説明

ナノ結晶ビスマス−モリブデン混合酸化物の製造方法

本発明は、ナノ結晶ビスマス−モリブデン混合酸化物の製造方法、化学変換、特に、プロピレンのアクロレイン及び/またはアクリル酸、または、イソブチレンのメタクロレイン及び/またはメタクリル酸への変換のための触媒としての該ビスマス−モリブデン混合酸化物の使用、及び、該ビスマス−モリブデン混合酸化物を含む触媒に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ結晶ビスマス−モリブデン混合酸化物の製造方法、化学変換のための触媒としての該ビスマス−モリブデン混合酸化物の使用、及び、該ビスマス−モリブデン混合酸化物を含む触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ビスマス−モリブデン混合酸化物は、沈殿法、ゾル−ゲル法または固相反応法によって得られていた。
【0003】
US 2007/0238904 A1には、沈殿とこれに続く焼成によって得られるビスマス−モリブデン混合酸化物が開示されている。ビスマス−モリブデン混合酸化物は、プロピレンまたはイソブチレンのアクロレインまたはメタクロレインへの変換のための触媒として適している。
【0004】
WO2008/028681及びDE10 2006 032 452 A1には、ナノ結晶の金属酸化物や混合金属酸化物の製造方法が開示されている。しかし、これらの文献には、例えばプロピレンのアクロレインへの変換のための触媒として特に適している特別なナノ結晶ビスマス−モリブデン混合酸化物が上記方法によって製造され得ることは、示唆されていない。
【0005】
このように、ナノ結晶モリブデン混合酸化物、及びそれと共にビスマス−モリブデン混合酸化物は、従来の方法で得ることは困難である。そこで、GA.Zenkovetsらの“熱処理の間における複合(MoVW)514酸化物の構造生成及びその酸化還元挙動”、Materials Chemistry and Physics、103(2007)、295−304には、沈殿及び噴霧乾燥によって得られるモリブデン混合酸化物が非晶質構造を有することが、開示されている。この混合酸化物は、サイズ約5μmの大きな集合体の形態で存在している。続く焼成によって、その集合体の内部にナノ結晶構造が生じる。サイズ1000nmよりも大きな結晶子を有する純粋な結晶相は、約440℃での長時間の熱処理後においてのみ生成する。よって、とりわけ小さな結晶の製造に関して、ナノ結晶モリブデン混合酸化物の製造を成し遂げることは、困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術の鉛−モリブデン混合酸化物には、このように、特に、均一な粒子径のモリブデン混合酸化物が得られず、とりわけ結晶径に関して結晶化の制御ができない、という不都合がある。そのうえ、従来技術のモリブデン混合酸化物のBET表面積は、大抵は小さ過ぎる。特に触媒としての使用のためには、できる限り大きなBET表面積を有する小さな粒子径が要望されている。
【0007】
従って、本発明の目的は、触媒変換における触媒として、要望される最終製品に対して活性及び選択性が増加されたナノ結晶ビスマス−モリブデン混合酸化物を得ることが可能な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、以下の工程を含むナノ結晶ビスマス−モリブデン混合酸化物の製造方法によって達成される。
a)モリブデン出発化合物とビスマス出発化合物を含む溶液、懸濁液またはスラリーを、キャリア流体によって反応室に導入すること、
b)モリブデン出発化合物とビスマス出発化合物を含む溶液、懸濁液またはスラリーを、処理域において200〜700℃の温度で脈動流によって熱処理すること、
c)ナノ結晶ビスマス−モリブデン混合酸化物を形成すること、
d)工程b)及びc)で得られたナノ結晶ビスマス−モリブデン混合酸化物を反応室から排出すること。
【0009】
驚くべきことに、本発明の方法によって、均一な粒子径を有するビスマス−モリブデン混合酸化物が得られること、及び、特に結晶径に関して結晶化の制御が成し遂げられることが、見出された。そのうえ、こうして得られたビスマス−モリブデン混合酸化物は、従来技術と比較してBET表面積が増加した。
【0010】
本発明によって得られるビスマス−モリブデン混合酸化物は、10nm〜1000nm、特に10nm〜750nm、好ましくは10nm〜500nm、より好ましくは10nm〜300nm、さらに好ましくは10nm〜100nm、一層好ましくは10nm〜30nmの範囲の結晶径を有することに特徴がある。
【0011】
本発明に係るビスマス−モリブデン混合酸化物を含む触媒の触媒活性は、特にプロピレンをアクロレインへと変換する場合には、従来技術によって製造されたビスマス−モリブデン混合酸化物を含む触媒と比較して、10%まで増加されることが可能であった。
【0012】
そのように本発明に係る触媒の活性および選択性が増加することによって、プロピレンからのアクロレインの製造を、従来技術と比較して明らかに改良することが可能となる。この触媒によって、イソブチレンのメタクロレインまたは類似の化合物への変換も可能となる。この触媒は、プロピレンまたはイソブチレンをアクリル酸またはメタクリル酸へと直接変換する場合において特に良好な活性をも示し、さらにこの変換は、本発明によって好ましくは1つの工程で行うことができる。
【0013】
モリブデン出発化合物としては、好ましくはモリブデン酸エステル、特に好ましくはヘプタモリブデン酸アンモニウム4水和物が使用される。しかし、従来技術に公知の他のモリブデン酸エステルやモリブデン含有化合物が使用され得ることは、この分野の当業者にとって明らかである。
【0014】
塩化ビスマス、硫酸ビスマス、酢酸ビスマス、酸化ビスマス、特に好ましくは硝酸ビスマスのようなビスマス塩は、ビスマス出発化合物として好適に使用される。
【0015】
モリブデン出発化合物とビスマス出発化合物は一緒に、溶液、懸濁液またはスラリーとして好適に使用される。また、出発化合物が溶液として存在している場合が最も好ましい。最適な溶液を得るためには、特に貧溶性の出発化合物の場合には、その溶液を、例えば50℃を超える温度まで追加的に加熱することができる。
【0016】
特に好ましい具体例においては、モリブデン及びビスマス出発化合物と共に溶液、懸濁液またはスラリー中に、さらに金属含有出発化合物を存在させることができる。これに関しては、ニッケル、鉄及び/または亜鉛の金属化合物が好ましい。また、Co及びMnも好ましい金属である。これらの金属は、金属塩として、特に、酸化物、ハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩または酢酸塩として用いることが好ましい。
【0017】
さらに好ましくは、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Ba、Sr、Ce、Mn、Cr、V、Nb、Se、Te、Sm、Gd、La、Y、Pd、Pt、Ru、Ag、Au、Si、Al、Tl、Zr、W及び/またはPから選択される金属化合物または非金属化合物も、追加的に用いることができる。
【0018】
驚くべきことに、本方法は、200〜700℃、好ましくは200〜500℃、特に好ましくは250〜450℃、とりわけ好ましくは300〜400℃という比較的低い温度で実行できることが見出された。これまで、従来技術においては700℃以上、さらには1400℃までの好ましい温度が知られていた。実に驚くべきことに、ビスマス−モリブデン混合酸化物の結晶化工程、特に、これに相応するビスマス−モリブデン混合酸化物の結晶径及び孔径分布は、本発明に係る方法によって目標とされた挙動内に制御できることが見出された。これは、さらに、炎内での滞留時間や、反応室の温度によって制御され得る。また、脈動熱処理によって、生成するナノ結晶ビスマス−モリブデン混合酸化物粒子の凝集が抑制される。通常、ナノ結晶粒子は、熱い気体流のより冷たい域への流れによって速やかに移動され、そこで20nmよりも小さい直径を有するビスマス−モリブデン混合酸化物結晶が得られることもある。
【0019】
このようにして得られるビスマス−モリブデン混合酸化物結晶の場合には、このことによって、1m2/gを超える、特に好ましくは2〜50m2/g、一層好ましくは5〜35m2/gといった、明らかに増加したBET表面積が得られる。BET表面積は、DIN 66131及び66132(ブルナウア、エミット及びテラーの方法(Brunauer、Emitt and Teller method)を用いて)によって測定することができる。
【0020】
本発明に係る方法では、非常に短い時間内、通常数ミリ秒以内で、従来技術の方法で用いられる通常の温度よりも比較的低い温度で、追加してろ過及び/または乾燥工程を行うことなく、あるいは追加して溶媒を添加することなく、懸濁液を焼成することができる。生成するビスマス−モリブデン混合酸化物の結晶は、著しく増加したBET表面積を有する。よって、本発明のさらなる具体例においては、特にプロピレンのアクロレイン及び/またはアクリル酸への変換、または、イソブチレンのメタクロレイン及び/またはメタクリル酸への変換に関して、反応性が増加され、変換率が改良され、及び、選択性が改良された、本発明に係るビスマス−モリブデン混合酸化物を含む触媒(“ビスマス−モリブデン混合酸化物触媒”)が、提供される。
【0021】
各ビスマス−モリブデン混合酸化物粒子が、上記方法によって創造された均一な温度領域にほぼ同じ時間滞留することによって、狭く単一な粒度分布を有する極めて均一な最終製造物が得られる。そのような単一のナノ結晶金属酸化物粉体の製造において本発明に係る方法を実行するための装置は、例えばDE 101 09 892 A1に記載されている。しかし、そこに記載された装置及びそこに開示された方法とは異なり、本発明に係る方法は、出発物質、すなわちモリブデン出発化合物が蒸発温度まで加熱されるような、上流での蒸発工程を必要としない。
【0022】
本発明に係るビスマス−モリブデン混合酸化物が製造されるところのモリブデン出発物化合物、ビスマス出発化合物、及び、さらなる出発化合物は、キャリア流体、特にキャリア気体、好ましくは例えば窒素等の不活性なキャリア気体によって、いわゆる反応室、すなわち燃焼室に直接投入される。反応室の排気側には、反応室と比較して明らかに小さな通流断面を有する共鳴管が取り付けられている。燃焼室の床には、燃焼空気を燃焼室に入れるためのいくつかのバルブが備えられている。その空気力学的なバルブは、燃焼室で生成された均一な“無炎”の温度領域を有する圧力波が主に共鳴管内で脈動しながら広がるように、燃焼室及び共鳴管と、流体力学的及び防音的に調和されている。そして、3〜150Hz、好ましくは5〜110Hzの脈動周波数を有する脈動流を伴う、いわゆるヘルムホルツ共鳴管が形成される。
【0023】
原料は、通常、インジェクターによって、または、適当な2流体ノズル、3流体ノズルまたはシェンクディスペンサーによって反応室内に供給される。
【0024】
好ましくは、モリブデン出発化合物、ビスマス出発化合物及び任意のさらなる出発化合物は、霧状の形態で反応室に導入され、その結果、処理域の領域において細かく分布される。
【0025】
熱処理後、生成するナノ結晶ビスマス−モリブデン混合酸化物は、可能であればキャリア流体によって、反応室のより冷却された域内へと直ちに移送され、冷却域で分離されて排出される。本発明に係る方法の収率は、ほぼ100%であり、生成する製造物の全ては、反応室から排出される。
【0026】
通常、上記方法は、通常気圧から40barまでの範囲の圧力で実行される。
【0027】
さらに、本発明の主題は、本発明に係る方法によって得られるナノ結晶ビスマス−モリブデン混合酸化物である。こうして得られるナノ結晶ビスマス−モリブデン混合酸化物は、5nm〜1000nm、好ましくは10nm〜800nm、特に一層好ましくは15〜550nmの範囲の結晶径を有していることが好ましく、これは、既に上述したように、好ましくは熱処理の脈動によって調節される。粒子径は、XRDやTEMのような当業者に知られた方法によって測定される。
【0028】
さらに、好ましくは1m2/gより大きい、特に好ましくは2〜50m2/g、一層好ましくは5〜35m2/gのBET表面積を有するビスマス−モリブデン酸化物粒子が、本発明に係る方法によって得られる。
【0029】
本発明に係るビスマス−モリブデン混合酸化物は、好ましくは一般式MoaBib(CoNi)cFedKOxによって表される。この式は、キャリア物質を伴わない活性触媒成分をもたらす。また、式MoBiOxを有するビスマス−モリブデン混合酸化物が、特に好ましい。さらに、さらなる成分が存在するビスマス−モリブデン混合酸化物の式は、例えば、MoaBib(CoNi)cFedMnefgAlhSiiSmjxであり、式中、好ましくはaが10〜13、bが1〜2、cが7〜9、dが1.5〜2.3、eが0.05〜0.3、fが0.02〜0.1、gが0.01〜0.1、hが270〜280、iが0.4〜0.9、jが0.05〜0.15、及び、xが2以上である。この一般式のうち、特に好ましい組成は、式Mo12Bi1.5(CoN)8.0Fe1.8Mn0.10.060.04Al275Si0.66Sm0.1xで表される。
【0030】
本発明に係るモリブデン混合酸化物は、本発明の好ましい開発において適しており、かかる開発は、触媒、例えば、プロピレンのアクロレイン及び/またはアクリル酸への、または、イソブチレンのメタクロレイン及び/またはメタクリル酸への変換のための触媒たる、触媒的に活性な化合物として使用するための開発である。特に、この本発明に係る触媒は、プロピレンまたはイソブチレンのアクリル酸またはメタクリル酸への直接変換にも適しており、その反応は、従来技術と比較して有利なことに、1つの工程で生じ得る。
【0031】
産業において、アクロレインは、アクリル酸の製造のための出発物質を担う。通常、大規模な工業生産は、従来技術においては触媒の助けを借りたプロピレンの2段階の酸化によって行われている。第1の段階では、プロピレンはプロペナール(アクロレイン)に変換される。第2の段階では、プロペナールのアクリル酸への酸化反応が生じる。アクリル酸の主な使用は、超吸収性ポリマー(例えばおむつ)への重合、アクリル酸エステル(ポリマーの重合の製造のために順番に使用される)への重合、及びポリマー分散剤の製造における共単量体としての重合である。アクリル酸の水溶性ポリマー重合物は、固形投与形態のためのコーティングや軟膏基材のように、仕上げ剤や嵩増し剤として用いられる。ポリアクリル酸エチルエステルは、耐候性エラストマーを製造するための共重合相手としての価値を有している。
【0032】
驚くべきことに、プロピレンからのアクロレイン及び/またはアクリル酸、または、イソブチレンからのメタクロレイン及び/またはメタクリル酸を単一の段階で合成することが、本発明に係るビスマス−モリブデン混合酸化物触媒を用いることによって実行され得る。
【0033】
また、このように本発明の主題は、本発明に係るビスマス−モリブデン混合酸化物を含む触媒である。その触媒は、支持された、または支持されていない触媒であり得る。
【0034】
ビスマス−モリブデン混合酸化物は、適当な結合剤と共に押し出し成形品(錠剤、形成体、ハニカム体など)へと処理することができる。結合剤としては、当業者によく知られ、適切であることが明らかなものであり、特にケイ酸物質、酸化アルミニウム、ジルコニア化合物、酸化チタン及びそれらの混合物、及び、例えばセメント、粘土、シリカ/アルミナのような物質を用いることができる。その他に好ましい結合剤は、擬ベーマイト、及び、コロイド状の酸化ケイ素やシリカゾルといったシリカを含む結合剤である。
【0035】
ビスマス−モリブデン混合酸化物は、さらに、他の成分、好ましくは結合剤と共に、特に好ましくは有機結合剤、例えば有機接着剤、ポリマー、樹脂またはワックスと共に、金属またはセラミックの担体に適用され得るウォッシュコートへと製造される。また、任意に、追加して含浸工程や、焼成工程を行うことができる。
【0036】
本発明に係るビスマス−モリブデン混合酸化物は、好ましくは、担体上のコーティングとして存在する。好ましい担体はステアタイトであり、球状ステアタイトが特に好ましい。上記コーティングを実行するために、好ましくは、いわゆる流動床コーティング装置を使用することができる。
【0037】
また、本発明の主題は、プロピレンのアクロレイン及び/またはアクリル酸への、または、イソブチレンのメタクロレイン及び/またはメタクリル酸への変換のための方法であり、本方法では、上述したように、本発明に係る触媒が使用される。
【0038】
その方法は、好ましくは、1つの段階で行う。その方法は、プロピレンまたはイソブチレンの混合物、酸素及び窒素を、300〜600℃で上記触媒の床を通過させることによって実行する。その床は、固定床または流動床とすることができる。
【0039】
本発明は、以下の実施例及び図を参照してより詳細に説明されるが、これに限定されるものではない。本発明に係る方法を実行するために使用する装置が予備的な蒸発器の段階を有さないことを除いて、使用する装置は、DE 101 09 892 A1に記載された装置と、主として一致する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実験例2の懸濁液の粒度分布を示す。
【図2】450℃で得られた本発明に係るビスマス−モリブデン混合酸化物のXRDスペクトルを示す。
【図3】実験例3の懸濁液の粒度分布を示す。
【図4】500℃で得られた本発明に係るビスマス−モリブデン混合酸化物のXRDスペクトルを示す。
【図5】実験例4の懸濁液の粒度分布を示す。
【図6】実験例5の懸濁液の粒度分布を示す。
【図7】600℃で得られた本発明に係るビスマス−モリブデン混合酸化物のXRDスペクトルを示す。
【実施例】
【0041】
総論:
脈動反応器を用いた調製の重要な利点は、全調製時間の削減、少ない経費(反応器のみが必要とされる)、及び、生成物の乾燥及び処理が不要であるという事実である。物質の望ましいBET表面積、粒子径及び結晶性は、脈動反応器による1工程ごとに異なる。
【0042】
実験例1:比較例(DE 10 2006 015710 A1に係る)
鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、カリウムの硝酸塩を、質量比23.2:47.26:29.28:0.0646:0.2067で、3.5Lの水に溶解させ、攪拌しながら0.1molのSm3+及び2molのHNO3から成る硝酸溶液を添加しつつ、40℃で加熱することによって、溶液Iを製造した。
【0043】
溶液IIのために、2.7Lの水の中に2118.6gのヘプタモリブデン酸アンモニウムを有する溶液を、40℃で調製し、その中に、4.4gのホスホン酸に加えて、0.428gのアエロジル200(デグサ)及び14gの酸化アルミニウムが入った1Lの水を添加した。
【0044】
溶液IIIを、強く攪拌しながら、溶液Iにゆっくりと添加した。別の容器に、790gの硝酸ビスマスと0.72molのHNO3から成る溶液IIIを調製した。この溶液を他の活性成分に添加することによって、活性触媒相を製造するための共沈物を得た。
【0045】
その共沈物を、12時間、強く攪拌した。得られた懸濁液を、回転盤を有する噴霧乾燥機内で、350℃の気体入口温度で乾燥した。また、空気量を、出口温度が100±10℃となるように調整した。
【0046】
こうして製造された粉体の平均粒子径は、55μmであった。この粉体を、混合酸化物が生成するまで対流式オーブン内において445℃の温度で1時間処理し、次の工程でこの混合酸化物を、1μmの平均粒子径まで粉砕した。その混合酸化物を、2流体ノズルを用いて水溶性懸濁液としてセラミック製の球状の触媒担体上に噴霧し、空気流の中で60℃で乾燥した。そして、これらをドラム内で回転運動させることにより、それら小球を均質化した。得られた製造物を、含まれる活性物質を固めるために540℃で1時間加熱した。
【0047】
こうして製造された触媒は、(Mo12Bi1.5(Co+Ni)8.0Fe1.8Mn0.10.060.04Al275Si0.66Sm0.1)Oxの組成を有していた。
【0048】
触媒の試験
実験例1の触媒を、7.5体積%のプロピレン(化学グレード)、58体積%の空気、及び不活性ガス(全100体積%)から構成された混合物でコーティングした。総気体流は、36.9L/分であった。加熱キャリアの温度は、365℃であった。プロピレンの変換率は、89.5mol%であり、アクロレイン及びアクリル酸に対する製造物の選択性は、95.3%であった(実験例7及び表1も参照)。
【0049】
実験例2(本発明に係る)
60Lのイオン交換水を、100Lの容器に秤量した。これを、50℃で加熱した。そして、以下の物質を、上記イオン交換水に連続して添加した。
【0050】
物質 : 量[g] : 添加後の溶液の色
硝酸ニッケル溶液(Ni:12%) : 6599.25 : 緑色
硝酸鉄9水和物 : 1664.68 : 緑色
硝酸亜鉛6水和物 : 1202.67 : 緑色
ヘプタモリブデン酸アンモニウム4水和物: 4344.48 : 黄緑色
【0051】
得られた懸濁液を、攪拌しながら75℃に加熱した。その懸濁液を64℃まで冷却した後、3290gのルドックス(登録商標)AS40を添加した。それから、硝酸ビスマス溶液(2.5Lの10%硝酸+991.04gの硝酸ビスマス5水和物)を、62℃の温度で添加した。このときの懸濁液の温度は58℃であり、これを10分間攪拌した。
【0052】
その懸濁液の粒度分布を測定した。結果を図1に示す。
【0053】
その懸濁液を、20kg/時の投入速度で、脈動反応器に投入した。その温度は450℃であった。得られた試料のXRDスペクトルにより、以下の結果が得られた。
【0054】
脈動反応器において450℃で触媒として製造された物質は、23m2/gのBET表面積を有しており、図2に示す粉末回折図(XRD)の特徴を有する。
【0055】
硝酸前駆物質の分解、及び、例えばモリブデン酸ビスマスのようなモリブデン塩相の生成が、XRD回折図から見てとれた。
【0056】
後述するコーティング試験のために、脈動反応器内において450℃で噴霧して1.45kgの物質を製造した。
【0057】
実験例3(本発明に係る)
60Lのイオン交換水を、100Lの容器に秤量した。これを、50℃で加熱した。そして、以下の化合物を、イオン交換水に連続して添加した。
【0058】
物質 : 量[g] : 添加後の溶液の色
硝酸ニッケル溶液(Ni:12%) : 6599.25 : 緑色
硝酸鉄9水和物 : 1664.68 : 緑色
硝酸亜鉛6水和物 : 1202.67 : 緑色
ヘプタモリブデン酸アンモニウム4水和物: 4344.48 : 黄緑色
【0059】
得られた懸濁液を、攪拌しながら75℃に加熱した。その懸濁液を64℃まで冷却し後、3290gのルドックス(登録商標)AS40を添加した。それから、硝酸ビスマス溶液(2.5Lの10%硝酸+991.04gの硝酸ビスマス5水和物)を、62℃の温度で添加した。このときの懸濁液の温度は58℃であり、これを10分間攪拌した。
【0060】
そして、その懸濁液の粒度分布を測定した。結果を図3に示す。
【0061】
その懸濁液を、20kg/時の投入速度で、脈動反応器に投入した。
【0062】
得られた物質を、脈動反応器内内において500℃で噴霧した。得られた試料のXRD回折図により、以下の結果が示された。
【0063】
脈動反応器内において500℃で製造された物質は、21m2/gのBET表面積を有しており、図4に示す回折図の特徴を有する。
【0064】
硝酸前駆物質の分解、及び、例えばモリブデン酸ビスマスのようなモリブデン塩相の生成が、XRD回折図から見てとれた。Biの欠損により、測定された触媒の主要な画分は、すべての場合においてモリブデン酸鉄から構成されていた。
【0065】
後述するコーティング試験のために、脈動反応器内において500℃で噴霧して、1.45kgの粉体を製造した。
【0066】
実験例4(本発明に係る)
60Lのイオン交換水を、100Lの容器に秤量した。これを、50℃で加熱した。そして、以下の物質を、上記イオン交換水に連続して添加した。
【0067】
物質 : 量[g] : 添加後の溶液の色
硝酸ニッケル溶液(Ni:12%) : 6599.25 : 緑色
硝酸鉄9水和物 : 1664.68 : 緑色
硝酸亜鉛6水和物 : 1202.67 : 緑色
ヘプタモリブデン酸アンモニウム4水和物: 4344.48 : 黄緑色
【0068】
得られた懸濁液を、攪拌しながら75℃に加熱した。その懸濁液を64℃まで冷却した後、3290gのルドックス(登録商標)AS40を添加した。それから、硝酸ビスマス溶液(2.5Lの10%硝酸+991.04gの硝酸ビスマス5水和物)を、62℃の温度で添加した。このときの懸濁液の温度は58℃であり、これを10分間攪拌した。
【0069】
そして、その懸濁液の粒度分布を測定した。結果を図5に示す。
【0070】
その懸濁液を、20kg/時の投入速度で、脈動反応器に投入した。得られた物質を、脈動反応器内において600℃で噴霧した。
【0071】
脈動反応器内において600℃で製造された物質は、18m2/gのBET表面積を有しており、図7に示される回折図の特徴を有する。
【0072】
硝酸前駆体の分解及びBiMoO4相の生成が、XRD回折図から見てとれる。
【0073】
後述するコーティング試験のために、脈動反応器内において600℃で噴霧して、1.45kgの物質を製造した。
【0074】
実験例5(本発明に係る)
第1液:40Lのイオン交換水を、100Lの容器に秤量した。これを、55℃まで加熱した。そして、以下の物質を、上記イオン交換水に連続して添加した。
【0075】
物質 :量[g] :温度[℃] :pH値 :添加後の溶液の色
硝酸鉄9水和物 :587.12 : 50 :2.73 : 橙色
硝酸ニッケル溶液 :7108.15: 50 :1.92 : 緑色
(Ni:12%)
硝酸コバルト6水和物:563.93 : 50 :1.84 : 緑色
硝酸カリウム :12.24 :50/30**:1.84 : 緑色
ルドックスAS40 :3638.04: 28** :1.92 : 濃緑色
【0076】
ルドックスAS40は、翌日まで添加しなかった。この理由は、その溶液を30℃まで冷却するためであった。
【0077】
第2液:20Lのイオン交換水を、100Lの板状の金属製ドラムに投入した後、57℃まで加熱した(pH値:5.00)。そして、以下の物質を、上記イオン交換水に連続して添加した。
【0078】
物質 :量[g] :温度[℃]:pH値 :添加後の溶液の色
ヘプタモリブデン酸
アンモニウム4水和物:5131.56: 50 :5.46:無色/緑色を帯びた
硫酸 :280.09 : 50 :5.42:薄緑色
【0079】
第3液:2115.4gのイオン交換水(20℃)を10Lの容器に秤量した。
【0080】
物質 :量[g] :温度[℃]:pH値 :添加後の溶液の色
硝酸(65%) :384.6 : 28 : − :無色
硫酸ビスマス5水和物 :1174.09: 25 : − :無色
【0081】
第1液を第2液と、強く攪拌しながら混合した(温度34℃、pH値4.76)。それにより、薄緑色の懸濁液となった。その後、第3の溶液を添加した(温度:34℃;pH値:2.02)。この懸濁液(黄土色/黄色)を、1時間攪拌した。そのとき、わずかな気体の生成が観察された。
【0082】
そして、その懸濁液の粒度分布を測定した。結果を図6に示す。
【0083】
その懸濁液を、20kg/時の投入速度で、脈動反応器に投入した。その懸濁液を、600℃で上述したパラメータを用いて投入した。不図示のXRDから、BiMoO4の生成が明らかである。そのXRDスペクトルは、図7に示す実験例4のXRDスペクトルと全く同じである。
【0084】
脈動反応器内において600℃で噴霧された粉体の2.06kg、及び、脈動反応器内において400℃で噴霧された粉体の1.07kgを、コーティング試験に利用した。
【0085】
実験例6(コーティングされた触媒の製造)
コーティングを実行するために、流動床コーティング装置を使用した。実験例1〜4で得られた種々のビスマス−モリブデン混合酸化物活性物質を用いて、球状ステアタイトに以下の条件でコーティングした。
【0086】
各物質の22.22gをメスシリンダーに秤量し、500mLの蒸留水を用いてスラリーとした。得られた懸濁液を、強く攪拌した。それから、8.89gの結合剤を添加し、マグネティックスターラー上で1時間混合攪拌した。
【0087】
得られた懸濁液を、秤量された試料たる80gの球状ステアタイト(2〜4mm)上にコーティングした。このとき活性物質の供給量は20%であった(球状ステアタイト200gに対して50g)。そして、その触媒を、110℃の空気中で乾燥した。
【0088】
実験例7(触媒における触媒性能データの測定)
高温箇所を避けるために350gの球状ステアタイト(直径4.5mm)で希釈された触媒21gを、24.8mmの内径を有する長さ120cmの反応管内に、105cmの長さまで投入した。その反応管を、500℃の温度まで加熱可能な液体塩浴に入れた。触媒床内に、完全な触媒結合を超える触媒温度を表示可能な、調整された熱伝対を有する3mmの保護管を存在させた。触媒性能データを測定するために、7.5体積%のプロピレン、58体積%の空気、及び窒素(全100体積%)を、最大4500NL/時で触媒上を通過させた。プロピレン変換率及びアクロレイン選択性を、365℃の平均触媒温度に調整し、反応気体の組成を、反応管を出た後に分析した。触媒(実験例6によって製造された)としての実験例1〜4で得られた物質を用いた試験の結果を、表1に示す。
【0089】
表1は、本発明及び比較例の触媒による触媒性能データである。
【0090】
【表1】

【0091】
表1に示すように、本発明に係る触媒の利点は、従来技術(比較例、実験例1)によってビスマス−モリブデン混合活性物質を製造して得られた触媒を用いた場合よりも、高い収率及び高い選択性を有することである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程、
a)モリブデン出発化合物とビスマス出発化合物を含む溶液、懸濁液またはスラリーを、キャリア流体によって反応室に導入すること、
b)前記モリブデン出発化合物とビスマス出発化合物を含む溶液、懸濁液またはスラリーを、処理域において200〜700℃の温度で脈動流によって熱処理すること、
c)ナノ結晶ビスマス−モリブデン混合酸化物を形成すること、
d)工程b)及びc)で得られたナノ結晶ビスマス−モリブデン混合酸化物を前記反応室から排出すること、
を含むナノ結晶ビスマス−モリブデン混合酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記モリブデン出発化合物が、ヘプタモリブデン酸アンモニウム4水和物であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ビスマス出発化合物が、硝酸ビスマスであることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記溶液、懸濁液またはスラリー中に、ニッケル、鉄、コバルト、マンガン及び/または亜鉛出発化合物から選択される金属含有出発化合物がさらに用いられることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
さらに、前記金属出発化合物が、ニッケル、鉄及び/または亜鉛出発化合物から選択されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記キャリア流体が、気体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法によって得られるナノ結晶ビスマス−モリブデン混合酸化物。
【請求項8】
結晶径が10nm〜1000nmの範囲に存在することを特徴とする請求項7に記載のナノ結晶ビスマス−モリブデン混合酸化物。
【請求項9】
1〜50m2/gのBET表面積を有することを特徴とする請求項7または8に記載のナノ結晶ビスマス−モリブデン混合酸化物。
【請求項10】
化学変換のための触媒としての請求項7〜9のいずれかに記載されたナノ結晶ビスマス−モリブデン混合酸化物の使用。
【請求項11】
プロピレンのアクロレイン及び/またはアクリル酸、または、イソブチレンのメタクロレイン及び/またはメタクリル酸への変換のための請求項10に記載の使用。
【請求項12】
プロピレンのアクロレイン及び/またはアクリル酸、または、イソブチレンのメタクロレイン及び/またはメタクリル酸への変換が1つの段階で行われることを特徴とする請求項11に記載の使用。
【請求項13】
請求項7〜9のいずれかに記載のナノ結晶混合酸化物を含有する触媒。
【請求項14】
前記モリブデン混合酸化物が、担体上にコーティングとして存在することを特徴とする請求項13に記載の触媒。
【請求項15】
結合剤を含むことを特徴とする請求項13または14に記載の触媒。
【請求項16】
請求項13〜15のいずれかに記載された触媒が用いられることを特徴とする、プロリレンのアクロレイン及び/またはアクリル酸、または、イソブチレンのメタクロレイン及び/またはメタクリル酸への変換方法。
【請求項17】
前記方法を1つの段階で行うことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
プロピレンまたはイソブチレンと、酸素と、窒素との混合物を、300〜600℃で前記触媒の床を通過させることを特徴とする請求項15または16に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−516377(P2011−516377A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−502297(P2011−502297)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【国際出願番号】PCT/EP2009/002475
【国際公開番号】WO2009/121625
【国際公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(508131358)ズード−ケミー アーゲー (30)
【Fターム(参考)】