説明

ハフニウムコーティング膜の形成方法及び薄膜作製装置

【課題】被コーティング部材を石英とする場合においてハフニウムコーティング膜を作製し得るハフニウムコーティング膜の形成方法を提供する。
【解決手段】ハフニウムを含む材料で形成した被エッチング部材11にハロゲンガスのラジカルを作用させることによりハフニウムとハロゲンとの化合物である前駆体24のガスを形成する一方、石英の表面にシリコン膜16を形成した被コーティング部材3をチャンバ1内に収納した状態でその温度を被エッチング部材11よりも低温に保持することにより前駆体24をシリコン膜16の表面に吸着させ、その後シリコン膜16に吸着させた前駆体24にハロゲンラジカルを作用させてこの前駆体24を還元するとともにシリコン膜16のシリサイド化を進行させことによりハフニウムシリサイドを含むコーティング膜を被コーティング部材3に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハフニウムコーティング膜の形成方法及び薄膜作製装置に関し、特にハロゲンガス等、化学的に活性なガスに晒される雰囲気の部材に対する安定したコーティング膜を形成する場合に用いて有用なものである。
【背景技術】
【0002】
ハフニウムは化学的な耐性に優れているため、その安定なコーティング膜を形成することができれば被コーティング部材の耐食性を向上させることができる。
【0003】
ところが、従来技術においてはハフニウムによる有用なコーティング膜の形成技術は提案されていない。ちなみに、石英を被コーティング部材とする場合、ハフニウムシリケートをCVD法で被コーティング部材に付着させてコーティング膜とすることが考えられるが、かかるコーティング膜はすぐに剥離してしまい安定性に欠ける結果、実用化は困難である。
【0004】
一方、被コーティング部材を石英とする場合、その表面部分をハフニウムシリサイドとすることによりハフニウムコーティング膜を形成することが考えられる。ここで、従来におけるシリサイド膜の製造は、母材となるシリコンの表面に金属を成膜した後、さらに高温雰囲気に晒すことにより熱拡散によりシリコンと金属の合金化を行うことで実現されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
ところが、かかる熱拡散法では高温処理工程を必ず伴うので、容易にコーティング膜を作製することができるとは言いがたい。
【0006】
【特許文献1】特開2006−186285号公報
【特許文献2】特開2003−147534号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術に鑑み、被コーティング部材を石英とする場合においてハフニウムの安定したコーティング膜を作製し得るハフニウムコーティング膜の形成方法及びこれを有する薄膜作製装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
現在、半導体の製造等において基板に金属膜を作成する方法として、ハロゲンラジカルを利用し、金属をハロゲン化して再び還元し堆積させる技術(以下、MCR−CVD法(塩化金属還元気相成長法)という。)が本発明者等によって提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
具体的には、金属(M)製の被エッチング部材が備えられたチャンバ内にハロゲンガスを供給し、誘導プラズマを発生させてハロゲンガスプラズマを発生させ、ハロゲンラジカルを生成する。その後、ハロゲンラジカルで被エッチング部材をエッチングすることにより被エッチング部材に含まれる金属成分とハロゲンガス成分との前駆体を生成し、被エッチング部材よりも低い温度の基板上において、前駆体をハロゲンラジカルにより還元し、金属成分を基板表面に吸着させる方法である。
【0010】
かかる一連の反応はハロゲンを塩素とした場合、次式の様に示される。
(1)プラズマの解離反応;Cl2→2Cl*
(2)エッチング反応;M+Cl*→MCl(g)
(3)基板への吸着反応;MCl(g)→MCl(ad)
(4)成膜反応;MCl(ad)+Cl*→M+Cl2
式中のCl*は塩素ラジカル、(g)はガス状態、(ad)は吸着状態を示す。金属Mにはハロゲン化物を作る物質(銅など)が使用される。
【0011】
かかる、MCR−CVD法によれば、熱拡散によるシリサイド化では期待し得ない低温域であってもハフニウムシリサイドを容易に形成し得るのではないかという着想を得た。
【0012】
本発明はかかる着想を基礎とするものである。すなわち、上記目的を達成する本発明の第1の態様は、
真空容器であるチャンバの内部に配設するとともにハフニウムを含む材料で形成した被エッチング部材にハロゲンガスのラジカルを作用させることにより前記ハフニウムとハロゲンとの化合物である前駆体のガスを形成する一方、
石英の表面にシリコン膜を形成した被コーティング部材を前記チャンバ内に収納した状態でその温度を前記被エッチング部材よりも低温に保持することにより前記前駆体を前記シリコン膜の表面に吸着させ、
その後前記シリコン膜に吸着させた前記前駆体に前記ハロゲンガスのラジカルを作用させてこの前駆体を還元するとともに前記シリコン膜のシリサイド化を進行させることによりハフニウムシリサイドを含むコーティング膜を前記被コーティング部材に形成することを特徴とするハフニウムコーティング膜の形成方法にある。
【0013】
本発明の第2の態様は、
内周面にシリコン膜を形成した石英を材料とする真空容器であるチャンバの内部にハフニウムを含む材料で形成した被エッチング部材を配設するとともに前記被エッチング部材にハロゲンガスのラジカルを作用させることにより前記ハフニウムとハロゲンとの化合物である前駆体のガスを形成する一方、
前記チャンバの温度を前記被エッチング部材よりも低温に保持することにより前記前駆体を前記シリコン膜の表面に吸着させ、
その後前記シリコン膜に吸着させた前記前駆体に前記ハロゲンガスのラジカルを作用させてこの前駆体を還元するとともに前記シリコン膜のシリサイド化を進行させることによりハフニウムシリサイドを含むコーティング膜を前記チャンバの内周面に形成することを特徴とするハフニウムコーティング膜の形成方法にある。
【0014】
本発明の第3の態様は、
石英の表面にシリコン膜を形成した部品を真空容器であるチャンバの内部に配設するとともに、ハフニウムを含む材料で形成した被エッチング部材を前記チャンバ内に配設してハロゲンガスのラジカルを作用させることにより前記ハフニウムとハロゲンとの化合物である前駆体のガスを形成する一方、
前記部品の温度を前記被エッチング部材よりも低温に保持することにより前記前駆体を前記シリコン膜の表面に吸着させ、
その後前記シリコン膜に吸着させた前記前駆体に前記ハロゲンガスのラジカルを作用させてこの前駆体を還元するとともに前記シリコン膜のシリサイド化を進行させることによりハフニウムシリサイドを含むコーティング膜を前記部品に形成することを特徴とするハフニウムコーティング膜の形成方法にある。
【0015】
本発明の第4の態様は、
上記第1乃至第3の態様の何れか一つに記載するハフニウムコーティング膜の形成方法において、
前記コーティング膜は、前記シリコン膜に対するハフニウム成分の置換拡散の度合いを制御することによりシリコン膜の下層を残した状態のままでその上層部分をハフニウムシリサイドを含む膜としたことを特徴とするハフニウムコーティング膜の形成方法にある。
【0016】
本発明の第5の態様は、
上記第1乃至第3の態様の何れか一つに記載するハフニウムコーティング膜の形成方法において、
前記シリコン膜は多結晶シリコン膜であることを特徴とするハフニウムコーティング膜の形成方法にある。
【0017】
本発明の第6の態様は、
上記第4の態様に記載するハフニウムコーティング膜の形成方法において、
前記シリコン膜は非晶質シリコン膜であることを特徴とするハフニウムコーティング膜の形成方法にある。
【0018】
本発明の第7の態様は、
上記第1乃至第6の態様の何れか一つに記載するハフニウムコーティング膜の形成方法において、
前記コーティング膜は、酸素ガス雰囲気で行うことを特徴とするハフニウムコーティング膜の形成方法にある。
【0019】
本発明の第8の態様は、
上記第1乃至第6の態様の何れか一つに記載するハフニウムコーティング膜の形成方法において、
前記コーティング膜は、酸素ガス及び窒素ガスを含む混合ガスの雰囲気で行うことを特徴とするハフニウムコーティング膜の形成方法にある。
【0020】
本発明の第9の態様は、
真空容器であるチャンバの内部において、ハロゲンを含有する作用ガスをプラズマ化して得るハロゲンラジカルで、ハロゲン化物を生成し得る元素を含む材料で形成した被エッチング部材をエッチングして前記元素とハロゲンとからなる前駆体を形成する一方、この前駆体を前記被エッチング部材の温度よりも低温の基板に吸着させ、その後前記前駆体を前記ハロゲンラジカルで還元して前記元素成分を析出させることにより所定の薄膜を形成する薄膜作製装置であって、
前記チャンバは、第2の態様に記載するコーティング膜の形成方法によりハフニウムコーティング膜を形成したものであることを特徴とする薄膜作製装置にある。
【0021】
本発明の第10の態様は、
真空容器であるチャンバの内部において、ハロゲンを含有する作用ガスをプラズマ化して得るハロゲンラジカルで、ハロゲン化物を生成し得る元素を含む材料で形成した被エッチング部材をエッチングして前記元素とハロゲンとからなる前駆体を形成する一方、この前駆体を前記被エッチング部材の温度よりも低温の基板に吸着させ、その後前記前駆体を前記ハロゲンラジカルで還元して前記元素成分を析出させることにより所定の薄膜を形成する薄膜作製装置であって、
前記チャンバ内に配設される部品は、第3の態様に記載するコーティング膜の形成方法によりハフニウムコーティング膜を形成したものであることを特徴とする薄膜作製装置にある。
【0022】
本発明の第11の態様は、
真空容器であるチャンバの内部において、ハロゲンを含有する作用ガスをプラズマ化して得るハロゲンラジカルで、ハロゲン化物を生成し得る元素を含む材料で形成した被エッチング部材をエッチングして前記元素とハロゲンとからなる前駆体を形成する一方、この前駆体を前記被エッチング部材の温度よりも低温の基板に吸着させ、その後前記前駆体を前記ハロゲンラジカルで還元して前記元素成分を析出させることにより所定の薄膜を形成する薄膜作製装置であって、
前記チャンバ又は前記チャンバ内に配設される部品が、第6の態様に記載するハフニウムコーティング膜の形成方法によりコーティング膜を形成されたものであることを特徴とする薄膜作製装置にある。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、良好な密着性を確保して一体となっている被コーティング部材である石英の表面に形成されたシリコン膜を、250℃乃至300℃程度の低温域においてハフニウムでシリサイド化することができ、このことにより前記シリコン膜をハフニウムシリサイドを含むハフニウムコーティング膜とすることができる。そして、このときのコーティング膜の石英に対する密着性は石英に対するシリコン膜の密着性として確保されているので、コーティング膜の密着性も長期に亘り安定したものとなり、良好に維持される。
【0024】
特に、化学的に活性なハロゲンガスを用いるMCR−CVD法において、ハロゲンガスに晒されるチャンバの内周面やサセプタ等、チャンバ内に配設される部品にハフニウムコーティングを施すことによりこれらの各部分の耐食性を長期に亘り安定的なものとすることができる。
【0025】
さらに、シリコン膜を非晶質シリコン膜で形成するとともに、その下層を残した状態のままでその上層部分をハフニウムシリサイドを含むコーティング膜とした場合には、コーティング膜と非晶質の石英との間に介在される非晶質シリコン膜がコーティング膜の応力緩和層として機能するので、その分密着性が向上し、熱膨張等によるハフニウムコーティング膜の破壊乃至剥離等を有効に防止し得る。すなわち、石英は非晶質であるため、これと直接接触する膜は非晶質である場合の方が密着性が良い。加えて、このときの非晶質シリコン膜とコーティング膜との境界部分ではコーティング膜に向かってシリコン膜が徐々に結晶化しているので、この境界部分での応力の発生を可及的に低減することでも良好な密着性を確保し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。なお、本実施の形態の説明は例示であり、本発明の構成は以下の説明に限定されない。
【0027】
<第1の実施の形態>
図1は本発明の第1の実施の形態に係るハフニウムコーティング膜の形成方法を実現する装置(MCR−CVD装置)の概略を示す正面図である。本形態に係る方法の説明に先立ち、この装置について説明しておく。
【0028】
図1に示すように、例えば石英を材料として円筒状に形成されたチャンバ1の底部近傍には支持台2が設けられ、支持台2には石英で形成した被コーティング部材3が載置されている。この被コーティング部材3の上面には予めシリコン膜16が形成してある。
【0029】
支持台2にはヒータ4及び冷媒流通手段5を備えた温度制御手段6が設けられている。ここで、支持台2は温度制御手段6により所定温度(例えば、被コーティング部材3が250℃乃至300℃に維持される温度)に制御される。
【0030】
チャンバ1の上面は開口部とされ、開口部は絶縁材料製の板状の天井板7によって塞がれている。天井板7の上方にはチャンバ1の内部をプラズマ化するためのプラズマアンテナ8が設けられ、プラズマアンテナ8は天井板7の面と平行な平面リング状に形成されている。プラズマアンテナ8には整合器9及び電源10が接続されて高周波電流が供給される。これら、プラズマアンテナ8、整合器9及び電源10により誘導プラズマを発生させるプラズマ発生手段が構成されている。
【0031】
チャンバ1にはハフニウムを含む材料で形成した被エッチング部材11が保持され、この被エッチング部材11はプラズマアンテナ8の電気の流れに対して被コーティング部材3と天井板7との間に不連続状態で配置されている。例えば、被エッチング部材11は、棒状の突起部12とリング部13とからなり、突起部12がチャンバ1の中心側に延びるようにリング部13が設けられている。これにより、被エッチング部材11はプラズマアンテナ8の電気の流れ方向である周方向に対して構造的に不連続な状態とされている。
【0032】
なお、プラズマアンテナ8の電気の流れに対して不連続状態にする構成としては、被エッチング部材を格子状に形成したり、網目状に形成する等の態様が考えられる。
【0033】
被エッチング部材11の上方におけるチャンバ1の筒部の周囲にはチャンバ1の内部にハロゲンである塩素を含有する作用ガス(Clガス)21を供給するノズル14が周方向に等間隔で複数(例えば8箇所:図には2箇所を示してある)接続されている。ノズル14には流量及び圧力が制御される流量制御器15を介してClガス21が送られる。流量制御器15によりチャンバ1内に供給されるClガス21の量を制御することで、チャンバ1内のガスプラズマ密度を制御している。
【0034】
なお、反応に関与しないガス等は排気口18から排気され、天井板7によって塞がれたチャンバ1の内部は真空装置19によって真空引きすることにより所定の真空度に維持される。
【0035】
ここで、作用ガスに含有されるハロゲンとしては、フッ素、臭素及びヨウ素等を適用することが可能である。ただ、本形態ではハロゲンとして安価なClガスを用いたことによりランニングコストの低減を図ることができる。
【0036】
かかる装置を使用して、被コーティング部材3上にハフニウムシリサイドを含むコーティング膜を形成する場合には、予めシリコン膜16を形成した被コーティング部材3を支持台2上に載置する。かかる状態でノズル14からClガス21をチャンバ1内に供給するとともに、プラズマアンテナ8から高周波電磁波をチャンバ1の内に入射させることで、Clガス21をイオン化してガスプラズマ23を発生させ、Clラジカルを生成する。
【0037】
ここで、ガスプラズマ23が被エッチング部材11に作用することにより、被エッチング部材11を加熱すると共に、被エッチング部材11にエッチング反応を生じさせる。このエッチング反応により被エッチング部材11の材料であるハフニウムと塩素との化合物であるガス状の前駆体24が形成される。
【0038】
前駆体24は、前記被エッチング部材11よりも低温部となっている被コーティング部材3の表面のシリコン膜16に吸着される。この吸着状態の前駆体24には塩素ラジカルが作用して還元するとともにハフニウムによるシリコン膜16のシリサイド化が進行する。この結果、被コーティング部材3上には被エッチング部材11の材料であるハフニウムに基づくハフニウムシリサイドを含むコーティング膜が被コーティング部材3に形成される。
【0039】
ここで、シリコン膜16としては多結晶シリコン膜乃至単結晶シリコン膜の何れの膜も用いることはできるが、多結晶シリコン膜の方がより望ましい。単結晶シリコン膜に較べ、粒界が多い分、ハフニウムがシリコン膜16内に浸透し易く、シリサイド化が容易且つ良好に行なわれる結果、安定したコーティング膜を得ることができるからである。
【0040】
また、シリサイド化の際、チャンバ1内に酸素ガス乃至酸素ガスと窒素ガスとを供給しても良く、この場合にはコーティング膜はHfSiO、HfSiONを含有することとなり、耐食性をさらに向上させることができる。
【0041】
図1において、被コーティング部材3は平板状の形状のものとして記載しているが、勿論平板状のものに限る必要はない。被コーティング部材3の温度制御を所定の温度に制御することで円筒状部材等、種々の形状の被コーティング部材3にハフニウムシリサイドを含む耐食性に優れるコーティング膜を形成することができる。
【0042】
図2は石英の表面に形成したハフニウムシリサイド膜の特性を説明するための図で、横軸に表面からの膜の深さを採り、縦軸にシリコン内金属濃度を採って示してある。また、図2(a)はシリサイド化前の状態、図2(b)はシリサイド化後の状態をそれぞれ示している。図2(a)に示すように、石英の表面に形成した多結晶シリコン膜にMCR−CVD法によりハフニウム膜を形成してシリサイド化を図った場合、図2(b)に示すように、中央部の濃度が最も大きいHfSiO膜が得られた。また、HfSiO成分は石英との界面で石英内への拡散を止められている。すなわち、本形態によればシリコン膜の深さ方向の中央部でハフニウム濃度が最大となるとともに、石英との界面でそれ以上の拡散が停止されるハフニウムシリサイドを含有するコーティング膜を得ることができる。
【0043】
かかる特性からも明らかな通り、予めシリコン膜(好ましくは多結晶シリコン膜)を成膜した石英基板にMCR−CVD法によりハフニウム薄膜を成膜すると、例えば300℃程度の低い温度での成膜が可能であり、このときの成膜温度以外の成膜条件、例えばガス流量乃至プラズマ密度等を調整することで、その低い成膜温度のままでハフニウム薄膜を成膜しながら、同時にシリコンと反応させてシリサイド化合物を形成していくことが可能となる。また、成膜条件を調整することで、シリコン膜内の金属(ハフニウム)濃度を容易に調整し得る。
【0044】
図3は、図2に示す本発明の実施の形態と対比させるため、従来の熱拡散により石英の表面に金属シリサイド膜を形成した場合の特性を説明するための図で、横軸に表面からの膜の深さを採り、縦軸にシリコン内金属濃度を採って示してある。また、図3(a)は熱拡散前で、且つ金属成膜前の状態、図3(b)は熱拡散前で、且つ金属成膜後の状態、図3(c)は熱拡散後の状態をそれぞれ示している。図3(a)に示す状態で、例えばスパッタによりシリコン膜の表面に金属薄膜を形成すると図3(b)に示す状態となる。かかる状態で、例えば800℃で5分間加熱すると、図3(c)に示すように熱拡散により金属濃度は図中に点線で示すような濃度となる。すなわち、シリコン膜の表層の濃度が最も大きく、深さ方向で漸減するとともに、石英層を突き抜けてさらに下層にまで拡散している。
【0045】
かかる特性からも明らかな通り、熱拡散による場合は、高温雰囲気での処理であるというばかりでなく、シリコン層における金属濃度の制御が困難であり、しかも望まない領域である石英層及びさらにその下層にまで拡散してしまうという問題がある。すなわち、シリサイド膜を形成する場合の制御性を良好に保持することが困難であるという致命的な欠点を有している。
【0046】
<第2の実施の形態>
本形態にかかるコーティング膜は、非晶質の石英で形成した被コーティング部材との間に応力緩和層を有している。さらに詳言すると、図4に示すように、非晶質シリコン膜を前記石英上に形成するとともに、前記非晶質シリコン膜に対するハフニウム成分の置換拡散の度合いを制御しつつコーティングすることにより非晶質シリコン膜の下層を残した状態のままでその上層部分をハフニウムシリサイド膜とする。このことにより下層の非晶質シリコン膜を応力緩和層として機能させている。
【0047】
かかるコーティング膜の形成方法は次の通りである。先ず被コーティング膜(石英)上に非晶質シリコン膜を、第1の実施の形態に係る場合よりも厚く形成する。かかる非晶質シリコン膜は、例えば図1に示すMCR−CVD装置で好適に形成し得る。一般に、CVD装置を用いて非晶質のシリコン膜を形成する場合には、そうではないシリコン膜を形成する場合よりも成膜温度を低目に設定するとともに、圧力を高目に設定すれば良い。
【0048】
続いて、前記非晶質シリコン膜に対するハフニウム成分の置換拡散の度合いを制御することにより非晶質シリコン膜の下層を残した状態のままでその上層部分をハフニウムシリサイドを含む膜とする。これも図1に示すMCR−CVD装置で好適に形成し得る。ここで、ハフニウム成分の置換拡散の度合いの制御は成膜時間等の成膜条件を調整することにより容易に実現し得る。
【0049】
ここで、非晶質シリコン膜の膜厚は、第1の実施の形態で形成するシリコン膜の膜厚よりも厚く形成する。この場合の膜厚の増加分は応力緩和層の厚みに対応させておくのが好適である。このことにより、ハフニウムコーティング膜としての機械的な強度を確保した上で、応力緩和層も形成することができる。また、本形態における石英は非晶質であるため、これと直接接触する膜は非晶質である場合の方が密着性が良い。加えて、このときの非晶質シリコン膜とコーティング膜との境界部分ではコーティング膜に向かってシリコン膜が徐々に結晶化しているので、この境界部分での応力の発生を可及的に低減することができる。
【0050】
なお、図1に示すMCR−CVD装置を用いたシリサイド化の際、チャンバ1内に酸素ガス乃至酸素ガスと窒素ガスとを供給しても良く、この場合には、第1の実施の形態の場合と同様に、コーティング膜はHfSiO、HfSiONを含有することとなり、耐食性をさらに向上させることができる。
【0051】
<他の実施の形態>
前述の如く本発明における被コーティング部材3は石英の表面にシリコン膜を成膜したものであれば特別な制限はない。したがって、図1に示す装置のチャンバ1乃至チャンバ1内に配設されている支持台2、ノズル14等の部品も石英の表面にシリコン膜を成膜したものであれば被コーティング部材となり得る。
【0052】
ちなみに、チャンバ1の内周面にハフニウムシリサイドを含むコーティング膜を形成する場合には、内周面にシリコン膜を形成した石英を材料とするチャンバ1の内部にハフニウムを含む材料で形成した被エッチング部材11を配設してMCR−CVD法を実施する。すなわち、かかる状態で被エッチング部材11にハロゲン(塩素)ガスのラジカルを作用させることによりハフニウムとハロゲンとの化合物である前駆体24のガスを形成する一方、チャンバ1の温度を被エッチング部材11よりも低温に保持することにより前駆体24をチャンバ1のシリコン膜の表面に吸着させ、その後チャンバ1のシリコン膜に吸着させた前駆体24にハロゲンガスのラジカルを作用させてこの前駆体24を還元するとともにチャンバ1のシリコン膜のシリサイド化を進行させることによりハフニウムシリサイドを含むコーティング膜をチャンバ1の内周面に形成する。
【0053】
このとき前記シリコン膜を非結晶シリコン膜とし、しかもシリサイド化の際、非晶質シリコン膜に対するハフニウム成分の置換拡散の度合いを制御することにより非晶質シリコン膜による応力緩和層を形成することができる。
【0054】
一方、チャンバ1の内部に配設されている支持台2、ノズル14等の部品の表面にハフニウムシリサイドを含むコーティング膜を形成する場合には、これらの部品を石英で形成するとともにその表面にシリコン膜を成膜した状態でチャンバ1内に配設してMCR−CVD法を実施する。すなわち、かかる状態で被エッチング部材11にハロゲン(塩素)ガスのラジカルを作用させることによりハフニウムとハロゲンとの化合物である前駆体24のガスを形成する一方、前記部品の温度を被エッチング部材11よりも低温に保持することにより前駆体24を各部品のシリコン膜の表面に吸着させ、その後シリコン膜に吸着させた前駆体24にハロゲンガスのラジカルを作用させてこの前駆体24を還元するとともに各部品のシリコン膜のシリサイド化を進行させることによりハフニウムシリサイドを含むコーティング膜を各部品に形成する。
【0055】
この場合も、前記シリコン膜を非結晶シリコン膜とし、シリサイド化の際、非晶質シリコン膜に対するハフニウム成分の置換拡散の度合いを制御することにより非晶質シリコン膜による応力緩和層を形成することができる。
【0056】
なお、チャンバ1の内周面とチャンバ1内の各部品に対するコーティング膜を同時に形成することも勿論可能である。
【0057】
上述の如きハフニウムシリサイドを含むコーティング膜を形成したMCR−CVD装置は、化学的に活性なハロゲンガス乃至ハロゲンラジカルに晒される雰囲気下で所定の成膜プロセス等を実施する必要があるので、前記コーティング膜が存在することによる耐食性の向上は顕著なものとなる。
【0058】
また、図1に示す装置においては、チャンバ1内でハロゲンガスをプラズマ化することによりそのラジカルを形成したが、ラジカルの形成方法はこれに限る必要はない。例えば次のような方法によっても形成し得る。
1) チャンバ1内に連通する筒状の通路を流通するハロゲンガスに高周波の電界を作用させてこのハロゲンガスをプラズマ化する。
2) チャンバ1内に連通する筒状の通路を流通するハロゲンガスにマイクロ波を供給してこのハロゲンガスをプラズマ化する。
3) チャンバ1内に連通する筒状の通路を流通するハロゲンガスを加熱して熱的解離する。
4) チャンバ1内に連通する筒状の通路を流通するハロゲンガスに電磁波又は電子線を供給してこのハロゲンガスを解離させる。
5) チャンバ1内に連通する筒状の通路を流通するハロゲンガスを、触媒作用により解離させる触媒金属に接触させる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は半導体デバイスを製造するため装置等の製造、販売に関する産業分野で利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るハフニウムコーティング膜の形成方法に使用する装置の概略を示す正面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態における石英の表面に形成したハフニウムシリサイド膜の特性を説明するための図で、(a)はシリサイド化前の状態、(b)はシリサイド化後の状態をそれぞれ示している。
【図3】従来の熱拡散により石英の表面に金属シリサイド膜を形成した場合の特性を説明するための図で、(a)は熱拡散前で、且つ金属成膜前の状態、(b)は熱拡散前で、且つ金属成膜後の状態、(c)は熱拡散後の状態をそれぞれ示している。
【図4】本発明の第2の実施の形態における石英の表面に応力緩和層を形成したハフニウムシリサイド膜を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0061】
1 チャンバ
3 被コーティング部材
8 プラズマアンテナ
11 被エッチング部材
16 シリコン膜
21 作用ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器であるチャンバの内部に配設するとともにハフニウムを含む材料で形成した被エッチング部材にハロゲンガスのラジカルを作用させることにより前記ハフニウムとハロゲンとの化合物である前駆体のガスを形成する一方、
石英の表面にシリコン膜を形成した被コーティング部材を前記チャンバ内に収納した状態でその温度を前記被エッチング部材よりも低温に保持することにより前記前駆体を前記シリコン膜の表面に吸着させ、
その後前記シリコン膜に吸着させた前記前駆体に前記ハロゲンガスのラジカルを作用させてこの前駆体を還元するとともに前記シリコン膜のシリサイド化を進行させることによりハフニウムシリサイドを含むコーティング膜を前記被コーティング部材に形成することを特徴とするハフニウムコーティング膜の形成方法。
【請求項2】
内周面にシリコン膜を形成した石英を材料とする真空容器であるチャンバの内部にハフニウムを含む材料で形成した被エッチング部材を配設するとともに前記被エッチング部材にハロゲンガスのラジカルを作用させることにより前記ハフニウムとハロゲンとの化合物である前駆体のガスを形成する一方、
前記チャンバの温度を前記被エッチング部材よりも低温に保持することにより前記前駆体を前記シリコン膜の表面に吸着させ、
その後前記シリコン膜に吸着させた前記前駆体に前記ハロゲンガスのラジカルを作用させてこの前駆体を還元するとともに前記シリコン膜のシリサイド化を進行させることによりハフニウムシリサイドを含むコーティング膜を前記チャンバの内周面に形成することを特徴とするハフニウムコーティング膜の形成方法。
【請求項3】
石英の表面にシリコン膜を形成した部品を真空容器であるチャンバの内部に配設するとともに、ハフニウムを含む材料で形成した被エッチング部材を前記チャンバ内に配設してハロゲンガスのラジカルを作用させることにより前記ハフニウムとハロゲンとの化合物である前駆体のガスを形成する一方、
前記部品の温度を前記被エッチング部材よりも低温に保持することにより前記前駆体を前記シリコン膜の表面に吸着させ、
その後前記シリコン膜に吸着させた前記前駆体に前記ハロゲンガスのラジカルを作用させてこの前駆体を還元するとともに前記シリコン膜のシリサイド化を進行させることによりハフニウムシリサイドを含むコーティング膜を前記部品に形成することを特徴とするハフニウムコーティング膜の形成方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載するハフニウムコーティング膜の形成方法において、
前記コーティング膜は、前記シリコン膜に対するハフニウム成分の置換拡散の度合いを制御することによりシリコン膜の下層を残した状態のままでその上層部分をハフニウムシリサイドを含む膜としたことを特徴とするハフニウムコーティング膜の形成方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載するハフニウムコーティング膜の形成方法において、
前記シリコン膜は多結晶シリコン膜であることを特徴とするハフニウムコーティング膜の形成方法。
【請求項6】
請求項4に記載するハフニウムコーティング膜の形成方法において、
前記シリコン膜は非晶質シリコン膜であることを特徴とするハフニウムコーティング膜の形成方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れか一つに記載するハフニウムコーティング膜の形成方法において、
前記コーティング膜は、酸素ガス雰囲気で行うことを特徴とするハフニウムコーティング膜の形成方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項6の何れか一つに記載するハフニウムコーティング膜の形成方法において、
前記コーティング膜は、酸素ガス及び窒素ガスを含む混合ガスの雰囲気で行うことを特徴とするハフニウムコーティング膜の形成方法。
【請求項9】
真空容器であるチャンバの内部において、ハロゲンを含有する作用ガスをプラズマ化して得るハロゲンラジカルで、ハロゲン化物を生成し得る元素を含む材料で形成した被エッチング部材をエッチングして前記元素とハロゲンとからなる前駆体を形成する一方、この前駆体を前記被エッチング部材の温度よりも低温の基板に吸着させ、その後前記前駆体を前記ハロゲンラジカルで還元して前記元素成分を析出させることにより所定の薄膜を形成する薄膜作製装置であって、
前記チャンバは、請求項2に記載するコーティング膜の形成方法によりハフニウムコーティング膜を形成したものであることを特徴とする薄膜作製装置。
【請求項10】
真空容器であるチャンバの内部において、ハロゲンを含有する作用ガスをプラズマ化して得るハロゲンラジカルで、ハロゲン化物を生成し得る元素を含む材料で形成した被エッチング部材をエッチングして前記元素とハロゲンとからなる前駆体を形成する一方、この前駆体を前記被エッチング部材の温度よりも低温の基板に吸着させ、その後前記前駆体を前記ハロゲンラジカルで還元して前記元素成分を析出させることにより所定の薄膜を形成する薄膜作製装置であって、
前記チャンバ内に配設される部品は、請求項3に記載するコーティング膜の形成方法によりハフニウムコーティング膜を形成したものであることを特徴とする薄膜作製装置。
【請求項11】
真空容器であるチャンバの内部において、ハロゲンを含有する作用ガスをプラズマ化して得るハロゲンラジカルで、ハロゲン化物を生成し得る元素を含む材料で形成した被エッチング部材をエッチングして前記元素とハロゲンとからなる前駆体を形成する一方、この前駆体を前記被エッチング部材の温度よりも低温の基板に吸着させ、その後前記前駆体を前記ハロゲンラジカルで還元して前記元素成分を析出させることにより所定の薄膜を形成する薄膜作製装置であって、
前記チャンバ又は前記チャンバ内に配設される部品が、請求項6に記載するハフニウムコーティング膜の形成方法によりコーティング膜を形成されたものであることを特徴とする薄膜作製装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−118097(P2008−118097A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−175583(P2007−175583)
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【出願人】(506239658)株式会社フィズケミックス (37)
【Fターム(参考)】