説明

ノルボルネン化合物重合用触媒およびノルボルネン化合物付加重合体の製造方法

【課題】ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを単独で単量体として用いた場合であっても、有機溶媒への溶解性に優れるノルボルネン化合物付加重合体を高い重合活性で与えることができるノルボルネン化合物重合用触媒と、その触媒を用いるノルボルネン化合物付加重合体の製造方法を提供すること。
【解決手段】ノルボルネン化合物を付加重合するために用いられるノルボルネン化合物重合用触媒であって、ホスフィン化合物または窒素原子含有カルベン化合物を配位子として有する、0価または1価のパラジウム化合物と、当該パラジウム化合物の触媒活性を向上させる活性化剤とを含んでなることを特徴とするノルボルネン化合物重合用触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノルボルネン化合物重合用触媒およびノルボルネン化合物付加重合体の製造方法に関し、さらに詳しくは、高い重合活性で、有機溶媒への溶解性に優れるノルボルネン化合物付加重合体を与えることができるノルボルネン化合物重合用触媒と、その触媒を用いるノルボルネン化合物付加重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パラジウム化合物は種々の反応の触媒として有用であることが知られており、種々のパラジウム化合物について、触媒としての利用が検討されている。例えば、非特許文献1では、ビス(トリ−t−ブチルホスフィン)パラジウムが、塩化アリール化合物や塩化ビニル化合物の根岸クロスカップリング反応の触媒として有用であることが報告されている。また、非特許文献2では、ジ−μ−ブロモビス(トリ−t−ブチルホスフィノ)ジパラジウムなどのパラジウム化合物が、ハロゲン化アリール化合物とアミンとのカップリング反応などの触媒として有用であることが報告されている。さらに、特許文献1では、例えばジ−μ−ブロモビス(トリ−t−ブチルホスフィノ)ジパラジウムなどの、ホスフィン配位子を有する特定構造のパラジウム化合物が、ビニル系モノマーの重合用触媒として有用であることが開示されている。
【0003】
ところで、パラジウム化合物が触媒として利用される反応の1つとして、ノルボルネン化合物の付加重合反応が知られている。例えば、特許文献2では、特定のニッケル化合物や特定のパラジウム化合物と、有機アルミニウム化合物とを組み合わせて触媒として使用して、2−ノルボルネン(ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン)などのノルボルネン化合物を重合させることにより、溶融成形可能なノルボルネン化合物の付加重合体が得られることが開示されている。また、この特許文献2では、2−ノルボルネンを付加重合させるにあたり、ニッケル化合物を触媒の成分として用いると、1,2−ジクロロエタンやトルエンなどの有機溶媒への溶解性に優れた重合体が得られるが、パラジウム化合物を触媒の成分として用いると、汎用的な有機溶媒に不溶な重合体が得られることも開示されている。
【0004】
有機溶媒への溶解性に優れる重合体は、溶液流延法(キャスト法)によるフィルムの成形が可能であるなど、種々の観点において取り扱いが容易である。したがって、有機溶媒への溶解性に優れる重合体が得られる点においては、ニッケル化合物の触媒としての使用は望ましいものであるといえる。しかし、ノルボルネン化合物を付加重合させるにあたり、ニッケル化合物を触媒の成分として用いると、パラジウム化合物を用いる場合に比して重合活性に劣るため、触媒を多量に使用する必要が生じ、触媒残渣が重合体中に多量に残留するという問題があった。
【0005】
そこで、重合活性に優れるパラジウム化合物を触媒の成分として用いつつ、有機溶媒への溶解性に優れるノルボルネン化合物の付加重合体を製造する方法について種々の検討がなされている。例えば、特許文献3には、単量体となるノルボルネン化合物の少なくとも一部として、テトラシクロドデセン構造を含有する化合物を用い、これを(アリル)パラジウム(トリシクロヘキシルホスフィン)クロリドなどのパラジウム化合物を触媒の成分として用いて付加重合させることにより、有機溶媒への溶解性に優れるノルボルネン化合物付加重合体が得られることが開示されている。また、特許文献4や特許文献5には、2−ノルボルネン(ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン)のような無置換のノルボルネン化合物と、5−エチル−2−ノルボルネン(5−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン)のような炭化水素基を置換基として有するノルボルネン化合物とを、(アリル)パラジウム(トリシクロヘキシルホスフィン)クロリドなどのパラジウム化合物を触媒の成分として用いて付加共重合させることにより、有機溶媒への溶解性に優れるノルボルネン化合物付加重合体が得られることが開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献3〜5に記載されたノルボルネン化合物付加重合体では、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン単位以外の繰り返し単位の存在が必要であり、そのために、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンの単独付加重合体に比して、ガラス転移温度が低く、耐熱性に劣るという問題があった。また、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン以外のノルボルネン化合物がノルボルネン化合物付加重合体中に残存すると、得られる重合体の透明性が不充分になるという問題もあった。そのため、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを単独で単量体として用いた場合であっても、有機溶媒への溶解性に優れる重合体を高い重合活性で得ることができる、ノルボルネン化合物の付加重合体の製造方法の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−241325号公報
【特許文献2】特表平9−508649号公報
【特許文献3】国際公開第2007/058239号
【特許文献4】特開2007−197623号公報
【特許文献5】特開2007−197624号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Chaoyang Daiら、“The First General Method for Palladium−Catalyzed Negishi Cross−Coupling of Aryl and Vinyl Chlorides: Use of Commercially Available Pd(P(t−Bu)3)2 as a Catalyst”、J. Am. Chem. Soc.、2001年、第123巻、p.2719−2724
【非特許文献2】James P. Stambuliら、“Unparalleled Rates for the Activation of Aryl Chlorides and Bromides: Coupling with Amines and Boronic Acids in Minutes at Room Temperature”、Angew. Chem. Int. Ed.、2002年、第41巻、第24号、p.4746−4748
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを単独で単量体として用いた場合であっても、有機溶媒への溶解性に優れるノルボルネン化合物付加重合体を高い重合活性で与えることができるノルボルネン化合物重合用触媒と、その触媒を用いるノルボルネン化合物付加重合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、ノルボルネン化合物を付加重合させる触媒としてこれまで用いられていなかった、ホスフィン化合物または窒素原子含有カルベン化合物を配位子として有する、0価または1価のパラジウム化合物に、この特定のパラジウム化合物の触媒活性を向上させる活性化剤を組み合わせて触媒として用いることにより、有機溶媒への溶解性に優れるビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンの単独付加重合体が、高い重合活性で得られることを見出した。本発明は、この知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0011】
かくして、本発明によれば、式(1)で表されるノルボルネン化合物を付加重合するために用いられるノルボルネン化合物重合用触媒であって、ホスフィン化合物または窒素原子含有カルベン化合物を配位子として有する、0価または1価のパラジウム化合物と、当該パラジウム化合物の触媒活性を向上させる活性化剤とを含んでなることを特徴とするノルボルネン化合物重合用触媒が提供される。
【0012】
【化1】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を表し、RとRが結合して環を形成してもよい。nは0または1である。)
【0013】
上記のノルボルネン化合物重合用触媒では、活性化剤がイオン性ホウ素化合物であることが好ましい。
【0014】
また、本発明によれば、上記のノルボルネン化合物重合用触媒を用いて、式(1)で表されるノルボルネン化合物を付加重合させることを特徴とするノルボルネン化合物付加重合体の製造方法が提供される。
【0015】
上記のノルボルネン化合物付加重合体の製造方法では、ノルボルネン化合物がビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、有機溶媒への溶解性に優れるノルボルネン化合物付加重合体を高い重合活性で与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のノルボルネン化合物重合用触媒は、特定のノルボルネン化合物を付加重合するために用いられる触媒であって、ホスフィン化合物または窒素原子含有カルベン化合物を配位子として有する、0価または1価のパラジウム化合物と、当該パラジウム化合物の触媒活性を向上させる活性化剤とを含んでなるものである。
【0018】
本発明のノルボルネン化合物重合用触媒を構成する成分の1つであるパラジウム化合物は、ホスフィン化合物および窒素原子含有カルベン化合物の少なくとも一方を必須の配位子として有するパラジウム化合物であって、その価数(中心金属となるパラジウムの価数)が、0価または1価のものである。
【0019】
パラジウム化合物の配位子として用いられ得るホスフィン化合物は、特に限定されないが、下記の式(2)で表されるホスフィン化合物が好適である。
【0020】
P(R)(R)(R) (2)
(式中、R〜Rはそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基または置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基を表し、RとRが結合して環を形成してもよい。)
【0021】
式(2)で表されるホスフィン化合物の具体例としては、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリ(t−ブチル)ホスフィン、ジ(t−ブチル)(1−アダマンチル)ホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリ(o−トルイル)ホスフィン、トリ(ビフェニルイル)ホスフィン、ジ(t−ブチル)(ビフェニルイル)ホスフィン、ジ(シクロヘキシル)フェニルホスフィン、ベンジル(ジフェニル)ホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)エタン、P,P’−1,3−ビス(ジ−イソプロピルホスフィノ)プロパン、2,2’−ビス(ジ−t−ブチルホスフィノ)−1,1’−ビフェニル、1,3−ビス(ジ‐t‐ブチルホスフィノメチル)ベンゼンが挙げられる。これらのなかでも、得られる重合用触媒の重合活性を高くする観点から、少なくとも1個以上のアルキル基を有するホスフィン化合物が好ましく用いられ、トリアルキルホスフィン化合物が特に好ましく用いられる。
【0022】
パラジウム化合物の配位子として用いられ得る窒素原子含有カルベン化合物は、窒素原子およびメチレン遊離基を有する化合物であれば特に限定されないが、下記の式(3)で表される置換イミダゾリン−2−イリデン化合物、下記の式(4)で表される置換イミダゾリジン−2−イリデン化合物、または下記の式(5)で表される置換トリアゾリン−2−イリデン化合物が好適である。
【0023】
【化2】

(式中、R〜R11はそれぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基を表す。)
【0024】
【化3】

(式中、R12〜R15はそれぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基を表す。)
【0025】
【化4】

(式中、R16〜R18はそれぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基を表す。)
【0026】
式(3)で表される置換イミダゾリン−2−イリデン化合物の具体例としては、1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジシクロヘキシル−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジ(メチルフェニル)−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジ(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジ(2,4,6−トリメチルフェニル)−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジ(メチルナフチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジアダマンチル−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジフェニル−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3,4,5−テトラメチル−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3,4,5−テトラフェニル−4−イミダゾリン−2−イリデンを挙げることができる。
【0027】
式(4)で表される置換イミダゾリジン−2−イリデン化合物の具体例としては、1,3−ジイソプロピルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジ(メチルフェニル)イミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジ(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)−4−イミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジ(2,4,6−トリメチルフェニル)イミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジ(メチルナフチル)イミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジアダマンチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジフェニルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3,4,5−テトラメチルイミダゾリジン−2−イリデンを挙げることができる。
【0028】
式(5)で表される置換トリアゾリン−2−イリデン化合物の具体例としては、1,3,4−トリフェニル−4,5−ジヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾリン−5−イリデンを挙げることができる。
【0029】
式(3)で表される置換イミダゾリン−2−イリデン化合物、式(4)で表される置換イミダゾリジン−2−イリデン化合物、および式(5)で表される置換トリアゾリン−2−イリデン化合物のなかでも、得られる重合用触媒の重合活性を高くする観点から、置換基(R〜R18)として置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基を有する化合物が好ましく用いられ、置換基(R〜R18)として2位および6位に置換基を有するフェニル基を有する化合物がより好ましく用いられ、置換基(R〜R18)として2,6−ジ−イソプロピルフェニル基を有する化合物が特に好ましく用いられる。
【0030】
本発明において用いられ得る0価のパラジウム化合物は、通常、中性配位子として、ホスフィン化合物および窒素原子含有カルベン化合物から選択される配位子を少なくとも1つ有し、かつ、アニオン性配位子を有さないパラジウム化合物であり、下記の式(6)で表される0価のパラジウム化合物が好適である。
【0031】
[Pd(L (6)
(式中、Lは中性配位子を表し、Lの少なくとも1つはホスフィン化合物および窒素原子含有カルベン化合物から選択される配位子である。複数のLは互いに結合して環構造を形成していても良い。nは1または2であり、pは2〜4の整数である。)
【0032】
また、本発明において用いられ得る1価のパラジウム化合物は、通常、中性配位子として、ホスフィン化合物および窒素原子含有カルベン化合物から選択される配位子を少なくとも1つ有し、かつ、アニオン性配位子を1つ有するパラジウム化合物であり、下記の式(7)で表される1価のパラジウム化合物が好適である。
【0033】
[Pd(LY] (7)
(式中、Lは中性配位子を表し、Lの少なくとも1つはホスフィン化合物および窒素原子含有カルベン化合物から選択される配位子である。複数のLは互いに結合して環構造を形成していても良い。Yはアニオン性配位子を表す。mは1または2であり、qは1〜3の整数である。)
【0034】
0価のパラジウム化合物または1価のパラジウム化合物が有しうる、ホスフィン化合物および窒素原子含有カルベン化合物以外の中性配位子としては、特に限定されるものではないが、酸素、水、カルボニル、アミン類、ピリジン類、エ−テル類、ニトリル類、エステル類、ホスフィナイト類、ホスファイト類、スチビン類、スルホキシド類、チオエーテル類、アミド類、芳香族化合物、環状ジオレフィン類、オレフィン類、イソシアニド類、チオシアネ−ト類などを挙げることができる。
【0035】
1価のパラジウム化合物が有するアニオン性配位子は、中心金属であるパラジウムから引き離されたときに負の電荷を持つ配位子であり、例えば、フッ素原子、臭素原子、塩素原子およびヨウ素原子から選択されるハロゲン原子、水素、アセチルアセトン、ジケトネート基、置換シクロペンタジエニル基、置換アリル基、アルケニル基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アルキルまたはアリールスルフォネート基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基、アルキルスルホニル基、アルキルスルフィニル基を挙げることができる。
【0036】
式(6)で表される0価のパラジウム化合物の具体例としては、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(トリ−o−トルイルホスフィン)パラジウム、ビス(トリ−t−ブチルホスフィン)パラジウム、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム、ビス[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム、[P,P’−1,3−ビス(ジ−イソプロピルホスフィノ)プロパン][P−1,3−(ジ−イソプロピルホスフィノ)プロパン]パラジウム、ジ[1,3−ビス(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)イミダゾリン−2−イリデン]パラジウム、1,3−ビス(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)イミダゾリン−2−イリデン(1,4−ナフトキノン)パラジウムの二量体、1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)イミダゾリン−2−イリデン(1,4−ナフトキノン)パラジウムの二量体を挙げることができ、これらのなかでも、ビス(トリ−t−ブチルホスフィン)パラジウムまたはジ[1,3−ビス(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)イミダゾリン−2−イリデン]パラジウムが好適に使用され、ビス(トリ−t−ブチルホスフィン)パラジウムが特に好適に使用される。
【0037】
式(6)で表される0価のパラジウム化合物は、公知の方法に従って製造すればよく、例えば、J.Organomet.Chem.,687,403(2000)、J.Am.Chem.Soc.,111,8742(1989)、J.Am.Chem.Soc.,123,2719(2001)などに記載された方法により製造することができる。
【0038】
また、式(7)で表される1価のパラジウム化合物の具体例としては、ジ−μ−ブロモビス(トリ−t−ブチルホスフィン)ジパラジウム、ジ−μ−ブロモビス[ジ(t−ブチル)(1−アダマンチル)ホスフィン]ジパラジウム、ジ−μ−ブロモビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ジパラジウム、ジ−μ−ブロモビス[(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)イミダゾリン−2−イリデン]ジパラジウム、ジ−μ−ブロモビス[(2,4,6−トリメチルフェニル)イミダゾリン−2−イリデン]ジパラジウムを挙げることができ、これらのなかでも、ジ−μ−ブロモビス(トリ−t−ブチルホスフィノ)ジパラジウムが好適に使用される。
【0039】
式(7)で表される1価のパラジウム化合物は、公知の方法に従って製造すればよく、例えば、Angew.Chem.Int.Ed.,41,4746(2002)、J.Organomet.Chem.,600,198(2000)などに記載された方法により製造することができる。
【0040】
本発明では、ノルボルネン化合物重合用触媒を構成する成分として、0価のパラジウム化合物および1価のパラジウム化合物のいずれを使用しても良いが、より重合活性が高い触媒を得る観点からは、0価のパラジウム化合物がより好ましく使用される。
【0041】
本発明のノルボルネン化合物重合用触媒を構成するもう1つの成分である活性化剤は、0価または1価のパラジウム化合物と共存することによって、このパラジウム化合物が単独で存在する場合よりも、その触媒活性(ノルボルネン化合物を付加重合させる際の重合活性)を大きくさせることができる化合物、すなわち、0価または1価のパラジウム化合物の触媒活性を向上させる化合物である。
【0042】
本発明で活性化剤として用いられる化合物としては、特に限定されるものではないが、通常、ホウ素、アルミニウム、チタン、亜鉛、スズおよびアンチモンから選択される金属元素を有する化合物を用いることができる。
【0043】
活性化剤として好適に用いられる化合物としては、イオン性ホウ素化合物を挙げることができ、そのなかでも、触媒活性向上の効率が良好であることから、下記の式(8)で表されるイオン性ホウ素化合物が特に好適に使用される。
【0044】
〔B(Ar) (8)
(式中、Xはアルカリ金属カチオン、カルボニウムカチオン、ホスホニウムカチオン、アンモニウムカチオンおよびアニリニウムカチオンから選択されるカチオンを表し、Arは2,4,6−トリフルオロフェニル基またはペンタフルオロフェニル基を表す。)
【0045】
式(8)で表されるイオン性ホウ素化合物が有するカチオンの具体例としては、アルカリ金属カチオンの例としてナトリウムカチオンやリチウムカチオンが挙げられ、カルボニウムカチオンの例としてトリフェニルカルボニウムカチオンやトリ(メチルフェニル)カルボニウムカチオンが挙げられ、ホスホニウムカチオンの例としてトリフェニルホスホニウムカチオンやトリ(メチルフェニル)ホスホニウムカチオンが挙げられ、アンモニウムカチオンの例としてトリメチルアンモニウムカチオンやトリブチルアンモニウムカチオンが挙げられ、アニリニウムカチオンの例としてN,N−ジメチルアニリニウムカチオンやN,N−ジフェニルアニリニウムカチオンが挙げられる。
【0046】
式(8)で表されるイオン性ホウ素化合物の具体例としては、リチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルホスホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリブチルアンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジフェニルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートが挙げられ、これらのなかでも、リチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートが特に好適に用いられる。
【0047】
イオン性ホウ素化合物以外の活性化剤の具体例としては、トリス(4−フルオロフェニル)ボロン、トリス(3,5−ジフルオロフェニル)ボロン、トリス(4−フルオロメチルフェニル)ボロン、三塩化ホウ素、トリエトキシホウ素、酸化ホウ素などのイオン性ホウ素化合物以外のホウ素化合物、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリsec−ブチルアルミニウム、トリフェニルアルミニウム、トリトリルアルミニウム、ジイソブチルアルミニウムハイドライド、ジメチルアルミニウムメトキシド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジブチルアルミニウムブトキシド、アルミノキサン化合物、有機アルミニウムオキシ化合物などのアルミニウム化合物、塩化チタン(IV)、テトライソプロポキシチタン、トリメトキシチタンモノクロリド、酸化チタンなどのチタン化合物、塩化亜鉛、ジエトキシ亜鉛、酸化亜鉛などの亜鉛化合物、塩化スズ(IV)、酸化スズ(IV)などのスズ化合物、塩化アンチモン(V)、酸化アンチモン(V)などのアンチモン化合物を挙げることができる。
【0048】
本発明のノルボルネン化合物重合用触媒における活性化剤の使用量は、特に限定されないが、用いるパラジウム化合物中のパラジウム原子1モルに対して、0.5〜10モルの範囲であることが好ましく、0.7〜2モルの範囲であることがより好ましく、1.0〜1.5モルの範囲であることが特に好ましい。
【0049】
以上で述べたようなパラジウム化合物および活性化剤を用いて、本発明のノルボルネン化合物重合用触媒を調製する方法は、特に限定されず、例えば、予めトルエンなどの不活性溶媒中でパラジウム化合物および活性化剤を混合することにより調製しても良いし、重合する単量体にパラジウム化合物および活性化剤を順次添加することにより単量体の存在下において調製しても良い。
【0050】
本発明のノルボルネン化合物重合用触媒は、式(1)で表されるノルボルネン化合物を付加重合させるために用いられるものである。すなわち、本発明のノルボルネン化合物重合用触媒は、式(1)で表されるノルボルネン化合物の1種を付加重合するため、式(1)で表されるノルボルネン化合物の2種以上を付加共重合するため、または式(1)で表されるノルボルネン化合物の1種以上とその他の単量体1種以上とを付加共重合するために用いられる。
【0051】
【化5】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を表し、RとRが結合して環を形成してもよい。nは0または1である。)
【0052】
本発明のノルボルネン化合物重合用触媒は、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、特に好ましくは99重量%以上、最も好ましくは実質的に100重量%含んでなる単量体混合物を付加重合させるために好適に用いられるものである。従来のノルボルネン化合物重合用触媒では、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンの含有割合が高い単量体混合物を用いると、得られる付加重合体の有機溶媒への溶解性が劣るという問題があったが、本発明のノルボルネン化合物重合用触媒を用いることにより、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを単独で単量体として用いた場合であっても、有機溶媒への溶解性に優れる付加重合体を得ることができるからである。
【0053】
本発明のノルボルネン化合物付加重合体の製造方法は、本発明のノルボルネン化合物重合用触媒を用いて、式(1)で表されるノルボルネン化合物を付加重合させることを特徴とするものである。
【0054】
本発明のノルボルネン化合物付加重合体の製造方法において、付加重合させる単量体として用いられる式(1)で表されるノルボルネン化合物の具体例としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−オクチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−デシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5、6−ジメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−メチル−6−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−シクロヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−エチリデンビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−フェニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ベンジルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−インダニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ビニリデンビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−(1−ブテニル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン、3−メチルトリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン、5,6−ベンゾビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、 9−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−エチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−プロピルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−ブチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エンを挙げることができ、これらの中でも、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンが特に好ましく用いられる。これらのノルボルネン化合物は、1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0055】
また、本発明のノルボルネン化合物付加重合体の製造方法では、式(1)で表されるノルボルネン化合物に、他の単量体を付加共重合させても良い。本発明で用いられ得る他の単量体としては、例えば、5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−エトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−エトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エニル−2−メチルプロピオネイト、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エニル−2−メチルオクタネイト、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物、5−ヒドロキシメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,6−ジ(ヒドロキシメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,5−ジ(ヒドロキシメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ヒドロキシ−i−プロピルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,6−ジカルボキシビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メトキシカルボニル−6−カルボキシビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸イミドなどの式(1)で表されるノルボルネン化合物以外のノルボルネン化合物を挙げることができる。これらの単量体は、1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0056】
本発明のノルボルネン化合物付加重合体の製造方法では、付加重合させる単量体全体に対する式(1)で表されるノルボルネン化合物が占める割合が、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、特に好ましくは99重量%以上、最も好ましくは実質的に100重量%である。また、本発明のノルボルネン化合物付加重合体の製造方法では、付加重合させる単量体全体に対するビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンが占める割合が、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、特に好ましくは99重量%以上、最も好ましくは実質的に100重量%である。このような単量体を付加重合させることにより、特に耐熱性、寸法安定性および透明性に優れるノルボルネン化合物付加重合体を得ることができる。
【0057】
本発明のノルボルネン化合物付加重合体の製造方法では、重合触媒として本発明のノルボルネン化合物重合用触媒を用いること以外は、従来公知の手法に従って重合反応を行うことができる。重合反応は、塊状で行うことも可能であるが、溶媒中で行うことが好ましい。使用する溶媒は特に限定されないが、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素、ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素系炭化水素、ジエチルエ−テル、テトラヒドロフランなどのエ−テル類などの溶剤を使用することができる。重合反応は、単量体と、ノルボルネン化合物重合用触媒の成分であるパラジウム化合物および活性化剤とを混合することによって開始され、混合する順序は特に制限されない。
【0058】
ノルボルネン化合物重合用触媒の使用量は、特に限定されないが、(ノルボルネン化合物重合用触媒として用いるパラジウム化合物中のパラジウム原子:単量体全体)のモル比で、通常1:100〜1:2,000,000の範囲であり、好ましくは1:200〜1:1,000,000の範囲であり、より好ましくは1:500〜1:500,000範囲である。
【0059】
重合温度は特に制限されないが、通常−30℃〜150℃、好ましくは−10℃〜120℃である。重合時間にも特に制限はなく、通常1分間〜100時間である。重合反応終了後、常法により触媒の除去や乾燥を行なうことにより、目的とするノルボルネン化合物付加重合体を単離することができる。
【0060】
以上のようにして得られるノルボルネン化合物付加重合体の分子量は、特に限定されないが、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)の測定によるポリイソプレン換算の値として、数平均分子量(Mn)が通常5,000〜800,000、好ましくは10,000〜600,000、より好ましくは20,000〜500,000であり、分子量分布(Mw/Mn)が通常1.0〜8.0、好ましくは1.1〜6.0、より好ましくは1.2〜4.0である。なお、ノルボルネン化合物付加重合体の分子量は、重合温度、重合触媒の量および単量体の濃度の調節や、分子量調整剤の添加などにより調節することが可能である。分子量調整剤としては、ノルボルネン化合物の付加重合における従来公知の分子量調整剤を用いることができ、その具体例としては、1−ヘキセンなどのα−オレフィン化合物、シクロペンテンなどの単環の環状オレフィン化合物、スチレンなどの芳香族ビニル化合物、ビニルトリメトキシシランなどのシラン化合物、アクリル酸メチルなどのアクリル酸エステル、水素を挙げることができる。
【0061】
本発明のノルボルネン化合物付加重合体の製造方法によれば、有機溶媒への溶解性に優れるノルボルネン化合物付加重合体を得ることができる。具体的には、本発明で得られるノルボルネン化合物付加重合体は、通常、室温(23℃)においてシクロヘキサンに可溶のものである。また、本発明で得られるノルボルネン化合物付加重合体は、室温(23℃)において、通常、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレンなどの脂環式炭化水素溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、トリフルオロエタン、トリクレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素溶媒、およびベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メチルナフタレン、テトラリンなどの芳香族炭化水素溶媒にも可溶のものである。
【0062】
本発明により得られるノルボルネン系付加重合体の用途は特に限定されないが、例えば、カラーフィルター用基板、導光板、保護フィルム、偏光フィルム、位相差フィルム、タッチパネル、透明電極基板、光学記録基板、TFT用基板、液晶表示基板、有機EL表示基板、光伝送用導波路、光学素子封止材などの光学部材、電線・ケーブルの被覆材料、OA機器の絶縁材料、フレキシブルプリント基板の絶縁部品などの電気絶縁部材、容器、トレイ、キャリアテープ、セパレーション・フィルム、洗浄容器、パイプ、チューブ、半導体素子封止材、集積回路封止材、オーバーコート材などの電気・電子部品、薬品容器、輸液用バッグ、サンプル容器、滅菌容器、医療用チューブなどの医療用器材として好適に用いることができ、これらのなかでも、溶液流延法(キャスト法)により成形を行う用途に特に好適に用いることができる。また、本発明により得られるノルボルネン系付加重合体には、必要に応じて、各種の添加剤を添加することができる。添加剤の具体例としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、難燃剤、帯電防止剤、着色剤、レベリング剤、スリップ剤、滑剤、ワックス、防曇剤、硬化剤、有機充填剤、無機充填剤、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム性重合体などを挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0063】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。なお、各例中の部および%は、特に断りのない限り、重量基準である。
【0064】
また、各例で得られた重合体の分子量(重量平均分子量および数平均分子量)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)システム HLC−8220(東ソー社製)で、Hタイプカラム(東ソー社製)を用い、シクロヘキサンを溶媒として40℃で測定し、ポリイソプレン換算値として求めた。
【0065】
〔実施例1〕
充分に乾燥した後、窒素置換したガラス製耐圧反応容器に、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンの70%シクロヘキサン溶液7.14部(ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンの量として5.00部)を仕込み、さらに、シクロヘキサン34.2部を加え、60℃に加温した。一方、ジ−μ−ブロモビス(トリ−t−ブチルホスフィノ)ジパラジウム0.0021部(パラジウム原子:単量体全体(モル比)=1:10,000)を5部のトルエンに溶解した溶液に、リチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート0.0036部を5部のトルエンに溶解した溶液を加えて攪拌し、重合触媒溶液を調製した。この触媒溶液全量を耐圧反応容器に加えて、重合反応を開始した。重合反応の開始から5時間後に、少量のイソプロパノールを加えて、重合反応を停止した。重合反応溶液は、透明な高粘度溶液であり、重合体は溶媒であるトルエンに溶解していた。得られた重合反応溶液を多量のイソプロパノール中に注ぎ込み、重合体を凝固させた。凝固した重合体をろ過により、溶液より分離して、重合体を回収した。得られた重合体を、減圧下60℃で10時間乾燥することにより残留溶媒を除去すると、重合体の収量は3.6部(収率=72%)であった。また、この重合体の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、それぞれ、126,000および251,000であり、これらから求められる分子量分布(Mw/Mn)は1.99であった。また、得られた重合体1.5部をシクロヘキサン8.5部に溶かしたところ、重合体はきれいに溶解した。
【0066】
〔実施例2〕
60℃に加温する前の反応容器に、さらに、分子量調整剤として1−ヘキセン0.89部を加えたこと以外は、実施例1と同様にしてビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを重合し、得られた重合体を乾燥させた。重合反応溶液は、透明な高粘度溶液であり、重合体は溶媒であるトルエンに溶解していた。重合体の収量は3.2部(収率=64%)であった。また、この重合体の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、それぞれ、60,000および113,000であり、これらから求められる分子量分布(Mw/Mn)は1.88であった。また、得られた重合体1.5部をシクロヘキサン8.5部に溶かしたところ、重合体はきれいに溶解した。
【0067】
〔実施例3〕
ジ−μ−ブロモビス(トリ−t−ブチルホスフィノ)ジパラジウムに代えて、ビス(トリ−t−ブチルホスフィン)パラジウム0.0027部(パラジウム原子:単量体全体(モル比)=1:10,000)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを重合し、得られた重合体を乾燥させた。重合反応溶液は、透明な高粘度溶液であり、重合体は溶解していた。重合体の収量は5.0部(収率=100%)であった。また、この重合体の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、それぞれ、283,000および487,000であり、これらから求められる分子量分布(Mw/Mn)は1.72であった。また、得られた重合体1.5部をシクロヘキサン8.5部に溶かしたところ、重合体はきれいに溶解した。
【0068】
〔実施例4〕
60℃に加温する前の反応容器に、さらに、1−ヘキセン0.89部を加えたこと以外は、実施例3と同様にしてビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを重合し、得られた重合体を乾燥させた。重合反応溶液は、透明な高粘度溶液であり、重合体は溶解していた。重合体の収量は5.0部(収率=100%)であった。また、この重合体の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、それぞれ、57,000および101,000であり、これらから求められる分子量分布(Mw/Mn)は1.77であった。得られた重合体1.5部をシクロヘキサン8.5部に溶かしたところ、重合体はきれいに溶解した。
【0069】
〔実施例5〕
ジ−μ−ブロモビス(トリ−t−ブチルホスフィノ)ジパラジウムに代えて、ジ[1,3−ビス(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)イミダゾリン−2−イリデン]パラジウム0.0045部(パラジウム原子:単量体全体(モル比)=1:10,000)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを重合し、得られた重合体を乾燥させた。重合反応溶液は、透明な高粘度溶液であり、重合体は溶解していた。重合体の収量は5.0部(収率=100%)であった。また、この重合体の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、それぞれ、182,000および374,000であり、これらから求められる分子量分布(Mw/Mn)は2.06であった。また、得られた重合体1.5部をシクロヘキサン8.5部に溶かしたところ、重合体はきれいに溶解した。
【0070】
〔実施例6〕
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンの70%シクロヘキサン溶液7.14部に代えて、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンの70%シクロヘキサン溶液5.40部(ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンの量として3.78部)に5−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン1.22部を添加したものを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作によって、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンと5−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンとの共重合を行い、得られた重合体を乾燥させた。重合反応溶液は、透明な高粘度溶液であり、重合体は溶解していた。重合体の収量は3.9部(収率=78%)であった。また、この重合体の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、それぞれ91,000および187,000であり、これらから求められる分子量分布(Mw/Mn)は2.06であった。また、得られた重合体1.5部をシクロヘキサン8.5部に溶かしたところ、重合体はきれいに溶解した。
【0071】
〔実施例7〕
ジ−μ−ブロモビス(トリ−t−ブチルホスフィノ)ジパラジウムに代えて、ビス(トリ−t−ブチルホスフィン)パラジウム0.0027部を用いたこと以外は、実施例6と同様にして、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンと5−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンとの共重合を行い、得られた重合体を乾燥させた。重合反応溶液は、透明な高粘度溶液であり、重合体は溶解していた。重合体の収量は4.9部(収率=98%)であった。また、この重合体の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、それぞれ、182,000および374,000であり、これらから求められる分子量分布(Mw/Mn)は2.06であった。また、得られた重合体1.5部をシクロヘキサン8.5部に溶かしたところ、重合体はきれいに溶解した。
【0072】
〔比較例1〕
ジ−μ−ブロモビス(トリ−t−ブチルホスフィノ)ジパラジウムに代えて、2価のパラジウム化合物である(アリル)パラジウム(トリシクロヘキシルホスフィン)クロリド0.0025部(パラジウム原子:単量体全体(モル比)=1:10,000)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを重合した。重合反応途中で、重合反応液は白く濁り、最終的には固化した。重合体の収量は5.0部(収率=100%)であった。また、この重合体は、シクロヘキサンに溶解しないため、分子量測定ができなかった。得られた重合体1.5部をシクロヘキサン8.5重量部に溶かそうとしたところ、重合体は全く溶解しなかった。
【0073】
〔比較例2〕
ジ−μ−ブロモビス(トリ−t−ブチルホスフィノ)ジパラジウムに代えて、2価のパラジウム化合物である(アリル)パラジウム(1,3−ジメシチルイミダゾリン−2−イリデン)クロリド0.0026部(パラジウム原子:単量体全体(モル比)=1:10,000)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを重合した。重合反応途中で、重合反応液は白く濁り、最終的には固化した。重合体の収量は5.0重量部(収率=100%)であった。また、この重合体は、シクロヘキサンに溶解しないため、分子量測定ができなかった。得られた重合体1.5部をシクロヘキサン8.5部に溶かそうとしたところ、重合体は全く溶解しなかった。
【0074】
〔比較例3〕
ジ−μ−ブロモビス(トリ−t−ブチルホスフィノ)ジパラジウムに代えて、2価のパラジウム化合物である(アリル)パラジウム(トリシクロヘキシルホスフィン)クロリド0.0025部を用いたこと以外は、実施例6と同様にしてビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンと5−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンとの共重合を行った。重合反応途中で、重合反応液は白く濁り、最終的には固化した。重合体の収量は5.0部(収率=100%)であった。また、この重合体は、シクロヘキサンに溶解しないため、分子量測定ができなかった。得られた重合体1.5部をシクロヘキサン8.5部に溶かそうとしたところ、重合体は全く溶解しなかった。
【0075】
実施例1〜7の結果から分かるように、1価のパラジウム化合物であるジ−μ−ブロモビス(トリ−t−ブチルホスフィノ)ジパラジウムや0価のパラジウム化合物であるビス(トリ−t−ブチルホスフィン)パラジウムまたはジ[1,3−ビス(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)イミダゾリン−2−イリデン]パラジウムをリチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートと組み合わせてなる触媒を用いれば、少量の触媒使用量で、シクロヘキサンへの溶解性に優れるビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンの付加重合体を高い収率で得ることができる。これに対して、比較例1〜3のように、2価のパラジウム化合物であるビス(トリ−t−ブチルホスフィン)パラジウムなどをリチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートと組み合わせてなる触媒を用いると、得られるビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンの付加重合体は、シクロヘキサンに不溶なものとなるといえる。したがって、本発明のノルボルネン化合物重合用触媒を用いることにより、有機溶媒への溶解性に優れるノルボルネン化合物付加重合体を高い重合活性で与えることが可能になるといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるノルボルネン化合物を付加重合するために用いられるノルボルネン化合物重合用触媒であって、ホスフィン化合物または窒素原子含有カルベン化合物を配位子として有する、0価または1価のパラジウム化合物と、当該パラジウム化合物の触媒活性を向上させる活性化剤とを含んでなることを特徴とするノルボルネン化合物重合用触媒。
【化1】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を表し、RとRが結合して環を形成してもよい。nは0または1である。)
【請求項2】
活性化剤がイオン性ホウ素化合物である請求項1に記載のノルボルネン化合物重合用触媒。
【請求項3】
請求項1または2に記載のノルボルネン化合物重合用触媒を用いて、式(1)で表されるノルボルネン化合物を付加重合させることを特徴とするノルボルネン化合物付加重合体の製造方法。
【請求項4】
ノルボルネン化合物がビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンである請求項3に記載のノルボルネン化合物付加重合体の製造方法。

【公開番号】特開2012−12486(P2012−12486A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150079(P2010−150079)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】