説明

ハタ類イリドウイルスの抗原性ペプチド及びその使用

【課題】イリドウイルス感染を検出する方法及びイリドウイルス治療薬を提供する。
【解決手段】ハタ類イリドウイルスのカプシドタンパク質から単離され抗原活性を有するポリペプチドを単離し、該ポリペプチドに対する抗体を作製して、免疫測定法によりイリドウイルスを検出することからなる。また、イリドウイルスの検出のためのキット、及び抗原性ペプチド並びに抗体を含むイリドウイルスの感染を処置または予防するための医薬組成物からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、免疫学の分野及び疾病の検出に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ハタ類(Grouper:グルーパー,ハタ科の魚)は、アジア太平洋地域の最も重要で経済的な魚類としてよく知られており、台湾の水産養殖産業に多額の経済的価値をもたらした。年間生産価値は2〜5億新台湾ドル(NTD)にまで達する可能性があり、世界的な市場占有率は42%にまで、生産量は12.367メートルトンにまで達すると推定されており、生産価値及び生産占有率は世界一である。しかし、稚魚及び幼魚は屋内で集約的に養殖されていることから、この魚には深刻な感染症が発生している。台湾で養殖ハタ類の感染症を引き起こしているウイルスは、神経壊死症ウイルス及びイリドウイルスであり、これらは稚魚が大量死するという事実をしばしばもたらし、台湾の養殖産業を大いに脅かしている。
【0003】
イリドウイルスは、120〜300nmのサイズを有する20面体の2本鎖DNAウイルスである。このウイルスは20を超える種の魚類で感染を引き起こす可能性があり、ハタ類の稚魚の感染率は60%を超えることが、ここ数年の間に実証されている。イリドウイルス科(Iridoviridae)には、5つの属、即ち、イリドウイルス(Iridovirus)、クロルイリドウイルス(Chlorirdovirus)、ラナウイルス(Ranavirus)、リンホシスティウイルス(Lymphocystivirus)、そして2003年に同定されたばかりのメガロシティウイルス(Megalocystivirus)の5つの属が含まれる。これらの中で、ラナウイルスとメガロシティウイルスが台湾で生息が確認されており、いずれも高い発病率と死亡率を引き起こしている。
【0004】
現在のイリドウイルスの検出方法は、主に、時間と材料が多くかかり、操作すべき実験装置類を必要とするポリメラーゼ連鎖反応に基づいて確立されている。漁業者にとって、これは非常に不便で費用がかかる。従って、感染を裸眼だけで確認できる携帯型の高速検出キットの開発が必要とされている。このようなキットは、疾病の発生を容易に確認できることで、感染した稚魚を購入することによる養殖業者の経済的損失を低減できるだけでなく、各国での検疫の必要性及び輸出貿易の競争に起因して、市場における高い産業上の適用可能性も備えている。
【発明の概要】
【0005】
発明の概要
本発明は、イリドウイルスの抗原決定領域の1つである新規のアミノ酸配列を特徴とし、前記抗原決定領域に従って産生されたモノクローナル又はポリクローナル抗体を提供する。前記抗体は更に、従来技術で使用される複雑な細胞培養段階やウイルス単離段階の欠点を克服し、水生動物におけるイリドウイルスの感染を高速且つ経済的な方法で検出することができる、種々の検出法及び高速検出ストリップを含むキットで使用される。
【0006】
従って、本発明の一態様は、イリドウイルスのカプシドタンパク質から単離され、抗原活性を有する、配列番号13のアミノ酸配列からなるポリペプチドに関する。
【0007】
本発明の別の態様は、上述のポリペプチドを含む組成物に関する。
【0008】
本発明の別の態様は、上述のポリペプチドを使用して産生された抗体、及び前記抗体を産生する方法に関する。
【0009】
本発明の別の態様は、上述の抗体の少なくとも1つを使用してイリドウイルスの感染を検出する方法に関する。
【0010】
本発明の更に別の態様は、イリドウイルスの感染を検出するためのキットであって、(1)固体支持体と、(2)前記固体支持体に付着された上述の抗体の少なくとも1つと、(3)イリドウイルス又はそのタンパク質断片と上述の抗体とを、信号を発生するように作用的に結合させる信号発生手段と、(4)関連する試薬及び界面活性剤と、を含むキットに関する。
【0011】
本発明の更に別の態様は、上述の抗体の少なくとも1つを含む組成物に関する。
【0012】
本発明の更に別の態様は、イリドウイルスの感染を処置又は予防するための医薬組成物であって、医薬的に許容される担体と共に、上述の抗体の少なくとも1つを含む、医薬組成物に関する。
【0013】
本発明の更に別の態様は、上述の抗体の少なくとも1つを含む飼料添加物に関する。
【0014】
前述の概要、ならびに以下の本発明の詳細な説明は、添付の図面と併せて読むとより良く理解されるであろう。本発明を例示する目的で、図面には現在の好ましい実施形態を示している。しかし、本発明は、図に示された正確な配置及び手段に限定されないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明のモノクローナル抗体を使用した間接蛍光免疫測定の結果を示す図である。「M1」、「M2」及び「M3」という記号は、それぞれ異なる実験番号を付けたモノクローナル抗体を指し、「C−」は陰性対照を指す。
【図2】図2は、本発明のモノクローナル抗体を使用したウェスタンブロットの結果を示す図である。図2A、図2B、図2Cは、それぞれ1:250、1:2000、1:5000に希釈した抗体の結果を示している。「M」の記号は、標準タンパク質分子量マーカー(KDa)を指す。レーン1及びレーン2は、イリドウイルスのウイルス粒子を指し、レーン3はマウス組織試料を指し、レーン4はハタ類の試料を指す。
【図3】図3は、本発明のモノクローナル抗体を使用した免疫ブロットの結果を示す図である。実線四角内の60個のドットは、遺伝子型に基づいてラナウイルスに属する60株を指し、破線四角内の20個のドットは、遺伝子型に基づいてメガロシティウイルスに属する20株を指す。「C+」の記号は、陽性対照としてのラナウイルスの遺伝子型のウイルス試料を指し、最初のウェルはl05.8TCID50/mLのウイルス力価を指し、それに続く各ウェルは最初のウェルのウイルス力価からの10倍連続希釈系列を指す。「C−」の記号は、陰性対照としてのハタ類の試料を指す。
【図4】図4は、同じ保存配列を有するラナウイルス及びメガロシティウイルスのカプシドタンパク質のアミノ酸断片に基づいて合成した11個のポリペプチドの免疫ブロットの結果を示す図である。
【図5A】図5Aは、本発明の高速検出ストリップの構造を示す図である。
【図5B】図5Bは、高速検出ストリップに示された結果の判定方法を説明する図である。
【図6A】図6Aは、本発明の高速検出ストリップを使用した結果を示す図であり、1〜6番はそれぞれ109TC1D50/mL、108TC1D50/mL、107TC1D50/mL、106TC1D50/mL、105TC1D50/mL、104TC1D50/mLのウイルス力価を指し、7番は陰性試料を指す。
【図6B】図6Bは、ウイルス力価と、高速スキャン装置による図5Aの結果に示された反応線との間の関係を示す図である。
【図7】図7は、本発明の高速検出ストリップを使用した4種類の異なる試料の結果を示す図であり、1〜4番はそれぞれ、力価が108TCID50/mLのイリドウイルス、リンホシスティウイルス、陰性の魚乳剤、神経壊死症ウイルスを指す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な説明
本発明は、イリドウイルスのカプシドタンパク質から単離され、抗原活性を有する、配列番号13のアミノ酸配列を有するポリペプチド、ならびにその構造的及び機能的な変異体を提供する。「構造的及び機能的な変異体」という用語は、配列番号13のアミノ酸配列との80%を超える類似性を有し、抗原活性を保持するポリペプチドを指す。この変異体は、配列番号13の突然変異、例えば抗原活性に影響を及ぼさない位置の突然変異に由来してよい。配列番号13には13個のアミノ酸残基しかないため、当業者であれば、抗原活性に関連するアミノ酸位置と関連しない位置とを容易に決定することができ、当該技術分野で既知の技法、例えば部位特異的突然変異誘発法を使用して本発明の変異体を作製することができる。更に、ポリペプチドの抗原活性に影響を及ぼすことなく類似の化学的特性を有するアミノ酸置換基が使用されてもよい。配列番号13の構造的な変異体はいずれも、抗原活性を保持すると予想される。この変異体の活性は、後述の実施例4に記載の方法により決定することができる。
【0017】
本発明のポリペプチドは、イリドウイルスのカプシドタンパク質から単離及び精製することもできれば、核酸組み換え法又は化学合成法により得ることもできる。
【0018】
抗原活性により、本発明のポリペプチドは、動物飼料と共に動物に経口投与できる組成物に含めることができ、これにより動物の体内にイリドウイルスに対する抗体を産生し、治療的及び予防的効果を達成することができる。このような組成物はまた、イリドウイルスワクチンと組み合わせて使用することもできる。この組成物の経口投与及び注射のいずれによっても、イリドウイルスに対する抗体の産生を誘導することができ、それによってワクチンの効果を向上させることができる。当業者であれば、本明細書の開示内容に基づき、本発明の組成物の処方を容易に完成することができる。
【0019】
「抗体」という用語は、動物の血液又は体液に存在し、細菌、ウイルス又は特殊な構造を有する分子などの外部物質を認識してその後の免疫応答を引き起こすことを機能とする免疫グロブリンを指す。更に、抗体は、抗原性分子を中和し、食細胞を活性化し、認識された物質を消化する能力を有する。抗体は主にB細胞により産生される。一旦B細胞が特定の抗原を認識すると、そのB細胞はその抗原に特異的な抗体を産生する形質細胞に分化する。上述の通り、本発明のポリペプチドを含む組成物は、B細胞を活性化させる能力を特徴とし、そのためモノクローナル又はポリクローナル抗体を調製するために使用することができる。ポリクローナル抗体は、例えば、本発明の組成物及びアジュバントを動物の体内に注射し、一定期間の経過後にその動物から血液を採取し、更に精製を行うことによって調製することができる。モノクローナル抗体は、上述の免疫した動物から脾臓細胞を更に単離し、その脾臓細胞を骨髄腫細胞とハイブリダイズさせてモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞株を産生することにより調製することができる。当業者であれば、過度の実験を行うことなく、本発明のポリペプチドを含む組成物を使用してモノクローナル又はポリクローナル抗体を調製する方法を完成することができる。
【0020】
本発明に開示するポリペプチドによるモノクローナル又はポリクローナル抗体は、ラナウイルス及びメガロシティウイルスのいずれのイリドウイルスの属も検出することができる。国内領域で優位を占めるイリドウイルスは、その遺伝子型に基づき、GIV局在株(ラナウイルス)、RSIV様の日本近似株(メガロシティウイルス)、及びISKNV様株(メガロシティウイルス)を含む3つの株に分類することができる。従って、本発明は、本発明のポリペプチドを使用して得られるモノクローナル又はポリクローナル抗体で、イリドウイルスの感染を検出する方法を提供する。後述の実施例5によると、本発明の方法では、26株のラナウイルス及び8株のメガロシティウイルスを含む広範なラナウイルス及びメガロシティウイルスを検出することができる。
【0021】
本発明の検出方法は、固相免疫クロマトグラフィー法、間接免疫蛍光染色法、及び酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)などの、抗体を使用した種々の従来の免疫測定法に適用することができる。更に、従来の検出法で必要とされるような実験機器の使用を避けるため、本発明の抗体は、高速検出ストリップと組み合わせて使用される。このストリップによれば、結果は、流体試料がそれにロードされた後に、裸眼で確認される。
【0022】
従って、本発明は更に、イリドウイルスを検出するためのキットであって、(1)固体支持体と、(2)その固体支持体に付着(結合)された上述のような少なくとも1つの抗体と、(3)イリドウイルス又はそのタンパク質断片と前記抗体とを、信号を発生するように作用的(機能的)に結合させる信号発生手段と、(4)関連する試薬(群)及び界面活性剤(群)と、を含むキットを提供する。
【0023】
「固体支持体」という用語は、反応物をロード(装填)するための固体の手段を指す。固体支持体は、反応プレート、マイクロビーズ、ハイブリダイゼーション用の膜又はテストストリップであってよい。本発明のキットは、直接又は間接免疫測定法に基づき使用することができる。直接免疫測定法でも間接免疫測定法でも、抗体がその抗原を認識すると、信号発生手段は、検出を行う者によって確認され得る発色又は蛍光により陽性信号を発現することができ、被験試料が感染していることを示す。信号発生手段は、ハイパーオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、ビオチン又は蛍光標識であってよい。
【0024】
実施例7は、本発明による高速検出ストリップの一例である。高速検出ストリップのカセットは、台湾・ユニゾン・バイオテク・インコーポレイテッド(Taiwan Unison Biotech Inc.)により開発及び提供された。このカセットに関しては、2件の台湾特許、即ち、第M303000号及び第M3l5830号がある。本発明のモノクローナル抗体は、適切な濃度でコロイド金に固定化され、ガラス繊維上に噴霧された後、台湾特許第M303000号及び第M3l5830号に開示された方法に従い他の構成要素と共に組み立てられる。組み立てられた高速検出ストリップを図5Aに示す。当業者であれば、必要に応じてストリップの構造を設計し、本明細書の開示内容に基づき本発明の抗体を使用してイリドウイルスの検出を行うことができる。
【0025】
本発明の抗体のin vivo抗ウイルス活性は感受性及び特異性が高いため、この抗体は、イリドウイルスの感染の予防及び処置に使用するための医薬組成物における活性成分として使用することができる。
【0026】
従って、本発明は、イリドウイルスの感染を処置又は予防するための医薬組成物であって、上述の少なくとも1つの抗体及び医薬的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0027】
この医薬組成物は、当該技術分野で既知の方法に従って1つ以上の医薬的に許容される担体を用いて処方することができる。「医薬的に許容される担体」という用語は、任意の標準的な医薬担体を指す。このような担体には、生理食塩水、緩衝食塩水、ブドウ糖、水、グリセロール、エタノール及びこれらの組み合わせが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0028】
本発明の医薬組成物は、選択された投与様式に好適ないずれの形態にも構成することができる。例えば、口径投与に好適な組成物には、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、錠剤、及び粉剤などの固体形態と、溶液、シロップ剤、エリキシル剤、及び懸濁液などの液体形態とが含まれる。非経口投与に有用な形態には、無菌溶液、乳剤、及び懸濁液が含まれる。
【0029】
標準的な担体に加えて、界面活性剤、可溶化剤、安定剤、乳化剤、増粘剤、着色剤、甘味剤、香料添加剤、及び保存料などの、経口製剤で通常使用される1つ以上の賦形剤を本発明の経口医薬組成物に補うことができる。このような賦形剤は当業者に周知である。
【0030】
経口投与に加えて、この医薬組成物は、水生動物が生息する水域環境に固体又は液体の形態で添加して、水中に生息するイリドウイルスを中和することができ、これにより水生動物のイリドウイルスによる感染率を低下させることができる。
【0031】
医薬組成物に加えて、本発明の抗体は、動物に経口投与するために動物飼料に添加することができる飼料添加物として使用することができる。
【0032】
本発明の方法に従うポリペプチド又は抗体の投与量は、処置されるべき動物の大きさ、年齢及び状態に基づいて養殖業者又は専門家が決定することができる。
【0033】
本発明を以下の実施例で詳細に例示するが、これらの実施例は限定ではなく実証を目的として提供されるものである。
【0034】
実施例
実施例1:試料収集及び分析
ここで使用した試料は、2001年から2006年の間に南台湾の海水魚及び淡水魚の孵化場から収集した。収集した試料は、イリドウイルスの感染を確かめるために、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により更に確認した。先ず、腎臓をすりつぶし、QlAamp DNA(登録商標)ミニキット(QIAGN、ドイツ)によりDNAの精製を行った。次に、収集したDNAをPCRにより増幅した。
【0035】
5μgの収集したDNAの増幅は、0.5μLのTaqDNAポリメラーゼ(5ユニット/μL;ギブコBRL(GibcoBRL)(登録商標)、米国メリーランド州ゲーサーズバーグ)、5μLの10倍PCR緩衝液(200mM Tris−HCl pH8.4、500mM KCl、及び1% Triton x−100)、1.5μLの24mM MgCl2、1μLの10mM dNTP(アマシャム・ファルマシア(Amersham Pharmacia)、米国ニュージャージー州ピスカタウェイ)、及び2.5μLの10mM プライマーを有する50μLの最終容量にて行った。ここで使用したプライマーの配列を表1に列挙した。反応は、MJサーマルサイクラー(MJリサーチ・インコーポレイテッド(MJ Research INC)、米国)で、以下の条件を使用して行った:94℃にて2分間の最初の変性;94℃にて2分間の変性、1分間のアニーリング(GIV:54℃、RSIV:58℃、ISKNV:47℃)、72℃にて1分間の伸長のサイクルを40回;72℃にて10分間。反応生成物を使用して2%アガロースゲルによる電気泳動を行い、エチジウムブロマイドで染色して試料が感染しているかどうかを観察した。PCRの結果によると、17種の魚に属する合計159個の試料がイリドウイルスに感染していることが確認された。結果を表2に示した。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
実施例2:ウイルスの増幅
海水魚からの試料をすりつぶし、10倍ライボビッツL−15培地に浸漬した。0.45μmの膜でろ過した後、0.5mLのろ液を使用してマハタ属の腎臓及び胚細胞株(7GK、自己生成)とE11細胞株(自己生成)とを感染させ、ウイルスを増幅した。細胞をろ液と共に1時間インキュベートし、次いで2%ウシ胎仔血清(FBS)を含有するライボビッツL−15培地中で25℃にて培養した。細胞変性効果を毎日観察し、感染力価をリード・メンチ法(Reed and Muench Methods)(1938)により決定した。
【0039】
実施例3:ウイルスの精製
3度の凍結及び再凍結に引き続き、増幅したウイルスを12000xg、4℃にて20分間遠心分離にかけ、沈殿物及び最初の上清をそれぞれ収集した。沈殿物をTN緩衝液(50mM Tris−HCl、150mM NaCl、pH7.5)に溶解し、超音波処理器によって破砕した。破砕した細胞を4000xg、4℃にて20分間遠心分離にかけた。その上清と最初の上清とを混合し、混合物を更に10000xg、4℃にて8時間遠心分離にかけた。沈降物を15%〜60%のスクロース勾配にロードし、4℃にて1時間、高速の遠心分離にかけて、ウイルスの沈降線を得た。注射針を使用してこの線上の溶液を吸引し、次いでこの吸引した溶液をTN緩衝液に溶解した。100000xgにて2時間の遠心分離の後、沈殿物をTN緩衝液に溶解し、ウイルス濃度を測定する試験を行った。
【0040】
実施例4:モノクローナル及びポリクローナル抗体の産生及び単離
フロインド完全アジュバントと混合した、実施例3で得た0.1mg/mL又は0.5mg/mLの精製ウイルスにより、ニュージーランド白ウサギを免疫した。2週間毎に、このウサギを、フロインド不完全アジュバントと混合した同濃度のウイルスで追加免疫した。4回追加免疫を行った後、ウサギの耳静脈から血液を採取し、更にポリクローナル抗体の単離に供した。モノクローナル抗体は、Balb/cマウスにハイブリドーマ細胞を注射し、腹水を収集することによって産生した。
【0041】
ポリクローナル及びモノクローナル抗体は、ウサギの血清及びマウスの腹水からAffi−gel(登録商標)プロテインAにより単離した。最初に、適切な容量のAffi−gel(登録商標)プロテインAゲルをカラムに装填し、結合緩衝液A(1.5M グリシン/NaOH緩衝液、3M NaCl、pH2.5)により平衡化した。試料を結合緩衝液Aと混合し、その後0.5mL/分の流速でカラムにロードした。カラムを結合緩衝液Aにより洗浄した後、溶出緩衝液(0.1M クエン酸ナトリウム緩衝液、pH9)をカラムにロードして、IgG抗体を溶出させた。
【0042】
実施例5:抗体活性の特徴付け及び試験
間接免疫蛍光測定法(IFA)
7GK細胞株に107TCID50/mLのウイルス溶液を25℃にて1時間接種し、次いで2%のFBSを含有するL−15培地を添加した。接種から48時間後に、80%のアセトンで15分間細胞を固定し、その後実施例4で単離したモノクローナル抗体(M1、M2及びM3と表記)の1000倍希釈液を、1倍PBSでの3回の洗浄に続いて細胞に添加した。その細胞を1倍PBSにより3回洗浄し、その後二次抗体としてヤギ抗マウスFITC標識抗体の1000倍希釈液を添加した。結果は、倒立蛍光顕微鏡(ツァイス・アキシオベルト135(Zeiss, Axiovert 135))で観察し、図1に示した。
【0043】
図1に示す通り、3つのモノクローナル抗体(M1、M2及びM3)のすべてが、細胞核内及び血漿内の両方におけるウイルスの存在を検出し、陰性対照としてのC−群では信号が観察されなかった。従って、本発明のモノクローナル抗体が、IFAにおいて有用であり、ウイルスを認識する活性を有することが確認された。
【0044】
ウェスタンブロット
単離したウイルス粒子を4〜12%のSDSゲルで分析し、異なるサイズのウイルスタンパク質ごとに分離した。ウェスタンブロット分析のために、ウイルスタンパク質をゲルからニトロセルロース膜に転写し、ブロッキングした膜を本発明に従う希釈抗体溶液(1:250、1:2000、1:5000)、ヤギ抗マウス西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)標識IgG(1:1000)、及び3,3’−ジアミノベンジジン(DAB)基質で順次インキュベートし、X線フィルムをブロットに曝露させた。図2A、図2B、図2Cは、それぞれ1:250、1:2000、1:2500に希釈した抗体の結果を示している。「M」は標準タンパク質分子マーカー(kDa)である。レーン1及びレーン2はイリドウイルス粒子の試料であり、レーン3はマウスからの組織であり、レーン4はマハタ属の試料である。
【0045】
図2A〜Cに示す通り、58kDaのタンパク質が1:2000及び1:2500に希釈した抗体の下で出現した。従って、本発明の抗体は、イリドウイルスの58kDaのタンパク質を認識することが証明された。このタンパク質の配列を、マトリックス・サイエンス・インコーポレイテッド(Matrix Science Inc.)(英国)により開発されたMascotデータベースと比較し、イリドウイルスの主要なカプシドタンパク質であると特徴付けた。
【0046】
ドットブロット試験
0.2μmのニトロセルロース膜を再蒸留水で2分間すすぎ、その後Bio−Dotカセット内に配置した。各ウェルに、100μLのラナウイルス遺伝子型60株(実線、―)、メガロシティウイルス(Megalocytivirus)遺伝子型20株(破線、‐‐‐)、マハタ属の陰性試料(C−)、及びマハタ属の陽性試料(C+)をそれぞれロードした。37℃にて1時間2%のウシ血清アルブミン(BSA)でブロッキングした後、ブロッキングした膜を、37℃にて1時間本発明の希釈したモノクローナル抗体で順次インキュベートし、1倍PPBT(0.05%(v/v)のTween 20を含有するPBS)で3回洗浄し、ヤギ抗マウス西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)標識IgG(1:1000)及びDAB基質と反応させて、陽性ブロットを褐色に呈させた。
【0047】
図3に示す通り、モノクローナル抗体は、26株のラナウイルス遺伝子型及び8株のメガロシティウイルス遺伝子型を検出した。従って、本発明の抗体は広範なイリドウイルスを検出することが証明された。一点鎖線(‐・‐)の四角部分においては、C+をラナウイルスの遺伝子型のウイルス溶液と共にロードし、最初のウェルにはl05.8TCID50/mLのウイルスをロードし、2番目〜6番目のウェルには10倍連続希釈したものをロードした。図3に示す通り、本発明の抗体は、103.8TClD50/mLの力価でのウイルスの検出に成功した。陰性対照群(C−)では信号は認められなかった。
【0048】
実施例6:本発明の抗体により認識されるエピトープ配列の知見
ラナウイルス及びメガロシティウイルスの主要なカプシドタンパク質の保存ドメインを11個のペプチドに切断し、それらの配列を表3に列挙した。次いで、これらの11個のペプチドを使用して、既述の通りにドットブロットを行った。レーン1〜3はそれぞれ1mg/mL、0.1mg/mL、及び0.01mg/mLのペプチドを指す。「C−」は陰性対照群を指し、「v1」(ラナウイルス株)及び「v2」(メガロシティウイルス株)は陽性ウイルス試料を指す。結果は図4に示した。
【0049】
図4に示す通り、P7番は陽性信号(褐色ドット)を示すため、配列PIKSASLTYENTTRLAN(配列番号13)が、本発明の抗体により認識されるエピトープ部位であることが示された。又、本発明が、イリドウイルスのエピトープである新規のペプチドを開示していることも示唆された。更に、v1及びv2もまた陽性信号を有するため、ラナウイルス及びメガロシティウイルスの両方がこの新規のエピトープを有することも示唆された。従って、本発明の抗体は、ラナウイルス及びメガロシティウイルスの存在を検出することが証明された。
【0050】
【表3】

【0051】
実施例7:高速検出キットの仕様及び感度の試験
本発明の抗体は、広範なラナウイルス及びメガロシティウイルスを検出することができ、且つ、高い感受性を有することから、高速のイリドウイルス検出キットへの応用に適している。
【0052】
高速検出ストリップのカセットは、台湾・ユニゾン・バイオテク・インコーポレイテッド(Taiwan Unison Biotech Inc.)により開発及び提供された。このカセットに関しては、2件の台湾特許、即ち、第M303000号及び第M3l5830号がある。本発明のモノクローナル抗体を、30μg/mLの濃度でコロイド金に固定化し、幅1.2cm、長さ30cmのガラス繊維(300〜400μl/cm2)に噴霧した。繊維は、乾燥させた後、台湾特許第M303000号及び第M3l5830号に開示された方法に従い、他の構成要素と共に組み立てた。組み立てた高速検出ストリップを図5Aに示す。
【0053】
本発明の高速検出ストリップの利点は、試料が感染しているかどうかの判定が容易な点である。判定は裸眼で行うことができる。図5Bに示す通り、この高速検出ストリップは3つの異なる結果を示す。流れ方向を基準にして、奥の線のみが出た場合は陰性の結果を意味し、手前と奥の線の両方が出た場合は陽性の結果を意味し、手前の線のみが出た場合は検査の失敗を意味する。
【0054】
感度試験
109TCID50/mLのイリドウイルス溶液を103TCID50/mLの濃度に10倍連続希釈し、100μLの希釈溶液を高速検出ストリップ上にロードした。15〜30分後に結果が得られた。1〜6番のストリップには、それぞれl09TCID50/mL、108TCID50/mL、107TCID50/mL、106TCID50/mL、105TCID50/mL、及び104TCID50/mLをロードし、7番のストリップは陰性対照であった。図6Aに示す通り、5番のストリップは陽性の結果を示しており、この高速検出ストリップが達成した下限は105TCID50/mLであることが示された。
【0055】
更に、携帯型スキャナー(ユニスキャン(Uniscan)(登録商標)、台湾・ユニゾン・バイオテク・インコーポレイテッド(Taiwan Unison Biotech Inc.)、台湾特許第I245899号)を使用して信号を更に確認した。携帯型スキャナーは信号を数値に定量化することができ、その数値は褐色の色合いと正の相関を有する。図6Bに示す通り、1〜6番のストリップに対応する値は、それぞれ271、143、60、16、4、0であり、ウイルス活性が褐色の色合いと完全に相関することが示された。従って、ストリップ上の褐色の色合いでウイルス活性を簡便に推定することができる。更に、表1に列挙した159個の試料もすべてこの高速検出ストリップに適用し、138個の試料が陽性感染と見なされた。そのため、本発明の高速検出ストリップは、少なくとも86.8%の感度を有することが証明された。
【0056】
特異性試験の分析
この試験では次の4つの試料を使用した。1番はl08TCID50/mLのイリドウイルス、2番はリンホシスティウイルス、3番は陰性対照、4番はノダウイルス。結果は図7に示した。図7に示す通り、イリドウイルスをロードした1番のストリップのみが陽性の結果を示した。従って、本発明の高速検出ストリップは、イリドウイルスに対して高い特異性を有することが証明された。
【0057】
当業者であれば、広範な発明の概念から逸脱することなく、上記の実施形態に変更を加えることができることを理解するであろう。そのため、本発明は、開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の精神及び範囲内での改変を包含するものとして意図されることを理解されたい。
【符号の説明】
【0058】
1 試料吸収パッド
2 連結パッド
3 プラスチック支持ベース
4 吸収パッド
5 ニトロセルロース膜
6 検査線
7 対照線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イリドウイルスのカプシドタンパク質から単離され、抗原活性を有する、配列番号13のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載のポリペプチドを含む組成物。
【請求項3】
飼料添加物又はイリドウイルスワクチンと組み合せて使用される請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
請求項2に記載の組成物を使用してイリドウイルスに対する抗体を産生する方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法により調製される、イリドウイルスに対する単離された抗体。
【請求項6】
モノクローナル抗体である請求項5に記載の抗体。
【請求項7】
ポリクローナル抗体である請求項5に記載の抗体。
【請求項8】
ラナウイルスに結合することができる請求項5に記載の抗体。
【請求項9】
メガロシティウイルスに結合することができる請求項5に記載の抗体。
【請求項10】
ラナウイルス及びメガロシティウイルスを同時に検出することができる請求項5に記載の抗体。
【請求項11】
請求項5に記載の抗体を使用してイリドウイルスの感染を検出する方法。
【請求項12】
固相免疫クロマトグラフィー法、間接免疫蛍光染色法、及び酵素結合免疫吸着測定法である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
イリドウイルスの感染を検出するためのキットであって、
(1)固体支持体と、
(2)前記固体支持体に付着された請求項5に記載の抗体と、
(3)イリドウイルス又はそのタンパク質断片と前記抗体とを、信号を発生するように作用的に結合させることができる信号発生手段と、
(4)関連する試薬及び界面活性剤と、
を含むキット。
【請求項14】
直接又は間接免疫測定法により実施される請求項13に記載のキット。
【請求項15】
前記固体支持体は、反応プレート、マイクロビーズ、ハイブリダイゼーション用の膜、又はテストストリップである請求項13に記載のキット。
【請求項16】
前記信号発生手段は、ハイパーオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、ビオチン又は蛍光標識である請求項13に記載のキット。
【請求項17】
請求項5に記載の抗体を含む組成物。
【請求項18】
飼料添加物、イリドウイルス治療薬又はイリドウイルスワクチンと組み合せて使用される請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
イリドウイルスの感染を処置又は予防するための医薬組成物であって、請求項5に記載の抗体と、医薬的に許容される担体と、を含む医薬組成物。
【請求項20】
動物に経口投与される請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
水生動物が生息する水域環境に対して、前記環境に生息するイリドウイルスを中和するために添加される請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項22】
請求項5に記載の抗体を含む飼料添加物。

【図6B】
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【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−120918(P2010−120918A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−317647(P2008−317647)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(508366031)アニマル ヘルス リサーチ インスティチュート カウンスル オブ アグリカルチャー エグゼクティブ ヤン (1)
【氏名又は名称原語表記】ANIMAL HEALTH RESEARCH INSTITUTE COUNCIL OF AGRICULTURE EXECUTIVE YUAN
【Fターム(参考)】