説明

ニッケル水素二次電池電極形成用エマルションバインダーおよびニッケル水素二次電池電極形成用合材インキ

【課題】本発明は、基板と合材層の密着性が良好で、酸化劣化を抑制し、充放電サイクルや耐久性等の電池性能が優れた電極が得られるニッケル水素二次電池電極形成用エマルションバインダーの提供を目的とする。
【解決手段】カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(A)0.1〜5重量%、下記一般式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体(B)0.5〜20重量%、窒素原子含有エチレン性不飽和単量体(C)0.1〜10重量%、およびこれらと共重合可能なエチレン性不飽和単量体(D)65〜99.3重量%を、水性媒体中で共重合させてなるニッケル水素二次電池電極形成用エマルションバインダー。
一般式(1) CH2=C(R1)−CO−O−(R2O)n−R3

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル水素二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル水素二次電池は、単位容積あたりのエネルギー密度が大きく、充放電サイクル特性が良好であり、乾電池の代替や電化製品用途、さらには自動車等の大型用途において、すでに実用化されている。
【0003】
一般に、ニッケル水素二次電池の正極は、活物質である水酸化ニッケル粉末を発泡状ニッケル基材に充填することで得られる。水酸化ニッケルの表面を、導電助剤となる水酸化コバルトもしくはオキシ水酸化コバルトがコーティングされたものも市販されている。これら活物質をカルボキシルメチルセルロース(CMC)のような増粘剤と共に水性溶媒中で混練することによって得られる。バインダーとしてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などを添加する場合もある。
【0004】
一方、負極用合材インキは、負極の電極組成物として用いられる水素吸蔵合金に、ニッケル粉末やカーボン等からなる導電性材料、バインダー樹脂組成物を混錬することにより得られる。この負極用合材インキをパンチングメタルや金属板、発泡金属板、網状金属繊維焼結板等の金属集電体に塗布し、乾燥後にプレス処理することにより負極を作製する。バインダーとして集電体との密着性が良好で、水素イオンのイオン伝導性に優れるポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどを添加する例が開示されている(特許文献1参照)。
【0005】
ところで、変電所、自動車、電車等に用いられるニッケル水素二次電池には、従来の乾電池や携帯機器等に用いられるものに比べて、高出力、高電圧及び高容量が要求されるため、大型電池が必要とされる。例えば、車両にニッケル水素二次電池を搭載した場合、ブレーキ時に生じる回生電力を搭載されたニッケル水素二次電池に蓄えておき、車両の動力源として使用することができる。これにより、車両の運電する際には、大電流を急速に充電する必要がある。他方、ニッケル水素二行エネルギー効率を高めることができる。ここで、回生電力をニッケル水素二次電池に充次電池を利用して車両を駆動する際には、急速の放電する必要がある。そのため、大型のニッケル水素二次電池は、大容量であるだけでなく、急速充放電性能も不可欠である。
【0006】
そこで、電池の形状を円筒形から角形に代え、発泡ニッケルやパンチングプレートの電極を平板状の基板に変更し、さらに、正極用の合材インキのバインダーはエチレン酢酸ビニル共重合ポリマーと塩化ビニル系ポリマーを使用し、負極用の合材インキのバインダーには変性エチレン酢酸ビニル共重合ポリマーを使用することで、基板と合材の密着性を確保しつつ、大容量化を図った電池が開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−82161号公報
【特許文献2】特開2010−108821号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来の電極は、合材インキから形成した合材層と基板との密着性が不足していたため、充放電を繰り返すと合材層が酸化劣化し、充放電サイクルが短くなるなど電池性能が低下する問題があった。
【0009】
本発明は、基板と合材層の密着性が良好で、酸化劣化を抑制し、充放電サイクルや耐久性等の電池性能が優れた電極が得られるニッケル水素二次電池電極形成用エマルションバインダーの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(A)0.1〜5重量%、下記一般式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体(B)0.5〜20重量%、窒素含有単位含有単量体(C)0.1〜10重量%、およびこれらと共重合可能なエチレン性不飽和単量体(D)65〜99.3重量%を共重合したニッケル水素二次電池電極形成用エマルションバインダーを構成とする。ここで窒素含有単位とは、例えば、アミノ基等の窒素含有基 および例えば、アミド結合等の窒素含有結合を含む概念である。
一般式(1) CH2=C(R1)−CO−O−(R2O)n−R3
(式中、nは1以上50以下の整数、R1は水素原子又はメチル基、R2は炭素原子数1〜3のアルキレン基、R3は水素原子又は炭素原子数1〜10のアルキル基である)
【発明の効果】
【0011】
上記構成の本発明によれば、合材インキに配合するエマルションバインダーがアルキレンオキサイド部位および窒素含有単位を含むことにより当該バインダーを含む合材層は、電極の基板(集電体ともいう)との密着性が向上し酸化劣化を抑制できた。さらに、電子及び水素イオンを授受する電池反応において、合材層はアルキレンオキサイド部位を有することでニッケル水素電池内での水素イオンの移動が円滑に進みイオン伝導性が向上することで電極の内部抵抗を低減できるという効果が得られた。
【0012】
本発明により、基板と合材層の密着性が良好で、酸化劣化を抑制し、充放電サイクルや耐久性等の電池性能に優れた電極が得られるニッケル水素二次電池電極形成用エマルションバインダーを提供できた。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のニッケル水素二次電池電極形成用エマルションバインダーは、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(A)、下記一般式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体(B)、窒素含有単位含有単量体(C)およびこれらと共重合可能なエチレン性不飽和単量体(D)を水性媒体中で共重合したものである。そして、ニッケル水素二次電池電極形成用エマルションバインダーは、二次電池の電極の集電体に形成する合材層に使用する合材インキに配合することが好ましい。
一般式(1) CH2=C(R1)−CO−O−(R2O)n−R3
(式中、nは1以上50以下の整数、R1は水素原子又はメチル基、R2は炭素原子数1〜3のアルキレン基、R3は水素原子又は炭素原子数1〜10のアルキル基である)
【0014】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(A)はエマルションバインダーの重合安定性を高めるために用いられる。本発明で使用する単量体(A)は、カルボキシル基含有不飽和化合物としてはアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、2−メタクリロイルプロピオン酸等を挙げることができる。
【0015】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(A)の使用量は、0.1〜5重量%が好ましい。0.1重量%より少ないと、重合安定性が低いために、得られるエマルションバインダーの貯蔵安定性が低下する懸念がある。一方、5重量%より多いと、エマルションの重合安定性が低下し、得られる合材インキの分散安定性が低下する可能性がある。
【0016】
エマルションバインダーの酸価は、0.1〜50mgKOH/gが好ましい。この酸価は、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(A)の種類及び使用量で計算できる。尚、本発明におけるエマルションバインダーの酸価は、JIS K 2501-2003の石油製品及び潤滑油−中和価試験方法 によって測定することができる。
【0017】
酸価が0.1mgKOH/gより小さいと、重合安定性が低いために、得られるエマルションバインダーの貯蔵安定性が低下する懸念がある。一方、酸価が50mgKOH/gより大きいと単量体使用量と同様、エマルションの重合安定性が低下し、得られる合材インキの分散安定性が低下する可能性がある。さらには、バインダーの耐酸化性が低下し、電池の劣化を引き起こす可能性がある。
【0018】
一般式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体(B)は、アルキレンオキサイド部位を有することでイオン伝導性を有することが知られている。本発明者らは、エチレン性不飽和単量体(B)をある特定の割合で用いる場合、バインダー中のアルキレンオキサイド部位がアルカリ電解液と親和性を発揮し、ニッケル水素電池内で充電もしくは放電などに伴って生じる電気化学的反応において、イオン伝導性が向上することを見出した。さらに活物質または電極組成物と集電材の密着性が良好なエマルションバインダーが得られることを見出した。
【0019】
一般式(1)のR2は、炭素原子数は1〜3が好ましい。R2の炭素原子数が4より大きいと、疎水性が高くなり過ぎてイオン伝導性が低下する恐れがある。R3の炭素原子数は1〜10が好ましい。R3の炭素原子数が10より大きいと、疎水性が高くなり過ぎてイオン伝導性が低下する恐れがある。
アルキレンオキサイド部位の繰り返し部数であるnの数は、特に限定は無いが、3以上が好ましい。nの数が3以上50以下であればイオン伝導性の効果がより向上して好ましい。
【0020】
具体的には、例えば、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等、末端に水酸基を有し、ポリオキシアルキレン鎖を有するモノアクリレートまたは対応するモノメタアクリレート等、
メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート等、末端にアルコキシ基を有し、ポリオキシアルキレン鎖を有するモノアクリレートまたは対応するモノメタアクリレート等、
フェノキシエチレングリコール(メタ)アクリレート等、末端にフェノキシまたはアリールオキシ基を有するポリオキシアルキレン系アクリレートまたは対応するメタアクリレートがある。
【0021】
一般式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体(B)の使用量は、0.5〜20重量%が好ましい。0.5重量%より少ないと、使用量が少ないためにイオン伝導性の効果が得にくい一方、20重量%より多いと、重合安定性が低下し、重合時あるいは貯蔵時に凝集を起こす懸念がある。
【0022】
窒素原子含有エチレン性不飽和単量体(C)は、窒素原子含有エチレン性不飽和単量体(C)としては、マレイミド、N−ビニルピロリドン、(メタ)アクリル系エチレン性不飽和単量体の1級アミン、2級アミン、3級アミン、及び4級アンモニウム塩、並びに(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。具体的には、N−シクロへキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−アクリロイルモルホリン、N,N−(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、N,N−(ジメチルアミノ)プロピル(メタ)アクリレート、3−(3−ピリニジル)プロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、及びN−ヘキシル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0023】
窒素原子含有エチレン性不飽和単量体(C)の使用量は、0.1〜10重量%が好ましい。0.1重量%より少ないと、重合安定性が低いために、得られるエマルションバインダーの貯蔵安定性が低下する懸念がある。一方、10重量%より多いと、エマルション粒子同士の絡み合いが過大になり、エマルションの重合安定性が低下し、得られる合材インキの分散安定性が低下する可能性がある。
【0024】
エチレン性不飽和単量体(D)は、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(A)、一般式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体(B)および窒素原子含有エチレン性不飽和単量体(C)と共重合可能な単量体である。
エチレン性不飽和単量体(D)は、アルキル系(メタ)アクリレート、ビニル基含有単量体および芳香環含有単量体等が挙げられる。
そしてエチレン性不飽和単量体(D)は、そのガラス転移温度(以下、Tgと略す時がある)が、−40〜40℃となるようにエチレン性不飽和単量体を適宜選択することが好ましい。
【0025】
具体的に例示すると、アルキル系(メタ)アクリレートとしては、アクリル酸メチル(ホモポリマーのガラス転移温度Tg=−8℃、以下同様)、アクリル酸エチル(Tg=−20℃)、アクリル酸ブチル(Tg=−45℃)、アクリル酸−2−エチルヘキシル等(Tg=−55℃)のアクリル酸エステル類;
メタクリル酸メチル(Tg=100℃)、メタクリル酸エチル(Tg=65℃)、メタクリル酸ブチル(Tg=20℃)、メタクリル酸イソブチル(Tg=67℃)、メタクリル酸ターシャリーブチル(Tg=107℃)、メタクリル酸2−エチルヘキシル(Tg=−10℃)、メタクリル酸シクロヘキシル(Tg=66℃)等のメタクリル酸エステル類が挙げられる。芳香環含有モノマーとしては、スチレン(ホモポリマーのガラス転移温度Tg=100℃、以下同様)、α−メチルスチレン(Tg=168℃)及びベンジルメタクリレートが挙げられる。なお、ホモポリマーのガラス転移温度は、DSCによって、元のベースラインと変曲点での接線の交点を読み取ることで測定できる。
【0026】
本発明に使用する水性媒体としては、水を使用することが好ましいが、必要に応じて、例えば、集電体への塗工性向上のために、水溶性の溶剤を使用することもできる。
【0027】
水溶性の溶剤としては、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類等が挙げられ、水と相溶する範囲で使用しても良い。
【0028】
ニッケル水素二次電池電極形成用エマルションバインダーは、乳化剤、重合開始剤存在下、水性媒体中でエチレン性不飽和単量体(A)〜(D)を共重合することで得られる。共重合の方法は、乳化重合が好ましい。
【0029】
乳化剤としては、アニオン性乳化剤やノニオン性乳化剤を単独若しくは併用できる。また、乳化剤は、ラジカル重合性の官能基を有する、いわゆる反応性乳化剤であってもよいし、ラジカル重合性の官能基を有さない非反応性乳化剤であってもよい。乳化剤は1種または2種以上使用できる。
【0030】
重合開始剤としては、過硫酸塩類等の熱分解開始剤や、過酸化物系開始剤と還元剤を組み合わせたレドックス開始剤が挙げられる。熱分解開始剤である過硫酸塩類としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等が挙げられる。レドックス開始剤としては、過酸化物系開始剤と還元剤の組み合わせが好ましく、過酸化物系開始剤としては、パーブチルH(ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド)、パーブチルO(ターシャリーブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート)、キュメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイドが挙げられる。還元剤としては、エルビットN(イソアスコルビン酸ナトリウム)、L−アスコルビン酸(ビタミンC)、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム(SMBS)、次亜硫酸ナトリウム(ハイドロサルファイト)が挙げられる。
【0031】
<合材インキ>
本発明のニッケル水素二次電池電極形成用合材インキは、活物質または電極組成物と、ニッケル水素二次電池電極形成用エマルションバインダーと、水性液状媒体とを含有することが好ましい。
【0032】
ニッケル水素二次電池電極形成用エマルションバインダーの、合材インキの不揮発分の合計に占める割合は、1〜15重量%であることが好ましく、1〜10重量%がより好ましい。エマルションバインダーの割合が1〜15重量%の範囲にあることで、より優れたイオン導電性及び密着性を確保することができる。
【0033】
活物質は、ニッケル水素二次電池に通常使用されるものであれば、制限なく使用できる。例えば、正極活物質としては、水酸化ニッケル、オキシ水酸化ニッケルのニッケル化合物が挙げられる。水酸化ニッケルの種類としては、水酸化ニッケルを水酸化コバルトやオキシ水酸化コバルトで被覆したコバルトコート品がより好ましい。水酸化ニッケルの表面をコバルトコートすることで、水酸化ニッケルの導電性をより高めることができる。
負極の電極組成物として用いられる水素吸蔵合金は、例えば、LaNi5やMmNiXMm:ミッシュメタル;希土類金属の混合物、x=4.7〜5.2)などのAB5型がある。前者では、Niの一部をCu、Al、Co、Siなどで置換した材料や、Laの一部をNdやZrで置換した材料が開発されている。また、現在一般的に使用されている材料は後者であり、希土類に比較的安価なMmを用い、Niの一部をCo、Mn、Alなどで置換している。このほか、TiNi、Ti2Ni等のAB/A2B型(チタン系)、ZrNi2系やZrV2系等のAB2型がある。
【0034】
これら活物質の大きさは、0.05〜100μmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは、0.1〜50μmの範囲内である。そして、合材インキ中の活物質の分散粒径は、0.5〜20μmであることが好ましい。ここでいう分散粒径とは、体積粒度分布において、粒子径の細かいものからその粒子の体積割合を積算していったときに、50%となるところの粒子径(D50)であり、一般的な粒度分布計、例えば、動的光散乱方式の粒度分布計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)等で測定できる。
【0035】
次に、導電助剤である炭素材料について説明する。
本発明のニッケル水素二次電池電極形成用合材インキは、電極の導電性をより高めるために、導電助剤として炭素材料を含有することが好ましい。
炭素材料としては、導電性を有する炭素材料であれば特に限定されるものではないが、グラファイト、カーボンブラック、導電性炭素繊維(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー)、フラーレン等を単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。導電性、入手の容易さ、およびコスト面から、カーボンブラックの使用が好ましい。
【0036】
カーボンブラックとしては、気体もしくは液体の原料を反応炉中で連続的に熱分解し製造するファーネスブラック、特にエチレン重油を原料としたケッチェンブラック、原料ガスを燃焼させて、その炎をチャンネル鋼底面にあて急冷し析出させたチャンネルブラック、ガスを原料とし燃焼と熱分解を周期的に繰り返すことにより得られるサーマルブラック、特にアセチレンガスを原料とするアセチレンブラックなどの各種のものを単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。また、通常行われている酸化処理されたカーボンブラックや、中空カーボン等も使用できる。
【0037】
カーボンの酸化処理は、カーボンを空気中で高温処理したり、硝酸や二酸化窒素、オゾン等で二次的に処理したりすることより、例えばフェノール基、キノン基、カルボキシル基、カルボニル基の様な酸素含有極性官能基をカーボン表面に直接導入(共有結合)する処理であり、カーボンの分散性を向上させるために一般的に行われている。しかしながら、官能基の導入量が多くなる程カーボンの導電性が低下することが一般的であるため、酸化処理をしていないカーボンの使用が好ましい。
【0038】
カーボンブラックの比表面積は、値が大きいほど、カーボンブラック粒子どうしの接触点が増えるため、電極の内部抵抗を下げるのに有利となる。具体的には、窒素の吸着量から求められる比表面積(BET)で、20m2/g以上、1500m2/g以下、好ましくは50m2/g以上、1500m2/g以下、更に好ましくは100m2/g以上、1500m2/g以下のものを使用することが望ましい。比表面積が20m2/gを下回るカーボンブラックを用いると、十分な導電性を得ることが難しくなる場合があり、1500m2/gを超えるカーボンブラックは、市販材料での入手が困難となる場合がある。
【0039】
カーボンブラックの粒径は、平均一次粒子径で0.005〜1μmが好ましく、特に、0.01〜0.2μmが好ましい。ここでいう一次粒子径とは、電子顕微鏡などで千倍〜一万倍に拡大した画像から、例えば20個〜100個の粒子の粒子径を測定し、平均したものである。
【0040】
カーボンブラックとしては、例えば、トーカブラック#4300、#4400、#4500、#5500等(東海カーボン社製、ファーネスブラック)、プリンテックスL等(デグサ社製、ファーネスブラック)、Raven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA等、Conductex SC ULTRA、Conductex 975 ULTRA等、PUER BLACK100、115、205等(コロンビヤン社製、ファーネスブラック)、#2350、#2400B、#2600B、#30050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400B等(三菱化学社製、ファーネスブラック)、MONARCH1400、1300、900、VulcanXC−72R、BlackPearls2000等(キャボット社製、ファーネスブラック)、Ensaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、SuperP−Li(TIMCAL社製)、ケッチェンブラックEC−300J、EC−600JD(アクゾ社製)、デンカブラック、デンカブラックHS−100、FX−35(電気化学工業社製、アセチレンブラック)等、グラファイトとしては例えば人造黒鉛や燐片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛などの天然黒鉛が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0041】
炭素材料の、合材インキの不揮発分の合計に占める割合は、0.1〜15重量%であることが好ましく、1〜10重量%がより好ましい。炭素材料の割合が0.1〜15重量%の範囲にあることで、より優れた導電性を確保することができる。
【0042】
炭素材料を合材インキに配合する場合、分散剤を用いて炭素材料分散体に加工してから配合することが好ましい。分散体とすることで炭素材料を合材インキ中に均一に分散し易くなる。ここで、炭素材料分散体の合材インキ中の分散粒径は、0.03μm以上5μm以下に分散することが好ましい。炭素材料分散体の分散粒径を0.03μm未満に製造することは難しい。炭素材料分散体の分散粒径が2μmを超えると合材層中で炭素材料を均一に分散しにくくいため、所望の導電性が得にくい傾向にある。
【0043】
炭素材料を分散する際に用いる分散剤としては、例えば水溶性セルロース系樹脂、水溶性アクリル系樹脂、水溶性スチレン・アクリル系樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、水溶性ウレタン樹脂等を用いることができる。なお分散粒径とは、体積粒度分布において、粒子径の細かいものからその粒子の体積割合を積算していったときに、50%となるところの粒子径(D50)であり、一般的な粒度分布計、例えば、動的光散乱方式の粒度分布計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)等で測定される。
【0044】
炭素材料の分散の際に用いられる装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機または混合機が使用できる。
例えば、ディスパー、ホモミキサー、若しくはプラネタリーミキサー等のミキサー類;エム・テクニック社製「クレアミックス」、若しくはPRIMIX社「フィルミックス」等のホモジナイザー類;ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、若しくはコボールミル等のメディア型分散機;湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS−5」、若しくは奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機;または、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、分散機としては、分散機からの金属混入防止処理を施したものを用いることが好ましい。
【0045】
例えば、メディア型分散機を使用する場合は、アジテーター及びベッセルがセラミック製又は樹脂製の分散機を使用する方法や、金属製アジテーター及びベッセル表面をタングステンカーバイド溶射や樹脂コーティング等の処理をした分散機を用いることが好ましい。そして、メディアとしては、ガラスビーズ、または、ジルコニアビーズ、若しくはアルミナビーズ等のセラミックビーズを用いることが好ましい。また、ロールミルを使用する場合についても、セラミック製ロールを用いることが好ましい。分散装置は、1種のみを使用しても良いし、複数種の装置を組み合わせて使用しても良い。
【0046】
さらに、合材インキには、成膜助剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、pH調整剤、粘性調整剤などを必要に応じて配合できる。
【0047】
合材インキの粘度は、100mPa・s以上、30,000mPa・s以下とするのが好ましい。また合材インキの不揮発分は、水性媒体の量を調整して30〜90重量%にするのが好ましい。
合材インキは、配合中に活物質または電極組成物をできるだけ多く含むことが好ましい。例えば合材インキの不揮発分に占める活物質または電極組成物の割合は、80重量%以上99重量%以下が好ましい。
【0048】
合材インキを得る際に用いられる装置としては、上記の炭素材料の分散と同様の分散機または混合機が使用できる。
強い衝撃によって、正極または負極の電極組成物粒子が割れやすい場合は、メディア型分散機よりは、ロールミルやホモジナイザー等のメディアレス分散機が好ましい。
【0049】
<電極>
本発明の合材インキを、二次元構造の集電体上に塗工・乾燥し、合材層を形成し、ニッケル水素二次電池用電極を得ることができる。
【0050】
(集電体)
電極に使用する集電体の材質は特に限定されず、集電体の材質は、例えばアルミニウム、銅、ニッケル、チタン、又はステンレス等の金属や合金が挙げられる。ニッケル水素二次電池の場合、集電体の材質としては、アルカリ電解液耐性の観点から、ニッケルが好ましい。また、コストの観点から、鉄材質の表面を電解液による腐食防止のためにニッケルメッキしたものが好ましい。集電体の形状は、発泡ニッケルのような三次元構造ではなく、その表面は平滑である。
【0051】
集電体上に合材インキを塗工する方法としては、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。
具体的には、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スプレーコティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法または静電塗装法等が挙げる事ができ、乾燥方法としては放置乾燥、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機などが使用できるが、特にこれらに限定されるものではない。又、塗布後に平版プレスやカレンダーロール等による圧延処理を行っても良い。電極合材層の厚みは、一般的には1μm以上500μm以下であり、好ましくは10μm以上300μm以下である。
【0052】
<二次電池>
正極もしくは負極の少なくとも一方に本発明のニッケル水素二次電池電極形成用エマルションバインダーを用いニッケル水素二次電池を得ることが好ましい。
【0053】
(電解液)
ニッケル水素二次電池は、電解液として水酸化カリウム水溶液や、水酸化カリウム水溶液に水酸化ナトリウムや水酸化リチウムを添加したもの等が挙げられる。
【0054】
(セパレーター)
セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布及びそれらに親水性処理を施したものが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0055】
(電池構造・構成)
本発明の組成物を用いたニッケル水素二次電池の構造については特に限定されないが、通常、正極及び負極と、必要に応じて設けられるセパレーターとから構成され、ペーパー型、円筒型、ボタン型、積層型等、使用する目的に応じた種々の形状とすることができる。
【実施例】
【0056】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。尚、実施例および比較例における「部」は「重量部」を表す。
【0057】
<バインダー合成例1>
カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(A)としてアクリル酸1.5部、エチレン性不飽和単量体(B)としてブレンマーPME-1000(メトキシポリエチレングリコールメタクリレート (R2O)nのn=9、日油(株)製)10部、窒素原子含有エチレン性不飽和単量体(C)として、N,N−ジエチルアクリルアミド1.0部、エチレン性不飽和単量体(D)として、メタクリル酸メチル52部、アクリル酸ブチル35.5部、乳化剤としてアニオン性乳化剤のハイテノールNF−08(第一工業製薬製のアニオン性乳化剤)2.0部、イオン交換水53.1部の混合物を板羽根で乳化し、モノマープレエマルションを作成し、滴下槽に入れた。
還流冷却器、攪拌機、温度計、窒素導入管、原料投入口を具備する容積2Lの4つ口フラスコを反応容器とし、該反応容器にイオン交換水89.4部を入れ、窒素を導入しつつ攪拌しながら、液温を60℃に温めた。次いで、反応容器中に、乳化剤としてハイテノールNF−08を0.2部添加し、滴下槽から上記モノマープレエマルションを5時間かけて連続的に滴下し、過硫酸アンモニウムを0.3部用いて、60℃で6時間かけて乳化重合した。
滴下終了後、3時間、60℃に保ち、熟成を行った。その後冷却を開始し、50℃まで冷却し、180メッシュのポリエステル製の濾布で濾過し、窒素含有アクリルエマルション型バインダーを得た。濾布に残った凝集物はなく、重合安定性は良好であった。
濾過後のエマルションの一部を測り取り、150℃で20分間乾燥し、不揮発分濃度を求めたところ40.0%であった。また、前記エマルションは、pH2.0、粘度50mPa・sであった。酸価を測定したところ、バインダーの酸価は13mgKOH/gであった。
【0058】
<バインダー合成例2〜17>
表1に示す配合組成で、バインダー合成例1と同様の方法で合成し、合成例2〜17のバインダーを得た。
【0059】
【表1】

【0060】
表中の略号は以下の通りである。
AA:アクリル酸
MAA:メタクリル酸
2HEMA:メタクリル酸ヒドロキシエチル
PME-200:(商品名ブレンマーPME-200、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(R2O)nのn=2、日油(株)製)
ACMO:N−アクリロイルモルホリン
NiPAAm:N−イソプロピルアクリルアミド
MMA:メタクリル酸メチル
BA:アクリル酸ブチル
PEG:ポリエチレングリコール
【0061】
(炭素材料分散体)
導電助剤である炭素材料としてアセチレンブラック(デンカブラックHS−100)10部、水溶性アクリル樹脂を10部(不揮発分として2部)、水80部をミキサーに入れて混合し、更にサンドミルに入れて分散を行い、炭素材料分散体を得た。
【0062】
<ニッケル水素二次電池電極用合材インキ>、<正極>、<コイン型電池>
[実施例1]
得られた炭素材料分散体(1)50部(アセチレンブラック固形分量として5部)に対して、正極活物質として表面を水酸化コバルトでコーティングした水酸化ニッケルCZ(田中化学研究所(製))45部、合成例1で合成したバインダー12.5部、水50部を混合して、正極用の二次電池電極用合材インキを作製した。
そして、この正極用の二次電池電極用合材インキを、箔状集電体である厚さ30μmのニッケルメッキ鋼鈑上にドクターブレードを用いて塗工した後、加熱乾燥した。さらに、ロールプレスによる圧延処理を行ない、厚み85μmの正極を得た。得られた正極に、割れや剥れなどは見られなかった。
【0063】
(密着性評価)
得られた電極に、ナイフを用いて電極表面から集電体に達する深さまでの切込みを2mm間隔で縦横それぞれ6本の碁盤目の切込みを入れた。この切り込みに粘着テープを貼り付けて直ちに引き剥がし、活物質の脱落の程度を目視判定で判定した。評価基準を下記に示す。
○:「剥離なし(良好)」
○△:「わずかに剥離(使用可能)」
×:「ほとんどの部分で剥離(使用不可)」
【0064】
[実施例2〜10]、[比較例1〜7]
表2に示すように二次電池電極用炭素材料分散体及び、バインダー合成例の組み合せを変えた以外は実施例1と同様にして、ニッケル水素二次電池正極用合材インキ、および正極を得、同様に評価した。
【0065】
[実施例11]
実施例1と同様に正極二次電池電極用合材インキを作製し、集電体となる厚み600μmの発泡ニッケルにディップコーティングし、減圧加熱乾燥して電極の厚みが400μmとなるよう調整した。さらに、ロールプレスによる圧延処理を行い、厚みが300μmとなる正極を作製した。得られた正極に、割れや剥れなどは見られなかった。
【0066】
<ニッケル水素二次電池用負極の作製>
負極の電極組成物として水素吸蔵合金である希土類-ニッケル系合金(AB5系合金)粉末45部と、導電助剤である炭素材料としてアセチレンブラック(デンカブラックHS−100)2.0部、バインダー5.0部(ポリテトラフルオロエチレン30−J:三井・デュポンフロロケミカル社製、60%水系分散体)、カルボキシメチルセルロース1.5部を混練して負極用合材インキを作製した。合材インキを集電体であるニッケルメッキされたパンチングメタルに塗布し、80℃で乾燥、ロールプレスで厚さを調整した後、所定の大きさに切断して負極を作製した。
【0067】
(電池組み立て)
先に作製した正極を直径15.9mmに、負極を直径16.1mmに円状に打ち抜き、セパレーターとして親水化処理ポリプロピレン不織布を直径23mmに円状に打ち抜き、セパレーターを介して互いに合材層を対向させ、電解液(水酸化カリウム4.8規定+水酸化ナトリウム1.2規定) を満たして二極密閉式金属セルを組み立てた。セル組み立て後、所定の電池特性評価を行った。
【0068】
次に、充電電流1Cにて充電を行った後、放電電流1Cで放電終止電圧0.8Vに達するまで定電流放電を行い、これらの充電・放電サイクルを1サイクルとして500サイクルの充電・放電を繰り返し、変化率を算出した(100%に近いほど良好)。
○:「変化率が95%以上。特に優れている。」
○△:「変化率が90%以上、95%未満。良好。」
△:「変化率が85%以上、90%未満。使用可能。」
△×:「変化率が80%以上。使用不可。」
×:「変化率が80%未満。使用不可。」
【0069】
<ニッケル水素二次電池電極用合材インキ>、<負極>、<コイン型電池>
[実施例12]
得られた炭素材料分散体(1)50部(アセチレンブラック固形分量として5部)に対して、負極の電極組成物として水素吸蔵合金45部、合成例1で合成したバインダー12.5部、水50部を混合して、負極用の二次電池電極用合材インキを作製した。
そして、この負極用の二次電池電極用合材インキを、箔状集電体である厚さ30μmのニッケルメッキ鋼鈑上にドクターブレードを用いて塗工した後、加熱乾燥した。さらに、ロールプレスによる圧延処理を行ない、厚み100μmの負極を得た。得られた負極に、割れや剥れなどは見られなかった。
【0070】
次に実施例1で作製した正極を直径15.9mmに、実施例11で得られた負極を直径16.1mmに円状に打ち抜き、セパレーターとして親水化処理ポリプロピレン不織布を直径23mmに円状に打ち抜き、セパレーターを介して互いに合材層を対向させ、電解液(水酸化カリウム4.8規定+水酸化ナトリウム1.2規定) を満たして二極密閉式金属セルを組み立てた。セル組み立て後、所定の電池特性評価を行った。
【0071】
[比較例8、9]
表2に示すようにバインダー合成例の組み合せを変えた以外は実施例12と同様にして、ニッケル水素二次電池負極用合材インキ、および負極を得、同様に評価した。
【0072】
【表2】

【0073】
表2に示すように、本発明のニッケル水素二次電池電極形成用エマルションバインダーを用いた場合、バインダーのイオン伝導性能が高いため、または電極組成物間で引き起こされる電池反応速度が向上すると推測される。さらに、活物質または電極組成物と集電材との密着性が良好なことから、充放電保存特性が向上すると考えられる。また、実施例11は集電体を発泡ニッケルにしたところ電極の厚みが増し、出力特性は少し低下するが、発泡ニッケルを使用すれば、活物質の保持力が強く、寿命特性が改善することが可能となる。
一方、比較例1では、バインダーとしてポリエチレングリコールを用いている。ポリエチレングリコールはイオン伝導性に優れるものの、電解液に溶解してしまい、基材と集電材との密着性が低いことから、結果的には充放電保存特性が低下するものと推測される。
比較例2では、合材インキに用いているバインダー合成例10の単量体(B)の含有量が0.1部と少ないため、充放電保存特性の向上度が低いと推測される。一方、比較例3では、合材インキに用いているバインダー合成例11の単量体(B)の含有量が40部と多いため、バインダーの貯蔵安定性が低い。その結果、得られる合材インキの分散安定性も低下し、合材層が不均一となり密着性が低下するものと考えられる。
比較例4では、窒素原子含有単量体(C)を用いていないため、エマルションバインダーの重合安定性が低下し、合材層が不均一となり密着性が低下するものと考えられる。同様に比較例5では、窒素原子含有単量体(C)が過剰量存在するため、エマルションバインダーの重合安定性が低下し、合材層が不均一となり密着性が低下するものと考えられる。
比較例6では、合材インキに用いているバインダー合成例12のカルボキシル基含有単量体(A)を含有していないため得られるバインダーの貯蔵安定性が低く、合材インキの分散安定性の不安定化を引き起こし、合材層が不均一となり密着性が低下するものと考えられる。同様に比較例7では、合材インキに用いているバインダー合成例12のカルボキシル基含有単量体(A)の含有量が過剰であるため、バインダーの貯蔵安定性が低く、合材インキの分散安定性の低下を引き起こし、合材層が不均一となり密着性が低下するものと考えられる。
このことから、充放電保存特性の良好な電池を形成するためには、基材と集電材との密着性とイオン伝導性を両立させるバインダーが必要であると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(A)0.1〜5重量%、下記一般式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体(B)0.5〜20重量%、窒素原子含有エチレン性不飽和単量体(C)0.1〜10重量%、およびこれらと共重合可能なエチレン性不飽和単量体(D)65〜99.3重量%を、水性媒体中で共重合させてなるニッケル水素二次電池電極形成用エマルションバインダー。
一般式(1) CH2=C(R1)−CO−O−(R2O)n−R3
(式中、nは1以上50以下の整数、R1は水素原子又はメチル基、R2は炭素原子数1〜3のアルキレン基、R3は水素原子又は炭素原子数1〜10のアルキル基である)
【請求項2】
一般式(1)におけるnが3以上50以下の整数である、請求項1記載のニッケル水素二次電池電極形成用エマルションバインダー。
【請求項3】
酸価が0.1〜50mgKOH/gである請求項1または2記載のニッケル水素二次電池電極形成用エマルションバインダー。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか記載のニッケル水素二次電池電極形成用エマルションバインダー、正極活物質、および水性媒体を含む、ニッケル水素二次電池電極形成用合材インキ。
【請求項5】
請求項1ないし3いずれか記載のニッケル水素二次電池電極形成用エマルションバインダー、水素吸蔵合金、および水性媒体を含む、ニッケル水素二次電池電極形成用合材インキ。
【請求項6】
さらに、導電助剤である炭素材料を含む、請求項4または5記載のニッケル水素二次電池電極形成用合材インキ。
【請求項7】
正極活物質が水酸化ニッケルまたはオキシ水酸化ニッケルである請求項4または6に記載のニッケル水素二次電池電極形成用合材インキ
【請求項8】
水酸化ニッケルおよびオキシ水酸化ニッケルの表面を水酸化コバルトまたはオキシ水酸化コバルトのいずれかで被覆してなる請求項7に記載のニッケル水素二次電池電極形成用合材インキ
【請求項9】
請求項4〜8に記載のニッケル水素二次電池電極形成用合材インキを発泡状ニッケルに充填するか、もしくはニッケルメッキ鋼鈑上に塗布することによって得られるニッケル水素二次電池電極。

【公開番号】特開2013−110107(P2013−110107A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−232486(P2012−232486)
【出願日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】