説明

ハイブリッド炭素繊維強化複合材料

【課題】航空機、自動車、船舶、建造物などのような人命を預かる構造物や材料の一部が破壊したことにより全体が突然破壊を起こし、多大な損害を与えるような構造物に有用な炭素繊維強化複合材料を提供する。
【解決手段】異なる性質の炭素繊維からなるハイブリッド炭素繊維強化複合材料1であって、高弾性炭素繊維3と高強度炭素繊維4からなり、少なくとも両繊維の各一層の配向方向が同一方向に揃えられて積層されている。高弾性炭素繊維の弾性率は500GPa以上、高強度炭素繊維の引張強度は5GPa以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、航空機、自動車、船舶、建造構造物等のように、人命を預かる多くの産業分野の構造物や材料の一部が破壊したことにより全体が突然破壊を起こし、多大な損害を与えるような構造物に用いる炭素繊維強化複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
第9図(a)〜(c)は従来の炭素繊維強化複合材料の一般的な層構成の例を示したものである。
図において、従来の炭素繊維強化複合材料(12)は、1種類の炭素繊維(13)を負荷方向(2)に対してある繊維配向を持って多層に積層し、樹脂(5)で覆われて構成されている。
【0003】
第10図は従来の炭素繊維強化複合材料(12)の引張負荷時の応力−ひずみ曲線の例を示したものである。負荷(応力)の増加にほぼ比例して変形(ひずみ)が増加する直線的な挙動(6)を示し、その後、最終的な破壊(11)に至っている。従来の炭素繊維強化複合材料(12)では、負荷により一層の炭素繊維(13)が破損あるいは破壊した場合、その他の層で負荷を受け持つことができず、その他の層が瞬時に破壊する不安定な破壊を生じる問題があった。
【0004】
また、負荷による破損を可視的に確認することが困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実情に鑑み、突然破壊を生じないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明1の異なる性質の炭素繊維からなるハイブリッド炭素繊維強化複合材料は、高弾性炭素繊維と高強度炭素繊維からなり、少なくとも両繊維の各一層の配向方向が同一方向に揃えられて積層されていることを特徴とする。
【0007】
発明2は、発明1のハイブリッド炭素繊維強化複合材料において、前記高弾性炭素繊維の弾性率が5×10GPa以上、高強度炭素繊維の引張強度が5GPa以上であることを特徴とする。
【0008】
発明3は、発明1又は2のハイブリッド炭素繊維強化複合材料において、高弾性炭素繊維と高強度炭素繊維の含有割合が体積率で次の関係式1であることを特徴とする。
(式1)
0<(高弾性炭素繊維)/(高強度炭素繊維)≦(1.2×B)/(2×A×0.8) (1)
(A:高弾性炭素繊維の引張強度、B:高強度炭素繊維の引張強度)
【0009】
発明4は、発明1又は2のハイブリッド炭素繊維強化複合材料において、高弾性炭素繊維と高強度炭素繊維の含有割合が体積率で1:1とすることを特徴とする。
【0010】
発明5は、発明1から4のいずれかのハイブリッド炭素繊維強化複合材料において、両繊維の配向方向が同一方向に揃えられて積層されてなる一組のハイブリッド層が複数組、互いに繊維の配向方向を異ならせて積層された多層構造を有していることを特徴とする。
【0011】
発明6は、発明1から5のいずれかのハイブリッド炭素繊維強化複合材料において、最外層に高弾性炭素繊維層が配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
この発明では、単独でフェイルセーフ機能を持ち材料の一層が破壊しても引き続き力を負担でき、1つの材料としては機能を保持し、安全を確保することができる構造用炭素繊維強化複合材料を実現できる。
【0013】
また、発明6では、材料の破損あるいは損傷状態を可視化でき、様々なセンサを用いなくとも材料の機能を確認でき、安全を確保することができる構造用炭素繊維強化複合材料を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
第1図はこの発明によるハイブリッド炭素繊維強化複合材料(1)の例を示している。
高弾性炭素繊維(3)と高強度炭素繊維(4)からなり、少なくとも両繊維の各一層の配向方向が同一方向に揃えられて積層されている。
【0015】
前記高弾性炭素繊維(3)の弾性率が5×10GPa以上、高強度炭素繊維(4)の引張強度が5GPa以上であることが望ましく、これ以下であると、ハイブリッド炭素繊維強化複合材料(1)の弾性率が高弾性繊維(3)の利点を生かせない。また、ハイブリッド炭素繊維強化複合材料(1)の最終的な強度が高強度繊維(4)の利点を生かせず、フェイルセーフ機能を示す破壊挙動が生じない可能性がある。
【0016】
前記ハイブリッド炭素繊維強化複合材料(1)において、高弾性炭素繊維(3)と高強度炭素繊維(4)の含有範囲が体積率で次の関係式1とするのが望ましい。
(式1)
0<(高弾性炭素繊維)/(高強度炭素繊維)≦(1.2×B)/(2×A×0.8) (1)
(A:高弾性炭素繊維の引張強度、B:高強度炭素繊維の引張強度)
この範囲を超えると、ハイブリッド炭素繊維強化複合材料(1)の弾性率や最終的な強度が高弾性繊維(3)や高強度繊維(4)の利点を生かせず、フェイルセーフ機能を示す破壊挙動が生じない可能性がある。
【0017】
高弾性炭素繊維(3)と高強度炭素繊維(4)の含有割合は体積率で1:1とするのが望ましい。
この割合は前記ハイブリッド炭素繊維強化複合材料(1)の特殊例であり、製作の容易性を加味したものである。
【0018】
両繊維の配向方向が同一方向に揃えられて積層されてなる一組のハイブリッド層が複数組、互いに繊維の配向方向を異ならせて積層された多層構造にすることにより、多方向の負荷に対しても同様な対応することができる。
【0019】
最外層に高弾性炭素繊維(3)が配置することにより、材料の破損あるいは損傷状態を可視化(8)できる機能を持たすことができる。
【0020】
第2図はこの発明によるハイブリッド炭素繊維強化複合材料(1)の引張あるいは圧縮負荷時の応力−ひずみ曲線を示している。負荷初期段階で高弾性繊維(3)の効果により高い弾性率を有する直線的な挙動(6)を示す。負荷の多くは最外層に負荷方向(2)と平行に繊維配向させた高弾性繊維(3)を含む高弾性繊維(3)に分担され、まず、高弾性繊維(3)が損傷あるいは破損(7)する。最外層に高弾性繊維(3)が配置されており、この損傷あるいは破損が可視的(8)に確認できる。また、高強度繊維(4)の効果により材料全体が破壊することはなく、負荷に保持(9)できる。段階的な損傷挙動(10)を示しながら高い強度を持って最終破壊(11)を示す。この発明により材料自体が単独でフェイルセーフ機能と損傷を可視化できる機能を持ち、材料の一層が破壊しても引き続き力を負担でき、1つの材料としては機械的機能を保持し、安全を確保することができる構造用ハイブリッド炭素繊維強化複合材料(1)を実現できる。
【実施例1】
【0021】
第3図はこの発明によるハイブリッド炭素繊維強化複合材料(1)の実施例を示す図である。図において、弾性率935GPaの高弾性炭素繊維(K13D:三菱化学産資)(3)と引張強度5.79GPaの高強度炭素繊維(IM600:東邦テナックス)(4)が180度硬化タイプのエポキシ樹脂(5)で覆われ、負荷方向(2)に平行にほぼ1:1の割合で計8層(高弾性繊維(3)が4層、高強度繊維(4)が4層)積層され、ハイブリッド炭素繊維強化複合材料(1)が構成されている。
【0022】
第4図は実施例1のハイブリッド炭素繊維強化複合材料(1)の引張負荷時の応力−ひずみ曲線を示している。負荷初期段階で高弾性繊維(3)の効果により弾性率が346GPa(体積含有率Vf=60%換算)の高い弾性率を有する直線的な挙動(6)を示す。負荷の多くは高弾性繊維(3)に分担され、まず、高弾性繊維(3)が損傷あるいは破損(7)する。しかし、高強度繊維(4)の効果により材料全体が破壊することはなく、負荷を保持(9)できる。段階的な損傷挙動(10)を示しながら引張強度が1.29GPa(体積含有率Vf=60%換算)の高い強度を持って最終破壊(11)を示す。圧縮負荷時においても数値は異なるが同様な段階的な損傷挙動を示す。この発明の実施により、材料自体が単独でフェイルセーフ機能を持ち、材料の一層が破壊しても引き続き力を負担でき、1つの材料としては機械的機能を保持し、安全を確保することができる構造用ハイブリッド炭素繊維強化複合材料(1)を実現できた。
【実施例2】
【0023】
第5図はこの発明によるハイブリッド炭素繊維強化複合材料(1)の別の実施例を示す図である。図において、最外層に負荷方向(2)と平行に繊維配向した弾性率935GPaの高弾性炭素繊維(K13D:三菱化学産資)(3)を含む高弾性炭素繊維(3)と引張強度6.37GPaの高強度炭素繊維(T1000GB:東レ)(4)が耐熱性熱硬化ポリイミド樹脂(I.S.T.社製のスカイボンド703)(5)で覆われ、負荷方向(2)に平行にほぼ1:1の割合で計8層(高弾性繊維(3)が4層、高強度繊維(4)が4層)積層されて、ハイブリッド炭素繊維強化複合材料(1)が構成されている。
【0024】
第6図は実施例2のハイブリッド炭素繊維強化複合材料(1)の引張負荷時の応力−ひずみ曲線を示している。負荷初期段階で高弾性繊維(3)の効果により弾性率が373GPa(体積含有率Vf=60%換算)の高い弾性率を有する直線的な挙動(6)を示す。負荷の多くは最外層に負荷方向(2)と平行に繊維配向させた高弾性繊維(3)を含む高弾性炭素繊維(3)に分担され、まず、高弾性繊維(3)が損傷あるいは破損(7)する。最外層に高弾性繊維(3)が配置されており、第7図および第8図に示すように、この損傷あるいは破損が可視的(8)に確認できる。また、高強度繊維(4)の効果により材料全体が破壊することはなく、負荷に保持(9)できる。段階的な損傷挙動(10)を示しながら引張強度が1.45GPa(体積含有率Vf=60%換算)の高い強度を持って最終破壊(11)を示す。圧縮負荷時においても数値は異なるが同様な段階的な損傷挙動を示す。この発明の実施により、材料自体が単独でフェイルセーフ機能と損傷を可視化(8)できる機能を持ち、材料の一層が破壊しても引き続き力を負担でき、1つの材料としては機械的機能を保持し、安全を確保することができる構造用ハイブリッド炭素繊維強化複合材料(1)を実現できた。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明によるハイブリッド炭素繊維強化複合材料の積層構造を示す模式図
【図2】この発明のハイブリッド炭素繊維強化複合材料の引張負荷時の応力−ひずみ曲線の模式図と可視化した最外層の炭素繊維の損傷あるいは破損の模式図
【図3】実施例1のハイブリッド炭素繊維強化複合材料の積層構造を示す模式図とその実体の上面から見た写真
【図4】実施例1のハイブリッド炭素繊維強化複合材料の引張負荷時の応力−ひずみ曲線
【図5】実施例2のハイブリッド炭素繊維強化複合材料の積層構造を示す模式図とその実体の上面から見た写真および積層状態を示す断面写真
【図6】実施例2のハイブリッド炭素繊維強化複合材料の引張負荷時の応力−ひずみ曲線
【図7】実施例2のハイブリッド炭素繊維強化複合材料の最外層の高弾性繊維の損傷あるいは破損状態を浸透探傷法により可視化した写真
【図8】実施例2のハイブリッド炭素繊維強化複合材料の最外層の高弾性繊維の損傷あるいは破損状態を拡大鏡により可視化した写真
【図9】従来の炭素繊維強化複合材料の一般的な層構成の例
【図10】従来の炭素繊維強化複合材料の引張負荷時の応力−ひずみ曲線の例を示す
【符号の説明】
【0026】
(1) ハイブリッド炭素繊維強化複合材料
(2) 負荷方向
(3) 高弾性炭素繊維
(4) 高強度炭素繊維
(5) 樹脂
(6) 直線的な挙動
(7) 高弾性繊維が損傷・破損
(8) 損傷・破損が可視
(9) 負荷に保持
(10) 段階的な損傷挙動
(11) 最終破壊
(12) 従来の炭素繊維強化複合材料
(13) 炭素繊維
なお、各図中同一符号は同一又は相当部分を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる性質の炭素繊維からなるハイブリッド炭素繊維強化複合材料であって、高弾性炭素繊維と高強度炭素繊維からなり、少なくとも両繊維の各一層の配向方向が同一方向に揃えられて積層されていることを特徴とする。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド炭素繊維強化複合材料において、前記高弾性炭素繊維の弾性率が5×10GPa以上、高強度炭素繊維の引張強度が5GPa以上であることを特徴とする。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のハイブリッド炭素繊維強化複合材料において、高弾性炭素繊維と高強度炭素繊維の含有割合が体積率で次の関係式1であることを特徴とする。
(式1)
0<(高弾性炭素繊維)/(高強度炭素繊維)≦(1.2×B)/(2×A×0.8) (1)
(A:高弾性炭素繊維の引張強度、B:高強度炭素繊維の引張強度)
【請求項4】
請求項1又は2に記載のハイブリッド炭素繊維強化複合材料において、高弾性炭素繊維と高強度炭素繊維の含有割合が体積率で1:1とすることを特徴とする。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のハイブリッド炭素繊維強化複合材料において、両繊維の配向方向が同一方向に揃えられて積層されてなる一組のハイブリッド層が複数組、互いに繊維の配向方向を異ならせて積層された多層構造を有していることを特徴とする。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のハイブリッド炭素繊維強化複合材料において、最外層に高弾性炭素繊維層が配置されていることを特徴とする。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−96859(P2009−96859A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−268781(P2007−268781)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】