説明

ノズル封止板を備えた射出成形機及び射出成形機の成形運転開始方法

【課題】、成形サイクルの最初の回から良品成形が可能となる射出成形機およびその射出成形機の成形運転開始方法を提供すること。
【解決手段】射出ユニットのシリンダの先端部に設けられたノズルから金型のキャビティに樹脂を射出する射出成形機のノズルを封止する封止位置とノズルを封止しない退避位置に移動可能なノズル封止板を備えた射出成形機の成形運転開始方法において、背圧を掛けて、計量位置まで手動計量を行ったかを判断し、手動計量を行った場合には、連続成形運転を開始し、連続成形運転を開始し、手動計量を行っていない場合には、ノズル封止板をノズル封止位置まで移動し(SA01,SA02)、ノズル封止板にノズルタッチするまでシリンダを移動させ、手動計量を開始し、ノズル封止板からノズルのノズルタッチ解除するため、シリンダを所定距離後退させ(SA03〜SA06)、ノズル封止板を退避位置へ移動させ、連続成形運転を開始する(SA07,SA08)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機に関し、特に、ノズル封止板を備えた射出成形機及び射出成形機の成形運転開始方法に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形機を用いた成形加工を行う際の計量工程は、金型のキャビティ内への溶融樹脂の充填、保圧からなる射出工程が終わると、次の成形サイクルの充填に備え、ノズルを金型に接触させた状態でスクリュを回転させ、スクリュ元部から供給された樹脂材料を加熱部からの加熱により溶融混練しながらスクリュ元部からスクリュ先端方向に移送し、スクリュ先端部にあるバレル(シリンダ)の空隙部へ貯留し、一定量の溶融樹脂をスクリュの前方へ計量する工程である。
計量工程では、スクリュは樹脂材料をスクリュ先端方向に移送すると同時に、スクリュ前方に貯留された樹脂材料の圧力により予め定められた後退位置までバレル内を後退する。このスクリュの後退中、樹脂材料の混練を良くし、均一な成形品となるようにスクリュ後端から絶えず圧力を負荷している。この圧力を背圧と称する。
【0003】
上述したように、成形運転中の計量時はノズルが金型に接した状態で行われるため、問題はない。ところが、最初の成形サイクルの計量を行うときにはノズルが金型から離れた状態で行われるため、ノズル孔が塞がっていない。最初の溶融樹脂の計量を行うため、スクリュを回転させると、溶融樹脂はスクリュ前方の空隙部へ計量されず、ノズル孔からバレル外へ流れ出してしまい、スクリュの後退ができない。
射出成形機を用い成形運転を開始する際には、最初の計量工程の時のみ手動計量を行う。手動計量時の背圧制御に関しては、ノズル先端が塞がれていないために設定背圧に実背圧が達せず、計量動作が完了しないという問題がある。これは背圧が高いために発生する現象である。
【0004】
上記問題を解決するため、特許文献1には、成形運転の立ち上げに際し、ノズルが金型に接していないと判断される場合には、計量開始信号により背圧を自動的に“0”設定を行い、あるいは背圧を抜く回路により、最初の計量をうまくできるようにする技術が開示されている。
一方、成形運転の最初の計量とは関係しないが、特許文献2,特許文献3,特許文献4には、射出成形機の樹脂替装置において、ノズルを塞いでバレル内圧を高くすることにより、バレル内部、スクリュフライト表面やスクリュ先端部の残存樹脂を確実に取り除く技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−114410号公報
【特許文献2】特開昭63−185617号公報
【特許文献3】特開昭62−77913号公報
【特許文献4】実開昭61−201818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されるように、従来、最初の成形サイクルの計量は、背圧を“0”あるいは、極低圧力(2〜3Mpa)に設定して計量動作を実行する。背圧を“0”あるいは極低圧力に背圧を設定することによって、最初の成形品に気泡やシルバーストリークなどの成形不良が発生する問題があった。
【0007】
一方、特許文献2〜4の3つの特許文献に開示される技術は、それぞれバレル内部などの残留樹脂の除去を目的として、ノズルを塞ぎ、背圧を掛けて、残留樹脂を取り除くための樹脂量を計量することであり、成形運転を開始する際に行う計量とは全く異なる。さらに、これらの特許文献に開示された技術は、計量中にスクリュフライト内に残存する古い樹脂をいかに効率よく前に押し出すかが重要であり、計量された樹脂の状態はいささかも問題としていない。したがって、最初の成形サイクルの計量の問題点を解決する技術ではない。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、成形サイクルの最初の回から良品成形が可能となる射出成形機およびその射出成形機の成形運転開始方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の請求項1に係る発明は、射出ユニットのシリンダの先端部に設けられたノズルから金型のキャビティに樹脂を射出する射出成形機において、前記ノズルを封止するためのノズル封止板と、前記ノズル封止板を前記ノズルを封止する封止位置と退避位置に移動させるノズル封止板移動装置と、前記ノズルを前後進させるノズル移動装置と、成形運転開始時にノズル封止板移動装置を作動させてノズル封止板を封止位置に移動させ、ノズル封止板を封止位置に移動させた状態でノズル移動装置を作動させ、ノズル封止板にノズルタッチさせ、ノズルタッチした状態で所定の背圧を掛けて計量を行う制御装置と、を備えたノズル封止板を備えた射出成形機である。
請求項2に係る発明は、射出ユニットのシリンダの先端部に設けられたノズルから金型のキャビティに樹脂を射出する射出成形機のノズルを封止する封止位置とノズルを封止しない退避位置に移動可能なノズル封止板を備えた射出成形機の成形運転開始方法において、前記ノズル封止板をノズル前方に移動させるステップと、ノズルを前記ノズル封止板にノズルタッチさせるステップと、ノズルタッチさせた状態で所定の背圧にて計量を行うステップと、計量完了後に前記ノズル封止板を退避させるステップと、を備え、前記封止板を退避させた後、成形運転を始動することを特徴とする射出成形機の成形運転開始方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、成形サイクルの最初の回から良品成形が可能となる射出成形機およびその射出成形機の成形運転開始方法を提供できる。より具体的は、射出成形機を用い成形運転を開始する際に、最初の計量工程の時にのみ手動計量を行う際に、設定背圧が実背圧に達する射出成形機および射出成形機の運転開始方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ノズル封止板を備えた射出成形機を説明する図である。
【図2】ノズル封止板がノズルを封止した状態を説明する図である。
【図3】ノズル封止板が退避した状態を説明する図である。
【図4】本発明に係る射出成形機の運転開始のアルゴリズムを示すフロチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明の実施形態を図面と共に説明する。
まず、本発明の概要を説明すると、本発明は、成形開始時の必要十分な量の樹脂をスクリュ前方に蓄えるための計量動作であり、連続運転中の背圧を掛けて、連続成形時と同じ計量を行い、同じ樹脂の状態を得ようとする射出成形機およびその運転方法に関する。このために、固定プラテンにノズル先端を塞ぐような封止板を用意し、成形運転の立ち上げに際し、ノズルの前進に伴いノズル孔を塞ぐ。ノズル孔が塞がれたことにより、連続運転中の背圧を掛けることが可能になる。
【0013】
図1は、ノズル封止板を備えた射出成形機を説明する図である。符号Mは射出成形機である。符号Mbは機台、符号Mcは型締部、符号Miは射出部である。射出成形機Mは、機台Mb上に型締部Mcおよび射出部Miを備える。
型締部Mcは、可動プラテン23を前後進させる可動プラテン前後進モータ20、リアプラテン21、成形品を金型から押し出すエジェクタピンを突き出すためのエジェクタ前後進モータ22、可動プラテン23、タイバー24、固定プラテン25、トグル機構33、エジェクタ機構34を備える。リアプラテン21と固定プラテン25とは複数のタイバー24で連結されており、可動プラテン23はタイバー24にガイドされるように配置されている。可動プラテン23に可動側金型,固定プラテン25に固定側金型35が取り付けられている。
【0014】
射出部Miは、金型のキャビティ内に溶融樹脂を射出するノズル36を取り付けたシリンダ27、シリンダ27内に樹脂のペレットを供給するホッパ28、ホッパ28からシリンダ内への樹脂の供給を遮断するホッパシャッタ29、スクリュ回転モータ30、スクリュ前後進モータ31、スクリュ回転モータ30から伝動機構を介して回転させられるスクリュ32と、を備える。これらの構成は従来からの射出成形機と相違するところはない。
【0015】
ノズル封止板26は固定プラテン25に取り付けられ、シリンダ27のノズル36の孔を塞ぐことが可能な部材である。ノズル封止板26は例えば耐熱性の硬質プラスチックで形成され、正面にノズル36の先端の丸みより半径の大きな丸みを有する窪み(図示せず)が形成されている。ノズル封止板26は図示されないノズル封止板移動装置が動作することによってノズル36の孔を塞ぐ封止位置に移動する。封止位置へノズル封止板26への移動は図2を用いて後述する。
【0016】
成形運転の立ち上げに際し、一番最初の計量工程のみ、固定プラテン25に取り付けられたノズル封止板26がノズル36の前方に移動し、ノズル36が固定側金型35へ移動することによって、ノズル36の孔がノズル封止板26によって塞がれる。一番最初の計量工程においてもノズル36の孔がノズル封止板26によって塞がれることによって、連続運転中と同様の背圧を掛けることが可能となる。なお、ノズル封止板26の構成は従来公知のものであって、ノズル36がノズル封止板26にタッチした際の衝撃を吸収する機構などを備えている。
制御装置1は射出成形機Mを制御し成形品の生産を制御する制御装置である。プロセッサ2は、バス3を介してサーボインタフェース4、システムプログラムを記憶するROM6、データの一時記憶や各種プログラムを記憶するRAM7、入出力インタフェース8、表示装置付入力装置用インタフェース9と接続されている。入出力インタフェース8には入力ボタン11が接続されている。入力ボタン11は射出成形機Mの緊急停止用の入力手段として用いることができる。ROM6には、本発明に係る運転開始方法の処理プログラムが格納されている。
【0017】
サーボインタフェース4にサーボアンプ5が接続されている。また、表示装置付入力装置用インタフェース9には表示装置付入力装置10が接続されている。表示装置付入力装置10は、タッチパネル式の液晶ディスプレイとキーボードなどで構成されている。表示装置付入力装置10によって各種指令、各種パラメータなどの設定が可能である。表示装置付入力装置10のタッチパネル式の表示装置の表示画面に各種インタフェース画面を表示することによって、各種指令、各種パラメータの設定が容易に行える。本発明に係る射出成形機Mの運転開始も表示装置付入力装置10を用いて行うことができる。
プロセッサ2は、射出成形機全体を制御するプロセッサである。サーボアンプ5には、可動プラテン前後進モータ20、エジェクタ前後進モータ22、スクリュ回転モータ30、スクリュ前後進モータ31が接続される。図ではサーボアンプ5は1つとして図示されているが、前記それぞれのモータに各々サーボアンプが接続されている。また、各サーボモータには図示省略した位置・速度検出器が内蔵され、位置・速度検出信号が制御装置1にフィードバックされる。
【0018】
次に、ノズル封止板26がノズル36の孔を封止した状態とノズル封止板26が退避した状態を図2,図3を用いて説明する。
図2はノズル封止板がノズルを封止した状態を説明する図である。図2(a)はシリンダ27側から見た概略図で、図2(b)は射出成形機Mの側面から見た概略図である。図2から明らかなように、ノズル36の孔はノズル封止板26によって塞がれた状態にある。ノズル封止板26の一端部が回動軸38を回動中心軸として固定プラテン25に軸支され、回動軸38と他端側のノズル封止板26の端部がノズル封止板26の移動装置が接続されている。前記移動装置として図示されるようにエアシリンダ37を用いることができる。
図2では、ノズル封止板26の一端部が軸支され回転移動しているが、ノズル封止板26の両端部を移動装置に接続することによって、ノズル封止板26を上下の直線移動させる構成としてもよい。エアシリンダ37に移動装置が限定されるわけではなく、油圧シリンダやボールネジネジ機構やサーボモータを用いた移動装置としてもよい。ノズル封止板26は長方形の形状として図示されているが、円板状でもよく、射出成形機Mの構成に応じて形状を選択することができる。
【0019】
図3はノズル封止板が退避した状態を説明する図である。射出成形機Mの連続成形運転中にはノズル封止板26は退避位置に位置している。成形運転開始時にノズル封止板移動装置であるエアシリンダ37を制御装置1からの指令によって作動させ、ノズル封止板26をノズル退避位置からノズル36の孔の封止位置まで移動させる。
制御装置1は指令により、シリンダ27を固定プラテン25側に移動させ、ノズル36の先端をノズル封止板26にノズルタッチさせ、ノズルタッチした状態(ノズル36の孔を塞いた状態)で所定の背圧を掛けて手動計量の動作を行わせる。手動計量の動作が終了する(つまり、計量位置までスクリュ32が後退)と、ノズル36の孔の封鎖を解除するため、制御装置1からの指令によってシリンダ27を後退させる。そして、ノズル封止板26を退避位置まで制御装置1からの指令によって退避させる。なお、ノズル封止板26のノズル36の先端部との当接面が平面形状である場合には、ノズル36の孔の封鎖を解除するためにシリンダ27を後退させることなく、ノズル封止板26を退避位置に退避することも可能である。
【0020】
図4は、本発明に係る射出成形機の運転開始のアルゴリズムを示すフロチャートである。以下、各ステップに従って説明する。
●[ステップSA01]背圧を掛けて、計量位置まで手動計量を行ったかを判断し、手動計量を行った場合には、ステップSA08へ移行し、連続成形運転を開始し、手動計量を行っていない場合には、ステップSA02へ移行する。手動計量を行ったか否かを判断するためのフラグを用意しておき、手動計量運転した場合にはフラグをオンし、手動計量運転していない場合にはフラグをオフにしてくことで、手動計量の有無を判断できる。
●[ステップSA02]ノズル封止板をノズル封止位置まで移動する。
●[ステップSA03]ノズル封止板にノズルタッチするまでシリンダを移動させる。
●[ステップSA04]手動計量を開始する。
●[ステップSA05]手動が完了すると、ステップSA06へ移行する。手動計量の完了は、計量位置までスクリュが後退することで判断する。
●[ステップSA06]ノズル封止板からノズルのノズルタッチ解除するため、シリンダを所定距離後退させる。
●[ステップSA07]ノズル封止板を退避位置へ移動する。
●[ステップSA08]連続成形運転を開始する。
【符号の説明】
【0021】
1 制御装置
2 プロセッサ
3 バス
4 サーボインタフェース
5 サーボアンプ
6 ROM
7 RAM
8 入出力インタフェース
9 表示装置付入力装置用インタフェース
10 表示装置付入力装置
20 可動プラテン前後進モータ
21 リアプラテン
22 エジェクタ前後進モータ
23 可動プラテン
24 タイバー
25 固定プラテン
26 ノズル封止板
27 シリンダ
28 ホッパ
29 ホッパシャッタ
30 スクリュ回転モータ
31 スクリュ前後進モータ
32 スクリュ
33 トグル機構
34 エジェクタ機構
35 固定側金型
36 ノズル
37 エアシリンダ

M 射出成形機
Mb 機台
Mc 型締部
Mi 射出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出ユニットのシリンダの先端部に設けられたノズルから金型のキャビティに樹脂を射出する射出成形機において、
前記ノズルを封止するためのノズル封止板と、
前記ノズル封止板を前記ノズルを封止する封止位置と退避位置に移動させるノズル封止板移動装置と、
前記ノズルを前後進させるノズル移動装置と、
成形運転開始時にノズル封止板移動装置を作動させてノズル封止板を封止位置に移動させ、ノズル封止板を封止位置に移動させた状態でノズル移動装置を作動させ、ノズル封止板にノズルタッチさせ、ノズルタッチした状態で所定の背圧を掛けて計量を行う制御装置と、を備えたノズル封止板を備えた射出成形機。
【請求項2】
射出ユニットのシリンダの先端部に設けられたノズルから金型のキャビティに樹脂を射出する射出成形機のノズルを封止する封止位置とノズルを封止しない退避位置に移動可能なノズル封止板を備えた射出成形機の成形運転開始方法において、
前記ノズル封止板をノズル前方に移動させるステップと、
ノズルを前記ノズル封止板にノズルタッチさせるステップと、
ノズルタッチさせた状態で所定の背圧にて計量を行うステップと、
計量完了後に前記ノズル封止板を退避させるステップと、
を備え、
前記封止板を退避させた後、成形運転を始動することを特徴とする射出成形機の成形運転開始方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−171107(P2012−171107A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32305(P2011−32305)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】