説明

ハイブリッド車両の制御装置および制御方法

【課題】前後輪の一方に動力を出力可能な内燃機関と、前後輪の他方に動力を出力可能な電動機とを備えたハイブリッド車両において、騒音の発生を抑制しつつ内燃機関の燃費向上を図ると共に、走行性能を良好に確保する。
【解決手段】燃費最適動作ライン上のエンジン要求パワーPe*に応じたエンジン22の動作点が騒音発生領域に含まれる場合、モータMG3の出力を制限すべき場合を除いて、エンジン22の目標動作点が騒音発生領域よりも低負荷側(低パワー側)の燃費最適動作ライン上の動作点(Ne1,Te1)に設定されると共に(ステップS270)、エンジン22から出力されるパワー(値P1)のエンジン要求パワーPe*に対する不足分を出力するようにモータMG3のトルク指令Tm3*が設定される(ステップS230)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前輪および後輪の一方に動力を出力可能な内燃機関と、前輪および後輪の他方に動力を出力可能な電動機と、当該電動機と電力をやり取り可能な蓄電装置とを備えたハイブリッド車両の制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンと動力分割機構(プラネタリギヤ)とモータMG1およびMG2とを含むハイブリッド駆動装置を備えたハイブリッド車両として、エンジンを最も効率よく動作させ得る動作点を繋げて得られるエンジン効率最適動作線と、車両で発生する騒音の許容値を規定するNVラインとを用いてエンジンを制御するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このハイブリッド車両では、エンジンの動作点がNVラインにより規定されるNV許容領域外にあると判定された場合、エンジン回転数を維持したままNVラインにより規定されるNV許容領域内に収まるまでエンジンの目標トルクが減少側に補正される。
【0003】
また、上述のようなハイブリッド駆動装置を前輪に対する動力出力源として備えると共に、後輪に動力を出力可能なモータMG3を備えたハイブリッド車両も知られている(例えば、特許文献2参照)。このハイブリッド車両では、ハイブリッド駆動装置のモータMG2から出力されるトルクが当該ハイブリッド駆動装置のギヤ機構の歯打ち音を生じさせる低トルク範囲内に含まれそうな場合に、モータMG2の出力トルクが低トルク範囲外のトルクとなるように当該モータMG2のトルク指令値が所定値だけ増加させられると共に、後輪側のモータMG3のトルク指令値が当該所定値を打ち消すトルク値だけ減じられる。そして、エンジンの動作点を変更することなく、トルク指令値に従ってモータMG2およびMG3が制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−228498号公報
【特許文献2】特開2008−143462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたハイブリッド車両のように、NVラインに基づいてエンジン回転数を維持したままエンジンの目標トルクを補正すれば、騒音の発生を抑制することができるものの、エンジンの動作点がエンジン効率最適動作線から外れることによりエンジンの燃費が悪化してしまうおそれがある。その一方で、特許文献2に記載されたハイブリッド車両のように、モータのトルク指令を補正してギヤ機構の歯打ち音を抑制する際にエンジンの動作点を維持すれば、エンジンから出力されるパワーを維持して走行性能を確保することができるが、エンジンの動作点を維持することでエンジンのこもり音といった他の騒音が発生するおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、前輪および後輪の一方に動力を出力可能な内燃機関と、前輪および後輪の他方に動力を出力可能な電動機とを備えたハイブリッド車両において、騒音の発生を抑制しつつ内燃機関の燃費向上を図ると共に、走行性能を良好に確保することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるハイブリッド車両の制御装置および制御方法は、上記主目的を達成するために以下の手段を採っている。
【0008】
本発明によるハイブリッド車両の制御装置は、前輪および後輪の一方に動力を出力可能な内燃機関と、前記前輪および後輪の他方に動力を出力可能な電動機と、該電動機と電力をやり取り可能な蓄電装置とを備えたハイブリッド車両の制御装置において、燃費を向上させるように予め定められた動作ライン上の前記内燃機関に対する要求パワーに応じた動作点が騒音発生領域に含まれる場合に、前記騒音発生領域よりも低負荷側の前記動作ライン上の動作点で動作するように前記内燃機関を制御すると共に、前記電動機の出力を増加させることを特徴とする。
【0009】
このハイブリッド車両の制御装置は、燃費を向上させるように予め定められた動作ライン上の内燃機関に対する要求パワーに応じた動作点が騒音発生領域に含まれる場合に、当該騒音発生領域よりも低負荷側の動作ライン上の動作点で動作するように内燃機関を制御すると共に、電動機の出力を増加させる。このように、動作ライン上の要求パワーに応じた動作点が騒音発生領域に含まれる場合、内燃機関を騒音発生領域以外の動作ライン上の動作点で動作させることで、騒音の発生を抑制しつつ内燃機関の燃費向上を図ることができる。そして、この際に電動機の出力を増加させることで、内燃機関を要求パワーに応じた動作点よりも低負荷側の動作点で動作させることによる出力の不足を補うことができる。従って、この制御装置によれば、騒音の発生を抑制しつつ内燃機関の燃費向上を図ると共に、ハイブリッド車両の走行性能を良好に確保することが可能となる。
【0010】
また、前記制御装置は、前記動作ライン上の前記要求パワーに応じた動作点が前記騒音発生領域に含まれる場合に、前記内燃機関から出力されるパワーの前記要求パワーに対する不足分を出力するように前記電動機を制御するものであってもよい。これにより、ハイブリッド車両の走行に際して本来内燃機関に要求されるパワーを内燃機関と電動機との双方から出力させて、ハイブリッド車両の走行性能を良好に確保することが可能となる。
【0011】
更に、前記内燃機関から出力されるパワーの前記要求パワーに対する不足分を前記電動機から出力させることができない場合に、前記騒音発生領域を回避するように定められた第2の動作ライン上の動作点で動作するように前記内燃機関を制御するものであってもよい。これにより、走行状態の安定化や電動機の保護を図りつつ、内燃機関の燃費を向上させることが可能となる。なお、上記不足分を電動機から出力させることができない場合には、車両の走行状態を安定化させる観点から電動機の出力が制限される場合や、電動機を保護する観点から当該電動機の出力が制限される場合等が含まれる。
【0012】
また、前記ハイブリッド車両は、第2および第3の電動機と、前記第2の電動機の回転軸に接続される第1要素と、前記前輪および後輪の一方に連結される駆動軸および前記第3電動機の回転軸に接続される第2要素と、前記内燃機関の出力軸に接続される第3要素とを有するプラネタリギヤとを更に備えてもよい。このような構成によれば、動作ライン上の要求パワーに応じた動作点が騒音発生領域に含まれる場合に、内燃機関の実際の動作点を騒音発生領域よりも低負荷側の動作ライン上の動作点に容易に設定することが可能となる。
【0013】
更に、前記ハイブリッド車両は、前記内燃機関からの動力を前記前輪および後輪の一方に連結される駆動軸に伝達する無段変速装置を更に備えてもよい。このような構成によっても、動作ライン上の要求パワーに応じた動作点が騒音発生領域に含まれる場合に、内燃機関の実際の動作点を騒音発生領域よりも低負荷側の動作ライン上の動作点に容易に設定することが可能となる。
【0014】
本発明によるハイブリッド車両の制御方法は、前輪および後輪の一方に動力を出力可能な内燃機関と、前記前輪および後輪の他方に動力を出力可能な電動機と、該電動機と電力をやり取り可能な蓄電装置とを備えたハイブリッド車両の制御方法において、燃費を向上させるように予め定められた動作ライン上の前記内燃機関に対する要求パワーに応じた動作点が騒音発生領域に含まれる場合に、前記騒音発生領域よりも低負荷側の前記動作ライン上の動作点で動作するように前記内燃機関を制御すると共に、前記電動機の出力を増加させることを特徴とする
【0015】
この方法によれば、動作ライン上の要求パワーに応じた動作点が騒音発生領域に含まれる場合、内燃機関を騒音発生領域以外の動作ライン上の動作点で動作させることで、騒音の発生を抑制しつつ内燃機関の燃費向上を図ることができる。そして、この際に電動機の出力を増加させることで、内燃機関を要求パワーに応じた動作点よりも低負荷側の動作点で動作させることによる出力の不足を補うことができる。従って、この方法を採用すれば、騒音の発生を抑制しつつ内燃機関の燃費向上を図ると共に、ハイブリッド車両の走行性能を良好に確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明によるハイブリッド車両の一例であるハイブリッド自動車20の概略構成図である。
【図2】エンジン22が運転された状態でハイブリッド自動車20が走行する際に実行される駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図3】エンジン22が運転された状態でハイブリッド自動車20が走行する際に実行される駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図4】要求トルク設定用マップの一例を示す説明図である。
【図5】エンジン22の燃費最適動作ラインおよび騒音回避動作ラインを例示する説明図である。
【図6】本発明によるハイブリッド車両の他の例であるハイブリッド自動車200の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、図面を参照しながら本発明を実施するための形態について説明する。
【0018】
図1は、本発明によるハイブリッド車両の一例であるハイブリッド自動車20の概略構成図である。同図に示すハイブリッド自動車20は、ガソリンや軽油といった炭化水素系の燃料を用いて動力を出力するエンジン(内燃機関)22と、シングルピニオン式のプラネタリギヤ30と、主として発電機として動作するモータMG1と、前輪35a,35bに図示しないギヤ機構やデファレンシャルギヤ36を介して連結された前輪駆動軸37に変速機60を介して動力を入出力するモータMG2と、後輪35c,35dに図示しないギヤ機構やデファレンシャルギヤ38を介して連結された後輪駆動軸39に動力を入出力するモータMG3とを含む。
【0019】
更に、ハイブリッド自動車20は、エンジン22を制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、「エンジンECU」という)24と、モータMG1,MG2およびMG3を駆動するためのインバータ41,42および43と、インバータ41,42および43に接続されたバッテリ50と、インバータ41,42および43を介してモータMG1,MG2およびMG3を駆動制御するモータ用電子制御ユニット(以下、「モータECU」という)40と、バッテリ50を管理するバッテリ用電子制御ユニット(以下、「バッテリECU」という)52と、エンジンECU24やモータECU40、バッテリECU52等と通信しながら車両全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット(以下、「ハイブリッドECU」という)70とを含む。
【0020】
エンジンECU24は、図示しないCPUを中心とするマイクロコンピュータとして構成されている。エンジンECU24には、エンジン22に対して設けられて当該エンジン22の運転状態を検出する各種センサからの信号が入力され、エンジンECU24からは、エンジン22の吸入空気量や燃料噴射量、点火時期等を制御するための制御信号等が出力される。また、エンジンECU24は、ハイブリッドECU70と通信し、ハイブリッドECU70からの信号や上記センサからの信号等に基づいてエンジン22を制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータをハイブリッドECU70に出力する。
【0021】
プラネタリギヤ30は、モータMG1のロータ(回転軸)に接続されるサンギヤ(第1要素)31と、前輪駆動軸37に接続されると共に変速機60を介してモータMG2のロータ(回転軸)に接続されるリングギヤ(第2要素)32と、複数のピニオンギヤ33を支持すると共に図示しないダンパを介してエンジン22のクランクシャフト(出力軸)に接続されるプラネタリキャリア(第3要素)34とを有する。また、変速機60は、モータMG2のロータと前輪駆動軸37との接続および当該接続の解除を実行すると共に、当該ロータと前輪駆動軸37との間の変速比を複数段階に設定可能なものであり、ハイブリッド自動車20の走行状態等に応じてハイブリッドECU70により制御される。
【0022】
プラネタリギヤ30は、モータMG1がエンジン22からの動力の少なくとも一部を用いて発電する発電機として機能する際にはプラネタリキャリア34に伝達されるエンジン22からの動力をサンギヤ31とリングギヤ32とにそのギヤ比に応じて分配する。また、プラネタリギヤ30は、モータMG1が電動機として機能する際にはプラネタリキャリア34に伝達されるエンジン22からの動力とサンギヤ31に伝達されるモータMG1からの動力を統合してリングギヤ32に出力する。リングギヤ32に出力された動力は、前輪駆動軸37やデファレンシャルギヤ36等を介して最終的に前輪35a,35bに出力される。
【0023】
モータMG1,MG2およびMG3は、周知の同期発電電動機として構成されており、それぞれインバータ41,42または43を介してバッテリ50と電力をやり取りする。インバータ41,42および43とバッテリ50とを接続する電力ラインは、インバータ41〜43が共用する正極母線および負極母線として構成されており、モータMG1,MG2およびMG3の少なくとも何れか1体により発電される電力を残余のモータで消費可能とする。従って、バッテリ50は、モータMG1〜MG3により発電または消費される電力に応じて充放電され、モータMG1〜MG3間で電力収支のバランスをとれば充放電されないことになる。
【0024】
モータECU40は、図示しないCPUを中心とするマイクロコンピュータとして構成されている。モータECU40には、モータMG1〜MG3のロータの回転位置を検出する回転位置検出センサ45,46および47からの信号や、図示しない電流センサにより検出されるモータMG1〜MG3に印加される相電流等が入力され、モータECU40からは、インバータ41〜43へのスイッチング制御信号等が出力される。また、モータECU40は、回転位置検出センサ45〜47から入力した信号に基づいてモータMG1,MG2およびMG3のロータの回転数Nm1,Nm2およびNm3を計算する。更に、モータECU40は、ハイブリッドECU70と通信し、ハイブリッドECU70からの信号等に基づいてモータMG1〜MG3を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1〜MG3の状態に関するデータをハイブリッドECU70に出力する。
【0025】
バッテリ50は、例えば200〜300Vの定格出力電圧を有するニッケル水素二次電池またはリチウムイオン二次電池である。また、バッテリ50を管理するバッテリECU52も図示しないCPUを中心とするマイクロコンピュータとして構成されている。バッテリECU52には、バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧Vb、バッテリ50の出力端子に接続された電力ラインに設置された図示しない電流センサからの充放電電流Ib、バッテリ50に設置された図示しない温度センサからのバッテリ温度Tb等が入力される。更に、バッテリECU52は、ハイブリッドECU70やエンジンECU24と通信し、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータをハイブリッドECU70やエンジンECU24に出力する。また、バッテリECU52は、充放電電流Ibの積算値に基づいてバッテリ50の充電割合を示す残容量SOCを算出したり、残容量SOCに基づいてバッテリ50の目標充放電電力としての充放電要求パワーPb*(ここでは、放電側を正とし、充電側を負とする)を算出したり、残容量SOCとバッテリ温度Tbとに基づいてバッテリ50の充電に許容される電力である許容充電電力としての入力制限Winとバッテリ50の放電に許容される電力である許容放電電力としての出力制限Woutとを算出したりする。
【0026】
ハイブリッドECU70は、CPU72を中心とするマイクロコンピュータとして構成されており、CPU72の他に各種プログラムを記憶するROM74や、データを一時的に記憶するRAM76、図示しない入出力ポートおよび通信ポート等を備える。ハイブリッドECU70は、上述したようにエンジンECU24やモータECU40、バッテリECU52等と通信し、エンジンECU24やモータECU40、バッテリECU52等と各種信号やデータのやり取りを行う。また、ハイブリッドECU70には、イグニッションスイッチ(スタートスイッチ)80からのイグニッション信号、シフトレバー81の操作位置(シフトポジション)に対応したシフトレンジSRを検出するシフトレンジセンサ82からのシフトレンジSR、アクセルペダル83の踏み込み量(アクセル操作量)を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc、ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルストロークセンサ86からのブレーキペダルストロークBS、車速センサ87からの車速V等が入力ポートを介して入力される。
【0027】
上述のように構成されたハイブリッド自動車20では、アクセル開度Accと車速Vとに基づいてハイブリッド自動車20の走行に要求される要求トルクT*が計算され、要求トルクT*に応じたトルクが前輪駆動軸37および後輪駆動軸39の少なくとも何れか一方に出力されるようにエンジン22とモータMG1〜MG3とが制御される。エンジン22およびモータMG1〜MG3の制御モードには、要求トルクT*に見合うパワーがエンジン22から出力されるようにエンジン22を制御すると共にエンジン22から出力されるパワーのすべてがプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2およびMG3の一方または双方とによってトルク変換されて前輪駆動軸37および後輪駆動軸39の少なくとも何れか一方に出力されるようモータMG1〜MG3を駆動制御するトルク変換運転モードや、要求トルクT*とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合うパワーがエンジン22から出力されるようにエンジン22を制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力されるパワーの全部またはその一部がプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2およびMG3の一方または双方とによるトルク変換を伴って要求トルクT*に基づくトルクが前輪駆動軸37および後輪駆動軸39の少なくとも何れか一方に出力されるようモータMG1〜MG3を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転が停止された状態で要求トルクT*に基づくトルクが前輪駆動軸37および後輪駆動軸39の少なくとも何れか一方に出力されるようにモータMG2およびMG3の一方または双方を駆動制御するモータ運転モード等が含まれる。
【0028】
次に、上述のように構成されるハイブリッド自動車20の動作について説明する。図2および図3は、エンジン22が運転された状態でハイブリッド自動車20が走行する際にハイブリッドECU70により所定時間毎(例えば、数msec毎)に実行される駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【0029】
図2の駆動制御ルーチンの開始に際して、ハイブリッドECU70(CPU72)は、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accや、車速センサ87からの車速V、モータMG1〜MG3の回転数Nm1〜Nm3、バッテリ50の充放電要求パワーPb*、変速機60の現変速比γ、後輪トルク分配比Dr、モータMG2およびMG3の上限トルクTm2limおよびTm3lim、分配比変更禁止フラグFpといった制御に必要なデータの入力処理を実行する(ステップS100)。モータMG1〜MG3の回転数Nm1〜Nm3は、モータECU40から通信により入力され、バッテリ50の充放電要求パワーPb*は、バッテリECU52から通信により入力される。変速機60の現変速比γは、例えば車速Vや要求トルクT*等に応じてステップS100の処理の実行時に変速機60により設定されている変速比であって、ハイブリッドECU70の図示しない記憶領域に格納されているものである。
【0030】
後輪トルク分配比Drは、ハイブリッド自動車20の走行状態(車速V、要求トルクT*、舵角等)に応じて例えば値0から値0.5の範囲内でハイブリッドECU70により別途設定されるものであり、ハイブリッドECU70の図示しない記憶領域に格納されているものである。上限トルクTm2limは、その時点でモータMG2から出力することが許容されている最大トルクであり、ステップS100では、モータMG2の温度や回転数Nm2等に応じてモータECU40により設定されたものが通信により入力される。同様に、上限トルクTm3limは、その時点でモータMG3から出力することが許容されている最大トルクであり、ステップS100では、モータMG3の温度や回転数Nm3等に応じてモータECU40により設定されたものが通信により入力される。分配比変更禁止フラグFpは、上述のようにして設定される後輪トルク分配比Drの変更が許容される場合に値0に設定されると共に、後輪トルク分配比Drの変更が許容されない場合に値1に設定されるものである。本実施形態において、分配比変更禁止フラグFpは、ハイブリッドECU70によりハイブリッド自動車20の走行状態(車速V、要求トルクT*、舵角等)や路面状態、更にはバッテリ50の状態等に応じて設定されるものである。分配比変更禁止フラグFpは、例えば、車速Vが所定範囲内に含まれるとき、要求トルクT*が所定範囲内に含まれるとき、ハイブリッド自動車20の旋回走行時、低μ路走行時、バッテリ50の残容量SOCが所定値未満であるとき、バッテリ50の出力制限Woutが所定値未満であるとき等に値1に設定される。
【0031】
ステップS100のデータ入力処理の後、ハイブリッドECU70は、図4に例示する要求トルク設定用マップからステップS100にて入力したアクセル開度Accおよび車速Vに対応した要求トルクT*を導出・設定した上で、エンジン22に要求されるエンジン要求パワーPe*を設定する(ステップS110)。エンジン要求パワーPe*は、要求トルクT*に車速Vと換算係数kとの積(前輪駆動軸37および後輪駆動軸39の回転数)を乗じたものから充放電要求パワーPb*を減じた値に損失分Lossを加算することにより得られる。次いで、ハイブリッドECU70は、設定したエンジン要求パワーPe*が予め定められた値P1よりも大きく、かつ予め定められた値P2よりも小さいか否か(P1<Pe*<P2であるか否か)を判定する(ステップS120)。
【0032】
エンジン要求パワーPe*が値P1以下であるか、あるいは値P2以上である場合、ハイブリッドECU70は、燃費を向上させるように予め定められた燃費最適動作ラインからステップS110にて設定したエンジン要求パワーPe*に対応したエンジン22の目標動作点すなわち目標回転数Ne*および目標トルクTe*を設定する(ステップS130)。また、エンジン要求パワーPe*が値P1よりも大きく、かつ値P2よりも小さい場合、ハイブリッドECU70は、更にステップS100にて入力した分配比変更禁止フラグFpが値1であるか否かを判定する(ステップS140)。分配比変更禁止フラグFpが値1であって後輪トルク分配比Drの変更が許容されていない場合、ハイブリッドECU70は、予め定められた騒音回避動作ラインからステップS110にて設定したエンジン要求パワーPe*に対応したエンジン22の目標動作点すなわち目標回転数Ne*および目標トルクTe*を導出・設定する(ステップS150)。
【0033】
図5に燃費最適動作ラインおよび騒音回避動作ラインを例示する。同図において実線で示す燃費最適動作ラインは、実験・解析を経て求められるエンジン要求パワーPe*ごとのエンジン22を最も効率よく動作させる動作点を結ぶことにより得られるものである。また、図5において一点鎖線で示す騒音回避動作ラインは、エンジン22の運転可能領域のうち、エンジン22のこもり音等の騒音を生じる騒音発生領域(図5における網掛け部参照)を回避し得る範囲内でできるだけエンジン22の燃費がよくなるように定められたものである。すなわち、図5の例では、騒音回避動作ライン上の動作点よりも低回転側(図中左側)あるいは高トルク側(図中上側)の動作点でエンジン22が動作すると、許容値を超える騒音が発生するおそれが高まることになる。
【0034】
そして、ステップS120にて用いられる閾値としての値P1は、騒音発生領域内に含まれる燃費最適動作ライン上の動作点により規定されるパワーのうちの最小パワーよりも小さく、かつ当該最小パワーに近い値として定められる。また、ステップS120にて用いられる閾値としての値P2は、騒音発生領域内に含まれる燃費最適動作ライン上の動作点により規定されるパワーのうちの最大パワーよりも大きく、かつ当該最大パワーに近い値として定められる。これにより、ステップS120にてエンジン要求パワーPe*が値P1以下であるか、あるいは値P2以上であると判断された場合には、燃費最適動作ラインを用いて設定される目標動作点でエンジン22を動作させても、エンジン22の実際の動作点が上述の騒音発生領域に含まれる可能性は極めて低く、こもり音等の騒音を発生させることなくエンジン22の燃費を向上させることができる。これに対して、ステップS120にてエンジン要求パワーPe*が値P1よりも大きく、かつ値P2よりも小さいと判断された場合には、燃費最適動作ラインを用いて設定される目標動作点でエンジン22を動作させると、エンジン22の動作点が上述の騒音発生領域に含まれる可能性が極めて高くなる。このため、ステップS120にて肯定判断がなされると共に、分配比変更禁止フラグFpが値1であって後輪トルク分配比Drの変更が許容されていない場合には、若干の燃費の低下を招いたとしても騒音の発生が抑制されるように騒音回避動作ラインを用いてエンジン22の目標動作点が設定される(ステップS150)
【0035】
ステップS130またはS150にてエンジン22の目標動作点を設定した後、ハイブリッドECU70は、ステップS100にて入力した後輪トルク分配比DrとステップS110にて設定した要求トルクT*とに基づいて、前輪35a,35bに出力すべき前輪要求トルクTf*(=(1−Dr)・T*)と後輪35c,35dに出力すべき後輪要求トルクTr*(=Dr・T*)とを設定する(ステップS160)。続いて、ハイブリッドECU70は、目標回転数Ne*、前輪駆動軸37の回転数(=Nm2/γまたはk・V)およびプラネタリギヤ30のギヤ比ρ(サンギヤ31の歯数/リングギヤ32の歯数)に基づいてモータMG1の目標回転数Nm1*を次式(1)に従って計算した上で、エンジン22の目標トルクTe*や目標回転数Nm1*、現在の回転数Nm1等に基づいてモータMG1に対するトルク指令Tm1*を次式(2)に従って設定する(ステップS170)。式(1)は、プラネタリギヤ30の回転要素に関する力学的な関係式であり、プラネタリギヤ30の回転要素における回転数とトルクとの力学的な関係を示す図示しない共線図から容易に導出され得るものである。また、式(2)は、モータMG1をエンジン22の目標回転数Ne*に対応した目標回転数Nm1*で回転させるためのフィードバック制御における関係式であり、式(2)中、右辺第2項の「k1」は比例項のゲインであり、右辺第3項の「k2」は積分項のゲインである。
【0036】
Nm1*=Ne*・(1+ρ)/ρ-Nm2/(γ・ρ) …(1)
Tm1*=-ρ/(1+ρ)・Te*+k1・(Nm1*-Nm1)+k2・∫(Nm1*-Nm1)dt …(2)
【0037】
こうしてモータMG1に対するトルク指令Tm1*を設定した後、ハイブリッドECU70は、前輪要求トルクTf*、モータMG2のロータと前輪35a,35b(前輪ドライブシャフト)との間のギヤ比Gf(=f(γ))、トルク指令Tm1*、プラネタリギヤ30のギヤ比ρおよび変速機60の現変速比γに基づいてモータMG2から出力すべきトルクの仮の値である仮トルク指令Tm2tmpを次式(3)に従って計算する(ステップS180)。更に、ハイブリッドECU70は、仮トルク指令Tm2tmpとステップS100にて入力したモータMG2の上限トルクTm2limとの小さい方をモータMG2に対するトルク指令Tm2*として設定する(ステップS190)。また、ハイブリッドECU70は、後輪要求トルクTr*と、モータMG3のロータと後輪35c,35d(後輪ドライブシャフト)との間のギヤ比Grとに基づいてモータMG3から出力すべきトルクの仮の値である仮トルク指令Tm3tmpを次式(4)に従って計算する(ステップS200)。更に、ハイブリッドECU70は、仮トルク指令Tm3tmpとステップS100にて入力したモータMG3の上限トルクTm3limとの小さい方をモータMG3に対するトルク指令Tm3*として設定する(ステップS210)。
【0038】
Tm2tmp=(Tf*/Gf+Tm1*/ρ)/γ …(3)
Tm3tmp=Tr*/Gr …(4)
【0039】
上述のようにモータMG1〜MG3に対するトルク指令Tm1*,Tm2*およびTm3*を設定した後、ハイブリッドECU70は、エンジン22の目標回転数Ne*および目標トルクTe*をエンジンECU24に送信すると共に、モータMG1〜MG3のトルク指令Tm1*〜Tm3*をモータECU40にそれぞれ送信し(ステップS220)、本ルーチンを一旦終了させる。ハイブリッドECU70から目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを受信したエンジンECU24は、目標回転数Ne*と目標トルクTe*とに基づいて吸入空気量制御や燃料噴射制御、点火時期制御等を実行する。また、ハイブリッドECU70からトルク指令Tm1*〜Tm3*を受信したモータECU40は、トルク指令Tm1*〜Tm3*に基づいてインバータ41〜43のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。
【0040】
一方、ステップS120にてエンジン要求パワーPe*が値P1よりも大きく、かつ値P2よりも小さいと判断すると共に、ステップS140にて分配比変更禁止フラグFpが値0であって後輪トルク分配比Drの変更が許容されていると判断した場合、ハイブリッドECU70は、ステップS110にて設定したエンジン要求パワーPe*、上述の値P1、ステップS100にて入力したモータMG3の回転数Nm3、および上述のギヤ比Grに基づいて後輪35c,35dに出力すべき後輪要求トルクTr*を次式(5)に従って設定すると共に、次式(6)に従って要求トルクT*から設定した後輪要求トルクTr*を減じることにより前輪35a,35bに出力すべき前輪要求トルクTf*を設定する(ステップS230)。ここで、式(5)は、値P1(エンジン22から出力されるパワー)の本来のエンジン要求パワーPe*に対する不足分を後輪35c,35dへのトルクに変換するものである。
【0041】
Tr*=(Pe*-P1)/(Nm3/Gr) …(5)
Tf*=T*-Tr* …(6)
【0042】
続いて、ハイブリッドECU70は、ステップS230にて設定した後輪要求トルクTr*がステップS100にて入力したモータMG3の上限トルクTm3limとギヤ比Grとの積以下であるか否か、すなわち上限トルクTm3lim(定格トルク)の範囲内でモータMG3から後輪35c,35dに後輪要求トルクTr*を出力可能であるか否かを判定する(ステップS240)。後輪要求トルクTr*が上限トルクTm3limとギヤ比Grとの積以下である場合、ハイブリッドECU70は、ステップS230にて設定した後輪要求トルクTr*をステップS110にて設定した要求トルクT*で除することにより予測後輪トルク分配比Dpreを計算する(ステップS250)。更に、ハイブリッドECU70は、計算した予測後輪トルク分配比Dpreが予め定められた上限後輪トルク分配比Dlimを上回っているか否かを判定する(ステップS260)。本実施形態において、ステップS260にて用いられる閾値としての上限後輪トルク分配比Dlimは、ハイブリッド自動車20の走行状態に応じて設定される後輪トルク分配比Drの最大値(例えば、0.5)とされる。
【0043】
予測後輪トルク分配比Dpreが上限後輪トルク分配比Dlim以下である場合、ハイブリッドECU70は、エンジン22の目標動作点を燃費最適動作ライン上の値P1に対応した動作点(値P1の等パワーラインと燃費最適動作ラインとの交点)に設定する(ステップS270)。すなわち、エンジン要求パワーPe*が値P1よりも大きいか値P2よりも小さく、後輪トルク分配比Drの変更が許容されており、かつモータMG3の出力が上限トルクTm3limにより制限されない場合、ステップS270において目標回転数Ne*が値Ne1に設定されると共に目標トルクTe*が値Te1(=P1/Ne1)に設定される。そして、ハイブリッドECU70は、上述のステップS170〜S220の処理を実行し、本ルーチンを一旦終了させる。
【0044】
これに対して、ステップS260にて予測後輪トルク分配比Dpreが上限後輪トルク分配比Dlimを上回っていると判断した場合、ハイブリッドECU70は、後輪35c,35dに過剰にトルクが出力されて走行状態が不安定になるのを抑制すべく、上限後輪トルク分配比DlimとステップS110にて設定した要求トルクT*とに基づいて、前輪35a,35bに出力すべき前輪要求トルクTf*(=(1−Dlim)・T*)と後輪35c,35dに出力すべき後輪要求トルクTr*(=Dlim・T*)とを再設定する(ステップS280)。更に、ハイブリッドECU70は、ステップS110にて設定したエンジン要求パワーPe*、再設定した後輪要求トルクTr*、ステップS100にて入力したモータMG3の回転数Nm3、およびギヤ比Grに基づいてエンジン要求パワーPe*を次式(7)に従って再設定し(ステップS290)、上述の騒音回避動作ラインから再設定したエンジン要求パワーPe*に対応したエンジン22の目標回転数Ne*および目標トルクTe*を導出・設定する(ステップS300)。その後、ハイブリッドECU70は、上述のステップS170〜S220の処理を実行し、本ルーチンを一旦終了させる。
【0045】
Pe*=Pe*-Tr*・Nm3/Gr …(7)
【0046】
また、ステップS240にて後輪要求トルクTr*が上限トルクTm3limとギヤ比Grとの積を上回っていると判断した場合、ハイブリッドECU70は、モータMG3を保護する観点からモータMG3の出力トルクを上限トルクTm3limの範囲内に制限すべく、後輪要求トルクTr*を上限トルクTm3limとギヤ比Grとの積に再設定すると共に、上記式(6)に従って要求トルクT*から設定した後輪要求トルクTr*を減じることにより前輪35a,35bに出力すべき前輪要求トルクTf*を再設定する(ステップS310)。その後、ハイブリッドECU70は、上述のステップS290およびS300、S170〜S220の処理を実行し、本ルーチンを一旦終了させる。
【0047】
上述のような駆動制御ルーチンが実行されることにより、燃費を向上させるように予め定められた燃費最適動作ライン上のエンジン要求パワーPe*に応じたエンジン22の動作点が騒音発生領域(図5における二点鎖線参照)に含まれる場合、走行状態の安定化やモータMG3(更にはバッテリ50)の保護といった観点からモータMG3の出力を制限すべき(モータMG3から上記不足分を出力させることができない)場合を除いて、エンジン22の目標動作点が騒音発生領域よりも低負荷側(低パワー側)の燃費最適動作ライン上の動作点(Ne1,Te1)に設定される(ステップS270)。従って、エンジン22は、エンジンECU24により騒音発生領域よりも低負荷側(低パワー側)の燃費最適動作ライン上の動作点(Ne1,Te1)で動作するように制御される。また、このようにエンジン22の目標動作点が設定されるのに伴い、エンジン22から出力されるパワー(値P1)のエンジン要求パワーPe*に対する不足分を出力するようにモータMG3のトルク指令Tm3*が設定される(ステップS210,S230)。これにより、モータMG3がモータECU40によりトルク指令Tm3*に従って制御される結果、アクセル開度Accに応じて要求トルクT*が増加していく場合、モータMG3の出力(パワー)は、基本的にエンジン22の出力(パワー)が抑えられる分だけ増加していくことになる。更に、燃費最適動作ライン上のエンジン要求パワーPe*に応じたエンジン22の動作点が騒音発生領域に含まれる場合であっても、走行状態の安定化やモータMG3(更にバッテリ50)の保護といった観点からモータMG3の出力を制限すべき場合には、エンジン22の目標動作点が騒音発生領域を回避するように定められた騒音回避動作ライン上の動作点に設定されると共に(ステップS300)、許容される範囲内のトルクを出力するようにモータMG3のトルク指令Tm3*が設定されることになる(ステップS210,S280またはS310)。
【0048】
以上説明したように、ハイブリッド自動車20では、燃費を向上させるように予め定められた燃費最適動作ライン上のエンジン要求パワーPe*に応じたエンジン22の動作点が騒音発生領域に含まれる場合、騒音発生領域よりも低負荷(低パワー)側の燃費最適動作ライン上の動作点(Ne1,Te1)で動作するようにエンジン22が制御されると共に、エンジン22の出力(パワー)が抑えられる分だけモータMG3の出力が増加させられる。このように、燃費最適動作ライン上のエンジン要求パワーPe*に応じたエンジン22の動作点が騒音発生領域に含まれる場合、エンジン22を騒音発生領域以外の燃費最適動作ライン上の動作点で動作させることで、騒音の発生を抑制しつつエンジン22の燃費向上を図ることができる。そして、この際にモータMG3の出力を増加させることで、エンジン22をエンジン要求パワーPe*に応じた動作点よりも低負荷(低パワー)側の動作点で動作させることによる出力の不足を補うことができる。従って、騒音の発生を抑制しつつエンジン22の燃費向上を図ると共に、ハイブリッド自動車20の走行性能を良好に確保することが可能となる。
【0049】
また、上記ハイブリッド自動車20では、燃費最適動作ライン上のエンジン要求パワーPe*に応じたエンジン22の動作点が騒音発生領域に含まれる場合、エンジン22から出力されるパワー(値P1)のエンジン要求パワーPe*に対する不足分を出力するようにモータMG3が制御される。これにより、ハイブリッド自動車20の走行に際して本来エンジン22に要求されるパワー(Pe*)をエンジン22とモータMG3との双方から出力させて、ハイブリッド自動車20の走行性能を良好に確保することが可能となる。
【0050】
更に、上記ハイブリッド自動車20では、走行状態の安定化やモータMG3の保護を図る上でエンジン22から出力されるパワー(値P1)のエンジン要求パワーPe*に対する不足分をモータMG3から出力させることができない場合、騒音発生領域を回避するように定められた騒音回避動作ライン上の動作点で動作するようにエンジン22が制御される。これにより、走行状態の安定化やモータMG3の保護を図りつつ、エンジン22の燃費を向上させることが可能となる。
【0051】
また、上記ハイブリッド自動車20は、モータMG1およびMG2と、モータMG1のロータに接続されるサンギヤ31と、前輪35a,35bに連結される前輪駆動軸37およびモータMG2のロータに接続されるリングギヤ32と、エンジン22のクランクシャフトに接続されるプラネタリキャリア34とを有するプラネタリギヤ30とを含む。これにより、ハイブリッド自動車20では、燃費最適動作ライン上のエンジン要求パワーPe*に応じたエンジン22の動作点が騒音発生領域に含まれる場合に、エンジン22の実際の動作点を騒音発生領域よりも低負荷側の燃費最適動作ライン上の動作点に容易に設定することが可能となる。ただし、プラネタリギヤ30のリングギヤ32に後輪駆動軸39およびモータMG2を接続すると共に、モータMG3を前輪駆動軸37に接続してもよいことはいうまでもない。
【0052】
更に、本発明が適用されるハイブリッド車両は、図6に示す変形例に係るハイブリッド自動車200のように無段変速機(CVT)65を含むものであってもよい。図6に示す変形例に係るハイブリッド自動車200は、エンジン22のクランクシャフトに接続されると共にインバータ49fを介してバッテリ50と電力をやり取り可能なモータMGfと、モータMGfのロータ(回転軸)と前輪35a,35bに連結された前輪駆動軸37とに接続された機械式(例えばベルト式あるいはトロイダル式)の無段変速機65と、後輪駆動軸39に接続されると共にインバータ49rを介してバッテリ50と電力をやり取り可能なモータMGrとを含む。このように構成されるハイブリッド自動車200においても、燃費最適動作ライン上のエンジン要求パワーPe*に応じたエンジン22の動作点が騒音発生領域に含まれる場合に、エンジン22の実際の動作点を騒音発生領域よりも低負荷側の燃費最適動作ライン上の動作点に容易に設定することが可能となる。ただし、ハイブリッド自動車200において、モータMGfおよびインバータ49fは省略されてもよく、エンジン22(およびモータMGf)を無段変速機65を介して後輪駆動軸39に接続すると共にモータMGrを前輪駆動軸37に接続してもよい。
【0053】
なお、エンジン22から出力されるパワー(値P1)の本来のエンジン要求パワーPe*に対する不足分をモータMG3から出力させることができない場合、許容される範囲内のトルクを出力するようにモータMG3のトルク指令Tm3*を設定する代わりに(ステップS210,S280またはS310)、モータMG3のトルク指令Tm3*を値0に設定すると共にステップS110にて設定されたエンジン要求パワーPe*と騒音回避動作ラインとを用いてエンジン22の目標動作点を設定してもよい。また、図2のステップS170〜S220の処理に際して、モータMG1〜MG3により入出力される電力がバッテリ50の入力制限Winおよび出力制限Woutの範囲内に含まれるようにモータMG1〜MG3に対するトルク指令Tm1*〜Tm3*を設定してもよい。この場合、バッテリ50の入力制限Winおよび出力制限WoutによりモータMG3の出力(出力トルク)が制限されてエンジン22から出力されるパワー(値P1)の本来のエンジン要求パワーPe*に対する不足分をモータMG3から出力させることができない場合、許容される範囲内のトルクを出力するようにモータMG3のトルク指令Tm3*を設定するか、あるいはトルク指令Tm3*を値0に設定すると共に、騒音回避動作ライン上の動作点で動作するようにエンジン22を制御してもよい。更に、図2の駆動制御ルーチンにおいて、ステップS110にて設定されるエンジン要求パワーPe*が値P1よりも大きいと共に値P2よりも小さい所定値Prefから値P2までの範囲内(Pref≦Pe*<P2)にあると共にモータMG3の入出力が制限されない場合に、燃費最適動作ライン(動作ライン)上の値P2に対応した動作点(Ne2,Pe2)で動作するようにエンジン22を制御する(目標動作点を設定)すると共に、エンジン22から出力されるパワー(値P2)と本来のエンジン要求パワーPe*との差分を出力するようにモータMG3を制御(トルク指令Tm3を設定)してもよい。加えて、上記ハイブリッド自動車20において、変速機60の代わりにシンプルな減速ギヤ機構を採用してもよい。
【0054】
ここで、上記実施形態の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。すなわち、上記実施形態では、前輪35a,35bおよび後輪35c,35dの一方に動力を出力可能な内燃機関としてのエンジン22と、前輪35a,35bおよび後輪35c,35dの他方に動力を出力可能な電動機としてのモータMG3またはMGrと、モータMG3またはMGrと電力をやり取り可能な蓄電装置としてのバッテリ50とを備えたハイブリッド自動車20または200が「ハイブリッド車両」に相当し、図2および図3の駆動制御ルーチンを実行するハイブリッドECU70とエンジンECU24およびモータECU40との組み合わせが「制御装置」に相当する。また、モータMG1が「第2の電動機」に相当し、モータMG2が「第3の電動機」に相当し、プラネタリギヤ30が「プラネタリギヤ」に相当し、無段変速機65が「無段変速装置」に相当する。ただし、上記実施形態の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載された発明の主要な要素との対応関係は、実施形態が課題を解決するための手段の欄に記載された発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。すなわち、上記実施形態はあくまで課題を解決するための手段の欄に記載された発明の具体的な一例に過ぎず、課題を解決するための手段の欄に記載された発明の解釈は、その欄の記載に基づいて行なわれるべきものである。
【0055】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、ハイブリッド車両の製造産業等において利用可能である。
【符号の説明】
【0057】
20,200 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、30 プラネタリギヤ、31 サンギヤ、32 リングギヤ、33 ピニオンギヤ、34 プラネタリキャリア、35a,35b 前輪、35c,35d 後輪、36,38 デファレンシャルギヤ、37 前輪駆動軸、39 後輪駆動軸、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42,43,49f,49r インバータ、45,46,47 回転位置検出センサ、50 バッテリ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、60 変速機、65 無段変速機、70 ハイブリッド用電子制御ユニット(ハイブリッドECU)、72 CPU、74 ROM、76 RAM、81 シフトレバー、82 シフトレンジセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルストロークセンサ、87 車速センサ、MG1,MG2,MG3,MGf,MGr モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪および後輪の一方に動力を出力可能な内燃機関と、前記前輪および後輪の他方に動力を出力可能な電動機と、該電動機と電力をやり取り可能な蓄電装置とを備えたハイブリッド車両の制御装置において、
燃費を向上させるように予め定められた動作ライン上の前記内燃機関に対する要求パワーに応じた動作点が騒音発生領域に含まれる場合に、前記騒音発生領域よりも低負荷側の前記動作ライン上の動作点で動作するように前記内燃機関を制御すると共に、前記電動機の出力を増加させることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記動作ライン上の前記要求パワーに応じた動作点が前記騒音発生領域に含まれる場合に、前記内燃機関から出力されるパワーの前記要求パワーに対する不足分を出力するように前記電動機を制御することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記内燃機関から出力されるパワーの前記要求パワーに対する不足分を前記電動機から出力させることができない場合に、前記騒音発生領域を回避するように定められた第2の動作ライン上の動作点で動作するように前記内燃機関を制御することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記ハイブリッド車両は、第2および第3の電動機と、前記第2の電動機の回転軸に接続される第1要素と、前記前輪および後輪の一方に連結される駆動軸および前記第3電動機の回転軸に接続される第2要素と、前記内燃機関の出力軸に接続される第3要素とを有するプラネタリギヤとを更に備えることを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項5】
請求項1から3の何れか一項に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記ハイブリッド車両は、前記内燃機関からの動力を前記前輪および後輪の一方に連結される駆動軸に伝達する無段変速装置を更に備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
前輪および後輪の一方に動力を出力可能な内燃機関と、前記前輪および後輪の他方に動力を出力可能な電動機と、該電動機と電力をやり取り可能な蓄電装置とを備えたハイブリッド車両の制御方法において、
燃費を向上させるように予め定められた動作ライン上の前記内燃機関に対する要求パワーに応じた動作点が騒音発生領域に含まれる場合に、前記騒音発生領域よりも低負荷側の前記動作ライン上の動作点で動作するように前記内燃機関を制御すると共に、前記電動機の出力を増加させることを特徴とするハイブリッド車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−86600(P2013−86600A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227326(P2011−227326)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】