説明

ハニカム構造体

【課題】本発明では、電極の劣化が生じにくく、長期間安定に使用することが可能なハニカム構造体を提供することを目的とする。
【解決手段】複数の貫通孔がセル壁を隔てて長手方向に並設された導電性を有する少なくとも一のハニカムユニットを含むハニカム構造体であって、前記少なくとも一のハニカムユニットは、一対の電極を有し、前記電極が形成されている直下の前記セル壁に存在する気孔に、前記少なくとも一のハニカムユニットを構成する材料よりも電気抵抗率の低い物質が充填されていることを特徴とするハニカム構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガスを処理するハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車からの排ガスの浄化に関しては、多くの技術が開発されているが、交通量の増大もあって、まだ十分な排ガス対策がとられているとは言い難い。日本国内においても、世界的にも自動車排ガス規制は、さらに強化されて行く方向にある。
【0003】
このような規制に対応するため、排ガスシステムにおいて、排ガス中に含まれる所定の成分を処理することが可能な触媒担体が使用されている。また、このような触媒担体用の部材として、ハニカム構造体が知られている。
【0004】
このハニカム構造体は、例えば、長手方向に沿って、該ハニカム構造体の一方の端面から他方の端面まで延伸する複数のセル(貫通孔)を有し、これらのセルは、触媒が担持されたセル壁により、相互に区画されている。従って、このようなハニカム構造体に排ガスを流通させた場合、セル壁に担持された触媒によって、排ガスに含まれるHC(炭化水素化合物)、CO(一酸化炭素)、NOx(窒素酸化物)等の物質が改質(酸化、還元)され、排ガス中のこれらの成分を処理することができる。
【0005】
一般に、このようなハニカム構造体のセル壁(基材)は、コージェライトで構成されている。また、このセル壁には、γ−アルミナからなる触媒担持層が形成され、この触媒担持層には、白金および/またはロジウムなどの貴金属触媒が担持されている。
【0006】
また、触媒が活性になる温度よりも低い排ガス温度での浄化性能を高めるために、比較的低抵抗のハニカム構造体を使用し、このハニカム構造体に電圧印加用の電極を設け、ハニカム構造体に通電を行うことにより、ハニカム構造体を自己加熱する技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭49−124412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の従来のハニカム構造体では、両端部に設置された電極を介してハニカム構造体に通電を行うことにより、ハニカム構造体を抵抗加熱することができる。しかしながら、特許文献1に記載の従来のハニカム構造体では、電極部分には、外部電源から局部的に極めて大きな電位が印加される。このため、電極部分に異常な発熱が生じて、電極が劣化したり破損したりする危険性があり、特許文献1に記載の従来のハニカム構造体は、長時間の安定性に問題がある。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みなされたものであり、本発明では、電極の劣化が生じにくく、長期間安定に使用することが可能なハニカム構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、
複数の貫通孔がセル壁を隔てて長手方向に並設された導電性を有する少なくとも一のハニカムユニットを含むハニカム構造体であって、
前記少なくとも一のハニカムユニットは、一対の電極を有し、前記電極が形成されている直下の前記セル壁に存在する気孔に、前記少なくとも一のハニカムユニットを構成する材料よりも電気抵抗率の低い物質が充填されていることを特徴とするハニカム構造体が提供される。
【0011】
ここで、本発明によるハニカム構造体において、前記電気抵抗率の低い物質は、金属および珪化物の少なくとも一つを有しても良い。
【0012】
また、本発明によるハニカム構造体において、前記電極は、前記少なくとも一のハニカムユニットの長手方向に垂直な方向の断面の周囲を囲むようにして形成されていても良い。
【0013】
また、本発明によるハニカム構造体において、前記少なくとも一のハニカムユニットは、前記少なくとも一のハニカムユニットの外周を構成する外周壁と、前記少なくとも一のハニカムユニットの貫通孔を隔てる内側壁から構成されており、
前記外周壁の外周表面には、前記電極が形成され、
前記内側壁は、前記電極が形成された外周壁と電気的に接続し、
前記内側壁に存在する気孔には、前記少なくとも一のハニカムユニットを構成する材料よりも電気抵抗率の低い物質が充填されていても良い。
【0014】
また、本発明によるハニカム構造体において、前記少なくとも一のハニカムユニットの前記外周壁および/または前記内周壁に前記前記少なくとも一のハニカムユニットを構成する材料よりも電気抵抗率の低い物質が充填された範囲は、前記電極の長手方向の幅よりも広くなっていても良い。
【0015】
また、本発明によるハニカム構造体において、前記導電性を有する少なくとも一のハニカムユニットは、前記一対の電極間の抵抗値が1〜10Ωの範囲であっても良い。
【0016】
また、本発明によるハニカム構造体は、接着層を介して接続された複数のハニカムユニットで構成されても良い。
【0017】
また、本発明によるハニカム構造体において、前記電極は、溶射またはスパッタにより形成されても良い。
【0018】
また、本発明によるハニカム構造体において、前記少なくとも一のハニカムユニットのセル壁には、触媒が付与されていても良い。
【0019】
また、本発明によるハニカム構造体において、前記触媒は、白金、ロジウムまたはパラジウムであり、アルミナ層を介して付与されていても良い。
【0020】
また、本発明によるハニカム構造体において、前記少なくとも一のハニカムユニットは、炭化珪素を主成分としても良い。
【0021】
また、本発明の電気抵抗率の低い物質において、金属は、シリコンが好ましく、珪化物は、ニッケルシリサイドが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、電極の劣化が生じにくく、長期間安定に使用することが可能なハニカム構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のハニカム構造体の一例を模式的に示した斜視図である。
【図2】図1に示したハニカム構造体の端面の上面図である。
【図3】本発明のハニカム構造体の別の一例を模式的に示した斜視図である。
【図4】図3のハニカム構造体を構成するハニカムユニットの一例を模式的に示した斜視図である。
【図5】図4のハニカムユニットの端面の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面により本発明の形態を説明する。
【0025】
(第1の構成)
図1には、本発明によるハニカム構造体100を模式的に示す。また、図2には、図1に示したハニカム構造体100の端面の上面図を示す。
【0026】
図1に示すように、本発明のハニカム構造体100は、2つの開口された端面110Aおよび110Bを有する一つのハニカムユニットからなる。ハニカムユニットは、多孔質体である。また、ハニカム構造体100は、複数のセル(貫通孔)122と、該セル122を区画するセル壁124とを有する。セル122は、ハニカム構造体100の長手方向に沿って、端面110Aから端面110Bまで延伸し、両端面110A、110Bで開口されている。
【0027】
ハニカム構造体100の端面110Aおよび110Bから延伸する部位の周囲(以下、これらの箇所をそれぞれ、ハニカム構造体の「端部115A」および「端部115B」と称する)には、それぞれ、電極160Aおよび電極160Bが設置されている(図2も参照)。
【0028】
ハニカム構造体100は、例えば炭化珪素(SiC)を主成分とした材料で構成されるが、抵抗を低下させるため、さらに、例えば窒化アルミニウム(AlN)のような、少量の抵抗調整成分が添加されている。ハニカム構造体100のセル壁124には、触媒が設置されている。
【0029】
なお、ハニカム構造体100を構成するハニカムユニットを導電性ハニカムユニットとも言う。
【0030】
電極160A、160Bは、例えば金属のような電気伝導性材料で構成される。電極160A、160Bの形成方法は、特に限られない。電極160A、160Bは、例えば、金属の溶射、スパッタリング法、または蒸着法等により、ハニカム構造体100の端部115A、115Bに設置されても良い。
【0031】
このように構成されたハニカム構造体100において、外部から両電極160A、160B間に電圧を印加することにより、ハニカム構造体100を抵抗加熱することができる。
【0032】
ここで、図2に詳細を示すように、本発明によるハニカム構造体100は、さらに、少なくとも電極160A、160Bの直下に、それぞれ、低抵抗部分170A、170Bを有する。低抵抗部分170A、170Bは、それぞれ、ハニカム構造体100の端部115A、115Bにおいて、ハニカム構造体100の外周面を構成する外壁120内に、電極160A、160Bと接するようにして設置される。
【0033】
なお、低抵抗部材とは、ハニカムユニットのハニカムユニットを構成する部材よりも電気抵抗の低い物質が充填された部分のことを言う。
【0034】
低抵抗部分170A、170Bは、ハニカム構造体100の他の領域(電極160A、160Bを除く)に比べて、抵抗率が小さいという特徴を有する。なお、低抵抗部分170A、170Bは、ハニカム構造体100の端部115A、115Bの外壁120の表面に存在する気孔の一部に、金属および/または珪化物等の電気伝導性物質を充填させることにより構成される。金属は、シリコン(Si)またはニッケル(Ni)等であっても良い。また、珪化物は、例えば、ニッケルシリサイド(NiSi)、クロムシリサイド(CrSi)、または鉄シリサイド(FeSi)等であっても良い。
【0035】
このような低抵抗部分170A、170Bは、電極160A、160Bを介してハニカム構造体100に通電する際、電極部分への電気エネルギーの局部的集中を緩和する領域として機能する。すなわち、電極160A、160Bの直下に低抵抗部分170A、170Bが存在することにより、電極160A、160Bにおいて、局部的に高熱が発生することが抑制される。また、これにより、電極160A、160Bの劣化または破損が抑制され、ハニカム構造体100を長期間安定に使用することが可能となる。
【0036】
なお、低抵抗部分170A、170Bの充填範囲は、低抵抗部分170A、170Bが電極160A、160Bと接している限り、特に限られない。例えば、図2の例では、低抵抗部分170A、170Bは、ハニカム構造体100の外壁120の外側表面(すなわち電極160A、160Bの最下面)から境界線BLまでの領域に充填されており、この深さD1は、30μm〜100μmの範囲であることが好ましい。しかしながら、外壁120の外側表面から境界線BLまでの深さD1の値は、外壁120の厚さ(例えば300〜400μm)と等しくても良く、外壁120の厚さよりも大きくても良い。
【0037】
また、低抵抗部分170A、170Bを局部的に充填することが難しい場合、端部115A、115Bの全体にわたって(すなわち、端部115A、115Bのセル壁124にも)、低抵抗部分170A、170Bを充填しても良い。
【0038】
低抵抗部分170A、170Bに充填された電気伝導性物質の量(端部115Aまたは115Bの全重量に対する電気伝導性物質の重量比)は、特に限られないが、1wt%〜80wt%の範囲が好ましく、20wt%〜55wt%の範囲がより好ましい。
【0039】
また、低抵抗部分170A、170Bが充填されているため、端部115Aまたは115Bの気孔率(低抵抗部分170A、170Bが充填されている部分)は、0〜20%が好ましい。
【0040】
以上のように、本発明においては、電極が設置されているハニカムユニットの外周を構成する外周壁の気孔に、電気抵抗率が低い物質(低抵抗物質)を充填している。外周壁の気孔は、互いに連結して、3次元的な空隙構造を構成する。この空隙に電気抵抗率が低い物質(低抵抗物質)が充填されているため、低抵抗物質の3次元的な構造が外周壁内に存在することになる。このため、外周壁を構成する粒子間にこのような低抵抗物質が存在している場合に比べて、電極が形成された外周壁部の抵抗値が低下し、通電した場合に、電極が形成された外周壁部分の発熱量が抑制され、電極材料の劣化が防止できる。
【0041】
また、本発明において、「前記ハニカムユニットは、外周を構成する外周壁と、前記ハニカムユニットの貫通孔を隔てる内側壁から構成されており、前記外周壁の外周表面には、前記電極が形成され、前記内側壁は、前記電極が形成された外周壁と電気的に接続し、前記内側壁に存在する気孔には、前記ハニカムユニットを構成する材料よりも電気抵抗率の低い物質が充填されている」場合は、ハニカムユニットの端面の外周壁と内側壁の電位がほぼ等しくなり、外周壁と内側壁を流れる電流密度を等しくすることができる。また、このため、ハニカムユニットの発熱量を全体として均一にすることができる。
【0042】
(第2の構成)
図1に示したハニカム構造体100は、ハニカムユニットが一つで構成されるハニカム構造体、いわゆる「一体構造」となっている。しかしながら、本発明は、複数のハニカムユニットで構成された、いわゆる「分割構造」のハニカム構造体にも適用することができる。
【0043】
図3には、本発明による「分割構造」のハニカム構造体200を示す。また、図4には、図3に示したハニカム構造体200を構成するハニカムユニットの一例を模式的に示す。
【0044】
図3に示すように、本発明のハニカム構造体200は、2つの開口された端面210Aおよび210Bと、側面220とを有する。
【0045】
ハニカム構造体200は、複数のハニカムユニットを接着層250を介して複数個接合させることにより構成される。例えば、図3の例では、ハニカム構造体200は、ハニカムユニット230A〜230Dの4個のハニカムユニットで構成されている。ハニカムユニット230A〜230Dは、多孔質体である。
【0046】
図4に示すように、ハニカムユニット230Aは、1/4円の略扇形状の端面214A、214Bと、3つの側面217A、218A、219Aとを有する柱状構造を有する。このうち、側面217Aと側面218Aとは、略平坦な平面を有し、側面219Aは、湾曲面を有する側面(以下、「湾曲側面」という)である。図3の例では、ハニカムユニット230B〜230Dも、ハニカムユニット230Aと同様の形状を有する。例えば、図3に示すように、ハニカムユニット230Bは、ハニカムユニット230Aの湾曲側面219Aに対応する湾曲曲面219Bを有する。
【0047】
ハニカムユニット230Aは、該ハニカムユニット230Aの長手方向に沿って端面214Aから端面214Bまで延伸し、両端面214A、214Bで開口された複数のセル222と、該セル222を区画するセル壁224とを有する。ハニカムユニット230Aは、例えば炭化珪素(SiC)を主成分とした材料で構成され、これに抵抗を低下させるため、例えば窒化アルミニウム(AlN)のような、少量の抵抗調整成分が添加されている。ハニカムユニット230Aのセル壁224には、触媒が設置されている。
【0048】
ハニカムユニット230Aの端面214Aおよび214Bから延伸する部位の周囲(以下、「端部216A」、「端部216B」と称する)には、電極260A−1、260B−1が設置されている。なお、図4の例では、電極260A−1、260B−1は、ハニカムユニット230Aの端面214A、214Bの周囲の全周(すなわち、端部216A、216B全体)にわたって設けられているが、必ずしも全周にわたって設ける必要はない。電極260A−1、260B−1は、少なくとも、ハニカムユニット230Aの湾曲側面219Aの側に設置されている。
【0049】
さらに、図5に示すように、ハニカムユニット230Aは、少なくとも電極260A−1、260B−1の直下に、それぞれ、低抵抗部分270A、270Bを有する。例えば、図4のように、電極260A−1、260B−1がハニカムユニット230Aの端部216A、216Bの全周にわたって設けられる場合、低抵抗部分270A、270Bもまた、ハニカムユニット230Aの端部216A、216Bの全周にわたって設けられる。一方、電極260A−1、260B−1がハニカムユニット230Aの湾曲側面219Aの側にのみ設置されている場合、低抵抗部分270A、270Bは、ハニカムユニット230Aの湾曲側面219Aの側にのみ設置される。
【0050】
低抵抗部分270A、270Bは、ハニカムユニット230Aの他の領域と比べて、抵抗率が小さい。また、低抵抗部分270A、270Bは、ハニカムユニット230Aの端部216A、216Bの外壁220Aを構成する気孔の一部に、金属および/または珪化物等の電気伝導性物質を充填させることにより構成される。
【0051】
なお、図5では、低抵抗部分270A、270Bは、ハニカムユニット230Aの外壁220Aの表面(すなわち電極260A−1、260B−1の最下面)から境界線BLまでの領域に充填されており、この深さD2は、30μm〜100μmの範囲であることが好ましい。しかしながら、外壁220Aの表面から境界線BLまでの深さD2の値は、外壁220Aの表面の厚さ(例えば300〜400μm)と等しくても良く、外壁220Aの表面の厚さよりも大きくても良い。
【0052】
また、低抵抗部分270A、270Bが局部的に存在することが難しい場合、端部216A、216Bの全体に、低抵抗部分270A、270Bを設けても良い。
【0053】
低抵抗部分270A、270Bに充填された電気伝導性物質の含有量(端部216Aまたは216Bの全体に対する重量比)は、特に限られないが、1wt%〜80wt%の範囲が好ましく、20wt%〜55wt%の範囲がより好ましい。
【0054】
図3を参照すれば、各ハニカムユニット230A〜230Dを組み立てて、ハニカム構造体200を構成したとき、各ハニカムユニット230A〜230Dに設置された電極260A−1、260B−1が、接着層250を介してハニカム構造体200の端部215A、215Bでつながり(連続し)、各電極260A、260Bを形成する。同様に、各ハニカムユニット230A〜230Dに設置された低抵抗部分270A、270Bは、ハニカム構造体200を構成したとき、接着層250を介してハニカム構造体200の端部215A、215Bでつながる(連続する)。
【0055】
このようなハニカム構造体200においても、前述のような本発明による効果が得られることは、当業者には明らかである。
【0056】
なお、ハニカム構造体が複数のハニカムユニットから構成される場合は、少なくとも一のハニカムユニットが本発明の特徴を備えていれば良いが、ハニカム構造体を構成する全てのハニカムユニットが本発明の特徴を備えていることが好ましい。
【0057】
ハニカム構造体を構成する全てのハニカムユニットが本発明の特徴を備えていると、前述のような本発明による効果を確実に得ることができる。
【0058】
(ハニカム構造体の詳細について)
次に、本発明によるハニカム構造体を構成する各部材の構成について、より詳しく説明する。なお、以下の記載では、主として、図3に示す構造のハニカム構造体200を構成する部材について、説明する。しかしながら、本記載の一部が図1に示す構造のハニカム構造体100についても適用できることは、当業者には明らかである。また、図3において、各ハニカムユニット230A〜230Dは、同様の構成であるため、ここでは、ハニカムユニット230Aを取り上げ、その構成を説明する。
【0059】
(ハニカムユニット)
ハニカムユニット230Aの抵抗値は、1Ω〜10Ωであることが好ましい(低抵抗部分270A、270Bを除く)。これにより、両電極260A−1、260B−1間に印加される電圧が、例えばハイブリッド型車両において通常のバッテリが有する電圧値程度であっても、ハニカム構造体200を十分に加熱することができる。なお、ハニカムユニット230Aの抵抗値が1Ωを下回ると、十分な発熱量が得られなくなる。
【0060】
例えば、炭化珪素製のハニカムユニット230Aの場合、微量の窒化アルミニウム(AlN)を母材に含有させることにより、ハニカムユニット230Aの抵抗率を比較的容易に調整することができる。
【0061】
ハニカムユニット230Aの抵抗値が10Ωを超えると、抵抗値が高すぎて、電流が流れにくくなり、ハニカムユニット230Aが発熱しない。
【0062】
上記は、ハニカムユニット230A(低抵抗部分270A、270Bを除く。すなわち、電極260A−1、260B−1を形成しない部分)について、説明を行った。すなわち、ハニカムユニット230Aは、発熱を必要とする部分である。
【0063】
次に、以下にハニカムユニット230Aの電極260A−1、260B−1について、説明する。
【0064】
ハニカムユニット230Aの電極を形成する部分は、電極の劣化を防ぐため、発熱しないことが望ましい。そのため、ハニカムユニット230Aに低抵抗部分を形成する。
【0065】
ハニカムユニット230Aの低抵抗部分270A、270Bの抵抗率は、ハニカムユニット230Aのその他の領域の抵抗率よりも小さければ、いかなる値であっても良い。例えば、ハニカムユニット230Aの低抵抗部分270A、270Bの抵抗率は、10−5Ωcm〜10−3Ωcmの範囲が好ましい。
【0066】
ハニカムユニット230Aの低抵抗部分270A、270Bの形成方法は、特に限られない。例えば、低抵抗部分270A、270Bは、ハニカムユニット230Aの先端を、後に低抵抗部分270A、270Bを形成することになる原料を含む融液、またはそのような原料を含むスラリー中に浸漬させることにより形成しても良い。
【0067】
ハニカムユニット230Aは、炭化珪素(SiC)等を主体とした無機材料で構成される。
【0068】
ハニカムユニット230Aの長手方向に対して垂直な断面の形状は、特に限定されるものではなく、いかなる形状であっても良く、例えば、略正方形、略長方形、略六角形などであっても良い。
【0069】
また、ハニカムユニット230Aのセル222の長手方向に対して垂直な断面の形状は、特に限られず、略正方形以外に、例えば略三角形、略多角形としても良い。
【0070】
ハニカムユニット230Aのセル密度は、15.5〜186個/cm(100〜1200cpsi)の範囲であることが好ましく、46.5〜170個/cm(300〜1100cpsi)の範囲であることがより好ましく、62〜155個/cm(400〜1000cpsi)の範囲であることがさらに好ましい。
【0071】
ハニカムユニット230Aの気孔率は、35%〜70%の範囲であることが好ましい。ただし、ハニカムユニット230Aの端部216A、216Bでは、一部の気孔内に電気伝導性物質が存在するため、気孔率は、より小さくなる。そのため、ハニカムユニット230Aの端部216A、216Bにおける気孔率は、0〜20%であることが好ましい。
【0072】
ハニカムユニット230Aのセル壁224の厚さは、特に限定されないが、ハニカムユニットの強度の点から望ましい下限は、0.1mmであり、ハニカム構造体の浄化性能の観点から望ましい上限は、0.4mmであることが好ましい。
【0073】
ハニカムユニット230Aのセル壁224に担持される触媒は、特に限られず、例えば、白金、ロジウム、パラジウム等が使用されても良い。これらの触媒は、アルミナ層を介して、セル壁224に担持されていても良い。
【0074】
(接着層)
ハニカム構造体200の接着層250は、接着層用ペーストを原料として形成される。接着層用ペーストは、無機粒子、無機バインダ、無機繊維、および/または有機バインダを含んでも良い。
【0075】
接着層用ペーストの無機粒子としては、炭化珪素(SiC)が望ましい。無機バインダとしては、無機ゾルや粘土系バインダ等を用いることができ、上記無機ゾルの具体例としては、例えば、アルミナゾル、シリカゾル、チタニアゾル、または水ガラス等が挙げられる。また、粘土系バインダとしては、例えば、白土、カオリン、モンモリロナイト、セピオライト、またはアタパルジャイト等が挙げられる。これらは単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0076】
これらの中では、アルミナゾル、シリカゾル、チタニアゾル、水ガラス、セピオライト、またはアタパルジャイトが望ましい。
【0077】
無機繊維の材料としては、アルミナ、シリカ、炭化珪素、シリカアルミナ、ガラス、チタン酸カリウムまたはホウ酸アルミニウム等が望ましい。これらは、単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。上記材料の中では、シリカアルミナが望ましい。
【0078】
また、有機バインダとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースなどから選ばれる1種以上が挙げられる。有機バインダの中では、カルボキシルメチルセルロースが望ましい。
【0079】
接着層250の厚さは、0.3〜2mmの範囲であることが好ましい。接着層250の厚さが0.3mm未満では、ハニカムユニットの十分な接合強度が得られなくなるためである。また接着層250の厚さが2mmを超えると、ハニカム構造体の圧力損失が大きくなる。なお、接合させるハニカムユニットの数は、ハニカム構造体の大きさに合わせて適宜選定される。
【0080】
(ハニカム構造体)
本発明のハニカム構造体の形状は、いかなる形状であっても良い。例えば、ハニカム構造体の形状は、図1、図3に示すような略円柱の他、略楕円柱、略四角柱、略多角柱等であっても良い。
【0081】
なお、図1、図3の例では、電極160Aおよび160B、電極260Aおよび260Bは、それぞれ、ハニカム構造体100、200の端部115Aおよび115B、216Aおよび216Bに設置されている。しかしながら、電極の設置位置は、これに限られるものではなく、電極は、ハニカム構造体の外周面のいかなる場所に設置されても良い。
【0082】
(ハニカム構造体の作製方法)
次に、本発明のハニカム構造体の作製方法を簡単に説明する。
【0083】
(ハニカムユニットの作製)
まず、炭化珪素(SiC)を含む無機粒子、無機バインダを主成分とし、さらに必要に応じて無機繊維を添加した原料ペーストを用いて押出成形等を行い、ハニカムユニット成形体を作製する。なお、ハニカムユニットの抵抗率調整のため、原料ペースト中には、さらに、適量の窒化アルミニウム(AlN)等を添加しても良い。
【0084】
原料ペーストには、これらの他に有機バインダ、分散媒および成形助剤を成形性にあわせて適宜加えてもよい。有機バインダとしては、特に限定されるものではないが、例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコール、フェノール樹脂およびエポキシ樹脂等から選ばれる1種以上の有機バインダが挙げられる。有機バインダの配合量は、無機粒子、無機バインダおよび無機繊維の合計100重量部に対して、1〜10重量部が好ましい。
【0085】
分散媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、水、有機溶媒(ベンゼンなど)およびアルコール(メタノールなど)などを挙げることができる。成形助剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸、脂肪酸石鹸およびポリアルコール等を挙げることができる。
【0086】
原料ペーストは、特に限定されるものではないが、混合および混練することが好ましく、例えば、ミキサーやアトライタなどを用いて混合してもよく、ニーダーなどで十分に混練してもよい。原料ペーストを成形する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、押出成形などによってセルを有する形状に成形することが好ましい。
【0087】
次に、得られた成形体は、乾燥することが好ましい。乾燥に用いる乾燥機は、特に限定されるものではないが、マイクロ波乾燥機、熱風乾燥機、誘電乾燥機、減圧乾燥機、真空乾燥機および凍結乾燥機などが挙げられる。また、得られた乾燥された成形体は、脱脂することが好ましい。脱脂する条件は、特に限定されず、成形体に含まれる有機物の種類や量によって適宜選択するが、おおよそ400℃、2時間が好ましい。更に、得られた成形体は、焼成することが好ましい。焼成条件としては、特に限定されるものではないが、おおよそ2700℃が好ましい。
【0088】
(低抵抗部分の形成)
次に、各ハニカムユニットの両端部に、低抵抗部分を形成する。低抵抗部分は、前述のように、後に低抵抗部分を形成することになる原料を含む融液、またはそのような原料を含むスラリー中にハニカムユニットを浸漬させることにより形成することができる。浸漬処理後のハニカムユニットは、熱処理され、これにより、ハニカムユニットの気孔内に金属および/またはシリサイド化合物等の導電性物質が定着される。
【0089】
例えば、低抵抗部分に充填される電気伝導性物質として、シリコンを選定した場合、シリコン粒子と、有機バインダと、水とを含むスラリーが調製される。また、このスラリー中に、ハニカムユニットの端部を浸漬した後、ハニカムユニットを1500℃、Ar雰囲気下で1時間熱処理する。これにより、ハニカムユニットの端部全体にわたり、ハニカムユニットの気孔中にシリコンが充填され、低抵抗部分を形成することができる。
【0090】
また、低抵抗部分に充填される電気伝導性物質として、ニッケルシリサイドを選定した場合、シリコン粒子と、ニッケル粒子と、有機バインダと、水とを含むスラリーが調製される。次に、このスラリー中に、ハニカムユニットの端部を浸漬した後、ハニカムユニットを900℃、窒素雰囲気下で1時間熱処理する。これにより、ハニカムユニットの端部全体にわたり、ハニカムユニットの気孔中にニッケルシリサイドが充填され、低抵抗部分を形成することができる。
【0091】
(ハニカム構造体の組み立て)
その後、各ハニカムユニットのセル壁に、触媒が担持される。
【0092】
次に、以上の工程で得られたハニカムユニットの側面に、後に接着層となる接着層用ペーストを均一な厚さで塗布した後、この接着層用ペーストを介して、順次他のハニカムユニットを積層する。この工程を繰り返し、所望の寸法のハニカム構造体を作製する。
【0093】
次にこのハニカム構造体を加熱して、接着層用ペーストを乾燥して、固化させて、接着層を形成させるとともに、ハニカムユニット同士を固着させる。
【0094】
複数のハニカムユニットを接着層によって接合させた後に、このハニカム構造体を脱脂することが好ましい。この処理により、接着層用のペーストに有機バインダが含まれている場合、これらの有機バインダを脱脂除去することができる。脱脂条件は、含まれる有機物の種類や量によって適宜選定されるが、700℃、2時間程度が好ましい。
【0095】
次に、ハニカム構造体の両端部に、ハニカムユニットの低抵抗部分と接するようにして、リング状電極端子を設置する。
【0096】
以上の工程により、ハニカム構造体を作製することができる。
【符号の説明】
【0097】
100 ハニカム構造体
110A、110B 端面
115A、115B 端部
120 外壁
122 セル
124 セル壁
160A、160B 電極
170A、170B 低抵抗部分
200 ハニカム構造体
210A、210B 端面
214A、214B ハニカムユニットの端面
215A、215B ハニカム構造体の端面
216A、216B ハニカムユニットの端部
217A ハニカムユニットの側面
218A ハニカムユニットの側面
219A ハニカムユニットの湾曲側面
220 側面
220A ハニカムユニットの外壁
222 セル
224 セル壁
230 ハニカムユニット
230A〜230D ハニカムユニット
250 接着層
260A−1、260B−1 電極
270A、270B 低抵抗部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の貫通孔がセル壁を隔てて長手方向に並設された導電性を有する少なくとも一のハニカムユニットを含むハニカム構造体であって、
前記少なくとも一のハニカムユニットは、一対の電極を有し、前記電極が形成されている直下の前記セル壁に存在する気孔に、前記少なくとも一のハニカムユニットを構成する材料よりも電気抵抗率の低い物質が充填されていることを特徴とするハニカム構造体。
【請求項2】
前記電気抵抗率の低い物質は、金属および珪化物の少なくとも一つを有することを特徴とする請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
前記少なくとも一のハニカムユニットの長手方向に垂直な方向の断面の周囲を囲むようにして、前記電極が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
前記少なくとも一のハニカムユニットは、外周を構成する外周壁と、前記少なくとも一のハニカムユニットの貫通孔を隔てる内側壁から構成されており、
前記外周壁の外周表面には、前記電極が形成され、
前記内側壁は、前記電極が形成された外周壁と電気的に接続し、
前記内側壁に存在する気孔には、前記少なくとも一のハニカムユニットを構成する材料よりも電気抵抗率の低い物質が充填されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載のハニカム構造体。
【請求項5】
前記少なくとも一のハニカムユニットの前記外周壁および/または前記内周壁に前記少なくとも一のハニカムユニットを構成する材料よりも電気抵抗率の低い物質が充填された範囲は、前記電極の長手方向の幅よりも広くなっていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載のハニカム構造体。
【請求項6】
前記導電性を有する少なくとも一のハニカムユニットは、前記一対の電極間の抵抗値が1〜10Ωの範囲であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載のハニカム構造体。
【請求項7】
当該ハニカム構造体は、接着層を介して接続された複数のハニカムユニットで構成されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載のハニカム構造体。
【請求項8】
前記電極は、溶射またはスパッタにより形成されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載のハニカム構造体。
【請求項9】
前記少なくとも一のハニカムユニットのセル壁には、触媒が付与されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一つに記載のハニカム構造体。
【請求項10】
前記触媒は、白金、ロジウムまたはパラジウムであり、アルミナ層を介して付与されていることを特徴とする請求項9に記載のハニカム構造体。
【請求項11】
前記少なくとも一のハニカムユニットは、炭化珪素を主成分とすることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一つに記載のハニカム構造体。
【請求項12】
前記金属は、シリコンである請求項2に記載のハニカム構造体。
【請求項13】
前記珪化物は、ニッケルシリサイドである請求項2に記載のハニカム構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−230114(P2011−230114A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37648(P2011−37648)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】