説明

ハイブリッド車の動力伝達系

【課題】クラッチの構造部品がロータ保持体の半径方向内側に配置されている、電気機械のロータ保持体の半径方向内側に配置されたクラッチの有利な構造的原理を、圧力媒体作動式の2つの湿式クラッチを収容するために、これが全体として非常にコンパクトとなり、クラッチディスク並びにロータ保持体の能動的冷却を許す、というように改良すること。
【解決手段】ロータ保持体(24)が、その内周側で少なくとも1つの構造部品に結合されるか、あるいは、当該構造部品と一体に形成される。当該構造部品によって、ロータ保持体(24)が動力伝達系(1)の少なくとも一つの構成要素上で直に回転可能に支持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特許請求の範囲の請求項1の上位概念部分に記載のハイブリッド車の動力伝達系に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるハイブリッド車の動力伝達系は、古くから知られている。かかる車両は、内燃機関と少なくとも1台の電気機械を利用している。その内燃機関および電気機械は、車両の推進力を生成するため、内燃機関を始動するため、および/又は、車両電気系統用の電気エネルギを生成するために、状況に合わせて択一的にあるいは共同で、利用できる。電気エネルギの生成は、公知のように、内燃機関運転中に、並びに、エネルギ回収中に、即ち、駆動力なしで走行する(惰力走行)車両の車輪による電動機の駆動中に、なされ得る。
【0003】
特許文献1に、内燃機関と変速機とを備え、その両者間にねじり振動止め(ダンパ)と2台の電気機械とクラッチとが配置されたハイブリッド車の動力伝達系(ドライブトレイン)が開示されている。特には、その変速機側の電気機械は、ケースに固定配置されたステータとロータとを有し、そのロータは、ロータ保持体に結合されている。そのロータ保持体は、2分割構造の変速機入力軸の一方に回り止めで(回転しないように)結合されたハブ部分を有している。ロータ保持体の半径方向内側には、解除装置によって解除ロッドを介して作動可能な乾式クラッチが配置されている。ロータ保持体は、乾式クラッチの2つのクラッチディスクに対する半径方向内側に向いた突部を有している。また、ロータ保持体の内周側(面)に、アキシャル(スプライン)内歯が形成されており、このアキシャル(スプライン)内歯に、軸方向においてクラッチディスク間に配置された中間圧力板の外歯がかみ合っている。
【特許文献1】独国特許出願公開第10246839号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明における課題は、クラッチの構造部品がロータ保持体の半径方向内側に配置されている、電気機械のロータ保持体の半径方向内側に配置されたクラッチの有利な構造的原理を、圧力媒体作動式の2つの湿式クラッチを収容するために、これが全体として非常にコンパクトとなり、クラッチディスク並びにロータ保持体の能動的冷却を許す、というように改良することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題は、主請求項に記載の特徴によって解決される。本発明の有利な実施の形態および発展形態は、従属請求項から理解できる。
【0006】
従って、本発明は主請求項の特徴に基づいて、ステータとロータとを備えた少なくとも1台の電気機械が、例えば内燃機関と変速機との間に配置され、前記ロータは、少なくとも1つの摩擦クラッチを介して、内燃機関のクランク軸に、および/又は、変速機の入力軸に、および/又は、第3軸に結合可能であり、前記ロータはロータ保持体に固く結合されており、このロータ保持体はその内周側でクラッチの構造部品を支持している、という内燃機関と変速機とを備えたハイブリッド車の動力伝達系から出発している。この動力伝達系において、本発明に基づいて、ロータ保持体はその内周側で少なくとも1つの構造部品に結合されているか、この構造部品と一体に形成され、この構造部品によって、ロータ保持体が動力伝達系の少なくとも一つの構成要素上で直に回転可能に支持される、ということが提案される。
【0007】
この構造において、ロータ保持体は、従来と異なり、変速機入力軸に固く結合されず、動力伝達系の他の少なくとも一つの構造部品上に回転可能に支持されている。ロータ保持体へのトルク伝達あるいはロータ保持体からのトルク伝達は、他の構造部品を介して行われる。これについては後述する。
【0008】
特別な実施の形態においては、ロータ保持体はその内周側で少なくとも1つの軸受保持体に結合され、この軸受保持体は、半径方向内側に延び、ラジアル軸受に支持される。
【0009】
他の実施の形態においては、この動力伝達系は、ロータ保持体がその内周側でその軸方向両端の部位でそれぞれ軸受保持体に結合され、この両軸受保持体が半径方向内側に延びてそれぞれ少なくとも一つのラジアル軸受に支持される、というように形成される。これらの両軸受保持体は、ロータ保持体における半径方向力を変速機ケースの方向に導出するために役立つ。
【0010】
本発明の他の特徴は、軸方向において内燃機関の側の軸受保持体がラジアル軸受を介してステータ保持体に支持されており、このステータ保持体が電気機械のステータをロータの半径方向外側に支持している、ということにある。この構造によって、ステータ保持体がロータ保持体に対する支持要素としても利用される、という利点が生ずる。
【0011】
また、この関係において、ステータ保持体が、その半径方向反変速機ケース側の端(半径方向内側端)で、別のラジアル軸受を介して、短い内側ディスクホルダ軸を支える、ということが提案され得る。上述の両ラジアル軸受は、有利には、動力伝達系においてほぼ同じ軸方向位置に配置されている。
【0012】
この動力伝達系の他の特徴は、内側ディスクホルダ軸がねじり振動止めの出力素子に動力伝達可能に結合され、ねじり振動止めの入力素子が内燃機関のクランク軸に回り止め結合(スプライン結合)されている、ということにある。その場合、内側ディスクホルダ軸は、変速機入力軸の方向に向いた盲孔を有し得る。この盲孔内において、変速機入力軸の内燃機関側端が、滑り軸受ブッシュで受けられている。この構造によって、軸方向および半径方向に非常にコンパクトな構造形状が実現される。
【0013】
さらに、ロータ保持体の変速機の側の軸受保持体が、別のラジアル軸受を介して、変速機ケースに固定の構造部品に支えられる、ということが提案される。この構造部品は、例えば油ポンプハウジングである。
【0014】
また、軸方向において両軸受保持体間に、シリンダ構造部品がロータ保持体上に配置され、このシリンダ構造部品は、半径方向外側がロータ保持体の内周側に回転しないように固定され、半径方向内側が、半径方向隙間を隔てて、あるいは滑り軸受を介して、変速機入力軸上に配置されている、ということが有利である。
【0015】
本発明の他の特徴に基づいて、少なくとも1つの湿式クラッチが、軸方向において、内燃機関側軸受保持体のそばに、および/又は、変速機側軸受保持体のそばに、および/又は、シリンダ構造部品のそばに配置される、ということが提案される。この湿式クラッチは、公知のように、多板セットを形成する複数のクラッチディスクを有していて、これらのクラッチディスクは、クラッチディスクホルダに、半径方向外側および半径方向内側が互い違いに固定されている。
【0016】
この動力伝達系において、内燃機関側摩擦クラッチの内側ディスクホルダが、内側ディスクホルダ軸に固定され、あるいは、内側ディスクホルダ軸と一体に形成され、変速機側摩擦クラッチの内側ディスクホルダが、変速機の入力軸に回り止め結合(スプライン結合)されている、ということが有利である。
【0017】
また、この動力伝達系は、変速機側摩擦クラッチの軸受保持体が、この変速機側摩擦クラッチを作動するための作動シリンダとして形成され、前記シリンダ構造部品が、内燃機関側摩擦クラッチを作動するための作動シリンダとして形成されている、ことを特徴とする。両作動シリンダにそれぞれ、ピストンが圧力密に軸方向に移動可能に収納され、これらのピストンが個々に圧油により作動圧力で付勢可能である。また、これらの作動シリンダはそれぞれのピストンと共に、それぞれ圧力室および圧力平衡室を形成(規定)し、その圧力平衡室内に、対応されたピストンに作用する復帰ばねが配置されている。
【0018】
ピストンは、それぞれの圧力室における圧力上昇時に、それぞれのクラッチを係合するために多板セットに対して押し付け可能である。多板セットは、既に簡単に述べたように、内側ディスクホルダに、ないしは、共通の外側ディスクホルダとして形成されたロータ保持体に、回転しないように(回り止めし)且つ軸方向に移動可能に配置されたクラッチディスクで形成されている。
【0019】
本発明の他の実施の形態において、両軸受保持体の1つに軸方向突出部が形成され、この軸方向突出部に対して、内燃機関側摩擦クラッチの多板セットが押付け可能である。
【0020】
また、摩擦クラッチのクラッチディスクに対する軸方向終端ストッパが終端ディスクによって形成され、この終端ディスクが、ロータ保持体の内周側に配置され、止め輪によってロータ保持体上で軸方向に固定されている、ことが有利である。
【0021】
両多板セットおよび電気機械のロータ保持体ないしロータの冷却油による冷却を保証するために、変速機側軸受保持体およびシリンダ構造部品に、圧力平衡室のバッフルプレートが固定され、このバッフルプレートが孔を有しており、それぞれのピストンに対する復帰ばねが配置されているそれぞれの圧力平衡室から、前記孔を通して、圧油が、冷却油として、両湿式摩擦クラッチおよびロータ保持体に送られ得る、ということが提案される。
【0022】
本発明の他の特徴は、ロータ保持体がその内周側にアキシャル(スプライン)内歯を有しており、このアキシャル(スプライン)内歯に、両摩擦クラッチの外側ディスク、および/又は、当該外側ディスク用の軸方向ストッパ、および/又は、両軸受保持体のアキシャル(スプライン)外歯がかみ合っている、ということにある。そのアキシャル(スプライン)内歯およびアキシャル(スプライン)外歯は、例えば、少なくとも部分的にそれぞれの円周にわたって形成された軸方向溝から成っている。この構造によって、ロータ保持体の内周側にクラッチディスクを軸方向に移動可能に受容することができるだけでなく、それぞれの軸受保持体の心出しおよび固定にも供される。
【0023】
他の実施の形態において、前記シリンダ構造部品もアキシャル(スプライン)外歯を備え、このアキシャル(スプライン)外歯で、ロータ保持体のアキシャル(スプライン)内歯に受容される。この構造によって、動力伝達系の組立が更に容易化される。
【0024】
少なくとも一方の軸受保持体、および/又は、シリンダ構造部品を組立後にロータ保持体に軸方向に固定するために、他の特徴において、ロータ保持体の内周面における対応した周溝にはまり込む止め輪が利用される、ということが提案される。
【0025】
本発明の他の有利な実施の形態は、ロータ保持体に回転角センサが取り付けられ、ロータ保持体に形成されたアキシャル溝あるいはラジアル正弦波形状部および/又は余弦波形状部の通過が、前記回転角センサによってロータの回転角情報として検出可能である、ということを提案する。このアキシャル溝あるいはラジアル正弦波形状部および/又は余弦波形状部は、例えばロータ保持体の内燃機関側部位における内周側に形成されている。
【0026】
また、その変速機は、自動変速機として形成され得る。
【0027】
本発明における動力伝達系の他の特徴は、ロータ保持体に、本質的に半径方向に延びて油が貫流できる切欠き開口が形成されている、ということにある。また、ロータ保持体におけるアキシャル(スプライン)内歯は、好適には、油をロータ保持体における切欠き開口に案内するために形成されている。その場合、上述の油は、クラッチ作動装置の圧力平衡室から流出して前記ピストンの作動のための圧力媒体としても利用されるような油である。
【0028】
なお、ロータ保持体は、ブローチによる中実部材の切削加工あるいは中実部材又は板金部材の変形加工によって形成され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、唯一の添付の図を参照して本発明を詳細に説明する。この図には、自動変速機3の変速機ケース2に収容されたハイブリッド動力伝達系1の、本発明の理解にとって主要な部位が縦断面図で示されている。
【0030】
動力伝達系1の内燃機関は、図において左側に、そのクランク軸4だけで示されている。このクランク軸4はねじり振動止め(ダンパ)6の入力素子5に固く結合されている。図の右側に、遊星歯車構造の多段自動変速機3が示されている。その構造はそれ自体公知であるので、詳細には説明されない。
【0031】
ねじり振動止め6と自動変速機3との間に、電動機7が配置されている。この電動機7は、非同期機としてあるいは同期機として形成されていて、公知のように、変速機ケースに固定配置されたステータ8と回転可能に支持されたロータ9とを有している。ロータ9の半径方向内側に、2つの湿式クラッチ10、11が、その圧力媒体式作動装置と共に配置されている。その作動装置については後で詳細に説明する。
【0032】
ねじり振動止め6の出力素子12は、詳しく図示されていないプラグギヤ継手(差込みかみ合い歯)(Steckverzahnung)を介して、軸方向に短い内側ディスクホルダ軸13に回り止め結合(スプライン結合)されている。この内側ディスクホルダ軸13は、自動変速機3の方向に向けて中央盲孔14を有し、この中央盲孔14の中に滑り軸受ブッシュ15が配置されている。この滑り軸受ブッシュ15は、変速機入力軸16の内燃機関側の端を受容している。
【0033】
内側ディスクホルダ軸13は、その変速機側の端の部位に、フランジ部(半径方向部分)17を有している。このフランジ部17は、内燃機関側クラッチ10の内側ディスクホルダ18として一体に形成されているか、あるいは、その内側ディスクホルダ18に回り止め結合(スプライン結合)されている。この内側ディスクホルダ18は、その半径方向外側部位で、内燃機関側クラッチ10の詳細には図示されていないクラッチディスクを支持している。
【0034】
軸方向において前記半径方向部分17のそばで、内側ディスクホルダ軸13上に、支持リング19が取り付けられている。この支持リング19とステータ保持体20との間に、ラジアル軸受21が配置されている。ステータ保持体20は、その半径方向外側端が、ネジ22を介して変速機ケース2に取り付けられ、スリーブ部(軸方向部分)23が、電動機7のステータ8を支持している。
【0035】
ステータ8の半径方向内側に、電動機7のロータ9が配置され、このロータ9はロータ保持体24に取り付けられている。このロータ保持体24は、2つの軸受保持体25、27により半径方向内側に支持されている。その一方の軸受保持体25は内燃機関側に配置され、他方の軸受保持体27は変速機側に配置されている。
【0036】
内燃機関側の軸受保持体25は、その半径方向外側端が、ロータ保持体24に固く結合されており、この実施の形態の場合、そこに変速機の方向を向いた軸方向突出部28を有している。この軸方向突出部28は、半径方向外側が、その心出しのために、ロータ保持体24のアキシャル(スプライン)内歯29にかみ合っている。また、この軸方向突出部28は、内燃機関側クラッチ10の多板セットに対する軸方向ストッパ面として使われる。そのクラッチ10の外側ディスクは、ロータ保持体24のアキシャル(スプライン)内歯29に、回転しないように、且つ、軸方向に移動可能に取り付けられている。
【0037】
ほぼ円板状に形成された内燃機関側の軸受保持体25の半径方向内側の端は、別のラジアル軸受30の外輪上に置かれている。そのラジアル軸受30の内輪は、ステータ保持体20の円筒状部分31の外周面上に支持されている。図から明らかなように、内燃機関側の両ラジアル軸受21、30は、軸方向に見て動力伝達系においてほぼ同じ箇所で、ステータ保持体20の円筒状部分31の両側に配置されている。
【0038】
図において、内燃機関側クラッチ10の内側ディスクホルダ18のそばの右側に、シリンダ構造部品26が存在している。このシリンダ構造部品26は、半径方向内側に半径方向隙間を隔てて、中央変速機入力軸16上に配置されており、その半径方向外側端が、アキシャル(スプライン)外歯で、ロータ保持体24の前記アキシャル(スプライン)内歯29に、心出しされて保持されている。図から詳しく理解できるように、このシリンダ構造部品26は、内燃機関側クラッチ10を作動可能な液圧作動式ピストン・シリンダ装置のシリンダ32として形成されている。
【0039】
このシリンダ32の内部に、ピストン33が軸方向に移動可能に配置されている。このピストン33は、復帰ばね34によって作動方向に復帰力で付勢されている。ピストン33は、それを作動するための圧力室35を、軸方向において反対側に位置する圧力平衡室36から分離している。その圧力平衡室36内に、復帰ばね34が配置されている。圧力室35並びに圧力平衡室36は、シリンダ32および中央変速機入力軸16に存在する詳細には図示されていない孔を介して、圧油が供給可能である。
【0040】
圧力平衡室36は、バッフルプレート(隔壁)62により、軸方向においてクランク軸4の方向に境界づけられている。このバッフルプレート62は、シリンダ構造部品26に結合されている。バッフルプレート62は孔37を有し、この孔37を通して、圧油が、圧力平衡室36からクラッチ室38に送られ、これにより、内燃機関側クラッチ10の冷却すべきクラッチディスクに送られ得る。そこに導入された圧油は、そこで、ロータ保持体24ないし電動機7のロータ9をも能動的に冷却する。ロータ保持体24における図示されていない半径方向切欠き開口がそれを助ける。ピストン33をシリンダ32およびバッフルプレート62に対して、図示されていないパッキンが、シールする。
【0041】
ロータ保持体24の半径方向内側に配置された変速機側の湿式クラッチ11は、内側ディスクホルダ39を有している。この内側ディスクホルダ39は、半径方向内側が、プラグギヤ継手を介して、変速機入力軸16に回り止め結合されている。その半径方向外側端に、詳細には図示されていない内側ディスクが取り付けられ、この内側ディスクは、このクラッチ11の外側ディスクの間に交互に配置されている。この外側ディスクは、ロータ保持体24の上述したアキシャル(スプライン)内歯29で受容され、変速機と反対の側の終端ディスク41と共に、ロータ保持体24に係合する止め輪によって、軸方向に固定されている。
【0042】
この変速機側クラッチ11を圧力媒体式に作動するために、この動力伝達系1に第2のピストン・シリンダ装置が設けられている。そのシリンダ42は、変速機側の右側軸受保持体27によって形成されている。この第2クラッチ作動装置は、上述のクラッチ10のための装置とほとんど同じに形成されている。それに応じて、第2クラッチ作動装置はピストン44を有し、このピストン44は、シリンダ42内に軸方向に移動可能に収容され、復帰ばね54によって復帰力で付勢されており、シリンダ室を圧力室45と軸方向においてその反対側に位置する圧力平衡室46とに分割している。圧力室45と圧力平衡室46とは、シリンダ42における詳細には図示されていない孔を介して、液圧媒体が供給可能である。この液圧媒体は、変速機側クラッチ11のクラッチディスクおよびロータ保持体24ないしロータ9を冷却するために、圧力平衡室46から、バッフルプレート63における孔47を介して、当該クラッチ11のクラッチ室48に流出できる。
【0043】
変速機側軸受保持体27は、半径方向隙間を隔てて、変速機入力軸16上に配置されており、半径方向内側に、自動変速機3に向いた円筒状部分40を有している。その円筒状部分40の軸方向自由端に、ラジアル駆動歯49が形成され、このラジアル駆動歯49は、油ポンプ51のポンプインペラ50の外歯に、駆動作用的に係合している。
【0044】
また、変速機側軸受保持体27は、円筒状部(軸方向部分)55を有し、軸受保持体27は、その円筒状部55で、ラジアル軸受56を介して、ここでは油ポンプハウジング57として形成された変速機側固定の構造部品上に軸支されている。
【0045】
さらにまた、図には、ステータ保持体20に回転角センサ52が取り付けられていることが示されている。この回転角センサ52は、軸方向に内燃機関側クラッチ10に向いて延びている。この回転角センサ52は、アキシャル歯53の歯の通過を検出するか、あるいは、ロータ保持体24におけるラジアル正弦波形状部および/又は余弦波形状部を検出し、それに関する回転角情報を変速機制御装置に伝える。このアキシャル歯53あるいはラジアル正弦波形状部および/又は余弦波形状部は、ここでは、ロータ保持体24の内燃機関側部分の内周面に形成されている。
【0046】
上述のハイブリッド動力伝達系は、特に、両湿式クラッチ10、11が軸方向に並んで且つロータ保持体24の半径方向内側に配置されていることにより、非常にコンパクトに構成されている。構造部品が、ロータ保持体の支持のためおよびクラッチの作動装置のシリンダの形成のために二重に利用されることによって、比較的僅かな個別部品しか必要とされない。
【0047】
以上の構造は、更に、クラッチ作動のための圧力媒体として、圧力平衡室の排出(逃げ)油として、クラッチディスクの冷却油として、及び、ロータ保持体の冷却油として、という圧油のマルチ利用によっても特徴付けられる。クラッチディスクの外側ディスクホルダとしてのロータ保持体の形成によって、両クラッチは、有利なことに、大きな直径を実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に基づくハイブリッド動力伝達系の本発明の理解にとって主要な部位の断面図。
【符号の説明】
【0049】
1 ハイブリッド動力伝達系
2 変速機ケース
3 自動変速機
4 クランク軸
5 ねじり振動止め入力素子
6 ねじり振動止め
7 電気機械
8 ステータ
9 ロータ
10 内燃機関側クラッチ(摩擦湿式クラッチ)
11 変速機側クラッチ(摩擦湿式クラッチ)
12 ねじり振動止め出力素子
13 内側ディスクホルダ軸
14 盲孔
15 滑り軸受ブッシュ
16 変速機入力軸
17 内側ディスクホルダ軸のフランジ部(半径方向部分)
18 内燃機関側クラッチ10の内側ディスクホルダ
19 支持リング
20 ステータ保持体
21 ラジアル軸受
22 ネジ
23 ステータ保持体の円筒状部(軸方向部分)
24 ロータ保持体
25 軸受保持体
26 シリンダ構造部品
27 軸受保持体
28 内燃機関側軸受保持体の軸方向突出部
29 ロータ保持体のアキシャル(スプライン)内歯
30 ラジアル軸受
31 ステータ保持体の円筒状部分
32 クラッチ10の作動シリンダ
33 クラッチ10のピストン
34 クラッチ10の作動装置の復帰ばね
35 圧力室
36 圧力平衡室
37 圧力平衡室の孔
38 内燃機関側クラッチ10のクラッチ室
39 変速機側クラッチ11の内側ディスクホルダ
40 変速機側軸受保持体27の円筒状部分
41 終端ディスク
42 作動シリンダ
43 終端ディスク41の止め輪
44 ピストン
45 圧力室
46 圧力平衡室
47 圧力平衡室の孔
48 変速機側クラッチ11のクラッチ室
49 ラジアル駆動歯
50 ポンプインペラ
51 油ポンプ
52 回転角センサ
53 アキシャル歯、ラジアル正弦波形状部/余弦波形状部
54 復帰ばね
55 変速機側軸受保持体の円筒状部(軸方向部分)
56 ラジアル軸受
57 油ポンプハウジング
62 圧力平衡室のバッフルプレート
63 圧力平衡室のバッフルプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータ(8)とロータ(9)とを備えた少なくとも1台の電気機械(7)が、例えば内燃機関と変速機(3)との間に配置され、
前記ロータ(9)は、少なくとも1つの摩擦クラッチを介して、内燃機関のクランク軸(4)に、および/又は、変速機(3)の入力軸(16)に、および/又は、第3軸に結合可能であり、
前記ロータ(9)はロータ保持体(24)に固く結合されており、
当該ロータ保持体(24)はその内周側でクラッチの構造部品を支持している
という内燃機関と変速機(3)とを備えたハイブリッド車の動力伝達系(1)において、
ロータ保持体(24)は、その内周側で少なくとも1つの構造部品に結合されているか、あるいは、当該構造部品と一体に形成されており、
当該構造部品によって、ロータ保持体(24)が動力伝達系(1)の少なくとも一つの構成要素上で直に回転可能に支持されている
ことを特徴とするハイブリッド車の動力伝達系。
【請求項2】
ロータ保持体(24)は、その内周側で少なくとも1つの軸受保持体に結合されており、
当該軸受保持体は、半径方向内側に延び、ラジアル軸受に支持されている
ことを特徴とする請求項1に記載の動力伝達系。
【請求項3】
ロータ保持体(24)は、その内周側でその軸方向両端の部位でそれぞれ軸受保持体(25、27)に結合されており、
当該両軸受保持体(25、27)は、半径方向内側に延び、それぞれ少なくとも一つのラジアル軸受(30、56)に支持されている
ことを特徴とする請求項2に記載の動力伝達系。
【請求項4】
内燃機関の側の軸受保持体(25)は、ラジアル軸受(30)を介して、ステータ保持体(20)に支持されており、
当該ステータ保持体(20)は、電気機械(7)のステータ(8)をロータ(9)の半径方向外側に支持している
ことを特徴とする請求項3に記載の動力伝達系。
【請求項5】
ステータ保持体(20)は、別のラジアル軸受(21)を介して、内側ディスクホルダ軸(13)を支持している
ことを特徴とする請求項4に記載の動力伝達系。
【請求項6】
内側ディスクホルダ軸(13)は、ねじり振動ダンパ(6)の出力素子(12)に動力伝達可能に結合され、
ねじり振動止め(6)の入力素子(5)は、内燃機関のクランク軸(4)に回転しないように結合されている
ことを特徴とする請求項5に記載の動力伝達系。
【請求項7】
変速機(3)の側の軸受保持体(27)は、ラジアル軸受(56)を介して、変速機ケースに固定の構造部品(57)に支持されている
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の動力伝達系。
【請求項8】
軸方向において両軸受保持体(25、27)間に、液圧式作動装置のシリンダ構造部品(26)が配置されており、
当該シリンダ構造部品(26)は、半径方向外側が、ロータ保持体(24)の内周側に回転しないように結合されており、
当該シリンダ構造部品(26)は、半径方向内側が、半径方向隙間を隔てて、あるいは滑り軸受を介して、変速機入力軸(16)上に配置されている
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の動力伝達系。
【請求項9】
少なくとも1つの湿式クラッチ(10、11)が、内燃機関側軸受保持体(25)のそばに、および/又は、変速機側軸受保持体(27)のそばに、および/又は、シリンダ構造部品(26)のそばに、配置されている
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の動力伝達系。
【請求項10】
内燃機関側摩擦クラッチ(10)の内側ディスクホルダ(18)が、内側ディスクホルダ軸(13)に固定され、あるいは、内側ディスクホルダ軸(13)と一体に形成されている
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の動力伝達系。
【請求項11】
変速機側摩擦クラッチ(11)の内側ディスクホルダ(39)が、変速機入力軸(16)に回転しないように結合されている
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の動力伝達系。
【請求項12】
変速機側摩擦クラッチ(11)の軸受保持体(27)が、当該変速機側摩擦クラッチ(11)を作動するための作動シリンダ(42)として形成されている
ことを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の動力伝達系。
【請求項13】
シリンダ構造部品(26)が、内燃機関側摩擦クラッチ(10)を作動するための作動シリンダ(32)として形成されている
ことを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の動力伝達系。
【請求項14】
両作動シリンダ(32、42)に、それぞれ、ピストン(33、44)が圧力密に収納され、
当該ピストン(33、44)は、個々に圧油により作動圧力で付勢可能であり、
当該ピストン(33、44)は、それぞれに付属された復帰ばね(34、54)の復帰力に抗して、クラッチ係合方向に作用して多板セットに押付け可能であり、
当該多板セットは、両内側ディスクホルダ(18、39)と共通外側ディスクホルダとして形成されたロータ保持体(24)とに回転しないように且つ軸方向に移動可能に配置された複数のクラッチディスクを有している
ことを特徴とする請求項12または13に記載の動力伝達系。
【請求項15】
両軸受保持体(25、27)の1つに軸方向突出部(28)が形成され、
当該軸方向突出部(28)に対して、内燃機関側摩擦クラッチ(10)の多板セットが押付け可能である
ことを特徴とする請求項1乃至14のいずれかに記載の動力伝達系。
【請求項16】
摩擦クラッチ(11)のクラッチディスクに対する軸方向終端ストッパが終端ディスク(41)によって形成され、
当該終端ディスク(41)は、ロータ保持体(24)の内周側に配置され、止め輪(43)によって軸方向に固定されている
ことを特徴とする請求項1乃至15のいずれかに記載の動力伝達系。
【請求項17】
変速機側軸受保持体(27)およびシリンダ構造部品(26)に、圧力平衡室(36、46)のバッフルプレート(62、63)が固定されており、
当該バッフルプレート(62、63)は、孔(37、47)を有しており、
それぞれのピストン(36、46)に対する復帰ばね(34、54)が配置されているそれぞれの圧力平衡室(36、46)から、前記孔(37、47)を通して、圧油が、冷却油として、両湿式クラッチ(10、11)およびロータ保持体(24)に送られ得る
ことを特徴とする請求項1乃至16のいずれかに記載の動力伝達系。
【請求項18】
ロータ保持体(24)は、その内周側にアキシャル(スプライン)内歯(29)を有しており、
当該アキシャル(スプライン)内歯(29)に、両摩擦クラッチ(10、11)の外側ディスク、および/又は、当該外側ディスク用の軸方向ストッパ(41、28)、および/又は、両軸受保持体(25、27)、および/又は、シリンダ構造部品(26)、のアキシャル(スプライン)外歯がかみ合っている
ことを特徴とする請求項1乃至17のいずれかに記載の動力伝達系。
【請求項19】
両軸受保持体(25、27)およびシリンダ構造部品(26)が、ロータ保持体(24)に、止め輪によって軸方向に固定されている
ことを特徴とする請求項1乃至18のいずれかに記載の動力伝達系。
【請求項20】
ロータ保持体(24)に回転角センサ(52)が取り付けられ、
ロータ保持体(24)に形成されたアキシャル歯(53)あるいはラジアル正弦波形状部および/又は余弦波形状部の通過が、前記回転角センサ(52)によって回転角情報として検出可能である
ことを特徴とする請求項1乃至19のいずれかに記載の動力伝達系。
【請求項21】
アキシャル歯(53)乃至正弦波形状部および/又は余弦波形状部は、ロータ保持体(24)の内周側に形成されている
ことを特徴とする請求項20に記載の動力伝達系。
【請求項22】
変速機(3)は、自動変速機として形成されている
ことを特徴とする請求項1乃至21のいずれかに記載の動力伝達系。
【請求項23】
ロータ保持体(24)に、本質的に半径方向に延びて油が貫流できる切欠き開口が形成されている
ことを特徴とする請求項1乃至22のいずれかに記載の動力伝達系。
【請求項24】
ロータ保持体(24)におけるアキシャル(スプライン)内歯(29)が、油をロータ保持体(24)における前記切欠き開口に案内するために形成されている
ことを特徴とする請求項23に記載の動力伝達系。
【請求項25】
ロータ保持体(24)は、中実部材の切削(除去)加工あるいは中実部材又は板金部材の変形加工によって形成されている
ことを特徴とする請求項1乃至24のいずれかに記載の動力伝達系。

【図1】
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【公開番号】特開2007−62726(P2007−62726A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−232329(P2006−232329)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【出願人】(592179300)ツェットエフ、フリードリッヒスハーフェン、アクチエンゲゼルシャフト (56)
【氏名又は名称原語表記】ZF FRIEDRICHSHAFEN AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】