説明

ノンハロゲン難燃性樹脂組成物及びそれを用いた電線・ケーブル

【課題】 端末加工性および耐外傷性に優れたノンハロゲン難燃性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 ポリオレフィンに金属水酸化物系難燃剤を混和してなるノンハロゲン難燃性樹脂組成物において、上記ポリオレフィンを含むコンパウンドで構成されるポリオレフィン部が、ポリスチレン成分を3〜25重量%含み、かつ組成物全体のヤング率が120〜250MPaであるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン物質や鉛・アンチモンなどの有害な重金属を含まない環境配慮型のノンハロゲン難燃性樹脂組成物及びそれを用いた電線・ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電線・ケーブル用の被覆材料としては、柔軟性、難燃性、コストの点から最もバランスのとれたポリ塩化ビニル(PVC)が用いられている。近年は安定剤として従来から用いられてきた鉛化合物から埋立て廃棄時に鉛が土中に溶出するという問題から、鉛を使用しない非鉛PVCが主流となっている。しかし非鉛PVCを用いてもハロゲン物質のPVCが大量に含まれているため、焼却時には有害な塩素系ガスを多量に発生するおそれがあり、焼却条件によっては有害なダイオキシンを発生するおそれがある。
【0003】
最近、非ハロゲン電線・ケーブル(例えば、ビル内設備用ケーブル)として、被覆材料に「エコマテリアル」を使用した電線・ケーブルが普及してきている。「エコマテリアル」とは、エチレン−エチルアクリレートやエチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン−αオレフィン共重合体、低密度ポリエチレンなどの軟質のエチレン系ポリマに、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物系難燃剤を多量に混和してなるノンハロゲン難燃性樹脂組成物の総称である。
【0004】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、次のものがある。
【0005】
【特許文献1】特開2001−160316号公報
【特許文献2】特開平6−76644号公報
【特許文献3】特開2001−236833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
様々な工業分野で電線・ケーブルを加工、布設する場合、端末被覆の除去(ストリップ)が必要となる。特に自動車や電子機器など、電線・ケーブルをハーネス化することが求められる業界では、端末加工専用の高速自動加工機を量産設備として用いることが多い。また、手作業よる配線作業においても、ハンドワイヤストリッパがしばしば使用される。
【0007】
しかしながら、電線・ケーブルの絶縁体またはシース材料として、ポリエチレンなど熱可塑性のエチレン系ポリマが使用されている場合、ストリッパのブレードによりエチレン系ポリマが引張応力を受けるため、ブレードの隙間に存在する被覆材料が塑性変形して延伸、破断される。その結果、例えば、図11に示すような導体112の外周に絶縁体113を被覆した電線111では、被覆をストリップしたあとにヒゲ状の切残し(以下、これを単にヒゲと称する)bが発生することが多い。
【0008】
被覆材料として上述のエコマテリアルを用いた場合も、同様のヒゲが発生しやすい傾向にある。ヒゲは電線端末に金属端子を圧着する際の導通不良の原因となり得るため、端末加工性を向上するために、これを排除する必要がある。これらの問題から、従来のエコマテリアルで、ハーネスのノンハロゲン化を実現することは困難であった。
【0009】
また、エコマテリアルには、金属水酸化物を多量に混和してもなお、十分な機械物性を保持させるため、そのベースポリマとしてはフィラー充填性に優れた軟質のエチレン系ポリマが選択されている。しかし、軟質のエチレン系ポリマは、結晶部が少なく逆にゴム状の非晶部が多いことに加え、充填された金属水酸化物が掘り起こされることにより、PVCなど分子間凝集力が強いポリマと比べ、非常に外傷が付き易いことが指摘されている。
【0010】
一方、電線やケーブルを用いる製品の加工・組み立て・布設現場においては、しばしば激しい外力を受けるため、エコマテリアルで被覆された環境配慮型電線・ケーブルはその表面が著しく損傷する。このことから耐外傷性に優れた環境配慮型の電線・ケーブルが望まれている。
【0011】
そこで、本発明の目的は、端末加工性および耐外傷性に優れたノンハロゲン難燃性樹脂組成物及びそれを用いた電線・ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の問題点を解決するため、従来の「エコマテリアル」の材料組成を根底から見直し、端末加工性を向上させると共に、電線・ケーブルの表面に耐外傷性を付与するノンハロゲン難燃性樹脂組成物を鋭意研究した。
【0013】
その結果、本発明者らは、ポリオレフィンを含むコンパウンドで構成されるポリオレフィン部がポリスチレン成分を所定量含み、かつ組成物全体のヤング率が所定値であるノンハロゲン難燃性樹脂組成物が、従来の「エコマテリアル」に比べ、端末加工性と耐外傷性を著しく改良し得ることを見出し、本発明を創案するに至った。
【0014】
また、このノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いて、絶縁体又は/及びシースを形成した電線、あるいはケーブルは、端末加工性、耐外傷性、伸びに優れる。
【0015】
すなわち、本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、ポリオレフィンに金属水酸化物系難燃剤を混和してなるノンハロゲン難燃性樹脂組成物において、上記ポリオレフィンを含むコンパウンドで構成されるポリオレフィン部が、ポリスチレン成分を3〜25重量%含み、かつ組成物全体のヤング率が120〜250MPaであるノンハロゲン難燃性樹脂組成物である。
【0016】
請求項2の発明は、ポリオレフィンに金属水酸化物系難燃剤を混和してなるノンハロゲン難燃性樹脂組成物において、上記ポリオレフィンとポリスチレンコンパウンドとで構成されるポリオレフィン部が、ポリスチレン成分を3〜25重量%含み、かつ組成物全体のヤング率が120〜250MPaであるノンハロゲン難燃性樹脂組成物である。
【0017】
請求項3の発明は、上記ポリスチレンコンパウンドは、ポリスチレン単体、ブロックポリマー型のスチレン系エラストマ、あるいはそれらの混合物である請求項2記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物である。
【0018】
請求項4の発明は、上記ポリオレフィン部100重量部に対し上記金属水酸化物系難燃剤を30〜350重量部混和してなる請求項1〜3いずれかに記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物である。
【0019】
請求項5の発明は、請求項1〜4いずれかに記載されたノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いて、絶縁体又は/及びシースを形成した電線・ケーブルである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、端末加工性、耐外傷性、伸びに優れるという顕著な効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施の形態を説明する。
【0022】
本実施の形態に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、ポリオレフィンに金属水酸化物系難燃剤を混和してなり、ポリオレフィンを含むコンパウンド(混合物)で構成されるポリオレフィン部が、ポリスチレン(以下、PSと称す)成分を3〜25重量%、好ましくは4〜24重量%、より好ましくは4.4〜23重量%、さらに好ましくは5〜9重量%含み、かつ樹脂組成物全体(樹脂組成物自体)のヤング率が120〜250MPa、好ましくは125〜240MPa、さらに好ましくは125〜200MPaである。ポリオレフィン部は、例えば、ポリオレフィンとPSコンパウンドとで構成される。
【0023】
ポリオレフィン部のPS成分含有量を3〜25重量%としたのは、PS成分含有量が3重量%未満の場合、PS成分の添加効果が小さいため、端末ストリップ時にヒゲ(例えば、図11で説明したようなヒゲb)が発生しやすいからである。また、PS成分含有量が25重量%を超える場合、PS成分の有する脆性が樹脂組成物全体に影響するため、樹脂組成物の伸びが低下するからである。
【0024】
樹脂組成物全体のヤング率を120〜250MPaにしたのは、ヤング率が120MPa未満の場合、樹脂組成物の耐外傷性の改良効果が見られないからである。これは、系外(外部)から与えられた摩擦力により、樹脂組成物の表面層だけでなく内部まで変形され、影響を受けた領域が大きく損傷してしまうためと考えられる。また、ヤング率が250MPaを超える場合、樹脂組成物の伸びが急激に低下するからである。これは、異常に高い弾性率が樹脂組成物の塑性変形を阻害するためと考えられる。
【0025】
ここで、ヤング率とは、引張試験速度200mm/minにおける、図5に示す樹脂組成物の抗張力−歪み曲線51において、抗張力が0.5Nと10Nとなる二点間を結ぶ直線52から算出した傾きの値を指す。
【0026】
ポリオレフィンとは、オレフィンを単独重合または共重合させたものを指し、
低密度ポリエチレン(LDPE)、
直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、
直鎖状超低密度ポリエチレン(VLDPE)、
高密度ポリエチレン(HDPE)、
エチレン−メチルメタクリレート共重合体(EMMA)、
エチレン−メチルアクリレート共重合体(EMA)
エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、
エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、
エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、
エチレン−ブテン1共重合体(例えば、エチレンブテンゴム)、
エチレン−ブテン−ヘキセン三元共重合体、
エチレン−ヘキセン共重合体、
エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)、
エチレン−オクテン共重合体(EOR)、
ポリプロピレン(PP)、
エチレン共重合ポリプロピレン(例えば、ブロックPP)、
エチレン−プロピレン共重合体(EPR)、
ポリ・4・メチル−ペンテン−1、
水素添加スチレン−ブタジエン共重合体(H−SBR)、
エチレンと炭素数が4〜20のαオレフィンとの共重合体、
エチレン−スチレン共重合体、
ポリブタジエン、
水素添加ポリブタジエン、
ブテン−1を主成分とするエチレン−プロピレン−ブテン・1三元共重合体
などが挙げられる。
【0027】
本実施の形態では、ポリオレフィンとして、これらの単独または2種以上をブレンドした材料を用いる。
【0028】
ポリオレフィンとして、好ましくは後述するブロックポリマー型のスチレン系エラストマと相溶性が高く、機械的強度に優れたポリプロピレン、エチレン−αオレフィン(炭素数4〜8)共重合体が望ましい。
【0029】
PSコンパウンドとしては、PS単体(例えば、GP−PS(汎用ポリスチレン))、ブロックポリマー型のスチレン系エラストマ、あるいはそれらの混合物が挙げられる。PSコンパウンドは、少なくともPS成分を含むものであれば特に限定されるものではなく、ポリオレフィン成分を含んでいてもよい。
【0030】
ブロックポリマー型のスチレン系エラストマとしては、
SBS(PS−ポリブタジエン−PSトリブロック共重合体)、
SIS(PS−ポリイソプレン−PSトリブロック共重合体)、
SEBS(PS−ポリエチレン/ブチレン−PSトリブロック共重合体)、
SEEPS(PS−ポリエチレン/エチレンプロピレン−PSトリブロック共重合体)、SB(PS−ポリブタジエンジブロック共重合体)、
SEB(PS−ポリエチレン/ブタジエンジブロック共重合体)、
SEP(PS−ポリエチレン/プロピレンジブロック共重合体)、
PS−ポリ酢酸ビニルグラフト共重合体
などが挙げられる。
【0031】
本実施の形態では、ブロックポリマー型のスチレン系エラストマとして、これらの単独または2種以上をブレンドした材料を用いる。特に、トリブロック共重合体型のスチレン系エラストマは、耐外傷性にも優れるため好適である。
【0032】
スチレン系エラストマは分子中にポリスチレンブロックと柔軟なポリオレフィン構造のエラストマブロックで構成されており、ポリスチレンブロックはPSのガラス転移温度(Tg)以下では架橋点の役割を持つ。このため、分子鎖の変形・移動が制限され、耐外傷性の向上にも寄与しているものと考えている。これはポリオレフィンとブレンドされた場合においても、スチレン系エラストマがポリスチレンブロックを介して三次元の網目状に繋がり、一方のポリオレフィンがこの網目の中に閉じ込められると考えられる。すなわちポリオレフィンブレンド系において、スチレン系エラストマは海島構造の海としての役割を果たしているため、耐外傷性の向上効果が発現するものと考えている。
【0033】
金属水酸化物系難燃剤としては、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2 )、水酸化アルミニウム(Al(OH)3 )、ハイドロタルサイト、カルシウムアルミネート水和物、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、ハードクレー等を挙げることができる。本実施の形態では、金属水酸化物系難燃剤として、これらの単体または2種以上をブレンドした材料を用いる。金属水酸化物系難燃剤としては、難燃化効果の高い水酸化マグネシウムが最も好適である。
【0034】
水酸化マグネシウムとしては、合成水酸化マグネシウム、天然ブルーサイト鉱石を粉砕した天然水酸化マグネシウム、Niなど他の元素との固溶体となったものが挙げられる。一般に天然品の方が合成品より安価であり、経済的に有利である。
【0035】
水酸化マグネシウムとしては、機械的特性、分散性、難燃性の点からレーザー式粒度分布計により測定した平均粒子径が4μm以下であり、かつ全体積に対する10μm以上の粗粒分が10%以下のものがより好適である。
【0036】
これらの粒子表面を耐水性、分散性等を考慮し、定法にしたがって脂肪酸(例えば、ステアリン酸)、脂肪酸金属塩、シラン系カップリング剤(例えば、ビニルシラン)、チタネート系カップリング剤またはアクリル樹脂、フェノール樹脂、カチオン性またはノニオン性を有する水溶性樹脂(例えば、カチオンポリマ)等で表面処理するとよい。中でもカチオンポリマで表面処理した金属水酸化物系難燃剤は、マトリックスのポリマと強く密着するために耐外傷性に優れており、より好ましい。
【0037】
金属水酸化物系難燃剤の総混和量は、ポリオレフィン部100重量部に対して30〜350重量部が好ましい。これは、30重量部未満では難燃化効果が小さく、350重量部を超えると樹脂組成物の成形加工性が著しく低下するからである。
【0038】
なお、樹脂組成物には、必要に応じて難燃助剤、酸化防止剤(例えば、フェノール系酸化防止剤)、滑剤、界面活性剤、軟化剤、可塑剤、無機充填剤、相溶化剤、安定剤、架橋剤、金属キレート剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤等の添加物を加えてもよい。
【0039】
難燃助剤としてはポリリン酸アンモニウム、赤リン、リン酸エステルなどのリン系難燃剤、ポリシロキサン等のシリコーン系難燃剤、メラミンシアヌレート、シアヌル酸誘導体、テトラゾール系化合物などの窒素系難燃剤、ホウ酸亜鉛などのホウ酸化合物、モリブデン化合物などを挙げることができる。
【0040】
本実施の形態の作用を説明する。
【0041】
本実施の形態に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、ポリオレフィンとPSコンパウンドとで構成されるポリオレフィン部が、PS成分を3〜25重量%含んでいる。ポリオレフィンとPS成分は非相溶であるため、PS成分はポリオレフィン中で凝集して分散相を形成する。このことを機械物性面から見ると、樹脂組成物の変形時において、PS凝集部が応力集中点となるため、PS凝集部が破壊の核になると考えられる。
【0042】
このため、端末自動加工機での端末加工のように瞬時に大きな応力が加わる環境下では、樹脂組成物が塑性変形により延伸されることなく破断に至る。したがって、本実施の形態に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、端末加工性に優れている。
【0043】
また、樹脂組成物の表面に外傷が付く原因は、金属・無機物・コンクリート・木材・各種建材など、より硬質の材料表面と樹脂組成物表面の間での強い摩擦により、樹脂組成物表面に存在する分子が大きく変形・移動することによると考えられる。これを防止するために分子鎖を架橋することは有効であるが、架橋処理工程が増えるため、大幅なコストアップを招く。
【0044】
本実施の形態に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、全体のヤング率が120〜250MPaであることから、外部から摩擦力を受けても、その影響が樹脂組成物の表面層に止まるため、架橋処理が不要であり、損傷面積が小さく、耐外傷性に優れる。しかも、樹脂組成物が適切な弾性率を有するため、伸びに優れる。
【0045】
特に、PSコンパウンドとして、トリブロック共重合体型のスチレン系エラストマを含む場合、スチレンブロックがPSのガラス転移温度(Tg)以下では架橋点の役割を持ち、分子鎖の変形・移動を制限するため、樹脂組成物の耐外傷性がさらに向上する。
【0046】
次に、本実施の形態に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた電線の一例を説明する。
【0047】
図6に示すように、電線(絶縁電線)61は、複数本の導体(例えば、銅線)62を撚り合わせた撚り線導体63とし、撚り線導体63の外周を上述した樹脂組成物で形成した絶縁体64で被覆したものである。
【0048】
この電線61によれば、上述と同様の理由により、端末ストリップ時にヒゲ(例えば、図11で説明したようなヒゲb)が極めて発生しにくいので、端末加工性に優れ、ハーネスのノンハロゲン化を実現できる。また、耐外傷性、伸びにも優れている。
【実施例】
【0049】
(実施例1〜8)
表1に示す材料組成でノンハロゲン難燃性樹脂組成物および電線を以下の要領で作製した。実施例1〜8の各樹脂組成物は、200℃に予熱した73mm二軸混練機(神戸製鋼製 KTX73)で混練、ペレット化して作製し、電線被覆用材料とした。実施例1〜8の各電線は、図6の電線61であり、65mm押出機を用いて、0.3SQ(断面積0.3mm2 )の銅撚り線導体63に実施例1〜8の各樹脂組成物を被覆厚さ0.35mmで押出し、絶縁体64を形成して作製した。芯線加熱温度は100℃に設定し、240mm/minの速度で製造した。
【0050】
(比較例1〜8)
表2に示す材料組成でノンハロゲン難燃性樹脂組成物および電線を作製した。
【0051】
各電線の評価は以下に示す方法で行った。◎または○判定が合格、△、×判定が不合格である。
【0052】
(1)引張試験
作製した各電線120mmから導体を除去したチューブ形状の絶縁体に対し、引張速度200mm/min引張試験を行い、破断時の伸び、引張強さ、ヤング率を測定した。各配合につき5点行い、その平均を表1に示した。伸びは100%以上200%未満のものを○、200%以上のものを◎、100%未満を×とした。ヤング率の測定は図5に示した方法で行った。
【0053】
(2)耐外傷性試験
作製した各電線試料を端末自動加工機により加工し、各電線表面の傷付き程度を評価した。自動加工機は日本端子(株)製 NAC90を用い、電線切断長600mm、皮むき寸法5.0mmの加工電線を100本作製した。送りローラで発生した電線表面の外傷の状況例を図7に示した。損傷部71を実体顕微鏡で観察し、加工電線100本の平均の損傷面積を算出した。損傷面積が0.7mm2 未満を◎、0.7mm2 以上2.0mm2 未満を△、2.0mm2 以上を×とした。
【0054】
(3)端末加工性試験
自動加工機による上記の加工電線試料100本の両端末200箇所のうち、ヒゲの発生が2箇所以下であるものを◎、3箇所以上のものを×とした。
【0055】
表1に実施例1〜8の樹脂組成物の材料組成と各電線の特性評価、表2に比較例1〜8の樹脂組成物の材料組成と各電線の特性評価を示す。表1および表2において、PS成分含有量を除き、材料組成の単位は重量部である。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
表1および表2に示した各電線の特性評価を図1〜図4に示す。図1はPS成分の含有量とヒゲ発生数との関係、図2はPS成分の含有量と伸びとの関係、図3はヤング率と損傷面積との関係、図4はヤング率と伸びとの関係を示す図である。図1〜図4中の黒ひし形印は実施例、四角印は比較例を示す。
【0059】
表1に示すように、実施例1〜8は、ポリオレフィン部(ポリオレフィン+PSコンパウンド)がPS成分を4.0〜24.0重量%含み、ヒゲ発生数が0〜2箇所と少ないため、端末加工性に優れている(図1)。
【0060】
さらに、実施例1〜8は、ヤング率が125〜240MPaであり、損傷面積が0.24〜0.65mm2 と小さいため、耐外傷性に優れ(図3)、伸びも150〜375%と優れている(図2、図4)。
【0061】
これに対し、表2に示すように、PS成分が3重量%未満の比較例1,2は、端末加工時に多くのヒゲが発生するため、端末加工性に劣る(図1)。また、PS成分が25重量%を超える比較例3,4は、伸びが100%未満と低い(図2)。
【0062】
ここで、表1および表2に示すように、PS成分を3〜25重量%含むもののうち、ヤング率が120MPa以上の実施例1〜8と、ヤング率が120MPa未満の比較例5,6とを比較すると、実施例1〜8の耐外傷性は全て◎判定の合格であり、優れている。比較例5,6の耐外傷性は△判定の不合格である(図3)。
【0063】
一方、ヤング率が120MPa以上であっても、PS成分を含まない比較例2は、ヤング率がほぼ同じレベルの実施例4,8に比して耐外傷性が劣っている(図3)。このことから、PS成分は耐外傷性にも大きく寄与していることがわかる。
【0064】
また、PS成分を3〜25重量%含むもののうち、ヤング率が250MPa以上の比較例7,8では、ヤング率が250MPa未満の実施例1〜8に比べ、伸びが100%未満に低下する。
【0065】
ここで、より詳細に実施例1〜8と比較例1〜8を比較する。
【0066】
実施例1,2,4,6,8は、軟質で機械物性に優れたVLDPEを使用することで充分な伸びを確保し、そこに硬質のブロックPP、さらに樹脂との密着性の高い表面処理剤を使用した水酸化マグネシウムを混和することでヤング率を高めている。ただし、これだけでは端末加工時にヒゲが発生するため、PSコンパウンドをさらに添加する。5%以上PS成分があれば確実にヒゲの発生を抑えられるため、VLDPEやブロックPP比率を下げない程度にPSコンパウンドを少量添加する。さらに、伸び、損傷面積、ヒゲ発生数を考慮すると、実施例6が最適である。
【0067】
実施例1と比較例1はヤング率の上げ方が違っている。実施例1ではレジンとの密着性の高い「ビニルシラン処理合成水酸化マグネシウム」を使用しているが、比較例1ではこの効果の小さい「ステアリン酸合成水酸化マグネシウム」を使用している。したがってヤング率に差が生じ、比較例1の方が損傷しやすくなる。また、同じSEBSを使っていても、比較例1はPS含有量が実施例1より少ないので、スチレンブロックの外力による変形に対する拘束力が弱く、外傷がつきやすい。
【0068】
実施例7と比較例6もヤング率の出し方が異なる。実施例7ではPSリッチのSEBSを使うことで、ブロックPPなしでも高いヤング率を保つことができる。一方、比較例6ではSEBSもブロックPPも使われていないので、ヤング率が低くなる。この例では水酸化マグネシウムはいずれもステアリン酸処理品を使用しているので、水酸化マグネシウムの影響は関係ない。
【0069】
以上説明した実施例により、ポリオレフィン部がPS成分を3〜25重量%含み、樹脂組成物全体のヤング率が120〜250MPaである場合、特に端末加工性と耐外傷性、絶縁体の伸びに優れることがわかる。
【0070】
本実施の形態に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、実施例で作製した0.3SQの電線61に限らず、あらゆるサイズ、構造の絶縁電線の絶縁体として適用可能である。例えば、図8に示すような単線からなる導体82の外周を絶縁体83で被覆した電線(絶縁電線)81や、盤内配線用、車両用、自動車用、機器内配線用、電力用のノンハロゲン電線の各絶縁体として応用が可能である。
【0071】
また、本実施の形態に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、絶縁電線に限らず、絶縁電線を対撚りまたは集合撚りしたもの、あるいは撚らずに平行に並べたフラットケーブルの絶縁体や、撚らずに束ねたものに、シースを被覆した制御用、電力用、通信ケーブルの絶縁体又は/及びシースとして応用が可能である。必要に応じて、有機化酸化物、電子線照射、その他の化学反応により、絶縁体又は/及びシースを架橋してもよい。
【0072】
このようなケーブルとして、図9に示すようなケーブル91は、複数本の電線81(図8参照)を対撚りし、あるいは束ね、これら複数本の電線81の外周に介在92を介して押え巻テープ93を巻き付け、巻き付けた押え巻テープ93の外周をシース94で被覆したものである。
【0073】
また、図10に示すようなケーブル101は、2本の電線81を対撚りした対撚り線102を2本束ね、束ねた対撚り線102の外周にシールド層103を形成し、シールド層103の外周をシース104で被覆したものである。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】[実施例]におけるポリスチレン成分の含有量とヒゲ発生数との関係を示す図である。
【図2】[実施例]におけるポリスチレン成分の含有量と伸びとの関係を示す図である。
【図3】[実施例]におけるヤング率と損傷面積との関係を示す図である。
【図4】[実施例]におけるヤング率と伸びとの関係を示す図である。
【図5】ヤング率を説明するための図である。
【図6】本実施の形態に係る樹脂組成物を用いた電線の一例を示す横断面図である。
【図7】[実施例]の耐外傷試験において、電線表面の外傷の外傷の状況例を示す図である。
【図8】本実施の形態に係る樹脂組成物を用いた電線の一例を示す横断面図である。
【図9】本実施の形態に係る樹脂組成物を用いたケーブルの一例を示す横断面図である。
【図10】本実施の形態に係る樹脂組成物を用いたケーブルの一例を示す横断面図である。
【図11】背景技術の電線の端末加工後を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンに金属水酸化物系難燃剤を混和してなるノンハロゲン難燃性樹脂組成物において、上記ポリオレフィンを含むコンパウンドで構成されるポリオレフィン部が、ポリスチレン成分を3〜25重量%含み、かつ組成物全体のヤング率が120〜250MPaであることを特徴とするノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
ポリオレフィンに金属水酸化物系難燃剤を混和してなるノンハロゲン難燃性樹脂組成物において、上記ポリオレフィンとポリスチレンコンパウンドとで構成されるポリオレフィン部が、ポリスチレン成分を3〜25重量%含み、かつ組成物全体のヤング率が120〜250MPaであることを特徴とするノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
上記ポリスチレンコンパウンドは、ポリスチレン単体、ブロックポリマー型のスチレン系エラストマ、あるいはそれらの混合物である請求項2記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
上記ポリオレフィン部100重量部に対し上記金属水酸化物系難燃剤を30〜350重量部混和してなる請求項1〜3いずれかに記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載されたノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いて、絶縁体又は/及びシースを形成したことを特徴とする電線・ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−2117(P2006−2117A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−182677(P2004−182677)
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】