説明

ハニカム構造体の製造方法

【課題】大型のハニカム構造体を製造する際に、乾燥、焼成による切れの発生を抑制することが可能なハニカム構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】酸化物セラミック化原料の合計質量100質量部に対して3〜6質量部の、吸水倍率が10〜20倍である吸水性樹脂を含有する坏土を、ハニカム形状に成形してハニカム成形体を作製し、前記ハニカム成形体を乾燥してハニカム乾燥体を作製し、前記ハニカム乾燥体を焼成して体積15〜30リットル、気孔率55〜70%のハニカム構造体を得るハニカム構造体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体の製造方法に関し、更に詳しくは、大型のハニカム構造体を製造する際に、乾燥、焼成による切れの発生を抑制することが可能なハニカム構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排ガスに含有されるNO、CO及びHC等を、担持した触媒等により吸着・浄化するために、更に、排ガス中の粒子状物質を捕集除去するために、熱膨張率の低いコージェライト等の酸化物セラミックからなるハニカム構造体が使用されている。このようなハニカム構造体としては、触媒等を担持するため、更に、排ガス中の粒子状物質を捕集するため、通常、隔壁に細孔(気孔)が形成されたものが用いられている。細孔の形成方法としては、成形原料中に中実粒子や中空粒子からなる造孔剤を配合し、成形体を焼成する際に造孔剤を焼失させて細孔を形成する方法が挙げられる。また、造孔剤として吸水性樹脂を用いる方法が開示されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【特許文献1】特開2004−262747号公報
【特許文献2】国際公開第2005/063360号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
中実粒子を造孔剤として使用した場合は、粒子が中実であるため、成形原料の混合・混練時にそれら粒子が潰れにくく、安定した気孔率が得られるという利点はあるが、それら粒子が押出金型に詰まり成形体にリブ欠け等の欠陥を生じさせるという問題があり、更に、押出圧力が増大し押出金型に変形を生じるという問題があった。また、それら粒子の焼成時の発熱量が大きいため、熱応力によるクラック、内部欠陥等の不良が多発するという問題があった。一方、中空粒子を造孔剤として使用した場合は、粒子が中空であるため焼成時の発熱量が小さいため上記のような欠陥の発生は抑えられるが、成形原料の混合・混練・成形時に粒子が潰れやすいため、安定した気孔率が確保できず、フィルタ特性が悪化するという問題があった。また、粒子の潰れを防止する方法として、坏土の硬度を低下させる方法が挙げられるが、成形体の形状が変形することがあるという問題があった。
【0004】
上記特許文献1には、造孔剤として吸水性樹脂を配合した成形原料を押出成形して成形体を得た後、この成形体を焼成して多孔質セラミックを得る方法が記載されている。この方法によれば、造孔剤として吸水性樹脂を用いているため、製造工程において受ける圧力やせん断力による造孔剤の潰れが発生し難い。そのため、坏土の硬度を低下させる必要がなく、製造工程において成形体の形状が変形することを抑制することができる。そして、造孔剤が潰れて造孔作用を失うことがないため、気孔率を安定化することができる。しかし、この方法で、体積が15リットル以上の酸化物セラミックハニカム構造体を作成した場合には、乾燥又は焼成時において、隔壁に亀裂が生じる現象(切れ)が発生するという問題があった。
【0005】
上記特許文献2には、セラミック原料、吸水性樹脂等を混合・混練した坏土をハニカム構造に成形し、乾燥、焼成してハニカム構造体を得るハニカム構造体の製造方法が記載されている。この方法によれば、吸水性樹脂により坏土の可塑性が向上し、それにより坏土の成形性が向上するため、成形時の欠陥や変形を抑制でき、歩留まりを向上することができる。しかし、この方法によっても、体積が15リットル以上の酸化物セラミックハニカム構造体を作成した場合には、乾燥又は焼成時において、隔壁に亀裂が生じる現象(切れ)が発生するという問題があった。
【0006】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、大型のハニカム構造体を製造する際に、乾燥、焼成による切れの発生を抑制することが可能なハニカム構造体の製造方法提供することを特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によって以下のハニカム構造体の製造方法が提供される。
【0008】
[1] 酸化物セラミック化原料の合計質量100質量部に対して3〜6質量部の、吸水倍率が10〜20倍である吸水性樹脂を含有する坏土を、ハニカム形状に成形してハニカム成形体を作製し、前記ハニカム成形体を乾燥してハニカム乾燥体を作製し、前記ハニカム乾燥体を焼成して体積15〜30リットル、気孔率55〜70%のハニカム構造体を得るハニカム構造体の製造方法。
【0009】
[2] 前記吸水性樹脂の吸水後の平均粒子径が、5〜40μmである[1]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0010】
[3] 前記ハニカム成形体を誘電乾燥してハニカム乾燥体を作製する[1]又は[2]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0011】
[4] 前記酸化物セラミック化原料が、コージェライト化原料である[1]〜[3]のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のハニカム構造体の製造方法によれば、坏土に含有させる造孔剤としての吸水性樹脂の吸水倍率が20倍以下であることにより、吸水性樹脂の水の保持力を強すぎないものとすることができ、これにより、体積15〜30リットルのハニカム構造体を製造するに際し、ハニカム乾燥体の乾燥むらを抑制でき、隔壁の切れを抑制することが可能となる。なお、「体積」とはハニカム構造体の隔壁部とガス流路を含めた構造体の外形により決定される体積である。また、吸水性樹脂の吸水倍率が10倍以上であることにより、造孔能力を高く維持できる程度に十分に水分を吸収することができるため、吸水性樹脂の添加量を低く維持でき、吸水性樹脂を燃焼除去する際に余計な時間を要さず、且つ、低コストでハニカム構造体を製造することが可能である。また、酸化物セラミック化原料の合計質量に対する含有率が3〜6質量%であるため、気孔率55〜70%のハニカム構造体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を具体的に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0014】
本発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態は、酸化物セラミック化原料の合計質量100質量部に対して3〜6質量部の、吸水倍率が10〜20倍である吸水性樹脂、を含有する坏土を、ハニカム形状に成形してハニカム成形体を作製し、得られたハニカム成形体を乾燥してハニカム乾燥体を作製し、得られたハニカム乾燥体を焼成して体積15〜30リットル、気孔率55〜70%のハニカム構造体を得るものである。ここで、ハニカム構造体は、複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有する筒状の構造体である。また、坏土中の吸水性樹脂の含有率は、乾燥した吸水性樹脂の質量で示している。
【0015】
(坏土)
本発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態は、まず、酸化物セラミック化原料、水、及び吸水性樹脂を混合、混練して坏土を形成する。このとき、バインダ、界面活性剤等を合わせて混合、混練することが好ましい。酸化物セラミック化原料とは、焼成により酸化物セラミックとなる原料であり、コージェライト化原料、アルミニウムチタネート化原料等が好ましい。コージェライト化原料とは、焼成によりコージェライトとなる原料を意味し、シリカ(SiO)が42〜56質量%、アルミナ(Al)が30〜45質量%、マグネシア(MgO)が12〜16質量%の範囲に入る化学組成となるように所定の原料が混合されたセラミック原料である。上記混合すべき「所定の原料」としては、タルク、カオリン、アルミナ源原料、シリカ等を挙げることができる。尚、アルミナ源原料とは、アルミニウム酸化物、水酸化アルミニウム、ベーマイト等、焼成により酸化物化し、コージェライトの一部を形成する原料のことを言う。アルミニウムチタネート化原料とは、焼成によりアルミニウムチタネートとなる原料を意味し、アルミナ(Al)が53〜74質量%、チタン(TiO)が14〜33質量%、シリカ(SiO)が6〜20質量%の範囲に入る化学組成となるように所定の原料が混合されたセラミック原料である。
【0016】
上記吸水性樹脂は、吸水倍率が10〜20倍であり、12〜20倍が好ましく、15〜20倍が更に好ましい。吸水性樹脂の吸水倍率が20倍以下であることにより、吸水性樹脂の水の保持力を強すぎないものとすることができ、これにより、体積15〜30リットルのハニカム構造体を製造するに際し、ハニカム乾燥体の乾燥むらを抑制でき、隔壁の切れを抑制することが可能となる。また、吸水性樹脂の吸水倍率が10倍以上であることにより、造孔能力を高く維持できる程度に十分に水分を吸収することができるため、吸水性樹脂の添加量を低く維持でき、吸水性樹脂を燃焼除去する際に余計な時間を要さず、且つ、低コストでハニカム構造体を製造することが可能である。吸水倍率が、10倍未満であると、吸収する水分量が少ないため造孔能力が低下し、これにより、添加量を増加させる必要が生じるため、吸水性樹脂を燃焼除去するための時間が長くなり、且つ、添加量を増やすためにコストアップとなる。用途により高気孔率が重視される場合には、12倍以上、更には15倍以上であることが望まれる。吸水倍率が20倍を超えると、吸水性樹脂の水の保持力が強くなりすぎ、乾燥後もハニカム乾燥体内部に水分が残存し、ハニカム乾燥体に乾燥むらが生じることにより、隔壁に切れが発生する。ハニカム乾燥体に乾燥むらが生じると、乾燥体内部で局所的な収縮差が生じるために、隔壁に切れが発生する。ここで、「吸水倍率」とは、「乾燥した吸水性樹脂の質量」に対する、「吸水された純水の質量」の比(倍数)である。例えば、「乾燥した吸水性樹脂」が1質量部であり、「吸水された純水の質量」が3質量部である場合には、吸水倍率は3倍となる。
【0017】
吸水性樹脂の吸水後の平均粒子径は、5〜40μmであることが好ましく、10〜40μmであることが更に好ましい。吸水性樹脂の吸水後の平均粒子径が、5μmより小さいと、得られるハニカム構造体の細孔が小さく、触媒を担持させた場合等に塞がれてしまう細孔が多くなり過ぎ、圧力損失の増加を招くことがあり、また、40μmより大きいと、細孔径の大きな細孔が多くなり、煤の捕集孔率やハニカム構造体の強度が低下することがある。また、粒径が大きすぎると隔壁に切れが発生し易くなることがあり、また、押出金型のスリットが細い場合には詰まりが発生し易くなることがある。また、吸水性樹脂の吸水後の平均粒子径は、得られるハニカム構造体の隔壁の厚さの40%以下であることが好ましく、30%以下、更には25%以下であることが好ましい。吸水性樹脂の吸水後の平均粒子径を、ハニカム構造体の隔壁の厚さの40%以下とすることにより、ハニカム構造体の隔壁の切れの発生を更に効果的に抑制することができ、また、ハニカム構造体の強度の確保に寄与するという利点を有する。40%を超えると、ハニカム構造体の隔壁に切れが生じ易くなることがあり、また、ハニカム成形体を焼成した後に隔壁の厚さに対して粗大な細孔が形成され易くなり、強度不足となることがある。
【0018】
また、先に述べたように、吸水性樹脂の吸水後の平均粒子径が押出金型のスリットに対して大きくなると金型に詰まりが発生することがあるが、他の樹脂に比べて、吸水により発現する弾力性によって、押出成形時にスリットやスリットへの粗大粒子混合を防ぐスクリーンを、自らが変形しながら通過するため、押出金型に詰まりが発生することがより少ない。また、焼成時の発熱量が小さいため、クラックの発生等の不良を低減することができる。更に、シェア荷重を受けても潰れず、造孔能力を損なうことがないため、気孔率変動を小さく抑え、安定した気孔率を確保することができる。
【0019】
吸水性樹脂としては、具体的には、でんぷん系、ポリアクリル酸系、ポリビニルアルコール系、セルロース系、合成ポリマー系等の吸水性樹脂を用いることができる。特にポリアクリル酸系の吸水性樹脂は吸水速度が速いため、水を短時間で吸収でき、混合、混練後の坏土性状の経時変化を起こしにくい。
【0020】
坏土中の吸水性樹脂の含有量は、酸化物セラミック化原料の合計質量100質量部に対して3〜6質量部であることが好ましい。坏土中の吸水性樹脂の含有量をこのような範囲とすることにより、得られるハニカム構造体の気孔率を55%以上とすることができ、更に、ハニカム成形体の成形性をより向上させることができる。吸水性樹脂の含有量(添加量)を、酸化物セラミック化原料100質量部に対して3質量部未満とすると、ハニカム構造体の気孔率を55%以上とすることができず、6質量部超とすると、必要とされる水分量が多くなり、長時間の乾燥が必要となるためコストが高くなる。尚、坏土中に吸水性樹脂が含まれると、坏土の可塑性が上がるため、ハニカム成形体の成形性が向上する。つまり、坏土の保水性が上がり、押出成形時の潤滑性が上がる効果が生じる。
【0021】
本実施形態のハニカム構造体の製造方法において、坏土に含有させるバインダとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。これらは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
本実施の形態のハニカム構造体の製造方法において、坏土に含有させる界面活性剤としては、陰イオン性、陽イオン性、非イオン性、又は両イオン性のいずれの界面活性剤であってもよい。陰イオン性界面活性剤としては、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリカルボン酸塩、ポリアクリル酸塩等を挙げることができる。また、非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン(又はソルビトール)脂肪酸エステル等を挙げることができる。界面活性剤は、原料粒子の分散性を向上させるとともに、押出成形時には原料粒子を配向しやすくする働きがある。
【0023】
また、本実施形態のハニカム構造体の製造方法において、坏土には分散媒として水を含有させる。坏土中の水の含有量は、ハニカム成形体の押出成形時における坏土が適当な硬さを有するものとなる量とすることが好ましく、吸水性樹脂の吸水分も含めて、酸化物セラミック化原料100質量部に対し、吸水性樹脂の混合量にその吸水倍率の半分を乗じて得られる値(吸水性樹脂の混合量×吸水倍率の半分)以上の質量部とすることが好ましい。
【0024】
本実施の形態のハニカム構造体の製造方法において、コージェライト化原料、バインダ、界面活性剤、水、及び吸水性樹脂を混合する方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。例えば、プレミキシング等の方法を挙げることができる。特に、吸水性樹脂については、予め吸水させてから(所定の程度まで吸水させても吸水倍率まで吸水させてもよい)、他の原料と混合してもよく、乾燥状態のまま他の原料と混合しながら吸水させてもよいが、後者の方が工程が簡便となる点で好適である。そして、上記混合を行ったものを混練して坏土を形成する方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。例えば、ニーダー、真空土練機等を用いて混練することができる。
【0025】
(成形)
次に、得られた坏土を、ハニカム形状に成形してハニカム成形体を作製する。ハニカム成形体は、得られた坏土を、所望のセル形状、隔壁厚さ、セル密度等を有する口金とそれに応じた目開きのスクリーンを用いて、押出成形することにより作製することが好ましい。押出圧力は、押出金型が変形するのを防ぐため、著しく上昇しないのが好ましい。ハニカム成形体は、焼成してハニカム構造体を形成したときに後述する条件のハニカム構造体が得られるように、作製することが好ましい。
【0026】
(乾燥)
次に、得られたハニカム成形体を乾燥させて、ハニカム乾燥体を作製する。乾燥の方法は特に制限はなく、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の従来公知の乾燥法を、単独で或いは組み合わせて、用いることができる。中でも、成形体全体を迅速かつ均一に乾燥することができる点で、誘電乾燥が好ましい。
【0027】
(仮焼)
次に、得られたハニカム乾燥体を焼成する前に仮焼することが好ましい。「仮焼」とは、ハニカム乾燥体中の有機物(バインダ、吸水性樹脂等)を燃焼させて除去する操作を意味する。一般に、バインダ(有機バインダ)の燃焼温度は100〜300℃程度、吸水性樹脂の燃焼温度は200〜800℃程度であるので、仮焼温度は200〜1000℃程度とすればよい。仮焼時間としては特に制限はないが、通常は、10〜100時間程度である。
【0028】
(焼成)
次に、ハニカム乾燥体を焼成してハニカム構造体を作製する。焼成により、ハニカム乾燥体のセラミック原料を焼結させて緻密化し、所定の強度を確保することができる。酸化物セラミック化原料が、コージェライト化原料の場合、焼成条件(温度、時間)としては、1350〜1440℃で、3〜20時間程度焼成することが好ましい。また、酸化物セラミック化原料が、アルミニウムチタネート化原料の場合、焼成条件(温度、時間)としては、1550〜1700℃で、2〜15時間程度焼成することが好ましい。前述の仮焼と焼成は、連続した工程とすることも、時間的効率、エネルギー効率の面で好ましい。
【0029】
本実施形態のハニカム構造体の製造方法によって製造されるハニカム構造体の隔壁の気孔率は、55〜70%であることが更に好ましい。得られるハニカム構造体隔壁の気孔率を、このような範囲の高気孔率のとするため、ハニカム構造体の強度を強く維持しつつ、被処理流体が通過するときの圧力損失を低く維持することができる。隔壁の気孔率が55%未満であると、ハニカム構造体の被処理流体が通過するときの圧力損失が大きくなるため好ましくない。隔壁の気孔率が70%超であると、ハニカム構造体の強度が低下するため好ましくない。なお、気孔率は、水銀ポロシメーターにより全細孔容積を測定し、コージェライト等の酸化物セラミックの真比重を用いて算出する。隔壁の気孔率は、主として、吸水性樹脂の添加率を、3〜6質量%に調整することにより上記所定の値に制御することができる。
【0030】
本実施形態のハニカム構造体の製造方法によって製造されるハニカム構造体の体積は、30リットル以下であることが好ましく、15〜30リットルが更に好ましい。このような範囲の体積のハニカム構造体は、吸水性樹脂を造孔剤として使用したときに、特に、隔壁の切れが発生し易いため、本実施形態のハニカム構造体の製造方法をこのような大きさのハニカム構造体の製造に適用することが好ましい。前述の吸水倍率との関係においては、0≦(吸水倍率−10)/体積≦0.6を満たすことによって、より乾燥切れ抑制効果を高めることができる。更に、0≦(吸水倍率−10)/体積≦0.4を満たすことが一層好ましい。また、得られるハニカム構造体の形状は、特に制限されないが、例えば、円筒状、四角柱状、三角柱状、その他角柱状等を挙げることができる。
【0031】
また、ハニカム構造体のセル形状(ハニカム構造体の中心軸方向(セルが延びる方向)に対して垂直な断面におけるセル形状)としては、特に制限はなく、例えば、四角形、六角形、三角形等を挙げることができる。また、ハニカム構造体内で単一のセル形状である必要はなく、例えば、四角形のセルと八角形のセルとを互いに組み合わせて構成することも好ましい実施態様である。
【0032】
得られるハニカム構造体は、隔壁の平均細孔径が、5〜40μmであることが好ましく、10〜30μmであることが更に好ましい。細孔径の小さな細孔が多すぎると、触媒を担持させた場合等に塞がれてしまう細孔が多くなり過ぎ、圧力損失の増加を招くことがあり、細孔径の大きな細孔が多過ぎると、煤の捕集効率の低下、ハニカム構造体の強度が低下することがある。平均細孔径は、水銀ポロシメーターによる体積基準におけるメディアン細孔直径の値とした。
【0033】
得られるハニカム構造体のセル密度は、特に制限されないが、20〜160セル/cmであることが好ましく、40〜120セル/cmであることが更に好ましい。
【0034】
ハニカム構造体を触媒担持基材として用いる場合には、得られるハニカム構造体そのままの形態で、その隔壁に触媒を担持して、好適に用いることができる。担持する触媒としては、三元触媒、酸化触媒、NOトラップ触媒、SCR触媒等を挙げることができる。一方、煤捕集フィルタとして用いる場合には、端面に目封止を施すことも、好ましい実施形態である。目封止は、両端面で互い違いになる様、市松模様状に施すことが好ましい。更に、当該フィルタの隔壁にも、触媒を担持することもできる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
コージェライト化原料(Cd)として、タルク41質量%、カオリン19質量%、アルミニウム酸化物25質量%、及びシリカ15質量%となるように混合したものを使用した。コージェライト化原料100質量部に、分散媒として水62質量部(水比)、バインダとしてメチルセルロース4質量部を、それぞれ添加し、コージェライト化原料の合計質量100質量部に対して4質量部となるように乾燥状態の吸水性樹脂を添加し、混合、混練して坏土を調製した。吸水性樹脂としては、吸水倍率が10.5倍で、吸水後の平均粒子径(吸水後平均粒径)が32μmのものを用いた。混合、混練はシグマニーダで行い、さらに真空土練機による混練を行って円筒状(底面の直径300mm)に押し出された坏土を得た。
【0037】
得られた坏土を、ラム式押し出し成形機を用いて押出成形し、セル断面形状が四角形で、全体の形状が円筒形のハニカム成形体を作製した。
【0038】
次に、得られたハニカム成形体を誘電乾燥で乾燥させて、ハニカム乾燥体を得た。
【0039】
次に、得られたハニカム乾燥体を焼成することによってハニカム構造体を得た。焼成条件は、最高温度1350〜1440℃とした。
【0040】
得られたハニカム構造体は、直径(径)330mm、中心軸方向長さ(高さ)305mmの円筒形(体積26.1リットル(L))であり、隔壁の厚さ305μm、セル密度47セル/cm(12mil/300cpsi)、隔壁の気孔率55%であった。気孔率の測定は、「島津製作所社製、自動ポロシメーター Micromeritics Autopore 9500」により測定した全細孔容積から気孔率を算出した。このとき、コージェライトの真比重を2.52とした。
【0041】
上記方法により、ハニカム構造体を14個作製した。得られたハニカム構造体について、以下に示す方法で、「隔壁の切れ」を確認した。結果を表1に示す。
【0042】
(隔壁の切れ)
隔壁の切れは、ハニカム構造体について端面から目視で確認し、亀裂が無い場合を切れ「無し」、亀裂が有る場合を切れ「有り」として、切れ「無し」のハニカム構造体を「合格」とする。作製したハニカム構造体の個数(製作数)に対する、合格したハニカム構造体の個数(合格数)の比率を「歩留り」とした。表1には、「隔壁の切れ」の評価結果として、「合格数」と「歩留り」とを示した。
【0043】
【表1】

【0044】
(実施例2〜8)
吸水性樹脂として表1に示す吸水倍率及び吸水後平均粒径のものを用い、吸水性樹脂添加量(添加率)を表1に示す量とし、ハニカム構造体の気孔率及びサイズを表1に示す大きさとし、ハニカム構造体の製作個数を表1に示す個数とした以外は、実施例1と同様にしてハニカム構造体を作製した。
【0045】
得られたハニカム構造体について、上記方法で、「隔壁の切れ」を確認した。結果を表1に示す。
【0046】
(実施例9,10)
酸化物セラミック化原料としてアルミニウムチタネート化原料(AT)を用い、吸水性樹脂として表1に示す吸水倍率及び吸水後平均粒径のものを用い、吸水性樹脂添加量を表1に示す量とし、ハニカム構造体の気孔率を表1に示す大きさとし、ハニカム構造体の製作個数を表1に示す個数とした以外は、実施例1と同様にしてハニカム構造体を作製した。
【0047】
得られたハニカム構造体について、上記方法で、「隔壁の切れ」を確認した。結果を表1に示す。
【0048】
(比較例1〜3)
吸水性樹脂として表1に示す吸水倍率及び吸水後平均粒径のものを用い、吸水性樹脂添加量を表1に示す量とし、ハニカム構造体の気孔率を表1に示す大きさとし、ハニカム構造体の製作個数を表1に示す個数とした以外は、実施例1と同様にしてハニカム構造体を作製した。
【0049】
得られたハニカム構造体について、上記方法で、「隔壁の切れ」を確認した。結果を表1に示す。
【0050】
(参考例1〜6)
吸水性樹脂として表1に示す吸水倍率及び吸水後平均粒径のものを用い、吸水性樹脂添加量を表1に示す量とし、ハニカム構造体の気孔率を表1に示す大きさとし、ハニカム構造体の製作個数を表1に示す個数とした以外は、実施例1と同様にしてハニカム構造体を作製した。
【0051】
得られたハニカム構造体について、上記方法で、「隔壁の切れ」を確認した。結果を表1に示す。
【0052】
表1より、実施例1〜10のハニカム構造体の製造方法では、高気孔率の大型ハニカム構造体を歩留まり良く製造することができている。これに対し、比較例1〜3のハニカム構造体の製造方法では、吸水性樹脂の吸水倍率が大きいため、得られたハニカム構造体の全てに切れが発生し、歩留まりが悪いことがわかる。また、参考例1のハニカム構造体の製造方法のように、吸水性樹脂の吸水倍率が低いと高気孔率のハニカム構造体が得られないことがわかる。参考例2〜4のハニカム構造体の製造方法では、吸水性樹脂の添加量が少ないため、得られたハニカム構造体の気孔率が小さく、高気孔率のハニカム構造体が得られていないことがわかる。参考例5のハニカム構造体の製造方法では、吸水性樹脂の添加量が多いため、気孔率が高すぎることがわかる。尚、参考例6に示すように、製造するハニカム構造体の大きさが11.7Lと小さい場合には、吸水性樹脂の吸水倍率が大き過ぎても切れの発生がないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のハニカム構造体の製造方法は、自動車の排ガスに含有されるNO、CO及びHC等を、担持した触媒等により吸着・浄化するため、更に、排ガス中の粒子状物質を捕集除去するために用いるハニカム構造体を製造するために利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物セラミック化原料の合計質量100質量部に対して3〜6質量部の、吸水倍率が10〜20倍である吸水性樹脂を含有する坏土を、ハニカム形状に成形してハニカム成形体を作製し、前記ハニカム成形体を乾燥してハニカム乾燥体を作製し、前記ハニカム乾燥体を焼成して体積15〜30リットル、気孔率55〜70%のハニカム構造体を得るハニカム構造体の製造方法。
【請求項2】
前記吸水性樹脂の吸水後の平均粒子径が、5〜40μmである請求項1に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項3】
前記ハニカム成形体を誘電乾燥してハニカム乾燥体を作製する請求項1又は2に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項4】
前記酸化物セラミック化原料が、コージェライト化原料である請求項1〜3のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。

【公開番号】特開2009−242134(P2009−242134A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88186(P2008−88186)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】