説明

ハイブリッド型水浄化装置およびそれを用いた水浄化方法

【課題】難分解性物質を短時間で分解可能であり、消費電力が少なく、太陽光のみで作動させることができ、災害時の飲料水確保等に用いて好適な、ハイブリッド型水浄化装置およびそれを用いた水浄化方法を提供する。
【解決手段】導電性ダイヤモンドからなる電極を備え被処理水の含有物質を電気化学的に酸化分解する電気分解部と、電気分解部より導出された被処理水が導入され、被処理水の含有物質を光触媒を用いて分解処理する光触媒処理部とを有することを特徴とするハイブリッド型水浄化装置、およびそれを用いた水浄化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド型水浄化装置およびそれを用いた水浄化方法に関し、とくに、難分解性物質を短時間で分解可能であり、消費電力が少なく、太陽光のみで作動させることができ、災害時等の飲料水確保等に用いて好適な、ハイブリッド型水浄化装置およびそれを用いた水浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒を用いて被処理水の含有物質を分解する水浄化方法が知られている。例えば、特許文献1には、光触媒を担持した不織布を用いて、光触媒反応により被処理水に含まれる有機物を分解する水浄化方法が開示されている。この光触媒による有機物の分解反応は、光照射によって光触媒表面で生成するヒドロキシラジカルが有機物を酸化させることによって起こるが、このヒドロキシラジカルは高い酸化力を有しており、通常の有機化合物だけでなく芳香族化合物などの難分解性物質も酸化させることが可能である。
【0003】
このような水浄化処理に用いられる光触媒の光源は、そのほとんどが紫外光である。紫外光を照射可能な光源として、従来は紫外線ランプや水銀灯等が利用されてきたが、近年、環境保護および化石燃料使用量削減の観点から、例えば特許文献1に開示されている水処理方法のように、太陽光を光源として利用可能な水浄化装置およびそれを用いた水浄化方法がいくつか開発されている。このような太陽光を光源とする水浄化装置は、光源を付設する必要がなく、製造コストの削減や装置の小型化を実現することが可能である。しかしながら、太陽光の紫外光強度は紫外線ランプ等よりも低いため、光触媒への照射光の光源として太陽光を使用する水浄化装置は、紫外線ランプ等を用いた従来装置と同程度の分解効率を達成することが困難であり、分解処理により長い時間を必要とする場合が多く、高濃度の汚染水の浄化処理においては必ずしも好適でない場合が多い。
【0004】
一方、近年、導電性ダイヤモンドからなる電極を用いた電気分解処理が水浄化方法として注目を集めている。例えば、特許文献2および特許文献3には、導電性ダイヤモンドからなる電極を用いた電気分解処理により、被処理水に含まれる難分解性物質を分解する水浄化方法が開示されている。導電性ダイヤモンドからなる電極は、他の材質からなる電極と比べて広い電位窓を有しており、水溶液の電気分解時に高い電圧を印加しないと酸素と水素が発生しないという特徴がある。すなわち、導電性ダイヤモンドからなる電極を用いた電気分解においては、比較的高い電圧を印加して水中にヒドロキシラジカルなどの活性酸素種を効率良く発生させることができるので、被処理水の含有物質を効率良く酸化させることができ、難分解性物質を含む被処理水を短時間で浄化することができる。
【特許文献1】特開2006−192427号公報
【特許文献2】特開2006−68617号公報
【特許文献3】特開2006−346540号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、導電性ダイヤモンドからなる電極を用いた電気分解は、ヒドロキシラジカルなどの活性酸素種を発生させるために比較的高い電圧を印加する必要があり、消費電力量が大きく、運用コストがかかるという問題点を有している。上述の特許文献3には、電気分解後に分離工程および濃縮工程を設けて被処理水等を再利用することにより、電気分解処理の分解効率を維持して電力消費量の増加を抑制する方法が開示されているが、この方法は水処理工程の増加を伴うため、処理コストの上昇、装置製造コストの上昇、および装置の大型化を招くおそれがある。
【0006】
そこで本発明の課題は、難分解性物質を短時間で分解可能であり、消費電力が少なく、太陽光のみをエネルギー源として水浄化処理を実施可能であり、災害時等の飲料水確保等に用いて好適な、水浄化装置およびそれを用いた水浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るハイブリッド型水浄化装置は、導電性ダイヤモンドからなる電極を備え被処理水の含有物質を電気化学的に酸化分解する電気分解部と、前記電気分解部より導出された被処理水が導入され、該被処理水の含有物質を光触媒を用いて分解処理する光触媒処理部とを有することを特徴とするものからなる。
【0008】
このような本発明に係るハイブリッド型水浄化装置においては、導電性ダイヤモンドからなる電極を備え被処理水を電気分解する電気分解部と、被処理水の含有物質を光触媒を用いて分解処理する光触媒処理部とが備えられているので、それぞれの長所を活用することにより、消費電力量を抑制しつつ、難分解性物質を短時間で効率的に分解することが可能である。
【0009】
上記のハイブリッド型水浄化装置においては、被処理水は最初に導電性ダイヤモンドからなる電極を備える電気分解部において電気分解される。上述の如く、導電性ダイヤモンドを電極として用いた電気分解処理は高い酸化能力を発揮可能であるため、高濃度の汚染水を短時間で浄化することが可能であり、かつ、被処理水に難分解性物質が含まれている場合においても適用可能である。
【0010】
しかしながら、導電性ダイヤモンドを電極として用いた電気分解処理は消費電力量が比較的大きく、長時間作動させると電力コストが上昇してしまうという懸念がある。そこで、本発明に係るハイブリッド型水浄化装置においては、電気分解部における分解処理を短時間実施した後、電気分解部により含有物質の一部が分解された被処理水を光触媒処理部へ導入し、残存する含有物質を光触媒処理部において分解処理することにより、上記の電力消費量の問題を解決している。光触媒処理部は光触媒への光照射のみで分解処理を実施可能であり、電気分解部と比べて電力消費量が格段に少なくて済む。また、後述の試験例で示す通り、光触媒を用いた分解処理は被処理水の含有物質濃度が低くなるほど処理速度が向上することが観察されており、電気分解部において予め被処理水の含有物質を分解し、光触媒処理部へ導入される被処理水の含有物質濃度を低下させておくことにより、光触媒処理部における分解処理速度を向上させることが可能となる。
【0011】
すなわち、本発明に係るハイブリッド型水浄化装置によれば、導電性ダイヤモンドを電極として用いた電気分解部の優れた分解能力により難分解性物質を含む被処理水を浄化可能であり、かつ、光触媒処理部の活用により残存物質を分解するとともに装置全体の電力消費量を抑制することが可能となる。また、電気分解部によって含有物質の一部が分解された被処理水を光触媒処理部へ導入することにより、光触媒処理部の分解処理速度の改善も実現される。したがって、上記の構成によって、水浄化装置全体の処理効率およびエネルギー効率を大きく改善することができ、電気分解部と光触媒処理部の単なる組み合わせでは得られない高性能なハイブリッド型水浄化装置を実現することが可能となる。
【0012】
なお、光触媒処理部に導入される被処理水は、電気分解部より導出された被処理水をそのまま使用可能であり、分離工程や濃縮工程を経由することなく光触媒処理部へ導入することができる。
【0013】
上記電気分解部における電極の構成は、とくに限定されず、少なくともいずれか一方の電極が導電性ダイヤモンドからなる構成であればよい。すなわち、陽極電極および陰極電極が両方とも導電性ダイヤモンドからなる構成であってもよいし、いずれか一方の電極のみが導電性ダイヤモンドからなる構成であってもよい。いずれか一方の電極のみが導電性ダイヤモンドからなる場合、もう一方の電極の材質はとくに限定されず、例えば、白金等を使用可能である。
【0014】
また、上記電気分解部における電極は複数設けられていてもよい。これらの設置形態はとくに限定されず、要は、水浄化装置に要求される浄水性能に適した設置形態であればよい。例えば、電気分解部における電極は、複数の電極が流路に対し並列に設置されていてもよいし、複数の電極が流路に対し直列に設置されていてもよいし、それらの設置形態が組み合わされた形態であってもよい。同様に、上記光触媒処理部における光触媒担持体は複数設けられていてもよく、その設置形態はとくに限定されない。
【0015】
本発明における導電性ダイヤモンドとしては、例えば、ボロンドープダイヤモンド(Boron−doped Diamond)を適用可能である。ボロンドープダイヤモンド単体およびそれを用いた電極は複数の企業より市販されており、水浄化装置の要求性能に適したものを選択することにより、装置の部品コストおよび組立コストを低減させることが可能である。
【0016】
本発明におけるハイブリッド型水浄化装置は、とくに限定されないが、太陽電池が付設されていることが好ましく、太陽電池から供給される電力のみで作動可能に構成されていることがとくに好ましい。なお、本発明における太陽電池には、太陽光を光源として発電を行う発電部と、発電された電力を蓄積する蓄電池部の両方が含まれるものとする。このような太陽電池が付設されることで、水浄化装置の作動に必要な電力を太陽光からのエネルギーによって供給することが可能となり、装置の運用コストを低減させることが可能となる。また、照射により発電部において産生された電力の余剰分を蓄電池部に充電することにより、曇天時や夜間においても水浄化装置を作動させることが可能となる。
【0017】
本発明において、光触媒を用いた分解処理における光触媒への照射光の光源は、光触媒の光活性を発揮させ得るものであればとくに限定されず、例えば、光源として太陽光を使用するように光触媒処理部を構成することができる。光源として太陽光を使用することにより、装置内に光源を設置する必要がなくなるため、装置の製造コストおよび組立コストを削減することができ、装置の小型化および軽量化が容易に実現可能となる。また、光源が太陽光であるため、光源を作動させるための電力が不要となり、水浄化装置の消費電力量の低下および運用コストの削減を実現することができる。
【0018】
本発明におけるハイブリッド型水浄化装置は、太陽電池から供給される電力のみで作動可能に構成し、かつ、光触媒への照射光の光源として太陽光を利用可能に構成することにより、太陽光からのエネルギーのみで装置全体を作動させることが可能である。このような水浄化装置は太陽光のみで水浄化処理を行うことができるので、環境負荷をほとんど発生させることなく水浄化処理を行うことができ、安定した電力供給が困難な場所(例えば、離島や山間部など)においても水浄化処理を行うことが可能である。このような水浄化装置は、とくに、災害時の飲料水確保や、海外支援事業における水浄化処理に用いて好適なものである。
【0019】
本発明における光触媒の材質は、光触媒反応により被処理水の含有物質を分解可能であれば、とくに限定されるものではない。このような分解機能を発揮可能な光触媒の材質としては、代表的には酸化チタンを適用できる。光触媒として酸化チタンを使用することにより、酸化力に優れ難分解性物質を分解可能な光触媒処理部を低コストで実現することが可能である。
【0020】
本発明における光触媒は、とくに限定されないが、多孔質体に担持されていることが好ましい。光触媒が多孔質体に担持された場合、光触媒の表面積が増大し、光触媒と被処理水の含有物質との接触面積が増大するため、光触媒反応における反応速度を向上させることができ、光触媒処理部における分解処理の効率を向上させることができる。光触媒を担持可能な多孔質体としては、例えば、多孔質セラミックス、多孔質ガラス、ガラスファイバ、グラスウール、アルミナボール、セラミックボール、金属繊維等が挙げられる。
【0021】
本発明におけるハイブリッド型水浄化装置は、電解質添加手段を有する構成にすることができる。被処理水に予め電解質を添加しておくことにより、電気分解部における電気分解処理の処理速度を向上させることができ、電気分解部の処理効率を向上させることができる。被処理水に添加される電解質としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム等が挙げられるが、これら以外にも任意の電解質を適用可能である。
【0022】
本発明におけるハイブリッド型水浄化装置は、とくに限定されないが、被処理水に含まれる浮遊物および沈殿物等を除去可能なプレフィルターが設けられていることが好ましく、とくに、0.5μm以上の大きさの浮遊物および沈殿物等を除去可能なプレフィルターが設けられていることがより好ましい。このようなプレフィルターをハイブリッド型水浄化装置内に設けることにより、分解困難な大型の浮遊物等を予め被処理水から除去しておくことができ、それらの浮遊物等による流路の狭窄もしくは詰まりを未然に防止することができるため、浮遊物等が大量に含まれた被処理水を処理する場合においても、ハイブリッド型水浄化装置の処理効率が維持される。また、光触媒処理部の後段に最終フィルターを配置し、光触媒処理部より導出された水から電極や光触媒担持部の剥離等に起因する望ましくない浮遊物を除去することもできる。なお、プレフィルターおよび最終フィルターの構成は、浮遊物等を除去可能であればとくに限定されるものではなく、例えば、孔径が異なる複数のフィルターが設けられていてもよいし、フィルター材を容易に交換可能なカセットフィルターが設けられていてもよい。
【0023】
本発明におけるハイブリッド型水浄化装置は、電気分解部および光触媒処理部で処理された被処理水に残存する電解質の除去手段を有する構成とすることができる。被処理水に残存する電解質としては、上述の電解質添加手段により添加されるものの他、被処理水にもともと含有されていたもの、電気分解部または光触媒処理部の分解処理により生成したもの等が存在している可能性がある。これらの電解質は人体もしくは環境に対して影響を及ぼすおそれのある物質である可能性があるため、とくに、ハイブリッド型水浄化装置によって処理された水を飲料水として使用する場合、上述の電解質除去手段がハイブリッド型水浄化装置に設けられていることが好ましい。電解質の除去手段としては、例えば、イオン交換樹脂等が挙げられる。
【0024】
本発明における電気分解部には、被処理水循環用のポンプが設けられていてもよい。被処理水を循環させることにより、電気分解処理された被処理水が電極の周辺に滞留することを防止し、分解処理の効率を向上させることができる。
【0025】
また、本発明における光触媒処理部には、被処理水循環用のポンプを設けることができる。被処理水を循環させることにより、光触媒により分解処理された被処理水が光触媒担持部の周辺に滞留することを防止し、分解処理の効率を向上させることができる。
【0026】
本発明におけるハイブリッド型水浄化装置は、移動式装置として構成することができる。装置を移動可能に構成することにより、装置の運搬が容易となり、水浄化処理が必要とされている場所へハイブリッド型水浄化装置を迅速に運ぶことができる。とくに、本発明におけるハイブリッド型水浄化装置を移動式装置として構成し、かつ、上述の如く太陽光からのエネルギーのみで作動可能に構成することにより、電力供給が困難な地域にハイブリッド型水浄化装置を運搬して水浄化処理を実施することが可能となる。このようなハイブリッド型水浄化装置は、とくに、災害時の飲料水確保や海外支援事業における水浄化処理において有用である。
【0027】
本発明はまた、難分解性物質を短時間で分解可能であり、低消費電力で実施可能な水浄化方法についても提供する。すなわち、本発明に係る水浄化方法は、上述のいずれかのハイブリッド型水浄化装置を用いて水浄化処理を実施することを特徴とする方法からなる。このような水浄化方法は、上述の如く、導電性ダイヤモンドを電極として用いた電気分解部の優れた分解能力により難分解性物質を含む被処理水を浄化可能であり、かつ、光触媒処理部の活用により、さらに浄化を進めるとともに、運用に係る電力消費量を削減することが可能である。
【0028】
環境省による「生活環境の保全に関する環境基準」は、環境基準AAおよび水道1級(濾過等による簡易な浄水操作により水道水として利用可能な水質)の要件の一つとして、COD(Chemical Oxygen Demand)1mg/L以下という水質基準を設定している。そこで、本発明における水浄化方法により浄化された水を飲料水または生活用水として利用する場合、とくに限定されるものではないが、ハイブリッド型水浄化装置は被処理水をCOD1mg/L以下まで浄化可能であるように構成されていることが好ましい。
【0029】
また、上記の水質基準を達成可能となるようにハイブリッド型水浄化装置を構成する場合、ハイブリッド型水浄化装置の電気分解部は、とくに限定されるものではないが、被処理水をCOD100mg/L以下まで浄化可能であるように構成されていることが好ましく、COD50mg/L以下まで浄化可能であるように構成されていることがより好ましい。後述の試験例において示されている通り、光触媒処理部の分解効率は導入される被処理水のCODが低くなるほど向上するため、電気分解部において予め被処理水のCODを上述の水準まで低下させておくことにより、光触媒処理部の処理速度を向上させることができ、上述の水質基準を短時間で達成することが可能となる。
【0030】
本発明における被処理水は、被処理水の含有物質を水浄化装置の電気分解部および光触媒処理部により分解可能であればよく、被処理水の種類についてはとくに限定されない。本発明に係る水浄化方法により処理可能な被処理水としては、例えば、河川水、湖沼水、海水、雨水、生活排水、下水処理場排水、廃棄物処理施設排水、農業排水、ゴルフ場排水、工場排水等が挙げられる。
【0031】
本発明に係る水浄化方法により浄化された水は、いかなる用途に用いてもよく、例えば、飲料水、生活用水、工業用水、中水などとして利用可能である。
【発明の効果】
【0032】
このように、本発明に係るハイブリッド型水浄化装置およびそれを用いた水浄化方法によれば、光触媒処理部の活用により装置全体の電力消費量を抑制しつつ、導電性ダイヤモンドを電極として用いた電気分解部の高い分解能力により、汚染水に含まれる難分解性物質を含む各含有物質を短時間で分解することが可能である。
【0033】
また、本発明におけるハイブリッド型水浄化装置は、装置の動力供給源として太陽電池を付設し、太陽電池の光源および光触媒への照射光の光源として太陽光を使用することにより、太陽光のみをエネルギー源として全ての水浄化処理を実施することが可能となる。このようなハイブリッド型水浄化装置は、外部電力源の確保が困難な場合においても水浄化処理を実施可能であり、とくに、災害時の飲料水確保や、海外支援事業における水浄化処理に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施態様におけるハイブリッド型水浄化装置を示しており、とくに、太陽電池が付設され、光触媒への照射光の光源として太陽光が使用されるハイブリッド型水浄化装置の概略構成を示している。図1において、ハイブリッド型水浄化装置1に導入された被処理水2は、電解質添加槽3により電解質が添加され、プレフィルター4により被処理水2に含まれる浮遊物等が除去された後、導電性ダイヤモンドからなる電極6が備えられた電気分解部5に導入される。電気分解部5には被処理水循環用のポンプ(図示略)が設けられており、電気分解部5に導入された被処理水2aが電気分解部5内を循環する間、被処理水2aの含有物質は、電極6から発生するヒドロキシラジカル等の活性酸素種により酸化され分解される。被処理水2aは、電気分解部5の電気分解処理により含有物質の一部が分解された後、光触媒処理部7に導入される。光触媒処理部7には、光触媒8および被処理水循環用のポンプ(図示略)が設けられており、光触媒処理部7に導入された被処理水2bが光触媒処理部7内を循環する間、被処理水2b内に残存する含有物質は、光触媒8の光触媒作用により分解される。光触媒処理部7により処理された水は、最終フィルター9により浮遊物等が除去され、イオン交換樹脂10により電解質が除去された後、処理水11としてハイブリッド型水浄化装置1より導出され、飲料水や生活用水等として利用される。
【0035】
図1において、ハイブリッド型水浄化装置1は太陽電池12を有しており、上述の電気分解処理に必要な電力や被処理水循環用ポンプを作動させるためのエネルギーは、全て太陽電池12のみで供給可能に構成されている。また、光触媒8は、照射光の光源として太陽光13を使用することができる。したがって、ハイブリッド型水浄化装置1は、太陽光13のみをエネルギー源として全ての水浄化処理動作を実施することが可能である。
【0036】
図1に示したハイブリッド型水浄化装置1の電気分解部において動作試験を実施し、分解効率を最適化するための条件を調査した。この動作試験では、電極としてBDD(ボロンドープダイヤモンド)セルを使用し、モデル汚染物質としてフェノールを使用し、電解質として硫酸ナトリウム(NaSO)を0.1M添加し、5.0Vの電圧を印加し、流速を0.1L/minに設定し、電気分解反応における反応速度定数、半減期、消費電力量を測定した。結果を表1に示す。
【0037】
表1において、試験(1)はBDDセル数1、フェノール濃度2.5mM、被処理水体積0.5Lという条件における測定結果を示している。一方、試験(2)は試験(1)と同様の条件で、BDDセル数を2に増やした場合の測定結果を示している。試験(1)と試験(2)を比較すると、BDDセル数を2倍にすることにより、消費電力量は2倍に増加するが、反応速度定数kも2倍となり、電気分解部における分解処理速度が向上することが分かる。
【0038】
また、表1において、試験(3)は、BDDセル数3、フェノール濃度2.5mM、被処理水体積3.0Lという条件における測定結果を示しており、試験(4)は試験(3)と同様の条件で、被処理水の体積を1.0Lに変更した場合の測定結果を示している。試験(3)と試験(4)を比較すると、被処理水の体積を1/3に変更することにより、反応速度定数kは3倍となり、消費電力量を維持しつつ、電気分解部における分解処理速度を向上させることが可能となる。
【0039】
さらに、表1において、試験(5)は、試験(4)と同様の条件で、溶液濃度を7.5mMに変更した場合の測定結果を示している。試験(4)と試験(5)を比較すると、被処理水の濃度が3倍に増加した場合、反応速度定数kおよび消費電力量は変化しないことが分かる。
【0040】
上述の結果から、本発明に係るハイブリッド型水浄化装置の電気分解部における分解処理速度は、BDDセル数に比例し、体積に反比例するが、溶液濃度には依存しないことが分かる。したがって、BDDセル数を増加する、もしくは一度に処理する被処理水の体積を少量に抑えることにより、電気分解部における分解効率を向上させることができる。また、電気分解部の分解処理速度は溶液濃度に依存しないため、高濃度の汚染水に対しても高い分解効率を発揮可能である。
【0041】
【表1】

【0042】
図2は、図1に示したハイブリッド型水浄化装置の光触媒処理部における動作試験の実施結果を示している。この動作試験では、光触媒担持体として酸化チタンが焼き付けられたグラスウールを使用し、モデル汚染物質としてフェノールを使用し、電解質として硫酸ナトリウム(NaSO)を0.1M添加し、光源として2.5mW/cmのブラックライトを使用し、被処理水の体積を0.5Lとし、流速を0.1L/minに設定し、被処理水のCODに対する半減期の変化を測定した。図2の縦軸は半減期を示しており、値が小さいほど分解速度が大きい。図2から、被処理水のCODが100mg/L以下になると、半減期が急速に減少して分解速度が著しく上昇することが分かる。この効果は、CODが減少するにつれてより顕著になる。したがって、被処理水が光触媒処理部へ導入される前に、予め電気分解部において被処理水のCODを100mg/L以下、好ましくは50mg/L以下まで低下させておくことにより、光触媒処理部における分解処理速度を向上させることができ、被処理水の含有物質をより効率的に分解することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係るハイブリッド型水浄化装置およびそれを用いた水浄化方法は、あらゆる水浄化処理に適用可能であり、とくに、災害時の飲料水確保や海外支援事業における水浄化処理に用いて好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施態様におけるハイブリッド型水浄化装置の概略構成図である。
【図2】図1に示したハイブリッド型水浄化装置の光触媒処理部におけるフェノールの分解結果を示す特性図である。
【符号の説明】
【0045】
1 ハイブリッド型水浄化装置
2 被処理水
3 電解質添加槽
4 プレフィルター
5 電気分解部
6 導電性ダイヤモンドからなる電極
7 光触媒処理部
8 光触媒
9 最終フィルター
10 イオン交換樹脂
11 処理水
12 太陽電池
13 太陽光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性ダイヤモンドからなる電極を備え被処理水の含有物質を電気化学的に酸化分解する電気分解部と、前記電気分解部より導出された被処理水が導入され、該被処理水の含有物質を光触媒を用いて分解処理する光触媒処理部とを有することを特徴とするハイブリッド型水浄化装置。
【請求項2】
前記導電性ダイヤモンドがボロンドープダイヤモンドからなる、請求項1に記載のハイブリッド型水浄化装置。
【請求項3】
太陽電池が付設されている、請求項1または2に記載のハイブリッド型水浄化装置。
【請求項4】
前記太陽電池より供給される電力のみで作動可能に構成されている、請求項3に記載のハイブリッド型水浄化装置。
【請求項5】
前記光触媒を用いた処理における光触媒への照射光の光源として太陽光が使用されている、請求項1〜4のいずれかに記載のハイブリッド型水浄化装置。
【請求項6】
前記光触媒が酸化チタンからなる、請求項1〜5のいずれかに記載のハイブリッド型水浄化装置。
【請求項7】
前記光触媒が多孔質体に担持されている、請求項1〜6のいずれかに記載のハイブリッド型水浄化装置。
【請求項8】
前記多孔質体が多孔質セラミックス、多孔質ガラス、ガラスファイバ、グラスウール、アルミナボール、セラミックボール、金属繊維のいずれかである、請求項7に記載のハイブリッド型水浄化装置。
【請求項9】
被処理水への電解質添加手段を有する、請求項1〜8のいずれかに記載のハイブリッド型水浄化装置。
【請求項10】
前記電解質添加手段により添加される電解質が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウムからなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物からなる、請求項9に記載のハイブリッド型水浄化装置。
【請求項11】
被処理水に含まれる浮遊物および沈殿物等を除去可能なプレフィルターが設けられている、請求項1〜10のいずれかに記載のハイブリッド型水浄化装置。
【請求項12】
前記プレフィルターが0.5μm以上の大きさの浮遊物および沈殿物等を除去可能である、請求項10に記載のハイブリッド型水浄化装置。
【請求項13】
前記電気分解部および光触媒処理部で処理された被処理水に残存する電解質の除去手段を有する、請求項1〜12のいずれかに記載のハイブリッド型水浄化装置。
【請求項14】
前記電気分解部に被処理水循環用のポンプが設けられている、請求項1〜13のいずれかに記載のハイブリッド型水浄化装置。
【請求項15】
前記光触媒処理部に被処理水循環用のポンプが設けられている、請求項1〜14のいずれかに記載のハイブリッド型水浄化装置。
【請求項16】
移動式装置として構成されている、請求項1〜15のいずれかに記載のハイブリッド型水浄化装置。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかのハイブリッド型水浄化装置を用いることを特徴とする水浄化方法。
【請求項18】
COD1mg/L以下まで被処理水を浄化する、請求項17に記載の水浄化方法。
【請求項19】
前記電気分解部により処理され前記光触媒部に導入される被処理水を、COD50mg/L以下まで浄化する、請求項17または18に記載の水浄化方法。
【請求項20】
前記被処理水として、河川水、湖沼水、海水、雨水、生活排水、下水処理場排水、廃棄物処理施設排水、農業排水、ゴルフ場排水、工場排水からなる群から選ばれた少なくとも一種を対象とする、請求項17〜19のいずれかに記載の水浄化方法。
【請求項21】
処理された水を飲料水、生活用水、工業用水、もしくは中水として利用する、請求項17〜20のいずれかに記載の水浄化方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−64045(P2010−64045A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235203(P2008−235203)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、科学技術総合研究委託事業「アジア科学技術協力の戦略的推進 環境にやさしい水質浄化技術の研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【Fターム(参考)】