説明

ナノ粒子発光材料、これを用いた電界発光素子及びインク組成物、並びに表示装置

【課題】特定の配位子を有するナノ粒子発光材料及び高発光効率な電界発光素子を提供する。
【解決手段】ナノ粒子13からなるコア部と、該コア部の表面に局在する少なくとも2種の配位子からなるシェル部とから構成され、該配位子のうち、少なくとも1種が正孔輸送性配位子12であり、少なくとも1種が電子輸送性配位子11であることを特徴とする、ナノ粒子発光材料1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はナノ粒子発光材料、これを用いた電界発光素子及びインク組成物、並びに表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子(OLED;Organic Light Emitting Diode)は、蛍光又は燐光発光性化合物、正孔輸送性化合物、電子輸送性化合物等からなる層を積層して構成される薄膜を、電極で挟み込んだ構造の発光素子である。OLEDは、電極間に電圧を印加することにより、電子と正孔が有機薄膜中に注入され再結合することで、発光性化合物の励起子が生成し、この励起子が基底状態に戻る際に光が放出される。
【0003】
OLEDは、低電圧駆動、高発光効率、高速応答、自発光で視野角制限が無いこと、多様な発光波長、軽量といった特徴を持っている。このためOLEDは、薄型ディスプレイから照明まで幅広い分野において次世代の発光デバイスとして期待されている。
【0004】
ところで、OLEDの発光材料として、大きさ数nm〜20nm程度のサイズのナノ粒子が近年注目を集めている。例えばCdSeナノ粒子は、有機発光体に比べて、高い耐久性、狭いスペクトル幅、同一材料でも粒径により発光色の制御可能であること、といった特徴をもつ発光材料である。さらに、CdSeナノ粒子は、CdSe/ZnS等のコアシェル構造にすることで、表面欠陥のパッキング効果及び内部量子閉じ込め効果が増大し、50%を超える高い内部量子効率が実現されている。このようなナノ粒子を用いることで、バルクでは見られないような物理的・化学的性質が発現し、従来以上の特性をもつデバイスの実現が期待されている。
【0005】
また、ナノ粒子の最表面は有機系配位子で覆われているため、凝集することなく有機溶媒中に分散できる。このため、電界発光素子の製作プロセスにおいて塗布成膜が可能であり、低コスト、大面積発光デバイスへの対応も期待できる。
【0006】
これまで、ナノ粒子を発光材料とした量子ドット電界発光素子(Quantum Dot LED;QDLED)に関してはいくつか報告されている。例えばCdSe/ZnSナノ粒子を用いて、塗布による簡易なプロセスで、30nm前後の非常に狭いスペクトル幅を持つ電界発光素子が実現されている(例えば非特許文献1参照)。しかし、これまで報告されたQDLEDは、いずれも現行のOLEDに比べて発光効率が1桁以上低い点が課題として挙げられる。
【0007】
QDLEDにおける低発光効率の原因の一つとして、ナノ粒子表面を覆う有機系配位子の存在が考えられている。一般にナノ粒子に用いられる有機系配位子として、トリオクチルフォスフィンオキサイド(Tri−n−octylphosphine oxide;TOPO)等が挙げられる。このような配位子は、ナノ粒子表面に配位することで、ナノ粒子同士の凝集を防ぎ、溶液中でナノ粒子を安定に分散させる効果がある。しかし、このような配位子は、基本的に電荷輸送機能は無いため、QDLEDにおいて、ナノ粒子内へ電荷(電子及び正孔)を注入する際の妨げになると考えられる。
【0008】
そこで、QDLEDにおける発光効率向上を目的として、ナノ粒子表面を覆う有機系配位子に電荷輸送機能を付与した試みがなされている(例えば特許文献1、非特許文献2参照)。
【0009】
【特許文献1】特開2004−315661
【非特許文献1】Nature,2002,Vol.420,p.800
【非特許文献2】Adv.Mater.,2003、15,No.1,p.58
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1、非特許文献2といった例においては、ナノ粒子表面の配位子部分での電荷輸送機能は向上するが、ナノ粒子内への電荷注入が効率的に行われるような積極的な工夫はない。また、特許文献1においては、QDLED素子の電流電圧特性が向上した記述はあるが、発光効率が向上したと言う記述は無い。単にナノ粒子表面の配位子に電荷輸送機能を持たせただけでは、発光層中に注入された電荷がナノ粒子内に注入されずに配位子部分のみを通過して電極へ流れることがあるため、十分な発光効率が得られないという問題が生じ得る。このため、QDLEDの発光効率向上のためには、配位子部分に電荷輸送機能を付与するだけでは不十分である。当該配位子部分は電荷輸送機能の他に、ナノ粒子内への電荷注入、並びにナノ粒子内における電荷閉じ込め及び正孔と電子の再結合を、効率よく行えるようにする機能を具備する必要がある。
【0011】
本発明の目的は、特定の配位子を有するナノ粒子発光材料を提供することにある。また本発明の他の目的は、高発光効率な電界発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のナノ粒子発光材料は、ナノ粒子からなるコア部と、該コア部の表面に局在する少なくとも2種の配位子からなるシェル部とから構成され、該配位子のうち、少なくとも1種が正孔輸送性配位子であり、少なくとも1種が電子輸送性配位子であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、特定な配位子を有するナノ粒子発光材料及び高発光効率な電界発光素子を提供することができる。
【0014】
また、本発明のナノ粒子発光材料は、ナノ粒子表面に、電子輸送機能を有する配位子と、正孔輸送機能を有する配位子の両方を配位させているので、配位子間での電荷輸送が抑制され、ナノ粒子内への電荷注入効率が向上する。さらに本発明のナノ粒子発光材料は、一度ナノ粒子内に注入された電荷がナノ粒子外へと輸送されるのを抑制する効果があるため、ナノ粒子内での電荷の再結合確率が向上する。
【0015】
さらに、本発明のナノ粒子発光材料は、配位子の最適化を行うことにより、ナノ粒子発光材料の発光効率をさらに向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
まず、本発明のナノ粒子発光材料について説明する。
【0017】
本発明のナノ粒子発光材料は、ナノ粒子からなるコア部と、該コア部の表面に局在する少なくとも2種の配位子からなるシェル部とから構成される。これらの配位子のうち、少なくとも1種が正孔輸送性配位子であり、少なくとも1種が電子輸送性配位子である。
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明のナノ粒子発光材料について説明する。
【0019】
図1は、本発明のナノ粒子発光材料を示す模式図である。図1のナノ粒子発光材料1は、ナノ粒子13からなるコア部と、電子輸送性配位子11と正孔輸送性配位子12とからなるシェル部とから構成される。図1のナノ粒子発光材料1において、電子輸送性配位子11及び正孔輸送性配位子12は、分子間引力によってナノ粒子13の表面上に局在している。ここで、分子間引力としては、共有結合、配位結合、静電相互作用、イオン結合、水素結合等が挙げられる。
【0020】
図1に示すように、ナノ粒子13表面に局在する電子輸送性配位子11と正孔輸送性配位子12は、同種の配位子が偏らずに分散してそれぞれナノ粒子13に配置されているのが望ましい。こうすることで電子輸送性配位子11と正孔輸送性配位子がそれぞれ有する電荷輸送性能を効果的に発揮することができる。
【0021】
次に本発明のナノ粒子発光材料を構成する部材について説明する。
【0022】
コア部であるナノ粒子13は、発光性の微粒子であれば特に制限は無く、無機物、有機物、無機物と有機物の複合体等のいずれでもよい。また、ナノ粒子13は、単層構造であってもよく、コアシェル構造といった多層構造であってもよい。好ましくは、ナノ粒子13は、コアシェル構造の微粒子である。ナノ粒子13の粒径は、0.1nm乃至1μmであり、好ましくは1nm乃至20nmである。本発明のナノ粒子発光材料において、ナノ粒子13が発する光の波長については特に制限はなく、紫外域、可視域、赤外域のいずれにおいても、本発明の効果を発揮することができる。
【0023】
シェル部である電子輸送性配位子11は、ナノ粒子13表面への配位部位と電子輸送性を有する部位とからなる。この2つの部位は完全に分離している必要はなく、例えば、電子輸送性を有する部位の一部がナノ粒子13表面の配位部位となっていてもよい。
【0024】
ナノ粒子13表面への配位部位とは、ナノ粒子13表面の原子と配位結合する置換基をいい、例えば、カルボキシル基、ケトン基、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基、フォスフィノ基、フォスフォロソ基、チオール基等が挙げられる。
【0025】
電子輸送性を有する部位とは、本発明のナノ粒子発光材料1の粒子同士が凝集するのを防止したり、ナノ粒子発光材料1が溶媒中に安定して分散したりする働きを有する部位である。また、陰極から注入された電子をナノ粒子13に注入する機能をも有する部位である。具体的には、OLEDに用いられる公知の電子輸送性化合物の誘導体からなる部位をいう。
【0026】
ここでいう電子輸送性化合物としては以下に示す化合物が挙げられる。
【0027】
【化1】

【0028】
シェル部を構成する正孔輸送性配位子12は、ナノ粒子13の表面への配位部位と、正孔輸送性を有する部位とからなる。この2つの部位は完全に分離している必要はなく、例えば正孔輸送性を有する部位の一部がナノ粒子13表面への配位部位となっていてもよい。
【0029】
ここでナノ粒子13表面への配位部位の具体例は、電子輸送性配位子11のときと同様である。
【0030】
正孔輸送性を有する部位とは、本発明のナノ粒子発光材料1の粒子同士が凝集するのを防止したり、ナノ粒子発光材料1が溶媒中に安定して分散したりする働きを有する部位である。また、陽極から注入された正孔をナノ粒子13に注入する機能をも有する部位である。具体的には、OLEDに用いられる公知の正孔輸送性化合物の誘導体からなる部位をいう。
【0031】
ここでいう正孔輸送性化合物としては以下に示す化合物が挙げられる。
【0032】
【化2】

【0033】
本発明のナノ粒子発光材料において、ナノ粒子13の表面に局在する、電子輸送性配位子11及び正孔輸送性配位子12は、それぞれ1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0034】
本発明のナノ粒子発光材料は、ナノ粒子13の表面に、電子輸送性配位子11、正孔輸送性配位子12の他にも、ナノ粒子13の表面に局在する他の配位子が含まれていてもよい。ここでいう他の配位子とは、本発明のナノ粒子発光材料1の粒子同士が凝集するのを防止したり、ナノ粒子発光材料1が溶媒中に安定して分散したりする働きを有する配位子である。このような配位子としては、例えば、配位部位と、脂肪族系炭化水素基、芳香族系炭化水素基、これらの組み合わせた置換基等からなる部位とを有する配位子が挙げられる。ここでいう配位部位とは、電子輸送性配位子11及び正孔輸送性配位子12の配位部位と同じである。
【0035】
本発明のナノ粒子発光材料は、図1に示すように、正孔輸送性配位子からナノ粒子への正孔注入14及び電子輸送性配位子からナノ粒子への電子注入16によって、ナノ粒子13に電荷が注入される。このとき、電子輸送性配位子と正孔輸送性配位子の組み合わせにより、さらに効率よく電荷をコア部のナノ粒子に注入することができる。
【0036】
具体的には、図1に示すように、陰極から注入される電子を、配位子間での電子伝達パス15を避けつつ、ナノ粒子13へ直接注入することができる。同様に、陽極から注入される正孔を、配位子間での正孔伝達パス17を避けつつ、ナノ粒子13へ直接注入することができる。
【0037】
このように電荷を効率よくコア部のナノ粒子に注入することができる条件について、図面を参照しながら以下に説明する。
【0038】
図2は、ナノ粒子の電荷注入効率を向上させるための条件である配位子とナノ粒子との関係を示すエネルギーレベル図である。図2において、21乃至23は、それぞれ正孔輸送性配位子、ナノ粒子、電子輸送性配位子のエネルギーバンドである。
【0039】
図2に示すように、以下の2つの関係を同時に満たすように電子輸送性配位子及び正孔輸送性配位子をそれぞれ選択する。
【0040】
(1)電子輸送性配位子のHOMO準位24が正孔輸送性配位子のHOMO準位25よ りも低い。
【0041】
(2)正孔輸送性配位子のLUMO準位26が電子輸送性配位子のLUMO準位27よ りも高い。
【0042】
これにより、ナノ粒子の電荷注入効率が向上する。また、この関係を有することにより、陰極から注入された電子は配位子間で伝達されにくくなり、ナノ粒子中へ注入されやすくなる。同様に、陽極から注入された正孔は配位子間で伝達されにくくなり、ナノ粒子中へ注入されやすくなる。
【0043】
また、本発明のナノ粒子発光材料は、電子輸送性配位子と正孔輸送性配位子の組み合わせにより、コア部のナノ粒子に注入された電荷を閉じ込める効率が向上する。
【0044】
図3は、本発明のナノ粒子発光材料における電荷閉じ込め効果が向上する原理を示す模式図である。尚、図3の電子輸送性配位子31、正孔輸送性配位子32、ナノ粒子33は、それぞれ図1の電子輸送性配位子11、正孔輸送性配位子12、ナノ粒子13と同様である。
【0045】
本発明のナノ粒子発光材料1は、図3に示すように、正孔輸送性配位子からナノ粒子への正孔注入34及び電子輸送性配位子からナノ粒子への電子注入36によって、ナノ粒子33に電荷が注入される。このとき、正孔輸送性配位子32により、ナノ粒子33から外部への電子移動35を防ぎつつナノ粒子33内に電子を閉じ込めることができる。同様に、電子輸送性配位子31により、ナノ粒子33から外部への正孔移動37を防ぎつつナノ粒子33内に正孔を閉じ込めることができる。
【0046】
このように電荷をコア部のナノ粒子に効率よく閉じ込めることができる条件について図を参照しながら説明する。
【0047】
図4は、ナノ粒子の電荷閉じ込め効果を向上させるための条件である配位子とナノ粒子との関係を示すエネルギーレベル図である。図4において、41乃至43は、それぞれ正孔輸送性配位子、ナノ粒子、電子輸送性配位子のエネルギーバンドである。
【0048】
図4に示すように、正孔輸送性配位子のLUMO準位44がナノ粒子の伝導帯における最低電子準位45よりも高くなるような正孔輸送性配位子を選択することにより、ナノ粒子に注入される電子は正孔輸送性配位子にブロックされる。
【0049】
一方、電子輸送性配位子のHOMO準位46が、ナノ粒子の価電子帯における最高電子準位47よりも低くなるような電子輸送性配位子を選択することにより、ナノ粒子13に注入される正孔は電子輸送性配位子にブロックされる。
【0050】
上述した電子輸送性配位子の正孔ブロック効果及び正孔輸送性配位子の電子ブロック効果により、ナノ粒子に注入された電子及び正孔を効率よくナノ粒子に閉じ込めることができる。
【0051】
この結果、ナノ粒子内での電子及び正孔の再結合確率が向上する。
【0052】
以上より、本発明のナノ粒子発光材料は、電子輸送性配位子と正孔輸送性配位子を適宜選択することにより、ナノ粒子への電荷注入の高効率化、並びにナノ粒子内での電荷閉じ込め及び電子及び正孔の再結合の高効率化が可能となる。
【0053】
ここで、以下の2つを全て具備する場合は、ナノ粒子への電荷注入の高効率化、並びにナノ粒子内での電荷閉じ込め及び電子と正孔との再結合の高効率化が同時に達成することができるので特に好ましい。
【0054】
(1)正孔輸送性配位子のLUMO準位が、ナノ粒子の価電子帯における最高電子準位 及び電子輸送性配位子のLUMO準位よりも高い。
【0055】
(2)電子輸送性配位子のHOMO準位が、ナノ粒子の伝導帯における最低電子準位及 び正孔輸送性配位子のHOMO準位よりも低い。
【0056】
本発明のナノ粒子発光材料のコア部であるナノ粒子は、耐久性・耐候性向上や発光効率向上、発光特性制御等の目的でコアシェル構造の微粒子であるとより望ましい。コアシェル構造とは、ある1種類の化学種からなるコア層と、コア層を被覆する別の化学種からなるシェル層とからなる積層構造をいう。特に半導体ナノ粒子において、励起子閉じ込めの効果を狙う場合は、コア材料よりも広いバンドギャップを有するシェル材料を用いることが望ましい。シェル層は1層であってもよく2層以上であってもよい。
【0057】
コアシェル構造の微粒子の一例として、CdSeをコア層とする微粒子を取り上げる。CdSeナノ粒子は、半導体ナノ粒子であり単体でも発光材料として使用できるが、表面欠陥を多く含み、またナノ粒子内への励起子閉じ込め効果が不十分なため、十分な発光効率が得られていない。そこで、コア層であるCdSeナノ粒子と、コア層の周囲を被覆するシェル層であるCdSeよりもバンドギャップの大きいZnSとからなるコアシェル構造のナノ粒子であるCdSe/ZnSが利用されている。このようなコアシェル構造にすることで、ナノ粒子の発光効率の向上が確認されている。
【0058】
コアシェル構造のナノ粒子において、ナノ粒子内に電子・正孔を閉じ込める効果を向上させる条件は、ナノ粒子のコア層及びシェル層を構成する材料の化学種、シェル層の厚さ等によって決まる。
【0059】
図5は、ナノ粒子がコアシェル構造である場合の電荷閉じ込め効果を向上させるための条件である配位子とナノ粒子との関係を示すエネルギーレベル図である。図5において、50乃至53は、それぞれシェル層、正孔輸送性配位子、電子輸送性配位子、コア層のエネルギーバンドを示す。
【0060】
図5において、シェル層56の厚さが、コア層53への電荷注入の際に障壁として作用しない程薄い場合は、正孔輸送性配位子のLUMO準位54を、コア層の伝導帯における最低電子準位55よりも高くすればよい。また、電子輸送性配位子のHOMO準位57を、コア層の価電子帯の最高電子準位58よりも低くすればよい。こうすることで、ナノ粒子内に効率よく電荷を注入することができる。
【0061】
一方、シェル層の厚さによっては、コア層53への電荷注入に影響を及ぼす場合がある。かかる場合は、上記のようにコア層の材料に合わせて配位子を選択したとすると、結果的に電荷注入性が落ちることがある。このような場合には、正孔輸送性配位子のLUMO準位54を、シェル層の伝導帯における最低電子準位56よりも高くしたり、電子輸送性配位子のHOMO準位57を、シェル層の価電子帯における最高電子準位59よりも低くしたりすればよい。あるいは、コア層への電荷注入性に影響を及ぼさない程度にシェル層を薄くする処理を施せばよい。
【0062】
本発明のナノ粒子発光材料は、ナノ粒子の表面に電荷輸送性配位子を配位させることによって製造することができる。電荷輸送性配位子の配位手法は特に限定は無く、ナノ粒子を合成する段階で、電荷輸送性配位子を導入してもよい。また、ナノ粒子を合成する時に別の配位子を配位させて、その後で配位子置換操作を行って、電荷輸送性配位子をナノ粒子表面に配位させてもよい。このとき、もともとナノ粒子表面に配位していた電荷輸送機能を持たない配位子が、最終的にナノ粒子表面に残存して配位していてもよい。また、配位子置換のプロセス上、同種の電荷輸送性配位子が偏らず分散してナノ粒子表面に配位しているのが望ましい。
【0063】
ナノ粒子の表面に配位する電子輸送性配位子、正孔輸送性配位子の成分比は、ナノ粒子の種類、配位子の種類、電界発光素子の素子構成、成膜時に用いる溶媒の種類等、各種条件を考慮して設定する。
【0064】
正孔輸送性配位子と電子輸送性配位子との重量比は95/5乃至5/95の範囲で、ナノ粒子の特性により決めるのが好ましい。ナノ粒子への正孔注入が困難な場合は、正孔輸送性配位子と電子輸送性配位子との重量比は、好ましくは、50/50乃至90/10の範囲とする。これにより、ナノ粒子内への正孔注入効率が向上する。一方、ナノ粒子への電子注入が困難な場合は、正孔輸送性配位子と電子輸送性配位子との重量比は、好ましくは、10/90乃至50/50とする。これにより、ナノ粒子内への電子注入効率が向上する。
【0065】
次に、本発明の電界発光素子について説明する。
【0066】
本発明の電界発光素子は、陽極と陰極と、陽極と陰極との間に挟持され少なくとも発光層を有する有機化合物からなる層とからなり、この発光層が本発明のナノ粒子発光材料を少なくとも一種含有することを特徴とする。
【0067】
以下、図面を参照しながら本発明の電界発光素子について詳細に説明する。
【0068】
図6は、本発明の電界発光素子の一実施形態を示す断面図である。図6の電界発光素子60は、基板61、陽極62、正孔輸送層63、発光層64、電子輸送層65及び陰極66が順次積層されている。また、図6の電界発光素子60は、電源67に接続されている。
【0069】
本発明の電界発光素子は、この実施形態に限定されるものではない。例えば、陽極62と正孔輸送層63との間に正孔注入層を設けてもよく、電子輸送層65と陰極66との間に電子注入層を設けてもよい。また、正孔輸送層63と発光層64との間に電子をブロックするための層を設けてもよく、発光層64と電子輸送層65との間に正孔をブロックするための層を設けてもよい。
【0070】
本発明の電界発光素子は、本発明のナノ粒子発光材料を発光層64中に導入することにより、高効率な電界発光素子を得ることができる。ここで発光層64は、本発明のナノ粒子発光材料のみで形成されていてもよい。また、発光層64はホストとゲストからなり、本発明のナノ粒子発光材料をゲストとして使用してもよい。
【0071】
次に、本発明のインク組成物について説明する。
【0072】
本発明のインク組成物は、本発明のナノ粒子発光材料を少なくとも一種含有する。
【0073】
本発明のナノ粒子発光材料は、有機溶媒に対する溶解性がよいので、インク組成物として使用することができる。また、本発明のインク組成物を用いることにより、本発明の電界発光素子を構成する有機化合物からなる層、特に発光層64を塗布法により作製することが可能となり、比較的安価で大面積の素子を容易に作製できる。
【0074】
本発明のナノ粒子発光材料を溶解する溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロホルム、ジオキサン、テトラリン、n−ドデシルベンゼン、メチルナフタレン、テトラヒドロフラン、ダイグライム、1,2−ジクロロベンゼン、1,2−ジクロロプロパン等が挙げられる。
【0075】
また、本発明のインク組成物は、本発明のナノ粒子発光材料の他に添加剤となる化合物を含んでもよい。添加剤となる化合物としては、例えば、上述の公知な正孔輸送性材料、発光性材料、電子輸送性材料等が挙げられる。
【0076】
インク組成物における本発明のナノ粒子発光材料の濃度は、組成物全体に対して、好ましくは、0.05重量%以上20重量%以下であり、より好ましくは、0.1重量%以上5重量%以下である。
【0077】
本発明の電界発光素子は、駆動回路を具備した上で面状に配列することにより、ディスプレイ等の表示装置を構築することができる。本発明の電界発光素子を具備する表示装置は、色再現性、耐久性及び省電力性に優れる。
【実施例】
【0078】
(実施例1)ナノ粒子発光材料の合成
TOPOで表面被覆されたCdSeナノ粒子(エヴィデントテクノロジーズ社製、平均コア粒径約4nm、ナノ粒子濃度10mg/ml)のトルエン分散液1mlに、メタノール1mlを加えて攪拌した。次に、12000rpmで15分間遠心分離して沈殿物を生成した。次いで、上澄み液を除去し、沈殿したCdSeナノ粒子を乾燥した。この後、クロロホルム1mlを加えることにより、CdSeナノ粒子のクロロホルム溶液を得た。
【0079】
次に、正孔輸送性配位子である下記式に示すα−NPD誘導体を6mg、電子輸送性配位子であるBPhenを4mgそれぞれ加え、室温・遮光条件の下窒素雰囲気下で、12時間攪拌して配位子置換操作を行った。その後、メタノール1mlを加え、沈殿物を生成し、上澄みを除去して粉末を得た。この操作を数回繰り返して粉末を精製し、最終的な沈殿物にクロロホルム1mlを加えることにより、ナノ粒子発光材料の透明なクロロホルム溶液を得た。
【0080】
【化3】

【0081】
以上の操作により、CdSeナノ粒子表面に正孔輸送性配位子であるα−NPD誘導体、電子輸送性配位子であるBPhenが配位したナノ粒子発光材料のクロロホルム分散液を得た。ここでα−NPD誘導体のHOMO準位及びLUMO準位はそれぞれ−5.5eV、−2.5eVであり、BPhenのHOMO準位及びLUMO準位はそれぞれ−6.4eV、−2.9eVであった。このため、これらの配位子は、図2に示す条件を満たしていた。尚、各材料のHOMO準位は仕事関数から、LUMO準位は仕事関数と吸光スペクトルの吸収端から見積もったバンドギャップから、それぞれ算出した。
【0082】
(実施例2)
実施例1において、電子輸送性配位子をBCPとした他は、実施例1と同じ条件でナノ粒子発光材料を合成した。このとき、BCPのHOMO準位及びLUMO準位はそれぞれ−6.7eV、−3.0eVであった。また、CdSeナノ粒子の価電子帯における最高電子準位及び伝導帯における最低電子準位はそれぞれ−6.5eV、−4.4eVであった。このため本実施例のナノ粒子表面の電荷輸送性配位子は、図2及び図4の条件を満たしていた。
【0083】
(実施例3)
実施例2において、ナノ粒子として、TOPOで表面被覆されたCdSe/ZnSコアシェル構造ナノ粒子(エヴィデントテクノロジーズ社製、平均コア粒径約5nm、ナノ粒子濃度10mg/ml)を用いた。これ以外は実施例2と同じ条件で、ナノ粒子発光材料を合成した。
【0084】
このとき、CdSe/ZnSナノ粒子において、コア層の価電子帯における最高電子準位及び伝導帯における最低電子準位はそれぞれ−6.5eV、−4.4eVであった。一方、シェル層の価電子帯における最高電子準位及び伝導帯における最低電子準位はそれぞれ−7.5eV、−3.4eVであった。このため、本実施例のナノ粒子表面の電荷輸送性配位子は、図5の条件を満たしていた。
【0085】
(比較例1)
ナノ粒子として、TOPOで表面被覆されたCdSe/ZnSコアシェル構造ナノ粒子(エヴィデントテクノロジーズ社製、平均コア粒径約5nm、ナノ粒子濃度10mg/ml)を用い、配位子をBPhenのみとした以外は実施例1と同様の条件で、ナノ粒子発光材料を合成した。
【0086】
(実施例4)電界発光素子の作製
実施例1で得られたナノ粒子発光材料を用い、図6に示す電界発光素子を作製した。このとき正孔輸送層としてTPDを、電子輸送層としてAlq3を、背面電極としてAlをそれぞれ使用した。また素子作製法は、非特許文献1に準じた。まず、窒素雰囲気下で、洗浄したITO基板上に、ナノ粒子発光材料とTPDを含むクロロホルム溶液を塗布した。次に、電子輸送層、背面電極をこの順で真空蒸着法により形成した。最後に、窒素封止することで電界発光素子を得た。作製した電界発光素子について、電圧を印加したところナノ粒子由来の赤色発光を示した。この電界発光素子についてさらに評価した結果、発光開始電圧が8V、外部量子効率が0.5%、発光ピーク波長が620nmであった。
【0087】
これにより、本発明のナノ粒子発光材料は、従来のナノ粒子発光材料と比較してナノ粒子への電荷注入特性が向上していることが確認できた。
【0088】
(実施例5)
実施例2で得られたナノ粒子発光材料を用いた以外は、実施例4と同様の方法で電界発光素子を作製した。作製した電界発光素子について、電圧を印加したところナノ粒子由来の赤色発光を示した。この電界発光素子についてさらに評価した結果、発光開始電圧が8V、外部量子効率が0.8%、発光ピーク波長が620nmであった。
【0089】
これより、本発明のナノ粒子発光材料は、従来のナノ粒子発光材料と比較してナノ粒子への電荷閉じ込め効果が向上していることが確認できた。
【0090】
(比較例2)
ナノ粒子発光材料として、TOPOで表面被覆されたCdSeナノ粒子(エヴィデントテクノロジーズ社製、平均コア粒径約4nm、ナノ粒子濃度10mg/ml)を用いた以外は、実施例4と同様の方法で電界発光素子を作製した。作製した電界発光素子について、電圧を印加したところナノ粒子由来の赤色発光を示した。この電界発光素子についてさらに評価した結果、発光開始電圧が10V、外部量子効率が0.1%、発光ピーク波長が620nmであった。
【0091】
(実施例6)
実施例3で得られたナノ粒子発光材料を用いた以外は、実施例4と同様の方法で電界発光素子を作製した。作製した電界発光素子について、電圧を印加したところナノ粒子由来の赤色発光を示した。この電界発光素子についてさらに評価した結果、発光開始電圧が4V、外部量子効率が3%、発光ピーク波長が620nmであった。
【0092】
これにより、発光効率が優れたコアシェル型ナノ粒子をコア部として用いたナノ粒子発光材料を有する電界発光素子は、本発明の効果を発揮することが確認できた。
【0093】
(比較例3)
ナノ粒子発光材料として、CdSe/ZnSコアシェル型ナノ粒子(エヴィデントテクノロジーズ社製、平均コア粒径約5nm、ナノ粒子濃度10mg/ml)を用いた以外は、実施例4と同様の方法で電界発光素子を作製した。作製した電界発光素子について、電圧を印加したところナノ粒子由来の赤色発光を示した。この電界発光素子についてさらに評価した結果、発光開始電圧が7.5V、外部量子効率が1%、発光ピーク波長が620nmであった。
【0094】
(比較例4)
比較例1で合成したナノ粒子発光材料を用いた以外は、実施例4と同様の方法で電界発光素子を作製した。作製した電界発光素子について、電圧を印加したところナノ粒子由来の赤色発光を示した。この電界発光素子についてさらに評価した結果、発光開始電圧が10V、外部量子効率が0.1%、発光ピーク波長が620nmであった。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明のナノ粒子発光材料を示す模式図である。
【図2】ナノ粒子への電荷注入効率を向上させるための条件である配位子とナノ粒子との関係を示すエネルギーレベル図である。
【図3】本発明のナノ粒子発光材料における、電荷閉じ込め効果が向上する原理を示す模式図である。
【図4】ナノ粒子の電荷閉じ込め効果を向上させるための条件である配位子とナノ粒子との関係を示すエネルギーレベル図である。
【図5】コアシェル型ナノ粒子における、ナノ粒子の電荷閉じ込め効果を向上させるための条件である配位子とナノ粒子との関係を示すエネルギーレベル図である。
【図6】本発明の電界発光素子の一実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0096】
1 ナノ粒子発光材料
11,31 電子輸送性配位子
12,32 正孔輸送性配位子
13,33 ナノ粒子
14,34 電子輸送性配位子からナノ粒子への電子注入
15 配位子間での電子伝達パス
16,36 正孔輸送性配位子からナノ粒子への正孔注入
17 配位子間での正孔伝達パス
22,42,52 電子輸送性配位子のエネルギーバンド
21,41,51 正孔輸送性配位子のエネルギーバンド
23,43,53 ナノ粒子のエネルギーバンド
24,46,57 電子輸送性配位子のHOMO準位
25 正孔輸送性配位子のHOMO準位
26,44,54 正孔輸送性配位子のLUMO準位
27 電子輸送性配位子のLUMO準位
35 ナノ粒子から外部への電子移動
37 ナノ粒子から外部への正孔移動
45 ナノ粒子の伝導帯における最低電子準位
47 ナノ粒子の価電子帯における最高電子順位
55 コア層の伝導帯における最低電子準位
56 シェル層の伝導帯における最低電子準位
58 コア層の価電子帯における最高電子順位
59 シェル層の価電子帯における最高電子準位
50 シェル層のエネルギーバンド
60 電界発光素子
61 基板
62 透明電極
63 正孔輸送層
64 発光層
65 電子輸送層
66 背面電極
67 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ粒子からなるコア部と、
該コア部の表面に局在する少なくとも2種の配位子からなるシェル部とから構成され、
該配位子のうち、少なくとも1種が正孔輸送性配位子であり、少なくとも1種が電子輸送性配位子であることを特徴とする、ナノ粒子発光材料。
【請求項2】
前記ナノ粒子がコアシェル構造の微粒子であることを特徴とする、請求項1に記載のナノ粒子発光材料。
【請求項3】
前記電子輸送性配位子のHOMO準位が、前記正孔輸送性配位子のHOMO準位よりも低く、かつ前記正孔輸送性配位子のLUMO準位が前記電子輸送性配位子のLUMO準位よりも高いことを特徴とする、請求項1に記載のナノ粒子発光材料。
【請求項4】
前記電子輸送性配位子のHOMO準位が、前記ナノ粒子の価電子帯における最高電子準位よりも低いことを特徴とする、請求項1に記載のナノ粒子発光材料。
【請求項5】
前記正孔輸送性配位子のLUMO準位が、前記ナノ粒子の伝導帯における最低電子準位よりも高いことを特徴とする、請求項1に記載のナノ粒子発光材料。
【請求項6】
陽極と陰極と、
該陽極と該陰極との間に挟持され少なくとも発光層を有する有機化合物からなる層とからなり、
該発光層が請求項1に記載のナノ粒子発光材料を少なくとも一種含有することを特徴とする、電界発光素子。
【請求項7】
請求項1に記載のナノ粒子発光材料を少なくとも一種含有することを特徴とする、インク組成物。
【請求項8】
請求項6に記載の電界発光素子を具備することを特徴とする、表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−214363(P2008−214363A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−49149(P2007−49149)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】