説明

ハイドロゲルおよびその製造方法

【課題】高い透明性を維持しつつ、従来以上の強度、弾性率を有するハイドロゲルおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】第一のモノマー水溶液中の第一のモノマー(a)を重合し架橋することにより形成された第一の網目構造(A)と、該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b)を導入し、該第二のモノマー(b)を重合し架橋することにより前記第一の網目構造(A)中に形成された第二の網目構造(B)とからなる相互侵入網目構造を有するハイドロゲルにおいて、前記第一のモノマー(a)の濃度が、前記第一のモノマー水溶液中の第一のモノマー(a)と水との合計100質量%中、25〜50質量%であるハイドロゲル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロゲルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲル材料は、自重の数百〜数千倍の溶媒を保持できる材料として、従来より、高吸水性樹脂、紙おむつ、生理用品、ソフトコンタクトレンズ、屋内緑化用含水シート等に利用されている。また、薬物の徐放性も有し、ドラッグデリバリー等の低侵襲診断にも応用されている。また、衝撃吸収材料、制振・防音材料等への利用もされており、その用途は多岐に渡る。しかしながら、ゲル材料は、一般的に強度がなく、微小な応力で構造が破壊されてしまうため、強度が必要とされる用途には不向きである。
【0003】
近年、従来のゲル材料から強度を大幅に向上させた、様々な新規ゲル材料が提唱されている。例えば、下記の3種のゲルは、三大高強度ゲルと称され、注目を浴びている。
(1)架橋点が主鎖に沿って動くトポロジカルゲル(例えば特許文献1)。
(2)架橋点として親水性クレイを用いたナノコンポジットゲル(例えば特許文献2)。
(3)2種類の網目構造が相互に侵入したダブルネットワークゲル(例えば特許文献3)。
【0004】
しかしながら、(1)のゲルは、引張時の伸長度は極めて高いものの、弾性率や破断強度は充分ではない。また、製造工程が複雑である。
(2)のゲルにおいては、架橋点であるクレイの適切な選択や添加量の調節によって、伸びと強度のバランスをとることが可能である。しかしながら、クレイの添加量が増大するにつれ、透明性が失われる等の問題を有し、用途に制限がある。
(3)のゲルは、伸びおよび強度のバランスがよく、透明度の高いゲルが得られる。また、架橋剤の添加量を増やすことで、より高弾性、高強度のゲルが得られることが知られている。しかしながら、架橋剤の増加に伴い、透明性が損なわれることがある。
【特許文献1】特許第3475252号公報
【特許文献2】特許第3914489号公報
【特許文献3】国際公開第2003/093337号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高い透明性を維持しつつ、従来以上の強度、弾性率を有するハイドロゲルおよびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のハイドロゲルは、第一のモノマー水溶液中の第一のモノマー(a)を重合し架橋することにより形成された第一の網目構造(A)と、該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b)を導入し、該第二のモノマー(b)を重合し架橋することにより前記第一の網目構造(A)中に形成された第二の網目構造(B)とからなる相互侵入網目構造を有するハイドロゲルにおいて、前記第一のモノマー(a)の濃度が、前記第一のモノマー水溶液中の第一のモノマー(a)と水との合計100質量%中、25〜50質量%であることを特徴とする。
【0007】
また、本発明のハイドロゲルは、第一のモノマー水溶液中の第一のモノマー(a)を重合し架橋することにより形成された第一の網目構造(A)と、該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b)を導入し、該第二のモノマー(b)を重合することにより前記第一の網目構造(A)中に形成されたポリマー(B’)とからなるセミ相互侵入網目構造を有するハイドロゲルにおいて、前記第一のモノマー(a)の濃度が、前記第一のモノマー水溶液中の第一のモノマー(a)と水との合計100質量%中、25〜50質量%であることを特徴とする。
【0008】
本発明のハイドロゲルの製造方法は、(x)第一のモノマー水溶液中の第一のモノマー(a)を重合し架橋することにより第一の網目構造(A)を形成する工程と、(y)該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b)を導入し、該第二のモノマー(b)を重合し架橋することにより前記第一の網目構造(A)中に第二の網目構造(B)を形成する工程とを有する、相互侵入網目構造を有するハイドロゲルの製造方法において、前記第一のモノマー(a)の濃度が、前記第一のモノマー水溶液中の第一のモノマー(a)と水との合計100質量%中、25〜50質量%であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明のハイドロゲルの製造方法は、(x)第一のモノマー水溶液中の第一のモノマー(a)を重合し架橋することにより第一の網目構造(A)を形成する工程と、(y’)該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b)を導入し、該第二のモノマー(b)を重合することにより前記第一の網目構造(A)中にポリマー(B’)を形成する工程とを有する、セミ相互侵入網目構造を有するハイドロゲルの製造方法において、前記第一のモノマー(a)の濃度が、前記第一のモノマー水溶液中の第一のモノマー(a)と水との合計100質量%中、25〜50質量%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のハイドロゲルは、高い透明性を維持しつつ、従来以上の強度、弾性率を有する。
本発明のハイドロゲルの製造方法によれば、高い透明性を維持しつつ、従来以上の強度、弾性率を有するハイドロゲルを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
<ハイドロゲル>
ハイドロゲルとは、ポリマーで構成された網目構造中に水を溶媒として取り込んでいるゲルを意味する。
本発明のハイドロゲルに含まれる溶媒の量は、特に限定されない。また、ハイドロゲルの物性に影響が出ない程度に、水に溶解する溶媒や水と混和する溶媒を含んでもいてもよい。
【0012】
本発明のハイドロゲルとしては、下記の2種類のハイドロゲルが挙げられる。
(i)第一の網目構造(A)と、該第一の網目構造(A)中に形成された第二の網目構造(B)とからなる相互侵入網目構造を有するハイドロゲル。
(ii)第一の網目構造(A)と、該第一の網目構造(A)中に形成されたポリマー(B’)とからなるセミ相互侵入網目構造を有するハイドロゲル。
【0013】
網目構造とは、不飽和モノマーを重合することにより形成されたポリマー同士を架橋することにより、三次元に張り巡らされた網の目のような構造を意味する。該構造は、直鎖状のポリマーとは異なり、網目内に各種溶媒を保持できる。
不飽和モノマーとは、1分子中に1個以上の炭素−炭素不飽和二重結合を有するモノマーを意味する。
【0014】
相互侵入網目構造とは、第一の網目構造(A)および第二の網目構造(B)の2つの網目構造が重なり合い、相互に絡み合っている構造を意味する。
セミ相互侵入網目構造とは、第一の網目構造(A)と、架橋点を有さない直鎖状のポリマー(B’)とが別々に存在するのではなく、相互に絡み合っている構造を意味する。
【0015】
(第一の網目構造(A))
第一の網目構造(A)は、第一のモノマー水溶液中の第一のモノマー(a)を重合し架橋することにより形成された網目構造である。
【0016】
第一のモノマー(a)の濃度は、第一のモノマー水溶液中の第一のモノマー(a)と水との合計100質量%中、25〜50質量%であり、25〜40質量%が好ましく、25〜35質量%がより好ましい。第一のモノマー(a)の濃度を25質量%以上にすることで、第一の網目構造(A)を構成するポリマー同士の物理的な絡み合いが増え、その結果、従来の方法で製造されたゲルよりも高弾性、高強度のものが得られる。
【0017】
第一のモノマー(a)の濃度が25質量%未満であると、ポリマー同士の物理的絡み合いが充分ではなく、弾性率、強度とも従来のものと変わらなくなる。第一のモノマー(a)の濃度が50質量%を超えると、一般的な水溶性モノマーでは水に溶解しきれない場合がある。また、得られる第一のゲルが脆くなり、ハンドリング性が悪くなる場合がある。
特許文献3に記載の発明においては、第一のモノマーの濃度に関する限定は特になく、特許文献3に記載の実施例における第一のモノマーの濃度は10〜20質量%である。
【0018】
第一のモノマー(a)は、カチオン性不飽和モノマーまたはアニオン性不飽和モノマーを含むことが好ましい。カチオン性不飽和モノマーまたはアニオン性不飽和モノマーの割合は、第一のモノマー(a)の100モル%のうち、10モル%以上が好ましい。
第一のモノマー(a)は、必要に応じてノニオン性不飽和モノマーを含んでいてもよい。
【0019】
カチオン性不飽和モノマーとは、水中において正に帯電するモノマーを意味する。
カチオン性不飽和モノマーとしては、炭素−炭素不飽和二重結合を有する4級アンモニウム塩(メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド等)が挙げられる。
【0020】
アニオン性不飽和モノマーとは、水中において負に帯電するモノマーを意味する。
アニオン性不飽和モノマーとしては、スルホン酸基を有する不飽和モノマー(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、p−スチレンスルホン酸等)、カルボン酸基を有する不飽和モノマー(アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等)、リン酸基を有する不飽和モノマー(メタクリルオキシエチルトリメリック酸等)、これらの塩等が挙げられる。
【0021】
ノニオン性不飽和モノマーとは、水中において正負いずれにも帯電しない、また帯電しても極めて微弱であるモノマーを意味する。ノニオン性不飽和モノマーは、水溶性であればよい。
ノニオン性不飽和モノマーとしては、公知の水溶性モノマーが挙げられ、例えば、アクリルアミド誘導体(アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、アクリロイルモルホリン等)、メタクリルアミド誘導体(メタクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、メタクリロイルモルホリン等)、アクリレート(ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート等)、メタクリレート(ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリレート等)、アクリロニトリル、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0022】
(第二の網目構造(B))
第二の網目構造(B)は、第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b)を導入し、該第二のモノマー(b)を重合し架橋することにより前記第一の網目構造(A)中に形成された網目構造である。
【0023】
第二のモノマー(b)は、ノニオン性不飽和モノマーを含むことが好ましい。
ノニオン性不飽和モノマーの割合は、第二のモノマー(b)の100モル%のうち、60モル%以上が好ましい。
第二のモノマー(b)は、必要に応じてカチオン性不飽和モノマーまたはアニオン性不飽和モノマーを含んでいてもよい。
【0024】
ノニオン性不飽和モノマーとしては、例えば、アクリルアミド誘導体(アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、アクリロイルモルホリン等)、メタクリルアミド誘導体(メタクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、メタクリロイルモルホリン等)、アクリレート(ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート等)、メタクリレート(ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリレート等)、アクリロニトリル、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0025】
(ポリマー(B’))
ポリマー(B’)は、第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b)を導入し、該第二のモノマー(b)を重合することにより前記第一の網目構造(A)中に形成された架橋点を有さない直鎖状のポリマーである。
【0026】
第二のモノマー(b)は、ノニオン性不飽和モノマー(b1)と、必要に応じてカチオン性不飽和モノマーまたはアニオン性不飽和モノマーとを含むモノマーまたは混合物である。
ノニオン性不飽和モノマーの種類、割合は、第二の網目構造(B)におけるノニオン性不飽和モノマーと同様である。
【0027】
(ハイドロゲル)
本発明のハイドロゲル中の第一のモノマー(a)に由来する単位と第二のモノマー(b)に由来する単位とのモル比((a)/(b))は、1/2〜1/100が好ましい。第二のモノマー量が、上記モル比で1/2より少なくなると、引張時に充分な伸びを発現できない可能性がある。また、第二のモノマーの量が、上記モル比で1/100より大きくなると、引張時に充分な強度を発現できない可能性がある。これらのバランスを考えると、好ましいモル比は1/5〜1/80であり、さらに好ましくは1/10〜1/50である。
【0028】
本発明のハイドロゲルにおいては、第二の網目構造(B)の架橋度を、第一の網目構造(A)の架橋度よりも小さくすることが好ましい。第二の網目構造(B)の架橋度が第一の網目構造(A)の架橋度以上であると、ハイドロゲルの機械特性、特に伸びを損なう場合がある。
架橋度とは、架橋を後述の方法(α)で行う場合は、モノマー100モル%に対する多官能モノマーの添加量を意味する。架橋をその他の方法で行う場合は、ポリマーを構成するモノマー単位のうち、架橋に寄与しているモノマー単位の割合を架橋点が結び付けているポリマー鎖の数で割った値で表せる。架橋点が結び付けているポリマー鎖の数とは、例えば2種のモノマーを反応させて架橋点とする場合には2である。3価に帯電したホウ酸でイオン結合させる場合には3である。
【0029】
本発明のハイドロゲルには、必要に応じて、公知の着色剤、可塑剤、安定剤、強化剤、無機フィラー、耐衝撃性改質剤、難燃剤等の添加剤を配合してもよい。
【0030】
<ハイドロゲルの製造方法>
本発明のハイドロゲルの製造方法としては、下記の2種類の製造方法が挙げられる。
(I)(x)第一のモノマー水溶液中の第一のモノマー(a)を重合し架橋することにより第一の網目構造(A)を形成する工程と、(y)該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b)を導入し、該第二のモノマー(b)を重合し架橋することにより前記第一の網目構造(A)中に第二の網目構造(B)を形成する工程とを有する製造方法。
(II)(x)第一のモノマー水溶液中の第一のモノマー(a)を重合し架橋することにより第一の網目構造(A)を形成する工程と、(y’)該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b)を導入し、該第二のモノマー(b)を重合することにより前記第一の網目構造(A)中にポリマー(B’)を形成する工程とを有する製造方法。
【0031】
(工程(x))
まず、第一のモノマー(a)、重合開始剤等を、水に溶かして第一のモノマー水溶液を調製する。
ついで、第一のモノマー水溶液を容器や枠へ流し込み、該水溶液に熱または光を当てることにより、第一のモノマー(a)を重合させ、ポリマーとする。
該ポリマーの架橋は、第一のモノマー(a)の重合と同時に行ってもよく、ポリマーを得た後に行ってもよい。
以上のようにして、第一の網目構造(A)を有する、任意の形状の第一のゲルが得られる。
【0032】
重合方法としては、熱重合開始剤によるラジカル重合法や、光重合開始剤による光重合法が挙げられる。
熱重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の一般的な水溶性重合開始剤が挙げられる。
光重合開始剤としては、ベンゾフェノン系開始剤等の一般的な光重合開始剤が挙げられる。
【0033】
架橋方法としては、化学結合による架橋方法、イオン結合による架橋方法、物理的架橋方法等が挙げられる。具体的には、下記の架橋方法が挙げられ、特殊な設備を必要としない、製造工程が複雑にならない、操作が簡便である、網目構造を制御しやすい点から、方法(α)が好ましい。
【0034】
(α)1分子中に2個以上の炭素−炭素不飽和二重結合を有する多官能モノマーを第一のモノマー(a)とともに用いて、重合と同時に架橋する方法。
(β)放射線照射によってポリマー中にラジカルを発生させて架橋する方法。
(γ)ポリマーを構成する不飽和モノマーに由来する単位の側鎖の官能基同士を直接反応させる方法。
(δ)ポリマーを構成する不飽和モノマーに由来する単位の側鎖の官能基同士を橋架け剤で架橋する方法。
(ε)多価金属イオン(銅イオン、亜鉛イオン、カルシウムイオン等)を用いて、イオン結合または配位結合によって架橋する方法。
【0035】
多官能モノマーとしては、N,N−メチレンビスアクリルアミド、モノエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、モノプロピレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。
多官能モノマーの添加量は、第一のモノマー(a)の100モル%に対して、0.5〜10モル%が好ましい。上記多官能モノマーの添加量が0.5モル%未満であると、ゲルとしての形状を保つのが困難となり、第二のモノマーを導入する時の取り扱いが困難となる場合がある。また、上記多官能モノマーの添加量が10モル%を超えると、第一の網目構造(A)が充分に膨潤せず、第二のモノマーを充分に吸収させることが困難となる場合がある。これらのバランスを考えると、上記多官能モノマーの好ましい添加量は、1〜8モル%であり、さらに好ましくは1〜6モル%であり、最も好ましくは1〜4モル%である。
【0036】
(工程(y))
第一の網目構造(A)中に、第二のモノマー(b)、重合開始剤等を導入することによって、第一の網目構造(A)中に含まれる溶媒に第二のモノマー(b)、重合開始剤等を均一に拡散させる。
ついで、第二のモノマー(b)が導入された第一の網目構造(A)に熱または光を当てることにより、第二のモノマー(b)を重合させ、ポリマーとする。
該ポリマーの架橋は、第二のモノマー(b)の重合と同時に行ってもよく、ポリマーを得た後に行ってもよい。
以上のようにして、第一の網目構造(A)中に第二の網目構造(B)を形成することにより、相互侵入網目構造を有する、任意の形状のハイドロゲルが得られる。
【0037】
導入方法としては、第二のモノマー(b)、重合開始剤等を溶解した第二の水溶液中に、第一の網目構造(A)を有する第一のゲルを浸漬し、第一の網目構造(A)が吸水し、膨潤していく過程で、第二のモノマー(b)を第一の網目構造(A)内に取り込ませる方法が簡便である。
【0038】
重合方法は、工程(x)における重合方法と同様である。
なお、第一の網目構造(A)が不透明で充分に光を透過しない場合には、熱重合開始剤によるラジカル重合法が好ましい。また、温度によって挙動の変わる不飽和モノマーを用いる場合には、光重合開始剤による光重合法が好ましい場合もある。
第一モノマー(a)の重合方法と、第二のモノマー(b)の重合方法は、異なっていてもよい。
【0039】
架橋方法は、工程(x)における重合方法と同様であり、方法(α)が好ましい。
多官能モノマーの添加量は、工程(x)における多官能モノマーの添加量よりも少なくすることが好ましい。
【0040】
(工程(y’))
第一の網目構造(A)中に、第二のモノマー(b)、重合開始剤等を導入することによって、第一の網目構造(A)中に含まれる溶媒に第二のモノマー(b)、重合開始剤等を均一に拡散させる。
ついで、第二のモノマー(b)が導入された第一の網目構造(A)に熱または光を当てることにより、第二のモノマー(b)を重合させ、ポリマー(B’)とする。
以上のようにして、第一の網目構造(A)中にポリマー(B’)を形成することにより、セミ相互侵入網目構造を有する、任意の形状のハイドロゲルが得られる。
導入方法および重合方法は、工程(y)における導入方法および重合方法と同様である。
【0041】
以上説明した本発明のハイドロゲルの製造方法にあっては、第一のモノマー水溶液中の第一のモノマー(a)の濃度を特定の範囲としているため、高い透明性を維持しつつ、高い強度、高い弾性率を有するハイドロゲルを製造できる。該ハイドロゲルは、従来以上の強度、弾性率が必要とされる用途への利用が可能となる。
【0042】
本発明のハイドロゲルの用途によっては、第二のモノマー(b)からなるポリマーを架橋する必要がないこともある。ハイドロゲルに求められる物性に応じて、相互侵入網目構造と、セミ相互侵入網目構造とを自由に選択できる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の記載において、特に断らない限り「部」は「質量部」、「%」は「モル%」を意味する。
【0044】
(実施例1)
工程(x):
2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の100%からなる第一のモノマー(a)と、第一のモノマー(a)の100%に対して2%のN,N−メチレンビスアクリルアミドと、第一のモノマー(a)の100%に対して0.08%のオキソグルタル酸とを、第一のモノマー(a)の100部に対して200部の蒸留水に溶かし、第一のモノマー水溶液を調製した。
【0045】
窒素バブリングによって第一のモノマー水溶液から溶存酸素を除去した後、第一のモノマー水溶液を、シリコーンゴムで周囲をシールしたガラス板間に流し込み、第一のモノマー水溶液に、ケミカルランプ(東芝社製、捕虫器用蛍光灯FL20S・BL−A)を用いて、1分間の照射エネルギー120mJ/cmにて90分間紫外線を照射し、重合を完結させ、第一の網目構造(A)を有する第一のゲルを得た。
【0046】
工程(y):
アクリルアミドの100%からなる第二のモノマー(b)と、第二のモノマー(b)の100%に対して0.1%のN,N−メチレンビスアクリルアミドと、第二のモノマー(b)の100%に対して0.005%のオキソグルタル酸とを、第二のモノマー(b)の100部に対して300部の蒸留水に溶かし、第二のモノマー水溶液を調製した。
【0047】
窒素バブリングによって第二のモノマー水溶液から溶存酸素を除去した後、第二のモノマー水溶液に、第一の網目構造(A)を有する第一のゲルを浸漬し、この状態で一晩放置することで、第二のモノマー水溶液を第一の網目構造(A)に充分に吸収させた。
第二のモノマー水溶液で充分に膨潤した第一の網目構造(A)を有する第一のゲルをガラス板にて挟みこみ、該ゲルに、ケミカルランプ(同上)を用いて、1分間の照射エネルギー120mJ/cmにて90分間紫外線を照射し、重合を完結させ、第一の網目構造(A)中に第二の網目構造(B)が形成された相互侵入網目構造を有するハイドロゲルを得た。
【0048】
(実施例2)
第一の水溶液の調製に用いた蒸留水の量を200部から300部に変更した以外は、実施例1と同様の方法により相互侵入網目構造を有するハイドロゲルを得た。
【0049】
(実施例3)
第一の水溶液の調製に用いたN,N−メチレンビスアクリルアミドの添加量を2%から4%に変更し、第一の水溶液の調製に用いた蒸留水の量を200部から150部に変更した以外は、実施例1と同様の方法により相互侵入網目構造を有するハイドロゲルを得た。
【0050】
(実施例4)
第一の水溶液の調製に用いた蒸留水の量を150部から300部に変更した以外は、実施例3と同様の方法により相互侵入網目構造を有するハイドロゲルを得た。
【0051】
(実施例5)
第二の水溶液の調製に用いたN,N−メチレンビスアクリルアミドの添加量を0.1%から0%に変更し、蒸留水の量を300部から200部に変更した以外は、実施例4と同様の方法によりセミ相互侵入網目構造を有するハイドロゲルを得た。
【0052】
(実施例6)
工程(x):
2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の100%からなる第一のモノマー(a)と、第一のモノマー(a)の100%に対して4%のN,N−メチレンビスアクリルアミドと、第一のモノマー(a)の100%に対して1%の過硫酸カリウムとを、第一のモノマー(a)の100部に対して300部の蒸留水に溶かし、第一のモノマー水溶液を調製した。
【0053】
窒素バブリングによって第一のモノマー水溶液から溶存酸素を除去した後、第一のモノマー水溶液を、シリコーンゴムで周囲をシールしたガラス板間に流し込み、60℃の湯浴に60分間浸し、重合を完結させ、第一の網目構造(A)を有する第一のゲルを得た。
【0054】
工程(y):
ついで、実施例1の工程(y)と同様の方法により相互侵入網目構造を有するハイドロゲルを得た。
【0055】
(比較例1)
第一の水溶液の調製に用いた蒸留水の量を200部から400部に変更した以外は、実施例1と同様の方法により相互侵入網目構造を有するハイドロゲルを得た。
【0056】
(比較例2)
第一の水溶液の調製に用いた蒸留水の量を150部から400部に変更した以外は、実施例3と同様の方法により相互侵入網目構造を有するハイドロゲルを得た。
【0057】
(比較例3)
第一の水溶液の調製に用いたN,N−メチレンビスアクリルアミドの添加量を2%から8%に変更した以外は、比較例1と同様の方法により相互侵入網目構造を有するハイドロゲルを得た。
【0058】
実施例1〜6、比較例1〜3において、工程(x)で用いた原料の配合、第一のモノマー(a)と水との合計100質量%中の第一のモノマー(a)の濃度、および工程(y)で用いた原料の配合を表1に示す。水以外の原料は「モル%」であり、水は「質量部」である。
【0059】
【表1】

【0060】
表中の略号は、下記の通りである。
AMPS:2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、
AAm:アクリルアミド、
MBAAm:N,N−メチレンビスアクリルアミド、
OGA:オキソグルタル酸、
KPS:過硫酸カリウム。
【0061】
(評価)
実施例1〜6、比較例1〜3で製造したハイドロゲルについて、下記の(1)〜(5)の評価を行った。結果を表2に示す。
【0062】
(1)第一のモノマー(a)に由来する単位と第二のモノマー(b)に由来する単位とのモル比((a)/(b)):
得られたハイドロゲルを乾燥させ、元素分析によって第一のモノマー(a)に由来する単位の量と第二のモノマー(b)に由来する単位の量との比を算出した。
【0063】
(2)膨潤度:
得られたハイドロゲルの乾燥前後での質量比から膨潤度を算出した。計算式は、下記の通りである。
(膨潤度)=(乾燥前質量)/(乾燥後質量)×100(%)。
【0064】
(3)透明性:
得られたハイドロゲルの全光線透過率を、ISO13468−1に準拠して23℃で測定した。
【0065】
(4)引張破断強度:
得られたハイドロゲルを3号ダンベル試験片に打抜き、引張試験に供した。引張試験はJIS−K6251に準拠して、試験片の引張破断強度を測定した。チャック間距離は50mm、引張速度は50mm/minとした。
【0066】
(5)引張弾性率:
得られたハイドロゲルについて、(4)引張破断強度と同じ測定条件で引張試験を行い、試験開始直後の弾性率を算出した。
【0067】
【表2】

【0068】
表2の結果から明らかなように、実施例1〜6で得られたハイドロゲルは、透明性を損なうことなく高い強度、高い弾性率を有していた。
一方、比較例1〜2で得られたハイドロゲルは、第一のモノマー水溶液中の第一のモノマー(a)の濃度が低かったため、充分な強度が得られなかった。
また、比較例3で得られたハイドロゲルは、強度は充分であるが、多官能モノマーの増加に伴って透明性が損なわれた。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のハイドロゲルは、透明性、機械的強度に優れることから、各種衝撃吸収・制振材料、人工関節のような生体材料、各種電子部品やOA機器の伸縮部や駆動部、各種中間膜等に利用可能であり、工業的に極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一のモノマー水溶液中の第一のモノマー(a)を重合し架橋することにより形成された第一の網目構造(A)と、該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b)を導入し、該第二のモノマー(b)を重合し架橋することにより前記第一の網目構造(A)中に形成された第二の網目構造(B)とからなる相互侵入網目構造を有するハイドロゲルにおいて、
前記第一のモノマー(a)の濃度が、前記第一のモノマー水溶液中の第一のモノマー(a)と水との合計100質量%中、25〜50質量%であることを特徴とするハイドロゲル。
【請求項2】
第一のモノマー水溶液中の第一のモノマー(a)を重合し架橋することにより形成された第一の網目構造(A)と、該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b)を導入し、該第二のモノマー(b)を重合することにより前記第一の網目構造(A)中に形成されたポリマー(B’)とからなるセミ相互侵入網目構造を有するハイドロゲルにおいて、
前記第一のモノマー(a)の濃度が、前記第一のモノマー水溶液中の第一のモノマー(a)と水との合計100質量%中、25〜50質量%であることを特徴とするハイドロゲル。
【請求項3】
(x)第一のモノマー水溶液中の第一のモノマー(a)を重合し架橋することにより第一の網目構造(A)を形成する工程と、
(y)該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b)を導入し、該第二のモノマー(b)を重合し架橋することにより前記第一の網目構造(A)中に第二の網目構造(B)を形成する工程と
を有する、相互侵入網目構造を有するハイドロゲルの製造方法において、
前記第一のモノマー(a)の濃度が、前記第一のモノマー水溶液中の第一のモノマー(a)と水との合計100質量%中、25〜50質量%であることを特徴とするハイドロゲルの製造方法。
【請求項4】
(x)第一のモノマー水溶液中の第一のモノマー(a)を重合し架橋することにより第一の網目構造(A)を形成する工程と、
(y’)該第一の網目構造(A)中に第二のモノマー(b)を導入し、該第二のモノマー(b)を重合することにより前記第一の網目構造(A)中にポリマー(B’)を形成する工程と
を有する、セミ相互侵入網目構造を有するハイドロゲルの製造方法において、
前記第一のモノマー(a)の濃度が、前記第一のモノマー水溶液中の第一のモノマー(a)と水との合計100質量%中、25〜50質量%であることを特徴とするハイドロゲルの製造方法。

【公開番号】特開2009−185258(P2009−185258A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−29399(P2008−29399)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】