説明

ハイブリッドレーザアーク溶接プロセス及び装置

【課題】レーザビーム溶接とアーク溶接を同じ溶接プールで同時に行うハイブリッドレーザアーク溶接プロセスを利用し、溶接深さを増大させ、溶接継手でのポロシティ及びガスポケットを排除する。
【解決手段】ワーク(12,14)の接合面(16)の間に画成される溶接シムを含む継手領域(22)でレーザビーム溶接プロセスを行った後、継手領域(22)でハイブリッドレーザアーク溶接プロセスを行ってワーク(12,14)を溶接する。レーザビーム溶接プロセスでは、第1のレーザビーム(32)を継手領域(22)に沿って移動させ、溶接シムを溶込んで溶接物(40)を形成する。ハイブリッドレーザアーク溶接プロセスで、電気アーク(36)と第2のレーザビーム(34)が重なり合うように継手領域(22)に沿って同時に移動させ、溶接物(40)内に溶接プールを形成して溶接物(40)を再溶融させる。冷却すると溶接継手(30)が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全般的に溶接方法に関する。より具体的には、本方法は、レーザビーム溶接とアーク溶接を同じ溶接プールで同時に行うハイブリッドレーザアーク溶接プロセスを利用し、更に、溶接深さの増大及び/又は得られる溶接継手でのポロシティ及びガスポケットの排除を促進するため、ハイブリッドレーザアーク溶接プロセスの前に第2のレーザビーム溶接手法を利用する溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低入熱溶接プロセス、及び特に狭い範囲の溶接条件にわたって作動するレーザビーム及び電子ビーム溶接(それぞれ、LBW及びEBW)などの高エネルギー溶接プロセスは、限定ではないが、ターボ機械で使用される合金を含む幅広い種類の材料において亀裂無し溶接継手を生成するのに首尾よく利用されている。高エネルギービーム溶接プロセスの利点は、高エネルギー密度の集束レーザ又は電子ビームが最小溶接金属容量の深くて狭い溶接部を生成でき、追加重量が少なく、アーク溶接プロセスのような他の溶接技術と比較して部品の歪みが少ない構造的突合せ溶接の形成を可能にする点である。レーザビーム溶接に特に関連する追加の利点は、電子ビーム溶接に通常必要とされる真空チャンバ又は輻射シールド無しで実施できることである。その結果として、レーザビーム溶接は、電子ビーム溶接と比べてより低コストで、より生産性の高い溶接プロセスとすることができる。
【0003】
フィラー材料は特定の応用及び溶接条件で使用されてきたが、レーザビーム及び電子ビーム溶接プロセスは通常、自生的(付加される追加フィラー材料がない)に実施される。高エネルギービームは、溶接すべき表面、例えば溶接される2つの部品の接合面(溶接シム)上に集束される。溶接中、表面は、金属の一部を蒸発させるのに十分に加熱されてキャビティ(キーホール)を生成し、キャビティを囲む溶融材料により後で充填される。レーザビーム溶接における比較的最新の画期的な進歩は、高出力固体レーザの開発であり、本明細書で定義されるように、4キロワット及び特に10キロワット以上の出力レベルを含む。特定の実施例は、ディスク形式(Yb:YAGディスクレーザ)で、或いはファイバー(Ybファイバーレーザ)の内部コーティングとして酸化イッテルビウム(Yb23)を用いる固体レーザである。これらのレーザは、効率及び出力レベルを大幅に高めることができることが分かっている(例えば、約4キロワット〜20キロワットを超える)。
【0004】
レーザハイブリッド溶接としても知られるハイブリッドレーザアーク溶接(HLAW)は、レーザビーム及びアーク溶接技術を両方とも同じ溶接プールで同時に起こるように組み合わせるプロセスである。レーザビームは通常、溶接面に対し垂直方向に向けられ、アーク溶接プロセス(例えば、ガス金属アーク溶接(GMAW、金属不活性ガス(MIG)溶接としても知られる))又はガスタングステンアーク溶接(GTAW、タングステン不活性ガス(TIG)溶接としても知られる)の電気アーク及びフィラー金属は、通常、溶接継手表面のレーザビームの背後に位置付けられ、且つ該集束点に向かって前方に傾斜される。アーク溶接プロセスのこの位置付けは「フォアハンド」技術として知られる。HLAW法の利点は、溶込みの深さを増大させることができ、及び/又は、例えば、従来のアーク溶接プロセスよりも溶接プロセスの移動速度を4倍に増大させることによって生産性を高めることができることである。
【0005】
レーザビーム溶接は、上述の種々の利点を有することが知られているが、深い溶込みのレーザビーム溶接技術は、捕捉ポロシティを生じる傾向があることが知られている。この傾向は、典型的な溶融アークプロセスと比べてレーザビーム溶接に関連する低入熱に起因する可能性がある。結果として、レーザビーム溶接で生成される溶接プールは、極めて直ぐに凝固する傾向があり、溶接プロセス中に生成されるガス−金属反応生成物を捕捉する。HLAWプロセスにアークプロセスを含めることによって、例えば、2分の1インチ(約1cm)足らずの溶接深さなど、浅い溶接部内のポロシティを低減できるが、捕捉された気泡に起因するポロシティは、より大きな溶接深さを得ようとする際には問題となる。
【0006】
深いレーザ溶接におけるポロシティの低減又は排除は、循環的作動を受ける部品について長寿命を達成する観点からすると特に有利になる。1つの商業的実施例は、風力タービンタワーの製作である。現在のところ、レーザビーム溶接技術を利用する溶接プロセスの使用は、レーザビーム溶接で生成される深い溶接物において大量の微細な内部ポロシティが見られる傾向があることに起因して抑制されてきた。ポロシティが存在することで、溶接継手ひいては溶接継手を包含する構造物の疲労寿命が有意に短縮される可能性がある。その結果として、風力タービンタワーなど、循環的作動を受ける構造物の製作には、サブマージアーク溶接(SAW)プロセスなどの他の溶接技術がより一般的に利用されている。しかしながら、風力タービンタワーの建造に必要な大きな厚さの断面を溶接するのに使用される場合、SAWプロセスの重大な欠点は、例えば、毎分約20〜40インチ(約50〜100cm)の比較的低速度で複数回のパスを実施する必要があることに起因して、生産性が低いことである。溶接の直前に部品を予熱することで、気泡が溶接プールから逃げることができる低い冷却速度を達成できるが、実際には、部品は、その溶融温度の4分の3近くまでの加熱を必要とする場合があり、これは高価で且つ部品の基材材料特性に悪影響を及ぼす可能性がある。レーザビーム溶接の次に気泡を放出する第2のレーザビーム溶接処理を用いても、第2の処理によって生成される溶接プールもまた迅速に凝固する傾向があり、気泡が溶接プールから離れて流動できるので効果がないことが証明された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/0243621号明細書
【発明の概要】
【0008】
本発明は、ハイブリッドレーザアーク溶接プロセスを該ハイブリッドレーザアーク溶接プロセスに先行するレーザビーム溶接プロセスと組み合わせて利用して、溶接深さを増大させ、及び/又は最終溶接継手中のポロシティ及びガスポケットの排除を向上させる溶接方法及び装置を提供する。本方法は、従来のハイブリッドレーザアーク溶接技術では過剰な溶接物ポロシティレベルを生じなければ溶接が困難であった、例えば1cm超の比較的肉厚の断面を溶接するのに特に好適である。
【0009】
本発明の1つの態様によれば、溶接方法は、ワークの接合面が対面し、該接合面によってそれらの間に画成される境界面部分を含む継手領域が画成されるようにワークを共に配置する段階を含む。次いで、ワークは、継手領域に沿って多段溶接プロセスを実施することによって溶接される。多段溶接プロセスは、継手領域でレーザビーム溶接プロセスを行い、次いで継手領域でハイブリッドレーザアーク溶接プロセスを行うことを含む。レーザビーム溶接プロセスは、継手領域に第1のレーザビームを照射し、該継手領域への第1のレーザビームの照射を継手領域に沿って移動させ、継手領域の境界面部分に溶込んで、継手領域に予備溶接物を形成させることを含む。ハイブリッドレーザアーク溶接プロセスは、継手領域に沿って実施されて予備溶接物を再溶融する。ハイブリッドレーザアーク溶接プロセスは、電気アーク及び第2のレーザビームを継手領域に沿って同時に移動させるとともに、電気アークによりフィラー材料を溶融させ、継手領域への第2のレーザビームと電気アークの照射が重なり合って、予備溶接物内に溶接プールを同時に形成する。次に、ワークが冷却され、継手領域内で且つ境界面部分を貫通する溶接継手を有する溶接組立体を得る。
【0010】
本発明の別の態様によれば、溶接装置は、継手領域に沿って多段溶接プロセスを実施することによってワークを溶接する手段を含む。溶接手段は、継手領域でレーザビーム溶接プロセスを行う手段と、継手領域でハイブリッドレーザアーク溶接プロセスを行う手段とを含む。レーザビーム溶接プロセス手段は、継手領域に第1のレーザビームを照射し、継手領域への第1のレーザビームの照射を継手領域に沿って移動させ、接合面によってそれらの間に画成される継手領域の境界面部分に溶込んで、継手領域に予備溶接物を形成させるように適合されている。ハイブリッドレーザアーク溶接手段は、継手領域に沿ってハイブリッドレーザアーク溶接プロセスを実施して、予備溶接物を再溶融し、電気アーク及び第2のレーザビームを継手領域に沿って同時に移動させるとともに、電気アークによりフィラー材料を溶融させ、継手領域への第2のレーザビームと電気アークの照射が重なり合って、予備溶接物内に溶接プールを同時に形成するように適合されている。
【0011】
本発明の好ましい態様によれば、ハイブリッドレーザアーク溶接プロセスを実施する前に第1のレーザビームを用いて溶接継手領域を前処理することによって、例えば、1cm及びそれ以上の比較的深い溶接継手の形成を可能にし、この継手には溶接プロセス中の気泡の捕捉の一因となるポロシティがほとんど又は全く含まれていない。このため、レーザビーム溶接の利点は、限定ではないが、発電、航空宇宙、社会基盤設備、医療、産業用途(その実施例が風力タービンタワーの建造である)を含む、様々な製品に利用可能となる。
【0012】
本発明の他の態様及び利点は、以下の詳細な説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の例示的な実施形態による、共に当接され、多段溶接プロセスを受ける2つのワークを概略的に示した図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、ほぼ従来のハイブリッドレーザアーク溶接プロセスとすることができるが、ハイブリッドレーザアーク溶接プロセスの前に目的とする溶接継手に照射される第2のレーザビームを含めることによって修正されたものを利用する多段溶接プロセスを実施するための溶接装置10を表している。多段溶接プロセスは、好ましくは、レーザビーム溶接中に発生する気泡に起因するポロシティを含まないようにすることができる比較的深い溶込み溶接物をもたらす。溶接プロセスは、発電用途で使用される種々の部品の製作の場合と同様に、風力タービンタワーの建造、並びに航空宇宙、社会基盤設備、医療、産業用途、その他を含む幅広い種類の他の用途を対象とした部品を含む、例えば、1cm以上の比較的厚い断面での溶接を必要とする部品の製作に特に好適である。
【0015】
図1は、本発明の多段溶接プロセスを受けるワーク12及び14のペアを表す。ワーク12,14は、鋳造、鍛造、又は粉体冶金の形態とすることができ、また、様々な材料から形成することができ、これらの非限定的な実施例には、ニッケル基、鉄基、コバルト基、銅基、アルミニウム基、及びチタニウム基合金が挙げられる。ワーク12,14は、溶接継手30によって金属的に接合される接合面16を有する。接合面16は、ワーク12,14の対向配置の第1及び第2の表面18,20と連続しており、それらの間に各ワーク12,14の貫通厚さが画成される。
【0016】
図1において、ワーク12,14は、接合面16が対面するように配置されて図示されている。継手領域22は、接合面16並びに各ワーク表面18の直接隣接した表面部分24で画成されることが分かる。これらの表面部分24は、ワーク12,14が嵌合した結果として並置される。図1は、以下で検討するハイブリッドレーザアーク溶接プロセス中に堆積されるフィラー金属を収容する寸法の溝26の形態の溶接準備内に画成される表面部分24を示す。溶接準備溝26は、U字形断面を有して示されているが、他の断面形状も本発明の範囲内にある。更に、溶接準備溝26を排除してもよい点は予想される。図1は更に、ワーク12,14の接合面16間に配置されたシム28を示している。シム28を利用して、溶接継手30にフィラー金属を提供し、及び/又は米国特許出願番号12/415305に記載される追加の利点、すなわち、高出力レーザビーム溶接中にスパッタリング及び不連続性を低減するよう溶接キーホールの安定化を提供することができる。このため、シム28は、ワーク12及び14間からシム28の上縁が突出するように接合面16よりも大きく図示されている。シム28の好適で好ましい組成は、ワーク12,14の組成によって決まることなる。
【0017】
本発明の特定の態様によれば、継手領域22(表面部分24にほぼ垂直)の貫通厚さは、1cm(約0.5インチ)以上とすることができる。このような厚さは、高出力レーザビームのガスの閉じ込めの傾向及び従来のハイブリッドレーザアーク溶接プロセスが深い溶接継手においてガスの閉じ込めを回避できないことの結果として、高出力レーザビーム及びハイブリッドレーザアーク溶接プロセスの使用を妨げていることが上記で証明されたが、本発明は、ハイブリッドレーザアーク溶接とレーザビーム溶接とを組み合わせることによって従来技術の問題に対処し、ハイブリッドレーザアーク溶接プロセスにより捕捉されるガスをレーザビーム溶接の直ぐ後に続くハイブリッドレーザアーク溶接プロセス中に放出できるようにする。
【0018】
図1では、レーザビーム溶接プロセスを実施する手段が第1のレーザビーム32として提示され、及びシム28上に照射されて継手領域の表面部分24上の照射38を定めるように示される。照射38は、継手領域22に沿って方向「D」で移動するように行わせる。図1は、本質的に溶接シム全体の溶込みとして第1のレーザビームを表しており、接合面16間の継手領域22の表面領域によって全体的に画成される。従って、第1のレーザビーム32は、ワーク12,14及びこれらの継手領域22の全体の貫通厚さを本質的に溶込むのが好ましい。
【0019】
図1は、第2のレーザビーム34及び電気アーク36を含むハイブリッドレーザアーク溶接プロセスを実施する手段を表している。第2のレーザビーム34は、第1のレーザビーム32により形成された溶接物40上に照射され、溶接物40の表面上に照射42を定めるが、継手領域22の貫通厚さに溶込んでいないように図示されている。電気アーク36はまた、溶接物40に移動し、溶接物40の表面上に溶接ゾーン46を定める。図1に概略的に表されるように、アーク36の照射溶接ゾーン46と第2のレーザビーム34の照射42は互いに重なり合っている。より具体的には、アーク36の溶接ゾーン46は、ビーム34の照射42よりも大きく、これを完全に囲むのが好ましい。図1は更に、電極から放射するアーク36を表しており、該電極は、スプールのようなワイヤ送給装置44からアーク36内に送給されるフィラー金属ワイヤ48として表される。アーク36の溶接ゾーン46及び第2のレーザビーム34の照射42は共に、継手領域22に沿った方向「D」で同時に、好ましくは一体となって進むようにされる。
【0020】
上記のことを考慮すると、電気アーク36を用いて実施されるアーク溶接プロセスは一般に、限定ではないが、ガス金属アーク溶接(GMAW、金属不活性ガス(MIG)溶接としても知られる)、ガスタングステンアーク溶接(GTAW、タングステン不活性ガス(TIG)溶接としても知られる)、フラックスコアードアーク溶接(FCAW)、及びガスタングステンアーク溶接−ホットワイヤ(GTAW−HW)を含む、ガスシールド溶融アーク溶接と一致している。ワーク12,14の組成及び目的とする用途に応じた好ましい材料を用いて、フィラー金属ワイヤ48に種々の材料を用いることができる。例えば、溶接継手30における亀裂形成の傾向を低減するために延性フィラーが好ましいとすることができ、或いは、その化学的性質がワーク12,14のベース金属に密接に一致し、ベース金属の所望の特性をより近く維持するフィラーを用いることができる。ワイヤ48は、あらゆる好適な直径を有することができ、その典型的な実施例は、0.030〜約0.062インチ(約0.76〜約1.6mm)の範囲に及ぶ。ワイヤ48は、中実、金属粉体の有芯、又は得られる溶接プールでフラックス/スラグ反応を提供するために金属と適切なフラックスの両方を有する有芯とすることができる。
【0021】
溶接物40と溶接継手30の溶込み深さは、一方又は両方のレーザビーム32,34の供給源として1以上の高出力レーザ50を用いることによって向上させることができる。好ましい高出力レーザは、ディスク形式(Yb:YAGディスクレーザ)又はファイバー(Ybファイバーレーザ)の内部コーティングとして酸化イッテルビウム(Yb23)を用いる固体レーザを含むものと考えられる。高出力レーザ溶接プロセスの典型的なパラメータは、4キロワット超(例えば、10キロワット以上)出力レベルと、約0.5〜約1mm(例えば、照射38、42において)のレーザビーム直径とを含む。動作速度及び移動速度のパルスモード又は連続モードのような他の好適な動作パラメータは、過度の実験を行うことなく確認することができる。得レーザ50の制御は、何らかの好適なロボット機械を用いて達成することができる。レーザビーム溶接プロセスは、混合シールドガスを形成するために、例えば、不活性シールドガス、活性シールドガス、又はこれらの組み合わせなど、何らかの好適な雰囲気中で実施することができる。レーザビーム溶接プロセス及び当該技術分野で公知の設備を達成するために、レーザビーム溶接プロセスは、必ずしも真空又は不活性雰囲気中で実施する必要はない。
【0022】
好ましい実施形態では、単一の高出力レーザ50を用いて1次レーザビーム52を発生させ、次いでプリズム54により分割されて第1及び第2のレーザビーム32,34を生成し、該ビーム32,34を継手領域22に沿って整列及び離間させ、次いで互いに対して平行で且つワーク12,14の表面18に対して垂直になり、継手領域22に直ぐ隣接した表面部分24に対し局所的に垂直であるようにビーム32,34を配向する。上述のように、第2のレーザビーム34は、アーク溶接プロセスと組み合わせて標準的なハイブリッドレーザアーク溶接プロセスとなり得るものを提供し、他方、第1のレーザビーム32は、第2のレーザビーム34の前方で継手領域22上に直接照射され溶接物40を生成する。第1のレーザビーム32は、好ましくは深く溶込みし、ハイブリッドレーザアーク溶接プロセスの直前に材料を予熱するのが好ましい。この理由から、レーザビーム32,34の照射38、42は、例えば、1インチ(約2.5cm)未満離れて比較的近接しており、例えば、継手領域22に沿って約4分の1インチ〜約4分の3インチ(約0.5〜約2cm)の間隔(図1における「d」)を隔てている必要がある。場合によっては、第1のレーザビーム32は、第2のレーザビーム34よりも高出力レベルであり、及び/又は第2のレーザビーム34よりも小さな直径を有するように集束されるのが好ましい場合がある。
【0023】
第1のレーザビーム32は、継手領域22の表面部分24でレーザ溶接技術と適合する接合面16間の溶接シム内に溶融溶接プールを形成して、比較的迅速に冷却し、従って、溶接中に発生するガス−金属反応によって生成されるガスを捕捉する傾向がある。気泡の捕捉は、溶接物40内にポロシティが存在する結果をもたらす。従来技術のレーザビーム溶接法の重大な制限にもかかわらず、溶接準備溝26内の溶融物40の少なくとも一部を再溶融するハイブリッドレーザアーク溶接プロセスによって完全には排除されない場合には、多くはポロシティ及びその捕捉ガスが存在する可能性がある。有利には、第2のレーザビーム34及びハイブリッドレーザアーク溶接プロセスの電気アーク36により形成された溶融溶接プールは、第1のレーザビーム32により形成された溶融溶接プールよりも緩慢に凝固し、これにより気泡は、ハイブリッドレーザアーク溶接プロセスの溶融溶接プールから外に浮遊し、最終溶接継手30内のポロシティを低減し、場合によっては排除できるようにする。
【0024】
上記の点を考慮して、本発明の多段溶接プロセスの好ましい実施形態は、他の場合には第1のレーザビーム32によって実施されるレーザビーム溶接に起因することになるポロシティを少なくとも部分的に排除することができるとともに、第1のレーザビーム32が幾つかの重要な利点を提供することができる。第1に、レーザビーム32は、好ましくは、継手領域22の溶接シムに深く溶込むのに使用され、溶着部が存在しない場合には、溶接シムを完全に貫通して延在することができるように、レーザビーム32が溶接物40の深さを最大限にすることができる。レーザビーム32はまた、後に続くハイブリッドレーザアーク溶接プロセス用に極めて高い予熱温度を提供でき、その後のプロセスの溶込みを向上させる。加えて、ハイブリッドレーザアーク溶接プロセスのより優れた溶込みにより冷却速度が緩慢になり、溶接継手30中の残留応力を低減する能力を有する。
【0025】
第1のレーザビーム32によって発生し、ハイブリッドレーザアーク溶接プロセスにより引き起こされる余熱は、レーザビーム32及び34間の間隔(距離「d」)並びに継手領域22に沿ったビーム32及び34の移動速度によって決まるので、1次レーザビーム52を分割して2つの別個のレーザビーム32及び34を形成することは、2つの別個のレーザビーム発生器を用いて2つの平行ビーム32及び34の近接した配置が困難であるという観点から、好ましい。第1のレーザビーム32は、第2のレーザビーム34に向けて角度を付けて戻され、これらの離隔距離を縮小することができるが、このようにすると、レーザビーム溶接プロセス及びその第1のレーザビーム32で生成される溶接物40からポロシティを排除するハイブリッドレーザアーク溶接プロセスの所望の能力を妨げる可能性がある。
【0026】
使用時には、図1において提示される溶接装置10は、第1のレーザビーム32を継手領域22上に照射し、ワーク12,14の接合面16間の溶接シムを溶込ませて凝固する溶融プールを生成し、ポロシティが存在し得る溶接物40を形成することによって、ワーク12,14を溶接するよう機能する。続いて、溶接物40は、第2のレーザビーム34及びハイブリッドレーザアーク溶接プロセスの電気アーク36によって再溶融され、溶接物40からの溶融ベース金属並びにフィラー金属ワイヤ48からの溶融フィラー金属を含有する第2の溶融溶接プールを形成する。この溶接プールを凝固して溶接継手30を形成する前に、溶接物40内に当初捕捉された気泡が溶接プールを通って上方に浮動し放出されるのが好ましい。冷却時には、ワーク12,14は、溶接継手30によって金属的に接合され、得られる溶接組立体の貫通厚さ全体に延在するのが好ましい。図1に描かれた溶接継手30は方形溝の突合せ継手であるが、角継手、重ね継手、エッジ継手、及びティー継手を含む、他の継手タイプも予期される点は理解されたい。
【0027】
深い溶接継手30においてポロシティを低減又は排除することで、溶接金属特性が向上し、循環的作動条件の結果として疲労に曝される部品について長寿命を達成できる。上述のように、1つの商業的実施例は、電力生成で使用される風力タービンタワーの製作である。現在のところ、特定の風力タービンタワーは、サブマージアーク溶接(SAW)によって形成された溶接継手を用いて製作され、毎分約20〜40インチ(約50〜100cm/分)速度で6回〜12回の溶接パスを実施する必要がある。本発明を用いると、約100〜200インチ/分(約2500〜5000cm/分)の速度の単一パスで等価の溶接継手及び場合によってはより上質の溶接継手を生成できると考えられる。本発明より以前では、こうした構造物のレーザビームは、約2の分の1インチ(約1cm)よりも大きな厚さを有するレーザビーム溶接断面を得ようとするときに大量の微細な内部ポロシティが形成されることに起因して抑制されてきた。
【0028】
好ましい実施形態について本発明を説明してきたが、当業者であれば他の形態を適合させることができる点は理解される。従って、本発明の範囲は以下の請求項によってのみ限定されるものとする。
【符号の説明】
【0029】
10 溶接装置
12,14 ワーク
16 接合面
18,20 第1及び第2の表面
22 継手領域
24 継手領域の表面部分
26 溶接準備溝
28 シム
30 溶接継手
32 第1のレーザビーム
34 第2のレーザビーム
36 電気アーク
38 照射
40 溶接物
42 照射
46 照射溶接ゾーン
48 フィラー金属ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上のワーク(12,14)の接合面(16)を金属的に接合することによって前記ワーク(12,14)を溶接する方法であって、
前記ワークの接合面(16)が対面し、該接合面(16)によってそれらの間に画成される境界面部分を含む継手領域(22)が画成されるように前記ワーク(12,14)を共に配置する段階と、
前記継手領域(22)でレーザビーム溶接プロセスを行い、次いで前記継手領域(22)でハイブリッドレーザアーク溶接プロセスを行うことを含む多段溶接プロセスを前記継手領域(22)に沿って実施することによって前記ワーク(12,14)を溶接する段階であって、前記レーザビーム溶接プロセスが、前記継手領域(22)に第1のレーザビーム(32)を照射し、前記継手領域(22)への第1のレーザビーム(32)の照射を前記継手領域(22)に沿って移動させ、前記継手領域(22)の境界面部分に溶込んで、前記継手領域(22)において予備溶接物(40)を形成させることを含み、前記ハイブリッドレーザアーク溶接プロセスが、前記継手領域(22)に沿って実施されて前記予備溶接物(40)を再溶融し、電気アーク(36)及び第2のレーザビーム(34)を前記継手領域(22)に沿って同時に移動させるとともに、前記電気アーク(36)でフィラー材料(48)を溶融させ、前記継手領域(22)への第2のレーザビーム(34)と前記電気アーク(36)の照射(42、46)が重なり合って前記予備溶接物(40)で溶接プールを同時に形成する、段階と、
前記ワーク(12,14)を冷却して、前記継手領域(22)内で且つ前記境界面部分を貫通する溶接継手(30)を有する溶接組立体を得る段階
とを含む方法。
【請求項2】
第1及び第2のレーザビーム(32,34)が1次レーザビーム(52)の分割によって生成される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
第1のレーザビーム(32)が第2のレーザビーム(34)よりも出力レベルが大きい、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
第1及び第2のレーザビーム(32,34)が、前記継手領域(22)に沿って2.5cm未満の間隔で隔てられている、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
第1及び第2のレーザビーム(32,34)が互いに平行である、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記継手領域(22)への第1のレーザビーム(32)の照射(38)の直径が、前記継手領域(22)への第2のレーザビーム(34)の照射(42)の直径よりも小さい、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記レーザビーム溶接プロセスによって形成された前記予備溶接物(40)が、前記ハイブリッドレーザアーク溶接プロセスによって形成された溶接継手(30)よりも迅速に凝固する、請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記予備溶接物(40)が凝固して内部に気泡を捕捉し、前記ハイブリッドレーザアーク溶接プロセスで前記予備溶接物(40)が再溶融されることによって、前記気泡内のガスが前記予備溶接物(40)から放出される、請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記溶接組立体が風力タービンタワーの部品である、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
2以上のワーク(12,14)の接合面(16)を金属的に接合することによって前記ワーク(12,14)を溶接する装置(10)であって、
当該装置が、前記継手領域(22)に沿って多段溶接プロセスを実施することによって前記ワーク(12,14)を溶接する手段(32,34,36)を備えていて、該手段(32,34,36)が、前記継手領域(22)でレーザビーム溶接プロセスを行う手段(32)と、前記継手領域(22)でハイブリッドレーザアーク溶接プロセスを行う手段(34,36)とを含んでおり、
前記レーザビーム溶接プロセス手段(32)が、前記継手領域(22)に第1のレーザビーム(32)を照射し、前記継手領域(22)への第1のレーザビーム(32)の照射を前記継手領域(22)に沿って移動させ、前記接合面(16)によってそれらの間に画成される前記継手領域(22)の境界面部分に溶込んで、前記継手領域(22)において予備溶接物(40)を形成させるように適合されており、
前記ハイブリッドレーザアーク溶接手段(34,36)が、前記継手領域(22)に沿ってハイブリッドレーザアーク溶接プロセスを実施して、前記予備溶接物(40)を再溶融し、電気アーク(36)及び第2のレーザビーム(34)を前記継手領域(22)に沿って同時に移動させるとともに、前記電気アーク(36)によりフィラー材料(48)を溶融させ、前記継手領域(22)への第2のレーザビーム(34)と前記電気アーク(36)の照射(42、46)が重なり合って、前記予備溶接物(40)内に溶接プールを同時に形成するように適合されている、装置(10)。

【図1】
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