(1)金属ナノ粒子の自由電子由来の吸収による吸光度が増加すること。
(2)金属イオンに由来する吸収による吸光度が減少すること。
(3)等吸収点を有しつつ、(1)の吸光度の増加と(2)の吸光度の減少とが生じること。
(4)等吸収点を有さず、金属ナノ粒子の表面プラズモン吸収を有すること。
【0018】
また、上記合成時には、外部熱源またはマイクロ波照射による加熱を行うと良い。
【0019】
また、上記溶液は、上記金属前駆体に対して還元性を示す有機溶媒を含んでいると良い。
【0020】
この場合、上記有機溶媒は、炭素数3以上の一価アルコールが好ましい。
【0021】
また、上記金属前駆体は銅前駆体であり、上記金属ナノ粒子は銅ナノ粒子であると良い。
【0022】
この場合、上記銅前駆体は、下記の化1で表され、上記銅ナノ粒子は、下記の化1で表される銅前駆体に由来する銅成分から構成された銅コアと、下記の化1で表される銅前駆体に由来し、前記銅コアの周囲を覆う有機成分とを有していると良い。
(化1)
(R−A)2−Cu
(但し、Rは炭化水素基、AはCOO、OSO3、SO3またはOPO3である。)
【0023】
一方、本発明に係る導電性ペーストは、上記ナノ粒子含有溶液の製造方法により得られたナノ粒子含有溶液から回収した金属ナノ粒子を含んでいることを要旨とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るナノ粒子含有溶液の製造方法では、溶液中の金属前駆体を還元して金属ナノ粒子を合成するにあたり、合成時における反応溶液の紫外−可視吸収スペクトルを経時的に測定し、得られた測定結果を用いて、金属ナノ粒子の合成状況を把握する手順を含んでいる。
【0025】
合成時に経時的に測定された反応溶液の紫外−可視吸収スペクトルは、金属ナノ粒子の合成の有無、合成反応の進み具合、生成した金属ナノ粒子のおおよその粒径などと密接に関係する情報を含んでいる。
【0026】
そのため、この測定結果を使用すれば、TEM観察や他の分析を逐一行うことなく、金属ナノ粒子の合成の有無、合成反応の進み具合、生成した金属ナノ粒子のおおよその粒径など、金属ナノ粒子の合成状況を簡便に把握することが可能になる。
【0027】
したがって、本発明によれば、設計通りの金属ナノ粒子が合成されているか品質管理したり、設計から外れたものが合成されている場合には、迅速に合成条件の修正を図って不良品を減らしたりすることができるなど、ナノ粒子含有溶液の安定生産に寄与することができる。
【0028】
ここで、得られた測定結果から、(1)金属ナノ粒子の自由電子由来の吸収による吸光度が増加することを確認すれば、金属ナノ粒子が合成されていることが分かる。
【0029】
また、(2)金属イオンに由来する吸収による吸光度が減少することを確認すれば、原料である金属前駆体がどの程度消費されたか、合成反応が完了したかどうかなど、合成反応の進み具合を把握することができる。
【0030】
また、(3)等吸収点を有しつつ、(1)の吸光度の増加と(2)の吸光度の減少とが生じることを確認すれば、表面プラズモン吸収を持たない粒径の金属ナノ粒子が得られていることが分かる。
【0031】
また、(4)等吸収点を有さず、金属ナノ粒子の表面プラズモン吸収を有することを確認すれば、表面プラズモン吸収を持つ粒径の金属ナノ粒子が得られていることが分かる。
【0032】
上記製造方法では、上記合成時に、外部熱源またはマイクロ波照射による加熱を行っても良いが、とりわけ、マイクロ波照射による加熱を行うのが好ましい。その急速かつ均一な加熱により、金属ナノ粒子の核を均一に発生させ、短時間加熱により粒子成長を短時間で終了させることで、単分散金属ナノ粒子を短時間で合成しやすくなるからである。
【0033】
また、上記溶液が、上記金属前駆体に対して還元性を示す有機溶媒を含んでいる場合には、金属前駆体の還元を比較的効率良く行うことができる。
【0034】
とりわけ、上記有機溶媒が炭素数3以上の一価アルコールであれば、比較的弱い還元力で金属前駆体中の金属イオンを還元させることができる。
【0035】
また、上記金属前駆体が上記銅前駆体である場合には、原料が比較的安価であるので、製造コストを抑制しやすくなる。また、上記銅ナノ粒子は、特定の銅塩に由来する銅成分から構成された銅コアと、特定の銅塩に由来し、銅コアの周囲を覆う有機成分とを有しているので、大気に曝された溶媒中でも酸化され難い。また、凝集し難く、分散性も良好である。
【0036】
一方、本発明に係る導電性ペーストは、上記製造方法により得られたナノ粒子含有溶液から回収した金属ナノ粒子を含んでいる。そのため、従来よりも高い精度で粒径制御がなされているなど、高い品質を有している。
【0037】
したがって、これを例えば、配線材料などに用いた場合には、配線幅制御がより高精度にできるなどの利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本実施形態に係るナノ粒子含有溶液の製造方法(以下、「本製法」ということがある。)、本実施形態に係る導電性ペースト(以下、「本ペースト」ということがある。)について詳細に説明する。
【0039】
1.本製法
本製法は、溶液還元法により金属ナノ粒子を合成し、ナノ粒子含有溶液を製造する方法である。本製法は、上記合成時における反応溶液の紫外−可視吸収スペクトルを経時的に測定し、得られた測定結果を用いて、金属ナノ粒子の合成状況を把握する手順を含んでいる。
【0040】
(溶液)
上記溶液還元法では、溶液中の金属前駆体を還元して金属ナノ粒子を合成する。合成に用いる溶液は、目的とする金属ナノ粒子を合成可能な金属前駆体と、これを溶解または分散可能な溶媒とを少なくとも含んでいる。
【0041】
上記金属前駆体としては、具体的には、例えば、一般式(R−A)n−M(但し、Rは炭化水素基、AはCOO、OSO3、SO3またはOPO3、Mは金属、nは金属Mがとりうる価数と同一であり、1以上の整数である。)で表されるもの、金属アルコキシド(金属イソプロポキシド、金属エトキシドなど)、金属アセチルアセトン錯塩(金属アセチルアセトネートなど)などの有機金属化合物を例示することができる。これら金属前駆体は1種または2種以上溶液中に含まれていても良い。
【0042】
上記金属前駆体のうち、とりわけ、一般式(R−A)n−Mで表されるものを好適に用いることができる。この金属前駆体は比較的安価であるので、コスト的に有利なナノ粒子含有溶液、導電性ペーストを得やすいなどの利点があるからである。また、この金属前駆体に由来する有機成分は、比較的低温で分解しやすいので、低温焼成による低抵抗化を図りやすい導電性ペーストが得やすくなるなどの利点があるからである。
【0043】
上記一般式(R−A)n−Mにおいて、炭化水素基Rは、アルキル基などの飽和炭化水素基であっても良いし、アルケニル基などの不飽和炭化水素基であっても良い。また、その分子構造は、直鎖状であっても良いし、分岐状であっても良い。また、炭化水素基R中の一部の水素は、金属ナノ粒子の合成などに悪影響を与えない範囲内であれば、ハロゲン元素などの他の置換基に置換されていても良い。
【0044】
上記炭化水素基Rの炭素数は、特に限定されるものではない。炭化水素基Rの炭素数、すなわち、炭化水素鎖長は、得られる金属ナノ粒子の粒径、粒度分布と密接に関係があり、これを可変させることで、金属ナノ粒子の粒径、粒度分布を制御することができる。
【0045】
また、炭化水素基Rの炭素数が過度に大きくなると、得られる金属ナノ粒子の低温焼結性が低下するなどの傾向が見られる。一方、炭化水素基Rの炭素数が過度に小さくなると、銅などの酸化しやすい金属を用いている場合に酸化抑制効果が小さくなるなどの傾向が見られる。したがって、上記炭化水素基Rの炭素数は、これらに留意して選択すると良い。
【0046】
本製法では、上記炭化水素基Rの炭素数の上限値は、好ましくは、40以下、より好ましくは、20以下であると良い。一方、上記炭化水素基Rの炭素数の下限値は、好ましくは、3以上、より好ましくは、6以上であると良い。
【0047】
上記一般式(R−A)n−Mにおいて、Aには、とりわけ、COOを好適に用いることができる。金属Mとの結合力が比較的弱く、金属ナノ粒子の合成時間を比較的短くすることができるので、生産性の向上に寄与するなどの利点があるからである。
【0048】
上記一般式(R−A)n−Mにおいて、Mには何れの種類の金属を用いても良く、ナノ粒子含有溶液の用途などに応じて適宜選択することができる。
【0049】
上記金属Mとしては、具体的には、例えば、銅、銀、金、白金属(白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、オスミウム)、ニッケル、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、インジウム、コバルト、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、ガリウム、鉄、クロム、マンガン、イットリウムなどを例示することができる。
【0050】
これらのうち、金属Mとしては、低抵抗、安全性、還元性などの観点から、とりわけ、銅、銀、金、白金属、ニッケルなどを好適なものとして例示することができる。
【0051】
このような金属前駆体としては、具体的には、例えば、脂肪酸銅塩などの脂肪酸金属塩、アルキルスルホン酸銅塩などのアルキルスルホン酸金属塩、アルキルホスホン酸銅塩などのアルキルホスホン酸金属塩などを好適なものとして例示することができる。
【0052】
上記金属前駆体を溶解または分散可能な溶媒としては、具体的には、例えば、ジオール類、グリコール類、ポリオール類などのアルコール類、アミン類、炭化水素類、ケトン類、エーテル類、エステル類などの有機溶媒などを例示することができる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。
【0053】
これら有機溶媒のうち、好ましくは、上記金属前駆体に対して還元性を示す還元性有機溶媒を好適に用いることができる。また、還元性有機溶媒は、水に対する溶解性が比較的低いものが良い。
【0054】
このような還元性有機溶媒としては、具体的には、例えば、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノールなどの炭素数3以上の一価アルコールなどを例示することができる。とりわけ、炭素数3〜30、好ましくは炭素数3〜20、より好ましくは炭素数3〜10、最も好ましくは炭素数4〜8の一価アルコールなどを好適なものとして例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
【0055】
炭素数が上記範囲内にある場合には、上記金属前駆体による金属イオンが急激に還元され難く、適度の還元力で金属イオンを還元させやすいからである。
【0056】
なお、上記金属前駆体が有機溶媒中に溶解するか分散するかについては、選択した金属前駆体と有機溶媒との組み合わせ、有機溶媒に対する金属前駆体の量などによる。また、金属前駆体の量は、合成する金属ナノ粒子の量などを考慮して適宜調整すれば良い。
【0057】
上記溶液中には、金属ナノ粒子の生成などに悪影響を及ぼさない範囲内で、例えば、触媒、還元剤、PtCl4などの核形成剤などの添加剤が1種または2種以上適宜添加されていても良い。
【0058】
(合成)
本製法では、金属ナノ粒子の合成時に、上記金属前駆体の還元を促進するなどの観点から、上記原料溶液を加熱すると良い。
【0059】
この際、加熱手法は、基本的には、金属前駆体を還元させられる熱を与えられれば、特に限定されるものではない。加熱手法としては、具体的には、例えば、ヒーターなどによる電熱、熱せられたオイル、水などの熱媒体、バーナ火炎、熱風などの外部熱源により溶液を熱伝導などで加熱する方法、マイクロ波などの電磁波、高周波、レーザー光、電子線などを照射することにより溶液を加熱する方法などを例示することができる。なお、これら加熱手法は、単独で用いても良いし、2以上の手法を組み合わせて用いても良い。
【0060】
原料溶液の加熱温度は、用いた金属前駆体の種類などにより異なる。また、上記加熱は、生成した金属ナノ粒子を酸化させないため、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気に溶液を存在させた状態で行うと良い。
【0061】
上記加熱手法のうち、好ましくは、外部熱源により溶液を加熱する方法、マイクロ波を照射することにより溶液を加熱する方法を用いると良い。より好ましくは、後者を用いると良い。原料溶液を均一に加熱することができ、比較的短時間で金属ナノ粒子を合成できるなどの利点があるからである。
【0062】
これらにより原料溶液の加熱を行うには、より具体的には、例えば、以下のようにすれば良い。
【0063】
前者の場合、溶液中の金属前駆体を還元させることが可能な温度に加熱された液体(例えば、オイル、水など)などの熱媒体に、原料溶液を入れた反応容器を接触させるもしくは近接させる、ヒーターやバーナ火炎などにより反応容器を加熱するなどすれば良い。
【0064】
一方、後者の場合、用いるマイクロ波は、特に限定されるものでない。具体的には、例えば、通常、日本国内で多用されている、周波数2.45GHzのマイクロ波を利用すれば良い。以下、マイクロ波の照射条件については、この周波数2.45GHzのマイクロ波を選択した場合を前提としたものであるが、他のマイクロ波を選択した場合には、これに準じて適宜照射条件を変更すれば良い。
【0065】
マイクロ波の照射強度は、金属前駆体、有機溶媒の種類などにより異なるが、生成する金属ナノ粒子の粒度分布を制御しやすい、加熱時間が適度であるなどの観点から、下記の範囲を選択すると良い。
【0066】
上記マイクロ波の照射強度の上限値としては、好ましくは、24W/cm3以下、より好ましくは、18W/cm3以下であると良い。
【0067】
一方、上記マイクロ波の照射強度の下限値としては、好ましくは、1W/cm3以上、より好ましくは、2W/cm3以上、さらにより好ましくは、3W/cm3以上であると良い。なお、これらマイクロ波の照射強度は、マイクロ波出力(W)/反応溶液の体積(cm3)で表される値である。
【0068】
また、上述した何れの加熱手法とも、加熱時間は、金属前駆体、有機溶媒の種類、加熱温度などにより異なるが、十分に金属ナノ粒子が生成する、副反応物の生成によって金属ナノ粒子の純度が低下し難い、生産性などの観点から、下記の範囲を選択すると良い。
【0069】
上記加熱時間の上限値としては、好ましくは、2時間以下、より好ましくは、1.5時間以下、さらにより好ましくは、1時間以下であると良い。
【0070】
一方、上記加熱時間の下限値としては、好ましくは、30秒以上、より好ましくは、1分以上、さらにより好ましくは、2分以上であると良い。もっとも、マイクロ波加熱の場合には、反応温度までの昇温時間を、外部加熱に比較して短時間で行うことが可能である。
【0071】
また、上述した何れの加熱手法とも、加熱温度は、ほぼ一定となるように制御されていると良い。
【0072】
上記加熱温度の上限値は、生産性、合成反応の制御のしやすさなどの観点から、好ましくは、300℃以下、より好ましくは、275℃以下、さらにより好ましくは、250℃以下であると良い。一方、上記加熱温度の下限値は、金属前駆体の分散性などの観点から、好ましくは、80℃以上、より好ましくは、100℃以上、さらにより好ましくは、120℃以上であると良い。
【0073】
なお、マイクロ波加熱を行う場合、加熱温度の制御は、例えば、上記溶液中に温度センサーを漬け、溶液の温度が一定になるように、マイクロ波の照射のオン/オフを繰り返すことなどにより行うことができる。また、マイクロ波の照射は、公知のマイクロ波照射装置を用いて行えば良い。
【0074】
(金属ナノ粒子)
本製法において、合成される金属ナノ粒子の構造は、用いた金属前駆体の種類などにより異なる。例えば、上記一般式(R−A)n−Mで示される金属前駆体を用いた場合には、脂肪酸基などの有機成分で金属コア表面が表面修飾された金属ナノ粒子などが合成される。
【0075】
すなわち、上記金属ナノ粒子は、上記金属前駆体に由来する金属成分から主として構成された金属コアと、上記金属前駆体に由来し、金属コアの周囲を覆う有機成分(以下、「被覆有機成分」ということがある。)とを有している。例えば、一般式(R−A)n−Mで示される金属前駆体を用いた場合、金属コアは、銅、銀などの金属Mであり、上記被覆有機成分は、脂肪酸基などのR−A−基である。
【0076】
上記金属コアは、1種または2種以上の金属塩に由来する1種または2種以上の金属成分から構成されていて良い。また、上記被覆有機成分は、1種または2種以上の金属前駆体に由来する1種または2種以上の有機成分から構成されていて良い。
【0077】
なお、上記金属ナノ粒子のうち、金属コアの種類については、例えば、X線回折法などにより確認することができる。また、被覆有機成分の種類については、例えば、NMR(核磁気共鳴法)、GC/MS(ガスクロマトグラフィ/質量分析法)などにより確認することができる。
【0078】
上記金属コアの平均粒径は、ナノサイズであれば特に限定されるものではなく、その用途などを考慮して適宜選択することができる。上記金属コアの平均粒径の上限値としては、例えば、100nm、50nm、10nmなどを例示することができる。一方、上記金属コアの平均粒径の下限値は、0.1nm、0.5nm、1nmなどを例示することができる。
【0079】
なお、上記平均粒径は、金属ナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真から、金属ナノ粒子(もっとも、TEMでは金属コアしか観察できない)を任意に100個抽出して粒子径を測定し、その直径の小さい方から順に数えた場合に、粒子数が50%となるときの粒径(D50)の値である。
【0080】
また、上記金属ナノ粒子の粒度分布は、特に限定されるものではないが、比較的シャープであると良い。粒径ばらつきε=(D90−D10)/D50としては、具体的には、例えば、その好ましい上限値として、2、1.5、1.3などを例示することができる。一方、εの下限値については、εが0に近くなるほど好ましいため、特に例示はしない。
【0081】
なお、D90、D10とは、上記D50と同様に算出される値であり、それぞれ粒子数が90%となる粒径、粒子数が10%となる粒径の値である。
【0082】
(紫外−可視吸収スペクトルの測定)
ここで、上記合成では、例えば、用いる金属前駆体の種類(一般式(R−A)n−Mで示される化合物における炭化水素基Rの鎖長など)、加熱温度、加熱時間などの因子により、得られる金属ナノ粒子の粒径などの合成状況が異なってくる。
【0083】
これまでは、反応溶液から分取したサンプルをTEM観察し、その結果に基づき、所望の粒径が得られる合成条件を経験的に定めるなどの手法が主であった。
【0084】
これに対し、本製法は、金属ナノ粒子の合成時における反応溶液の紫外−可視吸収スペクトルを経時的に測定し、得られた測定結果を用いて、金属ナノ粒子の合成状況を把握する手順を含んでいる。
【0085】
合成時に経時的に測定された反応溶液の紫外−可視吸収スペクトルは、金属ナノ粒子の合成の有無、合成反応の進み具合、生成した金属ナノ粒子のおおよその粒径などと密接に関係する情報を含んでいる。
【0086】
そのため、この測定結果を使用すれば、TEM観察や他の分析を逐一行うことなく、金属ナノ粒子の合成の有無、合成反応の進み具合、生成した金属ナノ粒子のおおよその粒径など、金属ナノ粒子の合成状況を簡便に把握することができる。
【0087】
なお、本製法は、TEM観察による合成状況の把握を全く排除するものではなく、必要に応じて上記手順と併用しても良い。もっとも、本製法は、紫外−可視吸収スペクトルの経時的変化の測定を行うことにより、従来よりも格段にTEM観察の回数を少なくすることができる。
【0088】
上記反応溶液の紫外−可視吸収スペクトルの測定は、紫外可視分光光度計を用い、任意の時間に反応溶液から分取したサンプルを使用して測定すれば良い。なお、サンプルが高濃度である場合には、十分な吸収スペクトルの測定が行えない場合がある。そのときには、トルエンなど適当な有機溶媒により、分取したサンプルを適当な濃度まで希釈し、これを用いて吸収スペクトルの測定を行えば良い。
【0089】
図1は、金属ナノ粒子の合成時における反応溶液の紫外−可視吸収スペクトルを経時的に測定したときの測定結果の一例を模式的に示したものである。横軸が測定波長であり、縦軸が吸光度である。また、図1では、時間t1〜t4(t1<t2<t3<t4)における反応溶液の紫外−可視吸収スペクトルを示している。
【0090】
本製法では、この測定結果を用いて金属ナノ粒子の合成状況を把握する。具体的には、上記測定結果から、下記(1)、(2)、(3)および(4)から選択される1つまたは2つ以上を確認することにより、その内容に対応した金属ナノ粒子の合成状況を把握することが好ましい。
【0091】
(1)金属ナノ粒子の自由電子由来の吸収による吸光度が増加すること。
(2)金属イオンに由来する吸収による吸光度が減少すること。
(3)等吸収点を有しつつ、(1)の吸光度の増加と(2)の吸光度の減少とが生じること。
(4)等吸収点を有さず、金属ナノ粒子の表面プラズモン吸収を有すること。
【0092】
ここで、得られた測定結果から、(1)金属ナノ粒子の自由電子由来の吸収(図1中、吸収波長a付近)による吸光度の増加(図1中、A)を確認することができた場合、金属ナノ粒子が合成されていることが分かる。
【0093】
また、(2)金属イオンに由来する吸収(図1中、吸収波長b)による吸光度の減少(図1中、B)を確認することができた場合、原料である金属前駆体がどの程度消費されたか、合成反応が完了したかどうかなど、合成反応の進み具合を把握することができる。
【0094】
また、(3)等吸収点(図1中、C)を有しつつ、(1)の吸光度の増加(図1中、A)と(2)の吸光度の減少(図1中、B)とが生じることを確認することができた場合には、表面プラズモン吸収を持たない粒径の金属ナノ粒子が得られていることが分かる。
【0095】
例えば、銅ナノ粒子は5nm以上にならないと、表面プラズモン吸収を持たないことが報告されている。そのため、銅前駆体を用いている場合に、上記の確認ができたときには、TEM観察を逐一行わなくても、合成により生じた銅ナノ粒子は、おおよそ5nm未満の粒径を有していることが分かる。
【0096】
また、(4)等吸収点(図1中、C)を有さず、金属ナノ粒子の表面プラズモン吸収(図1中、D、吸収波長d)を有することを確認した場合には、表面プラズモン吸収を持つ粒径の金属ナノ粒子が得られていることが分かる。
【0097】
例えば、同様に銅前駆体を用いている場合に、上記の確認ができたときには、合成により生じた銅ナノ粒子は、おおよそ5nm以上の粒径を有していることが分かる。
【0098】
このように、上記によれば、設計通りの金属ナノ粒子が合成されているか品質管理したり、設計から外れたものが合成されている場合には、迅速に合成条件の修正を図って不良品を減らしたりすることができるなど、ナノ粒子含有溶液の安定生産に寄与することが可能となる。
【0099】
以上、本製法について説明したが、本製法により得られたナノ粒子含有溶液中の金属ナノ粒子は、種々の用途に適用することができる。
【0100】
具体的な用途としては、例えば、微細配線、層間接合、接合部材(鉛はんだの代替)などに用いる導電性ペースト材料、異方性導電膜の導電材料(例えば、樹脂膜中に分散させたり、多孔質膜の孔部内に充填するなど)、触媒材料、着色材料、顔料などを例示することができる。
【0101】
2.本ペースト
本ペーストは、本製法により得られたナノ粒子含有溶液から回収した金属ナノ粒子を含んでいる。
【0102】
上記ナノ粒子含有溶液から金属ナノ粒子を回収するには、一般的な手法を用いれば良い。具体的には、例えば、遠心分離、濾過、溶媒抽出などの各種の手法を例示することができる。これらは1種または2種以上組み合わせて用いても良い。また、これらは1回または複数回行っても良い。
【0103】
より具体的な回収方法としては、例えば、合成液の上澄み液を除去し、これに、洗浄性があり、かつ、金属ナノ粒子に対して貧溶媒の溶媒(例えば、ヘキサンなど)を投入し、洗浄・遠心分離による沈澱処理を繰り返し行った後、得られた沈澱物を減圧乾燥することにより、金属ナノ粒子を回収する方法などを例示することができる。
【0104】
回収した金属ナノ粒子をペースト化するには、超音波、ビーズミルなどの分散手段を用いて、ペースト化に適当な溶媒中に上記回収した金属ナノ粒子を分散させれば良い。
【0105】
上記有機溶媒としては、具体的には、例えば、ヘキサン、トルエン、キシレン、オクタン、デカン、ウンデカン、テトラデカン、テルピネオール、デカノール、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、ヘキサノール、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、メタノール、エタノール、酢酸エチル、エチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテートなどを例示することができる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。
【0106】
この際、金属ナノ粒子の濃度は、特に限定されることなく、用途などを考慮して適宜調節することができる。一般的には、例えば、金属ナノ粒子の濃度の好ましい上限値として、90重量%、85重量%、80重量%などを例示することができる。一方、これら好ましい上限値と組み合わせ可能な好ましい下限値として、1重量%、2重量%、5重量%などを例示することができる。
【0107】
なお、導電性、焼結性などの特性に悪影響を与えない範囲内であれば、金属ナノ粒子の分散安定性を向上させる分散剤などの各種添加剤が1種または2種以上添加されていても良い。
【実施例】
【0108】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。ここでは、マイクロ波加熱−アルコール還元法を用いて、溶液中に分散された銅長鎖カルボン酸塩を還元し、単分散銅ナノ粒子を合成しているが、これに限定されるものではない。
【0109】
例えば、本実施例では、銅前駆体として、銅との結合力が弱く、合成反応が早いなどの観点から、銅長鎖カルボン酸塩を用いたが、これ以外にも、銅長鎖スルホン酸塩、銅長鎖ホスホン酸塩なども同様に適用することが可能である。
【0110】
1.銅前駆体の準備
初めに、原料に用いる銅前駆体を以下の手順により合成した。
【0111】
(オクタン酸銅)
脱イオン水400mlにオクタン酸ナトリウム(C7H15COONa)51mmolを80℃にて溶解した。その後、この液に、脱イオン水100mlに硝酸銅(II)25mmolを溶解した液を加えることにより、沈殿物を得た。
【0112】
次いで、この沈澱物に対して、濾過および脱イオン水による洗浄を繰り返し、さらに、濾過およびメタノールによる洗浄を行った後、70℃で12時間減圧乾燥することにより、オクタン酸銅((C7H15COO)2Cu)を得た。
【0113】
(ミリスチン酸銅)
脱イオン水200mlにミリスチン酸ナトリウム(C13H27COONa)51mmolを80℃にて溶解した液を用いた以外は、上記オクタン酸銅の合成と同様にして、ミリスチン酸銅((C13H27COO)2Cu)を得た。
【0114】
2.銅前駆体含有溶液の準備
次に、上記にて合成した銅前駆体を含む溶液を以下の手順により調製した。
【0115】
(オクタン酸銅含有溶液)
上記合成したオクタン酸銅0.5mmolを、1−ヘプタノール50mLに混合し、超音波を用いてオクタン酸銅を1−ヘプタノールに分散させ、オクタン酸銅含有溶液を調製した。
【0116】
(ミリスチン酸銅含有溶液)
上記合成したミリスチン酸銅0.5mmolを用いた以外は、上記オクタン酸銅含有溶液の調製と同様にして、ミリスチン酸銅含有溶液を調製した。
【0117】
3.銅ナノ粒子合成時における反応溶液の紫外−可視吸収スペクトルの経時的測定
次に、マイクロ波加熱−アルコール還元法を用いて、上記調製した銅前駆体含有溶液中の銅前駆体を還元して銅ナノ粒子を合成するにあたり、合成時における反応溶液の紫外−可視吸収スペクトルを経時的に測定した。
【0118】
すなわち、化学合成用マイクロ波加熱装置(マイクロ電子(株)製、「MMG−213VP」)を用い、窒素雰囲気下、10W/cm3(マイクロ波の周波数2.45GHz)で、オクタン酸銅含有溶液またはミリスチン酸銅含有溶液を加熱した。この際、加熱温度は、それぞれ409K、430Kまたは449Kとした。なお、加熱温度は、光ファイバー温度計(安立計器(株)製、「AMOTH TM−5886」)より取得し、その温度制御は、マイクロ波照射のオン/オフを繰り返すことにより行った。
【0119】
また、任意の時間における反応溶液を分取し、紫外可視分光光度計(日本分光(株)製、「V−570」)を用いて、紫外−可視吸収スペクトルを測定した。なお、測定は、石英セル(溶液層の厚さL=10mm)中にて室温で行い、測定波長は、300−1200nmの範囲とした。
【0120】
4.粒子の形状および粒径の観察
次に、上記スペクトルの測定結果と銅ナノ粒子の合成状況との関係を裏付けるため、TEM観察を行った。
【0121】
すなわち、任意の時間に分取した反応溶液中に含まれている銅ナノ粒子の粒子形状および粒径を、透過型電子顕微鏡((株)日立ハイテクノロジーズ製、「日立透過電子顕微鏡H−9000」)にて観察した。
【0122】
なお、エラスティックカーボン支持膜をはったCuグリッドに反応溶液を滴下し、真空下50℃にて一晩処理したものを観察サンプルとして用いた。
【0123】
5.結果および考察
表1に、各銅前駆体を還元して銅ナノ粒子を合成した際の合成条件および後述する実験結果との関係をまとめて示す。
【0124】
【表1】
【0125】
5.1 銅前駆体:オクタン酸銅、加熱温度:409K、加熱時間:0分→120分(測定ポイントは0、5、10、20、40、60、90、120分)
図2は、マイクロ波加熱にて409Kで加熱したオクタン酸銅含有溶液の紫外−可視吸収スペクトルの経時変化(0分→120分)を示したものである。
【0126】
図2によれば、この条件では、加熱時間の延長とともに、400nm付近の吸光度の増加が観測された。この付近の吸収は、金属ナノ粒子の自由電子由来の吸収である。このことから、上記吸光度の増加を確認すれば、銅ナノ粒子が合成されていることが分かる。
【0127】
また、この400nm付近の吸光度の増加とともに、696nmにピークトップを持つ吸光度の減少が観測された。このピークは、Cu2+のd−d遷移に由来する吸収であるため、Cu2+がCu0へと還元されて減少していることが分かる。このことから、上記吸光度の減少を確認すれば、原料であるオクタン酸銅がどの程度消費されたか、合成反応が完了したかどうかなど、合成反応の進み具合を把握できることが分かる。
【0128】
また、これら二つの吸光度の変化は、565nmに等吸収点を有して変化していた。これは、ある化学種が別の化学種へと化学両論的に変化していることを示している。つまり、図2の一連の紫外−可視吸収スペクトルの変化は、Cu2+がCu0へと還元され、銅ナノ粒子が生成している過程を表していると言える。
【0129】
ここで、銅ナノ粒子は5nm以上にならないと、表面プラズモン吸収を持たないことが報告されている。図2によれば、紫外−可視吸収スペクトルが突然大きく変化する箇所はなく、銅ナノ粒子の表面プラズモン吸収に由来するピークは観測されていない。
【0130】
つまり、等吸収点を有しつつ、銅ナノ粒子の自由電子由来の吸収による吸光度の増加と、Cu2+に由来する吸収による吸光度の減少とが生じることを確認すれば、TEM観察を逐一行わなくても、表面プラズモン吸収を持たない5nm未満の粒径を有する銅ナノ粒子が得られていることが分かる。
【0131】
図3は、オクタン酸銅含有溶液を409Kでマイクロ波加熱したとき(図2のスペクトル)の、90分後の反応溶液中に含まれている銅ナノ粒子のTEM像である。なお、図3(b)は、図3(a)を拡大したものである。また、図4は、図3(b)から算出した銅ナノ粒子の粒度分布を示すヒストグラムである。
【0132】
図3のTEM像には、粒子が多数あり、それぞれの粒子の上には、結晶であることを示すフリンジが多数存在していた。また、この領域から得られた電子回折(ED)パターンは、面心立方格子(fcc)構造を持つ銅であることを示していた。また、図4のヒストグラムから概算した銅ナノ粒子の平均粒径は、3.2nmであった。
【0133】
このように、表面プラズモン吸収を持たない5nm未満の銅ナノ粒子が主に存在していることは、裏付けのために行ったTEM観察からも示された。
【0134】
5.2 銅前駆体:ミリスチン酸銅、加熱温度:409K、加熱時間:1分→90分(測定ポイントは1、5、10、20、40、60、90分)
図5は、マイクロ波加熱にて409Kで加熱したミリスチン酸銅含有溶液の紫外−可視吸収スペクトルの経時変化(1分→90分)を示したものである。
【0135】
図5に示すように、この条件の場合も、「5.1」と同様に、565nmに等吸収点を有しつつ、400nm付近の吸光度の増加とともに、696nmにピークトップを持つ吸光度の減少が観測された。したがって、5nm未満の粒径を有する銅ナノ粒子が得られているなど、5.1にて詳細した内容と同様のことが当てはまる。
【0136】
また、図6は、ミリスチン酸銅含有溶液を409Kでマイクロ波加熱したとき(図5のスペクトル)の、90分後の反応溶液中に含まれている銅ナノ粒子のTEM像である。なお、図6(b)は、図6(a)を拡大したものである。また、図7は、図6(b)から算出した銅ナノ粒子の粒径分布を示すヒストグラムである。
【0137】
このTEM観察によれば、銅ナノ粒子の平均粒径は、2.1nmであり、表面プラズモン吸収を持たない5nm未満の銅ナノ粒子が主に存在していることが確認された。
【0138】
5.3 銅前駆体:オクタン酸銅、加熱温度:443K、加熱時間:0分→20分(測定ポイントは0、1、5、10、20分)
図8は、マイクロ波加熱にて443Kで加熱したオクタン酸銅含有溶液の紫外−可視吸収スペクトルの経時変化(0分→20分)を示したものである。
【0139】
図8に示すように、この条件の場合、0分〜10分間については、「5.1」と同様に、565nmに等吸収点を有しつつ、400nm付近の吸光度の増加とともに、696nmにピークトップを持つ吸光度の減少が観測された。したがって、0分〜10分間加熱した場合には、5nm未満の粒径を有する銅ナノ粒子が得られているなど、5.1にて詳細した内容と同様のことが当てはまる。
【0140】
ところが、20分間加熱した場合には、紫外−可視吸収スペクトルが大きく変化した。すなわち、これまで存在していた等吸収点が突然消滅し、596nmにピークトップを持つ新たな吸収が観測された。この596nmのピークは、銅ナノ粒子の表面プラズモン吸収由来のものである。
【0141】
つまり、上記一連の紫外−可視吸収スペクトルの変化は、Cu2+がCu0へと還元され、銅ナノ粒子が生成し、粒径5nm以上へと成長する一連の過程を表している。
【0142】
このことから、等吸収点を有しつつ、銅ナノ粒子の自由電子由来の吸収による吸光度の増加と、Cu2+に由来する吸収による吸光度の減少とが生じている間は、5nm未満の粒径を有する銅ナノ粒子が得られているが、等吸収点が消滅し、銅ナノ粒子の表面プラズモン吸収が発生したときには、5nm以上の粒径を有する銅ナノ粒子が得られていることが分かる。よって、これを利用すれば、異なる粒径を有する銅ナノ粒子を選択的に得ることが可能になると言える。
【0143】
また、図9は、オクタン酸銅含有溶液を443Kでマイクロ波加熱したとき(図8のスペクトル)の、20分後の反応溶液中に含まれている銅ナノ粒子のTEM像である。なお、図9(b)は、図9(a)を拡大したものである。また、図10は、図9(b)から算出した銅ナノ粒子の粒径分布を示すヒストグラムである。
【0144】
このTEM観察によれば、銅ナノ粒子の平均粒径は、6.0nmであり、表面プラズモン吸収を持つ5nm以上の銅ナノ粒子が主に存在していることが確認された。
【0145】
5.4 銅前駆体:ミリスチン酸銅、加熱温度:443K、加熱時間:1分→20分(測定ポイントは1、10、20分)
図11は、マイクロ波加熱にて443Kで加熱したミリスチン酸銅含有溶液の紫外−可視吸収スペクトルの経時変化(1分→20分)を示したものである。
【0146】
図11に示すように、この条件の場合も、「5.1」と同様に、565nmに等吸収点を有しつつ、400nm付近の吸光度の増加とともに、696nmにピークトップを持つ吸光度の減少が観測された。したがって、5nm未満の粒径を有する銅ナノ粒子が得られているなど、5.1にて詳細した内容と同様のことが当てはまる。他にも、図5と図11とを比較すると、より高温で加熱すれば、より短い時間で、ほぼ同程度の粒径の銅ナノ粒子が得られることが分かる。
【0147】
また、図12は、ミリスチン酸銅含有溶液を443Kでマイクロ波加熱したとき(図11のスペクトル)の、20分後の反応溶液中に含まれている銅ナノ粒子のTEM像である。なお、図12(b)は、図12(a)を拡大したものである。また、図13は、図12(b)から算出した銅ナノ粒子の粒径分布を示すヒストグラムである。
【0148】
このTEM観察によれば、銅ナノ粒子の平均粒径は、2.6nmであり、表面プラズモン吸収を持たない5nm未満の銅ナノ粒子が主に存在していることが確認された。
【0149】
5.5 銅前駆体:ミリスチン酸銅、加熱温度:430K、加熱時間:1分→70分(測定ポイントは1、10、20、40、60、70分)
図14は、マイクロ波加熱にて430Kで加熱したミリスチン酸銅含有溶液の紫外−可視吸収スペクトルの経時変化(1分→70分)を示したものである。
【0150】
図14に示すように、この条件の場合、1分〜60分間については、銅ナノ粒子の表面プラズモン吸収に由来するピークは見られず、「5.1」と同様に、565nmに等吸収点を有しつつ、400nm付近の吸光度の増加とともに、696nmにピークトップを持つ吸光度の減少が観測された。したがって、1分〜60分間加熱した場合には、5nm未満の粒径を有する銅ナノ粒子が得られているなど、「5.1」にて詳細した内容と同様のことが当てはまる
【0151】
ところが、70分間加熱した場合の紫外−可視吸収スペクトルから分かるように、等吸収点が突然消滅し、銅ナノ粒子の表面プラズモン吸収に由来するピーク(596nm)が発生した。
【0152】
したがって、70分間加熱した場合には、5nm以上の粒径を有する銅ナノ粒子が得られていることが分かる。
【0153】
また、図15は、ミリスチン酸銅含有溶液を430Kでマイクロ波加熱したときの60分後の反応溶液中に含まれている銅ナノ粒子のTEM像である。図16は、ミリスチン酸銅含有溶液を430Kでマイクロ波加熱したときの70分後の反応溶液中に含まれている銅ナノ粒子のTEM像である。
【0154】
このTEM観察によれば、この条件の場合、1分〜60分間の加熱であれば、銅ナノ粒子の平均粒径は、表面プラズモン吸収を持たない2−3nmで留まっているが、70分間加熱を行うと、表面プラズモン吸収を持つ5nm以上の粒径を有する銅ナノ粒子が多く存在していることが確認された。
【0155】
以上説明したように、本発明によれば、金属ナノ粒子の合成時における反応溶液の紫外−可視吸収スペクトルの経時的変化を利用することにより、金属ナノ粒子の合成状況を簡便に把握可能であると言える。
【0156】
以上、実施形態、実施例について説明したが、本発明は上記実施形態、実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0157】
例えば、上記実施例では、銅前駆体を用いて銅ナノ粒子を合成したが、銅前駆体以外にも、銀前駆体、金前駆体などの他の金属前駆体を用いて、その金属前駆体を構成する金属の金属ナノ粒子を合成する際にも本発明は適用可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】金属ナノ粒子の合成時における反応溶液の紫外−可視吸収スペクトルを経時的に測定したときの測定結果の一例を模式的に示した図である。
【図2】マイクロ波加熱にて409Kで加熱したオクタン酸銅含有溶液の紫外−可視吸収スペクトルの経時変化(0分→120分)を示した図である。
【図3】オクタン酸銅含有溶液を409Kでマイクロ波加熱したとき(図2のスペクトル)の、90分後の反応溶液中に含まれている銅ナノ粒子のTEM像である。
【図4】図3(b)から算出した銅ナノ粒子の粒度分布を示すヒストグラムである。
【図5】マイクロ波加熱にて409Kで加熱したミリスチン酸銅含有溶液の紫外−可視吸収スペクトルの経時変化(1分→90分)を示した図である。
【図6】ミリスチン酸銅含有溶液を409Kでマイクロ波加熱したとき(図5のスペクトル)の、90分後の反応溶液中に含まれている銅ナノ粒子のTEM像である。
【図7】図6(b)から算出した銅ナノ粒子の粒径分布を示すヒストグラムである。
【図8】マイクロ波加熱にて443Kで加熱したオクタン酸銅含有溶液の紫外−可視吸収スペクトルの経時変化(0分→20分)を示した図である。
【図9】オクタン酸銅含有溶液を443Kでマイクロ波加熱したとき(図8のスペクトル)の、20分後の反応溶液中に含まれている銅ナノ粒子のTEM像である。
【図10】図9(b)から算出した銅ナノ粒子の粒径分布を示すヒストグラムである。
【図11】マイクロ波加熱にて443Kで加熱したミリスチン酸銅含有溶液の紫外−可視吸収スペクトルの経時変化(1分→20分)を示した図である。
【図12】ミリスチン酸銅含有溶液を443Kでマイクロ波加熱したとき(図11のスペクトル)の、20分後の反応溶液中に含まれている銅ナノ粒子のTEM像である。
【図13】図12(b)から算出した銅ナノ粒子の粒径分布を示すヒストグラムである。
【図14】マイクロ波加熱にて430Kで加熱したミリスチン酸銅含有溶液の紫外−可視吸収スペクトルの経時変化(1分→70分)を示した図である。
【図15】ミリスチン酸銅含有溶液を430Kでマイクロ波加熱したときの60分後の反応溶液中に含まれている銅ナノ粒子のTEM像である。
【図16】ミリスチン酸銅含有溶液を430Kでマイクロ波加熱したときの70分後の反応溶液中に含まれている銅ナノ粒子のTEM像である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子含有溶液の製造方法および導電性ペーストに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナノサイズ粒子は、バルクサイズ粒子にはない特性を有しており、ナノサイズ粒子の合成法やその応用に関する研究が数多くなされている。
【0003】
これまで、金属ナノ粒子としては、Au、Ag、Pt、Pd、Cu、Niなどのナノ粒子が合成されており、導電材料、触媒材料、磁性材料、非線形光学材料、着色材料などとしての利用が期待されている。
【0004】
これらの中でも、銅ナノ粒子は、電子回路のナノサイズ配線、非線形光学材料として応用可能である。特に、銅は銀よりも耐イオンマイグレーション性を有し、かつ、安価であるため、配線材料(導電材料)として注目を浴びている。
【0005】
但し、銅は、ナノサイズになると、表面活性が高くなりすぎて溶媒中においても容易に酸化されやすいという特質を有している。そのため、銅ナノ粒子は、貴金属ナノ粒子に比較して、一般にその合成が難しいとされている。
【0006】
このような背景の下、従来、金属ナノ粒子を合成した後、金属ナノ粒子の粒径を確認する方法としては、合成液から金属ナノ粒子を単離してサンプルを作製し、透過型電子顕微鏡(TEM)にて直接観察する方法が主流であった。
【0007】
他にも例えば、特許文献1には、電子顕微鏡観察では金属コロイド液そのものを観察できないため、紫外可視吸光度の測定値で金属コロイド液の粒径分布を規定する点が開示されている。
【0008】
具体的には、この文献では、硝酸銀などの銀塩とクエン酸三ナトリウムやタンニン酸などの還元剤とを含んだ水溶液を数時間撹拌し、銀塩を還元させることによって金属コロイド液を作製した後、この溶液の粒径分布を紫外可視吸光度分析により測定する点が開示されている。
【0009】
そして、上記粒径分布が特定の範囲内にあれば、粒径に広い分布幅を持たせることができるので、上記金属コロイド液中には、粒径の小さな金属コロイド粒子だけでなく、ある程度粒径の大きな金属コロイド粒子も混在させることができる点が記載されている。
【0010】
【特許文献1】特開2005−19028号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前者のTEM観察は、サンプル作製に手間がかかるし、装置自体も非常に高価である。
【0012】
そのため、金属ナノ粒子が合成されているか否か、合成されている場合、どの程度の粒径を有する金属ナノ粒子が生成しているのかなど、実際の生産工程における金属ナノ粒子の合成状況をTEM観察により逐一把握するのは、実質的に不可能であった。
【0013】
また、TEM観察では、合成反応の進み具合を知ることはできない。それ故、これを知るためには、別の分析手法を用いて原料残渣などを調べる必要があった。
【0014】
一方、後者の特許文献1に記載の技術は、作製した金属コロイド液の粒径分布を紫外可視吸光度の測定値で規定することで、高い導電性を発現させようとするものである。この技術を用いても、実際にどの程度の粒径を有する金属ナノ粒子が生成しているかは不明である。そのため、この技術により、金属ナノ粒子の合成状況を把握することは難しい。
【0015】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、金属ナノ粒子の合成状況を簡便に把握することができるナノ粒子含有溶液の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本発明に係るナノ粒子含有溶液の製造方法は、溶液中の金属前駆体を還元して金属ナノ粒子を合成し、ナノ粒子含有溶液を得るにあたり、上記合成時における反応溶液の紫外−可視吸収スペクトルを経時的に測定し、得られた測定結果を用いて、金属ナノ粒子の合成状況を把握する手順を含んでいることを要旨とする。
【0017】
ここで、上記手順は、下記(1)、(2)、(3)および(4)から選択される1つまたは2つ以上の確認を含むことが好ましい。
(1)金属ナノ粒子の自由電子由来の吸収による吸光度が増加すること。
(2)金属イオンに由来する吸収による吸光度が減少すること。
(3)等吸収点を有しつつ、(1)の吸光度の増加と(2)の吸光度の減少とが生じること。
(4)等吸収点を有さず、金属ナノ粒子の表面プラズモン吸収を有すること。
【0018】
また、上記合成時には、外部熱源またはマイクロ波照射による加熱を行うと良い。
【0019】
また、上記溶液は、上記金属前駆体に対して還元性を示す有機溶媒を含んでいると良い。
【0020】
この場合、上記有機溶媒は、炭素数3以上の一価アルコールが好ましい。
【0021】
また、上記金属前駆体は銅前駆体であり、上記金属ナノ粒子は銅ナノ粒子であると良い。
【0022】
この場合、上記銅前駆体は、下記の化1で表され、上記銅ナノ粒子は、下記の化1で表される銅前駆体に由来する銅成分から構成された銅コアと、下記の化1で表される銅前駆体に由来し、前記銅コアの周囲を覆う有機成分とを有していると良い。
(化1)
(R−A)2−Cu
(但し、Rは炭化水素基、AはCOO、OSO3、SO3またはOPO3である。)
【0023】
一方、本発明に係る導電性ペーストは、上記ナノ粒子含有溶液の製造方法により得られたナノ粒子含有溶液から回収した金属ナノ粒子を含んでいることを要旨とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るナノ粒子含有溶液の製造方法では、溶液中の金属前駆体を還元して金属ナノ粒子を合成するにあたり、合成時における反応溶液の紫外−可視吸収スペクトルを経時的に測定し、得られた測定結果を用いて、金属ナノ粒子の合成状況を把握する手順を含んでいる。
【0025】
合成時に経時的に測定された反応溶液の紫外−可視吸収スペクトルは、金属ナノ粒子の合成の有無、合成反応の進み具合、生成した金属ナノ粒子のおおよその粒径などと密接に関係する情報を含んでいる。
【0026】
そのため、この測定結果を使用すれば、TEM観察や他の分析を逐一行うことなく、金属ナノ粒子の合成の有無、合成反応の進み具合、生成した金属ナノ粒子のおおよその粒径など、金属ナノ粒子の合成状況を簡便に把握することが可能になる。
【0027】
したがって、本発明によれば、設計通りの金属ナノ粒子が合成されているか品質管理したり、設計から外れたものが合成されている場合には、迅速に合成条件の修正を図って不良品を減らしたりすることができるなど、ナノ粒子含有溶液の安定生産に寄与することができる。
【0028】
ここで、得られた測定結果から、(1)金属ナノ粒子の自由電子由来の吸収による吸光度が増加することを確認すれば、金属ナノ粒子が合成されていることが分かる。
【0029】
また、(2)金属イオンに由来する吸収による吸光度が減少することを確認すれば、原料である金属前駆体がどの程度消費されたか、合成反応が完了したかどうかなど、合成反応の進み具合を把握することができる。
【0030】
また、(3)等吸収点を有しつつ、(1)の吸光度の増加と(2)の吸光度の減少とが生じることを確認すれば、表面プラズモン吸収を持たない粒径の金属ナノ粒子が得られていることが分かる。
【0031】
また、(4)等吸収点を有さず、金属ナノ粒子の表面プラズモン吸収を有することを確認すれば、表面プラズモン吸収を持つ粒径の金属ナノ粒子が得られていることが分かる。
【0032】
上記製造方法では、上記合成時に、外部熱源またはマイクロ波照射による加熱を行っても良いが、とりわけ、マイクロ波照射による加熱を行うのが好ましい。その急速かつ均一な加熱により、金属ナノ粒子の核を均一に発生させ、短時間加熱により粒子成長を短時間で終了させることで、単分散金属ナノ粒子を短時間で合成しやすくなるからである。
【0033】
また、上記溶液が、上記金属前駆体に対して還元性を示す有機溶媒を含んでいる場合には、金属前駆体の還元を比較的効率良く行うことができる。
【0034】
とりわけ、上記有機溶媒が炭素数3以上の一価アルコールであれば、比較的弱い還元力で金属前駆体中の金属イオンを還元させることができる。
【0035】
また、上記金属前駆体が上記銅前駆体である場合には、原料が比較的安価であるので、製造コストを抑制しやすくなる。また、上記銅ナノ粒子は、特定の銅塩に由来する銅成分から構成された銅コアと、特定の銅塩に由来し、銅コアの周囲を覆う有機成分とを有しているので、大気に曝された溶媒中でも酸化され難い。また、凝集し難く、分散性も良好である。
【0036】
一方、本発明に係る導電性ペーストは、上記製造方法により得られたナノ粒子含有溶液から回収した金属ナノ粒子を含んでいる。そのため、従来よりも高い精度で粒径制御がなされているなど、高い品質を有している。
【0037】
したがって、これを例えば、配線材料などに用いた場合には、配線幅制御がより高精度にできるなどの利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本実施形態に係るナノ粒子含有溶液の製造方法(以下、「本製法」ということがある。)、本実施形態に係る導電性ペースト(以下、「本ペースト」ということがある。)について詳細に説明する。
【0039】
1.本製法
本製法は、溶液還元法により金属ナノ粒子を合成し、ナノ粒子含有溶液を製造する方法である。本製法は、上記合成時における反応溶液の紫外−可視吸収スペクトルを経時的に測定し、得られた測定結果を用いて、金属ナノ粒子の合成状況を把握する手順を含んでいる。
【0040】
(溶液)
上記溶液還元法では、溶液中の金属前駆体を還元して金属ナノ粒子を合成する。合成に用いる溶液は、目的とする金属ナノ粒子を合成可能な金属前駆体と、これを溶解または分散可能な溶媒とを少なくとも含んでいる。
【0041】
上記金属前駆体としては、具体的には、例えば、一般式(R−A)n−M(但し、Rは炭化水素基、AはCOO、OSO3、SO3またはOPO3、Mは金属、nは金属Mがとりうる価数と同一であり、1以上の整数である。)で表されるもの、金属アルコキシド(金属イソプロポキシド、金属エトキシドなど)、金属アセチルアセトン錯塩(金属アセチルアセトネートなど)などの有機金属化合物を例示することができる。これら金属前駆体は1種または2種以上溶液中に含まれていても良い。
【0042】
上記金属前駆体のうち、とりわけ、一般式(R−A)n−Mで表されるものを好適に用いることができる。この金属前駆体は比較的安価であるので、コスト的に有利なナノ粒子含有溶液、導電性ペーストを得やすいなどの利点があるからである。また、この金属前駆体に由来する有機成分は、比較的低温で分解しやすいので、低温焼成による低抵抗化を図りやすい導電性ペーストが得やすくなるなどの利点があるからである。
【0043】
上記一般式(R−A)n−Mにおいて、炭化水素基Rは、アルキル基などの飽和炭化水素基であっても良いし、アルケニル基などの不飽和炭化水素基であっても良い。また、その分子構造は、直鎖状であっても良いし、分岐状であっても良い。また、炭化水素基R中の一部の水素は、金属ナノ粒子の合成などに悪影響を与えない範囲内であれば、ハロゲン元素などの他の置換基に置換されていても良い。
【0044】
上記炭化水素基Rの炭素数は、特に限定されるものではない。炭化水素基Rの炭素数、すなわち、炭化水素鎖長は、得られる金属ナノ粒子の粒径、粒度分布と密接に関係があり、これを可変させることで、金属ナノ粒子の粒径、粒度分布を制御することができる。
【0045】
また、炭化水素基Rの炭素数が過度に大きくなると、得られる金属ナノ粒子の低温焼結性が低下するなどの傾向が見られる。一方、炭化水素基Rの炭素数が過度に小さくなると、銅などの酸化しやすい金属を用いている場合に酸化抑制効果が小さくなるなどの傾向が見られる。したがって、上記炭化水素基Rの炭素数は、これらに留意して選択すると良い。
【0046】
本製法では、上記炭化水素基Rの炭素数の上限値は、好ましくは、40以下、より好ましくは、20以下であると良い。一方、上記炭化水素基Rの炭素数の下限値は、好ましくは、3以上、より好ましくは、6以上であると良い。
【0047】
上記一般式(R−A)n−Mにおいて、Aには、とりわけ、COOを好適に用いることができる。金属Mとの結合力が比較的弱く、金属ナノ粒子の合成時間を比較的短くすることができるので、生産性の向上に寄与するなどの利点があるからである。
【0048】
上記一般式(R−A)n−Mにおいて、Mには何れの種類の金属を用いても良く、ナノ粒子含有溶液の用途などに応じて適宜選択することができる。
【0049】
上記金属Mとしては、具体的には、例えば、銅、銀、金、白金属(白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、オスミウム)、ニッケル、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、インジウム、コバルト、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、ガリウム、鉄、クロム、マンガン、イットリウムなどを例示することができる。
【0050】
これらのうち、金属Mとしては、低抵抗、安全性、還元性などの観点から、とりわけ、銅、銀、金、白金属、ニッケルなどを好適なものとして例示することができる。
【0051】
このような金属前駆体としては、具体的には、例えば、脂肪酸銅塩などの脂肪酸金属塩、アルキルスルホン酸銅塩などのアルキルスルホン酸金属塩、アルキルホスホン酸銅塩などのアルキルホスホン酸金属塩などを好適なものとして例示することができる。
【0052】
上記金属前駆体を溶解または分散可能な溶媒としては、具体的には、例えば、ジオール類、グリコール類、ポリオール類などのアルコール類、アミン類、炭化水素類、ケトン類、エーテル類、エステル類などの有機溶媒などを例示することができる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。
【0053】
これら有機溶媒のうち、好ましくは、上記金属前駆体に対して還元性を示す還元性有機溶媒を好適に用いることができる。また、還元性有機溶媒は、水に対する溶解性が比較的低いものが良い。
【0054】
このような還元性有機溶媒としては、具体的には、例えば、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノールなどの炭素数3以上の一価アルコールなどを例示することができる。とりわけ、炭素数3〜30、好ましくは炭素数3〜20、より好ましくは炭素数3〜10、最も好ましくは炭素数4〜8の一価アルコールなどを好適なものとして例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
【0055】
炭素数が上記範囲内にある場合には、上記金属前駆体による金属イオンが急激に還元され難く、適度の還元力で金属イオンを還元させやすいからである。
【0056】
なお、上記金属前駆体が有機溶媒中に溶解するか分散するかについては、選択した金属前駆体と有機溶媒との組み合わせ、有機溶媒に対する金属前駆体の量などによる。また、金属前駆体の量は、合成する金属ナノ粒子の量などを考慮して適宜調整すれば良い。
【0057】
上記溶液中には、金属ナノ粒子の生成などに悪影響を及ぼさない範囲内で、例えば、触媒、還元剤、PtCl4などの核形成剤などの添加剤が1種または2種以上適宜添加されていても良い。
【0058】
(合成)
本製法では、金属ナノ粒子の合成時に、上記金属前駆体の還元を促進するなどの観点から、上記原料溶液を加熱すると良い。
【0059】
この際、加熱手法は、基本的には、金属前駆体を還元させられる熱を与えられれば、特に限定されるものではない。加熱手法としては、具体的には、例えば、ヒーターなどによる電熱、熱せられたオイル、水などの熱媒体、バーナ火炎、熱風などの外部熱源により溶液を熱伝導などで加熱する方法、マイクロ波などの電磁波、高周波、レーザー光、電子線などを照射することにより溶液を加熱する方法などを例示することができる。なお、これら加熱手法は、単独で用いても良いし、2以上の手法を組み合わせて用いても良い。
【0060】
原料溶液の加熱温度は、用いた金属前駆体の種類などにより異なる。また、上記加熱は、生成した金属ナノ粒子を酸化させないため、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気に溶液を存在させた状態で行うと良い。
【0061】
上記加熱手法のうち、好ましくは、外部熱源により溶液を加熱する方法、マイクロ波を照射することにより溶液を加熱する方法を用いると良い。より好ましくは、後者を用いると良い。原料溶液を均一に加熱することができ、比較的短時間で金属ナノ粒子を合成できるなどの利点があるからである。
【0062】
これらにより原料溶液の加熱を行うには、より具体的には、例えば、以下のようにすれば良い。
【0063】
前者の場合、溶液中の金属前駆体を還元させることが可能な温度に加熱された液体(例えば、オイル、水など)などの熱媒体に、原料溶液を入れた反応容器を接触させるもしくは近接させる、ヒーターやバーナ火炎などにより反応容器を加熱するなどすれば良い。
【0064】
一方、後者の場合、用いるマイクロ波は、特に限定されるものでない。具体的には、例えば、通常、日本国内で多用されている、周波数2.45GHzのマイクロ波を利用すれば良い。以下、マイクロ波の照射条件については、この周波数2.45GHzのマイクロ波を選択した場合を前提としたものであるが、他のマイクロ波を選択した場合には、これに準じて適宜照射条件を変更すれば良い。
【0065】
マイクロ波の照射強度は、金属前駆体、有機溶媒の種類などにより異なるが、生成する金属ナノ粒子の粒度分布を制御しやすい、加熱時間が適度であるなどの観点から、下記の範囲を選択すると良い。
【0066】
上記マイクロ波の照射強度の上限値としては、好ましくは、24W/cm3以下、より好ましくは、18W/cm3以下であると良い。
【0067】
一方、上記マイクロ波の照射強度の下限値としては、好ましくは、1W/cm3以上、より好ましくは、2W/cm3以上、さらにより好ましくは、3W/cm3以上であると良い。なお、これらマイクロ波の照射強度は、マイクロ波出力(W)/反応溶液の体積(cm3)で表される値である。
【0068】
また、上述した何れの加熱手法とも、加熱時間は、金属前駆体、有機溶媒の種類、加熱温度などにより異なるが、十分に金属ナノ粒子が生成する、副反応物の生成によって金属ナノ粒子の純度が低下し難い、生産性などの観点から、下記の範囲を選択すると良い。
【0069】
上記加熱時間の上限値としては、好ましくは、2時間以下、より好ましくは、1.5時間以下、さらにより好ましくは、1時間以下であると良い。
【0070】
一方、上記加熱時間の下限値としては、好ましくは、30秒以上、より好ましくは、1分以上、さらにより好ましくは、2分以上であると良い。もっとも、マイクロ波加熱の場合には、反応温度までの昇温時間を、外部加熱に比較して短時間で行うことが可能である。
【0071】
また、上述した何れの加熱手法とも、加熱温度は、ほぼ一定となるように制御されていると良い。
【0072】
上記加熱温度の上限値は、生産性、合成反応の制御のしやすさなどの観点から、好ましくは、300℃以下、より好ましくは、275℃以下、さらにより好ましくは、250℃以下であると良い。一方、上記加熱温度の下限値は、金属前駆体の分散性などの観点から、好ましくは、80℃以上、より好ましくは、100℃以上、さらにより好ましくは、120℃以上であると良い。
【0073】
なお、マイクロ波加熱を行う場合、加熱温度の制御は、例えば、上記溶液中に温度センサーを漬け、溶液の温度が一定になるように、マイクロ波の照射のオン/オフを繰り返すことなどにより行うことができる。また、マイクロ波の照射は、公知のマイクロ波照射装置を用いて行えば良い。
【0074】
(金属ナノ粒子)
本製法において、合成される金属ナノ粒子の構造は、用いた金属前駆体の種類などにより異なる。例えば、上記一般式(R−A)n−Mで示される金属前駆体を用いた場合には、脂肪酸基などの有機成分で金属コア表面が表面修飾された金属ナノ粒子などが合成される。
【0075】
すなわち、上記金属ナノ粒子は、上記金属前駆体に由来する金属成分から主として構成された金属コアと、上記金属前駆体に由来し、金属コアの周囲を覆う有機成分(以下、「被覆有機成分」ということがある。)とを有している。例えば、一般式(R−A)n−Mで示される金属前駆体を用いた場合、金属コアは、銅、銀などの金属Mであり、上記被覆有機成分は、脂肪酸基などのR−A−基である。
【0076】
上記金属コアは、1種または2種以上の金属塩に由来する1種または2種以上の金属成分から構成されていて良い。また、上記被覆有機成分は、1種または2種以上の金属前駆体に由来する1種または2種以上の有機成分から構成されていて良い。
【0077】
なお、上記金属ナノ粒子のうち、金属コアの種類については、例えば、X線回折法などにより確認することができる。また、被覆有機成分の種類については、例えば、NMR(核磁気共鳴法)、GC/MS(ガスクロマトグラフィ/質量分析法)などにより確認することができる。
【0078】
上記金属コアの平均粒径は、ナノサイズであれば特に限定されるものではなく、その用途などを考慮して適宜選択することができる。上記金属コアの平均粒径の上限値としては、例えば、100nm、50nm、10nmなどを例示することができる。一方、上記金属コアの平均粒径の下限値は、0.1nm、0.5nm、1nmなどを例示することができる。
【0079】
なお、上記平均粒径は、金属ナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真から、金属ナノ粒子(もっとも、TEMでは金属コアしか観察できない)を任意に100個抽出して粒子径を測定し、その直径の小さい方から順に数えた場合に、粒子数が50%となるときの粒径(D50)の値である。
【0080】
また、上記金属ナノ粒子の粒度分布は、特に限定されるものではないが、比較的シャープであると良い。粒径ばらつきε=(D90−D10)/D50としては、具体的には、例えば、その好ましい上限値として、2、1.5、1.3などを例示することができる。一方、εの下限値については、εが0に近くなるほど好ましいため、特に例示はしない。
【0081】
なお、D90、D10とは、上記D50と同様に算出される値であり、それぞれ粒子数が90%となる粒径、粒子数が10%となる粒径の値である。
【0082】
(紫外−可視吸収スペクトルの測定)
ここで、上記合成では、例えば、用いる金属前駆体の種類(一般式(R−A)n−Mで示される化合物における炭化水素基Rの鎖長など)、加熱温度、加熱時間などの因子により、得られる金属ナノ粒子の粒径などの合成状況が異なってくる。
【0083】
これまでは、反応溶液から分取したサンプルをTEM観察し、その結果に基づき、所望の粒径が得られる合成条件を経験的に定めるなどの手法が主であった。
【0084】
これに対し、本製法は、金属ナノ粒子の合成時における反応溶液の紫外−可視吸収スペクトルを経時的に測定し、得られた測定結果を用いて、金属ナノ粒子の合成状況を把握する手順を含んでいる。
【0085】
合成時に経時的に測定された反応溶液の紫外−可視吸収スペクトルは、金属ナノ粒子の合成の有無、合成反応の進み具合、生成した金属ナノ粒子のおおよその粒径などと密接に関係する情報を含んでいる。
【0086】
そのため、この測定結果を使用すれば、TEM観察や他の分析を逐一行うことなく、金属ナノ粒子の合成の有無、合成反応の進み具合、生成した金属ナノ粒子のおおよその粒径など、金属ナノ粒子の合成状況を簡便に把握することができる。
【0087】
なお、本製法は、TEM観察による合成状況の把握を全く排除するものではなく、必要に応じて上記手順と併用しても良い。もっとも、本製法は、紫外−可視吸収スペクトルの経時的変化の測定を行うことにより、従来よりも格段にTEM観察の回数を少なくすることができる。
【0088】
上記反応溶液の紫外−可視吸収スペクトルの測定は、紫外可視分光光度計を用い、任意の時間に反応溶液から分取したサンプルを使用して測定すれば良い。なお、サンプルが高濃度である場合には、十分な吸収スペクトルの測定が行えない場合がある。そのときには、トルエンなど適当な有機溶媒により、分取したサンプルを適当な濃度まで希釈し、これを用いて吸収スペクトルの測定を行えば良い。
【0089】
図1は、金属ナノ粒子の合成時における反応溶液の紫外−可視吸収スペクトルを経時的に測定したときの測定結果の一例を模式的に示したものである。横軸が測定波長であり、縦軸が吸光度である。また、図1では、時間t1〜t4(t1<t2<t3<t4)における反応溶液の紫外−可視吸収スペクトルを示している。
【0090】
本製法では、この測定結果を用いて金属ナノ粒子の合成状況を把握する。具体的には、上記測定結果から、下記(1)、(2)、(3)および(4)から選択される1つまたは2つ以上を確認することにより、その内容に対応した金属ナノ粒子の合成状況を把握することが好ましい。
【0091】
(1)金属ナノ粒子の自由電子由来の吸収による吸光度が増加すること。
(2)金属イオンに由来する吸収による吸光度が減少すること。
(3)等吸収点を有しつつ、(1)の吸光度の増加と(2)の吸光度の減少とが生じること。
(4)等吸収点を有さず、金属ナノ粒子の表面プラズモン吸収を有すること。
【0092】
ここで、得られた測定結果から、(1)金属ナノ粒子の自由電子由来の吸収(図1中、吸収波長a付近)による吸光度の増加(図1中、A)を確認することができた場合、金属ナノ粒子が合成されていることが分かる。
【0093】
また、(2)金属イオンに由来する吸収(図1中、吸収波長b)による吸光度の減少(図1中、B)を確認することができた場合、原料である金属前駆体がどの程度消費されたか、合成反応が完了したかどうかなど、合成反応の進み具合を把握することができる。
【0094】
また、(3)等吸収点(図1中、C)を有しつつ、(1)の吸光度の増加(図1中、A)と(2)の吸光度の減少(図1中、B)とが生じることを確認することができた場合には、表面プラズモン吸収を持たない粒径の金属ナノ粒子が得られていることが分かる。
【0095】
例えば、銅ナノ粒子は5nm以上にならないと、表面プラズモン吸収を持たないことが報告されている。そのため、銅前駆体を用いている場合に、上記の確認ができたときには、TEM観察を逐一行わなくても、合成により生じた銅ナノ粒子は、おおよそ5nm未満の粒径を有していることが分かる。
【0096】
また、(4)等吸収点(図1中、C)を有さず、金属ナノ粒子の表面プラズモン吸収(図1中、D、吸収波長d)を有することを確認した場合には、表面プラズモン吸収を持つ粒径の金属ナノ粒子が得られていることが分かる。
【0097】
例えば、同様に銅前駆体を用いている場合に、上記の確認ができたときには、合成により生じた銅ナノ粒子は、おおよそ5nm以上の粒径を有していることが分かる。
【0098】
このように、上記によれば、設計通りの金属ナノ粒子が合成されているか品質管理したり、設計から外れたものが合成されている場合には、迅速に合成条件の修正を図って不良品を減らしたりすることができるなど、ナノ粒子含有溶液の安定生産に寄与することが可能となる。
【0099】
以上、本製法について説明したが、本製法により得られたナノ粒子含有溶液中の金属ナノ粒子は、種々の用途に適用することができる。
【0100】
具体的な用途としては、例えば、微細配線、層間接合、接合部材(鉛はんだの代替)などに用いる導電性ペースト材料、異方性導電膜の導電材料(例えば、樹脂膜中に分散させたり、多孔質膜の孔部内に充填するなど)、触媒材料、着色材料、顔料などを例示することができる。
【0101】
2.本ペースト
本ペーストは、本製法により得られたナノ粒子含有溶液から回収した金属ナノ粒子を含んでいる。
【0102】
上記ナノ粒子含有溶液から金属ナノ粒子を回収するには、一般的な手法を用いれば良い。具体的には、例えば、遠心分離、濾過、溶媒抽出などの各種の手法を例示することができる。これらは1種または2種以上組み合わせて用いても良い。また、これらは1回または複数回行っても良い。
【0103】
より具体的な回収方法としては、例えば、合成液の上澄み液を除去し、これに、洗浄性があり、かつ、金属ナノ粒子に対して貧溶媒の溶媒(例えば、ヘキサンなど)を投入し、洗浄・遠心分離による沈澱処理を繰り返し行った後、得られた沈澱物を減圧乾燥することにより、金属ナノ粒子を回収する方法などを例示することができる。
【0104】
回収した金属ナノ粒子をペースト化するには、超音波、ビーズミルなどの分散手段を用いて、ペースト化に適当な溶媒中に上記回収した金属ナノ粒子を分散させれば良い。
【0105】
上記有機溶媒としては、具体的には、例えば、ヘキサン、トルエン、キシレン、オクタン、デカン、ウンデカン、テトラデカン、テルピネオール、デカノール、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、ヘキサノール、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、メタノール、エタノール、酢酸エチル、エチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテートなどを例示することができる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。
【0106】
この際、金属ナノ粒子の濃度は、特に限定されることなく、用途などを考慮して適宜調節することができる。一般的には、例えば、金属ナノ粒子の濃度の好ましい上限値として、90重量%、85重量%、80重量%などを例示することができる。一方、これら好ましい上限値と組み合わせ可能な好ましい下限値として、1重量%、2重量%、5重量%などを例示することができる。
【0107】
なお、導電性、焼結性などの特性に悪影響を与えない範囲内であれば、金属ナノ粒子の分散安定性を向上させる分散剤などの各種添加剤が1種または2種以上添加されていても良い。
【実施例】
【0108】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。ここでは、マイクロ波加熱−アルコール還元法を用いて、溶液中に分散された銅長鎖カルボン酸塩を還元し、単分散銅ナノ粒子を合成しているが、これに限定されるものではない。
【0109】
例えば、本実施例では、銅前駆体として、銅との結合力が弱く、合成反応が早いなどの観点から、銅長鎖カルボン酸塩を用いたが、これ以外にも、銅長鎖スルホン酸塩、銅長鎖ホスホン酸塩なども同様に適用することが可能である。
【0110】
1.銅前駆体の準備
初めに、原料に用いる銅前駆体を以下の手順により合成した。
【0111】
(オクタン酸銅)
脱イオン水400mlにオクタン酸ナトリウム(C7H15COONa)51mmolを80℃にて溶解した。その後、この液に、脱イオン水100mlに硝酸銅(II)25mmolを溶解した液を加えることにより、沈殿物を得た。
【0112】
次いで、この沈澱物に対して、濾過および脱イオン水による洗浄を繰り返し、さらに、濾過およびメタノールによる洗浄を行った後、70℃で12時間減圧乾燥することにより、オクタン酸銅((C7H15COO)2Cu)を得た。
【0113】
(ミリスチン酸銅)
脱イオン水200mlにミリスチン酸ナトリウム(C13H27COONa)51mmolを80℃にて溶解した液を用いた以外は、上記オクタン酸銅の合成と同様にして、ミリスチン酸銅((C13H27COO)2Cu)を得た。
【0114】
2.銅前駆体含有溶液の準備
次に、上記にて合成した銅前駆体を含む溶液を以下の手順により調製した。
【0115】
(オクタン酸銅含有溶液)
上記合成したオクタン酸銅0.5mmolを、1−ヘプタノール50mLに混合し、超音波を用いてオクタン酸銅を1−ヘプタノールに分散させ、オクタン酸銅含有溶液を調製した。
【0116】
(ミリスチン酸銅含有溶液)
上記合成したミリスチン酸銅0.5mmolを用いた以外は、上記オクタン酸銅含有溶液の調製と同様にして、ミリスチン酸銅含有溶液を調製した。
【0117】
3.銅ナノ粒子合成時における反応溶液の紫外−可視吸収スペクトルの経時的測定
次に、マイクロ波加熱−アルコール還元法を用いて、上記調製した銅前駆体含有溶液中の銅前駆体を還元して銅ナノ粒子を合成するにあたり、合成時における反応溶液の紫外−可視吸収スペクトルを経時的に測定した。
【0118】
すなわち、化学合成用マイクロ波加熱装置(マイクロ電子(株)製、「MMG−213VP」)を用い、窒素雰囲気下、10W/cm3(マイクロ波の周波数2.45GHz)で、オクタン酸銅含有溶液またはミリスチン酸銅含有溶液を加熱した。この際、加熱温度は、それぞれ409K、430Kまたは449Kとした。なお、加熱温度は、光ファイバー温度計(安立計器(株)製、「AMOTH TM−5886」)より取得し、その温度制御は、マイクロ波照射のオン/オフを繰り返すことにより行った。
【0119】
また、任意の時間における反応溶液を分取し、紫外可視分光光度計(日本分光(株)製、「V−570」)を用いて、紫外−可視吸収スペクトルを測定した。なお、測定は、石英セル(溶液層の厚さL=10mm)中にて室温で行い、測定波長は、300−1200nmの範囲とした。
【0120】
4.粒子の形状および粒径の観察
次に、上記スペクトルの測定結果と銅ナノ粒子の合成状況との関係を裏付けるため、TEM観察を行った。
【0121】
すなわち、任意の時間に分取した反応溶液中に含まれている銅ナノ粒子の粒子形状および粒径を、透過型電子顕微鏡((株)日立ハイテクノロジーズ製、「日立透過電子顕微鏡H−9000」)にて観察した。
【0122】
なお、エラスティックカーボン支持膜をはったCuグリッドに反応溶液を滴下し、真空下50℃にて一晩処理したものを観察サンプルとして用いた。
【0123】
5.結果および考察
表1に、各銅前駆体を還元して銅ナノ粒子を合成した際の合成条件および後述する実験結果との関係をまとめて示す。
【0124】
【表1】
【0125】
5.1 銅前駆体:オクタン酸銅、加熱温度:409K、加熱時間:0分→120分(測定ポイントは0、5、10、20、40、60、90、120分)
図2は、マイクロ波加熱にて409Kで加熱したオクタン酸銅含有溶液の紫外−可視吸収スペクトルの経時変化(0分→120分)を示したものである。
【0126】
図2によれば、この条件では、加熱時間の延長とともに、400nm付近の吸光度の増加が観測された。この付近の吸収は、金属ナノ粒子の自由電子由来の吸収である。このことから、上記吸光度の増加を確認すれば、銅ナノ粒子が合成されていることが分かる。
【0127】
また、この400nm付近の吸光度の増加とともに、696nmにピークトップを持つ吸光度の減少が観測された。このピークは、Cu2+のd−d遷移に由来する吸収であるため、Cu2+がCu0へと還元されて減少していることが分かる。このことから、上記吸光度の減少を確認すれば、原料であるオクタン酸銅がどの程度消費されたか、合成反応が完了したかどうかなど、合成反応の進み具合を把握できることが分かる。
【0128】
また、これら二つの吸光度の変化は、565nmに等吸収点を有して変化していた。これは、ある化学種が別の化学種へと化学両論的に変化していることを示している。つまり、図2の一連の紫外−可視吸収スペクトルの変化は、Cu2+がCu0へと還元され、銅ナノ粒子が生成している過程を表していると言える。
【0129】
ここで、銅ナノ粒子は5nm以上にならないと、表面プラズモン吸収を持たないことが報告されている。図2によれば、紫外−可視吸収スペクトルが突然大きく変化する箇所はなく、銅ナノ粒子の表面プラズモン吸収に由来するピークは観測されていない。
【0130】
つまり、等吸収点を有しつつ、銅ナノ粒子の自由電子由来の吸収による吸光度の増加と、Cu2+に由来する吸収による吸光度の減少とが生じることを確認すれば、TEM観察を逐一行わなくても、表面プラズモン吸収を持たない5nm未満の粒径を有する銅ナノ粒子が得られていることが分かる。
【0131】
図3は、オクタン酸銅含有溶液を409Kでマイクロ波加熱したとき(図2のスペクトル)の、90分後の反応溶液中に含まれている銅ナノ粒子のTEM像である。なお、図3(b)は、図3(a)を拡大したものである。また、図4は、図3(b)から算出した銅ナノ粒子の粒度分布を示すヒストグラムである。
【0132】
図3のTEM像には、粒子が多数あり、それぞれの粒子の上には、結晶であることを示すフリンジが多数存在していた。また、この領域から得られた電子回折(ED)パターンは、面心立方格子(fcc)構造を持つ銅であることを示していた。また、図4のヒストグラムから概算した銅ナノ粒子の平均粒径は、3.2nmであった。
【0133】
このように、表面プラズモン吸収を持たない5nm未満の銅ナノ粒子が主に存在していることは、裏付けのために行ったTEM観察からも示された。
【0134】
5.2 銅前駆体:ミリスチン酸銅、加熱温度:409K、加熱時間:1分→90分(測定ポイントは1、5、10、20、40、60、90分)
図5は、マイクロ波加熱にて409Kで加熱したミリスチン酸銅含有溶液の紫外−可視吸収スペクトルの経時変化(1分→90分)を示したものである。
【0135】
図5に示すように、この条件の場合も、「5.1」と同様に、565nmに等吸収点を有しつつ、400nm付近の吸光度の増加とともに、696nmにピークトップを持つ吸光度の減少が観測された。したがって、5nm未満の粒径を有する銅ナノ粒子が得られているなど、5.1にて詳細した内容と同様のことが当てはまる。
【0136】
また、図6は、ミリスチン酸銅含有溶液を409Kでマイクロ波加熱したとき(図5のスペクトル)の、90分後の反応溶液中に含まれている銅ナノ粒子のTEM像である。なお、図6(b)は、図6(a)を拡大したものである。また、図7は、図6(b)から算出した銅ナノ粒子の粒径分布を示すヒストグラムである。
【0137】
このTEM観察によれば、銅ナノ粒子の平均粒径は、2.1nmであり、表面プラズモン吸収を持たない5nm未満の銅ナノ粒子が主に存在していることが確認された。
【0138】
5.3 銅前駆体:オクタン酸銅、加熱温度:443K、加熱時間:0分→20分(測定ポイントは0、1、5、10、20分)
図8は、マイクロ波加熱にて443Kで加熱したオクタン酸銅含有溶液の紫外−可視吸収スペクトルの経時変化(0分→20分)を示したものである。
【0139】
図8に示すように、この条件の場合、0分〜10分間については、「5.1」と同様に、565nmに等吸収点を有しつつ、400nm付近の吸光度の増加とともに、696nmにピークトップを持つ吸光度の減少が観測された。したがって、0分〜10分間加熱した場合には、5nm未満の粒径を有する銅ナノ粒子が得られているなど、5.1にて詳細した内容と同様のことが当てはまる。
【0140】
ところが、20分間加熱した場合には、紫外−可視吸収スペクトルが大きく変化した。すなわち、これまで存在していた等吸収点が突然消滅し、596nmにピークトップを持つ新たな吸収が観測された。この596nmのピークは、銅ナノ粒子の表面プラズモン吸収由来のものである。
【0141】
つまり、上記一連の紫外−可視吸収スペクトルの変化は、Cu2+がCu0へと還元され、銅ナノ粒子が生成し、粒径5nm以上へと成長する一連の過程を表している。
【0142】
このことから、等吸収点を有しつつ、銅ナノ粒子の自由電子由来の吸収による吸光度の増加と、Cu2+に由来する吸収による吸光度の減少とが生じている間は、5nm未満の粒径を有する銅ナノ粒子が得られているが、等吸収点が消滅し、銅ナノ粒子の表面プラズモン吸収が発生したときには、5nm以上の粒径を有する銅ナノ粒子が得られていることが分かる。よって、これを利用すれば、異なる粒径を有する銅ナノ粒子を選択的に得ることが可能になると言える。
【0143】
また、図9は、オクタン酸銅含有溶液を443Kでマイクロ波加熱したとき(図8のスペクトル)の、20分後の反応溶液中に含まれている銅ナノ粒子のTEM像である。なお、図9(b)は、図9(a)を拡大したものである。また、図10は、図9(b)から算出した銅ナノ粒子の粒径分布を示すヒストグラムである。
【0144】
このTEM観察によれば、銅ナノ粒子の平均粒径は、6.0nmであり、表面プラズモン吸収を持つ5nm以上の銅ナノ粒子が主に存在していることが確認された。
【0145】
5.4 銅前駆体:ミリスチン酸銅、加熱温度:443K、加熱時間:1分→20分(測定ポイントは1、10、20分)
図11は、マイクロ波加熱にて443Kで加熱したミリスチン酸銅含有溶液の紫外−可視吸収スペクトルの経時変化(1分→20分)を示したものである。
【0146】
図11に示すように、この条件の場合も、「5.1」と同様に、565nmに等吸収点を有しつつ、400nm付近の吸光度の増加とともに、696nmにピークトップを持つ吸光度の減少が観測された。したがって、5nm未満の粒径を有する銅ナノ粒子が得られているなど、5.1にて詳細した内容と同様のことが当てはまる。他にも、図5と図11とを比較すると、より高温で加熱すれば、より短い時間で、ほぼ同程度の粒径の銅ナノ粒子が得られることが分かる。
【0147】
また、図12は、ミリスチン酸銅含有溶液を443Kでマイクロ波加熱したとき(図11のスペクトル)の、20分後の反応溶液中に含まれている銅ナノ粒子のTEM像である。なお、図12(b)は、図12(a)を拡大したものである。また、図13は、図12(b)から算出した銅ナノ粒子の粒径分布を示すヒストグラムである。
【0148】
このTEM観察によれば、銅ナノ粒子の平均粒径は、2.6nmであり、表面プラズモン吸収を持たない5nm未満の銅ナノ粒子が主に存在していることが確認された。
【0149】
5.5 銅前駆体:ミリスチン酸銅、加熱温度:430K、加熱時間:1分→70分(測定ポイントは1、10、20、40、60、70分)
図14は、マイクロ波加熱にて430Kで加熱したミリスチン酸銅含有溶液の紫外−可視吸収スペクトルの経時変化(1分→70分)を示したものである。
【0150】
図14に示すように、この条件の場合、1分〜60分間については、銅ナノ粒子の表面プラズモン吸収に由来するピークは見られず、「5.1」と同様に、565nmに等吸収点を有しつつ、400nm付近の吸光度の増加とともに、696nmにピークトップを持つ吸光度の減少が観測された。したがって、1分〜60分間加熱した場合には、5nm未満の粒径を有する銅ナノ粒子が得られているなど、「5.1」にて詳細した内容と同様のことが当てはまる
【0151】
ところが、70分間加熱した場合の紫外−可視吸収スペクトルから分かるように、等吸収点が突然消滅し、銅ナノ粒子の表面プラズモン吸収に由来するピーク(596nm)が発生した。
【0152】
したがって、70分間加熱した場合には、5nm以上の粒径を有する銅ナノ粒子が得られていることが分かる。
【0153】
また、図15は、ミリスチン酸銅含有溶液を430Kでマイクロ波加熱したときの60分後の反応溶液中に含まれている銅ナノ粒子のTEM像である。図16は、ミリスチン酸銅含有溶液を430Kでマイクロ波加熱したときの70分後の反応溶液中に含まれている銅ナノ粒子のTEM像である。
【0154】
このTEM観察によれば、この条件の場合、1分〜60分間の加熱であれば、銅ナノ粒子の平均粒径は、表面プラズモン吸収を持たない2−3nmで留まっているが、70分間加熱を行うと、表面プラズモン吸収を持つ5nm以上の粒径を有する銅ナノ粒子が多く存在していることが確認された。
【0155】
以上説明したように、本発明によれば、金属ナノ粒子の合成時における反応溶液の紫外−可視吸収スペクトルの経時的変化を利用することにより、金属ナノ粒子の合成状況を簡便に把握可能であると言える。
【0156】
以上、実施形態、実施例について説明したが、本発明は上記実施形態、実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0157】
例えば、上記実施例では、銅前駆体を用いて銅ナノ粒子を合成したが、銅前駆体以外にも、銀前駆体、金前駆体などの他の金属前駆体を用いて、その金属前駆体を構成する金属の金属ナノ粒子を合成する際にも本発明は適用可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】金属ナノ粒子の合成時における反応溶液の紫外−可視吸収スペクトルを経時的に測定したときの測定結果の一例を模式的に示した図である。
【図2】マイクロ波加熱にて409Kで加熱したオクタン酸銅含有溶液の紫外−可視吸収スペクトルの経時変化(0分→120分)を示した図である。
【図3】オクタン酸銅含有溶液を409Kでマイクロ波加熱したとき(図2のスペクトル)の、90分後の反応溶液中に含まれている銅ナノ粒子のTEM像である。
【図4】図3(b)から算出した銅ナノ粒子の粒度分布を示すヒストグラムである。
【図5】マイクロ波加熱にて409Kで加熱したミリスチン酸銅含有溶液の紫外−可視吸収スペクトルの経時変化(1分→90分)を示した図である。
【図6】ミリスチン酸銅含有溶液を409Kでマイクロ波加熱したとき(図5のスペクトル)の、90分後の反応溶液中に含まれている銅ナノ粒子のTEM像である。
【図7】図6(b)から算出した銅ナノ粒子の粒径分布を示すヒストグラムである。
【図8】マイクロ波加熱にて443Kで加熱したオクタン酸銅含有溶液の紫外−可視吸収スペクトルの経時変化(0分→20分)を示した図である。
【図9】オクタン酸銅含有溶液を443Kでマイクロ波加熱したとき(図8のスペクトル)の、20分後の反応溶液中に含まれている銅ナノ粒子のTEM像である。
【図10】図9(b)から算出した銅ナノ粒子の粒径分布を示すヒストグラムである。
【図11】マイクロ波加熱にて443Kで加熱したミリスチン酸銅含有溶液の紫外−可視吸収スペクトルの経時変化(1分→20分)を示した図である。
【図12】ミリスチン酸銅含有溶液を443Kでマイクロ波加熱したとき(図11のスペクトル)の、20分後の反応溶液中に含まれている銅ナノ粒子のTEM像である。
【図13】図12(b)から算出した銅ナノ粒子の粒径分布を示すヒストグラムである。
【図14】マイクロ波加熱にて430Kで加熱したミリスチン酸銅含有溶液の紫外−可視吸収スペクトルの経時変化(1分→70分)を示した図である。
【図15】ミリスチン酸銅含有溶液を430Kでマイクロ波加熱したときの60分後の反応溶液中に含まれている銅ナノ粒子のTEM像である。
【図16】ミリスチン酸銅含有溶液を430Kでマイクロ波加熱したときの70分後の反応溶液中に含まれている銅ナノ粒子のTEM像である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液中の金属前駆体を還元して金属ナノ粒子を合成し、ナノ粒子含有溶液を製造するにあたり、
前記合成時における反応溶液の紫外−可視吸収スペクトルを経時的に測定し、得られた測定結果を用いて、金属ナノ粒子の合成状況を把握する手順を含んでいることを特徴とするナノ粒子含有溶液の製造方法。
【請求項2】
前記手順は、下記(1)、(2)、(3)および(4)から選択される1つまたは2つ以上の確認を含むことを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子含有溶液の製造方法。
(1)金属ナノ粒子の自由電子由来の吸収による吸光度が増加すること。
(2)金属イオンに由来する吸収による吸光度が減少すること。
(3)等吸収点を有しつつ、(1)の吸光度の増加と(2)の吸光度の減少とが生じること。
(4)等吸収点を有さず、金属ナノ粒子の表面プラズモン吸収を有すること。
【請求項3】
前記合成時に、外部熱源またはマイクロ波照射による加熱を行うことを特徴とする請求項1または2に記載のナノ粒子含有溶液の製造方法。
【請求項4】
前記溶液は、前記金属前駆体に対して還元性を示す有機溶媒を含むことを特徴とする請求項1から3の何れかに記載のナノ粒子含有溶液の製造方法。
【請求項5】
前記有機溶媒は、炭素数3以上の一価アルコールであることを特徴とする請求項4に記載のナノ粒子含有溶液の製造方法。
【請求項6】
前記金属前駆体は銅前駆体であり、前記金属ナノ粒子は銅ナノ粒子であることを特徴とする請求項1から5の何れかに記載のナノ粒子含有溶液の製造方法。
【請求項7】
前記銅前駆体は、下記の化1で表され、
前記銅ナノ粒子は、下記の化1で表される銅前駆体に由来する銅成分から構成された銅コアと、下記の化1で表される銅前駆体に由来し、前記銅コアの周囲を覆う有機成分とを有することを特徴とする請求項6に記載のナノ粒子含有溶液の製造方法。
(化1)
(R−A)2−Cu
(但し、Rは炭化水素基、AはCOO、OSO3、SO3またはOPO3である。)
【請求項8】
請求項1から7の何れかに記載のナノ粒子含有溶液の製造方法により得られたナノ粒子含有溶液から回収した金属ナノ粒子を含む導電性ペースト。
【請求項1】
溶液中の金属前駆体を還元して金属ナノ粒子を合成し、ナノ粒子含有溶液を製造するにあたり、
前記合成時における反応溶液の紫外−可視吸収スペクトルを経時的に測定し、得られた測定結果を用いて、金属ナノ粒子の合成状況を把握する手順を含んでいることを特徴とするナノ粒子含有溶液の製造方法。
【請求項2】
前記手順は、下記(1)、(2)、(3)および(4)から選択される1つまたは2つ以上の確認を含むことを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子含有溶液の製造方法。
(1)金属ナノ粒子の自由電子由来の吸収による吸光度が増加すること。
(2)金属イオンに由来する吸収による吸光度が減少すること。
(3)等吸収点を有しつつ、(1)の吸光度の増加と(2)の吸光度の減少とが生じること。
(4)等吸収点を有さず、金属ナノ粒子の表面プラズモン吸収を有すること。
【請求項3】
前記合成時に、外部熱源またはマイクロ波照射による加熱を行うことを特徴とする請求項1または2に記載のナノ粒子含有溶液の製造方法。
【請求項4】
前記溶液は、前記金属前駆体に対して還元性を示す有機溶媒を含むことを特徴とする請求項1から3の何れかに記載のナノ粒子含有溶液の製造方法。
【請求項5】
前記有機溶媒は、炭素数3以上の一価アルコールであることを特徴とする請求項4に記載のナノ粒子含有溶液の製造方法。
【請求項6】
前記金属前駆体は銅前駆体であり、前記金属ナノ粒子は銅ナノ粒子であることを特徴とする請求項1から5の何れかに記載のナノ粒子含有溶液の製造方法。
【請求項7】
前記銅前駆体は、下記の化1で表され、
前記銅ナノ粒子は、下記の化1で表される銅前駆体に由来する銅成分から構成された銅コアと、下記の化1で表される銅前駆体に由来し、前記銅コアの周囲を覆う有機成分とを有することを特徴とする請求項6に記載のナノ粒子含有溶液の製造方法。
(化1)
(R−A)2−Cu
(但し、Rは炭化水素基、AはCOO、OSO3、SO3またはOPO3である。)
【請求項8】
請求項1から7の何れかに記載のナノ粒子含有溶液の製造方法により得られたナノ粒子含有溶液から回収した金属ナノ粒子を含む導電性ペースト。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図3】
【図6】
【図9】
【図12】
【図15】
【図16】
【図2】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図3】
【図6】
【図9】
【図12】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2008−202125(P2008−202125A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−41921(P2007−41921)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年1月16日 大阪大学発行の「第9回21世紀COE自然共生化学国際シンポジウム(COEIEC9)会報」に発表、平成19年1月16日 大阪大学 21世紀COEプログラム「自然共生化学の創成」主催の「第9回21世紀COE自然共生化学国際シンポジウム(COEIEC9)」において文書をもって発表。
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年1月16日 大阪大学発行の「第9回21世紀COE自然共生化学国際シンポジウム(COEIEC9)会報」に発表、平成19年1月16日 大阪大学 21世紀COEプログラム「自然共生化学の創成」主催の「第9回21世紀COE自然共生化学国際シンポジウム(COEIEC9)」において文書をもって発表。
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】
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