説明

ノボラック型フェノール樹脂水性分散体およびその製造方法

【課題】 多量の分散剤を用いることなく、水性媒体中に分散する樹脂粒子の小粒子化を図ることができて貯蔵安定性を飛躍的に向上させることができるノボラック型フェノール樹脂水性分散体およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 カゼインを界面活性剤として、ヒドロキシアルキルセルロースを保護コロイドとして用い、炭素原子数3〜30の酸基含有脂肪族炭化水素基を芳香核上の置換基として有するノボラック型フェノール樹脂を、水性媒体中に分散させてなるノボラック型フェノール樹脂水性分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノボラック型フェノール樹脂の水性分散体とその製造方法に関する。詳しくは、塗料、接着剤、結合材、樹脂加工処理剤等に有用なノボラック型フェノール樹脂水性分散体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂は、その硬化物が優れた耐熱性、機械特性、耐薬品性を発現する点から熱硬化性樹脂として、電気部品、電子部品、自動車関連部品、或いは、紙、繊維、不織布、木質素材、ガラス繊維、砂、その他の無機質素材等の結合材、塗料、樹脂加工処理剤、接着剤、表面処理剤等の分野において広く用いられている。
前記した各種用途のうち、無機質素材等の結合材、塗料、樹脂加工処理剤、接着剤、表面処理剤等の分野では、フェノール樹脂は非水溶性であることから、通常、有機溶剤溶液として用いられている。
【0003】
近年、環境負荷軽減、或いは、水性樹脂との混合性という観点からフェノール樹脂の水性化の要求が強く、フェノール樹脂水溶液又はフェノール樹脂水分散体の開発が望まれている。
【0004】
熱硬化性樹脂の水性化という観点からは、例えば、レゾール型フェノール樹脂は、その本来的な性質から分子量や官能基数の調節により比較的容易に水性化を図ることが可能である。これに対して、前記フェノール樹脂は、通常、常温で固形の樹脂であることから、水性化が困難であり、その水分散体を調整したとしても、その分散樹脂粒子の平均粒子径が10μm乃至100μmという極めて大きい範囲になってしまう為、長期の分散安定性が得られずに樹脂粒子の沈降を招来してしまうものであった。
【0005】
そこで、フェノール樹脂を良好に水分散させる方法として、例えば、高分子量分散剤を用いてフェノール樹脂エマルジョンを形成させる方法が知られている(下記、特許文献1参照)。然し乍ら、かかる方法によれば、確かに貯蔵安定性は改善されるもののノボラック樹脂のほぼ半分の質量の高分子分散剤が必要であり、ノボラック樹脂の本来的な特徴が失われてしまうものであった。
【0006】
他方、フェノール樹脂を溶融状態で水と分散させてエマルジョン状態とした後に、保護コロイドを加え、分散粒子の小粒径化と安定化を図る技術が知られている(下記特許文献2参照)。然し乍ら、このような方法によって製造されたフェノール樹脂分散体であっても、その分散粒子径は、該特許文献2の実施例に記載されているように、1μmを上回る範囲のものとなってしまい、近年要求されている高い貯蔵安定性は達成できないものであった。
【0007】
【特許文献1】特開平7−97504号公報
【特許文献2】米国特許第5670571号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明が解決しようとする課題は、多量の分散剤を用いることなく、水性媒体中に分散する樹脂粒子の小粒子化を図ることができて貯蔵安定性を飛躍的に向上させることができるノボラック型フェノール樹脂水性分散体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、水性媒体中に分散するノボラック型フェノール樹脂の分子構造中に、その芳香核上の置換基として炭素原子数3〜30の酸基含有脂肪族炭化水素基を導入すると共に、かつ、前記水性媒体中のpHを7.0〜9.0の範囲に調節することにより、何等多量の分散剤を用いなくとも、該ノボラック型フェノール樹脂の樹脂粒子径を1μm未満に小径化することが可能で、かつ、水性分散体が優れた貯蔵安定性を発現すること見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、水性媒体中にノボラック型フェノール樹脂粒子が分散してなるノボラック型フェノール樹脂水性分散体であって、前記粒子を構成するフェノールノボラック樹脂がその芳香核上の置換基として炭素原子数3〜30の酸基含有脂肪族炭化水素基を有するものであることを特徴とするノボラック型フェノール樹脂水性分散体に関する。
【0011】
本発明は、更に、炭素原子数3〜30の酸基含有脂肪族炭化水素基を芳香核上の置換基として有するノボラック型フェノール樹脂、カゼイン、ヒドロキシアルキルセルロース、及び、水性媒体を加えて水性分散体とすることを特徴とするノボラック型フェノール樹脂水性分散体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ノボラック型フェノール樹脂を水性媒体中に分散させたノボラック型フェノール樹脂水性分散体において、多量の分散剤を用いることなく、水性媒体中に分散する樹脂粒子の小粒子化を図ることができ、貯蔵安定性を飛躍的に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明で用いるノボラック型フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類とを触媒存在下で反応して得られる構造を主たる化学構造とするものであり、その分子中の芳香核上の置換基として炭素原子数3〜30の酸基含有脂肪族炭化水素を有することを特徴としている。本発明は、このように酸基を含有する鎖状の脂肪族炭化水素基をノボラック樹脂構造中に導入することにより、該ノボラック樹脂の水性媒体中での分散性を飛躍的に向上させることができて、小粒子径で長期に亘り安定した水性分散体を得ることができたものである。ここで炭素原子数3〜30の酸基含有脂肪族炭化水素基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、チオール基などの酸基を有する直鎖状又は分岐状のアルキル基又はアルケニル基が挙げられる。酸基含有脂肪族炭化水素基をノボラック型フェノール樹脂中に導入する方法は、具体的には、ノボラック型フェノール樹脂と炭素原子数3〜30の不飽和脂肪酸(以下、これを単に「不飽和脂肪酸」と略記する。)とを反応させる方法、或いは、該ノボラック型フェノール樹脂の原料フェノール類を予め不飽和脂肪酸と反応させた後、これとアルデヒド類とを反応させることによって目的とするノボラック型フェノール樹脂を製造する方法が挙げられる。よって、前記した酸基含有脂肪族炭化水素基は、前記不飽和脂肪酸に起因する酸基含有脂肪族炭化水素基であることが好ましく、具体的には、カルボキシルプロピル基、カルボキシルウンデシル基、カルボキシトリデシル基、カルボキシヘプタデシル基などが挙げあれる。
【0014】
ここで酸基含有脂肪族炭化水素基の導入に用いられる不飽和脂肪酸は、具体的には、クロトン酸、ラウリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、ベヘニン酸等の化合物、その他菜種油、桐油、大豆油、カシュー油等の天然不飽和脂肪酸があげられる。
【0015】
また、前記ノボラック型フェノール樹脂の原料となるフェノール類は、例えば、フェノール;クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、ブチルフェノール、オクチルフェノール等のアルキルフェノール類;レゾルシン、カテコール、ビスフェノールAなどの多価フェノール類;ハロゲン化フェノール、フェニルフェノール、アミノフェノール等が挙げられる。これらのなかでも特に分散性に優れる点からフェノール、クレゾールが好ましい。
【0016】
前記アルデヒド類は、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン等のホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等が挙げられる。これらのアルデヒド類は、その使用にあたって2種以上を併用してもよい。また、37〜95質量%のホルムアルデヒドとして使用してもよい。
【0017】
上記各成分から目的とする、炭素原子数3〜30の酸基含有脂肪族炭化水素基を芳香核上の置換基として有するノボラック型フェノール樹脂(以下、これを「酸基含有ノボラック樹脂」と略記する。)を製造するには、具体的には、
(1)フェノール類とアルデヒド類とを触媒存在下で反応させてノボラック型フェノール樹脂を得、次いで、これに不飽和脂肪酸を反応させる方法
(2)フェノール類と不飽和脂肪酸を触媒存在下で反応させて、炭素原子数3〜30の酸基含有脂肪族炭化水素基含有フェノール類を得、これとアルデヒド類とを触媒存在下で反応させて目的とするノボラック型フェノール樹脂を得る方法、
(3)フェノール類と不飽和脂肪酸を触媒存在下で反応させて、炭素原子数3〜30の酸基含有脂肪族炭化水素基含有フェノール類を得、これとフェノール類と、アルデヒド類とを触媒存在下で反応させる方法、
が挙げられる。これらのなかでも、特に生産性に優れる点からフェノール類と不飽和脂肪酸を触媒存在下で反応させて、炭素原子数3〜30の酸基含有脂肪族炭化水素基含有フェノール類を得、これとアルデヒド類とを触媒存在下で反応させて目的とするノボラック型フェノール樹脂を得る方法が好ましい。
【0018】
上記(1)乃至(3)の方法において、フェノール類と不飽和脂肪酸との反応、及び、フェノール類とアルデヒド類との反応に用いられる触媒は、例えば、蓚酸、硫酸、パラトルエンスルホン酸等が挙げられる。これらの触媒は、2種以上を併用してもよい。また、触媒の添加量としては、特に制限されないが、フェノール類100質量部に対して0.05〜5質量部であることが好ましく、0.1〜3.0質量部の範囲にあることが特に好ましい。
【0019】
上記した酸基含有ノボラック樹脂は、70〜120℃の難化点を有するものであることが分散性に優れる点から好ましい。また、酸基含有ノボラック樹脂中の炭素原子数3〜30の酸基含有脂肪族炭化水素基の含有率は、原料基準でフェノール類100質量部に対して不飽和脂肪酸が2〜50質量部の範囲となる割合であることが水性媒体中での分散性の点から好ましく、なかでも5〜20質量部の範囲となる割合であることが特に好ましい。
【0020】
以上詳述した酸基含有ノボラック樹脂を用いて本発明のノボラック型フェノール樹脂水性分散体を製造する方法は、炭素原子数3〜30の酸基含有脂肪族炭化水素基を芳香核上の置換基として有するノボラック型フェノール樹脂、カゼイン、ヒドロキシアルキルセルロース、及び、水性媒体を加える方法が挙げられる。
【0021】
ここで、カゼイン及びヒドロキシアルキルセルロースは、分散剤として用いるものであり、粉末状のまま用いてもよいし、それぞれ水溶液にして用いてもよい。本発明では、このようにカゼイン及びヒドロキシアルキルセルロースを分散剤として併用することによって、分散樹脂粒子の小径化を図ることができる共に、該水性分散体の貯蔵安定性を飛躍的に向上させることができる。
【0022】
ここで用いるヒドロキシアルキルセルロースは、ヒドロキシエチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロースが挙げられるが、これらの中でも特にヒドロキシエチルセルロースがノボラック型フェノール樹脂の分散安定性が顕著に優れる点から好ましい。
【0023】
また、前記水性媒体としては、水を用いることができるが、水性媒体中0.1〜5質量%以下の範囲で、メタノール、エタノール、アセトン等の水溶性有機溶媒を含有していてもよい。なお、本発明では後述する通り、ノボラック型フェノール樹脂水性分散体の製造の際、有機溶媒を使用する場合があり、最終的にこれは留去されるものであるが、除去しきれず水性分散体中に残存して水と相溶化することもある。本発明ではこのような混合液も前記水性媒体に含まれる。
【0024】
上記製造方法は、具体的には、下記の方法1〜方法3の方法が挙げられる。
【0025】
方法1:酸基含有ノボラック樹脂を加熱して溶融し、カゼインの水溶液、及びヒドロキシアルキルセルロースの水溶液を混合して水性分散体とする方法。
方法2:酸基含有ノボラック樹脂を有機溶剤に溶解させ、次いで、カゼインの水溶液、及びヒドロキシアルキルセルロースの水溶液を混合して水性分散体としたのち、前記有機溶媒の一部乃至全部を留去する方法。
方法3:酸基含有ノボラック樹脂を溶融状態或いは有機溶剤に溶解させた状態で、カゼイン及びヒドロキシアルキルセルロースと混合して混合物を得、次いで、該混合物に水性媒体を加えて水性分散体とする方法。
【0026】
上記方法1〜方法3の中でも特に方法3が、酸基含有ノボラック樹脂の粒子の小径化に優れ、貯蔵安定性が顕著なものとなる点から好ましい。
【0027】
前記方法3につき更に詳述すれば、前記方法3は、具体的には、
方法3a:酸基含有ノボラック樹脂を加熱して溶融し、粉末状のカゼイン、及び、粉末状のヒドロキシアルキルセルロースを混合して混合物を得、次いで、該混合物に水性媒体を加えて水性分散体とする方法、
方法3b:酸基含有ノボラック樹脂を加熱して溶融し、次いで、カゼインの水溶液、及びヒドロキシアルキルセルロースの水溶液を混合し、更に、水性媒体を加えて水性分散体とする方法、並びに、
方法3c:酸基含有ノボラック樹脂を有機溶剤に溶解し、カゼイン及びヒドロキシアルキルセルロースと混合して混合物を得、次いで、該混合物に水性媒体を加えて水性分散体とし、該水性分散体から前記有機溶媒の一部乃至全部を留去する方法
が挙げられる。
【0028】
これらのなかでも、特に方法3cが、分散粒子の小粒径化、及び生産性に優れる点から好ましい。前記方法3cにおいて、カゼイン及びヒドロキシアルキルセルロールは、粉末状のものであっても、水溶液であってもよいが、本発明では後者の水溶液として用いることがカゼイン及びヒドロキシアルキルセルロールの分散剤としての分散能が良好となる点から好ましい。
【0029】
前記方法3において、カゼインの水溶液、及びヒドロキシアルキルセルロースの水溶液を用いる場合には、これらの分散剤としての性能を高める点から、それぞれ濃度が5〜20質量%の範囲であることが好ましい。
【0030】
上記した各製造方法において、カゼイン及びヒドロキシアルキルセルロースを水溶液として用いる場合には、溶融状態にあるノボラック型フェノール樹脂、或いは、有機溶剤溶液状態にあるノボラック型フェノール樹脂に対して、カゼイン水溶液を先に投入、次いで、ヒドロキシアルキルセルロース水溶液を投入し、前者を界面活性剤として機能させ、後者を保護コロイドとして機能させることが分散樹脂粒子の小径化と、ノボラック型フェノール樹脂水性分散体の貯蔵安定性の点から好ましい。
【0031】
また、上記各製造方法におけるカゼインの使用量は、酸基含有ノボラック樹脂固形分100質量部に対し、3.0〜10.0質量部となる割合であること酸基含有ノボラック樹脂の分散安定性の点から好ましい。
【0032】
一方、ヒドロキシアルキルセルロースの使用量は、酸基含有ノボラック樹脂固形分100質量部に対し、0.3〜3質量部の範囲であることが、酸基含有ノボラック樹脂の分散安定性の点から好ましい。本発明では、このようにカゼインとヒドロキシアルキルセルロースとを分散剤として併用することにより、高分子量分散剤を何等併用することなく、かつ、これらの使用量も極少量で優れた分散安定性を発現させることができる点は特筆すべき点である。
【0033】
また、本発明では、最終的に得られるノボラック型フェノール樹脂水性分散体中の水性媒体中のpHが7.0〜9.0の範囲であることが、分散粒子径がより小さくなり、かつ、該水性分散体の粘度が低減される点から好ましく、特にこれらの効果が顕著なものとなる点から7.3〜8.0の範囲であることが好ましい。
【0034】
水性分散体中の水性媒体中のpHを調整する為には、前記した各方法の任意の段階で、酸基含有ノボラック樹脂又はその水性分散体に塩基性物質を加えることが望ましいが、特に前記方法3の場合には、水性媒体を投入する前に加えること、とりわけカゼイン及びヒドロキシアルキルセルロースと共に加えることが、分散粒子の小径化及び分散液の低粘度化という観点から好ましい。
【0035】
ここで用いる塩基性物質は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、ヘキサメチレンテトラミン等が挙げられる。単独及び2種類以上を併用してもよい。
【0036】
また、上記の各製造方法において、酸基含有ノボラック樹脂を有機溶剤で溶解させる場合に使用できる有機溶剤は、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類が挙げられる。
【0037】
また、有機溶媒溶液は、固形分濃度が40〜70質量%の範囲であることが水分散性に優れる点から好ましい。
【0038】
このようにして得られたノボラック型フェノール樹脂水性分散体は、粒子径が1μm未満のものとなるが、具体的には、平均粒子径0.01〜0.6μmの範囲であることが、長期にわって沈降物の生成がなく、また、低粘度を保持したまま貯蔵安定性に優れた水性分散体となる点から好ましい。
【0039】
以上詳述した本発明のノボラック型フェノール樹脂水性分散体は、その用途に応じて、ヘキサメチレンテトラミン、エポキシ樹脂、イソシアネート等の硬化剤を加えることにより、硬化させることもできる。
【0040】
本発明のノボラック型フェノール樹脂水性分散体は、多量の分散剤を用いることなく、優れた貯蔵安定性を発現するため、各種の用途に適用することができるが、紙、繊維、不織布、木質素材、ガラス繊維、砂、その他の他無機質素材等の結合材、塗料、樹脂加工処理剤、接着剤、及び表面処理剤等の用途が特に好適である。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、例中の部及び%はすべて質量部、質量%を表す。
【0042】
実施例1
攪拌機、コンデンサー、温度計を備えた4つ口3リットルフラスコに、フェノール1300g、菜種油1300gを加え撹拌を開始した。触媒として98%硫酸を6.5g加え、120℃で3時間反応させ、菜種油変性フェノール(A1)を得た。
攪拌機、コンデンサー、温度計を備えた4つ口3リットルフラスコに菜種油変性フェノール(A1)542.4g、フェノール1536g、42質量%ホルムアルデヒド水溶液1029.5gを加え100℃に昇温し、1時間反応させた。90℃に降温し、蓚酸を5.4g加え、100℃に昇温し、5時間反応させた後、蒸留を開始して水を除去しつつ、170℃まで昇温した。170℃にて減圧化で遊離フェノールを一部除去した後、反応容器より取り出し、酸基含有ノボラック樹脂(A2)を得た。
攪拌機、コンデンサー、温度計及び滴下ロートを備えた4つ口3リットルフラスコに(A2)1000g、エタノール800mlを加え、65℃で溶解させ、25%水酸化ナトリウム44g、10%カゼイン水溶液500g,5%ヒドロキシルエチルセルロース水溶液200gを加え、3時間反応させ、滴下ロートよりイオン交換水1000gを徐々に加え、更に1時間反応させた。その後、減圧下にてエタノールを留去し、ノボラック型フェノール樹脂水性分散体(B1)を得た。B1の不揮発分は39.0%、pHは7.95、平均粒子径は0.4μmで、室温下において6ヶ月保存安定性が良好であった。
【0043】
実施例2
攪拌機、コンデンサー、温度計を備えた4つ口3リットルフラスコに菜種油変性フェノール(A1)233g、フェノール1819g、42%ホルムアルデヒド水溶液1102gを加え、100℃に昇温し、1時間反応させた。90℃に降温し、蓚酸を9g加え、100℃に昇温し、5時間反応させた後、蒸留を開始して水を除去しつつ、170℃まで昇温した。170℃にて減圧化で遊離フェノールを一部除去した後、反応容器より取り出し、酸基含有ノボラック樹脂(A3)を得た。
攪拌機、コンデンサー、温度計及び滴下ロートを備えた4つ口3リットルフラスコに(A3)1000g、エタノール800mlを加え、65℃で溶解させ、25%水酸化ナトリウム18g、10%カゼイン水溶液600g,5%ヒドロキシルエチルセルロース水溶液200gを加え、3時間反応させ、滴下ロートよりイオン交換水1000gを徐々に加え、更に1時間反応させた。その後、減圧下にてエタノールを留去し、ノボラック型フェノール樹脂水性分散体(B2)を得た。ノボラック型フェノール樹脂水性分散体(B2)の不揮発分は41.2%、pHは8.01、平均粒子径は0.5μmで、室温下において6ヶ月保存安定性が良好であった。
【0044】
実施例3
攪拌機、コンデンサー、温度計を備えた4つ口3リットルフラスコに菜種油変性フェノール(A1)116.6g、フェノール1887g、42%ホルムアルデヒド水溶液1108g、100℃に昇温し、1時間反応させた。90℃に降温し、蓚酸を9g加え、100℃に昇温し、5時間反応させた後、蒸留を開始して水を除去しつつ、170℃まで昇温した。170℃にて減圧化で遊離フェノールを一部除去した後、反応容器より取り出し、酸基含有ノボラック樹脂(A4)を得た。
攪拌機、コンデンサー、温度計及び滴下ロートを備えた4つ口3リットルフラスコに(A4)1000g、エタノール800mlを加え、65℃で溶解させ、25%水酸化ナトリウム10g、10%カゼイン水溶液600g,5%ヒドロキシルエチルセルロース水溶液200gを加え、3時間反応させ、滴下ロートよりイオン交換水1000gを徐々に加え、更に1時間反応させた。その後、減圧下にてエタノールを留去し、ノボラック型フェノール樹脂水性分散体(B3)を得た。ノボラック型フェノール樹脂水性分散体(B3)の不揮発分は39.4%、pHは8.23、平均粒子径は0.5μmで、室温下において6ヶ月保存安定性が良好であった。
【0045】
比較例1
攪拌機、コンデンサー、温度計及び滴下ロートを備えた4つ口3リットルフラスコに(A2)1000g、エタノール800mlを加え、65℃で溶解させ、25%水酸化ナトリウム44g、10%カゼイン水溶液600gを加え、3時間反応させ、滴下ロートよりイオン交換水1000gを徐々に加え、更に1時間反応させた。その後、減圧下にてエタノールを留去し、ノボラック型フェノール樹脂水性分散体(B4)を得た。ノボラック型フェノール樹脂水性分散体(B4)の不揮発分は40.5%、pHは8.14、平均粒子径は1.8μmで、室温下において7日までは分離や沈降が見られなかったが、その後徐々に樹脂が分離し、保存安定性が不良であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体中にノボラック型フェノール樹脂粒子が分散してなるノボラック型フェノール樹脂水性分散体であって、前記粒子を構成するフェノールノボラック樹脂がその芳香核上の置換基として炭素原子数3〜30の酸基含有脂肪族炭化水素基を有するものであることを特徴とするノボラック型フェノール樹脂水性分散体。
【請求項2】
前記水性媒体中のpHが7.0〜9.0の範囲である請求項1記載のノボラック型フェノール樹脂水性分散体。
【請求項3】
水性媒体中に分散するフェノールノボラック樹脂粒子が、平均粒子径0.01〜0.6μmのものである請求項1記載のノボラック型フェノール樹脂水性分散体。
【請求項4】
水性媒体中に、カゼインとヒドロキシアルキルセルロースとを含有する請求項1又は2記載のノボラック型フェノール樹脂水性分散体。
【請求項5】
ノボラック型フェノール樹脂100質量部に対して3.0〜10.0質量部となる割合で前記カゼインを水性媒体中に含有し、かつ、ノボラック型フェノール樹脂100質量部に対して0.3〜3.0質量部となる割合で前記ヒドキシアルキルセルロースを水性媒体中に含有する請求項4記載のノボラック型フェノール樹脂水性分散体。
【請求項6】
炭素原子数3〜30の酸基含有肪族炭化水素基を芳香核上の置換基として有するノボラック型フェノール樹脂、カゼイン、ヒドロキシアルキルセルロース、及び、水性媒体を加えて水性分散体とすることを特徴とするノボラック型フェノール樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項7】
炭素原子数3〜30の酸基含有肪族炭化水素基を芳香核上の置換基として有するノボラック型フェノール樹脂を有機溶剤に溶解し、カゼイン及びヒドロキシアルキルセルロースと混合して混合物を得、該混合物に水性媒体を加えて水性分散体とし、次いで、該水性分散体から前記有機溶媒の一部乃至全部を留去する請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
前記ノボラック型フェノール樹脂又はその水性分散体に、塩基性物質を加えて水性媒体中のpHを7.0〜9.0の範囲にする請求項6又は7記載の製造方法。
【請求項9】
前記炭素原子数3〜30の酸基含有アルキル基を芳香核上の置換基として有するノボラック型フェノール樹脂が、フェノール類と炭素原子数3〜30の不飽和脂肪酸との反応生成物と、アルデヒド化合物とを反応させて得られるものである請求項6、7又は8のノボラック型フェノール樹脂水性分散体の製造方法。

【公開番号】特開2008−150449(P2008−150449A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−338248(P2006−338248)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】