説明

ネットワークシステム

【課題】いずれかの中継装置の故障時に他の中継装置の負荷を増大させることなく対処可能なネットワークシステムを提供する。
【解決手段】ECU1では、シリアル番号SNを順次インクリメントしながらID=002Hの通信フレームを一定の通信間隔毎に送信する。このとき各通信フレームのCTFの値は00H,01H,02H,…と変化する。そして、CTFのLSBが0(即ち、シリアル番号SNが偶数)に設定された通信フレームは、GW2(中継装置)を介し、CTFのLSBが1(シリアル番号SNが奇数)に設定された通信フレームは、GW1(中継装置)を介して、第2車載LAN5から第1車載LAN3に中継される。このため、GW1,GW2のうち一方が故障した場合には、通信フレームの受信間隔が2倍に長くなるだけで、特定のIDコードが付与された通信フレームの受信が完全に途絶えてしまうことがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載ネットワーク間を複数の中継装置により相互接続することで構成されたネットワークシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、独立した二つのネットワークを複数の中継装置(ゲートウェイ)で相互接続したネットワークシステムが知られている。
この種のネットワークシステムでは、例えば、中継装置が二つある場合、一方の中継装置は奇数番地の宛先へ、他方の中継装置は偶数番地の宛先への通信を中継することで、中継装置の負荷を分散したり、一方の中継装置が故障した場合に、他方の中継装置に代理中継を行わせたり、各中継装置に一定周期でブロードキャスト通信を行わせることにより、互いに他の中継装置が正常に動作しているか否かを検知し合わせたりすることが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
なお、代理中継は、具体的には、通信先端末に通信フレームが届かなかった場合、通信元端末に再送フラグを設定した通信フレームを再送信させ、中継装置は、この再送フラグが設定された通信フレームを、宛先が奇数番地か偶数番地かによらず無条件に中継することで実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−173695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述のネットワークシステムでは、一方の中継装置が故障すると、他方の中継装置の負荷が増大してしまい、故障していない側の中継装置の処理にも影響を与えてしまう可能性があるという問題があった。
【0006】
また、上述のネットワークシステムのように通信元端末に通信フレームを再送信させるためには、通信先から通信元に対してアクノリッジ信号を返送する必要があり、このようなアクノリッジ信号の返送を行わないシステムには、上述の代理送信を適用することができないという問題もあった。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するために、いずれかの中継装置の故障時に他の中継装置の負荷を増大させることなく対処可能なネットワークシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するためになされた本発明のネットワークシステムは、車載ネットワーク間を複数の中継装置により相互接続することで構成され、通信フレームのうち車載ネットワーク間で中継する必要のあるものを中継フレームとして、その中継フレームには中継時に経由させる中継装置を指定するための指定情報が少なくとも含まれている。
【0009】
そして、中継装置は、中継フレームの中継の要否を指定情報に従って判断し、中継フレームの通信元となる端末装置である通信元端末は、同一種別に分類される中継フレームが、同一の中継装置を連続して経由することがないように、指定情報の設定を行う。
【0010】
このように構成された本発明のネットワークシステムでは、同一種別に分類される中継フレームは、同一の中継装置を連続して経由することがなく、具体的には、例えば、二つの中継装置が存在する場合には、交互に中継することになる。このため、いずれかの中継装置が故障した場合に、中継フレームが二フレーム以上連続して受信不能となることがないため、中継フレームを利用する通信先端末では、受信するフレーム間隔が粗くなるものの、中継フレームに基づく処理を継続することができる。
【0011】
このように、本発明のネットワークシステムによれば、中継装置が故障した場合でも、代理送信等の特別な処理に依存することなく、正常な動作を継続することができる。
ところで、通信フレームが、フレーム種別を識別するためのフレーム識別子を有する場合、中継装置は、フレーム識別子によって、中継フレームであるか否かを判断するように構成されていてもよい。
【0012】
即ち、本発明は、このような形態の車載ネットワークの一つであるCANに対して好適に適用することができる。
また、車載ネットワークにおいて、フレーム種別毎に通信フレームの送出タイミングが設定されている場合、中継装置は、送出タイミングによって、中継フレームであるか否かを判断するように構成されていてもよい。
【0013】
即ち、本発明は、このような形態の車載ネットワークの一つであるFlexRay(Daimler Chrysler AG の登録商標)に対して好適に適用することができる。
ところで、指定情報を用いた中継フレームの振り分け方の一例として、具体的には、次の手法が考えられる。
【0014】
即ち、中継装置がM(Mは2以上の整数)個存在する場合、中継装置のそれぞれには、0,1,…,M−1のいずれかの値を振分識別子として割り当て、通信元端末は、指定情報として、フレーム種別毎に管理され且つ通信フレームを送信する毎にインクリメントされる0〜M−1の値からなるシリアル番号を設定する。
【0015】
そして、中継装置は、中継フレームの指定情報として設定されたシリアル番号をMで割った余りが、自身の中継装置に割り当てられた振分識別子と一致する場合に、その中継フレームの中継を行う。
【0016】
このように構成された本発明のネットワークシステムによれば、中継装置の設置数が増減した場合に、通信元端末で設定するシリアル番号の上限値と、中継装置に割り当てる振分識別子を適宜変更するだけで簡単に対応することができる。
【0017】
本発明のネットワークシステムにおいて、中継フレームが、フレーム種別毎に決められた設定周期で送信されるように設定されている場合、中継装置は、フレーム種別毎に、最後の中継からの経過時間を計測し、その経過時間が、設定周期に基づいて設定された途絶判定閾値を経過した場合に、予め設定された代理フレームを送信してもよい。
【0018】
このように構成された本発明のネットワークシステムによれば、何等かの理由で通信元端末と中継装置との間(即ち、通信元端末が接続された車載ネットワーク内)で中継フレームが消失した場合に、代理フレームが送信されるため、通信先端末では、その代理フレームを用いて処理を継続することができる。
【0019】
また、本発明のネットワークシステムによれば、通信フレームの受信状態を監視することによって、通信フレームの欠落が発生した場合の原因を、代理フレームの受信がなければ中継装置の異常、代理フレームの受信があれば通信元ネットワークの異常であると絞り込むことができ、その結果、異常への対処を的確に行うことができると共に、修理に要する手間も軽減することができる。
【0020】
ここで、中継装置が送信する代理フレームは、最低限必要な精度が確保されるような規定値を設定したものであってもよいが、例えば、中継装置に、フレーム種別毎に最後に中継した中継フレームを保持フレームとして記憶させ、この保持フレームを代理フレームとして送信させるように構成してもよい。
【0021】
この場合、通信先端末では、前回の中継フレームで受信したものと同じ値を用いて処理を実行することになるため、処理精度を大きく劣化させることなく処理を継続することができる。
【0022】
なお、中継装置は、代理フレームに、代理送信された通信フレームであることを示す情報を含ませることが望ましい。なお、中継フレームには、その情報を設定する領域が予め用意されていてもよいし、中継装置が新たに付加するようにしてもよい。但し、後者の場合は、通信元ネットワークと通信先ネットワークとで中継フレームのフレーム長が変化してしまうため、前者の方が望ましい。
【0023】
また、中継フレームの設定周期は、その中継フレームを使用する処理において要求される処理精度を確保するために最低限必要な受信間隔の半分以下に設定されていることが望ましい。
【0024】
この場合、いずれか一つの中継装置が故障した場合に、通信先端末での処理を、精度を低下させることなく継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施形態のネットワークシステムの全体構成を示すブロック図。
【図2】中継フレームの主要部の構成を示す説明図。
【図3】中継装置のマイコンが実行する中継処理の内容を示すフローチャート。
【図4】正常時の中継動作を示す説明図。
【図5】一方の中継装置が故障した場合の中継動作を示す説明図。
【図6】通信元ネットワークの障害で一部の中継フレームが紛失した場合の中継動作を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
<全体構成>
図1は、実施形態のネットワークシステム1の概要を示すブロック図である。
【0027】
ネットワークシステム1は、図1に示すように、それぞれバス状の通信線(以下「バスライン」と称する。)L1に端末装置として接続された複数の電子制御ユニット(ECU)20(20a,20b,…)からなる車載ネットワークとしての第1車載LAN(Local Area Network)3と、バスラインL2に端末装置として接続された複数のECU30(30a,30b,…)からなる車載ネットワークとしての第2車載LAN5と、第1及び第2車載LAN3,5を相互接続する中継装置10(10a,10b)とを備えている。
【0028】
なお、第1及び第2車載LAN3,5を介して行うデータ通信は、車載LANで一般的に利用されているCAN(ドイツ、Robert Bosch社が提案した「Controller Area Network 」)プロトコルを用いている。
【0029】
<通信フレームの構成>
第1及び第2車載LAN3,5で使用される通信フレームは、フレームの開始を表すスタートオブフレーム、フレームの優先順位等を表すアービトレーションフィールド、データのバイト数等を表すコントロールフィールド、転送するデータの実体であるデータフィールド、フレームの誤りをチェックするためのCRCを付加するCRCフィールド、正しいメッセージを受信したユニットからの通知(ACK)を受けるACKフィールド、フレームの終了を表すエンドオブフレームからなり、CANプロトコルにおいて周知のものである。
【0030】
ここで、中継装置10を介した中継を行う際に使用する通信フレームである中継フレームについて説明する。
図2は、中継フレームの構成のうち、以下の説明で必要となるアービトレーションフィールド(以下「ID領域」という)、及びデータフィールド(以下「DT領域」という)を抽出したものである。
【0031】
図2に示すように、ID領域には、DT領域にどのようなメッセージが割り付けられたフレームか(即ち、フレーム種別)を識別すると共に、メッセージの優先度を示すためのIDコード(フレーム識別子)が設定される。
【0032】
中継フレームのDT領域は、中継装置10による中継を制御するための中継制御領域(CTF)と、ECU間で送受信されるデータの実体である転送データ領域(DTF)とからなる。
【0033】
そして、CTFには、ECU20,30から送信された通常の中継フレームであるか、中継装置10にて代理送信された代理フレーム(後述する)であるかを示す代理フラグFと、フレーム種別毎に個別に管理され、個々の中継フレームを識別するための識別情報となるシリアル番号SNとが設定される。なお、本実施形態では、フラグは1ビットで構成され、0が通常フレーム、1が代理フレームを表す。また、シリアル番号SNは7ビットで構成され、00H〜8FHの値が設定される。
【0034】
<ECU>
ECU20(又は30)は、いずれも基本的には同様の構成をしており、バスラインL1(又はL2)へのデータの送出、バスラインL1(又はL2)からのデータの取込を行うトランシーバ、周知のCANプロトコルに従って車載LAN3(又は5)を介した通信を制御するCANコントローラからなる通信回路21と、CPU,ROM,RAM,I/Oを中心に構成され、CANコントローラを制御して他のECUとの通信を行うことにより、他のECUと連動して、自ECUに割り当てられた機能を実現するための各種処理を実行するマイクロコンピュータ(マイコン)22とを備えている。
【0035】
各ECU20,30には、他のECUに送信するメッセージのIDコード(送信ID)と、自身が受信すべきメッセージのIDコード(受信ID)が割り当てられ、また、マイコン22を構成するRAMには、送信ID毎にシリアル番号SNを管理する領域が用意されている。なお、このシリアル番号SNは、使用される毎(その領域に対応する送信IDを付与した通信フレームの送信を行う毎)に更新(インクリメント)される。
【0036】
そして、マイコン22は、通信フレームを送信する時には、メッセージの本体であるDT領域を生成してこれを通信回路21に供給する共に、通信回路21から供給されるDT領域の内容に従って各種処理を実行する。特に、送信する通信フレームが中継フレームである場合、マイコン22は、DT領域内に、送信するメッセージの送信IDに対応付けられたシリアル番号SNを設定したCTF領域を生成する。
【0037】
通信回路21は、マイコン22から供給されたDT領域を、送信IDを付与した通信フレームに載せて送信する共に、受信IDが付与された通信フレームの受信し、そのDT領域をマイコン22に供給する。
【0038】
なお、通信フレームは、送信ID(フレーム種別)毎に、通信間隔が設定されており、その通信間隔は、該通信フレームに基づく処理を実行する通信先ECUが、所望の処理精度を確保できる必要最低限の受信間隔の1/2以下の長さに設定されている。
【0039】
<中継装置>
中継装置10は、ECU20,30を構成する通信回路21、マイコン22と同様に構成された通信回路11,12、マイコン13と、代理フレームを記憶するための記憶回路14とを備えている。但し、通信回路11はバスラインL1に接続され、通信回路12はバスラインL2に接続されている。
【0040】
通信回路11には、第1車載LAN3に接続されたECU20から送信され、第2車載LAN5に接続されたECU30に中継する必要のある通信フレームのIDコード(中継ID)が割り当てられ、また、通信回路12には、第2車載LAN5に接続されたECU30から送信され、第1車載LAN3に接続されたECU20に中継する必要のある通信フレームのIDコードが割り当てられている。そして、これら通信回路11,12に割り当てられたIDコード(中継ID)と一致する送信IDを有した通信フレームを中継フレームとして取り込むように設定されている。
【0041】
記憶回路14には、中継ID毎に少なくとも一つの通信フレームを記憶する領域が設けられている。以後、記憶回路14に記憶されている通信フレームを保持フレームという。また、マイコン13には、中継ID毎に、最後の中継からの経過時間を表す経過タイマーが設けられていると共に、中継フレームの受信が途絶しているか否かを判定するための途絶判定閾値が設定されている。
【0042】
なお、途絶判定閾値は、例えば、対象となる通信フレーム(中継フレーム)について設定された通信間隔に、システムの特性等に基づいて設定される許容遅延時間を加えた値を用いればよい。
【0043】
また、各中継装置10には、中継を分担する中継フレームの振り分けに使用する振分識別子が割り当てられており、本実施形態では、中継装置10aの振分識別子が1、中継装置10bの振分識別子が0に設定されている。
【0044】
<中継処理>
ここで、中継装置10のマイコン13が実行する中継処理の内容を、図3に示すフローチャートに沿って説明する。なお、本処理は、中継装置10に電源が投入されると起動する。また、本処理と並行して、中継ID毎に設けられた経過タイマーを一定時間毎に更新(インクリメント)する処理が少なくとも実行される。
【0045】
本処理が起動すると、まず、S110では、全ての経過タイマーをゼロクリアすることで初期化し、S120では、通信回路11,12が中継フレームを取り込んだか否かを判断し、中継フレームを取り込んでいる場合は、S130に進む。
【0046】
S130では、取り込んだ中継フレームに設定されているシリアル番号SNを参照して、中継を実行すべきか否かを判断する。ここでは、識別情報のLSB(即ち、識別情報を中継装置10の数2で割った余り)と、中継装置10に割り当てられた振分識別子とを比較し、両者が一致する場合に、中継を実行すべきであると判断する。
【0047】
S130にて中継を実行すべきと判断した場合は、S140に進み、通信回路11,12のうち、中継フレームを取り込んだ側を受信側通信回路、他方の側を送信側通信回路として、受信側通信回路が取り込んだ中継フレームを送信側通信回路に送信させる。
【0048】
S150では、その送信した中継フレームによって、記憶回路14に記憶されている保持フレームを更新し、S160では、中継に係る経過タイマーを初期化して、S120に戻る。
【0049】
先のS120にて、中継フレームを取り込んでいないと判断した場合、又は先のS130にて、中継を実行すべきではないと判断した場合は、S170に進む。但し、S130からS170に移行する場合は、取り込んだ中継フレームをそのまま破棄する。
【0050】
S170では、途絶判定閾値を超えた経過タイマー(以下「時間超過タイマー」という)が存在するか否かを判断し、存在しなければ、S120に戻る。
S170にて、時間超過タイマーが存在すると判断した場合は、S180に進み、その時間超過タイマーに対応付けられた中継IDの保持フレームを、代理フレームとして送信側通信回路に送信させ、続く、S190では、代理送信に係る経過タイマーを初期化してS120に戻る。
【0051】
<動作>
次に、ネットワークシステム1による通信フレームの中継動作について説明する
但し、各車載LAN3,5上における通信フレームの基本的な送受信動作は、ID領域を用いてビット単位非破壊アービトレイションを行う周知のCANプロトコルに従って実行されるものであるため、ここではその説明を省略する。
【0052】
ここで図4は、正常時における通信フレームの中継動作を示す説明図である。
なお、第2車載LAN5に接続されたECU30の一つをECU1、第1車載LAN3に接続されたECU20の一つをECU2、二つの中継装置10(10a,10b)をGW1(振分識別子=1),GW2(振分識別子=0)として、ECU1の送信ID、ECU2の受信ID、GW1,GW2の中継IDには、それぞれID=002Hが少なくとも含まれているものとする。即ち、ECU1から送信されるID=002Hに設定された通信フレームがGW1,GW2を介してECU2にて受信される場合について説明する。
【0053】
図4に示すように、ECU1では、シリアル番号SNを順次インクリメントしながらIDが002Hに設定された通信フレームを一定の通信間隔毎に送信する。このとき代理フラグはF=0に設定されるため、通信フレームを送信する毎に、設定されるCTFの値は00H,01H,02H,…と変化する。
【0054】
CTFのLSBが0(即ち、シリアル番号SNが偶数)に設定された通信フレームは、GW2を介し、CTFのLSBが1(シリアル番号SNが奇数)に設定された通信フレームは、GW1を介して、第2車載LAN5から第1車載LAN3に中継される。
【0055】
つまり、GW1,GW2は、IDが002Hに設定された通信フレームを交互に中継し、ECU2では、IDが002Hに設定された通信フレームを漏れなく受信することになる。
【0056】
次に図5は、GW2が故障した場合の動作を示す説明図である。
図5に示すように、ECU2では、GW1を介して中継された通信フレームだけが受信されることになる。つまり、正常時の通信間隔の倍の周期で通信フレームを受信することになるが、通信間隔は、元々、必要な処理精度を確保できる必要最低限の1/2の周期で送信されているため、周期が2倍になっても、ECU2にて必要な処理精度は確保されることになる。
【0057】
次に図6は、第2車載LAN5での障害により、一部の通信フレームをGW1,GW2が受信することができなかった場合の動作を示す説明図である。
図6に示すように、シリアル番号SNが03H及び04Hに設定された通信フレームが障害の影響を受けたものとする。GW1では、シリアル番号SNが03Hの通信フレームを確認できないため、前回の中継(シリアル番号SNが01Hの通信フレームの中継)時に初期化された経過タイマーが途絶判定閾値に達した時点で、保持フレーム(即ち、前回の中継フレーム)を代理フレームとして送信する。
【0058】
一方、GW2では、シリアル番号SNが04Hの通信フレームを確認できないため、前回の中継(シリアル番号SNが02Hの通信フレームの中継)時に初期化された経過タイマーが途絶判定閾値に達した時点で、保持フレーム(即ち、前回の中継フレーム)を代理フレームとして送信する。
【0059】
なお、GW1,GW2にて代理フレームを送信する時には、CTFの代理フラグFを1に設定するため、CTFの値は、シリアル番号SNそのものではなく、シリアル番号SNに80Hを加えた値となる。
【0060】
その後、障害から復帰すると、正常時の動作が行われる。
これにより、ECU2では、シリアル番号SNが03H,04Hの通信フレームを受信することができないが、代わりに、代理フラグFが1に設定され且つシリアル番号SNが01H,02H(即ち、CTFは81H,82H)の代理フレームを受信することになる。
【0061】
<効果>
以上説明したように、ネットワークシステム1では、二つの車載LAN3,5を二つの中継装置10a,10bで接続し、同一のIDコード(フレーム種別)を有する中継フレームは、二つの中継装置10a,10bで交互に中継されるように設定されている。
【0062】
従って、ネットワークシステム1によれば、一方の中継装置10が故障した場合には、同一IDコードを有する中継フレームの受信間隔が2倍に粗くなるものの、特定のIDコードを有する中継フレームの受信が途絶えてしまうことがないため、その中継フレームに基づく処理を継続することができる。
【0063】
しかも、ネットワークシステム1によれば、IDコード毎に通信周期が設定され、その通信周期は、受信側ECU20,30において、所望の処理精度を確保するために必要な受信周期の1/2に設定されているため、中継装置10の故障によって、中継フレームの受信間隔が2倍になっても、その処理について最低限必要な処理精度を確保することができる。
【0064】
つまり、ネットワークシステム1によれば、いずれか一方の中継装置10に異常が発生した場合に、中継装置10は互いの動作状態を監視しなくても、十分な対処できるようにされているため、中継装置10の構成を簡易なものとすることができる。
【0065】
また、ネットワークシステム1では、中継装置10が、中継フレームのIDコード(中継ID)毎に、先の中継からの経過時間を計測する経過タイマーを備え、その経過タイマーが途絶判定閾値に達すると代理フレームを送信するようにされている。
【0066】
従って、ネットワークシステム1によれば、中継フレームの受信状態を監視することによって、中継フレームの欠落が発生した場合に、代理フレームの受信がなければ中継装置10の異常、代理フレームの受信があれば通信元ネットワークの異常であるものとして異常の原因を絞り込むことができ、その結果、異常への対処を的確に行うことができ、また、修理に要する手間を軽減することもできる。
【0067】
また、ネットワークシステム1では、中継フレームにシリアル番号SNを付与すると共に、中継装置10に振分識別子を割り当て、シリアル番号SNを中継装置10の数で割った値が振分識別子と一致するか否かによって、中継フレームの振り分けを行っている。
【0068】
従って、ネットワークシステム1によれば、中継装置10の数を変更した場合に、ECU20,30で設定するシリアル番号SNの上限値((中継装置10の数の整数倍)−1に設定)と、各中継装置10に割り当てる振分識別子を適宜変更するだけで簡単に対応することができる。
[他の実施形態]
以上本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において様々な態様にて実施することが可能である。
【0069】
例えば、上記実施形態では、中継装置10の通信回路11,12によって中継フレームを一旦取り込んでから、シリアル番号SNを確認して中継を実行すべきか否かを判断しているが、通信回路11,12を、シリアル番号SNを参照できるように構成し、IDコードが中継IDと一致し且つシリアル番号SNが中継を実行すべきものである場合のみ、その通信フレームを取り込むように構成してもよい。
【0070】
上記実施形態では、中継フレームに予め用意された中継制御領域CTF中に代理フラグFの領域を確保しているが、中継装置10が代理フラグFの領域を新たに追加するように構成してもよい。
【0071】
但し、その場合、中継フレームの通信元と通信SS空き元と中継先でデータ長が変化するため、中継元となる送信フレームに予め領域が確保されている方がより望ましい。
上記実施形態では、中継装置10が代理フレームを送信する機能を備えているが、この機能は省略されていてもよい。
【0072】
上記実施形態では、代理フレームとして、保持フレーム(即ち、前回の中継フレーム)を用いているが、故障時に必要最低限の処理精度が確保されるような固定値を用いて、中継ID毎に予め設定された固定フレームを用いてもよい。
【0073】
上記実施形態では、シリアル番号SNを用いて、二つの中継装置10に中継フレームを振り分けているが、中継フレームを送信するECU20,30にて、シリアル番号SNの代わりに振分識別子(連番である必要はない)そのものを順番に付与するように構成してもよい。
【0074】
上記実施形態では、車載LAN3,5としてCANを用いているが、これに限るものではなく、例えば、FlexRay(Daimler Chrysler AG の登録商標)を用いてもよい。
この場合、ECU20,30は、フレーム種別(メッセージの内容)毎に割り当てられた送出タイミング(セグメント)を用いて通信フレームを送信し、中継装置10は、その送出タイミングによって、中継フレームであるか否かを判断するように構成すればよい。
【0075】
しかし、このようにフレーム種別と送出タイミングとを一意に関連付けない場合は、IDコードを設定するID領域を、中継制御領域CTFと同様にデータ領域内に設け、中継装置10は、このデータ領域内のID領域を参照することによって、中継フレームであるか否かを判断するように構成すればよい。
【符号の説明】
【0076】
1…ネットワークシステム 3,5…車載LAN 10…中継装置 11,12,21…通信回路 13,22…マイクロコンピュータ(マイコン) 14…記憶回路 20,30…ECU L1,L2…バスライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載ネットワーク間を複数の中継装置により相互接続することで構成されたネットワークシステムであって、
通信フレームのうち前記車載ネットワーク間で中継する必要のあるものを中継フレームとして、該中継フレームには中継時に経由させる前記中継装置を指定するための指定情報が少なくとも含まれ、
前記中継装置は、前記中継フレームの中継の要否を前記指定情報に従って判断し、
前記中継フレームの通信元となる端末装置である通信元端末は、同一種別に分類される前記中継フレームが、同一の前記中継装置を連続して経由することがないように、前記指定情報の設定を行うことを特徴とするネットワークシステム。
【請求項2】
前記通信フレームは、フレーム種別を識別するためのフレーム識別子を有し、
前記中継装置は、前記フレーム識別子によって、前記中継フレームであるか否かを判断することを特徴とする請求項1に記載のネットワークシステム。
【請求項3】
前記車載ネットワークは、前記フレーム種別毎に前記通信フレームの送出タイミングが設定されており、
前記中継装置は、前記送出タイミングによって、前記中継フレームであるか否かを判断することを特徴とする請求項1に記載のネットワークシステム。
【請求項4】
前記中継装置はM(Mは2以上の整数)個存在し、前記中継装置のそれぞれには、0,1,…,M−1のいずれかの値が振分識別子として割り当てられ、
前記通信元端末は、前記指定情報として、前記フレーム種別毎に管理され且つ前記通信フレームを送信する毎にインクリメントされる0〜M−1の値からなるシリアル番号を設定し、
前記中継装置は、前記中継フレームの前記指定情報として設定された前記シリアル番号をMで割った余りが、該中継装置に割り当てられた前記振分識別子と一致する場合に、該中継フレームの中継を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のネットワークシステム。
【請求項5】
前記中継フレームは、前記フレーム種別毎に決められた設定周期で送信され、
前記中継装置は、前記フレーム種別毎に、最後の中継からの経過時間を計測し、該経過時間が、前記設定周期に基づいて設定された途絶判定閾値を経過した場合に、予め設定された代理フレームを送信することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のネットワークシステム。
【請求項6】
前記中継装置は、前記フレーム種別毎に、最後に中継した前記中継フレームを保持フレームとして記憶すると共に、前記代理フレームとして、前記保持フレームを送信することを特徴とする請求項5に記載のネットワークシステム。
【請求項7】
前記中継装置は、前記代理フレームに代理送信された通信フレームであることを示す情報を含ませることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のネットワークシステム。
【請求項8】
前記中継フレームの前記設定周期は、該中継フレームを使用する処理において要求される処理精度を確保するために最低限必要な受信間隔の半分以下に設定されていることを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載のネットワークシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−101115(P2011−101115A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253342(P2009−253342)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】