説明

ハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜及びその形成方法

【課題】チタンなどの金属膜中にハイドロキシアパタイト粒子が分散されてなるハイドロキシアパタイト分散金属膜を提供する。
【解決手段】金属膜とハイドロキシアパタイト粒子を含有するハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜であって、金属膜2と、金属膜2中に分散された、ハイドロキシアパタイト粒子3とを有する膜であって、ハイドロキシアパタイト粒子と、不活性ガス雰囲気下で金属蒸発源の加熱により生成された金属膜となる金属粒子とを混合し、超音速フリージェットの気流に乗せて真空チャンバー中に噴出して、真空チャンバー中に配置した基板上に物理蒸着させて形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属膜中にハイドロキシアパタイト粒子が分散されてなるハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜及びその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コーティング技術の重要性が急速に高まってきており、種々のコーティング法が開発されている。
しかし、数10〜数100μm程度の膜厚の高密度なコーティング膜を低温で施工することが可能なコーティング法は知られていなかった。
【0003】
非特許文献1および非特許文献2は、超音速フリージェット(Supersonic Free Jet:SFJ)物理蒸着(Physical Vapor Deposition:PVD)装置について開示している。
このSFJ−PVD装置は、蒸発チャンバーと成膜チャンバーを備える。
蒸発チャンバー内には、水冷されたハース上に設置した蒸発源材料と、高融点金属(具体的にはタングステン)製の電極が備えられており、一度蒸発チャンバー内を所定の圧力に減圧した後、所定のガス雰囲気に置換して、蒸発源をアノード(陽極)とし、アノードと一定間隔離れた位置にある高電導性金属製電極をカソード(陰極)とし、それぞれ負電圧と正電圧を印加して両極間にアーク放電を生起させる移行式アークプラズマによって、蒸発源材料が加熱されて蒸発する。所定のガス雰囲気とした蒸発チャンバー内では、蒸発源の加熱により蒸発した原子は互いに凝集しナノメートルオーダーの直径の微粒子(以下ナノ粒子と称する)が得られる。
【0004】
得られたナノ粒子は蒸発チャンバーと成膜チャンバー間の差圧(真空度差)により生起するガス流に乗って移送管を通して成膜チャンバーへと移送される。成膜チャンバー内には、成膜対象基板が設置されている。
差圧によるガス流は、蒸発チャンバーから成膜チャンバーへと接続する移送管の先端に取り付けられた特別に設計された超音速ノズル(ラバールノズル)によりマッハ数3.6程度の超音速にまで加速され、ナノ粒子は超音速フリージェットの気流に乗って高速に加速されて成膜チャンバー中に噴出し、成膜対象基板上に堆積する。
【0005】
上記のSFJ−PVD装置を用いることにより、数10〜数100μm程度の膜厚の高密度なコーティング膜を低温で施工することが可能となっている。
【0006】
また、例えば特許文献1には、2つの蒸発チャンバーにおいて第1微粒子と第2微粒子を生成し、これらを非特許文献3に記載の同軸対向衝突噴流の発振現象を利用して混合し、超音速ガス流に乗せて基板上に物理蒸着させる物理蒸着装置が開示されている。
上記の物理蒸着装置などを用いて、例えば、特許文献2に開示されるように、アルミニウムマトリクス中にシリコン微粒子が分散されてなる膜を成膜することが可能となった。
【0007】
ところで、ハイドロキシアパタイト(水酸燐灰石)は、化学式Ca10(PO(OH)で示されるセラミックの一種であり、人間などの生物の骨や歯の成分に近いことから生体親和性が高く、人工骨、人工歯根(インプラント)、歯科用研磨剤や充填剤といった医療用に用いられている。
【0008】
例えば、純水中にCaClなどのカルシウム塩や、NaCl、KClなどのその他の塩などを所定の濃度で溶解し、pHを調整して得られる、体液を模して調製された擬似体液中に、上記のハイドロキシアパタイト薄膜で被覆された基板を浸漬すると、ハイドロキシアパタイト薄膜の表面にハイドロキシアパタイトが析出することが知られている。ハイドロキシアパタイト薄膜で被覆されることがハイドロキシアパタイトの析出を促進することから、ハイドロキシアパタイト被覆物の人工骨としての使用が検討されている。
【0009】
しかしながら、ハイドロシキアパタイトはセラミックであるため、基板上に薄膜として形成された場合には基板への密着力が弱くて剥がれやすく、もろくて壊れやすいという性質があり、安定した膜を形成することができなかった。
【特許文献1】特開2006−111921号公報
【特許文献2】特開2006−45616号公報
【非特許文献1】A. Yumoto, F. Hiroki, I. Shiota, N. Niwa, Surface and Coatings Technology, 169-170, 2003, 499-503
【非特許文献2】湯本敦史、廣木富士男、塩田一路、丹羽直毅:超音速フリージェットPVDによるTiおよびAl膜の形成、日本金属学会誌、第65巻、第7号(2001)pp635−643
【非特許文献3】山本圭治郎、野本明、川島忠雄、中土宣明:同軸対向衝突噴流の発振現象、油圧と空気圧(1975)pp68−77
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
解決しようとする課題は、ハイドロシキアパタイトはセラミックであるため、基板上に薄膜として形成された場合には基板への密着力が弱くて剥がれやすく、もろくて壊れやすいという性質があり、安定した膜を形成することが困難であることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜は、金属膜とハイドロキシアパタイト粒子を含有するハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜であって、金属膜と、前記金属膜中に分散された、ハイドロキシアパタイト粒子とを有する。
【0012】
上記の本発明のハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜は、好適には、前記金属膜がチタン膜である。
【0013】
上記の本発明のハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜は、好適には、前記ハイドロキシアパタイト粒子の粒径が数10μm以下である。
さらに好適には、前記ハイドロキシアパタイト粒子の粒径が0.1μm〜10μmである。
【0014】
上記の本発明のハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜は、好適には、前記金属膜の膜厚が1mm以下である。
さらに好適には、前記金属膜の膜厚が10μm〜100μmである。
【0015】
上記の本発明のハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜は、好適には、前記ハイドロキシアパタイト粒子が六方晶構造を有する
【0016】
上記の本発明のハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜は、好適には、前記ハイドロキシアパタイト粒子と、不活性ガス雰囲気下で金属蒸発源の加熱により生成された前記金属膜となる金属粒子とを混合し、超音速フリージェットの気流に乗せて真空チャンバー中に噴出して、前記真空チャンバー中に配置した基板上に物理蒸着させて形成した膜である。
【0017】
本発明のハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜の形成方法は、不活性ガス雰囲気で金属蒸発源の加熱により金属粒子を生成する工程と、粉体供給源からのハイドロキシアパタイト粒子とともに前記金属粒子を移送して混合し、超音速フリージェットの気流に乗せて真空チャンバー中に噴出して、前記真空チャンバー中に配置された基板上に物理蒸着させ、前記金属粒子からなる金属膜中に前記ハイドロキシアパタイト粒子が分散されてなるハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜を形成する工程とを有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜は、チタンなどの金属膜中にハイドロキシアパタイト粒子が分散されてなる膜であり、金属膜がバインダーとなってハイドロキシアパタイト粒子が剥がれたり壊れたりするのを抑制でき、ハイドロキシアパタイト粒子を含む安定な膜を提供することができる。
【0019】
本発明のハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜の形成方法は、金属膜がバインダーとなってハイドロキシアパタイト粒子が剥がれたり壊れたりするのを抑制できる安定な膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明に係るハイドロキシアパタイト分散金属膜およびその形成方法の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0021】
本実施形態に係るハイドロキシアパタイト分散金属膜は、金属膜とハイドロキシアパタイト粒子を含有するハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜であって、金属膜と、金属膜中に分散された、ハイドロキシアパタイト粒子とを有する。
【0022】
図1は本実施形態に係るハイドロキシアパタイト分散金属膜の模式断面図である。
例えば、チタンあるいはチタン合金などからなる基板1上に金属膜2が形成されており、金属膜2中にハイドロキシアパタイト粒子3が分散されている。
【0023】
例えば、上記の金属膜2は、例えば生体親和性の高い膜とする場合などにおいてチタン膜であることが好ましい。
【0024】
上記のハイドロキシアパタイト粒子の粒径は、例えば、1μm以上、数10μm以下であり、好ましくは0.1μm〜10μmである。
【0025】
金属膜2の膜厚は、ハイドロキシアパタイト粒子の粒径にもよるが、下限はハイドロキシアパタイト粒子の粒径相当の5〜10μm程度であり、上限は1mm程度の膜厚まで可能である。好ましくは、10μm〜100μmの膜厚である。
【0026】
例えば、5μm〜10μm程度の粒径のハイドロキシアパタイト粒子が50μmの膜厚の金属膜中に分散されている場合、ハイドロキシアパタイト粒子の層が厚さ方向に3〜5層積層した状態で分散されている。例えば、最表面のハイドロキシアパタイト粒子は、一部が金属膜の表面から露出した状態で保持されている。
【0027】
また、ハイドロキシアパタイト粒子は、例えば生体親和性の高い膜とする場合などにおいて、六方晶構造を有することが好ましい。
【0028】
さらに、本実施形態に係るハイドロキシアパタイト分散金属膜は、例えば、ハイドロキシアパタイト粒子と、不活性ガス雰囲気下で金属蒸発源の加熱により生成された金属膜となる金属粒子とを混合し、超音速フリージェットの気流に乗せて真空チャンバー中に噴出して、真空チャンバー中に配置した基板上に物理蒸着させて形成した膜である。
【0029】
上記のハイドロキシアパタイト分散金属膜において、膜を構成する金属部分とハイドロキシアパタイト粒子の重量比は種々の値を選択でき、例えば、金属部分:ハイドロキシアパタイト粒子=1:1〜6.5:3.5程度に調整でき、9:1程度の重量比まで成膜可能である。
【0030】
本実施形態のハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜は、チタンなどの金属膜中にハイドロキシアパタイト粒子が分散されてなる膜であり、金属膜がバインダーとなってハイドロキシアパタイト粒子が剥がれたり壊れたりするのを抑制でき、ハイドロキシアパタイト粒子を含む安定な膜を提供することができる。
【0031】
さらに、上記のような構造を有するハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜において、金属膜中でハイドロキシアパタイト粒子が複数の層積層した状態で分散されていることから、上層の粒子に欠落が生じても、下層のハイドロキシアパタイト粒子が膜の生体親和性などに寄与できる。
【0032】
次に、本実施形態のハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜の形成方法について説明する。
本発明者らは、上記のような本実施形態に係るハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜を形成する方法である新しい皮膜形成方法として、皮膜が基板上へのナノ粒子の高速での堆積により形成される、超音速フリージェット(SFJ:Supersonic Free Jet)−物理蒸着(PVD:Physical Vapor Deposition)装置を開発した。SFJ−PVD法は、ほとんど全ての蒸発源材料をナノ粒子として堆積し、厚い皮膜を形成することができる。
【0033】
上記のSFJ−PVD法について、これを実現する装置構成を参照して以下に説明する。
図2は、上記の本実施形態に係るハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜を成膜するためのSFJ−PVD装置の模式構成図である。
本実施形態のSFJ−PVD装置は、蒸発チャンバー10、ハイドロキシアパタイト粒子の粉体供給源20および成膜用の真空チャンバーである成膜チャンバー30を備える。
【0034】
蒸発チャンバー10には真空ポンプVP1に接続した排気管11が設けられており、真空ポンプVP1の作動により蒸発チャンバー10内が排気され、例えば10−10Torr程度の超高真空雰囲気とされる。さらに、蒸発チャンバー10にマスフローコントローラ12を介して設けられたガス供給源13から、必要に応じて、He,ArあるいはNなどの雰囲気ガスが所定の流量で供給され、蒸発チャンバー10内が所定の圧力雰囲気とされる。あるいは大気雰囲気としてもよい。
【0035】
蒸発チャンバー10内には、水冷された銅製のるつぼ14が設けられ、この中に金属膜となる金属の蒸発源材料15が入れられている。蒸発源材料15の近傍にアークトーチあるいはプラズマトーチなどの加熱部16が設けられており、加熱部16により蒸発源材料15が加熱されて蒸発し、蒸発源材料15から蒸発した原子からナノメートルオーダーの直径の金属粒子が得られる。
蒸発源材料となる金属は、例えばチタンを好ましく用いることができる。
得られた金属粒子は、蒸発チャンバー10内の雰囲気ガスとともに移送管17を通して成膜チャンバー30へと移送される。
【0036】
粉体供給源20内には、粉体状のハイドロキシアパタイト粒子が収容されている。粉体供給源20を構成する容器内の圧力は、特に限定されないが、操作性の面から大気雰囲気であることが好ましい。
上記のハイドロキシアパタイト粒子は市販のものを用いることができる。ハイドロキシアパタイト粒子の粒径は、例えば数10μm以下、好ましくは0.1〜10μm程度であり、例えば平均粒径が5μm程度である。また、六方晶構造の粒子を用いることが好ましい。
例えば、粉体供給源20の容器を振動させるなどして、容器内で粉体状のハイドロキシアパタイト粒子を巻き上がらせ、巻き上がったハイドロキシアパタイト粒子を容器内の雰囲気ガスとともに移送管27を通して成膜チャンバー30へと移送させる。
【0037】
成膜チャンバー30には真空ポンプVP3に接続した排気管31が設けられており、真空ポンプVP3の作動により成膜チャンバー30内が排気され、例えば10−10Torr程度の超高真空雰囲気とされる。
【0038】
成膜チャンバー30内には、X−Y方向に駆動するステージが設けられ、このステージに電気抵抗加熱システムを有する基板ホルダー32が接続され、成膜用の基板33が固定される。基板33の温度は、基板33の成膜領域に近接した点において不図示の熱電対により測定され、電気抵抗加熱システムにフィードバックされて温度制御される。
【0039】
成膜対象基板としては、特に限定はないが、例えば、純チタン板(JISグレード1)、A1050アルミニウム合金板、SUS304ステンレススチール板などを用いることができる。成膜対象基板は、成膜チャンバーにセットする前にアセトン中で超音波洗浄してから用いることが好ましい。
また、基板の成膜領域は、例えば7mm角とする。
【0040】
蒸発チャンバー10からの移送管17の先端と、粉体供給源20からの移送管27の先端との合流部に流体混合部34が設けられており、流体混合部34の中央部から延びるように超音速ノズル(ラバールノズル)35が設けられている。各移送管(17,27)の流体混合部34側の外周には、不図示のコイルヒーターが設けられて加熱可能となっていてもよい。
【0041】
上記の蒸発チャンバー10及び粉体供給源20と成膜チャンバー30の間において、圧力差によりガスの流れが生じ、金属粒子およびハイドロキシアパタイト粒子は雰囲気ガスとともに移送管を通して成膜チャンバー30へと移送される。
金属粒子を含む第1流体と、粉体状のハイドロキシアパタイト粒子を含む第2流体とが、流体混合部34において混合し、流体混合部34の中央部に取り付けられた超音速ノズル(ラバールノズル)35から超音速ガス流(超音速フリージェットの気流)として成膜チャンバー30中に、成膜対象基板33に向けて噴出する。即ち、金属粒子とハイドロキシアパタイト粒子が流体混合部34において混合する。
【0042】
超音速ノズル35は、1次元もしくは2次元の圧縮性流体力学理論を基にガスの種類と組成および成膜チャンバーの排気能力に応じて設計されており、移送管の先端に接続され、あるいは移送管の先端部分と一体に形成されている。具体的には、ノズル内部径が変化している縮小−拡大管であり、蒸発チャンバーと成膜チャンバー間の差圧により生起するガス流を、例えばマッハ数1.2以上の超音速まで高めることができる。
金属粒子とハイドロキシアパタイト粒子は、例えば、超音速ノズル35によってマッハ数3.6程度の超音速にまで加速され、超音速ガス流に乗って成膜チャンバー30中に噴出し、成膜対象基板33上に堆積(物理蒸着)する。
ここで、上記の金属粒子とハイドロキシアパタイト粒子の混合には、非特許文献3及び特許文献1に記載の同軸対向衝突噴流の発振現象を利用して混合することができる。
【0043】
上記のようにして、基板33上に、図1に示すような構造の、金属膜と、金属膜中に分散された、ハイドロキシアパタイト粒子とを有するハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜を形成することができる。
【0044】
本実施形態のハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜の形成方法は、金属膜がバインダーとなってハイドロキシアパタイト粒子が剥がれたり壊れたりするのを抑制できる安定な膜を形成することができる。
【0045】
(実施例1)
図2に示すSFJ−PVD装置を用いて、上記の実施形態に示すようにして、アルミニウム基板上に、金属膜と、金属膜中に分散された、ハイドロキシアパタイト粒子とを有するハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜を成膜した。
20mm×20mm×1mmの純チタン板(JISグレード1)を基板として用い、7mm□を成膜領域とした。
また、チタンを蒸発チャンバーの蒸発源として用い、粉体供給源には六方晶構造を有する平均粒径5μmのハイドロキシアパタイト粒子を収容して用いた。全ての基板は、成膜チャンバー中に取り付ける前にアセトン中で超音波洗浄した。
【0046】
図3は、上記のようにして形成したハイドロキシアパタイト粒子分散チタン膜の断面を写した電子顕微鏡写真であり、図4は、同膜の表面を写した電子顕微鏡写真である。
ハイドロキシアパタイト粒子がバインダーとなる金属膜中に埋め込まれている状態が観察できる。
【0047】
(実施例2)
上記のようにして成膜したハイドロキシアパタイト分散チタン膜が形成された基板を擬似体液に浸漬する実験を行い、ハイドロキシアパタイトの析出の様子を観察した。浸漬時間は7日〜10日間とした。
擬似体液とは、純水中にCaClなどのカルシウム塩や、NaCl、KClなどのその他の塩などを所定の濃度で溶解し、pHを調整して得られる、体液を模して調製された液体である。
【0048】
擬似体液中へ浸漬すると、金属膜中のハイドロキシアパタイト粒子を種結晶として膜の表面にハイドロキシアパタイトが析出している状態が観察できた。
一方で、ハイドロキシアパタイト粒子を分散していないチタン膜の場合には、上記の浸漬時間内にはハイドロキシアパタイトの析出は観察されなかった。
従って、チタン膜中へのハイドロキシアパタイト粒子の分散がハイドロキシアパタイトの析出を促進したことが確認された。
【0049】
上記のように、SFJ−PVD法で、チタン基板上に、金属膜と、金属膜中に分散された、ハイドロキシアパタイト粒子とを有するハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜を形成することができた。
【0050】
また、得られたハイドロキシアパタイト粒子分散チタン膜について、チタン及びハイドロキシアパタイトは生体親和性が高い材料であり、擬似体液に浸漬することでハイドロキシアパタイトの析出が観察されたことから、ハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜被覆物の人工骨としての利用の可能性が示唆された。
【0051】
また、上記のように、粉体として生体親和性の高い六方晶のハイドロキシアパタイト粒子を用い、上記のように擬似体液に浸漬することでハイドロキシアパタイトの析出が見られたことから、金属膜中でハイドロキシアパタイト粒子は人の骨に近い六方晶構造を保持しているものと考えられる。
【0052】
SFJ−PVD法によってハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜を形成することにより、以下のような効果を享受することができる。
(1)ボイドやクラックのない緻密なハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜を形成することができる。
(2)金属粒子とハイドロキシアパタイト粒子の流量などを制御して、ハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜中の金属部分とハイドロキシアパタイト粒子部分の重量比を選択することができる。
【0053】
本発明は上記の説明に限定されない。
例えば、生体親和性の高いハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜被覆物においては、金属膜としてはチタンが好ましいが、用途に応じてはチタン以外の金属にも適用可能である。
その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のハイドロキシアパタイト分散金属膜で被覆された被覆物は、人工骨、人工歯根(インプラント)などに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は本発明の実施形態に係るハイドロキシアパタイト分散チタン膜の模式断面図である。
【図2】図2は本発明の実施形態に係るハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜を成膜するための超音速フリージェット物理蒸着装置の模式構成図である。
【図3】図3は実施例1に係る電子顕微鏡写真である。
【図4】図4は実施例1に係る電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0056】
1…基板
2…金属膜
3…ハイドロキシアパタイト粒子
10…蒸発チャンバー
11…排気管
12…マスフローコントロール
13…ガス供給源
14…るつぼ
15…蒸発源材料
16…加熱部
17,27…移送管
20…粉体供給源
30…成膜チャンバー
31…排気管
32…ステージ
33…成膜対象基板
34…流体混合部
35…超音速ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属膜とハイドロキシアパタイト粒子を含有するハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜であって、
金属膜と、
前記金属膜中に分散された、ハイドロキシアパタイト粒子と
を有するハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜。
【請求項2】
前記金属膜がチタン膜である
請求項1に記載のハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜。
【請求項3】
前記ハイドロキシアパタイト粒子の粒径が数10μm以下である
請求項1に記載のハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜。
【請求項4】
前記ハイドロキシアパタイト粒子の粒径が0.1μm〜10μmである
請求項1に記載のハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜。
【請求項5】
前記金属膜の膜厚が1mm以下である
請求項1に記載のハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜。
【請求項6】
前記金属膜の膜厚が10μm〜100μmである
請求項1に記載のハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜。
【請求項7】
前記ハイドロキシアパタイト粒子が六方晶構造を有する
請求項1に記載のハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜。
【請求項8】
前記ハイドロキシアパタイト粒子と、不活性ガス雰囲気下で金属蒸発源の加熱により生成された前記金属膜となる金属粒子とを混合し、超音速フリージェットの気流に乗せて真空チャンバー中に噴出して、前記真空チャンバー中に配置した基板上に物理蒸着させて形成した膜である
請求項1に記載のハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜。
【請求項9】
不活性ガス雰囲気で金属蒸発源の加熱により金属粒子を生成する工程と、
粉体供給源からのハイドロキシアパタイト粒子とともに前記金属粒子を移送して混合し、超音速フリージェットの気流に乗せて真空チャンバー中に噴出して、前記真空チャンバー中に配置された基板上に物理蒸着させ、前記金属粒子からなる金属膜中に前記ハイドロキシアパタイト粒子が分散されてなるハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜を形成する工程と
を有するハイドロキシアパタイト粒子分散金属膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−194175(P2008−194175A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−31145(P2007−31145)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】