説明

ハイブリッド車両

以下に示す各部を備える、圧縮空気および電気エネルギーが駆動動力源である高性能ハイブリッド車両が提供される:すなわち、(a)第1圧縮空気貯蔵部と、(b)圧縮空気によって動力を発生するタービン型空気エンジンと、(c)該動力を分割する第1動力分割部と、(d)該第1動力分割部に接続される第1発電機と、(e)前記タービン型空気エンジンに接続される車輪駆動部と、(f)該車輪駆動部に接続される電動機および第2発電機と、(g)蓄電部と、(h)前記タービン型空気エンジンに接続される空気圧縮部と、(i)該空気圧縮部に接続される第2圧縮空気貯蔵部と、(j)前記車輪駆動部、前記第2発電機および前記空気圧縮部に接続される第2動力分割部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮空気車両、詳しくは、圧縮空気および電気エネルギーを駆動動力源とする、圧縮空気車両を改良したハイブリッド車両に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、車両の一種である自動車のほとんどは、ガソリン、軽油等の化石燃料を使用して、内燃機関により走行する。しかし近年、CO等の有害排気ガス削減および化石燃料の使用削減など、環境保護の面から、「低排気ガスかつ低燃費」の低公害車、すなわち、電気自動車やガソリンと電気のハイブリッドカー等が注目されている。すでにハイブリッドカーは市販され、電気自動車もまもなく市場導入される段階であり、燃料電池車も実用化に向け開発に拍車がかかっている。
【0003】
しかし、現行のハイブリッドカーは内燃機関を依然として使用しているため、内燃機関単独車より少ないとはいえ、走行中に大気へ有害排気ガスが排出されている。電気自動車は二次電池の高性能化により1回の充電当たりの走行距離は伸びているが、充電に長時間を要するという課題は依然として残っている。したがって、その使用場面に制約がある。さらに、燃料電池車は製造するためには非常に高いコストがかかり、また駆動動力源のインフラ整備等が必要であり、市販可能となるには相当な長期間を要すると考えられている。
【0004】
このような状況の中、本発明者らは走行中の大気汚染につながる有害排気ガスを排出せず、駆動動力源の充填が短時間に行われる圧縮空気車両を発明し、特許出願を行った(特許文献1)。圧縮空気車両とは、空気を高圧下に圧縮して得られる圧縮空気が、空気エンジン等の原動機を作動させて駆動力を得る車両のことである。
【0005】
なお、駆動動力源とは、内燃機関自動車においてはガソリンや軽油などの燃料を、電気自動車においては電気エネルギーを、本発明に代表される圧縮空気車両では圧縮空気を指すものとする。すなわち車両の走行、および走行に伴って適宜必要となるエアーコンディショナーやライトの点灯等に必要なエネルギー源をいうものである。
【0006】
圧縮空気自動車に関しては、フランスのMDIエンタープライゼス社のインターネットのホームページにも紹介されている。圧縮空気自動車は、前記のように走行中に有害排気ガスを排出せず、かつ圧縮空気の補充に長時間を要しないという利点を有するが、圧縮空気のみを駆動動力源とした場合には、パワー不足および走行可能距離が短いという課題を有している。前記ホームページの圧縮空気自動車においても、車両重量が400kg以下にもかかわらず、市街地走行可能距離(圧縮空気フル充填1回当たり)が100km、最高速度が約100km/hrと、性能的に不十分である。
【0007】
駆動動力源としての圧縮空気の前記欠点を解決するために、ソーラーパネルを搭載して太陽光発電による電気エネルギーを利用するハイブリッド装置が提案されている(特許文献2)。しかしながら、このタイプのハイブリッド車両は、装置が大掛かりとなり、そして、夜間等の太陽光が無い場合には電気エネルギーが得られず、実用的な車両ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−306191号公報
【特許文献2】特開2000−161001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、走行中に有害排気ガスを排出せず、および圧縮空気の補充に長時間を要しないという圧縮空気車両の利点を活かしつつ、パワーおよび圧縮空気フル充填1回当たりの走行距離の点で実用上満足できるハイブリッド型圧縮空気車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、下記装置を備える圧縮空気と電気エネルギーとを駆動動力源にするハイブリッド車両が提供される。これによって、エネルギー効率が飛躍的に向上し、パワーおよび走行可能距離が大幅に改善される。ここで、エネルギー効率とは、駆動動力源の持つエネルギーが車両の駆動動力に変換される効率をいう。
【0011】
すなわち、本発明のハイブリッド車両は、(a)圧縮空気を貯蔵する第1圧縮空気貯蔵部と、(b)該第1圧縮空気貯蔵部から供給される圧縮空気によって動力を発生するタービン型空気エンジンと、(c)該動力を分割する第1動力分割部と、(d)該第1動力分割部に接続される第1発電機と、(e)前記第1動力分割部を介して前記タービン型空気エンジンに接続される車輪駆動部と、(f)該車輪駆動部に接続される電動機および第2発電機と、(g)前記第1および第2発電機で発生する電気エネルギーを貯蔵する蓄電部と、(h)前記タービン型空気エンジンに接続される空気圧縮部と、(i)該空気圧縮部に接続される第2圧縮空気貯蔵部と、および、(j)前記車輪駆動部、前記第2発電機および前記空気圧縮部に接続される第2動力分割部と、を備える、圧縮空気および電気エネルギーが駆動動力源であるハイブリッド車両である。
【0012】
ここで、空気エンジンとは空気圧すなわち圧縮空気で作動する原動機のことである。また、車輪駆動部とは、圧縮空気および電気エネルギーから得られる動力を車輪に伝達する動力伝達装置を意味し、例えばディファレンシャルギアのような差動装置を含む。
【0013】
好適には、前記本発明のハイブリッド車両は、前記第1圧縮空気貯蔵部からの圧縮空気だけでなく、前記第2圧縮空気貯蔵部からの圧縮空気によっても、前記タービン型空気エンジンを作動させ得る。
【0014】
好適には、前記空気圧縮部はピストン型圧縮機である。
【0015】
好適には、前記本発明のハイブリッド車両は、前記タービン型空気エンジンおよび前記電動機から車輪駆動部に伝達される、圧縮空気由来の駆動力と電気エネルギー由来の駆動力との配分を制御する制御手段を備える。
【0016】
好適には、前記本発明のハイブリッド車両は、減速時および制動時などに発生する回生エネルギーで前記第2発電機を作動させて前記蓄電部に電気エネルギーとして、もしくは前記空気圧縮部を作動させて前記第2圧縮空気貯蔵部に圧縮空気として、または前記第2動力分割部を使用して、電気エネルギーおよび圧縮空気の両者として前記蓄電部ならびに前記第2圧縮空気貯蔵部の両部に、回生エネルギーを貯蔵する。
【0017】
なお、蓄電部に電気エネルギーを貯蔵する場合、該蓄電部が二次電池等であれば、実際には該電気エネルギーは化学エネルギーに変換されて貯蔵されるが、ここでは該化学エネルギーも含めて電気エネルギーまたは電気と総称する。
【0018】
好適には、前記本発明のハイブリッド車両は、前記回生エネルギーを前記蓄電部に電気エネルギーとして貯蔵する配分と、前記第2圧縮空気貯蔵部に圧縮空気として貯蔵する配分と、を制御する制御手段を備える。
【0019】
また、本発明のハイブリッド車両においては、前記タービン型空気エンジンおよび前記電動機は、その両者が同一の車輪駆動部に接続されてもよく、あるいはそれぞれ別の車輪駆動部に接続されてもよい。
【0020】
さらに、本発明のハイブリッド車両においては、前記電動機および第2発電機は一つの装置、すなわち前記電動機は前記第2発電機を兼ねるものであってもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、圧縮空気車両のエネルギー効率を飛躍的に向上させることができる。さらに、走行中に有害排気ガスを排出せず、かつ圧縮空気の補充に長時間を要しないという圧縮空気の利点を活かしつつ、パワーおよび走行可能距離の点で実用上満足できるハイブリッド型圧縮空気車両を提供することができる。さらに、エネルギー回生装置を備える場合には、よりいっそうエネルギー効率の良好なハイブリッド型圧縮空気車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明の好適な一実施形態の圧縮空気・電気ハイブリッド車の構成を総括的に表す概略図である。
【図2】図2は、発進時、加速時および上り坂走行時の各構成部の動作の例を表した概略図である。
【図3】図3は、電気エネルギーによる電動機6のみでの発進の動作の例を表した概略図である。
【図4】図4は、定常速度走行時の各構成部の動作の例を表した概略図である。
【図5】図5は、減速時および制動時の各構成部の動作の例を表した概略図である。
【図6】図6は、タービン型空気エンジンと電動機が、それぞれ異なる車輪駆動部に接続される、本発明のハイブリッドカーの別の実施形態を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
前記パワー不足という第1の課題を解決するに当たり、本発明では次のような点に着目した。すなわち、走行負荷が大きく圧縮空気のみの駆動力では不十分であるときに、電気エネルギーでその不足分を補うものである。具体的には、発進時、加速時および上り坂走行時等である。すなわち、大きな駆動エネルギーを必要とするときに、圧縮空気によるエネルギーに加えて電気エネルギーによっても駆動力を得るものである。
【0024】
本発明のハイブリッド車両を最初に駆動させるに当っての準備として、まず圧縮空気貯蔵部(第1圧縮空気貯蔵部)にコンプレッサー等で空気を圧縮して充填する。空気の貯蔵圧力は貯蔵部の耐圧度によるが、実用的には10MPa以上、好ましくは30MPa以上で貯蔵できる貯蔵部とするのがよい。圧力の上限は貯蔵部の耐圧度により必然的に決まるが、該耐圧度および安全性の点で許容される範囲内で、該上限圧力は高ければ高いほど走行可能距離の点で有利である。
【0025】
また、電気エネルギーを最初に蓄電部に蓄電する場合、電気自動車のように外部電源から充電してもよい。また、前記圧縮空気貯蔵部に貯蔵した圧縮空気でタービン型空気エンジンを作動させ、得られた動力で第1発電機を作動させて発電し、該電気エネルギーを蓄電部に充電してもよい。なお、圧縮空気で電気エネルギーを充電した場合には充電のために消費した圧縮空気を補充しておくことが好ましい。
【0026】
該蓄電部としてはニッケル水素二次電池もしくはリチウムイオン二次電池等の蓄電池、またはキャパシター等蓄電できるものであれば特に制限はないが、蓄電容量および取り扱い易さの点から前記蓄電池が好ましい。
【0027】
圧縮空気によって作動する空気エンジンには、本発明のタービン型以外にピストン型が存在する。しかし、メカニカルロスがタービン型よりも大きく、走行可能距離の増大という前記第2の課題解決に反するので好ましくない。すなわち、タービン型はピストン型よりエネルギー効率が高く、走行可能距離を大幅に改善することができる。しかしながら、タービン型は高速回転に適したものであり、低速回転時のトルクが小さく、また制御が難しいという欠点がある。
【0028】
本発明の圧縮空気と電気エネルギーとのハイブリッド車両には、タービン型空気エンジンの該欠点を解決できるという利点がある。
【0029】
次に、前記課題解決に対する本発明のその他の構成の役割について詳述する。第1動力分割部は前記空気エンジンの作動によって発生した動力を分割し、その動力の一部を車輪駆動部に伝達して車両を駆動する。残りの動力で第1発電機を作動させ、発生した電気エネルギーをインバータを介して蓄電部に蓄電する(充電)。
【0030】
前記動力を車両の駆動と蓄電に分割する状況は、平坦道や下り坂を定速走行している場合等の運転モードのときである。この場合は、要求される駆動エネルギーは大きくないので、発生する動力の一部を電気エネルギーに変換して大きな駆動エネルギーを必要とするときに備えるというものである。
【0031】
このような場合には、圧縮空気の流量を絞って発生動力を小さくする方法も考えられる。しかし、市街地走行の場合のように、発進、加速、定速、減速および制動が短時間で繰り返される場合には、圧縮空気の流量制御のみで対応するとエネルギーロスが大きくエネルギー効率が非常に低いものとなってしまう。すなわち、前記第1動力分割部は、その働きにより圧縮空気の流量制御操作を極力抑制してエネルギーロスを防止し、走行可能距離の増大に貢献して第2の課題を解決する装置の一つである。
【0032】
第1動力分割部は、タービン型空気エンジンにより発生した動力を前述のように分割できればどのような構成でもよく、特に制限は無い。例えばプラネタリーギアを使用する機構により作動させることができる。また、エネルギー効率を最適な状態にするために、該動力の分割はコンピュータ等の制御手段により各運転モードおよび走行状態等で最適に制御されることが好ましい。従って、前記発生動力はすべて車輪駆動に使用される場合も、また逆にすべて発電に使用される場合もあり得る。
【0033】
ここで、エネルギー効率を最適にするとは、運転モード、走行状態および運転者からのアクセルペダル操作等による指令等の状況に応じて、要求される車両駆動力を発生させつつ、エネルギーロスを最小限に抑制することをいう。
【0034】
本発明の構成の一つである電動機は、加速時あるいは上り坂走行時のように大きな駆動エネルギーを必要とするときに、蓄電部から電気エネルギーの供給を受けて作動し、動力を発生させ、該動力は空気エンジンからの動力と共に車両を駆動する。これによってパワー不足という第1の課題の解決に貢献する。
【0035】
さらに、徐行等の極低速走行時には、本発明の車両は、該電動機による動力だけで走行する場合もあり得る。このような場合には空気エンジンのエネルギー効率が悪いので、低回転でも効率がよくかつ低速トルクが大きいという電動機の長所を活かすためである。すなわち、前記電動機は走行可能距離の増大に貢献して第2の課題を解決する装置でもある。
【0036】
本発明の実施態様では、タービン型空気エンジンおよび第2動力分割部に接続される空気圧縮部、ならびに該空気圧縮部で圧縮された空気を貯蔵するための第2圧縮空気貯蔵部を備える。前記空気圧縮部は、タービン型空気エンジンを作動させた後の圧縮空気(排気空気)を回収する役割、ならびに車両の減速時および制動時等に生じる回生エネルギーを圧縮空気に変換する役割を担う。
【0037】
すなわち、該空気圧縮部は、廃棄されていたエネルギーを回収してエネルギー効率を向上させる装置であり、第2の課題である走行可能距離の増大に貢献する。
【0038】
ここで回生エネルギーとは、車両の減速時および/または制動時等に、車両の運動エネルギーの中で回生により回収し得るエネルギー(回収エネルギー)のことをいう。
【0039】
前記排気空気には、空気エンジンで動力に変換されなかったエネルギーが残されており、そのまま外気へ排出すればそのエネルギーをロスすることになる。そこで、前記排気空気を圧縮空気に再生して該エネルギーを回収するものである。従って、前記空気圧縮部で前記排気空気を圧縮する場合には、外気から空気を取り入れて圧縮する場合よりも少ないエネルギーで圧縮空気を生成できる。エネルギー回生については後述する。
【0040】
第2圧縮空気貯蔵部に貯蔵される当該圧縮空気は第1圧縮空気貯蔵部の圧縮空気の使用後に、または交互に、または同時に使用されてもよい。燃料警告灯点灯時の走行用として、すなわち、予備的に使用するのであれば、第1圧縮空気貯蔵部の圧縮空気の使用後に使用するのが好ましい。
【0041】
前記空気圧縮部は、高圧力の圧縮空気を生成させる点でピストン型の圧縮機が好ましい。また、実用的な面で、前記排気空気の回収および前記回生エネルギーの変換によって前記第2圧縮空気貯蔵部に圧縮空気を貯蔵する場合、その貯蔵圧力は1MPa以上を維持することが好ましく、5MPa以上を維持することがより好ましい。
【0042】
本発明の実施態様ではまた、エネルギー回生手段、および好ましくはその制御手段を備える。すなわち、車両の減速時および制動時等に車両の運動エネルギーを回生し、該回生エネルギーを次の3パターンで貯蔵する。第1は、回生エネルギーで第2発電機を作動させ、インバータを介して蓄電部に電気エネルギーとして貯蔵する。第2は、前述したように回生エネルギーによって前記空気圧縮部を作動させ、製造される圧縮空気を前記第2圧縮空気貯蔵部に貯蔵する。第3は、第2動力分割部により回生エネルギーを、第2発電機を作動させる動力と空気圧縮部を作動させる動力とに分割し、当該回生エネルギーを電気エネルギーおよび圧縮空気の両者の形として貯蔵する。
【0043】
第2動力分割部は、動力として伝達される回生エネルギーを分割できればどのような構成でもよく、特に制限は無い。例えば、第1動力分割部と同様にプラネタリーギアを使用する機構により作動させることができる。ただし、該第2動力分割部はエネルギー回生時にのみ働き、駆動力を車輪駆動部に伝達している走行中には、走行の負荷とはならない状態となっている。
【0044】
また、前記3パターンの選択は、コンピュータ等によるエネルギー回生制御手段により最適なパターンが選択されることが好ましい。例えば、当該回生エネルギーは電気エネルギーとして回収し、貯蔵することを原則とするが、蓄電部の蓄電量がフル充電に近づいているときは前記第3のパターンを、フル充電のときは第2のパターンを選択する。
【0045】
またさらに、蓄電部として二次電池を使用する場合、二次電池は自然放電が大きいため、走行後に例えば数日間以上走行させないような状況においては、前記第2のパターンを選択する。なぜならば、圧縮空気は数ヶ月程度で自然に漏洩することはほとんど無いからである。このような場合には運転者がパターンを選択できるシステムとすることが好ましい。
【0046】
上記エネルギー回生手段およびその制御手段は、エネルギー効率を高くして第2の課題である走行可能距離の増大に貢献する手段である。
【0047】
本発明のタービン型空気エンジンおよび電動機は、前輪もしくは後輪の同一の車輪駆動部に接続されていてもよく、または車両の大きさ等の制約により前輪と後輪に別々に接続されていてもよい。さらには、電動機が全ての車輪に各々接続され、全輪が駆動する車両構造であってもよい。またさらには、タービン型空気エンジンの代わりに、ロータリー型空気エンジンを空気エンジンとして使用することができる。
【0048】
<実施形態>
以下、好適な実施形態について図面に基づきさらに詳しく説明する。
【0049】
図1には、本発明の好適な一実施形態に係る圧縮空気および電気エネルギーを駆動動力源とするハイブリッド自動車(以降、圧縮空気・電気ハイブリッド車と称する)の構成の概略が総括的に示されている。なお、図1〜5では電動機が第2発電機を兼ねる場合を表している。
【0050】
本発明の圧縮空気・電気ハイブリッド車は、タービン型空気エンジン2、および電動機(第2発電機)6(以降、電動機として働くときは電動機6と、発電機として働くときは第2発電機6と称する)を動力発生装置としている。すなわち、タービン型空気エンジン2、もしくは電動機6、またはタービン型空気エンジン2および電動機6の両者が作動されると、その発生動力は車輪駆動部8を介して駆動輪9に伝達され、車輪が駆動される。電動機の例としては、例えば三相交流誘導モーターを挙げることができる。
【0051】
また、電動機6を作動させる電気エネルギー源として、第1発電機4等から発生する電気エネルギーを貯蔵する蓄電部7が搭載されている。第1発電機4および第2発電機6から発生する電気エネルギーはインバータ5を介して蓄電部7に蓄電される。また、電動機6には、蓄電部7からインバータ5を介して電気エネルギーが供給される。このときの蓄放電は、車両の走行状態および運転モードに応じて制御手段14により自動制御され、運転者からのパワー要求の満足とエネルギー効率の向上が図られる。
【0052】
本実施形態では、第1圧縮空気貯蔵部1には30MPaの圧力で圧縮空気が充填されている。
【0053】
第1圧縮空気貯蔵部1からの圧縮空気の供給量を調整する圧縮空気供給装置(本実施形態では電磁弁)を、補助バッテリー13を電源とする制御手段14によって作動させ、供給される圧縮空気によりタービン型空気エンジン2を作動させて動力を得る。
【0054】
タービン型空気エンジン2から発生する動力は第1動力分割部3によって、車輪駆動部8へ伝達される動力と、蓄電のために第1発電機4を作動させる動力とに分割される。該動力分割の判断は、走行状態および運転モード等に応じて制御手段14により自動制御される。なお、本実施形態では第1動力分割部3としてプラネタリーギアを使用する機構を用いている。
【0055】
次に、エネルギー回生について説明する。図中の白の矢印は、回生エネルギーの回収から貯蔵部へ至る流れを示している。回生エネルギーの実際のエネルギー形態は、第2発電機6、空気圧縮部11またはその両者を作動させる動力であり、次に、その動力が第2発電機6から発生する電気エネルギー、および空気圧縮部11で生成される圧縮空気の持つエネルギーに変換される。すなわち、回生エネルギーは該電気エネルギーおよび圧縮空気として貯蔵される。
【0056】
エネルギー回生の第1は、排気空気からの回生である。すなわち、第1圧縮空気貯蔵部1から供給される圧縮空気は、タービン型空気エンジン2を作動させることにより消費されるが、そのときの排気空気は空気圧縮部11に送られる。この場合、空気圧縮部11は蓄電部7または補助バッテリー13から供給される電気エネルギーによる作動を基本とする。しかし、車両が減速時および制動時等にある場合は、空気圧縮部11は、動力として第2動力分割部10から供給される回生エネルギーにても作動する。
【0057】
空気圧縮部11の働きにより、前記排気空気は圧縮されて第2圧縮空気貯蔵部12に充填貯蔵される。第2圧縮空気貯蔵部12に充填された圧縮空気は、補助バッテリー13を電源とする制御手段14による圧縮空気供給装置(本実施形態では電磁弁)の働きによって、タービン型空気エンジン2の作動用圧縮空気として再利用される。
【0058】
エネルギー回生の第2は、減速時および制動時等における車両の運動エネルギーの回生(回収)である。その第1は、該運動エネルギー(回生エネルギー)を動力源として第2発電機6を作動させて電気エネルギーとして回収する。いわゆる回生ブレーキである。第2は、前述したように、第2動力分割部10を介して該運動エネルギーを動力源として空気圧縮部11を作動させることにより、圧縮空気を生成させ、該圧縮空気として回収して第2圧縮空気貯蔵部12に貯蔵する。この場合、空気圧縮部11において回生ブレーキが働く。
【0059】
このとき、前記排気空気だけでなく、外気からも空気を取り入れて圧縮空気を生成する。さらに、ブレーキ作動時に得られる熱エネルギーを利用して第2圧縮空気貯蔵部12の空気予熱を行い、充填圧力を増大させ得る。
【0060】
制御手段14は、運転モード、走行状態および運転者からの指令を感知および判断して動作する。例えば、制御手段14は、タービン型空気エンジン2、電動機および第2発電機6、ならびに第1発電機4等の始動および停止の制御を行う。さらに、制御手段14は、第1動力分割部3および第2動力分割部10における動力分割の割合を走行状態等に従って、エネルギー効率が最適になるように原則自動制御する。またさらに、制御手段14は、回生エネルギーを電気エネルギーとして回収するか、圧縮空気として回収するか、またはその両者として回収するかを、蓄電部7の蓄電状況等を判断して制御する。ただし、運転者からの指令がある場合は、エネルギー効率よりも当該指令を優先する場合もあり得る。
【0061】
以下に各運転モードに応じた各構成部の動作について説明する。
【0062】
<発進時>
発進時の各構成部の動作の例について図2に示す。発進時には第1圧縮空気貯蔵部1から供給される圧縮空気により、タービン型空気エンジン2を作動させることによって動力を発生させる。そして、基本的に該動力の全てが車輪駆動部8に伝達されて車両の駆動力に供される。また、排気空気からのエネルギー回生も行う(以降、タービン型空気エンジン2を作動させる場合は同様である)。なお、図2では第2圧縮空気貯蔵部12からは圧縮空気が供給されない場合を示しているが、前述したように第2圧縮空気貯蔵部12から圧縮空気が供給されてもよい(後述の図4、5においても同様)。
【0063】
しかし、いずれにしろ前述したように、タービン型空気エンジン2のみでは発進動力としては不十分なので、すでに蓄電部7に蓄電されている電気エネルギーを電動機6に供給して、該電動機6から発生する動力も車輪駆動部8に伝達されて車両の駆動力に供される。これによって十分な発進動力を得ることができる。
【0064】
このとき、運転者のアクセルペダル操作等によって、要求される発進力(発進加速度)の強弱を感知し、制御手段14は圧縮空気の流量と蓄電部7からの電気エネルギー供給量とのバランスを最適にコントロールする。例えば、緩やかな発進指令のときは、制御手段14はエネルギー効率を優先して、電気エネルギーによる電動機6のみでの発進を指令し、一方、フルスロットルの発進指令のときには、圧縮空気と電気エネルギーの組み合わせを最大パワーが得られるようにコントロールする。図3に電気エネルギーによる電動機6のみでの発進の場合の例を示す。
【0065】
<加速時および上り坂走行時>
この場合は基本的には発進時と同様に、タービン型空気エンジン2から得られる動力と電動機6から得られる動力との両者によって車両を駆動する(図2)。このときもやはり、加速指令の強度や上り坂の勾配の程度などを判断して、制御手段14は圧縮空気の流量と蓄電部7からの電気エネルギー供給量とのバランスを最適にコントロールする。これによって、圧縮空気自動車のパワー不足という欠点を改善することができる。
【0066】
<定速走行時>
平坦道での定速走行時の各構成部の動作の例について図4に示す。平坦道での定速走行時においては、基本的にはタービン型空気エンジン2のみを作動させ、これによる動力のみで走行する。市街地等での走行時のように速度がそれほど速くない場合には、駆動動力は少なくて済むので、発生した動力の一部を第1動力分割部3で分割して第1発電機4を作動させ、発生した電気エネルギーを蓄電部7に蓄電する。
【0067】
一方、定速走行であっても高速道での走行のような場合には、電動機6も作動させ、タービン型空気エンジン2から得られる動力と電動機6から得られる動力との両者によって車両を駆動する。
【0068】
<減速時および制動時>
減速時および制動時の各構成部の動作の例について図5に示す。減速時および制動時には車輪駆動部8と接続している第2発電機6を、車輪側から伝達される運動エネルギーで作動させることによって、第2発電機6の回転による抵抗を生みつつ(回生ブレーキ)誘導電力を発生させ、蓄電部7に充電する。
【0069】
また、第2動力分割部10により回生エネルギーを動力として空気圧縮部(ピストン型圧縮機)11に伝達して作動させる。そして、該圧縮機11のクランクの慣性回転を利用して回生エネルギーを圧縮空気に変換し、第2圧縮空気貯蔵部12に充填貯蔵する。さらに、ブレーキ動作によって生じる熱エネルギーで第2圧縮空気貯蔵部12の空気予熱を行い、圧縮空気の貯蔵量の増大を図る。
【0070】
図5ではタービン型空気エンジン2を作動させた状態での減速時および制動時の状態を示しているが、該タービン型空気エンジン2は停止していてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1・・・第1圧縮空気貯蔵部、2・・・タービン型空気エンジン、3・・・第1動力分割部、 4・・・第1発電機、5・・・インバータ、6・・・電動機および第2発電機、7・・・蓄電部、8,8a,8b・・・車輪駆動部、9,9a,9b・・・車輪(駆動輪)、10・・・第2動力分割部、11・・・空気圧縮部、12・・・第2圧縮空気貯蔵部、13・・・補助バッテリー、14・・・制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮空気および電気エネルギーが駆動動力源であるハイブリッド車両であって、
(a)圧縮空気を貯蔵する第1圧縮空気貯蔵部と、
(b)該第1圧縮空気貯蔵部から供給される圧縮空気によって動力を発生するタービン型空気エンジンと、
(c)該動力を分割する第1動力分割部と、
(d)該第1動力分割部に接続される第1発電機と、
(e)前記第1動力分割部を介して前記タービン型空気エンジンに接続される車輪駆動部と、
(f)該車輪駆動部に接続される電動機および第2発電機と、
(g)前記第1および第2発電機で発生する電気エネルギーを貯蔵する蓄電部と、
(h)前記タービン型空気エンジンに接続される空気圧縮部と、
(i)該空気圧縮部に接続される第2圧縮空気貯蔵部と、
(j)前記車輪駆動部、前記第2発電機および前記空気圧縮部に接続される第2動力分割部と、を備え、
回生エネルギーで前記第2発電機を作動させて前記蓄電部に電気エネルギー(化学エネルギーを含む)として、もしくは前記空気圧縮部を作動させて前記第2圧縮空気貯蔵部に圧縮空気として、または前記第2動力分割部を使用して、電気エネルギー(化学エネルギーを含む)および圧縮空気の両者として前記蓄電部ならびに前記第2圧縮空気貯蔵部の両部に、回生エネルギーを貯蔵する、
圧縮空気および電気エネルギーを駆動動力源とするハイブリッド車両。
【請求項2】
前記空気圧縮部はピストン型圧縮機である、
請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項3】
前記タービン型空気エンジンおよび前記電動機から前記車輪駆動部に伝達される、圧縮空気由来の駆動力と電気エネルギー由来の駆動力との配分を制御する制御手段を備える、
請求項1または2に記載のハイブリッド車両。
【請求項4】
前記制御手段は、前記回生エネルギーを前記蓄電部に電気エネルギー(化学エネルギーを含む)として貯蔵する配分と、前記第2圧縮空気貯蔵部に圧縮空気として貯蔵する配分と、についても制御する、
請求項3に記載のハイブリッド車両。
【請求項5】
二つの車輪駆動部を有し、前記タービン型空気エンジンおよび前記電動機は、それぞれ異なる車輪駆動部に接続される、
請求項1または2に記載のハイブリッド車両。
【請求項6】
二つの車輪駆動部を有し、前記タービン型空気エンジンおよび前記電動機は、それぞれ異なる車輪駆動部に接続される、
請求項4に記載のハイブリッド車両。
【請求項7】
前記電動機および前記第2発電機は一つの装置、すなわち前記電動機は前記第2発電機を兼ねるものである、
請求項4に記載のハイブリッド車両。
【請求項8】
前記電動機および前記第2発電機は一つの装置、すなわち前記電動機は前記第2発電機を兼ねるものである、
請求項6に記載のハイブリッド車両。
【請求項9】
発進時、加速時、および上り坂走行時には、前記タービン型空気エンジンおよび前記電動機を作動させて、この両者の駆動力によって前記車輪駆動部を駆動させるように前記制御手段が制御する、
請求項7に記載のハイブリッド車両。
【請求項10】
発進時、加速時、および上り坂走行時には、前記タービン型空気エンジンおよび前記電動機を作動させて、この両者の駆動力によって前記車輪駆動部を駆動させるように前記制御手段が制御する、
請求項8に記載のハイブリッド車両。
【請求項11】
定速走行時には、前記タービン型空気エンジンのみを作動させて、その駆動力によって前記車輪駆動部を駆動させるように、前記制御手段が制御する、
請求項7に記載のハイブリッド車両。
【請求項12】
定速走行時には、前記タービン型空気エンジンのみを作動させて、その駆動力によって前記車輪駆動部を駆動させるように、前記制御手段が制御する、
請求項8に記載のハイブリッド車両。
【請求項13】
減速時および/または制動時には、発生する回生エネルギーで前記第2発電機を作動させて前記蓄電部に電気エネルギー(化学エネルギーを含む)として、もしくは前記空気圧縮部を作動させて前記第2圧縮空気貯蔵部に圧縮空気として、または前記第2動力分割部を使用して、電気エネルギー(化学エネルギーを含む)および圧縮空気の両者として前記蓄電部ならびに前記第2圧縮空気貯蔵部の両部に、回生エネルギーを貯蔵するように前記制御手段が制御する、
請求項7に記載のハイブリッド車両。
【請求項14】
減速時および/または制動時には、発生する回生エネルギーで前記第2発電機を作動させて前記蓄電部に電気エネルギー(化学エネルギーを含む)として、もしくは前記空気圧縮部を作動させて前記第2圧縮空気貯蔵部に圧縮空気として、または前記第2動力分割部を使用して、電気エネルギー(化学エネルギーを含む)および圧縮空気の両者として前記蓄電部ならびに前記第2圧縮空気貯蔵部の両部に、回生エネルギーを貯蔵するように前記制御手段が制御する、
請求項8に記載のハイブリッド車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−501264(P2012−501264A)
【公表日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−509329(P2011−509329)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【国際出願番号】PCT/JP2009/065287
【国際公開番号】WO2010/024455
【国際公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】